説明

画像処理装置、画像処理プログラム、及び、画像処理方法

【課題】少ない演算量で、階調補正結果にアーティファクトが発生しない照明光成分画像を生成する。
【解決手段】画像処理装置は、入力画像を縮小する縮小部(30)と、縮小部によって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化部(31)と、縮小画像平滑化部によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大部(32)とを備える。エッジ保存拡大部は、縮小画像平滑化部によって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいてフィルタ処理の対象となる注目画素の画素値(Js)を決定し、エッジ保存拡大部は、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値(Ip)と前記各参照画素の画素値(Ls)との差、及び、拡大後の前記注目画素(p)と各参照画素(s)の距離に基づいて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理プログラム、及び、画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、階調補正処理などを行う際に、人の視覚モデルに関するレティネックス理論(特許文献1参照)に基づいて、画像は照明光成分と反射率成分とに分離され、照明光成分のみに対して階調補正処理が行われる(例えば、特許文献2参照)。これにより、視覚的に良好な処理画像が得られる。ここで、階調補正処理とは、画像のダイナミックレンジを狭めたり、暗部や明部を適正な明るさにしたりする変換である。照明光成分とは、照明光による影響が多く含まれた成分画像であり、反射率成分とは、被写体の反射率による影響が多く含まれた成分画像である。また、テクスチャ補正処理を行う際には、分離した反射率成分のみに対して補正処理を行うと、視覚的に良好な処理画像が得られる。これらの補正処理は、一つの画像のそれぞれの成分に対して同時に行っても良い。
【0003】
レティネックス理論で述べている照明光成分画像を生成する際に、特にエッジに隣接した領域で適切に照明光成分が得られていないと、階調補正後の画像のエッジに隣接した領域にハローアーティファクトが出現してしまう問題が起こる。この問題を解決するためには、物体の輪郭などのエッジを保持しつつ、エッジ以外の領域では平滑化を行う非線形フィルタ(例えばバイラテラルフィルタ(bilateral filter))を使用し、且つ、フィルタの参照画素の範囲は広くする必要がある。従って、照明光成分画像を生成するために、非常に多くの演算量が必要である。
【0004】
そこで、例えば、非特許文献3に示したファーストバイラテラルフィルタ(fast bilateral filtering)のような高速化された演算手法が提案されている
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】EH Land and JJ McCann,"Lightness and retinex theory," J. Opt. Soc.Am. 61, 1 (1971)
【非特許文献2】Kuang, J., Johnson, G. M., Fairchild M. D.「iCAM06: A refined image appearance model for HDR image rendering」Journal of Visual Communication and Image Representation Volume 18, Issue 5, October 2007, Pages 406-414
【非特許文献3】「Fast Bilateral Filtering for the Display of High-Dynamic-Range Images」Fredo Durand and Julie Dorsey著、SIGGRAPH 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献3に示したファースト・バイラテラルフィルタ(fast bilateral filtering)では、演算量は依然として多かった。
【0007】
