説明

異材接合構造体の接合方法

【課題】接合界面の際まで塗装を行うことができる異材接合構造体の接合方法を得る。
【解決手段】本発明の異材接合構造体の接合方法は、鋼製部材12と軽金属材14とを重ね合わせて、非溶融の状態で摩擦により撹拌させて接合する異材接合構造体の接合方法において、鋼製部材12に塗装を施す塗装工程S1と、軽金属材14の鋼製部材12との接合部に回転ツール54を回転させながら押し込み、このときに発生する摩擦熱で軽金属材14の接合部を軟化及び塑性流動させることにより、鋼製部材12と軽金属材14とを接合する接合工程S4とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部に組み込まれるサブフレーム等の構造体などに適用される異種材料を接合した異材接合構造体の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車体構造部材としてのフロントサイドフレームにサブフレーム構造体が固定され、サブフレーム構造体には、例えば、サスペンションアーム、スタビライザ等のサスペンション構成部品や、エンジン等のパワープラントが取り付けられている。
【0003】
サブフレーム構造体は、車両前後方向で二つの部材に分割され、鉄製部材である前部サブフレームと、アルミニウム製部材である後部サブフレームとにより構成されている。
前部サブフレームと後部サブフレームとを接合をするに際しては、溶融溶接する場合に温度が高過ぎて塗料がとんでしまうことから、通常、塗装せずに溶融溶接を行う。その後、一体化した前部サブフレームおよび後部サブフレームに塗装を行い、サブフレーム構造体を製造している。
サブフレーム構造体のような異種金属の接合に関しては、下記の特許文献1、2が開示されている。
【0004】
特許文献1には、異種金属からなる両材料をシール材を介して重ね合わせた後、接合部に介在するシール材を、例えば、加熱によって変形抵抗を低減させて接合界面から排出し、両材料を直接接触させた状態で、抵抗溶接やレーザビームの照射によって接合する異種金属の接合方法が記載されている。
特許文献2には、異種金属間の摩擦接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−23583号公報
【特許文献2】特許4134837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、サブフレーム構造体を前部サブフレームと後部サブフレームとを塗装せずに溶融溶接を行った後、一体化した前部サブフレームおよび後部サブフレームに塗装を行う場合、一体化した前部サブフレームおよび後部サブフレームは複雑な構造になるため、接合界面の際の電着塗装が難しい
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、接合界面の際まで塗装を行うことができる異材接合構造体の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、第1の本発明は、鋼製部材と軽金属材とを重ね合わせて、非溶融の状態で摩擦により撹拌させて接合する異材接合構造体の接合方法において、前記鋼製部材に塗装を施す塗装工程と、前記軽金属材の前記鋼製部材との接合部に回転ツールを回転させながら押し込み、このときに発生する摩擦熱で前記軽金属材の接合部を軟化及び塑性流動させることにより、前記鋼製部材と前記軽金属材とを接合する接合工程とを含むことを特徴とする。
第1の本発明によれば、溶融溶接のように塗膜が溶け出すことなく、細部まで先に容易に塗装を行うことができる。また、塗膜を外に押出すことができるので、先に塗装できる。
また、塑性流動によって、金属間化合物が形成されている。
【0009】
また、第2の本発明は、第1の本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記塗装が電着塗装であって、前記塗装の塗膜が前記接合部の前記軽金属材と前記鋼製部材との接合面の周囲に押出されることにより、当該接合面に前記塗膜が存在しないことを特徴とする。
第2の本発明によれば、塗膜が接合面の外に押出されることにより、軽金属材と鋼製部材との接合ができる。
【0010】
第3の本発明は、第2の本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記鋼製部材には亜鉛めっき加工が施され、前記亜鉛めっき層が前記電着塗装の塗膜とともに前記接合面の周囲に押出されることを特徴とする。
第3の本発明によれば、亜鉛めっき層が押出されることにより、軽金属材と鋼製部材との接合ができる。
【0011】
第4の本発明は、第3の本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記鋼製部材と前記軽金属材との間にシール部材が設けられ、前記シール部材が前記亜鉛めっき層、前記電着塗装の塗膜とともに前記接合面の周囲に押出されることを特徴とする。
第4の本発明によれば、シール部材が塗膜、鋼製部材の亜鉛めっきの酸化防止剤とともに混ざりあって、防錆効果を発揮できる。
また、シール部材とその他の物質が混ざりあったものが、接合界面の外へ押し出され、鋼製部材と軽金属材との接合が可能になる。
【0012】
また、第5の本発明は、第1〜第4の何れかの本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記回転ツールの先端部が前記鋼製部材に接触するまで押し込まれることを特徴とする。
第5の本発明によれば、軽金属材を確実に攪拌でき、鋼製部材に亜鉛めっき層、塗膜等が施された場合には亜鉛めっき層、塗膜等を押出すことができる。
【0013】
また、第6の本発明は、第1〜第5の何れかの本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記接合部における前記鋼製部材は、複数枚を重ね合わせて成ることを特徴とする。
第6の本発明によれば、鋼製部材と軽金属材との接合工程において、鋼製部材の下面の温度上昇を抑制できる。
【0014】
第7の本発明は、第1〜第6の何れかの本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記接合工程が開始される始点部における前記軽金属材の前記回転ツールの先端部が押し込れる箇所に、前記回転ツールの先端部より大きいまたはほぼ同等の寸法をもつ凹形状の第1凹部を形成することを特徴とする。
第7の本発明によれば、回転ツールの先端部の鋼製部材への挿入性が向上し、切り屑の発生を抑制できる。
【0015】
第8の本発明は、第1〜第7の何れかの本発明の異材接合構造体の接合方法において、前記接合工程が終了される終了部における前記鋼製部材の前記回転ツールの先端部が押し込れる箇所に前記回転ツールの先端部より大きい寸法をもつ凹形状の第2凹部を形成し、かつ、前記軽金属材に前記鋼製部材の第2凹部内に収容される凸形状の凸部を形成することを特徴とする。
第8の本発明によれば、接合工程が終了される終了部で鋼製部材が露出するのを防止でき、終了部の鋼製部材を軽金属材で被覆できるために電食の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接合界面の際まで塗装を行うことができる異材接合構造体の接合方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図である。
