説明

生体親和性の改善された医療補綴器具

【課題】 生体親和性の改善された医療補綴器具(特に、人工歯根)およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 チタンまたはその合金である金属材料(A)の表面部分を7.0を越えるpH、1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で電気分解処理に付して、水酸化チタンである水酸化物材料(B)の層を形成し、場合によっては続けて殺菌処理を行うことからなり、金属材料(A)の表面部分が水酸化物材料(B)の層でコートされ、前記水酸化物材料(B)の層は該層と共存する1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を含む医療補綴器具を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体親和性の改善された医療補綴器具に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン補綴具のような金属補綴具の金属表面を例えばプラズマボンバード、エッチングまたは電気分解によって改変することで金属補綴具の生体親和性を改善することが提案されてきた。
【0003】
インプラント表面上に厚い酸化物層(つまり天然に存在する酸化物層より厚い)を形成するために、陽極酸化がとなえられてきた。例えばWO 00/72777には、インプラントが酸性の電解質中に浸漬されそして、インプラント(陽極)が、同じ酸性電解質中に浸漬された対向電極(陰極)に接続された電気エネルギー源と接触するように用いられる電解酸化法が記載されている。
【0004】
様々な活性生体分子を補綴具の表面に、例えばチタン補綴具の金属表面に結合することにより、またはこれと一体化することにより補綴具およびインプラントの生体親和性を改善することもまた提案されている。このようにして製造されたインプラントが、改善された適合性を有し;増強された組織粘着性および増強された組織親和性を示し;増大した細胞生長、分化および成熟のための生物学的活性のある表面を有し;減退した免疫反応性を示し;抗微生物活性を示し;増大した生体石灰化能力を示し;改善された外傷および/または骨の治癒をもたらし;改善された骨密度につながり;『装着までの時間』が減少されており、また炎症を惹起することがより少ないことが、このインプラントについての目標であった。
【0005】
このような結合は例えば、ホルマリンまたはグルタルアルデヒドのような2つの反応性官能基を有する化学反応体を使用してしばしば実施されてきたが、これらの薬剤の反応特性は、生体分子を生物学的に不活性にしそして/または生体分子の好ましくない免疫反応性を強化することにしばしばつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今回、その金属部分上に対応する金属水酸化物のコーティングを有する金属補綴器具が、有利な構造的特性および生体親和的特性を示し、またこのような器具を電気分解によって製造することが可能であることが見い出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って第1の局面で本発明は、チタンまたはその合金、ジルコニウムまたはその合金、タンタルまたはその合金、ハフニウムまたはその合金、ニオブまたはその合金およびクロム−バナジウム合金からなる群から選択される金属材料(A)を含む医療補綴器具であって、金属材料(A)の表面部分が水酸化チタン、水酸化ジルコニウム、水酸化タンタル、水酸化ハフニウム、水酸化ニオブおよび水酸化クロムおよび/または水酸化バナジウムから選択される、それぞれに対応する水酸化物材料(B)の層でコートされているものに関する。
【0008】
第2の局面で本発明は、金属材料(A)の表面部分を、金属水酸化物の生成を容易にする条件下で電気分解処理に付し、水酸化物材料(B)の層を形成することからなる、このような医療補綴器具を製造する方法に関する。
【0009】
さらにまた、このような水酸化物層を電気分解によって金属上に形成する無機的方法に際して、水酸化物層に様々な種類の生体分子を連結し、結合し、閉じ込めそして/または一体化することが可能であることが見いだされている。この所見以前は、脊椎動物の身体においてインビボでインプラントとして使用するための金属上の生体活性表面として特に使用するために、改変されていない生体活性的な生体分子を金属上に結合しそして安定化することは極めて困難であると考えられていた。
【0010】
従って、本発明の好ましい態様は、チタンまたはその合金、ジルコニウムまたはその合金、タンタルまたはその合金、ハフニウムまたはその合金、ニオブまたはその合金およびクロム−バナジウム合金からなる群から選択される金属材料(A)を含む医療補綴器具であって、金属材料(A)の表面部分が水酸化チタン、水酸化ジルコニウム、水酸化タンタル、水酸化ハフニウム、水酸化ニオブおよび水酸化クロムおよび/または水酸化バナジウムから選択される、それぞれに対応する水酸化物材料(B)の層でコートされ、水酸化物材料(B)のこの層がこれと共存する1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を含むものに関する。
【0011】
さらに本発明は、上記の好ましい態様に従う医療補綴器具を製造する方法に関し、この方法は、金属材料(A)の表面部分を電気分解処理に付して水酸化物材料(B)の層を形成することからなり、この電気分解処理は生体分子をマイナスに荷電させる条件下で、1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で実施される。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、金属材料(A)(特に、チタンまたはその合金)を含み、その表面部分が対応する水酸化材料(B)(特に、水酸化チタン)の層でコートされ、さらに生体物質(C)を含む医療補綴器具が電気分解によって製造される。この医療補綴器具は、有利な構造的特性、生体親和性を備える。
【0013】
これに関連して『医療補綴器具』という用語は、脊椎動物特にヒトのような哺乳動物の身体内にインプラント化することの意図される任意の器具をその範囲に含む。
【0014】
医療補綴器具は本明細書において(医療)インプラントとも称される。
【0015】
このような器具の非限定的な例は、大腿骨股関節;大腿骨頭;寛骨臼杯;幹状部、楔状部、関節挿入体を含む肘;大腿骨および脛骨の構成部、幹状部、楔状部、関節挿入体または膝蓋骨構成部を含む膝;幹状部および頭部を含む肩;手首;足首;手;指;つま先;椎骨;脊椎椎間板;のような生体組織に代替しそして/またはこれらの身体の機能をもとに戻す医療器具、例えば人工関節;歯科インプラント;小骨形成インプラント;キヌタ骨、ツチ骨、アブミ骨、キヌタ骨−アブミ骨、ツチ骨−キヌタ骨、ツチ骨−キヌタ骨−アブミ骨を含む中耳インプラント;蝸牛インプラント;クギ、ネジ、ステープルおよび板のような整形手術用固定器具;心臓弁;ペースメーカー;カテーテル;管;空間充填インプラント;補聴器を保持するためのインプラント;外部固定のためのインプラント;そしてまた子宮内器具(IUD);および蝸牛管内または頭蓋内電子機器生体エレクトロニクス器具である。
【0016】
一般に、医療インプラントは1つまたはいくつかのインプラント部品からなる。例えば、歯科インプラントには、橋脚歯および/または修復歯のような2次的インプラント部品と連結される歯科固定物が通常含まれる。しかしながら、歯科固定物のようなインプラント化が意図される任意の器具は、他の部品がそれに連結されているにせよ、単独でインプラントと称することができる。
【0017】
本記載で用いるとき、『表面部分』という用語は、インプラントの少なくとも1つの規定された表面部域をさす。従って、表面部分にはインプラントの全表面領域またはその一部分が含まれるであろう。
【0018】
骨組織中へのインプラント化が意図されるインプラントの表面部分の例は、患者の顎骨中へのインプラント化が意図されそして骨組織と接触する歯科固定物の表面である。
【0019】
骨組織中へのインプラント化が意図されるインプラントの表面部分の他の1例は、患者の大腿骨の首状部へのインプラント化が意図される腰関節インプラントの表面である。
【0020】
本記載で用いるとき、『骨組織中へのインプラント化』とは、歯科インプラント、整形外科インプラントなどのように、骨組織中への少なくとも部分的なインプラント化が意図されるインプラントをさす。骨組織中へのインプラント化のためのインプラントもまた、骨組織インプラントと称することができる。
【0021】
これに関連して、『生体分子』という用語はその意味の範囲内で、言葉の最も広い意味で極めて広範な種類の生物学的活性のある分子を、それが天然の生体分子(つまり、天然源泉から誘導される天然に存在する分子)、合成的な生体分子(つまり、合成的に製造される天然に存在する分子および合成的に製造される天然に存在しない分子または存在しない形の分子)または組み換え生体分子(つまり、組み換え技術の使用により製造されるもの)であろうとカバーしまた包含する。
【0022】
本発明に従って金属水酸化物層中への取り入れ(安定でそして/または生理学的に可逆である仕方で)が好適であると考えられる生体分子の主な種類および種類の非限定的なリストを以下に示す。
【0023】
抽出された生体分子:
生体接着剤:
フィブリン;フィブロイン;ムラサキイガイ(Mytilus edulis)足タンパク質(mefpl、『イガイ接着剤タンパク質』);他のイガイの接着剤タンパク質;グリセリンに富むブロックを有するタンパク質およびペプチド;ポリ−アラニンブロックを有するタンパク質およびペプチド;および絹。
