説明

生分解性塗装金属材

【課題】 自然環境で良好に分解され,かつ,耐食性に優れる,塗装金属材を提供する。
【解決手段】 本発明に係る塗装金属材は,下地金属材の少なくとも一部に,1層又は2層以上の生分解性有機物からなる塗膜を有する塗装金属材であって,上記塗膜のうちの少なくとも1層の塗膜に,防錆顔料を3〜60質量%含有し,上記防錆顔料は,湿潤環境下で上記下地金属材の表面に保護性の皮膜を形成することを特徴とするものである。本発明によれば,生分解性を有するとともに耐食性にも優れ,家電,建材,器物等に好適に使用することが可能な,塗装金属材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生分解性塗装金属材に関し,さらに詳細には,テレビ,オーディオ,冷蔵庫等の家電製品や,屋根,壁等の建材等に好適に用いることが可能な,地球環境に優しい生分解性塗膜を有する耐食性に優れる塗装金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材に塗装を施すことにより意匠性や耐食性等の機能を付与した塗装金属材は,家電,建材等の分野で幅広く使用されているが,近年,地球環境問題に関する関心の高まりから,地球環境に優しい塗装金属材の開発が望まれてきている。このような背景の下,地球環境に優しい塗装金属材の研究開発は,主に,塗膜中の耐食性添加剤の面と化成処理の面とから行われてきた。
【0003】
このうち,塗膜中の耐食性添加剤の面について,例えば,特許文献1には,塗装鋼板の耐食性を向上させる目的で添加されてきた六価クロム化合物を含まない新規な塗装鋼板が記載されている。
【0004】
確かに,特許文献1に記載された技術を用いて六価クロム化合物を除くことで地球環境に優しい塗装金属材が開発されたとは言える。しかし,このような塗装金属材の塗装は,ポリエステルに代表される合成有機樹脂からなるため,自然環境では分解し難い。したがって,例えば不法投棄等された場合には,下地金属材が腐食して消失した後も,ポリエステル等の塗装は半永久的にその形を留める可能性もあるため,改善の余地があった。
【0005】
ところで,自然環境において微生物によって分解される特徴を有する生分解性有機物が広く知られている。この生分解性有機物を従来のポリエステル等の塗装の代わりに使用すれば,生分解性の塗装金属材を製造することは可能であり,不法投棄等された場合でも,塗料は自然環境で良好に分解されるため,地球環境に優しい塗装金属材といえる。例えば,特許文献2には,生分解性樹脂組成物及び防汚塗料組成物の発明が記載されている。一般的に,生分解性有機物は,微生物の活動によって加水分解されることからも判るように,親水性が高く,特許文献2に係る発明は,その親水性を防汚性に利用したものである。
【0006】
【特許文献1】特開2001−003181号公報
【特許文献2】特開平10−259240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,このような親水性の高い塗料を金属材に塗装して使用した場合には,湿潤環境で下地金属材の表面に水分が容易に到達するため,金属材が腐食し易い,という問題があった。
【0008】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたものであり,その目的は,自然環境で良好に分解され,かつ,耐食性に優れる,新規かつ改良された生分解性塗装金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために,本発明者らは,生分解性有機物を塗装した金属材の各種環境での劣化と腐食挙動を詳細に検討した。その結果,生分解性有機物の親水性が高いため,容易に水分を吸収して金属材を腐食させることを見出した。さらに,本発明者らは,逆に,生分解性有機物が吸収した水分を利用して,金属材表面に保護性の皮膜を形成させると,塗装金属材の耐食性が向上し,従来の非生分解性有機物を塗装した塗装金属材と遜色の無い耐食性となることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の趣旨とするところは,以下のとおりである。
(1) 下地金属材の少なくとも一部に,1層又は2層以上の生分解性有機物からなる塗膜を有する生分解性塗装金属材であって,上記塗膜のうちの少なくとも1層の塗膜に,防錆顔料を3〜60質量%含有し,上記防錆顔料は,湿潤環境下で前記下地金属材表面に保護性の皮膜を形成することを特徴とする,生分解性塗装金属材。
(2) 上記防錆顔料が,(I)シリカ,(II)イオン交換性シリカ化合物,(III)リン酸化合物,(IV)モリブデン酸化合物,及び(V)配位性の硫黄原子を含有する有機化合物,から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,(1)記載の生分解性塗装金属材。
