説明

画像記録方法及びインクセット

【課題】 2次色の画像を形成した際に、耐擦過性及び光沢性の高い画像を得ることができる画像記録方法及びインクセットを提供すること。
【解決手段】 ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインクを記録媒体に付与する工程、並びに、下記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを、前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする画像記録方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像記録方法には、画像の耐擦過性が高いことに加えて、広い色再現領域を有することが要求されている。画像の耐擦過性を向上する方法として、ポリビニルアルコール系樹脂を樹脂分散剤として用いる顔料インクが検討されている(特許文献1)。特許文献1では、ポリビニルアルコール系ブロック共重合体を用い分散させた樹脂分散顔料インクを用いることで、インクの保存安定性や吐出安定性、及び、得られた画像の耐擦過性が向上することが開示されている。
【0003】
また、色再現領域を拡大する方法として、シアン、マゼンタ、及びイエローの基本3原色の他に、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレットなどの基本3原色以外の色相を有する色材を用いた特色インクを用いる方法が検討されている(特許文献2、3及び4)。中でも、特許文献4では、C.I.ピグメントグリーン7やC.I.ピグメントグリーン36などのハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有するグリーンインクを含むインクセットを用いることで、グリーンの色再現領域の彩度が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−23297号公報
【特許文献2】国際公開第99/05230号パンフレット
【特許文献3】特開2000−248217号公報
【特許文献4】特開2001−354886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、耐擦過性及びグリーンの色再現領域に優れる画像を得ることを目的に、上記特許文献を参考に、ポリビニルアルコール系樹脂で分散された顔料を含有するインクとハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有するグリーンインクを用いた画像記録方法を検討した。しかしながら、この2種のインクを用いて形成した2次色の画像は、耐擦過性は高いが光沢性が低くなることが分かった。この2次色の画像の光沢性の低下は、それぞれのインクを単独で使用した場合の画像の光沢性から想定されるレベルを大きく下回っていた。
【0006】
したがって、本発明の目的は、2次色の画像を形成した際に、耐擦過性及び光沢性の高い画像を得ることができる画像記録方法及びインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる画像記録方法は、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインクを記録媒体に付与する工程、並びに、下記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを、前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式(1)中、Mは金属である。X〜X16はそれぞれ独立に、水素原子及びハロゲン原子から選ばれる1種であり、X〜X16のうち、水素原子の数は8個以下であり、ハロゲン原子の数は8個以上である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2次色の画像を形成した際に、耐擦過性及び光沢性の高い画像を得ることができる画像記録方法及びインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書の記載において、C.I.とは、カラーインデックスの略語である。尚、本発明において「ハロゲン化金属フタロシアニン顔料」とは、中心金属を有するフタロシアニン顔料のベンゼン環の水素原子がハロゲン原子で置換されている顔料を意味する。
【0012】
本発明の画像記録方法は、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインクを記録媒体に付与する工程、並びに、下記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを、前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする。
【0013】
【化2】

【0014】
(一般式(1)中、Mは金属である。X〜X16はそれぞれ独立に、水素原子及びハロゲン原子から選ばれる1種であり、X〜X16のうち、水素原子の数は8個以下であり、ハロゲン原子の数は8個以上である。)
【0015】
まず本発明者らは、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体(樹脂分散剤)で分散された顔料を含有するインクと、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有するインクを用いて2次色の画像を形成した場合に、光沢性が低下してしまう理由について検討を行った。以下に詳細に説明する。
【0016】
ハロゲン化金属フタロシアニン顔料は、置換しているハロゲン原子の電気陰性度が高く、電子を吸引しやすいため、フタロシアニン分子内の非局在化した電子は、ハロゲン原子に大きく引き寄せられる。その結果、中心金属の電子密度が低下し、中心金属は正の電荷を帯びる。一方、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体は水酸基を有するが、この水酸基の酸素原子は電気陰性度が高い。したがって、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有するインクとハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有するインクを記録媒体において少なくとも一部で重なるように付与して画像を記録した場合、2種のインクが重なる領域において以下のような現象が起きていると考えられる。即ち、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の水酸基の酸素原子が、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料のフタロシアニン分子の中心金属に引き寄せられる。この現象により、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体が表面に吸着している顔料が、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料に引き寄せられるため、2種の顔料同士が近傍に存在することにより、顔料の凝集が起き易くなる。このようなメカニズムにより生じた凝集体が画像内に存在すると、画像の表面に凹凸ができ、表面反射光の強度に差が生じるため、2次色の画像の光沢性が低下する。