本発明の目的は、少ない演算量で、階調補正が施された画像にハローアーティファクトが発生しないような照明光成分画像を生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係る画像処理装置は、エッジ保存平滑化を行う画像処理装置であって、入力画像を縮小する縮小手段と、前記縮小手段によって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化手段と、前記縮小画像平滑化手段によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大手段とを備える。前記エッジ保存拡大手段は、前記縮小画像平滑化手段によって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、前記エッジ保存拡大手段は、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の別の態様に係る画像処理方法は、エッジ保存平滑化を行う画像処理方法であって、入力画像を縮小する縮小ステップと、前記縮小ステップによって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化ステップと、前記縮小画像平滑化ステップによって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大ステップとを含む。 前記エッジ保存拡大ステップは、前記縮小画像平滑化ステップによって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、前記エッジ保存拡大ステップは、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする。
【0010】
本発明のさらに別の態様に係る画像処理プログラムは、エッジ保存平滑化を行う画像処理プログラムであって、入力画像を縮小する縮小手順と、前記縮小手順によって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化手順と、前記縮小画像平滑化手順によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大手順とを、コンピュータに実行させる。前記エッジ保存拡大手順は、前記縮小画像平滑化手順によって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、前記エッジ保存拡大手順は、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、少ない演算量で、階調補正後の画像にハローアーティファクトが発生しないような照明光成分画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一実施形態に係る画像処理装置を示すブロック図である。
【図2】第一実施形態に係る補正処理部の詳細を示すブロック図である。
【図3】第一実施形態に係るエッジ保存平滑化部の詳細を示すブロック図である。
【図4】第一実施形態に係るエッジ保存拡大部の機能ブロック図である。
【図5】第二実施形態に係るエッジ保存拡大部の機能ブロック図である。
【図6】(a)エッジ部分に沿った濃淡の繰り返しが発生した画像を示す図である。(b)第二実施形態により、エッジ部分に沿った濃淡の繰り返しが発生しない画像を示す図である。
【図7】第三実施形態による参照画素の位置範囲を示す図である。
【図8】第三実施形態において、注目画素からの距離と参照画素の密度との関係を示す図である。
【図9】(a)画像処理プログラムのメインルーチンを示すフローチャートである。(b)補正処理のサブルーチンを示すフローチャートである。(c)エッジ保存平滑化処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係る画像処理装置1(又は画像処理システム)のブロック図である。画像処理装置1は電子機器に搭載される。電子機器の例として、テレビジョン受像機、プリンタ、スチルカメラ、ビデオカメラなどが挙げられる。画像処理装置1は、画像に対してエッジ保存平滑化処理を行う部分(後述のエッジ保存平滑化部20)を有する。エッジ保存平滑化処理は、レティネックス理論による照明光成分を含む照明光成分画像を生成する処理に相当する。
【0014】
画像処理装置1は、入力されたカラー画像(例えばRGB画像)に対して、階調補正処理とテクスチャ補正処理を行う。画像処理装置1は、輝度画像生成部10、補正処理部11、ゲイン生成部12、ゲイン適用部13を備える。例えば、各部10−13は論理回路から構成してよいし、CPU(中央演算処理装置)と演算プログラムを格納するメモリなどから構成してもよい。
【0015】
輝度画像生成部10は、カラー画像を輝度画像に変換するもので、例えば、画素ごとにRGB−YIQ変換により輝度値(Y)を得て、輝度値(Y)を画素値として有する輝度画像を生成する。補正処理部11は、カラー画像より生成した輝度画像に対して階調補正処理及びテクスチャ補正処理を行う。ゲイン生成部12は、カラー画像の各色の階調変換に使用するゲインを生成する。例えば、ゲイン生成部12は、補正処理部11による処理後の画像と処理前の画像との間の各画素における輝度値の比を、カラー画像の各色のゲインに設定する。ゲイン適用部13は、ゲイン生成部12で生成されたゲインを、カラー画像の各色の階調変換に適用する。
