説明

用紙搬送装置

【課題】 搬送経路を覆う外装カバーの内側面にピックアップローラが揺動可能に設けられた用紙搬送装置において、ピックアップローラを駆動するモータのトルク負荷を増大させることなく、外装カバーを開いた時におけるピックアップローラの垂れ下がりを防止する手段を提供する。
【解決手段】 本発明に係るADF1は、搬送経路10を覆うようにして開閉可能に設けられた外装カバー8と、該外装カバー8の内側面18に揺動可能に設けられ、給紙トレイ4にセットされた原稿3に接触して搬送経路10に繰り込み、または給紙トレイ4にセットされた原稿3から離れて待機するピックアップローラ21と、該ピックアップローラ21を構成する鉄製のローラ軸50と、外装カバー8の内側面18に設けられてローラ軸を吸着するピックアップローラ固定磁石26と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送経路を覆う外装カバーの内側面にピックアップローラが揺動可能に設けられた用紙搬送装置に関し、特に、ピックアップローラを駆動するモータのトルク負荷を増大させることなく、外装カバーを開いた時におけるピックアップローラの垂れ下がりを防止可能な用紙搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、ファクシミリ、スキャナ等は、所定の搬送経路に沿って用紙を搬送しながらその用紙の画像を読み取り或いはその用紙に画像を形成する用紙搬送装置を備えている。この用紙搬送装置は、用紙トレイにセットされた用紙を1枚ずつ搬送経路に繰り込み、搬送経路に沿って適宜配置された搬送ローラでニップして下流側へ搬送した後、排紙トレイに排出するよう構成される。この用紙搬送装置では、搬送経路の途中でジャムすなわち用紙詰まりが発生した場合、搬送経路を覆って設けられた外装カバーを開いて搬送経路を露呈させ、詰まった用紙を取り除けるようになっている。
【0003】
そして、この外装カバーの内側面には、用紙トレイにセットされた用紙を搬送経路に順次繰り込むためのピックアップローラが揺動可能に設けられる。このピックアップローラは、用紙搬送時には用紙に接触した状態で回転することによって用紙を搬送経路に繰り込む一方、用紙を搬送しない時は用紙から離れた状態で待機するよう制御される。
【0004】
ここで、ピックアップローラが外装カバーに対して揺動可能であるため、例えば外装カバーが上下方向に開閉可能である場合、上方に開いた外装カバーからピックアップローラが垂れ下がった状態になると、ピックアップローラがメンテナンス作業の邪魔になり、或いは外装カバーを閉じる際にピックアップローラが装置本体側にぶつかって損傷する。従って、外装カバーを開いた時にピックアップローラの垂れ下がりを防止する手段が必要とされる。
【0005】
ピックアップローラの垂れ下がりを防止する手段としては、種々の方法が従来提唱されている。例えば、特許文献1の図1及び図2によれば、上フレーム28(本願の「外装カバー」に相当)を開いた時に、ピックアップローラ13に突出して設けた係止片59が、上フレーム28の内側面に突出して設けた係止リブ61に引っ掛かることにより、ピックアップローラ13が垂れ下がるのを防止する方法が開示されている。また、ピックアップローラの垂れ下がりを防止する他の方法としては、いわゆるトルクリミッタでピックアップローラの揺動を制限する方法がある。この方法によれば、ピックアップローラは、トルクリミッタから所定の回転方向に負荷トルクを受け、この負荷トルクを超える大きさのトルクが逆廻り方向に作用しない限り揺動しないようになっている。そして、ピックアップローラの自重による回転力だけでは、トルクリミッタの負荷トルクの大きさを超えないようになっている。これにより、外装カバーを開いてもピックアップローラが自重で揺動して外装カバーから垂れ下がった状態とはならず、ピックアップローラは用紙から離れた待機位置で保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3902181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の用紙搬送装置によれば、ピックアップローラがトルクリミッタから負荷トルクを常時受けているので、前述のように外装カバーを開いた時はピックアップローラの垂れ下がりを防止できるものの、外装カバーを閉じて用紙を搬送する時には負荷トルクの存在が邪魔になるという問題がある。