【0017】
この2次色の画像の光沢性の低下は、使用するハロゲン化金属フタロシアニン顔料の置換ハロゲン原子の数が多い程、より顕著に起こる。これは、置換ハロゲン原子の数の増加に伴って、フタロシアニン分子の中心金属の電子密度の低下が大きくなることで、上記の顔料の凝集が促進されるためである。本発明者らが、複数のハロゲン化金属フタロシアニン顔料について検討を行ったところ、置換ハロゲン原子の数が8以上の顔料、即ち、上記一般式(1)で表される顔料を用いた場合において、特に2次色の画像の光沢性の低下が発生することが分かった。また、ハロゲン化されていない金属フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15など)を用いた場合は、上記のフタロシアニン分子の中心金属の電子密度の低下が起きないため、2次色の画像の光沢性が低くなるという本発明の課題自体が生じない。
【0018】
このような結果を受けて本発明者らが検討を重ねたところ、上記一般式(1)で表されるハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有するインク(第2のインク)中にヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有させることで、上記課題を解決できることが分かった。これにより、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有するインク(第1のインク)と第2のインクを用いて2次色の画像を形成した際に、耐擦過性及び光沢性の高い画像を得ることができることが分かった。詳細を以下に説明する。
【0019】
ヒドロキシ酸やアミノ酸は、その分子内に電気陰性度の高い酸素原子や窒素原子を有している。そのため、ヒドロキシ酸やアミノ酸を第2のインク中に含有させると、ヒドロキシ酸やアミノ酸の分子内の酸素原子や窒素原子は、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料のフタロシアニン分子の中心金属に吸着する。その結果、フタロシアニン分子の中心金属をヒドロキシ酸やアミノ酸の分子が取り囲む構造となる。このような構造により、第1のインクと第2のインクを用いて2次色の画像を形成しても、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体がハロゲン化金属フタロシアニン顔料に引き寄せられるのを遮蔽する作用がある。このような作用により、上記の顔料の凝集が抑制される。更に、ヒドロキシ酸やアミノ酸はカルボキシル基を有するため、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料に吸着することで、顔料自体の分散性を向上させる。以上のメカニズムにより、得られる2次色の画像の光沢性が向上する。このように、本発明の各構成が有効に働くことで、本発明の効果を達成することが可能となると推測される。
【0020】
[画像記録方法]
本発明の画像記録方法は、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインクを記録媒体に付与する工程、並びに、上記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを、前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする。本発明においては、前記第1及び第2のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させる方式のインクジェット記録方法が好ましい。特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法が好ましい。尚、本発明における「記録」とは、インク受容層を有する記録媒体や普通紙などの記録媒体に対して記録する態様、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体に対してプリントを行う態様を含む。
【0021】
また、本発明の画像記録方法は、前記第1のインクを記録媒体に付与する工程(A)と、前記第2のインクを前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程(B)の2つの工程を有する。工程(A)の後に工程(B)を行っても、工程(B)の後に工程(A)を行っても構わない。また、同じ工程を2回以上行うような場合、例えば、工程(A)→工程(B)→工程(A)や、工程(B)→工程(A)→工程(B)でも構わない。
【0022】
[インクセット]
本発明のインクセットは、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインク、並びに、上記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを有することを特徴とする。尚、セットとして組み合わせることのできるインクについての限定は特になく、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクなどを用いることができる。以下、本発明の画像記録方法及びインクセットに用いるインクについて説明する。
【0023】
[インク]
本発明の画像記録方法及びインクセットに用いる第1のインクはビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有するインクであり、第2のインクは、上記一般式(1)で表されるハロゲン化金属フタロシアニン顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有するインクである。以下、それぞれのインクを構成する成分について説明する。尚、以下「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」を示すものとする。
【0024】
<第1のインクの成分>
(ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体)
本発明において、第1のインクは、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体を含有する。本発明において「ビニルアルコールに由来するユニット」とは、下記一般式(2)で表される構造を意味する。
【0025】
【化3】

【0026】
一般的に、一般式(2)で表される構造を有する重合体を合成する場合は、モノマーとして酢酸ビニルを用いて重合した後、エステル結合を加水分解(けん化)する方法を用いる。本発明においても、ビニルアルコールに由来するユニットに関しては、この方法により合成することが好ましい。その場合、酢酸ビニルと共重合するモノマーとしては、共重合することによって顔料を分散させる樹脂となりさえすれば、以下に示すような親水性モノマーや疎水性モノマーなどの汎用のモノマーを何れも用いることができる。
【0027】
