説明

画像化方法

本発明は、検査対象、特に患者(P)の画像化検査方法に関する。この方法において、まず検査対象に造影剤(KM)が投与される。その後にX線減弱値の少なくとも2つの空間分布が求められ、それらのX線減弱値はそれぞれ局部的X線減弱係数(μ(x,y))またはこれと線形関係にある量(C)であり、2つの空間分布は、少なくとも、第1のX線スペクトルに基づいて求められた第1の減弱値分布(μ1(x,y))と、第1のX線スペクトルとは異なる第2のX線スペクトルに基づいて求められた第2の減弱値分布(μ2(x,y))とを含む。その後両減弱値分布の評価により、1つ又は複数の予め定められた原子番号値(Z;Z1,Z2,・・・)の空間分布または検査対象内に予め存在する予め定められていない原子番号値の空間分布(Z(x,y))が求められ、この空間分布は検査対象に投与された造影剤(KM)の分布に関する情報を含んでいる。空間的原子番号分布は画像内での造影剤(KM)の表示に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療目的については特に患者である検査対象の画像化検査方法に関する。この方法は、特に断層撮影法の枠内での適用に、または断層撮影能力のある画像化検査装置、例えばX線コンピュータ断層撮影装置での適用に適している。
【0002】
造影剤は、例えば独国特許出願公開第4433564号明細書、国際公開第00/16811号パンフレット、独国特許第10002939号明細書から公知である。
【0003】
例えばコンピュータ断層撮影法、乳房撮影法、血管撮影法、X線検査あるいは同等の方法の如きX線撮影法の結果は、X線源からX線検出器へ至るX線経路に沿ったX線減弱の表示(投影画像)である。この減弱はX線経路に沿った照射された媒質もしくは材料によってひき起こされるので、減弱はX線経路に沿った全てのピクセルの減弱係数を介する線積分として理解することもできる。特に断層撮影法、例えばX線コンピュータ断層撮影法においては、いわゆる再構成法により、投影された減弱データから個々のピクセルの減弱係数(μ)へ逆算し、それにより投影画像の単なる評価におけるよりも著しく感度のよい検査を達成することが可能である。
【0004】
減弱分布の表示のために、減弱係数の代わりに一般に水の減弱係数で正規化された値いわゆるCT値が使用される。これは、測定によって求められた実際の減弱係数μと基準減弱係数μH2Oとから次式に従って算出される。
C=1000×(μ−μH2O)/μH2O [HU] (1)
CT値Cの単位はハンスフィールド[HU]である。水については値CH2O=0HUが生じ、空気については値CL=−1000HUが生じる。
【0005】
両表示は相互に変換可能もしくは等価であるので、以下において、一般的に選ばれた用語「減弱値」または「減弱係数」は減弱係数μならびにCT値を意味する。更に、この発明の説明の事柄関係において用語「材料」および「組織」は交換可能に使用される。医療上の検査の関連における材料とは解剖学的な組織であり、逆に材料検査および安全性検査における組織とは検査対象の任意の材料であると解釈すべきである。
【0006】
局部的な減弱係数(μ)に基づく画像の表現力が明らかに高められているにもかかわらず、個々のケースでは画像観察時に問題が存在する。つまり、局部的に高められた減弱値は、例えば骨格におけるカルシウムまたは造影剤におけるヨウ素のように高い原子番号の材料に起因するか又は例えば肺結節におけるように高められた軟部密度に起因している。位置r→における局部的な減弱係数μは、エネルギーおよび材料に依存する質量減弱係数
【数1】

および(有効)原子番号Zをともなう次の方程式に従って、組織もしくは材料に入射したX線エネルギーEおよび局部的な組織密度もしくは材料密度ρに依存する。
【数2】

【0007】
従って、有効原子番号Zによって決まるような材料のエネルギーに依存したX線吸収が材料密度ρによって影響されたX線吸収に重なる。従って、化学的にも物理学的にも異なる組成の材料もしくは組織がX線画像において同一の減弱値を有し得る。裏を返せば、逆にX線撮影の減弱値から検査対象の材料組成を推論することはできない。
【0008】