より詳細に説明すると、用紙搬送時には、給紙トレイにセットされた用紙にピックアップローラを接触させるべく、負荷トルクに逆らってピックアップローラを揺動させるとともに、用紙に接触した位置でピックアップローラを負荷トルクに逆らって保持する必要がある。従って、ピックアップローラに付与すべきトルクは、負荷トルクに逆らう分だけ大きくなり、モータでの電力消費量の増大に伴うコストアップ、或いはより高性能なモータを使用することに伴うコストアップにつながる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、搬送経路を覆う外装カバーの内側面にピックアップローラが揺動可能に設けられた用紙搬送装置において、ピックアップローラを駆動するモータのトルク負荷を増大させることなく、外装カバーを開いた時におけるピックアップローラの垂れ下がりを防止する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る用紙搬送装置は、給紙トレイから排紙トレイに至る搬送経路を覆うようにして開閉可能に設けられた外装カバーと、該外装カバーの内側面に揺動可能に設けられ、前記給紙トレイにセットされた用紙に接触して前記搬送経路に繰り込み、または前記給紙トレイにセットされた用紙から離れて待機するピックアップローラと、前記ピックアップローラ及び前記外装カバーのうちいずれか一方に設けられた磁性体からなる被吸着部材と、前記ピックアップローラ及び前記外装カバーのうちいずれか他方に設けられ、前記被吸着部材を吸着するピックアップローラ固定磁石と、を備えるものである。
【0010】
また、本発明に係る用紙搬送装置は、前記被吸着部材が前記ピックアップローラのローラ軸であって、前記ピックアップローラ固定磁石が前記外装カバーの内側面に取り付けられたものである。
【0011】
また、本発明に係る用紙搬送装置は、前記外装カバーの内側面に、前記用紙トレイに用紙がセットされたことを検知する検知用フィラーを取り付けるためのフィラー取付部が設けられ、該フィラー取付部に前記ピックアップローラ固定磁石が取り付けられたものである。
【0012】
また、本発明に係る用紙搬送装置は、前記外装カバーに、被ロック片が突出して設けられて前記給紙トレイにセットされる用紙の先端位置を規制するシャッタが回転可能に設けられる一方、前記ピックアップローラに、前記給紙トレイにセットされた用紙から離れた状態で前記被ロック片に掛かり合うことによって前記シャッタを回転不能にロックするシャッタロック片が突出して設けられたものである。
【0013】
また、本発明に係る用紙搬送装置は、前記ピックアップローラ固定磁石が、永久磁石からなるものである。
【0014】
また、本発明に係る用紙搬送装置は、前記外装カバーの外側面であって前記ピックアップローラ固定磁石の裏側に、磁性体からなるクリップを収容するためのクリップ収容部が設けられたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る用紙搬送装置によれば、原稿搬送時にピックアップローラが用紙に接触した状態では被吸着部材にはもはやピックアップローラ固定磁石の吸着力は作用しない。従って、ピックアップローラを用紙に接触した状態で保持するために、ピックアップローラ固定磁石の吸着力に逆らってピックアップローラを揺動させる必要がないため、ピックアップローラを駆動するモータのトルク負荷は増大しない。これにより、外装カバーを開いた時におけるピックアップローラの垂れ下がりを防止しつつ、原稿搬送時にモータでの電力消費量が増大することがなく、或いは高性能なモータを使用する必要もない。
【0016】
また、本発明に係る用紙搬送装置によれば、ピックアップローラ固定磁石でピックアップローラのローラ軸を吸着するので、被吸着部材をピックアップローラの構成部材とは別部材にする場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【0017】
また、本発明に係る用紙搬送装置によれば、ピックアップローラ固定磁石をフィラー取付部に取り付けたので、ピックアップローラ固定磁石を外装カバーに取り付けるために専用の取付具等を別途設ける必要がない分、部品点数を削減することができる。
【0018】
