説明

画像形成方法及び荷電粒子線装置

【課題】ドリフトが生じやすい試料であっても、輪郭の明瞭さが安定した試料像を得ることができる画像形成方法及びその方法を用いる荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】画像形成方法は、試料Sをラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程と、第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程と、第1の数値化工程で得られた第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M1から、明瞭さの閾値Msを設定する閾値設定工程と、試料Sをエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2が閾値Msを満たしているか判定する判定工程と、判定工程の結果に基づいて、画像を選択して記憶する記憶工程とを備えるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を試料に照射し、試料からの二次信号を検出する荷電粒子線装置に用いる画像形成方法及び荷電粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡等に代表される荷電粒子線装置では、細く収束された荷電粒子線を試料上に走査しながら照射し、試料から放出される二次電子等を検出することにより、試料像等の情報を得ている。
このような荷電粒子線装置は、昨今の半導体デバイスの高集積化や細密化にともない、高分解能化や、高倍率化が要求されている。
しかし、走査型電子顕微鏡等の荷電粒子線装置では、試料に荷電粒子線を当てるために、時間の経過とともに試料がチャージアップし、荷電粒子線と試料との位置関係が変化して、試料像のドリフトが生じやすくなる。このようなドリフトは、高倍率で観察する状況においては特に試料像に対して大きな影響を与えることが知られている。
【0003】
図8は、ドリフトが試料像に及ぼす影響を説明する図である。図8(a)は、試料を示す斜視図であり、図8(b)は、理想的な試料像を示す図である。図8(c)は、一般的なラインスキャンによる試料像を示す図であり、図8(d)は、一般的なエリアスキャンによる試料像を示す図である。図8(b)から(d)は、図8(a)に示す領域51を撮像した場合の試料像である。
図8(a)に示すように、試料50は、下地部50b上に、凸状のパタン部50aが形成されている。このパタン部50aは、図8(b)に示すように、試料像としては、上下方向にまっすぐ延在する形状及び明瞭な輪郭線を得ることが望ましい。
【0004】
しかし、ラインスキャンで撮像した場合、試料のチャージアップによりドリフトが発生すると、明瞭な輪郭は得られるが試料像の変形が生じやすい。そのため、試料50のパタン部50aのように、ライン状等のパタンを有する試料においては、図8(c)に示すように、パタン部50aの輪郭は明瞭であるが、パタン部50aの形状が斜めになる等の変形した試料像となる。このような試料像を用いてパタン部50aの寸法を測長しようとすると、変形のために正確な寸法が得難いという問題があった。
また、エリアスキャンで撮像した場合、試料のチャージアップによりドリフトが発生すると、試料像の変形は生じないが輪郭線のぼけが生じやすい。そのため、図8(d)に示すように、パタン部50aは変形していないが、パタン部50aの輪郭像がぼやけてしまい、正確な測長が行えないという問題があった。
【0005】
このようなチャージアップ等によるドリフトの影響を抑制した試料像を得る方法及びその装置として、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1の試料像形成方法及び荷電粒子線装置は、エリアスキャンによって撮像を行い、複数回の走査で得られる複数の画像を合成し、次にそのような合成画像を複数形成し、各合成画像間の位置ずれを補正して画像を合成してさらに合成画像を形成することにより、試料像を得る点を特徴としている。
【特許文献1】国際公開第03/044821号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の試料像形成方法では、同じ試料であっても撮像時期によって試料像のドリフト量が変化するため、撮像時期によって輪郭の明瞭さが大きく異なる。そのため、得られる試料像の輪郭の明瞭さがばらつき、再現性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、ドリフトが生じやすい試料であっても、輪郭の明瞭さが安定した試料像を得ることができる荷電粒子線装置の画像形成方法及びその方法を用いる荷電粒子線装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1の発明は、荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、試料(S)をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程(S501)と、前記第1の撮像工程の後に、前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程(S502)と、前記第1の数値化工程で得られた前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値から、明瞭さの閾値(Ms)を設定する閾値設定工程(S503)と、前記試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程(S504)と、前記第2の撮像工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程(S505)と、前記第2の数値化工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値(M2)を、前記閾値を基準として評価する評価工程(S509)と、前記評価工程の結果を表示する表示工程(S510)と、を備える画像形成方法である。
【0009】
請求項2の発明は、荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、試料(S)をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程(S101,S201,S301)と、前記第1の撮像工程の後に、前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程(S102,S202,S302)と、前記第1の数値化工程で得られた前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値(M1)から、明瞭さの閾値(Ms)を設定する閾値設定工程(S103,S203,S303)と、前記試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程(S104,S204,S304)と、前記第2の撮像工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程(S105,S205,S305)と、前記第2の数値化工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値(M2)が前記閾値を満たしているか否かを判定する判定工程(S106,S206,S306)と、前記判定工程の結果に基づいて、第2の画像データを選択して記憶する記憶工程(S107,S208,S307)と、を備える画像形成方法である。
