説明

生体物質検査デバイス

【課題】 微細流路の所定領域のみ選択的且つ均一に加熱もしくは冷却でき、これに伴う隣接する流路の加熱もしくは冷却を充分に防止可能な生体物質検査用デバイスを提供する。
【解決手段】 検体収容部に収容された検体または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる測定対象の生体物質と、試薬収容部に収容された試薬とを、反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、検出部位を構成する流路へ送液して測定する一連の微細流路が形成されたチップを備え、
前記微細流路における選択的に加熱もしくは冷却すべき部位を含む、チップ内の所定の温度調節領域に対して、該温度調節領域内のチップ面に温度調節部材を当接して加熱もしくは冷却するようにするとともに、前記温度調節領域におけるチップ厚さTを、そのチップ面方向の幅Wの1/2以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細流路が形成されたチップからなるマイクロリアクタと、微細流路内の各液を送液するマイクロポンプと、各種制御装置と、検出装置とを備え、微細流路内において測定対象の生体物質と試薬収容部に収容された試薬とを反応させ、該反応の検出を行う生体物質検査用デバイスに関するものであり、特に微細流路の各部における温度を制御する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている。これは、
μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製
造分野でその応用が期待されている。とりわけ遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0003】
臨床検査を始めとする各種検査を行う現場では、場所を選ばずに迅速に結果を出すこれらの分析用チップにおける測定においても、その定量性、解析の精度などが重要視される。分析チップではそのサイズ、形態の点から厳しい制約があるため、シンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題となる。そのため精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムを本発明者らはすでに提案している(特許文献2および3)。
【0004】
このようなマイクロポンプシステムを用いて、検体と試薬とを反応させ、反応生成物を検出部位に送液して検出する操作を一つのチップ内で行えるように、一連の微細流路を該チップ内に形成する場合、検体および試薬の収容部、検体の前処理部、試薬の混合部、反応部、検出部、およびこれらを連通する流路など、多数の機能部位からなる一連の流路を限られたスペースに配置する必要があり、微細流路を密に集積化してチップ内に配置しなければならない。
【0005】
そして、例えばPCR(polymerase chain reaction)法による増幅反応が例として挙
げられるように、検出対象(アナライト)と試薬とを反応させる反応部位を構成する流路は、所定の温度に加熱する必要がある。この他、反応生成物の前処理もしくは後処理においても、当該処理を行う流路を所定の温度に加熱することを要する場合もある。その一方で、多数の機能部位からなる一連の微細流路内には、昇温されることが望ましくない部位も存在する。
【0006】
上記したように、チップ内の限られたスペースに一連の微細流路を全て集積化する必要があり、例えば加熱を要する反応部位に隣接して、あるいはその周辺に、このような昇温されることが望ましくない流路が配置されることもある。その場合、反応部位の熱が周辺の流路に伝達されて昇温されてしまうことを防止する必要がある。
【0007】
また、反応部位は、その全体を均一な所定温度に加熱する必要があり、不充分な加熱によってチップ厚さ方向などに温度勾配が生じることは望ましくない。
一方、アナライトと反応させる試薬類には、加熱されると変質し易いものが多く、室温
に保つか、あるいは冷却が必要なものもある。この場合、試薬が収容される部位、あるいは試薬類同士を混合する部位を選択的に放熱もしくは冷却しなければならない。
【特許文献1】特開2004-28589号公報
【特許文献2】特開2001-322099号公報
【特許文献3】特開2004-108285号公報
【非特許文献1】「DNAチップ技術とその応用」、「蛋白質 核酸 酵素」43巻、13号(1998年)君塚房夫、加藤郁之進、共立出版(株)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微細流路の所定領域のみ選択的且つ均一に加熱もしくは冷却でき、これに伴う隣接する流路の加熱もしくは冷却を充分に防止可能な生体物質検査用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生体物質検査デバイスは、検体収容部に収容された検体または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる測定対象の生体物質と、試薬収容部に収容された試薬とを、反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、検出部位を構成する流路へ送液して測定する一連の微細流路が形成されたチップと、
前記微細流路における選択的に加熱もしくは冷却すべき部位を含む、チップ内の所定の温度調節領域に対して、該温度調節領域内のチップ面に当接して加熱もしくは冷却する温度調節部材と、を備え、
前記温度調節領域におけるチップ厚さTが、そのチップ面方向の幅Wの1/2以下であることを特徴とする。
【0010】
上記の発明では、前記一連の微細流路が形成されたチップ(マイクロリアクタ)における、選択的に加熱すべき流路部位を含む加熱領域のチップ面に、発熱体もしくは発熱体に接続された熱伝導部材等を当接させて該加熱領域を加熱する。あるいは、選択的に冷却すべき流路部位を含む冷却領域のチップ面に、冷却体もしくは冷却体に接続された熱伝導部材等を当接させて該冷却領域を冷却させる。この加熱領域および冷却領域(温度調節領域)は、そのチップ厚さTが、そのチップ面方向の幅Wの1/2以下、好ましくは1/5以下とされているため、当該領域における厚さ方向への熱伝達が、面方向への熱伝達に比べて充分に効率良く行われる。このため、チップ厚さ方向に温度勾配が生じることなく均一な所定温度とすることができるとともに、この温度調節に伴って所定の温度調節領域に隣接した外側の流路が加熱もしくは冷却されることを充分に防止することができる。
【0011】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記温度調節領域のチップ厚さを、該温度調節領域に隣接する領域よりも薄くしたことを特徴とする。
このように、所定の温度調節領域のみ厚さを上記の条件となるように薄く形成したために、この温度調節領域において温度勾配が生じることなく均一に所定温度とすることができるとともに、該温度調節領域に隣接する領域が厚く形成されているため、該温度調節領域との間の熱交換において厚さ方向に熱が拡散され、この隣接領域における温度変化を有効に防止することができる。
【0012】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記チップの前記温度調節領域および、これに隣接する領域の少なくとも一部が、熱伝導率が10W/m・K以下の材質からなることを特徴とする。
【0013】
このように、例えば樹脂材、ガラス材などの比較的熱伝導率が小さい材質(熱伝導率が
10W/m・K以下、好ましくは2W/m・K以下で上記の領域を形成することにより、面方向への熱伝導が抑制され、所定の温度調節領域のみ選択的に加熱もしくは冷却することができる。
【0014】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域に隣接した、前記微細流路を含む領域のチップ面に当接して、該隣接領域から熱を移動させて放熱する放熱部材を備えることを特徴とする。
【0015】
上記の発明では、温度調節領域に隣接する領域にある程度の熱伝導が生じたとしても、当該領域のチップ面に、熱伝導率の高い材質からなる放熱部材を当接させているために、その熱は放熱部材を介して放熱され、当該領域の昇温を防止することができる。放熱部材としては、これに当接されるチップの材質よりも熱伝導率が高い材質が使用される。
【0016】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域に隣接した、前記微細流路を含む領域のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる放熱補助部材が該チップと一体に固着され、該放熱補助部材に対して前記放熱部材を当接させるようにしたことを特徴とする。
【0017】
