説明

生物活性コーティングを形成する方法

【課題】微細孔性を備え、かつ、簡素化された表面形態を有しており、優秀なトライボロジー及び機械的特性を備えるコーティングを得る方法を提供すること。
【解決手段】インプラント(4)上に生物活性コーティングをプラズマ電解酸化させるための方法が提供される。インプラントは、Ca及びPイオンを提供する電解質溶液(3)中に配置され、次に電源(1)へ接続される。対向電極は、電解質溶液内にも提供される。交互極性を有する一連の電圧パルスは次に、インプラント上に生物活性コーティングを沈着させるためにインプラント及び対向電極を横断して適用される。10〜30μの厚さ、0.5〜10μのサイズ備える孔から構成される多孔性、及び10〜30重量%のヒドロキシアパタイトを含むことを特徴とするコーティングを有する、方法によって形成される骨内インプラントもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性コーティングを形成する方法、及び詳細には、生物活性を促進するチタン及びチタン合金製骨内インプラント上の表面コーティングを形成する方法に関する。このようなインプラントは、様々な整形外科用途において、例えば人工股関節置換術用インプラントとして使用される。
【背景技術】
【0002】
これに関連して、チタン(Ti)又はチタン合金から形成されたチタン製骨内インプラント(もしくはTiインプラント)は、これらの高い強度対重量比、優秀な耐腐食性及び高レベルの生体適合性により最新医療において広範囲にわたって使用されている。しかしながら、Tiの固有の生体不活性の性質に起因して、術後回復は、低レベルの骨−インプラント接着のために緩徐なプロセスとなる可能性がある。したがって、典型的な患者は骨−インプラント接着が十分な使用応力に達するまでには6か月間以上必要とすることがあり、この期間中にインプラントは低い機械的負荷下でさえ破損する傾向がある。
【0003】
Tiインプラントに関するまた別の問題は、Tiと骨の剛性の差に関連する。例えば使用者が歩行している場合の負荷サイクル中には、剛性の差は骨−インプラント界面での微細な位置ずれを生じさせ、これは順にTiインプラントのフレッティング疲労型の摩耗を引き起こす。この摩耗はTi破片の患者身体内への遊離を生じさせ、これは免疫系に影響を及ぼす可能性があり、最終的にはインプラント拒絶反応を引き起こす。
【0004】
上記の摩耗問題は、以前にはTiNなどの硬質コーティングの適用によって、又は熱的もしくは電気化学的技術を使用する表面酸化によって対処してきた。しかしながら、これら上記の処理はインプラント表面の硬度を増加させ、したがって改良された耐摩耗性を提供するが、Tiの生物活性における改善は何も提供しない。結果として、上述した骨−インプラント接着問題は以前として残っている。
【0005】
これらの骨−インプラント接着問題に対する解決策として、骨に類似する化学組成を有する、又は骨誘導及びオステオインテグレーション(骨結合)を促進する構造を有する物質を沈着させることによってインプラントの生物活性特性を増強するための様々な方法が提案されてきた。適切な骨様材料には、1.4〜2の範囲におよぶ比率のCa:Pを備えるリン酸カルシウム、例えばアパタイト、及び詳細にはヒドロキシアパタイト(HA、Ca:P=1.4〜1.67)、及びリン酸三カルシウム及び四カルシウム(TCP、Ca:P=1.5及びTTCP、Ca:P=2)が含まれる。
【0006】
以前には、このようなコーティングは、インプラント表面上に前駆体粉末材料をスプレーする工程で適用された。しかしながら、このようなスプレーコーティング方法は、コーティングとインプラントとの間の低接着を有する厚い(典型的には>50μ(ミクロン))、非一様性の表面層を生じさせた。さらに、生物活性要素の部分分解に関する問題も存在する。スプレーコーティング法は、コーティングの厚さがインプラント表面への噴射量により変動するので、サイズの小さな、又は幾何学的に複雑な部材、特に高精度要件を備える部材には不適切である。このような部材にスプレーコーティングを施すと、コーティング厚の不均一が顕著となるので、例えば、骨内インプラント、特にしばしば複雑な形状を有する股関節インプラントへのスプレーコーティング法の使用を妨げている。
