説明

異物付着防止機能を備えた電子線検査装置及び方法

【課題】試料表面に異物が付着することを極力防止することができる電子線検査装置を提供する。
【解決手段】試料200を配置したステージ100が真空排気可能な真空チャンバ112の内部に設置されており、該試料200の周囲を包囲する位置に集塵電極122が配置されている。集塵電極122には、試料200に印加される電圧と同じ極性で絶対値が等しいかそれ以上の電圧が印加される。これにより、集塵電極122にパーティクル等の異物が付着するので、試料表面への異物付着を低減することができる。集塵電極を用いる代わりに、ステージを包含する真空チャンバの壁面に凹みを形成するか、又は、所定の電圧が印加されるメッシュ構造の金属製平板を壁面に敷設してもよい。また、中央に貫通孔124aを有する隙間制御板124を試料200及び集塵電極122の上方に間隙制御板124を配置することにより、異物付着をより低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置及び検査方法に関し、特に、試料表面(表、裏及び外周端面)に異物が付着するのを防止しつつ電子線を用いて試料表面を高感度で検査することができる電子線検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線検査装置は、半導体ウェハ等の試料の表面に一次電子ビームを照射し、該試料表面から放出された二次電子又はミラー電子を検出して試料表面の画像を取得し、該画像に基づいて試料表面の欠陥、パターン評価等の検査を行うために用いられている。
【0003】
また、半導体ウェハ等の試料を検査又は処理のために大気中及び真空中を搬送するが、このような搬送中に、例えば100nm以下のパーティクル等の異物が試料表面に付着することを防止して、パターン上のキラー欠陥となる異物が試料表面に付着することを低減させることができれば、歩留まりが大きく向上されることが知られている。キラー欠陥は、半導体やLSI製造プロセスで、そのまま放置しておくと、配線幅や絶縁抵抗値が不十分な値となり、性能を著しく劣化させてしまうため、修正、不良判定等の何らかの処理が必要な欠陥である。
【0004】
特に、電子線検査装置では、該装置が発生するパーティクル等の異物が試料表面に付着することを低減させることにより、高精度な測定・検査結果を得ることができる。これによって、試料表面への異物付着プロセスを特定し改善することができるので、例えば露光プロセスにおける欠陥を低減させたりすることができる。
【0005】
従来、試料の搬送に関連して、パーティクル等の異物を極力発生させないような対策が行われている。例えば、試料の大気搬送系では、高機能フィルタとダウンフローを有するミニエンバイラメントを備え、このミニエンバイラメントの中に大気搬送系を格納するようにしている。更に、除電装置により試料の除電を行うことで、試料表面にパーティクルが付着することを抑制している。また、試料の真空搬送系では、ロードロックによって圧力の変動を制御すること等が行われている。しかしながら、微小サイズ、特に100nm以下のパーティクル等の異物を低減することは、一般に困難であった。
【0006】
このような問題点に鑑み、本出願人は、試料表面上の異物を検出し、試料を水平方向に移動させ、試料表面に対向し近接して配置された吸着用電極を、前記異物の帯電極性と異なる極性に帯電させ、接近する異物を該吸着用電極に静電吸着することで、試料表面上の異物検出を行うとともに、異物が検出されたときには、試料表面上の異物を除去するようにした試料表面上の異物除去方法を既に提案している(特開2009−4161号公報(特許文献1)参照)。
【0007】
また、プラズマ処理装置内に浮遊するパーティクルを集塵電極により積極的に集め、四重極リニアトラップ等を用いて特定の場所に蓄積し、これらを電気的に検出する、もしくはレーザ散乱光を用いて検出するようにしたパーティクルモニタも提案されている(特開2010−56270号公報(特許文献2)参照)。
【0008】
LSIのデザインルールの超微細化に伴い、試料表面への付着を防止する異物のサイズがより微小化し、検査装置等の動作によって発生するパーティクル等の異物の試料表面への付着が重大な問題となってきており、その対応が必要になってきている。
しかしながら、従来の異物付着防止機構では、例えば100nm以下の微小なパーティクル等の異物が試料表面へ付着することを防止することが困難であった。特に、真空チャンバ内のステージ等に試料が設置されて電子線検査装置によって試料表面の検査等が行われている場合、装置自体からのパーティクル等の異物の発生を抑制することについて何ら考慮されていなかった。
【0009】
特許文献1に記載の従来例は、試料表面に異物が付着したことを検出し、その後、付着した異物を試料表面から除去するようにしており、試料表面に異物が付着するのを防止することができるものではない。また、特許文献2に記載の従来例において、集塵電極は、例えばパーティクルモニタの先端に設けられており、プラズマ処理装置内に浮遊するパーティクルを集めるためのものであって、試料表面にパーティクルが付着するのを防止することができるものではない。
