説明

生体試料の反復染色

イメージング用途からの生体試料の反復染色を容易にする自動化された方法及びデバイスが提供される。方法は、生体試料を含む小容積フローセルを用意する段階と、生体試料に染色剤を付加する段階と、活性化された脱染色剤を形成するように2つ以上の前駆体試薬を組み合わせる段階であって、活性化された脱染色剤の分解速度が脱染色の反応速度より速い、又は脱染色の反応速度と同様である段階と、活性化された脱染色剤の分解速度より速い流速で、脱染色剤を生体試料の上に流す段階とを含む。染色し、組み合わせ、流すというプロセスは、反復的に繰返すことができる。プレミキサーと流体連通するフローセルを含み、プレミキサーの容積容量がフローセルの容積容量の約5倍より小さい、生体試料の反復染色のための自動化されたデバイスも開示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多重化用途では、タンパク質発現又は空間分布を定量的又は定性的に調査するために、組織試料又は組織マイクロアレイ(TMA)を複数の分子プローブで染色する必要がある。染色プロセスは一般に、誤差を生じやすい時間のかかる手技を使用して実施される。染色プロセスで使用される試薬は、多くの場合、高価であり、保管期限が限られており、そのため特別な取扱い技術が必要である。
【0002】
顕微鏡フローセルを組織試料のための反応チャンバとして使用する、又はフロー条件下で細胞活性をモニタする、自動化システムが存在する。しかし、そのようなシステムは、組織試料の処理での使用には十分に適合されておらず、フローセル内部での試料の環境管理がされておらず、手作業を必要とする。
【0003】
フローセルを通る試薬(例えば、発光試薬)の流体速度は、小容積チャンバ内部で流体流が乱流を生じ、試料を押し出し、又は損傷することがあるので、制御が困難である。また、外周部(例えば、加熱された顕微鏡ステージから)の加熱によって、閉じ込められた試料が非均一に加熱されることがある。したがって、試料全体にわたって温度が異なる。さらに、繰返される試薬の調製、試料の除去及び画像取得のためのステージへの置き換えによって、試料の再位置合わせが必要になり、再現性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2008/0038738号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は一般に、イメージング用途からの生体試料の反復染色を容易にする自動化された方法及びデバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態では、方法は、生体試料を含む小容積フローセルを用意する段階と、生体試料に染色剤を付加する段階と、活性化された脱染色剤を形成するように2つ以上の前駆体試薬を組み合わせる段階であって、活性化された脱染色剤の分解速度が脱染色の反応速度より速い、又は脱染色の反応速度と同様である段階と、活性化された脱染色剤の分解速度より速い流速で、脱染色剤を生体試料の上に流す段階とを含む。染色し、組み合わせ、流すというプロセスは、反復的に繰返すことができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、生体試料の反復染色のためのデバイスが提供され、プレミキサーと流体連通するフローセルを含み、プレミキサーの容積容量はフローセルの容積容量の約5倍より小さい。
【0008】
いくつかの実施形態では、フローセルは、組織試料を受けるように構成された基部と、熱電素子と、基部と熱電素子との間のガスケット位置と、プレミキサーと流体連通する入口ポートと、出口ポートとを含み、基部及び熱電素子の一方又は両方が画像取得ウインドウを含む。フローセルはさらに、脱気装置及び圧電素子を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】代表的なフローセルデバイスを示す図である。
【図2】フローセルデバイスで使用するための脱気装置を示す図である。
【図3】プレミキサーとして圧電素子を使用し、漂白試薬の反応時間の改善を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明は例示的であり、本発明の用途及び使用を制限するものではない。さらに、以下の図面の詳細な説明の従来の発明の背景技術に記載されたいかなる理論によっても制限されるものではない。
【0011】
本発明で特許請求する主題をより明確かつ簡潔に説明し指摘するために、以下の説明及び添付の特許請求の範囲で使用される、特定の用語を以下の通り定義する。
【0012】
