生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスへの層流条件下での細胞の固定化
本発明は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに層流条件下で細胞を固定化する方法、本発明の方法に使用されるフロー装置、および本発明の方法を使用して固定化された細胞を含むポリマーマトリクスの使用方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたポリマーマトリクスに層流条件下で細胞を固定化する方法、本発明の方法に使用されるフロー装置、および本発明の方法を使用して固定化された細胞を含むポリマーマトリクスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内(in vivo)での組織は異種の細胞集団と細胞外マトリクス(ECM)とから構成
された高度に組織化された複雑な三次元構造を有する。哺乳動物では、ECMは、細胞とあらゆる面で接触する繊維、管およびチャネルとして、または基底膜と呼ばれる細胞が「着座する」シートとして、細胞を包囲し得る。ECMは機械的支持および生化学的障壁を提供するタンパク質および多糖から通常構成されている。ECMの改変型が例えば骨の形で見られる。ある研究によれば、細胞の機能が細胞外マトリクスにより非常に影響を受けることが示されている。いくつかの細胞は、異なる細胞種の同時培養でのみ、成長し、その生存期間を延長することができる。しかしながら、同時培養は、それらの細胞に適したマトリクスがないために培地中の異なる細胞の相互作用を操作または制御不能であることにより、制限されている。
【0003】
したがって、細胞増殖にマトリクスが重要であるため、生体内の細胞を包囲するそのマトリクスを良く模倣したECM構造を再構成すること、特に生体内組織のマトリクスを模倣することは、組織工学の主たる目標である。
【0004】
マイクロマシニング、フォトリソグラフィー、ソートリソグラフィーを含む組織工学におけるマイクロテクノロジーの応用により、組織のマトリクスに適したマイクロメートルスケールの寸法で細胞をパターニングすることが可能となった。しかしながら、以前に実証されたほとんどの研究は、単一の細胞または多数の細胞種の二次元パターンを作成することであり、細胞用の生体内と同様の三次元構造を作成する異なる層が積み重ねられた三次元のパターニングはほとんど存在しなかった。
【0005】
非特許文献1は、チャネル内に三次元パターンを生成するための再構成生体ポリマーマトリクスについて記述している。細胞−マトリクス収縮による一層ずつの毛細管マイクロモールド法(MIMIC)により、z次元で異種細胞層を堆積させることが可能となった。これに冠して、化学リンカーにより生体ポリマーマトリクスを担体表面に結び付けることにより、生体ポリマーマトリクスは表面に固定化される。しかしながら、このアプローチは一度に1つの細胞層のパターニングに制限され、生細胞を包囲するマトリクスを正確に制御することができない。
【0006】
同じ著者の別のアプローチ(非特許文献2)では、天然コラーゲンと、キトサンとコラーゲンの混合物、またはコラーゲン、キトサンおよびフィブロネクチンの混合物を使用してヒト肺繊維芽細胞およびヒト臍静脈内皮細胞を埋め込むためのマトリクスを作成した。ポリマーと細胞の混合物が送り込まれたBSAコーティングしたチャネルにてゲル化が起こったが、長いゲル化時間とこのゲル化を制御する手段が見当たらないことはECM様構造の作成に当たってこの方法の使用に制限があることを意味している。
【0007】
別のアプローチは、生細胞を含むヒドロゲルの三次元フォトリソグラフィーである(非特許文献3)。しかしながら、光重合で使用される光開始剤の細胞毒性はこの方法の大きな問題である。
【0008】
ある種類の細胞の機能および増殖能力は、細胞を包囲するマトリクスに大いに依存するため、異なる細胞種のためのマトリクスの作成に有効なシステムが依然必要とされている。
【非特許文献1】Wei Tan, M.S. and T.A. Desai, Biomaterials, 2004, Vol.25, P.1355- 1364
【非特許文献2】Wei Tan, M.S. and T.A. Desai, Tissue Engineering, 2003, Vol. 9, No.2, P.255-267
【非特許文献3】Liu and Bhatia, Biomedical Devices 2002, Vol.4(4), P. 257-266(発明の開示) 1態様では、本発明は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種を固定化する方法である。方法は、第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと、第1の荷電ポリマーと第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、少なくとも1つまたは少なくとも2つの細胞種のマトリクスを形成することとから成る。
【0009】
層流条件下で反対に荷電したポリマーを反応させる本発明の方法は、長い重合時間をかけずに迅速にその場(in situ)で生細胞を含むポリマーマトリクスを形成する効果的な
手段である。さらに本発明の反応は、細胞にとって非毒性の、細胞に優しく水性の条件下で起こる。さらに、本発明の方法を使用して形成されたポリマーマトリクスは、異なるポリマーの組み合わせの使用や、反対に荷電したポリマー反応条件および層流条件により、容易に改変することができる。複合コアセルベーションによる特定の重合反応のため、より大きな機械的安定性が達成される。同じ平面中を横に並んで流れるポリマーの層流および互いに上下に積み重なったポリマーの層流により形成された三次元マトリクス中での細胞培養によって、より複雑なパターニングが可能となり、したがって生組織の細胞に見出される条件の模倣が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態のフロー装置の平面図(図1A)および側面図(図1B)を示す。この実施形態では、フロー装置は2つの入口開口部3Aおよび3Bと、1つの出口開口部4とを備えている。入口開口部3および出口開口部4は、入口および出口溝5を介してそれぞれフロー装置の(反応)溝2に接続されている。この実施形態の溝5は図1Bに見られるように反応溝2に対して垂直に配置されている。
【0011】
図2は入口開口部3および出口開口部4が入口および出口溝5をそれぞれ介してフロー装置の(反応)溝2に接続された本発明の想定されるフロー装置の斜視図を示す。図2Aは3つの入口開口部3A、3B、3Cと、1つの出口開口部4とを備えたフロー装置の平面図を示す。図2Bは図2Aのフロー装置の側面図を示す。図1Bの溝5とは異なり、図2Bでは開口部(3,4)を反応溝2と接続する溝5が反応溝2に対して斜めに配置されている。図2Cおよび2Dにフロー装置の他の例が示されている。図2Cは2つの入口開口部(3Aおよび3B)と2つの出口開口部(4Aおよび4B)とを備えたフロー装置を示し、図2Dは3つの入口開口部(3A、3Bおよび3C)と3つの出口開口部(4A、4Bおよび4C)とを備えたフロー装置を示す。
【0012】
図3は交互になった層状ポリマー流(溝内の四角)が模式的に示されたフロー装置の長方形の反応溝2(長方形の周囲の細くて黒い線)を示している。これらの図3Aから3Eにおいて、層BからIまで(黒い境界線を有する白い四角)は少なくとも1つまたは2つの細胞種を含むことができる第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流を表している。層AおよびZ(黒い四角)は、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流を表わしている(AとZは同じポリマーであってもよいが、同じ電荷の異なるポリマーであってもよい)図3Aから
3Eは、種々の層状ポリマー流が種々の構成で結合されたフロー装置の反応溝2を示す。図3Aに示す反応溝2では、反対に荷電した層状ポリマー流AおよびBが横に並んで流れており、図3Bでは、層状ポリマー流AおよびBが互いに反応溝2で上下に積み重なって流れている。図3Cに示されたさらなる例では、第1(AとZ)および第2(BとC)の荷電ポリマーの異なる種類の層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられている。図3Dでは細胞を含む第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)が2つの第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(AとZ)の間に挟まれており、図3Eでは第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)が、異なる細胞種を含むいくつかの第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(BからIまで)によって包囲されている。
【0013】
図4は第1の荷電ポリマー(上部の流れ)としてのメチル化(正荷電)コラーゲンと第2の荷電ポリマー(下部の流れ)としての三量体(HEMA−MMA−MAA)とを反応させ、8分後にPBSで三量体の側を洗浄し、コアセルベーション反応(実施例1)を停止した後に形成された壁およびポリマーマトリクスを示す。壁およびコラーゲンゲルが形成されたことを示す透過光顕微鏡写真:(A)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体;(B)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび0.1wt% 高分子量三量体)。溝に沿った中間位置(ガラス底部から50μm)での共焦後方散乱画像:(C)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体;(D)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび0.1wt% 高分子量三量体;(E)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体で形成されたポリマーマトリクスの1.5倍光学ズーム。(F)3mg/ml メチル化コラーゲンマトリクスおよび3wt% 低分子量三量体で形成されたコラーゲンマトリクスのSEM顕微鏡写真。このマトリクスは種々の細胞種に対する支持を提供するECM様構造を形成している。
【0014】
図5はポリマーマトリクス形成に対する種々の種類のコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3を参照)。3wt%三量体で形成されたコラーゲンマトリクスの画像の例:(A)低メチル化コラーゲン(CE指標1.4);(B)高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)。
【0015】
図6はポリマーマトリクスの形態の定量分析の結果を示す(実施例3を参照):(A)
1節当たりの平均樹状突起長さ;(B)1節当たりの平均樹状突起数[(□)低メチル化コラーゲン、(△)高メチル化コラーゲン]。
【0016】
図7はキャピラリー電気泳動により決定されたメチル化コラーゲンの溶出ピークにより特徴づけられたコラーゲンのメチル化度を示す。実施例3に記載されたメチル化度を定量する新しい方法に基づいて、図7から得られたデータに基づくCE指標を創成した。このCE指標は、下流ピークでの相対的な増加をメチル化度の増加であると見なす。CE指標は下流ピークの面積を上流ピークの面積で除することにより計算される(B面積/A面積)。
【0017】
図8は肝細胞解毒であるシトクロムP450依存性モノオキシゲナーゼ活性に対するコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3参照)。(A)レゾルフィンの平均蛍光強度によって定量化した7−エトキシレゾルフィン−O−デアルキル化(EROD)活性、;(B)7−ヒドロキシクマリン濃度によって定量化した7−エトキシクマリン−O−デエチラーゼ(ECOD)活性。[(斜線)低メチル化コラーゲン、(ドット)高メチル化コラーゲン]
図9はHepG2増殖に対するコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3)。[(斜線)低メチル化コラーゲン(CE指標1.4);(ドット)高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)]。
【0018】
図10は、検体を含む液体が三次元ポリマーマトリクス中を潅流していることを実証する39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地にて4時間インキュベートした後の埋め込まれた肝細胞の共焦顕微鏡写真を示す(実施例2)。図10Aは死んだ肝細胞によるネガティブコントロールを示す。図10Bは溝の上流部分(底から中間のスライス)の眺めを示す。図10Cは溝の下流部分(底から中間のスライス)の眺めを示す。反応溝の両端を監視することにより、細胞が反応溝の至る所で機能的であることが実証された。溝の上流部分と下流部分の両方でポリマーマトリクスに埋め込まれていた肝細胞は、蛍光が強かった(左側の写真の細胞)が、これは肝細胞が機能的に活性なシトクロムP450活性を示したことを示している。
【0019】
図11は、反応溝において反対に荷電したポリマーの流量を変更した結果を示す(実施例4)。実施例4に記載されているように2つの流れの構成で形成されたコラーゲンナノ線維マトリクスのSEM顕微鏡写真。(A)および(B)構成1。(C)および(D)構成2。構成2の流れは三量体の流れから最も離れたより均質な疎な線維生成を生じた。図11A、BおよびD:上部の矢印対の間の領域は密な壁を示し;写真中央の矢印対の間の領域は密な線維を示し;下部の矢印対の間の領域は疎な線維を示す。図11C:上部の矢印対の間の領域は疎な線維を示し;写真中央の矢印対の間の領域は密な線維を示し、下部の矢印対の間の領域は密な壁を示す。
【0020】
本発明の方法では、生体適合性荷電ポリマーによって形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種が固定化される。この方法は、第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと、第1の荷電ポリマーと第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、少なくとも1つの細胞種のためのマトリクスを形成することとから成る。この方法によれば、同じ平面内に横に並んで配置されるか、互いに上下に積み重ねられるかの少なくともいずれかであるマトリクス層に埋め込まれた、種々の細胞のためのマトリクス構成を初めて形成することが可能となる。
【0021】
この方法は、生組織の細胞外マトリクス(ECM)構造により提供される条件に匹敵する条件で細胞を固定化する細胞マトリクスの生成を可能にする。「固定化」という用語は反対に荷電したポリマーとの反応時に、マトリクスを形成する荷電ポリマーに細胞が埋め込まれていることを意味する。そして、細胞はこのポリマーマトリクス内に固定されるが、まだ成長することができ、したがって、マトリクスにより提供される構造の中でその位置を(例えば細胞分裂の間に)変更することができる。したがってこの方法によれば、生体外(in vitro)で培養可能ないかなる細胞種をも成長させることを可能となる。また、この方法によれば、三次元マトリクスを必要とする細胞種および例えばペトリ皿または培養フラスコでの細胞の成長のような当該技術分野の周知技術の細胞培養法では培養できない細胞種の少なくとも一つの成長および研究が可能となる。他の細胞種と同時培養する必要のある細胞種も本発明の方法を使用して成長させることができる。
【0022】
1例では、真核細胞種が使用され、真核細胞種は哺乳動物細胞であってよい。細胞は第2の荷電ポリマーと混合され、次にその混合物は層流条件下で反対に荷電した第1のポリマーと反応させられ、ポリマーマトリクスを形成する。哺乳動物細胞種の例には、初代肝細胞、HepG2、骨髄間葉細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、ランゲルハンス細胞、心筋細胞、ケラチン生成細胞、乏突起膠細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、ニューロンおよび骨芽細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。本発明の方法で使用することができる他の細胞種は、植物細胞、酵母、両生類細胞、昆虫細胞および原核細胞から選択することができる。原核細胞は、エシェリキア属、バチルス属、およびラクトコッカス属であってよいが、それらに限定されるわけではない。これらの属の原核細胞のいくつかの例に、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)また
は乳酸菌(Lactococcus lactis)がある。
【0023】
上述の細胞が固定化されるマトリクスは、フロー装置の(反応)溝2の中で反対に荷電したポリマーを反応させると形成される。本発明の方法で使用することができる荷電ポリマーは反応してポリマー複合体となり、このポリマー複合体は液体によって潅流できると共に少なくとも1つの細胞種の正常な代謝機能を維持するのに必要な物質と、少なくとも1つの細胞種により放出された生産物とに対して浸透性の三次元ポリマーマトリクスを形成する。ポリマー複合体は、少なくとも1つの細胞種を含む第2の荷電ポリマーを第1の荷電ポリマーと反応させると形成され、第1の荷電ポリマーは、生理学的pHで反対に荷電した第2のポリマーと反応してポリマー複合体を形成するのに十分な電荷密度を有している。本発明の重合反応は、接触領域に一方のポリマーが蓄積することにより他方のポリマーが希釈される、コアセルベーション反応の典型例であると想定される。そのために、図4Aおよび4Bに示されるように薄いポリマーの「壁」が形成される。この壁の隣接する両側で、細胞が中で成長できるポリマーマトリクスの生成を引き起こす電圧降下が生じる。このようにECM様構造が模倣される。さらに以下に詳しく示されるように、コアセルベーション反応の反応条件は本発明ではかなり正確に制御することができるので、本発明の方法を使用して三次元ポリマーマトリクスの構造および密度の有効な制御を達成することができる。