【0024】
細胞付着因子:
細胞付着因子は、生物学的表面または他の細胞および組織に細胞を付着しまた展延するのを媒介する生体分子である。この種類の分子は、脊椎の発達、新生、再生および修復の際に、細胞基質および細胞−細胞相互作用に関与する分子を典型的に含む。この部類の典型的な生体分子は、白血球、免疫グロブリンおよび赤血球凝集性タンパク質上のCD種の受容体、および細胞外基質分子/このような細胞分子に接着するリガンドのような細胞の外表面上の分子である。金属水酸化物でコートされたインプラント上で生体活性コーティングとして使用する可能性のある細胞付着因子の典型的な例は、アンキリン(Ankyrin);カドヘリン(カルシウム依存性接着分子);コネキシン;デルマタンサルフェート;エンタクチン;フィブリン;フィブロネクチン;グリコリピッド;グリコフォリン;グリコプロテイン;ヘパランサルフェート;ヘパリンサルフェート;ヒアルロン酸;イムノグロブリン;ケラタンサルフェート;インテグリン;ラミニン;N−CAM(カルシウム独立性接着剤分子);プロテオグリカン;スペクトリン;ビンクリン;ビトロネクチンである。
【0025】
生体ポリマー:
生体ポリマーは、正しい条件が与えられるなら、ポリマー性の巨大分子構造へと組み上げることができる生物学的につくられる任意の分子である。このような分子は細胞外基質の主要な部分を構成し、そこでは、組織に弾性、強度、剛性、一体性などを付与するのに関与する。金属水酸化物でコートされたインプラント上の生体活性コーティングとして使用する可能性のある重要ないくつかの生体ポリマーはアルギネート;アメロジェニン(Amelogenin);セルロース;キトサン;コラーゲン;ゼラチン;オリゴ糖類;ペクチンである。
【0026】
血液タンパク質:
この種のタンパク質には、全血中に通常存在する溶解したまたは凝集した任意のタンパク質が典型的に含まれる。このようなタンパク質は炎症、細胞のホーミング(homing)、凝固(clotting)、細胞のシグナリング、防御(defence)、免疫反応、新陳代謝などのような広範囲の生物学的過程に関与する。金属水酸化物でコートされたインプラント上の生体活性コーティングとして使用する可能性のある典型的な例は、アルブミン;アルブメン;サイトカイン;IX因子;V因子;VII因子;VIII因子;X因子;XI因子;XII因子;XIII因子;ヘモグロビン(鉄を含むまたは含まない);免疫グロブリン(抗体);フィブリン;血小板から誘導される生長因子(PDGF);プラズミノーゲン;トロンボスポンディン(thrombospondin);トランスフェリンである。
【0027】
酵素:
酵素は、事実上、単純な糖からDNAのような複雑な巨大分子までの何であってもよい1つまたはそれ以上の生体物質に特定の触媒効果を有する任意のタンパク質またはペプチドである。酵素は基質分子の分解によって組織内での生物学的応答の引き金となるのに潜在的に有用であるか、またはインプラントコーティング中で他の生体活性化合物を活性化しまたは放出するために使用できる。金属水酸化物でコートされたインプラント上の生体活性コーティングとして使用できるいくつかの重要な例は、アブザイム(酵素的能力を有する抗体);アデニレートシクラーゼ;アルカリホスファターゼ;カルボキシラーゼ;コラゲナーゼ;シクロオキシナーゼ;ヒドロラーゼ;イソメラーゼ;リガナーゼ;リアーゼ;金属−マトリックスプロテアーゼ(MMP);ヌクレアーゼ;オキシドレダクターゼ;ペプチダーゼ;ペプチドヒドロラーゼ;ペプチジルトランスフェラーゼ;ホスホリパーゼ;プロテアーゼ;スクラーゼ−イソマルターゼ;TIMP;トランスフェラーゼである。
【0028】
細胞外基質タンパク質および生体分子:
特殊化された細胞、例えば繊維芽細胞および骨芽細胞は、細胞外基質を形成する。この基質はいくつかの重要な過程に関与する。基質は特に外傷の治癒、組織のホメオスタシス、発達および修復、組織の強度および組織の完全性にとって重要である。基質はpH、イオン強度、浸透度などのような細胞外の環境もまた決定する。さらにまた、細胞外基質分子は、生体無機物の形成(骨、軟骨、歯)の誘発および制御にとって重要である。金属水酸化物でコートされたインプラント上で生体活性のあるコーティングとして使用することができる重要な細胞外タンパク質および生体分子には、アメロブラスチン;アメリン;アメロジェニン;コラーゲン(I〜XII);デンチン−シアロ−タンパク質(DSP);デンチン−シアロ−ホスホ−タンパク質(DSPP);エラスチン;エナメリン;フィブリン;フィブロネクチン;ケラチン(1〜20);ラミニン;タフテリン;炭水化物;コンドロイチンサルフェート;ヘパランサルフェート;ヘパリンサルフェート;ヒアルロン酸;脂質および脂肪酸;リポ多糖類がある。
【0029】
成長因子およびホルモン:
成長因子およびホルモンは細胞の表面構造(受容体)に結合しまた標的細胞内で特定的な生物学的過程を開始するためのシグナルを発生する分子である。このような過程の例は、成長、プログラムされた細胞死、他の分子(例えば細胞外基質分子または糖)の放出、細胞の分化および成熟、代謝速度の調整などである。金属水酸化物でコートされたインプラント上で生体活性コーティングとして使用することができるこのような生体分子の典型的な例は、アクチビン(Act);アンフィレグリン(Amphiregulin)(AR);アンギオポエチン(Ang 1〜4);Apo3(TWEAK、DR3、WSL−1、TRAMPまたはLARDとしても知られる弱いアポトーシス誘発体);ベータセルリン(Betacellulin)(BTC);塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF、FGF−b);酸性繊維芽細胞成長因子(aFGF、FGF−a);4−1BBリガンド;脳から得られる神経栄養因子(BDNF);胸および腎臓から得られるボロキン(Bolokin)(BRAK);骨形態発生タンパク質(BMP);B−リンパ球化学誘引物質/B細胞誘引性ケモカイン 1(BLC/BCA−1);CD27L(CD27リガンド);CD30L(CD30リガンド);CD40L(CD40リガンド);増殖を誘発するリガンド(APRIL);カルジオトロフィン−1(CT−1);毛様体神経栄養性因子(CNTF);結合組織成長因子;サイトカイン;6−システインケモカイン(6Ckine);表皮成長因子(EGF);エオタキシン(Eotaxin)(Eot);上皮細胞から得られる好中球活性化タンパク質78(ENA−78);エリトロポイエチン(Epo);繊維芽細胞成長因子(FGF3〜19);フラクタルカイン;グリアから得られる神経栄養性因子(GDNF);グルココルチコイドから誘導されるTNF受容体リガンド(GITRL);顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);顆粒球化学走化性タンパク質(GCP);成長ホルモン(GH);I−309;成長関連の腫瘍遺伝子(GRO);インヒビン(Inh);インターフェロン誘導性T−細胞アルファ化学誘引物質(I−TAC);Fasリガンド(FasL);ヘレグリン(Heregulin)(HRG);ヘパリンに結合する表皮成長因子様の成長因子(HB−EGF);fms様のチロシンキナーゼ3リガンド(Flt−3L);ヘモフィルトレートCCケモカイン(HCC−1〜4);肝細胞成長因子(HGF);インスリン;インスリン様の成長因子(IGF1および2);インターフェロン−ガンマ誘導性タンパク質10(IP−10);インターロイキン(IL1〜18);インターフェロン−ガンマ(IFN−ガンマ);角化細胞成長因子(KGF);角化細胞成長因子−2(FGF−10);レプチン(OB);白血病抑制因子(LIF);リンフォトキシンベータ(LT−B);リンフォタクチン(LTN);マクロファージ−コロニー刺激因子(M−CSF);マクロファージから得られるケモカイン(MDC);マクロファージ刺激性タンパク質(MSP);マクロファージ炎症化タンパク質(MIP);ミドカイン(MK);単球化学誘引物質タンパク質(MCP−1〜4);IFN−ガンマによって誘発されたモノカイン(MIG);MSX 1;MSX 2;ミュラー阻害性物質(MIS);ミエロイドプロジェニター阻害因子1(MPIF−1);神経成長因子(NGF);ニューロトロフィン(NT);好中球活性化ペプチド 2(NAP−2);オンコスタチンM(OSM);オステオカルシン;OP−1;オステオポンチン;OX40リガンド;血小板から得られる成長因子(PDGF aa、abおよびbb);血小板因子4(PF4);プレイオトロフィン(Pleiotrophin)(PTN);肺のおよび活性化調整されたケモカイン(PARC);活性化に際して調整される、正常T−細胞において発現されそして分泌されたもの(RANTES);感覚および運動ニューロンから得られる因子(SMDF);小型の誘導性サイトカインサブファミリーAのメンバー26(SCYA26);幹細胞因子(SCF);間質細胞から得られる因子1(SDF−1);胸腺のおよび活性化の調整されたケモカイン(TRAC);胸腺発現ケモカイン(TECK);TNFおよびApoLに関連する白血球発現リガンド−1(TALL−1);TNFに関連するアポトーシス誘発性リガンド(TRAIL);TNFに関連する活性化によって誘導されるサイトカイン(TRANCE);リンフォトキシン誘導性発現でありまたHVEMに関してHSV糖タンパク質Dと競合するT−リンパ球受容体(LIGHT);胎盤成長因子(PIGF);トロンボポイエチン(Tpo);トランスフォーミング成長因子(TGFアルファ、TGFベータ1、TGFベータ2);腫瘍壊死因子(TNFアルファおよびベータ);血管内皮成長因子(VEGF−A、B、CおよびD);カルシトニン;ならびにエストロゲン、プロゲステロン、テストステロンおよびこれらの類縁体のような天然に存在する性ホルモンのごときステロイド化合物である。以上から例えばエストロゲンもしくはプロゲステロンまたはこれらの類縁体を含むIDU(子宮内器具)のようなある種のインプラントを企図することができよう。
