説明

画像表示装置

【課題】低速走査素子の異常共振に起因する画像品質の劣化を簡易な構成で抑制することができる画像表示装置を提供する。
【解決手段】高速走査素子および低速走査素子を備えた画像表示装置は、高速スキャナコントローラ51、低速スキャナコントローラ52、およびRGBレーザコントローラ53を有する。低速スキャナコントローラ52では、駆動元波形生成手段61が生成した駆動元波形にノッチフィルタ処理を行って、駆動信号を生成する。重畳信号決定手段71が決定した波形、電流振幅、および周波数に基づいて、高周波発生手段73が温度調整信号を生成する。加算器74が駆動信号と温度調整信号とを加算して、合成信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像信号に応じた光を光走査素子で2次元走査して画像を表示する画像表示装置に関し、より詳細には、低速走査素子の反射ミラーを非共振モードで強制駆動する画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像信号に基づいて生成した光(以下、「画像光」と呼ぶ。)をガルバノミラーなどの光走査素子を用いて2次元走査して画像を表示する光走査型の画像表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の画像表示装置では、共振型の高速走査素子(主走査素子)の反射ミラーを共振周波数frで共振揺動させて、画像光を主走査方向に走査する。さらに、低速走査素子(副走査素子)の反射ミラーを、鋸波形状の波形信号によって非共振で強制駆動する。これにより、低速走査素子の反射ミラーが揺動して、高速走査素子によって走査された画像光を副走査方向に走査する。
【0003】
このような光走査型の画像表示装置に用いられる光走査素子の反射ミラーは、弾性のある梁部材を介して固定部材に揺動可能に支持されているため、反射ミラーおよび梁部材で決まる固有の共振周波数が存在する。このような共振周波数に近い成分が低速走査素子の反射ミラーを強制駆動する信号(低速駆動信号)に含まれていると、低速駆動信号により低速走査素子の共振振動が誘起されるので、行わせたい低速走査素子の運動に、望ましくない共振振動が重畳してしまう現象(リンギング)が発生しやすい。
【0004】
このような画像表示装置では、反射ミラーの揺動を検出する揺動検出素子(例えば、ピエゾ素子)が、低速走査素子に設けられている。低速走査素子に重畳されるリンギングは、揺動検出素子から出力される検出信号に基づいて検出される。そこで、検出信号に基づいて検出されるリンギング値に基づいて、低速駆動信号にノッチフィルタ等によるフィルタリング処理を行なうことで、低速駆動信号の共振周波数付近の周波数成分を除去して共振振動の誘起を抑え、ひいてはリンギングを抑制することが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
また、反射面を持つ可動子を共振周波数で正弦振動させて光を偏向する光偏向器が知られている(例えば、特許文献3参照)。このような光偏向器では、用途によって一定周波数の駆動が望ましい場合がある。そのため、特許文献3には、共振周波数を安定させるために、加熱素子への通電量を制御して可動子の弾性支持部の温度を調整することで、弾性梁のねじり剛性を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−302590号公報
【特許文献2】特開2004−361920号公報
【特許文献3】特開2007−171929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低速走査素子の持つ固有の共振周波数には、運動の様式が異なる複数の共振モード(ネジレ共振モード、縦方向共振モード、横方向共振モード、多方向の共振モード、およびそれらの高次モードなど)が含まれている。低速走査素子の駆動においては、ネジレ共振モードの振幅がほかのモードに対して大きいので、ネジレ共振モードのみを抑制するよう制御を行えば十分である事が多い。しかしながら低速走査素子の有する複数の共振モード間に結合が生じると、揺動検出素子から出力される検出信号が異常な振る舞いをすることがあった。そうすると、低速走査素子に重畳されるリンギングが単純な減衰のあるネジレ振動であるとみなせない場合があった。また、低速走査素子外部からの振動源(例えば、同一の部材に固定されている高速走査素子)により、意図しない共振モードが誘起され、他のモードと結合してリンギングが単純な減衰のあるネジレ振動とみなせなくなる場合があった。
【0008】
例えば、ネジレ振動の共振周波数f1cと、縦方向共振の共振周波数f2cとの比(f2c/f1c)が「2.0」付近となった場合、上記の「モード間結合」が起きる(異常共振タイプ1と称する)。また、低速走査素子と同一の固定部材に取り付けられた、高速走査素子の反射ミラーを駆動する信号(高速駆動信号)の周波数が、横方向共振の共振周波数f3c以上である場合にも、光速走査素子の振動が低速走査素子に伝わって、横方向高次共振が励起される結果、上記「モード間結合」が起きる(異常共振タイプ2と称する)。
【0009】
このように、低速走査素子に異常共振が生じた場合、公知のフィルタリング処理を行ってもリンギングを適切に抑制することができなくなるおそれがあった。なお、特許文献3では、可動子を温度制御することで共振周波数を調整しているが、加熱素子を別途設ける必要があり、コストや工数のアップの懸念があると共に、可動子が重くなったりして特性の劣化にも繋がるおそれがある。さらに、非共振モードで強制的に駆動される低速走査素子については、特許文献3と同様の温度制御を行っても、低速走査素子の異常共振を抑制することができない。ひいては、モード間結合による検出信号の異常を抑制できないため、特許文献2に開示のような検出信号に基づくリンギング制御も正常に機能せず、画像品質が劣化するおそれがあった。
【0010】
本発明の目的は、低速走査素子の異常共振に起因する画像品質の劣化を簡易な構成で抑制することができる画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る画像表示装置は、画像信号に応じた強度の光を出射する光源部と、前記光源部から出射された光を共振揺動によって第1方向に相対的に高速に走査する高速走査素子と、駆動信号に応じて強制的に揺動することで、前記高速走査素子によって走査された光を前記第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する低速走査素子とを備えた画像表示装置であって、周期的な基礎波形信号を生成する基礎波形信号生成手段と、前記低速走査素子を実質的に駆動可能な周波数よりも高い周波数成分であって、前記低速走査素子にジュール熱を発生させうる周波数成分を有する温度調整信号を生成し、前記基礎波形信号に重畳する信号重畳手段と、前記発熱信号重畳手段によって前記基礎波形信号に前記温度調整信号を重畳された駆動信号によって、前記低速走査素子を駆動する駆動手段と、前記発熱信号を変化させることで前記低速走査素子固有の共振周波数を変化させ、前記低速走査素子が前記基礎波形信号に対応する周期的な揺動をするように制御する発熱信号制御手段とを備えている。
【0012】
これによれば、高速走査素子および低速走査素子を備えた画像表示装置において、低速走査素子を周期的な揺動をするように駆動するための基礎波形信号に、低速走査素子固有の共振周波数を変化させるための温度調整信号が重畳される。したがって、低速走査素子の強制駆動と異常共振の発生抑制とを、一の合成信号で実現することができる。そのため、加熱素子等を設けない簡易な構成で、低速走査素子の異常共振に起因する画像品質の劣化を抑制することができる。
【0013】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の周波数は、前記低速走査素子の共振周波数のうち、低周波側から数えて3番目の共振周波数を超えるようにしてもよい。この場合、温度調整信号によって低速走査素子が機械応答することを抑制できるため、画像品質を維持しつつ異常共振を抑制できる。
【0014】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の周波数は、前記低速走査素子を含む等価回路で定まるカットオフ周波数fcよりも小であってもよい。この場合、低速走査素子で効率的にジュール熱を発生させることができる。
