説明

異材の溶接方法

【課題】融点の異なる2つの金属線材を互いに突合せて接合する場合において、固相拡散接合を活発化する接合プロセスによって、良好な継手強度および接合品質が安価に得られる溶接方法を提供する。
【解決手段】絶縁被膜された銅線材からなる第1部材2と、絶縁被膜されたアルミニウム線材からなる第2部材3との異種金属線材の突合せ接合する場合、融点の高い第1部材2の一端部2aのみを溶融させ、その溶融金属部に融点の低い第2部材3の一端部3aを押し付け、溶融金属部からの熱伝導で実質的に第2部材3の当接面18のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温させ、さらに圧力を掛け、溶融金属部に押し込むことで溶融金属を外部に排出し、常に、当接面18を清浄に保ちつつ、一定の加圧力と昇温することによって固相拡散接合を活発化する接合プロセスを採用して、良好な継手強度および接合品質を安価に得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに材料と融点の異なる被接合部材を強固に接合する溶接方法に関し、特に、溶融した高融点側の部材に、低融点側の部材を押し付けて加圧する固相接合を可能とした異材の溶接方法に係る。
【背景技術】
【0002】
〔従来の技術〕
従来より、自動車等の車両用交流発電機(以下、オルタネータと呼ぶ)等の回転電機の固定子巻線の引出線と固定子巻線に給電する部材の導体端子との間の接合方法として、共に銅材料の同種金属からなる導線と導体端子を溶接アークにより溶融して互いに接合するTIG溶接方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、車両の軽量化、および低コスト化に鑑み、オルタネータ等の回転電機の固定子巻線をアルミニウム線材化とする検討がなされている。絶縁被膜されたアルミニウム線材による巻線は、同様に絶縁被膜された銅線材による巻線と、加工工程および組付工程等において遜色なく、材料比重の小さい分だけ軽量化には効果的である。しかし、溶接工程において、アルミニウム線材の巻線の引出線と銅材料の導体端子との間の接合は、互いに異種金属からなる部材同士であるため難しいという問題がある。一般に、アルミニウム材料は、表面に強固な酸化皮膜が形成されやすく、このために、溶接性、接合性が悪い材料とされており、この酸化皮膜の除去効果(クリーニング効果)を有するTIG溶接方法が適用されてきた。
【0004】
〔従来技術の不具合〕
しかるに、アルミニウム材料と銅材料のように大幅に融点の異なる異材を、重ね合わせ、もしくは突合せて、その両端部を溶接アークにより溶融して接合する従来式のTIG溶接方法では、一見、共に、溶融が進行して溶融金属接合が促進するように見えるが、しかし、融点が大幅に異なるため、例えば、図3(a)の重ね合わせTIG溶接に示すように、低融点側のアルミニウム線材101が、先ず、多量に溶融し、この溶融金属が、高融点側の銅線材102が十分に溶融しないのに覆い被さってみかけ状の溶接玉103を生成する場合がある(図3(b)参照)。
【0005】
この場合、一方は溶融したが他方は溶融しておらず、接合面では溶融金属接合が生じ難く、単に、密着して接続した形態であるため、継手強度は非常に低く、引張強度およびせん断強度ともに双方の母材強度に比して、著しく低下し、いともたやすく境界破断を起こしてしまう(図3(c)参照)。
【0006】
また、TIG溶接の溶接電流や溶接時間等の溶接条件の調整により、互いの金属材料が略均等に溶融を開始して、溶融金属同士の溶融金属接合を促進させることも可能であるが、共に溶融するための溶接アークによる昇温が著しく高温となって、粒生長と粒界に所謂金属間化合物が析出して、非常に脆い接合となる可能性もあって、やはり、双方の母材強度に比して、引張強度およびせん断強度とも継手強度が低下する懸念がある。
【0007】
