説明

生物濾過装置および陸上養殖システム

【課題】制御装置を装備することなく処理槽内の水位を周期的に変化させることができ、浮上性の生物膜担体の流動性を維持して効率的に被処理水を浄化することができる生物濾過装置を提供する。
【解決手段】濾過槽2と、濾過槽2内に多数充填され、水を介して移動自在であり表面に微生物膜が形成されている浮上性の生物膜担体5と、濾過槽2における水位の下限を定める配水口の高さよりも低い位置に水面がある水槽8と、一方端が濾過槽2の配水口2cに接続され、他方端が濾過槽2から濾過水を供給する水槽8の水中に浸漬され、中間部7cが濾過槽2の上端または上端寄りの高さに位置するサイフォン管7と、水槽8内の水を濾過槽2の上部から供給する水供給部とを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮上性担体に生物膜を形成した濾床を用いて生物処理と濾過を行う生物濾過装置およびそれを用いた陸上養殖システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乱獲などによる海洋生物の減少や枯渇のおそれから、魚、貝、エビなどの養殖技術の開発が積極的に進められるようになってきている。また、稚魚や稚貝などを育てた上で放流する、いわゆる「育てる漁業」も盛んである。
【0003】
これら海洋生物を養殖するに当たっては、海の中に生け簀を設けることもあるが、特に稚魚などまでの養殖段階においては、より高密度で効率的に養殖するために、水槽などを用いて陸上で育成を進める場合が多い。
【0004】
ところが、哺乳類はアンモニアを尿素などに変換して排出する代謝経路を有するのに対して、海洋生物はそのような代謝経路を持たないためにアンモニアをそのまま体外に排出し、また、食べ残されたエサなどからもアンモニアが発生する。その結果、水槽内の飼育水において有害なアンモニアの濃度が高まると海洋生物に悪影響を及ぼすことになる。したがって、飼育水のアンモニア濃度を低減することは、海洋生物を水槽で養殖する場合において極めて重要である。その他、過剰な有機物や固形物を除去し、飼育水を清潔に維持する必要もある。
【0005】
そこで、アンモニアを硝酸まで酸化する硝化菌などを担体に付着させ、かかる担体を使用して飼育水を浄化することが行われていた。
【0006】
しかし、上記担体上で菌の生育が進むと担体が目詰まりし、飼育水を浄化できなくなる。よって、定期的に浄化装置の運転を停止して担体を洗浄したり、場合によっては担体を取り替える必要があった。また、有害物質を分解する有用細菌は好気性のものが多いが、担体は常に飼育水に浸漬されているため有用細菌が十分に働かないという問題もある。
【0007】
そこで特許文献1〜2に記載の技術では、粒状で且つ浮上性の担体を用い飼育水を所定の流速でその担体に流通させたり、曝気することにより、担体に固着した余剰汚泥を適宜剥離除去することができるようになっている。かかる技術によれば目詰まりは起こらないため、担体交換が不要となる。また、担体同士の固着を防ぐことができることから、必要とされる、担体と飼育水との接触面積も維持することができ、浄化効率も低下し難い。
【0008】
さらに特許文献3に記載の技術では、水槽内に上下に設けられた多孔板の間に上記担体を配し、浄化槽の水位を低下させることによりその担体を自重で浄化槽の底側に移動させ、再び、水位を上昇させることにより浮力によって担体を浄化槽の水面側に移動させて担体の流動性を高める水質浄化システムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2975269号明細書
【特許文献2】特許第2975276号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/033018号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した各特許文献に記載の技術によれば、処理槽内に浮上性の担体を充填し、水位を上下させることにより、担体に固着した余剰汚泥を剥離除去することができるものの、水位を変更するための手段が新たに必要になる。
【0011】
水位変更手段として、例えば、処理槽内の水位を自動的に検出する水位検知手段を設け、この水位検知手段をコンピュータに接続し、そのコンピュータを介して流量調節弁を制御するように構成すれば、処理槽内に注入する水の流量を制御することが可能になるが、そのような制御装置を装備すると、水質浄化システムが複雑大型化するという問題がある。