【0007】
代替コーティング法もまた提案されており、例えばゾルゲル技術及び電気化学的酸化法が使用されてきた。しかしながら、これらの技術によって生成されたコーティングは一般に極めて薄く(2μ未満)、不良な機械的性質を有し、これらの技術は高価な有機前駆体を必要とする。
【0008】
近年、プラズマ電解酸化を含むコーティング法が提案されてきた。例えば、米国特許第4,846,837号明細書は、粗面処理の後に錯体結合リン酸カルシウムを含有する電解質及び例えばリン酸三カルシウム及び四カルシウムなどの分散相内の火花放電下での陽極酸化を実施する工程を含む、セラミックコーティングした金属インプラントを調製する方法を開示している。しかしながら、リン酸カルシウム塩の低溶解度は、電解質の実行可能性を制限する。さらに、電解質中に分散した相は、陽極火花放電内に含まれると分解する傾向がある。結果として、放電領域内でのCa2+カチオンの外向き移動に起因してカルシウムの枯渇がコーティング表面で発生する。これは、JP Schreckenbachら(J.Mat.Sci.:Mat.in Medicine 10(1999)453)(Ca:P=0.5)及びE Matykinaら(Trans.Inst.of Met.Finishing,84 3(2006)125)(Ca:P=0.3〜0.55)によって報告されたように、高生物活性のためには不十分なコーティング内カルシウム含量をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,846,837号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】JP Schreckenbachら(J.Mat.Sci.:Mat.in Medicine 10(1999)453)
【非特許文献2】E Matykinaら(Trans.Inst.of Met.Finishing,84 3(2006)125)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、先行技術に関連する上記の問題を克服するコーティング法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様によると、インプラント上に生物活性コーティングをプラズマ電解酸化させるための方法であって、電解質溶液内にコーティングすべきインプラントを提供する工程であって、前記電解質溶液はCa及びPイオンを提供する工程と、前記インプラントを電源へ接続する工程と、対電極を前記電解質溶液内へ提供する工程と、前記インプラント及び対向電極を横断するように一連の電圧パルスを適用する工程であって、前記一連の電圧パルスは交互極性を有する工程とを含む方法が提供される。
【0013】
この方法で形成されたコーティングは、微細孔性を備え、かつ、簡素化された表面形態を有しており、優秀なトライボロジー及び機械的特性を示す。さらに、インプラントは、大量のカルシウム及びリン、並びに例えばハイドロキシアパタイト及びリン酸三カルシウムなどの結晶性生物活性化合物を含有している。高レベルのCa、P及び結晶性生物活性化合物の存在は、増強された生物活性特性を提供する。微細孔性は、細胞接着プロセスの妨害を伴わない優れた骨誘導性を提供し、結果として強化された骨−インプラント界面を生じさせる。さらに、均一なコーティング構造及び結果として生じる骨内方成長は骨−インプラント界面を横断する機械的特性における段階的変化をもたらし、それによって応力集中を除去し、この系の剪断強度を増加させる。
【0014】
各電圧パルスは、0.5〜20ms(ミリ秒間)の持続時間を有する。さらに、パルス間には10ms未満の休止が存在し、パルス間休止は5μs(マイクロ秒間)であると好ましい。これらの持続時間は、コーティング内へのより多量のカルシウム及びリンの組み込み並びに結晶性生物活性化合物のインサイチュー合成を可能にすることが見いだされている。さらに、相当に短い休止/パルスオフ時間は、均一性に近い負荷サイクルを生じさせる。これはコーティング成長速度を増加させ、結晶性生物活性化合物の直接合成を促進する。
【0015】