また、本発明に係る用紙搬送装置によれば、シャッタのロックが、すなわちピックアップローラのシャッタロック片とシャッタの被ロック片との掛かり合いが、ピックアップローラ固定磁石の吸着力によって保持される。従って、この掛かり合いをトルクリミッタの負荷トルクで保持する場合と比較して、用紙から受ける外力等に対しても影響を受けにくい、より確実なロックが可能になる。
【0019】
また、本発明に係る用紙搬送装置によれば、ピックアップローラ固定磁石が永久磁石からなるので、外装カバーの内側面に電気配線を引き回す必要がない。
【0020】
また、本発明に係る用紙搬送装置によれば、クリップ収容部の裏側に設けられたピックアップローラ固定磁石が、クリップ収容部に収容されたクリップを吸着して保持するので、外装カバーを開く等しても、クリップ収容部からクリップが落下しない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るADF1の外観を示す概略斜視図。
【図2】ADF1の内部構成を示す概略縦断面図。
【図3】給紙ユニット11の構成を示す図であって、外装カバー8の内側面18における先端部を拡大した部分拡大斜視図。
【図4】図3におけるA−A断面を拡大した部分拡大縦断面図。
【図5】外装カバー8のフィラー取付部34の構成を示す図であって、図5Aは概略斜視図、図5Bは概略平面図。
【図6】図3に向かって左側のピックアップアーム52の構成を示す概略斜視図。
【図7】シャッタ25の構成を示す概略斜視図。
【図8】シャッタ25のロックを説明するための説明図であって、図8Aはシャッタ25がロックされた状態を示す図、図8Bと図8Cはシャッタ25のロックが解除された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の実施例に係る用紙搬送装置について、図面に基づいて説明する。本実施例に係る用紙搬送装置は、コピーファクシミリ複合機の最上部に装備されるいわゆる自動原稿搬送装置(以下、「ADF」と略す)であって、複写しようとする原稿(用紙)またはファクシミリ送信しようとする原稿(用紙)を、所定の画像読取位置へと自動的に搬送するものである。ここで、図1は、本実施例に係るADF1の外観を示す概略斜視図である。ADF1は、不図示の搬送経路が設けられた装置本体2と、この装置本体2から突出して設けられて原稿3がセットされる給紙トレイ4と、外側面5にクリップ収容部6が設けられ、ヒンジ7を介して装置本体2に対して上下に開閉可能に設けられた外装カバー8と、を備えている。そして、装置本体2の内部でジャムすなわち原稿詰まりが発生した場合には、外装カバー8を開いて搬送経路を露呈させ、詰まった原稿3を取り除くことでジャムを解除できるようになっている。
【0023】
次に、図2は、ADF1の内部構成を示す概略縦断面図である。ADF1は、読み取るべき原稿3の束がセットされる給紙トレイ4と、読み取り後の原稿3が排出される排紙トレイ9と、給紙トレイ4から排紙トレイ9へ至る略横U字形状の搬送経路10と、給紙トレイ4の上にセットされた原稿3を搬送経路10に繰り込む給紙ユニット11と、搬送経路10に適宜配置されて原稿3を下流側へ搬送する搬送ローラ対12と、搬送経路10の最下流端に配置されて原稿3を排紙トレイ9へ排出する排紙ローラ対13と、排紙ローラ対13の直上流側に配置されたプラテンローラ14と、を備えるものである。
【0024】
また、このADF1の下方には、縮小光学系スキャナである第1読取ユニット(不図示)が設けられる一方、図2に示すようにADF1を構成する装置本体2の内部には、同じく縮小光学系スキャナである第2読取ユニット15が設けられている。これにより、ADF1によって搬送される原稿3は、搬送経路10の表面読取位置16を通過する際に、その表面の画像が第1読取ユニットにより読み取られる。また、原稿3は、搬送経路10の裏面読取位置17を通過する際に、プラテンローラ14によって第2読取ユニット15に密着され、その裏面の画像が第2読取ユニット15により読み取られる。尚、本発明において原稿3の表面とは、給紙トレイ4にセットされた状態で上向きの面を意味し、原稿3の裏面とは、給紙トレイ4にセットされた状態で下向きの面を意味する。
【0025】