請求項3の発明は、請求項2に記載の画像形成方法において、前記判定工程(S106,S306)において前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値(M2)が前記閾値(Ms)を満たすまで、前記第2の撮像工程(S104,S304)から前記判定工程(S106,S306)までを繰り返すこと、を特徴とする画像形成方法である。
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3に記載の画像形成方法において、前記第2の撮像工程(S104)を行う上限回数は、予め設定されていること、を特徴とする画像形成方法である。
請求項5の発明は、請求項2に記載の画像形成方法において、前記判定工程(S206)において前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値(M2)が前記閾値(Ms)を満たした場合にも、前記第2の撮像工程(S204)から前記判定工程(S206)までを設定された回数繰り返すこと、を特徴とする画像形成方法である。
【0010】
請求項6の発明は、請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、前記第1の数値化工程(S102,S202,S302)及び前記第2の数値化工程(S105,S205,S305)では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの一次微分の絶対値の最大値を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、を特徴とする画像形成方法である。
請求項7の発明は、請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、前記第1の数値化工程及び前記第2の数値化工程では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、を特徴とする画像形成方法である。
請求項8の発明は、請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、前記第1の数値化工程及び前記第2の数値化工程では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて設定された設定値を満たすラインプロファイルの幅を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、を特徴とする画像形成方法である。
【0011】
請求項9の発明は、荷電粒子線(C1)を試料(S)上に照射する電子銃部(11)と、前記試料上の前記荷電粒子線が照射された領域から放出される二次信号(C2)を検出する検出部(18)と、検出された前記二次信号に基づいて画像を形成する画像形成部(24)と、前記画像形成部からの出力を表示する表示部(25)と、を備える荷電粒子線装置であって、前記画像形成部は、試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値(Ms)を設定し、前記試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、前記閾値を基準として評価し、前記表示部は、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さの数値を、前記閾値を基準として評価した評価結果を表示すること、を特徴とする荷電粒子線装置(1)である。
請求項10の発明は、荷電粒子線(C1)を試料(S)上に照射する電子銃部(11)と、前記試料上の前記荷電粒子線が照射された領域から放出される二次信号(C2)を検出する検出部(18)と、検出された前記二次信号に基づいて画像を形成する画像形成部(24)と、を備える荷電粒子線装置であって、前記画像形成部は、試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値(Ms)を設定し、前記試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、前記閾値を満たすか否かを判定し、前記判定の結果に基づいて第2の画像データを選択し、記憶部(27)に記憶させること、を特徴とする荷電粒子線装置(1)である。
【0012】
請求項11の発明は、荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、試料(S)をエリアスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程(S104)と、前記撮像工程の後に、前記画像データの輪郭の明瞭さを数値化する数値化工程(S105)と、前記数値化工程の後に、前記画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とすでに記憶されている画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とを比較し、前記画像データの輪郭の明瞭さを表す数値がより明瞭であるか否かを判定する判定工程(S106)と、前記撮像工程から前記判定工程までを設定された回数繰り返す工程と、を備える画像形成方法である。
【0013】
請求項12の発明は、荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、試料をラインスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程(S401)と、前記撮像工程の後に、前記画像データのドリフト量を数値化する数値化工程と、前記ドリフト量が所定値以下であるか否かを判定する判定工程(S402)と、前記判定工程の結果に基づいて、前記画像データを選択して記憶する記憶工程(S412)と、を備える画像形成方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明による画像形成方法は、試料をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程と、第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程と、第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値から、明瞭さの閾値を設定する閾値設定工程と、試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値を、閾値を基準として評価する評価工程と、評価工程の結果を表示する表示工程とを備えるので、表示される評価結果をもとに第2の画像データを選択でき、像の変形が無く、輪郭が一定レベルの明瞭さを有する画像を、撮像時期に依らず安定して得ることができる。
【0015】