また、図3に示すように、TIG溶接時には良好な溶接アークを発生させるべく正極の溶接トーチ104に対し、負極となるアース板105を両部材に接地してアースを取る必要があり、このために双方の線材の絶縁被膜の除去が予め別工程で処理される。絶縁被膜の除去方法は、一般には、カッター等で機械的に剥離したり、薬品等で化学的にエッチングしたりすることで実施されるが、いずれの方法(工程)も工数が掛かる。また、絶縁被膜が被覆されたままの溶融では被膜材料の酸化物が不純物となって溶融金属に混入し、粒界での析出物悪化を促進し、継手強度が低下する懸念もあって、絶縁被膜除去工程は不可避の工程として採用され、溶接工程が工数の掛かる高コストなものとなる懸念がある。
以上のことは、突合せTIG溶接の場合においても同様であり、良好な継手強度および接合品質が安価に得られないことが懸念されている。
【特許文献1】特開2000−218366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、融点の異なる2種の金属線材を互いに突合せて接合する場合において、同種金属間の接合には好適である溶融金属接合方法ではなく、異種金属間の接合に好適である固相接合方法を適用する。そして、同種金属間の場合と同様に、接合表面の凹凸に起因する空孔や酸化皮膜などの残存が、界面の接合強度を低下させる主要な接合欠陥となるのを防止するため、突合せの接合面において、接合欠陥を外部に流動、排出させ、常に、清浄な接合面同士が対向して加圧密着し、原子間結合力によって接合する固相接合と、さらに、高温に昇温して接合面間に相互に拡散を生じて接合する拡散接合との組合せになる固相拡散接合が活発化できる接合プロセスを採用し、母材並みの引張強度またはせん断強度の継手強度を有し、かつ、良好な接合品質が安価に得られる溶接方法を提供することが重要な課題となる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、融点の異なる2つの金属線材を互いに突合せて接合する場合において、固相拡散接合を活発化する接合プロセスによって、良好な継手強度および接合品質が安価に得られる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の手段では、融点の異なる金属材料からなる2種の被接合部材に対して、溶接アークにより被接合部材を溶融し、被接合部材同士を突合せ接合する異材の溶接方法において、融点の高い第1の被接合部材(第1部材)と、第1部材よりも融点の低い材料からなる第2の被接合部材(第2部材)とを軸線を一致させて対向し、互いに隔てて配置する第1工程と、第1部材の一端部のみを溶接アークにより溶融して溶融金属部を形成する第2工程と、第2部材の一端部を溶融金属部に押し付けて当接し、溶融金属部からの熱伝導で実質的に第2部材の当接面のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温させる第3工程と、第2部材の一端部を溶融金属部に加圧して押し込んで、溶融金属部の余剰の溶融金属を外部に排出する第4工程と、第2部材の一端部が所定のストロークだけ移動した後、加圧を保持したまま停止して、溶融金属部を冷却する第5工程とによって、突合せ接合することを特徴としている。
【0011】
これにより、第2部材の一端部は、接合面となる当接面のみが僅かに溶融、もしくは融点近くまで昇温するので、仮に、表面に強固な酸化皮膜が形成されていても剥がれやすく、さらに、加圧して押し込むので、溶融金属部の溶融金属とともに外部に排出されて、常に、酸化皮膜のない清浄な接合面が確保され、原子間結合力による固相接合が実行され易い。そして、大きな加圧力と昇温の状態下により、接合面での互いの原子の拡散が促進し、固相接合であるが拡散接合も活発化して、固相拡散接合が可能となる。つまり、同種金属同士の接合と同等な母材並みの引張強度またはせん断強度の継手強度が確保できる。
【0012】
また、第1部材の一端部のみの溶融で済むため、第1部材は高融点材料ではあるが、溶接アークの入熱または予熱は、溶融金属接合方法に比して少量で済み、従って、省電力化が図れるとともに第1部材の溶接アークの熱影響部を低減させることができ、母材の粒生長や粒界析出物、並びに、なまし効果等による強度低下を抑制できる。
【0013】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の手段では、第1工程における第1部材と第2部材との対向配置の初期時の位置間隔は、溶接アークによって第2部材が入熱されないよう所定の距離だけ離れていることを特徴としている。
