説明

異常診断装置

【課題】軸受装置に対する診断が正常に行えない状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能な異常診断装置を提供する。
【解決手段】複数の軸受装置X,Yの振動を検出する振動センサ4x,4yからの振動信号と、回転速度を検出する回転速度センサ6x,6y又は同軸の回転速度を検出する回転速度センサからの回転速度信号から各軸受装置の異常を診断する異常診断装置Aであって、異常診断装置には、複数の診断解析部8x,8y、スイッチ部sx1,sx2sy1,sy2、制御部24、IF部14が設けられ、各診断解析部は、所定軸受装置の振動信号と回転速度信号の解析結果から当該軸受装置の異常を診断し、一定時間間隔又は必要に応じて、いずれか1つの軸受装置の振動信号及び回転速度信号を同時に入力して解析し、解析結果を制御部へ与え、制御部は、これらの解析結果が一致しているかを確認することで、各診断解析部が正常に動作しているかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置の異常の発生有無を診断する異常診断装置に関し、特に、鉄道車両用の軸受装置や、自動車用の軸受装置に異常が発生しているかどうかを診断するための異常診断装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、鉄道車両用の軸受装置、自動車用の軸受装置などに対しては、鉄道および自動車の安全輸送を図るため、非常に高い信頼性が求められ、信頼性を高めるべく様々な工夫がなされてきた。一方で、これらの軸受装置に組み込まれ、車軸(回転軸)を支持する軸受においては、例えば、軸受の外部から内部へ異物(例えば、泥水や塵埃)が侵入し、軌道輪(例えば、内輪や外輪)の軌道面、あるいは、転動体(例えば、玉やころ)の転動面などに対して早期に傷(クラック)や剥離(フレーキング)などの異常が生じてしまう場合がある。そして、このようなクラックやフレーキングが生じた場合、その程度によっては、転動体が軌道輪の軌道面間を安定して転動することができず、例えば、軸受が異常振動を起こして回転軸が振れ回る(ガタつく)など、軸受装置を長期に亘って安定して、良好に運転させ続けることが困難になってしまう虞がある。
【0003】
ところで、軸受の軌道輪および転動体にクラックやフレーキングなどが生じた場合、回転軸の回転速度に比例した特定の周波数成分の振動信号が発生する。このため、従来から、軸受装置、および軸受の回転状態を監視し、軸受の振動信号と回転軸の回転速度信号を検出することで、上述したような軸受装置に生じる不都合を回避する各種の診断装置や診断方法が用いられている。
例えば、特許文献1には、所定の時間間隔で取得した診断対象となる軸受の振動信号に対し、高速フーリエ変換などの周波数分析を行うことで、当該軸受に異常が発生しているかどうかを診断するとともに、異常が発生している軸受の構成部材(例えば、軌道輪(回転輪および静止輪)、転動体など)を特定する方法が、一例として開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された診断方法、具体的には、当該診断方法を実施する診断装置によって軸受異常の発生有無を診断する場合であっても、かかる診断装置の内部、特に、異常有無を診断解析する診断解析部に不具合が生じ、当該診断装置が診断自体を正常に行える状態ではない場合には、当該軸受に仮に異常が発生していたとしても、当該軸受の異常を検出することができなくなってしまう。この場合、軸受に発生した異常が看過されてしまう、すなわち、軸受に発生した異常の発見が遅れてしまう結果となり、当該発見の遅れが原因となって、例えば、軸受が早期に異常振動を起こして車軸が振れ回り(ガタつき)、軸受装置の交換が早期に必要となってしまう場合などがある。
【特許文献1】特許第3569582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、軸受装置に対する異常の発生有無の解析・診断を行う複数の診断機構を設け、これらの診断機構の各解析結果が一致するかどうかを判定することで、内部に不具合が生じ、軸受装置に対する異常診断が正常に行えない状態であることを検出するとともに、この状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能な異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明に係る異常診断装置は、複数の軸受装置の振動を検出する各装置ごとに少なくとも1つの振動センサから出力される振動信号と、回転速度を検出する通常は各装置ごとに少なくとも1つの回転速度センサから出力される回転速度信号から各軸受装置に対する異常の有無を診断している。かかる異常診断装置には、前記振動信号と前記回転速度信号が入力されて前記軸受装置の異常の有無を解析するとともに、その解析結果を出力する複数の診断解析部、各診断解析部への前記振動信号の入力ならびに前記回転速度信号の入力を切り換えるスイッチ部、前記各診断解析部および前記スイッチ部の動作を制御するとともに、当該診断解析部から出力された解析結果が与えられ、前記各軸受装置に対する異常の有無の判定を行って、その判定結果を出力する制御部、ならびに前記制御部から与えられた判定結果を表示あるいは通知するインターフェース部が設けられている。