親水性モノマーとしては、酸モノマー及びその塩、又は、非イオン性の親水性基(水酸基やアミド基など)を有する化合物が挙げられる。酸モノマー及びその塩としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸、その誘導体、及びその塩が挙げられる。塩としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)塩、アンモニウム塩及び有機アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸やその塩が好ましい。塩としては、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。また、非イオン性の親水性基を有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−メチル−5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、2−フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのエチレンオキサイドが付加された(メタ)アクリル酸エステル;メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。
【0028】
また、疎水性モノマーとしては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、o−キシリル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素から誘導された官能基又は置換基であるアリール基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物や(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。アリール基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とアリール基を有するアルキルアルコールから合成されるエステル化合物などが挙げられる。これらの中でも、スチレンを用いることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
本発明において、第1のインクに使用するビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、1,500以上30,000以下であることが好ましい。1,500より小さいと、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。30,000より大きいと、顔料分散体の粘度が高くなることによりインクの吐出安定性や保存安定性などの信頼性が十分に得られない場合がある。また、本発明において、けん化度(mol%)は、90mol%以上100mol%以下であることが好ましい。尚、本発明における「けん化度」とは、けん化によってビニルアルコールユニットに変換され得る酢酸エステルユニットの量に対する、けん化後に実際にビニルアルコールユニットに変換された量の割合を意味する。けん化度は、通常、けん化前後の樹脂をそれぞれ核磁気共鳴法(13C−NMR)で測定し、計算に必要なユニットの量を算出して求める。
【0030】
また、第1のインク中のビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の含有量(質量%)が顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.005倍以上0.500倍以下であることが好ましい。尚、この場合の含有量は、第1のインク全質量を基準とした値である。0.005倍より小さい場合は、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。0.500倍より大きい場合はインクの吐出安定性や保存安定性などの信頼性が十分に得られない場合がある。
【0031】
(共重合体の形態)
本発明において、第1のインクに使用するビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、グラジエント共重合体の何れの形態でもよいが、顔料の分散をより安定とするブロック共重合体であることが好ましい。特に、ポリビニルアルコールセグメント(以下「PVAセグメント」とする)及び疎水性セグメントを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0032】
本発明において「ブロック共重合体」とは、少なくとも2種の異なる重合体を共有結合によって連結させた構造を有する共重合体を意味する。それぞれの重合体は1種類のモノマーを単重合させたものでも、2種以上のモノマーをランダム共重合させたものでもよく、他のブロックと異なる重合体でありさえすればよい。したがって、本発明における「PVAセグメント及び疎水性セグメントを有するブロック共重合体」は、少なくともPVAセグメントと疎水性セグメントを共有結合によって連結させた構造を有する共重合体を意味する。また、本発明において、第1のインクに使用するビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体が、PVAセグメント及び疎水性セグメントを有するブロック共重合体である場合は、分散安定性の観点からPVAセグメントが末端に存在することがより好ましい。例えば、ABA型のブロック共重合体であれば、PVAセグメントはAであることが好ましい。また、ABC型のブロック共重合体であれば、PVAセグメントはA又はCであることが好ましい。
【0033】
また、疎水性セグメントは上記の疎水性モノマーから選ばれる1種のみを単重合させて疎水性セグメントを形成してもよく、又は2種以上をランダム共重合することで疎水性セグメントを形成してもよい。また、セグメント全体として疎水性になるのであれば、上記の親水性モノマーと上記の疎水性モノマーをランダム共重合しても疎水性セグメントを形成してもよい。その場合は、親水性モノマーに由来する構造の、疎水性セグメントに占める割合が、65質量%以下であることが好ましい。また、本発明においては、上記の疎水性モノマーの中でも、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸メチルから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0034】
本発明において、第1のインクに使用するビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体がブロック共重合体であるとき、PVAセグメントのGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、1,000以上20,000以下であることが好ましい。1,000より小さい場合は、顔料の分散に寄与する親水性部位が相対的に短くなるため、顔料の分散安定性や画像の耐擦過性が十分に得られない場合がある。20,000より大きい場合は、顔料表面に吸着する疎水性部位が相対的に短くなるため、顔料表面から脱着しやすくなり、画像の分散安定性が十分に得られない場合がある。疎水性セグメントのGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、500以上50,000以下であることが好ましい。更には、500以上20,000以下であることが好ましい。