【図3】(a)は、第1実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図、(b)は、前記サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図である。
【図4】図3(a)のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図3(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図6】第1実施形態のサブフレーム構造体を構成する前部サブフレームと後部サブフレームとを摩擦攪拌接合する工程の流れを示す図である。
【図7】第1実施形態の前部サブフレームと後部サブフレームとを摩擦攪拌接合する工程を示す図であり、(a)は、ワークセット工程を示す図であり、(b)は、シール材塗布工程を示す図であり、(c)は、ワーク重ね工程を示す図である。
【図8】(a)〜(c)は、前部サブフレームと後部サブフレームとを摩擦攪拌接合する際の接合界面の詳細を模式的に表した断面図である。
【図9】(a)は、接合ツールを用いて摩擦撹拌接合する状態を示す斜視図、(b)は、摩擦撹拌接合状態を示す横断面図である。
【図10】(a)〜(c)は、シール材が凹部内に溜まる状態を示す説明図である。
【図11】前部サブフレームのフランジ部と後部サブフレームのフランジ部との接合部を示す横断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図である。
【図13】第2実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図である。
【図14】(a)は、第2実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図、(b)は、前記サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図である。
【図15】図14(a)のC−C線に沿った断面図である。
【図16】図14(a)のD−D線に沿った断面図である。
【図17】本発明の第3実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図である。
【図18】第3実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図である。
【図19】(a)は、第3実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図、(b)は、前記サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図である。
【図20】図19(a)のE−E線に沿った断面図である。
【図21】図19(a)のF−F線に沿った断面図である。
【図22】(a)は、第3実施形態に係るサブフレーム構造体において、前部サブフレーム及び後部サブフレームの各フランジ部を摩擦撹拌接合する状態を示す断面図、(b)は、摩擦撹拌接合部位の裏面の温度を測定した特性図、(c)は、摩擦撹拌接合後の状態を示す断面図である。
【図23】第4実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図である。
【図24】第5実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図である。
【図25】第5実施形態に係るサブフレーム構造体の摩擦撹拌接合の工程を示す図であり、(a)は摩擦撹拌接合を開始する箇所の始点部の状態を示す断面図であり、(b)は摩擦撹拌接合を終了する箇所の終点部の摩擦撹拌接合前の状態を示す断面図であり、(c)は摩擦撹拌接合を終了する箇所の終点部の摩擦撹拌接合後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
<<第1実施形態>>
図1は、本発明の第1実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図であり、図2は、第1実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図である。
なお、各図中において、「前」、「後」は、車両11の前後方向における前側及び後側をそれぞれ示し、「左」、「右」は、前後方向に垂直な車幅方向における車両11の左側及び右側をそれぞれ示している。
【0019】
本発明の第1実施形態に係るサブフレーム構造体(異材接合構造体)10は、例えば四輪の車両11の前部に配置され、サスペンションアーム、スタビライザ等のサスペンション構成部品や、エンジン等のパワープラントが取り付けられる。
サブフレーム構造体10は、図示しない主要な車体構造部材のフロントサイドフレームに固定されるように設けられるか、或いは、図示しないフローティング機構によってフローティング可能に支持され設けられる。
サブフレーム構造体10がフローティング機構によって支持される場合、車輪11rから伝達される振動を好適に減衰することができる利点がある。
【0020】
図3(a)は、図1に示すサブフレーム構造体の平面図、図3(b)は、サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図である。
図1〜図3に示すように、サブフレーム構造体10は、車両11の前後方向で、鋼製部材である前部サブフレーム12と軽金属製部材である後部サブフレーム14との二つに分割される。
前部サブフレーム12は、上面視で略コ字状の形状を有しており、例えば、図示しない鋼板をプレス成形することによって形成されたプレス成形品である。
後部サブフレーム14は、上面視で略エ字状の形状を有しており、軽金属製、例えば、図示しない金型(ダイカスト機)のキャビティ内で溶融したアルミニウム合金(アルミニウム)を固化させて形成されたダイカスト成形品である。
【0021】
図2に示すように、前部サブフレーム12は、車幅方向に沿って延在するフロントクロスメンバ20と、該フロントクロスメンバ20の延在方向の両端部からそれぞれ車両11の後方に向かって略平行に延在する一対の左・右サイドメンバ22a、22bとを有している。
フロントクロスメンバ20は、マウント部(台座)16に装着される図示しないフロントエンジンマウントを介してエンジン18(図1参照)の車両11の前側を支持する。
【0022】
なお、フロントクロスメンバ20と一対の左・右サイドメンバ22a、22bとを、例えば、鋳造成形又は鍛造成形等によって一体成形してもよいし、又は、フロントクロスメンバ20の延在方向の両端部に、一対の左・右サイドメンバ22a、22bの前端部を溶接で接合してもよい。
【0023】
フロントクロスメンバ20は、鉄鋼製の中空部材によって形成される。