【0024】
コアセルベーション反応は、その例が図1および2に示された、フロー装置の反応溝2で起こる。層状ポリマー流が層流条件下でフロー装置の溝に送り込まれる。ポリマーの圧送は液体流の層流の生成を可能にする装置であればいかなる装置でも行なうことができる。本発明の方法で使用することができるポンプは、2つだけ例を挙げると、容積移送式往復ポンプまたは計測シリンジポンプであってよい。可能な場合、層流条件は、単に溝の直径を調節して装置を通って流れる種々のポリマーの量を重力によって制御することにより、特別な装置がなくても達成することができる。
【0025】
一旦層状ポリマー流が互いに接触すると、反対に荷電したポリマーの重合反応が起こる。ポリマー複合体したがって三次元ポリマーマトリクスの生成には、重合反応が終了されるよう十分拡散するように層状ポリマー流を遅くすることが必要である。反対に荷電層状ポリマー流のコアセルベーション反応を使用すると、反対に荷電層状ポリマー流の接触後の2〜8分以内に三次元ポリマーマトリクスが形成される。非特許文献2によって記述された方法では、互いに上下に重ねられた2つのポリマー間にポリマーマトリクスが形成されるまでには15分よりも長い時間がかかる。非特許文献2によって記述された実験では天然コラーゲンまたはコラーゲンとキトサンとの混合物が使用された。ポリマーマトリクスが迅速に生成されると新しい培地によるマトリクスの早い時期の潅流が可能となり、これにより新しく形成されたポリマーマトリクスの脱水が回避できるので、ポリマーマトリクス生成のための時間フレームは重要である。このように、埋め込まれた細胞種の生存率は増加する。
【0026】
ポリマー複合体を形成するように反応していない荷電ポリマーを適切な液体培地で希釈することにより、重合反応は停止される。この「停止溶液(stop solution)」は例えば
リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、細胞培養培地、または新たに形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた細胞にとって有毒でない任意の他の液体培地であってよい。例えば、実施例1に説明されているようなメタクリル酸ヒドロキシエチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から構成された三量体のメチル化コラーゲンとの重合反応は、リン酸緩衝生理食塩液(PBS、pH7.0)、ダルベッコ(Dulbecco)改変イーグル培地(DMEM)、または改変チー(Chee)培地(Bibco BRL社のHep
taoZYM無血清培地)を用いて停止することができる。層状ポリマー流のうちの1つを停止溶液に置き替えることに加えて、入口開口部3を通るようフロー装置に層状ポリマ
ー流を送り込むと共に、フロー装置の反対側で出口開口部4を通って反応溝2に入るように停止溶液を送り込むことも可能である(例えば図2B参照)。このように、反応溝2は、半分は平行な層状ポリマー流により満たされ、半分は停止溶液により満たされて、2〜8分後に重合反応は停止される。反対に荷電したポリマー流と検体を含む液体培地との反応で形成されたポリマーマトリクスの有効な潅流が実施例2に示される。実施例2はポリマーマトリクスを収容する反応溝2に送り込まれたポリマーマトリクスに埋め込まれていた肝細胞による7−エトキシレゾルフィンの代謝について説明している。
【0027】
一旦三次元ポリマーマトリクスが完全に創成されると、このポリマーマトリクスに埋め込まれていた細胞種は生育させることも可能であり、または例えば実施例2および3に説明されているような種々の検体を含む種々の溶液に暴露させることも可能である。
【0028】
本発明の1つの利点は、「ポリマーストリップ」の形をした物理的に安定した三次元ポリマーマトリクスが生成されることである。このポリマーストリップの優れた安定性により、例えば非特許文献1に記載されている方法を使用してポリマーストリップをフロー装置から剥がすことができる。溝からポリマーストリップを剥がした後で、ポリマーストリップは、2つだけ選択肢を挙げると、イメージングおよび生物学的研究のためにバイオチップ上に固定することもできるし、またはバイオセンサおよびバイオリアクタに使用することもできる。さらにより安定したポリマーを達成するために、図3Dに示し以下にさらに詳しく説明するように、第1の荷電ポリマーの2つの層流の間に細胞を含む第2の荷電ポリマーの層流が挟まれた層状ポリマー流の構成を使用することが可能である。
【0029】
本発明の方法に使用することができるフロー装置の例が図1および2に示されている。適切なフロー装置は、層状ポリマー流が反応溝2に流れ込むことを可能にすべく溝5を介して反応溝2に流体接続(流体の行き来が可能であるように接続していること)された2つ以上の入口開口部3を通常備えている。さらに、そのようなフロー装置は、反応溝2に対して垂直または斜めを向いた反応溝5を介して反応溝2に流体接続された1または複数の出口開口部4を通常備えている。反応溝2に通じるか反応溝2から離れる溝5および開口部3,4の配置および数は、反応溝2内で重合して三次元ポリマーマトリクスを形成する層状ポリマー流の所望の構成によって決まる。
【0030】
層状ポリマー流の種々の構成の例が図3に示されている。1または複数の細胞種が同じ第2の荷電ポリマーに埋め込まれる場合、層状ポリマー流は図3Aおよび3Bに示すように配置され得る。この層状ポリマー流の構成の場合、図1Aに示されたように配置された入口開口部と出口開口部を備えたフロー装置が使用され得る。より詳細に説明すると、図3Aでは第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)は第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)と横に並んで流れているが、図3Bでは2つのポリマー流(A)および(Bは互いに上下に積み重ねられている。一旦、後に形成されるポリマーストリップの所望の長さまで反応溝が充填されると、第1および第2の荷電ポリマーは重合し、細胞を埋め込んだ三次元ポリマーマトリクスを形成する。
【0031】
さらなる実験および試験がフロー装置の溝で直接実行される予定の場合、図1Aに示されたような溝の配置は有利である。図2Aおよび2Dに示したようなフロー装置を使用すれば、図3Dに示したような種々の層状ポリマー流の配置が可能となる。この構成では、細胞を含む第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)が、2つの第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)の間に挟まれている。第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)は、形成されるポリマーマトリクスの所望の形式に依存して、同じ第1の荷電ポリマーを含んでもよいし、異なる第1の荷電ポリマーを含んでもよい。このサンドイッチ型の配置では、図3Aまたは3Bに示されたような構成に比べて、さらに安定なポリマーストリップの生産が可能となる。これは、ポリマーストリップが例えば
バイオチップ(この上に細胞を含むゲルストリップが将来の使用のために固定される)への使用のためにポリマー装置から剥がされる場合、有利であり得る。さらに、図2Dのフロー装置では図2Aに示されたフロー装置に比べてより大きな柔軟性およびより良好な制御が可能となる。例えば、出口開口部がより多いと、出口開口部の各々から別々に層状ポリマー流を吸引することが可能となり、これは種々の荷電ポリマーの流量のより良好な制御を可能にする。
【0032】
他方、ポリマーマトリクスに関して種々の要求を有する細胞種が使用される場合、図3Cに示されるような種々の層状ポリマー流の配置が有利であり得る。種々の細胞を埋め込んだ第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)および(C)と、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)とを使用して、少なくとも4つの入力開口部(図示しない)を備えたフロー装置の反応溝で反対に荷電したポリマーを反応させて適切な三次元の細胞マトリクスを形成することができる。形成された三次元ポリマーマトリクスは液体により潅流することができ、代謝物質に対して浸透性であるため、そのような構成により細胞は互いに代謝物質を交換することが可能となる。この実施形態は、種々の細胞種の同時培養でのみ生育できる細胞種に特に適している。同時培養は、多くの高度に分化した細胞の分化した表現型を長期間維持することができ、その例には例えば類洞内皮細胞(DeLeve L.D. et al., Am J Physiol Gastrointest. Liver Physiol., 2004 June 10)、肝細胞(Harimoto M., et al., J Biomed. Mater. Res., 2002, Vol.62(3), P.464-470) または
クローンC2C12筋管(addressStreetCooper ST. et al., Cell Motil. Cytoskeleton, 2004, Vol.58(3), P.200- 211)が含まれる。胚性幹細胞または他の始原細胞の、他の細胞種との同時培養はそれらの分化を誘導することができる (Wang XY, et al., Surgery, 2003, Vol.134(2), P.189-196; Fair J.H., Brain Res. Dev. Brain. Res., 2002, Vol.137(2),
P.115-125。
【0033】
図3Eに示されるようなフロー装置(図示しない)の反応溝内の層状ポリマー流の配置は、浸透性のポリマーマトリクスの中を潅流される種々の検体と同時にいくつかの細胞種が試験される場合には有利であり得る。図3Eに示されるような実施形態では、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)が第2の荷電ポリマーの数個の層状ポリマー流(B)−(I)と接触している。第2の荷電ポリマーの各層状ポリマー流(B)−(I)の各々は、少なくとも1つの細胞種を含んでいる。上記の例は本発明の1つのさらなる利点、すなわち使用される細胞種の要求に従って容易かつ迅速に構成可能な種々のポリマーマトリクス構成を形成することを示している。層状ポリマー流の横並びの流れが、層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられた構成と同様に可能である。種々の層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられた構成(図3Bから3Eまで)は、それらがより詳しく生組織におけるECM構造を模倣することを可能にするため、特に重要である。
【0034】
天然ポリマーおよび改変ポリマーはいずれも本発明の実施の際の荷電ポリマーとして使用するのに適している。これに関して、「荷電」という用語は、ポリマーが溶液中に存在するときに正味荷電を有している、すなわち正か負のいずれかに帯電していることを意味する。従って、「2つのポリマーが同じ電荷を有する」という用語は、それらのポリマーがいずれも正または負のいずれかの正味荷電を有しているが、その正確な値(例えば九龍で表される)は異なっていてもよいことを意味する。このように、「同じ電荷」という用語は、定量的にではなく定性的に理解されるべきである。
【0035】
本発明に使用されるポリマーは、通常水溶性かつ生分解性であり、さらには少なくとも10kDaの分子量を通常有する。本明細書に使用する場合、第1の荷電ポリマーは負に荷電され得る。そのような場合、第2の荷電ポリマーは当然ながら正に荷電される。代替例では、第1の荷電ポリマーが正に荷電され、第2の荷電ポリマーは負に荷電される。
【0036】
本発明で使用するのに適したポリマーには、数例のみを挙げると、キトサン、ポリアニオンアルギン酸、正荷電コラーゲン、負荷電コラーゲンポリアニオンアルギン酸、Ca2+、またはポリカチオン(L−リジン)のような合成ポリマー、および(アクリル酸)、(メタクリル酸)、(メタクリル酸)または(アクリル酸メチル)を含むコポリマーまたは三量体が含まれる。
【0037】
有用な三量体は、アクリル酸およびメタクリル酸のうちの少なくとも1つと、メタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸ヒドロキシプロピルうちの少なくとも1つとを含む2つのポリマーブロックから成り得る。そのような三量体は、約10%−50%メタクリル酸ヒドロキシエチル、約10%−50%のメタクリル酸、および約50%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成り得る。そのような三量体の例は、25%のメタクリル酸ヒドロキシエチル、約25%のメタクリル酸、および約50%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成る(Chia et al., Tissue Engineering 2000, Vol.6(5), P.481-495)。別の例では、三量体は、25%のメタクリル酸ヒドロ
キシエチル、約50%のメタクリル酸、および約25%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成る。本発明の方法に使用可能な他の三量体はShao Wen et alにより記載されており、Shao Wenらは生細胞を埋め込むために種々の組成から成る三量体を使用した(Shao Wen, Yin Xiaonan and W.T.K. Stevenson, Biomaterials, 1991 , Vol.12
May, P.374-384; Shao Wen, H. Alexander et al., Biomaterials, 1995, Vol.16, P.325- 335)。これらの三量体はHEMA−MMA−MAAまたはHEMA−MMA−DMA
EMA(カチオン2−(ジメチルアミノ)メタクリル酸エチル)から成るが、後者の三量体は正に荷電している。
【0038】
上記のグループからのポリマーの組み合わせを使用して、コアセルベーションにより、生細胞を埋め込むためのポリマーマトリクスを形成することができる。第1の荷電ポリマーが第2の荷電ポリマーと反応させられるポリマーの組み合わせの例には、以下のものが挙げられる(第2の荷電ポリマーについてまず言及し、次に第1の荷電ポリマーについて言及する):キトサン−負荷電三量体、ポリアニオンアルギン酸−Ca2+、正荷電コラーゲン−負荷電三量体、負荷電コラーゲン−正荷電三量体(Shao Wen, Yin Xiaonan and W.T.K. Stevenson, Biomaterials, 1991 , Vol.12 May, P.374-384)、ポリアニオンアルギン酸−ポリカチオンポリ(L−リジン)。
【0039】
反応溝2内に2よりも多くの荷電ポリマーが互いに上下に積み重ねられる場合(図3C参照)には、様々な種類のポリマーを使用することができる。三量体とコラーゲンの交互の層の組み合わせが互いに上下に積み重ねられるだけでなく、コラーゲンと三量体の後でキトサンが続き、その後再び三量の層が続き、その後再びコラーゲンまたはキトサンが続いてもよい。コアセルベーション反応では、2つの反対に荷電したポリマーが互いに上下に積み重ねられて、その中に埋め込まれる細胞に適したポリマーマトリクスが形成されることが重要である。ポリマーの選択に影響を及ぼす他の要因は、埋め込まれる細胞種である。細胞種に依存して、その細胞種に適した生体適合性ポリマーが選択されなければならない。また、別のものと反応しているポリマーは生育用に使用される細胞種に適したポリマーマトリクスの構造を提供するはずである。適切なポリマーは上述した通りである。
【0040】
コラーゲンを始めとするポリマーは、その天然型では負にも正にも荷電していないため、本発明で使用するためにそれらは改変する必要がある。そのようなポリマーを改変する技術は当該技術分野において周知である。例えばChia et al (Tissue Engineering, 2000, Vol. 6(5), P.481-495)では、低分子量アルコールによるカルボキシル基のエステル化
によりカチオンコラーゲンが得られた。Donald G. Wallace および Joel Rosenblatt (Advanced Drug Delivery Reviews 2003, Vol.55, P.1631-1649)に記載された方法によれば
、例えば負荷電コラーゲンを得ることができる。電気的に正味の電荷を有するように改変
可能な非荷電ポリマーの他の例にはポリ(ビニルアルコール)や、デキストランおよび(紅藻から得られた)カラギーナンファミリーの多糖のようなさらなる多糖が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0041】
任意選択で、天然で荷電しているポリマーを改変して、反応パートナーとして使用される反対に荷電したポリマーの電荷と(さらに)一致させることもできる。ポリマーマトリクスの浸透性に影響を及ぼすために種々の電荷を使用することもできる。反対に荷電したポリマー間の電荷密度の差が大きいと、膜がより浸透性になる傾向がある。
【0042】
重合は、細胞が生存する必要のある培地から細胞を物理的に分離するため、細胞にとって、ポリマー複合体により形成された細胞膜は埋め込まれた細胞の存続に不可欠な栄養素を浸透することが必要である。また、本発明の方法により得られたポリマーマトリクスが例えば有害物質用の試験マトリクスとして使用される場合には、他の液体がマトリクスに浸透されることも必要である。実施例2に見られるように、本発明のポリマーマトリクスは三次元ポリマーマトリクスに埋め込まれた細胞の存続に必要な代謝物質を輸送する液体培地を浸透させることが可能である。
【0043】
本発明の方法によれば、ECM様マトリクスを構成することが可能であり、それらのマトリクスは反応溝2での荷電ポリマーの複合コアセルベーションにより形成される。この複合コアセルベーションは、本発明の方法を使用して有効に制御することができる。荷電ポリマーの分子量、電荷密度および濃度ならびに反応溝での反対に荷電したポリマーの反応時間を変えることにより、膜に埋め込まれた細胞種の要求に応じて膜の浸透性および輸送性を調節することができる。