【0015】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の電流振幅の上限は、前記温度調整信号の周波数が上昇するのに伴って増大してもよい。この場合、温度調整信号の周波数が高くなると発熱効率が下がるのを補うように電流振幅が高くなる。そのため、温度調整信号の周波数が高くなっても、低速走査素子で十分なジュール熱を発生させることができる。
【0016】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の周波数は、前記高速走査素子の共振周波数とは異なる周波数であってもよい。この場合、温度調整信号が高速走査素子の駆動制御に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0017】
前記画像表示装置において、前記低速走査素子の揺動状態を検出する揺動検出手段と、前記揺動検出手段の検出結果に基づいて、リンギングの有無を含むリンギング情報を取得するリンギング情報取得手段とを備え、前記信号重畳手段は、前記リンギング情報取得手段によって前記リンギング情報が取得されるごとに、前記温度調整信号を生成して前記基礎波形信号に重畳してもよい。この場合、リンギングの検出時に低速走査素子でジュール熱が発生して共振周波数を制御するため、異常共振をより確実に抑制することができる。
【0018】
前記画像表示装置において、前記信号重畳手段は、前記画像表示装置の起動時に、前記温度調整信号を生成して前記基礎波形信号に重畳してもよい。この場合、画像表示装置の起動時に低速走査素子でジュール熱が発生するため、異常共振を簡易な制御で抑制することができる。
【0019】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の波形は、矩形波であってもよい。この場合、温度調整信号の周波数などを変更しやすく、ジュール熱の発生効率を高めることができる。
【0020】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号は、所定の周波数範囲に帯域制限され、または所定範囲にduty比が調整されてもよい。この場合、温度調整信号を最適な帯域で生成することができ、供給電力の制御も容易となる。
【0021】
前記画像表示装置において、前記温度調整信号の波形は、正弦波であってもよい。この場合、波形生成に関する細かな制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヘッドマウントディスプレイ1の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】表示部10が画像光を射出する過程を説明する説明図である。
【図3】水平走査素子26の斜視図である。
【図4】駆動信号コントローラ11の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】重畳信号対応テーブル72のデータ構成を示す図である。
【図6】駆動信号P1の波形を示す図である。
【図7】温度調整信号P2の波形を示す図である。
【図8】合成信号P3の波形を示す図である。
【図9】低速駆動素子に固有の共振モードを示す図である。
【図10】環境温度Tと共振周波数比(f2/f1)との関係を示すグラフである。
【図11】環境温度Tと共振周波数f3rとの関係を示すグラフである。
【図12】低速駆動素子を恒温槽に曝した電気回路である。
【図13】環境温度Tと位相差φとの関係を示すグラフである。
【図14】環境温度Tと駆動抵抗値Rdrvとの関係を示すグラフである。
【図15】環境温度Tと駆動抵抗値Rdrvとの関係を示すグラフである。
【図16】低速駆動素子の電気的特性を示す等価回路である。
【図17】図16に示す等価回路のインピーダンスf特性を測定したグラフである。
【図18】高速駆動素子の駆動周波数と揺動速度との関係を示すグラフである。
【図19】水平走査素子26の駆動処理を示すフローチャートである。
【図20】LS共振周波数調整処理を示すフローチャートである。
【図21】変形例における、水平走査素子26の駆動処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている装置の構成、各種処理のフローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0024】
[1.光走査装置]
図1〜図8を参照して、本実施形態に係る光走査装置について説明する。以下では、光走査装置の1つであるヘッドマウントディスプレイ1を例に挙げて説明を行う。ヘッドマウントディスプレイ1は、画像信号に応じて変調されたレーザ光を走査させて、画像光として射出し、ユーザの少なくとも一方の眼の網膜に画像を直接投影する網膜走査型ディスプレイである。しかし、本発明が適用できるのはヘッドマウントディスプレイ1に限られない。画像を表示するためのレーザ光を走査する光走査装置であれば、本発明は適用できる。例えば、走査したレーザ光を、投影対象となるスクリーン上に射出して投影するスクリーン走査型の画像表示装置にも、本発明は適用できる。
【0025】
図1を参照して、ヘッドマウントディスプレイ1の電気的構成について説明する。ヘッドマウントディスプレイ1は、表示部10、入力部40、通信部43、制御部50、ビデオRAM58、フラッシュメモリ54、および電源部55を備える。
【0026】
表示部10は、ユーザに画像を視認させる部位である。表示部10は、駆動信号コントローラ11、レーザ群13、およびレーザドライバ群12を備える。駆動信号コントローラ11は、CPU111、ROM112、およびRAM113を備える。駆動信号コントローラ11では、ROM112に格納されたプログラムがCPU111によって読み出されることで、表示部10を駆動するための各種処理が行われる。具体的には、駆動信号コントローラ11は、制御部50から画像信号を入力し、入力した信号に応じて、レーザドライバ群12に駆動信号(輝度信号)を出力する。さらに、駆動信号コントローラ11は、後述する垂直走査素子21および水平走査素子26を揺動させるための条件(例えば、垂直走査素子21の駆動周波数および振れ角)を決定し、垂直走査駆動部23および水平走査駆動部28に駆動信号を出力する(詳細は後述する)。
【0027】
レーザ群13は、青色出力レーザ(Bレーザ)131、緑色出力レーザ(Gレーザ)132、および赤色出力レーザ(Rレーザ)133を含む。レーザ群13は、青色、緑色、および赤色のレーザ光を出力する。レーザドライバ群12は、駆動信号コントローラ11から受信した駆動信号に応じてレーザ群13を制御し、レーザ群13にレーザ光を出力させる。つまり、制御部50がヘッドマウントディスプレイ1の全体制御を司り、駆動信号コントローラ11は、制御部50から入力する画像信号に応じて画像表示の処理を制御する。
【0028】
表示部10は、垂直走査素子21、垂直走査駆動部23、水平走査素子26、および水平走査駆動部28を備える。垂直走査素子21は、ミラー22(図2参照)を揺動軸周りに揺動することで、レーザ群13から出力されたレーザ光を垂直方向(本実施形態の主走査方向)に走査する。垂直走査駆動部23は、駆動信号コントローラ11から受信した駆動信号に応じて、垂直走査素子21を高速で共振揺動させる。つまり、垂直走査素子21は、レーザ群13から出射されたレーザ光を共振揺動によって主走査方向に相対的に高速に走査する高速走査素子である。
【0029】
水平走査素子26は、ミラー27(図2参照)を揺動軸周りに揺動することで、垂直走査素子21によって垂直方向に二次元走査されたレーザ光を、さらに水平方向(本実施形態の副走査方向)に走査する。水平走査駆動部28は、駆動信号コントローラ11から受信した駆動信号に応じて、水平走査素子26を強制的に低速揺動させる。つまり、水平走査素子26は、駆動信号に応じて強制的に揺動することで、垂直走査素子21によって走査されたレーザ光を副走査方向に相対的に低速に走査する低速走査素子である。
【0030】
表示部10は、垂直走査素子21によって反射されたレーザ光(主走査方向に走査されたレーザ光)を検出するBD(ビームディテクト)センサ31(図4参照)を備える。つまり、BDセンサ31は、レーザ光の主走査方向における基準位置(基準タイミング)を検出するために設けられている。BDセンサ31によってレーザ光が所定の位置に到達したことを検出された場合、BD信号が駆動信号コントローラ11に出力される。駆動信号コントローラ11は、BD信号の入力結果に基づいて、垂直走査素子21の走査角の最大値である振れ角を検出する。さらに、駆動信号コントローラ11は、BD信号の入力結果に基づいて、レーザ群13からレーザ光を出力するタイミングを決定する。