【0016】
図2は、上記の補正処理部11の詳細を示すブロック図である。補正処理部11は、エッジ保存平滑化部20、階調補正部21、テクスチャ成分生成部22、テクスチャ補正部23、合成処理部24を備える。例えば、各部20−24は論理回路から構成してよいし、CPU(中央演算処理装置)と演算プログラムを格納するメモリなどから構成してもよい。
【0017】
エッジ保存平滑化部20は、輝度画像生成部10から入力された輝度画像に対してエッジ保存平滑化を実施することでエッジが保存された平滑化画像Jを作る。なお、平滑化画像Jは、照明光成分に相当する。階調補正部21は、平滑化画像Jに対して階調補正処理を行う。階調補正処理は、既に知られているガンマカーブで画素の輝度値を変換する方法や、ヒストグラム平滑化を用いた方法などである。
【0018】
テクスチャ成分生成部22は、平滑化画像Jと入力輝度画像Lの画素の輝度値(画素値)の差又は比を計算することによりテクスチャ成分画像を生成する。なお、テクスチャ成分画像は、反射率成分に相当する。テクスチャ補正部23は、例えば、一定数を乗算又は冪(べき)算する方法などで、テクスチャ成分画像に対してテクスチャ補正を実施する。合成処理部24は、階調補正部21とテクスチャ補正部23において生成された階調補正画像とテクスチャ補正画像を合成する。合成処理部24からの出力画像は、階調補正及びテクスチャ補正が実施された輝度画像である。
【0019】
以上に、補正処理部11が階調補正処理とテクスチャ補正処理の両方を実施する場合を述べたが、補正処理部11は何れか一方の処理のみをしてもよい。
【0020】
図3は、本実施形態の特徴部分であるエッジ保存平滑化部20の詳細を示すブロック図である。
【0021】
エッジ保存平滑化部20は、縮小部30、縮小画像平滑化部31、エッジ保存拡大部32を備える。例えば、各部30−32は論理回路から構成してよいし、CPU(中央演算処理装置)と演算プログラムを格納するメモリなどから構成してもよい。
【0022】
縮小部30は、輝度画像生成部10からの輝度画像Lを所定の縮小率で縮小(圧縮)する縮小処理を行う。縮小処理の一例は、画素の間引きである。縮小処理として画素の間引きのみが行われる場合、演算量が小さい。
【0023】
縮小画像平滑化部31は、縮小部30で縮小された画像(縮小画像M)に対して、エッジ保存平滑化処理を施す。エッジ保存平滑化処理は、エッジを保存した状態で画像を平滑化する処理である。このエッジ保存平滑化処理の一例は、エッジ保存平滑化フィルタとして公知のバイラテラルフィルタを用いる処理である。
【0024】
エッジ保存拡大部32は、縮小画像平滑化部31で得られた画像(縮小平滑化画像I)に対して、拡大処理を行う。拡大処理は、エッジを保存しながら縮小平滑化画像を拡大する。拡大倍率は、上記の縮小率の逆数とすることができ、この場合拡大後の画像(拡大画像)Jのサイズは入力輝度画像Lと同じになる。例えば、縮小率が1/4であるなら、拡大率は4倍としてもよい。
【0025】
輝度画像Lの縮小状態でエッジ保存平滑化を行うことで、照明光成分(即ち、エッジ保存拡大部32から出力される平滑化画像J)を得るための演算量が低減できる。
【0026】
次に、エッジ保存拡大部32が行う好適な拡大処理について説明する。なお、拡大処理は、画像拡大後の補間も伴う。エッジ保存拡大部32は、エッジを保存しながら縮小平滑化画像Iを拡大する。エッジ保存拡大部32の補間処理において、バイラテラルフィルタに似たエッジ保存平滑化フィルタを適用する。従来から知られているバイリニア法やバイキュービック法などの補間を用いた拡大処理では、元画像にあったエッジが崩れて拡大されてしまう。
【0027】
ここで、エッジ保存拡大部32のエッジ保存平滑化フィルタとバイラテラルフィルタとの違いを述べる。通常のバイラテラルフィルタは、式(1)(2)のように、フィルタ処理の対象画像Iを計算し、フィルタ処理の結果画像Jを生成する。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
ここで、sは注目画素(即ち、フィルタ処理の対象画素)、Ωはフィルタ範囲を示す。k(s)は注目画素sでのフィルタ結果の正規化値、即ちフィルタ範囲の各参照画素pの係数f・gの合計値を示す。また、第一関数fと第二関数gは、各参照画素pの係数値を計算するための関数である。第一関数fは、注目画素sと参照画素pの間の距離に依存する係数値を与え、第二関数gは、注目画素sの画素値Isと参照画素pの画素値Ipの差に依存する係数値を与える。第一関数fと第二関数gは、通常、それぞれ標準偏差σの異なるガウス関数である。