そして、各診断解析部は、通常時、所定の軸受装置の振動信号と回転速度信号に対する解析結果から当該軸受装置に対する異常の有無を診断するとともに、出力した解析結果を前記制御部へそれぞれ与えている。これに対し、一定時間間隔で又は必要に応じて、いずれか1つの軸受装置の振動信号および回転速度信号を同時に入力して解析し、当該軸受装置に対する異常の有無を診断するとともに、出力した解析結果を前記制御部へそれぞれ与えている。この際、制御部は、各診断解析部から与えられた前記いずれか1つの軸受装置に対する解析結果が一致しているかどうかを確認することで、当該各診断解析部が正常に動作しているかどうかを判定する。なお、各軸受装置の軸が共通である場合には、一定時間間隔で又は必要に応じて、この軸の回転速度を検出する1つのセンサから出力される信号を各診断解析部に入力してもよい。
これにより、異常診断装置は、各診断解析部に対して自己診断(セルフチェック)を行うことができ、軸受装置に対する異常診断を常時、確実に行うことができる。
【0007】
この場合、インターフェース部として、制御部から与えられた各診断解析部に対する異常の有無の判定結果が表示される表示器が設けられ、制御部は、各診断解析部から与えられた前記いずれか1つの軸受装置に対する解析結果を比較する。
その際、3つ以上の診断解析部が設けられている場合には、これらの解析結果が2つ以上の診断解析部で一致した場合、これらの診断解析部が正常に動作していると判断し、当該各診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作情報を前記表示器に表示させるとともに、その他の診断解析部の動作が異常であることを示す異常動作情報を前記表示器に表示させる。
これに対し、2つの診断解析部が設けられている場合には、これらの解析結果が一致した場合、これら2つの診断解析部が正常に動作していると判断し、当該2つの診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作情報を前記表示器に表示させ、一致しなかった場合、前記2つの診断解析部の動作が異常であると判断し、当該2つの診断解析部の動作が異常であることを示す異常動作情報を前記表示器へ表示させる。
これにより、診断解析部が正常に動作していること、並びに診断解析部の動作が異常であることを目視により確認することができ、セルフチェックの結果を正確に把握することができる。
ここで、診断解析部(軸受装置)が2つの場合には、2つの診断解析部からの解析結果が異なる場合、どちらの診断解析部の動作が異常であるか判断することはできないが、3つ以上の診断解析部がある場合には、この内の2つ以上の解析結果が一致すれば、これらの診断解析部の動作が正常であり、この解析結果と異なる他の診断解析部の動作が異常であると判断できる。
【0008】
なお、制御部は、一定時間間隔で又は必要に応じて、スイッチ部を切り換えることで、各診断解析部へ前記いずれか1つの軸受装置の振動信号ならびに回転速度信号を同時に入力させればよい。一定時間間隔で前記各信号を入力させた場合、セルチェックを継続的に行うことができ、必要に応じて前記各信号を入力させた場合、その時点における各診断解析部の動作状態を確認することができる。
【0009】
また、各診断解析部が正常に動作しているかどうかを判定するためのデータとしては、例えば、当該各診断解析部により周波数分析がなされた前記振動信号ならびに回転速度信号の所定周波数におけるスペクトル値、スペクトルのRMS値あるいは中間解析値などを用いればよい。そして、これらのうちから任意に選択したデータを制御部に対して与えればよい。
【0010】
