説明

異常細胞の検出装置およびその検出方法

【課題】異常細胞の検出装置において、異常細胞の検出感度を向上させること、特に、異常細胞の特異度を維持したまま、検出感度の向上を図ることを課題とする。
【解決手段】多数の血球を含む血液試料から測定された散乱光強度,蛍光強度,直流抵抗値および高周波抵抗値を用いて、血球を特定のグループごとに分画表示することが可能な複数の散布図を生成し、この散布図を用いて、血液試料に含まれる異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出する。パラメータごとに所定の評価点を与えるためのスコア基準データに基づいて、算出されたパラメータの値にそれぞれ評価点を付与し、算出された各評価点に所定の重み付けをして、異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異常細胞の検出装置に関し、特に、細胞の大きさや内部状態を反映した情報を取得して、異常細胞の出現を判定する異常細胞の検出装置に関する。
特に、異常細胞としては、骨髄球系白血病の患者に出現する未成熟細胞の一つである芽球(Blast)などが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、各社から自動血球分析装置が開発されているが、赤血球や白血球の血球数を自動的に計数するだけでなく、血液中に含まれる白血球の種類を分類することのできる装置が市販されている。
このような血球計数処理と血球分類処理とを組み合わせることにより、白血病患者等に特異的に出現する異常細胞の検出を行い、異常細胞の出現や発病のおそれの有無を報知することが行われている。医者は、この報知内容をもとにして、必要に応じて異常細胞が出現した異常検体の目視検査を行ったり、再検査を行うことにより、病気か否かの判断し、治療方針を決定する。
【0003】
目視検査は、熟練した担当者でも数時間かかることがあり、負担が非常に大きいので、自動血球分析装置を用いて、完全ではないが一次的な異常細胞の検出を短時間で行うことが行われている。
従来の自動血球分析装置では、血液中に含まれる種々の血球の情報を得るために、RF/DC検出法,シースフローDC検出法,あるいは半導体レーザを使用したフローサイトメトリー法などが用いられている。
【0004】
たとえば、RF/DC検出法では、溶血剤または希釈液と混合した血液試料に直流電流と高周波電流を流し、血球の大きさを反映した直流抵抗の変化(以下、DCと呼ぶ)と、血球内部の密度を反映した高周波抵抗の変化(以下、RFと呼ぶ)を測定する。測定された2つの情報を直交軸とする2次元の散布図(以下、スキャッタグラムと呼ぶ)に描くことにより、血液中に存在する血球の数や種類を知ることができる。DCとRFとを直交軸とするスキャッタグラムを、IMIスキャッタグラムと読んでいる。
【0005】
また、半導体レーザを使用したフローサイトメトリー法では、溶血剤または希釈液と混合した血液試料を細流化してフローセルと呼ばれる容器に流し、この細流に半導体レーザ光を照射したときに得られる前方散乱光(以下、FSCと呼ぶ)、側方散乱光(以下、SSCと呼ぶ)、および側方蛍光(以下、SFLと呼ぶ)の強度を測定する。
測定された3つの強度情報のうち2つの情報を用いてスキャッタグラムを描くことにより、血液中に存在する細胞の分類や異常細胞の出現を検出することができる。
SFLとSSCとを直交軸とするスキャッタグラムを、DIFFスキャッタグラム、FSCとSSCとを直交軸とするスキャッタグラムを、WBC/BASOスキャッタグラムと呼んでいる。
【0006】
以上のような測定を行うことができる自動血球分析装置を用いて、白血球の分類や異常細胞の検出がすでに行われている。たとえば、自動血球分析装置は、骨髄球系白血病の発病か否かを判断する上で重要な要因となる芽球(以下、Blastと呼ぶ)の検出にも用いられている。従来の自動血球分析装置において、Blastの検出のためには、RF/DC検出法を用いたIMIチャネルの測定と、フローサイトメトリー法を用いたDIFFチャネルの測定とが用いられている。
【0007】
IMIチャネルの測定では、前記したRF/DC検出法によって得られたRF信号とDC信号とを2つの直交軸とするIMIスキャッタグラムを作成し、IMIスキャッタグラムの粒子分布の中で特定の領域に出現する幼若白血球の数(IA)を計数する。
図13に、異常細胞を含む血液試料のIMIスキャッタグラムの例を示す。図13において、Blastsと示した領域の粒子数を計数する。
【0008】
一方、DIFFチャネルの測定では、フローサイトメトリー法によって得られた白血球の側方蛍光強度(SFL)と、側方散乱光強度(SSC)とからDIFFスキャッタグラムを作成する。DIFFスキャッタグラムでは、白血球の種類によって出現する領域がほぼ決まっているので、芽球(Blast)が出現すると考えられる領域の粒子数(dB)を計数する。
【0009】
図14に、異常細胞を含む血球のDIFFスキャッタグラムの例を示す。
図14において、「Blasts/Atypical Lympho」と示した領域の粒子数(dB)を計数する。
従来は、この2つの粒子数(IA,dB)が、所定のしきい値を越えた場合に、Blastが検出されたと判定し、異常細胞であるBlastが出現している可能性が高いことを報知していた。
従来の異常細胞の検出に関する技術文献としては、次のようなものがある。
【非特許文献1】Comparative Evaluation of Abbott Cell-Dyn 3700, Bayer Advia 120, and Sysmex XE-2100 Antomated Leukocyte Differentials and Flagging, 2002,Laboratory Hematology 8:102-117, Carden Jennings Publishing Co., Ltd.