電圧パルスの振幅は、一連の電圧パルスを適用する前記工程の初期5〜300秒間中にそれらのピーク振幅まで徐々に増加させると好ましい。この方法で、プロセス開始時の過剰な電流スパイクが回避される。さらに、振幅の段階的増加は、Ca含有化合物の形成を促進することが見いだされている。
【0016】
一連の電圧パルスを適用する工程は、0.5〜30分間持続されると好ましい。この方法で、表面コーティングは、10〜30μの厚さまで成長させることができ、改良されたオステオインテグレーション及び高いコーティング完全性を可能にする。
【0017】
前記電解質溶液は、一連の電圧パルスを適用する前記工程の間は20℃〜50℃の範囲内に維持される。この方法で、過度の多孔性及び粗い表面形態をもたらさずに均一な皮膜厚の分布が達成される。
【0018】
前記インプラント及び前記対向電極は、相互から20mm〜100mmの範囲内で間隔があけられる。この方法で、電解質過熱及び短絡故障を回避することができ、消費電力は不必要に増大しない。
【0019】
正電圧パルスの前記ピーク振幅は、550Vを超えない。さらに、負電圧パルスの前記ピーク振幅は、−100Vを超えない。この方法で、粗融合コーティング構造の形成によって機械的特性及び接着に悪影響を及ぼす、電場集中の部位での、激しい放電が回避される。
【0020】
前記電解質溶液は、含水酢酸カルシウム及びオルトリン酸三ナトリウムを含んでいる。さらに、電解質溶液は、水1L(リットル)当たり0.05〜0.2M(モル)の酢酸カルシウム及び0.025〜0.1Mのオルトリン酸三ナトリウムを含んでいる。上記の成分及びそれらの濃度は、コーティングを形成するためにカルシウム/リンの有効な起源及び最適比率を提供する。これにより生成されたコーティングは、表面構造を損傷させることなく、又は電解質内での不溶性沈降物の形成を伴わずに、高レベルのカルシウム及びリン酸塩を有する。
【0021】
前記インプラントは、チタン又はチタン合金を含んでいる。この方法で、コーティングプロセス内のチタンの存在は、各々がコーティングの10〜30重量%を構成し、30〜50nmの結晶サイズを有するアナタース型及びルチル型二酸化チタンを形成する。アナタース型ナノ結晶の存在は、骨芽細胞の接着を増強し、これにより酸化された表面の基本的生物活性を提供する。硬質のルチル型ナノ結晶の存在は、コーティングの機械的及びトライボロジー特性の増強に貢献する。さらに、生物活性相は、表面上に沈降させられるのではなくコーティングのチタニア・マトリックス内に包埋されるので、これによってより優れた完全性及びインプラント表面への接着を備えるコーティングが提供される。
【0022】
本発明のさらに別の態様によると、基質及びコーティングを含む骨内インプラントであって、前記コーティングは10〜30μの厚さ、0.5〜10μのサイズを備える孔から構成される多孔性及び、10〜30重量%のヒドロキシアパタイトを含むことを特徴とする骨内インプラントが提供される。この方法で、骨内インプラントには、改良された骨−インプラント接着及び短縮された患者回復時間をもたらす骨内方成長を促進する高生物活性コーティングが提供される。さらに、厚さ、微細孔性及びマトリックス内の硬質ルチル相の存在は、優秀なトライボロジー及び機械的特性を提供し、インプラントのフレッティング疲労の流布率を減少させる。
【0023】
この方法で、コーティングは骨内方成長を促す高生物活性表面及び増強された界面強度、並びにそれによって短縮された患者回復時間をもたらす。さらに、多孔性並びに皮膜厚及び一様性は、強化された骨−インプラント界面を提供し、フレッティング疲労及び摩耗の流布率を減少させる。
【0024】
前記コーティングは、1〜20重量%のリン酸三カルシウムをさらに含むと好ましい。この方法で、また別の生物活性結晶相は、生物活性をさらに強化し、骨内方成長を促進するために提供される。
【0025】
Ca/P比は、好ましくは、1.3〜3.0である。コーティング内のこれらの高濃度のカルシウム及びリンは、高レベルの生物活性を提供する。
【0026】