なお、以上に記載した異常診断装置は、例えば、鉄道車両用の軸受装置、若しくは自動車用の軸受装置の異常の発生有無を診断する装置として適用した場合、これらの軸受装置の信頼性の向上を図ることができ、非常に有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る異常診断装置によれば、軸受装置に対する異常の発生有無の解析・診断を行う複数の診断機構を設け、これらの診断機構の各解析結果が一致するかどうかを判定することで、内部に不具合が生じ、軸受装置に対する異常診断が正常に行えない状態であることを検出するとともに、この状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る異常診断装置について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明の異常診断装置は、所定の回転軸を回転自在に支持する軸受装置について、その異常の発生有無を診断することができるが、ここでは、鉄道車両用および自動車用の軸受装置、具体的には、これらの軸受装置に組み込まれ、車軸を支持する軸受を診断対象とした場合を一例として想定し、説明する。なお、この場合、軸受に発生する異常としては、例えば、軌道輪(回転輪や静止輪)の軌道面、転動体(玉やころ)の転動面に生じる傷(クラック)や剥離(フレーキング)などを、一例として想定する。
【0013】
図1には、本発明の一実施形態に係る異常診断装置(以下、単に装置という)Aが示されており、当該装置Aは、軌道輪(回転輪)が車軸10x,10yとともに回転する構造を成す複数の軸受装置X,Yに対し、その振動を検出する少なくとも1つの振動センサ4x,4yから出力される振動信号と、回転速度を検出する少なくとも1つの回転速度センサ6x,6yから出力される回転速度信号を解析することで、異常が発生しているかどうかの診断を行っている。
【0014】
図1に示す構成において、診断対象となる軸受装置X,Yには、軸受2x,2y(例えば、回転輪、静止輪および転動体など)の振動状態を監視し、その振動状態を示す振動信号を出力する振動センサ4x,4yと、当該軸受2x,2yが支持する車軸10x,10yの回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を出力する回転速度センサ6x,6yが、各軸受装置X,Yに対してそれぞれ1つずつ(すなわち、軸受装置X,Yごとに2つずつ)設けられている。
【0015】
具体的には、軸受装置Xにおいて、振動センサ4xは、軸受2x(例えば、回転輪、静止輪および転動体など)の振動状態を監視し、その振動状態を示す振動信号を出力しており、回転速度センサ6xは、当該軸受2xが支持する車軸10xの回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を出力している。これに対し、軸受装置Yにおいて、振動センサ4yは、軸受2y(例えば、回転輪、静止輪および転動体など)の振動状態を監視し、その振動状態を示す振動信号を出力しており、回転速度センサ6yは、当該軸受2yが支持する車軸10yの回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を出力している。
【0016】
この場合、振動センサ4x,4yは、軸受2x,2yの振動状態を監視し、その振動状態を示す振動信号を検出可能な位置に設ければよいし、回転速度センサ6x,6yは、軸受2x,2yが支持する車軸10x,10yの回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を診断解析部8x,8yへ出力可能な任意の位置に設ければよく、いずれもその位置は特に限定されない。例えば、振動センサ4x,4yおよび回転速度センサ6x,6yは、ハウジング12x,12yの上部や側面部、あるいは、軸受2x,2yの静止輪などの所定位置に設けることができる。
【0017】
また、振動センサ4x,4yおよび回転速度センサ6x,6yの取付方法は、特に限定されず、例えば、所定の締結部材(ボルトやナットなど)でハウジング12x,12yに対して締結固定してもよいし、所定の接着剤などでハウジング12x,12yに対して接着固定してもよい。
さらに、振動センサ4x,4yは、軸受2x,2yの振動状態を監視し、振動信号を出力することが可能なセンサであれば、その形式は特に限定されない。例えば、圧電式、静電容量式、ひずみゲージ式およびMEMS(Micro Electro Mechanical System)式などのセンサを振動センサ4x,4yとして適用すればよい。同様に、回転速度センサ6x,6yとしては、車軸10x,10yの回転状態を監視し、回転速度信号を出力することが可能なセンサであれば、例えば、各種の光学式センサや磁気式センサなどを任意に選択して適用すればよい。
【0018】
なお、本実施形態においては、一例として、各軸受装置X,Yに対し、それぞれ1つずつ個別のセンサ(振動センサ4x,4yおよび回転速度センサ6x,6y)を設けて、各軸受2x,2yの振動状態ならびに回転状態を監視する構造としているが、例えば、各軸受2x,2yの振動状態を監視して振動信号を出力するとともに、車軸10x,10yの回転状態を監視して回転速度信号を出力することが可能な1つのセンサのみで、各軸受2x,2yの回転状態をそれぞれ監視する構成としてもよい。また、複数個(例えば、各軸受装置X,Yに対して2つずつ)の振動センサ4x,4y、および複数個(同)の回転速度センサ6x,6yで(すなわち、軸受装置X,Yごとに4つのセンサで)、各軸受2x,2yの回転状態を監視する構成としてもよい。このように、多数のセンサによって各軸受2x,2yの振動状態ならびに回転状態を監視することで、その監視精度を高めるとともに、異常の発生有無の診断精度を高めることができる。