【非特許文献2】Three-Way Evaluation of High-Throughput Hematology Analyzers-Beckman Coulter LH750, Abbott Cell-Dyn 4000, and Sysmex XE-2100, 2002,Laboratory Hematology 8:230-238, Carden Jennings Publishing Co., Ltd.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来のように、2つのスキャッタグラムから得られる粒子数を測定するものでは、いわゆる特異度は比較的高いが、感度があまり高くないのが現状である。
特異度Nとは、ある血液試料について目視検査により正常細胞と判定された粒子の数N1に対して、従来の自動血球分析装置で正常細胞として計数された粒子数N2の占める割合(N=N2/N1×100(%))をいう。
【0011】
感度Pとは、ある血液試料について目視検査により異常細胞と判定された粒子の数P1に対して、従来の自動血球分析装置で異常細胞として計数された粒子数P2の占める割合(P=P2/P1×100(%))をいう。
過去の経験や多数のサンプルにより、スキャッタグラム上の異常細胞の出現する領域を予め定めているが、あらゆる検体に適用できる出現領域を設定することは困難である。また、そのような領域が設定できたとしても、固体差があるため、本来目視では正常細胞であるにもかかわらず、装置の測定では、異常細胞の検出領域に分類されてしまう場合があり、逆に、異常が正常と判定されてしまう場合もある。
【0012】
図15に、従来の細胞分析装置で行ったBlast検出に対する感度と特異度の具体例の説明図を示す。
図15において、目視検査では、異常(P)と判定された検体数(total=120)に対して、装置によるBlast検出では56検体が異常(P)と判定され、64検体が正常(N)と判定されたことを示している。すなわち、この場合、感度は、56/120×100=47(%)であり、低い。
【0013】
また、目視検査では正常と判定された検体数(total=201)に対して、装置による正常細胞の検出では10検体が異常(P)と判定され、191検体が正常(N)と判定されたことを示している。すなわち、特異度は、191/201×100=95(%)である。
このように、従来のように2つの粒子数を基にして異常細胞を検出する場合に、感度が低いのは、次のような理由による。
【0014】
異常細胞が出現すると考えられる領域を広く設定した場合には、本来他の領域に属すべき粒子が異常細胞出現領域に混入する場合があるので、感度は低くなる傾向があった。
また、異常細胞の出現領域を狭く設定した場合には、感度は高くなるが、逆に正常細胞の領域に異常細胞が含まれる可能性が大きくなるので、特異度が低くなる傾向があった。
したがって、従来のように2つの粒子数をもとに異常細胞の出現の判定をするものでは、高い特異度を維持したまま、感度を上げることは困難であった。
【0015】
また、骨髄球系白血病において、異常細胞としては、本来骨髄中にのみ存在し、まだ未成熟な段階の血球である「芽球(Blast)」や「幼若顕粒球」があげられ、芽球等が末梢血中に出現した場合に、白血病と診断される。
従来の白血病の治療では、異常細胞を含む正常な白血球をすべて攻撃し除去する治療方法が採用されており、Blastのみの検出感度が低くても、他の異常細胞を含めて、異常細胞全体として高い感度で検出ができれば、治療効果を上げることができた。例えば、図16に図15と同じ血液試料について、従来の細胞分析装置で行った異常細胞全体の検出に対する感度と特異度の具体例の説明図を示す。ここで、異常細胞全体では、87%の高い検出感度で検出できていることがわかる。
【0016】
しかし、今日では、白血球の除去治療を行った後に、どのような異常細胞が再度出現するかを確認することが、その後の治療方針にとって重要であることが認められている。すなわち、医療の現場では、芽球(Blast)などの異常細胞のうちのどの異常細胞が出現しているのかを、感度良く検出することが求められている。言いかえれば、出現した異常細胞の特定とその検出感度の向上が求められている。
【0017】
ところで、白血病の診断,治療の現場では、異常細胞の検出については、最終的には熟練した担当者による目視検査で判断され、このような装置による判定結果は、判定要素の一つとして用いられているにすぎない。
【0018】
しかし、目視検査のみでは、担当者の負担が大きく、迅速性と診断の質の均一性に欠けるので、自動血球分析装置を用いた細胞検出において、異常細胞を検出する感度と特異度のどちらも高くすることができれば、白血病の診断および治療について全体として時間短縮と質の向上に寄与できる。
【0019】
そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、白血病等の診断および治療において必要となる異常細胞の検出を、高い特異度を維持したまま、従来よりも高い感度で行うことのできる異常細胞検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、多数の血球を含む血液試料にレーザ光を照射することにより血球ごとの散乱光強度および蛍光強度を測定する第1測定部と、前記血液試料に直流電流および高周波電流を印加することにより血球ごとの直流抵抗値および高周波抵抗値を測定する第2測定部と、前記第1および第2測定部で測定された散乱光強度,蛍光強度,直流抵抗値および高周波抵抗値を用いて、血球を特定のグループごとに分画表示することが可能な複数の散布図を生成する演算部と、演算部によって生成された散布図を用いて、血液試料に含まれる異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出するパラメータ算出部と、算出されたパラメータごとに所定の評価点を与えるためのスコア基準データを記憶した記憶部と、前記スコア基準データに基づいて前記算出されたパラメータの値にそれぞれ評価点を付与するスコア算出部と、スコア算出部によって算出された各評価点に所定の重み付けをして、異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出する異常細胞判定部とを備えたことを特徴とする異常細胞検出装置を提供するものである。
【0021】
ここで、前記測定される散乱光が前方散乱光および側方散乱光を含み、前記散布図が、側方散乱光強度および蛍光強度を直交軸とする第1散布図と、側方散乱光強度および前方散乱光を直交軸とする第2散布図と、直流抵抗値と高周波抵抗値を直交軸とする第3散布図とからなるものとする。