【0031】
表示部10は、水平走査素子26のミラー27を駆動する捻れ梁部94(図3参照)の変位を検出することで、水平走査素子26の揺動状態を検出する圧電素子であるピエゾセンサ32を備える。ピエゾセンサ32は、水平走査素子26の共振周波数や揺動周波数、揺動振幅など揺動状態を示すピエゾ信号を、駆動信号コントローラ11に出力する。駆動信号コントローラ11は、ピエゾ信号が示す共振周波数などに基づいて、ノッチフィルタ62(図4参照)を調整する。
【0032】
表示部10は、レーザドライバ群12から出力されるレーザ光の強度を検出するRGB用フォトダイオード33(図4参照)を備える。RGB用フォトダイオード33は、レーザ光の強度を示すパワー検出信号を、駆動信号コントローラ11に出力する。駆動信号コントローラ11は、パワー検出信号が示すレーザ光の強度に基づいて、レーザドライバ群12を調整する。
【0033】
入力部40は、ユーザからの各種操作指示の入力を受け付ける部位である。入力部40は、操作ボタン群41および入力制御回路42を備える。入力制御回路42は、操作ボタン群41のボタンが操作されたことを検出する。入力制御回路42は、制御部50と電気的に接続されており、ボタン操作に関する情報を制御部50に出力する。
【0034】
通信部43は、画像情報等の送受信を行う部位である。通信部43は、通信モジュール44および通信制御回路45を備える。通信モジュール44は、外部機器との間の無線通信または有線通信によって、画像情報等の送受信を行う。通信制御回路45は、通信モジュール44の動作を制御する。通信制御回路45は、制御部50と電気的に接続されており、制御部50に画像情報を取得させる。
【0035】
制御部50は、ヘッドマウントディスプレイ1の全体の制御を司る。制御部50は、図示しないCPU、ROM、およびRAMを備える。制御部50では、ROMに格納されたプログラムがCPUによって読み出されることで、ヘッドマウントディスプレイ1の動作を制御するための各種処理が行われる。ビデオRAM58には、画像情報に含まれるイメージデータが展開される。フラッシュメモリ54は、ヘッドマウントディスプレイ1で使用される機能の各種設定値等を記憶する。
【0036】
電源部55は、電池56および充電制御回路57を備える。電池56は、ヘッドマウントディスプレイ1を駆動させるための電源となる充電式の電池である。充電制御回路57は、電池56からヘッドマウントディスプレイ1への電力供給の制御、および充電用アダプタ(図示せず)から電池56への充電の制御を行う。
【0037】
図2を参照して、表示部10が画像光を射出する過程の概要について説明する。表示部10は、光源ユニット部18、コリメート光学系19、垂直走査系20、第一リレー光学系24、水平走査系25、および第二リレー光学系29を備える。
【0038】
光源ユニット部18は、駆動信号コントローラ11、レーザドライバ群12、レーザ群13、コリメート光学系14、ダイクロイックミラー群15、および結合光学系16を備える。駆動信号コントローラ11は、例えば、制御部50によってビデオRAM58に展開されたイメージデータの画像信号を、表示すべき画像を構成する画素毎に読み出して、駆動信号である輝度信号を生成すると共に、垂直駆動信号、および水平駆動信号を生成する。駆動信号コントローラ11は、生成した輝度信号(B輝度信号、G輝度信号、およびR輝度信号)をレーザドライバ群12(Bレーザドライバ121、Gレーザドライバ122、およびRレーザドライバ123)に出力する。さらに、垂直駆動信号を垂直走査駆動部23に出力し、水平駆動信号を水平走査駆動部28に出力する。ただし、駆動信号コントローラ11は、先述したように、入力されるBD信号、ピエゾ信号、およびパワー検出信号に応じた各種調整を行う。
【0039】
レーザドライバ群12は、入力された輝度信号に基づいて、強度変調されたレーザ光をレーザ群13に出力させる。レーザ群13が出力したレーザ光は、コリメート光学系14に入射する。コリメート光学系14の3つのコリメートレンズ141〜143は、レーザ群13が出力した3色(青色、緑色、赤色)のレーザ光のそれぞれを平行光にコリメートする。コリメート光学系14によってコリメートされたレーザ光は、ダイクロイックミラー群15に入射する。ダイクロイックミラー群15の3つのダイクロイックミラー151〜153は、コリメートされた3色のレーザ光を1つのレーザ光になるように合波する。合波されたレーザ光は、結合光学系16によって光ファイバ17に導かれる。
【0040】
光ファイバ17を伝達したレーザ光は、コリメート光学系19によって平行光にコリメートされて、垂直走査系20に入射する。本実施形態の垂直走査系20は、表示すべき画像の1走査線ごとに、レーザ光を垂直方向(主走査方向)に走査する。垂直走査系20は、水平走査系25よりも高速に(すなわち、高周波数で)レーザ光を走査するように設計されている。垂直走査系20に入射したレーザ光は、垂直走査素子21のミラー22に照射される。垂直走査駆動部23は、駆動信号コントローラ11から入力された垂直駆動信号に従って、ミラー22を共振揺動させる。その結果、ミラー22に照射されたレーザ光は、垂直方向に高速で走査される。前述したように、BDセンサ31は、垂直走査素子21によって垂直走査されたレーザ光を検出することで、レーザ光の主走査方向における基準位置(基準タイミング)を検出する。
【0041】
垂直走査されたレーザ光は、第一リレー光学系24を介して水平走査系25に入射する。本実施形態の水平走査系25は、表示すべき画像の1フレーム毎に、レーザ光を最初の走査線から最後の走査線に向かう水平方向(副走査方向)に走査する。水平走査系25に入射したレーザ光は、水平走査素子26のミラー27に照射される。水平走査駆動部28は、駆動信号コントローラ11から入力された水平駆動信号に従って、ミラー27を強制揺動させる。その結果、ミラー27に照射されたレーザ光は、水平方向に走査される。
【0042】
垂直走査系20および水平走査系25によって二次元走査されたレーザ光のうち、画像を表示させるためのレーザ光である画像光は、第二リレー光学系29を介してハーフミラー38に射出される。画像光は、ハーフミラー38によって全反射されてユーザの瞳孔39に導かれる。その結果、ビデオRAM58(図1参照)に展開されたイメージデータに基づく画像が、ユーザの網膜上に形成される。ユーザは、二次元走査されて網膜上に投影されたレーザ光による画像を視認することができる。
【0043】
図3を参照して、水平走査素子26の物理的構造について説明する。本実施形態の水平走査素子26は、所謂シリコンMEMSである(例えば、特開2010−78824号公報参照)。水平走査素子26は、ミラー27、枠91、支持部92、永久磁石93、コイル(図示外)を備える。ミラー27は四角形状を有し、その表面に反射面が形成されている。ミラー27は、2辺に連結する支持部92により支持されている。支持部92は、枠91に連結して支持されている。つまり、ミラー27は、2つの支持部92を介して枠91に揺動可能に支持されている。なお、2つの支持部92が枠91にそれぞれ連結される位置に、ミラー27の揺動を検出するためのピエゾセンサ32が設けられている。
【0044】
ミラー27の揺動軸に平行な2辺に近接して、永久磁石93が設置されている。永久磁石93の磁界は、静止状態のミラー27の反射面に平行し、ミラー27の揺動軸に直交する方向である。ミラー27の反射面と反対側の裏面には、コイル(図示外)が形成されている。コイルの電極は、2つの支持部92を介して外部に接続する。コイルに電流を流すと、流す電流、極性に応じてミラー27の揺動軸を回転軸としたローレンツ力が働き、揺動軸を中心として回転トルクが生ずる。従って、電流の大きさを制御することにより、ミラー27の揺動角を制御することができ、ひいてはレーザ光を走査することができる。
【0045】
図4を参照して、駆動信号コントローラ11の機能的構成を説明する。駆動信号コントローラ11は、高速スキャナコントローラ51、低速スキャナコントローラ52、およびRGBレーザコントローラ53を備える。高速スキャナコントローラ51は、BDセンサ31からBD信号が入力されたタイミング(レーザ光が所定の位置に到達したタイミング)に基づいて、垂直走査駆動部23に出力する垂直駆動信号を制御する。
【0046】
低速スキャナコントローラ52は、ピエゾセンサ32から入力されたピエゾ信号に基づいて水平駆動信号を調整して、調整後の水平駆動信号を高速スキャナコントローラ51と同期して水平走査駆動部28に出力するが、詳細は後述する。RGBレーザコントローラ53は、RGB用フォトダイオード33から入力されたパワー検出信号に基づいて輝度信号を調整し、調整後の輝度信号を高速スキャナコントローラ51と同期してレーザドライバ群12に出力する。