前記基質は、チタン又はチタン合金であると好ましい。チタンは、高い強度対重量比、優秀な耐腐食性及び高レベルの生体適合性を提供する。さらに、コーティング形成段階中のチタンの存在は、コーティング内のアナタース型及びルチル型二酸化チタンの形成を生じさせる。アナタース型は骨芽細胞の接着を強化し、ルチル型はコーティングの硬度を上昇させて機械的及びトライボロジー特性を改良する。さらに、コーティングの生物活性相は、表面上に沈降させられるのではなくチタニア・マトリックス内に包埋されるので、これによってより優れた完全性を備えるコーティングが提供される。
【0027】
前記コーティングは、各々が10重量%〜30重量%で二酸化チタンのルチル相及びアナタース相を含んでいると好ましい。
【0028】
前記ルチル相及びアナタース相は、1/3〜3/1の比率範囲内にあると好ましい。
【0029】
前記ルチル相及びアナタース相は、30nm〜50nmの結晶サイズを有する。ナノ結晶構造は、特に生物活性及び硬度を改良する点で有効であることが見いだされている。
【0030】
本発明のまた別の態様によると、生物活性コーティングの形成において使用するための電解質水溶液であって、水1L当たり0.05〜0.2Mの酢酸カルシウム及び0.025〜0.1Mのオルトリン酸三ナトリウムを含む電解質水溶液が提供される。この組み合わせは、カルシウムイオン及びリンイオンの信頼できる費用効率の高い起源を提供する。さらに、電解質は優れた保管及び供用期間寿命、広範囲の動作温度を有しており、一般には刺激の強い腐食媒体を形成しない。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る方法で形成されたコーティングは、微細孔性を備え、かつ、簡素化された表面形態を有しており、優秀なトライボロジー及び機械的特性を備えることができる。これにより、インプラントは、大量のカルシウム及びリンなどの結晶性生物活性化合物を含むので、より高い生物活性特性を得ることができる。さらに、上記微細孔性により、細胞接着プロセスの妨害を伴わない優れた骨誘導性を備えた骨−インプラント界面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態の方法において使用するための電解質タンクを示す略図である。
【図2】本発明の第1実施形態において使用される例の電圧波形を示す略図である。
【図3】本発明の第1実施形態において使用されるパルス電圧振幅負荷パターンを示す図である。
【図4】図3に示した電圧負荷パターン中の平均パルス電流振幅における変化を示す図である。
【図5】皮膜厚は適用される処置時間の長さに依存して変動する可能性があることを示す図である。
【図6】実施例1に記載の条件下で生成されたコーティングの外観を示す図である。サンプルサイズは、20mm×20mmである。
【図7】(a)二次電子画像モードで解明されたコーティング形態の詳細を示しているTi表面のSEM分析、(b)EDX(使用した分析装置を用いて炭素及び酸素は検出不能である)によって得られた表面層の化学組成、及び(c)Z感受性表面トポグラフィー(後方散乱電子画像モード)下で、実施例1に対応する条件下で生成されたコーティングを示す図である。
【図8】実施例1に対応する条件下で生成されたTi上のコーティングのXRDパターンを示す図であり、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ルチル(R)、アナタース(A)、ヒドロキシアパタイト(HA)及びリン酸三カルシウム(TCP)に対応する特徴的なピークを示している。20°〜40°の2θ間の凸状バックグラウンド領域は、Ca、P及びC含有非晶相の存在を示している。
【図9】実施例2に対応する条件下で生成された表面層の典型的な断面構造を表しているSEMマイクログラフを示す図である。
【図10】実施例3に対応する条件下で生成されたコーティングの典型的な外観を示す図である。サンプルサイズは20mm×20mmである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、添付の図面を参照しながら本発明の第1実施形態による方法について記載する。
【0034】
最初に、電解質溶液を調製する。精製水1L当たり0.05〜0.2Mの酢酸カルシウム及び0.025〜0.1Mのオルトリン酸三ナトリウムが溶解させられる。これらの成分は、表面層内へ組み込むためのCa及びPイオンの起源を提供する。さらに、この電解質溶液は、優れた保管及び供用期間寿命、並びに広範囲の動作温度を有する。さらに、電解質pH及び伝導性は各々5〜10及び7〜15mScm-1の範囲内にあり、必要な電流密度は、刺激の強い腐食媒体の形成を伴わずに達成することができる。