この問題の解決のためには、材料特有の値を表示するための方法が必要である。コンピュータ支援の断層撮影法との関連で、互いに異なるX線スペクトルまたはX線量子エネルギーを画像作成に使用することは、例えば米国特許第4247774号明細書により公知である。この種の方法は一般に2スペクトルCTと呼ばれる。これは減弱係数μの原子番号に基づくエネルギー依存性を利用する、すなわち高い原子番号の材料および組織が低エネルギーのX線を低い原子番号の材料および組織よりも明らかに強く吸収するという作用に基づいている。これに対して高いX線エネルギーの場合には減弱値は一様化し、おおむね材料密度の関数である。2スペクトルCTでは、例えば異なるX線管電圧で撮影された画像の差異が算出される。
【0009】
本説明の関連では、用語「原子番号」は、ほかに指定しない限り、厳密に元素に関連付けた意味で使用しているのではなく、組織もしくは材料の構造に関係した元素の化学的な原子番号および原子量から算出される組織または材料の有効原子番号を意味する。
【0010】
例えばW.Kalender氏らが、「“Materialselektive Bildgebung und Dichtemessung mit der Zwei−Spektren−Methode,I.Grundlagen und Metodik(2スペクトル法を用いた材料選択的画像化および密度測定、I.基礎および方法論)”,W.Kalender,W.Bautz,D.Felsenberg,C.Suess,E.Klotz,Digit.Bilddiagn.7,1987,66−77,ゲオルク ティーメ 出版社」において記述しているように、付加的にいわゆる基礎材料分析方法がX線撮影に適用される場合に、更に特殊な方法が提案されている。この方法では、検査対象のX線減弱値が低エネルギーおよび高エネルギーのX線により測定され、得られた値が、例えば(骨格材料のための)カルシウムおよび(軟部組織のための)水のような2つの基礎材料の相応の基準値と比較される。各測定値が両基礎材料の測定値の線形的な重ね合わせであることが仮定される。例えば、検査対象の画像表示の各エレメントについて基礎材料の値との比較から骨格成分および軟組織成分が算出されるので、元の撮影が骨格材料および軟部組織という両基礎材料の表示へ変換される結果となる。
【0011】
従って、基礎材料分析法もしくは2スペクトル法は、強く異なる原子番号を有する人間および動物の組織における予め定まった解剖学的構造または材料種類の分析もしくは識別に適している。
【0012】
独国特許出願第10143131号明細書から、基礎材料分析よりも優れた感度および表現力を有する方法が知られており、これは例えば高い表現力の機能的なCT画像化を可能にする。これは、X線装置のスペクトル的に影響を受けている測定データの評価から平均密度ρ(r→)および有効原子番号Z(r→)の空間分布の算出を可能にする。これに関しては、特に検査対象の化学的および物理学的な組成に関して、非常に良好なコントラストが得られる。例えば、組織における原子番号の分布の表示が、とりわけ検査対象の生化学的な組成の認識、今まで密度を一様に表示された器官における化学的構造に基づくコントラスト、ヨウ素等のような身体構成部分の定量的検出および原子番号に基づく石灰化のセグメント化を可能にする。
【0013】
本発明の課題は、材料または原子番号に依存したX線に基づく画像化における感度改善および表現力向上のための新たな可能性をもたらす方法を提供することにある。
【0014】
この課題は、本発明によれば、
a)検査対象に造影剤が投与され、
b)その後にX線減弱値の少なくとも2つの空間分布が求められ、それらのX線減弱値はそれぞれ局部的なX線減弱係数(μ(x,y))またはこれと線形関係にある量(C)であり、2つの空間分布は、少なくとも、
・第1のX線スペクトルに基づいて求められた第1の減弱値分布と、
・第1のX線スペクトルとは異なる第2のX線スペクトルに基づいて求められた第2の減弱値分布と
を含み、
c)両減弱値分布の評価により、1つ又は複数の予め定められた原子番号値(Z;Z1,Z2,・・・)の空間分布または検査対象内に予め存在する予め定められていない原子番号値の空間分布(Z(x,y))が求められ、この空間分布は検査対象に投与された造影剤の分布に関する情報を含み、