【0019】
一方、装置Aには、前記振動信号と前記回転速度信号が入力されて所定の軸受装置X,Yの動作状態(具体的には、異常の有無)を解析するとともに、その解析結果を出力する複数の診断解析部8x,8y、当該診断解析部8x,8yへの前記振動信号の入力ならびに前記回転速度信号の入力を切り換えるスイッチ部sx1,sx2,sy1,sy2、診断解析部8x,8yおよびスイッチ部sx1,sx2,sy1,sy2の動作を制御するとともに、診断解析部8x,8yから出力された解析結果が与えられ、軸受装置X,Yに対する異常の有無の判定を行って、その判定結果を出力する制御部24、ならびに当該制御部24から与えられた判定結果を表示あるいは通知するインターフェース部(以下、IF部という)14が設けられている。なお、装置Aには、所定の外部電源装置(図示しない)から、電力(電圧および電流)が供給されている。
【0020】
図1に示す構成においては、一例として、装置Aが、2つの軸受装置X,Yに対する異常の発生有無を2つの診断解析部8x,8yで診断する構造を成している。この場合、2つの診断解析部8x,8yは、軸受装置X,Yの軸受2x,2yの振動を監視する振動センサ4x,4yから出力された振動信号、および回転速度を監視する回転速度センサ6x,6yから出力された回転速度信号をそれぞれ個別に入力して解析し、その解析結果に基づいて、当該軸受装置X,Yに異常が発生しているかどうかをそれぞれ診断している。
【0021】
具体的には、診断解析部8xが、振動センサ4xならびに回転速度センサ6xから振動信号および回転速度信号を入力して解析し、軸受装置Xに対する異常の発生有無を診断し、診断解析部8yが、振動センサ4yならびに回転速度センサ6yから振動信号および回転速度信号を入力して解析し、軸受装置Yに対する異常の発生有無を診断している。
その際、診断解析部8x,8yは、入力された振動信号および回転速度信号に対して、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)などによる周波数分析を行うことで、これらの信号を解析し、軸受装置X,Yの異常の発生有無を診断すればよい。
【0022】
本実施形態において、装置Aは、診断解析部8x,8yが、いずれか1つの軸受装置(軸受装置X、あるいは軸受装置Y)の振動信号および回転速度信号を同時に入力して解析し、当該軸受装置に対する異常の有無を診断するとともに、出力した解析結果を制御部24へそれぞれ与えている。そして、制御部24において、各診断解析部8x,8yから与えられた解析結果がすべて一致しているかどうかを確認ならびに判定することで、診断解析部8x,8yに対する自己診断(いわゆるセルフチェック)を行っている。
【0023】
すなわち、各診断解析部8x,8yに対して、いずれか1つの軸受装置(軸受装置X、あるいは軸受装置Y。以下、かかる軸受装置をセルフチェック軸受装置という)の振動信号および回転速度信号(以下、これらの信号をまとめてセルフチェック信号という)を同時に入力して解析し、当該各診断解析部8x,8yにおいて、その解析結果からセルフチェック軸受装置に対する異常の有無を診断した場合、すべての診断解析部8x,8yが正常に動作していれば、当該すべての診断解析部8x,8yにおいて、セルフチェック信号に対する同一の解析結果が得られることとなる。このため、かかる解析結果を制御部24に対して与え、当該制御部24において、すべての解析結果が一致しているかどうかを確認することで、各診断解析部8x,8yが正常に動作しているかどうかを判定することが可能となる。
【0024】
したがって、セルフチェック時において、制御部24は、各診断解析部8x,8yから与えられた解析結果を比較し、これらの解析結果がすべて一致している場合、当該各診断解析部8x,8yが正常に動作している、具体的には、当該各診断解析部8x,8yが軸受装置X,Y(すなわち、軸受2x,2y)の異常の発生有無を適正に診断することができていると判定することができる。
【0025】
一方、各診断解析部8x,8yから与えられた解析結果を比較した結果、これらの解析結果が一部でも相違している場合、診断解析部8x,8yのいずれか、あるいはすべての診断解析部8x,8yが軸受装置X,Y(具体的には、軸受2x,2y)の異常の発生有無を適正に診断することができていないものと、制御部24において判定することができる。
このように、診断解析部(軸受装置)が2つ(一例として、診断解析部8x,8y(軸受装置X,Y))の場合には、2つの診断解析部からの解析結果が異なる場合には、どちらの診断解析部の動作が異常であるか判断することはできないが、3つ以上の診断解析部がある場合には、この内の2つ以上の解析結果が一致すれば、これらの診断解析部の動作は正常であり、この解析結果と異なる他の診断解析部の動作が異常であると判断することが可能となる。