【0047】
低速スキャナコントローラ52は、制御モジュール60、駆動元波形生成手段61、ノッチフィルタ62、リンギング値算出手段65、およびフィルタパラメータサーチ手段66、重畳信号決定手段71、重畳信号対応テーブル72(図5参照)、高周波発生手段73、および加算器74を備えている。制御モジュール60は、低速スキャナコントローラ52の全体制御を司る。
【0048】
駆動元波形生成手段61は、直線変化する鋸波形信号にローパスフィルタ処理を施した駆動元波形を生成する。駆動元波形は、水平走査素子26(図1参照)を非共振モードで強制的に駆動する周期的な駆動信号を生成するための波形信号である。例えば、水平走査素子26に固有の共振特性として、1次共振がf1[Hz]、2次以上の共振がf2[Hz]以上の共振周波数において存在する。この場合、ローパスフィルタ処理によってf2(>f1)[Hz]以上の周波数を減衰させることで、水平走査素子26に固有の共振特性のうち2次以上の共振による影響を抑制する。
【0049】
ノッチフィルタ62は、駆動元波形生成手段61によって生成された駆動元波形に、所定のパラメータ(中心周波数foや尖鋭度Q)でノッチフィルタ処理を行なう。例えば、水平走査素子26に固有の共振特性として、1次共振がf1[Hz]、2次以上の共振がf2[Hz]以上であるとする。この場合、ノッチフィルタ処理では、f1[Hz]の周波数を中心として減衰させることで、水平走査素子26に固有の共振特性のうち1次の共振による影響を抑制する。
【0050】
ノッチフィルタ62から出力される信号(つまり、ノッチフィルタ処理が行われた駆動元波形に基づく信号)を、駆動信号P1という。駆動信号P1は、最小レベルから最大レベルまで移行する期間に比べ、最大レベルから最小レベルへ移行する期間が十分に短い鋸波形の信号である。図6に例示する駆動信号P1は、周期性を持つ三角波であるが、台形波、正弦波などの略直線的な傾斜を有する周期性を持つ波形や、傾きの変化の大きい部分が丸みを帯びた周期性を持つ波形についても適用することができる。
【0051】
ノッチフィルタ62で用いるパラメータのうち中心周波数foは、フィルタパラメータサーチ手段66で決定されて、ノッチフィルタ62へ入力される。フィルタパラメータサーチ手段66は、リンギング値算出手段65によって算出されるリンギング振幅の情報(水平走査素子26のリンギング値)に基づいて、ノッチフィルタ62の中心周波数foを決定する。フィルタパラメータサーチ手段66が決定する中心周波数foは、水平走査素子26に固有の共振特性に応じた中心周波数foである。
【0052】
リンギング値算出手段65は、ピエゾセンサ32から出力されたピエゾ信号を微分回路64で微分したデータに基づいて、水平走査素子26におけるリンギングの有無を示すリンギング値を算出する。具体的には、リンギング値算出手段65は、ピエゾ信号を微分したデータが示すリンギングの波形をバンドパスフィルタ処理等によって抽出することで、リンギング値を算出する。
【0053】
一方、制御モジュール60は、LS共振周波数調整要求を受信すると、重畳信号決定手段71との間で通信を行う。LS共振周波数調整要求は、水平走査素子26に固有の共振周波数に特定の関係が成立しないように(言い換えると、後述する共振周波数のモード間結合が発生しないように)、水平走査素子26にジュール熱を発生させることを要求する信号である。重畳信号決定手段71は、制御モジュール60との通信に応じて、水平走査素子26にジュール熱を発生させるための信号の波形、電流振幅、および周波数を、後述の重畳信号対応テーブル72(図5参照)を参照して決定する。
【0054】
高周波発生手段73は、重畳信号決定手段71によって決定された波形、電流振幅、および周波数で信号を生成する。高周波発生手段73によって生成された信号を、温度調整信号P2という。温度調整信号P2は、水平走査素子26を実質的に駆動可能な周波数よりも高い周波数成分を有し、且つ、水平走査素子26にジュール熱を発生させうる周波数成分を有する信号である。図7に例示する温度調整信号P2は、高周波の矩形波であるが、正弦波等の波形についても適用することができる。温度調整信号P2の詳細は、別途後述する。
【0055】
加算器74は、駆動信号P1と温度調整信号P2とを加算して一の信号を生成する。加算器74によって生成された信号を、合成信号P3という。図8に例示する合成信号P3は、図6に例示する駆動信号P1と、図7に例示する温度調整信号P2とが加算された信号を示す。なお、図8では、温度調整信号P2の信号成分の重畳状態を理解しやすくするために周期を長めに図示しているが、実際の温度調整信号P2の周期は、視覚的に認識できないほど極めて短かい。
【0056】
加算器74から出力された合成信号P3は、図示外のD/A変換器によりアナログ変換されて、さらにパワーアンプ63により増幅される。これにより、合成信号P3に基づく水平駆動信号が生成されて、水平走査駆動部28に出力される。水平走査駆動部28は、水平駆動信号に基づいて、水平走査素子26のミラー27を非共振モードで強制的に駆動する。
【0057】
[2.異常共振の発生原因および抑制原理]
図3、図9〜図11を参照して、異常共振の発生原因および抑制原理について説明する。図3および図9に示すように、水平走査素子26は、ミラー27が捻れ梁部94を介して基板93に揺動支持された物理的構造に起因する固有の共振特性を有する。以下の説明では、水平走査素子26の共振周波数を、低周波側から順に1番モード、2番モード、3番モード・・・と定義する。
【0058】
具体的には、1番モードは、ミラー27を揺動軸周りに振動させるネジレ振動基本波であり、その共振周波数f1rは〜1000[Hz]である。2番モードは、ミラー27を縦方向に振動させる面垂直振動基本波であり、その共振周波数f2rは〜3000[Hz] である。3番モードは、ミラー27を横方向に振動させる面内並進振動基本波であり、その共振周波数f3rは〜30000[Hz]である。4番モードは、ミラー27の反射面に対して水平に延び、且つミラー27の揺動軸と直交する軸線の周りに、ミラー27を振動させる面垂直振動2倍波であり、その共振周波数f4rは〜45000[Hz]である。5番モードは、ミラー27の反射面に対して垂直に延びる軸線の周りに、ミラー27を振動させる面内並進振動2倍波であり、その共振周波数f5rは〜60000[Hz]である。
【0059】
上記の共振モード間で特定の関係が成立すると、その特定の関係が成立した共振モード間に結合が発生する。共振モード間に結合が生じると、水平走査素子26に生じるリンギングが、上記の共振モードで想定されるものとは異なる振る舞いをする現象(以下、異常共振とよぶ。)が生じるおそれがある。このような異常共振が生じると、ピエゾ信号に基づく共振抑制制御(リンギング制御)が正常に機能しなくなる。そうすると、網膜上に形成される画像に、リンギングに起因する縞が生じてしまい、画質劣化の原因となるおそれがある。
【0060】
主たる異常共振としては、低速駆動素子が有する複数の共振周波数間の相対関係に起因する異常共振(以下、異常共振タイプ1とよぶ。)と、低速駆動素子の共振周波数と高速駆動素子の駆動周波数との相対関係に起因する異常共振(以下、異常共振タイプ2とよぶ。)とが想定される。
【0061】
異常共振タイプ1について説明する。一般に、低速駆動素子を駆動する信号には、1番モードの共振周波数f1rの信号成分が含まれている。2番モードの非線形性に起因して、1番モードの共振周波数f1rの2次高調波である2f1rの周波数成分をもつ振動が低速走査素子にて生じる。この現象を、2次高調波共振とよぶ。さらに、2番モードの共振周波数f2rと、2次高調波である2f1rとの相互変調歪によって、2f1r−f2rの信号成分が生じる。低速走査素子の駆動信号P1に含まれるf1r振動振幅は、前述したノッチフィルタ処理にて十分に低減されているものの、完全にゼロにする事はできない.従って、温度変動や経時変動などの影響で、低速走査素子の共振周波数関係がf2r〜2f1rになってしまった場合、低速走査素子に少ないながらも誘起されているf1r振動成分が2f1r振動成分を生み出す。このとき、相互変調歪で2f1r−f2r〜f1rの振動成分が生じるために、1番モードの共振周波数f1rの信号成分が増強される。以下、上記の2次高調波共振および相互変調歪が繰り返されて、1番モードの共振周波数f1rの信号成分が増強され続け、条件によっては発振する。従ってリンギング制御が正常に機能せず、リンギング波形が変形したり、フレーム毎に異なる波形が生じたりする現象(すなわち、異常共振タイプ1)が発生する。