(2)本発明による画像形成方法は、試料をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程と、第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程と、第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値から、明瞭さの閾値を設定する閾値設定工程と、試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程と、第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が閾値を満たしているか否かを判定する判定工程と、判定工程の結果に基づいて、第2の画像データを選択して記憶する記憶工程とを備えるので、像の変形が無く、輪郭が一定レベルの明瞭さを有する画像を、撮像時期に依らず安定して得ることができる。
【0016】
(3)判定工程において第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が閾値を満たすまで、第2の撮像工程から判定工程までを繰り返すので、一定レベルの明瞭さを有する画像を確実に得ることができる。
(4)第2の撮像工程を行う上限回数は、予め設定されているので、撮像にかかる時間を制限することができる。
(5)判定工程において第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が閾値を満たした場合にも、第2の撮像工程から判定工程までを設定された回数繰り返すので、より明瞭な画像を得ることができる。
【0017】
(6)第1の数値化工程及び第2の数値化工程では、第1の画像データ及び第2の画像データのラインプロファイルの一次微分の絶対値の最大値を用いて、輪郭の明瞭さを数値化するので、画像の明瞭さを簡単に数値化することができる。
(7)第1の数値化工程及び第2の数値化工程では、第1の画像データ及び第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて、輪郭の明瞭さを数値化するので、画像の明瞭さをより簡単に数値化することができる。
(8)第1の数値化工程及び第2の数値化工程では、第1の画像データ及び第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて設定された設定値を満たすラインプロファイルの幅(つまり輪郭に関わる明部の幅)を用いて、輪郭の明瞭さを数値化するので、画像の明瞭さを簡単に数値化することができる。
【0018】
(9)本発明による荷電粒子線装置は、画像形成部が、試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値を設定し、試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、閾値を基準として評価し、表示部にその評価結果を表示するので、表示される評価結果を参照して第2の画像データを選択することができ、像の変形が無く、輪郭が一定レベルの明瞭さを有する画像を、撮像時期に依らず安定して得ることができる。
【0019】
(10)本発明による荷電粒子線装置は、画像形成部が、試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値を設定し、試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、閾値を満たすか否かを判定し、判定の結果に基づいて第2の画像データを選択し、記憶部に記憶させるので、像の変形が無く、輪郭が一定レベルの明瞭さを有する画像を、撮像時期に依らず安定して得ることができる。
【0020】
(11)本発明の画像形成方法は、試料をエリアスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程と、画像データの輪郭の明瞭さを数値化する数値化工程と、画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とすでに記憶されている画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とを比較し、画像データの輪郭の明瞭さを表す数値がより明瞭であるか否かを判定する判定工程と、撮像工程から判定工程までを設定された回数繰り返す工程とを備えるので、設定された輪郭の明瞭さの閾値(例えば、ラインスキャンによって撮像された画像の明瞭さに基づく閾値)に画像の輪郭の明瞭さが達しない場合でも、撮像工程から判定工程までを設定された回数繰り返すことにより、最も明瞭な輪郭を有するエリアスキャン画像を得ることができる。
【0021】
(12)本発明の画像形成方法は、試料をラインスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程と、撮像工程の後に、その画像データのドリフト量(パタンの曲がり)を数値化する数値化工程と、そのドリフト量が所定値以下であるか否かを判定する判定工程と、判定工程の結果に基づいて、画像データを選択して記憶する記憶工程とを備えるので、試料をラインスキャンによって撮像して得た画像に対し、ドリフト量が所定値以下であるか否かを判定し、所定値以下であればその画像を採用して記憶する。従って、ドリフト量の少ない試料に対しては、電子線によるダメージを低減できるとともに、試料の画像形成にかかる時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明による画像形成方法及び荷電粒子線装置の実施形態を、添付の図面等を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の各実施形態では、荷電粒子線装置の実施形態として、走査型電子顕微鏡を例に挙げて説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の走査型電子顕微鏡1を説明する図である。なお、図1は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。
第1実施形態の走査型電子顕微鏡1は、電子銃部11、鏡筒部12、ステージ部16、排気部17、検出部18、電子線制御部21、信号処理部22、CPU(中央処理装置)23、画像形成部24、表示部25、入出力部26、メモリ27等を備えた荷電粒子線装置である。
【0023】
電子銃部11は、電子線C1を放出する部分であり、陰極11aと陽極11bとを有する。
鏡筒部12は、電子線C1の進行方向において、電子銃部11側から、収束レンズ13、走査コイル14、対物レンズ15を備えている。収束レンズ13及び対物レンズ15には、試料S上に電子線C1を収束する機能を有している。走査コイル14は、電子線C1を試料S上の所定の領域に走査させるために、電子線C1を偏向させる機能を有する。
陰極11a、陽極11b、収束レンズ13、走査コイル14、対物レンズ15は、電子線制御部21に接続されている。この電子線制御部21は、CPU23からの指示により、陰極11a、走査コイル14等を制御する回路である。
ステージ部16は、試料Sを配置するステージである。
排気部17は、ステージ部16及び試料Sが配置された空間を真空状態とする機能を有する。
【0024】
検出部18は、電子線C1が試料Sに当たることにより試料Sから放出される二次電子C2を検出する機能を有する。
信号処理部22は、検出部18で検出された二次電子を、所定の信号に変換、増幅等を行う。