【0012】
本発明は上記した従来の水質浄化システムにおける課題を考慮してなされたものであり、上記制御装置を装備することなく処理槽内の水位を周期的に昇降させることができ、浮上性の生物膜担体の流動性を維持して効率的に飼育水を浄化することができる生物濾過装置および陸上養殖システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(a) 本発明の生物濾過装置は、
濾過槽と、
上記濾過槽内に多数充填され、水を介して移動自在であり表面に微生物膜が形成されている浮上性の生物膜担体と、
上記濾過槽における水位の下限を定める配水口の高さよりも低い位置に水面がある水槽または装置と、
一方端が上記濾過槽の配水口に接続され、他方端が上記濾過槽からの濾過水を供給する上記水槽または装置の水中に浸漬され、中間部が上記濾過槽の上端または上端寄りの高さに位置するサイフォン管と、
被処理水を上記濾過槽の上部から供給する水供給部と、を備えてなることを要旨とする。
【0014】
本発明の生物濾過装置によれば、水供給部から被処理水が濾過槽内に供給されると、生物膜担体を通過することによって濾過され、濾過槽内の水位が上昇し、上昇した水位がサイフォン管の中間部の高さを超えると、濾過槽と上記水槽または装置内の水がサイフォン管を通じて連通し、濾過槽内の濾過された水がサイフォン現象によって上記水槽または装置に一気に排出され、濾過槽内の生物膜担体は水位の低下とともに下降し、濾過槽に残された生物膜担体は空気に曝される。
【0015】
水供給部からは濾過槽に被処理水が供給されているので、濾過槽内の水位が再び上昇する。それに伴って生物膜担体も上昇し、濾過槽内の水位がサイフォン管の中間部の高さを超えると、上記したサイフォン現象が起きて濾過槽内の水が排出される。このようにしてサイフォン現象が繰り返されることにより、濾過槽内で水位が繰り返し上下し生物膜担体が周期的に空気に曝される。
【0016】
なお、上記濾過槽への被処理水の供給は常時供給することが好ましいが、断続的に供給することもできる。断続的に被処理水を供給する方法では生物膜担体に対して水と空気を交互に接触させることができる。また、濾過槽を2台以上並列に配置し、交互に被処理水を供給することもできる。
【0017】
本発明において、上記濾過槽の槽内上部に、被処理水供給時における上記生物膜担体の上昇限界を規制する上側規制板を設けることが好ましい。
【0018】
また、上記濾過槽の槽内下部には、サイフォン現象による排水時における上記生物膜担体の下降限界を規制する下側規制板を設けることが好ましい。
【0019】
また、上記下側規制板より下側の上記濾過槽に、上記配水口を設けることが好ましい。
【0020】
また、上記上側規制板と上記下側規制板との間に、塊状に集合している生物膜担体を解す担体解体手段を設けることが好ましく、上記担体解体手段として、上記濾過槽の内側側壁を径方向に連絡する棒状部材を設けることができる。また、その棒状部材は、上記濾過槽の上下方向に複数段設けることができ、その場合は、隣接する各棒状部材が平面から見て互いに交差する方向に配置されることが好ましい。
【0021】
上記水供給部として、上記水槽に設けられている排水口と上記濾過槽上部とを接続する接続配管と、その接続配管に介設され上記水槽内の被処理水を上記濾過槽に汲み上げるポンプとを有することができる。この場合、上記ポンプの吐出流量は、サイフォン現象による排水時の流量よりも小さい値に設定することが必要となる。
【0022】
(b) 本発明の陸上養殖システムは、
水槽と、この水槽からの排水に含まれる固形物をフィルタにより分離除去する固形物除去装置と、蛋白質や微細なゴミ等を泡沫により分離除去する泡沫分離装置と、表面に微生物膜が形成されている多数の担体が水を介して移動自在に充填され水中のアンモニアや有機物を除去する濾過槽と、気液接触させることによりCOを除去する気液接触装置と、処理水を上記水槽に帰還させる帰還流路とを有し、
上記固形物除去装置からの水を、上記泡沫分離装置、上記濾過槽、上記気液接触装置に対し任意の順序で処理させて処理水を得るとともに、上記濾過槽に対してはその上部から被処理水を供給し、上記濾過槽とその下流側に配置される装置との間にサイフォン管が介設され、このサイフォン管は、その一方端が上記濾過槽における水位の下限を定める配水口に接続され、他方端は上記配水口の高さよりも低い位置に水面がある上記水槽または上記装置の水中に浸漬され、中間部は上記濾過槽の上端または上端寄りの高さに位置するように構成されていることを要旨とする。
