説明

異方性導電膜およびその製造方法

【課題】水滴を利用して形成した多孔質膜を使用しつつ、かつ、導通性能を向上させることが可能な異方性導電膜、また、その製造方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている多孔質膜と、多孔質膜の孔部内に保持された導電性粒子と、多孔質膜の片面に形成された接着層とを有し、多孔質膜が、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂より形成されている異方性導電膜とする。上記多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、上記ポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより好適に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、小型化などに伴い、狭ピッチに配列された導体を有する部材間を電気的および機械的に接続する必要性が増大している。このような必要性が生ずる場合としては、例えば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)の分野において、駆動ICチップを搭載したTAB(Tape Automated Bonding)の電極と液晶パネルの電極とを接続する場合や、液晶パネルの電極上に裸の駆動ICチップ(ベアーチップ)を直接接続する(Chip On Glass:COG)場合などが挙げられる。
【0003】
上記接続においては、一般に、膜厚方向に導電性を示し、かつ、膜面方向に絶縁性を示す異方性導電膜(Anisotropic Conductive Film:ACF)が使用されることが多い。
【0004】
上記異方性導電膜としては、例えば、本件出願人による特許文献1には、疎水性を示し、かつ、揮発する有機溶媒中に高分子を溶解し、この高分子溶液をキャストした支持基板を高湿度条件下に存在させることにより多孔質膜を形成し、この多孔質膜の孔部内に導電性粒子を充填した後、膜の両面を接着層により被覆した3層構造の異方性導電膜が開示されている。
【0005】
上記多孔質膜の形成手法によれば、概略、有機溶媒が蒸発する際の潜熱によって液膜表面に結露による水滴が生じ、これが自己組織化的に最密にパッキングした後、水滴群が蒸発することにより、ハニカム状に配列した多数の孔部を有する多孔質膜が形成される。
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2005/096442号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の3層構造の異方性導電膜は、以下の点で改良すべき点があることが判明した。
【0008】
すなわち、例えば、ICチップと回路パターンとの間に、3層構造の異方性導電膜を介在させ、これらを熱圧着すると、ICチップの電極であるバンプと回路パターンとの間にある接着層が流動排除される。また、両者の間に導電性粒子が挟持される。そしてこの状態を保ったまま、ICチップと回路パターンとが接着されることにより、ICチップと回路パターンとが、電気的および機械的に接続される。
【0009】
ところが、本発明者らのこれまでの研究成果によれば、圧着条件などにもよるが、圧着後、接続すべき導体間に捕捉される導電性粒子数が少なくなる場合があることが判明した。
【0010】
これは、接着層の流動に伴い、多孔質膜が崩れ、当該膜から導電性粒子が流出してしまうためであると考えられる。この種の現象は、回路パターン側など、接着層が流動排除されるスペースが少ない側で生じやすい。
【0011】
そのため、せっかく導電性粒子を規則的に配置した異方性導電膜を作製しても、圧着時に導電性粒子の規則性が乱れてしまい、これ以上、導通性能を向上させることが困難であった。
【0012】
また、水滴を利用して多孔質膜を形成する場合、規則的に配列した孔部を安定して形成するためには、液膜表面に結露による水滴群を安定して生じさせる必要がある。そのため、これまで、疎水性の高分子材料を使用するのが通常であった。
【0013】
したがって、ガラス基板や回路パターンなど、親水性材料よりなる被接続物との接着力を確保するため、疎水性の多孔質膜の両面に接着層を形成せねばならなかった。それ故、水滴を利用して形成した多孔質膜を使用しつつ、上記問題を回避するのは困難な状況にあった。
【0014】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたもので、水滴を利用して形成した多孔質膜を使用しつつ、かつ、導通性能を向上させることが可能な異方性導電膜、また、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明に係る異方性導電膜は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、上記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている多孔質膜と、上記多孔質膜の孔部内に保持された導電性粒子と、上記多孔質膜の片面に形成された接着層とを有し、上記多孔質膜は、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂より形成されていることを要旨とする。
【0016】
ここで、上記導電性粒子は、多孔質膜に融着されていると良い。
【0017】
また、上記導電性粒子は、ほぼ同一平面内に存在すると良い。
【0018】
また、上記多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されたものであると良い。
【0019】
一方、本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、上記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂よりなる多孔質膜を形成する工程と、上記多孔質膜の孔部内に導電性粒子を充填する工程と、上記導電性粒子を充填した膜の片面に接着層を形成する工程とを有することを要旨とする。
【0020】
この際、上記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによると良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る異方性導電膜は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている多孔質膜と、多孔質膜の孔部内に保持された導電性粒子と、高分子膜の片面に形成された接着層とを有しており、上記多孔質膜は、残存水酸基量が特定範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂より形成されている。
【0022】
そのため、上記異方性導電膜は、水滴を利用して形成した多孔質膜を使用しつつ、かつ、導通性能を向上させることができる。
【0023】
すなわち、上記多孔質膜を形成するポリビニルアセタール系樹脂は、残存水酸基量が上記上限値で規定される。この場合、ポリビニルアセタール系樹脂の親水性の度合いが高くなりすぎず、これを原料にして水滴を利用した多孔質膜の形成方法を行っても、安定して成膜を行うことができる。そのため、水滴を利用して形成されるハニカム構造を有する多孔質膜の採用が可能となる。
【0024】
また、上記多孔質膜を形成するポリビニルアセタール系樹脂は、残存水酸基量が上記下限値で規定される。この場合、ポリビニルアセタール系樹脂の親水性の度合いが低くなりすぎず、多孔質膜自体が、被接続物との良好な接着性を発揮できる。そのため、多孔質膜の両面に接着層を形成する必要がなくなり、多孔質膜の片面に接着層を形成した2層構造の採用が可能となる。
【0025】