次に、図3は、前記給紙ユニット11の構成を示す図であって、外装カバー8の内側面18における先端部を拡大した部分拡大斜視図である。また、図4は、図3におけるA−A断面を拡大した部分拡大斜視図である。この図3及び図4に示すように、給紙ユニット11は、給紙トレイ4に原稿3がセットされたことを検知するための検知用フィラー19及び原稿セットセンサ20(図2に示す)と、セットされた原稿3の束から最上層の数枚を取り出すピックアップローラ21と、取り出された数枚の原稿3から最上紙だけを分離するセパレートローラ22と、装置本体2の側に設けられてセパレートローラ22と協働するリタードローラ23(図2に示す)と、セパレートローラ22の回転をピックアップローラ21に伝達するベルト駆動機構24と、給紙トレイ4にセットされる原稿3の先端位置を規制するための左右一対のシャッタ25と、外装カバー8を開いた際にピックアップローラ21の垂れ下がりを防止するためのピックアップローラ固定磁石26と、を備えるものである。尚、図3に示すように、外装カバー8の内側面18には、給紙ユニット11を除いた全面を覆うようにして、搬送経路10の外側ガイド壁を構成するためのアウターガイド27が取り付けられている。そして、このアウターガイド27の表面には、原稿3との接触面積を減らして摩擦を低減するための複数のリブ28が、原稿搬送方向に沿って設けられている。
【0026】
検知用フィラー19は、図3に示すように、外装カバー8に取り付けるための取付部29と、不図示の光学センサによって検知するための検知部30とを備えるものである。取付部29は、図4に示すように、平面視略矩形の平板部材である固定板31と、この固定板31から突出して設けられて所定間隔で互いに平行する一対の支持アーム32とを有している。一方、検知部30には支軸33が突出して設けられ、この支軸33が各支持アーム32に挿通されることにより、取付部29の各支持アーム32の間に検知部30が回転可能に支持されている。この検知用フィラー19は、図4に示すように、取付部29の固定板31が、外装カバー8の内側面18に突出して設けられたフィラー取付部34に対して固定用ネジ35を用いて固定される。そして、給紙トレイ4に原稿3がセットされていない時は、検知部30は外力の作用を受けずに自重によって垂れ下がった状態となっているが、給紙トレイ4に原稿3がセットされると、原稿3の先端によって押圧された検知部30は、その先端を持ち上げるようにして支軸33廻りに回転する。
【0027】
原稿セットセンサ20は、例えば透過式の光学センサであって、検知用フィラー19の存在または非存在を検知するものである。より詳細には、検知用フィラー19の検知部30が垂れ下がった状態の時は、原稿セットセンサ20が検知用フィラー19の存在を検知し、給紙トレイ4には原稿3がセットされていないと判断される。他方、検知用フィラー19の検知部30が支軸33廻りに回転してその先端が持ち上がった状態の時は、原稿セットセンサ20が検知用フィラー19の存在を検出せず、給紙トレイ4に原稿3がセットされていると判断される。
【0028】
図5は、外装カバー8のフィラー取付部34の構成を示す図であり、図5Aは概略斜視図、図5Bは概略平面図である。フィラー取付部34は、外装カバー8と一体的に成型され、給紙方向に平行して延びる3列の縦壁36と給紙方向に直交して延びる2行の横壁37とが格子状に組まれたものである。ここで、3列の縦壁36は第1縦壁38,第2縦壁39,及び第3縦壁40とから構成される一方、2行の横壁37は第1横壁41と第2横壁42とから構成される。そして、第2横壁42と第2縦壁39とが交差する位置には、ネジ孔43が形成された略円柱形状のボス44が設けられている。また、第3縦壁40には、前記検知用フィラー19の固定板31を位置決めするための位置決め用突起45が2箇所に設けられている。更に、第1縦壁38,第2縦壁39,第1横壁41,及び第2横壁42によって包囲される空間46には、前記ピックアップローラ固定磁石26を位置決めするための位置決め用リブ47が設けられている。この位置決め用リブ47は、第2横壁42から突出して設けられてピックアップローラ固定磁石26を給紙方向に位置決めする給紙方向位置決め部48と、平面視略十字形状を有しピックアップローラ固定磁石26を高さ方向に位置決めする高さ方向位置決め部49とを有している。尚、フィラー取付部34の形状は、本実施例に限られず、検知用フィラー19の固定板31の形状、及びピックアップローラ固定磁石26の形状等に応じて適宜設計変更が可能である。
