画像処理装置、及び、測定/検査システム、並びに、プログラム
【課題】本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、試料パターンの輪郭線の余剰、重複またはヒゲだけでなく、輪郭線の途切れも解消することのできる技術を提供するものである。
【解決手段】検査対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。
【解決手段】検査対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、及び、測定/検査システム、並びに、プログラムに関し、特に、試料上のパターンの輪郭線抽出を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体パターンを撮影したSEM画像などの対象画像の中から、輪郭線を抽出する技術はエッジ抽出や輪郭線抽出と呼ばれ広く用いられている。例えば、特許文献1には非線形の2次微分フィルタを用いたエッジ強調の後、2値化及び細線化を行い、エッジを抽出し、抽出したエッジを結合し、直線近似してパターンの輪郭線を構成する技術が開示されている。エッジ強調には2次微分フィルタ以外にもソーベルフィルタなどの1次微分フィルタが用いられることもある。
【0003】
しかし、このような局所的な情報からエッジを抽出する方法には、半導体パターンの輪郭線の途切れや余剰、重複またはヒゲなどが出るという課題があった。
【0004】
一方、対照画像の中から予め登録された形状を探索する技術はテンプレート・マッチングとして広く用いられている。そして、例えば、特許文献2には、半導体パターンを生成するための基データであるデザインデータと半導体パターンをテンプレート・マッチングで位置合せし、1次微分や2次微分のフィルタで抽出したエッジをデザインデータと対応付けしてパターンの輪郭線を構成する方法が開示されている。この方法によれば、輪郭線におけるエッジの余剰、重複またはヒゲを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66478号公報
【特許文献2】特開2001−338304号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE transactions on Pattern Analysis and machine Intelligence, 25(3):330-342, March 2003, "Water snakes Energy driven Watershed segmentation," H.T.Nguyen, M.Worring and R.V.D Boomgard著
【非特許文献2】International Journal of Computer Vision, v.82 n.3, p.264-283, May 2009, "Four-Color Theorem and Level Set Methods for Watershed Segmentation," Erlend Hodneland, Xue-Cheng Tai, Hans-Hermann Gerdes著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の技術を用いた場合、パターンの輪郭線におけるエッジの余剰、重複、及びヒゲの問題は解消するものの、輪郭線の途切れは依然として解消できない場合がある。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、試料パターンの輪郭線の余剰、重複またはヒゲだけでなく、輪郭線の途切れも解消することのできる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、検査対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。
【0010】
輪郭線を生成する際には、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、パターンの内側の領域がエッジ強調画像で示されるエッジ部分となるべく重なる(得られたエッジ強調画像が途切れている場合もあるため100%重なるわけではないため)ように領域分割する。例えば、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行う。或いは、パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、対象試料のパターン輪郭線を生成する。この動的輪郭抽出処理の例としては、スネーク法やレベルセット法が挙げられる。
【0011】
パターン内外規定情報を生成する場合、対象試料画像とデザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、デザインデータにおけるパターンの内部領域及び外部領域の画像に対してピーリング処理を行う。この場合、デザインデータが対象試料画像を包含するようにデザインデータを変形させ、変形後のデザインデータからパターン内外規定情報を生成するようにしても良い。
【0012】
また、エッジ強調画像を生成する場合に、試料画像に対して複数のフィルタ処理を施し、それぞれのフィルタ処理画像を合成するようにしても良い。
【0013】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理によれば、試料パターンの輪郭線の余剰、重複またはヒゲだけでなく、輪郭線の途切れも解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態による測定/検査システムの概略構成を示す図である。
【図2】デザインデータの例を示す図である。
【図3】半導体パターンのSEM画像の例を示す図である。
【図4】パターン内外規定情報の例を示す図である。
【図5】パターン内外規定情報をSEM画像に重ね合わせた状態を示す図である。
【図6】SEM画像から生成されたエッジ強調画像を示す図である。
【図7】パターン内外規定情報から生成されたパターン内外分離情報を示す図である。
【図8】本発明の処理によって生成されたSEM輪郭線を示す図である。
【図9】SEM輪郭線とSEM画像を重ね合わせた様子を示す図である。
【図10】Watershed Segmentation法を説明するための図である。
【図11】Marker Controlled Watershed Segmentation(MCWS)法を説明するための図である。
【図12】本発明の第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成部の内部構成を示す図である。
【図13】第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成処理の概念を説明するための図である。
【図14】SEM画像に複数層のパターンが写っている場合のパターン内外規定情報生成部102の処理について説明するための図である。
【図15】本発明の第3の実施形態によるエッジ強調部の概略構成を示す図である。
【図16】MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について説明するための図(1)である。
【図17】MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について説明するための図(2)である。
【図18】スネーク法について説明するための図である。
【図19】レベルセット法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、電子顕微鏡による取得画像(例えば、SEM画像)とデザインデータとからパターンの内外を規定するパターン内外規定情報を生成し、それとエッジ画像とを用いてセグメンテーション処理を実行することにより、ヒゲ、重複及び途切れやのないパターン輪郭線を生成する技術に関するものである。
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0018】
(1)第1の実施形態
<計測/検査装置の構成>
図1は、本発明の実施形態による計測/検査システム(「画像観察システム」ともいう)1の概略構成を示す図である。本実施形態では半導体パターンのSEM画像を用いて画像処理することを説明しているが、半導体パターンに限られるものではなく、観察対象になりうる試料であれば何でも良い。
【0019】
計測/検査システム1は、画像処理部10と、電子顕微鏡本体部20と、SEM画像生成部30と、制御用計算機40と、入力部50と、表示装置60と、を備えている。電子顕微鏡本体部20では、電子銃201から発せられた電子線202が図示しない電子レンズによって収束され、試料(例えば、半導体チップ)204に照射される。電子線照射によって、試料表面から発生する二次電子、或いは反射電子の強度が電子検出器205によって検出され、増幅器206で増幅される。
【0020】
電子線の位置を移動させる偏向器203は、制御用計算機40の制御信号207によって制御され、電子線202を試料表面上でラスタ走査させる。
【0021】
増幅されたデータはSEM画像生成部30に提供され、SEM画像が生成される。この生成されたSEM画像は画像処理部10に提供され、所定の画像処理が実行される。また、当該SEM画像は表示装置60に表示され、図示しない画像メモリに格納される。