上記導通性能が向上する理由としては、2層構造を採用可能になったことで、圧着時に、接着層の流動に伴う多孔質膜の崩れ、これに起因する導電性粒子の流出を抑制することができ、より多くの導電性粒子を、当初の規則的な配列をほぼ維持したまま被接続物の導体間に捕捉することが可能になること、多孔質膜自体が有する接着性と接着層とにより、多くの導電性粒子を挟持した状態のまま、被接続物間を機械的に接続することが可能なことなどが考えられる。
【0026】
なお、上記異方性導電膜は、片面に接着層を有しているので、例えば、ICチップのバンプなど、比較的高い突起状導体を有する被接続物との間でも、良好な電気的および機械的接続を図ることができる。
【0027】
ここで、上記導電性粒子が多孔質膜に融着されている場合には、導電性粒子と多孔質膜との密着性が高まる。そのため、異方性導電膜の製造時に、導電性粒子が脱落し難くなり、ハンドリング性に優れる。
【0028】
また、多孔質膜に保持されている多数の導電性粒子が、ほぼ同一平面内に存在している場合には、積み重なった導電性粒子同士の接触によらずに、膜厚方向の導通を確保することができる。そのため、導電性粒子同士の接触抵抗がなくなり、その分、導通性能の向上に寄与する。また、圧着時に積み重なった導電性粒子が導体間から弾き出され、絶縁性を悪化させる心配も無くなる。
【0029】
一方、本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂よりなる多孔質膜を形成する工程と、多孔質膜の孔部内に導電性粒子を充填する工程と、導電性粒子を充填した膜の片面に接着層を形成する工程とを有する。そのため、上記作用効果を奏する異方性導電膜を得ることができる。
【0030】
上記多孔質膜の形成が、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによる場合には、水滴に由来して形成され、かつ、ハニカム状に配列した多数の孔部を有する、ハニカム構造の多孔質膜を得やすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本実施形態に係る異方性導電膜(以下、「本ACF」ということがある。)本実施形態に係る異方性導電膜の製造方法(以下、「本製造方法」という。)について詳細に説明する。
【0032】
1.本ACF
図1に、本ACFの模式的な断面図の一例を示す。本ACF10は、多孔質膜12と、導電性粒子14と、接着層16とを有している。
【0033】
本ACF10は、多孔質膜12と接着層16との2層構造であり、多孔質膜12自体が有する接着性と接着層16とにより、被接続物間を接着することができる。
【0034】
(多孔質膜)
本ACFにおいて、多孔質膜は、ポリビニルアセタール系樹脂より形成されている。
【0035】
上記ポリビニルアセタール系樹脂は、基本的には、ポリビニルアルコールを各種アルデヒドでアセタール化したものである。上記多孔質膜は、1種または2種以上のポリビニルアセタール系樹脂により形成されていても良い。
【0036】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、プロピルアルデヒドなどのアセタール化できるアルデヒドであればどのようなアルデヒドを用いてもよい。
【0037】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、具体的には、例えば、ガラス、金属などとの接着性が良好である、入手がしやすいなどの観点から、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂などが好ましい。特に好ましくは、ポリビニルブチラール系樹脂である。
【0038】
ここで、多孔質膜を形成するポリビニルアセタール系樹脂は、その残存水酸基量が、22mol%超〜30mol%未満の範囲内にある。
【0039】
上記ポリビニルアセタール系樹脂は、基本的には、親水性材料であるが、上記残存水酸基量によってその親水性の度合が異なる。本ACFにおいて、上記残存水酸基量は、後述する水滴を利用してハニカム構造の多孔質膜を成膜する際の成膜性、本ACF使用時における被接続物との接着性の両方を確保するのに関与する物性である。
【0040】
本ACFは、多孔質膜を形成するポリビニルアセタール系樹脂の残存水酸基量を上記範囲内とすることで、多孔質膜の成膜性と被接着物との接着性とのバランスに優れている。
【0041】
上記残存水酸基量の下限は、接着性がより向上するなどの観点から、好ましくは、23mol%以上、より好ましくは、24mol%以上、さらにより好ましくは、24.5mol%以上であると良い。
【0042】
一方、上記残存水酸基量の上限は、水滴を利用した多孔質膜の成膜性がより向上するなどの観点から、好ましくは、29.5mol%以下、より好ましくは、29mol%以下、さらにより好ましくは、28.5mol%以下であると良い。
【0043】
上記残存水酸基量が22mol%以下になると、親水性の度合が低くなって接着性が低下し、圧着後に剥離する傾向が見られる。また、上記残存水酸基量が30mol%以上になると、親水性の度合が高くなり、水滴を利用して、規則性の良好なハニカム構造の多孔質膜を成膜し難くなる傾向が見られる。
【0044】
なお、上記残存水酸基量は、IR測定により、ビニルアルコールに由来する水酸基量(mol%)と、残存アセチル基に由来するアセチル基量(mol%)とについて予め吸光度を用いた検量線を求めておき、実際のサンプルを測定して、上記検量線から算出することができる(JISK6728に準拠)。
【0045】
本ACFにおいて、上記多孔質膜は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されたハニカム構造を有している。
【0046】
ここで、上記孔部は、膜厚方向に貫通する貫通孔であっても良いし、膜厚方向に貫通しない非貫通孔であっても良い。また、上記孔部は、貫通孔と非貫通孔との両方を有していても良い。好ましくは、非貫通孔であると良い。
【0047】
本ACFの製造時に、導電性粒子が脱落し難くなりハンドリング性に優れる、本ACF圧着時に、接着層形成面側と反対面側から導電性粒子が流出し難くなり、導通性能を高めやすくなるなどの利点があるからである。
【0048】
上記孔部の内壁面の湾曲形状としては、具体的には、例えば、略球面状(厚み方向に潰れた略球面状なども含む)などを好適な形状として例示することができる。
【0049】
なお、上記ハニカム構造は、通常、機械的な加工などを用いて作製することが困難な構造である。そのため、上記ハニカム構造を有することは、後述する水滴を利用した成膜法を使用していることの有力な根拠の一つとなる。
【0050】
上記孔部の開口径は、異方導電の信頼性を高めるなどの観点から、例えば、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものよりも小さく、かつ、上記孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体(例えば、ICチップのバンプ、プリント配線板の回路パターンなど)の幅のうち、最も狭いものよりも小さいことが望ましい。
【0051】
この場合、好ましくは、上記孔部の開口径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものの1/2以下、かつ、上記孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものの1/2以下であると良い。
【0052】
なお、上記孔部の開口径とは、多孔質膜表面をレーザー顕微鏡で観察し、任意に選択した孔部10個について測定した各開口部分の直径の平均値をいう。また、上記孔部の間隔とは、多孔質膜表面をレーザー顕微鏡で観察し、任意に選択した隣接する孔部の開口縁部間10箇所について測定した各開口縁部間の距離の平均値をいう。
【0053】
このような多孔質膜は、水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に、上記ポリビニルアセタール系樹脂を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持体を、高湿度雰囲気下に存在させる方法を用いて好適に形成することができる。詳しくは、本製造方法の項にて後述する。