【0022】
また、前記異常細胞判定部が判定する異常細胞が、骨髄球系白血病に特有の芽球である場合、前記パラメータ算出部で算出されるパラメータが、次の4つのパラメータ
(1)前記第1散布図の特定の領域に分布した単核球クラスタの蛍光強度平均値(D1)、
(2)前記第1散布図において、健常人では血球が測定されることのない所定の高蛍光強度領域の中に出現した血球の粒子数(D2)、
(3)前記第2散布図の特定の領域に分布した単核球およびリンパ球を含むBWCクラスタの重心位置の基準位置に対する変化量(D3)、
(4)前記第3散布図において予め定められた芽球出現領域の中に出現した血球の粒子数(D4)、
からなるものとする。
【0023】
さらに、前記パラメータ算出部で算出されるパラメータがn個ある場合において、各パラメータごとに付与される評価点をSCi(i=1〜n)とし、その各評価点ごとに定められた重み付けの定数をKi(i=1〜n)とした場合、異常細胞判定部が算出する評価値Hは、評価値H=K1*SC1+K2*SC2+…Ki×SCi+…Kn*SCn、で与えられるものとする。
【0024】
また、この発明は、多数の血球を含む血液試料にレーザ光を照射することにより血球ごとの散乱光強度および蛍光強度を測定する第1測定ステップと、前記血液試料に直流電流および高周波電流を印加することにより血球ごとの直流抵抗値および高周波抵抗値を測定する第2測定ステップと、前記第1および第2測定ステップで測定された散乱光強度,蛍光強度,直流抵抗値および高周波抵抗値を用いて、血球を特定のグループごとに分画表示することが可能な複数の散布図を生成する演算ステップと、演算ステップによって生成された散布図を用いて、血液試料に含まれる異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、算出されたパラメータごとに所定の評価点を与えるためのスコア基準データに基づいて、前記算出されたパラメータの値にそれぞれ評価点を付与するスコア算出ステップと、スコア算出ステップによって算出された各評価点に所定の重み付けをして、異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出する異常細胞判定ステップとを備えたことを特徴とする異常細胞の検出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出し、算出されたパラメータにそれぞれ評価点を付与し、各評価点を重み付けして異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出するので、血液試料に含まれる異常細胞の検出の精度を向上させることができる。
特に、骨髄球系白血病において出現する芽球(Blast)の検出において、その特異度を高く維持したまま、検出感度を向上させることができる。
したがって、白血病の診断および治療について、全体として時間短縮,担当者の負担軽減,および診断の質の向上に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明において、第1測定部で測定される散乱光強度には、少なくとも前方散乱光強度と側方散乱光強度の2つがある。また、第1測定部は、少なくとも側方蛍光強度を測定するSFL測定部と、側方散乱光強度を測定するSSC測定部と、前方散乱光強度を測定するFSC測定部とから構成される。
第2測定部は、直流抵抗値を測定するDC検出部と、高周波抵抗値を測定するRF検出部とから構成される。
また、第1測定部の構成は、従来の半導体レーザを使用したフローサイトメトリー法で利用されている装置と同じものを用いることができる。
第2測定部の構成は、従来のRF/DC検出法で利用されている装置と同じものを用いることができる。
【0027】
この発明の散布図とは、いわゆるスキャッタグラムを意味し、第1散布図とはDIFFスキャッタグラム,第2散布図とはWBC/BASOスキャッタグラム,第3散布図とはIMIスキャッタグラムを意味する。
また、この発明の演算部,パラメータ算出部,スコア算出部および異常細胞判定部は、この発明の検出装置を機能面から見て分けた機能ブロックであり、各機能ブロックの動作は、主として、CPU,ROM,RAM,I/Oインターフェース,タイマーなどからなるマイクロコンピュータが、ROM又はRAM等に格納されたプログラムに基づいて各種ハードウェアを制御することにより実現される。
【0028】
以下、図に示す実施例に基づいて本発明を詳述する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例では、骨髄球系白血病(myelocytic leukemia)の患者に出現する異常細胞の一つである芽球(Blast)の検出を行う場合について、この発明の構成,機能および検出方法を説明する。ただし、これに限るものではなく、異常細胞分析装置の構成,機能および検出方法の主要部分は、他の異常細胞の検出にも応用できる。たとえば、リンパ球性白血病(lymphocytic leukemia)の異常細胞(Blastなど)の検出に応用できる。
【0030】
<この発明の異常細胞検出装置の構成>
図1に、この発明の異常細胞検出装置の一実施例の構成ブロック図を示す。
この発明の異常細胞検出装置は、主として、血球情報を取得するための測定部(71〜76),異常細胞を特定するのに有用なパラメータ(D1〜D4)を求めるための演算部(81〜83,91〜94),上記パラメータから判定に用いる評価値(H)を求めるためのスコア算出部5とBLAST判定部6,データおよび選択指示などを入力する入力部2,評価値,演算データおよび各種スキャッタグラムなどを出力する出力部3,判定に用いる基準データや演算データを記憶する記憶部4および以上の各部分の動作を制御する制御部1とから構成される。
【0031】
〔測定部の構成と機能〕
測定部は、従来の自動血球分析装置でも行われている部分であり、この発明で利用されるものとして、SFL測定部71,SSC測定部72,FSC測定部73,IMI検出部74がある。
SFL測定部71は、側方蛍光(SFL)の強度を測定する部分であり、SSC測定部72は、側方散乱光(SSC)の強度を測定する部分であり、FSC測定部73は、前方散乱光(FSC)の強度を測定する部分である。
これらの測定は、それぞれ別々に行われるのではなく、半導体レーザを使用したフローサイトメトリー法を用いて同じ測定系でほぼ同時に行われる。測定装置および測定方法は、従来と同じものを用いることができる。
【0032】
IMI検出部74は、RF検出部75とDC検出部76とからなり、血球の大きさに対応した直流抵抗の変化(DC値)と、血球内部の密度(核の大きさなど)に対応した高周波抵抗の変化(RF値)とを測定する部分である。