【0022】
画像処理部10は、SEM画像とデザインデータとのマッチング(位置合せ)を取り、位置合せ情報を生成するマッチング部101と、位置合せ情報から半導体パターンにおいてパターンの内側と外側を規定する(どの部分が内部及び外部であるかを示す)パターン内外規定情報を生成するパターン内外規定情報生成部102と、SEM画像のエッジを強調してエッジ強調画像を生成するエッジ強調部103と、エッジ強調画像とパターン内外規定情報からパターンの内部及び外部を分離し、パターン内外分離情報を出力するパターン内外分離部104と、パターン内外分離情報からSEM輪郭線を生成する輪郭線生成部105と、を備えている。
【0023】
入力部50はキーボードやマウス等の入力手段であって、電子顕微鏡本体部20を制御するための電流値や電圧値を入力したり、電子顕微鏡でSEM画像を取得した半導体パターンのデザインデータを入力等したりするためのツールである。なお、デザインデータに関しては、画像メモリに格納していたデータを読み出してもよい。
【0024】
<画像処理部10の各部の出力情報>
図2はデザインデータの一例を示している。ここでは便宜上、白い部分をパターン内部、黒い部分をパターン外部と決めておく。また、図3はこのデザインデータから作成された半導体パターンのSEM画像を示している。
【0025】
図4は、対応するパターン内外規定情報を示している。図4(a)は、図2で示される白い領域(例えば、パターン内部)と黒い部分(パターン外部)に対して細線化処理を施して得られたものである。つまり、パターン内外規定情報は、デザインデータにおいて内部と外部夫々の領域を塗潰した画像に対して規定回数のピーリング(細線化)処理(外周の1画素を削る(除去する)が、幅1画素になった部分は削らない処理)を施して作成している。また、図4(b)は、図4(a)を見やすくするために、図4(a)に現れるパターン内外規定情報を単純化して表した図である。
【0026】
パターン内外規定情報は、デザインデータとSEM画像の位置合せ情報を考慮して作成されているため、図5に示されるように、SEM画像に重ねて表示すると、一番明るい領域がパターン内部を規定し、次に明るい領域がパターン外部を規定していることが分かる。従って、パターンの内部と外部の境界(エッジ部分)は、パターン内部規定情報とパターン外部規定情報の間に存在することが分かる。
【0027】
また、図6は、SEM画像をフィルタリング処理等することによって作成したエッジ強調画像を示している。図7は、パターン内外分離情報を示している。パターン内外分離情報は、パターン内外規定情報が規定する内部と外部の間(一番暗い部分)にエッジ強調画像の輝度値が高い部分が境目となるように、図4のそれぞれ内部(一番明るい部分)と外部(次に明るい部分)を示す線を膨張(内部と外部が繋がるまでそれぞれの線を膨張)させて、画像全体をパターンの内部と外部に分離して得られる情報である。この処理の詳細については後述する。
【0028】
図8は、輪郭線作成部105が、パターン内外分離情報の内部と外部の境界として作成したSEM輪郭線を示している。そして、図9は、図3のSEM画像に図8のSEM輪郭線を重ねたものを示している。以上のように、確かにSEM輪郭線が得られていることが分かる。
【0029】
<パターン内外分離部の処理の詳細>
パターン内外規定情報とエッジ強調画像からパターン内外分離情報を生成する部分(パターン内外分離部)は、MCWS(Marker Controlled Watershed Segmentation)に従って処理を行っている。まず、MCWSの説明に先立って、その基となっているWatershed Segmentationについて説明する。
【0030】
(i)Watershed Segmentation
Watershed Segmentationでは、元画像(例えばSEM画像)の各画素におけるエッジらしさを画素値で表現したエッジ強調画像に対して領域分割を行う。エッジ強調画像を(画素の輝度値を高さとみなした)地形情報と考えると、エッジ部分は高い山脈、それ以外はエッジの山脈によって区切られた盆地のようになっている。このような地形に対して、水位(画素の輝度値に相当)が画像全体で等しくなるように保ちながら浸水させていくと、水位が上昇する毎にたくさんの池が出来て、それらが繋がって、最後には地形全体が浸水する。この過程で新たな池が出来る毎にその池に異なるラベルを付与し、各池に属する画素はその池のラベルで特定される領域に分類される。水位が上がるに従って池は広くなり、いつか隣の池と繋がるが、その繋がった位置が領域の境界となる。領域の境界は山脈の嶺を繋いだ形状となる。この嶺が池を分けていることから、この領域分割の手法をWatershed(分水嶺)と呼んでいる。
【0031】
図10はWatershed Segmentationを実現するアルゴリズムの一例を概念的に示す図である。図10において、太い点線はある水位における浸水線(水面と地形の交線)を表している。水位は地形の最低点の高さから最高点の高さまで移動させるが、各水位において浸水線上の全ての画素に以下の3つのステップを実行する。
【0032】
STEP1:隣の画素が池なら、その画素にも隣の池のラベルを付与する。
STEP2:浸水線上の隣り合った画素に同じラベルを拡大する。
STEP3:STEP1,2で対象外の画素(盆地の底、新たな池)には新たなラベルを付与する。Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を想像するには、「雨が降って水が溜まっていく」様子よりも「スポンジで出来た地形を浴槽にゆっくり浸していく」様子、或いは「盆地の底に小さな穴の開いた地表型の凹凸プラスチック板を浴槽にゆっくり浸していく」様子の方が近い。雨では水位が一定となる保証がないからである。Watershed Segmentationは必要以上に細かい領域分割を行うため、このままでは輪郭線の作成に適用することは出来ない。
【0033】
(ii)MCWS(Marker Controlled Watershed Segmentation)
通常のWatershed Segmentationの知識を基に、続いてMCWSについて説明する。MCWSは、Watershed Segmentationを改善してマーカによって領域の分割の仕方をコントロールできるようにしたものである。Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を「スポンジで出来た地形を浴槽にゆっくり浸していく」様子と考えた場合、MCWSではマーカ部(内外規定情報の線分に相当)だけがスポンジで出来ていて、それ以外は水を通さない部材(例えばプラスチック)で出来ている状況を考えればよい。また、Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を盆地の底に小さな穴の開いた地表型の凹凸プラスチック板を浴槽にゆっくり浸していく」様子と考えた場合、MCWSではマーカと同形の穴が開いているだけでそれ以外に(たとえ盆地の底でも)穴はない状況を考えればよい。
【0034】
このようにマーカを設定することで、最終的に分割される領域の数はマーカの数と一致して、全ての領域はマーカを内包することになる。マーカの形状は点でも線でも面でもかまわない。また、ラベルはマーカ毎に付与されるが、複数のマーカに同一のラベルを付与してもかまわない。この場合、同一のラベルの池が繋がっても、そこが境界とは認識されず、領域の数はマーカ数以下でラベル数以上となる。
【0035】
図11はMCWSを実現するアルゴリズムの一例を概念的に説明するための図である。図の見方は図10と同様である。各水位において以下の3つのステップを実行する(浸水線上の全ての画素に対して行うわけではない)。
【0036】
STEP1:マーカ上にある画素にはそのマーカと同じラベルを付与する。
STEP2:隣の画素が池なら、その画素にも隣の池のラベルを付与する。
STEP3:浸水線上若しくは高さが水位以下でラベルが未付与の隣り合った画素に同じラベルを拡大する。
【0037】
通常のWatershed Segmentationと比べて特徴的なのは、新たなラベルの付与がなくなり、マーカのラベルを引き継ぐためにSTEPの順番が巡回的に変化(1,2,3→3,1,2)したのと、MCWSのSTEP3(通常のWatershed SegmentationのSTEP2に対応)でラベルの拡大が、高さが水位以下の画素に対しても行われている、即ち池の氾濫が起きていることである。マーカのない盆地は嶺を介して隣接する池の氾濫によってラベルが付与されるが、氾濫は盆地を囲む嶺の中で最も低い点で接している池から起こる。
【0038】
なお、図4のパターン内外規定情報はMCWSにおけるマーカであり、一番明るい領域と次に明るい領域がラベルの異なるマーカ領域を示している。また、図5のエッジ強調画像が地形情報に対応する。そして、図7は、パターン内外規定情報をマーカとしたMCWSによって画像全体がパターンの内部とパターンの外部という2つの領域に分割された様子を示している。
【0039】
このようにパターンの内外規定情報から輪郭線(パターンの内側と外側の境界)を求めているので、エッジ強調画像が部分的に途切れる可能性があったとしても、得られる輪郭線は途切れることは無い。
【0040】
(2)第2の実施形態