d)空間的原子番号分布は造影剤の画像化表示に使用される
ことを特徴とする検査対象、特に患者の画像化検査方法によって解決される。
【0015】
本発明は、造影剤の使用がX線コンピュータ断層撮影における機能的画像化の改善を可能にするという考えに基づいている。造影剤は、これまで、吸収時に例えば血液をその組織背景の前へ浮き上がらせるためにだけ使用されてきた。材料または組織の選択的評価は行なわれなかった。更に、本発明は、とりわけ、障りのない投与量または濃度での造影剤の投与によって2つの異なるX線スペクトルにより測定可能な原子番号差を得ることができるという認識に基づいている。
【0016】
本発明による方法では、造影剤の原子番号を予め定めることができる。本方法は、特に冒頭に述べた如き基礎材料分析法と組み合わせることができる。
【0017】
好ましくは、空間的原子番号分布は2次元または3次元の領域として求められ、それぞれの領域値は当該領域によって代表される位置における局部的原子番号値である。本方法は、特に冒頭に述べた如き独国特許出願第10143131号明細書の方法と組み合わせることができる。この独国出願の開示内容、特にそこにおける請求項1乃至7は、本出願に明確に取り込むことができる。
【0018】
更に、好ましくは、原子番号分布に付加して、それぞれ1つの局部的密度値を再現する領域値を有する他の2次元または3次元の領域が求められる。
【0019】
画像化のために空間的原子番号分布を使用することは、例えば、造影剤の原子番号の値を例えば含む定められた原子番号間隔からのデータのみを、または定められた原子番号限界値の向こう側からのデータのみを表示する画像が表示されることによって行なうことができる。測定された原子番号値をグレースケールまたカラースケールに変換することも可能であり、造影剤の原子番号の値が際立たせられるか又は着色されるだけでよい。このスケールで画像化して表示することができる。この種の画像には、通常の機能的ではない減弱画像が上または下に重ね合わされるとよい。
【0020】
特に有利な実施態様によれば、原子番号値を有する求められた領域および密度値を有する求められた領域が、造影剤の局部的濃度または局部的量を算出するために使用される。
【0021】
造影剤とは、本発明との関係では、検査対象への投与後、特に患者への注入後に吸収時における、すなわちX線画像におけるコントラスト改善もしくはコントラスト増強をもたらすあらゆる薬剤であると解釈すべきである。これには、例えばパフュージョン測定時に血管内に、画像中の血管を強調するために投与されるような通常の造影剤も含まれる。しかし、「造影剤」とは、固有にまたは選択的に、例えば鍵−錠の原理に従って検査対象内の特定の個所に沈着または集積し、それによって器官機能の検査を可能にする薬剤でもあると理解される。このような最後に述べた薬剤はいわゆるマーカーまたはトレーサであり得る。かかるマーカーは、例えば、検査すべき目標構造に対する高い親和性を持った生物学的な高分子、例えば抗体、ペプチドまたは糖分子と、X線画像において良く視認可能である例えば投与された造影剤とから構成される。高分子は、例えばいわゆる「物質代謝標識」として役立ち、全体として物質代謝標識とも呼ばれる造影剤を専ら特定の領域、例えば腫瘍、炎症あるいは他の特定の病巣に集積させる。造影剤は例えば冒頭において挙げたに特許文献から公知である。
【0022】
好ましくは、20よりも大きいまたは40よりも大きい原子番号を有する造影剤が使用される。造影剤は特に83よりも小さいまたは70よりも小さい原子番号を有する。
【0023】
特に好ましい造影剤は、ガドリニウム、ヨウ素、イッテルビウム、ジスプロシウム、鉄および/またはビスマスを含んでいる。
【0024】
他の有利な実施態様によれば、造影剤は有機化合物、特に脂肪族炭化水素、例えば糖、および/またはアミノ酸またはペプチドを含んでいる。
【0025】
造影剤は、検査対象の定められた個所または定められた組織部分に選択的に沈着するように形成されているとよい。
【0026】
有利な実施態様では、造影剤は、範囲10-4〜10-7、特に範囲10-5〜10-6からなる重量濃度で投与される。
【0027】