【0010】
また、真空チャンバ内を真空排気する時の空気の流れによって生じる静電気が真空チャンバ内に残留するパーティクル等の異物を帯電させ、その帯電したパーティクル等の異物が、検査する試料表面に静電的に誘引されて付着し、試料表面を汚染する場合がある。従来の試料表面の検査に用いられる真空チャンバは、こうした、真空チャンバ内に残留するパーティクル等の異物が静電的に試料表面に誘引されることに対する対策が何ら施されておらず、こうした残留物に対しては、清掃を持って対処していた。このため、真空チャンバ内の清掃で除去できなかった残留物が試料表面に付着することを防止することが強く求められていた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、その第1の目的は、試料表面に異物が付着することを極力防止できるようにした異物付着防止方法、及び試料表面に異物が付着するのを極力防止しつつ電子線を用いて試料表面を検査できるようにした電子線検査装置を提供することを目的としている。
【0012】
また、特開2005−235777号公報(特許文献3)には、電子線検査装置を用いた試料表面の観察方法が記載されており、該従来の方法では、開放欠陥や欠落欠陥が存在する部分で生じる画像中の濃淡(階調差)を利用している。開放欠陥や欠落欠陥といった欠陥が存在する部分では、正常部では本来生じることのない濃淡(階調差)が画像中に現れるため、従来の方法では、半導体ウェハの表面から得たウェハ表面画像を本来の(無欠陥試料の)表面画像と比較し、本来現れるはずのない濃淡が認められた場合に、当該部位を開放欠陥や欠落欠陥として判定するという手法を採用している。
【0013】
しかしながら、特許文献3に開示されている観察方法では、観察対象の試料の構造や材料等によっては観察部位の階調差がもともと小さく、欠落欠陥や開放欠陥の検出が困難な場合があるという問題があった。
加えて、特に開放欠陥については、開放欠陥が存在する部位の画像が、正常部位の画像よりも濃くなる(より黒くなる)場合と薄くなる(より白くなる)場合とがある。このため、欠陥の検出や欠陥の種類を分類することが極めて困難であるという問題があった。
【0014】
このような問題点に鑑み、本発明者らは、配線構造の欠陥検出において、欠陥部位と正常部位の階調差が大きく、白黒の濃淡の差が明確な試料面画像を取得し、欠陥の検出が容易な試料面観察方法を提供することを目的として検討を重ねた結果、特許文献3に開示された試料面観察方法が抱えていた問題は、欠落欠陥と開放欠陥を同一条件下で同時に検出を行う点にあると考えるに至り、新たな試料面観察方法を提案した(特開2009−87893号公報(特許文献4)参照)。
【0015】
特許文献4には、絶縁材料と導電性材料を含む配線が形成された試料面に電子ビームを照射し、該試料面の構造情報を得た電子を検出することにより、試料面画像を取得して該試料面を観察する試料面観察方法であって、試料面画像における絶縁材料と導電性材料との輝度を等しくした状態で、電子ビームを試料面に照射することで絶縁材料と導電性材料以外の部分を容易かつ確実に検出することとし、さらに、試料面画像における絶縁材料及び導電性材料の輝度と異なる輝度の点を、試料面の開放欠陥として検出することで、開放欠陥を容易かつ確実に検出することを可能とする試料面観察方法が開示されている。
【0016】
また、特許文献4には、試料面画像における絶縁材料と導電性材料との輝度差が最大となる状態で、電子ビームを試料面に照射することにより、欠落欠陥の周囲との識別が容易な試料面画像を取得して欠落欠陥の検出を容易かつ確実にすることとし、さらに、上記輝度差が最大となる状態を、試料面の構造情報を得た電子がミラー電子となるミラー電子領域において定めることとして、効果的に欠落欠陥を検出することを可能とする試料面観察方法も開示されている。
【0017】
しかしながら、本発明者らは、試料面に絶縁領域と導電領域が形成されている場合に、試料面の観察を高コントラストで行い、欠落欠陥や開放欠陥の検出のみならず、欠陥種類の分類も容易なものとする手法および装置についての検討を更に重ねたところ、上記特許文献4に開示の手法は更に改善する余地があるとの結論に至った。
したがって、本発明の第2の目的は、上記した第1の目的を達成しつつ、絶縁領域と導電領域が形成されている試料表面の観察を高コントラストで行い、且つ、欠落欠陥や開放欠陥の検出と欠陥種類の分類を容易なものとする試料観察方法及び装置、並びにそれらを用いた試料検査方法及び装置を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−4161号公報
【特許文献2】特開2010−56270号公報
【特許文献3】特開2005−235777号公報
【特許文献4】特開2009−87893号公報
【発明の概要】
【0019】
上記した第1の目的を達成するため、本発明は、電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNA(開口数)を規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