【0014】
これにより、溶接アークによる入熱が第1部材のみに作用させやすくなり、また、第2部材への熱影響(例えば、入熱または加熱など)が防止されることによって、効果的な両者間の固相接合が実現しやすくなる。
【0015】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の手段では、第2工程における第1部材に形成される溶融金属部は、所定の大きさの球状の溶接玉に形成されることを特徴としている。
【0016】
これにより、所定の熱容量が確保できるとともに、第2部材の一端部を押し込んだときに、球状の溶融金属が一様に押し潰されて略放射状に排出されるので、接合面の全面が均等に清浄面となり易い。
【0017】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の手段では、第3工程における第2部材の一端部を溶融金属部に押し付けることの起動は、第2工程における溶接アークの通電終了から所定の時間を経過した後、開始することを特徴としている。
【0018】
これにより、溶融金属部からの熱伝導で実質的に第2部材の接合面のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温が可能となって、接合面での接合が、従来のような金属溶融接合ではなく、固相接合となって、強固、かつ、良好な接合品質が得られる。
【0019】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の手段では、第4工程における第2部材の一端部の溶融金属部への押し込みは、一定の加圧力で、かつ、所定のストロークまで実施することを特徴としている。
【0020】
これにより、第2部材の一端部の溶融金属部への押し込みが、溶融金属部の熱影響部(所謂二番近傍)まで実行され、この溶融金属部の熱影響部近傍は昇温された固相であるため、第2部材の加圧力が直接に作用して、加圧による拡散プロセスが促進して良好な接合品質の固相接合が可能となる。
【0021】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載の手段では、第5工程における第2部材の一端部の溶融金属部への加圧力は、溶融金属部の冷却終了まで保持されることを特徴としている。
これにより、圧力による拡散接合が促進でき、良好な接合品質の固相接合が可能となる。
【0022】
〔請求項7の手段〕
請求項7に記載の手段では、第1および第2部材は、その断面形状が矩形もしくは円形であり、その表面が絶縁被膜により被覆された金属線材であることを特徴としている。
【0023】
これにより、単に溶融金属部に押し付けることで固相接合が可能となるので、母材の硬度や剛性の変更なしに、車両用オルタネータ等の回転電機の固定子巻線の接合に適用が可能となる。
【0024】
〔請求項8の手段〕
請求項8に記載の手段では、第1部材は、銅材料または銅合金材料であり、第2部材は、アルミニウム材料またはアルミニウム合金材料であることを特徴としている。
【0025】
これにより、表面に強固な酸化皮膜が形成されやすいアルミニウム材においても、この酸化皮膜の除去が簡単かつ確実に実施でき、銅材料の異材との突合せ接合が容易となるので、固定子巻線のアルミニウム線材化の適用に好適に採用できる。
【0026】
〔請求項9の手段〕
請求項9に記載の手段では、第1部材の一端部の絶縁被膜は、予め別工程にて除去され、第2部材の一端部の絶縁被膜は除去されることなく、互いに突合せ接合されることを特徴としている。
【0027】