【0044】
ポリマーマトリクスの生成に対する種々の電荷密度の影響および埋め込まれた細胞の機能に対するそれらの電荷密度の影響は、第2の荷電ポリマーとして使用されるコラーゲンの電荷密度を調節することにより実証される。Chia et al. (Tissue Engineering 2000, Vol.6, P.481-495)により記述された方法を使用すると、タイプIウシ皮膚コラーゲン(Vitrogen、Cohesion Technologies Inc. カリフォルニア州パロアルト)がメチル化によりカチオンに改変される。
【0045】
メチル化度は、実施例3に記載されるようにポリマーの反応時間および反応温度の調節により制御される。メチル化度は、発明者によって開発され、実施例3に説明されたキャピラリーゾーン電気泳動方法を使用して決定される。この新しい方法を用いる際に、本発明の方法で使用されるポリマーのメチル化度を監視するためのCE指標が発明者により提案される。ポリマーのメチル化の増加はこのCE指標の増加と関連付けられる。例えば、低メチル化ポリマーは約0.9から約1.7の間のCE指標を有し、高メチル化ポリマーは約1.7から約2.5の間のCE指標を有する。
【0046】
低メチル化コラーゲン(CE指標1.4)が第1の荷電ポリマー(例えばHEMA−MMA−MAA)と反応するために使用される場合、ポリマーの反応で形成されるマトリクスは、図5Aから理解されるように、架橋が多く、厚い線維から成る。他方、高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)を使用すると、架橋が少なく、薄い線維となる(図5B参照)。したがって、低メチル化コラーゲンと高メチル化コラーゲンにより形成sれた樹状突起の平均長さと平均数を比較する図6Aおよび6Bから理解されるように、コラーゲンのメチル化の増加はより断片化したマトリックスの形態と相関がある。
【0047】
種々のメチル化コラーゲンにより形成されたポリマーマトリクスは、そこに埋め込まれた細胞の機能に影響を及ぼす。実施例3に記載されているように、初代肝細胞の解毒機能は、それが低メチル化コラーゲン(CE指標1.4)に埋め込まれているかまたは高メチ
ル化コラーゲン(CE指標1.9)に埋め込まれているかどうかに依存して影響を受ける。ポリマーマトリクスを形成するために低メチル化コラーゲンが使用された場合には(図8Aおよび8B)、初代肝細胞の解毒活動はより高かった。対照的に、HepG2細胞の増殖は低メチル化コラーゲンよりも高メチル化コラーゲンでの方がより大きかった。
【0048】
したがって、ポリマーの電荷密度に影響を及ぼすことによりポリマー複合体の生成を制御する上述の提案された方法は、種々のレベルの細胞の支持を提供するようマトリクスの形態を調節できることが実証された。詳細には、異なる繊維の架橋を備えたマトリクス中で細胞の機能が選択的に増大されたため、生細胞を支持するポリマーマトリクスの正確な制御は細胞の支持および機能において重要である。
【0049】
ポリマーマトリクスの構造に影響を及ぼす方法としての別の例は、ポリマーの分子量とその濃度を変更することである。1つの実験において、第1の荷電ポリマーとしてのHEMA−MAA−MMAと、第2の荷電ポリマーとしての正荷電(メチル化)コラーゲンとを使用して、ポリマーマトリクスを形成した(実施例1)。ポリマーマトリクスの構造は、異なる分子量および濃度の三量体HEMA−MAA−MMAの使用により変更された。低分子量で高濃度(3 wt%)のHEMA−MAA−MMAにより形成されたポリマーマトリクス(図4A、C、EおよびF)は、高分子量で低濃度(0.1 wt%)のHEMA−MAA−MMAにより形成されたポリマーマトリクス(図4BおよびD)よりも、網状構造が多く、網目が広い。
【0050】
本発明の方法の反応条件に影響を及ぼす別の選択肢は、反対に荷電したポリマーの反応時間を変更することである。これは静止反応時間または動的反応時間の変更により行うことができる。動的反応時間とは、反対に荷電したポリマーが反応溝を通って互いに接触して流れている間に接触する時間を意味する。静止反応時間とは、反対に荷電したポリマーが溝を流れることを停止した場合に溝内でそれらの接触する時間を意味する。実施例4に記載されているように、静止時間を動的反応時間と比較して増加させた反応時間状態で形成されたポリマーマトリクスは、大量の疎な線維および断面で見るとより均質な線維マトリクスを形成した(図11参照)。
【0051】
異なる粘性を有する層状ポリマー流に関する流れのシミュレーションによれば、一方の流れの粘性が他方よりも大きくなればなるほど、層状ポリマー流の間の境界は粘性の小さい側により押しやられることが明らかとなった。形成されたポリマーマトリクスの構造は、実施例1、2ならびに特に4から理解できるように、反応溝内の反対に荷電したポリマーの反応時間を制御することにより影響を受け得る。典型的な実施形態では、荷電ポリマーの反応時間は通常約30秒から約8分の間であるが、それより長い反応時間であることもあり、例えば30分まで可能である。適切な反応時間は経験的に決定することができ、この決定は当業者の技術常識内である。
【0052】
本発明の方法と共に使用可能なフロー装置は、生体適合性であるいかなる材料から形成することもできる。生体適合性材料には、ガラス、シリコン、特定の種類の金属および重合可能材料が含まれるが、それらに限定されるわけではない。重合可能材料には、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、マイラー(商標)、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フルオロシリコーンまたはそれらの組み合わせの単量体またはオリゴマー構造ブロック(すなわちすべての適切な前駆物質分子)ならびにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態では、生体適合性材料はPVDFおよびPDMSの少なくとも一方を含む。PVDFとPDMSの利点はそれらの価格の安さと優れた生体適合性にある。さらに、それらはガス浸透率が高く、この特性は、細胞の呼吸を確保するために
細胞培養物への供給酸素の浸透を促進するため、閉鎖系のマイクロデバイスにおいては重要な特性である。さらに、それらは透明なので、好都合にも細胞の形態の直接観察を観察装置(例えば顕微鏡)で行うことが可能となる。
【0053】
本発明の方法で使用されたフロー装置の溝5,2は、それらが層状ポリマー流の層流が互いに接触するのに適している限り、いかなる形状および寸法であってもよい。溝は例えば長方形であってもよいし、他の多角形や、丸形であってもよい。長方形の溝の寸法は、幅が10μmから800μmの間で、高さが10μmから600μmの間であってよいが、これに限定されるわけではない。反応溝の長さはその中に形成されるポリマーストリップの使用に基づいて決定される。典型的には、反応溝の長さは約0.4μmから約6cmであるが、この長さ限定されるわけではない。
【0054】
荷電ポリマー流のフロー条件(層状または乱流)は、無次元のレイノルズ数(Re)に依存すると共に、使用されるポリマーの密度および粘度に依存する。
Re=(流体密度)(平均流体粘度)(特性長さ)/(流体動的粘度)
レイノルズ数が2000未満の値を有する場合、「層流条件」が与えられ、このように容易に決定することができる。生体内条件をシミュレートするための層流条件の使用は(Proc. Natl. Aca. ScL, May 1999, Vol.96, P.5545-5548)によって記述されている。こ
の研究では、液体培地の層流を使用して細胞培養基質のパターニングがシミュレートされた。本発明の方法では、液体の代わりに層状ポリマー流を使用して、三次元マトリクスおよび細胞を同時にパターン化した。
【0055】
本発明の方法を使用した1つの実験では、実施例1に記載されたように準備されたフロー装置(図1Aと図3Aを参照)を使用した。このフロー装置の長方形の反応溝は、約3.5cmの長さ、約200μmの高さ、および約400μmの幅を有していた。第2の荷電ポリマー(B)として正に荷電コラーゲンを使用し、第1の荷電ポリマー(A)として実施例1に説明したような負荷電HEMA−MMA−MAA三量体を使用した。2つのポリマー流は図3Aに見られるように横並びの構成で流れる。そのような構成に使用することができる層流条件が表1に記載されている。
【0056】
本発明の方法に使用されるポリマーの平均粘度は通常、約0.003kg/m*sから0.009kg/m*sの間にあり、ポリマーの密度は約997kg/m3の間にある。
本発明で特徴付けられた溝およびポリマーの寸法を使用すると、そのような溝のレイノルズ数は通常低く、層流を生成するための条件を満たす。表1に記載されたシステムでは、例えばいずれのポリマー流でもReは4未満である。
【0057】
【表1】
本発明の別の態様は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに細胞を固定化し、マイクロメートル寸法の移植可能な組織を生成し、生理学的組織の生体外モデルを生成し、およびバイオテクノロジーにおける組換えタンパク質の製造用の細胞培養物を還流させるために使用可能なバイオリアクタを生成するための、本発明の方法の使用である。本発明の方法は、組織工学における細胞増幅、治療用途での幹細胞分化の製造および制御、イメージングおよび生物学的研究に使用可能な細胞バイオチップ(例えば異種細胞−細胞相互作用の研究のための潅流同時培養物、せん断力、細胞の挙動についての成長因子勾配および酸素勾配の作用を研究するための潅流培養物)、およびADME/Tox、ハイスループットスクリーニング(HTS)、バイオセンサおよび癌診断のための細胞バイオチップに使用することができる。マイクロ寸法の移植可能な組織は、骨移植用の骨芽細胞やランゲルハンス島移植用の小島のような細胞を備えたマイクロパターン化された足場として使用することができる。
【0058】
実施例1
実施例1は、第2の荷電ポリマーとしてメチル化された(正荷電)コラーゲンと、第1の荷電ポリマーとしてヒドロキシエチルメタクリル酸−メタクリル酸メチル−メチルアクリル酸(HEMA−MMA−MAA)の(負荷電)三量体を層流条件下で層状反応させることによるその場でのポリマーマトリクス形成を示す。
【0059】
この実施例では、異なる濃度のコラーゲンおよび異なる分子量の三量体から構成された、2つの異なる組み合わせのポリマーが使用される。ポリマーマトリクスの生成は、カチオンメチル化コラーゲンとHEMA−MMA−MAAのアニオン三量体との間の多電解質複合体コアセルベーションに基づいている。このポリマーマトリクスは、細胞の支持および増殖に対して好ましい三次元微小環境を提供することが示された(Chia et al., Tissue Engineering 2000, Vol.6(5), P.481-495)。異なるポリマーの組み合わせを使用して
形成されるポリマーマトリクスの構造物の制御を例証するために、2つの異なるポリマーの組み合わせが使用される。2つの組み合わせは、2つの多電解質間の最適の電荷バランスに基づいて選択される。
【0060】
タイプIウシ皮膚コラーゲン(Vitrogen, Cohesion Tchnologies Inc., カリフォルニ
ア州パロアルト)は、Chiaら(2000年、前掲)によって記述されているようにコラーゲン鎖のカルボキシル基のエステル化によりカチオン化される。HEMA−MMA−MAAの三量体は、Chiaら(2000年、前掲)により、25:50:25のHEMA、MM
AおよびMAAの供給比での溶液重合により合成される。ゲル浸透クロマトグラフィを使用して2つの三量体の分子量(MW)を特徴付ける。これらは低いMWが80.5 kDAで高いMWが849.3 kDaであることが分かった。コラーゲン溶液と三量体溶液はいずれも1×リン酸緩衝生理食塩溶液(PBS)でそれぞれの濃度に再構成される。2つのポリマーの組み合わせは以下のとおりである:
(i)3mg/ml メチル化コラーゲンと3wt% 低MW三量体
(ii)3mg/ml メチル化コラーゲンと0.1wt% 高MW三量体
図1に示したような装置の反応溝を、その迅速な試作品製作が容易であるため、ポリ(ジメチルシロキサン重合体)(PDMS)エラストマーより構成する。溝の設計はコンピュータ支援設計(AutoCAD)プログラムにより行い、これを用いて、ポリカーボネートのコンピュータ数値制御(CNC)機械加工によりPDMS鋳型を構成するためのマスタを製造した。PDMS構造を製作するためのマスタを製造するためには、光硬化エポキシSU−8の使用(Tan W. and Desai T. A., Tissue Engineering 2003, Vol.9(2), P.255-267)を始めとする様々な他の方法を使用することができ、平行に並んだマトリクスポリマーが層流の様式(Reが2000未満)で接触することが可能である限り、ガラスまたはシリコンのエッチング(McDonald et al., Electrophoresis 2000, Vol.21(1), P.27-40)を始めとする溝を形成するための他の技術も使用することができる。小さな溝(
200μm以下)および低い流速(50μl/h−1000μl/hの間)の典型的な微小流体条件下では、Reはほとんど常に低い。この例証的なシステムではReは2未満である。PDMS鋳型を作成するために、液体PDMSプレポリマー(ベースポリマー:硬化剤が1:10の混合物)をマスタの上に注ぎ、60度で1時間硬化させる。穿孔機を使用してPDMSに小孔を開け、入口と出口を作成する。最後に、プラズマ酸化によりガラスカバーストリップ上にPDMSを不可逆的に密封し、溝を形成する。この実験では、長方形の反応溝は、約3.5cmの長さ、約200μmの高さ、および約400μmの幅を有する。
【0061】
メチル化コラーゲン(上部流)および三量体(下部流)は、シリンジポンプ(Fisher ScientificのKD科学シングルシリンジ注入ポンプ)を使用して、制御された流速(表2参
照)で図1Aの入口開口部3Aおよび3Bを介して2つのY字形アームで反応溝2に反応へ伝えられる。合一された層状ポリマー流は、出口開口部4を介して溝5の終端で大気へ出るようにされる(図1B参照)。コラーゲン側にポリマーマトリクスを生成した後、三量体側はPBSで洗浄され、潅流される。光学顕微鏡、60×ウォーターレンズを用いた共焦後方散乱細胞顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を含めた種々の方法を使用して、形成されたポリマーマトリクスを特徴づけることができる。
【0062】
両方のポリマー組み合わせ(i)および(ii)について、2つの層状ポリマー流を接触させると、2つの荷電ポリマー間に壁が形成される。構成(i)の場合、両層状ポリマー流が徐々に遅くされ、層状コラーゲン流は次第に100μl/hへ、その後ゼロへ減少されると、ポリマーマトリクスは形成され、溝のコラーゲン側を満たす(図4A、4C、4Eおよび4F)。体積流量に関するより多くの詳細が表2に与えられる。しかしながら、構成(ii)の場合、厚くて密度の高い壁(図4に白い矢印によって示される)が形成された後、層状コラーゲン流側のコアセルベーションは最小である(図4B、4D)。これは、より高い分子量の三量体のより長い鎖では鎖のもつれ効果が大きく、これが複合体形成時の荷電ポリマーのさらなる相互作用を制限するためである(Wen S., et a., Biomaterials 1991, Vol.12, P.479-488)。8分後にPBSで洗浄してコアセルベーション反
応を停止した後、壁およびポリマーマトリクスが保持され、ポリマーマトリクスを液体で連続的に潅流することが可能となる。
【0063】
【表2】
上述の反対に荷電したポリマーを層状に流す方法は、天然コラーゲンまたは天然コラーゲンとキトサンの溶液で(Tan W. and Desai T.A. 2003、前掲)細胞に非毒性の穏やかな水性条件下で流すことにより要求される15−20分という長いコアセルベーション時間なしで、その場で迅速にポリマーマトリクスの微細パターンを形成する有効な手段である。
【0064】
上記の実施例は、種々のポリマーの組み合わせの使用により、結果として得られる形成ポリマーマトリクス微細パターンを操作することができることを示す。三量体がコアセルベーション反応を停止するためにPBSで洗浄された後でも、ポリマーマトリクスはその構造的完全性を保持していた。これは、細胞の生存性および機能性の支持のために培地によって細胞マトリクスの微細パターンを動的に潅流できる可能性を実証している。
【0065】
実施例2
本実施例は、三次元ポリマーマトリクスを、検体を含む液体培地で潅流させることができることを示す。この目的で、(図3Aに略図で示したような)メチル化コラーゲンとメタクリル酸ヒドロキシルエチル−メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル(HEMA−MMA−MAA)の三量体との横並びの層状流により形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞の解毒機能について調べた。
【0066】
この実験では、新鮮な単離ラット肝細胞をメチル化コラーゲンに懸濁し、この細胞を含有するメチル化層状コラーゲン流を三量体の隣接する層流と複合コアセルベートさせた。形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞を24時間培養し、その7−エトキシレゾルフィンO−脱アルキル(EROD)活性により肝細胞解毒機能を評価した。本実験で使用されるメチル化コラーゲンおよび三量体HEMA−MMA−MAAは、実施例1に説明した通りに得た。また、PDMSマイクロチャネルも実施例1に説明した通りに構成された。新鮮な単離肝細胞は3x106/mlの濃度でメチル化コラーゲンに懸濁させ
た。細胞を含有するメチル化コラーゲンと三量体の流れの流速を表3に与える。
【0067】
【表3】
表3で示された流速を使用してポリマーマトリクスを形成した後、三量体の流れをHepatoZYM無血清培地(GIBCO Laboratories)と置換して肝細胞培養用に200μl/hで潅流させた。
【0068】