上記の発明では、放熱部材を有するデバイス本体にチップを組み込んだ際に、チップ面に固着された放熱補助部材が、放熱部材に押し当てられ、これにより、温度調節領域(加熱領域)に隣接した非加熱領域の放熱が行われる。上記の放熱部材を樹脂チップに単に当接した場合、接触面の接触状態によって伝熱特性、放熱特性が変わってしまうが、樹脂チップに対して金属板のような高熱伝導性部材を接着していると、少なくともチップとその金属板との間では確実に熱が伝わるので、放熱を均一に行うことができる。これにより、温度調節領域(加熱領域)とこれに隣接した非加熱領域(放熱領域)との温度コントラストを明確にすることができる。
【0018】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域における、該温度調節部材が当接される側のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる加熱補助部材が該チップと一体に固着され、該加熱補助部材に対して前記温度調節部材を当接させるようにしたことを特徴とする。
【0019】
上記の発明では、加熱用の温度調節部材を有するデバイス本体にチップを組み込んだ際に、チップ面に固着された加熱補助部材がこの温度調節部材に押し当てられ、これにより、温度調節領域(加熱領域)の加熱が行われる。上記の温度調節部材を樹脂チップに単に当接した場合、接触面の接触状態によって伝熱特性、放熱特性が変わってしまうが、樹脂チップに対して金属板のような高熱伝導性部材を接着していると、少なくともチップとその金属板との間では確実に熱が伝わるので、加熱を均一に行うことができる。これにより、温度調節領域(加熱領域)とこれに隣接した非加熱領域との温度コントラストを明確にすることができる。
【0020】
本発明の生体物質検査デバイスは、前記温度調節部材が、発熱体に接続された、前記温度調節領域内のチップ面に対して両面側から挟むように当接する熱伝導体であることを特徴とする。
【0021】
このように、例えばコ字状に形成された熱伝導体によって、温度調節領域をチップ両面側から挟み込んで加熱するようにしたために、一つの発熱体で、両面側から温度調節領域に対して均一な加熱を行うことができる。
【0022】
前記温度調節領域に含まれ、選択的に加熱される前記微細流路の例として、測定対象の
生体物質と試薬とを反応させる、反応部位を構成する流路を挙げることができる。
この場合、前記反応部位を構成する流路における反応の例として、アナライトと試薬とのPCR法による遺伝子増幅反応を挙げることができる。
【0023】
前記温度調節領域に含まれ、選択的に冷却される前記微細流路の例として、試薬収容部および/または複数の試薬を合流させて混合する流路を挙げることができる。
この場合、前記試薬の例として、遺伝子増幅反応用の試薬を挙げることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の生体物質検査用デバイスによれば、微細流路の所定領域のみ選択的且つ均一に加熱もしくは冷却でき、これに伴う隣接する流路の加熱もしくは冷却を充分に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の生体物質検査デバイスについて説明する。なお本明細書において、「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担うDNAまたはRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。「エレメント」とは、本発明の生体物質検査デバイスに設置される各機能部をいう。分析対象の物質を「アナライト」ということもある。「微細流路」は、マイクロリアクタに形成された流路のことである。試薬類などの収容部、反応部位もしくは検出部位が、容量の大きい広幅の液溜め状に形成されている場合にも、これらを含めて「微細流路」ということもある。
【0026】
本発明は、種々の実施の形態において、本発明の趣旨に沿って任意の変形、変更が可能であり、それらは本発明に含まれる。すなわち、本発明の生体物質検査用デバイスの全体または一部について、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
マイクロリアクタおよび生体物質検査デバイスの概要
本発明の生体物質検査デバイスは、微細流路が形成されたチップからなるマイクロリアクタと、微細流路内の各液を送液するマイクロポンプと、各種制御装置と、検出装置とを備えている。図12は、装置本体に脱着可能なマイクロリアクタと装置本体とからなる生体物質検査用デバイス(「生体物質検査装置」ともいう)の一実施形態を示した概略図である。
【0027】
マイクロリアクタ1は、プラスチック樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどの1以上の部材を適宜組み合わせて作製される一枚のチップである。好ましくは、マイクロリアクタの微細流路および躯体は、加工が容易であり安価であり、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂で形成される。例えばポリスチレン樹脂は、成型性に優れ、後述するようにストレプトアビジンなどを吸着する傾向が強く、微細流路上に検出部位を容易に形成することができる。微細流路は、幅および深さが例えば約10μm〜数百μmに形成される。また、蛍光物質または呈色反応の生成物などを光学的に検出するために、マイクロリアクタの表面のうち少なくとも微細流路の検出部位を覆うその検出部分は透明である部材、好ましくは透明なプラスチックとなっていることが必要である。
【0028】
図13に、マイクロリアクタの典型的な流路構成の一例を示す。図13の流路および送液エレメントの配置では、最上流部の試薬収容部18a〜18cに収容された各試薬が混合される流路15aに後続した3本の分割流路15b〜15dから、基本的に3本の分析流路(3つの流路に分岐してからそれぞれ廃液貯留部23まで至る流路であり、このような基本的微細流路を、以下において「分析流路」ともいう)へ試薬が流れるように構成されている。左側の分析流路は、検体の分析のための流路であり、図13では1項目の分析に対応する。中央の分析流路は、ポジティブコントロール用の流路、右側の分析流路は、
ネガティブコントロール用の流路である。図13では、検体分析用の流路は1本となっているが、多項目分析のためには、少なくとも2本以上の分析流路が検体分析用に形成される必要がある。その本数は、分析の項目数のみならずチップのサイズ、布置されるエレメントの個数と配置によっても制限される。
【0029】
本発明の生体物質検査デバイスが備えるマイクロポンプ、マイクロポンプを制御する制御装置、温度を制御する温度制御装置および検出装置などは、図12にも示したように、好ましくは装置本体2に一体化される。マイクロポンプは、マイクロリアクタをディスポーサブルタイプとして使用する場合、マイクロポンプ本体としてポンプの送液作動部および駆動部は、別途の装置本体2に設置することが好ましい。すなわちマイクロリアクタ側にポンプ接続部が設置され、本体側に組み込まれたマイクロポンプの送液作動部と該ポンプ接続部を介して両者が接続され、マイクロポンプとして機能する構成となっている。このような構成において、マイクロリアクタのポンプ接続部は、装置本体側ポンプからの送液を受ける導入口となり、これを形成するために基板に嵌合する液密性接続部品が取り付けられる。別の態様としてマイクロリアクタの微細流路の途中に、マイクロポンプの送液作動部分を設けてもよく、その振動板に本体側から駆動作用を受けて機能する形態も可能である。
【0030】
予め試薬が封入されたマイクロリアクタ1の検体収容部に検体液を注入して、そのマイクロリアクタを生体物質検査デバイスの本体2に装着すると、送液ポンプを作動させるための機構的連結、必要であれば制御用の電気的接続もなされる。したがって本体とこのマイクロリアクタとを接合させると、マイクロリアクタの流路も作動状態となる。分析が開始されると、検体および試薬類の送液、混合に基づく遺伝子増幅、アナライトとプローブとの結合などの反応、反応物の検出および光学的測定が、一連の連続的工程として自動的に実施され、測定データが、必要な条件、記録事項とともにファイル内に格納され、生体物質の測定が自動的に行われる。
【0031】
前記検出装置は、検査項目ごとの分析流路上の検出部位に対して、例えばLEDなどから測定光を照射し、フォトダイオード、光電子増倍管などの光学的な検出手段で透過光もしくは反射光を検出する。光学的な検出手段として、原理を異にする各種の光学装置があるが、紫外・可視分光光度計が望ましい。光学的な検出手段は、上記検査デバイスに組み込んでもよく、あるいは別途の装置として、使用時に連結する態様であってもよい。検体に含有されている生体物質の検出を光学的に行う検出装置は、上記マイクロポンプを含む送液手段および温度制御装置とともに組み込まれ、一体化した構成となっていることが好ましい。
【0032】