また、一対の左・右サイドメンバ22a、22bの延在方向に沿った中央部(中間部)24bより前側の前方部24aは、鉄鋼製材料からなる中空部材で形成される。さらに、一対の左・右サイドメンバ22a、22bの延在方向に沿った中央部24bの一部、および、中央部24bより後側の後方部24cは、前方部24aと比較して薄肉(薄い板厚)に形成された薄板部26が後部サブフレーム14に重ね合わせる箇所として形成される。
【0024】
この場合、一対の左・右サイドメンバ22a、22bにおける中央部24bの一部および後方部24cの薄板部26は、従来の左・右サイドメンバと比較して、後方側に向かって所定長だけ延出(伸長)した延出部として形成されている。
図4は、図3(a)のA−A線に沿った断面図である。
一対の左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bの一部と後方部24cとを含む薄板部26は、図4に示されるように、1枚の薄板で断面が略ハット状に形成され、かつ、左・右サイドメンバ22a、22b(但し、図4中では、左サイドメンバ22aを図示し、右サイドメンバ22bの図示を省略)の左右両側に、その延在方向に沿って延在するフランジ部28が形成される。
【0025】
一対の左・右サイドメンバ22a、22bの延在方向に沿った中央部24bには、ボルト30が挿通されるボルト挿通孔32が形成される。この場合、左右で一対のボルト30を、左・右サイドメンバ22a、22bのボルト挿通孔32に沿ってそれぞれ下側から貫通させ、ボルト30のねじ部30aを後部サブフレーム14の前端部に設けられた有底のねじ穴34に締結(螺着)する。これにより、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とは、車幅方向に沿った左右両側の位置で、一対のボルト30によって固定される(図2参照)。
【0026】
図1に示す後部サブフレーム14は、図示しないリヤエンジンマウントを介して、エンジン18の車両11の後方側を支持し車幅方向に沿って延在するエンジン18を支持するリヤメンバを構成する。リヤメンバの後部サブフレーム14は、左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24b及び前記中央部24bを含むこれより後側の薄板部26の上面にそれぞれ被せられ、左・右サイドメンバ22a、22bの上面の一部を被覆(重畳)する一対の左・右リヤサイド部36a、36bと、該一対の左・右リヤサイド部36a、36bを連結するリヤクロス部38とを有し構成される。
後部サブフレーム14は、例えば、アルミニウム、マグネシウムやこれらの合金等からなる軽金属製材料によって形成される。
【0027】
図2に示すように、左・右リヤサイド部36a、36bの両側部にはフランジ部40が設けられ、フランジ部40は、左・右リヤサイド部36a、36bの延在方向に沿って一方端部から他方端部まで延在するように形成される。
図5は、図3(a)のB−B線に沿った断面図である。
左・右リヤサイド部36a、36bのフランジ部40の側縁部40aは、左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部28と比較して、車幅方向に沿った左右両外側方に僅かに突出して形成される。
【0028】
このように、左・右リヤサイド部36a、36bのフランジ部40の突出した側縁部40aが下方に向かって形成され、前部サブフレーム12のフランジ部28の側端面28aとの間に、上側に向かって窪んで形成された天井面42aを有する凹部42が設けられる。この凹部42は、図2に示す左・右リヤサイド部36a、36bの延在方向に沿って延設されている。
【0029】
換言すると、左・右リヤサイド部36a、36b(後部サブフレーム14)のフランジ部40の側縁部40aを、左・右サイドメンバ22a、22b(前部サブフレーム12)のフランジ部28と比較して、車幅方向に沿って左右両外側方に向かって僅かに突出させ、この突出した部分を鉛直下方向に向かって垂れ下がるように形成することにより、左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部28の側端面28aとの間に天井面42aを有する凹部42が形成される。
【0030】
なお、左・右リヤサイド部36a、36bのフランジ部40の鉛直下方向に向かって垂れ下がるように形成された側端部40aの下面は、左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部28の下面と水平方向に沿って同一又は略同一となるように設定されるとよい。
【0031】
前記左・右サイドメンバ22a、22bの左右両側にそれぞれ設けられたフランジ部28が下側に位置し、左・右リヤサイド部36a、36bの左右両側にそれぞれ設けられたフランジ部40が上側に位置し、それぞれ重畳された状態で摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)によって一体的に接合されることにより、閉断面44(図4及び図5参照)を有する閉空間が形成される。
【0032】
また、左・右サイドメンバ22a、22bとリヤメンバである後部サブフレーム14の左・右リヤサイド部36a、36bとは、左・右サイドメンバ22a、22bの中央部に設けられたボルト挿通孔32を挿通させたボルト30が、左・右リヤサイド部36a、36bにそれぞれ設けられたねじ穴34に螺入されて、閉断面44が形成される閉空間を貫通して締結される。
【0033】
閉断面44が形成される閉空間内には、ボルト30の外周面を囲繞する円筒体からなり、ボルト30を締結したときに左・右サイドメンバ22a、22bと左・右リヤサイド部36a、36bとのそれぞれの接合強度を補強するカラー部材46(図4参照)が設けられる。
このボルト30による締結部位は、後記する摩擦攪拌接合によって前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とが接合されていない非接合部位に位置し、溶接(摩擦撹拌接合)することができない非接合部位をボルト締結によって補強することができる。この結果、鉄鋼製の前部サブフレーム12と軽金属製の後部サブフレーム14とを相互に摩擦撹拌接合した場合であっても、非接合部位であるボルト締結部位との協働作用によって所望の剛性・強度を確保することができる。
【0034】
従って、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とは、その重畳部位における各フランジ部28、40を摩擦攪拌接合することによって強固に固定(接合)されると共に、摩擦攪拌接合されていない非溶接部位で前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とをボルト30で締結することによって、サブフレーム構造体10の全体において、より一層剛性・強度を増大させることができる。なお、左・右リヤサイド部36a、36bにおけるボルト30による締結部位よりも後方位置に雌ねじのねじ穴(図示せず)をそれぞれ形成し、左・右サイドメンバ22a、22bの後方部24cの下方から図示しない補強用ボルトを挿通孔にそれぞれ差し込んで前記雌ねじのねじ穴に締結することにより、より一層剛性・強度を増大させることができる。
【0035】
第1実施形態に係るサブフレーム構造体10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0036】