【0035】
また、PVAセグメントの、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体に占める割合が1mol%以上45mol%以下であることが好ましい。1mol%より小さい場合は、顔料の分散に寄与する親水性部位が相対的に短くなるため、顔料の分散安定性や画像の耐擦過性が十分に得られない場合がある。45mol%より大きい場合は、顔料表面に吸着する疎水性部位が相対的に短くなるため、顔料表面から脱着しやすくなり、画像の分散安定性が十分に得られない場合がある。
【0036】
(合成方法)
本発明において、第1のインクに使用するビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の合成方法としては、従来、インクジェット用のインクに用いる共重合体を合成するのに一般的に用いられている方法をいずれも用いることができる。また、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体が、PVAセグメントと疎水性セグメントのブロック共重合体である場合は、リビングラジカル重合法やリビングアニオン重合法などを用いることで合成ができる。
【0037】
(分析方法)
得られたビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の組成、分子量に関しては、従来公知の方法により分析を行うことができる。例えば、共重合体を高温ガスクロマトグラフィー/質量分析計(高温GC/MS)を用いて分析することで、共重合体を構成しているユニットの種類を確認できる。また、共重合体を核磁気共鳴法(13C−NMR)やフーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)によって、これらの化合物の分子量や種類や含有量及びけん化度を定量することができる。また、共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量はGPCにより得られる。本発明におけるGPC測定の手順は以下の通りである。GPC測定用の試料は、樹脂をTHFに入れて数時間静置して溶解し、その後、ポアサイズ0.45μmの耐溶剤性メンブランフィルター(商品名:TITAN2 Syringe Filter、PTFE;SUN−SRi製)でろ過して得る。このとき、試料中の樹脂の含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下になるように調製する。得られた試料を用いて、以下の条件で測定を行う。
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF−806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS−1及びPS−2(Polymer Laboratories製)
(分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。後述する実施例においても、上記の条件で測定を行った。
【0038】
(顔料)
本発明において、第1のインクに使用する顔料は、上記のビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体によって分散された顔料である。具体的には、顔料と分散剤であるビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体を混合し撹拌することで顔料表面に共重合体を吸着させる樹脂分散顔料、顔料粒子をビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面にビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体が化学的に結合した樹脂結合顔料が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。尚、上記のビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体によって分散されていない顔料を用いた場合(インク中にビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体自体を含有しない場合や、含有するが顔料の分散に寄与していない場合など)は、2次色の画像の光沢性が低くなるという課題自体が生じない。
【0039】
本発明において、第1のインクに使用可能な顔料の種類としては、カーボンブラックなどの無機顔料及び有機顔料が挙げられ、インクジェット用インクに使用可能なものとして公知の顔料をいずれも使用することができる。
【0040】
本発明において、第1のインク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下、更には、2.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%未満であると、画像濃度が十分に得られない場合がある。含有量が20.0質量%より大きいと、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。また、本発明において、第1のインク中の顔料の平均粒径(体積基準の平均粒径D50)は、50nm以上150nm以下であることが好ましい。尚、後述する実施例においては、マイクロトラックUPA−EX150(日機装製)を用いて顔料の平均粒径の測定を行った。
【0041】
本発明において、第1のインク中の顔料が、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料であるか否かの判断は以下の方法によって行うことができる。まず、インクを20,000rpmで2時間遠心分離し、顔料を含む沈降成分を回収する。そして、この沈降成分を再度、水に分散して、これに塩酸などを加えて酸析を行う。析出物を遠心分離やろ過などにより分離して、固形物を得る。この固形物について、THFなどの有機溶剤でソックスレー抽出を行って、抽出物を得る。この抽出物が、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体であった場合、「インク中の顔料は、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料である」と判断する。尚、抽出物の同定には、上述の分析方法に記載の方法(13C−NMRやFT−IRなど)を用いる。
【0042】
<第2のインクの成分>
(一般式(1)で表される顔料)
本発明において、第2のインクは、下記一般式(1)で表されるハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有する。
【0043】
【化4】

【0044】