(3) 上記生分解性有機物が,微生物生産系生分解性有機物,化学合成系生分解性有機物,及び天然物系生分解性有機物,から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,(1)記載の生分解性塗装金属材。
(4) 上記下地金属材が,Zn系めっき鋼材又はAl系めっき鋼材であることを特徴とする,(1)記載の生分解性塗装金属材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,生分解性を有するとともに耐食性にも優れ,家電,建材,器物等に好適に使用することが可能な,塗装金属材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の塗装金属材は,下地金属の少なくとも一部,例えば,下地金属が板材である場合には,少なくとも一方の面に,1層又は2層以上の生分解性有機物からなる塗膜を有する金属材であって,該塗膜のうちの少なくとも1層の塗膜に,防錆顔料を3〜60質量%含有し,上記防錆顔料は,湿潤環境下で下地金属材の表面に保護性の皮膜を形成することを特徴としている。
【0014】
一般に,生分解性有機物は,親水性が高く,水分を容易に吸収する。本発明の塗装金属板は,その吸収した水分により溶出又は流出して金属材表面に保護性の皮膜を形成することが可能な防錆顔料を塗膜中に含有するため,金属材の耐食性を著しく向上させることができる。ここで,防錆顔料の添加量としては,3〜60質量%が好適である。3質量%未満では,防錆顔料を添加したことによる耐食性の向上効果が発揮されず,60質量%超では,過酷な条件下での加工時に塗膜の剥離が起きるため,好ましくない。耐食性の向上効果をより著しく発揮させるという観点から,より好ましい防錆顔料の添加範囲は,5〜40質量%である。
【0015】
防錆顔料としては,湿潤環境下で保護性の皮膜を形成するものであっても,Cr系防錆顔料のように,微生物を死滅させて生分解性を阻害するものは適さない。微生物の生分解性を阻害し難く,かつ,湿潤環境下で金属材表面に保護性の皮膜を形成する防錆顔料としては,(I)シリカ,(II)イオン交換性シリカ化合物,(III)リン酸化合物,(IV)モリブデン酸化合物,(V)配位性の硫黄原子を含有する有機化合物,から選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0016】
本発明で用いられるシリカは,特に限定されるものではないが,二酸化ケイ素を60%以上含有するもので,例えば,石英を主成分とするけい砂等の天然シリカ,フライアッシュ等の熱処理シリカ,ケイ酸ナトリウムと酸の反応により得られる合成シリカ,アルコキシシランの加水分解により得られる合成シリカ,コロイダルシリカ等が適用できる。このうち特に好適なものは,熱処理シリカとコロイダルシリカである。これらのシリカは,下地金属材としてZn系めっき金属材等のめっき金属材を使用した場合,湿潤環境下において,生分解性有機物からなる塗装から溶出又は流出して,Zn等の安定な腐食生成物を形成することにより,耐食性の向上に寄与する。
【0017】
本発明で用いられるイオン交換性シリカは,特に限定されるものではないが,カルシウムイオン交換シリカ,マグネシウムイオン交換シリカ,カリウムイオン交換シリカ,ナトリウムイオン交換シリカ等を使用できる。特に好適なのは,カルシウムイオン交換シリカである。これらのイオン交換性シリカは,上記シリカと同様に,下地金属材としてZn系めっき金属材等のめっき金属材を使用した場合,湿潤環境下において,生分解性有機物からなる塗装から溶出又は流出して,Zn等の安定な腐食生成物の形成に寄与することにより,耐食性を向上させることができる。
【0018】
本発明で用いられるリン酸化合物としては,特に限定されるものではないが,リン酸亜鉛,リン酸マグネシウム,リン酸カルシウム,リン酸アルミニウム等を挙げることができる。また,これらのリン酸化合物の構造やポリリン酸塩等の縮合度にも限定はなく,正塩,二水素化塩,一水素化塩又は亜リン酸塩のいずれでもよい。これらのリン酸化合物は,湿潤環境でリン酸イオンを放出し,金属材表面に保護性の高いリン酸塩皮膜を形成することにより,耐食性を向上させることができる。
【0019】
本発明で用いられるモリブデン酸化合物は,特に限定されるものではないが,例えば,モリブデン酸塩等を適用することができる。また,モリブデン酸塩の構造や縮合度にも限定は無く,例えば,オルトモリブデン酸塩,メタモリブデン酸塩,パラモリブデン酸塩等を例として挙げることができる。モリブデン酸化合物は,湿潤環境下で下地金属材表面に保護性の高いモリブデン酸塩皮膜を形成し,さらに,損傷した場合でも自己補修効果を示すことにより,耐食性を向上させることができる。