画像形成部24は、信号処理部22で処理された二次電子の情報に対して、スムージング処理等の各種処理を行い、画像として形成する。
また、画像形成部24は、検出された二次電子の情報から形成された画像データに基づいて、ラインプロファイル等を形成する機能等を有している。このラインプロファイルは、例えば、電子線C1を走査して得られた試料の画像データに含まれる輝度情報等に基づいて生成される曲線(つまりライン上の輝度情報の集合)である(図3(c)参照)。
【0025】
表示部25は、画像データを輝度信号に変換して表示する部分であり、例えば、ブラウン管等が用いられる。また、表示部25に表示される画像スキャン量と走査コイル14の電子線C1に対する偏向量とは、CPU23により制御されている。
入出力部26は、CPU23に対して、指示を入力したり、得られた画像データを出力したりする機能を有する。
メモリ27は、画像データ等を記憶する部分である。
【0026】
走査型電子顕微鏡1では、CPU23からの指示によって電子線制御部21が、陰極11aと陽極11bとの間に所定の電圧を付与することにより、電子線C1が陰極11aから放出されて所定の速度まで加速され、電子銃部11から放出される。
電子銃部11から放出された電子線C1は、収束レンズ13及び対物レンズ15により試料Sに微小スポットとして照射され、電子線制御部21に接続された走査コイル14により、試料S上を所定の2次元方向(撮像領域の上下方向及び左右方向)に走査する。
電子線C1の照射によって試料Sから放出された二次電子C2は、検出部18によって検出され、その信号が信号処理部22によって増幅、A/D変換等の処理が施され、CPU23の画像形成部24によって画像として形成され、表示部25に表示される。
メモリ27は、CPU23の指示に基づいて所定の画像データを記憶し、保存する。
【0027】
図2は、第1実施形態の走査型電子顕微鏡1の画像形成方法を説明する図である。
本実施形態の走査型電子顕微鏡1では、一例として、画像サイズ1024×1024ピクセルの画像を撮像可能であるとする。
(a)第1ステップ(S101)は、CPU23が、ラインスキャンによって試料を撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程である。予めラインスキャンの積算(ライン積算)の回数が設定されており、本実施形態では積算回数が32回となっている。
撮像された試料Sの画像データ(第1の画像データ)は、信号処理部22によってA/D変換され、所定の処理が施された後に、CPU23の画像形成部24へと送られる。
【0028】
(b)第2ステップ(S102)は、画像形成部24が、第1ステップ(S101)でラインスキャンによって得られた試料の第1の画像データから、ラインプロファイルを形成し、このラインプロファイルに基づいて、第1の画像データの明瞭さを数値化する第1の数値化工程である。
図3は、ラインプロファイル及びその一次微分を説明する図である。図3(a)は、試料Sの断面図であり、図3(b)は、撮像された試料Sの画像データの試料像を示す図である。図3(c)は、図3(b)に示す直線A−Aに沿って電子線C1を照射した場合に得られるラインプロファイルであり、図3(d)は、図3(c)に示したラインプロファイルの一次微分である。
図3に示すように、試料Sの凸部は、凹部に比べて輝度が若干高く、凸部の輪郭部分は、さらに輝度が高く、白い線として観察される(図3(a),(b)参照)。
第2ステップ(S102)では、画像形成部24が、第1の画像データから、試料像の輪郭部分を含む任意の領域を設定(例えば画像の対象領域をボックスで囲んで指定)し、試料像の輪郭部分(エッジ部分)のラインプロファイルを作成し、そのラインプロファイルを一次微分する。そして、ラインプロファイルの一次微分の絶対値の最大値を、第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M1とする。
【0029】
図4は、画像データの明瞭さとラインプロファイル及びラインプロファイルの一次微分との関係を示す図である。図4(a)は、明瞭な画像データの例を示し、図4(b)は、ぼけが生じた画像データの例を示す。また、図4(a)及び(b)で、上側の曲線は、ラインプロファイルを示し、下側の曲線はラインプロファイルの一次微分を示している。
図4に示すように、ラインプロファイルは、試料像の輪郭が明瞭である場合には、試料像がぼけている場合に比べ、最大値が大きい。
ラインプロファイルの一次微分は、図4(a),(b)に示す輝度値のラインプロファイルの一次微分の波形のMa部と、Mb部を比較して判るように、試料像の輪郭部分の明暗差が大きい部分ほど絶対値の最大値が大きくなり、輪郭が明瞭であるほど明瞭さを表す数値が大きくなる。従って、ラインプロファイルの一次微分は、試料像の輪郭が明瞭である場合には、像がぼけている場合に比べて、絶対値の最大値、すなわち明瞭さを表す数値が大きくなる。
この第2のステップ(S102)で得られた第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M1は、ラインスキャンによって撮像された試料像の輪郭の明瞭さ、すなわち、理想的な輪郭の明瞭さを表す数値である。
【0030】
(c)図2に戻って、第3ステップ(S103)は、画像形成部24が、第2ステップ(S102)で得られた第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M1から、輪郭の明瞭さの閾値を設定する閾値設定工程である。
例えば、第2ステップ(S102)で得られた第1の画像データの輪郭の明瞭さに対して80%を満たせば採用するという設定とすれば、数値M1を0.8倍した数値が閾値Msとなる。閾値Msを、理想の輪郭の明瞭さを表す数値M1に対して何倍とするかは、予め適宜設定できるものとする。
【0031】
(d)第4ステップ(S104)は、CPU23が、エリアスキャンによって試料を撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程である。エリアスキャンの積算(フレーム積算)の回数は、予め設定可能であり、本実施形態では、第1の撮像工程のラインスキャンと同様に、積算回数が32回となっている。
第4ステップ(S104)で得られた第2の画像データは、画像形成部24へ送られる。
【0032】
(e)第5ステップ(S105)は、画像形成部24が、第4ステップ(S014)でエリアスキャンによって得られた第2の画像データから、ラインプロファイルを作成し、このラインプロファイルに基づいて、第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程である。
ここでは、第4ステップ(S104)で得られた第2の画像データの輪郭部分から、第2ステップ(S102)で行ったように、ラインプロファイルを生成し、その一次微分の絶対値の最大値を求めて、これを第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2とする。
【0033】
(f)第6ステップ(S106)では、画像形成部24は、第5ステップ(S105)で得られた第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2が、第3ステップ(S103)で設定した閾値Msを満たしているか否かを判定する判定工程を行う。