図6は、サブフレーム構造体を構成する前部サブフレームと後部サブフレームとを摩擦攪拌接合する工程の流れを示す図である。
先ず、鉄鋼製材料で形成された前部サブフレーム12側のフランジ部28と、アルミニウム合金等の軽金属材料で形成された後部サブフレーム14側のフランジ部40との重畳部位を、摩擦攪拌接合で一体的に接合する工程について図6に従って説明する。
【0037】
図7は、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とを摩擦攪拌接合する工程を示す図であり、(a)は、ワークセット工程(図6のS1)を示す図であり、(b)は、シール材塗布工程(図6のS2)を示す図であり、(c)は、ワーク重ね工程(図6のS3)を示す図である。図8(a)〜(c)は、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14とを摩擦攪拌接合する際の接合界面の詳細を模式的に表した断面図である。
まず、鉄鋼製材料で前部サブフレーム12の形状にプレス成形された成形品12´(図8(a)参照)に合金亜鉛めっき12mを施した後、カチオン電着塗装12dを行い、図7(a)に示すように、合金亜鉛めっき12m、カチオン電着塗装12dを行ったワークの前部サブフレーム12をクランプ台などの治具60にセットする(図6のS1)。
【0038】
続いて、図7(b)に示すように、前部サブフレーム12のフランジ部28の上面に、図示しないシール材塗布機構によってシール材58、例えば、常乾型シール材を塗布する(図8(a)参照)(図6のS2)。
そして、図7(c)に示すように、前部サブフレーム12における上面にシール材58を塗布したフランジ部28の上に、ダイカスト成型されたアルミニウム合金材料などの軽金属製のワークの後部サブフレーム14のフランジ部40を重ね、図示しないクランプ機構を用いてクランプする(図6のS3)。このとき、図8(b)に示すように、シール材58が前部サブフレーム12のフランジ部28と後部サブフレーム14のフランジ部40との間に広がる。
【0039】
続いて、図6のS4の前部サブフレーム12と後部サブフレーム14との接合工程(摩擦撹拌接合とシール材58のはみ出しの工程)は、以下の通り行われる。
図7(c)に示すように、摩擦攪拌接合に用いられる接合ツール50は、図示しないモータ等の回転駆動源によって回転軸の回りに回転駆動される円柱状の回転子(Stir Rod)52と、回転子52の底部中心から軸方向に沿って突出する接合ピン(Probe)54とを有する。接合ピン54の直径は、回転子52の直径よりも小さく設定され、接合ピン54と回転子52との環状の段差部分でショルダ部56が形成される。
【0040】
前記した接合ツール50を用いて、前部サブフレーム12のフランジ部28と後部サブフレーム14のフランジ部40とを摩擦攪拌接合する。なお、前記したように、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の各フランジ部28、40の下側には、接合ツール50によって各フランジ部28、40に付与される加圧力を受けるための治具60が設けられている。
【0041】
図7(c)に示すように、図示しない回転駆動源を用いて回転子52及び接合ピン54を一体的に回転させた状態で、アルミニウム合金等の軽金属製材料で形成された後部サブフレーム14のフランジ部40の上面に徐々に近接させ、加圧力(押込力)によって接合ピン54の先端部を後部サブフレーム14のフランジ部40の上面に当接(接触)させ回転進入させることにより、後部サブフレーム14のフランジ部40に塑性流動域srを生成する(図8(c)参照)。塑性流動によって、軽金属(例えば、アルミニウム)と鉄との化合物である金属間化合物kcが形成される。
【0042】
図9(a)は、接合ツールを用いて摩擦撹拌接合する状態を示す斜視図であり、図9(b)は、摩擦撹拌接合状態を示す横断面図である。
さらに、回転子52及び接合ピン54を一体的に回転させながら後部サブフレーム14のフランジ部40に加圧進入させ、図9に示すように、回転子52のショルダ部56が後部サブフレーム14のフランジ部40の上面に摺接するまで接合ピン54を鉛直下方向に向かって挿入する。
【0043】
その際、接合ピン54の先端部は、図8(c)に示すように、後部サブフレーム14のフランジ部40を貫通した後、塗布されたシール材58の層、カチオン電着塗装12dの層、および前部サブフレーム12のフランジ部28の上面に形成される合金亜鉛めっき12mの層を突き抜け、シール材58の層、カチオン電着塗装12dの層、合金亜鉛めっき12mの層を、フランジ部40、28間の接合面の周囲に押し出し、前部サブフレーム12のフランジ部28の上面に直接、当接するまで加圧力が付与される。
【0044】
このように、接合ピン54が前部サブフレーム12の上面に当接するまで回転進入されることにより、軽金属製材料の後部サブフレーム14のフランジ部40に生成される塑性流動域srを塑性流動させ、シール材58の層、カチオン電着塗装12dの層、合金亜鉛めっき12mの層を外側にはね除けた後に鉄鋼材料からなる前部サブフレーム12の鋼板新生面を露出させて金属間化合物kcが形成されて、後部サブフレーム14と固相接合される。
すなわち、合金亜鉛めっき12m等のめっきの酸化防止剤とカチオン電着塗装12dの塗膜とシール材58とを接合面の周囲に押し出し混ぜ合わせて壁を作りながら、軽金属製材料の後部サブフレーム14と前部サブフレーム12のフランジ部28とを固着するので、塗料等がとぶことがない。また、フランジ部40とフランジ部28との接合面には、シール材58、カチオン電着塗装12dの層、合金亜鉛めっき12mの層は存在しない。なお、前記したように、接合ピン54の周りの合金亜鉛めっき12mの層、カチオン電着塗装12dの層、およびシール材58の部分には、これらの混合物mが壁のように形成される。
【0045】
このように、回転子52及び接合ピン54が後部サブフレーム14のフランジ部40から回転進入して、接合ピン54の先端部が前部サブフレーム12のフランジ部28の上面に当接した状態を保持しながら、重畳されたフランジ部28、40の延在方向に沿って回転子52及び接合ピン54を変位させることによって摩擦攪拌接合部位62(図3(a)中の網状部分参照)が形成される。
【0046】
なお、摩擦撹拌接合部位62には、上側の後部サブフレーム14(アルミニウム合金等の軽金属材料)と、下側の前部サブフレーム12(鉄鋼材料)との間の接合界面には、図8(c)に示すように、金属間化合物kcが生成される。この金属間化合物kcは、接合界面全域にわたる連続した層状形態ではなく、粒状形態又は分断された層状形態で接合界面内に分散した状態で生成される。
【0047】
図10(a)〜(c)は、シール材が後部サブフレームの凹部内に溜まる状態を示す説明図である。
前部サブフレーム12のフランジ部28と後部サブフレーム14のフランジ部40との間に介装されたシール材58が左右両側(両側部)からはみ出して凹部42内に溜まるシール溜まり構造について、以下、図10に基づいて説明する。
【0048】
