説明

用役設備の最適運転システム

【課題】製造工場における用役設備の運転において、需要予測の誤差が大きい場合や制御周期の時間内で用役需要が急激に変化する場合でも、用役設備を高効率で運転し、用役の需要と供給を一致させることにより、CO2排出量を削減する用役設備の最適運転システムを提供する。
【解決手段】用役需要予測結果に基づいてCO2排出量を最小化するように用役設備の最適運転計画を実施し、各用役毎に起動する用役設備の中で少なくとも1台の用役設備は負荷率を設定せず、他の用役設備は負荷率を設定して用役設備を運転し、各用役毎に、需要予測値と実績値の差が予め設定した許容値以上になった場合は、実績値に基づいて用役需要予測値を補正して最適運転計画を実施し、負荷率を設定しない設備以外の設備の負荷率を再度設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラントや自動車組立工場などの製造工場の分野において、生産設備および共通設備に電力,温冷水,蒸気などの用役を供給する用役設備の最適運転計画を実施する用役設備の最適運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止が喫緊の課題となっており、エネルギー起源のCO2排出を削減することが求められている。製造業では、石油ショックを契機に、製造プロセスの改変,省エネ機器の導入,燃料転換等による省エネルギー化が積極的に進められ、エネルギー消費はほぼ横ばいで推移している。
【0003】
しかし、製造業のエネルギー消費量は国内の約40%と依然として高い割合を占めている。今後、更なる省エネルギー化・CO2排出削減を実現するためには、工場内の電気,蒸気,温冷水等のエネルギー供給を行う用役設備を最適に運転することが求められている。
【0004】
用役設備を運転する従来技術としては、例えば〔非特許文献1〕に示すように、気象予報,生産計画および用役設備の仕様を入力して、生産設備における用役の需要予測を行い、その結果に基づき用役設備の運転計画を行う技術がある。
【0005】
又、〔特許文献1〕に記載のように、少なくとも二種類の一次エネルギー源を入力とする熱源機器プラントと,熱源機器プラントの制御手段と,熱源機器プラントのデータベース,とを基本構成とし、少なくとも一次エネルギーの使用比率を一定周期の間不変とする運転モードを設定し、この運転モードの下で熱源機器プラントの制御手段を制御して、供給熱エネルギーを変化させる技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−137640号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】東芝レビュー Vol.62 No.8 (2007) pp.45-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、用役設備の運転計画システムでは、運転コスト,エネルギー使用量またはCO2排出量などの評価関数を最小化するように、予測された用役の需要値に対して各用役設備の運転状態を計算し、起動・停止や負荷率(出力)の制御指示を出力する。運転計画は、例えば、24時間先まで1時間刻みで出力し、一定の制御周期で計画を更新する。
【0009】
その場合、〔非特許文献1〕に記載の従来技術では各用役設備毎に負荷率を設定しているため、需要予測の誤差が大きい場合や、図5に示すように制御周期の時間内で用役需要が急激に変化する場合は、用役の需要と供給にギャップが発生する可能性があり、需要に対して供給が少ない場合は生産に影響を及ぼし、需要に対して供給が多い場合はエネルギーの無駄が生じるという問題がある。
【0010】
又、〔特許文献1〕に記載の従来の技術では、少なくとも一次エネルギーの使用比率を一定周期の間不変とする運転モードで運転しているので、用役需要が急激に変化する場合は、用役の需要と供給にギャップが発生する可能性があり、需要に対して供給が少ない場合は生産に影響を及ぼし、需要に対して供給が多い場合はエネルギーの無駄が生じるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、工場の省エネ・CO2排出削減を実現するため、生産設備の用役需要に対して十分で且つ無駄なく用役を供給できる最適運転計画を用いた用役設備の最適運