この明細書の関係において使用された用語「X線スペクトル」は、装置のX線源から放射されたX線のスペクトル分布のみよりも広義の意味を有する。X線検出器の側でもX線の異なるスペクトル成分が異なる効率で変換され、それにより種々に重み付けされることがある。その結果生じる有効なスペクトル分布がこの明細書では同様にX線スペクトルと呼ばれる。
【0028】
両減弱値分布は必ずしも相前後して2つ画像として異なる管電圧で撮影されなければならないというわけではない。どんなX線管も或る幅を持ったスペクトルを放射するので、受信ユニットが相応にスペクトル選択性に構成されていれば、両減弱値分布を十分にまたは完全に同時に撮影することも可能である。このために、例えばX線経路内に閉鎖可能なフィルタおよび/または2つの別々に存在するX線検出器アレイを使用することもできる。
【0029】
特に、本方法を実施するための受信ユニットは量子エネルギー選択性のX線検出器アレイを装備している。
【0030】
特に冒頭に述べた独国特許出願第10143131号明細書に記載された方法の使用に関しては、第1の減弱値分布における第1の減弱値と密度および原子番号との第1の関数関係、および、第2の減弱値分布において第1の減弱値に対応した第2の減弱値と密度および原子番号との第2の関数関係が求められ、第1の関数関係と第2の関数関係および場合によっては他の関数関係との比較から、空間的原子番号分布が求められ、さらに任意選択的に空間的密度分布が求められると有利である。
【0031】
少なくとも1つのX線スペクトルについて減弱値と密度および原子番号との関数関係を決定することは、較正試料における基準測定により、または物理学的モデルに基づくシミュレーションの形で行なわれる。
【0032】
他の好ましい実施態様によれば、第1の減弱値分布および他の減弱値分布の対応する各減弱値について減弱値分布を密度分布および原子番号分布へ変換することは、密度および原子番号のための値対の検出に基づいて、その値対が第1のX線スペクトルおよび少なくとも1つの他のX線スペクトルについてX線吸収と密度および原子番号との定められた関数関係を満足するように行なわれる。それにより、1つの画素のための密度および原子番号を、記録されたX線吸収値分布の互いに対応するX線吸収値の関数関係の交点量として簡単に算出することができる。
【0033】
原子番号の決定において高い分解能が得られるように、第1のX線スペクトルが、第2のX線スペクトルの量子エネルギーに対して相対的にX線吸収を光効果によって促進する量子エネルギーを有すると好ましい。
【0034】
本発明の有利な実施態様では、検査対象を記録するためのX線スペクトルを変化させるために、X線管の少なくとも1つの動作パラメータが変えられ、その場合にX線源は第1の動作状態において第1のX線スペクトルを放射し、第2の動作状態において第1のX線スペクトルとは異なる第2のX線スペクトルを放射するので、2つのX線スペクトル間の高速の交代が可能になる。
【0035】
更に、検査対象を記録するためのX線スペクトルを変化させるために、検出器特性を変化させると好ましい。X線検出器はX線源から受信したX線のスペクトル部分範囲を互いに独立した電気信号に変換し、異なるX線スペクトルにおけるX線吸収の分布の同時記録を可能にする
【0036】
以下において本発明を次の図を参照しながら実施例に基づいて更に詳細に説明する。
図1は一実施例により本発明による方法のフローチャートを示し、
図2は等吸収線に基づいて異なる組成の材料における同一の減弱値μの実現性を示し、
図3aは図1による方法の一部として等吸収線を求めるための算出方法について模範的動作のフローチャートを示し、
図3bは図1による方法の一部としてX線減弱値を材料密度および原子番号の値へ変換するための模範的な流れ図を示し、
図4は2つの異なるX線スペクトルにおける組織種類の2つの等吸収線を示す。
【0037】