【0029】
このように構成されるフィラー取付部34に対し、図4に示すように、検知用フィラー19の固定板31が密着して取り付けられる。この時、図3に示すように、フィラー取付部34に設けられた2個の位置決め用突起45が、固定板31に形成された突起挿通孔(不図示)にそれぞれ挿通されることにより、固定板31の取付位置が決められる。そして、前記固定用ネジ35が、固定板31を挿通されて図5に示すフィラー取付部34のボス44に螺合されることにより、検知用フィラー19がフィラー取付部34に固定される。
【0030】
ピックアップローラ21は、図3に示すように、鉄製のローラ軸(被吸着部材)50と、該ローラ軸50に沿って所定間隔で設けられた樹脂製のローラ本体51と、ローラ軸50の両端部を回転可能に支持する一対のピックアップアーム52とを備えるものである。ここで、図6は、図3に向かって左側のピックアップアーム52の構成を示す概略斜視図である。ピックアップアーム52は、樹脂等が成型されてなり、その一端部にはピックアップローラ21のローラ軸50を挿通するためのローラ軸挿通孔53が形成される一方、他端部には後述するセパレートローラ22の駆動軸を嵌合するための駆動軸嵌合溝54が形成されている。また、ピックアップアーム52の長手方向中央部には、その側面から突出して、前記シャッタ25を回転不能にロックするためのシャッタロック片55が設けられている。そして、このシャッタロック片55には、ローラ軸挿通孔53の側の端部を切り欠いて平坦なシャッタ接触面56が形成されている。
【0031】
セパレートローラ22は、図3に示すように、外装カバー8によって両端部を回転可能に支持された鉄製の駆動軸57と、この駆動軸57の中央部に設けられた樹脂製のローラ本体58とを備えるものであって、不図示のモータによって駆動軸57が回転駆動される。そして、駆動軸57におけるローラ本体51を挟んだ両側には、前記一対のピックアップアーム52が、そのシャッタロック片55を外側に向けた状態で、すなわちローラ本体51と逆側に向けた状態で、駆動軸嵌合溝54に駆動軸57が嵌合されることによって回転可能に取り付けられている。これにより、ピックアップローラ21は、ピックアップアーム52が駆動軸57廻りに回転することにより、外装カバー8に対して揺動可能となっている。また、リタードローラ23は、図2に示すように、セパレートローラ22に密着するようにして装置本体2に設けられ、セパレートローラ22と逆回転することにより、複数枚の原稿3から最上紙だけを分離する。
【0032】
ベルト駆動機構24は、図3に示すように、ピックアップローラ21のローラ軸50に固定された第1プーリ59と、第1プーリ59に所定の負荷トルクを与えてその回転を制限するトルクリミッタ60と、セパレートローラ22の駆動軸57に固定された第2プーリ61と、第1プーリ59及び第2プーリ61に掛け回された伝達ベルト62とを備えるものである。
【0033】
図7は、シャッタ25の構成を示す概略斜視図である。シャッタ25は、平面視で卵型形状を有する基部63と、該基部63から突出して延びる脚部64とを備えるものである。そして、基部63の中央には支軸挿通孔65が形成されるとともに、この支軸挿通孔65の周縁部には、ピックアップアーム52のシャッタロック片55と掛かり合う被ロック片66が突出して設けられている。この被ロック片66は、平面視で略円弧形状を有し、その周方向一端部には平坦なアーム接触面67が形成されている。このように構成される一対のシャッタ25は、図3及び図4に示すように、その支軸挿通孔65に、外装カバー8の内側面18に回転可能に支持されたシャッタ支軸68が挿通され、左右のピックアップアーム52より外側に、すなわちピックアップアーム52を挟んでローラ本体58と逆側に、その被ロック片66をピックアップアーム52側に向けるようにしてそれぞれ固定されている。これにより、各シャッタ25は、シャッタ支軸68の回転に伴って回転可能に、且つ外力が作用しない時は自重によって脚部64が垂れ下がった状態で停止している。
【0034】