単数形「a」、「an」及び「the」は、他に特段の記載がない限り、複数形を含む。本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、類似の用語は、関連する基本的機能を変えることなく、許容範囲内で変化することができる定量的表現を修正するために適用することができる。したがって、「約」などの用語で修飾された値は、正確な指定値に制限されない。他に特段の記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される、分子量、反応条件等の、成分の量、特性を表すすべての数字は、すべての場合において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、特に反対の記載がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本発明によって取得しようとする所望の特性に応じて変化することができる近似値である。最下位の各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数に照らして、及び通常の丸め方法を適用して、解釈されるべきである。
【0013】
本明細書で使用される場合、「生体試料」という用語は、生体内又は生体外で取得された生体組織又は流体由来の試料を含む、生体対象から採取した試料を指す。そのような試料は、限定はされないが、ヒトを含む哺乳類から分離された組織、分画、及び細胞とすることができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「ルミフォア」という用語は、化学発光、生物発光、リン光、及びフォトルミネセンスを含む、発光を示す化合物を指す。代表的な例は、限定はされないが、ルミノール、ルシゲニン、アクリダン、アクリジニウムエステル、及びジオキセタン、及びフルオロフォアを含む。
【0015】
本明細書で使用される場合、「オキシダント」又は「酸化剤」という用語は、実質的にルミフォアを不活性化する漂白試薬を指す。代表的な酸化剤は、活性酸素種、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素、過酸化水素、又は過酸化水素、過マンガン酸カリウム、ニクロム酸ナトリウム、水溶性臭素、ヨウ素−カリウムヨウ素、又はt−ブチルヒドロペルオキシドなどのオゾンなどを含む。
【0016】
本発明は、試料を(例えば、組織試料をフローセル内部のスライド上へと)移す必要をなくすことにより、操作者の最小限の介入で動作する、自動化されたシステム及び方法に関する。開示されたシステム及び方法はさらに、染色コンポーネントとイメージングコンポーネントとの間で試料を移動させる必要がなくなる。
【0017】
染色コンポーネントの自動化によって、試薬の容積及びシステム内部での試薬ドウェル時間が最小限化され、これにより蛍光標識抗体などの高価な試薬が節約され、試薬の分解又は副反応が最小限化される。また、試薬測定の変動が少なくなり、試薬の相互汚染の発生を低減することができる。イメージングコンポーネントの自動化によって、画像の位置合わせ及び染色後の試料の再装着に関する段階が排除され、又は低減される。画像登録の改良によって、正確な合成画像の形成が容易になる。
【0018】
自動化は、染色試薬及び酸化剤の付加など、連続染色にかかわるプロセス段階の1つ以上をコンピュータ制御することによって達成することができる。フローセルシステムが、組み合わされた試料処理及び画像取得システムに組み込まれている場合、画像取得コンポーネント(例えば、顕微鏡又はカメラ)は、LabVIEW又はCで書かれたプログラムなどのソフトウェアによって制御することもできる。
【0019】
デバイス
本明細書では、開示された方法を実施するためのデバイスを提供する。したがって、本明細書では、フローセル並びにフローセル及びプレミキサーを含むシステムを提供する。
【0020】
図1に示す1つの実施形態では、フローセルは、組織試料上に配置されるように構成された、閉じ込められたフローチャンバを含むことができる。フローセルは、固体支持体−受け部材10、スライド12上に配置された組織試料を受けるように構成された中央開口を備えたガスケット11、蓋14、入口ポート15、及び出口ポート16を含むことができ、スライドがスライド受け部材に配置され、ガスケットがスライドと蓋との間に挟まれるとき、フローセルは閉じられたチャンバを画成する。フローチャンバはフローセル内部に閉じ込められるので、流体の蒸発、したがって、試薬の損失が最小限化される。また、閉じられた構成によって温度制御が改善される。
【0021】
フローセルは、標準的な顕微鏡ステージ上に嵌め込むように適合されたモジュラー式ユニットとすることができる。或いは、フローセルは、顕微鏡ステージを含む一体型ユニットとすることもできる。いくつかの実施形態では、フローセルは、イメージングプロセスのために顕微鏡ステージ上に固定することができる。これにより、手作業を行うことなく、試料を完全な一連の試薬に曝露させることができ、それにより、画像取得又は登録のための顕微鏡ステージ上での試料の再位置合わせをなくせる可能性がある。各染色段階後に取得される画像は、合成画像を形成するために重ね合わせることができるので、これは特に多重染色及びイメージングにとって有用である。
【0022】