図1には本発明による方法の実施例がフローチャートとして示されている。第1ステップ1において患者Pにトレーサまたは造影剤KMが例えば血管への注入によってまたは飲み込みによって投与される。その後患者Pは、概略的に示されているX線コンピュータ断層撮影装置2において、第1のX線スペクトルS1の評価のもとに並びにこれと同時のまたは後続した第2のX線スペクトルS2の評価のもとに検査される(第2ステップ3)。両スペクトルはX線コンピュータ断層撮影装置2の相応の設定によって選択される。このようにして得られた生データに基づく画像再構成の実行(第3ステップ5)により、各X線スペクトルS1,S2に対して、例えば座標x,yを有する横断面断層画像内における(線形の)X線減弱係数μの分布μ1(x,y)もしくはμ2(x,y)として減弱値分布が作成される。第4ステップ7において、コンピュータ支援にて、X線減弱係数の分布μ1(x,y)もしくはμ2(x,y)の原子番号分布Z(x,y)への変換が行なわれる。原子番号分布Z(x,y)は第5ステップ8において造影剤KMの分布をモニタ9へ表示するために利用される。
【0038】
106の水分子に対して1つのGd原子(約9ppm重量成分)を有するGdを基にしたトレーサの模範的な注入から始めた場合、有効原子番号Z=7.52が生じる。この濃度は、水の場合の値Z=7.42と対比させて、図3a,3bによる方法にて検出可能である。図3a,3bによる方法は第4ステップ7の一部として構成することができる。この方法の詳細は、明確に関連する独国特許出願第10143131号明細書に記載されている。
【0039】
同時に密度分布ρ(x,y)を求める場合、例えば水のような既知の担体媒質であるならばトレーサ物質の濃度を定量的に求めることができる。
【0040】
造影剤KMの原子番号は、典型的にはZ=7.42を持つ水である基礎材料の原子番号とできるだけ大きな偏差を持たせるべきである。
【0041】
図3a,3bによる方法に対する代替として、横断面(x,y)における2つ以上の前もって決定された原子番号値Z1,Z2,・・・の空間分布を求めるために、冒頭に述べた如き従来の基礎材料分析も使用することができる。このような分布は同様に画像内での造影剤KMの表示に使用することができる。
【0042】
図3a,3bによる方法の説明に関して、最初に次の説明をしておく。図2の等吸収線11は全ての値対(ρ,Z)を、定められたX線スペクトルにおいて同一の減弱値μもしくはCと結びつける。図2の表示は、組織もしくは材料の種類および組成に関する情報がX線画像の減弱値だけに基づいては導き出せないことを示す。
【0043】
X線は、異なる材料によって、且つX線のエネルギーに依存して、異なる強さで減弱される。これは異なる材料における異なる減弱メカニズムに起因する。
【0044】
この説明の関連において原子番号と略称する特定の組織種類の有効原子番号Zは、構造に関与している元素の原子番号Zi、その原子量Aiおよびその局部的な材料等価の密度ρiから、例えば
【数3】

で算出される。
【0045】
純粋なカルシウムについてはZCA=20、水素化カルシウムについては約ZCaH2≒16.04、水については約ZH2O≒7.428が得られる。従って、対象の化学的組成あるいは生化学的組成が原子番号を介して非常に良好に検出可能である。
【0046】
検査領域における原子番号分布および密度分布の算出のための前提は、その領域に関して撮影ジオメトリが同一であるがしかし適用されたX線の異なるエネルギーで作成された少なくとも2つのX線撮影である。異なるX線エネルギーで記録された2つよりも多いX線撮影を使用するならば、Z分解能およびρ分解能を改善することができるが、やはりそれによってX線負担が増大する。従って、患者検査の場合この可能性はいつでも与えられるというわけではない。
【0047】
減弱値に基づく画像データを原子番号および材料密度もしくは組織密度の分布画像へ変換する出発点はX線装置の各X線スペクトルに対する等吸収線の知識である。既に述べたように、X線スペクトルとは、装置のX線源から放射されたX線のスペクトル分布の狭義にとらえた概念ではなく、むしろX線検出器の側においてX線管の放射スペクトルの異なるスペクトル範囲の異なる重み付けを考慮した広義の概念であると解釈すべきである。従って、測定された減弱値はX線管から放射されたX線スペクトルの直接の減弱と使用されたX線検出器のスペクトル効率とから生じる。両値は装置特有の量であり、直接的又は間接的に較正試料の減弱値により求められる。これらは等吸収線の算出の基礎である。
【0048】