これにより、接合面における接合プロセスが、主に、第2部材の常に清浄化される当接面のみによる固相接合の促進によるため、絶縁被膜を敢えて除去する必要はなく、第2部材の当接面のみの母材露出があれば、他の側面の母材露出がなくとも事足りる。また、仮に、絶縁被膜が共に溶融されたとしても、加圧して押し込まれる際に、常に余剰の溶融金属とともに外部に排出されてしまうので、絶縁被膜の酸化物等が混入して固相接合の促進を制限することはない。従って、第2部材の一端部の絶縁被膜除去工程は不要となって溶接工程が簡素となり、コストアップを抑制して良好な接合品質が安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の最良の実施形態は、異種金属材料を突合せ接合する場合、融点の高い金属材料側を溶融させ、その溶融金属に融点の低い他の金属材料を押し付け、溶融金属からの熱伝導で実質的に他の金属材料の接合面のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温させ、さらに圧力を掛け、押し込むことで溶融金属を外部に排出し、常に、接合面を清浄に保ちつつ、一定の加圧力と昇温の状態下により固相拡散接合を活発化する接合プロセスを採用して、良好な継手強度および接合品質を安価に得るものである。
【0029】
本発明の最良の実施形態を、図に示す実施例1とともに説明する。実施例1では、被接合部材は、車両用オルタネータの固定子巻線とこの固定子巻線に給電する部材であるセグメントコンダクタ部品の導体端子との接合を対象とし、導体端子は絶縁被膜された銅材料の平角導線(高融点1083°C、以下、第1部材と呼ぶ)であり、固定子巻線は絶縁被膜されたアルミニウム材料の平角導線(低融点約660°C、以下、第2部材と呼ぶ)である。
【実施例1】
【0030】
〔実施例1の構成〕
図1および図2は本発明の実施例1を示したもので、図1は突合せ溶接装置の概略を示し、(a)は部分上面図であり、(b)は全体立面図である。図2は突合せ溶接の接合工程図である。
【0031】
(突合せ溶接装置の構成)
突合せ溶接装置1は、図1に示すように、互いに融点の異なる2種の被接合部材のうち高融点側の第1部材2を保持する静止部と、第1部材2に低融点側の第2部材3を移動して突合せて接合する可動部とから構成されている。
【0032】
静止部は、第1部材2を係止する固定台4と、固定台4との間に第1部材2を挟持する第1ホルダ5と、固定台4を上端側に保持する第1スタンド6とからなり、第1ホルダ5を固定する取付ボルト7によって第1スタンド6に取付けられ、さらに、第1スタンド6の下端側は固定ボルト8によってベース9に固定されている。
【0033】
一方、可動部は、第2部材3を係止する可動台10と、可動台10との間に第2部材3を挟持する第2ホルダ11と、可動台10と結合して可動台10を前後(図示左右方向)に移動(ストローク)させ、しかも、所定の押し荷重(加圧力)を発生するエアシリンダ12と、エアシリンダ12を上端側に保持する第2スタンド13とからなり、エアシリンダ12を固定する取付ボルト14によって第2スタンド13に取付けられ、さらに、第2スタンド13の下端側は固定ボルト15によってベース9に固定されている。
【0034】
ここで、エアシリンダ12は、その内部にピストン(図示せず)を構成し、高圧縮エアの供給によって所定の加圧力が全ピストンストロークに渡って一定となる周知のエアアクチュエータであり、ピストンの一端側にピストンロッド16が突出し、このピストンロッド16と可動台10とが結合されて、可動台10が所定のストロークを呈するものである。なお、エアシリンダ12はピストンと対をなすエアアクチュエータに限ることなく、所定の加圧力が全ストロークに渡って一定となる作用であれば、他の機械的アクチュエータもしくは電気的アクチュエータであってもよい。また、エアシリンダ12と第2スタンド13との間には電気的な絶縁材17が装着されていることが好ましい。
【0035】
これにより、静止部の第1部材2に可動部の第2部材3が移動して確実な突合せが実現できる。そして、さらに、静止部の第1部材2の突合せ接合部近傍に、第1部材2と所定の間隔を維持して溶接トーチ20が図示しないロボットアーム上に配置され、溶接条件にミートするよう自在な調整が可能となっている。本実施例で採用する溶接トーチ20は、溶接時に周りの空気の介在による酸化を防止し、さらに、溶接トーチ20からのアーク22が広く放射状に広がるのを抑えることができるシールドガスを噴出する周知のTIG溶接用のものであり、正極の溶接トーチ20からのアーク22が良好に生じるよう負極のアース板21が、第1部材2の側面と接続できるように固定され、アース電流が流れるようになっている。