上記一般式(1)中、Mは金属である。Mは、銅、亜鉛、アルミニウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、X〜X16はそれぞれ独立に、水素原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。ハロゲン原子としては、塩素、臭素及びヨウ素から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。更には、塩素及び臭素から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。X〜X16の16個の原子のうち、水素原子の数は8個未満であり、ハロゲン原子の数は8個以上である。このとき、ハロゲン原子の数が12個以上であることが好ましく、更には14個以上であることがより好ましい。上記一般式(1)で表される顔料は、金属フタロシアニン顔料の水素原子をハロゲン原子に置換することで得ることができる。また、上記一般式(1)で表される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、36、37、58が挙げられる。C.I.ピグメントグリーン37は、ハロゲン原子の数が8個であり、C.I.ピグメントグリーン7、36、58は、ハロゲン原子の数が14個以上である。尚、本発明において、上記一般式(1)で表される顔料は、2種以上の顔料を混合したものの構成成分の一部であったり、固溶体顔料(2種以上の顔料分子の混晶体として存在する顔料)の構成成分の一部であったりしてもよい。 上記一般式(1)で表される顔料の分散方法としては、樹脂分散剤を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子を樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面に樹脂が化学的に結合した樹脂結合顔料)や顔料粒子の表面に親水性基を結合した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。中でも樹脂分散顔料や樹脂結合型顔料が好ましい。樹脂分散剤は、上記の第1のインクの成分で例示した親水性モノマーや疎水性モノマーなどを用いて合成することができる。樹脂分散剤は、酸価が100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。また、GPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量が、2,000以上20,000以下であることが好ましい。
【0045】
本発明において、第2のインク中の上記一般式(1)で表される顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下、更には、2.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%未満であると、顔料が少なく、画像濃度が十分に得られない場合がある。含有量が20.0質量%より大きいと、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。また、本発明において、第2のインク中の上記一般式(1)で表される顔料の平均粒径は、50nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0046】
(ヒドロキシ酸・アミノ酸)
本発明において、第2のインクは、ヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する。本発明における「ヒドロキシ酸」とは、「1分子中にカルボキシル基とアルコール性水酸基とをもつ有機化合物」(岩波 理化学辞典 第4版)を意味する。本発明において、ヒドロキシ酸の炭素数としては2以上6以下であることが好ましい。また、水酸基の数が1以上5以下であることが好ましい。具体的に、本発明において、ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸が挙げられる。中でも、乳酸、リンゴ酸、及びクエン酸から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0047】
また、本発明における「アミノ酸」とは、「分子中にアミノ基とカルボキシル基とをもつ化合物」(岩波 理化学辞典 第4版)を意味する。本発明において、アミノ酸の炭素数としては2以上18以下であることが好ましい。また、アミノ基の数が1以上4以下であることが好ましい。具体的に、本発明において、アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)が挙げられる。中でも、EDTA、DTPA、及びTTHAから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0048】
また、本発明において、第2のインクに使用するヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種が、1分子中に有するカルボキシル基の数は2以上5以下であることが好ましい。このとき、ヒドロキシ酸、アミノ酸を2種以上用いる場合は、用いる全てのヒドロキシ酸及びアミノ酸のカルボキシル基の数が、2以上5以下であることが好ましい。ヒドロキシ酸及びアミノ酸のカルボキシル基の数を上記範囲とすることで、2次色の画像の光沢性の向上効果がより高いレベルで得られる。これは、カルボキシル基が1つの場合と比較して、カルボキシル基が複数あることにより、顔料表面の極性基と水素結合により相互作用するカルボキシル基が存在することになり、顔料表面へのヒドロキシ酸・アミノ酸の吸着が強まるためである。この作用により、上述の顔料粒子同士の凝集を抑制する効果が向上するため、2次色の画像の光沢性が更に高くなる。一方、カルボキシル基の数が多くなると、顔料表面の極性基との水素結合作用が優位となり、ヒドロキシ酸・アミノ酸は顔料表面の極性基に偏って存在することになる。これにより、フタロシアニン分子の中心金属を取り囲む作用が弱まり、上述の顔料粒子同士の凝集を抑制する効果が十分でない場合がある。したがって、第2のインクには、上記のヒドロキシ酸及びアミノ酸の中でも、リンゴ酸、クエン酸、EDTA、及びDTPAから選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0049】
上述のメカニズムの通り、本発明の効果は、ヒドロキシ酸やアミノ酸の分子内の酸素原子や窒素原子(陰性)が、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料のフタロシアニン分子の中心金属(陽性)と相互作用することで得られる。したがって、第2のインク中のヒドロキシ酸分子やアミノ酸分子の濃度を、フタロシアニン分子の中心金属の原子濃度(mol/kg)以上とすることで、第1のインクと第2のインクが混合した際にビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体がハロゲン化金属フタロシアニン顔料へ吸着するのを効率的に遮蔽することができる。ここで、顔料の平均粒径をD(m)、顔料密度をd(kg/m)、顔料濃度をa(質量%)、アボガドロ定数をN(1/mol)、顔料表面での金属原子間距離をr(m)とすると、第2のインク中の金属原子濃度C(mol/kg)は、C=3a×1018/(50rdDN)となる。したがって、第2のインク中のヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の濃度(mol/kg)は、一般式(1)で表される顔料における前記金属原子濃度C(mol/kg)以上であることが好ましい。