【0026】
この際、制御部24において、各診断解析部8x,8yにおけるセルフチェック信号の解析結果が一致しているかどうかの具体的な判定基準は、装置Aの使用態様や使用条件などに基づいて設定される軸受装置X,Yへの異常診断の要求レベル等に応じて、任意に設定すればよい。
【0027】
例えば、各診断解析部8x,8yにより、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)などによる周波数分析がなされたセルフチェック信号のいくつかの周波数におけるスペクトル値やスペクトルのRMS(Root Mean Square:二乗平均の平方根)値などを、制御部24において相互に比較する。比較した結果、かかるスペクトル値やRMS値の差が許容範囲内であれば、各解析結果が同一であるもの(一致しているもの)として、各診断解析部8x,8yが正常に動作している、具体的には、当該各診断解析部8x,8yが軸受装置X,Yの異常の発生有無を適正に診断できていると判定すればよい。
【0028】
一方、上述したスペクトル値やRMS値に許容範囲を超えた相違がある場合、各解析結果が相違するもの(一致していないもの)として、診断解析部8x,8yのいずれか、あるいはすべての診断解析部8x,8yが正常に動作していない、具体的には、当該各診断解析部8x,8yが軸受装置X,Yの異常の発生有無を適正に診断できていないと判定すればよい。
【0029】
なお、制御部24において、相互に比較し、各診断解析部8x,8yが正常に動作しているかどうかを判定するためのデータとしては、上述したスペクトル値やスペクトルのRMS値の他、セルフチェック信号を解析する途中で得られる中間データ(中間解析値)などを用いてもよい。
【0030】
このように、制御部24は、所定の判定基準を適用し、各診断解析部8x,8yから与えられたセルフチェック信号の解析結果が同一であるかどうかを判定することで、当該診断解析部8x,8yに対するセルフチェックを行う。この際、制御部24は、各診断解析部8x,8yから与えられた解析結果を比較し、これらの解析結果が一致した場合、2つの診断解析部8x,8yが正常に動作していると判定し、当該各診断解析部8x,8yが正常に動作していることを示す情報(以下の説明においては、便宜上、正常動作情報Inという)をIF部14へ与えている。
これに対し、これらの解析結果が一致しなかった場合、制御部24は、2つの診断解析部8x,8yの動作が異常であると判定し、当該各診断解析部8x,8yの動作が異常であることを示す情報(以下の説明においては、便宜上、異常動作情報Ibという)をIF部14へ与えている。
なお、上述したように、3つ以上の診断解析部がある場合には、どの診断解析部の動作が異常であるか判断することができるため、各診断解析部が正常に動作しているか、異常動作かを示す情報をIF部14に与えることができる。
【0031】
ここで、IF部14としては、例えば、正常動作情報In及び異常動作情報Ibを表示する各種の表示器(内蔵LED、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイなど)、あるいはアラームの鳴動やランプの点滅などにより、異常の発生を通知する各種の警報器(アラーム鳴動装置、ランプ点滅装置、およびバイブレーション装置など)を、装置Aの使用態様や使用条件などに応じて任意に選択して適用すればよい。一例として、本実施形態においては、所定の表示器がIF部14として装置Aに設けられている場合を想定し、当該表示器14に対して、正常動作情報In及び異常動作情報Ibを表示させている。これにより、正常動作情報In及び異常動作情報Ibを目視により確認することができ、セルフチェックの結果を正確に把握することができる。
【0032】
なお、かかる表示器14は、正常動作情報In及び異常動作情報Ibを表示させる他、軸受装置X,Yに対する異常の発生有無の情報も併せて表示させるための表示器として構成してもよい。これにより、セルフチェックの結果を正確に目視により確認することができるだけでなく、軸受装置X,Yに対する異常の発生を目視により確認することもできる。
また、例えば、IF部14として、装置Aに対して表示器を内蔵させるとともに、外部装置として上述した各種の警報器を設けた構成としてもよい。これにより、軸受装置X,Yに対する異常の発生を視聴覚的に運転者や作業者などに認知させることができる。
【0033】