【0023】
また、上記帰還流路に、酸素供給装置と殺菌装置をさらに設けることができる。
【0024】
また、上記システムに、pH、DO、温度を測定する水質センサと、上記殺菌装置および上記帰還流路に設けられたポンプの各運転状態を検出するセンサと、各センサによって検出されたpH情報、DO情報、温度情報、各運転情報を有線または無線で送信する送信装置と、この送信装置から送信される各情報を受信し、上記陸上養殖システムの運転状態を監視する遠隔監視装置とをさらに備えることができる。
【0025】
本発明において生物濾過とは、前処理においてゴミ等が除去された水槽内の飼育水を細菌の力を借りて浄化する濾過を意味し、例えば、硝化菌により、魚の排泄物等から生成されるアンモニアを硝酸イオンに変え、その硝化作用によって水槽内の飼育水を浄化する濾過が示される。
【0026】
本発明において浮上性とは、被処理水の比重とほぼ同等で水中に浮遊するか、被処理水の比重以下で被処理水の水面側に浮くか或いは水面上に浮く性質を意味する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の生物濾過装置および陸上養殖システムによれば、制御装置を装備することなく処理槽内の水位を周期的に変化させて生物膜担体を空気に曝すことができるため、空気の吹き込みによって生物膜担体を撹拌(分散化)することなく担体上の微生物に効率的な酸素供給が可能になり、微生物の活性およびアンモニア除去性能を向上させることができる。
【0028】
また、水位を昇降させるための装置や動力、さらには高価な電動弁、水位センサが不要となるため、イニシャルコストの他、メンテナンス等のランニングコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る生物濾過装置の全体構成を示した正面図である。
【図2】図1に示す濾過槽の要部を拡大した斜視図である。
【図3】(a)は図1に示す下側格子をストレーナに代えた変形例を示す正面図、(b)はそのストレーナの拡大図である。
【図4】図1に示す下側格子をサイフォンブレーカ構造に代えた変形例を示す正面図である。
【図5】(a)〜(d)は図1に示すグリッドの変形例を示す平面図である。
【図6】生物濾過装置の処理動作を説明する説明図である。
【図7】生物濾過装置の処理動作を説明する説明図である。
【図8】生物濾過装置の処理動作を説明する説明図である。
【図9】本発明に係る陸上養殖システムの構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明に係る生物濾過装置の構成を詳細に説明する。
【0031】
1 生物濾過装置の原理
図1は、本発明に係る生物濾過装置の原理を説明する説明図である。
【0032】
同図において、生物濾過装置1は、合成樹脂を例えば有底筒状に成形した生物濾過槽(以下、濾過槽と略称する)2を備えておりその内部上方に、後述する生物膜担体の浮上高さを規制する上側格子(上側規制板)3が水平方向に設けられ、内部下方に生物膜担体の流出を防止する下側格子(下側規制板)4が水平方向に設けられている。
【0033】
両格子3,4間には、所定の空間を確保した状態で、表面に微生物膜が形成されている粒状の担体(以下、生物膜担体と呼ぶ)5が多数充填されている。
【0034】
なお、上記生物膜担体5は、微生物膜を形成することができ、且つ浮上性と流動性が損なわれない範囲であれば例えば、球形や筒形等の任意の形状および任意の大きさのものを使用することができる。
【0035】
また、上記両格子3,4の間には塊状に集合した生物膜担体5を解すためのグリッド(担体解体手段)6が設けられている。
【0036】
上記濾過槽2の横断面は円形であることが好ましいが、これに限らず、八角形等の多角形や正方形であってもよい。
【0037】
濾過槽2の頂部には、後述する水槽内の被処理水を供給するための水供給部2aが設けられ、下部にはドレン口2bが設けられ、そのドレン口2bと対向するようにして濾過槽2の反対側にはサイフォン入口(配水口)2cが設けられている。
【0038】
上記サイフォン入口2cにはサイフォン管7の入口部(一方端)7aが接続されている。
【0039】