【0030】
核酸(DNA):
DNAはタンパク質およびペプチドのための遺伝子をエンコードする。またDNAは含まれる遺伝子の発現を調節する多様な配列を含む。源泉、機能、来源、および構造に応じていくつかの種類のDNAが存在する。インプラント上で生体活性があり、放出が緩慢なコーティングとして使用できるDNAをベースとする分子(局所遺伝子療法)に関する典型的な例は、A−DNA;B−DNA;哺乳動物のDNAを担持する人工的な染色体(YAC);染色体DNA;環状DNA;哺乳動物のDNAを担持するコスミド;DNA;二本鎖DNA(dsDNA);ゲノムDNA;ヘミメチル化DNA;線状DNA;哺乳動物のcDNA(相補的DNA;RNAのDNAコピー);哺乳動物のDNA;メチル化DNA;ミトコンドリアDNA;哺乳動物のDNAを担持するファージ;哺乳動物のDNAを担持するファージミド;哺乳動物のDNAを担持するプラスミド;哺乳動物のDNAを担持するプラスチド;組み換えDNA;哺乳動物のDNAの制限断片;哺乳動物のDNAを担持するレトロポゾン;一本鎖DNA(ssDNA);哺乳動物のDNAを担持するトランスポゾン;T−DNA;哺乳動物のDNAを担持するウイルス;Z−DNAである。
【0031】
核酸(RNA):
RNAはDNAでエンコードされた情報の転写物である。(ときに(いくつかのウイルスにおいて)、RNAは必須情報をエンコードするユニットである。)遺伝子の発現のための媒介物であるほかに、RNAはいくつかの生物学的機能を有することが示されている。リボザイムは触媒作用のある単純なRNA分子である。これらのRNAはDNAおよびRNAの開裂および連結を触媒し、ペプチドを加水分解し、またRNAのペプチドへの翻訳のコアである(リボソームはリボザイムである)。金属水酸化物でコートされたインプラント上で生体活性コーティングとして使用することができるRNA分子の典型的な例は、アセチル化された転移RNA(活性化されたtRNA、装荷されたtRNA);環状RNA;線状RNA;哺乳動物の外来核RNA(hnRNA);哺乳動物のメッセンジャーRNA(mRNA);哺乳動物のRNA;哺乳動物のリボソームRNA(rRNA);哺乳動物の転移RNA(tRNA);mRNA;ポリアデニル化RNA;リボソームRNA(rRNA);組み換えRNA;哺乳動物のRNAを担持するレトロポゾン;リボザイム;転移RNA(tRNA);哺乳動物のRNAを担持するウイルス;短い阻害性RNA(siRNA)である。
【0032】
受容体:
受容体はシグナル(例えばホルモンリガンドおよび成長因子)を結合しそしてシグナルを細胞膜を超えて細胞の内部機構中に伝達する細胞表面の生体分子である。異なる受容体は異なって『配線』され、同じリガンドに対してさえ異なる細胞内応答を課する。このことは、細胞表面上の受容体のパターンを変えることにより細胞が外部シグナルに対して異なった反応を示すことを可能にする。受容体はそのリガンドを典型的に可逆的な仕方で結合し、それを、組織中に放出されるべき成長因子の担持体として好適ならしめる。従って、成長因子受容体でインプラントをコートし次いでこの受容体にその主要なリガンドを装荷することにより、インプラント化に引き続いて周囲にある組織に対して成長因子を制御下で放出するために使用することができる生体活性表面が得られる。金属水酸化物でコートされたインプラント上で生体活性コーティングとして使用することができる好適な受容体の例には、受容体CDのCD類;EGF受容体;FGF受容体;フィブロネクチン受容体(VLA−5);成長因子受容体、IGF結合タンパク質(IGFBP1〜4);イン
テグリン(VLA1〜4を含む);ラミニン受容体;PDGF受容体;トランスフォーミング成長因子アルファおよびベータ受容体;BMP受容体;Fas;血管内皮成長因子受容体(Flt−1);ビトロネクチン受容体がある。
【0033】
合成生体分子:
合成生体分子は天然にある生体分子(の模倣)をベースとする分子である。このような分子を合成することにより、分子を安定化することができるかまたはそれを一層生体活性的もしくは特異的にすることができる、広範な種類の化学的および構造的な改変が導入されることができる。従って、分子があまりにも不安定または非特異的であって抽出物から使用することができないなら、インプラント表面コーティングとして使用するために、これを設計しそして合成することができる。さらにまた多くの生体分子は豊富ではないので、工業的規模で抽出することは不可能である。このように希少な生体分子は、例えば組み換え技術によってまたは(生)化学によって合成的に製造されなければならない。以下に列挙するのはインプラントコーティングのために潜在的に有用でありうる合成分子のいくつかの種類である。
【0034】
合成DNA:
A−DNA;アンチセンスDNA;B−DNA;相補DNA(cDNA);化学的に改変されたDNA;化学的安定化されたDNA;DNA;DNA類縁体;DNAオリゴマー;DNAポリマー;DNA−RNAハイブリッド;二本鎖DNA(dsDNA);ヘミメチル化DNA;メチル化DNA;一本鎖DNA(ssDNA);組み換えDNA;3重DNA;T−DNA;Z−DNA。
【0035】
合成RNA:
アンチセンスRNA;化学的に改変されたRNA;化学的に安定化されたRNA;外来核RNA(hnRNA);メッセンジャーRNA(mRNA);リボザイム;RNA;RNA類縁体;RNA−DNAハイブリッド;RNAオリゴマー;RNAポリマー;リボソームRNA(rRNA);転移RNA(tRNA);短い阻害性RNA(siRNA)。
【0036】
合成生体ポリマー:
陽イオンおよび陰イオンリポソーム;セルロースアセテート;ヒアルロン酸;ポリ乳酸;ポリグリコールアルギネート;ポリグリコール酸;ポリ−プロリン;多糖類。
【0037】
合成ペプチド:
DOPAおよび/またはdiDOPAを含むデカペプチド;配列『Ala Lys Pro Ser Tyr Pro Pro Thr Tyr Lys』を有するペプチド;Proがヒドロキシプロリンで置換されたペプチド;1つまたはそれ以上のProがDOPAで置換されたペプチド;1つまたはそれ以上のProがdiDOPAで置換されたペプチド;1つまたはそれ以上のTyrがDOPAで置換されたペプチド;ペプチドホルモン;上記に列挙した抽出されたタンパク質をベースとするペプチド配列;RGD(Arg Gly Asp)モチーフを含むペプチド。
【0038】
組み換えタンパク質:
組み換えによって製造されるすべてのペプチドおよびタンパク質。
【0039】
合成酵素阻害剤:
合成酵素阻害剤は、酵素に直接結合することにより酵素活性を阻止する金属イオンのような単純な分子から、酵素の天然基質を模倣し、従って、主要な基質と競合する合成的な分子までの範囲にわたる。酵素阻害剤を含むインプラントコーティングはコーティング中に存在する他の生体分子を安定化するのに役立ちそしてその破壊に対抗し、その結果生体活性化合物のより長い反応時間および/またはより大きい濃度が得られる。酵素阻害剤の例はペプスタチン;ポリ−プロリン;D−糖;D−アミノカイド(amidocaid);シアナイド;ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP);金属イオン;N−トシル−1−フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK);フィゾスティグミン;パラチオン;ペニシリンである。
【0040】
水酸化物中に取り入れるための(合成的なまたは抽出された)ビタミン:
ビオチン;カルシフェロール(ビタミンD群;骨の石灰化にとって重要);シトリン;葉酸;ナイアシン;ニコチンアミド;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD、NAD+);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP、NADPH);レチノイン酸;(ビタミンA);リボフラビン;ビタミンB群;ビタミンC(コラーゲンの合成にとって重要);ビタミンE;ビタミンK群。
【0041】
水酸化物コーティング中に取り入れるための他の生体活性分子:
アデノシン二リン酸(ADP);アデノシン一リン酸(AMP);アデノシン三リン酸(ATP);アミノ酸;環状AMP(cAMP);3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA);5’−ジ(ジヒドロキシフェニル−L−アラニン(diDOPA);diDOPAキノン;DOPA様のo−ジフェノール;脂肪酸;グルコース;ヒドロキシプロリン;ヌクレオシド;ヌクレオチド(RNA塩基およびDNA塩基);プロスタグランジン;糖;スフィンゴシン1−ホスフェート;ラパマイシン;エストロゲン、プロゲステロンまたはテストステロン類縁体、例えばタモキシフェン(Tamoxifen)のような合成性ホルモン;ラロキシフェン(Raloxifen)のようなエストロゲン受容体モジュレータ(SERM);アレンドロネート、リセンドロネートおよびエチドロネートのようなビス−ホスフォネート;セリバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチンおよびナトリウム3,5−ジヒドロキシ−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(メチルエチル)−1H−インドール−2−イル]−ヘプタ−6−エンオエートのようなスタチン。
【0042】
水酸化物コーティング中に取り入れるための薬物:
水酸化物層中に取り入れるための薬物は、侵入する微生物に対する局所的抵抗力、局所的疼痛制御、プロスタグランジン合成の局所的抑制;局所的炎症の調節、生体石灰化の局所的誘発および組織成長の局所的刺激を改善するような局所的効果のために利用できる。金属水酸化物層中に取り入れるのに好適な薬物の例には、抗生物質;シクロオキシゲナーゼ阻害剤;ホルモン;炎症抑制剤;NSAID(非ステロイド抗炎症剤);鎮痛剤;プロスタグランジン合成阻害剤;ステロイド;テトラサイクリン(生体石灰化剤としても)がある。
【0043】
水酸化物コーティング中に取り入れるための生物学的活性のあるイオン:
イオンは様々な生物学的機序において重要である。インプラント上の金属水酸化物層中に生物学的活性イオンを取り入れることにより、酵素機能、酵素ブロッキング、生体分子の細胞への取り入れ、特定の細胞のホーミング、生体石灰化、アポトーシス、生体分子の細胞分泌、細胞の代謝および細胞の防護のような生物学的過程を局所的に刺激することができる。金属水酸化物中に取り入れるための生体活性イオンの例には、カルシウム;クロム;銅;フッ化物;金;ヨウ化物;鉄;カリウム;マグネシウム;マンガン;セレン;硫黄;錫;銀;ナトリウム;亜鉛;硝酸塩;亜硝酸塩;燐酸塩;塩化物;硫酸塩;炭酸塩;カルボキシル;酸化物がある。
【0044】
マーカー生体分子:
生物学的マーカーは、例えば光の放射、酵素活性、放射能、特定の色彩、磁気、X線密度、特定の構造、抗原性などによって検出可能なシグナルを発生し、特定の計測器もしくはアッセイによってまたは顕微鏡もしくはX線もしくは核磁気共鳴のような画像形成方法によって検出されることができる分子である。マーカーは新規な生物医学的治療方略の研究および開発において生物学的過程をモニターするために使用される。このようなマーカーはインプラント上で、生体親和性、組織の形成、組織の新生、生体石灰化、炎症、感染、再生、修復、組織のホメオスタシス、組織の破壊、組織の交代、インプラント表面からの生体分子の放出、放出された生体分子の生体活性、インプラント表面から放出される核酸の取り込みおよび発現、ならびに臨床研究に先立つ『原理の証明』、効果、効力および安全の検証を行うインプラント表面の抗生能力のような過程をモニターするために典型的に用いられるであろう。
【0045】
水酸化物コーティング中に取り入れるのに好適なマーカー生体分子には、カルセイン;アリザリンレッド;テトラサイクリン;フルオレセイン;フラ;ルシフェラーゼ;アルカリホスファターゼ;放射標識された(例えば32P、33P、3H、35S、14C、125I、51Cr、45Caでマーキングされた)アミノ酸;放射標識された(例えば32P、33P、3H、35S、14Cでマーキングされた)ヌクレオチド;放射標識されたペプチドおよびタンパク
質;放射標識されたDNAおよびRNA;イムノ−金錯体(付着した抗体を有する金粒子);イムノ−銀錯体;イムノ−マグネタイト錯体;緑色蛍光タンパク質(GFP);赤色蛍光タンパク質(E5);ビオチン化されたタンパク質およびペプチド;ビオチン化核酸;ビオチン化された抗体;ビオチン化された炭素−リンカー;リポーター遺伝子(発現したときにシグナルを発生する任意の遺伝子);ヨウ化プロピジウム;ジアミジノ黄がある。
【0046】
本発明の器具は、多くの目的のために使用することができる。このような目的の例には、インプラント化の部位での局所的な固い組織(例えば骨組織)の形成の誘発;インプラント化の部位でのまたは全身的な微生物の成長および/または侵入の制御;インプラント化の部位でのまたは全身的な炎症の低減;靭帯の修復、再生または形成の刺激;軟骨の形成の誘発;生体石灰化の核化、制御および/または鋳型化;インプラントと組織との間の付着の改善;インプラントのオッセオインテグレーションの改善;インプラントへの組織の付着の改善;(半永久的または一時的)インプラントへの組織の付着の阻止;1つまたはそれ以上の組織とインプラントとの間の接触の改善、(外科的)傷害を密封する組織の改善;好ましくない細胞(例えば癌細胞)でのアポトーシス(細胞死)の誘発;特定の細胞の分化および/または成熟の誘発、組織の引っ張り強度の増大;傷害の治癒の改善;傷害の治癒の急速化;組織形成の鋳型化;組織形成の誘導;局所的な遺伝子治療;神経の成長の促進;インプラントに隣接する組織での血管形成の改善;局所的な細胞外基質の合成の促進;局所的な細胞外基質の破壊の抑制;局所的成長因子の放出の誘発;局所的な組織代謝の増大;組織または身体部分の機能の改善;局所的疼痛および不快感の低減のための使用が挙げられる。この目的はインプラントの種類そしてインプラント上の水酸化物層中に存在するすべての生体分子の性質および/または濃度に関係する。
【0047】
金属材料(A)がチタン、ジルコニウム、タンタル、ハフニウムまたはニオブの合金であるとき、それは、これらの金属元素の1つまたはそれ以上の間の合金であってよく、またはアルミニウム、バナジウム、クロム、コバルト、マグネシウム、鉄、金、銀、銅、水銀、錫または亜鉛のような他の金属を1つまたはそれ以上含有する合金であってよく、またはこれら両方であってよい。
【0048】
金属材料(A)は、チタンまたはその合金、例えばジルコニウム、タンタル、ハフニウム、ニオブ、アルミニウム、バナジウム、クロム、コバルト、マグネシウム、鉄、金、銀、銅、水銀、錫または亜鉛との合金であるのが好ましい。特に好ましい態様では、金属材料(A)はチタンである。
【0049】
対応する水酸化物材料(B)はチタン水酸化物であるのが好ましい。
【0050】
上記したように、その金属部品上に対応する金属水酸化物を有する補綴器具は、有利な構造特性および生体親和特性を示す。例えば、水酸化物層は、一層安定であると思われる対応する酸化物に比べて生体中での反応性がより大きいと思われる。従って、特定の理論に縛られることなく、金属水酸化物層は、増大した生体内反応性のためまた、より不活性な酸化物で被覆されたインプラントと比較してこのようにして改善されたオッセオインテグレーションのため、金属酸化物層に比べて一層著しい程度で内在性リン酸カルシウムとの相互作用を促進するであろう。
【0051】
水酸化物材料の層はこれと共存する1つまたはそれ以上の生体分子物質を含む。好適な生体分子は上記に列挙されている。これに関連して、水酸化物層はそれと共存する生体分子を生体内で制御下で放出するように形成されることができる。
【0052】
生体分子物質は、水酸化物材料の表面上に存在し、包接化合物として存在し、および/または水酸化物材料中に捕捉されていてよい。
【0053】
本発明での使用に好ましい生体分子は、上記に列挙したうちで、7.0より低いpI(または等電点)(つまり7.0を越えるpHで正味のマイナス電荷を有する)を有する生体分子である。7.0より低いpIを有するという特性は、上記に列挙したもののうちの生体分子のなんらかの特定の群または下位群に限定されず、生体分子の来源およびそれが由来する有機体中でのその機能に応じてあらゆる種類の生体分子中に見いだすことができることは、当業者にとって明らかであろう。
【0054】
さらにまた好ましくは、生体分子は、7.0を越える、一層好ましくは8.0を越える、特に9.0を越えるpHで安定であるべきである。これに関連して、『安定な』とは、当該の生体分子が分解または分離せず(例えばRNAは9.0を越えるpHで分解する)または別に、上記した範囲のpHで機能上不可逆的に破壊されないことを意味する。
【0055】
本発明で使用するために好ましい生体分子の群は、
・TGF、BMP、アメロジェニン、およびアメロブラスチンのような骨の治癒を刺激する生体分子;
・VEGF、PDGF、HGF、KGF、およびFGFのような傷害の治癒を刺激する生体分子;
・アメロブラスチン、ポリ−プロリン、およびコラーゲンのような、無機物の沈着を刺激する生体分子;
・細胞外基質、CD分子、インテグリン、およびRGD−ペプチドのような細胞の付着を刺激する生体分子;
・細胞外基質、CD分子、インテグリン、およびRGD−ペプチドのような骨の付着を刺激する生体分子;
・成長因子のような細胞の増殖を刺激する生体分子;
・BMP、TGF、IL−6、オステオカルシン、オステオプロテグリン、BSP、およびサイトカインのような造骨細胞の増殖を刺激する生体分子;
・アメロゲニン、および成長因子のような細胞の分化を刺激する生体分子;
・アメロゲニン、および成長因子のような造骨細胞の分化を刺激する生体分子である。
【0056】
補綴具の部品、つまり水酸化物でコートされた器具の水酸化物層(B)上または中に存在する生体分子の量は、例えば当該の1つまたはそれ以上の生体分子物質の化学的および生物学的特性に応じて広い範囲で変化するであろう。従って、水酸化物材料(B)と共存する生体分子物質(C)は、水酸化物でコートされたインプラント表面1mm2あたり1
ピコグラムの少量から、1mgの多量までにわたる量で存在するであろう。しかしながら、最も有用な生体分子コーティングは1mm2あたり0.1ナノグラム〜100マイクログラムの範囲であると考えられる。
【0057】
1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を取り入れたもの、およびこのような生体分子物質のないものの双方である本発明の医療補綴器具は、殺菌されているのが好ましい。
【0058】
上記したように、水酸化物でコートされた器具を製造するための本発明の方法は、金属材料(A)の表面部分を7.0を上まわるpHでの電気分解にかけて水酸化物層(B)を形成することを包含する。粗さ、多孔度および厚さが変化する水酸化物層を形成するために電気分解の条件を変化させることができる。7.0を下まわるpH値では、金属水酸化物層の代わりに金属酸化物層が形成される。
【0059】