送液、温度、反応の各制御に関わる制御系、光学的検出、データの収集および処理を受け持つユニットは、マイクロポンプおよび光学装置とともに本発明の生体物質検査デバイスの本体を構成する。このデバイス本体は、これにチップを装着することにより各検体サンプルに対して共通で使用される。遺伝子増幅などの反応およびその検出は、送液順序、容量、タイミングなどについて予め設定された条件として、マイクロポンプおよび温度の制御、光学的検出のデータ処理とともにプログラムとして生体物質検査デバイスに搭載されたソフトウェアに組み込まれている。従来の分析チップでは、異なる分析または合成などを行う場合には、変更される内容に対応するマイクロ流体デバイスをその都度構成する必要があった。これとは異なり、本発明の生体物質検査デバイスでは脱着可能な上記チップのみ交換すればよい。各エレメントの制御変更も必要となる場合には、装置本体に格納された制御プログラムを適宜変更すればよい。
【0033】
本発明の生体物質検査デバイスは、いずれのコンポーネントも小型化され、持ち運びに便利な形態としているために、使用する場所および時間に制約されず、作業性、操作性が
良好である。場所、時間を問わずに迅速に測定することができるために、緊急医療での利用や、在宅医療での個人的な利用も可能である。送液に使用する多数のマイクロポンプユニットが装置本体側に組み込まれているために、チップはディスポーサブルタイプとして好適に使用できる。
【0034】
本発明の生体物質検査デバイスは、特に遺伝子または核酸の検査に好適に用いることができる。以下の明細書では、本発明を遺伝子検査の場合を例に挙げながら説明する。その場合、PCR増幅のための機構がマイクロリアクタ上に搭載される。しかし、遺伝子検査以外の生体物質についても基本的な構成は、ほぼ同一になるといえる。通常は検体前処理部、試薬類、プローブ類を変更すればよく、その場合、送液エレメントの配置、数などは変化するであろう。当業者であれば、例えばイムノアッセイ法のために必要な試薬類などをマイクロリアクタ上に搭載し、若干の流路エレメントの変更、仕様の変更を含む修正を施すことにより、分析の種類を容易に変更することができる。ここにいう遺伝子以外の生体物質とは、各種の代謝物質、ホルモン、タンパク質(酵素、抗原なども含む)などをいう。
【0035】
本発明の生体物質検査デバイスにおける特に好ましい態様では、一つのチップ内において、検体もしくは検体から抽出したアナライト物質(例えばDNA)が注入される検体収容部と、
検体の前処理を行う検体前処理部と、
プローブ結合反応、検出反応(遺伝子増幅反応または抗原抗体反応なども含む)などに用いる試薬が収容される試薬収容部と、
ポジティブコントロールが収容されるポジティブコントロール収容部と、
ネガティブコントロールが収容されるネガティブコントロール収容部と、
プローブ(例えば、遺伝子増幅反応により増幅された検出対象の遺伝子にハイブリダイズさせるプローブ)が収容されるプローブ収容部と、
これらの各収容部に連通する微細流路と、
前記各収容部および流路内の液体を送液する別途のマイクロポンプに接続可能なポンプ接続部と、が設けられている。前記チップには、ポンプ接続部を介してマイクロポンプが接続され、検体収容部に収容された検体もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬収容部に収容された試薬とを流路へ送液し、微細流路の反応部位、例えば遺伝子増幅反応(タンパク質の場合、抗原抗体反応など)の部位で混合して反応させた後、その下流側流路にある検出部へ、この反応液を処理した処理液と、プローブ収容部に収容されたプローブとを送液し、流路内で混合してプローブと結合(またはハイブリダイゼーション)させ、この反応生成物に基づいて生体物質の検出を行う。また、ポジティブコントロール収容部に収容されたポジティブコントロールおよびネガティブコントロールに収容されたネガティブコントロールについても同様に上記反応および検出を行う。
マイクロリアクタにおける微細流路の所定部位に対する温度制御
以下、図1〜図11を参照しながら、本発明の生体物質検査用デバイスにおける微細流路の温度制御について、その好ましい各実施形態を説明する。図1は、本発明の生体物質検査デバイスの一実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材の当接位置における断面図である。
【0036】
本実施形態では、検体もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬との反応、例えば遺伝子増幅反応を行う微細流路である反応部流路32を含む加熱領域33(一点鎖線で囲んだチップ領域)におけるチップ面31aに、加熱部材35を押し付けて、この加熱領域33を局所的に加熱している。
【0037】
加熱領域33は、チップ厚さTが、そのチップ面方向の幅Wの1/2以下、好ましくは
1/5以下とされる。これにより、加熱部材35からの熱が加熱領域33における厚さ方向へ充分に行き渡り、チップ厚さ方向に温度勾配が生じることなく均一に所定温度まで加熱することができる。
【0038】
そして、チップ厚さ方向への熱伝導の効率がチップ面方向への熱伝導の効率よりも充分に高いため、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域33に隣接する、反応部流路32とは別の流路15の昇温を充分に抑制することができる。すなわち、加熱領域33において厚さ方向へ均一な温度に加熱できるとともに、これに隣接する非加熱領域34における望ましくない加熱を防止することができる。
【0039】
なお、「チップ面方向の幅W」とは、例えば図3に示したように加熱領域33が矩形である場合には、その短辺の長さを表し、その他、図4(a)〜図4(d)に示したような場合では、最も短い辺、あるいは円状の場合には短軸を基準として規定される。加熱領域33が他の形状であっても上記に準じて規定される。
【0040】
加熱部材35は、例えば、マイクロリアクタとは別途のデバイス本体に組み込まれており、このデバイス本体にマイクロリアクタを装着することによりチップ面31aに押し当てられる。加熱部材35としては、通電により抵抗体を発熱させ、直接にあるいは誘電体等を介して熱を伝達する面状発熱体(ヒーター)、ヒーターに熱伝導率の高い部材、例えばアルミニウム等の金属部材を接続してこの部材面をチップ面31aに当接させるようにしたもの、およびペルチェ素子を挙げることができる。加熱部材35は、加熱領域33の均一な加熱、あるいは迅速な昇温のために必要であれば、チップ31の両面に配置してもよい。
【0041】
加熱部材35には温度センサが設けられ、温度センサにより計測した温度に基づいて加熱部材35への通電等を制御する。また、温度センサは、加熱動作に関する制御プログラムが格納されたメモリを有するコントローラに接続され、コントローラは当該プログラムに従って、加熱部材35に接続された電源回路を制御する。
【0042】
加熱領域33における加熱温度は、例えば100℃程度までである。また、加熱領域33のチップ厚さTは、好ましくは10mm以下、より好ましくは3mm以下である。加熱領域33および、これに隣接する非加熱領域34の少なくとも一部は、その熱伝導率が10W/m・K以下、好ましくは2W/m・K以下の材質で形成することが望ましい。このような材質としては、樹脂材、ガラス材などを挙げることができ、熱伝導率が小さい材質でこれらの領域を形成することにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域33のみ選択的に加熱することができる。
【0043】
本実施形態では反応部流路32を選択的に加熱する場合を示したが、本発明ではマイクロリアクタに形成された微細流路における他の機能部位を、上記の構成により選択的に加熱するようにしてもよい。
【0044】
本実施形態の構成は、迅速な昇温にも適しており、一例として、40℃程度から90℃程度まで急速に昇温させるPCR法のサイクルに好適である。
図2は、本発明の生体物質検査デバイスの、他の実施形態におけるチップの試薬収容部の周辺および、チップ面に当接して該試薬収容部を冷却する冷却部材の当接位置における断面図である。本実施形態では、試薬収容部18を含む冷却領域37(一点鎖線で囲んだチップ領域)におけるチップ面31aに、冷却部材36を押し付けて、この冷却領域37を冷却している。
【0045】
冷却領域37は、前述の実施形態と同様に、チップ厚さTが、そのチップ面方向の幅W
の1/2以下、好ましくは1/5以下とされる。これにより、デバイス本体に組み込まれた冷却部材36に当接する冷却領域37はその厚さ方向に渡り充分に冷却され、チップ厚さ方向に温度勾配が生じることなく均一に所定温度まで冷却することができる。
【0046】
そして、チップ厚さ方向への熱伝導の効率がチップ面方向への熱伝導の効率よりも充分に高いため、面方向の熱伝導が抑制され、冷却領域37に隣接する、試薬収容部18とは別の流路15の冷却を充分に抑制することができる。すなわち、冷却領域37において厚さ方向へ均一な温度に冷却できるとともに、これに隣接する非冷却領域34における望ましくない冷却を防止することができる。