24h後、肝細胞の7−エトキシレゾルフィンO脱アルキル(EROD)活性により、肝細胞解毒機能を評価した。簡潔に述べると、それには39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地での4時間の潅流および共焦蛍光顕微鏡(Olympus Fluoview 300)によるそれらの代謝産物すなわち非常に蛍光の強いレゾルフィンの定量が含まれた。ネガティブコントロールについては、死んだ肝細胞を同様に7−エトキシレゾルフィン中でインキュベートし、それらを用いてP450 ERODアッセイのバックグラウンドを設定した(図10A参照)。
【0069】
反応溝の上流部分(図10B)および下流部分(図10C)の両方でポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞は非常に蛍光が強く、これは肝細胞が機能的に活性なシトクロムP450活性を示したことを示している。オリジナルの三量体ポートを介したポリマーマトリクスへの検体の潅流は有効であり、反応溝じゅうでマトリクスに埋め込まれた細胞により吸収された。
【0070】
実施例3
本実施例は、第2の荷電ポリマーとしてのメチル化コラーゲンと、第1の荷電ポリマーとしてのHEMA−MMA−MAA三量体との間のポリマー電解質複合コアセルベーション反応を使用して、細胞の挙動と重要な関係を有するコラーゲンマトリクス形成を操作することを例証している。三量体と複合コアセルベート反応させて、ポリマーマトリクスの形態を変更して最適な細胞支持のための微小環境を設計するために、異なるメチル化度のコラーゲンを使用する。2つの肝臓由来のモデル細胞タイプである初代肝細胞およびHepG2細胞系を選択し、細胞機能に対するポリマーマトリクスの形態の影響について検討する。HepG2は、感度が高く、最終的に分化し、生体外での分化された機能の維持には特定の化学的および位相幾何学的な細胞外マトリクス(ECM)の糸口を必要とする初代細胞を表すが、HepG2は接触阻止に遭遇しない限り培地中で比較的容易に増殖することができる形質転換細胞系を表わす肝細胞系である。
【0071】
コラーゲンは実施例1に説明したようにメチル化によりカチオンに改変される。メチル化度は反応時間と温度を調節することにより制御される。簡単に説明すると、沈殿したコラーゲンを酸性メタノールに溶解し、4℃で6日間(低メチル化)および23℃で1日(高メチル化)それぞれ攪拌する。メチル化度はキャピラリゾーン電気泳動により特徴づけ
られる。キャピラリゾーン電気泳動(CE)法は、コラーゲンメチル化度の定量化に関して開発されたものである。
【0072】
種々のメチル化コラーゲンの分離を、CE−L1(CE Resources Pte Ltd,シンガポー
ル所在)で行なう。使用されるポリビニルアルコール(PVA)でコートされた毛細管(50μm ID x 360μm OD x 70cm長、45cm有効長)も、CE Resources Pte Ltd(シンガポール所在)から得られる。分離は21℃で0.05%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC) 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.5)で行う。分離電圧は22kVであり、UV吸光度は200nmで検知される。コラーゲンサンプルを圧力(0.3psix15s)(注:0.3psi=2068.43Pa)により毛細管に導入する。PVAコート毛細管は、最初の使用前に蒸留水で3分間洗浄する。最初の条件設定後は、各分析の間に、コーティングされた毛細管を1分間蒸留水で、3分間0.05% ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC) 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で洗浄する。使用される化学物質はすべて分析的グレードであるかまたは利用可能な最も高い純度のいずれかである。塩酸、リン酸ナトリウム、メタノールおよび水酸化ナトリウムをMerk&Co.(アメリカ合衆国ニュージャージー州)から得る。HPMC(VISC,2wt%水溶液、5CPS)はSigma-Aldrich Co.(アメリカ聖合衆国ミズーリ州セントルイス)から購入した。アセトンはTedla Company Inc(アメリ
カ合衆国フェアフィールド)から購入する。すべての緩衝液および溶液はMillli-Q シス
テム(アメリカ合衆国ウィスコンシン州バーンステッド)で精製した水により調製する。
【0073】
メチル化コラーゲンは、異なるメチル化反応条件で変化する4つの主要バンドに分離される(図7)。コラーゲンのメチル化は、下流ピークのサイズの相対的増加と相関がある。コラーゲンのメチル化度を定量するために、下流のピークの相対的成長をメチル化の増加度と見なすCE指標が開発された。CE指標は、下流ピーク面積を上流ピーク面積で除することにより計算される(図7のB領域/A領域)。コラーゲンのメチル化の増加はCE指標の増加と相関する(表4)。低メチル化コラーゲンのCE指標は0.9と1.7の間にあり、高メチル化コラーゲンのCE指標は1.7と2.5の間にある。HEMA−MMA−MAA三量体は実施例1で説明されるように合成された。
【0074】
【表4】
ポリマーマトリクス形成の特徴づけの研究のため、1.5mg/mlのメチル化コラーゲンをシリンジポンプ(30.5G針)を使用して3wt%三量体に注入して三量体と接触させ、共焦後方散乱細胞顕微鏡(Olympus Fluoview 500)を使用して、60倍ウォーターレンズを使用して形成されたポリマーマトリクスをイメージングする。イメージ処理およびマトリクスパラメータの定量的評価のために、Image-Pro Plus 4.51を使用した。
【0075】
細胞研究については、以前に記述された2段階インサイチュコラゲナーゼ潅流(Seglen
P.O., Methods Cell Biol. 1976, Vol.13, P.29-83)にいくつかの修正を加えたものに
より、肝細胞を雄Wistarラットから採取する。細胞を、シリンジポンプに取り付けられた
30.G針から三量体に注入して三量体と接触させる前に、5x106/ml(肝細胞)
または8x105/ml(HepG2)の細胞密度でメチル化コラーゲン中に懸濁させる
。ポリマーマトリクスに支持された肝細胞およびHepG2細胞を、37℃、5%CO2
湿り雰囲気中で、ウシ胎児血清(10%)およびHEPES(1g/l)を補足したHepatoZYM−SFM(GIBCO Laboratories)およびDMEMにて培養する。肝細胞の解毒機能を、肝細胞の7−エトキシレゾルフィン−O脱アルキル化(EROD)活性および7−エトキシクマリン−O−デエチラーゼ(ECOD)活性により評価する。簡単に説明すると、これには39.2μM 7−エトキシレゾルフィン 5時間(EROD)および0.26mM 7−エトキシクマリン 3時間(ECOD)の添加ならびにそれらの代謝産物の共焦蛍光顕微鏡(EROD)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)(ECOD)による定量が含まれる。経時的なHepG2細胞の増殖を顕微鏡(Olympus Fluoview 500)により監視する。
【0076】
三量体と反応させると高メチル化コラーゲンによって薄く断片化したポリマーマトリクスが形成され(図5A)、対照的に、低メチル化コラーゲンによって厚く接続されたポリマーマトリクスが形成される(図5B)。マトリクスの形態に対するコラーゲンのメチル化の効果の定量するために、1切片当たりの節ごとに接続された樹状突起の長さの平均合計として定義される平均樹状突起長および1切片当たりの節ごとに接続された樹状突起の平均合計として定義された平均樹状突起数をzスタックで10枚の中心スライスについてプロットする(図6A、6B)。図6から、(繊維長およびマトリクス内の分岐をそれぞれ表す)高メチル化コラーゲン(△)の平均樹状突起長および樹状突起数は、一貫して低メチル化コラーゲン(□)のそれよりも低い。したがって、コラーゲンのメチル化の増加はより断片化したマトリクスの形態と相関され得る。
【0077】
高メチル化コラーゲン(ドット)により形成されたポリマーマトリクスと比較して、低メチル化コラーゲン(斜線)により形成されたより接続しているポリマーマトリクスに支持された時、それらのERODおよびECOD活性(図8A、8B)により示される肝細胞の解毒機能は、培養の4日間すべてで有意に高かった。代謝産物の測定のためのHPLCを使用するECODスキームは、より多くのシトクロムP450酵素(CYP1A1、CYP2A6、CYP2C8−9、CYP2E1)のモノオキシゲナーゼ活性を試験するより正確な測定法であるが、ERODおよびECODの両方の測定により2つの微小環境のチトクロム酵素活性には有意な差が見出される。対照的に、Daynに対するDayn+1のマイクロカプセル中の細胞数の比として定義される高メチル化コラーゲン中のHepG2細胞増幅は、1.5倍だけ低メチル化コラーゲンよりも大きい。平均で、高メチル化コラーゲン(ドット)および低メチル化コラーゲン(斜線)の細胞増幅は、それぞれ2倍/日および1.3倍/日である(図9)。したがって、低メチル化コラーゲンにより形成されたポリマーマトリクスの接続ナノ線維は、肝細胞の分化機能を増強した。他方、高メチル化コラーゲンにより形成された断片ナノ線維はHepG2細胞の増殖に優勢であった。
【0078】
したがって、複合コアセルベーションによりポリマーマトリクス生成を制御する提案された方法が、種々のレベルの細胞支持を提供するようマトリクスの形態を調節できることが実証された。詳細には、肝細胞機能およびHepG2増殖が異なるポリマーマトリクス接続性を備えた微小環境で選択的に増大されるため、生細胞を支持するポリマーマトリクス構造の正確な制御が細胞の支持および機能において重要であることが示された。
【0079】
実施例4
以下の実施例は、流量の変化が、メチル化コラーゲンおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル−メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル(HEMA− MMA−MAA)三量体の横並びの層状流により形成される三次元ナノ線維ポリマーマトリクスの形成をどのように変化させるかを実証する。表5から見られるような2つの流れの構成が使用された。構成
2では、層状コラーゲン流が静止(流速=0)である時間を増加させた。
【0080】
実施例1に説明した通りに改変および合成した3mg/mlメチル化コラーゲンおよび3wt%三量体を反対に荷電したポリマーとして使用した。PDMS溝を実施例1に説明した通りに構成した。メチル化コラーゲンおよび三量体の流れに対して使用した2つの流れの構成を表5に与える。
【0081】
【表5】
表5で示した流量を使用してポリマーマトリクスを生成した後、三量体流れを1×PBSで置換し、重合反応を停止するために200μl/hで潅流させる。形成されたコラーゲンナノ線維ポリマーマトリクスを走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して特徴づける。
【0082】
いずれの構成で形成されたコラーゲンナノ線維ポリマーマトリクスも、ポリマーマトリクス中に形成された線維の微小組織により、3つのセクションに大まかに分けることができる:(i)密な壁、(ii)厚い密な線維、(iii)疎な線維(図11)。蜜な壁は、層状コラーゲン流が層状三量体流と接触した界面で見つけることができ、疎なコラーゲン線維はPDMS溝表面と面する層状三量体流から最も遠くに形成される。コラーゲン流に対するより大きな静止時間を有したフロー構成2は、疎線維生成がほとんどなかったフロー構成1(図11Aおよび11B)と比較して、大量の疎線維および断面で見てより均質なナノ線維ポリマーマトリクス(図11Cおよび11D)を形成した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態のフロー装置の平面図(図1A)および側面図(図1B)。
【図2】入口開口部3および出口開口部4が入口および出口溝5をそれぞれ介してフロー装置の(反応)溝2に接続された本発明の想定されるフロー装置の斜視図。
【図3】交互になった層状ポリマー流(溝内の四角)が模式的に示されたフロー装置の長方形の反応溝2(長方形の周囲の細くて黒い線)。
【図4】第1の荷電ポリマー(上部の流れ)としてのメチル化(正荷電)コラーゲンと第2の荷電ポリマー(下部の流れ)としての三量体(HEMA−MMA−MAA)とを反応させ、8分後にPBSで三量体の側を洗浄し、コアセルベーション反応(実施例1)を停止した後に形成された壁およびポリマーマトリクス。
【図5】ポリマーマトリクス形成に対する種々の種類のコラーゲンのメチル化の影響。
【図6】ポリマーマトリクスの形態の定量分析の結果。
【図7】キャピラリー電気泳動により決定されたメチル化コラーゲンの溶出ピークにより特徴づけられたコラーゲンのメチル化度。
【図8】肝細胞解毒シトクロムP450依存性モノオキシゲナーゼ活性に対するコラーゲンのメチル化の影響。
【図9】HepG2増殖に対するコラーゲンのメチル化の影響。
【図10】検体を含む液体が三次元ポリマーマトリクス中を潅流していることを実証する39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地にて4時間インキュベートした後の埋め込まれた肝細胞の共焦顕微鏡写真。
【図11】反応溝において反対に荷電したポリマーの流量を変更した結果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたポリマーマトリクスに層流条件下で細胞を固定化する方法、本発明の方法に使用されるフロー装置、および本発明の方法を使用して固定化された細胞を含むポリマーマトリクスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内(in vivo)での組織は異種の細胞集団と細胞外マトリクス(ECM)とから構成
された高度に組織化された複雑な三次元構造を有する。哺乳動物では、ECMは、細胞とあらゆる面で接触する繊維、管およびチャネルとして、または基底膜と呼ばれる細胞が「着座する」シートとして、細胞を包囲し得る。ECMは機械的支持および生化学的障壁を提供するタンパク質および多糖から通常構成されている。ECMの改変型が例えば骨の形で見られる。ある研究によれば、細胞の機能が細胞外マトリクスにより非常に影響を受けることが示されている。いくつかの細胞は、異なる細胞種の同時培養でのみ、成長し、その生存期間を延長することができる。しかしながら、同時培養は、それらの細胞に適したマトリクスがないために培地中の異なる細胞の相互作用を操作または制御不能であることにより、制限されている。
【0003】
したがって、細胞増殖にマトリクスが重要であるため、生体内の細胞を包囲するそのマトリクスを良く模倣したECM構造を再構成すること、特に生体内組織のマトリクスを模倣することは、組織工学の主たる目標である。
【0004】
マイクロマシニング、フォトリソグラフィー、ソートリソグラフィーを含む組織工学におけるマイクロテクノロジーの応用により、組織のマトリクスに適したマイクロメートルスケールの寸法で細胞をパターニングすることが可能となった。しかしながら、以前に実証されたほとんどの研究は、単一の細胞または多数の細胞種の二次元パターンを作成することであり、細胞用の生体内と同様の三次元構造を作成する異なる層が積み重ねられた三次元のパターニングはほとんど存在しなかった。
【0005】
非特許文献1は、チャネル内に三次元パターンを生成するための再構成生体ポリマーマトリクスについて記述している。細胞−マトリクス収縮による一層ずつの毛細管マイクロモールド法(MIMIC)により、z次元で異種細胞層を堆積させることが可能となった。これに冠して、化学リンカーにより生体ポリマーマトリクスを担体表面に結び付けることにより、生体ポリマーマトリクスは表面に固定化される。しかしながら、このアプローチは一度に1つの細胞層のパターニングに制限され、生細胞を包囲するマトリクスを正確に制御することができない。
【0006】
同じ著者の別のアプローチ(非特許文献2)では、天然コラーゲンと、キトサンとコラーゲンの混合物、またはコラーゲン、キトサンおよびフィブロネクチンの混合物を使用してヒト肺繊維芽細胞およびヒト臍静脈内皮細胞を埋め込むためのマトリクスを作成した。ポリマーと細胞の混合物が送り込まれたBSAコーティングしたチャネルにてゲル化が起こったが、長いゲル化時間とこのゲル化を制御する手段が見当たらないことはECM様構造の作成に当たってこの方法の使用に制限があることを意味している。
【0007】
別のアプローチは、生細胞を含むヒドロゲルの三次元フォトリソグラフィーである(非特許文献3)。しかしながら、光重合で使用される光開始剤の細胞毒性はこの方法の大きな問題である。
【0008】
ある種類の細胞の機能および増殖能力は、細胞を包囲するマトリクスに大いに依存するため、異なる細胞種のためのマトリクスの作成に有効なシステムが依然必要とされている。
【非特許文献1】Wei Tan, M.S. and T.A. Desai, Biomaterials, 2004, Vol.25, P.1355- 1364
【非特許文献2】Wei Tan, M.S. and T.A. Desai, Tissue Engineering, 2003, Vol. 9, No.2, P.255-267
【非特許文献3】Liu and Bhatia, Biomedical Devices 2002, Vol.4(4), P. 257-266(発明の開示) 1態様では、本発明は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種を固定化する方法である。方法は、第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと、第1の荷電ポリマーと第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、少なくとも1つまたは少なくとも2つの細胞種のマトリクスを形成することとから成る。
【0009】
層流条件下で反対に荷電したポリマーを反応させる本発明の方法は、長い重合時間をかけずに迅速にその場(in situ)で生細胞を含むポリマーマトリクスを形成する効果的な