フローセルは、フローセルのチャンバ内部の流体の送り込み及び溶液の温度を制御する、流体及び温度制御サブシステムを含むシステムで使用することができる。1つの実施形態では、流体制御システムはさらに、1つ以上の試薬をフローセルへと注入する前に調整するための、容器、フローセンサー、混合チャンバ、及び脱気装置を含むことができる。そのようなシステムの利点は、安定性又は保管期限が限られていることがある試薬を、予混合し保存する必要を回避することである。流体制御システムは、流体の入口ポート及び出口ポートと流体連通している。
【0023】
スライド受け部材
いくつかの実施形態では、フローセルは、ガラススライドなどの固体支持体上に配置された組織試料を受けるように構成された、スライド受け部材を含むことができる。スライド保持器は、ある範囲の化学及び温度変動との適合性がある。1つの実施形態では、スライド保持器は、基部及びスライドをチャンバ内に固定するためのピン又はタブシステムからなることができる。
【0024】
ガスケット
フローセルは、スライド上に配置された組織試料を受けるように構成された中央開口を備えたガスケットを含む。ガスケットは、フローチャンバに加えられる液体を保持する、変形可能で化学的に不活性なゴム又はプラスチックから形成することができる。ガスケットは、任意で、入口及び出口ポートのための開口を含むことができる。ガスケットの中央開口は、画像取得ウインドウの視野を最大限にするサイズとすることができる。フローセルへと置かれたときのガスケットの幅、長さ、及び深さは、フローセルの所定の内部容積を達成するために、それぞれ変えることができる。いくつかの実施形態では、ガスケットの幅及び長さは、標準的な組織切片スライド又はマイクロアレイ基板に順応するサイズとすることができる。例えば、1つの実施形態では、ガスケットの中央開口は、幅20mm及び長さ30mmの組織マイクロアレイに収容することができる。
【0025】
入口及び出口ポート
入口及び出口ポートは、好ましくは、画像取得ウインドウから離れて置かれている。したがって、入口及び出口ポートは、ガスケット内又は蓋の上に配置することができる。入口及び出口ポートは一般に、流入速度及び流出速度が協調して試料にわたる流体の所望の速度を達成するように、サイズが一致している。
【0026】
温度制御
図1をさらに参照すると、温度制御ユニットはさらに、温度制御のための熱電気ステージ17及び温度測定のためのRTD/サーミスタを含むことができる。温度制御ユニットの底面が流体に直接接触する構成では、接触面18は、ステンレス鋼又はチタンなど、耐薬品性材料から形成することができる。温度制御ユニットのコンポーネントを配置するためにフレーム19を使用することもできる。
【0027】
いくつかの実施形態では、温度制御ユニット(例えば、Peltierスタック)とスライドとの間に形成された内部チャンバが、組織スライドを通してではなく、温度制御ユニットによって直接加熱されるように、温度制御ユニットが蓋に組み込まれている。この構成によって、イメージングのための組織スライドの後面が解放される。
【0028】
脱気装置
いくつかの実施形態では、本発明はさらに、フローセルからの気体の除去を助けるための方法を含む。図2に示すように、別個の通気路21と試料23を含む流体チャンバ22とを分離するために、非晶質フッ素重合体又はポリジメチルシロキサン(PDMS)などの気体透過性フィルム20を使用することができる。そのような構成では、逆圧又は真空にすることによってシステムを通気し、チャンバ内の過剰な気体を除去する。
【0029】
攪拌
いくつかの実施形態では、本発明はさらに、フローチャンバに連結され、低電圧電気信号を音響エネルギーへと変換することによってフローチャンバ内部で振動を生成することができる圧電素子を含むことができる。好ましい実施形態では、圧電素子は、セラミック、石英(SiO2)又はチタン酸バリウム(BaTiO3)から構成することができる。圧電素子の構成は超音波攪拌をもたらし、流体チャンバを通る試薬の流体プロファイルに影響を及ぼす。これは、所望の染色反応が拡散律速であり、従来の機械的混合がフローセルの形状によって阻害される場合に、特に有利である。
コンピュータ処理ユニット
コンピュータは、例えば、熱制御ユニット、プレミキサー、振動ユニット、及びポンプを含む、フローセルシステムの様々なコンポーネントを制御することができる。フローセルシステムが、組み合わされた試料処理及び画像取得システムに組み込まれている場合、画像取得コンポーネント(例えば、顕微鏡又はカメラ)を、コンピュータによって制御することもできる。
【0030】
方法
本明細書ではまた、固体支持体に付着された生体試料(例えば、顕微鏡スライドに固定された組織切片)から画像を処理し取得する方法を提供する。方法は、特定の用途のために選択されたデバイスの様々な代替実施形態を使用する段階を含む。生体試料の反復処理の代表的な方法は、出願人が共有の米国特許出願第2008−0118944号に記載されており、本願に援用する。
【0031】