【0031】
バイラテラルフィルタ処理は、注目画素の画素値Isと参照画素の画素値Ipとの差を計算する。しかし、画素の補間を伴う拡大処理では、ほとんどの場合において、補間前の拡大画像における注目画素sの画素値Isは、補間すべき画素位置における画素値であるので存在しない。従って、通常では、バイラテラルフィルタ処理は、拡大処理の補間には使用できない。
【0032】
しかし、本実施形態において、エッジ保存拡大部32の拡大処理における補間において、Isの代わりに、縮小画像Mの縮小前の輝度画像Lにおいて、注目画素sの位置に対応する画素の画素値Lsを用いて、バイラテラルフィルタ処理が実施される。即ち、エッジ保存拡大部32は、式(3A)(3B)で表わされるエッジ保存平滑化フィルタによる補間を用いて、エッジを保存した拡大処理を行い、拡大画像Jの画素値Jsを求める。
【0033】
【数3】

【0034】
拡大処理を示す式(3A)(3B)は、補間前の拡大された縮小平滑化画像Iの補間したい注目画素sの周りの範囲Ω1の画素について適用される。例えば、参照画素pの位置範囲Ω1は、拡大補間したい画像(縮小平滑化画像I)において注目画素sの周囲に対応する4×4画素が拡大されたものである(図4の画像における斜線で示した領域)。
【0035】
画素値Jsを求める際に使用される各参照画素pに対する重み付け係数は、f(p-s)・g(Ip-Ls)/k(s)であり、各参照画素の画素値Ipと注目画素に対応する入力画像の画素値Lsとの差Ip-Lsおよび、注目画素sと各参照画素pの距離‖p-s‖に基づいて設定される。
【0036】
図4は、エッジ保存拡大部32の機能ブロック図である。拡大部40は、縮小平滑化画像Iを縮小前の輝度画像Lのサイズへと拡大する。
【0037】
第一計算部41は、補間前の拡大された縮小平滑化画像Iにおいて、注目画素s(補間すべき画素)と参照画素pとの距離‖p-s‖を計算し、距離‖p-s‖から第一関数fを計算する。参照画素pは、縮小平滑化画像Iの4×4画素が拡大された画素の集合(範囲Ω1)から順に選択される。なお、本実施形態では第一関数fとして、片側ガウス関数曲線(点線)を2点で屈曲する折れ線で近似した折れ線近似関数(実線)を用いている。これにより、片側ガウス関数を用いる場合に比べて第1関数fの計算処理を高速化することができる。
【0038】
第二計算部42は、補間前の拡大された縮小平滑化画像Iの参照画素pの画素値Ipと、輝度画像Lにおいて注目画素sの位置に対応する画素の画素値Lsとの画素値差|Ip-Ls|を計算し、画素値差|Ip-Ls|から第二関数gを計算する。なお、本実施形態では第二関数gとして、片側ガウス関数曲線(点線)を2点で屈曲する折れ線で近似した折れ線近似関数(実線)を用いている。これにより、片側ガウス関数を用いる場合に比べて第2関数gの計算処理を大幅に高速化することができる。
【0039】
第一乗算部43は、第一関数fと第二関数gを乗算して積f・gを求める。第二乗算部44は、積f・gに画素値Ipを乗算して積f・g・Ipを求める。
【0040】
第一合計部45は、範囲Ω1のすべての参照画素pについてf・gを合計して、Σf・g(=k(s))を計算する。第二合計部46は、範囲Ω1のすべての参照画素pについてf・g・Ipを合計して、Σf・g・Ipを計算する。画素値算出部47は、Σf・g・Ip をk(s)で除算して、拡大画像Jの画素値Jsを求める。エッジ保存拡大部32は、補間する対象である注目画素sを順次変えることにより、拡大画像Jを求める。
【0041】
なお、画像処理装置1が入力された単色(モノクロ)画像に対して、階調補正処理とテクスチャ補正処理を行う場合、輝度生成部10は不要となる。
【0042】
−作用効果−
本実施形態による画像処理装置1は、縮小部30によって生成された縮小画像にエッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化部31を有する。画像処理装置1は、さらに、縮小画像平滑化部31によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大して画像Jを生成するエッジ保存拡大部32とを備える。エッジ保存拡大部32は、縮小画像平滑化部31によって生成された画像Iを拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行う。また、エッジ保存拡大部32は、各参照画素の画素値の重み付け加算(式(3A))に基づいてフィルタ処理の対象となる注目画素sの画素値Jsを決定する。エッジ保存拡大部は、各参照画素pの画素値Ipに対する重み付け係数f(p-s)・g(Ip-Ls)/k(s)を、注目画素sに対応する入力画像の画素値Lsと各参照画素の画素値Ipとの差(Ip-Ls)および、注目画素sと各参照画素pの距離‖p-s‖に基づいて設定する。