第2の実施形態は、パターン内外規定情報生成部の別の形態に係るものである。他の構成及び動作については第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0041】
図12は、本発明の第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成部102の別の形態を示す図である。図12に示されるように、パターン内外規定情報生成部102は、デザインデータシフト部1021と、デザインデータ変形部1022と、パターン収縮部1023と、によって構成される。
【0042】
デザインデータシフト部1021は、位置合せ情報に基づいて、SEM画像とパターンが重なる位置にデザインデータをシフトさせる(重ね合せ処理)。次に、デザインデータ変形部1022は、デザインデータの形状がSEM画像のパターン形状に近くなるようにシフトさせたデザインデータを変形させる(例えば、ローパスフィルタでデザインデータをなまらせる)。最後に、パターン収縮部1023は、変形したデザインデータにピーリングを施し、パターン内外規定情報を生成する(細線化処理)。
【0043】
図13は、図12に示したパターン内外規定情報生成部102で実行される処理について説明するための図である。図13(a)はデザインデータ(黒)とそれを基に作成されSEMで観察された半導体パターンを重ねて表示したものである。一般的に半導体パターンはデザインデータに比べて角が取れて丸まった形状となっている。
【0044】
図13(b)からは、図13(a)のデザインデータからピーリングによって生成した形状が角張っており、図13(c)のように半導体パターンを重ねてみると角部が外部に飛び出しているのが分かる。そこで、角張ったデザインデータの角を丸めて半導体パターンの形状に近づけたのが図13(d)である。デザインデータの丸め方としてはリソ工程シミュレーションのように光強度分布画像(エアリアルイメージ)を作成して同輝度のレベルで切断した断面形状を求めるなどの方法が考えられるが、簡易的にはデザインデータを塗潰して窓の大きなガウスフィルタなどのローパスフィルタを施して光強度分布画像の代用とするなどの方法でもよい。予めシミュレーションでどのようなパターン形状の場合にはどの程度形状が歪むか(丸まるか)といった傾向を把握しておき、その傾向に基づいてデザインデータを丸めるようにしても良い。
【0045】
この変形したデザインデータにピーリングを施して得られた形状が点線で示されている。図13(e)はこれに半導体パターンを重ねて表示したものだが、ここでは半導体パターンの外部に飛び出していないことが分かる。
【0046】
図14は、SEM画像に複数層(ここでは2層)のパターンが写っている場合のパターン内外規定情報生成部102の処理について説明するための図である。図14(a)では、3本の縦方向に並行したラインエンドの上層パターンの下に横方向に並行した上下の部分に下層パターンが写っている。ここで、上層パターンの輪郭線だけを抽出する場合は上層のデザインデータのみを使用して処理する。一般に、上層のエッジの方が下層のエッジより強く写るので、マーカ(パターン内外規定情報)は上層のデザインの内部と外部に2種類作成すれば、下層エッジに影響されることなく上層の輪郭のみを抽出することが出来る。
【0047】
しかし、下層のエッジが強く写っている場合には、図14(b)に示されるように、下層のデザインデータを参考にして下層エッジを突き抜けるように上層外部のマーカを配置する(上層とそれ以外に分類する)。こうすることで下層パターン境界のエッジの両側はMCWSの処理において同一の池と認識され、下層のエッジの影響を除外することが出来る。
【0048】
同様の手法を下層のエッジの影響を除外するためではなく、製造中に作り込まれた偽エッジの影響を除外するためにも使うことができる。偽エッジの場合はどこに作られるかデザインデータからは判断できないため、デザインデータをピーリングしてマーカを生成する際、必要以上に細くしすぎないことも重要である。ピーリングの程度は、位置合せの精度やパターンのシュリンクを考慮して、位置合せに誤差があり、ある程度パターンがシュリンクしていてもマーカがパターンを突き破ることがないように設定する必要があるが、必要以上に細くすることは望ましくない。ラインエンドなどのシュリンクしやすい部分に対してはマーカを大きく縮退させることも出来る。また、デザインデータからマーカを削り出す処理はピーリングに限定するものではない。
【0049】
また、上層パターンの輪郭だけでなく、下層パターンの輪郭も抽出する場合は、下層のデザインデータも使用し、図14(c)のようにマーカを配置すればよい。即ち、上層内部のマーカI(最も明るいマーカ)、上層外部で下層内部のマーカII(次に明るいマーカ)、上層外部で下層外部のマーカIII(最も暗いマーカ)の3種類である。
【0050】
多層パターンが写り込んでいるSEM画像には、上層内部に下層エッジが写り込んでいるものも存在する。このようなエッジは非常に微弱だが、上層内部で下層内部のマーカと上層内部で下層外部のマーカの種類(ラベル)を分けることで抽出できるようになる。
【0051】
(3)第3の実施形態
第3の実施形態は、エッジ強調部の別の形態に係るものである。他の構成及び動作については第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0052】
図15は、第3の実施形態によるエッジ強調部の概略構成を示す図である。当該エッジ強調部103は、1次微分作成部1031と、2次微分作成部1032と、合成部1033と、によって構成される。
【0053】
1次微分作成部1031は、SEM画像に対して1次微分系のフィルタを施したエッジ強調画像を作成する。2次微分作成部1032は、SEM画像に対して2次微分系のフィルタを施したエッジ強調画像を作成する。合成部1033の処理の一例としては、1次微分作成部1031で作成したエッジ強調画像と2次微分作成部1032で作成したエッジ強調画像の輝度レベルを揃えた後、2次微分作成部1032で作成したエッジ強調画像を、例えばMaximum フィルタを用いて膨張させ、画素毎の最大値画像を作成して、最後にローパスフィルタで平滑化を施すというものが挙げられる。
【0054】
1次微分作成部1031は、内部が明るく外部が暗いパターンに関しては、エッジを鮮明に取ることができる。一方、2次微分作成部1032は、内部も外部の明るさは変わらないが境界にホワイトバンドがあるパターンに関して、より良好にエッジを取ることができる。つまり、2次微分作成部1032で抽出したエッジを膨張させれば、最後の平滑化に対して1次微分作成部1031で抽出したエッジよりも輝度値の低下を抑えることができる。この効果で、ホワイトバンドがはっきりしているときにはホワイトバンドの中央が抽出され、ホワイトバンドが不明瞭な時はコントラストの変化が大きい方のステップエッジが抽出されるが、どちらか一方のステップエッジのコントラスト変化が際立って大きくない限りホワイトバンドの中央が抽出される。
【0055】
従って、合成部1033が出力するエッジ強調画像のエッジは、基本的にはSEM画像のホワイトバンドの中央を取り、内側か外側のステップエッジの一方で際立ってコントラスト変化が大きい場合はそちらのステップエッジを取り、内側から外側のステップエッジへの急峻な変化が抑えられるようになる。
【0056】
(4)第4の実施形態
第4の実施形態は、輪郭線作成部105の処理において、MCWSで得られたエネルギー関数を動的輪郭抽出処理に適用するものである。ここでは、動的輪郭出処理の例として、スネーク法とレベルセット法を挙げている。
【0057】
輪郭線作成部105は、上述のように図7のようなパターン内外分離情報の領域の境界として図8のような輪郭線を作成する処理以外にも、輪郭線としての尤もらしさを考慮して、より自然な輪郭線に修正するような処理を実行することも考えられる。その例を説明するのに先立って、MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について、図16及び17を用いて説明する。マーカとの連結コストは各ラベルのマーカに対して全点で定義される関数である。
【0058】
図16には1種類(同ラベル)のマーカが2箇所にある。マーカとの連結コストは基本的には各点での地表の高さと等しくなるが、MCWSを行う過程で氾濫によって水面下に沈んだ地点では氾濫点(水が流れ出した点)の地表の高さ、即ち氾濫後の水位と等しくなる。
【0059】
一方、図17には異なる種類(ラベル)のマーカが2箇所にある。各点にはマーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストの両方が定義される。マーカ1を含む領域とマーカ2を含む領域は、マーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストが等しくなる点の集合で分離される。即ち、マーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストが等しくなる点を結んだものが領域の境界となる。パターン内外分離情報は図7のようなパターン内外の領域情報ではなく、各ラベルのマーカとの連結コストという形も取ることができる。
【0060】