図3aには一群の等吸収線のモデル化もしくは算出のための3つの方法300、すなわち理論的モデル化、実験的決定、および実験的に決定されたパラメータによる曲線の較正をともなう理論的モデル化が概略的に示されている。
【0049】
原理的には、X線撮影においてX線減弱の期間をカバーするために必要である減弱値と同じ多さの等吸収線を求めることができる。その場合に理論上発生する各減弱値について等吸収線を算出する必要はない。算出されなかった等吸収線は必要であれば補間または他の適切な平均化法によって使用することができる。
【0050】
理論的モデル化の基本ステップは図3aのフローチャートの左分枝に示されている。まずステップS302においてパラメータとして使用可能な管電圧を有する装置特有のX線放射スペクトルS(E)のデータが読み取られる。このために、X線のスペクトル分布は前段階において実験的に各個別X線装置について測定されるか、あるいは特殊なX線源タイプに特徴的なデータが使用される。検出器装置関数w(E)の検出がステップS303において行なわれる。このためにも、前段階において検出器装置の正確な測定が行なわれるか、あるいはしかし、例えばスペクトルの技術仕様書のような検出器タイプに特徴的なデータが使用される。曲線群Ci(ρ,Z)もしくはμi(ρ,Z)の形での等吸収線の算出が物理学的モデルに基づいてステップS304において行なわれる。この物理学的モデルは、S(E),w(E)の各重要な組み合わせについて、X線減弱Ciもしくはμiを、異なる原子番号を有する材料に対しておよび異なる材料密度において模擬する。
【0051】
ステップS302〜S304の理論的モデル化に対する代替として、等吸収線の曲線群を実験的に求めることもできる。このためにステップS305において異なる密度および平均原子番号を有する較正材料のX線減弱がX線装置にてS(E),w(E)の異なる重要な組み合わせで測定される。これらの測定値は、ステップS306における等吸収線の曲線群Ciもしくはμiの次の算出のための拠点をなす。
【0052】
他の代替として、理論的基礎のもとでモデル化された曲線群Ciもしくはμiを実験的に求められたX線減弱値で較正することができる。ステップS307において、理論的曲線群の較正に必要な減弱値が、ステップS305について上述したように、適切な較正材料もしくはファントムを用いてX線装置にて測定される。ステップS302〜S304の純粋な理論的モデル化と違って、この方法の場合には、X線放射スペクトルS(E),w(E)の正確な知識が前提ではなく、ステップS308において等吸収線の曲線群Ciもしくはμiの理論的モデル化のパラメータが前提である。ステップS309における曲線較正は、ステップS307において実験的に求められた較正値を用いて、結局、X線装置のX線放射スペクトルおよび検出器装置関数にとって特有であるこれらのパラメータに対する値を定める。
【0053】
必要なX線減弱値およびS(E),w(E)の組み合わせについて等吸収線を求めることにより、組織通過時におけるX線の減弱値を表わす画像データを、対応する組織における原子番号もしくは材料密度の分布を表わす画像データへ変換するための前提が作り出されている。
【0054】
課題設定に応じて等吸収線決定のための3つの方法を混合して使用することもできる。例えば実験的に不正確にしか求められない、又は大きな費用でしか求められない、あるいは全く求めることができない値が、理論的モデル化により補充される、あるいは正確に規定される。異なる方法で推定されたデータがステップS310において統一のあるデータセットに統合され、ステップS311において画像変換のために準備される。
【0055】
図3bには本発明による方法に適した変換方法320が示されている。この方法は、前もって説明した方法300の1つに基づいて求められてデータセットとしてステップS321において準備された等吸収線の曲線群に基づいている。
【0056】
変換は画素ごとに行なわれる。以下においては、異なるX線スペクトルでしかし同一の撮影ジオメトリで撮影された2つのX線画像に基づくX線減弱値分布の変換から出発する。これは本発明による変換を実施するための最小限の前提条件である。しかしながら、2つよりも多い異なるX線エネルギー分布において2つよりも多いX線撮影を使用することもできる。
【0057】