ピックアップローラ固定磁石26は、いわゆる永久磁石であって、ピックアップローラ21を構成する鉄製のローラ軸50を吸着するためのものである。このピックアップローラ固定磁石26は、図4に示すように、平面視で略矩形形状を有する平板部材であって、2個のピックアップローラ固定磁石26が、フィラー取付部34の内部に、より詳細には図5に示す第1縦壁38,第2縦壁39,第1横壁41,及び第2横壁42によって包囲される空間46に収納されている。ここで、図4に示すように、ピックアップローラ固定磁石26は、図5に示す位置決め用リブ47によって空間46の内部で位置決めされるとともに、その底面には検知用フィラー19の固定板31が密着している。これにより、外装カバー8の開閉時に、空間46の内部でピックアップローラ固定磁石26がガタつかないようになっている。尚、ピックアップローラ固定磁石26の形状及び個数等は本実施例に限定されず適宜設計変更が可能であるが、固定板31を通してローラ軸50を吸着するためには、固定板31の厚み及びピックアップローラ21の重量等を考慮して十分な大きさの吸着力を確保できる範囲とする必要がある。
【0035】
また、ピックアップローラ固定磁石26は、ピックアップローラ21を吸着する役割の他に、前記クリップ収容部6に収容されたクリップを吸着するという役割も果たしている。すなわち、図1及び図4に示すように、外装カバー8の外側面5であってフィラー取付部34の裏側に位置する場所には、その表面を凹状に形成してクリップ収容部6が設けられている。このクリップ収容部6は、コピーを取る際またはファクシミリ送信を行う際に、ADF1を使用すべく書類から取り外したクリップを一時的に収容する場所である。ピックアップローラ固定磁石26は、外装カバー8を通してクリップ収容部6の内部のクリップを吸着することにより、外装カバー8を開閉する等してもクリップ収容部6から落下しないようにクリップを保持している。
【0036】
次に、本実施例に係るADF1の作用効果について説明する。まず、外装カバー8が閉じた状態において原稿3が搬送されていない時は、図3及び図4に示すように、ピックアップローラ21は、そのローラ軸50がピックアップローラ固定磁石26から吸着力を受けることにより、そのローラ本体51が外装カバー8の内側面18に接触した位置で静止している。これにより、ピックアップローラ21は、そのローラ本体51が給紙トレイ4の上の原稿3から離れて待機した状態となっている。
【0037】
このようにピックアップローラ21が外装カバー8側へ引き上げられた状態において、メンテナンスを行うべく外装カバー8を上方に開くと、図に詳細は示さないが、駆動軸57の一端部に設けられたギアと装置本体2に設けられたギアとの噛み合いが外れ、駆動軸57に対して負荷が加わらなくなる。これにより、駆動軸57が回転自在な状態となるので、ピックアップローラ21は、その自重によって駆動軸57とともに回転して垂れ下がろうとする。しかし、ピックアップローラ固定磁石26がローラ軸50を吸着しているので、ピックアップローラ21は垂れ下がることなく、外装カバー8側へ引き上げられた状態のまま保持される。これにより、ピックアップローラ21がメンテナンス作業の邪魔にならず、また外装カバー8を閉じる際にピックアップローラ21が装置本体2とぶつかって損傷することもない。
【0038】
ここで、このようにピックアップローラ21が引き上げられた状態では、シャッタ25が回転不能にロックされ、給紙トレイ4にセットされる原稿3の先端位置がシャッタ25によって規制される。より詳細には、図8Aに示すように、ピックアップローラ21が引き上げられた状態では、ピックアップアーム52のシャッタロック片55とシャッタ25の被ロック片66とが掛かり合い、シャッタロック片55のシャッタ接触面56と被ロック片66のアーム接触面67とが密着する。ここで、ピックアップローラ21は、そのローラ軸50がピックアップローラ固定磁石26に吸着されているため、ピックアップアーム52の位置が固定されている。従って、シャッタ25は、図8Aにおいてシャッタ支軸68を支点として時計廻りには回転できず、ロックされた状態となっている。この状態でユーザが給紙トレイ4に原稿3をセットすると、シャッタ25が回転不能にロックされているので、図8Aに示すように原稿3の先端がシャッタ25の脚部64に接触する位置までは原稿3を差し込むことができるが、その位置を越えて更に奥側へ原稿3を差し込むことはできない。このように、原稿3の先端位置がシャッタ25によって規制され、複数枚の原稿3についてその先端位置が揃えられることにより、ピックアップローラ21による確実な繰り出しが可能となる。
【0039】