【0047】
冷却部材36としては、ペルチェ素子が好ましい。ペルチェ素子には、その熱を放熱するためにヒートシンクを接触配置してもよい。また、熱伝導率の高い部材、例えばアルミニウム等の金属部材からなるブロックを併用してもよい。
【0048】
冷却部材36は、冷却領域33の均一な冷却、あるいは迅速な降温のために必要であれば、チップ31の両面に配置してもよい。冷却領域37における冷却温度は、試薬の変質を防止する目的の場合、例えば4℃程度までである。
【0049】
本実施形態では試薬収容部18を選択的に冷却する場合を示したが、本発明ではマイクロリアクタに形成された微細流路における他の機能部位、例えば複数の試薬類を混合させる試薬混合流路を、上記の構成により選択的に冷却するようにしてもよい。本実施形態の構成は、PCR法による増幅反応の試薬の冷却に好適である。
【0050】
図5は、本発明の生体物質検査デバイスの、他の実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材の当接位置における断面図である。本実施形態では、基本的な構成は図1と同様であるが、加熱領域33のチップ厚さTを、これに隣接する非加熱領域34の厚さT’よりも薄くしている。
【0051】
このように、加熱領域33の厚さを上記の条件(厚さT/幅Wが1/2以下)となるように薄く形成したため、加熱領域33において温度勾配が生じることなく均一に所定温度とすることができるとともに、これに隣接する非加熱領域34が厚く形成されているために、加熱領域33との間の熱交換において厚さ方向に熱が拡散され、昇温を有効に防止することができる。好ましくは、隣接する非加熱領域34の厚さT’は、加熱領域33のチップ厚さTの2倍以上とされる。
【0052】
図6は、本発明の生体物質検査デバイスの、他の実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材およびこれに隣接して配置された放熱部材の当接位置における断面図である。本実施形態では、加熱領域33に隣接する非加熱領域34のチップ面に、非加熱領域34から熱を移動させて放熱する放熱部材38を押し付けている。
【0053】
放熱部材38は、チップ31の材質よりも熱伝導率が高い材質からなり、具体的には、金属ブロック、例えばアルミニウムブロックが好ましい。この放熱部材38を、好ましくはデバイス本体に組み込んで、チップ31の両面から当接させるようにしてもよい。このように放熱部材38を用いることによって、加熱領域33から非加熱領域34へある程度の熱伝導が生じたとしても、その熱は放熱部材38を介して放熱され、非加熱領域34における他の流路15の昇温を防止することができる。
【0054】
図7は、本発明の生体物質検査デバイスの、他の実施形態におけるチップの反応部流路と試薬混合流路の周辺および、チップ面に当接する加熱部材、放熱部材および冷却部材の
当接位置における断面図である。本実施形態では、上述した各部材を、機能の異なる各微細流路に配置して各領域の選択的な加熱、冷却および、放熱を行っている。すなわち、反応部流路32を含む加熱領域33に加熱部材35を押し付けて所定温度に加熱し、これに隣接する他の流路15を含む非加熱領域34に放熱部材38を押し付けて常温に維持し、試薬類が混合される試薬混合流路39を含む冷却領域37に冷却部材36を押し付けて所定温度に冷却している。
【0055】
このように、前述した各実施形態の構成を組み合わせることにより、マイクロリアクタに形成された一連の微細流路における複数の機能部位のそれぞれにおいて、選択的且つ均一な加熱もしくは冷却を行うことができる。本実施形態の構成は特に、検体もしくは検体から抽出したDNAの遺伝子増幅反応を行う際に頻繁に温度の昇降を繰り返す必要があるために好適である。
【0056】
図8は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路周辺の加熱領域および、これに隣接する領域であってチップに放熱補助部材を固着した非加熱領域の断面図である。本実施形態では、加熱部材35により加熱される加熱領域33に隣接した、微細流路15を含む領域のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる放熱補助部材38aが該チップと一体に固着されている。放熱補助部材38aは、通常は金属板であり、樹脂製などのチップ面に接着等より密着固定されている。
【0057】
加熱部材33および放熱部材38は、チップ31とは別途の本体側に設けられ、例えばチップ31を当該本体へ組み込むことにより、加熱部材33がチップ面31aに押し当てられるとともに、放熱部材38が、チップ31に固着された放熱補助部材38aに押し当てられる。
【0058】
放熱部材38を樹脂チップ31に直接に押し当てた場合、これらの接触面の接触状態によって、伝熱特性、放熱特性が変わってしまうが、本実施形態では、樹脂チップ31に対して金属板のような高熱伝導性部材である放熱補助部材38aを接着しているので、チップ31とその金属板との間では確実に熱が伝わり、放熱を均一に行うことができる。これにより、加熱領域33とこれに隣接した非加熱領域34との温度コントラストを明確にすることができる。
【0059】
図9は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路周辺において、加熱領域のチップ面に加熱補助部材を固着した状態を示した断面図である。本実施形態では、加熱部材35により加熱される加熱領域33における、加熱部材35が当接される側のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる加熱補助部材35aがチップ31と一体に固着されている。加熱補助部材35aは、通常は金属板であり、樹脂製などのチップ面に接着等より密着固定されている。
【0060】
加熱部材35を樹脂チップ31に直接に押し当てた場合、これらの接触面の接触状態によって、伝熱特性、放熱特性が変わってしまうが、本実施形態では、樹脂製のチップ31に対して金属板のような高熱伝導性部材である放熱補助部材38aを接着しているので、チップ31とその金属板との間では確実に熱が伝わり、放熱を均一に行うことができる。これにより、加熱領域33とこれに隣接した非加熱領域34との温度コントラストを明確にすることができる。
【0061】
図10は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態を説明する斜視図である。本実施形態では、発熱体40にコ字状の熱伝導体41を接続し、チップ31の上記加熱領域33を、両面から挟み込むようにしている。
【0062】
熱伝導体41は、熱伝導率が高い部材からなり、例えばアルミニウム等の金属で形成される。その基端部に、発熱体40を接続して、熱伝導体41により、二股に分岐した上面側熱伝導部42および下面側熱伝導部43からチップ31の加熱領域33へ熱を伝達する。図11は、熱伝導体41でチップの反応部流路32を両面から挟み込んだ状態を示した断面図である。同図のように、熱伝導体41で挟んだ加熱領域33に隣接する非加熱領域34のチップ面に、アルミニウムブロック等の放熱部材38を押し付けて、この非加熱領域34を放熱するようにしてもよい。
【0063】
このように、コ字状などの形状とした熱伝導体41によって、加熱領域33をチップ両面側から挟み込んで加熱するようにしたので、一つの発熱体40で、両面側から加熱領域33に対して均一な加熱を行うことができる。
検体収容部
図14は、マイクロリアクタに設けられた検体収容部の周辺構成の一例を示した図である。検体収容部20は、検体注入部に連通し、検体の一時収容および混合部への検体供給を行う。検体収容部20の上面から検体を注入する検体注入部は、外部への漏失、感染および汚染を防ぎ、密封性を確保するために、ゴム状材質などの弾性体からなる栓が形成されているか、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂、強化フィルムで覆われていることが望ましい。例えば、当該ゴム材質の栓を突き刺したニードルまたは蓋付き細孔を通したニードルでシリンジ内の検体を注入する。前者の場合、ニードルを抜くとその針穴が直ちに塞がることが好ましい。あるいは他の検体注入機構を設置してもよい。
【0064】
検体収容部20に注入された検体は、ポンプ接続部12を介して検体収容部20に接続されたマイクロポンプ11により、検体前処理部20aへ送液される。検体前処理部20aでは、検体処理液収容部20bから送られてくる処理液で検体が前処理される。このような検体前処理部20aは必要に応じて布置されるものである。好ましい検体前処理として、分析対象物(アナライト)の分離または濃縮、除タンパクなどが含まれる。したがって検体前処理部20aは、分離フィルター、吸着用樹脂、ビーズなどを含んでもよい。
【0065】