【0036】
ここで、アース板21が第1部材2の側面と接続してアース電流を流すには、第1部材2が裸線材であるか、または、絶縁被膜線材ならば絶縁被膜除去処理を別工程にて実施しておくことが必要となり、これにより良好なアーク22の発生と、被膜材料の溶融による酸化物の混入を防止することができる。なお、本実施例では、アース板21は第1部材2の上方側にアースするように、固定台4および第1ホルダ5の上方側に配置され、取付ボルト7によって共締めされているが、これに限ることなく、アース板21は第1部材2の下方側もしくは側方側にアースされてもよく、また、これらの部位以外の、例えば、反接合部端面にアースされてもよく、また、アース線を独立して引き回す構成であってもよい。
【0037】
また、溶接条件の設定並びに変更は、溶接位置(部位)については上述したロボットアームによる自在な調整により、溶接電流および溶接時間については図示しない溶接電源および溶接制御装置により任意に設定できるものである。
【0038】
(突合せ溶接方法)
次に、上記した突合せ溶接装置1を使用して融点の異なる2種の金属線材を互いに突合せ溶接する方法について、図2に示す接合工程図に従って説明する。
【0039】
(第1工程)
高融点側の第1部材2を、先ず、固定台4の中心に、予め絶縁被膜除去された一端部2aを内側に向けて、所定の出代だけ残して配置し、そして、一端部2aの端面から所定の距離だけ離れた絶縁被膜除去された側面箇所に、アース板21の端部を当接させ、電気的導通を図った後、固定される。
【0040】
そして、低融点側の第2部材3を、可動部を構成する可動台10の中心に、各部材2、3の軸線を一致させて対向させて配置する。このとき、第2部材3の一端部3aの可動台10からの出代は、初期時において、所定量が確保され、同時に、各部材2、3の一端部2a、3a同士が接近し過ぎることなく、次工程の放射状の溶接アーク22の熱影響を受けない程度に離れた所定の距離Aを隔てて配置される(図2(a)参照)。なお、本実施例では、第2部材3は絶縁被膜されたアルミニウム材料の平角導線を採用するが、第2部材3の一端部3aは後記する理由から絶縁被膜除去処理がなされることなく絶縁被膜が被覆されたままであってもよい。
【0041】
(第2工程)
次に、ロボットアームを可動させて、アームに取付けられた溶接トーチ20を第1部材2の一端部2aに近接させ、所定のアークギャップBを確保して位置固定する。そして、所定の溶接電流および溶接時間を設定して、通電を開始すると、アーク放電が始まりアーク電流がアース側に流れることによってアーク22は活発となる。活発となったアーク22によって第1部材2の一端部2aは溶融し、所定の溶接時間内で適量な大きさの溶融金属の球状の溶接玉23を形成する(図2(b)参照)。
【0042】
このとき、良好な溶融金属の球状の溶接玉23となすために、アーク22が周りの空気を巻き込んで酸化物が形成されないようにイナートガス噴出によってアーク22をシールドするとともに、アーク22が放射状に広がり過ぎるのを抑え、アーク電流密度が向上するようにしている。なお、形成される球状の溶接玉23の大きさは、大き過ぎると溶融金属の表面張力が自重に負けて落下する恐れと、逆に、小さいと溶融金属の球状の溶接玉23の有する熱容量が少なくなり、次工程の第2部材3の押し付けに際して、十分な熱伝導が得られず、第2部材3の接合面の溶融や、または、昇温が実現できず、良好な接合ができない恐れがあり、このために、適量な大きさの溶融金属の球状の溶接玉23の設定は、図示しない溶接電源および溶接制御装置により調整され、試行的に適正値が決められるものである。
【0043】
(第3工程)
次に、球状の溶接玉23を形成する溶接時間終了後から所定の遅れ時間Tを経過して、シリンダ前進タイマが起動して、可動台10上の第2部材3の一端部3aが、適量な大きさの溶融金属の球状の溶接玉23に対し(向かって)移動する。このとき、シリンダ前進タイマの起動によってエアシリンダ12内に高圧縮エアの供給が開始され、エアシリンダ12内のピストンは一定の加圧力と等速に前進するストロークが生じて、所定の時間後に第2部材3の一端部3aが球状の溶接玉23に当接する(図2(c)参照)。