一方、原稿3の読取開始命令が発せられ、原稿3の搬送を開始する場合、セパレートローラ22の駆動軸57が不図示のモータによって回転駆動される。そうすると、図3に示すように、駆動軸57と一体回転する第2プーリ61の回転力が、伝達ベルト62を介して第1プーリ59に伝達され、第1プーリ59及びこれと一体化されたローラ軸50が、ピックアップアーム52に対して回転しようとする。しかし、第1プーリ59の回転がトルクリミッタ60によって制限されているので、第1プーリ59とローラ軸50は回転することができない。従って、第2プーリ61の回転力はピックアップアーム52に向けられ、ピックアップアーム52は駆動軸57廻りに回転しようとする。そして、このピックアップアーム52の回転力が、ピックアップローラ固定磁石26のローラ軸50に対する吸着力の大きさを超えて大きくなると、ローラ軸50がピックアップローラ固定磁石26による吸着から解放され、ピックアップアーム52が駆動軸57廻りに回転を開始する。これにより、ピックアップローラ21は、外装カバー8から離れて給紙トレイ4に向かって下降していく。
【0040】
そして、ピックアップローラ21のローラ本体51が原稿3に接触すると、ピックアップアーム52が駆動軸57廻りにそれ以上回転できなくなるため、それまでピックアップアーム52の回転に向けられていた駆動軸57の回転力は、その全てが第1プーリ59の回転に向けられる。そして、この第1プーリ59の回転力がトルクリミッタ60から受ける負荷トルクの大きさを超えて大きくなると、第1プーリ59及びこれと一体化されたローラ軸50がピックアップアーム52に対して回転を開始し、これに伴ってローラ本体51も回転を開始する。
【0041】
ここで、このようにピックアップローラ21が下降した状態では、シャッタ25のロックが解除され、搬送経路10に原稿3を給紙可能な状態となる。より詳細には、図8Bに示すように、ピックアップローラ21のローラ本体51が原稿3に接触した状態では、図8Aに示す状態からピックアップアーム52が時計廻りに回転してピックアップアーム52のシャッタロック片55とシャッタ25の被ロック片66との掛かり合いが外れることにより、シャッタ25はシャッタ支軸68を支点として時計廻りに回転可能な状態となっている。従って、原稿3に接触した状態のローラ本体51が回転を開始し、ローラ本体51から原稿3に対して給紙方向に送り出すような力が作用し始めると、原稿3の先端がシャッタ25の脚部64を押圧することにより、シャッタ25が時計廻りに回転する。そして、図8Cに示すように、原稿3の給紙方向への進路を妨げない位置までシャッタ25が回転することにより、原稿3の束から最上層に位置する数枚の原稿3が繰り出される(図8では最上紙だけを図示している)。この繰り出された数枚の原稿3は、前述のように、図2に示すセパレートローラ22とリタードローラ23の間に供給されることにより最上紙だけが分離され、この最上紙が搬送経路10に供給される。
【0042】
そして、図8B及び図8Cに示すような原稿搬送時には、ピックアップローラ21のローラ軸50にはもはやピックアップローラ固定磁石26の吸着力は作用しない。従って、ピックアップローラ21を下降した状態で保持するために、ピックアップローラ固定磁石26の吸着力に逆らってピックアップアーム52を回転させる必要がない分、駆動軸57に付与すべきトルクが小さくで済む。これにより、常時作用するトルクリミッタの負荷トルクに逆らってピックアップローラを下降した状態で保持する従来の用紙搬送装置のように、駆動軸を駆動するモータでの電力消費量が増大することがなく、或いは高性能なモータを使用する必要もない。
【0043】
尚、本実施例では、ピックアップローラ固定磁石26として永久磁石を用いたが、これに代えて電磁石を用いてもよい。但し、永久磁石を用いた方が、外装カバー8の内側面18に電気配線を引き回す必要がないという利点がある。一方、ピックアップローラ固定磁石26で吸着するピックアップローラ21のローラ軸50を鉄製としたが、ピックアップローラ固定磁石26で吸着し得る強磁性体であれば、例えばコバルト製またはニッケル製にすることも可能である。
【0044】