手段である。さらに本発明の反応は、細胞にとって非毒性の、細胞に優しく水性の条件下で起こる。さらに、本発明の方法を使用して形成されたポリマーマトリクスは、異なるポリマーの組み合わせの使用や、反対に荷電したポリマー反応条件および層流条件により、容易に改変することができる。複合コアセルベーションによる特定の重合反応のため、より大きな機械的安定性が達成される。同じ平面中を横に並んで流れるポリマーの層流および互いに上下に積み重なったポリマーの層流により形成された三次元マトリクス中での細胞培養によって、より複雑なパターニングが可能となり、したがって生組織の細胞に見出される条件の模倣が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態のフロー装置の平面図(図1A)および側面図(図1B)を示す。この実施形態では、フロー装置は2つの入口開口部3Aおよび3Bと、1つの出口開口部4とを備えている。入口開口部3および出口開口部4は、入口および出口溝5を介してそれぞれフロー装置の(反応)溝2に接続されている。この実施形態の溝5は図1Bに見られるように反応溝2に対して垂直に配置されている。
【0011】
図2は入口開口部3および出口開口部4が入口および出口溝5をそれぞれ介してフロー装置の(反応)溝2に接続された本発明の想定されるフロー装置の斜視図を示す。図2Aは3つの入口開口部3A、3B、3Cと、1つの出口開口部4とを備えたフロー装置の平面図を示す。図2Bは図2Aのフロー装置の側面図を示す。図1Bの溝5とは異なり、図2Bでは開口部(3,4)を反応溝2と接続する溝5が反応溝2に対して斜めに配置されている。図2Cおよび2Dにフロー装置の他の例が示されている。図2Cは2つの入口開口部(3Aおよび3B)と2つの出口開口部(4Aおよび4B)とを備えたフロー装置を示し、図2Dは3つの入口開口部(3A、3Bおよび3C)と3つの出口開口部(4A、4Bおよび4C)とを備えたフロー装置を示す。
【0012】
図3は交互になった層状ポリマー流(溝内の四角)が模式的に示されたフロー装置の長方形の反応溝2(長方形の周囲の細くて黒い線)を示している。これらの図3Aから3Eにおいて、層BからIまで(黒い境界線を有する白い四角)は少なくとも1つまたは2つの細胞種を含むことができる第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流を表している。層AおよびZ(黒い四角)は、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流を表わしている(AとZは同じポリマーであってもよいが、同じ電荷の異なるポリマーであってもよい)図3Aから
3Eは、種々の層状ポリマー流が種々の構成で結合されたフロー装置の反応溝2を示す。図3Aに示す反応溝2では、反対に荷電した層状ポリマー流AおよびBが横に並んで流れており、図3Bでは、層状ポリマー流AおよびBが互いに反応溝2で上下に積み重なって流れている。図3Cに示されたさらなる例では、第1(AとZ)および第2(BとC)の荷電ポリマーの異なる種類の層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられている。図3Dでは細胞を含む第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)が2つの第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(AとZ)の間に挟まれており、図3Eでは第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)が、異なる細胞種を含むいくつかの第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(BからIまで)によって包囲されている。
【0013】
図4は第1の荷電ポリマー(上部の流れ)としてのメチル化(正荷電)コラーゲンと第2の荷電ポリマー(下部の流れ)としての三量体(HEMA−MMA−MAA)とを反応させ、8分後にPBSで三量体の側を洗浄し、コアセルベーション反応(実施例1)を停止した後に形成された壁およびポリマーマトリクスを示す。壁およびコラーゲンゲルが形成されたことを示す透過光顕微鏡写真:(A)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体;(B)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび0.1wt% 高分子量三量体)。溝に沿った中間位置(ガラス底部から50μm)での共焦後方散乱画像:(C)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体;(D)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび0.1wt% 高分子量三量体;(E)3mg/ml メチル化コラーゲンおよび3wt% 低分子量三量体で形成されたポリマーマトリクスの1.5倍光学ズーム。(F)3mg/ml メチル化コラーゲンマトリクスおよび3wt% 低分子量三量体で形成されたコラーゲンマトリクスのSEM顕微鏡写真。このマトリクスは種々の細胞種に対する支持を提供するECM様構造を形成している。
【0014】
図5はポリマーマトリクス形成に対する種々の種類のコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3を参照)。3wt%三量体で形成されたコラーゲンマトリクスの画像の例:(A)低メチル化コラーゲン(CE指標1.4);(B)高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)。
【0015】
図6はポリマーマトリクスの形態の定量分析の結果を示す(実施例3を参照):(A)
1節当たりの平均樹状突起長さ;(B)1節当たりの平均樹状突起数[(□)低メチル化コラーゲン、(△)高メチル化コラーゲン]。
【0016】
図7はキャピラリー電気泳動により決定されたメチル化コラーゲンの溶出ピークにより特徴づけられたコラーゲンのメチル化度を示す。実施例3に記載されたメチル化度を定量する新しい方法に基づいて、図7から得られたデータに基づくCE指標を創成した。このCE指標は、下流ピークでの相対的な増加をメチル化度の増加であると見なす。CE指標は下流ピークの面積を上流ピークの面積で除することにより計算される(B面積/A面積)。
【0017】
図8は肝細胞解毒であるシトクロムP450依存性モノオキシゲナーゼ活性に対するコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3参照)。(A)レゾルフィンの平均蛍光強度によって定量化した7−エトキシレゾルフィン−O−デアルキル化(EROD)活性、;(B)7−ヒドロキシクマリン濃度によって定量化した7−エトキシクマリン−O−デエチラーゼ(ECOD)活性。[(斜線)低メチル化コラーゲン、(ドット)高メチル化コラーゲン]
図9はHepG2増殖に対するコラーゲンのメチル化の影響を示す(実施例3)。[(斜線)低メチル化コラーゲン(CE指標1.4);(ドット)高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)]。
【0018】
図10は、検体を含む液体が三次元ポリマーマトリクス中を潅流していることを実証する39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地にて4時間インキュベートした後の埋め込まれた肝細胞の共焦顕微鏡写真を示す(実施例2)。図10Aは死んだ肝細胞によるネガティブコントロールを示す。図10Bは溝の上流部分(底から中間のスライス)の眺めを示す。図10Cは溝の下流部分(底から中間のスライス)の眺めを示す。反応溝の両端を監視することにより、細胞が反応溝の至る所で機能的であることが実証された。溝の上流部分と下流部分の両方でポリマーマトリクスに埋め込まれていた肝細胞は、蛍光が強かった(左側の写真の細胞)が、これは肝細胞が機能的に活性なシトクロムP450活性を示したことを示している。
【0019】
図11は、反応溝において反対に荷電したポリマーの流量を変更した結果を示す(実施例4)。実施例4に記載されているように2つの流れの構成で形成されたコラーゲンナノ線維マトリクスのSEM顕微鏡写真。(A)および(B)構成1。(C)および(D)構成2。構成2の流れは三量体の流れから最も離れたより均質な疎な線維生成を生じた。図11A、BおよびD:上部の矢印対の間の領域は密な壁を示し;写真中央の矢印対の間の領域は密な線維を示し;下部の矢印対の間の領域は疎な線維を示す。図11C:上部の矢印対の間の領域は疎な線維を示し;写真中央の矢印対の間の領域は密な線維を示し、下部の矢印対の間の領域は密な壁を示す。
【0020】
本発明の方法では、生体適合性荷電ポリマーによって形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種が固定化される。この方法は、第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと、第1の荷電ポリマーと第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、少なくとも1つの細胞種のためのマトリクスを形成することとから成る。この方法によれば、同じ平面内に横に並んで配置されるか、互いに上下に積み重ねられるかの少なくともいずれかであるマトリクス層に埋め込まれた、種々の細胞のためのマトリクス構成を初めて形成することが可能となる。
【0021】
この方法は、生組織の細胞外マトリクス(ECM)構造により提供される条件に匹敵する条件で細胞を固定化する細胞マトリクスの生成を可能にする。「固定化」という用語は反対に荷電したポリマーとの反応時に、マトリクスを形成する荷電ポリマーに細胞が埋め込まれていることを意味する。そして、細胞はこのポリマーマトリクス内に固定されるが、まだ成長することができ、したがって、マトリクスにより提供される構造の中でその位置を(例えば細胞分裂の間に)変更することができる。したがってこの方法によれば、生体外(in vitro)で培養可能ないかなる細胞種をも成長させることを可能となる。また、この方法によれば、三次元マトリクスを必要とする細胞種および例えばペトリ皿または培養フラスコでの細胞の成長のような当該技術分野の周知技術の細胞培養法では培養できない細胞種の少なくとも一つの成長および研究が可能となる。他の細胞種と同時培養する必要のある細胞種も本発明の方法を使用して成長させることができる。
【0022】
1例では、真核細胞種が使用され、真核細胞種は哺乳動物細胞であってよい。細胞は第2の荷電ポリマーと混合され、次にその混合物は層流条件下で反対に荷電した第1のポリマーと反応させられ、ポリマーマトリクスを形成する。哺乳動物細胞種の例には、初代肝細胞、HepG2、骨髄間葉細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、ランゲルハンス細胞、心筋細胞、ケラチン生成細胞、乏突起膠細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、ニューロンおよび骨芽細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。本発明の方法で使用することができる他の細胞種は、植物細胞、酵母、両生類細胞、昆虫細胞および原核細胞から選択することができる。原核細胞は、エシェリキア属、バチルス属、およびラクトコッカス属であってよいが、それらに限定されるわけではない。これらの属の原核細胞のいくつかの例に、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)また
は乳酸菌(Lactococcus lactis)がある。
【0023】
上述の細胞が固定化されるマトリクスは、フロー装置の(反応)溝2の中で反対に荷電したポリマーを反応させると形成される。本発明の方法で使用することができる荷電ポリマーは反応してポリマー複合体となり、このポリマー複合体は液体によって潅流できると共に少なくとも1つの細胞種の正常な代謝機能を維持するのに必要な物質と、少なくとも1つの細胞種により放出された生産物とに対して浸透性の三次元ポリマーマトリクスを形成する。ポリマー複合体は、少なくとも1つの細胞種を含む第2の荷電ポリマーを第1の荷電ポリマーと反応させると形成され、第1の荷電ポリマーは、生理学的pHで反対に荷電した第2のポリマーと反応してポリマー複合体を形成するのに十分な電荷密度を有している。本発明の重合反応は、接触領域に一方のポリマーが蓄積することにより他方のポリマーが希釈される、コアセルベーション反応の典型例であると想定される。そのために、図4Aおよび4Bに示されるように薄いポリマーの「壁」が形成される。この壁の隣接する両側で、細胞が中で成長できるポリマーマトリクスの生成を引き起こす電圧降下が生じる。このようにECM様構造が模倣される。さらに以下に詳しく示されるように、コアセルベーション反応の反応条件は本発明ではかなり正確に制御することができるので、本発明の方法を使用して三次元ポリマーマトリクスの構造および密度の有効な制御を達成することができる。
【0024】
コアセルベーション反応は、その例が図1および2に示された、フロー装置の反応溝2で起こる。層状ポリマー流が層流条件下でフロー装置の溝に送り込まれる。ポリマーの圧送は液体流の層流の生成を可能にする装置であればいかなる装置でも行なうことができる。本発明の方法で使用することができるポンプは、2つだけ例を挙げると、容積移送式往復ポンプまたは計測シリンジポンプであってよい。可能な場合、層流条件は、単に溝の直径を調節して装置を通って流れる種々のポリマーの量を重力によって制御することにより、特別な装置がなくても達成することができる。
【0025】
一旦層状ポリマー流が互いに接触すると、反対に荷電したポリマーの重合反応が起こる。ポリマー複合体したがって三次元ポリマーマトリクスの生成には、重合反応が終了されるよう十分拡散するように層状ポリマー流を遅くすることが必要である。反対に荷電層状ポリマー流のコアセルベーション反応を使用すると、反対に荷電層状ポリマー流の接触後の2〜8分以内に三次元ポリマーマトリクスが形成される。非特許文献2によって記述された方法では、互いに上下に重ねられた2つのポリマー間にポリマーマトリクスが形成されるまでには15分よりも長い時間がかかる。非特許文献2によって記述された実験では天然コラーゲンまたはコラーゲンとキトサンとの混合物が使用された。ポリマーマトリクスが迅速に生成されると新しい培地によるマトリクスの早い時期の潅流が可能となり、これにより新しく形成されたポリマーマトリクスの脱水が回避できるので、ポリマーマトリクス生成のための時間フレームは重要である。このように、埋め込まれた細胞種の生存率は増加する。
【0026】
ポリマー複合体を形成するように反応していない荷電ポリマーを適切な液体培地で希釈することにより、重合反応は停止される。この「停止溶液(stop solution)」は例えば
リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、細胞培養培地、または新たに形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた細胞にとって有毒でない任意の他の液体培地であってよい。例えば、実施例1に説明されているようなメタクリル酸ヒドロキシエチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から構成された三量体のメチル化コラーゲンとの重合反応は、リン酸緩衝生理食塩液(PBS、pH7.0)、ダルベッコ(Dulbecco)改変イーグル培地(DMEM)、または改変チー(Chee)培地(Bibco BRL社のHep
taoZYM無血清培地)を用いて停止することができる。層状ポリマー流のうちの1つを停止溶液に置き替えることに加えて、入口開口部3を通るようフロー装置に層状ポリマ
ー流を送り込むと共に、フロー装置の反対側で出口開口部4を通って反応溝2に入るように停止溶液を送り込むことも可能である(例えば図2B参照)。このように、反応溝2は、半分は平行な層状ポリマー流により満たされ、半分は停止溶液により満たされて、2〜8分後に重合反応は停止される。反対に荷電したポリマー流と検体を含む液体培地との反応で形成されたポリマーマトリクスの有効な潅流が実施例2に示される。実施例2はポリマーマトリクスを収容する反応溝2に送り込まれたポリマーマトリクスに埋め込まれていた肝細胞による7−エトキシレゾルフィンの代謝について説明している。
【0027】
一旦三次元ポリマーマトリクスが完全に創成されると、このポリマーマトリクスに埋め込まれていた細胞種は生育させることも可能であり、または例えば実施例2および3に説明されているような種々の検体を含む種々の溶液に暴露させることも可能である。
【0028】
本発明の1つの利点は、「ポリマーストリップ」の形をした物理的に安定した三次元ポリマーマトリクスが生成されることである。このポリマーストリップの優れた安定性により、例えば非特許文献1に記載されている方法を使用してポリマーストリップをフロー装置から剥がすことができる。溝からポリマーストリップを剥がした後で、ポリマーストリップは、2つだけ選択肢を挙げると、イメージングおよび生物学的研究のためにバイオチップ上に固定することもできるし、またはバイオセンサおよびバイオリアクタに使用することもできる。さらにより安定したポリマーを達成するために、図3Dに示し以下にさらに詳しく説明するように、第1の荷電ポリマーの2つの層流の間に細胞を含む第2の荷電ポリマーの層流が挟まれた層状ポリマー流の構成を使用することが可能である。
【0029】
本発明の方法に使用することができるフロー装置の例が図1および2に示されている。適切なフロー装置は、層状ポリマー流が反応溝2に流れ込むことを可能にすべく溝5を介して反応溝2に流体接続(流体の行き来が可能であるように接続していること)された2つ以上の入口開口部3を通常備えている。さらに、そのようなフロー装置は、反応溝2に対して垂直または斜めを向いた反応溝5を介して反応溝2に流体接続された1または複数の出口開口部4を通常備えている。反応溝2に通じるか反応溝2から離れる溝5および開口部3,4の配置および数は、反応溝2内で重合して三次元ポリマーマトリクスを形成する層状ポリマー流の所望の構成によって決まる。
【0030】