【0062】
異常共振タイプ2について説明する。一般に、高速駆動素子および低速駆動素子を用いた表示装置では、共通のフレーム(図示外)に高速駆動素子および低速駆動素子が固定されている。そのため、高速駆動素子の駆動時に、その駆動周波数fdrvがフレームを介して低速駆動素子に伝わる。高速駆動素子の駆動周波数fdrvは〜30000[Hz]であるため、低速駆動素子において3番モードの共振周波数f3rを励起する。3番モードの面内並進振動と1番モードのネジレ振動とは、ピエゾセンサ32に与える歪みがほぼ同じである。そのため、駆動周波数fdrvの影響で生じる低速駆動素子の面内並進振動が発生する。3番モードは非線形性を有しているので、他の共振モード(例えば、1番モード)と結合し、ひいてはリンギング波形に異常を生じる。このように、高速駆動素子および低速駆動素子の2振動のカップリングに起因するリンギング波形異常が、異常共振タイプ2である。
【0063】
上記の異常共振タイプ1および異常共振タイプ2を抑制する手法として、以下のものが考えられる。
【0064】
異常共振タイプ1の抑制方法について説明する。異常共振タイプ1は、「2f1r−f2rが、1番モードの共振周波数f1rから十分に離間している」という条件を満たさなければ、ネジレ振動がほぼ発生しない。したがって、この条件を満たさないように、1番モードの共振周波数f1rと、2番モードの共振周波数f2rとの関係を調整すれば、異常共振タイプ1の発生を抑制できる。
【0065】
図10は、低速駆動素子の環境温度T[degC]の変化と、共振周波数比(f2r/f1r)の変化との対応関係を示している。共振周波数f1r、f2rは、いずれも温度特性を有している。共振周波数f1rは温度変化に伴う変動が相対的に小さい一方、共振周波数f2rは温度変化に伴う変動が相対的に大きい。「共振周波数比(f2r/f1r)>2.3」である場合、異常共振タイプ1が発生しないことが、予め行った実験によって判明している。
【0066】
したがって、異常共振タイプ1の発生を抑制するためには、低速駆動素子の環境温度Tを調整することで、温度変化に伴う変動が大きい共振周波数f2rを、「共振周波数比(f2r/f1r)>2.3」を満たすように変化させればよい。図10に示す例では、低速駆動素子の環境温度Tが約58[degC]よりも大きくなるようにすれば、異常共振タイプ1の発生を抑制できる。
【0067】
異常共振タイプ2の抑制方法について説明する。異常共振タイプ2の発生を抑制するためには、高速駆動素子と低速駆動素子とを振動絶縁すればよい。ただし、この場合は高速駆動素子と低速駆動素子とを異なるフレームに固定するなどの処置をしなければならず、装置構造の複雑化やコストアップ、組み立て複雑化による歩留まり低下につながる。そこで、以下の手法により、異常共振タイプ2の発生を抑制することが好ましい。
【0068】
異常共振タイプ2は、「fdrv−f3r>300[Hz]」という条件を満たせば発生しないことが、予め行った実験によって判明している。したがって、この条件を満たすように、3番モードの共振周波数f3rを調整すれば、異常共振タイプ2の発生を抑制できる。
【0069】
図11は、低速駆動素子の環境温度T[degC]の変化と、共振周波数f3rの変化との対応関係を示している。共振周波数f3rは、環境温度Tの上昇に応じて小さくなる温度特性を有している。したがって、異常共振タイプ3の発生を抑制するためには、低速駆動素子の環境温度Tを調整することで、「fdrv−f3r>300[Hz]」を満たすように、共振周波数f3を変化させればよい。
【0070】
以上のように、異常共振タイプ1および異常共振タイプ2は、いずれも低速駆動素子の環境温度Tを調整することで抑制可能である。ただし、低速駆動素子の環境温度Tを調整するための調温部材(加熱素子等)を設けると、装置構造の複雑化やコストアップにつながる。本実施形態では、調温部材を設けることなく、後述の手法によって低速駆動素子の環境温度Tを調整している。
【0071】
[3.温度調整の有効性]
図12〜図18を参照して、温度調整の有効性について説明する。本実施形態では、調温部材を設けずに環境温度Tを調整するために、水平走査素子26を駆動させる駆動信号P1に、水平走査素子26を加熱するための温度調整信号P2を加えた合成信号P3を、水平走査駆動部28に出力する。水平走査素子26には、ミラー27を駆動するためのコイル(図示外)が設けられている。水平走査駆動部28は、このコイルに合成信号P3(つまり、電流)を供給することで、駆動信号P1の信号成分でミラー27を揺動させ、温度調整信号P2の信号成分でコイルにジュール熱を発生させる。以下では、合成信号による低速駆動素子の温度調整の有効性について検証する。
【0072】
図12に示すように、低速駆動素子の温度調整を検証するために、交流電源(ヒータ)FGを抵抗Rrefを介して低速駆動素子LSに直列に接続し、低速駆動素子LSを恒温槽に曝した電気回路を設定した。抵抗Rrefは、あらかじめDMM(デジタルマルチメータ)で測定しておく。本具体例では、抵抗Rrefは9.95[ohm]とする。また、測定位置(b)−GND間をDMMで測定し、低速駆動素子LSの駆動抵抗温度特性を得る。測定位置(b)は、抵抗Rrefと低速駆動素子LSとの接続部である。
【0073】
上記の電気回路において、次のように低速駆動素子の温度測定を行う。まず、測定位置(a)−(b)間をDMMで測定し、低速駆動素子LSを流れる電流Idrvを得る。測定位置(a)は、ヒータFGと抵抗Rrefとの接続部である。また、測定位置(b)−GND間をDMMで測定し、低速駆動素子LSに加えられている電圧Vdrvを得る。駆動中の低速駆動素子LSが有するコイルの抵抗値Rdrv(Vdrv/Idrv)を算出する。恒温槽内の温度条件を変えながら、各温度条件下での抵抗値Rdrvを上記と同様に測定することで、低速駆動素子LSの駆動抵抗温度特性を得る。予め得られた駆動抵抗温度特性と、駆動中に得られた駆動抵抗温度特性とに基づいて、抵抗Rrefに対応する環境温度Tを求める。その結果、上記電気回路の昇温有効性を、以下の3点で検証することができた。
【0074】
(1)抵抗性の検証
上記の電気回路において、35000〜50000[Hz]に亘って、電流Idrvと電圧Vdrvとの位相差を測定した結果を、図13に示す。図13から明らかなように、35000〜50000[Hz]の測定範囲では、位相差φは1[deg]より小さいため、力率は0.998よりも大きい。したがって、低速駆動素子LSを流れる電流Idrvは、ほぼ機械的仕事(ミラー27の揺動)かジュール熱に変換されたことを確認した。
【0075】
(2)昇温現象と昇温程度の検証
上記の電気回路において、低速駆動素子の正弦駆動時における、抵抗値Rdrvの環境温度Tに伴う変化を、図14に示す。図14において、温度測定の開始前に予めDMMで測定した抵抗値Rdrv(言い換えると、非駆動時の抵抗値Rdrv)の変化を、点線の抵抗値R(V0)で示す。低速駆動素子LSに正弦波形信号40000[Hz]、振幅2[V]の電圧を印加したときの抵抗値Rdrv(言い換えると、正弦駆動時の抵抗値Rdrv)の変化を、実線の抵抗値R(V1)で示す。
【0076】
図14から明らかなように、同一の温度環境では、正弦駆動時の抵抗値R(V1)は非駆動時の抵抗値R(V0)よりも大きい。非駆動時の抵抗値R(V0)が示す直線ラインから、環境温度Tが高いほど抵抗値Rdrvが高くなる。抵抗値Rdrvは、低速駆動素子LSのコイルの温度に一意に依存する(つまり、一対一の関係にある)。よって、抵抗値Rdrvを特定することができれば、非駆動時の抵抗値R(V0)のラインに基づいて、コイルの温度を特定することができる。例えば、低速駆動素子LSを環境温度Tが0[degC]の条件下で正弦駆動した場合、コイルの自己発熱で約15[degC]の温度上昇が生じたことを特定できる。したがって、正弦波形信号40000[Hz]の高周波を低速駆動素子LSに印加した場合、低速駆動素子LSのコイルの昇温現象が発生し、〜15[degC]程度を昇温可能であることを確認した。
【0077】
(3)高周波印加昇温の有効性
上記の電気回路において、低速駆動素子のノコギリ駆動時における、抵抗値Rdrvの環境温度Tに伴う変化を、図15に示す。図15において、温度測定の開始前に予めDMMで測定した抵抗値Rdrv(言い換えると、非駆動時の抵抗値Rdrv)の変化を、点線の抵抗値R(V0)で示す。低速駆動素子LSに鋸波波形信号〜60000[Hz]、駆動電圧(PP値)〜4[V]の電圧を印加したときの抵抗値Rdrv(言い換えると、ノコギリ駆動時の抵抗値Rdrv)の変化を、実線の抵抗値sawtoothで示す。