IMI検出部74も、従来と同じ測定装置および測定方法を用いることができる。血液中に含まれる1つの血球ごとに、ほぼ同時に、DC値とRF値とが測定される。
【0033】
〔演算部の構成と機能〕
演算部は、測定部で取得した血球情報を組み合わせて、スキャッタグラムを生成する部分(81,82,83)と、スキャッタグラムを用いて異常細胞であるBlastを検出するのに有用なパラメータ(D1〜D4)を求める部分(91〜94)とから構成される。
【0034】
この発明では、Blastの検出のために、3つのスキャッタグラムを生成する。
DIFF演算部81は、SSC測定部72で測定された側方散乱光(SSC)をX軸方向とし、SFL測定部71で測定された側方蛍光(SFL)をY軸方向としたDIFFスキャッタグラムを生成する部分である。
DIFFスキャッタグラムは、通常、赤血球ゴースト,リンパ球,単核球,好酸球,好中球,好酸基球の集団(クラスタと呼ぶ)を分画して表示することができるものであるが、この発明では単核球クラスタの蛍光強度の平均値(D1)を求めるために用いられる。
この平均値(D1)は細胞の活性化および増殖度を反映したものであり、Blastを含む血液ではこの平均値が大きくなる傾向がある。
【0035】
また、DIFFスキャッタグラム上において、蛍光強度が比較的高い領域には、健常人には出現しない未成熟な白血球細胞が分画して表示される場合がある。
この発明では、DIFFスキャッタグラム上において、健常人では血球が測定されることのない予め定められた高蛍光強度領域に出現した粒子の数(D2)をカウントする。
図1の平均値算出部91は、DIFFスキャッタグラムから、単核球クラスタの蛍光強度の平均値(D1)を求める部分であり、高蛍光強度計数部92は、DIFFスキャッタグラムから所定の高蛍光強度領域に出現した粒子の粒子数(D2)を求める部分である。
【0036】
WBC/BASO演算部82は、SSC測定部71で測定された側方散乱光(SSC)をX軸方向とし、FSC測定部73で測定された前方散乱光(FSC)をY軸方向としたWBC/BASOスキャッタグラムを生成する部分である。
WBC/BASOスキャッタグラムは、赤血球ゴースト,白血球の中の好塩基球(BASO)とそれ以外の白血球(リンパ球,単核球,好中球,好酸球)の集団(WBCクラスタと呼ぶ)とを分画して表示することができるものであるが、この発明では、WBCクラスタの重心の変位量(D3)を求めるために用いられる。
【0037】
Blastを含む血液では、WBCクラスタのスキャッタグラム上の位置は、Blastを含まない健常人のWBCクラスタの位置に対して、SSCが大きくかつFSCが小さくなる方向にシフトする傾向がある。
すなわち、このシフトした量に対応した重心の変位量(D3)は、Blastの検出のために有用なパラメータとなる。
図1の重心算出部93が、WBC/BASOスキャッタグラムを利用して、WBCのクラスタの重心の変位量(D3)を算出する部分である。
ここで、多数の健常人から得たWBCクラスタの重心の位置を基準位置として予め設定しておき、測定対象となった人の血液試料から得られたWBCクラスタの重心位置と、この基準位置との直線的な距離を重心の変位量(D3)とする。
【0038】
IMI演算部83は、DC検出部76で検出されたDC値をX軸方向とし、RF検出部75で検出されたRF値をY軸方向としたIMIスキャッタグラムを生成する部分である。
IMIスキャッタグラムは、赤血球ゴーストと白血球成熟細胞(好中球など)とを含むクラスタと、Blastを含む白血球の未成熟細胞のクラスタとを分画して表示することができるものである。
白血球の未成熟細胞には、blastの他に骨髄球などの幼若顕粒球も含まれるが、IMIスキャッタグラム上でBlastの出現する領域はほぼ一定しているので、この発明では、IMIスキャッタグラム上の予め定められた芽球出現領域の中に出現した粒子の粒子数(D4)をカウントする。
図1の芽球計数部94が、IMIスキャッタグラムを利用して、所定の芽球出現領域の粒子数(D4)を求める部分である。
【0039】
図3に、DIFF演算部81で生成されるDIFFスキャッタグラムの一実施例を示す。
図3では、説明のために、粒子が出現する領域を模式的な円形で示している。
図3において、領域A1が赤血球ゴースト,領域A2がリンパ球,領域A3が単核球,領域A4が好中球および好塩基球,領域A5が好酸球の出現するおおよその領域を示している。
図3(a)は、健常人で測定される典型的なDIFFスキャッタグラムである。
ここで、単核球が出現する領域A3は側方蛍光強度(SFL)が比較的低い部分であり、図の高蛍光強度領域(HF)には粒子は測定されない。
図3(b)は、Blastなどの異常細胞を含む場合に測定されるDIFFスキャッタグラムの例である。
【0040】
ここで、単核球が出現する領域A3が、健常人の図3(a)に比べて、比較的高い側方蛍光強度の領域(HF)まで伸びている。したがって、単核球が出現する領域の蛍光強度の平均値(D1)は、図3(a)の場合よりも大きいことがわかる。
また、図3(a)では粒子が測定されなかった高蛍光強度領域(HF)において、粒子が出現している。この領域(HF)に出現した粒子の粒子数がD2である。
【0041】
図4に、WBC/BASO演算部82で生成されるWBC/BASOスキャッタグラムの一実施例を示す。
図4(a)は、健常人で測定される典型的なWBC/BASOスキャッタグラムである。領域A1が赤血球ゴースト,領域A6がリンパ球,好中球および好酸球,領域A7が好塩基球(BASO)の出現するおおよその領域である。
図4(b)は、Blastなどの異常細胞を含む場合に測定されるWBC/BASOスキャッタグラムである。領域A6を、WBCクラスタとも呼ぶ。
【0042】
ここで、図4(a)では、WBCの粒子群のクラスタ(A6)の重心G0が図示した直線L上にあったとすると、Blastを含む図4(b)では、WBCのクラスタ(A6)の形状が変化し、その重心G1が直線Lよりも右ななめ下方向にシフトしている。
一般に、多数の健常人の血液サンプルを観測すると、WBCクラスタの重心の位置G0はほぼ一定している。そこで、たとえばBlastを含む図3(b)のスキャッタグラムで求めたWBCクラスタの重心G1と、基準位置となる予め定められた重心G0との直線距離を、重心変位量(D3)として算出する。
【0043】
図5に、IMI演算部83で生成されるIMIスキャッタグラムの一実施例を示す。
図5(a)は、健常人で測定される典型的なIMIスキャッタグラムである。領域A8が、白血球成熟細胞および赤血球ゴーストの出現領域である。