1つの代表的な方法は、(a)顕微鏡スライド上の組織切片などの生体試料をフローセル内に配置する段階と、(b)使用する標識の濃度及びタイプによって一般に30〜60分間、ルミフォアと試料とを十分な時間だけ接触させることができるように蛍光標識又はルミフォアを試料に付加する段階と、(c)結合しなかった蛍光標識又はルミフォアを洗い流すように、例えば適切な緩衝液などの洗浄液を付加する段階と、(d)標識された試料の画像を取得する段階と、(e)ルミフォアを実質的に不活性化する酸化剤を付加することによって段階(b)のルミフォアを破壊するように化学剤を付加する段階であって、酸化剤溶液は、連続流プロセスを使用して試料に付加され、フローセル内部の非層流及び滞留時間を最小限化し、平均滞留時間が1〜5分間となる段階と、(f)任意で試料の画像を取得する段階と、(g)段階(b)〜(f)を1回以上繰返す段階とを含む。
【0032】
付加する段階はそれぞれ、特定の試薬を含む溶液をフローセル内部に配置された生体試料上に流すことによって達成することができる。以下のパラメータは、反応性を高め、それにより試薬の消費を減らすことによって制御することができる。(1)フローセルの内部容積、(2)フローセルの内部温度、(3)酸化溶液の成分(例えば、過酸化水素及び重炭酸ナトリウム)の混合のタイミング、(4)試料を通過するときの溶液の攪拌の程度、及び(5)フローセルの脱泡又は脱気。これらのパラメータの適切な調整はまた、試料の劣化を低減することができ、単一の試料でより多くのデータが得られる。
【0033】
自動化された脱染色段階によって、操作者がオリジナルの登録を維持しながら単一の試料をリプローブすることが可能になる。酸化剤を追加すると、ルミフォアによって生成された信号がほとんど除去されるため、生体試料が脱染色される。ルミフォアの化学変化によって、又は除去によって、脱染色が完了すると、80%以上、好ましくは90%超の信号の低下が起きる。この信号の低下は、背景信号の同時低下又は脱染色段階による自己蛍光を調整するための、染色された生体試料の当初の絶対強度に対する特定の波長での染色後の強度として測定することができる。
【0034】
フローセルの内部チャンバ容積
小容積フローセルは高価な試薬を保存する。試薬の拡散が律速段階である場合、フローは内部チャンバ容積と相互関連するはずである。例えば、チャンバを急速に完全に洗浄することができるように、フローセルへの流体の送り込みをチャンバの容積容量に基づいて調整することができる。
【0035】
フローセルは、試験の試料のための固体支持体を提供する。フローセルの寸法は使用される固体支持体に基づいて制限される。フローセルの高さは試料の厚さに基づいている。試料が組織切片であるとき、その厚さは約5μm〜約100μmとなり得る。組織切片は、20mm×30mmの面積を占め得る。これにより、10μL〜1000μL、好ましくは50μL〜200μLの小さい内部チャンバ容積となる。
【0036】
分解は、試薬がフローセルから実質的に除去される前に起きる可能性がある。フローチャンバ内での乱流によって表面反応性が改善され、試薬の副産物(例えば、酸素ガス)の除去が容易になる。したがって、いくつかの実施形態では、チャンバは、乱流を生成する攪拌要素(例えば、音響圧電コンポーネント)を含むことができる。
【0037】
内部チャンバ温度
多くのマイクロアレイ染色プロセスは200℃〜1000℃で行うが、いくつかのシステムは、狭い許容差で、著しく高い、又は低い温度を必要とする場合がある。染色に関連する吸着及び脱着プロセスは温度依存性であり、したがって、いくつかの実施形態では、化学的相互作用が起きる試料表面にわたって温度の均一性がもたらされる。
【0038】
例えば、積層された熱電素子を、チャンバ内又はチャンバ上へと導入することができ、素子を通って流れる電流が、チャンバ内部での流体の放射加熱によって、チャンバ温度を指定の温度範囲内で調節することができる。いくつかのシステムは、+/−5℃の温度許容差を必要とすることがあり、他のシステムは、著しく狭い、又はより厳しくない温度許容差を有することがある。いくつかの実施形態では、熱電素子は、温度調節を容易にするように、熱を吸収し放散するヒートシンクを任意で含むことができる。
【0039】
プレミキサー及び混合タイミング
多重染色で使用される試薬は保管期限が限られていることがあり、試薬の有効性が時間の経過とともに減少する。これは、化学反応を起こさせる2つ又はそれ以上の溶液の混合によって生成された試薬の一部が分解又は沈降し得るときに起きる。これにより、気体及び他の望ましくない副産物の形成につながる。いくつかの実施形態では、試薬をフローセルへと導入する直前に、反応物質を散在させるように、プレミキサーを使用して溶液を分子レベルで完全に混合する。混合時間は、試薬を生成するのに十分な長さであり、かつ分解を防ぐのに十分に限られた長さとする。
【0040】
フローセルの上流に配置されたプレミキサーは、チャンバ設計又は管設計に基づくことができる。チャンバ設計は、入口及び出口ポートを備え、機械的ミキサーを含む小容器を含むことができる。管設計は、所定の流速で化学試薬が駆動されるYアダプタを含むことができる。或いは、管設計は、物理的バリア(例えば、管内部に配置されるマイクロメッシュ又は球状膜)又は乱流を生成するノズルを含むことができる。
【0041】
プレミキサーは、フローセルに導入する前に化学試薬の混合を可能にする。フローセルの容積容量は、化学試薬の分解速度及び化学試薬の所望の流速又はフローチャンバを通るそれらの反応生成物に基づいて決定される。