【0054】
上記多孔質膜の膜厚は、充填する導電性粒子の粒径、膜強度、製造時のハンドリング性などを考慮して決定することができる。
【0055】
上記多孔質膜の膜厚の上限は、好ましくは、上記導電性粒子の粒径の3/2倍以下、より好ましくは、上記導電性粒子の粒径の1倍以下、さらにより好ましくは、上記導電性粒子の粒径の2/3倍以下であると良い。
【0056】
一方、上記多孔質膜の膜厚の下限は、好ましくは、上記導電性粒子の粒径の1/10倍以上、より好ましくは、上記導電性粒子の粒径の1/5倍以上、さらにより好ましくは、上記導電性粒子の粒径の1/3倍以上であると良い。
【0057】
上記多孔質膜の膜厚が上記範囲内にある場合には、導電性粒子の充填時に、膜厚方向に導電性粒子が積み重なって充填され難くなる。また、被接続物が有する導体(ICチップのバンプなど)が導電性粒子を押し潰す際に、多孔質膜がそれを阻害し難い。そのため、導電性粒子が捕捉されやすくなり、膜厚方向の導通性能も向上させやすくなるからである。
【0058】
(導電性粒子)
本ACFにおいて、導電性粒子は、上記多孔質膜が有する多数の孔部内に保持されている。
【0059】
上記導電性粒子の形態としては、具体的には、例えば、略球状(断面が略楕円形状のものも含む)、略柱状、紡錘状、針状などを例示することができる。好ましくは、本ACFの製造時に孔部内に導電性粒子を充填しやすい、膜面方向の絶縁信頼性に優れる、均等に圧縮されやすいなどの観点から、導電性粒子の形態は、略球状であると良い。
【0060】
上記導電性粒子は、本ACFの使用時に、膜厚方向を電気的に接続可能な導電性を備えておれば良い。
【0061】
上記導電性粒子としては、具体的には、例えば、その表面から中心部まで導電性物質で満たされている粒子、高分子粒子の表面に1層または2層以上の導電性層が被覆されている粒子などを例示することができる。
【0062】
好ましくは、後者の粒子を用いると良い。加圧により粒子が弾性変形しやすいため、本ACFの使用時に、被接続物が有する導体との接触面積が大きくなり、膜厚方向の導通性を確保しやすくなるからである。
【0063】
より具体的には、例えば、前者の粒子の例として、金属粒子、カーボン粒子などを、後者の粒子の例として、樹脂粒子の表面に1層または2層以上の金属めっき層(電解めっき、無電解めっきなど)やスパッタ層などを有する粒子などを例示することができる。
【0064】
上記導電性物質、導電性層に適用可能な金属としては、具体的には、例えば、金、銀、白金属(白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミニウム、イリジウム)、ニッケル、銅、亜鉛、鉄、鉛、錫、アルミニウム、コバルト、インジウム、クロム、チタン、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウムなどの金属、錫−鉛合金、錫−銅合金、錫−銀合金、錫−鉛−銀合金などの2種以上の金属で構成される合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0065】
上記高分子粒子に適用可能な高分子としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリアルキレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、(メタ)アクリル酸エステル重合体、ジビニルベンゼン重合体、ジビニルベンゼン−スチレン共重合体やジビニルベンゼン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のジビニルベンゼン系重合体などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。なお、上記(メタ)アクリル酸エステルは、必要に応じて架橋されていても良い。
【0066】
好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル重合体、ジビニルベンゼン重合体、ジビニルベンゼン−スチレン共重合体やジビニルベンゼン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のジビニルベンゼン系重合体などである。
【0067】
さらに、本ACFでは、上記導電性粒子の表面に、TiOなどの絶縁性の酸化物や上記高分子などによる絶縁層が1層または2層以上被覆された粒子を用いても良い。もっとも、上記絶縁層は、本ACFの圧着時に、少なくとも電極などの導体に接した部分が破壊されて導通可能になる厚さとされている必要がある。このような粒子を用いた場合には、電極などの導体に接しない部分は絶縁層が破壊し難いため、膜面方向の絶縁性を向上させやすい。
【0068】
上記導電性粒子の粒径は、上記多孔質膜の孔部の開口径、孔部の深さ、被接続物が有する導体の幅やピッチなどを考慮して決定することができる。
【0069】
上記導電性粒子の粒径の上限は、具体的には、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、7μm以下、さらにより好ましくは、5μm以下などである。
【0070】
一方、上記導電性粒子の粒径の下限は、具体的には、好ましくは、1μm以上、より好ましくは、2μm以上、さらにより好ましくは、3μm以上などである。
【0071】
なお、上記導電性粒子の粒径は、粒度分布測定装置(セイシン企業製、「PITA−1」)にて測定した平均粒径である。また、本ACFは、上記した導電性粒子を1種または2種以上含んでいても良い。
【0072】
本ACFにおいて、上記導電性粒子は、当該導電性粒子と多孔質膜との間に隙間を有した状態で、多孔質膜に保持されていても良いし、当該導電性粒子と多孔質膜とが密着した状態で、多孔質膜に保持されていても良い。
【0073】
本ACFの製造時などに、導電性粒子が脱落し難く、ハンドリング性に優れるなどの観点から、当該導電性粒子と多孔質膜とは密着していると良い。より好ましくは、上記効果に優れるなどの観点から、当該導電性粒子と多孔質膜とは融着していると良い。
【0074】
上記導電性粒子は、上記多孔質膜の両面に導電性粒子の一部が露出された状態で保持されていても良いし、上記多孔質膜の何れか一方面に導電性粒子の一部が露出された状態で保持されていても良い。
【0075】
導電性粒子が露出されている場合には、露出面側に配置される被接続物の導体と接触しやすくなる。そのため、導通性を確保しやすくなる。
【0076】
好ましくは、上記効果に優れるなどの観点から、上記導電性粒子は、多孔質膜膜の少なくとも一方面から、その一部を突出させた状態で保持されていると良い。
【0077】
また、上記導電性粒子が、接着層形成面と反対側の膜面に、その一部を露出させずに、多孔質膜に保持されている場合には、本ACFの製造時に、導電性粒子が脱落し難くなるため、ハンドリング性に優れる。
【0078】
なお、上記導電性粒子は、多孔質膜の両面に露出されない状態で、保持されていても構わない。
【0079】
本ACFでは、多数の導電性粒子は、ほぼ同一平面(多孔質膜の膜面とほぼ平行な面)内に存在すると良い。この場合には、膜厚方向に複数の導電性粒子が積み重ならない。そのため、膜厚方向の導通に、導電性粒子同士の接触抵抗が関与せず、導通性能を向上させやすくなる。また、圧着時に積み重なった導電性粒子が導体間から弾き出され、絶縁性を悪化させる心配も無くなる。
【0080】
なお、上記導電性粒子同士の間隔は、用いた多孔質膜の孔部の間隔によって、主に決定される。
【0081】
(接着層)
本ACFは、上記多孔質膜の片面に接着層を有している。強固な機械的接続を得るなどの観点から、接着層は1層あった方が良いからである。
【0082】
上記接着層材料は、被接続物との接着性、絶縁性を有するものであれば、何れのものでも使用することができる。
【0083】