【0043】
これにより、少ない演算量で、階調補正結果にハローアーティファクトが発生しないような照明光成分画像Jをエッジ保存拡大部32の出力として生成することができる。本実施形態では、非特許文献3の技術と比べて、照明光成分画像を生成する演算量が減少し、補正処理全体の演算速度が4.6倍程度に向上する。画像処理装置の回路規模も、非特許文献3の技術と比べて小さくなる。
【0044】
[第二実施形態]
第二実施形態において、エッジ保存平滑化部20のエッジ保存拡大部の構成が第一実施形態とは異なる。他の構成は、第一実施形態と同じである。
【0045】
第二実施形態において、エッジ保存拡大部50は、式(4A)(4B)で表わされる補間を用いて、エッジを保存した拡大処理を行い、拡大画像Jの画素値Jsを求める。
【0046】
【数4】

【0047】
パラメータαは、係数の合計値k(s)が小さくなるに従って大きくなる。例えば、合計値k(s)が閾値threshより小さい場合に、パラメータαは、閾値threshと合計値k(s)との差である。合計値k(s)が閾値threshより大きい場合に、パラメータαはゼロになる。αLsの項により、係数の合計値k(s)が小さくなるに従って、拡大画像Jの画素値Jsに入力輝度画像Lの画素の画素値Lsが大きく混合する。
【0048】
図5は、第二実施形態のエッジ保存拡大部50の機能ブロック図である。第二実施形態のエッジ保存拡大部50は、第一実施形態のエッジ保存拡大部32の各部40―46に、パラメータ算出部51、第一加算部52、第三乗算部53、第二加算部54、画素値算出部55を追加したものである。
【0049】
パラメータ算出部51は、閾値threshと第一合計部45が求めた合計値k(s)との差に基づいて、パラメータαを算出する。第一加算部52は、合計値k(s)とパラメータαとの和α+k(s)を算出する。第三乗算部53は、パラメータαと画素値Lsとの積αLsを算出する。第二加算部54は、積αLsと第二合計部46が求めたΣf・g・Ipとの和(Σf・g・Ip+αLs)を求める。画素値算出部55は、和(Σf・g・Ip+αLs)を和α+k(s)で除算して、拡大画像Jの画素値Jsを求める。
【0050】
次に、第二実施形態の作用効果を説明する。第一実施形態のエッジ保存平滑化部20が生成したエッジ保存平滑化画像(拡大画像J)を使って階調補正部21が階調補正処理を行った場合、図6(a)のように、階調補正された画像において、やや斜めで明暗の差が大きいエッジ部分に、エッジ部分に沿った濃淡の繰り返しが発生する可能性がある。これは、エッジ部分において、輝度画像Lの画素値Lsと参照画素の画素値Ipと差が小さくなるような参照画素pが少なくなるためである。即ち、拡大処理における補間(式(3A))において、画素値に関する全ての係数g(Ip-Ls)が同じように小さくなるため、各画素による係数g(Ip-Ls)の変化がなくなることが原因である。
【0051】
そこで、第二実施形態において、エッジ保存拡大部50は、重み付け係数f(p-s)・g(Ip-Ls)/(α+k(s))を、各参照画素の画素値Ipと注目画素に対応する入力画像の画素値Lsの画素値との差(Ip-Ls)に応じて定めた係数値f・gに比例するように設定する。さらに、エッジ保存拡大部50は、係数値f・gの合計k(s)が小さくなるに従って、注目画素に対応する入力画像の画素値Lsを注目画素の画素値に大きく混合させる。これにより、図6(b)のようにエッジ部分に沿った濃淡の繰り返しが防止できる。
【0052】
[第三実施形態]
第三実施形態において、エッジ保存平滑化部20の縮小画像平滑化部31の構成が第一実施形態とは異なる。他の構成は、第一実施形態と同じである。
【0053】
第三実施形態において、第一実施形態に加えてさらにエッジ保存平滑化部20の演算量が低減される。縮小画像平滑化部31は式(5A)(5B)で示したようなバイラテラルフィルタで処理を行える。
【0054】
【数5】

【0055】
ここで、sは注目画素(即ち、フィルタ処理の対象画素)、Ωはフィルタ範囲を示す。k(s)は注目画素sでのフィルタ結果の正規化値、即ちフィルタ範囲の各参照画素pの係数f・gの合計値を示す。また、第一関数fと第二関数gは、各参照画素pの係数値を計算するための関数である。第一関数fは、注目画素sと参照画素pの間の距離‖p-s‖に依存する係数値を与え、第二関数gは、縮小画像Mの注目画素sの画素値Msと参照画素pの画素値Mpの差に依存する係数値を与える。第一関数fと第二関数gは、通常、それぞれ標準偏差σの異なるガウス関数であり、エッジ保存拡大部32で使用するものとも異なる。