図5(b)は、Blastなどの異常細胞を含む場合に測定されるIMIスキャッタグラムである。ここで、図5(a)では全く粒子の存在しなかった領域(A9,A10)に、図5(b)では粒子が出現する。
領域A9が芽球出現領域であり、領域A10が幼芽球出現領域である。この領域A9の粒子数がパラメータD4に相当する。
【0044】
平均値算出部91によって算出される単核球蛍光強度平均値D1は、図3(b)に示した単核球の出現領域A3の中に含まれるすべての粒子について測定された蛍光強度を読み出し、その平均をとることにより求められる。
蛍光強度の最大値を256〔ch〕とした場合、健常人の蛍光強度の平均値D1は、60〜70〔ch〕という値を示すのに対して、Blastを含む血液試料の場合には、70〔ch〕以上の数値を示し、Blastの数が多いほど高い数値となる。
【0045】
重心算出部93で求めるWBCクラスタ(領域A6)の重心は、WBC/BASOスキャッタグラムのXY座標系の(X,Y)=(SSC,FSC)によって表される。
健常人の多数のWBC/BASOスキャッタグラムから予め定められた重心G0の位置を(X0,Y0)とする。
図4(b)に示されたようなBlastを含む場合のWBCクラスタ(領域A6)の重心G1の位置を(X1,Y1)とする。
重心G1の位置は、領域A6に含まれる粒子の各X−Y座標の平均をとることで求められる。
重心の変位量D3を、2つの重心間の距離(G0−G1)で表すとすると、変位量D3は次式(式(1))で求められる。
D3=√((X1−X0)2+(Y1−Y0)2) ……式(1)
重心の変位量D3は値が小さいほど正常に近く、値が大きくなるほどBlastなどの異常細胞が多数出現していると考えることができる。
【0046】
重心の変位量D3の具体値として、たとえば、D3<1の場合は正常であるが、D3≧1であればBlastが検出されており、D3の数値が大きいほど多数のBlastが検出されているという判断をすることができる。
【0047】
高蛍光強度計数部92で算出される粒子数D2は、図3(b)のDIFFスキャッタグラムの領域HFの中の粒子の数をカウントしたものである。
図3(a)に示す健常人のDIFFスキャッタグラムでは、領域HFには粒子は出現しないので、この粒子数D2が多いほど、Blastなどの異常細胞が出現していることを意味する。
図3に示した領域HFの範囲は、健常人の多数のDIFFスキャッタグラムを用いることにより予め定めることができる。
また、領域HFには、単核球が含まれる場合もあるので、領域HFをさらに複数個の領域(HF1,HF2,……)に分けて、それぞれの領域内の粒子数を別々にカウントしてもよい。
【0048】
また、芽球計数部94は、図5(b)のIMIスキャッタグラムの領域A9に出現した粒子の数(D4)をカウントするが、この領域A9は、芽球出現検体により予め定めることができる。
【0049】
〔スコア算出部の機能〕
図1において、スコア算出部5は、演算部で求められた4つのパラメータ(D1〜D4)を用いて、各パラメータに対する評価点(スコア,SC1〜SC4)を算出する部分である。
各パラメータに対する評価点(スコア)は、予め記憶部4に記憶されたスコア基準データ41により算出する。
【0050】
図6に、この発明で用いるスコア基準データの一実施例を示す。
図6のスコア基準データは、0〜5の6段階の評価点(スコア)と、4つのパラメータごとに各評価点に属するそのパラメータの数値範囲を示したデータとから構成される。
ただし、評価点(SC1〜SC4)は、この6段階に限るものではなく、検出しようとする異常細胞の種類や検出精度等の観点から必要に応じて段階の数を増減してもよく、また、各パラメータの数値範囲についても変更してもよい。
【0051】
図6において、たとえば、算出された平均値D1が70未満であれば、スコアSC1は0に設定することを意味する。
また、D1=70〜75の範囲内であればそのスコアSC1は1に設定し、以下同様に、D1=75〜80,80〜85,85〜90および90以上のそれぞれに対して、スコアSC1を2,3,4,および5に設定することを意味する。
【0052】
また、高蛍光強度粒子数D2については、D2<10,D2=10〜20,21〜30,31〜40,41〜50およびD2≧51のそれぞれに対して、スコアSC2を0,1,2,3,4および5に設定する。
重心変位量D3については、D3<4,D3=4〜5,5〜6,6〜7,7〜8およびD3≧8のそれぞれに対して、スコアSC3を0,1,2,3,4および5に設定する。
芽球出現領域粒子数D4については、D4<1,D4=1,2,3,4およびD4≧5のそれぞれに対して、スコアSC4を0,1,2,3,4および5に設定する。
【0053】
〔BLAST判定部の機能〕
BLAST判定部6は、スコア算出部5で求められた各パラメータごとの評価点(SC1〜SC4)を用いて、Blastが検出されたことを示す評価値(H)を求める部分である。BLAST判定部6は、異常細胞判定部に相当する。
評価値(H)は、記憶部4に予め記憶された判定基準データ42を用いて行う。
判定基準データ42とは、各評価点(SC1〜SC4)に対する重み付けの係数(K1〜K4)を意味し、検出する異常細胞ごとに予め定められる。
評価値(H)は、各評価点(SC1〜SC4)と重み付けの係数(K1〜K4)とを用いて、次式(2)により算出される。
評価値H=F(SC1,SC2,SC3,SC4)
=K1*SC1+K2*SC2+K3*SC3+K4*SC4……式(2)
【0054】
後述する実施例では、より高い精度の評価値(H)を求めるため、図3(b)のDIFFスキャッタグラムの高蛍光強度の領域(HF)を2つに分けた場合を示しており、それぞれの領域ごとに、高蛍光強度粒子数(D21,D22)を求めている。
さらに、この2つの高蛍光強度粒子数に対応させて2つの評価点(SC21,SC22)を設定し、2つの評価点に対応した重み付けの係数(K21,K22)を設定している。
後述する実施例では、5つの重み係数(K1,K21,K22,K3,K4)に対して、それぞれ1,11,14,16,5という数値を設定し、評価値Hは次式(3)で求めるものとする。
評価値H=K1*SC1+K21*SC21+K22*SC22+K3*SC3+
K4*SC4
=1*SC1+11*SC21+14*SC22+6*SC3+5*SC4
【0055】
〔その他の機能ブロック〕
図1において、入力部2には、キーボード,マウス,タッチパネルをはじめとする各種入力装置を用いることができ、出力部3には、CRT,LCD,ELなどの表示装置や印刷装置が用いられる。 記憶部4には、ROM,RAM,フラッシュメモリなどの半導体メモリの他、ICカード,CD,MD,MO,DVD,FD,ハードディスクなどの記憶媒体が用いられる。