上記接着層材料としては、各種の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂やゴムなどを用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ビスマレイミドトリアジン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シアネート系樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ビニル基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を1種または2種以上含むゴムやエラストマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0084】
上記熱硬化性樹脂としては、被接続物との密着性に優れるなどの観点から、具体的には、例えば、エポキシ系樹脂などを好適に用いることができる。
【0085】
また、上記接着層材料は、上記熱硬化性樹脂を半硬化させたプリプレグとされていても良い。この場合には、例えば、被接続物が有する複数の導体間の隙間に接着層が流動排除されやすくなる。また、被接続物との密着性も高まる。
【0086】
上記接着層材料は、85℃における弾性率(熱硬化するものは熱硬化前)が、好ましくは、1MPa以上、より好ましくは、7MPa以上であると良い。また、210℃における弾性率(熱硬化するものは熱硬化後)が、好ましくは、1.5MPa以上、より好ましくは、2.5MPa以上であると良い。
【0087】
弾性率が上記範囲内であれば、導電性粒子の保持力が良好であり、多孔質膜の動きも少なく、導電性粒子が一層流出し難いからである。
【0088】
なお、上記85℃の弾性率は、その高分子よる試料(直径20mm、厚み400μm)を作製し、応力制御型レオメータ(例えば、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製、「AR500」などが上市されている。)を使用して、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、圧縮歪み0.1%の測定条件にて、20℃から180℃までの弾性率を測定して求まる値である。
【0089】
一方、上記210℃の弾性率は、その高分子による試料(幅5mm、長さ30mm、厚み2mm)を210℃、5MPaで6分間熱圧着したサンプルを作製し、動的粘弾性測定装置(例えば、株式会社ユービーエム製、「Rheogel−E4000F」などが上市されている。)を使用して、昇温速度3℃/分、周波数15Hz、歪み0.05%(自動調整)、自動静荷重、チャック間隔20mmの測定条件にて、30℃〜230℃までの弾性率を測定して求まる値である。
【0090】
上記接着層の厚みは、接着層と接着する被接続物が有する導体(ICチップのバンプなど)の高さ、被接続物同士(ICチップと回路パターンなど)の間に生じる隙間量などを考慮して決定することができる。
【0091】
上記接着層の厚みの上限は、好ましくは、接着層と接着する被接続物が有する導体の高さの3倍以下、より好ましくは、2倍以下、さらにより好ましくは、1.75倍以下であると良い。
【0092】
上記接着層の厚みの下限は、好ましくは、接着層と接着する被接続物が有する導体の高さの1倍以上、より好ましくは、1.2倍以上、さらにより好ましくは、1.3倍以上であると良い。
【0093】
この際、上記接着層の厚みは、被接続物同士の間に生じる隙間を埋めやすくなるなどの観点から、上記多孔質膜の膜厚よりも厚くなるように選択すると良い。
【0094】
2.本製造方法
本製造方法は、多孔質膜形成工程と、粒子充填工程と、接着層形成工程とを有している。
【0095】
(多孔質膜形成工程)
本製造方法において、多孔質膜形成工程は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、上記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂よりなる多孔質膜を形成する工程である。
【0096】
ここで、上記多孔質膜は、水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に、上記ポリビニルアセタール系樹脂を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持体を、高湿度雰囲気下に存在させる方法を用いて好適に形成することができる。
【0097】
この方法によれば、概ね以下の原理によって上記多孔質膜が自発的に形成される。
【0098】
すなわち、支持体の表面に、所定塗布厚で膜状に形成された高分子溶液は、溶液中の有機溶媒が蒸発する際に潜熱を奪われる。そのため、温度が下がった高分子溶液の表面には、雰囲気中の水蒸気が凝結して形成された微小な水滴群が付着する。付着した水滴群は、潜熱によって高分子溶液内に生じた対流やキャピラリーフォースなどにより輸送、集積され、最終的には最密充填される。その後、最密充填された水滴群が蒸発すると、自己組織化的に配列した水滴群を鋳型として、ハニカム構造を有する多孔質膜が形成される。
【0099】
このようにして形成された多孔質膜は、貫通孔、非貫通孔の何れの孔部を有している場合であっても、基本的には、次のような立体構造を有している。
【0100】
すなわち、孔部は、ハニカム状に配列されており、隣接する各孔部同士は、隔壁により離間されている。また、これら孔部は、水滴を鋳型として形成されることから、その内壁面が、外側方向に向かって略球面状に湾曲されている(水滴表面に由来するため、孔部の開口径より孔部の内径の方が大きくなっている)。また、それ故、隔壁は、隣接する各孔部の内壁面同士が最も近接する付近に、膜面付近よりも肉厚の薄いくびれ部を有している。
【0101】
上記多孔質膜の形成方法としては、より具体的には、例えば、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、上記ポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させる方法などを好適に用いることができる。
【0102】
この場合、上記疎水性および揮発性を有する有機溶媒としては、具体的には、例えば、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン(MEK)、アセトンなどのケトン類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0103】
上記ポリビニルアセタール系樹脂の内容は、「1.本ACF」で述べた通りであるので割愛するが、1種または2種以上併用することができる。
【0104】
上記界面活性剤は、主として、高分子溶液の表面上に付着する水滴群を安定化させるなどの目的で添加されるものである。基本的には、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った化合物である。
【0105】
上記界面活性剤としては、具体的には、例えば、親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基など、親水性側鎖としてラクトース基もしくはカルボキシル基などを併せもつポリマー、または、ヘパリンやデキストラン硫酸などのアニオン性多糖と4級の長鎖アルキルアンモニウム塩とのポリイオン性錯体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0106】
上記高分子溶液中に含まれるポリビニルアセタール系樹脂の濃度の上限は、結露する水滴の保持性などの観点から、好ましくは、1重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以下、さらにより好ましくは、0.4重量%以下である。
【0107】
一方、上記高分子溶液中に含まれるポリビニルアセタール系樹脂の濃度の下限は、水滴結露時間などの観点から、好ましくは、0.01重量%以上、より好ましくは、0.1重量%以上、さらにより好ましくは、0.2重量%以上である。
【0108】