従って、pH7.1〜14.0の範囲にあるような7.0を上まわる任意のpHを用いることができるが、1つまたはそれ以上の生体分子を含む水酸化物層をつくるのに好ましいpHは、pH7.1〜12.0の範囲、特にpH7.1〜11.0、例えば7.1〜10.0の範囲、例えばpH7.1〜9.0である。
【0060】
極めて高いpH(通常12.0を上まわるpH)は、粗い(食刻のある)基礎金属表面を典型的に形成するが、低いpH(典型的にpH7.1〜10.0)条件では元来の表面形態、つまり例えば平滑な基礎金属表面を保存するであろう。
【0061】
本記載で用いるとき、『水酸化物層』という用語は、対応する酸化物と比べて水酸化物を主として含む層を意味する。
【0062】
高い電圧条件(典型的には10〜150V)では、低電圧条件(典型的には10Vを下まわる)に比べて、より多孔性の水酸化物層を形成する。
【0063】
時間の面は水酸化物層の厚さにとって最も重要であり;電気分解の時間が長いほど層は厚くなる。しかしながら、電圧、温度およびpHもまた、水酸化物層の厚さに影響する。より高い電圧が適用されると水酸化物層はより厚くなる。より高い温度および/またはより高いpHもまた水酸化物層の厚さを増加する。
【0064】
水酸化物層の厚さは1nm〜50μmの範囲にあり、好ましくは0.5μm以上であり、一層好ましくは1μm以上であり、例えば1〜20μmの範囲、特に4〜15μmの範囲にある。
【0065】
上記にさらに示すように、水酸化物層と共存する1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を有する、水酸化物でコートされた器具を製造する方法は、金属材料(A)の表面部分を電気分解処理にかけ水酸化物層(B)を形成することを包含し、この処理は上記に論じた1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で実施される。電解質の条件(pH、イオン強度など)が、生体分子が正味のマイナス電荷を有するようなものであるのが重要であることが見いだされている。従って生体分子が両性電解質であること、つまり生体分子が、それを溶解する溶液のイオン強度およびpHに従って正味の電荷を変化させる弱酸または塩基であるのが有利である。従って、これを水酸化物層に取り入れることに関して主に重要となるのは、生体−水酸化物の製造に必要な条件、つまり水酸化物の製造のために十分なOH-イオンを供給し同時に当該の生体分子の正味の電荷をマイナスに保つ環境の下での安定性である。このことは主に、電解質が低い塩濃度、および従ってイオン強度を有し;生体分子物質の変性温度より低いのが好ましいにせよ、比較的高い温度を有し;また7.0を越えるpHを有すべきことを意味する。
【0066】
このようにして電解質は、好ましくは水性の任意の塩溶液、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、生理学的条件を模倣する塩溶液、重炭酸塩、炭酸塩などの溶液であってその中に所望の生体分子が溶解されるものである。塩のイオン強度は典型的に1Mであるが、濃度は生体分子の化学的特性および濃度に応じて低くは0.01Mから高くは10Mまでに調整されることができる。
【0067】
生体分子を含む電解質の温度は、氷点(0℃)から電解質の沸点、典型的に100℃もの高さにまでわたってよい。しかしながら、水酸化物層中に生体分子物質(C)を含む本発明の器具を製造するとき、この範囲の高温側の温度の採用は、存在する生体分子物質(C)の、損傷なくこのような温度に耐える能力に明らかに依存する。生体分子がこれに耐えることができるなら、水酸化物の形成のための最適な温度はだいたい、周囲温度(20℃)から80℃である。しかしながら、当該の生体分子が高温で不安定である場合、pHおよび塩濃度が対応して調節されそして反応時間が延長されるなら、電解質は0℃もの低い温度まで冷却されることができる。
【0068】
電解質のpHは典型的に、強塩基例えばNaOH、KOHなどによって所望のpHに調整されるが、12を越えるpHはチタン上に不規則な食刻されたインプラント表面を形成し、一方、10を下まわるpHはもとの表面形態をほとんど保存することを考慮すべきである。生体分子物質を含む器具を製造する場合、所望の水酸化物/生体分子の比に応じてpHが調整される。高いpHは水酸化物/生体分子比の大きい(金属水酸化物がより多い)インプラント表面を形成するが、中性により近いものの、当該生体分子のpIより小さくないpHは、水酸化物/生体分子比が低い(比較すると生体分子が多い)表面を形成するであろう。従って、pH7.1〜14.0の範囲内のように、7を上まわる任意のpHを用いることができるが、好ましいpHは、生体分子の化学的特徴および濃度、使用する電解質および好ましい水酸化物/生体分子の比に応じて、pH7.1〜12.0の範囲、特に、pH7.1〜11.0、例えばpH7.1〜11.0の範囲、例えばpH7.1〜9.0の範囲にある。水酸化物/生体分子の比がより大きい(水酸化物がより多い)場合は、pHはより塩基性であるように調整されるべきであり、水酸化物/生体分子の比がより小さい(生体分子がより多い)場合は、pHはpIBIOMOLECULEに近いもののこれよりは高くなるように調整されるべきである。唯一の要件は、電解質中に水酸化物イオン(OH-)およびマイナスに荷電した生体分子(生体分子-、正味の荷電)が存在することである。
【0069】
電解質中の(1つまたは2つもしくはそれ以上の任意の組み合わせの)生体分子の濃度は、生体活性の種類、分子の種類、化学的および生物学的な特徴、毒性、効力、作用の様態、生体分子が水酸化物層から放出されるものかどうか、生体内安定性、電解質内安定性、入手可能性、最適なpHなどに応じて、極めて広範な範囲にわたって変化し得る。従って、電解質中の生体分子の濃度は1ミリリットルあたり1pg〜50mgの範囲であってよい。好ましい範囲は1ミリリットルあたり10pg〜1mgであるが、最適の生体分子濃度は常に、各々の生体分子または生体分子混合物によるパイロット実験で最終的に決定されるべきである。また電気分解が実施される時間の長さは変化してよいが、水酸化物層の厚さに、および従って水酸化物層中の生体分子の濃度に主として影響する。
【0070】
本発明の方法で使用するための電気分解セルは、任意の慣用的設計のものであってよいが、典型的には、電解質を除いてチャンバー間に導電性の連結体がなんらない2−チャンバーセルである。水酸化物で改変されるべき金属インプラントは、陽極(つまりプラスに荷電した電極)チャンバー内に置かれ、一方、典型的に白金で作られている陰極(マイナスに荷電した電極)が別なチャンバー内に置かれる。各々のチャンバーの電解質は多孔性のガラスまたは陶器のフィルターを通じて連絡され、電流が支障なく、ただし2つのチャンバー間での電解質の交換なしに通過することを可能にする。このことは、陰極反応からの生成物が、生体分子−水酸化物層の形成に干渉するか、または陽極電解質中で生体分子を破壊しもしくは改変する可能性がありうるので、生体分子物質を含む器具を製造するときに重要である。2つのセルの隔離はより小さい陽極電解質体積の使用も可能にし、従って生体分子の一層効果的な使用も可能にし、また電気分解プロセスの最適化を可能にする2−電解質システム、例えば、陽極側にある生体分子について最適な1つの電解質、および電気分解そのものの効力(導電性、毒性生成物の回避、またさらには有用な副生物/コーティングの生成)に関して最適化されている陰極側にある電解質、の使用を可能にする。
【0071】
上記に示した通り、陽極セルの温度(Tan)はできるだけ高くあるべきであり、水酸化物の製造のためには80℃が最適である。
【0072】
電気分解プロセスそのものは、熱も生じ、これは2つの問題をもたらす。電解質の成分は蒸発し、その結果体積が減少しまたイオン強度および生体分子の濃度が好ましい範囲を上まわって増加し、そして温度の上昇は存在する生体分子の沈殿、凝固、変質、劣化または破壊を惹起するであろう。従って、電気分解セルの陽極コンパートメントは、蒸発した電解質の凝縮のための冷却された蓋、および電気分解に際して温度および体積を安定化するための温度調整されるラジエータシェル(radiator shell)を備えるのが好ましい。
【0073】
電流、電荷および電解質組成を調節することにより、ほとんどの生体分子に対してマイナス電荷にとって好ましい環境を付与することもできる。さもないなら、生体−水酸化物層をつくるのに際して電極の極性が制御された周期で切り替わるパルスフィールド電気分解装置が、プラスの正味電荷の問題を回避する1つの方法であろう。
【0074】
動力供給物は典型的に、いわゆるカレントポンプ(current pump)つまり回路内の抵抗が変化したとしても、一定の電流を供給する機器である。0.1〜1000ボルトの電圧を使用できるが、電圧は典型的に10ボルトを下まわる。電気分解の際の電流密度は典型的にインプラント供試体1平方センチ(cm2)あたり0.1mA〜1Aの範囲にある。好ましい電荷密度は1mA/cm2であるが、ただし生体分子親和性を増大するために電解質、pHおよび温度を調節すると、この値からの僅かなまたは大幅なずれがもたらされ得る。
【0075】
プロセスの継続時間は、生体−水酸化物層の所望の厚さ、電解質の組成および特徴、生体分子の特徴、温度およびpH、所望の水酸化物/生体分子比、インプラント供試体の寸法、陽極電解質の体積、生体分子の濃度などのようないくつかのパラメータに依存する。このようにして、プロセスの継続時間は0.5時間から数日の間であろう。しかしながら、最適な時間の長さは一般に8〜24時間である。
【0076】