記憶部4には、前記したスコア基準データ41,判定基準データ42の他、演算部で算出された各種データやスキャッタグラム等のデータ43,入力部2から入力されたデータ等が記憶される。
入力部2からは、スコア基準データ41などのデータの入力の他、各機能ブロックの動作指示(Blast判定の起動指示)などが入力される。
出力部3からは、スキャッタグラムやBlast判定の結果である評価値(H)などが利用者に視覚的にわかる形式で出力される。
【0056】
制御部1は、図1に示した各機能ブロックを動作させる部分であり、CPU,ROM,RAM,I/Oコントローラ,タイマーなどからなるマイクロコンピュータにより実現される。
また、演算部(81〜83,91〜94),スコア算出部5,Blast判定部6の各ブロックの機能は、記憶部4のROM,RAM等に記憶された制御プログラムに基づいて、CPUが各種ハードウェアを動作させることにより実現される。
【0057】
<Blast検出処理の説明>
次に、この発明の検出装置を、Blast検出に利用した場合の処理手順について説明する。
図2に、この発明のBlast検出処理の一実施例のフローチャートを示す。
【0058】
〔ステップS1〜S3〕
まず、検査をしようとする血液試料を採取し、DIFF測定(ステップS1),WBC/BASO測定(ステップS2),IMI測定(ステップS3)を行う。この3つの測定の順序は問わない。たとえば、IMI測定を先にしてもよい。
DIFF測定とWBC/BASO測定とは、半導体レーザを使用したフローサイトメトリー法により行い、IMI測定はRF/DC検出法により行う。
【0059】
フローサイトメトリー法では、血液試料を含む液体を細流化してフローセルに流し、この流れに半導体レーザを照射して得られる散乱光および側方蛍光を光検出器で受光し、光信号を電気パルスに変換する。
フローサイトメトリー法を用いるDIFF測定(ステップS1)では、一定量の血液試料に、一定量の溶血剤を添加して希釈化し、反応チャンバで一定時間反応させて赤血球を溶血し、白血球を染色する。
この後、希釈化された血液試料をフローセルに流して、SFL測定部71で側方蛍光強度(SFL)を測定し、SSC測定部72で側方散乱光強度(SSC)を測定する。測定されたSFLとSSCは、アナログ電気信号として取り出されるが、増幅処理やA−D変換処理をした後、デジタル信号としてDIFF演算部81に与えられる。
【0060】
フローサイトメトリー法を用いるWBC/BASO測定(ステップS2)では、一定量の血液試料に、一定量の溶血剤を添加して希釈化し、反応チャンバで一定時間反応させて赤血球を溶血させる。
この後、希釈化された血液試料をフローセルに流して、SSC測定部72で側方散乱光強度(SSC)を測定し、FSC測定部73で前方散乱光強度(FSC)を測定する。測定されたSSCとFSCは、アナログ電気信号として取り出されるが、増幅処理やA−D変換処理をした後、デジタル信号としてWBC/BASO演算部82に与えられる。
【0061】
RF/DC検出法では、希釈化された血液試料をアパーチャと呼ばれる細孔を有するIMI検出器に導入し、細孔の両側にある電極間に直流電流と高周波電流を流し、血球がアパーチャを通過することによって変化する電極間の直流抵抗値(DC値)と高周波抵抗値(RF値)の変化量を、電気パルスとして検出する。
RF/DC検出法を用いるIMI測定(ステップS3)では、一定量の血液試料に、一定量のストマトライザを加えて希釈化したものをIMI検出器に導入し、一定時間反応させて、赤血球を溶血し、幼若球(Blastを含む)を除く他の白血球を裸核化かつ縮小させる。
その後、希釈化された血液試料を、アパーチャを通して吸引し、アパーチャを通過する粒子に対して、RF検出部75により高周波抵抗値(RF値)を検出し、DC検出部76により直流抵抗値(DC値)を検出する。検出されたRFとDCは、アナログ信号として取り出され、増幅処理やA−D変換処理をした後、デジタル信号としてIMI演算部83に与えられる。
【0062】
〔ステップS4〜S6〕
以上の3つの測定を行った後、各演算部でスキャッタグラムを生成し、4つのパラメータ(D1〜D4)を算出する。すなわち、DIFF演算処理(ステップS4),WBC/BASO演算処理(ステップS5),IMI演算処理(ステップS6)を行う。この3つの演算処理の順序は問わない。
DIFF演算処理(ステップS4)では、まず、DIFF演算部81によりDIFFスキャッタグラム(図3参照)を生成し、次に平均値算出部91による単核球蛍光強度平均値(D1)の算出と、高蛍光強度計数部92による高蛍光強度領域に出現した粒子の粒子数(D2)の計数を行う。これらの演算データ43は、記憶部4に格納される。
【0063】
WBC/BASO演算処理(ステップS5)では、まず、WBC/BASO演算部82によりWBC/BASOスキャッタグラム(図4参照)を生成し、次に重心算出部93によりWBCクラスタの重心の変位量(D3)を算出する。これらの演算データ43は、記憶部4に格納される。
IMI演算処理(ステップS6)では、まず、IMI演算部83によりIMIスキャッタグラム(図5参照)を生成し、次に、芽球計数部94により予め定められた芽球出現領域に含まれる粒子数(D4)を計数する。これらの演算データ43は、記憶部4に格納される。
以上の3つの演算処理により、次の評価点(スコア)の算出およびBlast判定のために用いられる4つのパラメータ(D1〜D4)が求められた。
【0064】
〔ステップS7〕
次に、ステップS7において、スコア算出部5が、各パラメータに対する評価点(スコア:SC1〜SC4)を算出する。
各スコア(SC1〜SC4)は、前記したように、記憶部4に記憶されたスコア基準データ(図6参照)を用いて、各パラメータ(D1〜D4)ごとに求められる。
【0065】
〔ステップS8〕
ステップS8において、BLAST判定部6が、Blastの出現の可能性の判定を行う。ここでは、記憶部4に記憶された判定基準データ42と、ステップS7で求められたスコア(SC1〜SC4)とを、前記した式(2)に代入することにより評価値(H)を算出する。
【0066】
〔ステップS9〕
最後に、ステップS9において、算出された評価値(H)を出力部3から出力する。
ここで、たとえば、評価値(H)の数値をそのままディスプレイに表示してもよい。また、評価値の適当な判定基準値(H0)を予め設けておき、ステップS8で求められた評価値(H)とこの基準値(H0)と比較して、評価値(H)が基準値(H0)を超えた場合にBlast出現の可能性が大きいと判断し、「Blast陽性」というように、担当者が理解しやすいような表現で判定結果を提示してもよい。判定基準値(H0)は予め記憶部4に記憶しておき、担当者が必要に応じて変更できるようにしてもよい。