【0042】
所定の温度での過酸化物溶液の分解速度は−dC/dt=kCと等しく、Cは過酸化物の濃度、tは時間、kは一次速度定数である。一次反応の半減期は、初期濃度とは関係なく、t1/2=ln(2)/kとして計算される。n次反応の半減期はまた、t1/2=2n-1−1/(n−1)k[A0n-1として決定し表すことができる。
【0043】
フローセル内部での滞留時間は、試薬の半減期より短いように制限される。したがって、フローセルの容積容量は次の通り決定される:Vp<(V/t)(t1/2)。ここで(Vp)はフローセルの容積容量、(V/t)は流速である。
【0044】
ヒドロペルオキシドアニオンを生成する過酸化水素溶液などの酸化剤は、調整後5分間以内に分解し酸素ガスを発生する。一般に、フローセルの容積容量は、1〜1000μL、好ましくは50μL〜500μLとすることができる。フローセル内の試薬の平均ドウェル時間を確実に5分未満にするために、流速は好ましくは50μL/分〜500μL/分である。Vp<(V/t)(t1/2)を適用するとき、プレミキサーの容積容量は5〜5000μL、好ましくは250μL〜2500μLに制限される。
【0045】
試薬容器
プレミキサーは1つ以上の試薬容器と流体連通している。試薬容器は、プレミキサーへ送り込む前の試薬の保存デバイスとして働く。フロー制御装置によって、計量された量の試薬をプレミキサーへと移すことが可能になる。複数の試薬の送り込みは連続的順序で又は平行して行うことができ、試薬の正確な計量及び試薬の相互汚染の低減が可能になる。
画像取得ウインドウ
開示された方法は、画像取得ウインドウを通して試料へのアクセスを高めることができるように構成されたフローセルを含む、システムで実施することができる。画像取得ウインドウは、試料をセットする基板(例えば、顕微鏡スライド)によって画成することができ、又は、スライド受け部材の下側に光透過性材料を含むことができる。
【0046】
したがって、本発明の方法は、処理の様々な段階中、カメラに接続された顕微鏡が試料の画像を取得することができる画像取得ウインドウから離れたところに加熱要素又は攪拌要素(例えば、音響圧電コンポーネント)などの付属デバイスが配置された、フローセルを使用して実施することができる。
【0047】
反応速度の制御
1つの実施形態では、3mlの過酸化水素緩衝液(3%H22、pH10)をプレミキサー内で調製する。プレミキサーは、連続流を使用して、新しく調整された過酸化物緩衝液がフローチャンバへと導入され、チャンバ内の滞留時間は5分未満であるように、フローセルと物理的に連通するように設計されている。一般的な流速は250μL/分であり、フローチャンバの容積は250μL未満である。チャンバはさらに圧電素子を含む。
【0048】
図3に示すように、これらの条件によって、試料をコンテナ内で処理し、滞留時間5分ごとに約10秒間攪拌する手動の脱染色プロセスと比較して、反応時間が約3倍短縮される。反応性の増加は、活性化された脱染色剤の新鮮な(より分解の少ない)調製及び平衡反応における副産物の連続除去に起因し得る。インライン予混合及び最適な流速によって、塩基性溶液で過酸化水素の分解を通してその場で生成される酸素気泡の量が低減される。
【0049】
以上、本発明を特定の実施形態に関して説明したが、当業者には明らかであるように、添付の特許請求の範囲に記載されている趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明には多くの修正及び変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 受け部材
11 ガスケット
12 スライド
14 蓋
15 入口ポート
16 出口ポート
17 熱電気ステージ
18 接触面
19 フレーム
20 気体透過性フィルム
21 通気路
23 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料の反復染色の自動化された方法であって、
(a)生体試料を含む小容積フローセルを用意する段階と、
(b)染色剤を付加する段階と、
(c)活性化された脱染色剤を形成するように2つ以上の前駆体試薬を組み合わせる段階であって、前記活性化された脱染色剤の分解速度が脱染色の反応速度より速い、又は脱染色の反応速度と同様である段階と、
(d)前記活性化された脱染色剤の分解速度より速い流速で、前記脱染色剤を前記生体試料の上に流す段階と、
(e)任意で段階(b)〜(d)を1回以上繰返す段階とを含む方法。
【請求項2】
画像取得ウインドウを通して染色された生体試料によって生成された信号を観察する段階と、前記生成された信号の強度の値を任意で測定する段階と、前記信号をバイオマーカーの特定の標識と関連させる段階とをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記活性化された脱染色剤が酸化剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、過酸化水素、水溶性臭素、ヨウ素−カリウムヨウ素、及びt−ブチルヒドロペルオキシドの緩衝液から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