変換すべき1つの画素の選択がステップS322において行なわれ、次のステップS323においてこの画素のための減弱値C1もしくはμ1が第1のX線画像から読み取られ、C2もしくはμ2が第2のX線画像から読み取られる。続くステップS324において、第1のX線撮影のために使用されたX線スペクトルS1(E)および検出器装置関数w1(E)並びに第2のX線画像のための対応する値S2(E),w2(E)が照会される。これらの値は、それぞれの減弱値に割り付けられた等吸収線の次の選択のためのパラメータを形成する。この場合に、スペクトル分布Si(E)もしくはwi(E)は、間接的にも、例えば使用された管電圧U1もしくはU2ないしはX線検出器の動作パラメータの照会を介して求めることができる。
【0058】
ステップS325において、ステップS321において準備されている等吸収線のデータセットから、パラメータS1(E),w1(E)において条件C1もしくはμ1を満足する第1の曲線と、パラメータS2(E),w2(E)において条件C2もしくはμ2を満足する第2の曲線とが選択される。このようにして得られた第1の等吸収線11および第2の等吸収線41の例が図4に示されている。
【0059】
両曲線11,41の交差量としての交点42がステップS326において算出される。曲線交点42は例えば局部的線形変換法または反復式交点検出法によって求められる。両曲線11,41は同じ画素について、従って被検査組織の同じ部分範囲について2つの異なる減弱値を表わすので、両減弱値は同じ材料種類もしくは組織種類によって生じさせられなければならない。従って、曲線交点42の座標(ρ,Z)は画素を割り当てられるべき組織部分範囲の材料密度および原子番号を再現する。
【0060】
最後に、ステップS327において、このようにして求められた原子番号値Zが原子番号分布に相応の画素値として書き込まれ、ステップS328において、同様に、求められた材料密度値ρが密度分布に書き込まれる。ステップS322〜S328は、残りの全ての画素に対して、最終的な画像出力がステップS329において行なわれるまで繰り返される。この場合にステップS324は飛ばしてもよい。なぜならばスペクトル分布Si(E)もしくはwi(E)は1つの画像における全ての画素について同一であるからである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による方法の実施例を示す流れ図
【図2】異なる組成の材料における同一の減弱値μの出現を説明するための等吸収線を示すダイアグラム
【図3a】図1による方法の一部として等吸収線を求めるための算出方法について示す模範的動作のフローチャート
【図3b】図1による方法の一部としてX線減弱値を材料密度および原子番号の値へ変換するための模範的な流れ図
【図4】2つの異なるX線スペクトルにおける1つの組織種類の2つの等吸収線を示すダイアグラム
【符号の説明】
【0062】
1 第1ステップ
2 X線コンピュータ断層撮影装置
3 第2ステップ
5 第3ステップ
7 第4ステップ
8 第5ステップ
9 モニタ
11 等吸収線
41 等吸収線
42 交点
Z 有効原子番号
ρ 密度
KM 造影剤
S1 X線スペクトル
S2 X線スペクトル
μ1(x,y) X線減弱係数分布
μ2(x,y) X線減弱係数分布
Z(x,y) 原子番号分布
KM(x,y) 造影剤分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)検査対象に造影剤(KM)が投与され、
b)その後にX線減弱値の少なくとも2つの空間分布(μ1(x,y),μ2(x,y))が求められ、それらのX線減弱値はそれぞれ局部的なX線減弱係数(μ(x,y))またはこれと線形関係にある量(C)であり、2つの空間分布(μ1(x,y),μ2(x,y))は、少なくとも、
・第1のX線スペクトルに基づいて求められた第1の減弱値分布(μ1(x,y))と、
・第1のX線スペクトルとは異なる第2のX線スペクトルに基づいて求められた第2の減弱値分布(μ2(x,y))と
を含み、