【0035】
コーティングすべきインプラント4は、Ti又はTi合金から形成する。インプラント4は、上記にしたがって調製した電解質溶液3を含有するタンク2内に浸漬させる。インプラント4のコーティングすべきではない区間の上方にはカバーを用意する。
【0036】
タンク2には、それを通って電解質溶液3が循環させられる熱交換器6を用意する。コーティングプロセス中には、熱交換器は、電解質溶液3を20℃〜50℃の動作温度で維持する。
【0037】
対向電極5には、タンク2内で電解質溶液3を提供する。電極5は、インプラントから20mm〜100mmの範囲内で間隔をあけ、できる限りインプラント4から一様に間隔をあけて維持する。特に複雑なインプラント形状を備えて一様な間隔を達成するためには、補助電極を用意することができる。
【0038】
インプラント4及び対向電極5を電源1へ接続すると、酸化プロセスのための電極が形成される。
【0039】
酸化プロセス中に適用される電流モードは、一連の交互極性の電圧パルスによって表される。図2は、本発明の第1実施形態において使用される例の電圧波形を示す略図を示す。パルスの持続時間は0.5〜20msの範囲内で選択されるが、パルス間の休止は約5μsに設定される。
【0040】
パルス振幅の制御は、図3に示した負荷パターンにしたがって達成される。処置の5〜300秒間の初期時間中、正及び負電圧パルスの振幅は、各々0から300V〜550Vの正のピーク値へ、及び0から−20V〜−100Vの負のピーク値へ徐々に増加させられる。これに続いて、電圧パルスは、0.5〜30分間にわたりそれらのピーク振幅で維持される。この電圧パルスの振幅への2段階制御は、プロセス開始時の過剰な電流スパイクの回避を可能にする。さらに、この負荷パターンによって、表面層内の酸化チタン対Ca含有化合物の比率を調整することができる。
【0041】
電場集中の場所での強力な激しい放電を誘発するため、正電圧は500〜550Vを超えてはならず、負電圧は−100Vを超えてはならいことに留意すべきである。これは、減少した機械的特性及び接着を備える粗融合コーティング構造の形成を引き起こす。
【0042】
上述した電圧負荷パターンにしたがって、平均パルス電流密度は、正及び負パルスについて最初は各々0.5〜5Acm-2及び0.05〜0.5Acm-2の範囲におよぶ最大値に達するまで増加する。その後、コーティング成長プロセスを反映して、電流密度は最終的には各々0.01〜1Acm-2及び0.05〜0.5Acm-2の範囲におよぶ最小値に近づくまで漸進的に減少する。図4は、この期間中の平均電流パルス振幅における変化を示している。
【0043】
処置が完了した後、インプラントをタンクから取り出し、水ですすぎ洗い、乾燥させる。
【0044】
上述した方法によってインプラント上で生成されたコーティングは、以下の特性を有することが見いだされている:
−多様な微細孔性を備える、硬質の適切な接着性及び一様な構造、
−複雑な3D形状の成分上でさえ、10〜30μの厚さ、
−高生物活性を提供するために十分な高濃度のCa及びP、及び
−結晶性生物活性相の直接合成及び表面構造内への組み込み。
【0045】
皮膜厚に関連して、これは、必要に応じて、適用される処置時間の長さに依存して制御できることが見いだされている。これに関連して、図5は、皮膜厚が適用された処置時間の長さに依存してどのように変動する可能性があるのかを示す図である。
【0046】
コーティング表面自体は、約0.05〜10μの範囲内の孔によって形成された広範囲の多孔性、及び最小のクラックを伴う、もしくはクラックを伴わない高度に簡素化された形態を特徴とする。
【0047】
コーティングのEDX分析は、1.0〜3.0のCa:P比を伴う有意な量のCa及びPと一緒に一部のTiの存在を示している。さらに、Z感受性SEM分析(後方散乱電子モード)は、上記の要素の表面全体におよぶ一様な分布を示している。
【0048】