【0020】
本発明で用いられる配位性の硫黄原子を含有する有機化合物は,特に限定されるものではないが,例えば,トリアゾール類,チオール類,チアジアゾール類,チウラム類等を挙げることができる。これら配位性の硫黄原子を含有する有機化合物は,金属材表面に配位して,塗膜と金属材との密着性を向上させるとともに,湿潤環境下で生じた金属材の損傷部にも配位して自己補修効果を示すことにより,耐食性を向上させることができる。
【0021】
本発明で用いる防錆顔料としては,シリカ,イオン交換性シリカ化合物,リン酸化合物,モリブデン酸化合物,配位性の硫黄原子を含有する有機化合物,から選ばれる少なくとも1種が好適である。特に好適なのは,カルシウムイオン交換シリカである。防錆顔料としてカルシウムイオン交換シリカを用いることにより,良好な耐食性を付与することができる。また,カルシウム交換シリカを必須成分として含有し,リン酸化合物,モリブデン酸化合物,配位性硫黄原子を含有する有機化合物から選ばれる1種以上を含有することによっても,良好な耐食性を付与することができる。
【0022】
本発明の生分解性塗膜を有する塗装金属材は,その生分解性塗装膜を構成する生分解性有機物が,微生物生産系生分解性有機物,化学合成系生分解性有機物,天然物系生分解性有機物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0023】
微生物生産系生分解性有機物としては,特に限定されるものではないが,水素細菌や枯草菌等の微生物に炭素源を与えて生産するポリヒドロキシブチレート系が生分解性に優れており,例えば,ポリ−3−ヒドロキシブチレートや,ポリヒドロキシブチレートの耐久性を改善したポリ−3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート等を挙げることができる。
【0024】
化学合成系生分解性有機物としては,特に限定されるものではないが,脂肪族ポリエステル系を適用することができ,特に,ポリ乳酸系とサクシネート系が好適である。ポリ乳酸系は,とうもろこしデンプン等の天然原料に由来する乳酸を原料として合成されるラクチドを開環重合するか,あるいは乳酸を直接脱水縮合重合して合成される。ポリ乳酸は,透明で安価に合成できるという利点がある。ポリ乳酸により形成された塗膜は,ポリスチレンに似てやや硬い特徴がある。
【0025】
サクシネート系としては,例えば,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリブチレンサクシネートカーボネート,ポリエチレンサクシネート等を挙げることができる。ポリエチレンサクシネートとポリブチレンサクシネートは,コハク酸又はアジピン酸と1,4−ブタンジオールの重縮合により合成される。また,これらにアジペートを共重合させたポリブチレンサクシネートアジペートは,生分解性が高い。サクシネート系により形成された塗膜は,ポリエチレンに似てやや軟らかい特徴がある。
【0026】
天然物系生分解性有機物としては,特に限定されるものではないが,例えば,エステル化デンプン,酢酸セルロース,アセチル化デンプン,エーテル化デンプン,デキストリン等を挙げることができる。特に,酢酸セルロースが好適である。酢酸セルロースは,天然の高分子であるセルロースを酢酸エステル化することにより得られる半合成高分子で,耐候性,難燃性,耐熱性に優れている。天然物系生分解性有機物は,他の生分解性有機物より自然環境で分解し易いという特徴を有する。
【0027】
本発明で用いる生分解性塗膜の膜厚は,特に限定されるものではなく,用途及び必要に応じて決めればよいが,好ましくは0.5μm以上100μm以下である。0.5μm未満では,塗装した効果がほとんど生じず,一方,100μm超では,過酷な条件下での成形加工時に塗装が剥離する可能性がある。なお,加工を行わない場合は,100μm超でも問題はない。
【0028】
また,本発明で用いる生分解性塗膜中に,生分解性を有さない樹脂を添加することもできる。この時,生分解性を有さない樹脂は,自然環境で生分解性塗膜が分解した際に,肉眼で認識できない程度に,充分に小さくすることが必要であり,塗料中の添加量としては,固形分比率として40質量%未満が好ましい。このような生分解性を有さない樹脂は,特に限定されるものではないが,例えば,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂,アクリル樹脂,フッ素樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂等を適用することができる。また,これらの添加に当たっては,メラミン系やイソシアネート系等の公知の硬化剤を添加することもできる。
【0029】