また、本実施例では、ピックアップローラ21の構成部材のうちローラ軸50をピックアップローラ固定磁石26で吸着したが、ローラ軸50以外の他の構成部材であるローラ本体51或いはピックアップアーム52等を鉄製として、ピックアップローラ固定磁石26で吸着してもよい。他にも、図に詳細は示さないが、ピックアップローラ21の構成部材に対し、例えば鉄製のブラケットを取り付け、このブラケットをピックアップローラ固定磁石26で吸着してもよい。
【0045】
また、本実施例では、外装カバー8に設けたピックアップローラ固定磁石26によってピックアップローラ21が有する鉄製の部材を吸着したが、これとは逆に、ピックアップローラ21に設けた磁石によって外装カバー8が有する鉄製の部材を吸着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る用紙搬送装置は、原稿画像を読み取る画像読取部において原稿を搬送する装置として、本実施例のADFとして構成する以外に、例えば手差しトレイ部に適用することも可能である。また、本発明に係る用紙搬送装置は、記録紙に画像を形成する画像形成部において記録紙を搬送する装置として構成することも可能である。更に、本発明に係る用紙搬送装置は、コピーファクシミリ複合機に限られず、コピー専用機やファクシミリ専用機に装備することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 ADF(用紙搬送装置)
3 原稿(用紙)
4 給紙トレイ
6 クリップ収容部
8 外装カバー
9 排紙トレイ
10 搬送経路
19 検知用フィラー
21 ピックアップローラ
25 シャッタ
26 ピックアップローラ固定磁石
34 フィラー取付部
50 ローラ軸(被吸着部材)
55 シャッタロック片
66 被ロック片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給紙トレイから排紙トレイに至る搬送経路を覆うようにして開閉可能に設けられた外装カバーと、
該外装カバーの内側面に揺動可能に設けられ、前記給紙トレイにセットされた用紙に接触して前記搬送経路に繰り込み、または前記給紙トレイにセットされた用紙から離れて待機するピックアップローラと、
前記ピックアップローラ及び前記外装カバーのうちいずれか一方に設けられた磁性体からなる被吸着部材と、
前記ピックアップローラ及び前記外装カバーのうちいずれか他方に設けられ、前記被吸着部材を吸着するピックアップローラ固定磁石と、
を備えることを特徴とする用紙搬送装置。
【請求項2】
前記被吸着部材が前記ピックアップローラのローラ軸であって、前記ピックアップローラ固定磁石が前記外装カバーの内側面に取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項3】
前記外装カバーの内側面に、前記用紙トレイに用紙がセットされたことを検知する検知用フィラーを取り付けるためのフィラー取付部が設けられ、該フィラー取付部に前記ピックアップローラ固定磁石が取り付けられたことを特徴とする請求項2に記載の用紙搬送装置。
【請求項4】
前記外装カバーに、被ロック片が突出して設けられて前記給紙トレイにセットされる用紙の先端位置を規制するシャッタが回転可能に設けられる一方、前記ピックアップローラに、前記給紙トレイにセットされた用紙から離れた状態で前記被ロック片に掛かり合うことによって前記シャッタを回転不能にロックするシャッタロック片が突出して設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の用紙搬送装置。
【請求項5】
前記ピックアップローラ固定磁石が、永久磁石からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の用紙搬送装置。
【請求項6】
前記外装カバーの外側面であって前記ピックアップローラ固定磁石の裏側に、磁性体からなるクリップを収容するためのクリップ収容部が設けられたことを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の用紙搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−166194(P2010−166194A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5313(P2009−5313)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】