層状ポリマー流の種々の構成の例が図3に示されている。1または複数の細胞種が同じ第2の荷電ポリマーに埋め込まれる場合、層状ポリマー流は図3Aおよび3Bに示すように配置され得る。この層状ポリマー流の構成の場合、図1Aに示されたように配置された入口開口部と出口開口部を備えたフロー装置が使用され得る。より詳細に説明すると、図3Aでは第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)は第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)と横に並んで流れているが、図3Bでは2つのポリマー流(A)および(Bは互いに上下に積み重ねられている。一旦、後に形成されるポリマーストリップの所望の長さまで反応溝が充填されると、第1および第2の荷電ポリマーは重合し、細胞を埋め込んだ三次元ポリマーマトリクスを形成する。
【0031】
さらなる実験および試験がフロー装置の溝で直接実行される予定の場合、図1Aに示されたような溝の配置は有利である。図2Aおよび2Dに示したようなフロー装置を使用すれば、図3Dに示したような種々の層状ポリマー流の配置が可能となる。この構成では、細胞を含む第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)が、2つの第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)の間に挟まれている。第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)は、形成されるポリマーマトリクスの所望の形式に依存して、同じ第1の荷電ポリマーを含んでもよいし、異なる第1の荷電ポリマーを含んでもよい。このサンドイッチ型の配置では、図3Aまたは3Bに示されたような構成に比べて、さらに安定なポリマーストリップの生産が可能となる。これは、ポリマーストリップが例えば
バイオチップ(この上に細胞を含むゲルストリップが将来の使用のために固定される)への使用のためにポリマー装置から剥がされる場合、有利であり得る。さらに、図2Dのフロー装置では図2Aに示されたフロー装置に比べてより大きな柔軟性およびより良好な制御が可能となる。例えば、出口開口部がより多いと、出口開口部の各々から別々に層状ポリマー流を吸引することが可能となり、これは種々の荷電ポリマーの流量のより良好な制御を可能にする。
【0032】
他方、ポリマーマトリクスに関して種々の要求を有する細胞種が使用される場合、図3Cに示されるような種々の層状ポリマー流の配置が有利であり得る。種々の細胞を埋め込んだ第2の荷電ポリマーの層状ポリマー流(B)および(C)と、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)および(Z)とを使用して、少なくとも4つの入力開口部(図示しない)を備えたフロー装置の反応溝で反対に荷電したポリマーを反応させて適切な三次元の細胞マトリクスを形成することができる。形成された三次元ポリマーマトリクスは液体により潅流することができ、代謝物質に対して浸透性であるため、そのような構成により細胞は互いに代謝物質を交換することが可能となる。この実施形態は、種々の細胞種の同時培養でのみ生育できる細胞種に特に適している。同時培養は、多くの高度に分化した細胞の分化した表現型を長期間維持することができ、その例には例えば類洞内皮細胞(DeLeve L.D. et al., Am J Physiol Gastrointest. Liver Physiol., 2004 June 10)、肝細胞(Harimoto M., et al., J Biomed. Mater. Res., 2002, Vol.62(3), P.464-470) または
クローンC2C12筋管(addressStreetCooper ST. et al., Cell Motil. Cytoskeleton, 2004, Vol.58(3), P.200- 211)が含まれる。胚性幹細胞または他の始原細胞の、他の細胞種との同時培養はそれらの分化を誘導することができる (Wang XY, et al., Surgery, 2003, Vol.134(2), P.189-196; Fair J.H., Brain Res. Dev. Brain. Res., 2002, Vol.137(2),
P.115-125。
【0033】
図3Eに示されるようなフロー装置(図示しない)の反応溝内の層状ポリマー流の配置は、浸透性のポリマーマトリクスの中を潅流される種々の検体と同時にいくつかの細胞種が試験される場合には有利であり得る。図3Eに示されるような実施形態では、第1の荷電ポリマーの層状ポリマー流(A)が第2の荷電ポリマーの数個の層状ポリマー流(B)−(I)と接触している。第2の荷電ポリマーの各層状ポリマー流(B)−(I)の各々は、少なくとも1つの細胞種を含んでいる。上記の例は本発明の1つのさらなる利点、すなわち使用される細胞種の要求に従って容易かつ迅速に構成可能な種々のポリマーマトリクス構成を形成することを示している。層状ポリマー流の横並びの流れが、層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられた構成と同様に可能である。種々の層状ポリマー流が互いに上下に積み重ねられた構成(図3Bから3Eまで)は、それらがより詳しく生組織におけるECM構造を模倣することを可能にするため、特に重要である。
【0034】
天然ポリマーおよび改変ポリマーはいずれも本発明の実施の際の荷電ポリマーとして使用するのに適している。これに関して、「荷電」という用語は、ポリマーが溶液中に存在するときに正味荷電を有している、すなわち正か負のいずれかに帯電していることを意味する。従って、「2つのポリマーが同じ電荷を有する」という用語は、それらのポリマーがいずれも正または負のいずれかの正味荷電を有しているが、その正確な値(例えば九龍で表される)は異なっていてもよいことを意味する。このように、「同じ電荷」という用語は、定量的にではなく定性的に理解されるべきである。
【0035】
本発明に使用されるポリマーは、通常水溶性かつ生分解性であり、さらには少なくとも10kDaの分子量を通常有する。本明細書に使用する場合、第1の荷電ポリマーは負に荷電され得る。そのような場合、第2の荷電ポリマーは当然ながら正に荷電される。代替例では、第1の荷電ポリマーが正に荷電され、第2の荷電ポリマーは負に荷電される。
【0036】
本発明で使用するのに適したポリマーには、数例のみを挙げると、キトサン、ポリアニオンアルギン酸、正荷電コラーゲン、負荷電コラーゲンポリアニオンアルギン酸、Ca2+、またはポリカチオン(L−リジン)のような合成ポリマー、および(アクリル酸)、(メタクリル酸)、(メタクリル酸)または(アクリル酸メチル)を含むコポリマーまたは三量体が含まれる。
【0037】
有用な三量体は、アクリル酸およびメタクリル酸のうちの少なくとも1つと、メタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸ヒドロキシプロピルうちの少なくとも1つとを含む2つのポリマーブロックから成り得る。そのような三量体は、約10%−50%メタクリル酸ヒドロキシエチル、約10%−50%のメタクリル酸、および約50%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成り得る。そのような三量体の例は、25%のメタクリル酸ヒドロキシエチル、約25%のメタクリル酸、および約50%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成る(Chia et al., Tissue Engineering 2000, Vol.6(5), P.481-495)。別の例では、三量体は、25%のメタクリル酸ヒドロ
キシエチル、約50%のメタクリル酸、および約25%のメタクリル酸メチル(HEMA−MAA−MMA)から成る。本発明の方法に使用可能な他の三量体はShao Wen et alにより記載されており、Shao Wenらは生細胞を埋め込むために種々の組成から成る三量体を使用した(Shao Wen, Yin Xiaonan and W.T.K. Stevenson, Biomaterials, 1991 , Vol.12
May, P.374-384; Shao Wen, H. Alexander et al., Biomaterials, 1995, Vol.16, P.325- 335)。これらの三量体はHEMA−MMA−MAAまたはHEMA−MMA−DMA
EMA(カチオン2−(ジメチルアミノ)メタクリル酸エチル)から成るが、後者の三量体は正に荷電している。
【0038】
上記のグループからのポリマーの組み合わせを使用して、コアセルベーションにより、生細胞を埋め込むためのポリマーマトリクスを形成することができる。第1の荷電ポリマーが第2の荷電ポリマーと反応させられるポリマーの組み合わせの例には、以下のものが挙げられる(第2の荷電ポリマーについてまず言及し、次に第1の荷電ポリマーについて言及する):キトサン−負荷電三量体、ポリアニオンアルギン酸−Ca2+、正荷電コラーゲン−負荷電三量体、負荷電コラーゲン−正荷電三量体(Shao Wen, Yin Xiaonan and W.T.K. Stevenson, Biomaterials, 1991 , Vol.12 May, P.374-384)、ポリアニオンアルギン酸−ポリカチオンポリ(L−リジン)。
【0039】
反応溝2内に2よりも多くの荷電ポリマーが互いに上下に積み重ねられる場合(図3C参照)には、様々な種類のポリマーを使用することができる。三量体とコラーゲンの交互の層の組み合わせが互いに上下に積み重ねられるだけでなく、コラーゲンと三量体の後でキトサンが続き、その後再び三量の層が続き、その後再びコラーゲンまたはキトサンが続いてもよい。コアセルベーション反応では、2つの反対に荷電したポリマーが互いに上下に積み重ねられて、その中に埋め込まれる細胞に適したポリマーマトリクスが形成されることが重要である。ポリマーの選択に影響を及ぼす他の要因は、埋め込まれる細胞種である。細胞種に依存して、その細胞種に適した生体適合性ポリマーが選択されなければならない。また、別のものと反応しているポリマーは生育用に使用される細胞種に適したポリマーマトリクスの構造を提供するはずである。適切なポリマーは上述した通りである。
【0040】
コラーゲンを始めとするポリマーは、その天然型では負にも正にも荷電していないため、本発明で使用するためにそれらは改変する必要がある。そのようなポリマーを改変する技術は当該技術分野において周知である。例えばChia et al (Tissue Engineering, 2000, Vol. 6(5), P.481-495)では、低分子量アルコールによるカルボキシル基のエステル化
によりカチオンコラーゲンが得られた。Donald G. Wallace および Joel Rosenblatt (Advanced Drug Delivery Reviews 2003, Vol.55, P.1631-1649)に記載された方法によれば
、例えば負荷電コラーゲンを得ることができる。電気的に正味の電荷を有するように改変
可能な非荷電ポリマーの他の例にはポリ(ビニルアルコール)や、デキストランおよび(紅藻から得られた)カラギーナンファミリーの多糖のようなさらなる多糖が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0041】
任意選択で、天然で荷電しているポリマーを改変して、反応パートナーとして使用される反対に荷電したポリマーの電荷と(さらに)一致させることもできる。ポリマーマトリクスの浸透性に影響を及ぼすために種々の電荷を使用することもできる。反対に荷電したポリマー間の電荷密度の差が大きいと、膜がより浸透性になる傾向がある。
【0042】
重合は、細胞が生存する必要のある培地から細胞を物理的に分離するため、細胞にとって、ポリマー複合体により形成された細胞膜は埋め込まれた細胞の存続に不可欠な栄養素を浸透することが必要である。また、本発明の方法により得られたポリマーマトリクスが例えば有害物質用の試験マトリクスとして使用される場合には、他の液体がマトリクスに浸透されることも必要である。実施例2に見られるように、本発明のポリマーマトリクスは三次元ポリマーマトリクスに埋め込まれた細胞の存続に必要な代謝物質を輸送する液体培地を浸透させることが可能である。
【0043】
本発明の方法によれば、ECM様マトリクスを構成することが可能であり、それらのマトリクスは反応溝2での荷電ポリマーの複合コアセルベーションにより形成される。この複合コアセルベーションは、本発明の方法を使用して有効に制御することができる。荷電ポリマーの分子量、電荷密度および濃度ならびに反応溝での反対に荷電したポリマーの反応時間を変えることにより、膜に埋め込まれた細胞種の要求に応じて膜の浸透性および輸送性を調節することができる。
【0044】
ポリマーマトリクスの生成に対する種々の電荷密度の影響および埋め込まれた細胞の機能に対するそれらの電荷密度の影響は、第2の荷電ポリマーとして使用されるコラーゲンの電荷密度を調節することにより実証される。Chia et al. (Tissue Engineering 2000, Vol.6, P.481-495)により記述された方法を使用すると、タイプIウシ皮膚コラーゲン(Vitrogen、Cohesion Technologies Inc. カリフォルニア州パロアルト)がメチル化によりカチオンに改変される。
【0045】
メチル化度は、実施例3に記載されるようにポリマーの反応時間および反応温度の調節により制御される。メチル化度は、発明者によって開発され、実施例3に説明されたキャピラリーゾーン電気泳動方法を使用して決定される。この新しい方法を用いる際に、本発明の方法で使用されるポリマーのメチル化度を監視するためのCE指標が発明者により提案される。ポリマーのメチル化の増加はこのCE指標の増加と関連付けられる。例えば、低メチル化ポリマーは約0.9から約1.7の間のCE指標を有し、高メチル化ポリマーは約1.7から約2.5の間のCE指標を有する。
【0046】
低メチル化コラーゲン(CE指標1.4)が第1の荷電ポリマー(例えばHEMA−MMA−MAA)と反応するために使用される場合、ポリマーの反応で形成されるマトリクスは、図5Aから理解されるように、架橋が多く、厚い線維から成る。他方、高メチル化コラーゲン(CE指標1.9)を使用すると、架橋が少なく、薄い線維となる(図5B参照)。したがって、低メチル化コラーゲンと高メチル化コラーゲンにより形成sれた樹状突起の平均長さと平均数を比較する図6Aおよび6Bから理解されるように、コラーゲンのメチル化の増加はより断片化したマトリックスの形態と相関がある。
【0047】
種々のメチル化コラーゲンにより形成されたポリマーマトリクスは、そこに埋め込まれた細胞の機能に影響を及ぼす。実施例3に記載されているように、初代肝細胞の解毒機能は、それが低メチル化コラーゲン(CE指標1.4)に埋め込まれているかまたは高メチ
ル化コラーゲン(CE指標1.9)に埋め込まれているかどうかに依存して影響を受ける。ポリマーマトリクスを形成するために低メチル化コラーゲンが使用された場合には(図8Aおよび8B)、初代肝細胞の解毒活動はより高かった。対照的に、HepG2細胞の増殖は低メチル化コラーゲンよりも高メチル化コラーゲンでの方がより大きかった。
【0048】
したがって、ポリマーの電荷密度に影響を及ぼすことによりポリマー複合体の生成を制御する上述の提案された方法は、種々のレベルの細胞の支持を提供するようマトリクスの形態を調節できることが実証された。詳細には、異なる繊維の架橋を備えたマトリクス中で細胞の機能が選択的に増大されたため、生細胞を支持するポリマーマトリクスの正確な制御は細胞の支持および機能において重要である。
【0049】
ポリマーマトリクスの構造に影響を及ぼす方法としての別の例は、ポリマーの分子量とその濃度を変更することである。1つの実験において、第1の荷電ポリマーとしてのHEMA−MAA−MMAと、第2の荷電ポリマーとしての正荷電(メチル化)コラーゲンとを使用して、ポリマーマトリクスを形成した(実施例1)。ポリマーマトリクスの構造は、異なる分子量および濃度の三量体HEMA−MAA−MMAの使用により変更された。低分子量で高濃度(3 wt%)のHEMA−MAA−MMAにより形成されたポリマーマトリクス(図4A、C、EおよびF)は、高分子量で低濃度(0.1 wt%)のHEMA−MAA−MMAにより形成されたポリマーマトリクス(図4BおよびD)よりも、網状構造が多く、網目が広い。
【0050】
本発明の方法の反応条件に影響を及ぼす別の選択肢は、反対に荷電したポリマーの反応時間を変更することである。これは静止反応時間または動的反応時間の変更により行うことができる。動的反応時間とは、反対に荷電したポリマーが反応溝を通って互いに接触して流れている間に接触する時間を意味する。静止反応時間とは、反対に荷電したポリマーが溝を流れることを停止した場合に溝内でそれらの接触する時間を意味する。実施例4に記載されているように、静止時間を動的反応時間と比較して増加させた反応時間状態で形成されたポリマーマトリクスは、大量の疎な線維および断面で見るとより均質な線維マトリクスを形成した(図11参照)。
【0051】
異なる粘性を有する層状ポリマー流に関する流れのシミュレーションによれば、一方の流れの粘性が他方よりも大きくなればなるほど、層状ポリマー流の間の境界は粘性の小さい側により押しやられることが明らかとなった。形成されたポリマーマトリクスの構造は、実施例1、2ならびに特に4から理解できるように、反応溝内の反対に荷電したポリマーの反応時間を制御することにより影響を受け得る。典型的な実施形態では、荷電ポリマーの反応時間は通常約30秒から約8分の間であるが、それより長い反応時間であることもあり、例えば30分まで可能である。適切な反応時間は経験的に決定することができ、この決定は当業者の技術常識内である。
【0052】
本発明の方法と共に使用可能なフロー装置は、生体適合性であるいかなる材料から形成することもできる。生体適合性材料には、ガラス、シリコン、特定の種類の金属および重合可能材料が含まれるが、それらに限定されるわけではない。重合可能材料には、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、マイラー(商標)、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フルオロシリコーンまたはそれらの組み合わせの単量体またはオリゴマー構造ブロック(すなわちすべての適切な前駆物質分子)ならびにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態では、生体適合性材料はPVDFおよびPDMSの少なくとも一方を含む。PVDFとPDMSの利点はそれらの価格の安さと優れた生体適合性にある。さらに、それらはガス浸透率が高く、この特性は、細胞の呼吸を確保するために