次いで、前処理された検体は、必要であれば2以上の検体分析用の微細流路に分割されて、連通する下流の分析流路へ送液される。分割された検体は、図14に示すサンプルポート19から、試薬類が流れる微細流路へ入って合流する。例えば2以上の測定項目がある場合には、検体を項目数に応じて分割し、それぞれの分析流路へ送り出す。上記エレメント類は、分割された検体流路と、これらと連通させる複数の各分析流路とを立体的に交差させるために、例えば分析流路に対して上部側の適当な位置に配置される。検体前処理部20aを設置する場合、不要な液を廃液貯留部に捨てるため、検体前処理部20aを検体収容部20より下位に置くほうが好都合である。
・検体
本発明の測定対象となる検体は、生体由来のアナライト含有試料である。試料自体にも特に制限はないが、例えば全血、血漿、血清、バフィーコート、尿、糞便、唾液、喀痰など生体由来のほとんどの試料が該当する。遺伝子検査の場合、増幅反応の鋳型となる核酸として遺伝子、DNAまたはRNAがアナライトである。検体は、このような核酸を含む可能性のある試料から調製または単離したものであってよい。したがって、上記の試料の他に、細胞培養物;ウィルス、細菌、カビ、酵母、植物、動物などの核酸含有試料;微生物などが混入または含有する可能性のある試料、その他核酸が含有されている可能性のあるあらゆる試料が対象となる。そのような試料から遺伝子、DNAまたはRNAを調製する方法は、特に限定されず、従来技術を使用することができる。DNAは、試料から常法に従い、フェノール・クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により、分離精製できる。遺伝子以外の生体物質を含む検体の処理などについても、従来技術を適用して必要に応じ
行われる。
【0066】
本発明の生体物質検査デバイスは、従来の装置を使用して行う手作業の場合に比べて、必要とされる検体量は極めて少ない。例えば、縦横の長さが数cmのチップに2〜3μL程度の血液検体を注入するだけでよい。例えば遺伝子の場合、DNAとして0.001〜100ngである。このため、微量の検体しか得られない場合も含めて、本発明の生体物質検査デバイスは検体面からの制約が少なく、必然的に試薬類も少ない量で済み、検査コストの低減となる。
検体前処理部
一般に、血液、尿などの生体試料は、試料に含まれる不要成分(タンパク質やイオン性物質など)を除去するために、分析に先立って検体の前処理を必要とすることが通例である。マイクロリアクタにおいても、搭載された分析システムが優れた性能を発揮できるのは、検体が標準品のような理想的な状態にある場合に限られることも往々にしてあり、検体前処理が適切に行われているかが分析の成否を左右することも多い。しかし検体の前処理自体が煩雑な工程であり、しかも適切に実施するのにも技術と経験が必要とされるのが現状である。特に臨床現場からの試料は、ウィルス、細菌などの感染、汚染の危険を常に内包している。そうした検体の前処理もまた、分析・検出を行う同一のチップにおいて安全に実施でき、測定可能である検体を迅速かつ自動的に調製できれば、このような態様でチップ化することの意義は極めて大きい。
【0067】
検体前処理部20aは、分析対象物(アナライト)の濃縮、分離、溶菌等を行う部分であり、血液試料の場合には必要であれば血球またはリンパ球を分離する作用を担わせてもよい。前処理法は、通常、試料の種類、目的物質の種類・存在濃度、妨害物質の有無などによって、ケースバイケースとなる。そこで本発明の生体物質検査デバイスでは、必要に応じて、検体および分析の点から必要に応じた前処理を実施するための前処理部20aを設けている。これに連通する検体処理液収容部20bには、溶菌試薬、溶血試薬、抽出液、変性液、洗浄液、溶離液などが前処理の内容に応じて封入されている。
・検体の前処理
検体の前処理は、試料の種類、性状、または分析の対象である物質の種類、濃度などによって必要な処理が変わることから、その内容はまちまちである。例えば微細流路の目詰まりを防止するため、不溶性の夾雑物を除去する必要がある。分析のための反応を阻害する物質、一緒に反応してしまう物質なども予め除去することが望ましい。さらに、検出に先立ち、予め目的物質を濃縮、分離することも望ましい。検体によっては、検出対象の物質濃度が極めて希薄である。そうした場合、マイクロリアクタに導入できる検体量(数cm四方のチップで、数μL)も限られていることから、そのままでは測定可能な範囲内に収まらない。したがって、目的物質の予備的な濃縮または分離の操作が必要となってくる。
【0068】
前処理法は検体の種類や使用する分析法によっても異なるが、通例、汎用される生体試料用の前処理には、細胞破壊(溶菌または溶血処理)もしくは可溶化、抽出、除タンパク、濃縮、吸着・脱着、洗浄、透析(脱塩)、ろ過、加水分解もしくは誘導体化などの処理が行われている。さらに検体液が粘稠である場合には、本マイクロリアクタにおける微細流路を層流として円滑に送液できるように、粘度または表面張力の調整のために必要に応じて希釈を行ってもよい。
【0069】
検体が血液である場合、血球とそれ以外の血漿(または血清)に分画することが望ましい。血球を分析する場合には、予め溶血する必要がある。
測定対象がタンパク質である場合、樹脂層、フィルターなどに通して、共存タンパク質から分離し、濃縮を図ることが好ましい。特異的な抗体を結合させたフィルターなどを使用すると、目的のタンパク質を選択的に吸着できるため、効率がよい。
【0070】
また、目的物質が遺伝子である場合、除タンパク処理、あるいはDNAのみ選択的に吸着するフィルターに通すことが前処理として有効である。さらにRNAの場合、適当な逆転写酵素を利用してcDNAに変換してから分析に供することになる。
【0071】
ウィルスまたは菌類(細菌、真菌類)などの微生物の遺伝子を検出する場合、上述したようにマイクロリアクタのチップでは検体を導入する容量が極めて限られているため、検体中の対象菌の濃度が薄いとこれを捕捉することが実質的に不可能となる。そこで吸着フィルター越しに大量の検体液を流してフィルター内で濃縮する。吸着量およびフィルターの吸着容量を考慮しても、おそらく検体収容部の容量に対し、約100倍容量の検体液を上
記フィルターに流し込むことも可能である。かかる場合、検体収容部内の容量を超える検体を、検体注入部から検体収容部を通じて連続的に導入してもよい。このような前処理方式は、従来の分析チップの所定位置に一定量の検体を一度に適用し、その検体について測定する方式とは異なる操作であり、本来チップに適用する前の段階として行っていた前処理を同一チップ上で実施する点に特徴がある。好ましい態様として、溶菌試薬を検体収容部に流して溶菌処理を行うとともに検体処理部に溶菌した菌体の処理液を送る。検体処理部にはDNAを吸着するフィルターが装着されているために、上記検体処理液をこのフィルターに通して一旦、処理液中のDNAを吸着させる。その後洗浄処理を経て吸着されているDNAを、溶離液を流すことにより溶出し、微細流路の下流へ送液する。
【0072】
あるいは、目的の菌体を吸着するフィルターを用いて、目的の菌をトラップするとともに、溶菌試薬を流して遺伝子を露出させ、微細流路の下流へ送液してもよい。その後に洗浄液を流して遺伝子を精製し、微細流路の下流へ流してもよい。
【0073】
このように検体の前処理としては、上述のように様々な処理が想定されるために、検体、測定方法に基づき、必要な処理を前処理工程として選択し、そのために必要な部材、装置などを検体前処理部20aに組み込むのがよい。検体前処理部20aは、形状、構造などは任意であり、上記フィルター、ビーズなどといった前処理手段が充填されている。さらに、検体前処理部20aは、検体収容部20からの検体を、試薬収容部18または検体処理液収容部20b(試薬収容部18とは別個に設けてもよい)から前処理に使用する処理液を受けるとともに、試薬収容部から微細流路の反応部位へ至る流路と連通している。なおチップの底面部には廃液貯留部(廃液溜り)が設けてあるために、前処理部との境界に配設した弁を開いてそこへ不要な検体液、洗浄液を捨てることができる。
【0074】
上記の検体前処理を、生体物質検査デバイス本体にマイクロリアクタを装着する前に実施するか、または装着した後に検体前処理を実施するかは、検体の性状、前処理の内容にもよるため、その手順は個別に設定するのがよい。また、検体前処理は、対象とする同一の試料について一括処理の形で行い、その後、個々の検査項目に対応する分析流路へ分割する方式が簡便であり望ましい。
・前処理手段
本発明のマイクロリアクタにおいて、前記前処理手段は、生体物質または細菌もしくはウィルスを選択的に吸着する担体として特にその形態を限定しないが、具体的には、例えばフィルター、ビーズ、ゲルまたはメンブレンが挙げられる。目的に応じて、複数のフィルターまたは上記の担体の組み合わせであってもよい。入手、使いやすさなどから、フィルターが好適であり、これを積層させた前処理手段が好ましい。
【0075】
前記生体物質を吸着するフィルターとして、DNAをトラップするフィルターが挙げられる。DNAをトラップするフィルターとは、例えばある条件下でDNA分子を特異的に吸着するフィルターであってもよい。具体的には、ワットマン社のDNAバインディングユニフィルターなどのフィルターが、市販され入手できる。あるいはDNAを選択的に吸