例えば、ハロゲン化金属フタロシアニン分子の場合は、顔料表面での金属原子間距離rは1.2×10−9(m)である。更に、アボガドロ定数Nを6.02×1023(1/mol)とすると、顔料の平均粒径Dが1×10−7(m)、顔料密度dが2,150(kg/m)、顔料濃度aが3.0(質量%)の場合は、金属原子濃度Cは0.97(mmol/kg)となる。したがって、第2のインク中のヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の濃度は、0.97(mmol/kg)以上であることが好ましい。更には、本発明において、第2のインク中のヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の濃度は、第2のインク全質量を基準として、1.0mmol/kg以上30.0mmol/kg以下であることがより好ましい。また、本発明において、第2のインク中に含有するヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)は、第2のインク全質量を基準として、0.005質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0050】
また、前記第2のインク中のヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)が、前記一般式(1)で表される顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.006倍以上0.200倍以下であることが好ましい。尚、この場合の含有量は、第2のインク全質量を基準とした値である。0.006倍より小さいと、顔料に対するヒドロキシ酸及びアミノ酸が相対的に少なく、顔料の中心金属を取り囲む作用が弱まるため、2次色の画像の光沢性の向上効果が十分に得られない場合がある。0.200倍より大きいと、インク中にヒドロキシ酸及びアミノ酸が余剰に存在することにより、微細な結晶の析出などが発生し、2次色の画像の光沢性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0051】
<第1のインク及び第2のインクに共通に使用可能な成分>
(水性媒体)
本発明において、第1のインク及び第2のインクは、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有してもよい。水とは、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、例えば、炭素数1乃至4のアルキルアルコール類、アミド類、ポリアルキレングリコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、多価アルコール類、多価アルコールのアルキルエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を組合せて使用することができる。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下、更には40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下、更には3.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。
【0052】
(界面活性剤)
本発明において、第1のインク及び第2のインクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、従来から、インクジェット用インクの調製の際に用いられているものを何れも用いることができる。具体的には、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのアルキル基部分の炭素数が12乃至22のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類などである。これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上適宜組合せて用いてもよい。
【0053】
(その他の成分)
本発明において、第1のインク及び第2のインクは、上記の成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及びその他の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。このような添加剤のインク中における含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.00質量%以下、更には0.20質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。
【0054】
また、第1のインク及び第2のインクのpHは、それぞれ7.0以上10.0以下の範囲内とするのが好ましい。pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;有機酸や無機酸などが挙げられる。尚、インクのpHは、25℃における値であり、一般的なpHメータを用いて測定することができる。また、25℃におけるインクの粘度は5×10−3Pa・s以下であることが好ましく、例えば水性媒体の構成や含有量によって調整することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。また、以下の実施例の記載においてP(モノマーX)−b−P(モノマーY)は、「モノマーXとモノマーYのブロック共重合体」を、P((モノマーX)−co−(モノマーY))は、「モノマーXとモノマーYのランダム共重合体」を表す。尚、略称は以下の通りである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
MeA:メチルアクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
St:スチレン
VA:ビニルアルコール
VAc:酢酸ビニル
[第1のインクの調製]
<ポリマー1〜10の合成>
国際公開第2004/090006号パンフレットに記載の実施例5の合成方法を参考に、顔料の分散剤として使用する樹脂(共重合体)ポリマー1〜10の合成を行った。ポリマー1及びポリマー3〜9は、PVA−b−P(St−co−BzMA−co−MAA−co−MeA−co−AA)であり、ポリマー2は、P(VA−co−St−co−BzMA−co−MAA−co−MeA−co−AA)であり、ポリマー10はPBzMA−b−PMAAである。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
<第1のインクの顔料分散体の調製>
(顔料分散体1−1の調製)
下記の各成分を混合し、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)を用い分散処理(使用ビーズ:0.3mm径ジルコニアビーズ、ビーズ充填率:85%(嵩比重換算)、分散時間:水冷しながら3時間)を行った。その後、遠心分離を行うことで粗大粒子を除去した。
・C.I.ピグメントイエロー74 15.0質量%