そして、各ラベルのマーカを含む領域内では、マーカとの連結コストは地形に対してreconstruction by erosionを施し、マーカからのtopographical distanceを計算したものと等しくなる。
【0061】
図17において、実線で示される画像の中では、画素値が低ければ低いほどマーカ1の領域内部であるらしいと判断される。また、点線で示される画像の中では、画素値が低ければ低いほどマーカ2の領域内部であるらしいと判断される。従って、実線がパターン内部、点線がパターン外部の画像に対応する場合、これらの画像から内部らしさ及び外部らしさを判断することができる。
【0062】
マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、active contour(動的輪郭線)を使って輪郭線を作成する技法が知られている。動的輪郭線として代表的な手法にスネーク法とレベルセット法がある。
【0063】
まず、図18を用いてスネーク法について説明する。図18(a)及び(b)は、スネーク法の概念を示す図である。図18(a)に示すように、輪郭を求めたい形状の周りに点列を配して、外部エネルギーと内部エネルギーの和を最小にするように点列を移動させることで図18(b)のように輪郭を求める。外部エネルギーは画像から推定される輪郭に動的輪郭線(点列)が重なった時に最小となるエネルギーである。内部エネルギーとは動的輪郭線(点列)が自然なエッジとして要請される要件(例えば曲率が小さいや短いなど)を満たしているほど小さくなるエネルギーである。なお、点列の初期値は、パターンの内部らしき画像(例えば、図17の実線で示される画像)とパターンの外部らしき画像(例えば、図17の点線で示される画像)を用いて、パターン内部をカバーすると共にパターン外部にはみ出さないように設定される。
【0064】
マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、スネークを適用した手法は、非特許文献1に記載されている。
【0065】
続いて、図19を用いてレベルセット法について説明する。レベルセット法では、点列で動的輪郭を表現するのではなく、図19(a)のように1次元拡張した曲面(補助関数)の等高線として動的輪郭を表現するものである。レベルセット法では補助関数を変形させることで輪郭線のトポロジーの変化を容易に表現すことが出来る。マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、レベルセット法を適用した手法は、非特許文献2に記載されている。
【0066】
スネーク法及びレベルセット法は、共にマーカからのtopographical distanceの代わりにマーカとの連結コストを利用することが出来る。マーカとの連結コストはマーカからのtopographical distanceより短時間で作成できる。
【0067】
また、輪郭線作成部105にはエッジ強調画像を入力することも出来る。このようにすれば外部エネルギーを作成する際にエッジ強調画像を使用することが出来る。
【0068】
レベルセット法では補助関数を変形させることで輪郭線のトポロジーの変化を容易に表現すことが出来るため、半導体パターンにネッキングやブリッチングなどのトポロジーの変化が伴う欠陥が生じていても良好に輪郭線を抽出できる。
【0069】
(5)まとめ
本発明では、検査対象試料(例えば、半導体ウェハ)を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターン(半導体パターン)の内側と外側を規定するパターン内外規定情報(これが初期領域になる)を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値(輝度値)を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ(初期領域を領域成長させる)、パターンの内側領域と外側領域が繋がった箇所をパターンの境界として領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。このようにすることにより、輪郭線の途切れや余剰、重複またはヒゲなどのないパターンの輪郭線を得ることが出来る。
【0070】
輪郭線を生成する際には、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、パターンの内側の領域がエッジ強調画像で示されるエッジ部分となるべく重なる(得られたエッジ強調画像が途切れている場合もあるため100%重なるわけではないため)ように領域分割する。例えば、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行う。或いは、パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、対象試料のパターン輪郭線を生成する。この動的輪郭抽出処理の例としては、スネーク法やレベルセット法が挙げられる。レベルセット法やスネーク法では、パターン内部と外部を分離する情報は該初期領域からの連結コスト或いはそれと同等の情報を含み、この情報を用いて動的輪郭線によりSEM輪郭線を作成する。これにより、より自然な輪郭線を得ることができる(特にスネーク法の場合)。また、レベルセット法により、SEM輪郭線により分離される領域のトポロジーが変化できるようにする。これにより、パターンのネッキングやブリッチングなどの欠陥が生じていても良好に半導体パターンの輪郭線を得ることが出来る。
【0071】
また、試料画像(SEM画像)がデザインデータと比べて後者が前者を包含できないくらいに変形した場合には、デザインデータが対象試料画像を包含するようにデザインデータを変形させ、変形後のデザインデータからパターン内外規定情報を生成するようにしても良い。これにより、半導体パターンの変形が大きい場合でも良好に半導体パターンの輪郭線を得ることができる。
【0072】
また、エッジ強調画像をSEM画像に対する複数のフィルタの出力を合成して作成するようにしてもよい。ホワイトバンドの整っていないSEM画像に対しても良好に半導体パターンの輪郭線を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1…計測/検査システム
10…画像処理部
20…電子顕微鏡本体部
30…SEM画像生成部
40…制御用計算機
50…入力部
60…表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、及び、測定/検査システム、並びに、プログラムに関し、特に、試料上のパターンの輪郭線抽出を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体パターンを撮影したSEM画像などの対象画像の中から、輪郭線を抽出する技術はエッジ抽出や輪郭線抽出と呼ばれ広く用いられている。例えば、特許文献1には非線形の2次微分フィルタを用いたエッジ強調の後、2値化及び細線化を行い、エッジを抽出し、抽出したエッジを結合し、直線近似してパターンの輪郭線を構成する技術が開示されている。エッジ強調には2次微分フィルタ以外にもソーベルフィルタなどの1次微分フィルタが用いられることもある。
【0003】
しかし、このような局所的な情報からエッジを抽出する方法には、半導体パターンの輪郭線の途切れや余剰、重複またはヒゲなどが出るという課題があった。
【0004】
一方、対照画像の中から予め登録された形状を探索する技術はテンプレート・マッチングとして広く用いられている。そして、例えば、特許文献2には、半導体パターンを生成するための基データであるデザインデータと半導体パターンをテンプレート・マッチングで位置合せし、1次微分や2次微分のフィルタで抽出したエッジをデザインデータと対応付けしてパターンの輪郭線を構成する方法が開示されている。この方法によれば、輪郭線におけるエッジの余剰、重複またはヒゲを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66478号公報
【特許文献2】特開2001−338304号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE transactions on Pattern Analysis and machine Intelligence, 25(3):330-342, March 2003, "Water snakes Energy driven Watershed segmentation," H.T.Nguyen, M.Worring and R.V.D Boomgard著
【非特許文献2】International Journal of Computer Vision, v.82 n.3, p.264-283, May 2009, "Four-Color Theorem and Level Set Methods for Watershed Segmentation," Erlend Hodneland, Xue-Cheng Tai, Hans-Hermann Gerdes著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の技術を用いた場合、パターンの輪郭線におけるエッジの余剰、重複、及びヒゲの問題は解消するものの、輪郭線の途切れは依然として解消できない場合がある。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、試料パターンの輪郭線の余剰、重複またはヒゲだけでなく、輪郭線の途切れも解消することのできる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、検査対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。