【0078】
図15から明らかなように、低速駆動素子のノコギリ駆動時には、鋸波波形信号に含まれる交流成分によって、低速駆動素子のコイルが自己発熱して昇温現象が発生する。同一の温度環境では、ノコギリ駆動時の抵抗値sawtoothは、非駆動時の抵抗値R(V0)と比べて若干大きい。つまり、同一の温度環境では、ノコギリ駆動時は非駆動時よりも、低速駆動素子LSが若干大きく昇温する。
【0079】
図15に示す例では、PP値4[V]の鋸波波形信号を印加した際の発熱は、1〜2[degC]程度である。一方、(2)で検証したように、振幅2[V](つまり、PP値4[V])の正弦波形信号を印加した際の発熱は、およそ15[degC]である。つまり、鋸波波形信号に起因する昇温レベルは、正弦波形信号に起因する昇温レベルに比較して有意に小さく、低速駆動素子LSの温度調整に与える影響が小さい。以上のことから、鋸波波形信号である駆動信号P1(図6参照)に、正弦波形信号である温度調整信号P2(図7参照)を重畳することで、低速駆動素子LSの温度レベルを有意に調整可能であることを確認した。
【0080】
(4)昇温有効性の検証に関する結論
以上の(1)〜(3)の検証結果から、低速駆動素子に印加する重畳高周波(図8に示す合成信号P3)を調整することで、低速駆動素子のノコギリ駆動時にコイルを昇温させることは十分に可能であるとの結論が得られた。ひいては、低速駆動素子のコイルの昇温に伴って共振周波数を変化させることで、モード間結合(つまり、異常共振タイプ1および異常共振タイプ2)の発生を抑制可能であるとの結論が得られた。そこで、本実施形態では、低速駆動素子に印加される重畳高周波を調整するために、合成信号P3のfr目標値に応じて、駆動信号P1に重畳される温度調整信号P2が、あらかじめ重畳信号対応テーブル72(図5参照)に定義されている。
【0081】
[4.重畳信号対応テーブル]
図5に示すように、重畳信号対応テーブル72には、fr目標値、波形、電流振幅、および周波数を対応付けて記憶されている。fr目標値は、水平走査素子26に印加される合成信号P3の周波数[Hz]を示す。波形、電流振幅、および周波数は、それぞれ、駆動信号P1に重畳される温度調整信号P2の波形、電流振幅I[mA]0p、および周波数f[Hz]を示す。以下、重畳信号対応テーブル72に定義されている各項目の意義について説明する。
【0082】
(1)fr目標値
合成信号P3のfr目標値は、結合しているモード共振周波数の比に応じて決定される。本実施形態では、重畳信号決定手段71が、合成信号P3のfr目標値を決定する。さらに、重畳信号対応テーブル72を参照して、決定したfr目標値に対応する波形、電流振幅、および周波数を、温度調整信号P2の波形、電流振幅、および周波数として決定する。
【0083】
fr目標値の決定方法について説明する。水平走査素子26に固有の共振周波数f1r〜f3rは、予め行った実験によって判明している。これらの共振周波数f1r〜f3rから、モード間結合が発生するか否か、および異常共振タイプ1、2の何れが発生するかを、上述した条件や実験等に基づいて特定できる。
【0084】
その結果、異常共振タイプ1のみが発生すると特定された場合、「共振周波数比(f2r/f1r)>2.3」の成立を妨げる周波数が、fr目標値として決定される。例えば、共振周波数f1rが1000[Hz]、共振周波数f2rが2000[Hz]である場合、異常共振タイプ1が発生するおそれがある。この場合、fr目標値として2300[Hz]より大きい周波数(例えば、2400[Hz])が決定される。
【0085】
なお、異常共振タイプ2のみが発生すると特定された場合、「fdrv−f3r>300[Hz]」の成立を妨げる周波数が、fr目標値として決定される。異常共振タイプ1、2の両方が発生すると特定された場合、「共振周波数比(f2r/f1r)>2.3」および「fdrv−f3r>300[Hz]」の成立を妨げる周波数が、fr目標値として決定される。
【0086】
(2)波形
温度調整信号P2の波形は、一つのfr目標値に対して、矩形波と正弦波との2パターンが定義されている。正弦波は、単一周波数成分のみを含むため、制御が細やかにできるというメリットがある。ただし、コイルにジュール熱を発生させる効率が、矩形波よりも劣るというデメリットがある。したがって、コイルに発生させるジュール熱(つまり、水平走査素子26の温度調整)を正確に行うには、温度調整信号P2の波形として正弦波が選択されることが好適である。
【0087】
一方、矩形波は、電力変換効率(つまり、コイルにジュール熱を発生させる効率)が正弦波の2倍であり、かつ回路的に波形生成が容易であるというメリットがある。一方、矩形波に含まれる高調波成分が、低速走査素子の高次共振を励起して、程度は小さいと考えられるものの、ピエゾ信号を不安定にするおそれがあるというデメリットがある。したがって、コイルに発生させるジュール熱(つまり、水平走査素子26の温度調整)を効率的に行うには、温度調整信号P2の波形として矩形波が選択されることが好適である。なお、温度調整信号P2を矩形波で生成する場合には、ローパスフィルタ等を用いた帯域制限を行って信号に含まれる周波数成分の強度を調整したり、波形のduty比を調整することで電力供給効率を変えたりすることで、温度調整信号P2を最適な帯域で生成することができ、供給電力の制御も容易となる。
【0088】
このように、一つのfr目標値に対して異なる特性を有する波形を設けておくことで、水平走査素子26の温度調整を最適な態様で実現可能である。なお、温度調整信号P2を正弦波および矩形波のいずれで生成するかは、あらかじめ設計者がROM等に定義しておけばよく、切り替え可能にしておいてもよい。
【0089】
(3)周波数
温度調整信号P2の周波数は、fr目標値に対応して、以下の3つの要素を満たすように設定されている。
【0090】
(3−1)周波数の下限
周波数の下限は、低速走査素子を実質的に駆動可能な周波数よりも高く、且つ、低速走査素子にジュール熱を発生させうる周波数である。つまり、温度調整信号P2は、低速走査素子が機械応答しないような速い交流であって、ミラーを動かすことなく温度上昇させることが可能な周波数成分を有する。
【0091】
ここで、温度調整信号P2の周波数が、直流(DC)である場合や機械応答するような遅い交流(AC)である場合、温度調整信号P2の印加によって低速走査素子が機械的に動作してしまう。そうすると、ミラーにも意図しない揺動が生じて、画像が乱れるおそれがある。そこで、本実施形態では、温度調整信号P2の周波数を、低速走査素子のコイルが機械応答しないような速い交流としている。具体的には、温度調整信号P2の周波数は、以下の理由により、低周波側から数えて3番目の共振モードを超える周波数(具体的には、およそ50000[Hz]以上)であればよい。
【0092】
低速駆動素子に固有の共振モード(図5参照)のうち、低周波側から数えて4番目以降の共振モードは、実験的に機械振幅が極めて小さいことが明らかとなっており、異常共振の発生に主要な寄与をしない。さらに、一般に周波数応答は周波数が高いほど小さくなる。これらのことから、4番目以降の共振モードは、異常共振の発生原因としては無視できる。そうすると、異常共振を生じる可能性が高い共振モードは、低周波側から数えて3番目の共振モード(本実施形態では、3番モード)までである。つまり、温度調整信号P2の周波数は、低周波側から数えて3番目の共振モードを超える周波数であればよい。そして、温度調整信号P2の周波数がおよそ50000[Hz]以上であれば、低周波側から数えて3番目の共振モードの発生が十分に抑制されていることが、実験的に明らかとなっている。
【0093】
(3−2)周波数の上限
低速駆動素子は、捻れ梁部で支持されたミラーを、駆動信号に基づいて揺動させる電気・機械変換素子である(図3参照)。そのため、本来、低速駆動素子の駆動回路は、機械系の等価回路を共振モードごとに考慮して設定すべきである。しかし、上記のように温度調整信号P2の周波数の下限を定義した結果、温度調整信号P2によって捻れ梁部で支持されたミラーが揺動することが抑制されるため、低速駆動素子の機械的特性はほぼ無視できる。そうすると、低速駆動素子の駆動回路を、図16に示すように、電気的特性のみを考慮した等価回路として設定できる。
【0094】