・樹脂分散剤 10.0質量%
(ポリマー1を6.0質量%、ポリマー10を4.0質量%)
・2−ピロリドン 10.0質量%
・イオン交換水 65.0質量%
更に、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過することで、顔料分散体1−1を得た。
【0058】
(顔料分散体1−2〜1−9の調製)
樹脂分散剤を表2の組合せとした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−2〜1−9を得た。
【0059】
(顔料分散体1−10の調製)
C.I.ピグメントイエロー74をカーボンブラックとした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−10を得た。
【0060】
(顔料分散体1−11の調製)
ポリマー1を0.05質量%、ポリマー10を7.95質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−11を得た。
【0061】
(顔料分散体1−12の調製)
ポリマー1を0.06質量%、ポリマー10を7.94質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−12を得た。
【0062】
(顔料分散体1−13の調製)
ポリマー1を6.0質量%、ポリマー10を2.0質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−13を得た。
【0063】
(顔料分散体1−14の調製)
ポリマー1を7.2質量%、ポリマー10を0.8質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−14を得た。
【0064】
(顔料分散体1−15の調製)
樹脂分散剤をポリマー1のみ(6.0質量%)とし、イオン交換水を69.0質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−15を得た。
【0065】
(顔料分散体1−16の調製)
樹脂分散剤をポリマー10のみ(8.0質量%)とし、イオン交換水を67.0質量%とした以外は、顔料分散体1−1と同様にして顔料分散体1−16を得た。
【0066】
【表2】

【0067】
<第1のインクの調製>
(インク1−1の調製)
上記で得られた顔料分散体1−1を下記の各成分と混合した。
・顔料分散体1−1 25.0質量%
・グリセリン 10.0質量%
・トリメチロールプロパン 7.0質量%
・2−ピロリドン 3.0質量%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 54.0質量%
これを十分撹拌して分散し、インク1−1を調製した。
【0068】
(インク1−2〜1−16の調製)
顔料分散体1−1を顔料分散体1−2〜1−16とした以外はインク1−1と同様にしてインク1−2〜1−16を得た。
【0069】
[第2のインクの調製]
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体2−1の調製)
下記の各成分を混合し、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)を用い分散処理(使用ビーズ:0.3mm径ジルコニアビーズ、ビーズ充填率:85%(嵩比重換算)、分散時間:水冷しながら3時間)を行った。その後、遠心分離を行うことで粗大粒子を除去した。また、C.I.ピグメントグリーン7の顔料密度は2,150kg/m、顔料の平均粒径は1.0×10−7mであった。
・C.I.ピグメントグリーン7 15.0質量%
・樹脂分散剤ポリマー10 10.0質量%
・2−ピロリドン 10.0質量%
・イオン交換水 65.0質量%
更に、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過することで、顔料(固形分)の含有量が12.0質量%、樹脂(固形分)の含有量が8.0質量%の顔料分散体2−1を得た。
【0070】
(顔料分散体2−2〜2−4の調製)
C.I.ピグメントグリーン7をC.I.ピグメントグリーン37(顔料密度:1,920kg/m、顔料の平均粒径:1.0×10−7m)、C.I.ピグメントグリーン58(顔料密度:2,800kg/m、顔料の平均粒径:1.0×10−7m)、C.I.ピグメントブルー15(顔料密度:1,620kg/m、顔料の平均粒径:1.0×10−7m)とした以外は顔料分散体2−1と同様にして顔料分散体2−2〜2−4を得た。
【0071】
<第2のインクの調製>
(インク2−1〜2−18の調製)
上記で得られた顔料分散体を表3に示す組合せで、下記各成分と混合し、十分撹拌して分散し、各インクを調製した。
・顔料分散体 25.0質量%
・ヒドロキシ酸・アミノ酸 X質量%
・グリセリン 5.0質量%
・ジエチレングリコール 5.0質量%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
尚、表3に記載の含有量は、すべてインク全質量を基準とした値である。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
【0072】
【表3】

【0073】
[評価]
<実施例1〜28、比較例1〜2>
上記で得られたインクを、それぞれインクカートリッジに充填し、表4に示す組合せでインクセットとし、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着した。このとき、イエローの位置に第1のインクを、グリーンの位置に第2のインクを装着した。そして、キヤノン写真用紙・光沢ゴールドGL−101(キヤノン製)に対して、それぞれのインクの記録デューティが50%である2次色のベタ画像(トータルの記録デューティが100%の画像)を記録した。記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%とした。また、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0074】
(2次色の画像の光沢性)
上記で得られた2次色のベタ画像について、その画像領域における光沢性(20°グロス値)を、マイクロヘイズメーター(BYKガートナー製)を用いて測定し、2次色の画像の光沢性の評価を行った。2次色の画像の光沢性の評価基準は下記の通りである。尚、下記の2次色の画像の光沢性の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示した。
AA:20°グロス値が、55以上であった
A:20°グロス値が、50以上55未満であった
B:20°グロス値が、45以上50未満であった
C:20°グロス値が、45未満であった。
【0075】
(2次色の画像の耐擦過性)
上記で得られた2次色のベタ画像を、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて爪で引っ掻いた。その後、画像を目視で確認して、2次色の画像の耐擦過性の評価を行った。2次色の画像の耐擦過性の評価基準は下記の通りである。尚、下記の2次色の画像の耐擦過性の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、C〜Dは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示した。