【0056】
しかし、乗算は、加算などと比べて演算コストが高いため、より少ないほうが好ましい。このため、エッジ保存平滑化部20の縮小画像平滑化部31は、距離‖p-s‖に依存する係数値fの乗算を省略して、縮小画像Mをエッジ保存平滑化する。
【0057】
仮に、バイラテラルフィルタが適用されると仮定すると、バイラテラルフィルタの各参照画素に対する係数fは、注目画素sと参照画素pとの距離rによって決まる関数f(r)となる。この際、注目画素sから距離rの位置にある参照画素pの係数の合計は2πr・f(r)である(即ちr・f(r) に比例する)。
【0058】
従って、注目画素sを中心とする円周上の参照画素pの単位面積当たりの密度が、距離rに応じてf(r)となるように調整されれば、距離(半径)rの円周上の参照画素pの係数の合計はr・f(r)に比例する。このように参照画素pの密度を調整することは、注目画素sからの距離rによって決まる係数f(r)を掛けることと同じ効果があると考えられる。
【0059】
第三実施形態において、バイラテラルフィルタを適用するには、注目画素sからの距離による係数fを使用する代わりに、注目画素sからの距離rに応じて参照画素pの密度に粗密を設けて、粗密のある参照が行われる。そして、画素値の差による係数gのみについて式(6A)(6B)の計算をすれば良い。
【0060】
【数6】

【0061】
具体的には、図7の斜線で示すように、参照画素pの位置範囲Ω2は、例えば、参照範囲が縦横±8画素の範囲である場合には、注目画素sを中心に45°間隔で8方向のみ、更に、x、y方向で4画素間隔の画素位置でよい。この場合、図8のように、注目画素sからの距離rと参照画素pの密度の関係は、ガウス関数に近くなるため、位置範囲Ω2を図7のように設定することは、fをガウス関数に設定することと等価となる。例えば、距離rの参照画素pの密度は、図8においては、画素の同心円の間の隣接する中間線61の間に位置する距離rの参照画素の個数を、中間線61の間の面積Sで除算して求めることができる。実際の画像に対して第三実施形態のエッジ保存平滑化処理を行うと、第一実施形態と同様の結果が得られる。
【0062】
第三実施形態において、縮小画像平滑化部31は、縮小画像Mの注目画素(フィルタ処理の対象画素)sの周囲の参照画素pの密度を、注目画素sからの距離r(=‖p-s‖)に応じて変化させる。縮小画像平滑化部31は、重み付け係数g(Mp-Ms)/k(s)を、縮小画像Mの注目画素(対象画素)sの画素値と各参照画素の画素値との差Mp-Msに基づいて設定する。このため、掛算を減らす効果のほかに、更に参照画素数を減らせる効果があるため、照明光成分(即ち、縮小画像平滑化部31からの画像I)を得るための演算量がさらに低減できる。
【0063】
[その他の実施形態]
上述した各実施形態の説明では、画像処理装置が行う処理としてハードウェアによる処理を前提としていたが、このような構成に限定される必要はない。例えば、別途ソフトウェアにて処理する構成も可能である。この場合、画像処理装置は、コンピュータに相当し、CPU、RAM等の主記憶装置と、上記処理の全て或いは一部を実現させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体とを備えている。ここでは、このプログラムを画像処理プログラムと呼ぶ。そして、CPUが上記記憶媒体に記憶されている画像処理プログラムを読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、上述の画像処理部と同様の処理を実現させる。
【0064】
ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、この画像処理プログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該画像処理プログラムを実行するようにしても良い。
【0065】
図9(a)−(c)は、画像処理装置(コンピュータ)が実行するプログラムを示す。図9(a)は、画像処理のメインルーチンを示す。図9(b)は、補正処理のサブルーチンを示す。図9(c)は、エッジ保存平滑化処理のサブルーチンを示す。図9(a)のステップS10―S13で行われる処理は、それぞれ、図1の各部10−13が行う処理に対応する。図9(b)のステップS20―S24で行われる処理は、それぞれ、図2の各部20−24が行う処理に対応する。図9(c)のステップS30―S32で行われる処理は、それぞれ、図3の各部30−32が行う処理に対応する。
【0066】
本発明は上記の各実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【符号の説明】
【0067】
10 輝度画像生成部(輝度画像生成手段)