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、製造工場での生産計画,製造処方,気象予報等の入力情報を用いて蒸気や電力等の複数種類の用役需要を予測し、各用役需要予測結果に基づいて複数種類の用役設備の最適運転計画を実施し、各用役設備の起動・停止および負荷率を用役設備に指令または運転管理者へガイダンスを出力する用役設備の最適運転システムであって、各用役毎に起動する用役設備の中で少なくとも1台以上の用役設備は負荷率を設定せず、他の用役設備は負荷率を設定して指令又はガイダンスを出力し、各用役種類毎に、需要予測値と実績値の差が予め設定した許容値以上になった場合、実績値に基づいて再度最適運転計画を実施し、負荷率を設定しない設備以外の設備の負荷率を再度設定するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生産設備の用役需要に対して十分で且つ無駄なく用役を供給できる用役設備の最適運転を実施することにより、省エネおよびCO2を削減する用役設備の最適運転システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による一実施例の用役設備最適運転制御システムの構成図。
【図2】本実施例の用役設備最適運転制御の評価フロー図。
【図3】本実施例の用役設備運転方法の一例を示す図。
【図4】本実施例の用役設備運転方法の一例を示す図。
【図5】従来の用役設備運転方法の一例を示す図。
【図6】従来の用役設備運転計画の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態では、蒸気や電力等の複数種類の用役需要を予測し、各用役需要予測結果に基づいて、CO2排出量またはエネルギー購入コストを最小化するように複数種類の用役設備の最適運転計画を実施する。各用役設備の起動・停止、及び負荷率を用役設備に指令する、又は運転管理者へのガイダンスを出力する際に、各用役毎に起動する用役設備の中で少なくとも1台の用役設備は負荷率を設定せず、他の用役設備は負荷率を設定して指令またはガイダンスを出力する。各用役種類毎に、需要予測値と実績値の差が予め設定した許容値以上になった場合、実績値に基づいて需要予測値を補正して最適運転計画を実施し、負荷率を設定しない用役設備以外の用役設備の負荷率を再度設定する。これにより、CO2排出量を最小化する用役設備の最適運転制御システムを提供することができる。
【0016】
図1に、本発明の一実施例である用役設備最適運転制御システムの構成を示す。本システムは、製造工場での生産計画,製造処方,気象予報,用役設備仕様,生産設備状態量及び用役設備状態量を含む情報を入力する入力部1、入力部1で入力された生産計画,製造処方,気象予報,用役設備仕様,生産設備状態量及び用役設備状態量を含む情報に基づき生産設備での用役需要量を予測する生産設備の用役需要量演算部2、生産設備の用役需要量演算部2で予測された用役需要量、入力部1で入力された用役設備仕様及び用役設備状態量に基づきCO2排出量、又はエネルギー購入コストを最小化することを目的として用役設備の最適運転計画を計算する用役設備の最適運転計画演算部3、用役設備の最適運転計画演算部3で計算された最適運転計画の計算結果に基づき用役設備の運転方法を判断して指令を行う用役設備の運転指令部4、入力情報,演算結果,運転指令の結果を表示する結果表示部5、入力情報,演算結果,運転指令の結果を記憶するデータ記憶部6で構成される。
【0017】
図2に用役設備の最適運転制御の評価フローを示す。
【0018】
ステップ10で、生産計画,製造処方,気象予報,用役設備仕様,生産設備状態量,用役設備状態量などの情報を入力する。ステップ11で、生産計画,製造処方,気象予報,用役設備仕様,生産設備状態量,用役設備状態量などの情報に基づき、各生産設備での各用役需要量を予測する。ステップ12で、各種用役需要総量と用役設備仕様に基づき、CO2排出量またはエネルギー購入コスト等の評価関数を最小化することを目的として用役設備の最適運転計画を実施する。
【0019】
ステップ13で、各用役毎に起動する用役設備の中で需要予測値に対する偏差の上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷変化が可能な用役設備を選定する。このとき、上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷変化の範囲で、CO2排出量またはエネルギー購入コスト等の評価関数の変化が最小の用役設備を選定する。