サイフォン管7は上記入口部7aと、その入口部7aから立ち上げられた立ち上がり部7bと、その立ち上がり部7bの上端から水平方向に延設された中間部7cと、その中間部7cの出口側から立ち下げられた立ち下がり部7dとから構成されており、その立ち下がり部7dの下端(他方端)7eは水槽8の水中に浸漬されている。上記水槽8は、配水口の高さよりも低い位置に水面がある。
【0040】
なお、上記水供給部2aと上記水槽8とは接続配管を介して接続されており、水槽8内の被処理水をその接続配管に設けたポンプ(後述する)で汲み上げることにより、濾過槽2内に被処理水を供給することができるようになっている。
【0041】
また、本実施形態において、浄化処理のために濾過槽2に供給される水を被処理水と呼び、生物膜担体5を通過することによって処理された水を濾過水と呼ぶ。
【0042】
図1に付された各符号の説明を以下に列記する。
【0043】
a:水槽の水位
b:サイフォン管の立ち下がり部7dの出口高さ
c:サイフォン管の最上高さ(中間部7cの高さ)
d:サイフォン管の中間部7cの長さ
e:サイフォン管の入口部7aの高さ
f:濾過槽2の最上位置
g:濾過槽2の最下位置
h:濾過槽2の水位
i:濾過槽2の径
j:濾過槽2の高さ
k:下側格子4の高さ
l:上側格子3の高さ
BL:高さ説明のための仮想のベースライン
【0044】
a)水槽の水位aと入口部7aの高さeとの関係は、a≦eを基本とする。ただし、サイフォンブレーカ構造(図4参照)を他に設ける場合等のように濾過槽の構造によってはa≧eでも可能となる。
【0045】
b)立ち下がり部7dの出口高さbは、b≦aを基本とする。ただし、濾過槽2への被処理水導入流速条件等によってはb≧aでも可能な場合もある。
【0046】
c)サイフォン管の最上高さcは、e<c<fを基本とする。ただし、濾過槽2の構造によってはc>fとなる場合もある。
【0047】
d)中間部7cの長さdは任意に設定することができるが、長くなればなるほど配管抵抗が大きくなるため、配管抵抗を検討することが必要となる。
【0048】
e)入口部7aの高さeは、e≧gを基本とする。ただし、濾過槽2の底部から下向きに入口部7aを設けた場合は、e≦gとすることも可能になる。
【0049】
f)濾過槽2の最上位置fはf≧cを基本とする。ただし、濾過槽2の構造によってはf<cとなる場合もある。
【0050】
g)濾過槽2の最下位置gは、g≦eを基本とする。ただし、上記e)で説明したように、その逆も有り得る。
【0051】
h)濾過槽2の水位hは、h≧e、h≦cを基本とする。
【0052】
i)濾過槽2の径iは必要とされる濾過槽の容量に応じて任意に設定することが可能である。
【0053】
j)濾過槽2の高さjは、j=f−gの範囲で設定することが可能である。
【0054】
k)下側格子4の高さkは、k>eとする。
【0055】
l)上側格子3の高さlは、生物膜担体が昇降し得る距離を確保した状態でl>kであり、且つl≦cを基本とする。
【0056】
2 生物濾過装置の各部の構成
次に、生物濾過装置1を構成している各部の構成について説明する。
【0057】
図2は上記上側格子3、下側格子4およびそれらの格子間に設けられるグリッド6の配置を示した斜視図である。
【0058】
2.1 上側及び下側格子
同図において、上側格子3および下側格子4は同じ構成からなり、上側格子3を代表してその構成を説明する。
【0059】
上側格子3は、FRP、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂材料を円盤状に成形したものからなり、生物膜担体5の径よりも小さいサイズからなる網目が格子状(平面から見て)に形成されている。
【0060】
上側格子3および下側格子4は、それらの間に充填された生物膜担体5が濾過槽2から流出するのを防止する目的で配設されており、上側格子3については網目を通して被処理水のみを通過させることができるようになっている。
【0061】
なお、下側格子4については生物膜担体5の流出を防止でき且つ濾過水のみを通過させることができるものであれば、例えば、ストレーナに代えることも可能である。
【0062】
詳しくは、図3(a)に示すように、濾過槽2の下部にストレーナ支持板10を設け、そのストレーナ支持板10に、図3(b)の拡大図に示すストレーナ11を複数設ければ、上記下側格子4と同様に、生物膜担体5の流出を防止しながら濾過水のみを通過させることができる。この種のストレーナ11としては、例えばヤンマー(株)製の耐海水仕様のストレーナを使用することができる。