【0010】
輪郭線を生成する際には、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、パターンの内側の領域がエッジ強調画像で示されるエッジ部分となるべく重なる(得られたエッジ強調画像が途切れている場合もあるため100%重なるわけではないため)ように領域分割する。例えば、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行う。或いは、パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、対象試料のパターン輪郭線を生成する。この動的輪郭抽出処理の例としては、スネーク法やレベルセット法が挙げられる。
【0011】
パターン内外規定情報を生成する場合、対象試料画像とデザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、デザインデータにおけるパターンの内部領域及び外部領域の画像に対してピーリング処理を行う。この場合、デザインデータが対象試料画像を包含するようにデザインデータを変形させ、変形後のデザインデータからパターン内外規定情報を生成するようにしても良い。
【0012】
また、エッジ強調画像を生成する場合に、試料画像に対して複数のフィルタ処理を施し、それぞれのフィルタ処理画像を合成するようにしても良い。
【0013】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理によれば、試料パターンの輪郭線の余剰、重複またはヒゲだけでなく、輪郭線の途切れも解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態による測定/検査システムの概略構成を示す図である。
【図2】デザインデータの例を示す図である。
【図3】半導体パターンのSEM画像の例を示す図である。
【図4】パターン内外規定情報の例を示す図である。
【図5】パターン内外規定情報をSEM画像に重ね合わせた状態を示す図である。
【図6】SEM画像から生成されたエッジ強調画像を示す図である。
【図7】パターン内外規定情報から生成されたパターン内外分離情報を示す図である。
【図8】本発明の処理によって生成されたSEM輪郭線を示す図である。
【図9】SEM輪郭線とSEM画像を重ね合わせた様子を示す図である。
【図10】Watershed Segmentation法を説明するための図である。
【図11】Marker Controlled Watershed Segmentation(MCWS)法を説明するための図である。
【図12】本発明の第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成部の内部構成を示す図である。
【図13】第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成処理の概念を説明するための図である。
【図14】SEM画像に複数層のパターンが写っている場合のパターン内外規定情報生成部102の処理について説明するための図である。
【図15】本発明の第3の実施形態によるエッジ強調部の概略構成を示す図である。
【図16】MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について説明するための図(1)である。
【図17】MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について説明するための図(2)である。
【図18】スネーク法について説明するための図である。
【図19】レベルセット法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、電子顕微鏡による取得画像(例えば、SEM画像)とデザインデータとからパターンの内外を規定するパターン内外規定情報を生成し、それとエッジ画像とを用いてセグメンテーション処理を実行することにより、ヒゲ、重複及び途切れやのないパターン輪郭線を生成する技術に関するものである。
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0018】
(1)第1の実施形態
<計測/検査装置の構成>
図1は、本発明の実施形態による計測/検査システム(「画像観察システム」ともいう)1の概略構成を示す図である。本実施形態では半導体パターンのSEM画像を用いて画像処理することを説明しているが、半導体パターンに限られるものではなく、観察対象になりうる試料であれば何でも良い。
【0019】
計測/検査システム1は、画像処理部10と、電子顕微鏡本体部20と、SEM画像生成部30と、制御用計算機40と、入力部50と、表示装置60と、を備えている。電子顕微鏡本体部20では、電子銃201から発せられた電子線202が図示しない電子レンズによって収束され、試料(例えば、半導体チップ)204に照射される。電子線照射によって、試料表面から発生する二次電子、或いは反射電子の強度が電子検出器205によって検出され、増幅器206で増幅される。
【0020】
電子線の位置を移動させる偏向器203は、制御用計算機40の制御信号207によって制御され、電子線202を試料表面上でラスタ走査させる。
【0021】
増幅されたデータはSEM画像生成部30に提供され、SEM画像が生成される。この生成されたSEM画像は画像処理部10に提供され、所定の画像処理が実行される。また、当該SEM画像は表示装置60に表示され、図示しない画像メモリに格納される。
【0022】
画像処理部10は、SEM画像とデザインデータとのマッチング(位置合せ)を取り、位置合せ情報を生成するマッチング部101と、位置合せ情報から半導体パターンにおいてパターンの内側と外側を規定する(どの部分が内部及び外部であるかを示す)パターン内外規定情報を生成するパターン内外規定情報生成部102と、SEM画像のエッジを強調してエッジ強調画像を生成するエッジ強調部103と、エッジ強調画像とパターン内外規定情報からパターンの内部及び外部を分離し、パターン内外分離情報を出力するパターン内外分離部104と、パターン内外分離情報からSEM輪郭線を生成する輪郭線生成部105と、を備えている。
【0023】
入力部50はキーボードやマウス等の入力手段であって、電子顕微鏡本体部20を制御するための電流値や電圧値を入力したり、電子顕微鏡でSEM画像を取得した半導体パターンのデザインデータを入力等したりするためのツールである。なお、デザインデータに関しては、画像メモリに格納していたデータを読み出してもよい。
【0024】
<画像処理部10の各部の出力情報>
図2はデザインデータの一例を示している。ここでは便宜上、白い部分をパターン内部、黒い部分をパターン外部と決めておく。また、図3はこのデザインデータから作成された半導体パターンのSEM画像を示している。
【0025】
図4は、対応するパターン内外規定情報を示している。図4(a)は、図2で示される白い領域(例えば、パターン内部)と黒い部分(パターン外部)に対して細線化処理を施して得られたものである。つまり、パターン内外規定情報は、デザインデータにおいて内部と外部夫々の領域を塗潰した画像に対して規定回数のピーリング(細線化)処理(外周の1画素を削る(除去する)が、幅1画素になった部分は削らない処理)を施して作成している。また、図4(b)は、図4(a)を見やすくするために、図4(a)に現れるパターン内外規定情報を単純化して表した図である。
【0026】
パターン内外規定情報は、デザインデータとSEM画像の位置合せ情報を考慮して作成されているため、図5に示されるように、SEM画像に重ねて表示すると、一番明るい領域がパターン内部を規定し、次に明るい領域がパターン外部を規定していることが分かる。従って、パターンの内部と外部の境界(エッジ部分)は、パターン内部規定情報とパターン外部規定情報の間に存在することが分かる。
【0027】
また、図6は、SEM画像をフィルタリング処理等することによって作成したエッジ強調画像を示している。図7は、パターン内外分離情報を示している。パターン内外分離情報は、パターン内外規定情報が規定する内部と外部の間(一番暗い部分)にエッジ強調画像の輝度値が高い部分が境目となるように、図4のそれぞれ内部(一番明るい部分)と外部(次に明るい部分)を示す線を膨張(内部と外部が繋がるまでそれぞれの線を膨張)させて、画像全体をパターンの内部と外部に分離して得られる情報である。この処理の詳細については後述する。
【0028】
図8は、輪郭線作成部105が、パターン内外分離情報の内部と外部の境界として作成したSEM輪郭線を示している。そして、図9は、図3のSEM画像に図8のSEM輪郭線を重ねたものを示している。以上のように、確かにSEM輪郭線が得られていることが分かる。
【0029】
<パターン内外分離部の処理の詳細>