11 補正処理部(補正処理手段)
12 ゲイン生成部(ゲイン生成手段)
13 ゲイン適用部(ゲイン適用手段)
20 エッジ保存平滑化部(エッジ保存平滑化手段)
21 階調補正部(階調補正手段)
22 テクスチャ成分生成部(テクスチャ成分生成手段)
23 テクスチャ補正部(テクスチャ成分生成手段)
24 合成処理部(合成処理手段)
30 縮小部(縮小手段)
31 縮小画像平滑化部(縮小画像平滑化手段)
32 エッジ保存拡大部(エッジ保存拡大手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジ保存平滑化を行う画像処理装置であって、
入力画像を縮小する縮小手段と、
前記縮小手段によって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化手段と、
前記縮小画像平滑化手段によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大手段とを備え、
前記エッジ保存拡大手段は、前記縮小画像平滑化手段によって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、
前記エッジ保存拡大手段は、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記エッジ保存拡大手段は、前記重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と各参照画素の画素値との差に応じて定めた係数値に比例するように設定し、
前記エッジ保存拡大手段は、前記係数値の合計が小さくなるに従って、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値を前記注目画素の画素値に大きく混合させることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記縮小画像平滑化手段は、前記縮小画像に対して重み付け加算に基づくフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理の対象画素の周囲の参照画素の密度を、前記対象画素からの距離に応じて変化させ、
前記縮小画像平滑化手段は、重み付け係数を、前記縮小画像の前記対象画像の画素値と各参照画素の画素値との差に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の画像処理装置を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項5】
エッジ保存平滑化を行う画像処理方法であって、
入力画像を縮小する縮小ステップと、
前記縮小ステップによって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化ステップと、
前記縮小画像平滑化ステップによって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大ステップとを含み、
前記エッジ保存拡大ステップは、前記縮小画像平滑化ステップによって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、
前記エッジ保存拡大ステップは、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項6】
エッジ保存平滑化を行う画像処理プログラムであって、
入力画像を縮小する縮小手順と、
前記縮小手順によって生成された縮小画像に、エッジを保存した状態で平滑化処理を施す縮小画像平滑化手順と、
前記縮小画像平滑化手順によって生成された画像を、エッジを保存した状態で拡大するエッジ保存拡大手順とを、コンピュータに実行させ、
前記エッジ保存拡大手順は、前記縮小画像平滑化手順によって生成された画像を拡大する際に、画素の補間を伴うフィルタ処理を行い、各参照画素の画素値の重み付け加算に基づいて前記フィルタ処理の対象となる注目画素の画素値を決定し、
前記エッジ保存拡大手順は、各参照画素の画素値に対する重み付け係数を、前記注目画素に対応する前記入力画像の画素値と前記各参照画素の画素値との差、及び、拡大後の前記注目画素と各参照画素の距離に基づいて設定することを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−85182(P2012−85182A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230949(P2010−230949)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】