【0063】
また、下側格子4は、図4に示すようなサイフォンブレーカ構造に代えることもできる。
【0064】
同図に示すように、サイフォン管12の頂部に空気抜きパイプ13の一方端13aを接続し、この空気抜きパイプ13を濾過槽2内に垂下させ、空気抜きパイプ13の他方端13bを、濾過槽2の底面から所定の高さに保持する。
【0065】
この構成では、濾過槽2の水位が、空気抜きパイプ13の他方端13bの位置よりも低下すると、その空気抜きパイプ13を通じてサイフォン管12内に空気が入りサイフォン作用が停止する。それにより、濾過槽2内の水位は他方端13bの位置より下がることはないため、生物膜担体5の流出を防止することができる。ただし、本実施形態で使用する生物膜担体5は、水面上に浮くことができる比重の小さいもの使用することが必要となる。
【0066】
2.2 グリッドの構成
グリッド6は耐食性を備えた棒状部材からなり、図2に示したように、上側格子3と下側格子4の間に4段設けられている。
【0067】
最も上側に位置する1段目のグリッド6aは、濾過槽2の直径方向に配置され、2段目のグリッド6bは、1段目のグリッド6aに対し平面から見て直交する状態で配置され、3段目のグリッド6cは上記1段目のグリッド6aと平行に配置され、最も下側に位置する4段目のグリッド6dは上記2段目のグリッド6bと平行に配置されている。
【0068】
上記グリッド6は、濾過槽2内の水を排出する際に、塊状に集合している生物膜担体5を解して分散させるためのものであり、本実施形態では4段で構成したが、これに限らず、それ以上の段数で構成することもでき、また、それ以下の段数で構成することもできる。
【0069】
また、上記グリッド6に例示した担体解体手段は、生物膜担体5を解して分散させることができれば上記した棒状部材に限らず、図5に示すように、各種形態のものを使用することができる。
【0070】
同図(a)は、濾過槽2内に、複数の棒状部材20を平行に配置したものである。
【0071】
同図(b)は、平行に配置された複数の棒状縦部材21と、同じく平行に配置された複数の棒状横部材22とを格子状に組み合わせたものである。
【0072】
同図(c)は、濾過槽2の中心で交わるように、複数の棒状部材23を放射状に配置したものである。
【0073】
同図(d)は、複数の貫通孔24を備えた多孔板25で構成したものである。
【0074】
2.3 生物膜担体
生物膜が形成される担体は、粒径が0.5〜10mm程度の浮上性担体、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン粒状物から構成されており、担体の比重は被処理水とほぼ同等かそれ以下とする。
【0075】
上記担体の表面には、好気性または嫌気性の微生物を含んだ汚泥を付着させて生物膜を形成し、この生物膜担体5を多数、濾過槽2内に充填することにより、濾過槽2内に導入された被処理水中の有機性汚濁物質の処理と浮遊物質の分離とを同時に行うようになっている。
【0076】
生物膜担体5の充填量は、上側格子3と下側格子4によって区画される容積に対し、40〜80%程度充填することが好ましい。生物膜担体5の充填量が40%を下回ると、効率的な濾過機能を発揮することができず、また、80%を上回ると生物膜担体5の移動が緩慢になり、生物膜担体5に付着した有機物等の除去効率が低下する。
【0077】
濾過槽2に多数充填された生物膜担体5は水中に分散、または水面側に浮上して濾床を形成するようになっている。
【0078】
3 生物濾過装置の動作
次に、上記構成を有する生物濾過装置の浄化処理について、図6〜図8を参照しながら説明する。
【0079】
なお、図6〜図8において、図1と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0080】
図6において、濾過槽2は濾過槽支持台30上に固定されており、水槽8は水槽支持台31上に固定されている。
【0081】
水槽8の底部には排水口8aが設けられ、この排水口8aは接続配管32を介して濾過槽2の頂部に設けられた水供給部2aと接続されている。
【0082】
また、上記接続配管32には被処理水の流れ方向において、ポンプ33、流量計34、バルブ35がそれぞれ介設されている。なお、上記ポンプ33は、所定の流量を吐出することができるものであれば定吐出量形であっても可変吐出量形であってもよい。