本実施形態において、制御部24は、セルフチェックとして、一定時間間隔で、又は必要に応じて、各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を同時に入力して解析させ、セルフチェック軸受装置に対する異常の有無を診断させるとともに、出力されたこれらの解析結果を比較してその同一性を判定すればよい。かかるセルフチェック信号の各診断解析部8x,8yへの入力は、制御部24がスイッチ部sx1,sx2,sy1,sy2を制御することで行っている。具体的には、制御部24がスイッチ部sx1,sx2を制御する(切り換える)ことで、セルフチェック軸受装置(一例として、軸受装置X)の振動センサ4xが出力した振動信号、および回転速度センサ6xが出力した回転速度信号を診断解析部8xに対してそれぞれ入力させている。同時に、制御部24がスイッチ部sy1,sy2を制御する(切り換える)ことで、軸受装置Xの振動センサ4xが出力した振動信号、および回転速度センサ6xが出力した回転速度信号を診断解析部8yに対してそれぞれ入力させている。
【0034】
このように、セルフチェック時においては、2つの診断解析部8xおよび診断解析部8yのいずれに対しても、セルフチェック軸受装置(一例として、軸受装置X)に設けられた振動センサ4xが出力した振動信号、および回転速度センサ6xが出力した回転速度信号が同時に入力される。そして、当該振動信号および回転速度信号(すなわち、セルフチェック信号)に対して、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)などによる周波数分析を行うことで、当該セルフチェック信号を解析し、セルフチェック軸受装置(一例として、軸受装置X)に対する異常の発生有無を診断することになる。
【0035】
その際、2つの診断解析部8xおよび診断解析部8yがいずれも正常に動作している場合には、これらの診断解析部8x,8yから得られる解析結果が一致し、当該診断解析部8x,8yは、同一の解析結果を制御部24に対して与える。一方、診断解析部8xおよび診断解析部8yのいずれか一方、あるいは双方が正常に動作していない場合には、これらの解析結果が一致せず、当該診断解析部8x,8yは、相互に異なる解析結果をそれぞれ制御部24に対して与えることになる。
【0036】
したがって、制御部24において、これらの解析結果を比較し、かかる解析結果が一致しないことが確認された場合、各診断解析部8x,8yがセルフチェック軸受装置(一例として、軸受装置X)の異常の発生有無を適正に診断できていないものと判定すればよい。なお、この場合、各診断解析部8x,8yは、セルフチェック軸受装置である軸受装置X(具体的には、軸受2x)に対する異常の発生有無を適正に診断することができていないため、セルフチェック軸受装置ではない軸受装置Y(具体的には、軸受2y)に対する異常の発生有無も、同様に適正に診断することができないものと判定することができる。
【0037】
なお、各診断解析部8x,8yに対し、セルフチェック信号を一定時間間隔で同時に入力して解析させ、セルフチェック軸受装置に対する異常の有無を診断させるとともに、出力された解析結果を制御部24に対して与えることで、継続的に診断解析部8x,8yが正常に動作しているかどうかを判定すること、すなわち、継続的に装置Aに対するセルフチェックを行うことができる。この場合、一定時間間隔(あるいは所定時間間隔)で、複数回に亘って各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を同時に入力して解析させ、出力された解析結果を制御部24に対して与えることで、セルフチェックの信頼性を高めることができる。
例えば、装置Aは、一定時間間隔で所定回数だけセルフチェックを繰り返して行い、当該所定回数だけ連続して各診断解析部8x,8yが正常に動作していないと判定された場合に、初めてIF部(表示器)14に対して異常動作情報Ibなどを表示させる構成としてもよい。
【0038】
その際、より短い時間間隔で各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を同時に入力して解析させ、出力された解析結果を制御部24に対して与えることで、セルフチェックの回数を増やすことができるため、その信頼性を高めることができる。すなわち、各診断解析部8x,8yが正常に動作していない状態であることをリアルタイムで把握することが可能となる。その一方で、セルフチェックを頻繁に行った場合、所定時間内における軸受装置X,Y(具体的には、軸受2x,2y)に対する異常発生の有無の診断回数が減少することにもなる。したがって、セルフチェック信号を各診断解析部8x,8yに入力する間隔は、例えば、診断対象となる軸受2x,2yに要求される信頼性や寿命などに応じて任意に設定する必要があり、ここでは特に限定しない。
【0039】