本発明の生分解性塗装金属材は,塗膜中に各種着色顔料や染料を添加して着色することもできる。着色顔料や染料は,特に限定されるものではない。例えば,顔料としては,無機系,有機系,両者の複合系に関わらず,公知のものを使用することができ,チタンホワイト,亜鉛黄,アルミナホワイト,シアニンブルー等のシアニン系顔料,ピラゾロンオレンジ,アゾ系顔料,紺青,縮合多環系顔料,等が例示できる。この他に,金属片,粉末,パール顔料,マイカ顔料等の光輝性顔料,インジゴイド染料,硫化染料,フタロシアニン染料,ジフェニルメタン染料,ニトロ染料,アクリジン染料等の染料等が挙げられる。顔料濃度は,特に限定されず,必要な色や隠蔽力によって決定すればよい。
【0030】
さらに,着色顔料や染料以外にも,塗料に通常添加されているものであれば,問題なく添加できる。例えば,炭酸カルシウム,タルク,石膏,クレー等の体質顔料,その他の有機架橋微粒子及び/又は無機微粒子等を添加してもよい。また,必要に応じて,表面平滑剤,紫外線吸収剤,ヒンダードアミン系光安定剤,粘度調整剤,硬化触媒,顔料分散剤,顔料沈降防止剤,色別れ防止剤等を用いることができる。また,本発明の塗装金属材に,ニッケルフィラー等を添加して導電性を付与してもよいし,ポリエチレン系やフッ素系のワックスを添加して潤滑金属材としてもよい。
【0031】
本発明の塗装金属材は,任意の方法で塗装することができる。塗装方法としては,例えば,バーコーター,スプレー塗装,刷毛塗り,ロールコーター,オーバーフローカーテンコーター,スリットカーテンコーター,ローラーカーテンコーター,Tダイ,複層カーテンコーター等が挙げられる。
【0032】
また,本発明の塗装金属材の乾燥(硬化)方式は任意であり,例えば,熱風加熱,高周波誘導加熱等の加熱乾燥や,自然乾燥,電子線,紫外線の照射による硬化等,使用する塗料に適した方式を選択すればよい。
【0033】
本発明の下地金属材は,特に限定されるものではないが,例えば,アルミニウム合金材,マグネシウム合金材,軟鋼材,ステンレス鋼材及びめっき鋼材等が適している。特に適しているのは,アルミニウム合金材,ステンレス鋼材,めっき鋼材である。
【0034】
アルミニウム合金材としては,例えば,JIS1000番系(純Al系),JIS2000番系(Al−Cu系),JIS3000番系(Al−Mn系),JIS4000番系(Al−Si系),JIS5000番系(Al−Mg系),JIS6000番系(Al−Mg−Si系),JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0035】
ステンレス鋼材としては,例えば,フェライト系ステンレス鋼材,マルテンサイト系ステンレス鋼材,オーステナイト系ステンレス鋼材等が挙げられる。
【0036】
めっき鋼材としては,Zn系めっき鋼材とAl系めっき鋼材が好適である。Zn系めっき鋼材としては,例えば,Znめっき鋼材,Zn−Fe合金めっき鋼材,Zn−Ni合金めっき鋼材,Zn−Cr合金めっき鋼材,Zn−Al合金めっき鋼板,Zn−Mg合金めっき鋼材,Zn−Mg−Al合金めっき鋼材,Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼材,Znめっきステンレス鋼材等を挙げることができる。
【0037】
Al系めっき鋼材としては,例えば,Al−Zn合金めっき鋼材,Al−Zn−Si合金めっき鋼材,Al−Zn−Mg−Si合金めっき鋼材,Al−Si合金めっき鋼材,Al−Si合金めっきステンレス鋼材等が挙げられる。
【0038】
下地金属材の形状は特に限定されるものでなく,例えば,板材,管材,型材,矢板材,線材,棒材等に本発明を適用できる。
【0039】
金属材の塗装前処理としては,例えば,水洗,湯洗,酸洗,アルカリ脱脂,研削,研磨等があり,必要に応じてこれらを単独もしくは組み合わせて行うことができる。なお,塗装前処理の条件は適宜選択すればよい。
【0040】
金属材の上には,必要に応じて化成処理を施してもよい。化成処理は,生分解性塗装と下地金属材との密着性をより強固なものとすること,及び耐食性の向上を目的として行われる。化成処理としては,公知の技術が使用でき,例えば,リン酸塩処理,シランカップリング処理,複合酸化皮膜処理,クロメートフリー処理,タンニン酸系処理,チタニア系処理,ジルコニア系処理,及びこれらの混合処理等が挙げられる。
【0041】
本発明の塗装金属材は,少なくとも一部,例えば,下地金属材として板材を用いる場合には,少なくとも片面に塗装する。片面に2層以上塗装する場合には,少なくとも最下層の塗膜に,本発明に係る防錆顔料を添加することが好ましい。下地金属材に直接接する最下層に防錆顔料を添加した方が,湿潤環境で良好に金属材表面に対して保護効果を発揮するからである。また,高耐食性が必要な用途では,表裏両面に2層以上の塗装を施すことが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