1つの前駆体試薬が過酸化水素を含み、別の前駆体試薬が水酸化ナトリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記活性化された脱染色剤が、前記フローセルと流体連通する混合チャンバ内に形成される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記活性化された脱染色剤が、前記フローセルと流体連通するチャンネルを通る各前駆体試薬の流体流を合流することによって形成され、前記チャンネルが各前駆体試薬の流体流の混合を増大させるように物理的バリアを任意で含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記染色剤がルミフォアである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
混合を高めるように前記フローセルを振動する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記振動が、前記フローセルに取り付けられた圧電素子を使用して加えられ、電気エネルギーが音響エネルギーへと変換される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
染色又は脱染色を高めるように、前記フローセルの内部温度を周囲温度より高くなるように増加させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記フローセルの真空排気によって、前記フローセル内部で気泡形成を低減する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記活性化された脱染色剤の前駆体試薬を1つ以上の試薬容器から前記プレミキサーへと移す段階をさらに含み、前記前駆体試薬が所定の濃度で前記プレミキサーへと送り込まれる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
段階(b)〜(e)の1つ以上がプロセッサによって制御される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
プレミキサーと流体連通するフローセルを含み、前記プレミキサーの容積容量が前記フローセルの容積容量の約5倍より小さい、生体試料の反復染色のための自動化されたデバイス。
【請求項16】
前記フローセルの容積容量が1μL〜1000μLであり、前記プレミキサーの容積容量が5μL〜5000μLより小さい、請求項15記載のデバイス。
【請求項17】
前記フローセルの容積容量が50μL〜500μLであり、前記プレミキサーの容積容量が250μL〜2500μLより小さい、請求項15記載のデバイス。
【請求項18】
前記プレミキサーが、2つ以上の前駆体試薬の混合を増大させるようにポンプ及び乱流発生器をさらに含む、請求項15記載のデバイス。
【請求項19】
前記乱流発生器が混合ノズル、多孔性フィルタ、球状障害物、又はマイクロメッシュである、請求項18記載のデバイス。
【請求項20】
前記フローセルが、組織試料を受けるように構成された基部と、熱電素子と、前記基部と前記熱電素子との間のガスケット位置と、前記プレミキサーと流体連通する入口ポートと、出口ポートとを含み、前記基部及び熱電素子の一方又は両方が画像取得ウインドウを含む、請求項15記載のデバイス。
【請求項21】
前記フローセル内部に存在する気体を除去する脱気装置をさらに含む、請求項20記載のデバイス。
【請求項22】
前記フローセルに取り付けられた圧電素子をさらに含み、前記圧電素子が電気エネルギーを音響エネルギーへと変換することによって前記フローセル内部に振動を生成することが可能である、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
前記プレミキサーと流体連通する試薬容器をさらに含む、請求項15記載のデバイス。
【請求項24】
プレミキサー制御装置及び試薬流制御装置をさらに含む、請求項23記載のデバイス。
【請求項25】
前記プレミキサー制御装置、前記試薬流制御装置、及び任意で前記熱電素子に取り付けられた温度制御装置がプロセッサと一体化され、前記プロセッサが前記デバイスの1つ以上の動作パラメータを制御するように構成された、請求項24記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−518320(P2011−518320A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503120(P2011−503120)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/039052
【国際公開番号】WO2009/124099
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】