図16に示すように、低速駆動素子の電気的特性のみを考慮した等価回路は、交流電圧源Vが抵抗R1を介して、直列に接続された抵抗R2およびコイルLとコンデンサCとに並列接続されている。図示しないが、低速駆動素子のコイルは、ミラー上に絶縁膜を挟んで巻回された2層の巻線を有する。抵抗R1は、捻れ梁部に配設された導線に対応し、非常に小さい抵抗値を示す。抵抗R2は、2層の巻線の抵抗成分に対応する。2層の巻線は、インダクタとして機能するため、コイルLに対応する。2層の巻線(つまり、導体)に挟まれた絶縁膜という構造は、寄生容量としてコンデンサCに対応する。
【0095】
上記の等価回路では、交流電圧源Vから印加される周波数が大きいほど、コイルLのインダクタンスが大きくなり、コイルLよりもコンデンサCの方を流れる電流の割合が増大する。つまり、周波数が大きいほど、コイルLで発生するジュール熱が小さくなる。このように、高周波であるほど無効電力が増大するから、コイルLでジュール熱を効率的に発生させることができる周波数の上限を、周波数の上限として定めることが好適である。つまり、上記の等価回路で定められるカットオフ周波数fcを、周波数の上限として定めることが好適である。
【0096】
そこで、上記の等価回路を仮定して、そのインピーダンスf特性を測定した。その結果、図17に示すように、10000〜200000[Hz]の範囲内で「抵抗R<<リアクタンスX」となり、「リアクタンスX/抵抗R(%)」が±0.02の範囲に収まる結果が得られた。つまり、10000〜200000[Hz]の範囲内で、上記の等価回路を純抵抗とみなせる(つまり、コイルLの発熱効率が高い)ことが明らかとなった。したがって、周波数の上限は、10000〜200000[Hz]の範囲に設定することができる。
【0097】
(3−3)高速駆動素子の共振周波数との関係
高速駆動素子と低速駆動素子とを各々独立した1軸で支持する光走査装置や、高速駆動素子と低速駆動素子とが一体化された駆動素子、すなわち揺動部を略直交2軸で支持する光走査装置では、低速駆動素子の駆動時の振動が高速駆動素子に伝わる。このとき、低速駆動素子の振動が、高速駆動素子の駆動制御に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、低速駆動素子の周波数は、高速駆動素子に固有の共振周波数成分を含まないことが好適である。
【0098】
図18に示す例の高速駆動素子では、駆動周波数[Hz]と速度[m/sec]との関係から、例えば2000[Hz]、12500[Hz]、24000[Hz]、33000[Hz]等を共振周波数として特定できる。よって、これらの共振周波数の半値幅およびセンター値を考慮して、低速駆動素子の周波数から除外する周波数の範囲を設定することが好ましい。これにより、高速駆動素子の駆動に悪影響を及ぼすことなく、低速駆動素子の駆動制御および温度調整を実現できる。
【0099】
(4)電流振幅
温度調整信号P2の電流振幅は、上記の昇温有効性の検証結果で説明したように、コイルに発生させるジュール熱の大きさを決定する要素である。したがって、温度調整信号P2の電流振幅は、fr目標値を達成するのに必要なジュール熱をコイルに発生させる振幅値を示す。以下の理由により、温度調整信号P2の電流振幅には、対応するfr目標値が小さくなるのに伴ってより小さな振幅値が設定されている。
【0100】
上述したように、温度調整信号P2の周波数が高いほどリアクタンスXが上昇する一方、ジュール熱を発生させる抵抗Rが低下する。よって、温度調整信号P2の周波数が高い場合には、温度調整信号P2の電流振幅を大きくすることで、抵抗Rが低下しても十分なジュール熱を発生させることができる。つまり、温度調整信号P2の電流振幅の上限は、温度調整信号P2の周波数が上昇するのに伴って発熱効率が下がるのを補うように増大することが好適である。これにより、温度調整信号P2の周波数が高くなっても、低速走査素子で十分なジュール熱を発生させることができる。
【0101】
[5.温度調整処理]
図19および図20を参照して、駆動信号コントローラ11のCPU111が実行する駆動処理について説明する。以下では、レーザ群13等の複数のデバイスの駆動を制御するためにCPU111が実行する処理のうち、水平走査素子26の駆動を制御する処理について説明する。駆動信号コントローラ11のCPU111は、画像の表示を開始させる指示を制御部50から入力すると、ROM112に記憶されているプログラムに従って、図19に示す駆動処理を開始する。
【0102】
なお、図19に示す駆動処理を実行するCPU111が、低速スキャナコントローラ52(図4参照)として機能する。図19に示す駆動処理の実行中は、ピエゾセンサ32から出力されるピエゾ信号に基づいて、ノッチフィルタ62(図4参照)が調整される。
【0103】
図19に示すように、まず水平走査素子26の起動制御が実行される(S1)。ステップS1では、所定の水平駆動信号(例えば、60Hzの鋸波形信号)が水平走査素子26に入力されて、ミラー27の揺動を開始させる。ステップS1の実行後、LS共振周波数調整要求ありか否かが判断される(S3)。本実施形態では、例えばユーザが画像調整を目的として所定の操作を行った場合に、制御部50から駆動信号コントローラ11にLS共振周波数調整要求が出力される。制御部50から出力されたLS共振周波数調整要求が受信された場合、LS共振周波数調整要求ありと判断される(S3:YES)。一方、制御部50からLS共振周波数調整要求を受信した場合、または既に受信しているLS共振周波数調整要求が例えばユーザの操作によって解除された場合、LS共振周波数調整要求なしと判断される(S3:NO)。
【0104】
LS共振周波数調整要求がない場合(S3:NO)、定常制御が実行される(S5)。この場合、従来の低速走査素子の駆動制御と同様の処理が行われる。すなわち、駆動元波形にノッチフィルタ処理を行なった鋸波形の駆動信号P1(図6参照)が生成される。駆動信号P1が、図示外のD/A変換器によりアナログ変換されて、さらにパワーアンプ63により増幅されて、水平駆動信号が生成される。水平駆動信号が水平走査素子26に入力されて、ミラー27の揺動が制御される。この場合、水平走査素子26では、通常の画像走査が実行される。
【0105】
一方、LS共振周波数調整要求がある場合(S3:YES)、図20に示すLS共振周波数調整処理が実行される(S7)。図20に示すように、まず目標共振周波数(fr目標値)が決定される(S21)。fr目標値は、先述したように、結合しているモード共振周波数の比に応じて決定される。重畳信号対応テーブル72を参照して、ステップS21で決定されたfr目標値に対応する波形、電流振幅、および周波数が決定される(S23)。ステップ23で決定された波形、電流振幅、および周波数で高周波(温度調整信号P2)が生成されて、駆動信号P1に加算される(S25)。ステップ25で生成された信号(合成信号P3)が出力され(S27)、図示外のD/A変換器によりアナログ変換されて、さらにパワーアンプ63により増幅されて、水平駆動信号が生成される。水平駆動信号が水平走査素子26に入力されて、ミラー27の揺動が制御される。この場合、水平走査素子26では、通常の画像走査が実行され、且つfr目標値に応じたジュール熱がコイルに発生して異常共振が抑制される。ステップ25の実行後、LS共振周波数調整処理は終了して、図19に示す駆動処理に戻る。
【0106】
ステップS5またはステップS7の実行後、終了指令ありか否かが判断される(S9)。例えば、ユーザが所定の終了操作を行った場合、制御部50から駆動信号コントローラ11に終了指令が出力される。制御部50から出力された終了指令が受信された場合、終了指令ありと判断される(S9:YES)。この場合、図19に示す駆動制御が終了される。一方、終了指令がない場合(S9:NO)、処理はステップS3に戻る。
【0107】
なお、本実施形態では、LS共振周波数調整要求ありと判断された場合は(S3:YES)、終了指令ありと判断されるか(S9:YES)、またはLS共振周波数調整要求が解除されるまで(S3:NO)、図20に示すLS共振周波数調整処理(S7)が継続して実行される。この場合、目標共振周波数(S21)および波形等決定(S23)は、初回のLS共振周波数調整処理(S7)のみで実行されればよい。これにより、LS共振周波数調整要求の受信後は、水平走査素子26の加熱状態が維持されて、共振異常が継続的に抑制される。LS共振周波数調整要求の解除後は(S3:NO)、定常制御(S5)によって通常の表示制御が再開される。
【0108】