本実施形態では、閾値Msは、第1の画像データの明瞭さを表す数値M1の80%であると設定しているので、第2の画像データの明瞭さを表す数値M2が、M2≧Ms(Ms=M1×0.8)を満たすか否かを判定する。
第2の画像データの明瞭さを表す数値M2が、閾値Ms以上であれば、第7ステップ(S107)に進み、閾値Ms未満であれば、第8ステップ(S108)へ進む。
【0034】
(g)第7ステップ(S107)は、画像形成部24が、明瞭さを表す数値M2が閾値Ms以上となった第2の画像データを選択し、メモリ27が、選択された第2の画像データを記憶する記憶工程である。
画像形成部24は、第2の画像データをメモリ27に記憶した後に、試料の画像形成に関する工程を終了する。必要であれば、メモリ27に記憶された第2の画像データの試料像から測長等を行ってもよい。
【0035】
(h)第8ステップ(S108)は、画像形成部24が、第6ステップ(S106)で閾値Msを満たさないと判定された第2の画像データが、今までに撮像した試料の第2の画像データの中で最も明瞭か否かを判定する工程である。
例えば、上述の第4ステップ(S104)でのエリアスキャンによる撮像が1回目であったならば、今回の第2の画像データを最も明瞭であると判定する。
また、上述の第4ステップ(S104)でのエリアスキャンによる撮像が2回目以上であれば、そのときメモリ27に保存されている以前の第2の画像データの明瞭さを表す数値M2aと、今回第4ステップ(S104)で撮像された第2の画像データの明瞭さを表す数値M2bとを比較し、より明瞭な方(本実施形態では、明瞭さを表す数値が大きい方)を、最も輪郭が明瞭であると判定する。
今回撮像された第2の画像データが、今までに撮像した試料の第2の画像データの中で最も明瞭であると判定された場合は、第9ステップ(S109)へ進み、最も明瞭でないと判定された場合には、第10ステップ(S110)に進む。
【0036】
(i)第9ステップ(S109)は、画像形成部24が、第8ステップ(S108)で最も明瞭であると判定された第2の画像データを選択し、選択された第2の画像データをメモリ27が記憶する工程である。
ここで、メモリ27に記憶された第2の画像データは、次回以降の第8ステップ(S108)での判定に使用される。
また、第9ステップ(S109)が2回目以降である場合には、それ以前に、最も明瞭であるとして記憶されていた以前の第2の画像データは破棄され、新たに最も明瞭であると判定された第2の画像データがメモリ27に記憶される。
【0037】
(j)第10ステップ(S110)は、画像形成部24が、第4ステップ(S104)でのエリアスキャンによる撮像が、予め設定された上限回数に達しているか否かを判断する工程である。
第4ステップ(S104)でのエリアスキャンによる撮像が、上限回数に達した場合は、画像形成を終了する。また、第4ステップ(S104)でのエリアスキャンによる撮像が、上限回数に達していない場合は、第4ステップ(S104)に戻り、再びエリアスキャンによる撮像を行い、得られた画像データの輪郭の明瞭さが閾値を満たしているか否かを判定する等、第4ステップ(S104)から第10ステップ(S110)を繰り返す。
なお、閾値Msを満たす第2の画像データが得られていないが、第10ステップ(S110)で予め設定された上限回数に達していると判定された場合は、所定の回数撮像された第2の画像データの中で最も明瞭な第2の画像データが、メモリ27に記憶された状態となる。
【0038】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ラインスキャンによって得られた第1の画像データから試料像の輪郭の明瞭さの閾値Msを設定し、エリアスキャンによって得られた第2の画像データの試料像の輪郭の明瞭さを表す数値M2が閾値Msを満たしているか否か判定し、閾値Msを満たした第2の画像データを記憶するので、メモリ27に記憶される試料Sの画像データの明瞭さが安定したものとなり、撮像時期やドリフト量等に左右されず、所望するレベルの明瞭さを有する画像データを得ることができる。
しかも、画像形成部24によって、輪郭の明瞭さを表す数値が閾値を満たすか否かを判定して記憶される第2の画像データが選択されるので、オペレータが不在であっても、一定レベルの明瞭さを有する画像データを自動的に得ることができる。ゆえに、走査型電子顕微鏡1の無人の自動運転等が可能となり、作業効率を向上させることができる。
【0039】
(2)メモリ27に記憶される第2の画像データは、エリアスキャンで撮像されたものであるので、ドリフトが生じた場合にも試料像のドリフトによる変形が少ない。しかも、第2の画像データは、ラインスキャンによる第1の画像データから設定された閾値を満たす場合に記憶されるので、一定レベルの明瞭さを有する画像を、撮像時期やドリフト量に関係なく安定して得ることができる。従って、形状や寸法等がより正確な試料像を得ることができる。
これにより、得られた試料像を用いて試料の寸法等を測長する場合には、測長精度が向上する。
【0040】
(3)第2の画像データの明瞭さを表す数値M2が、閾値Msを満たすと判定されると、その第2の画像データがメモリ27に記憶され、エリアスキャンによる撮像が上限回数に達していなくても、画像形成を終了するので、より短時間で明瞭な画像データを得ることができる。
【0041】
(4)第4ステップ(S104)から第10ステップ(S110)までを設定された回数繰り返したが、第6ステップ(S106)において第2の画像データの明瞭さを表す数値が閾値Msを満たさない場合、メモリ27には、閾値Msに最も近い数値M2を有する第2の画像データが記憶されているので、閾値Msを満たす第2の画像データが得られない場合でもその中で最も試料像の輪郭が明瞭な第2の画像データを得ることができる。
【0042】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の走査型顕微鏡の画像形成方法を説明する図である。
第2実施形態の走査型電子顕微鏡は、画像形成方法が一部異なる点以外は、第1実施形態に示した走査型電子顕微鏡1と略同様の形態である。従って、第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
第2実施形態の走査型電子顕微鏡の画像形成方法は、第1ステップ(S201)から第11ステップ(S211)を有している。
第2実施形態の画像形成方法は、第1ステップ(S201)から第6ステップ(S206)及び第9ステップ(S209)から第11ステップ(S211)は、第1実施形態に示した第1ステップ(S101)から第6ステップ(S106)及び第8ステップ(S108)から第10ステップ(S210)までと同様の処理を行う。
【0043】
第2実施形態の画像形成方法の第7ステップ(S207)では、画像形成部24が、第6ステップ(S206)で閾値Msを満たしていると判定した第2の画像データに対して、閾値Msを満たす第2の画像データの中で最も明瞭か否かを判定する。
ここで、第7ステップ(S207)が1回目であるならば、その第2の画像データを最も明瞭であると選択し、第8ステップ(S208)に進み、メモリ27がその第2の画像データを記憶する。
第7ステップ(S207)が2回目以降であるならば、以前の第7ステップ(S207)で最も明瞭と判定され、メモリ27に記憶された以前の第2の画像データと明瞭さを比較する。
【0044】