【0044】
そして、第2部材3の一端部3aが球状の溶接玉23に当接したときから、この一端部3aの当接面18は球状の溶接玉23からの熱伝導を受け、短時間のうちに昇温する。本実施例では、好適な溶接条件による溶融金属の球状の溶接玉23の適量な大きさ(即ち、熱容量)と本工程での球状の溶接玉23に当接する所定の遅れ時間Tがミートするように設定されているので、当接面18の熱伝導は実質的に当接面18の表面のみを溶融させ、もしくは融点近くまで昇温して、次工程の押し込みによる溶融金属の排出工程を通じて少なからず表面上の溶融が進行するものである。
【0045】
ここで、当接面18の表面のみの溶融は、表面の溶融金属接合の実行を期待するものではなく、あくまで表面に形成された第2部材3の酸化皮膜をともに溶融することにあり、この溶融した酸化皮膜を次工程での押し込みによる溶融金属の排出工程を通じて外部へ取り除くことによって、当接面18を常に清浄にして、拡散を活発化し、良好な固相拡散接合を容易にするものである。
【0046】
(第4工程)
次に、前工程で球状の溶接玉23に当接された第2部材3を、そのままの加圧力で球状の溶接玉23に向かって押し込む。すると、球状の溶接玉23を構成する溶融金属は、第2部材3の当接面18に押され、押圧方向に潰れつつ放射状にはみ出し、新たに環状の溶接玉24が形成される。そして、第2部材3のストロークに対応して、はみ出しが促進し、環状の溶接玉24は益々大きくなり、最終の所定のストロークCまでこの環状の溶接玉24は成長して停止する(図2(d)参照)。
【0047】
このとき、第2部材3のストロークに対応して生じるはみ出しは、潰れて放射状に流動するため、第2部材3の当接面18には、同様に、放射状に溶融金属の流動摩擦力が作用して、第2部材3の当接面18に、例えば、酸化皮膜等が存在しても、溶融金属とともに放射状に外部へ取り除かれ、従って、第2部材3の当接面18はストロークに対応して、常に、新たな清浄面が形成され、最終ストロークまで清浄面が維持され続けるものである。つまり、自己清浄面の確保メカニズムが持続的に作用する。また、同様に、溶融金属においても、第2部材3の当接面18のストロークに対応して、溶融金属が放射状に排出され、常に、中心部の金属酸化物等の生成されない純粋(ピュア)な溶融金属が当接面18に露出することが可能となる。
【0048】
そして、本実施例では、さらに、第2部材3はアルミニウム材料の平角導線を絶縁被膜されたままで適用しているので、この絶縁被膜も第2部材3のストロークに対応して、溶融金属とともに放射状に外部へ取り除かれる。従って、予め別工程による絶縁被膜除去は不要である。
【0049】
以上のように、本工程は、良好な固相接合を実施するキープロセスの1つであり、あくまでも常に清浄面を維持して、一定の加圧力と昇温の状態下により、固相接合を活発化する原理的な接合プロセスを具備させるものである。よって、良好な固相接合を実施するには、本実施例で採用したように、第2部材3の当接面18が軸線に対して直交するような直角端面に限らず、例えば、軸線に沿って楔形状に対向する2つの傾斜面を有する端面形状であってもよい。要は、その形状を具備する当接面18が、ストロークに応じ、溶融金属を放射状に排出させ、ともに清浄面を常に形成し、かつ、大きな加圧力が作用する形状であれば好適といえる。
【0050】
(第5工程)
次に、最終の所定のストロークCまで押し込まれた第2部材3の当接面18は、前工程にて説明したように、高温の清浄面が加圧されたまま静止状態が保たれるので、当接面18では接合が静止とともに始まり、当接面18が固相接合の接合面となる。そして、徐々に冷却されるが、完全冷却されるまで、エアシリンダ12は一定加圧力を負荷し続けるので、接合面では互いの異種金属原子が相互に、活発に拡散し、良好な固相拡散接合がなされるものと推測される(図2(e)参照)。
【0051】