生体−水酸化物プロセスをモニターするために、陽極チャンバー内にカロメル電極が典型的に入れられてよい。陽極での水酸化物層の形成プロセスが最適であるとき、カロメル電極とチタン陽極との間の電位差約1ボルトが観察される。電流がこの値から大きく異なるなら、プロセスは最適未満の条件下で進行するであろうから、装置の変更を考慮すべきである。さらにまた典型的には、プロセスが所望のpHおよび温度の限界内で進行することをモニターするための、温度探針およびpH探針が陽極チャンバー内に置かれてよい。電解質を連続的に混合しそして温度を一様に保ちまたイオン強度、pHおよび生体分子濃度の局所的な変動を回避するために、磁気撹拌機のような撹拌機器もまた陽極セル内で応用されてよい。
【0077】
電気分解段階の後、生体分子/水酸化物でそのときコートされた金属インプラントは、電解質から直ちに取り出されそして当該の生体分子に対する要件に従って処理される。一般に、殺菌されたインプラント供試体は空気乾燥され、次いで、殺菌されてある気密なプラスチック袋中に包装され、この中でインプラント化のために使用するまで保管される。しかしながら、いくつかの生体分子は乾燥に対して敏感であり、従って、例えばカン詰め化または塩水もしくは単に製造工程からの電解質のような液体中での保存のような湿潤した保存システムが望ましいであろう。電気分解は無菌のまたは殺菌された条件下で操作されてよいが、これを行う必要は、イオン化放射、加熱、オートクレーブ処理、またはエチレンオキサイドガスなどのような慣用方法を用いる、使用に先立つ殺菌段階を含めることにより回避されよう。これらの方法の選択は金属水酸化物層中に存在する生体分子の特定の特徴および特性に依存するであろう。
【0078】
一般に医療器具の殺菌は通常120℃でのオートクレーブ処理によって実施される。本発明の医療補綴器具のオートクレーブ処理は水酸化物層の組成または構造に影響を与えない。
【0079】
電気分解処理に先立ってインプラントは完全に清浄化されるべきである。これは典型的に、所望により表面構造を改変するための電解研磨またはサンドブラスト処理によってインプラントを予め機械的に処理し、引き続いて熱苛性ソーダを使用して、これに続いて、例えば濃縮トリクロロエチレン、エタノールまたはメタノール中での脱脂工程により完全に清浄化し、引き続いて表面上の酸化物および不純物を除去するために酸洗い溶液例えばフッ化水素酸中で処理することである。酸洗いの後、インプラント供試体は、2回蒸留されイオン交換された熱水中で完全に洗浄される。
【0080】
1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を含む、およびこのような物質を含まない、殺菌された器具を製造するために、この器具を製造するための工程は、殺菌された条件下で進められることができ、または改変されたインプラントが工程の終了後に別途殺菌されることができる。工程後殺菌は、医療器具およびインプラントの分野で殺菌の目的で周知の方法のいずれかによって実施されることができる。このような方法には、オートクレーブ処理、加熱、紫外線への暴露もしくはイオン化放射、またはエチレンオキサイドもしくは類似の化学物質での化学的殺菌が典型的に関与する。好ましい方法は、生体分子物質の存在、そしてまた種類および量ならびに医療器具に関する調整規則に特に依存するであろう。特に1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を含有する器具またはインプラントを扱う場合、生体分子物質への干渉をできるだけ少なくするためにこれらの製造を殺菌された条件下で実施するのが好ましい。
【0081】
本発明の特別な一態様では、2層または2重帯域のコーティングのある金属器具またはインプラントがつくられ、この際、該器具またはインプラントはまず、上述したように第1の電気分解処理に付され、生体分子物質(C)を何らもたない第1の水酸化物層または帯域が形成され、続いて上述したように1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で第2の電気分解処理がなされ、第1の層の上に第2の水酸化物層または帯域が付着され、このとき、この第2の層はそれと共存する生体分子物質(C)を有する。
【0082】
本発明の他の1つの態様は、柔らかい組織と接触することを企図する第1の水酸化物帯域と、堅い組織と接触することを企図する第2の水酸化物帯域とを含む歯科インプラントのような医療補綴器具に関し、この場合、この第1の帯域は柔らかい組織に作用する1つまたはそれ以上の生体分子を含み、そしてこの第2の帯域は堅い組織に作用する1つまたはそれ以上の生体分子を含む。
【0083】
例えば、第1の帯域は傷害の治癒を促進するVEGF、PDGF、HGF、KGFおよびFGFのような生体分子を含んでよく、また第2の帯域はアメロブラスチン、ポリ−プロリン、およびコラーゲンのような無機物の付着を促進する生体分子、または細胞外基質、CD分子、インテグリン、およびRGDペプチドのような骨の付着を促進する生体分子を含んでよい。しかしながら、生体分子の他の組み合わせもまた用いられてよい。
【0084】
2つより多い帯域、例えば3つまたは4つの帯域が用いられてよいことに留意すべきである。
【0085】
本発明の別な態様は、それと共存する1つまたはそれ以上の生体分子を有する第1の水酸化物層およびこの第1の層の上にある第2の水酸化物層を含む歯科インプラントであって、この第2の層と共存する1つまたはそれ以上の生体分子が、第1の層と共存する1つまたはそれ以上の生体分子とは異なるものであるような医療補綴器具に関する。第2の層と共存する生体分子は、第1の層と共存する生体分子よりも前に生体内で放出されるであろう。第1および第2の層の生体分子はそれぞれ、この放出がインプラント化に引き続く生物学的過程に関して最適化されるように選定され得る。2つより多い層、例えば3つまたは4つの層を用い得ることに留意すべきである。
【0086】
本発明は以下の非限定的な実施例によってさらに説明され、これらのうち実施例1、3、5および11〜13では実施された実験が示され、また実施例2、4および6〜10は企図された作業の実施例を説明する。
【0087】
実施例1:水酸化チタン層の製造および特徴
慎重に清浄化した後、チタン等級2の硬貨状の電解研磨された、表面積が0.35cm2のチタンインプラントの供試体を、0.5MのNaClと1MのNaOHからなる浴中で陽極で分極した。これは、水酸化チタンを生成するチタンと水酸化物との間の反応に対して好適な速度を得るように高温で行った。
【0088】
反応速度として温度80℃を選定した。
【0089】
水酸化チタンの存在はX線回折分析によって確認した。水酸化チタン層の厚さは鋼質断面の顕微鏡検査によって測定した。処理のために用いた時間の関数としての厚さは、電気分解の4時間後に4マイクロメートルであり、8時間後に5マイクロメートルまで、16時間後に8マイクロメートル、そして24時間後に12マイクロメートルまで増加した。
【0090】
実施例2:水酸化物を表面に電気分解で取り入れることにより改善された生体親和性を有するチタンインプラントの試験
直径6.25mmを有する硬貨状の8つのインプラントをチタン電極に取り付けそして1.0MのNaOHの使用によりpH8.0に調節された0.5MのNaClを含む殺菌された電解質中に浸漬した。電極を電力供給部のプラスのコンセントに接続し、そして実施例1の装置に従って100mAの10ボルトの電流を加えた。インプラント表面上に水酸化チタンの薄層を形成する電気分解プロセスは70℃で8時間継続させた。電解質中に同時に存在するが電極に取り付けられていない別な8つのインプラントもまた対照物として含めた。
【0091】
電気分解の後、インプラントを殺菌された水中で清浄化し、引き続いて殺菌されたガラス容器内に入れ、そこで空気乾燥させた。
【0092】
水酸化チタン表面のあるインプラント(n=8)および対照物(n=8)を、ウサギ(New Zealand White)の脛骨中の較正された皮質骨欠陥中に入れた。各々のインプラントの下の骨髄中への小型の中央開窓を行い、骨形成細胞をインプラント表
面に移行させた。用いた方法はすべて、チタンインプラント表面への骨の付着の研究に関して確立された、標準化されまた有効性の確認されたモデル(Ronold, H. J. and Ellingsen, J. E.: The use of a coin shaped implant for direct in situ measure- ment of
attachment strength for osseointegrating biomate-rial surfaces, Biomaterials 23, 2201-2209 (2002))に従った。各々のウサギは、それぞれの脛骨中に2つずつ、4つのインプラントを受け入れた。試験インプラントおよび対照インプラントの位置は不規則化されまた操作者にはかくされた。
【0093】
インプラント化して6週間後、ウサギを殺しそしてインプラントが付着された脛骨を摘出した。
【0094】
摘出の直後、脛骨を特別に設計されたジグに固定し、そしてインプラントと骨との間の結合強度を測定する、較正された引き抜き手順を用いてインプラントをはがした。インプラントをはがすのに必要な力はニュートン(N)で記録した。
【0095】
結果(表1)は、水酸化物イオンの電気分解による取り入れによって表面が改変されたチタンインプラントが、6週間の治癒の後、対照インプラントと比べて皮質骨に有意に(p<0.01)一層強く付着したことを示す。早期の骨の付着は、骨の治癒時間の減少のしるしであるので、この結果は、臨床的に重要である。このことは、整形外科および歯科のインプラント治療において、『早期装着』方策という首尾よい臨床的結果にとって重要である。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例3:細胞外基質タンパク質を含む水酸化チタンインプラント表面層の製造