今回の第2の画像データが、以前の第2の画像データより明瞭であると判定された場合には、今回の第2の画像データが選択され、第8ステップ(S208)に進む。第8ステップ(S208)では、メモリ27が、今回の第2の画像データを記憶し、第11ステップ(S211)へ進む。
また、今回の第2の画像データが、前回の第2の画像データより明瞭でないと判定された場合には、今回の第2の画像データは破棄され、第11ステップ(S211)へ進む。
そして、第11ステップ(S211)では、第4ステップ(S204)で行ったエリアスキャンによる撮像が上限回数に達しているか否かを判定する。
上述のように、本実施形態では、閾値Msを満たす第2の画像データが得られた場合にも、予め設定されたエリアスキャンによる撮像の上限回数に達するまで、エリアスキャンによる撮像及び閾値の判定等、第4ステップ(S104)から第10ステップ(S210)までを繰り返す。
【0045】
よって、例えば、閾値Msを、ラインスキャンによる輪郭の明瞭さを表す数値M1の80%と設定した場合に、1回目の第4ステップ(S204)で明瞭さを表す数値M2が閾値の82%となる第2の画像データが得られたとしても、上限回数まで第4ステップ(S204)から第11ステップ(S211)までを繰り返すことにより、より明瞭な第2の画像データ(例えば、明瞭さを表す数値M2が、閾値Msを満たし、数値M1の89%や96%等となる第2の画像データ)を得られる可能性がある。
従って、本実施形態によれば、より明瞭な試料像を得ることができる。
【0046】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の走査型顕微鏡の画像形成方法を説明する図である。
第3実施形態の走査型電子顕微鏡は、画像形成方法が一部異なる点以外は、第1実施形態に示した走査型電子顕微鏡1と略同様の形態である。従って、第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
第3実施形態の走査型電子顕微鏡の画像形成方法は、第1ステップ(S301)から第7ステップ(S307)を有している。
第3実施形態の画像形成方法の第1ステップ(S301)から第5ステップ(S305)までは、第1実施形態の第1ステップ(S101)から第5ステップ(S105)までに相当する。
【0047】
第3実施形態の第6ステップ(S306)は、画像形成部24が、第4ステップ(S304)においてエリアスキャンで撮像された第2の画像データの明瞭さを表す数値M2が、第3ステップ(S303)で生成された閾値Msを満たすか否か判定する判定工程である。数値M2が閾値Ms以上である場合には、第7ステップ(S307)に進み、メモリ27が、その第2の画像データを記憶する。数値M2が閾値Ms未満である場合には、第4ステップ(S304)へ戻り、第4ステップ(S304)から第6ステップ(S306)を繰り返す。
【0048】
本実施形態では、第4ステップ(S304)で行うエリアスキャンによる撮像の上限回数が定められていない。そのため、閾値Msを満たす明瞭さを有する第2の画像データが得られるまで、第4ステップ(S304)から第6ステップ(S306)を繰り返し行う。
従って、閾値Msを満たすような輪郭の明瞭さを有する第2の画像データを確実に得ることができる。
なお、第3実施形態においては閾値Msを満たす輪郭の明瞭さを有する第2の画像データが得られない場合は画像形成を永久に続け、不都合であるという問題がある。この問題に関しては、例えば、タイマーで画像形成に関わる時間を計り、所定の時間が経過した時点で画像形成を終了し、次のサンプルの画像形成に進むように設定することにより解決することができる。
【0049】
(変形形態)
以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の範囲内である。
(1)各実施形態において、第1のステップではラインスキャンによる撮像を行い、第1の画像データを得た後に、第2ステップで第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する例を示したが、この第1ステップと第2ステップとの間に、ドリフトによって第1の画像データの試料像が変形しているか否かを判定する工程を有していてもよい。
図7は、画像形成方法の変形形態を示す図である。
図7に示す変形形態の画像形成方法は、第1ステップ(S401)から第12ステップ(S412)までを有している。なお、一例として、第1実施形態に示した画像形成方法の変形形態を示すが、第2実施形態及び第3実施形態においても適宜適用可能である。
【0050】
変形形態の第1ステップ(S401)、第3ステップ(S403)から第11ステップ(S411)は、第1実施形態に示した第1ステップ(S101)、第2ステップ(102)から第10ステップ(S110)と同様の工程である。
変形形態の第2ステップ(S402)では、画像形成部24が、第1ステップ(S401)で得られた第1の画像データの試料像に、ドリフトによる変形が生じていないか判断する。
試料像にドリフトによる変形(本来垂直方向に走る直線と観察されるべき試料が、斜めに傾く等のパタンの曲がり)が生じていない場合(すなわち、ドリフト量が所定値以下である場合)には、第12ステップ(S412)へ進み、メモリ27が第1の画像データを記憶して終了する。また、試料像に変形が生じている場合(すなわち、ドリフト量が所定値より大きい場合)には、第3ステップ(S403)に進み、画像形成部24は、第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する。
【0051】
以降は第1実施形態で説明した第3のステップ(S103)から第10のステップ(S110)に対応した第4のステップ(S404)から第11のステップ(S411)までを、条件がみたされるまで繰り返し実行して画像を形成し、画像データをメモリ27に記憶する。この結果ドリフト量に左右されず、所望するレベルの明瞭さを有する画像データを得ることができる。
なお、この第1の画像データの試料像がドリフトにより変形しているか否かの判定は、例えば、特開2002−222633号公報の記載にあるような、像の変形具合からドリフト量を測定する方法を使用し、ドリフト量の許容量を予め設定することにより、判断可能である。
【0052】
変形形態では、第1ステップ(S401)で得られたラインスキャンによる第1の画像データの試料像がドリフトによって変形していない場合には、その画像を採用してメモリ27に保存することが可能である。
よって、試料の画像形成にかかる時間を短縮することができ、かつ、より明瞭な試料像を得ることができる。
【0053】
(2)各実施形態において、画像形成方法は、画像形成部24が第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2が閾値Msを満たしているか否かを判定するステップを有しているが、これに限らず、数値M2を閾値Msによって評価し、その評価結果を表示部に出力する形態としてもよい。
図9は、画像形成方法の変形形態を示す図である。
図9に示す変形形態の画像形成方法は、第1ステップ(S501)から第10ステップ(S510)までを有しており、第1実施形態の第6ステップ(S106)が省かれ、第1実施形態にはない第9ステップ(S509)及び第10ステップ(S510)を有している点以外は、第1実施形態と略同様のステップを有している。