パターン内外規定情報とエッジ強調画像からパターン内外分離情報を生成する部分(パターン内外分離部)は、MCWS(Marker Controlled Watershed Segmentation)に従って処理を行っている。まず、MCWSの説明に先立って、その基となっているWatershed Segmentationについて説明する。
【0030】
(i)Watershed Segmentation
Watershed Segmentationでは、元画像(例えばSEM画像)の各画素におけるエッジらしさを画素値で表現したエッジ強調画像に対して領域分割を行う。エッジ強調画像を(画素の輝度値を高さとみなした)地形情報と考えると、エッジ部分は高い山脈、それ以外はエッジの山脈によって区切られた盆地のようになっている。このような地形に対して、水位(画素の輝度値に相当)が画像全体で等しくなるように保ちながら浸水させていくと、水位が上昇する毎にたくさんの池が出来て、それらが繋がって、最後には地形全体が浸水する。この過程で新たな池が出来る毎にその池に異なるラベルを付与し、各池に属する画素はその池のラベルで特定される領域に分類される。水位が上がるに従って池は広くなり、いつか隣の池と繋がるが、その繋がった位置が領域の境界となる。領域の境界は山脈の嶺を繋いだ形状となる。この嶺が池を分けていることから、この領域分割の手法をWatershed(分水嶺)と呼んでいる。
【0031】
図10はWatershed Segmentationを実現するアルゴリズムの一例を概念的に示す図である。図10において、太い点線はある水位における浸水線(水面と地形の交線)を表している。水位は地形の最低点の高さから最高点の高さまで移動させるが、各水位において浸水線上の全ての画素に以下の3つのステップを実行する。
【0032】
STEP1:隣の画素が池なら、その画素にも隣の池のラベルを付与する。
STEP2:浸水線上の隣り合った画素に同じラベルを拡大する。
STEP3:STEP1,2で対象外の画素(盆地の底、新たな池)には新たなラベルを付与する。Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を想像するには、「雨が降って水が溜まっていく」様子よりも「スポンジで出来た地形を浴槽にゆっくり浸していく」様子、或いは「盆地の底に小さな穴の開いた地表型の凹凸プラスチック板を浴槽にゆっくり浸していく」様子の方が近い。雨では水位が一定となる保証がないからである。Watershed Segmentationは必要以上に細かい領域分割を行うため、このままでは輪郭線の作成に適用することは出来ない。
【0033】
(ii)MCWS(Marker Controlled Watershed Segmentation)
通常のWatershed Segmentationの知識を基に、続いてMCWSについて説明する。MCWSは、Watershed Segmentationを改善してマーカによって領域の分割の仕方をコントロールできるようにしたものである。Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を「スポンジで出来た地形を浴槽にゆっくり浸していく」様子と考えた場合、MCWSではマーカ部(内外規定情報の線分に相当)だけがスポンジで出来ていて、それ以外は水を通さない部材(例えばプラスチック)で出来ている状況を考えればよい。また、Watershed Segmentationにおいて水位が上がっていく様子を盆地の底に小さな穴の開いた地表型の凹凸プラスチック板を浴槽にゆっくり浸していく」様子と考えた場合、MCWSではマーカと同形の穴が開いているだけでそれ以外に(たとえ盆地の底でも)穴はない状況を考えればよい。
【0034】
このようにマーカを設定することで、最終的に分割される領域の数はマーカの数と一致して、全ての領域はマーカを内包することになる。マーカの形状は点でも線でも面でもかまわない。また、ラベルはマーカ毎に付与されるが、複数のマーカに同一のラベルを付与してもかまわない。この場合、同一のラベルの池が繋がっても、そこが境界とは認識されず、領域の数はマーカ数以下でラベル数以上となる。
【0035】
図11はMCWSを実現するアルゴリズムの一例を概念的に説明するための図である。図の見方は図10と同様である。各水位において以下の3つのステップを実行する(浸水線上の全ての画素に対して行うわけではない)。
【0036】
STEP1:マーカ上にある画素にはそのマーカと同じラベルを付与する。
STEP2:隣の画素が池なら、その画素にも隣の池のラベルを付与する。
STEP3:浸水線上若しくは高さが水位以下でラベルが未付与の隣り合った画素に同じラベルを拡大する。
【0037】
通常のWatershed Segmentationと比べて特徴的なのは、新たなラベルの付与がなくなり、マーカのラベルを引き継ぐためにSTEPの順番が巡回的に変化(1,2,3→3,1,2)したのと、MCWSのSTEP3(通常のWatershed SegmentationのSTEP2に対応)でラベルの拡大が、高さが水位以下の画素に対しても行われている、即ち池の氾濫が起きていることである。マーカのない盆地は嶺を介して隣接する池の氾濫によってラベルが付与されるが、氾濫は盆地を囲む嶺の中で最も低い点で接している池から起こる。
【0038】
なお、図4のパターン内外規定情報はMCWSにおけるマーカであり、一番明るい領域と次に明るい領域がラベルの異なるマーカ領域を示している。また、図5のエッジ強調画像が地形情報に対応する。そして、図7は、パターン内外規定情報をマーカとしたMCWSによって画像全体がパターンの内部とパターンの外部という2つの領域に分割された様子を示している。
【0039】
このようにパターンの内外規定情報から輪郭線(パターンの内側と外側の境界)を求めているので、エッジ強調画像が部分的に途切れる可能性があったとしても、得られる輪郭線は途切れることは無い。
【0040】
(2)第2の実施形態
第2の実施形態は、パターン内外規定情報生成部の別の形態に係るものである。他の構成及び動作については第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0041】
図12は、本発明の第2の実施形態によるパターン内外規定情報生成部102の別の形態を示す図である。図12に示されるように、パターン内外規定情報生成部102は、デザインデータシフト部1021と、デザインデータ変形部1022と、パターン収縮部1023と、によって構成される。
【0042】
デザインデータシフト部1021は、位置合せ情報に基づいて、SEM画像とパターンが重なる位置にデザインデータをシフトさせる(重ね合せ処理)。次に、デザインデータ変形部1022は、デザインデータの形状がSEM画像のパターン形状に近くなるようにシフトさせたデザインデータを変形させる(例えば、ローパスフィルタでデザインデータをなまらせる)。最後に、パターン収縮部1023は、変形したデザインデータにピーリングを施し、パターン内外規定情報を生成する(細線化処理)。
【0043】
図13は、図12に示したパターン内外規定情報生成部102で実行される処理について説明するための図である。図13(a)はデザインデータ(黒)とそれを基に作成されSEMで観察された半導体パターンを重ねて表示したものである。一般的に半導体パターンはデザインデータに比べて角が取れて丸まった形状となっている。
【0044】
図13(b)からは、図13(a)のデザインデータからピーリングによって生成した形状が角張っており、図13(c)のように半導体パターンを重ねてみると角部が外部に飛び出しているのが分かる。そこで、角張ったデザインデータの角を丸めて半導体パターンの形状に近づけたのが図13(d)である。デザインデータの丸め方としてはリソ工程シミュレーションのように光強度分布画像(エアリアルイメージ)を作成して同輝度のレベルで切断した断面形状を求めるなどの方法が考えられるが、簡易的にはデザインデータを塗潰して窓の大きなガウスフィルタなどのローパスフィルタを施して光強度分布画像の代用とするなどの方法でもよい。予めシミュレーションでどのようなパターン形状の場合にはどの程度形状が歪むか(丸まるか)といった傾向を把握しておき、その傾向に基づいてデザインデータを丸めるようにしても良い。
【0045】
この変形したデザインデータにピーリングを施して得られた形状が点線で示されている。図13(e)はこれに半導体パターンを重ねて表示したものだが、ここでは半導体パターンの外部に飛び出していないことが分かる。
【0046】
図14は、SEM画像に複数層(ここでは2層)のパターンが写っている場合のパターン内外規定情報生成部102の処理について説明するための図である。図14(a)では、3本の縦方向に並行したラインエンドの上層パターンの下に横方向に並行した上下の部分に下層パターンが写っている。ここで、上層パターンの輪郭線だけを抽出する場合は上層のデザインデータのみを使用して処理する。一般に、上層のエッジの方が下層のエッジより強く写るので、マーカ(パターン内外規定情報)は上層のデザインの内部と外部に2種類作成すれば、下層エッジに影響されることなく上層の輪郭のみを抽出することが出来る。
【0047】
しかし、下層のエッジが強く写っている場合には、図14(b)に示されるように、下層のデザインデータを参考にして下層エッジを突き抜けるように上層外部のマーカを配置する(上層とそれ以外に分類する)。こうすることで下層パターン境界のエッジの両側はMCWSの処理において同一の池と認識され、下層のエッジの影響を除外することが出来る。