【0083】
上記所定の流量とは、サイフォン管7を介してサイフォン現象が起きた際に、濾過槽2に被処理水が供給されている状態で濾過槽2内の濾過水を排出することができるような流量であり、サイフォン管7を通じて濾過槽2から排出される濾過水の流量よりも一定量少ない流量を意味する。
【0084】
なお、生物濾過装置1の運転時には、バルブ35が開かれポンプ33が駆動されることにより、水槽8内の被処理水が吸い上げられ濾過槽2の頂部から濾過槽2内に常に一定の流量で被処理水が導入されるようになっている。
【0085】
3.1 被処理水の供給
まず、ポンプ33が駆動されることにより、水槽8内の被処理水が汲み上げられ、濾過槽2の頂部からその槽内に被処理水が供給される(矢印A参照)。
【0086】
濾過槽2内の水位が徐々に上昇すると(矢印B参照)、水位の上昇につれて生物膜担体5も上昇する。なお、生物膜担体5の上昇限界は、上側格子3によって規制される。
【0087】
濾過槽2内の水位上昇とともに、サイフォン管7における立ち上がり部7b内においても濾過槽2内の水位と同じ高さで水位が上昇する(矢印C参照)。
【0088】
3.2 サイフォン現象による処理水の移動
図7において、濾過槽2内の水位が立ち上がり部7bの最上部まで達しサイフォン管7内が水で満たされるとサイフォン現象が起き、濾過槽2と水槽8とが連通状態になる。それにより、濾過槽2から水槽8へ濾過水が一気に流れ出し(矢印C→C→C参照)、濾過槽2の水位が中間部7cの高さより低くなっても水槽8への濾過水の移動は継続される。
【0089】
濾過槽2の水位が低下し続け、濾過槽2の底面まで低下すると、サイフォン管7内に空気が流入し、その結果、サイフォン現象が壊れて濾過水の排水が停止する。
【0090】
また、濾過槽2内の水位の低下につれて生物膜担体5が下降する際、生物膜担体5は複数段配置されている各グリッド6a〜6d(図2参照)を通過するたびに塊状が細かく解されて流動性が付与され、最終的に下側格子4上に堆積する。
【0091】
生物濾過では魚介類から多量のアンモニアが排泄され、そのアンモニア性窒素を除去(硝化)するために酸素を消費する。本実施形態では、濾過槽2内の水位をその底面まで低下させて生物膜担体5を一時的に空気中に曝すように構成している。それにより、濾過槽2においてアンモニアを除去する際に消費する酸素を供給することが可能になり、生物膜担体5におけるアンモニアの除去性能を向上させることができる。また、酸素を供給することによって生物膜担体5の表面に付着している微生物も活性化することができる。
【0092】
3.3 被処理水の再供給
図8に示すように、上述した動作によって濾過槽2内の処理水は排水されるが、ポンプ33は運転を継続しているため、水槽8内の被処理水は引き続き、濾過槽2内に供給される。
【0093】
それにより、濾過槽2内の水位は徐々に上昇していき、水位がサイフォン管7の中間部7cの高さまで達すると、図7で説明したように、再び、サイフォン管7を通じて濾過槽2から水槽8へ濾過水が流れ出す。
【0094】
濾過槽2の底面まで水位が低下すると、サイフォン管7内に空気が流入し、サイフォン現象が壊れて濾過水の排水が停止する。
【0095】
ポンプ33の運転を停止させない限り、濾過槽2内で水位が上下し、その結果、生物膜担体5が水中に浸漬する状態と、生物膜担体5が空気中に曝される状態とが繰り返される。
【0096】
なお、上記実施形態では一つの濾過槽2によって生物濾過装置1を構成したが、濾過槽2を複数配置することもできる。例えば濾過槽を2基配置し、いずれか一方の濾過槽内の水位がサイフォン現象によって下降するとき、いずれか他方の濾過槽には被処理水を供給して水位を上昇させるように構成すれば、濾過に要する時間を短縮することができるため濾過効率をさらに向上させることができる。
【0097】
図9は上記構成を有する生物濾過装置1を適用した陸上養殖システムの構成を示す正面図である。
【0098】
同図において、陸上養殖システム40は、水槽41と、この水槽41の排出口から排出された被処理水が導入され、10〜200μm程度のゴミをフィルタにより分離除去する固形物除去装置42と、この固形物除去装置42によって前処理された被処理水について、水中の蛋白質や微細なゴミを泡沫により分離除去する泡沫分離装置43と、この泡沫分離装置43から排出される被処理水が導入される、上述した構成からなる濾過槽2と、この濾過槽2によって水中のアンモニア性窒素や有機物が除去された処理水について水中のCOを気液接触させることにより除去する気液接触装置44と、この気液接触装置44からの処理水をポンプ45を介して上記水槽41に帰還させる帰還流路46と、この帰還流路46に介設された酸素供給装置47および殺菌装置48とを備えている。