一方、各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を必要に応じて単発的に入力して解析させ、出力された解析結果を制御部24に対して与えれば、この時点における診断解析部8x,8yの動作状態を確認すること、すなわち、この時点における装置Aに対するセルフチェックを行うことができる。この場合、例えば、装置Aの電源投入時、単発的に各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を入力して解析させ、出力された解析結果を制御部24に対して与えてもよいし、装置Aにセルフチェックボタンなどを設け、当該ボタンが押された場合、単発的に各診断解析部8x,8yに対してセルフチェック信号を入力して解析させ、出力された解析結果を制御部24に対して与えてもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、一例として、セルフチェック時、セルフチェック信号を各診断解析部8x,8yに対して同時に入力しているが、当該セルフチェック信号の入力は、厳密に各診断解析部8x,8yに対して同時に行わなくともよく、所定のタイミングで非同期に行ってもよい。
【0041】
上述したように、本実施形態に係る装置Aによれば、診断解析部8x,8yに不具合が生じ、当該診断解析部8x,8yが軸受装置X,Yに対する異常の発生有無の診断自体を正常に行える状態ではないことを迅速に把握することができ、当該不具合に対して早急な対処を行うことが可能となる。これにより、診断解析部8x,8yに不具合が生じていることが看過され、軸受装置X,Yに対する異常の発生有無の診断が正常に行えない状態が継続してしまうことを有効に回避することができる。さらに、診断解析部8x,8yに不具合が生じる兆候を事前に把握することができるため、このような不具合が発生することを事前に回避し、適正な軸受装置X,Yに対する診断を常時、確実に行うことが可能となる。
【0042】
この結果、軸受装置X,Yに組み込まれた軸受2x,2yに発生した異常が看過されること、すなわち、軸受2x,2yに発生した異常の発見が遅れることがなく、軸受2x,2yの異常を迅速に把握することができる。このため、本実施形態に係る装置Aによって、例えば、鉄道車両用の軸受装置や、自動車用の軸受装置などに組み込まれた軸受を監視すれば、これらの軸受装置の信頼性の向上を図る上で非常に有効である。
【0043】
なお、上述したセルフチェック時以外の通常時、すなわち、軸受装置X,Yに対する異常の発生有無の監視時、装置Aは、軸受装置Xの振動センサ4xおよび回転速度センサ6xが、振動信号ならびに回転速度信号をいずれも診断解析部8xへ出力し、軸受装置Yの振動センサ4yおよび回転速度センサ6yが、振動信号ならびに回転速度信号をいずれも診断解析部8yへ出力している。この際、振動信号ならびに回転速度信号の出力先の設定は、制御部24がスイッチ部sx1,sx2,sy1,sy2を制御する(切り換える)ことで行っている。
【0044】
具体的には、制御部24がスイッチ部sx1,sx2を制御する(切り換える)ことで、軸受装置X(軸受2x)の振動センサ4xが出力した振動信号、ならびに回転速度センサ6xが出力した回転速度信号を、診断解析部8xに対して入力させている。同様に、制御部24がスイッチ部sy1,sy2を制御する(切り換える)ことで、軸受装置Y(軸受2y)の振動センサ4yが出力した振動信号、ならびに回転速度センサ6yが出力した回転速度信号を診断解析部8yに対して入力させている。
【0045】
このように、通常時において、装置Aは、軸受装置X(軸受2x)の振動状態ならびに回転状態を、振動センサ4xおよび回転速度センサ6xによって監視するとともに、当該軸受装置X(軸受2x)に対する異常の発生有無を診断解析部8xによって診断する構成となる。同様に、装置Aは、軸受装置Y(軸受2y)の振動状態ならびに回転状態を、振動センサ4yおよび回転速度センサ6yによって監視するとともに、当該軸受装置Y(軸受2y)に対する異常の発生有無を診断解析部8yによって診断する構成となっている。なお、診断解析部8xによって軸受装置Y(軸受2y)を診断するとともに、診断解析部8yによって軸受装置X(軸受2x)を診断する構成としてもよいし、所定のタイミングで、各診断解析部8x,8yが診断する軸受装置X,Y(具体的には軸受2x,2y)を切り換える構成としてもよい。
【0046】
また、図1に示す構成において、軸受装置X,Yは、軸受2x,2yがそれぞれ独立した車軸10x,10yを支持する構造を成しているが、例えば、鉄道車両の同一車両の車軸を回転自在に支持するための軸受装置などのように、各軸受装置における車軸の回転速度が同一と考えられる場合には、いずれか1つの車軸の回転状態のみを回転速度センサで監視し、検出した当該車軸の回転速度信号のみを解析する構成としてもよい。なお、この場合であっても、軸受の振動状態を監視し、検出した当該軸受の振動信号は、各軸受装置ごとにそれぞれ解析すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る異常診断装置の全体構成例を示す図。