電解質に暴露された表面積が0.35cm2の電解研磨されたチタンインプラント上に細胞外基質分子アメロジェニンを含む水酸化チタンの層を製造するために実施例1の装置を使用した。両方のチャンバー内の電解質は滅菌水中の1MのNaClであり、NaOHの使用によりpHを8.5に調節し、またアメロジェニンの初期濃度は0.1mg/mlであった。電気分解のために電荷密度1mA/cm2での電圧10ボルトを用いた。Tanは7
0℃に設定した。電気分解を18時間進行させ、その後チタンインプラントを電気分解セルから取り出し、滅菌水中で洗浄しそして乾燥器内で空気乾燥させた。
【0098】
乾燥の後、チタン供試体を1mlの塩水中でpH6.5で3回洗浄した。洗浄の後、チタン表面上に残存するタンパク質を、チタン供試体を0.1mlの2×SDS試料緩衝剤(SDS0.4g、0.125Mトリス/HCl10ml中の2−メルカプトエタノール1.0g、pH6.8)中で5分煮沸することにより溶解した。次に、リンスされたチタン表面からのSDS溶液中に溶解されたアメロジェニンの量を、2×SDS試料緩衝剤ブランクに対して、280および310nmでの標準的な測光学の測定光吸収によって分析し、そして結果を2×SDS試料緩衝剤中のアメロジェニンの標準希釈系列と比較した。実験は16のインプラントの系列で2回反復した。2回とも、全工程中に反応チャンバー内に存在するが陽極には取り付けられない同一のチタンインプラントの形の5つのマイナスの内部対照物を用いた。
【0099】
この実験は、かなりの量のアメロジェニンが電気分解プロセスに際して水酸化物層内に取り入れられたことを明瞭に示す。洗浄溶液中にタンパク質の形跡がないので、アメロジェニンタンパク質は、単純なコーティングとして存在するだけではなかった。アメロジェニンは、強力な界面活性剤(SDS)、還元剤(メルカプトエタノール)および高温(100℃)の組み合わせによってのみ、水酸化チタンの表面層から抽出されうるであろう。抽出されたタンパク質の量は、アメロジェニン標準との比較により32〜94μg/cm2の間と算出され、平均値はアメロジェニン67μg/cm2であった。実験用インプラントと同じ電気分解セル中に存在していたが陽極に連結されなかった同一の対照インプラントは、チタン表面に付着したアメロジェニンタンパク質をなんら示さなかった。
【0100】
実施例4:成長因子をベースとする合成ペプチドを含む水酸化チタンインプラント表面層の製造
全長の(アミノ酸37の)合成繊維芽細胞成長因子4(FGF−4)ペプチドを含む水酸化チタンの層を、電解質に暴露された全表面積0.6cm2を有する硬貨状の電解研磨されたチタンインプラント上につくるために実施例3の装置を使用することができる。電解質、pH、電圧、電流密度および電気分解時間は実施例3におけるようであるのが好適である。FGF−4の初期濃度は0.1mg/mlであるのが好適であり、また陽極チャンバーの温度は50℃が好適である。
【0101】
実施例1での塩水および2×SDS−PAGE緩衝剤中での洗浄、沈殿化、遠心分離、SDS−PAGE中への再溶解、煮沸および電気泳動に続いて、ゲル中のタンパク質を銀の染色液中に移し入れ、そして存在する全長の合成FGF−4ペプチドをゲル中の明確なバンドとして可視化した。実験用インプラントと同じ電気分解セル中に存在するが、陽極に連結されていない同一の対照インプラントを対照物として使用することができる。
【0102】
実施例5:核酸を含む水酸化チタンインプラント表面層の製造
放射能で標識したヒトの全胎盤DNAの形態の核酸を含む水酸化チタンの層を、電解質に暴露された全表面積0.35cm2を有する電解研磨されたチタンインプラント上につくるために実施例3の装置を使用した。両方のチャンバー内の電解質は滅菌水中の1MのNaClであった。pHをNaOHの使用によりpH8に調節した。電解質中のDNAの初期濃度は10μg/mlであった。電気分解のために電荷密度1mA/cm2での電圧10ボルトおよびTan65℃を用いた。電気分解を16または24時間進行させ、その後チタン供試体を電気分解セルからから取り出し、十分な量のトリス−EDTA緩衝剤(TE−緩衝剤;滅菌水中のトリス−Cl10mMおよびEDTA1mM、pH7.6)中で3
回リンスし、次いで乾燥器内で一晩空気乾燥した。
【0103】
DNAは高特異−活性プローブおよび[α−32P]dATPをつくるためのStratagene Prime−It(登録商標)II Random Primer Labellingキット(Amersham)を使用してDNAを放射能で標識した。DNAの標識の後、Packard Tricarb(登録商標)シンチレーションカウンター内でDNAプローブの特異的放射能を、標識されたDNA1マイクログラムあたり1分につき3.0×108の崩壊(dpm/μg)と測定した。
【0104】
乾燥の後、試験的な核酸が付着されたチタン供試体を蛍光体スクリーン(Fujii(登録商標))上に15分置いた。次に供試体を取り除きそして蛍光体スクリーンを、100μmの格子(インプラントあたり12,265個の点)を使用して各々のインプラント
の表面で起きる崩壊の数を測定するBioRad(登録商標)蛍光体画像形成機内で走査した。実験は16のインプラントの系列で2回反復した。2回とも、全工程中に反応チャンバー内に存在するが陽極には取り付けられない同一のチタンインプラントの形の5つのマイナスの内部対照物を用いた。第1の系列のための反応時間は24時間であり、第2の系列のためのそれは16時間であった。インプラントあたりのdpmの全数を算出しそして1平方センチメートルあたりのμgDNA(μgDNA/cm2)に換算した。
【0105】
この実験は、かなりの量のDNAが電気分解プロセスに際して水酸化物層内に取り入れられたことを明瞭に示す。TEでのリンスに際してDNAが溶解されずまたは試験インプラントから洗浄除去されなかったので、DNAは、単純なコーティングとして存在するだけではなかった。反応時間が24時間である時、インプラント上に存在するDNAの量は0.15〜0.55μg/cm2の範囲にあり、平均値はDNA0.38μg/cm2であった。反応時間を16時間まで短縮する時、それぞれの値は0.10〜0.32μg/cm2の範囲にあり、平均値はDNA0.28μg/cm2であった。この数字は遺伝子治療およびDNAワクチンおよび他の分子医療の応用のために適用できる範囲内に十分ある。実験用インプラントと同じ電気分解セル中に存在していたが、陽極に連結されなかった同一の対照インプラントは、表面に付着したDNAを極めて少量(ピコグラム)しか示さなかった。
【0106】
実施例6:生体無機物−誘導性の水酸化チタンインプラント表面層の製造
リン酸カルシウムの飽和溶液中での無機物の生成の生物学的な核形成体として作用する可能性を有する合成ポリ−プロリンペプチドを含む水酸化チタンの層を製造するために実施例3の装置を使用できる。生体分子は、電解質に暴露された全表面積0.35cm2を有する電解研磨された硬貨状のチタンインプラント表面上の水酸化物層内に取り入れられることができる。両方のチャンバー内の電解質は、pHがNaOHによってpH10に調節された滅菌水中の1MのNaClであるのが好適であり、また合成ポリ−プロリンの初期濃度は0.1mg/mlであるのが好適であろう。電気分解のために電流密度1mA/cm2での電圧10ボルトおよび陽極チャンバー温度40℃を用いることができる。電気分解は18時間進行させるのが好適であろう。その後チタンインプラントが電気分解セルから取り出され、滅菌水中でリンスされそして乾燥器内で空気乾燥される。
【0107】
乾燥の後、試験用無機物核形成ペプチドが付着されたチタンインプラントおよび対照物をリン酸カルシウムの飽和溶液5ml中に入れた。室温で4時間インキュベーションした後、インプラントを無機物溶液から取り出し、滅菌水中でリンスしそして乾燥器内で空気乾燥した。乾燥した時、インプラントは改変された表面上に存在する無機物の集束する点(foci)の数を評価するための走査電子顕微鏡に直接かけることができる。実験用インプラントと同じ電気分解セル内に存在するが陽極に連結されていない同一の対照インプラントを対照物として使用できる。
【0108】
実施例7:無機物−誘導性の生体−水酸化チタンインプラント表面層の製造
直径が6.25mmの硬貨状の8つのインプラントをチタン電極に取り付けそして1.0MのNaOHの使用によってpH8.0に調節された0.5MのNaCl、および無機物の結晶の核形成を促進すると考えられる合成ポリ−プロリンペプチド(pI=5.85)を含む殺菌された電解質中に最終濃度0.01mg/mlで浸漬した。電極を電力供給部のプラスのコンセントに接続し、そして実施例1の装置に従ってセル温度40℃で100mAの10ボルトの電流を8時間加えた。電気分解プロセスによって合成ペプチドが取り入れられた水酸化チタンの薄層がインプラント表面上に形成された。電解質中に同時に存在するが電極に取り付けられていない別な8つのインプラントもまた対照物として含めた。
【0109】
電気分解の後、インプラントを滅菌水中でリンスし、引き続いて殺菌されたガラス容器内に入れ、そこで空気乾燥させた。
【0110】
乾燥の後、殺菌されたペプチド/水酸化物で改変されたチタンインプラントおよび対照物をリン酸カルシウムの飽和溶液50ml中に50℃で浸漬した。次に溶液を48時間にわたって室温まで冷却させた。インプラントを無機物溶液から取り出し、滅菌水中で短時間リンスしそして乾燥器内で空気乾燥した。乾燥した時、表面上に存在する無機物沈殿の集束する点の数および性質を定量的および定性的に評価するために走査電子顕微鏡(SEM)によって直接分析した。表面上の無機物形成単位(mfu)の数は、実験に際して表面上に存在する無機質の核形成部位の数に直接相関する。
【0111】
結果(表2)は、合成ポリ−プロリンペプチド分子および水酸化物イオンを電気分解によって取り入れることにより表面が改変されたチタンインプラントは、有意に(p<0.