【0099】
魚が出した糞や食べ残した残餌を速やかに除去しなければアンモニア等に変化してしまうため、上記固形物除去装置42は、水槽4の後段に配置することが好ましい。
【0100】
また、被処理水中の固形物や蛋白質も放置するとアンモニアに変化してしまうため、上記泡沫分離装置43は、上記固形物除去装置42の後段に配置することが好ましい。
【0101】
上記濾過槽2では、水中の固形物がおおよそ除去された状態、水中に溶解しているアンモニア、溶解性有機物を、濾過槽内の担体に付着している微生物が除去するようになっているが、アンモニアの硝化や有機物の除去のために酸素が消費され、COが排出される。
【0102】
そこで、上記濾過槽2の後段に気液接触装置44を配置している。COは濃度が高い方が除去しやすいことから、その発生源である水槽41や濾過槽2の後段に配置することが好ましい。また、それにより、水槽41や濾過槽2で消費した酸素を供給することもできる。
【0103】
上記水槽41と上記濾過槽2で水中の溶存酸素が消費され、気液接触装置44で酸素を飽和値近くまで供給した後、さらに、上記酸素供給装置47によって高濃度の酸素を供給すれば、飽和値以上に溶存酸素濃度を高めることができる。
【0104】
上記殺菌装置48を浄化装置の最も後段に配置しているのは、浄化した水を水槽41に戻す直前に殺菌を行うのが最も安全であるからである。
【0105】
また、上記濾過槽2と気液接触装置44はサイフォン管7を介して接続されており、サイフォン管7の一方端は濾過槽2における水位の下限を定める配水口2cに接続され、他方端はその配水口2cの高さよりも低い位置に水面がある気液接触装置(配水口の高さよりも低い位置に水面がある装置)44の水中に浸漬されている。中間部7cは上記濾過槽2の上端または上端寄りの高さに位置するように構成されている。
【0106】
濾過槽2内の水位が立ち上がり部7bの最上部まで達しサイフォン管7内が濾過水で満たされるとサイフォン現象が起き、濾過槽2と気液接触装置44とが連通状態になる。それにより、濾過槽2から気液接触装置44へ濾過水が一気に流れ出し、濾過槽2の水位が中間部7cの高さより低くなっても気液接触装置44への濾過水の移動は継続される。
【0107】
濾過槽2の水位が低下し続け、濾過槽2の底面まで低下すると、サイフォン管7内に空気が流入し、その結果、サイフォン現象が壊れて濾過水の排水が停止する。
【0108】
なお、上記構成に限らず、例えば、水槽41→固形物除去装置42→濾過槽2→泡沫分離装置43→気液接触装置44→酸素供給装置47→殺菌装置48の順で処理する場合や、水槽41→固形物除去装置42→濾過槽2→気液接触装置44→泡沫分離槽43→酸素供給装置47→殺菌装置48の順で処理する場合のように、CO除去の効率を高めるような処理順序も考えられる。
【0109】
また、水槽41には、pH、液中の溶存酸素濃度(以下、DOと呼ぶ)、水温を同時に連続測定できるマルチ水質計(水質センサ)49が浸漬されており、このマルチ水質計49によって検出されたpH情報、DO情報、水温情報は、送信器50aを介して遠隔監視装置51に送信されるようになっている。
【0110】
さらに、酸素供給装置47およびポンプ45にはそれぞれセンサが備えられ、各センサによって検出された、例えば正常時、過負荷時の電流値情報は送信器50bおよび50cを介して上記遠隔監視装置51に有線または無線で送信されるようになっている。
【0111】
それにより、上記遠隔監視装置51は、陸上養殖システム40が設置されている現場から離れた位置でその運転状態を監視することができ、センサの検出情報が異常を示した場合は警報を報知することができるようになっている。
【符号の説明】
【0112】
1 生物濾過装置
2 濾過槽
2a 水供給部
2b ドレン口
2c サイフォン入口(配水口)
3 上側格子
4 下側格子
5 生物膜担体(粒状担体)
6 グリッド
7 サイフォン管
7a 入口部(一方端)
7b 立ち上がり部
7c 中間部
7d 立ち下がり部
7e 下端(他方端)
8 水槽
10 ストレーナ支持板
11 ストレーナ
12 サイフォン管
13 空気抜きパイプ