そして、完全冷却に至って後、強固な接合強度を有する突合せ接合の異種金属線材を搬出する。なお、本工程で搬出される突合せ接合後の異種金属線材は、図2(e)に示すように、突合せ接合部に環状の溶接玉24がバリ状に突出するが、これは、例えば、フラッシュバット溶接やアプセット溶接の接合部に生じる接合バリと類似なもので、接合品質を損なうものではない。しかし、環状の溶接玉24が部材の組立工程上、他と干渉する恐れがあれば、後工程として、このバリ状の環状の溶接玉24の除去処理工程を加えることもできる。
【0052】
〔実施例1の効果〕
本実施例の効果について説明する。上記した突合せ溶接方法によれば、絶縁被膜された銅線材からなる第1部材2と、絶縁被膜されたアルミニウム線材からなる第2部材3との異種金属線材の突合せ接合する場合、融点の高い第1部材2の一端部2aのみを溶融させ、その溶融金属部に融点の低い第2部材3の一端部3aを押し付け、溶融金属部からの熱伝導で実質的に第2部材3の当接面18のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温させ、さらに圧力を掛け、溶融金属部に押し込むことで溶融金属を外部に排出し、常に、当接面18を清浄に保ちつつ、一定の加圧力と昇温することによって固相拡散接合を活発化する接合プロセスを採用した。
【0053】
これにより、第2部材3は、接合面となる当接面18のみが僅かに溶融、もしくは融点近くまで昇温するので、仮に、表面に強固な酸化皮膜が形成されていても剥がれやすく、さらに、加圧して押し込むので、溶融金属部の溶融金属とともに外部に排出されて、常に、酸化皮膜のない清浄な接合面が確保され、原子間結合力による固相接合が実行される。そして、大きな加圧力と昇温によって、接合面での互いの原子の拡散が促進し、固相接合であるが拡散接合も活発化して、固相拡散接合が可能となる。つまり、同種金属同士の接合と同等な母材並みの引張強度またはせん断強度の継手強度が確保できる。
【0054】
また、第1部材2のみの溶融で済むため、第1部材2は高融点材料ではあるが、溶接アーク22の入熱または加熱は、溶融金属接合方法に比して少量で済み、従って、省電力化が図れるとともに第1部材2の溶接アーク22の熱影響部を低減させることができ、母材の粒生長や粒界析出物、並びに、なまし効果等による強度低下を抑制できる。
【0055】
また、接合面における接合プロセスが、第2部材3の溶接アーク22による溶融プロセスとは異なり、主に、第2部材3の当接面18のみの清浄化に伴う固相接合の促進によるため、絶縁被膜を除去する必要はなく、第2部材3の当接面18のみの母材露出であれば事足りて、仮に、第2部材3の絶縁被膜が除去されなくて共に溶融したとしても、加圧して押し込まれる際に、常に余剰の溶融金属とともに外部に排出されてしまうので、絶縁被膜の酸化物が混入して固相接合の促進を制限することはない。従って、第2部材3の一端部3aの絶縁被膜除去工程は不要となって溶接工程が簡素となり、コストアップを抑制して良好な接合品質が安価にできる。
【0056】
〔他の実施例〕
実施例1では、第1部材2を静止部に固定し、第2部材3を可動部に軸線を一致させて対向して配置し、可動部を水平方向(図示左右方向)に移動して押し付けおよび押し込みによる突合せ接合を実現する突合せ溶接装置1を採用したが、これに限ることなく、第1部材2と第2部材3とが垂直方向(図示上下方向)に移動して押し付けおよび押し込みによる突合せ接合を実現する突合せ溶接装置1であってもよい。また、このとき、第1部材2を固定する静止部が、可動部よりも上方側、もしくは下方側にあってもよく、溶融金属部である球状の溶接玉の中心軸を重力方向と一致させることが可能となって、可動部の押し込みによる溶融金属の排出工程が、重力効果によってより均等かつ迅速に実行できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】突合せ溶接装置の概略を示し、(a)は部分上面図であり、(b)は全体立面図である(実施例1)。
【図2】突合せ溶接の接合工程図である(実施例1)。
【図3】重ね合わせTIG溶接を示し、(a)は重ね合わせTIG溶接装置の要部の模式図であり、(b)はワークの溶接玉生成模式図であり、(c)は溶接玉の破断模式図である(従来例)。
【符号の説明】
【0058】
1 突合せ溶接装置
2 第1部材(銅材料の平角導線、導体端子、高融点側の金属線材)