01)増大した数の無機付着物の集束する点を有することを示す。付着した無機質は高含有率のカルシウムおよびリンを有し、付着物がすべてリン酸カルシウムであることを示した。このことは、水酸化物イオンを生体分子と一緒に電気分解により取り入れることにより、インプラント化されたチタン表面への骨塩の生体内での付着に大きな影響を与えることができることの明確なしるしである。核形成および骨塩(リン酸カルシウム)の金属インプラント表面への付着を誘発しそして促進する能力を有するこの表面は、他のインプラントより臨床的に一層よくこれを行うように思われる。インプラント表面への骨塩の付着の速度の増大は、インプラントのオッセオインテグレーションを急速にしまた周囲の骨組織の治癒を刺激すると考えられる。適切なオッセオインテグレーションは、整形外科および歯科のインプラント治療の臨床的結果を成功させるための特質である。
【0112】
【表2】

【0113】
実施例8:2重層の生体分子−水酸化チタンインプラント表面の製造
電解質に暴露された全表面積0.35cm2を有する電解研磨された硬貨状のチタンインプラント表面上に水酸化チタンを含む生体分子の2重層をつくるために実施例3の装置を使用することができる。内側の層は、実施例3における方法に従って生体分子としてアメロジェニンを使用して製造することができる。この手順の直後にまた中間的な空気乾燥なしに、電解質および条件は、生体分子としてヒトゲノムのDNAを使用して実施例5のそれらに変更されてよい。このようにして、チタンインプラントは水酸化チタン−アメロジェニンの内側層を被覆する水酸化チタン−DNAの外側層をもつようにつくられることができる。電気分解の後、インプラントを電気分解セルから取り出し、滅菌水中でリンスしそして乾燥器内で空気乾燥させる。
【0114】
乾燥した後、試験用の核酸およびタンパク質が付着したチタン供試体をトリス−EDTA緩衝剤(TE−緩衝剤;滅菌水中のトリス−Cl10mMおよびEDTA1mM)中で3回リンスするのが好ましい。各々のリンスにおいて、pHはpH7.4から出発して増大し、次いでpH7.6でそして最終的にpH8.0でリンスした。TE中でのリンスの後、チタンインプラント上に残留するDNAおよびタンパク質を0.1NのNaOHを用いて最終的に除去した。次にリンス画分を、核酸の分析のための一部分とタンパク質分析のための一部分との2つに分割した。DNA画分を等容の純アルコールで−20℃で1時間にわたって好適に沈殿させ、次いで4℃で13,000gでの遠心分離によって上澄み液から分けた。次にペレットをpH7.4のTE緩衝剤50μl中に溶解しそして4つのリンス溶液のすべてからのDNAの量をHoechst染料(Boehringer Mannheim)を使用する蛍光分析によって評価した。
【0115】
タンパク質の分析のための画分を、等容の0.6Nの過塩素酸によって好適に沈殿させ、そして遠心分離によって上澄み液を分けた。塩およびタンパク質を含有する沈殿ペレットを2×SDS−PAGE試料緩衝剤(0.125Mトリス/HCl10ml中のSDS0.4g、2−メルカプトエタノール1.0g、ブロモフェノールブルー0.02gおよびグリセロール4.4g、pH6.8)50μl中に溶解しそして5分煮沸した。次いで、すべての試料を10%のSDS−ポリアクリルアミドゲル上の80mAでの電気泳動に4時間かけた。電気泳動の後、ゲル中のタンパク質を銀の染色液に移し入れ、そして画分中に存在するアメロジェニンをゲル中の明瞭なバンドとして可視化した。
【0116】
実験用インプラントと同じ電気分解セル内に存在するが陽極に連結されていない同一の対照インプラントを対照物として使用できる。
【0117】
実施例9:2重帯域の生体分子−水酸化チタンの層のあるインプラント表面の製造
水酸化チタン層の2つの別個な帯域をつくるために実施例3の装置を使用することができる。全表面積が2cm2の電解研磨された棒状のチタンインプラントを実施例3および4に従って処理した。最初にインプラントを実施例3の電解質中に入れ、各々のインプラントの半分だけを電解質内に浸漬した。実施例1の手順を完了した後、インプラントをひっくりかえし、そして実施例4で使用したものに類似する新たな電解質内に入れ、各々のインプラントの未処理の半分を電解質中に浸漬した。次に実施例4の手順および反応条件を実施し、その後、チタンの供試体を電気分解セルから取り出し、滅菌水中でリンスしそして乾燥器内で乾燥させた。
【0118】
電気分解に引き続いて、2重帯域のインプラントを中央で2つに切った。水酸化チタン−合成FGF−4ペプチドの層がある半分を実施例4に従う分析に付することができる。水酸化チタン−アメロジェニンの層があるインプラントの他の半分は実施例3に従って分析することができる。実験用インプラントと同じ電気分解セル内に存在するが陽極に連結されていない同一の対照インプラントを対照物として使用できる。
【0119】
実施例10:生体分子を含む骨誘導性の水酸化チタンのインプラント表面層の製造
直径6.25mmの硬貨状の8つのインプラントをチタン電極に取り付けそして1.0MのNaOHの使用によりpH8.0に調節された0.5MのNaCl、およびアメロジェニン(傷害の治癒および骨の形成を刺激すると考えられるタンパク質)を最終濃度1mg/mlで含む殺菌された電解質中に浸漬した。電極を電力供給部のプラスのコンセントに接続し、そして実施例1の装置に従って60℃で100mAの10ボルトの電流を16時間加えた。電気分解プロセスによって、アメロジェニンが取り入れられた水酸化チタンの薄層がインプラント表面上に形成された。電気分解の後、インプラントを滅菌水中でリンスし、引き続いて殺菌されたガラス容器中に入れ、そこで空気乾燥させた。
【0120】
実施例2からの水酸化物化された8つのインプラントを対照群として含めた。
【0121】
アメロジェニン/水酸化物で改変された表面(n=8)を有するチタンインプラントおよび対照物(n=8)を、ウサギ(New Zealand White)の脛骨中の較正された皮質骨欠陥中に入れた。各々のインプラントの下の骨髄中への小型の中央開窓を行い、骨形成細胞をインプラント表面に移行させた。用いた方法はすべて、チタンインプラント表面への骨の付着の研究に関して確立された、標準化されまた有効性の確認されたモデル(Ronold, H. J. and Ellingsen, J. E.: The use of a coin shaped implant for direct in situ measure- ment of attachment strength for osseointegrating biomate-rial surfaces, Biomaterials 23, 2201-2209 (2002))に従った。各々のウサギは、それぞれの脛骨中に2つずつ、4つのインプラントを受け入れた。試験インプラントおよび対照インプラントの位置は不規則化されまた操作者にはかくされた。
【0122】
インプラント化して6週間後、ウサギを殺しそしてインプラントが付着された脛骨を摘出した。
【0123】
摘出の直後、脛骨を特別に設計されたジグに固定し、そしてインプラントと骨との間の結合強度を測定する、較正された引き抜き手順を用いてインプラントをはがした。インプラントをはがすのに必要な力はニュートン(N)で記録した。
【0124】
結果(表3)は、アメロジェニン分子および水酸化物イオンの電気分解による取り入れによって表面が改変されたチタンインプラントが、6週間の治癒の後、対照インプラント(水酸化物化されたのみ)と比べて皮質骨に有意に(p<0.001)一層強く付着したことを示す。早期の骨の付着は、骨の治癒時間の減少のしるしであるので、この結果は、臨床的に重要である。このことは、整形外科および歯科のインプラント治療において、『早期装着』方策という首尾よい臨床的結果にとって重要である。
【0125】
【表3】

【0126】
実施例11:有機包接化合物を有する、粗さが微細なメソ細孔の水酸化チタン表面の製造
慎重に清浄化した後、チタン等級2の硬貨状の電解研磨された、表面積が0.35cm2のチタンインプラントの供試体を、0.5MのNaClと5MのNaOHからなる浴中で陽極で分極した。これは、表面の形態を形態学的に変化させる、水酸化チタンを生成するための反応条件を得るように高温で行った。温度80℃を反応温度として選定し、そして20Vで16時間電気分解を実施した。原子間力顕微鏡検査および共焦レーザー走査顕微鏡検査によって微細粗さを分析した。多孔性は走査電子顕微鏡検査によって評価した。水酸化チタン層の厚さは、実施例1と同様に鋼質断面の顕微鏡検査によって測定することができた。水酸化物化の後、インプラント供試体を実施例3で使用したものと同じ装置内の、アメロジェニンを含む他の電気分解セルに移し入れた。このセル中で16時間さらに電気分解した後、改変されたチタン表面中のタンパク質の量を実施例3に従って評価した。
【0127】
本実験は、有機包接物を有する、微細構造の、メソ細孔の多孔性の水酸化チタン表面を2段階方式で製造するための方法が可能であることを例解する。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本願発明の医療補綴器具は、その生体親和性が改善されており整形外科および歯科においてインプラントとして治療に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはその合金である金属材料(A)を含む医療補綴器具であって、金属材料(A)の表面部分が水酸化チタンである、前記金属に対応する水酸化物材料(B)の層でコートされ、前記水酸化物材料(B)の層は該層と共存する1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)を含むことを特徴とする医療補綴器具。
【請求項2】
金属材料(A)がチタンである請求項2に記載の器具。
【請求項3】
哺乳動物の身体中に器具が配置されるときに、水酸化物材料(B)が骨または他の組織と接触する表面に結びついている請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
大腿骨股関節;大腿骨頭;寛骨臼杯;幹状部、楔状部、関節挿入体を含む肘;大腿骨および脛骨の構成部、幹状部、楔状部、関節挿入体または膝蓋骨構成部を含む膝;幹状部および頭部を含む肩;手首;足首;手;指;つま先;椎骨;脊椎椎間板;人工関節;歯科インプラント;小骨形成インプラント;キヌタ骨、ツチ骨、アブミ骨、キヌタ骨−アブミ骨、ツチ骨−キヌタ骨、ツチ骨−キヌタ骨−アブミ骨を含む中耳インプラント;蝸牛インプラント;クギ、ネジ、ステープルおよび板からなる群より選択される整形手術用固定器具;心臓弁;ペースメーカー;カテーテル;管;空間充填インプラント;補聴器を保持するためのインプラント;外部固定のためのインプラント;子宮内器具(IUD);および、蝸牛管内または頭蓋内電子機器より選択される生体エレクトロニクス器具からなる群より選択される生体組織に代替するまたは、これらの身体の機能をもとに戻す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の器具。
【請求項5】
無菌である請求項1〜4のいずれか1項に記載の器具。
【請求項6】
生体分子物質(C)が、天然のまたは組み換え型の生体接着剤;天然または組み換え型の細胞付着因子;天然、組み換え型のまたは合成的な生体ポリマー;天然または組み換え型の血液タンパク質;天然または組み換え型の酵素;天然または組み換え型の細胞外基質タンパク質;天然または合成的な細胞外基質生体分子;天然または組み換え型の成長因子およびホルモン;天然、組み換え型のまたは合成的なペプチドホルモン;天然、組み換え型のまたは合成的なデオキシリボ核酸;天然、組み換え型のまたは合成的なリボ核酸;天然または組み換え型の受容体;酵素阻害剤;薬物;生物学的活性のある陰イオンおよび陽イオン;ビタミン;アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)またはアデノシン三リン酸(ATP);マーカー生体分子;アミノ酸;脂肪酸;ヌクレオチド(RNAおよびDNA塩基);および糖からなる物質群から選択される請求項1〜5のいずれか1項に記載の器具。
【請求項7】
生体分子物質(C)が水酸化物材料(B)の表面上に存在し、包接化合物として存在し、および/または水酸化物材料中に捕捉されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の器具。
【請求項8】
生体分子物質(C)が1mm2あたり1ピコグラム〜1mgの量で水酸化物材料(B)と共存する請求項1〜7のいずれか1項に記載の器具。
【請求項9】
生体分子物質(C)が1mm2あたり0.1ナノグラム〜100マイクログラムの量で水酸化物材料(B)と共存する請求項8に記載の器具。
【請求項10】
歯科インプラントである請求項1〜9のいずれか1項に記載の器具。
【請求項11】
金属材料(A)の表面部分を7.0を越えるpH、1つまたはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で電気分解処理に付して水酸化物材料(B)の層を形成し、場合によっては続けて殺菌処理を行うことからなる請求項1に記載の医療補綴器具を製造する方法。

【公開番号】特開2012−24591(P2012−24591A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184497(P2011−184497)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2003−583505(P2003−583505)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(508149744)
【氏名又は名称原語表記】Corticalis AS
【Fターム(参考)】