【0048】
同様の手法を下層のエッジの影響を除外するためではなく、製造中に作り込まれた偽エッジの影響を除外するためにも使うことができる。偽エッジの場合はどこに作られるかデザインデータからは判断できないため、デザインデータをピーリングしてマーカを生成する際、必要以上に細くしすぎないことも重要である。ピーリングの程度は、位置合せの精度やパターンのシュリンクを考慮して、位置合せに誤差があり、ある程度パターンがシュリンクしていてもマーカがパターンを突き破ることがないように設定する必要があるが、必要以上に細くすることは望ましくない。ラインエンドなどのシュリンクしやすい部分に対してはマーカを大きく縮退させることも出来る。また、デザインデータからマーカを削り出す処理はピーリングに限定するものではない。
【0049】
また、上層パターンの輪郭だけでなく、下層パターンの輪郭も抽出する場合は、下層のデザインデータも使用し、図14(c)のようにマーカを配置すればよい。即ち、上層内部のマーカI(最も明るいマーカ)、上層外部で下層内部のマーカII(次に明るいマーカ)、上層外部で下層外部のマーカIII(最も暗いマーカ)の3種類である。
【0050】
多層パターンが写り込んでいるSEM画像には、上層内部に下層エッジが写り込んでいるものも存在する。このようなエッジは非常に微弱だが、上層内部で下層内部のマーカと上層内部で下層外部のマーカの種類(ラベル)を分けることで抽出できるようになる。
【0051】
(3)第3の実施形態
第3の実施形態は、エッジ強調部の別の形態に係るものである。他の構成及び動作については第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0052】
図15は、第3の実施形態によるエッジ強調部の概略構成を示す図である。当該エッジ強調部103は、1次微分作成部1031と、2次微分作成部1032と、合成部1033と、によって構成される。
【0053】
1次微分作成部1031は、SEM画像に対して1次微分系のフィルタを施したエッジ強調画像を作成する。2次微分作成部1032は、SEM画像に対して2次微分系のフィルタを施したエッジ強調画像を作成する。合成部1033の処理の一例としては、1次微分作成部1031で作成したエッジ強調画像と2次微分作成部1032で作成したエッジ強調画像の輝度レベルを揃えた後、2次微分作成部1032で作成したエッジ強調画像を、例えばMaximum フィルタを用いて膨張させ、画素毎の最大値画像を作成して、最後にローパスフィルタで平滑化を施すというものが挙げられる。
【0054】
1次微分作成部1031は、内部が明るく外部が暗いパターンに関しては、エッジを鮮明に取ることができる。一方、2次微分作成部1032は、内部も外部の明るさは変わらないが境界にホワイトバンドがあるパターンに関して、より良好にエッジを取ることができる。つまり、2次微分作成部1032で抽出したエッジを膨張させれば、最後の平滑化に対して1次微分作成部1031で抽出したエッジよりも輝度値の低下を抑えることができる。この効果で、ホワイトバンドがはっきりしているときにはホワイトバンドの中央が抽出され、ホワイトバンドが不明瞭な時はコントラストの変化が大きい方のステップエッジが抽出されるが、どちらか一方のステップエッジのコントラスト変化が際立って大きくない限りホワイトバンドの中央が抽出される。
【0055】
従って、合成部1033が出力するエッジ強調画像のエッジは、基本的にはSEM画像のホワイトバンドの中央を取り、内側か外側のステップエッジの一方で際立ってコントラスト変化が大きい場合はそちらのステップエッジを取り、内側から外側のステップエッジへの急峻な変化が抑えられるようになる。
【0056】
(4)第4の実施形態
第4の実施形態は、輪郭線作成部105の処理において、MCWSで得られたエネルギー関数を動的輪郭抽出処理に適用するものである。ここでは、動的輪郭出処理の例として、スネーク法とレベルセット法を挙げている。
【0057】
輪郭線作成部105は、上述のように図7のようなパターン内外分離情報の領域の境界として図8のような輪郭線を作成する処理以外にも、輪郭線としての尤もらしさを考慮して、より自然な輪郭線に修正するような処理を実行することも考えられる。その例を説明するのに先立って、MCWSにおけるマーカとの連結コストの概念について、図16及び17を用いて説明する。マーカとの連結コストは各ラベルのマーカに対して全点で定義される関数である。
【0058】
図16には1種類(同ラベル)のマーカが2箇所にある。マーカとの連結コストは基本的には各点での地表の高さと等しくなるが、MCWSを行う過程で氾濫によって水面下に沈んだ地点では氾濫点(水が流れ出した点)の地表の高さ、即ち氾濫後の水位と等しくなる。
【0059】
一方、図17には異なる種類(ラベル)のマーカが2箇所にある。各点にはマーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストの両方が定義される。マーカ1を含む領域とマーカ2を含む領域は、マーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストが等しくなる点の集合で分離される。即ち、マーカ1との連結コストとマーカ2との連結コストが等しくなる点を結んだものが領域の境界となる。パターン内外分離情報は図7のようなパターン内外の領域情報ではなく、各ラベルのマーカとの連結コストという形も取ることができる。
【0060】
そして、各ラベルのマーカを含む領域内では、マーカとの連結コストは地形に対してreconstruction by erosionを施し、マーカからのtopographical distanceを計算したものと等しくなる。
【0061】
図17において、実線で示される画像の中では、画素値が低ければ低いほどマーカ1の領域内部であるらしいと判断される。また、点線で示される画像の中では、画素値が低ければ低いほどマーカ2の領域内部であるらしいと判断される。従って、実線がパターン内部、点線がパターン外部の画像に対応する場合、これらの画像から内部らしさ及び外部らしさを判断することができる。
【0062】
マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、active contour(動的輪郭線)を使って輪郭線を作成する技法が知られている。動的輪郭線として代表的な手法にスネーク法とレベルセット法がある。
【0063】
まず、図18を用いてスネーク法について説明する。図18(a)及び(b)は、スネーク法の概念を示す図である。図18(a)に示すように、輪郭を求めたい形状の周りに点列を配して、外部エネルギーと内部エネルギーの和を最小にするように点列を移動させることで図18(b)のように輪郭を求める。外部エネルギーは画像から推定される輪郭に動的輪郭線(点列)が重なった時に最小となるエネルギーである。内部エネルギーとは動的輪郭線(点列)が自然なエッジとして要請される要件(例えば曲率が小さいや短いなど)を満たしているほど小さくなるエネルギーである。なお、点列の初期値は、パターンの内部らしき画像(例えば、図17の実線で示される画像)とパターンの外部らしき画像(例えば、図17の点線で示される画像)を用いて、パターン内部をカバーすると共にパターン外部にはみ出さないように設定される。
【0064】
マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、スネークを適用した手法は、非特許文献1に記載されている。
【0065】
続いて、図19を用いてレベルセット法について説明する。レベルセット法では、点列で動的輪郭を表現するのではなく、図19(a)のように1次元拡張した曲面(補助関数)の等高線として動的輪郭を表現するものである。レベルセット法では補助関数を変形させることで輪郭線のトポロジーの変化を容易に表現すことが出来る。マーカからのtopographical distanceを外部エネルギーとして利用し、レベルセット法を適用した手法は、非特許文献2に記載されている。
【0066】
スネーク法及びレベルセット法は、共にマーカからのtopographical distanceの代わりにマーカとの連結コストを利用することが出来る。マーカとの連結コストはマーカからのtopographical distanceより短時間で作成できる。
【0067】
また、輪郭線作成部105にはエッジ強調画像を入力することも出来る。このようにすれば外部エネルギーを作成する際にエッジ強調画像を使用することが出来る。
【0068】
レベルセット法では補助関数を変形させることで輪郭線のトポロジーの変化を容易に表現すことが出来るため、半導体パターンにネッキングやブリッチングなどのトポロジーの変化が伴う欠陥が生じていても良好に輪郭線を抽出できる。
【0069】
(5)まとめ
本発明では、検査対象試料(例えば、半導体ウェハ)を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、対象試料上に形成されたパターン(半導体パターン)の内側と外側を規定するパターン内外規定情報(これが初期領域になる)を生成する。そして、対象試料画像のエッジ強調画像の画素値(輝度値)を参照しながら、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ(初期領域を領域成長させる)、パターンの内側領域と外側領域が繋がった箇所をパターンの境界として領域分割を行い、対象試料のパターン輪郭線を生成する。このようにすることにより、輪郭線の途切れや余剰、重複またはヒゲなどのないパターンの輪郭線を得ることが出来る。