【0067】
<この発明の判定結果>
図9に、図15に示した従来の方法で判定した検体群と同じ血液試料について、この発明の判定方法を適用した場合のBlastの判定結果を示す。
図9において、この発明の判定では全検体数(total)321検体のうち、120検体がBlast出現検体であり、201検体がBlast出現検体でないと判定されている。
また、目視検査では、全部で120検体がBlast出現検体であると判定されたが、このうちこの発明の判定では99検体がBlast出現検体であり、21個はBlast出現検体でないと判定されている。
したがって、目視検査で異常細胞(Blast)と判断されたもののうち、この発明でも異常であると判断されたものは83%であった。すなわち感度は83%であった。
【0068】
また、目視検査で201検体が正常と判定されたもののうち、この発明の判定では180検体が正常と判定されている。すなわち、この発明の特異度は90%であった。
図15の従来の方法で判定した結果と比べると、感度は47%から83%となり、かなり向上したことがわかる。また、特異度は95%から90%と少し悪くなっているが、比較的高水準を維持していると言える。
この結果より、この発明のBlast検出方法を用いれば、正常検体を正常と判定する特異度は高水準を維持したまま、Blast検出の感度を向上させることができるということがわかる。
【0069】
<この発明の評価値の具体例>
図7および図8に、健常人の血液サンプルの3つのスキャッタグラムと、Blast等の異常細胞を含む血液サンプルの3つのスキャッタグラムの具体例を示す。
図7(a),図8(a)が、DIFFスキャッタグラム,図7(b),図7(b)がWBC/BASOスキャッタグラム,図7(c),図8(c)がIMIスキャッタグラムである。これらのスキャッタグラムは、演算部(81,82,83)によって生成されたものである。
この具体例では、DIFFスキャッタグラムの高蛍光領域を2つに分け、それぞれの高蛍光領域に出現した粒子の数を、パラメータD21,D22とする。
【0070】
これらのスキャッタグラムから、次のような5つのパラメータ(D1〜D4)が算出された。また、図6のスコア基準データから評価点(スコア、SC1〜SC4)を求め、前記した評価値(H)の式(3)を用いると、評価値(H)は次のようになる。
(1)健常人の場合(図7)
D1=70.8,SC1=1,K1=1
D21=0,SC21=0,K21=11
D22=0,SC22=0,K22=14
D3=0.3,SC3=0,K3=6
D4=0,SC4=0,K4=5
H=K1*SC1+K21*SC21+K22*SC22+K3×SC3+
K4*SC4
=1×1+11×0+14×0+6×0+5×0
=1
(2)異常細胞を含む場合(図8)
D1=92,SC1=5,K1=1
D21=71,SC21=5,K21=11
D22=6,SC22=1,K22=14
D3=10.8,SC3=5,K3=6
D4=8,SC4=5,K=5
H=K1*SC1+K21*SC21+K22*SC22+K3*SC3+
K4*SC4
=1×5+11×5+14×1+6×5+5×5
=129
【0071】
ここで、判定基準値(H0)として、30を設定していたとし、H≧H0の場合、Blastが検出されたことを意味する「Blast陽性」を表示し、H<H0の場合、Blastは検出されていないことを意味する「Blast陰性」を表示する。図7の健常人の場合は、H<30なので「Blast陰性」という評価を表示し、図8の異常細胞を含む場合は、H>30なので「Blast陽性」という評価を表示することになる。
【0072】
なお、図8の血液試料について、従来の2つの粒子数に基づく判定をした場合、Blast陰性であった。
一方、同じ血液試料についてこの発明のBlast検出を適用した結果では、Blast陽性となり、感度が大きく向上している。
以上のように、この発明によれば、Blast検出において、高い特異度を維持したまま、感度を向上させることができる。
また、4つのパラメータ(D1〜D4)を用いてBlast検出の判定をしているので、より精度の高い判定結果を利用者に提供することができる。
【0073】
したがって、Blast判定において高い感度で判定を下すことができるので、一度治療をした後に、再度出現する異常細胞の検出においても、医者が迅速かつ的確に治療方針を決定することができ、白血病の診断および治療に対し、全体として時間短縮と質の向上を図ることができる。
【0074】
<本発明でBlast陽性、従来の装置でBlast陰性と判定された具体例>
次に、目視検査ではBlast陽性と判断された血液試料について、本発明の評価値によればBlast陽性と判定されるが、従来のBlast判定では陰性と判定された具体例について説明する。
図10,図11および図12に、目視検査でBlastを検出した血液試料についての3つのスキャッタグラムの具体例を示す。
いずれも、上から順にDIFFスキャッタグラム,WBC/BASOスキャッタグラム,IMIスキャッタグラムである。
また、いずれの血液試料も、従来の2つの粒子数から求めた検出方法では、「Blast陰性」と判定されたものである。
【0075】
図10は、WBCクラスタに含まれる粒子数=1280個のうち、目視検査で192個のBlastが検出された血液試料である。
この血液試料の3つのスキャッタグラムから、前記した5つのパラメータ(D1〜D4)を算出し、前記した評価値の計算式(3)で評価値Hを求めると、H=69となった。この数値は評価基準値(H0=30)よりも大きいので、「Blast陽性」と判定される。
【0076】
同様に、図11においては、次のような結果が得られた。
WBCクラスタに含まれる粒子数=730個
目視検査のBlastの数=161個
評価値H=86,「Blast陽性」と判定。
図11の血液試料について、従来の検出方法では、Blast陰性であったので、この場合も感度が向上したことがわかる。
【0077】
図12においては、次のような結果が得られた。
WBCクラスタに含まれる粒子数=600個
目視検査のBlatの数=135個
評価値H=78,「Blast陽性」と判定。
図12の血液試料について、従来の検出方法では、Blast陰性であったので、この場合も感度が向上したことがわかる。
以上のように、この発明の評価方法によれば、従来は実際はBlastが出現しているにもかかわらずBlastを検出できなかった血液試料について、目視検査と同じ評価結果(「Blast陽性」という評価)を得る可能性が高く、Blast検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】この発明の異常細胞検出装置の一実施例の構成ブロック図である。