上記のプロセスによって生成されたコーティングの位相組成についてのXRD分析は、結晶相及び非晶相両方の存在を示している。定量的推定は、コーティングが3つの主要な構造的成分、すなわち二酸化チタン(20〜60%)、生物活性非晶相(10〜40%)、及び生物活性結晶相(10〜40%)によって形成されることを示している。少量(10%まで)の結晶性Ca含有相の添加もまた観察できる。表1は、上述の方法によって生成されたコーティングの典型的な位相組成を示している。
【表1】

【0049】
上記の方法は、交流電流パルスは1つのプロセスにおいて陽極処置及び陰極処置の両方を結合し、それによってコーティング内へのカルシウム及びリン両方の組み込みを促進するので生物活性コーティングの形成を可能にすると理解されたい。詳細には、逆極性/負極性を備える電流パルスの適用は、電極として作用する、インプラントに隣接する電極内のCa含量を高める。引き続いての正電圧パルス中には、インプラント−電解質界面で微小放電が生成され、Ca2+イオンと電解質及びインプラント基質両方の成分とのプラズマ利用熱的化学的相互作用を引き起こす。
【0050】
電圧パルスの持続時間は、コーティング内の大量のカルシウム及びリン、並びに結晶性生物活性化合物、詳細にはハイドロキシアパタイト(HA)及びリン酸三カルシウム(TCP)などの形成を生じさせる。さらに、相当に短いパルスオフ時間は、均一性に近い負荷サイクルを生じさせる。これはコーティング成長速度を増加させ、重要なことに、プラズマ電解酸化法(PEO)中にプラズマ微小放電領域内での結晶性生物活性化合物(例えば、HA及びTCP)の直接合成を促進する。これは、結果として改良されたコーティング形態及びより一様な厚さを生じさせる、表面上で結晶性生物活性化合物をインサイチュー形成するための固有のプラズマ利用経路を提供する。
【0051】
プラズマ電解酸化法(PEO)によって直接的に合成された他のHA含有コーティングと比較して、上述の方法によって生成されたコーティングは、より優れた一様性、機械的特性及び接着を有する。さらにそれらは、従来の技術を使用して生成されたPEOフィルムと比較して優れた生物活性を示す。さらに、それらは例えばClなどの、潜在的に危険な要素を含有していない。高度に簡素化された多孔性で実質的にクラックのない表面形態は、金属製インプラントと骨との間に優秀な界面を提供するが、これは骨からインプラント基質へ機械的特性が徐々に転換され、あらゆる応力集中を最小限に抑え、それにより本系の剪断強度を上昇させるからである。さらに、微細孔性は、細胞接着プロセスの妨害を伴わない優れた骨誘導性を提供する。
【0052】
コーティングの実質的に改良された生物活性特性は、高濃度及び適切な比率にあるCa及びPの存在によって提供される。これらの生物活性相は、表面上に沈降させられるのではなくチタニア・マトリックス内に包埋されるので、より優れた完全性及び接着を備える表面層が提供される。
【0053】
さらに、上記で考察した様々な分析法によって証明されたように、Ca及びPを含有する様々な結晶相及び非晶相が存在する。これらの相は、相違するpH安定性範囲及び溶解度定数を有しており、溶解度に関しては、以下の昇順でランク付けすることができる:
CaTiO3<HA<TCP<非晶性Ca、P化合物<CaCO3
この組成は、インプラント表面での骨芽細胞の増殖に寄与するためにCa及びPイオンの(多孔性チャネルを通しての)段階的遊離を保証する。したがって表面では長期間生物活性作用が達成される。さらに、一様な骨誘導は、コーティングされた表面全体でのCa及びPの一様な分布によって保証される。
【0054】
以下では、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0055】
約3.4cm2の表面積を備える市販の純Tiから作製されたサンプルを、純水1L当たり0.1Mの酢酸カルシウム及び0.05Mのオルトリン酸三ナトリウムの溶液を含有するステンレススチール製タンク内に浸漬させる。電解質の温度は、外部熱交換器によって30〜34℃の範囲内に維持する。タンクとTiサンプルとの間隔は、40〜50mm内に維持する。
【0056】