図9に示す画像形成方法において、第1ステップ(S501)から第5ステップ(S505)までは、第1実施形態の第1ステップ(S501)から第5ステップ(S105)までの各ステップに対応し、第6ステップ(S506)、第7ステップ(S507)、第8ステップ(S508)は、それぞれ第1実施の形態の第8ステップ(S108)、第9ステップ(S109)、第10ステップ(S110)にそれぞれ対応している。
【0054】
図9に示す画像形成方法では、第4ステップ(S504)から第8ステップ(S508)までを所定の上限回数繰り返す。このとき、第6ステップ(S506)において、エリアスキャンによって試料Sを撮像して得た第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2を、それ以前に撮像された第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2と比較し、より数値M2の大きい画像(すなわち、より明瞭な画像)を選択し、第7ステップ(S507)において、メモリ27に記憶(上書き)する。
これにより、第4ステップ(S504)から第8ステップ(S508)までを所定の上限回数に達するまで繰り返し実行した結果、メモリ27には、所定回数撮像された第2の画像データのうち、数値M2が最も大きいもの、すなわち、最も輪郭の明瞭な第2の画像データが記憶される。
【0055】
第9ステップ(S509)は、第4ステップ(S504)から第8ステップ(S508)までを所定回数繰り返すことで得られた所定数の第2の画像データのうち、輪郭の明瞭さを表す数値M2が最大のものを、第3ステップ(S503)で設定された理想の輪郭の明瞭さに関わる閾値Msを基準値として比較し、メモリ27に記憶された第2画像データの輪郭の明瞭さを評価する工程である。
この評価方法としては、閾値Msに対する数値M2の比(M2/Ms)を用いて評価したり(この場合、M2/Msが1に近いほど明瞭である)、数値M2の閾値Msに対する大小の判定により評価したりする。
【0056】
第10ステップ(S510)では、第9ステップ(S509)での評価結果を記憶し、表示部25に表示するステップである。評価結果の表示方法としては最後に記憶された最も明瞭な第2の画像(輪郭の明瞭さを表す数値M2が最も大きいもの)を表示する。このとき、最も明瞭な第2の画像の輪郭の明瞭さを表す数値M2と設定された閾値Msとの比(M2/Ms)をパーセントで表示したり、M2がMsを満たすかの判定結果を表示したり、M2とMsを比較可能となるように並べて表示する等の表示形態を、適宜選択することができる。
【0057】
なお、図9に示す画像形成方法の変形形態において、ラインスキャンにより画像データの輪郭の理想的な明瞭さを求める工程(S501、S502)と明瞭さの閾値Msを求める工程(S503)の実施の順番は、第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値M2と閾値Msとを比較する工程(S509)の前であれば、どの工程位置で行ってもよい。
例えば、撮像回数が上限回数に達しているか判断する工程(S508)の後に、ラインスキャンによる試料Sの第1の画像データの撮像の工程(S501)、画像データの輪郭の明瞭さを数値化する工程(S502)、輪郭の明瞭さの閾値を求める工程(S503)を実行した後、輪郭の明瞭さと閾値を比較する工程(S509)を実行する工程順としても問題なく実施可能である。
【0058】
(3)各実施形態において、第2ステップ及び第5ステップで、輪郭の明瞭さを表す数値として、画像データのラインプロファイルを一次微分し、その一次微分の絶対値の最大値を用いる例を示したが、これに限らず、他の公知の方法、例えば、ラインプロファイルの画素値のレンジや、ラインプロファイルの画素値のレンジから生成された設定値を満たすラインプロファイルの幅等を用いて数値化してもよい。
ラインプロファイルの画素値のレンジとは、画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差であり、これを明瞭さを表す数値として用いることが可能である。例えば、画像データの試料の輪郭部分において、ラインプロファイルの画素値の最大値が230であり、最小値が50であるとき、レンジは180となり、この数値を、画像データの明瞭さを表す数値として用いる。この場合、数値が大きい方が、明瞭であることを意味する。
【0059】
また、ラインプロファイルの画素値のレンジから設定値を定め、その設定値を満たす部分のラインプロファイルの幅(ラインプロファイル曲線の最大値を有する山となる曲線部分が、閾値を超えている部分の幅)を、明瞭さを表す数値として用いることも可能である。例えば、ラインプロファイルの画素値の最大値が230、最小値が50、レンジが180であるとき、設定値をレンジの50%とすれば、設定値となる画素値は140となる。この設定値を超えるラインプロファイルの曲線の幅の寸法を明瞭さを表す数値として用いる。この場合、試料像がぼけていると、幅が太くなり、明瞭であると幅が狭くなる。
なお、試料像の輪郭の明瞭さを数値化する方法は、上述したこれらの方法以外の方法も適宜用いることが可能である。
さらに、上述のプロファイル処理の前に、一般的に行われるノイズ除去を目的としたスムージング処理やフィルタリング処理を行ってもよい。このようなスムージング処理やフィルタリング処理は、通常行われている技術であるので、本明細書においてはその詳細についての記載を省略する。
【0060】
(4)各実施形態において、荷電粒子線装置として走査型電子顕微鏡を例に挙げて説明したが、これに限らず、透過型電子顕微鏡等のように荷電粒子線を用いる他の装置に適用することも可能である。
なお、本実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態の走査型電子顕微鏡1を説明する図である。
【図2】第1実施形態の走査型電子顕微鏡1の画像形成方法を説明する図である。
【図3】ラインプロファイル及びその一次微分を説明する図である。
【図4】画像データの明瞭さとラインプロファイル及びラインプロファイルの一次微分との関係を示す図である。
【図5】第2実施形態の走査型顕微鏡の画像形成方法を説明する図である。
【図6】第3実施形態の走査型顕微鏡の画像形成方法を説明する図である。
【図7】画像形成方法の変形形態を示す図である。
【図8】ドリフトが試料像に及ぼす影響を説明する図である。
【図9】画像形成方法の変形形態を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 走査型電子顕微鏡
11 電子銃部
12 鏡筒部
13 収束レンズ
14 走査コイル
15 対物レンズ
16 ステージ部
17 排気部
18 検出部
21 制御部
22 信号処理部
23 CPU
24 画像形成部
25 表示部
26 入出力部
27 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、
試料をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程と、
前記第1の撮像工程の後に、前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程と、
前記第1の数値化工程で得られた前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値から、明瞭さの閾値を設定する閾値設定工程と、