着することができる物質をカラム状に充填したものであってもよい。
【0076】
または、DNAに結合させた特異的な物質、官能基などが該フィルターと特異的に相互作用する場合も含まれる。例えば、二本鎖DNAの内部へインターカレーションする物質、例えばアクリジン色素、エチジウムブロマイドといったインターカレーターを結合させたフィルターであってもよい。
【0077】
フィルターのメッシュは、ウィルス、細菌などのサイズなどを考慮する。フィルターの形態、フィルター層の厚さなども目的に応じて適切に設定する。例えば、最初に不溶性物質、塵などをろ過除去し、その後に所定の処理を行うために、サイズを変えた2種以上のフィルターを併用してもよい。フィルターの形状は、層状に積載した形態、粒子を充填した形態、樹脂の層、中空糸の集合形態など任意である。
【0078】
フィルターの他に、ウィルス、細菌などを吸着するビーズ、アガロースといったゲル、メンブレンであってもよい。
試薬収容部
本発明の生体物質検査デバイスでは、必要な試薬類が予め所定の量、マイクロリアクタ内の試薬収容部18に封入されている。したがって本発明のマイクロリアクタは使用時にその都度、試薬を必要量充填する必要はなく、即使用可能の状態になっている。
・試薬類
検体中の生体物質を分析する場合、測定に必要な試薬類は、通常それぞれ公知である。例えば、検体に存在する抗原を分析する場合、それに対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬が使用される。抗体は、好ましくはビオチンおよびFITCで標識されている。遺伝子検査用の試薬類には、遺伝子増幅に用いられる各種試薬、検出に使用されるプローブ類、発色試薬とともに、必要であれば前記の検体前処理に使用する前処理試薬も含めてもよい。
【0079】
図13では、試薬収容部18a〜18cに収容された各試薬を流路15aで合流、混合させている。これらの部位は、前述した図2、図7のような構成として、変質等の防止のために冷却される。
試薬分割および検体分割
・マイクロポンプおよびポンプ接続部
図13の流路系では、検体収容部20、試薬収容部18a〜18c、ポジティブコントロール収容部21h、およびネガティブコントロール収容部21iのそれぞれについて、これらの収容部内溶液を送液するマイクロポンプ11が設けられている。マイクロポンプ11は試薬収容部18の上流側に接続され、マイクロポンプ11により駆動液を試薬収容部側へ供給することによって、試薬を流路へ押し出して送液している。マイクロポンプユニットは、マイクロリアクタとは別途の装置本体に組み込まれており、マイクロリアクタを装置本体に装着することによって、ポンプ接続部12からマイクロリアクタに接続されるようになっている。
【0080】
マイクロポンプとしては、ピエゾポンプを用いている。このピエゾポンプは、概略すると、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合がこの第1流路よりも小さい第2流路と、これらの第1流路および第2流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、を備えており、該アクチュエータを駆動することによって正方向および逆方向に送液可能なポンプである。その詳細は、上記特許文献2および3に記載されている。
・送液分割手段
本発明において、1つの検体について多項目の分析を行う場合ならびにポジティブコントロールおよびネガティブコントロールを同時に分析する場合には、試薬類および検体を
2以上に分割して、それぞれの分析流路へ送り出す必要がある。送液分割手段はそのために設置される。送液分割手段は、例えば、分岐した微細流路、送液制御部13、および逆止弁16のような逆流防止部から構成できる。
【0081】
送液制御部13は、正方向への送液圧力が所定圧に達するまで液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力を加えることにより液体の通過を許容する。このような機構は、径を絞った流路を設けることにより実現できる。流路内の液体の逆流を防止する逆流防止部は、逆流圧により弁体が流路開口部を閉止する逆止弁か、あるいは適当な弁体変形手段により弁体を流路開口部へ押圧して該開口部を閉止する能動弁からなる。
【0082】
マイクロリアクタの微細流路は、マイクロポンプ、そのポンプ圧により液体の通過を制御可能な上記の送液制御部、および流路内の液体の逆流を防止する上記の逆流防止部によって、分岐した流路内における液体の送液、送液量の定量および各液体の混合が制御されている。かかる送液分割手段およびマイクロポンプ11の働きにより、試薬類および検体は適当な比率で分割される。
反応部位
測定対象である生体物質(アナライト)を含む検体の溶液と、試薬(混合液)とを合流させる合流部の上流側の各流路に、検体が収容される検体収容部と、試薬が収容される試薬収容部とが設けられるとともに、これらの各収容部の上流側にポンプ接続部が設けられ、これらのポンプ接続部にマイクロポンプを接続し、各マイクロポンプから駆動液を供給することにより各収容部から検体液および試薬液を押し出してこれらを合流させることによって、遺伝子増幅反応、アナライトのトラップまたは抗原抗体反応といった分析に必要な反応が開始される。試薬と試薬との混合、および検体と試薬との混合は、単一の混合部で所望の比率で混合してもよく、あるいは何れかもしくは両方を分割して複数の合流部を設け、最終的に所望の混合比率となるように混合してもよい。そうした反応部位の態様は特に限定されるものではなく、様々な形態および様式が考えられる。一例としては、試薬を含む2以上の液体を合流させる合流部(流路分岐点)から先に、各液が拡散混合される微細流路が設けられ、この微細流路の下流側端部から先に設けられた、該微細流路よりも広幅の空間からなる液溜めにおいて反応が行われる。
【0083】
図13では、流路15eで増幅反応を行っている。この流路域では、図1、図5〜図10のような構成で、所定の温度に昇温される。
・遺伝子増幅法
DNA増幅方法としては、多方面で盛んに利用されているPCR増幅法を使用することができる。その増幅技術を実施するための諸条件が詳細に検討され、改良点も含めて各種文献などに記載されている。PCR増幅法においては、3つの温度間で昇降させる温度管理が必要になるが、マイクロチップに好適な温度制御を可能とする流路デバイスが、すでに本発明者らにより提案されている(特開2004−108285号)。このデバイスシステムを本発明のチップの増幅用流路に適用すればよい。これにより、熱サイクルが高速に切り替えられ、微細流路を熱容量の小さいマイクロ反応セルとしているため、DNA増幅は、手作業で行う従来の方式よりはるかに短時間で行うことができる。
【0084】
PCRの改良として最近開発されたICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification)法は、50〜65℃における任意の一定温度の下にDNA増幅を短時間で実施できる特徴を有する(特許第3433929号)。したがって、ICAN法は、本発明のマイクロリアクタでは、簡便な温度管理で済むために好適な増幅技術である。手作業では、1時間かかる本法は、本発明のバイオリアクタにおいては、10〜20分、好ましくは15分で解析まで終わる。
検出部位
マイクロリアクタの微細流路における反応部位よりも下流側には、アナライト、例えば
増幅された遺伝子を検出するための検出部位が設けられている。少なくともその検出部分は、光学的測定を可能とするために透明な材質、好ましくは透明なプラスチックとなっている。さらに微細流路上の検出部位に吸着されたビオチン親和性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン、エクストラアビジン(R)、好ましくはストレプトアビジン)は、プローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの
5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これにより、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位でトラップされる。
【0085】
分離されたアナライトまたは増幅された目的遺伝子のDNAを検出する方法は特に限定されないが、好ましい態様として基本的には以下の工程で行われる。すなわち上記マイクロリアクタを用い、