また、上記界面活性剤の含有量の上限は、結露する水滴の保持性などの観点から、ポリビニルアセタール系樹脂量に対して、好ましくは、1倍量以下、より好ましくは、1/2倍量以下、さらにより好ましくは、1/4倍量以下である。
【0109】
一方、上記界面活性剤の含有量の下限は、結露する水滴の保持性などの観点から、ポリビニルアセタール系樹脂量に対して、好ましくは、1/30倍量以上、より好ましくは、1/20倍量以上、さらにより好ましくは、1/15倍量以上である。
【0110】
上記高分子溶液をキャストする支持体の材料は、上記高分子溶液による液膜の形成に影響を及ぼさない一方、当該溶液に含まれる有機溶媒や各種の添加剤などにより、変質したり、腐食したりしない材料であれば、特に限定されるものではない。支持体の材料としては、具体的には、例えば、ガラス、金属、シリコンウェハーなどの無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などの高分子材料、水、流動パラフィンなどの液体などを例示することができる。
【0111】
上記支持体の形状は、特に限定されるものではなく、上記高分子溶液による液膜をその表面で安定して保持できるような形状であれば良い。通常は、例えば、板状、フィルム状などの平面状のものを好適に用いることができる。
【0112】
上記高分子溶液を支持体上にキャストする際の塗布厚は、例えば、上記ポリビニルアセタール系樹脂の濃度、溶液の粘度などを考慮して、水滴群が貫通孔、非貫通孔を形成できるように適宜調節することができる。
【0113】
上記高分子溶液をキャストした支持体は、相対湿度50%以上、好ましくは、50%〜95%の気体雰囲気下に存在させることが望ましい。相対湿度が上記範囲内にあれば、十分な結露を生じさせやすいためである。
【0114】
この際、相対湿度50%以上の雰囲気下中で上記高分子溶液を支持体上にキャストしても良いし、予め高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に置いても良い。また、相対湿度50%以上の気体を高分子溶液に、上方または斜め方向から吹きかけるなどしても良い。
【0115】
雰囲気中の気体、吹きかける気体としては、具体的には、例えば、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス、空気などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。好ましくは、コスト的に有利な空気(大気)を用いると良い。
【0116】
この方法では、膜の形成条件を適宜調整することにより、貫通孔、非貫通孔の何れについても形成可能である。貫通・非貫通を決する膜の形成条件としては、具体的には、例えば、高分子溶液の塗布厚(キャスト量)、高分子溶液に含まれる当該樹脂の濃度、相対湿度などを例示することができる。
【0117】
より具体的には、例えば、高分子溶液の塗布厚(キャスト量)を厚くする(多くする)、高分子溶液に含まれる当該樹脂の濃度を高くする、相対湿度を低くするなどの調整を行えば、非貫通孔が形成されやすくなる。その逆の調整を行えば、貫通孔が形成されやすくなる。
【0118】
これらのうち、簡単かつ効果的に、貫通・非貫通を決することができる条件は、高分子溶液の塗布厚(キャスト量)、高分子溶液に含まれる当該樹脂の濃度である。
【0119】
なお、形成した多孔質膜が貫通孔、非貫通孔の何れを有しているかを確認するには、膜の表面を観察し、孔部内に支持体が露出しているか否かを確認したり、支持体から膜を剥離し、膜の裏面を観察したりするなどすれば良い。
【0120】
上記多孔質膜の形成方法では、膜形成時に、有機溶媒の蒸発や、水滴群の蒸発を促進させるなどのため、必要に応じて、多孔質膜の形成に影響を及ぼさない範囲内で、加熱、乾燥などを行っても良い。
【0121】
(粒子充填工程)
本製造方法において、粒子充填工程は、上記多孔質膜の孔部内に上述した導電性粒子を充填する工程である。
【0122】
この工程では、孔部深さ方向に導電性粒子が積み重ならないように、導電性粒子を充填するのが好ましい。換言すれば、ほぼ同一平面内に存在するように、導電性粒子を孔部内に充填するのが好ましい。より好ましくは、導電性粒子を一つ一つ互いに離間させた状態にする観点から、孔部一つにつき、導電性粒子が一つずつ充填すると良い。
【0123】
上記導電性粒子の充填方法としては、具体的には、例えば、(1)導電性粒子自体またはその分散液を上記多孔質膜の表面上に広げた後、刷毛、ブラシ、ブレードなどで擦り切り、孔部内に導電性粒子を入れる方法、(2)導電性粒子自体またはその分散液を上記多孔質膜の表面上に広げた後、外部から磁力や振動を加え、孔部内に導電性粒子を入れる方法、(3)上記分散液中に上記多孔質膜を浸漬する方法、(4)上記多孔質膜の表面と一定距離離間させて板状部材を配置し、形成された隙間に、上記分散液を導入し、多孔質膜および/または板状部材をスライド移動させる方法、これらの組み合わせなどを例示することができる。
【0124】
導電性粒子を孔部内に物理的に押し込むので、導電性粒子をより確実に充填しやすい、充填させるのに要する時間が比較的短いなどの観点から、好ましくは、(1)の方法を用いるのが良い。より好ましくは、乾式で行うことができるなどの観点から、(1)の方法において粉末状の導電性粒子自体を用いるのが良い。さらに好ましくは、導電性粒子が孔部内に導入されやすくなるなどの観点から、(1)の方法において、導電性粒子を広げた面側と反対側から磁力により導電性粒子を多孔質膜に引きつけつつ、擦り切り手段により擦り切ると良い。なお、この場合には、導電性粒子としては、導電性とともに磁性を有しているものを用いれば良い。
【0125】
(接着層形成工程)
本製造方法において、接着層形成工程は、導電性粒子を充填した膜の片面に接着層を形成する工程である。
【0126】
この際、導電性粒子を保持した膜の両面が接着性を有する場合には、何れの面に接着層を形成しても良い。また、導電性粒子を保持した膜の片面が接着性を有する場合、その面とは反対側の面に接着層を形成することになる。
【0127】
上記接着層の形成方法としては、具体的には、例えば、上記接着層材料を適当な固形分量、粘度となるように調製した塗液を、コーターなどの公知の塗工手段を用いて塗工し、必要に応じて乾燥させる方法、予め作製しておいた膜状の接着層を積層して接合する方法などを例示することができる。
【0128】
本製造方法は、上記工程以外にも、以下に説明する付加的な工程を1つまたは2つ以上有していても良い。
【0129】
(加熱処理工程)
本製造方法は、上記多孔質膜形成工程と上記粒子充填工程との間、上記粒子充填工程と上記接着層形成工程との間、上記接着層形成工程の後の少なくとも何れかに、多孔質膜を形成するポリビニルアセタール系樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+100℃程度の温度で、多孔質膜を加熱処理する工程を有していても良い。
【0130】
上記水滴を利用した多孔質膜の形成方法によれば、隣接する各孔部同士の間に位置する隔壁は、隣接する水滴同士の隙間に入り込んだ高分子溶液により形成される。
【0131】
そのため、水滴と水滴とが最も近接するくびれ部付近は、特に、隔壁が薄くなる傾向がある。ときには、隣接する孔部同士を連通する連通孔がくびれ部に存在することもありうる。
【0132】
ところが、上記加熱処理工程を行った場合には、多孔質膜の隔壁のうち、肉厚の薄いくびれ部がいち早く軟化・溶融し、くびれ部に存在することがある連通孔が潰される。そのため、隣接する各孔部間の独立性を増大させることができる。また、隔壁の強度も向上させることができる。その後、この孔部同士の独立性が向上した多孔質膜の孔部内に導電性粒子を充填すれば、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁信頼性を向上させることができる。
【0133】
この際、多孔質膜を加熱する時間は、上記温度範囲などとの兼ね合いで、適宜調整することが可能である。加熱時間が過度に長すぎると、多孔質膜が変形してしまう場合がある。一方、加熱時間が過度に短すぎると、孔部の独立性を向上させる効果が不十分になるなどの傾向が見られる。したがって、多孔質膜の加熱する際には、これらに留意すると良い。