図10(a)に示すように、フランジ部28の上面にシール材58が塗布された前部サブフレーム12に対して後部サブフレーム14が重畳された後、図示しないクランプ機構によってクランプすることにより、図10(b)に示すように、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の左右両側から僅かにシール材58がはみ出す。
【0049】
重畳された前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の左右両側からはみ出されたシール材58は、散らばることがなく天井面42aを有する凹部42内に溜まる。さらに、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14がクランプされた状態で摩擦撹拌接合されることにより、シール材58がさらに左右両側からはみ出して必要十分な量のシール材58が凹部42内に保持される(図10(c)参照)。
【0050】
図11は、前部サブフレーム12のフランジ部28と後部サブフレーム14のフランジ部40との接合部を示す横断面図である。
この凹部42内に保持されたシール材58は、例えば、常乾型シール材で構成されることにより、所定時間経過後に固化されて、図11に示すように、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の左右両側のフランジ部28、40間の間隙が確実にシールされる。
【0051】
この結果、本実施形態では、摩擦撹拌接合された前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の左右両側からはみ出されたシール材58が凹部42内に溜まることにより散らばることを防止して、シール材58の充填の信頼性を図ることができる。
また、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の左右両側の間隙から水等の腐食因子が浸入することを抑制して、高い防錆性能を確保することができる。
【0052】
また、凹部42内におけるシール材58の溜まり具合(溜まり量)は、作業者が外部から視認することができるため、シール材58の塗布量を確認して前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14との間にシール材58が確実に介装されたか否かを判断することができる。
【0053】
さらに、フランジ部28、40同士が摩擦撹拌接合されて、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14との間で閉断面44をもつ閉空間が形成されるが、この閉断面44をもつ閉空間が形成されたフランジ部28、40の内側においても、シール材58がはみ出して固化されてシール機能が発揮される。このため、例えば、水滴(水)が、図11の矢印α1のように、上側の後部サブフレーム14の内壁面を伝わって、流下する場合であっても、流下する水滴が、各フランジ部28、40間のはみ出したシール材58上を流れてフランジ部28、40間の間隙に留まることがない滞水防止構造とすることができる。
【0054】
また、鉄製部材からなる前部サブフレーム12とアルミニウム等の軽金属製部材からなる後部サブフレーム14との異種材料の金属同士を摩擦撹拌接合した場合、各金属のイオン化傾向の違いによって各金属間に電位差が生じ、腐食電流が流れることによって異種金属同士の接触によって腐食が発生することが懸念される。しかしながら、本実施形態では、摩擦撹拌接合されたフランジ部28、40からはみ出したシール材58が固化することによって、腐食電流が流れることを回避することができる。これにより、異種金属間の接触による耐食性を向上させることができる。
しかも、前部サブフレーム12が単体時に塗装を行えるので、塗装が容易で塗装に関する手間が大幅に省ける。また、前部サブフレーム12の塗り損いがない。
【0055】
<<第2実施形態>>
次に、本発明の第2実施形態に係るサブフレーム構造体100について、以下説明する。なお、以下に示される実施形態において、図1に示す第1実施形態に係るサブフレーム構造体10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0056】
図12は、本発明の第2実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図、図13は、第2実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図、図14(a)は、第2実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図、図14(b)は、前記サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図、図15は、図14(a)のC−C線に沿った断面図、図16は、図14(a)のD−D線に沿った断面図である。
【0057】
第2実施形態に係るサブフレーム構造体100では、図15に示すように、前部サブフレーム12の左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bにおけるボルト締結部位が2枚の鉄鋼材料からなる薄板102a、102bを接合して形成された閉断面44を有している。従って、第2実施形態に係るサブフレーム構造体100は、左・右サイドメンバ22a、22bのボルト締結部位が1枚の鉄鋼板からなり前部サブフレーム12と後部サブフレーム14との間で閉断面44(図4参照)が形成された第1実施形態に係るサブフレーム構造体10と相違している。
【0058】
この場合、左・右サイドメンバ22a、22bを構成する2枚の薄板102a、102bには、ボルト30が挿通されるボルト挿通孔32、32がそれぞれ形成される。このボルト挿通孔32、32を挿通されたボルト30のねじ部30aが後部サブフレーム14のねじ穴34に螺入されることにより、2枚の薄板102a、102bで形成された閉断面44をもつ閉空間をボルト30が貫通するように設けられる。
【0059】
なお、閉断面44をもつ閉空間におけるボルト30の周りには、ボルト30の外周面を囲繞する円筒体からなり、その軸方向に沿った一端部が一方の薄板102aに連結され、軸方向に沿った他端部が他方の薄板102bに連結されるカラー部材104が設けられる。このカラー部材104は、ボルト30を締結したときの薄板102a、102bの変形を回避して、ボルト締結部位における接合強度を補強するために設けられる。この場合、カラー部材104を下側の薄板102bと一体成形し、又は、薄板102bの上面にカラー部材104を予め溶接して固定することができる。また、2枚の薄板102a、102bで形成された閉断面44を貫通するボルト30を締結する際、アルミニウム合金製材料等の軽金属で形成された後部サブフレーム14と、鉄鋼製材料で形成された上側の薄板102aとが積層される、ボルト締結周辺部位を溶接するようにするとよい(図15参照)。
【0060】
第2実施形態では、左・右サイドメンバ22a、22bを2枚の鉄鋼材料からなる薄板102a、102bを接合して閉断面44を有する閉空間を形成することにより、その閉断面積を大きく設定することができる利点がある。この結果、剛性・強度をより一層向上させることができる。