サンプル及びタンクをパルス電源装置の交流出力に接続し、一連の交互極性の電圧パルスをTiサンプルの正及び負パルスバイアスの持続時間が各々2.3ms及び2.1msとなるようにそれらの間に供給する。処置の初期30秒間中に、電圧パルスの対応する振幅は0Vから478V及び−32Vへ増加させ(図3を参照)、その後は5分間一定に維持する。対応する電流のパターンは、図4に示されている。処置が完了した後、サンプルをタンクから取り出し、水ですすぎ洗い、乾燥させる。
【0057】
結果として生じる皮膜厚は、図6に示したように、32.4±2.5μmであり、外観は平滑及び一様である。コーティングの表面形態及び化学組成についての分析結果は、図7に示した。コーティングは、様々な多孔性を特徴とする一様な微細構造を有する(図7a)。コーティングは、高含量のCa(Ca:P≒3)(図7b)及び表面積全体におよぶこれらの要素の一様な分布(図7c)を有する。コーティング相の組成は、非晶性生物活性相(≒30%)及び複数の結晶相の存在を示している図8によって例示した。結晶性成分は、アナタース型(≒30%)ルチル型(≒25%)、並びにHA(≒13%)TCP(≒9%)及びCaTiO3(≒3%)を含む生物活性結晶相を含む、二酸化チタン相を含んでいる。
【実施例2】
【0058】
Ti−6Al−4V合金から作製された大腿骨インプラントコンポーネントは、38〜42℃の精製水1L当たり0.2Mの酢酸カルシウム及び0.08Mのオルトリン酸三ナトリウムを含有する溶液中で処置する。電極間の間隔は、70〜100mm内に設定する。パルス持続時間は、正及び負バイアス各々について1.5及び2.5msに設定する。対応する電圧は5分間にわたり+380V及び−40Vまで上昇させ、その後これらのレベルを20分間にわたり維持する。
【0059】
結果として生じる皮膜厚は、16.8±2.1μであり、断面コーティング形態は、図9に示されており、界面欠損を伴わない相当に緊密で一様な表面層を示している。位相組成は、およそ45%の非晶相、15%のアナタース型、15%のルチル型、25%のHA、及び5%のCaCO3によって表される。
【実施例3】
【0060】
約3.4cm2の表面積を備えるcp−Tiのサンプルを、58〜62℃で0.1Mの酢酸カルシウム及び0.05Mのオルトリン酸三ナトリウムを含有する溶液中で処置する。電極間の間隔は、40〜50mm内に維持する。正及び負パルスの持続時間は、各々2.7ms及び1.5msである。パルス振幅は、初期の上昇段階を伴わずに、+555V及び−42Vで直接的に設定する。結果として生じるコーティングは、サンプルの辺縁で放電が出現するために、先行実施例より平滑でも一様でもない(図10)。5分間の処置後のコーティング厚は、27.1±14.7μmである。
【0061】
本発明を上記の具体的な実施形態に基づいて記載してきたが、本発明はこれらの特定の実施形態だけには限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント上に生物活性コーティングをプラズマ電解酸化させるための方法であって、
電解質溶液内にコーティングすべきインプラントを提供する工程であって、前記電解質溶液はCa及びPイオンを提供するためである工程と;
前記インプラントを電源へ接続する工程と;
前記電解質溶液内へ対電極を提供する工程と;
前記インプラント及び対向電極を横断するように一連の電圧パルスを適用する工程であって、前記一連の電圧パルスは交互極性を有する工程と;を含む、インプラント上に生物活性コーティングをプラズマ電解酸化させるための方法。
【請求項2】
各電圧パルスは、0.5〜20msの持続時間を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
パルス間に、10μs未満の休止が存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
パルス間の休止は、5μsである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記電圧パルスの振幅は、前記一連の電圧パルスを適用する前記工程の初期5〜300秒間中に前記ピーク振幅まで、徐々に増加する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