細胞培養物への供給酸素の浸透を促進するため、閉鎖系のマイクロデバイスにおいては重要な特性である。さらに、それらは透明なので、好都合にも細胞の形態の直接観察を観察装置(例えば顕微鏡)で行うことが可能となる。
【0053】
本発明の方法で使用されたフロー装置の溝5,2は、それらが層状ポリマー流の層流が互いに接触するのに適している限り、いかなる形状および寸法であってもよい。溝は例えば長方形であってもよいし、他の多角形や、丸形であってもよい。長方形の溝の寸法は、幅が10μmから800μmの間で、高さが10μmから600μmの間であってよいが、これに限定されるわけではない。反応溝の長さはその中に形成されるポリマーストリップの使用に基づいて決定される。典型的には、反応溝の長さは約0.4μmから約6cmであるが、この長さ限定されるわけではない。
【0054】
荷電ポリマー流のフロー条件(層状または乱流)は、無次元のレイノルズ数(Re)に依存すると共に、使用されるポリマーの密度および粘度に依存する。
Re=(流体密度)(平均流体粘度)(特性長さ)/(流体動的粘度)
レイノルズ数が2000未満の値を有する場合、「層流条件」が与えられ、このように容易に決定することができる。生体内条件をシミュレートするための層流条件の使用は(Proc. Natl. Aca. ScL, May 1999, Vol.96, P.5545-5548)によって記述されている。こ
の研究では、液体培地の層流を使用して細胞培養基質のパターニングがシミュレートされた。本発明の方法では、液体の代わりに層状ポリマー流を使用して、三次元マトリクスおよび細胞を同時にパターン化した。
【0055】
本発明の方法を使用した1つの実験では、実施例1に記載されたように準備されたフロー装置(図1Aと図3Aを参照)を使用した。このフロー装置の長方形の反応溝は、約3.5cmの長さ、約200μmの高さ、および約400μmの幅を有していた。第2の荷電ポリマー(B)として正に荷電コラーゲンを使用し、第1の荷電ポリマー(A)として実施例1に説明したような負荷電HEMA−MMA−MAA三量体を使用した。2つのポリマー流は図3Aに見られるように横並びの構成で流れる。そのような構成に使用することができる層流条件が表1に記載されている。
【0056】
本発明の方法に使用されるポリマーの平均粘度は通常、約0.003kg/m*sから0.009kg/m*sの間にあり、ポリマーの密度は約997kg/m3の間にある。
本発明で特徴付けられた溝およびポリマーの寸法を使用すると、そのような溝のレイノルズ数は通常低く、層流を生成するための条件を満たす。表1に記載されたシステムでは、例えばいずれのポリマー流でもReは4未満である。
【0057】
【表1】
本発明の別の態様は、生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに細胞を固定化し、マイクロメートル寸法の移植可能な組織を生成し、生理学的組織の生体外モデルを生成し、およびバイオテクノロジーにおける組換えタンパク質の製造用の細胞培養物を還流させるために使用可能なバイオリアクタを生成するための、本発明の方法の使用である。本発明の方法は、組織工学における細胞増幅、治療用途での幹細胞分化の製造および制御、イメージングおよび生物学的研究に使用可能な細胞バイオチップ(例えば異種細胞−細胞相互作用の研究のための潅流同時培養物、せん断力、細胞の挙動についての成長因子勾配および酸素勾配の作用を研究するための潅流培養物)、およびADME/Tox、ハイスループットスクリーニング(HTS)、バイオセンサおよび癌診断のための細胞バイオチップに使用することができる。マイクロ寸法の移植可能な組織は、骨移植用の骨芽細胞やランゲルハンス島移植用の小島のような細胞を備えたマイクロパターン化された足場として使用することができる。
【0058】
実施例1
実施例1は、第2の荷電ポリマーとしてメチル化された(正荷電)コラーゲンと、第1の荷電ポリマーとしてヒドロキシエチルメタクリル酸−メタクリル酸メチル−メチルアクリル酸(HEMA−MMA−MAA)の(負荷電)三量体を層流条件下で層状反応させることによるその場でのポリマーマトリクス形成を示す。
【0059】
この実施例では、異なる濃度のコラーゲンおよび異なる分子量の三量体から構成された、2つの異なる組み合わせのポリマーが使用される。ポリマーマトリクスの生成は、カチオンメチル化コラーゲンとHEMA−MMA−MAAのアニオン三量体との間の多電解質複合体コアセルベーションに基づいている。このポリマーマトリクスは、細胞の支持および増殖に対して好ましい三次元微小環境を提供することが示された(Chia et al., Tissue Engineering 2000, Vol.6(5), P.481-495)。異なるポリマーの組み合わせを使用して
形成されるポリマーマトリクスの構造物の制御を例証するために、2つの異なるポリマーの組み合わせが使用される。2つの組み合わせは、2つの多電解質間の最適の電荷バランスに基づいて選択される。
【0060】
タイプIウシ皮膚コラーゲン(Vitrogen, Cohesion Tchnologies Inc., カリフォルニ
ア州パロアルト)は、Chiaら(2000年、前掲)によって記述されているようにコラーゲン鎖のカルボキシル基のエステル化によりカチオン化される。HEMA−MMA−MAAの三量体は、Chiaら(2000年、前掲)により、25:50:25のHEMA、MM
AおよびMAAの供給比での溶液重合により合成される。ゲル浸透クロマトグラフィを使用して2つの三量体の分子量(MW)を特徴付ける。これらは低いMWが80.5 kDAで高いMWが849.3 kDaであることが分かった。コラーゲン溶液と三量体溶液はいずれも1×リン酸緩衝生理食塩溶液(PBS)でそれぞれの濃度に再構成される。2つのポリマーの組み合わせは以下のとおりである:
(i)3mg/ml メチル化コラーゲンと3wt% 低MW三量体
(ii)3mg/ml メチル化コラーゲンと0.1wt% 高MW三量体
図1に示したような装置の反応溝を、その迅速な試作品製作が容易であるため、ポリ(ジメチルシロキサン重合体)(PDMS)エラストマーより構成する。溝の設計はコンピュータ支援設計(AutoCAD)プログラムにより行い、これを用いて、ポリカーボネートのコンピュータ数値制御(CNC)機械加工によりPDMS鋳型を構成するためのマスタを製造した。PDMS構造を製作するためのマスタを製造するためには、光硬化エポキシSU−8の使用(Tan W. and Desai T. A., Tissue Engineering 2003, Vol.9(2), P.255-267)を始めとする様々な他の方法を使用することができ、平行に並んだマトリクスポリマーが層流の様式(Reが2000未満)で接触することが可能である限り、ガラスまたはシリコンのエッチング(McDonald et al., Electrophoresis 2000, Vol.21(1), P.27-40)を始めとする溝を形成するための他の技術も使用することができる。小さな溝(
200μm以下)および低い流速(50μl/h−1000μl/hの間)の典型的な微小流体条件下では、Reはほとんど常に低い。この例証的なシステムではReは2未満である。PDMS鋳型を作成するために、液体PDMSプレポリマー(ベースポリマー:硬化剤が1:10の混合物)をマスタの上に注ぎ、60度で1時間硬化させる。穿孔機を使用してPDMSに小孔を開け、入口と出口を作成する。最後に、プラズマ酸化によりガラスカバーストリップ上にPDMSを不可逆的に密封し、溝を形成する。この実験では、長方形の反応溝は、約3.5cmの長さ、約200μmの高さ、および約400μmの幅を有する。
【0061】
メチル化コラーゲン(上部流)および三量体(下部流)は、シリンジポンプ(Fisher ScientificのKD科学シングルシリンジ注入ポンプ)を使用して、制御された流速(表2参
照)で図1Aの入口開口部3Aおよび3Bを介して2つのY字形アームで反応溝2に反応へ伝えられる。合一された層状ポリマー流は、出口開口部4を介して溝5の終端で大気へ出るようにされる(図1B参照)。コラーゲン側にポリマーマトリクスを生成した後、三量体側はPBSで洗浄され、潅流される。光学顕微鏡、60×ウォーターレンズを用いた共焦後方散乱細胞顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を含めた種々の方法を使用して、形成されたポリマーマトリクスを特徴づけることができる。
【0062】
両方のポリマー組み合わせ(i)および(ii)について、2つの層状ポリマー流を接触させると、2つの荷電ポリマー間に壁が形成される。構成(i)の場合、両層状ポリマー流が徐々に遅くされ、層状コラーゲン流は次第に100μl/hへ、その後ゼロへ減少されると、ポリマーマトリクスは形成され、溝のコラーゲン側を満たす(図4A、4C、4Eおよび4F)。体積流量に関するより多くの詳細が表2に与えられる。しかしながら、構成(ii)の場合、厚くて密度の高い壁(図4に白い矢印によって示される)が形成された後、層状コラーゲン流側のコアセルベーションは最小である(図4B、4D)。これは、より高い分子量の三量体のより長い鎖では鎖のもつれ効果が大きく、これが複合体形成時の荷電ポリマーのさらなる相互作用を制限するためである(Wen S., et a., Biomaterials 1991, Vol.12, P.479-488)。8分後にPBSで洗浄してコアセルベーション反
応を停止した後、壁およびポリマーマトリクスが保持され、ポリマーマトリクスを液体で連続的に潅流することが可能となる。
【0063】
【表2】
上述の反対に荷電したポリマーを層状に流す方法は、天然コラーゲンまたは天然コラーゲンとキトサンの溶液で(Tan W. and Desai T.A. 2003、前掲)細胞に非毒性の穏やかな水性条件下で流すことにより要求される15−20分という長いコアセルベーション時間なしで、その場で迅速にポリマーマトリクスの微細パターンを形成する有効な手段である。
【0064】
上記の実施例は、種々のポリマーの組み合わせの使用により、結果として得られる形成ポリマーマトリクス微細パターンを操作することができることを示す。三量体がコアセルベーション反応を停止するためにPBSで洗浄された後でも、ポリマーマトリクスはその構造的完全性を保持していた。これは、細胞の生存性および機能性の支持のために培地によって細胞マトリクスの微細パターンを動的に潅流できる可能性を実証している。
【0065】
実施例2
本実施例は、三次元ポリマーマトリクスを、検体を含む液体培地で潅流させることができることを示す。この目的で、(図3Aに略図で示したような)メチル化コラーゲンとメタクリル酸ヒドロキシルエチル−メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル(HEMA−MMA−MAA)の三量体との横並びの層状流により形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞の解毒機能について調べた。
【0066】
この実験では、新鮮な単離ラット肝細胞をメチル化コラーゲンに懸濁し、この細胞を含有するメチル化層状コラーゲン流を三量体の隣接する層流と複合コアセルベートさせた。形成されたポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞を24時間培養し、その7−エトキシレゾルフィンO−脱アルキル(EROD)活性により肝細胞解毒機能を評価した。本実験で使用されるメチル化コラーゲンおよび三量体HEMA−MMA−MAAは、実施例1に説明した通りに得た。また、PDMSマイクロチャネルも実施例1に説明した通りに構成された。新鮮な単離肝細胞は3x106/mlの濃度でメチル化コラーゲンに懸濁させ
た。細胞を含有するメチル化コラーゲンと三量体の流れの流速を表3に与える。
【0067】
【表3】
表3で示された流速を使用してポリマーマトリクスを形成した後、三量体の流れをHepatoZYM無血清培地(GIBCO Laboratories)と置換して肝細胞培養用に200μl/hで潅流させた。
【0068】
24h後、肝細胞の7−エトキシレゾルフィンO脱アルキル(EROD)活性により、肝細胞解毒機能を評価した。簡潔に述べると、それには39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地での4時間の潅流および共焦蛍光顕微鏡(Olympus Fluoview 300)によるそれらの代謝産物すなわち非常に蛍光の強いレゾルフィンの定量が含まれた。ネガティブコントロールについては、死んだ肝細胞を同様に7−エトキシレゾルフィン中でインキュベートし、それらを用いてP450 ERODアッセイのバックグラウンドを設定した(図10A参照)。
【0069】
反応溝の上流部分(図10B)および下流部分(図10C)の両方でポリマーマトリクスに埋め込まれた肝細胞は非常に蛍光が強く、これは肝細胞が機能的に活性なシトクロムP450活性を示したことを示している。オリジナルの三量体ポートを介したポリマーマトリクスへの検体の潅流は有効であり、反応溝じゅうでマトリクスに埋め込まれた細胞により吸収された。
【0070】
実施例3
本実施例は、第2の荷電ポリマーとしてのメチル化コラーゲンと、第1の荷電ポリマーとしてのHEMA−MMA−MAA三量体との間のポリマー電解質複合コアセルベーション反応を使用して、細胞の挙動と重要な関係を有するコラーゲンマトリクス形成を操作することを例証している。三量体と複合コアセルベート反応させて、ポリマーマトリクスの形態を変更して最適な細胞支持のための微小環境を設計するために、異なるメチル化度のコラーゲンを使用する。2つの肝臓由来のモデル細胞タイプである初代肝細胞およびHepG2細胞系を選択し、細胞機能に対するポリマーマトリクスの形態の影響について検討する。HepG2は、感度が高く、最終的に分化し、生体外での分化された機能の維持には特定の化学的および位相幾何学的な細胞外マトリクス(ECM)の糸口を必要とする初代細胞を表すが、HepG2は接触阻止に遭遇しない限り培地中で比較的容易に増殖することができる形質転換細胞系を表わす肝細胞系である。
【0071】
コラーゲンは実施例1に説明したようにメチル化によりカチオンに改変される。メチル化度は反応時間と温度を調節することにより制御される。簡単に説明すると、沈殿したコラーゲンを酸性メタノールに溶解し、4℃で6日間(低メチル化)および23℃で1日(高メチル化)それぞれ攪拌する。メチル化度はキャピラリゾーン電気泳動により特徴づけ
られる。キャピラリゾーン電気泳動(CE)法は、コラーゲンメチル化度の定量化に関して開発されたものである。
【0072】
種々のメチル化コラーゲンの分離を、CE−L1(CE Resources Pte Ltd,シンガポー
ル所在)で行なう。使用されるポリビニルアルコール(PVA)でコートされた毛細管(50μm ID x 360μm OD x 70cm長、45cm有効長)も、CE Resources Pte Ltd(シンガポール所在)から得られる。分離は21℃で0.05%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC) 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.5)で行う。分離電圧は22kVであり、UV吸光度は200nmで検知される。コラーゲンサンプルを圧力(0.3psix15s)(注:0.3psi=2068.43Pa)により毛細管に導入する。PVAコート毛細管は、最初の使用前に蒸留水で3分間洗浄する。最初の条件設定後は、各分析の間に、コーティングされた毛細管を1分間蒸留水で、3分間0.05% ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC) 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で洗浄する。使用される化学物質はすべて分析的グレードであるかまたは利用可能な最も高い純度のいずれかである。塩酸、リン酸ナトリウム、メタノールおよび水酸化ナトリウムをMerk&Co.(アメリカ合衆国ニュージャージー州)から得る。HPMC(VISC,2wt%水溶液、5CPS)はSigma-Aldrich Co.(アメリカ聖合衆国ミズーリ州セントルイス)から購入した。アセトンはTedla Company Inc(アメリ
カ合衆国フェアフィールド)から購入する。すべての緩衝液および溶液はMillli-Q シス
テム(アメリカ合衆国ウィスコンシン州バーンステッド)で精製した水により調製する。
【0073】
メチル化コラーゲンは、異なるメチル化反応条件で変化する4つの主要バンドに分離される(図7)。コラーゲンのメチル化は、下流ピークのサイズの相対的増加と相関がある。コラーゲンのメチル化度を定量するために、下流のピークの相対的成長をメチル化の増加度と見なすCE指標が開発された。CE指標は、下流ピーク面積を上流ピーク面積で除することにより計算される(図7のB領域/A領域)。コラーゲンのメチル化の増加はCE指標の増加と相関する(表4)。低メチル化コラーゲンのCE指標は0.9と1.7の間にあり、高メチル化コラーゲンのCE指標は1.7と2.5の間にある。HEMA−MMA−MAA三量体は実施例1で説明されるように合成された。
【0074】
【表4】
ポリマーマトリクス形成の特徴づけの研究のため、1.5mg/mlのメチル化コラーゲンをシリンジポンプ(30.5G針)を使用して3wt%三量体に注入して三量体と接触させ、共焦後方散乱細胞顕微鏡(Olympus Fluoview 500)を使用して、60倍ウォーターレンズを使用して形成されたポリマーマトリクスをイメージングする。イメージ処理およびマトリクスパラメータの定量的評価のために、Image-Pro Plus 4.51を使用した。
【0075】
細胞研究については、以前に記述された2段階インサイチュコラゲナーゼ潅流(Seglen
P.O., Methods Cell Biol. 1976, Vol.13, P.29-83)にいくつかの修正を加えたものに
より、肝細胞を雄Wistarラットから採取する。細胞を、シリンジポンプに取り付けられた