前記試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程と、
前記第2の撮像工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程と、
前記第2の数値化工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値を、前記閾値を基準として評価する評価工程と、
前記評価工程の結果を表示する表示工程と、
を備える画像形成方法。
【請求項2】
荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、
試料をラインスキャンによって撮像し、第1の画像データを得る第1の撮像工程と、
前記第1の撮像工程の後に、前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第1の数値化工程と、
前記第1の数値化工程で得られた前記第1の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値から、明瞭さの閾値を設定する閾値設定工程と、
前記試料をエリアスキャンによって撮像し、第2の画像データを得る第2の撮像工程と、
前記第2の撮像工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化する第2の数値化工程と、
前記第2の数値化工程の後に、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が前記閾値を満たしているか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程の結果に基づいて、第2の画像データを選択して記憶する記憶工程と、
を備える画像形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の画像形成方法において、
前記判定工程において前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が前記閾値を満たすまで、前記第2の撮像工程から前記判定工程までを繰り返すこと、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の画像形成方法において、
前記第2の撮像工程を行う上限回数は、予め設定されていること、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項5】
請求項2に記載の画像形成方法において、
前記判定工程において前記第2の画像データの輪郭の明瞭さを表す数値が前記閾値を満たした場合にも、前記第2の撮像工程から前記判定工程までを設定された回数繰り返すこと、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、
前記第1の数値化工程及び前記第2の数値化工程では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの一次微分の絶対値の最大値を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項7】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、
前記第1の数値化工程及び前記第2の数値化工程では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項8】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の画像形成方法において、
前記第1の数値化工程及び前記第2の数値化工程では、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データのラインプロファイルの画素値の最大値と最小値との差を用いて設定された設定値を満たすラインプロファイルの幅を用いて、輪郭の明瞭さを数値化すること、
を特徴とする画像形成方法。
【請求項9】
荷電粒子線を試料上に照射する電子銃部と、
前記試料上の前記荷電粒子線が照射された領域から放出される二次信号を検出する検出部と、
検出された前記二次信号に基づいて画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部からの出力を表示する表示部と、
を備える荷電粒子線装置であって、
前記画像形成部は、
試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値を設定し、
前記試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、前記閾値を基準として評価し、
前記表示部は、前記第2の画像データの輪郭の明瞭さの数値を、前記閾値を基準として評価した評価結果を表示すること、
を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
荷電粒子線を試料上に照射する電子銃部と、
前記試料上の前記荷電粒子線が照射された領域から放出される二次信号を検出する検出部と、
検出された前記二次信号に基づいて画像を形成する画像形成部と、
を備える荷電粒子線装置であって、
前記画像形成部は、
試料をラインスキャンによって撮像した第1の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して閾値を設定し、
前記試料をエリアスキャンによって撮像した第2の画像データの輪郭の明瞭さを数値化して、前記閾値を満たすか否かを判定し、
前記判定の結果に基づいて第2の画像データを選択し、記憶部に記憶させること、
を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、
試料をエリアスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程と、
前記撮像工程の後に、前記画像データの輪郭の明瞭さを数値化する数値化工程と、
前記数値化工程の後に、前記画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とすでに記憶されている画像データの輪郭の明瞭さを表す数値とを比較し、前記画像データの輪郭の明瞭さを表す数値がより明瞭であるか否かを判定する判定工程と、
前記撮像工程から前記判定工程までを設定された回数繰り返す工程と、
を備える画像形成方法。
【請求項12】
荷電粒子線装置において試料像を得る画像形成方法であって、
試料をラインスキャンによって撮像し、画像データを得る撮像工程と、
前記撮像工程の後に、前記画像データのドリフト量を数値化する数値化工程と、
前記ドリフト量が所定値以下であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程の結果に基づいて、前記画像データを選択して記憶する記憶工程と、
を備える画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−102862(P2010−102862A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271325(P2008−271325)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】