【0061】
<<第3実施形態>>
次に、本発明の第3実施形態に係るサブフレーム構造体200について、以下説明する。
図17は、本発明の第3実施形態に係るサブフレーム構造体が自動車の前部に組み込まれた状態を示す概略斜視図、図18は、第3実施形態に係るサブフレーム構造体の分解斜視図、図19(a)は、第3実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図、図19(b)は、サブフレーム構造体から後部サブフレームを外した前部サブフレームの左側部の部分平面図、図20は、図19(a)のE−E線に沿った断面図、図21は、図19(a)のF−F線に沿った断面図、図22(a)は、第3実施形態に係るサブフレーム構造体において、前部サブフレーム及び後部サブフレームの各フランジ部を摩擦撹拌接合する状態を示す断面図、図22(b)は、摩擦撹拌接合部位の裏面の温度を測定した特性図、図22(c)は、摩擦撹拌接合後の状態を示す断面図である。
【0062】
第3実施形態に係るサブフレーム構造体200では、図18に示すように、前部サブフレーム12を構成する左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bから後方の延出部202(フランジ部204a、204bを含む)までを鉄鋼材料からなる2枚の薄板206a、206bを積層して薄肉に形成し、前記延出部202を含む左・右サイドメンバ22a、22b全体を2枚の薄板206a、206bで構成している点で第1実施形態及び第2実施形態のサブフレーム構造体10、100と異なる。
【0063】
第3実施形態の場合、前部サブフレーム12と後部サブフレーム14との摩擦撹拌接合前において、各左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bの表裏両面及び表裏両面の間の結合面(積層面)には、それぞれ電着塗装処理によって電着塗装膜208a〜208cが予め形成されている(図22(a)参照)。また、電着塗装膜208aの上には、シール材258が塗布されている。
【0064】
このように2枚の薄板206a、206bが積層された左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bと、後部サブフレーム14の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40とを、図22(a)に示すように、前記の接合ツール50を用いて摩擦撹拌接合する。その際、接合ツール50の接合ピン54が左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40を回転進入して塑性流動域srを生成して、左・右サイドメンバ22a、22bの電着塗装膜208aおよびシール材258を、フランジ部204a、204bとフランジ部40、40との各接合面の周囲に押し出して電着塗装膜208aとシール材258との混合物mの壁を作りながら、フランジ部204a、204bまで当接し、接触する。
【0065】
この際、電着塗装膜208aおよびシール材258を接合面の周囲に押し出して混合物mの壁を作りながら、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40と左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bとを、塑性流動によって軽金属(例えば、アルミニウム)と鉄との化合物である金属間化合物kcが形成されて固着するので、電着塗装膜208aがとぶことがない。また、フランジ部40、40と薄板206a、206bとの各接合面に電着塗装膜208a、シール材258が存在しない。
【0066】
また、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40に対して摩擦熱が与えられるが、摩擦撹拌接合部位の裏面210(フランジ部204a、204bの裏面)は、2枚の鉄鋼製の薄板206a、206bが積層されて構成されているため、熱伝達率が低下する。そのため、フランジ部204a、204bの裏面の電着塗装膜208cを分解可能とする所定温度(閾値温度)まで到達することなく(図22(b)参照)、電着塗装膜208cのフランジ部204a、204bの裏面からの剥がれを回避することができる(図22(c)参照)。
【0067】
換言すると、摩擦撹拌接合する際に被接合物側に向かって回転進入される接合ピン54によって摩擦熱が発生し、この摩擦熱が積層された鉄鋼製の薄板の下面に形成された電着塗装膜を剥離させるおそれがある。
そこで、第3実施形態では、図21に示すように、前部サブフレーム12を構成する左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bから後方の延出部202までを鉄鋼材料からなる2枚の薄板206a、206bを薄肉に形成して積層し空気層を形成し、熱伝達率を低下させる。
これにより、接合ピン54の回転進入に起因する摩擦熱が下層側の薄板206bの下面に形成された電着塗装膜208cまで到達することを抑制することにより、摩擦撹拌接合部位の裏面210(フランジ部204a、204bの裏面)に形成された電着塗装膜208cを保護している。
【0068】
図22(b)は、図示しない温度センサを用いて摩擦撹拌接合部位の裏面210(積層された2枚の鉄鋼製の薄板206a、206bの内の下層側の薄板206bの下面)の温度を測定した特性図である。この場合、摩擦撹拌接合によって下層側の薄板206bの下面の温度が僅かに上昇するが、鉄鋼製の薄板206a、206bを重ねることで、下層側の薄板206bの下面に形成された電着塗装膜208cを分解する所定温度(閾値温度)まで到達しないため、電着塗装膜208cの剥離を阻止して、前記電着塗装膜208cを安定的に保護することができる。
【0069】
なお、前部サブフレーム12及び後部サブフレーム14の接合面において、摩擦撹拌接合によって、積層された2枚の鉄鋼製の薄板206a、206bの内の上層側の薄板206aとアルミニウム合金等の軽金属製の後部サブフレーム15との間に形成された電着塗装膜208a、シール材258を確実に前記接合面の外方へ出すことができる。
【0070】
また、第3実施形態では、前部サブフレーム12を構成する左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bから後方の延出部202(フランジ部204a、204bを含む)までを鉄鋼材料からなる2枚の薄板206a、206bを積層した構造を例示しているが、これに限定されるものではなく、薄板の積層数は2枚以上であればよい。
【0071】
なお、第3実施形態では、各左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bの表裏両面及び表裏両面の間の結合面(積層面)に、それぞれ電着塗装処理によって電着塗装膜208a〜208cが予め形成された場合を例示しているが、フランジ部204a、204bの表裏両面及び表裏両面の間の結合面(積層面)に、それぞれ合金亜鉛めっき等のめっきを施した後に電着塗装処理によって電着塗装膜208a〜208cを形成してもよい。