【0134】
多孔質膜を加熱する方法は、接触式、非接触式の何れの加熱方法であっても良く、特に限定されるものではない。
【0135】
上記加熱方法としては、具体的には、例えば、上記温度に調温された加熱源と多孔質膜とを、直接または熱伝導可能な部材などを介した状態で、一定時間当接させる方法、当該加熱源と多孔質膜とを近接させる方法などを例示することができる。
【0136】
より具体的には、例えば、所定温度に調温されたホットプレートなどの加熱源上に、ガラス基板などを介して、多孔質膜を一定時間載置する方法などを例示することができる。
【0137】
ここで、上記加熱処理工程は、さらに、膜厚方向への多孔質膜の加圧を伴った加熱・加圧処理工程であっても良い。
【0138】
上記水滴を利用した多孔質膜の形成方法では、高分子溶液の表面上に結露した水滴は、浮島状に密集する。そして、この浮島状に密集した水滴群が輸送、集積されると、水滴群同士がぶつかり合った境界近辺に、膜厚方向の段差ないし凹凸が生じやすい。
【0139】
ところが、膜形成後、多孔質膜を加熱・加圧した場合には、多孔質膜表面に生じた段差ないし凹凸が均一化される。その後、上記粒子充填工程において、孔部に導電性粒子を充填しやすくなる。また、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔も、加圧により潰されやすくなる。そのため、上記した隣接する各孔部間の独立化も図りやすくなる。
【0140】
多孔質膜を加圧する方法としては、具体的には、例えば、平坦面を有する板状部材により多孔質膜を挟持し、この状態を保持したまま、公知の加圧装置により直接あるいは介在部材を介して間接的に加圧する方法などを例示することができる。
【0141】
また、多孔質膜を加圧する圧力は、その膜を形成する樹脂の硬さ、くびれ部の肉厚、膜の加熱時間などを考慮して種々調節すれば良い。すなわち、膜形成過程において生じた段差を平坦にすることができる圧力であれば良い。多孔質膜を過度に加圧すると、膜の立体構造がくずれてしまう場合がある。一方、多孔質膜に対する加圧力が過度に少ないと、段差を平坦にし難い。したがって、多孔質膜を加圧する場合には、これらに留意すると良い。
【0142】
また、多孔質膜を加圧する場合、この加圧は、多孔質膜の加熱とほぼ同時に行っても良いし、加圧した多孔質膜を加熱しても、加熱した多孔質膜を加圧しても良い。すなわち、多孔質膜に対して少なくとも所望の熱および圧力が掛かった状態が得られれば、何れのタイミングで加圧しても良い。
【0143】
3.本ACFの使用方法
本ACFは、例えば、次のようにして使用することができる。
【0144】
図2に示すように、例えば、ICチップ22と基板24上に形成された回路パターン26との間に本ACF10を置き、図3に示すように、接着層16が流動する温度で熱圧着する。そうすると、ICチップ22のバンプ28と回路パターン26との間にある接着層16が流動排除される。また、バンプ28と回路パターン26との間に導電性粒子14が挟持される。そして、多孔質膜12が有する接着性と接着層16とにより、導電性粒子14を挟持した状態のまま、ICチップ22と回路パターン26とが接着される。これにより、ICチップ22と回路パターン26とは、電気的および機械的に接続される。
【0145】
ここで、本ACFは、接着層形成面側を加圧側とし、接着層形成面と反対側の膜表面を非加圧側として使用すると良い。
【0146】
例えば、ICチップと回路パターンとを接続する場合、上記のとおり、通常、ICチップ側が加圧側となり、回路パターン側が非加圧側となることが多い。
【0147】
回路パターン側は、バンプを有するICチップ側と比較して、接着層が流れるスペースが少ない。そのため、こちら側に接着層がないことで、多孔質膜の崩れ、導電性粒子の流出をより抑制しやすくなり、当初の導電性粒子の配列を維持したまま接続しやすくなるからである。
【0148】
また、接着層側に、バンプを有するICチップなど、比較的高さの高い導体を有する被接続物を接触させれば、導体間の隙間を接着層により満たしやすくなる。そのため、機械的な接続性を向上させやすくなるからである。
【実施例】
【0149】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0150】
1.多孔質膜材料の選定
初めに、多孔質膜材料を選定するため、以下の簡易評価を行った。
【0151】
(成膜性評価)
残存水酸基量の異なる数種のポリビニルブチラール系樹脂と、ポリブタジエンゴムとを準備し、これらを用いて、水滴を利用して多孔質膜を形成し、その成膜性を評価した。
【0152】
ここで、使用したポリビニルブチラール系樹脂、ポリブタジエンゴムは、次の通りである。
・残存水酸基量が20mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BL5」)
・残存水酸基量が22mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BL−S」)
・残存水酸基量が25mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック KS−3Z」)
・残存水酸基量が28mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BL−10」)
・残存水酸基量が30mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BH−6」)
・残存水酸基量が33mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BX−3」)
・残存水酸基量が36mol%のポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BL−2」)
・ポリブタジエンゴム(JSR(株)製、「RB820」)
【0153】
なお、各ポリビニルブチラール系樹脂の残存水酸基量は、上記測定方法に基づき算出された値である。
【0154】
また、多孔質膜は以下の手順で作製した。すなわち、上記所定のポリビニルブチラール系樹脂を0.26wt%の濃度となるようにクロロホルムに溶解した液に、界面活性剤として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸との共重合体を、ポリビニルブチラール系樹脂に対して0.026wt%添加し、高分子溶液を調製した。
【0155】
次いで、温度22℃、相対湿度57%の雰囲気中にて、φ90mm(外径)のシャーレ上に上記高分子溶液を7mlキャストした。その後、エアポンプを用いて、上記と同温同湿度の空気(流量2L/min)を、液面へ20°の角度から連続的に吹き付けた。
【0156】
30分経過後、形成された膜を、マイクロスコープ(倍率450倍)にて観察した。そして、シャーレの底の全面積に対する、孔部の規則性および孔径が良好な部位の面積率(%)(以下、「成膜良好部の面積率」ということがある。)を求めた。
【0157】
(接着性評価)
次に、上記成膜性評価にて得られた各多孔質膜と、後述する手順とほぼ同様にして準備した接着層とを、孔部に導電性粒子を充填しない状態で貼り合わせることにより、各模擬膜を作製した。
【0158】
次いで、各模擬膜を、ITOによる回路パターンを形成したガラス基板と、金バンプを有するICチップとの間に介在させ、これらを、温度210℃、加圧力80MPa、圧着時間60秒の条件で圧着した各サンプルを作製した。なお、この際、各模擬膜の接着層形成面側にICチップを配置した。
【0159】
次いで、各サンプルの初期状態と、80℃で24時間加熱した後における剥離の発生状態を、マイクロスコープ(倍率450倍)にて確認した。
【0160】
そして、任意の5点を撮影し、撮影した面内の白もや部分が、初期と処理後と比較して増加した面積を実測し、撮影面積に対する、白もやの面積の比率を算出した。これに基づき、ICチップの全面積に対する、剥離時に見られる白いもやの無い部分の面積率(%)(以下、「非剥離部の面積率」ということがある。)を求めた。