【図2】この発明の異常細胞検出装置におけるBlastの検出処理の一実施例のフローチャートである。
【図3】この発明におけるDIFFスキャッタグラムの一実施例説明図である。
【図4】この発明におけるWBC/BASOスキャッタグラムの一実施例の説明図である。
【図5】この発明におけるIMIスキャッタグラムの一実施例の説明図である。
【図6】この発明で用いるスコア基準データの一実施例の説明図である。
【図7】この発明における3つのスキャッタグラムの具体例(健常人血液試料)である。
【図8】この発明における3つのスキャッタグラムの具体例(異常細胞を含む血液試料)である。
【図9】この発明の検出方法で検出されたBlastに対する感度と特異度の具体例の説明図である。
【図10】目視検査でBlastが検出された血液試料についての3つのスキャッタグラムの具体例である。
【図11】目視検査でBlastが検出された血液試料についての3つのスキャッタグラムの具体例である。
【図12】目視検査でBlastが検出された血液試料についての3つのスキャッタグラムの具体例である。
【図13】従来におけるIMIスキャッタグラムの一実施例の説明図である。
【図14】従来におけるDIFFスキャッタグラムの一実施例の説明図である。
【図15】従来の自動血球分析装置で検出されたBlastに対する感度と特異度の具体例の説明図である。
【図16】従来の自動血球分析装置で検出された異常細胞全体に対する感度と特異度の説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 制御部
2 入力部
3 出力部
4 記憶部
5 スコア算出部
6 BLAST判定部
41 スコア基準データ
42 判定基準データ
43 演算データ
71 SFL測定部
72 SSC測定部
73 FSC測定部
74 IMI検出部
75 RF検出部
76 DC検出部
81 DIFF演算部
82 WBC/BASO演算部
83 IMI演算部
91 平均値算出部
92 高蛍光強度計数部
93 重心算出部
94 芽球計数部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の血球を含む血液試料にレーザ光を照射することにより血球ごとの散乱光強度および蛍光強度を測定する第1測定部と、前記血液試料に直流電流および高周波電流を印加することにより血球ごとの直流抵抗値および高周波抵抗値を測定する第2測定部と、前記第1および第2測定部で測定された散乱光強度,蛍光強度,直流抵抗値および高周波抵抗値を用いて、血球を特定のグループごとに分画表示することが可能な複数の散布図を生成する演算部と、演算部によって生成された散布図を用いて、血液試料に含まれる異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出するパラメータ算出部と、算出されたパラメータごとに所定の評価点を与えるためのスコア基準データを記憶した記憶部と、前記スコア基準データに基づいて前記算出されたパラメータの値にそれぞれ評価点を付与するスコア算出部と、スコア算出部によって算出された各評価点に所定の重み付けをして、異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出する異常細胞判定部とを備えたことを特徴とする異常細胞の検出装置。
【請求項2】
前記測定される散乱光が前方散乱光および側方散乱光を含み、前記散布図が、側方散乱光強度および蛍光強度を直交軸とする第1散布図と、側方散乱光強度および前方散乱光を直交軸とする第2散布図と、直流抵抗値と高周波抵抗値を直交軸とする第3散布図とからなることを特徴とする請求項1の異常細胞の検出装置。
【請求項3】
前記異常細胞判定部が判定する異常細胞が、骨髄球系白血病に特有の芽球である場合、前記パラメータ算出部で算出されるパラメータが、次の4つのパラメータ
(1)前記第1散布図の特定の領域に分布した単核球クラスタの蛍光強度平均値(D1)、
(2)前記第1散布図において、健常人では血球が測定されることのない所定の高蛍光強度領域の中に出現した血球の粒子数(D2)、
(3)前記第2散布図の特定の領域に分布した単核球およびリンパ球を含むWBCクラスタの重心位置の基準位置に対する変化量(D3)、
(4)前記第3散布図において予め定められた芽球出現領域の中に出現した血球の粒子数(D4)、
からなることを特徴とする請求項2の異常細胞の検出装置。
【請求項4】
前記パラメータ算出部で算出されるパラメータがn個ある場合において、各パラメータごとに付与される評価点をSCi(i=1〜n)とし、その各評価点ごとに定められた重み付けの定数をKi(i=1〜n)とした場合、異常細胞判定部が算出する評価値Hは、
【数1】

で与えられることを特徴とする請求項1の異常細胞の検出装置。
【請求項5】
多数の血球を含む血液試料にレーザ光を照射することにより血球ごとの散乱光強度および蛍光強度を測定する第1測定ステップと、前記血液試料に直流電流および高周波電流を印加することにより血球ごとの直流抵抗値および高周波抵抗値を測定する第2測定ステップと、前記第1および第2測定ステップで測定された散乱光強度,蛍光強度,直流抵抗値および高周波抵抗値を用いて、血球を特定のグループごとに分画表示することが可能な複数の散布図を生成する演算ステップと、演算ステップによって生成された散布図を用いて、血液試料に含まれる異常細胞を特定するのに有用な複数のパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、算出されたパラメータごとに所定の評価点を与えるためのスコア基準データに基づいて、前記算出されたパラメータの値にそれぞれ評価点を付与するスコア算出ステップと、スコア算出ステップによって算出された各評価点に所定の重み付けをして、異常細胞の出現可能性を判定するための評価値を算出する異常細胞判定ステップとを備えたことを特徴とする異常細胞の検出方法。
【請求項6】
前記請求項5記載の検出方法の各ステップの機能を、コンピュータに実現させるための異常細胞検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−10630(P2006−10630A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191464(P2004−191464)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】