AA:画像の表面に爪跡が残らなかった
A:画像の表面に若干爪跡が残ったものの、記録媒体から色材が削れ落ちることはなかった
B:画像の表面に爪跡は残ったものの、記録媒体から色材が削れ落ちることはなかった
C:画像の表面に爪跡が残り、かつ、記録媒体から色材がわずかに削れ落ちた
D:記録媒体の表面は露出しなかったが、色材が明らかに削れ落ちた。
【0076】
【表4】

【0077】
<参考例1−1及び1−2>
表5に示す第1のインクと第2のインクの組合せで、上記<実施例1〜28、比較例1〜2>と同様にベタ画像を記録して、2次色の画像の光沢性の評価を行ったところ、クエン酸を含有する場合(参考例1−1)と含有しない場合(参考例1−2)で、2次色の画像の光沢性に差が生じなかった。これは、上述の通り、ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体によって分散されていない顔料を用いた場合は、2次色の画像の光沢性が低くなるという課題自体が生じないためである。また、参考例1−1の2次色の画像の耐擦過性の評価を行ったところ、B評価となった。
【0078】
【表5】

【0079】
<参考例2−1及び2−2>
表6に示す第1のインクと第2のインクの組合せで、上記<実施例1〜28、比較例1〜2>と同様にベタ画像を記録して、2次色の画像の光沢性の評価を行ったところ、クエン酸を含有する場合(参考例2−1)と含有しない場合(参考例2−2)で、2次色の画像の光沢性に差が生じなかった。これは、上述の通り、C.I.ピグメントブルー15のようなハロゲン化されていない金属フタロシアニン顔料を第2のインクに用いた場合は、2次色の画像の光沢性が低くなるという課題自体が生じないためである。
【0080】
【表6】

【0081】
<参考例3>
インク1−1をインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着し、キヤノン写真用紙・光沢ゴールドGL−101(キヤノン製)に対して、インクの記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。記録条件は、上記<実施例1〜28、比較例1〜2>と同様にした。得られたベタ画像について、上記<実施例1〜28、比較例1〜2>と同様にして、画像の光沢性の評価を行った。
【0082】
<参考例4>
インク2−14について、<参考例3>と同様にして、インクの記録デューティが100%であるベタ画像を記録し、画像の光沢性の評価を行った。
【0083】
その結果、参考例3及び4で得られた画像と、比較例2(第1のインクがインク1−1で、第2のインクがインク2−14)の2次色の画像を比較すると、比較例2の方が画像の光沢性が低かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインクを記録媒体に付与する工程、並びに、
下記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを、前記第1のインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする画像記録方法。
【化1】


(一般式(1)中、Mは金属である。X〜X16はそれぞれ独立に、水素原子及びハロゲン原子から選ばれる1種であり、X〜X16のうち、水素原子の数は8個以下であり、ハロゲン原子の数は8個以上である。)
【請求項2】
前記第1のインク中の前記ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体が、ポリビニルアルコールセグメント及び疎水性セグメントを有するブロック共重合体である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記第1のインク中の前記ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の重量平均分子量が、1,500以上30,000以下である請求項1又は2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記第1のインク中の前記ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体の含有量(質量%)が、前記顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.005倍以上0.500倍以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記第2のインク中の前記ヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種が、1分子中に有するカルボキシル基の数が、2以上5以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項6】
前記第2のインク中の前記ヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の濃度(mmol/kg)が、第2のインク全質量を基準として、1.0mmol/kg以上30.0mmol/kg以下である請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項7】
前記第2のインク中の前記ヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)が、前記一般式(1)で表される顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.006倍以上0.200倍以下である請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項8】
前記第2のインク中の前記ヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の濃度(mol/kg)が、前記第2のインク中の前記一般式(1)で表される顔料における金属原子濃度(mol/kg)以上である請求項1乃至7の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項9】
ビニルアルコールに由来するユニットを有する共重合体で分散された顔料を含有する第1のインク、並びに、下記一般式(1)で表される顔料並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸から選ばれる少なくとも1種を含有する第2のインクを有することを特徴とするインクセット。
【化2】


(一般式(1)中、Mは金属である。X〜X16はそれぞれ独立に、水素原子及びハロゲン原子から選ばれる1種であり、X〜X16のうち、水素原子の数は8個以下であり、ハロゲン原子の数は8個以上である。)


【公開番号】特開2012−121321(P2012−121321A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242515(P2011−242515)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】