(1a)検体もしくは検体から抽出したDNA、あるいは検体もしくは検体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAと、5’位置でビオチン修飾したプライマーとを、これらの収容部から下流の微細流路へ送液する。反応部位の微細流路内で、遺伝子を増幅する工程、微細流路内で増幅された遺伝子を含む増幅反応液と変性液とを混合して、増幅された遺伝子を変性処理により一本鎖にし、これと末端をFITC(fluorescein isothiocyanate)で蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせる。次いでビオチン親和性タンパク質を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、前記増幅遺伝子を微細流路内の検出部位にトラップする。(増幅遺伝子を検出部位でトラップした後に蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせてもよい。)
(1b)検体に存在する抗原、代謝物質、ホルモンなどのアナライトに対する特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬を検体と混合する。その場合、抗体は、ビオチンおよびFITCで標識されている。したがって抗原抗体反応により得られる生成物は、ビオチンおよびFITCを有する。これをビオチン親和性タンパク質(好ましくはストレプトアビジン)を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、ビオチン親和性タンパク質とビオチンとの結合を介して該検出部位に固定化する。
【0086】
(2)上記微細流路内にFITCに特異的に結合する抗FITC抗体で表面を修飾した金コロイド液を流し、これにより固定化したアナライト・抗体反応物のFITCに、あるいは遺伝子にハイブリダイズしたFITC修飾プローブに、その金コロイドを吸着させる。
【0087】
(3)上記微細流路の金コロイドの濃度を光学的に測定する。
ポリスチレン基板に形成された微細流路内にストレプトアビジンを固定化する際、特別な化学的処置を行うことは必要としない。単にビオチン親和性タンパク質を増幅反応部位よりも下流の微細流路に適用して該流路上にビオチン親和性タンパク質を吸着させるだけでよい。プローブは、アナライトに結合させるものであり、測定対象がタンパク質アナライトでは、検出用の蛍光標識であるFITCを上記ビオチンとともに結合している特異的な抗体が相当する。また、遺伝子検査用のプローブDNAとして、蛍光標識されたオリゴデオキシヌクレオチドが好ましく用いられる。そのDNA塩基配列は、検出目的の遺伝子塩基配列の一部分と相補的である配列が選択される。プローブDNAの塩基配列を適切に選択することにより、目的の遺伝子に特異的に結合し、共存するDNA、バックグラウンドに影響されることなく高感度の検出が可能となる。
【0088】
プローブを標識する蛍光色素として、公知のFITC、RITC、NBD、Cy3、Cy5などの蛍光物質などを用いることができる。特にFITCが、抗FITC抗体、例えば金コロイド抗FITC抗マウスIgGを入手できることから望ましい。蛍光色素の代わりにジコキシゲニン(DIG)をプローブDNAに標識させてもよい。この場合、抗DIG−アルカリホスファターゼ標識抗体を抗FITC抗体の代替として用いる。
【0089】
蛍光色素FITCの蛍光を測定することも可能であるが、蛍光色素の光褪色、バックグラウンドノイズなどを考慮する必要がある。最終的には可視光により、高感度で測定できる方式が好ましい。可視光の吸光分析が優れるのは、蛍光分析よりも機器が汎用的であり、妨害因子が少なくデータ処理も容易であるためである。金コロイド抗FITC抗マウスIgGを用いた金コロイドの光学検出を利用する代わりに、上記蛍光色素の代わりに上記プローブを西洋わさびパーオキシダーゼ(HRP)で標識してもよい。検出にはこの酵素が触媒する発色反応を利用することもできる。そのための典型的な発色物質として、3,3',5,5'‐テトラメチルベンジジン(TMB)、3,3'‐ジアミノベンジジン(DAB)、p
−フェニレンジアミン(OPD)などが知られている。他にアルカリホスファターゼ、ガラクトシダーゼなどの酵素・発色系も使用できる。
【0090】
図13では、ビオチン修飾したプライマーを用いて増幅反応させた後の反応液と、停止液収容部21aに収容された反応停止液とを流路15fに送液してこれらを混合することにより反応を停止した後、変性液収容部21bの変性液を流路15gで混合して、増幅された遺伝子を一本鎖に変性させる。次に、目的物質検出用およびインターナルコントロール検出用の2つの検出部22,22に分割して送液し、一本鎖に変性された遺伝子は、検出部22に吸着されたストレプトアビジンにより検出部22に固定化される。
【0091】
この検出部22に、洗浄液収容部21dに収容された洗浄液を流して洗浄した後、ハイブリダイゼーションバッファー収容部21cに収容されたバッファーと、プローブDNA収容部21f(インターナルコントロール用プローブDNA収容部21g)に収容された、末端をFITCで蛍光標識したプローブDNAとを送液して、検出部22に固定化された一本鎖の増幅遺伝子にプローブDNAをハイブリダイズさせる。なお、一本鎖の増幅遺伝子を検出部22に固定化する前の段階で一本鎖の増幅遺伝子にプローブDNAをハイブリダイズさせるようにしてもよい。
【0092】
次に、検出部22を洗浄液で洗浄した後、抗FITC抗体で標識した金コロイドの溶液を金コロイド収容部21eから検出部22へ送液することにより、固定化された増幅遺伝子にFITCを介して金コロイドが結合される。この結合した金コロイドを光学的に検出することにより、増幅の有無または増幅効率を測定する。
コントロールの測定
生体物質の分析では、通例、分析にネガティブコントロールを加え、検体の分析と並行して行われる。コンタミネーション、例えば試薬等に混在する物質の発色、蛍光などの補正に必須であるためである。さらに分析結果の信頼性を増すためには、ポジティブコントロールも加えることが必要である。添加する試薬等における妨害因子の検出、設定した条件の適切性、非特異的な相互作用などの検証に有用である。同様にインターナルコントロールを加えることも往々と必要とされ、特に定量分析には有用である。
【0093】
ポジティブコントロール、インターナルコントロールを同時に行うことは、特にPCR法による遺伝子増幅、抗原抗体反応では重要である。PCR反応、抗原抗体反応が正しく起きていることのチェックも特に必要とされるためである。例えば何らかの問題が生じた場合、それが設定条件、試薬類、操作、分析系に由来するか、あるいは検体に由来するかの検証に最適である。とりわけPCR法は検体中に存在する微量の遺伝子を数十万〜数百万倍以上にも増幅できることから、クロスコンタミネーションといった汚染による影響は著しく深刻である。
【0094】
偽陽性および偽陰性の判定に有効なこれらのコントロールの設定は、従来の分析技術の慣行に従う。本発明のマイクロリアクタの流路構成によれば、検体とは別個の分析流路において、同一試薬、同一条件のもとで、同時進行で行うことができる。
【0095】
図13では、流路15cに後続するポジティブコントロールの反応、検出系、および流路15dに後続するネガティブコントロールの反応、検出系において、上述した検体の反応、検出系における場合と同様に、試薬との反応およびその検出が行われる。インターナルコントロールは、検体と共に試薬との反応を行った後、反応後の処理液を分割して検出を行う。
生体物質検査デバイスによる検査
本発明の生体物質検査デバイスを用いることによる各種遺伝子検査法では、その装置の構成と分析原理から、従来の核酸配列分析、制限酵素分析、核酸ハイブリダイゼーション分析と比べ、はるかに少ない検体量、僅かな手間と簡便な装置により高い精度の結果を得ることができることが明らかである。
【0096】
本発明で検出法として採用された遺伝子増幅技術およびハイブリダイゼーション技術から、主に2つの遺伝子検査の側面が形成される。まず遺伝子増幅反応に使用するプライマーとして、ある特定の遺伝子に特異的な配列を有するプライマーを用いることにより、増幅の有無または増幅の効率を測定することにより、検体中の遺伝子由来のDNAが、その特別の遺伝子と同一か、異なるかの判定に利用することができる。特に、感染病の原因ウィルス、細菌を遺伝子から迅速に同定または判定するのに有効である。本マイクロリアクタは多項目同時測定にも対応するため、遺伝子検査において使用するプライマーは、適宜、塩基配列を変更した複数のプライマーを用意して、例えば同一種の細菌、ウィルスの間における変異株の同定、識別にも好適に用いられる。
【0097】
さらに増幅された遺伝子DNAにハイブリダイズするプローブDNAのヌクレオチド配列を目的の遺伝子と相補的になるように設計することで検出の精度を高めている。あるいはハイブリダイゼーションにおける合成プローブとのミスマッチを指標とする遺伝子変異の検出にも応用が可能である。
【0098】
あるいは、特定の疾患に対する罹患感受性を示す遺伝性素因の判定、医薬に対する副作用などにも関与する遺伝子変異、コーディング領域のほか、調節遺伝子のプロモーター領域における変異も本発明の生体物質検査デバイスを用いる遺伝子検査により検出することができる。その場合、変異部分を含む核酸配列を有するプライマーを利用する。なお、上記遺伝子変異とは、遺伝子のヌクレオチド塩基における変異の意味である。さらに本発明の検査装置を使用することによる遺伝子多型の解析は、疾患感受性遺伝子の同定、薬物代謝酵素遺伝子の解析にも役立つ。