【0072】
この場合、電着塗装膜208aと合金亜鉛めっき等のめっきとシール材258とを混ぜ合わせて、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40と左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bとの各接合面の周囲に押し出して電着塗装膜208aと合金亜鉛めっき等のめっきとシール材258との混合物mの壁を作りながら、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40と左・右サイドメンバ22a、22bのフランジ部204a、204bとを、塑性流動によって軽金属と鉄との化合物である金属間化合物が形成されて固着(固相接合)する。そのため、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきがとぶことがない。また、フランジ部40、40と薄板206a、206bとの各接合面に、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっき、シール材258が存在しない。なお、第3実施形態において、シール材258は用いなくともよいが、シール材258は防錆性を有するので、シール材258は用いる方がより望ましい。
【0073】
<<第4実施形態>>
図23は、第4実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図である。
第4実施形態に係るサブフレーム構造体300は、アルミニウム合金等の軽金属製材料で形成された左・右リヤサイド部36a、36bの前端部302の形状を、リヤクロス部38の軸線Gに対して交差するように傾斜させている点に特徴がある。このように前端部302を傾斜した形状とすることにより、摩擦撹拌接合部位62の長さや断面積を増減させて自在に調整することができる利点がある。なお、前端部302の傾斜形状は、各リヤサイド部36a、36bの内側が外側よりも前方に向かって長くなり、又は、外側が内側よりも前方に向かって長くなる形状のいずれであってもよい。
【0074】
<<第5実施形態>>
図24は、第5実施形態に係るサブフレーム構造体の平面図である。なお、図24中の符号62s(始点部)は、摩擦撹拌接合を開始する箇所を示し、符号62e(終点部)は、摩擦撹拌接合を終了する箇所を示し、また、符号62s、62e間の白抜き矢印は摩擦撹拌接合の工程の作業の進行を示す。
【0075】
図25は、第5実施形態に係るサブフレーム構造体の摩擦撹拌接合の工程を示す図であり、(a)は摩擦撹拌接合を開始する箇所の始点部の状態を示す断面図であり、(b)は摩擦撹拌接合を終了する箇所の終点部の摩擦撹拌接合前の状態を示す断面図であり、(c)は摩擦撹拌接合を終了する箇所の終点部の摩擦撹拌接合後の状態を示す断面図である。
第5実施形態のサブフレーム構造体400は、第3実施形態のサブフレーム構造体200を、図22に示す摩擦撹拌接合するに際して、摩擦撹拌接合を開始する始点部62sの形状と終点部62eの形状とを変更したものである。
【0076】
図25(a)に示すように、始点部62sのアルミニウム等の軽金属製の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40に、回転子52の底部中心下方に突出する接合ピン54の先端部が入るような接合ピン54の先端部より大きなまたはほぼ同等の寸法をもつ凹形状の凹部40bを形成している。
本構成により、接合ピン54の回転進入による摩擦撹拌接合の開始に際して、フランジ部40の切り屑(バリ)の発生が抑制され、接合ピン54の挿入性が向上する。従って、摩擦撹拌接合の工程を円滑に開始し、摩擦撹拌接合の開始する始点部62sの仕上がりを良好にすることができる。
【0077】
そして、始点部62sから、接合ピン54を回転させて電着塗装膜208aを、フランジ部40と薄板206aとの接合面の周囲に押し出して壁を作りながら、接合ピン54を薄板206aに直に接触させて回転させて、フランジ部40と薄板206a、206bとの摩擦撹拌接合を継続し、図25(c)に示す摩擦撹拌接合を終了する終点部62eに至る。この際、電着塗装膜208aをフランジ部40と薄板206aとの接合面の周囲に押し出して壁を作りながら、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40と薄板206a、206bとを固着するので、電着塗装膜208aがとぶことがない。また、フランジ部40と薄板206aとの接合面に電着塗装膜208aが存在しない
【0078】
次に、図25(b)、図25(c)に示すフランジ部40と薄板206a、206bとを摩擦撹拌接合する終了点である終点部62eの構成について以下説明する。
予め、図24に示す前部サブフレーム12の左・右サイドメンバ22a、22bの中央部24bから後方の延出部202までの薄板206a、206bにおける摩擦撹拌接合を終了する終点部62eの上部に、図25(b)に示すように、接合ピン54の先端部より大きな寸法をもつ凹形状の凹部202hを形成し、終点部62eの薄板206a、206bに上から重なるアルミニウム等の軽金属製の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40にそれぞれ、薄板206a、206bの凹部202hに嵌入される凸形状の凸部40cを形成する。
【0079】
摩擦撹拌接合の前に、図25(b)に示すように、前部サブフレーム12の左・右サイドメンバ22a、22bの薄板206a、206bの上に、アルミニウム等の軽金属製の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40が、フランジ部40、40の凸部40c、40cをそれぞれ薄板206aの凹部202hに嵌入して、重ねられる。
そして、回転子52の底部中心下方に突出する接合ピン54を回転させて、上側のフランジ部40に進入させることで、図25(c)に示すように、後部サブフレーム14の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40と前部サブフレーム12の左・右サイドメンバ22a、22bの薄板206a、206bとが、摩擦撹拌接合される。
【0080】
図25(b)に示すように、前部サブフレーム12の左・右サイドメンバ22a、22bの薄板206a、206bにおける摩擦撹拌接合を終了する終点部62eの上部に接合ピン54より大きな寸法の凹部202hを形成し、かつ、終点部62eの薄板206a、206bに上から重なるアルミニウム等の軽金属製の左・右サイド部36a、36bのフランジ部40、40に、それぞれ薄板206a、206bの凹部202hに嵌入される凸部40cを形成することにより、終点部62eの薄板206aが摩擦撹拌接合後に剥き出しになることが防止される。
【0081】
また、薄板206a、206bの凹部202hにフランジ部40のアルミニウム等の軽金属が充填されるので、終点部62eの薄板206a、206bの電食の発生が抑制される。
なお、薄板206a、206bに、第3実施形態と同様に、各薄板206a、206bの両面に合金亜鉛めっき等のめっきを施してから、電着塗装膜208a、208b、208cを形成してもよい。