【0020】
ステップ14で、選定した用役設備には負荷率を設定せず、他の用役設備は負荷率を設定して指令またはガイダンスを出力し、用役設備の運転を行う。ステップ16で、各用役種類毎に、需要予測値と実績値の差が予め設定した許容値未満であるか否かを判断する。
許容値未満の場合は、ステップ17で、運転を継続し、許容値以上になった場合、ステップ15で、実績値に基づいて用役需要予測値を補正し、ステップ12の最適運転計画を再度実施する。
【0021】
用役設備の最適運転計画に関して、CO2排出量を評価関数とした場合について説明する。最適運転計画とは、CO2排出量が最小となるように、用役設備の起動,停止、及び機器の定格出力に対する運転出力で定義される負荷率を決定することを言う。
【0022】
用役設備の起動停止及び負荷率の最適化方法を以下に示す。用役設備jの起動停止変数をxj、負荷率zjにおけるCO2排出量をajとした場合、CO2排出量の最小化を目的とした評価関数Jは数1で表される。起動停止変数xjは、起動が1、停止が0で表される。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、CO2排出量は各用役設備の負荷率zjに依存して変化するため、CO2排出量ajは負荷率zjの関数となる。
【0025】
一般に、用役設備は電気と燃料を使用する。図6に電気および燃料によるCO2排出量と負荷率zjの特性曲線の一例を示す。用役設備の負荷率zjに応じて、電気消費量および燃料消費量は変化するので、それに伴いCO2排出量も変化する。
【0026】
このため、数1の評価関数Jにおいて、係数ajで示したCO2排出量も分けて計算する必要がある。電気によるCO2排出量をαj,燃料によるCO2排出量をβjとして評価関数Jを書き直すと数2となる。
【0027】
【数2】

【0028】
この評価関数Jを最小化するように、混合整数計画法を用いて用役設備の起動停止変数xjと負荷率zjを最適化する。ここで、混合整数計画法とは、評価関数の最適化問題において変数の一部が整数値に限定されたものを扱う線形計画法である。
【0029】
図3に、本実施例のボイラの運転方法の一例を示す。本実施例では、生産設備で実際に使用される蒸気需要の実績値が、蒸気需要予測値に対する偏差上限許容値と偏差下限許容値の範囲内にある場合を示す。
【0030】
図2のステップ11において、生産設備で必要な蒸気需要量を予測し、制御周期毎に蒸気需要予測値を設定する。ステップ12において、制御周期毎に蒸気需要予測値に一致し、且つCO2排出量またはエネルギー購入コスト等の評価関数を最小化するように全てのボイラを対象に最適運転計画を実施し、起動停止,負荷率を計算する。ステップ13において、起動するボイラの中で計算した負荷率に対して増大幅および減少幅の余裕が大きく、且つ、偏差上限許容値と偏差下限許容値の負荷率の変化範囲で評価関数の変化が最小のボイラを、負荷率を設定しないボイラとして選定する。
【0031】
図3に示すように、負荷率を設定していないボイラ1は、蒸気圧力ヘッダーの圧力情報を用いたフィードバック制御等により実際の生産設備の蒸気需要の変動に追随して負荷運転される。負荷率を設定したボイラ2およびボイラ3は、制御周期の間は設定された一定の負荷率で運転される。これにより、複数のボイラ全体でCO2排出量等の評価関数を最小にした条件で、蒸気を生産設備に十分かつ無駄なく供給することが可能となる。
【0032】
図4に本実施例のボイラの運転方法の他の例を示す。本実施例では、生産設備で実際に使用される蒸気需要の実績値が、蒸気需要予測値に対する偏差下限許容値より小さくなる場合を示す。
【0033】
図2のステップ11において、生産設備で必要な蒸気需要量を予測し、制御周期毎に蒸気需要予測値を設定する。ステップ12において、図4の制御周期の開始時刻Tsにおいて蒸気需要予測値に一致し、且つCO2排出量またはエネルギー購入コスト等の評価関数を最小化するように全てのボイラを対象に最適運転計画を実施し、起動停止,負荷率を計算する。ステップ13において、起動するボイラの中で計算した負荷率に対して増大幅および減少幅の余裕が大きく、且つ、偏差上限許容値と偏差下限許容値の負荷率の変化範囲で評価関数の変化が最小のボイラを、負荷率を設定しないボイラとして選定する。