本実施例においては,下地金属材として,溶融亜鉛めっき鋼板(Z12,両面めっき付着量120g/m),溶融55%Al−43.4%Zn−1.6%Si合金めっき鋼板(AZ150,両面めっき付着量150g/m),アルミニウム合金板(JIS A3005(Al−Mn系))を用いた。何れも板厚は0.6mmのものを用いた。
【0044】
これら下地金属材に対して,アルカリ脱脂処理とシランカップリング処理を施した後,表1−1〜表4−2に示す各種塗料組成物を塗布及び乾燥して,生分解性塗装金属材を作製した。防錆顔料としては,シリカ,カルシウムイオン交換シリカ,リン酸マグネシウム,モリブデン酸ナトリウム,チオ尿素を使用し,これらを単独又は2種類以上混合して使用した。生分解性有機物としては,ポリブチレンサクシネート,ポリ乳酸,ポリ−3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート,酢酸セルロースを用いた。
【0045】
また,本実施例においては,1層の塗装を標準としたが,2層の塗装を施したものも実施した。2層の塗装では,上層はチタンホワイトのみを添加し,白に着色した。チタンホワイトの添加量は,50質量%とした。
【0046】
さらに,比較例として,表5に示す従来公知の塗装鋼板も評価した。従来公知の塗装鋼板は下地金属材(原板)として,溶融亜鉛めっき鋼板(Z12,両面めっき付着量120g/m,板厚0.6mm)を用い,2層の塗装を施した。下層(プライマー塗装)としてCr系の防錆顔料を添加したエポキシ系塗装を5μm施し,上層(トップ塗装)としてチタンホワイトのみを添加して白に着色したポリエステル系塗装を15μm施した。
【0047】
耐食性の評価方法
1. 傷部耐食性の評価
下地金属材まで達する傷をカッターナイフで入れ,JIS Z 2371に基づくサイクル腐食試験を120時間行い,傷部からの塗膜膨れ幅を測定し,以下の評価基準で評価し,3点以上を合格とした。
【0048】
傷部耐食性の評価基準
塗膜膨れ幅(mm) 評点
2mm未満 5
2mm上,5mm未満 4
5mm上,10mm未満 3
10mm以上,20mm未満 2
20mm以上 1
【0049】
2. 加工部耐食性の評価
塗装金属材に対してエリクセン試験機で5mm加工し,JIS Z 2371に基づくサイクル腐食試験を120時間行い,エリクセン加工部の錆び面積率を以下の評価基準で評価し,3点以上を合格とした。
【0050】
加工部耐食性の評価基準
錆び面積率(%) 評点
5%未満 5
5%以上,10%未満 4
10%以上,25%未満 3
25%以上,50%未満 2
50%以上 1
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
【表11】

【0062】
【表12】

【0063】
【表13】

【0064】
以上の表に示された結果より,本実施例の塗装金属材は,生分解性を有する塗膜であっても,耐食性に優れており,従来から使用されている塗装金属材と比較しても遜色の無い耐食性を示すことがわかった。
【0065】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地金属材の少なくとも一部に,1層又は2層以上の生分解性有機物からなる塗膜を有する生分解性塗装金属材であって,
前記塗膜のうちの少なくとも1層の塗膜に,防錆顔料を3〜60質量%含有し,
前記防錆顔料は,湿潤環境下で前記下地金属材の表面に保護性の皮膜を形成することを特徴とする,生分解性塗装金属材。
【請求項2】
前記防錆顔料が,(I)シリカ,(II)イオン交換性シリカ化合物,(III)リン酸化合物,(IV)モリブデン酸化合物,及び(V)配位性の硫黄原子を含有する有機化合物,から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,請求項1記載の生分解性塗装金属材。
【請求項3】
前記生分解性有機物が,微生物生産系生分解性有機物,化学合成系生分解性有機物,及び天然物系生分解性有機物,から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,請求項1記載の生分解性塗装金属材。
【請求項4】
前記下地金属材が,Zn系めっき鋼材又はAl系めっき鋼材であることを特徴とする,請求項1記載の生分解性塗装金属材。


【公開番号】特開2006−159627(P2006−159627A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354255(P2004−354255)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】