【0161】
図4に、使用したポリビニルブチラール系樹脂の残存水酸基量(mol%)と、上記非剥離部の面積率(%)(接着性)および成膜良好部の面積率(成膜性)との関係を示す。
【0162】
図4によれば、接着性と成膜性とはトレードオフの関係があるが、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にある場合には、接着性と成膜性との両者のバランスに優れていることが確認できた。
【0163】
また、この結果から、残存水酸基量は、上記接着性と成膜性と密接な関係があるといえ、ポリビニルブチラール系樹脂と同系統の樹脂であるポリビニルホルマール系樹脂などのポリビニルアセタール系樹脂についても、同様の性質を有するものと推察される。
【0164】
2.実施例および比較例に係る異方性導電膜の作製
上記「1.多孔質膜材料の選定」における簡易評価により得られた知見に基づき、実際に異方性導電膜を作製した。
【0165】
(実施例1)
初めに、残存水酸基量が25mol%であるポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレックKS−3Z」)を0.26wt%の濃度となるようにクロロホルムに溶解した液に、界面活性剤として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸との共重合体を、ポリビニルブチラール系樹脂に対して0.026wt%添加し、高分子溶液を調製した。
【0166】
次いで、温度22℃、相対湿度57%の雰囲気中にて、ガラス基板上に上記高分子溶液を塗布膜厚1100μmでキャストした。その後、エアポンプを用いて、上記と同温同湿度の空気(流量2L/min)を、塗布液面へ20°の角度から30分間連続的に吹き付けた。
【0167】
その結果、クロロホルムの揮発とともに高分子溶液表面に結露による水滴群が付着し、これが最密充填した後、水滴群が蒸発することにより、ハニカム状に配列された多数の孔部(非貫通孔)を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、ポリビニルブチラール系樹脂製の多孔質膜(膜厚5μm)が得られた。
【0168】
なお、得られた多孔質膜につき、孔部の開口径、孔部の深さ、隣接する孔部の開口中心間の距離を、レーザー顕微鏡(超深度カラー3D形状測定顕微鏡、キーエンス社製「VK−9500」)により測定した結果、それぞれ5μm、4μm、6μmであった。
【0169】
次に、ジビニルベンゼン系架橋樹脂よりなる粒子の表面に、Niめっき層、Auめっき層が順に被覆された、平均粒径4μmの樹脂めっき粒子(積水化学工業(株)、「ミクロパールAU−204」)を、上記多孔質膜の孔部形成面上に広げた。
【0170】
次いで、孔部形成面と反対側に設置した永久磁石((株)西興産業製、フェライト磁石、1000ガウス)にて、樹脂めっき粒子を多孔質膜に引きつけつつ、刷毛にて表面を擦り切り、孔部内に樹脂めっき粒子を導入した。
【0171】
なお、孔部が形成されていない多孔質膜表面に付着していた樹脂めっき粒子や、孔部に導入された樹脂めっき粒子に静電気力などで付着していた樹脂めっき粒子は、表面の擦り切りや、微粘着テープ((株)きもと製、「ビエーフルEP50」)を用いることで除去されている。
【0172】
これにより、孔部内に樹脂めっき粒子が充填された多孔質膜を用意した。なお、樹脂めっき粒子は、実質的に、孔部一つにつき一つずつ充填されていた。樹脂めっき粒子は、多孔質膜の粒子導入面からその一部が僅かに突出しており、かつ、膜の裏面(粒子導入面と反対側の面)にその一部が露出されていない状態で膜に充填されていた。
【0173】
次に、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ(株)製、「エピクロンHP7200HH」)90重量部と、ニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン(株)製、「ニポール1072J」)10重量部と、硬化剤(旭化成ケミカルズ(株)製、「ノバキュアHXA3932HP」)187重量部とを、固形分量が42%となるようにトルエンにて希釈し、接着剤溶液を調製した。
【0174】
次いで、コンマコーターを用い、連続的に供給されるベース基材(ポリエチレンテレフタレート、厚み38μm、リンテック(株)製「PET38C」)の離型面に、上記接着剤溶液を塗工した。
【0175】
次いで、この塗工層を110℃で90秒間乾燥させ、接着層(厚み20μm)を形成した。その後、この接着層の表面に、セパレータ(ポリエチレンテレフタレート、厚み38μm、リンテック(株)製、「PET38B」)の離型面を合わせて巻き取った。
【0176】
これにより、ベース基材とセパレータとの間に挟持された接着層を用意した。
【0177】
次いで、上記セパレータを剥離して露出させた接着層の表面と、樹脂めっき粒子を充填した多孔質膜の表面(粒子導入面側)とを重ね合わせ、これを貼り合わせた。
【0178】
以上により、樹脂めっき粒子を充填した膜の片面に接着層を形成した。
【0179】
上記の通りにして、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、ポリビニルアセタール系樹脂(残存水酸基量割合25mol%)製の多孔質膜と、多孔質膜の孔部内に保持された樹脂めっき粒子と、多孔質膜の片面に形成された接着層とを有する、実施例1に係る異方性導電膜を作製した。なお、上記多孔質膜は、膜自体が接着性を有している。
【0180】
(実施例2)
実施例1に係る異方性導電膜の作製において、高分子溶液の調製時に、残存水酸基量が25mol%であるポリビニルブチラール系樹脂に代えて、残存水酸基量が28mol%であるポリビニルブチラール系樹脂(積水化学工業(株)製、「エスレック BL−10」)を用い、ハニカム構造の多孔質膜(膜厚5μm)を形成した点以外は同様にして、実施例2に係る異方性導電膜を作製した。
【0181】
なお、得られた多孔質膜の孔部の開口径、孔部の深さ、隣接する孔部の開口中心間の距離は、それぞれ5μm、4μm、6μmであった。
【0182】
(比較例1)
クロロホルムにポリブタジエンゴム(JSR製、「RB820」)を0.1wt%の濃度で溶解した液に、界面活性剤として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸との共重合体をポリブタジエンゴムに対して0.01wt%添加し、高分子溶液を調製した。
【0183】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度50%の空気を連続的に吹き付けているガラス基板上に塗布膜厚1800μmでキャストし、クロロホルムを揮発させた。
【0184】
その結果、ハニカム状に配列された多数の孔部(非貫通孔)を有するポリブタジエンゴム製の多孔質膜(膜厚5μm)が得られた。この際、得られた多孔質膜の孔部の開口径、孔部の深さ、隣接する孔部の開口中心間の距離は、それぞれ5μm、4μm、6μmであった。
【0185】
そして、実施例1に係る異方性導電膜の作製において、ポリビニルブチラール系樹脂製の多孔質膜に代えて、上記ポリブタジエンゴム製の多孔質膜を用いた点、接着層形成時に、樹脂めっき粒子が充填された多孔質膜の両面に、それぞれ接着層(但し、粒子導入面側の接着層20μm、その反対面側の接着層2μm)を形成した点以外は同様にして、比較例1に係る異方性導電膜を作製した。
【0186】
なお、比較例1に係る異方性導電膜は、ポリブタジエンゴム製の多孔質膜の孔部内に樹脂めっき粒子が充填されており、この膜の両面に接着層が被覆された従来の3層構造である。
【0187】
(比較例2)
比較例1に係る異方性導電膜の作製において、樹脂めっき粒子の導入面と反対側を接着層で被覆しなかった点以外は同様にして、比較例2に係る異方性導電膜を作製した。
【0188】
この際、得られた多孔質膜の孔部の開口径、孔部の深さ、隣接する孔部の開口中心間の距離は、それぞれ5μm、4μm、6μmであった。
【0189】