3 第2部材(アルミニウム材料の平角導線、巻線の引出線、低融点側の金属線材)
18 当接面
22 溶接アーク(アーク)
23 球状の溶接玉(溶融金属部)
24 環状の溶接玉
A 所定の距離
C 所定のストローク
T 所定の遅れ時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の異なる金属材料からなる2種の被接合部材に対して、溶接アークにより前記被接合部材を溶融し、前記被接合部材同士を突合せ接合する異材の溶接方法において、
融点の高い第1の被接合部材(第1部材)と、前記第1部材よりも融点の低い材料からなる第2の被接合部材(第2部材)とを軸線を一致させて対向し、互いに隔てて配置する第1工程と、
前記第1部材の一端部のみを前記溶接アークにより溶融して溶融金属部を形成する第2工程と、
前記第2部材の一端部を前記溶融金属部に押し付けて当接し、前記溶融金属部からの熱伝導で実質的に前記第2部材の当接面のみを溶融、もしくは融点近くまで昇温させる第3工程と、
前記第2部材の一端部を前記溶融金属部に加圧して押し込んで、前記溶融金属部の余剰の溶融金属を外部に排出する第4工程と、
前記第2部材の一端部が所定のストロークだけ移動した後、加圧を保持したまま停止して、前記溶融金属部を冷却する第5工程と、
によって、突合せ接合することを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の異材の溶接方法において、
前記第1工程における前記第1部材と前記第2部材との対向配置の初期時の位置間隔は、前記溶接アークによって前記第2部材が入熱されないよう所定の距離だけ離れていることを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載の異材の溶接方法において、
前記第2工程における前記第1部材に形成される前記溶融金属部は、
所定の大きさの球状の溶接玉に形成されることを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項4】
請求項1に記載の異材の溶接方法において、
前記第3工程における前記第2部材の一端部を前記溶融金属部に押し付けることの起動は、前記第2工程における前記溶接アークの通電終了から所定の時間を経過した後、開始することを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項5】
請求項1に記載の異材の溶接方法において、
前記第4工程における前記第2部材の一端部の前記溶融金属部への押し込みは、一定の加圧力で、かつ、所定のストロークまで実施することを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項6】
請求項1に記載の異材の溶接方法において、
前記第5工程における前記第2部材の一端部の前記溶融金属部への前記加圧力は、前記溶融金属部の冷却終了まで保持されることを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の異材の溶接方法において、
前記第1および第2部材は、その断面形状が矩形もしくは円形であり、その表面が絶縁被膜により被覆された金属線材であることを特徴とする異材の溶接方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の異材の溶接方法において、
前記第1部材は、銅材料または銅合金材料であり、
前記第2部材は、アルミニウム材料またはアルミニウム合金材料であることを特徴とする異材の溶接方法
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の異材の溶接方法において、
前記第1部材の一端部の前記絶縁被膜は、予め別工程にて除去され、
前記第2部材の一端部の前記絶縁被膜は除去されることなく、
互いに突合せ接合されることを特徴とする異材の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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