20 棒状部材
21 棒状縦部材
22 棒状横部材
23 棒状部材
24 貫通孔
25 多孔板
32 接続配管
33 ポンプ
34 流量計
35 バルブ
40 陸上養殖システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過槽と、
上記濾過槽内に多数充填され、水を介して移動自在であり表面に微生物膜が形成されている浮上性の生物膜担体と、
上記濾過槽における水位の下限を定める配水口の高さよりも低い位置に水面がある水槽または装置と、
一方端が上記濾過槽の配水口に接続され、他方端が上記濾過槽から濾過水を供給する上記水槽または装置の水中に浸漬され、中間部が上記濾過槽の上端または上端寄りの高さに位置するサイフォン管と、
被処理水を上記濾過槽の上部から供給する水供給部と、を備えてなることを特徴とする生物濾過装置。
【請求項2】
上記濾過槽の槽内上部に、水供給時における上記生物膜担体の上昇限界を規制する上側規制板が設けられている請求項1記載の生物濾過装置。
【請求項3】
上記濾過槽の槽内下部に、サイフォン現象による排水時における上記生物膜担体の下降限界を規制する下側規制板が設けられている請求項1または2記載の生物濾過装置。
【請求項4】
上記下側規制板より下側の上記濾過槽に、上記配水口が設けられている請求項3記載の生物濾過装置。
【請求項5】
上記上側規制板と上記下側規制板との間に、塊状に集合している上記生物膜担体を解す担体解体手段が設けられている請求項3または4記載の生物濾過装置。
【請求項6】
上記担体解体手段として、上記濾過槽の内側側壁を径方向に連絡する棒状部材が設けられている請求項5記載の生物濾過装置。
【請求項7】
上記棒状部材が、上記濾過槽の上下方向に複数段設けられるとともに、隣接する各棒状部材が平面から見て互いに交差する方向に配置されている請求項6記載の生物濾過装置。
【請求項8】
上記水供給部として、上記水槽に設けられている排水口と上記濾過槽上部とを接続する接続配管と、その接続配管に介設され上記水槽内の被処理水を上記濾過槽に汲み上げるポンプとを有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物濾過装置。
【請求項9】
上記ポンプの吐出流量が、サイフォン現象による排水流量よりも小さい値に設定されている請求項8記載の生物濾過装置。
【請求項10】
水槽と、この水槽からの排水に含まれる固形物をフィルタにより分離除去する固形物除去装置と、蛋白質や微細なゴミ等を泡沫により分離除去する泡沫分離装置と、表面に微生物膜が形成されている多数の担体が水を介して移動自在に充填され水中のアンモニアや有機物を除去する濾過槽と、気液接触させることによりCOを除去する気液接触装置と、処理水を上記水槽に帰還させる帰還流路とを有し、
上記固形物除去装置からの水を、上記泡沫分離装置、上記濾過槽、上記気液接触装置に対し任意の順序で処理させて処理水を得るとともに、上記濾過槽に対してはその上部から被処理水を供給し、上記濾過槽とその下流側に配置される装置との間にサイフォン管が介設され、このサイフォン管は、その一方端が上記濾過槽における水位の下限を定める配水口に接続され、他方端は上記配水口の高さよりも低い位置に水面がある上記水槽または上記装置の水中に浸漬され、中間部は上記濾過槽の上端または上端寄りの高さに位置するように構成されていることを特徴とする陸上養殖システム。
【請求項11】
上記帰還流路に、酸素供給装置と殺菌装置がさらに設けられている請求項10記載の陸上養殖システム。
【請求項12】
上記システムに、pH、DO、温度を測定する水質センサと、上記殺菌装置および上記帰還流路に設けられたポンプの各運転状態を検出するセンサと、各センサによって検出されたpH情報、DO情報、温度情報、各運転情報を有線または無線で送信する送信装置と、この送信装置から送信される各情報を受信し、上記陸上養殖システムの運転状態を監視する遠隔監視装置とがさらに備えられている請求項11記載の陸上養殖システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−184177(P2010−184177A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28784(P2009−28784)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】