一連の電圧パルスを適用する前記工程は、0.5〜30分間持続する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質溶液は、一連の電圧パルスを適用する前記工程の間は20℃〜50℃の範囲内で維持される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記インプラント及び前記対向電極の間隔は、20mm〜100mmの範囲内で、設定される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記正電圧パルスのピーク振幅は、550Vを超えない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記負電圧パルスのピーク振幅は、−100Vを超えない、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解質溶液は、含水酢酸カルシウム及びオルトリン酸三ナトリウムを含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解質溶液は、水1L当たり0.05〜0.2Mの酢酸カルシウム及び0.025〜0.1Mのオルトリン酸三ナトリウムを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記インプラントは、チタン又はチタン合金を含む、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
基質及びコーティングを含む骨内インプラントであって、前記コーティングは10〜30μの厚さ、0.5〜10μの径を備える孔から構成される多孔性、及び10〜30重量%のヒドロキシアパタイトを含むことを特徴とする、骨内インプラント。
【請求項15】
前記コーティングは、1〜20重量%のリン酸三カルシウムをさらに含む、請求項14記載の骨内インプラント。
【請求項16】
Ca/P比は1.3〜3.0である、請求項14又は15に記載の骨内インプラント。
【請求項17】
前記基質は、チタン又はチタン合金である、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の骨内インプラント。
【請求項18】
前記コーティングは、各々が10重量%〜30重量%で二酸化チタンのルチル相及びアナタース相を含む、請求項17記載の骨内インプラント。
【請求項19】
前記ルチル相及びアナタース相は、1/3〜3/1の比率範囲内にある、請求項18記載の骨内インプラント。
【請求項20】
前記ルチル相及びアナタース相は、30nm〜50nmの結晶サイズを有する、請求項18又は19に記載の骨内インプラント。
【請求項21】
生物活性コーティングの形成において使用するための電解質水溶液であって、水1L当たり0.05〜0.2Mの酢酸カルシウム及び0.025〜0.1Mのオルトリン酸三ナトリウムを含む、電解質水溶液。
【請求項22】
添付の図面を参照しながら実質的に上記に記載した方法。
【請求項23】
添付の図面を参照しながら実質的に上記に記載した骨内インプラント。
【請求項24】
添付の図面を参照しながら実質的に上記に記載した電解質水溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−500970(P2011−500970A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530535(P2010−530535)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003432
【国際公開番号】WO2009/053670
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(510116417)プラズマ コーティング リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PLASMA COATINGS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Meverill Road, Tideswell, North Derbyshire SK17 8PY United Kingdom
【Fターム(参考)】