【0099】
上記遺伝子検査の他にも、本発明の生体物質検査デバイスにおける多項目同時測定は、使用するプローブといった検出手段および検出方法の設計により、例えば臨床検体について抗原、ホルモン、各種代謝物質などの多項目分析についても実現することができる。具体的な検査項目として、グルコース、ビリルビン、アルブミン、アミラーゼ、リパーゼ、コリンエステラーゼ、アルカリホスファターゼ、肝機能検査のためのγ−GTP、AST、ALT、LDHなど、腎機能検査のための尿素窒素(BUN)、クレアチニン、尿酸など、循環器検査のため総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、遊離コレステロール、トリグリセリドなどのアナライトが挙げられる。
【0100】
本発明の生体物質検査デバイスは、遺伝子の種々の解析、臨床検査・診断、医薬スクリーニング、医薬、農薬あるいは各種化学物質の安全性・毒性の検査、環境分析、食品検査、法医学、化学、醸造、漁業、畜産、農産製造、農林業等で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材の断面図である。
【図2】図2は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの試薬収容部の周辺および、チップ面に当接して該試薬収容部を冷却する冷却部材の断面図である。
【図3】図3は、加熱部材によるチップの加熱領域周辺の上面図である。
【図4】図4は、加熱部材によるチップの加熱領域の形状例を示した上面図である。
【図5】図5は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材の断面図である。
【図6】図6は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路の周辺および、チップ面に当接して該反応部流路を加熱する加熱部材と、これに隣接して配置された放熱部材の断面図である。
【図7】図7は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路と試薬混合流路の周辺および、チップ面に当接する加熱部材、放熱部材および冷却部材の断面図である。
【図8】図8は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路周辺の加熱領域および、これに隣接する領域であってチップに放熱補助部材を固着した非加熱領域の断面図である。
【図9】図9は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態におけるチップの反応部流路周辺において、加熱領域のチップ面に加熱補助部材を固着した状態を示した断面図である。
【図10】図10は、本発明の生体物質検査デバイスの実施形態を説明する斜視図であり、発熱体に接続された熱伝導部材でチップの加熱領域を両面から挟み込んだ状態を示す。
【図11】図11は、熱伝導部材でチップの反応部流路を両面から挟み込んだ状態を示した断面図である。
【図12】図12は、マイクロリアクタと装置本体とからなる生体物質検査デバイスの概略図である。
【図13】図13は、遺伝子増幅反応を行うマイクロリアクタの微細流路の構成を示した図である。
【図14】図14は、検体収容部、検体前処理部および検体の分割を示した図である。
【符号の説明】
【0102】
1 マイクロリアクタ
2 装置本体
11 マイクロポンプ(ピエゾポンプ)
12 ポンプ接続部
13 送液制御部
15 微細流路
15a〜15g 微細流路
16 逆止弁
17a 試薬貯留部
17b 検体貯留部
18 試薬収容部
18a〜18c 試薬収容部
19 サンプルポート
20 検体収容部
20a 検体前処理部
20b 検体処理液収容部
21a 反応停止液収容部
21b 変性液収容部
21c ハイブリダイゼーションバッファー収容部
21d 洗浄液収容部
21e 金コロイド収容部
21f プローブDNA収容部
21g インターナルコントロール用プローブDNA収容部
21h ポジティブコントロール収容部
21i ネガティブコントロール収容部
21j バッファー収容部
22 検出部
23 廃液貯留部
31 チップ
31a チップ面
32 反応部流路
33 加熱領域
34 非加熱領域
35 加熱部材
35a 加熱補助部材
36 冷却部材
37 冷却領域
38 放熱部材
38a 放熱補助部材
39 試薬混合流路
40 発熱体
41 熱伝導部材
42 上面側熱伝導部
43 下面側熱伝導部
51 装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体収容部に収容された検体または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる測定対象の生体物質と、試薬収容部に収容された試薬とを、反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、検出部位を構成する流路へ送液して測定する一連の微細流路が形成されたチップと、
前記微細流路における選択的に加熱もしくは冷却すべき部位を含む、チップ内の所定の温度調節領域に対して、該温度調節領域内のチップ面に当接して加熱もしくは冷却する温度調節部材と、を備え、
前記温度調節領域におけるチップ厚さTが、そのチップ面方向の幅Wの1/2以下であることを特徴とする生体物質検査デバイス。
【請求項2】
前記温度調節領域のチップ厚さを、該温度調節領域に隣接する領域よりも薄くしたことを特徴とする請求項1に記載の生体物質検査デバイス。
【請求項3】
前記チップの前記温度調節領域および、これに隣接する領域の少なくとも一部が、熱伝導率が10W/m・K以下の材質からなることを特徴とする請求項1または2に記載の生体物質検査デバイス。
【請求項4】
前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域に隣接した、前記微細流路を含む領域のチップ面に当接して、該隣接領域から熱を移動させて放熱する放熱部材を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体物質検査デバイス。
【請求項5】
前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域に隣接した、前記微細流路を含む領域のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる放熱補助部材が該チップと一体に固着され、該放熱補助部材に対して前記放熱部材を当接させるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の生体物質検査デバイス。
【請求項6】
前記温度調節部材により加熱される前記温度調節領域における、該温度調節部材が当接される側のチップ面に、該チップの形成材よりも熱伝導率が10倍以上高い材質からなる加熱補助部材が該チップと一体に固着され、該加熱補助部材に対して前記温度調節部材を当接させるようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体物質検査デバイス。
【請求項7】
前記温度調節部材が、発熱体に接続された、前記温度調節領域内のチップ面に対して両面側から挟むように当接する熱伝導体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体物質検査デバイス。
【請求項8】
前記温度調節領域に含まれ、選択的に加熱される前記微細流路が、測定対象の生体物質と試薬とを反応させる、反応部位を構成する流路であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の生体物質検査デバイス。
【請求項9】
前記反応部位を構成する流路において遺伝子増幅反応を行うことを特徴とする請求項8に記載の生体物質検査デバイス。
【請求項10】
前記温度調節領域に含まれ、選択的に冷却される前記微細流路が、試薬収容部および/または複数の試薬を合流させて混合する流路であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体物質検査デバイス。
【請求項11】
前記試薬が、遺伝子増幅反応用の試薬であることを特徴とする請求項10に記載の生体
物質検査デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−121934(P2006−121934A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312313(P2004−312313)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】