なお、比較例2に係る異方性導電膜は、ポリブタジエンゴム製の多孔質膜の孔部内に樹脂めっき粒子が充填されており、この膜の片面に接着層が被覆された2層構造である。
【0190】
3.各異方性導電膜の評価
上記作製した実施例および比較例に係る異方性導電膜につき、膜厚方向の導通性能および膜面方向の絶縁性能を評価した。
【0191】
(評価試料の作製)
すなわち、先ず、厚み0.7mmのガラス基板表面に形成した回路パターン(材質ITO、パターンピッチ30μm、パターン幅20μm)上に、異方導電性膜を載置し、温度120℃、回路パターン上に貼りつけた異方性導電膜の面積に対して加圧力0.25MPa、圧着時間5秒の条件で、仮圧着した。
【0192】
次いで、仮圧着された異方性導電膜のセパレータを剥離した後、その上に、Auバンプを有するICチップ(バンプピッチ30μm、バンプ幅20μm)を、回路パターンとAuバンプとが相対峙するように載置した。
【0193】
次いで、この状態のまま、温度210℃、加圧力80MPa、圧着時間60秒の条件で、本圧着した。上記本圧着後、引き続き、温度50℃、加圧力80MPa、時間30秒の条件で、冷却を行った。
【0194】
以上により、試料1〜試料2、比較試料1〜比較試料2を作製した。なお、試料および比較試料の番号は、実施例および比較例の番号と対応している。
【0195】
(膜厚方向の導通性能の評価)
得られた各試料につき、相対峙する回路パターン−Auバンプ間の電気抵抗を、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ製、「ロレスタGP」)を用い、4端子4探針法により測定した。なお、各試料数は、それぞれN=10[個]であり、算術平均による平均値を算出し、これを膜厚方向の電気抵抗とした。
【0196】
(膜面方向の絶縁性能の評価)
得られた各試料につき、隣接する回路パターン間の電気抵抗を、テスターT2(AND社製、「AD5522」)を用いて測定した。なお、各試料数は、それぞれN=10[個]であり、電気抵抗が10Ω以上となる割合=絶縁性確保率(%)を求めた。
【0197】
(評価結果)
表1に、実施例および比較例に係る異方性導電膜の評価結果をまとめて示す。
【0198】
【表1】

【0199】
(考察)
表1を相対比較すると次のことが分かる。
【0200】
すなわち、比較例1に係る異方性導電膜は、従来の3層構造である。そのため、他に比較して、膜厚方向の電気抵抗が大きかった。
【0201】
これは、回路パターン側の接着層の流動に伴い、多孔質膜が崩れて孔部から樹脂めっき粒子が流出してしまい、当初の規則的な配置が乱れ、回路パターンとバンプとの間に捕捉されるはずの樹脂めっき粒子が少なくなってしまったためであると推察される。
【0202】
また、比較例2に係る異方性導電膜は、比較例1と同様に、疎水性材料であるポリブタジエンゴムよりなる多孔質膜を用いたものであるが、接着層が1層である。そのため、接着層形成面と反対側の多孔質膜の表面は、全く接着性を有していない。それ故、回路パターンとバンプとの間に樹脂めっき粒子を圧縮挟持した状態で、両者を機械的に接続することができず、膜厚方向の電気抵抗が極めて大きく、絶縁性を示した。
【0203】
ここで、実施例1および実施例2では、何れも、水滴を利用して多孔質膜を形成するにあたり、親水性材料であるポリビニルブチラール系樹脂を用いて、従来の疎水性高分子を用いた場合とほぼ同様にして、ハニカム構造の多孔質膜を形成できている点が注目に値すると言える。その結果、本発明では、このハニカム構造の多孔質膜が有する規則的な孔部の配列を利用することができる。
【0204】
そして、実施例1および実施例2に係る異方性導電膜は、従来の3層構造の比較例1に係る異方性導電膜に比較して、導通性能を向上させることもできていることが分かる。
【0205】
この理由としては、2層構造を採用可能となったことで、圧着時に接着層の流動に伴う多孔質膜の崩れ、これに伴う樹脂めっき粒子の流出を抑制することができ、多くの樹脂めっき粒子を、当初の規則的な配列をほぼ保持したまま、回路パターンとバンプとの間に捕捉することができたこと、多孔質膜自体が有する接着性と接着層とにより、多くの樹脂めっき粒子を挟持した状態のまま、回路パターンとICチップとの間を機械的に接続することができたことなどが挙げられる。
【0206】
したがって、これらの結果から、本発明に係る異方性導電膜およびその製造方法によれば、水滴を利用して形成した多孔質膜を使用しつつ、かつ、導通性能を向上させることが可能であることが確認できた。
【0207】
以上、本発明の一実施形態、一実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】本実施形態に係る異方性導電膜の模式的な断面図の一例である。
【図2】ICチップと回路パターンとの間に本実施形態に係る異方性導電膜を介在させた状態を模式的に示した図である。
【図3】ICチップと回路パターンとの間が本実施形態に係る異方性導電膜により接続された状態を模式的に示した図である。
【図4】ポリビニルブチラール系樹脂の残存水酸基量(mol%)と、上記非剥離部の面積率(%)(接着性)および成膜良好部の面積率(成膜性)との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0209】
10 ACF
12 多孔質膜
14 導電性粒子
16 接着層
22 ICチップ
24 基板
26 回路パターン
28 バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、前記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている多孔質膜と、
前記多孔質膜の孔部内に保持された導電性粒子と、
前記多孔質膜の片面に形成された接着層とを有し、
前記多孔質膜は、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂より形成されていることを特徴とする異方性導電膜。
【請求項2】
前記導電性粒子は、前記多孔質膜に融着されていることを特徴とする請求項1に記載の異方性導電膜。
【請求項3】
前記導電性粒子は、ほぼ同一平面内に存在することを特徴とする請求項1または2に記載の異方性導電膜。
【請求項4】
前記多孔質膜は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されたものであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の異方性導電膜。
【請求項5】
ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、前記孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂よりなる多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜の孔部内に導電性粒子を充填する工程と、
前記導電性粒子を充填した膜の片面に接着層を形成する工程と、
を有することを特徴とする異方性導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、残存水酸基量が22mol%超〜30mol%未満の範囲内にあるポリビニルアセタール系樹脂と、界面活性剤とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持体を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることによることを特徴とする請求項5に記載の異方性導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−186760(P2008−186760A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20962(P2007−20962)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】