【符号の説明】
【0048】
2x,2y 軸受
4x,4y 振動センサ
6x,6y 回転速度センサ
8x,8y 診断解析部
10x,10y 回転軸(車軸)
12x,12y ハウジング
14 インターフェース部
24 制御部
sx1,sx2,sy1,sy2 スイッチ部
A 異常診断装置
X,Y 軸受装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軸受装置の振動を検出する各装置の少なくとも1つの振動センサから出力される振動信号と、回転速度を検出する各装置の少なくとも1つの回転速度センサ、または同じ軸の回転速度を検出する他の回転速度センサから出力される回転速度信号から各軸受装置に対する異常の有無を診断する異常診断装置であって、
前記異常診断装置には、前記振動信号と前記回転速度信号が入力されて所定の軸受装置の動作状態を解析するとともに、その解析結果を出力する複数の診断解析部、各診断解析部への前記振動信号の入力ならびに前記回転速度信号の入力を切り換えるスイッチ部、前記各診断解析部および前記スイッチ部の動作を制御するとともに、当該診断解析部から出力された解析結果が与えられ、前記各軸受装置に対する異常の有無の判定を行って、その判定結果を出力する制御部、ならびに前記制御部から与えられた判定結果を表示あるいは通知するインターフェース部が設けられ、
各診断解析部は、通常時、所定の軸受装置の振動信号と回転速度信号に対する解析結果から当該軸受装置に対する異常の有無を診断するとともに、出力した解析結果を前記制御部へそれぞれ与えているのに対し、
一定時間間隔で又は必要に応じて、いずれか1つの軸受装置の振動信号および回転速度信号を同時に入力して解析し、当該軸受装置に対する異常の有無を診断するとともに、出力した解析結果を前記制御部へそれぞれ与えており、
制御部は、各診断解析部から与えられた前記いずれか1つの軸受装置に対する解析結果が一致しているかどうかを確認することで、当該各診断解析部が正常に動作しているかどうかを判定することを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
インターフェース部として、制御部から与えられた各診断解析部に対する異常の有無の判定結果が表示される表示器が設けられ、
制御部は、各診断解析部から与えられた前記いずれか1つの軸受装置に対する解析結果を比較しており、3つ以上の診断解析部が設けられている場合には、これらの解析結果が2つ以上の診断解析部で一致した場合、これらの診断解析部が正常に動作していると判断し、当該各診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作情報を前記表示器に表示させるとともに、その他の診断解析部の動作が異常であることを示す異常動作情報を前記表示器に表示させるのに対し、
2つの診断解析部が設けられている場合には、これらの解析結果が一致した場合、これら2つの診断解析部が正常に動作していると判断し、当該2つの診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作情報を前記表示器に表示させ、一致しなかった場合、前記2つの診断解析部の動作が異常であると判断し、当該2つの診断解析部の動作が異常であることを示す異常動作情報を前記表示器へ表示させることを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
制御部は、一定時間間隔で又は必要に応じて、スイッチ部を切り換えることで、各診断解析部へ前記いずれか1つの軸受装置の振動信号ならびに回転速度信号を同時に入力させていることを特徴とする請求項1または2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
各診断解析部が正常に動作しているかどうかを判定するためのデータとして、当該各診断解析部により周波数分析がなされた振動信号ならびに回転速度信号の所定周波数におけるスペクトル値、スペクトルのRMS値、あるいは中間解析値のいずれかを制御部に対して与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の異常診断装置であって、鉄道車両用の軸受装置、若しくは自動車用の軸受装置に対する異常の発生有無を診断していることを特徴とする異常診断装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−232691(P2008−232691A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69926(P2007−69926)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】