【0070】
輪郭線を生成する際には、パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、パターンの内側の領域がエッジ強調画像で示されるエッジ部分となるべく重なる(得られたエッジ強調画像が途切れている場合もあるため100%重なるわけではないため)ように領域分割する。例えば、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行う。或いは、パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、対象試料のパターン輪郭線を生成する。この動的輪郭抽出処理の例としては、スネーク法やレベルセット法が挙げられる。レベルセット法やスネーク法では、パターン内部と外部を分離する情報は該初期領域からの連結コスト或いはそれと同等の情報を含み、この情報を用いて動的輪郭線によりSEM輪郭線を作成する。これにより、より自然な輪郭線を得ることができる(特にスネーク法の場合)。また、レベルセット法により、SEM輪郭線により分離される領域のトポロジーが変化できるようにする。これにより、パターンのネッキングやブリッチングなどの欠陥が生じていても良好に半導体パターンの輪郭線を得ることが出来る。
【0071】
また、試料画像(SEM画像)がデザインデータと比べて後者が前者を包含できないくらいに変形した場合には、デザインデータが対象試料画像を包含するようにデザインデータを変形させ、変形後のデザインデータからパターン内外規定情報を生成するようにしても良い。これにより、半導体パターンの変形が大きい場合でも良好に半導体パターンの輪郭線を得ることができる。
【0072】
また、エッジ強調画像をSEM画像に対する複数のフィルタの出力を合成して作成するようにしてもよい。ホワイトバンドの整っていないSEM画像に対しても良好に半導体パターンの輪郭線を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1…計測/検査システム
10…画像処理部
20…電子顕微鏡本体部
30…SEM画像生成部
40…制御用計算機
50…入力部
60…表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測又は検査の対象となっている試料上に形成されたパターンの輪郭線を抽出する画像処理装置であって、
対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、前記対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成するパターン内外規定情報生成部と、
前記対象試料に対して電子線を照射して得られた対象試料画像のエッジ強調画像を生成するエッジ強調部と、
前記エッジ強調画像の画素値を参照しながら、前記パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、前記対象試料のパターン輪郭線を生成する輪郭線生成部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記輪郭線生成部は、前記パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、前記パターンの内側の領域が前記エッジ強調画像で示されるエッジ部分と重なるように領域分割することを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記輪郭線生成部は、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記輪郭線生成部は、前記パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、前記対象試料のパターン輪郭線を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記パターン内外規定情報生成部は、前記対象試料画像と前記デザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、前記デザインデータにおける前記パターンの内部領域及び外部領域の画像に対してピーリング処理を行い、前記パターン内外規定情報を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記パターン内外規定情報生成部は、前記対象試料画像と前記デザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、前記デザインデータが前記対象試料画像を包含するように前記デザインデータを変形させ、変形後のデザインデータから前記パターン内外規定情報を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記エッジ強調部は、前記試料画像に対して複数のフィルタ処理を施し、それぞれのフィルタ処理画像を合成することにより、前記エッジ強調画像を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
計測又は検査の対象となっている試料に対して電子線を照射して得られた情報から、対象試料画像を生成する電子顕微鏡装置と、
請求項1に記載の画像処理装置と、
を備えることを特徴とする測定/検査システム。
【請求項9】
コンピュータを請求項1に記載の画像処理装置として機能させるためのプログラム。
【請求項1】
計測又は検査の対象となっている試料上に形成されたパターンの輪郭線を抽出する画像処理装置であって、
対象試料を生成するためのデザインデータに対して細線化処理を行い、前記対象試料上に形成されたパターンの内側と外側を規定するパターン内外規定情報を生成するパターン内外規定情報生成部と、
前記対象試料に対して電子線を照射して得られた対象試料画像のエッジ強調画像を生成するエッジ強調部と、
前記エッジ強調画像の画素値を参照しながら、前記パターン内外規定情報で示される領域を膨張させることにより領域分割を行い、前記対象試料のパターン輪郭線を生成する輪郭線生成部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記輪郭線生成部は、前記パターン内外規定情報で示される領域を膨張させ、前記パターンの内側の領域が前記エッジ強調画像で示されるエッジ部分と重なるように領域分割することを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記輪郭線生成部は、Marker Controlled Watershed Segmentation法に基づいて、領域分割を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記輪郭線生成部は、前記パターン内外規定情報からパターン内部領域を示す外部エネルギーとパターン外部領域を示す外部エネルギーを用いて動的輪郭抽出処理を実行することにより、前記対象試料のパターン輪郭線を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記パターン内外規定情報生成部は、前記対象試料画像と前記デザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、前記デザインデータにおける前記パターンの内部領域及び外部領域の画像に対してピーリング処理を行い、前記パターン内外規定情報を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記パターン内外規定情報生成部は、前記対象試料画像と前記デザインデータとをマッチング処理することにより取得した位置合せ情報を参照して、前記デザインデータが前記対象試料画像を包含するように前記デザインデータを変形させ、変形後のデザインデータから前記パターン内外規定情報を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記エッジ強調部は、前記試料画像に対して複数のフィルタ処理を施し、それぞれのフィルタ処理画像を合成することにより、前記エッジ強調画像を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
計測又は検査の対象となっている試料に対して電子線を照射して得られた情報から、対象試料画像を生成する電子顕微鏡装置と、
請求項1に記載の画像処理装置と、
を備えることを特徴とする測定/検査システム。
【請求項9】
コンピュータを請求項1に記載の画像処理装置として機能させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−128070(P2011−128070A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288140(P2009−288140)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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