【0082】
この場合、接合ピン54を回転させて電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっき(酸化防止剤)を混ぜて接合ピン54と薄板206aとの接合面の周囲に押し出して壁を作りながら、接合ピン54を薄板206aに接触させて回転させて、フランジ部40と薄板206a、206bとを摩擦撹拌接合を行う。この際、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきを接合面の周囲に押し出して壁を作りながら、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40と薄板206aとを、金属間化合物が形成され固着するので、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきがとぶことがない。また、フランジ部40と薄板206aとの接合面に電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきが存在しない。
【0083】
なお、図25(c)に示すように、薄板206aの上にシール材58(二点鎖線)を塗布して、フランジ部40を重ねるのが望ましい。この場合、シール材58、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきを接合面の周囲に押し出して壁を作りながら、接合ピン54を薄板206aに接触させて回転し、左・右サイド部36a、36bのフランジ部40と薄板206aとを固着する。そのため、フランジ部40と薄板206aとの接合面に、シール材58、電着塗装膜208a、合金亜鉛めっき等のめっきが存在しない。
また、第5実施形態の構成は、摩擦撹拌接合の工程の始点部62sと終点部62eとの構成は、第1〜第4実施形態に適用することが可能である。
第1〜第5実施形態の構成によれば、カチオン(ED)電着塗装等の電着塗装した状態で摩擦撹拌接合を実施するので、接合強度を確保できる。
アルミ部材等の軽金属材と鉄部材を接合する際に、鉄部材に予め電着塗装を施した上で摩擦撹拌接合することにより、溶融溶接のように塗膜が溶け出すことなく、塗装に関する手間が省けて細部まで先に塗装を行うことができる。また、塗膜が外に押し出されることにより、軽金属材と鉄部材とを接合できる。
【0084】
なお、前記実施形態では、電着塗装としてカチオン電着塗装を例示して説明したが、カチオン電着塗装以外の電着塗装を適用してもよい。
なお、前記実施形態では、後部サブフレーム14を軽金属で製作する例として、アルミニウム合金(アルミニウム)を例示したが、アルミニウム合金(アルミニウム)以外の軽金属を用いてもよいのは、勿論である。
また、第1〜第5実施形態で様々な構成を説明したが、説明した各構成を適宜任意に組み合わせて構成してもよい。
【0085】
なお、前記実施形態では、合金亜鉛めっきを例示したが、純亜鉛めっきでもよい。しかし、合金亜鉛めっきの方が、成形性、防食性に優れるので、より望ましい。なお、特許請求の範囲の「亜鉛めっき」とは、合金亜鉛めっき、純亜鉛めっきの両者を含むものとする。
【符号の説明】
【0086】
10、100、200、300、400 サブフレーム構造体(異材接合構造体)
12 前部サブフレーム(鋼製部材)
14 後部サブフレーム(軽金属材)
28 フランジ部(鋼製部材)
40 フランジ部軽金属材)
40b 凹部(第1凹部)
40c 凸部
54 接合ピン(回転ツール)
58、258 シール材(シール部材)
62s 始点部
62e 終点部
202h 凹部(第2凹部)
206a、206b 鉄鋼製の薄板(複数枚を重ねた鋼製部材)
S1 ワークSET(塗装工程)
S4 摩擦撹拌接合とシール材はみ出し(接合工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材と軽金属材とを重ね合わせて、非溶融の状態で摩擦により撹拌させて接合する異材接合構造体の接合方法において、
前記鋼製部材に塗装を施す塗装工程と、
前記軽金属材の前記鋼製部材との接合部に回転ツールを回転させながら押し込み、このときに発生する摩擦熱で前記軽金属材の接合部を軟化及び塑性流動させることにより、前記鋼製部材と前記軽金属材とを接合する接合工程とを
含むことを特徴とする異材接合構造体の接合方法。
【請求項2】
前記塗装が電着塗装であって、前記塗装の塗膜が前記接合部の前記軽金属材と前記鋼製部材との接合面の周囲に押出されることにより、当該接合面に前記塗膜が存在しない
ことを特徴とする請求項1に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項3】
前記鋼製部材には亜鉛めっき加工が施され、前記亜鉛めっき層が前記電着塗装の塗膜とともに前記接合面の周囲に押出される
ことを特徴とする請求項2に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項4】
前記鋼製部材と前記軽金属材との間にシール部材が設けられ、前記シール部材が前記亜鉛めっき層、前記電着塗装の塗膜とともに前記接合面の周囲に押出される
ことを特徴とする請求項3に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項5】
前記回転ツールの先端部が前記鋼製部材に接触するまで押し込まれる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちの何れか一項に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項6】
前記接合部における前記鋼製部材は、複数枚を重ね合わせて成る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちの何れか一項に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項7】
前記接合工程が開始される始点部における前記軽金属材の前記回転ツールの先端部が押し込れる箇所に、前記回転ツールの先端部より大きいまたはほぼ同等の寸法をもつ凹形状の第1凹部を形成する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちの何れか一項に記載の異材接合構造体の接合方法。
【請求項8】
前記接合工程が終了される終了部における前記鋼製部材の前記回転ツールの先端部が押し込れる箇所に前記回転ツールの先端部より大きい寸法をもつ凹形状の第2凹部を形成し、かつ、前記軽金属材に前記鋼製部材の第2凹部内に収容される凸形状の凸部を形成する
ことを特徴とする請求項1から請求項7のうちの何れか一項に記載の異材接合構造体の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−148334(P2012−148334A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10831(P2011−10831)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】