c)両減弱値分布(μ1(x,y),μ2(x,y))の評価により、1つ又は複数の予め定められた原子番号値(Z;Z1,Z2,・・・)の空間分布または検査対象内に予め存在する予め定められていない原子番号値の空間分布(Z(x,y))が求められ、この空間分布は検査対象に投与された造影剤(KM)の分布に関する情報を含み、
d)空間的原子番号分布(Z(x,y))は造影剤(KM)の画像化表示に使用される
ことを特徴とする検査対象、特に患者(P)の画像化検査方法。
【請求項2】
造影剤(KM)の原子番号が予め定められていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
空間的原子番号分布が2次元または3次元の領域として求められ、それぞれの領域値が当該領域によって代表される位置(x,y)における局部的原子番号値(Z(x,y))であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
原子番号分布に付加して、それぞれ1つの局部的密度値(ρ(x,y))を再現する領域値を有する他の2次元または3次元の領域が求められることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
原子番号値(Z(x,y))を有する求められた領域および密度値(ρ(x,y))を有する求められた領域は、造影剤の局部的濃度または局部的量を算出するために使用されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
20よりも大きい原子番号を有する造影剤(KM)が使用されることを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載の方法。
【請求項7】
40よりも大きい原子番号を有する造影剤(KM)が使用されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
83よりも小さい、特に70よりも小さい原子番号を有する造影剤(KM)が使用されることを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載の方法。
【請求項9】
造影剤(KM)は、ガドリニウム、ヨウ素、イッテルビウム、ジスプロシウム、鉄および/またはビスマスを含んでいることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の方法。
【請求項10】
造影剤(KM)は、有機化合物、特に脂肪族炭化水素、例えば糖を含んでいることを特徴とする請求項1乃至9の1つに記載の方法。
【請求項11】
造影剤(KM)は、アミノ酸またはペプチドを含んでいることを特徴とする請求項1乃至10の1つに記載の方法。
【請求項12】
造影剤(KM)は、検査対象の定められた個所または定められた組織部分に選択的に沈着するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至11の1つに記載の方法。
【請求項13】
造影剤(KM)は、範囲10-4〜10-7、特に範囲10-5〜10-6からなる重量濃度で投与されることを特徴とする請求項1乃至12の1つに記載の方法。
【請求項14】
第1の減弱値分布における第1の減弱値と密度および原子番号との第1の関数関係(11)、および、第2の減弱値分布において第1の減弱値に対応した第2の減弱値と密度および原子番号との第2の関数関係(41)が求められ、
第1の関数関係(11)と第2の関数関係(41)および場合によっては他の関数関係との比較から、空間的原子番号分布が求められ、さらに任意選択的に空間的密度分布が求められることを特徴とする請求項1乃至13の1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−520223(P2006−520223A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504507(P2006−504507)
【出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002094
【国際公開番号】WO2004/080308
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】