【0034】
図4に示すように、負荷率を設定していないボイラ1は、蒸気圧力ヘッダーの圧力情報を用いたフィードバック制御等により実際の生産設備の蒸気需要の変動に追随して負荷運転される。負荷率を設定したボイラ2およびボイラ3は、設定された一定の負荷率で運転される。
【0035】
ここで、時刻Tmにおいて蒸気需要実績値が蒸気需要予測値に対する偏差下限許容値より小さくなった場合、評価関数が最小となる条件から逸脱する可能性がある。そこで、直ちに蒸気需要実績値に基づき蒸気需要予測値を補正し、全ボイラに対して最適運転計画を実施する。図4に示す例の場合、時刻Trにおいてボイラ1を再び負荷率を設定しないボイラとして選定し、ボイラ2およびボイラ3は再度実施した最適運転計画に基づき、負荷率を変更する。これにより、複数のボイラ全体でCO2排出量等の評価関数を最小にした条件で、蒸気を生産設備に十分かつ無駄なく供給することが可能となる。
【0036】
なお、負荷率を設定しない用役設備は、需要予測値に対する偏差の上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷変化が可能な用役設備が選定される。又、負荷率を設定しない用役設備は、需要予測値に対する偏差の上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷率の変化範囲で、評価関数の変化が最小となる用役設備が選定されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
化学プラントや組立工場のような製造工場において、生産設備の用役需要を予測して、用役を十分かつ無駄なく供給することができる用役設備の最適運転方法およびシステムを提供できる。
【符号の説明】
【0038】
1 入力部
2 用役需要量演算部
3 最適運転計画演算部
4 運転指令部
5 結果表示部
6 データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造工場での生産計画,製造処方,気象予報,用役設備仕様,生産設備状態量及び用役設備状態量を含む情報を入力する入力部と、該入力部で入力された前記情報を用いて生産設備での蒸気や電力等の複数種類の用役需要量を予測する用役需要量演算部と、該用役需要量演算部で予測された各用役需要量の予測結果に基づいて複数種類の用役設備の最適運転計画を計算する最適運転計画演算部と、該最適運転計画演算部で計算された前記最適運転計画に基づいて各用役設備の起動,停止及び負荷率を用役設備に指令又は運転管理者へのガイダンスを出力する用役設備運転指令部と、前記入力情報と演算結果と運転結果を記憶する記憶部と、前記入力情報と演算結果と運転結果を表示する結果表示部を備えた用役設備の最適運転システムであって、各用役毎に起動する用役設備の中で少なくとも1台の用役設備は負荷率を設定せず、その他の用役設備は負荷率を設定して前記指令又はガイダンスを出力することを特徴とする用役設備の最適運転システム。
【請求項2】
前記各用役種類毎に、需要予測値と実績値の差が予め設定した許容値以上になった場合、実績値に基づいて需要予測値を補正して最適運転計画を計算し、前記負荷率を設定しない用役設備以外の用役設備の負荷率を再度設定する請求項1に記載の用役設備の最適運転システム。
【請求項3】
前記負荷率を設定しない用役設備は、需要予測値に対する偏差の上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷率の変化が可能な用役設備が選定される請求項1又は2に記載の用役設備の最適運転システム。
【請求項4】
前記負荷率を設定しない用役設備は、需要予測値に対する偏差の上限許容値と下限許容値の差に相当する負荷率の変化範囲で、評価関数の変化が最小となる用役設備が選定される請求項1乃至3のいずれかに記載の用役設備の最適運転システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−155427(P2012−155427A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12467(P2011−12467)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】