以上説明したように、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ1は、高速走査素子である垂直走査素子21と、低速走査素子である水平走査素子26とを備えている。水平走査素子26を周期的な揺動をするように駆動するための駆動信号P1に、水平走査素子26に固有の共振周波数を変化させるための温度調整信号P2が重畳されて、合成信号P3が生成される。したがって、加熱素子等を設けなくても、合成信号P3で水平走査素子26の強制駆動と異常共振の抑制とを実現することができる。そのため、水平走査素子26の異常共振を簡易な構成で抑制することができる。
【0109】
上記実施形態において、レーザ群13が本発明の「光源部」に相当する。垂直走査素子21が本発明の「高速走査素子」に相当する。水平走査素子26が本発明の「低速走査素子」に相当する。ヘッドマウントディスプレイ1が本発明の「画像表示装置」に相当する。駆動元波形生成手段61およびノッチフィルタ62が、本発明の「基礎波形信号生成手段」に相当する。高周波発生手段73が、本発明の「信号重畳手段」に相当する。水平走査駆動部28が、本発明の「駆動手段」に相当する。重畳信号決定手段71および重畳信号対応テーブル72が、本発明の「発熱信号制御手段」に相当する。後述の変形例において、ピエゾセンサ32が本発明の「揺動検出手段」に相当し、リンギング値算出手段65が本発明の「リンギング情報取得手段」に相当する。
【0110】
本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。例えば、重畳信号対応テーブル72のデータ構成は、上述した条件を満たす範囲で、開発者やユーザが自由に設定し、変更し、編集することができる。
【0111】
また、水平走査素子26の駆動を制御する処理は、図19に示す駆動処理に限定されず、図21に示す駆動処理を行ってもよい。図21に示す駆動処理では、まずステップS1と同様に起動制御が実行される(S101)。ステップS101の実行後、図20に示すLS共振周波数調整処理が実行される(S103)。ただし、ステップS103で実行される共振周波数調整処理は、fr目標値を達成可能な程度の周期だけ実行される。
【0112】
このように、本変形例では、水平走査素子26の駆動開始直後にLS共振周波数調整処理が実行されて、水平走査素子26でジュール熱が発生する(S103)。その結果、ヘッドマウントディスプレイ1では、起動開始直後から異常共振が抑制され、ユーザは鮮明な画像を見ることができる。また、LS共振周波数調整要求があるか否かを判断する必要がないため、異常共振を簡易な制御で抑制することができる。
【0113】
ステップS103の実行後、リンギング値の取得ありか否かが判断される(S105)。具体的には、ピエゾセンサ32から所定周期で出力されるピエゾ信号に基づいて、リンギング値算出手段65がリンギング値を算出すると、リンギング値の取得ありと判断される(S105:YES)。リンギング値の取得がない場合(S105:NO)、ステップS5と同様に定常制御が実行される(S107)。リンギング値の取得がある場合(S105:NO)、図20に示すLS共振周波数調整処理が実行される(S109)。ただし、ステップS109で実行される共振周波数調整処理は、fr目標値を達成可能な程度の周期だけ実行される。このよう、本変形例では、所定周期で実行されるリンギング値の取得と同期して水平走査素子26でジュール熱が発生するため、異常共振をより確実に抑制することができる。
【0114】
ステップS107またはステップS109の実行後、ステップS9と同様に、終了指令ありか否かが判断される(S111)。終了指令がある場合(S111:YES)、図21に示す駆動制御が終了される。一方、終了指令がない場合(S111:NO)、処理はステップS105に戻る。なお、本変形例では、水平走査素子26の駆動開始直後と、リンギングの検出時との両方でLS共振周波数調整処理(図20参照)が実行されているが、いずれか一方のみが実行されてもよい。水平走査素子26の駆動開始直後に実行する場合は、LS共振周波数調整処理(図20)が継続的に実行されることが好適である。
【0115】
また、水平走査素子26のリンギングを検出する手段は、ピエゾセンサ32に限定されない。例えば、電極をミラー27の底部等に取り付け、その電極に対向する基板93に電極を取り付けて、これらの電極間に生じる静電容量を検出するようにすることでミラー27の揺動信号波形を取得してもよい。この場合、リンギング値算出手段65、揺動信号波形に基づいてリンギング値を算出すればよい。
【符号の説明】
【0116】
1 ヘッドマウントディスプレイ
11 駆動信号コントローラ
13 レーザ群
21 垂直走査素子
22 ミラー
23 垂直走査駆動部
26 水平走査素子
27 ミラー
28 水平走査駆動部
32 ピエゾセンサ
60 制御モジュール
61 駆動元波形生成手段
62 ノッチフィルタ
65 リンギング値算出手段
66 フィルタパラメータサーチ手段
71 重畳信号決定手段
72 重畳信号対応テーブル
73 高周波発生手段
74 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像信号に応じた強度の光を出射する光源部と、
前記光源部から出射された光を共振揺動によって第1方向に相対的に高速に走査する高速走査素子と、
駆動信号に応じて強制的に揺動することで、前記高速走査素子によって走査された光を前記第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する低速走査素子と
を備えた画像表示装置であって、
周期的な基礎波形信号を生成する基礎波形信号生成手段と、
前記低速走査素子を実質的に駆動可能な周波数よりも高い周波数成分であって、前記低速走査素子にジュール熱を発生させうる周波数成分を有する温度調整信号を生成し、前記基礎波形信号に重畳する信号重畳手段と、
前記発熱信号重畳手段によって前記基礎波形信号に前記温度調整信号を重畳された駆動信号によって、前記低速走査素子を駆動する駆動手段と、
前記発熱信号を変化させることで前記低速走査素子固有の共振周波数を変化させ、前記低速走査素子が前記基礎波形信号に対応する周期的な揺動をするように制御する発熱信号制御手段と
を備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記温度調整信号の周波数は、前記低速走査素子の共振周波数のうち、低周波側から数えて3番目の共振周波数を超えることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記温度調整信号の周波数は、前記低速走査素子を含む等価回路で定まるカットオフ周波数fcよりも小であることを特徴とする請求項1または2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記温度調整信号の電流振幅の上限は、前記温度調整信号の周波数が上昇するのに伴って増大することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記温度調整信号の周波数は、前記高速走査素子の共振周波数とは異なる周波数であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記低速走査素子の揺動状態を検出する揺動検出手段と、
前記揺動検出手段の検出結果に基づいて、リンギングの有無を含むリンギング情報を取得するリンギング情報取得手段とを備え、
前記信号重畳手段は、前記リンギング情報取得手段によって前記リンギング情報が取得されるごとに、前記温度調整信号を生成して前記基礎波形信号に重畳することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記信号重畳手段は、前記画像表示装置の起動時に、前記温度調整信号を生成して前記基礎波形信号に重畳することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記温度調整信号の波形は、矩形波であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記温度調整信号は、所定の周波数範囲に帯域制限され、または所定範囲にduty比が調整されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記温度調整信号の波形は、正弦波であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−137692(P2012−137692A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291269(P2010−291269)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】