30.G針から三量体に注入して三量体と接触させる前に、5x106/ml(肝細胞)
または8x105/ml(HepG2)の細胞密度でメチル化コラーゲン中に懸濁させる
。ポリマーマトリクスに支持された肝細胞およびHepG2細胞を、37℃、5%CO2
湿り雰囲気中で、ウシ胎児血清(10%)およびHEPES(1g/l)を補足したHepatoZYM−SFM(GIBCO Laboratories)およびDMEMにて培養する。肝細胞の解毒機能を、肝細胞の7−エトキシレゾルフィン−O脱アルキル化(EROD)活性および7−エトキシクマリン−O−デエチラーゼ(ECOD)活性により評価する。簡単に説明すると、これには39.2μM 7−エトキシレゾルフィン 5時間(EROD)および0.26mM 7−エトキシクマリン 3時間(ECOD)の添加ならびにそれらの代謝産物の共焦蛍光顕微鏡(EROD)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)(ECOD)による定量が含まれる。経時的なHepG2細胞の増殖を顕微鏡(Olympus Fluoview 500)により監視する。
【0076】
三量体と反応させると高メチル化コラーゲンによって薄く断片化したポリマーマトリクスが形成され(図5A)、対照的に、低メチル化コラーゲンによって厚く接続されたポリマーマトリクスが形成される(図5B)。マトリクスの形態に対するコラーゲンのメチル化の効果の定量するために、1切片当たりの節ごとに接続された樹状突起の長さの平均合計として定義される平均樹状突起長および1切片当たりの節ごとに接続された樹状突起の平均合計として定義された平均樹状突起数をzスタックで10枚の中心スライスについてプロットする(図6A、6B)。図6から、(繊維長およびマトリクス内の分岐をそれぞれ表す)高メチル化コラーゲン(△)の平均樹状突起長および樹状突起数は、一貫して低メチル化コラーゲン(□)のそれよりも低い。したがって、コラーゲンのメチル化の増加はより断片化したマトリクスの形態と相関され得る。
【0077】
高メチル化コラーゲン(ドット)により形成されたポリマーマトリクスと比較して、低メチル化コラーゲン(斜線)により形成されたより接続しているポリマーマトリクスに支持された時、それらのERODおよびECOD活性(図8A、8B)により示される肝細胞の解毒機能は、培養の4日間すべてで有意に高かった。代謝産物の測定のためのHPLCを使用するECODスキームは、より多くのシトクロムP450酵素(CYP1A1、CYP2A6、CYP2C8−9、CYP2E1)のモノオキシゲナーゼ活性を試験するより正確な測定法であるが、ERODおよびECODの両方の測定により2つの微小環境のチトクロム酵素活性には有意な差が見出される。対照的に、Daynに対するDayn+1のマイクロカプセル中の細胞数の比として定義される高メチル化コラーゲン中のHepG2細胞増幅は、1.5倍だけ低メチル化コラーゲンよりも大きい。平均で、高メチル化コラーゲン(ドット)および低メチル化コラーゲン(斜線)の細胞増幅は、それぞれ2倍/日および1.3倍/日である(図9)。したがって、低メチル化コラーゲンにより形成されたポリマーマトリクスの接続ナノ線維は、肝細胞の分化機能を増強した。他方、高メチル化コラーゲンにより形成された断片ナノ線維はHepG2細胞の増殖に優勢であった。
【0078】
したがって、複合コアセルベーションによりポリマーマトリクス生成を制御する提案された方法が、種々のレベルの細胞支持を提供するようマトリクスの形態を調節できることが実証された。詳細には、肝細胞機能およびHepG2増殖が異なるポリマーマトリクス接続性を備えた微小環境で選択的に増大されるため、生細胞を支持するポリマーマトリクス構造の正確な制御が細胞の支持および機能において重要であることが示された。
【0079】
実施例4
以下の実施例は、流量の変化が、メチル化コラーゲンおよびメタクリル酸ヒドロキシエチル−メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル(HEMA− MMA−MAA)三量体の横並びの層状流により形成される三次元ナノ線維ポリマーマトリクスの形成をどのように変化させるかを実証する。表5から見られるような2つの流れの構成が使用された。構成
2では、層状コラーゲン流が静止(流速=0)である時間を増加させた。
【0080】
実施例1に説明した通りに改変および合成した3mg/mlメチル化コラーゲンおよび3wt%三量体を反対に荷電したポリマーとして使用した。PDMS溝を実施例1に説明した通りに構成した。メチル化コラーゲンおよび三量体の流れに対して使用した2つの流れの構成を表5に与える。
【0081】
【表5】
表5で示した流量を使用してポリマーマトリクスを生成した後、三量体流れを1×PBSで置換し、重合反応を停止するために200μl/hで潅流させる。形成されたコラーゲンナノ線維ポリマーマトリクスを走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して特徴づける。
【0082】
いずれの構成で形成されたコラーゲンナノ線維ポリマーマトリクスも、ポリマーマトリクス中に形成された線維の微小組織により、3つのセクションに大まかに分けることができる:(i)密な壁、(ii)厚い密な線維、(iii)疎な線維(図11)。蜜な壁は、層状コラーゲン流が層状三量体流と接触した界面で見つけることができ、疎なコラーゲン線維はPDMS溝表面と面する層状三量体流から最も遠くに形成される。コラーゲン流に対するより大きな静止時間を有したフロー構成2は、疎線維生成がほとんどなかったフロー構成1(図11Aおよび11B)と比較して、大量の疎線維および断面で見てより均質なナノ線維ポリマーマトリクス(図11Cおよび11D)を形成した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態のフロー装置の平面図(図1A)および側面図(図1B)。
【図2】入口開口部3および出口開口部4が入口および出口溝5をそれぞれ介してフロー装置の(反応)溝2に接続された本発明の想定されるフロー装置の斜視図。
【図3】交互になった層状ポリマー流(溝内の四角)が模式的に示されたフロー装置の長方形の反応溝2(長方形の周囲の細くて黒い線)。
【図4】第1の荷電ポリマー(上部の流れ)としてのメチル化(正荷電)コラーゲンと第2の荷電ポリマー(下部の流れ)としての三量体(HEMA−MMA−MAA)とを反応させ、8分後にPBSで三量体の側を洗浄し、コアセルベーション反応(実施例1)を停止した後に形成された壁およびポリマーマトリクス。
【図5】ポリマーマトリクス形成に対する種々の種類のコラーゲンのメチル化の影響。
【図6】ポリマーマトリクスの形態の定量分析の結果。
【図7】キャピラリー電気泳動により決定されたメチル化コラーゲンの溶出ピークにより特徴づけられたコラーゲンのメチル化度。
【図8】肝細胞解毒シトクロムP450依存性モノオキシゲナーゼ活性に対するコラーゲンのメチル化の影響。
【図9】HepG2増殖に対するコラーゲンのメチル化の影響。
【図10】検体を含む液体が三次元ポリマーマトリクス中を潅流していることを実証する39.2μM 7−エトキシレゾルフィンのHepatoZYM無血清培地にて4時間インキュベートした後の埋め込まれた肝細胞の共焦顕微鏡写真。
【図11】反応溝において反対に荷電したポリマーの流量を変更した結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種を固定化する方法であって、
第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、前記少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと;
前記第1の荷電ポリマーと前記第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、前記少なくとも1つの細胞種のためのマトリクスを形成することと;
から成る方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの細胞種として原核生物種または真核細胞種が使用される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真核細胞種は初代肝細胞、HepG2、骨髄間葉細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、ニューロン、骨芽細胞、酵母、両生類細胞、昆虫細胞、および植物細胞から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記原核細胞種はエシェリキア属、バチルス属、およびラクトコッカス属から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーの反応はフロー装置の反応溝で行なわれる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フロー装置の反応溝は、前記層状ポリマー流のための1または複数の出口開口部および少なくとも2つの入口開口部を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
液体によって潅流でき、前記少なくとも1つの細胞種の正常な代謝機能を維持するのに必要な物質と、前記少なくとも1つの細胞種により放出された生産物とに対して浸透性のマトリクスを形成する荷電ポリマーが使用される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の荷電ポリマーは、キトサン、ポリアニオンアルギン酸、メチル化コラーゲン、負荷電コラーゲン、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびポリアニオンアルギン酸から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の荷電ポリマーは、正または負に荷電した三量体、Ca2+、コンドロイチン硫酸Aキトサンおよびポリカチオンポリ(L−リジン)から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
メチル化コラーゲンと、アクリル酸とメタクリル酸の少なくとも1つおよびメタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸ヒドロキシプロピルの少なくとも1つを含む負に荷電した三量体とが、第2の荷電ポリマーおよび第1の荷電ポリマーとしてそれぞれ使用される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
25%の2−メタクリル酸ヒドロキシエチル、25%のメタクリル酸ヒドロキシプロピルおよび50%のメタクリル酸メチルから成る三量体(HEMA−MAA−MMA)が第1の荷電ポリマーとして使用される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマーの電荷密度を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項13】
低メチル化ポリマーおよび/または高メチル化ポリマーが使用され、低メチル化ポリマーは0.9〜1.7CEの電荷密度を有し、高メチル化ポリマーは1.7〜2.5CEの電荷密度を有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマー濃度を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマーの反応時間を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ポリマーの反応時間が約30秒から8分の間である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに細胞を固定化するための請求項1に記載の方法の使用。
【請求項18】
マイクロメートル寸法の移植組織の生成、生理学的組織のインビトロモデルの生成、生物工学における組換えタンパク質の製造のための細胞培養物潅流用バイオリアクタの生成、組織工学における細胞増殖、および細胞バイオチップから選択された用途のための請求項17に記載の使用。
【請求項1】
生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに少なくとも1つの細胞種を固定化する方法であって、
第1の荷電ポリマーおよび第2の荷電ポリマーを提供することであって、前記少なくとも1つの細胞種は第2の荷電ポリマーに埋め込まれ、第1の荷電ポリマーは第2のポリマーと反対の電荷を有することと;
前記第1の荷電ポリマーと前記第2の荷電ポリマーを層流条件下で反応させて、前記少なくとも1つの細胞種のためのマトリクスを形成することと;
から成る方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの細胞種として原核生物種または真核細胞種が使用される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真核細胞種は初代肝細胞、HepG2、骨髄間葉細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、ニューロン、骨芽細胞、酵母、両生類細胞、昆虫細胞、および植物細胞から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記原核細胞種はエシェリキア属、バチルス属、およびラクトコッカス属から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーの反応はフロー装置の反応溝で行なわれる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フロー装置の反応溝は、前記層状ポリマー流のための1または複数の出口開口部および少なくとも2つの入口開口部を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
液体によって潅流でき、前記少なくとも1つの細胞種の正常な代謝機能を維持するのに必要な物質と、前記少なくとも1つの細胞種により放出された生産物とに対して浸透性のマトリクスを形成する荷電ポリマーが使用される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の荷電ポリマーは、キトサン、ポリアニオンアルギン酸、メチル化コラーゲン、負荷電コラーゲン、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびポリアニオンアルギン酸から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の荷電ポリマーは、正または負に荷電した三量体、Ca2+、コンドロイチン硫酸Aキトサンおよびポリカチオンポリ(L−リジン)から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
メチル化コラーゲンと、アクリル酸とメタクリル酸の少なくとも1つおよびメタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸ヒドロキシプロピルの少なくとも1つを含む負に荷電した三量体とが、第2の荷電ポリマーおよび第1の荷電ポリマーとしてそれぞれ使用される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
25%の2−メタクリル酸ヒドロキシエチル、25%のメタクリル酸ヒドロキシプロピルおよび50%のメタクリル酸メチルから成る三量体(HEMA−MAA−MMA)が第1の荷電ポリマーとして使用される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマーの電荷密度を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項13】
低メチル化ポリマーおよび/または高メチル化ポリマーが使用され、低メチル化ポリマーは0.9〜1.7CEの電荷密度を有し、高メチル化ポリマーは1.7〜2.5CEの電荷密度を有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマー濃度を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ポリマーの前記反応においてポリマーが架橋され、架橋度はポリマーの反応時間を変えることにより変更することができる請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ポリマーの反応時間が約30秒から8分の間である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
生体適合性荷電ポリマーにより形成されたマトリクスに細胞を固定化するための請求項1に記載の方法の使用。
【請求項18】
マイクロメートル寸法の移植組織の生成、生理学的組織のインビトロモデルの生成、生物工学における組換えタンパク質の製造のための細胞培養物潅流用バイオリアクタの生成、組織工学における細胞増殖、および細胞バイオチップから選択された用途のための請求項17に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【図11】
【図2】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【図11】
【公表番号】特表2008−507293(P2008−507293A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523513(P2007−523513)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000246
【国際公開番号】WO2006/011854
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000246
【国際公開番号】WO2006/011854
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
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