前記ステージに配置される試料に第1電圧を印加する第1電源と、
前記ステージに配置される試料の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵する少なくとも1つの第1電極と、
前記第1電圧と同じ極性を有し、かつ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第2電圧を、前記第1電極に印加する第2電源と
を備えていることを防止することを特徴とする電子線検査装置を提供する。
【0020】
上記した本発明に係る電子線検査装置はさらに、前記第1電極の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵する少なくとも1つの第2電極と、前記第1電圧と同じ極性を有し、且つ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第3電圧を前記第2電極に印加する第3電源とを備えていることが好ましい。また、前記ステージの上方に設置された間隙制御板であって、電子線を通過させる貫通孔を内部に有し、前記ステージに配置される試料の表面を覆う隙間制御板を備えていることが好ましく、さらに、前記ステージの周囲を囲繞するカバーを設けることにより、ステージに向けた塵又はパーティクルの流入を防止することが好ましい。
【0021】
上記した本発明に係る電子線装置はさらに、前記第1電源に接続された1対の端子と前記第2電源に接続された1対の端子とを備えた端子台と、前記端子台の2対の端子にそれぞれ一方の端部が接続された2対の接続線を有するケーブルと、前記端子台を収納しているとともに前記ケーブルの一部分を湾曲した状態で収納した箱であって、該箱内の塵又はパーティクルを集塵する電極をさらに収容している箱と、前記ケーブルの2対の接続線それぞれの他方の端部に接続された2対の端子であって、前記第1及び第2電圧を試料及び前記第1電極に印加するための2対の端子を備え、かつ前記ステージに固定された固定板とを備え、前記箱と前記固定板との間の前記ケーブルの部分は直線状に延在保持されており、前記ステージの移動に連れて前記箱内の前記ケーブルの湾曲した部分が前記ステージの移動方向に伸縮するよう構成されていることが好ましい。
【0022】
上記した第1の目的を達成するために、本発明はまた、電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNAを規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
内部に前記ステージが設置される真空排気可能なチャンバと、
前記チャンバ内に設置された装置であって、該チャンバ内を真空状態にする過程で該真空チャンバ室内に内在する気体を電離させ、該真空チャンバ内の構造物やそれに付着する物質の表面に存在する静電気を除去する装置と
を備えていることを特徴とする電子線検査装置を提供する。
【0023】
上記した第1の目的を達成するために、本発明はさらに、電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNA(開口数)を規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
内部に前記ステージが設置される真空排気可能なチャンバであって、少なくとも1つの穴が壁面に設けられているか、又は任意の電圧が印加されるメッシュ構造の平板が壁面に敷設されているチャンバと
を備えていることを特徴とする電子線検査装置を提供する。
【0024】
上記した本発明に係る電子線検査装置において、前記電子ビーム源は、面状の電子ビームを発生するよう構成されていることが好ましい。
また、電子線検査装置はさらに、試料表面から検出器に向かう電子がミラー電子と二次電子との両方を含む遷移領域となるように、撮像用の電子ビームのエネルギ及び前記試料に印加されるエネルギを制御する電子光学系制御電源と、前記アパーチャの位置を、二次電子光学系の光軸と直交する面内で調整可能とするアパーチャ調節機構とを備え、前記アパーチャ調節機構により、試料表面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子を選択的に前記検出器に導くことができるようにすることが好ましい。これにより、上記した第2の目的を達成することができる。すなわち、上記した第1の目的を達成しつつ、絶縁領域と導電領域が形成されている試料表面の観察を高コントラストで行い、且つ、欠落欠陥や開放欠陥の検出と欠陥種類の分類を容易に行うことができる。
【0025】
また、上記したアパーチャ調整機構を備えている本発明に係る電子線検査装置において、前記二次電子光学系はNA(開口数)を規定するための複数のパーチャを備えており、該複数のアパーチャは、それぞれの径が異なっており、前記アパーチャ調節機構により複数のアパーチャの1つが選択されて、該選択されたアパーチャを、試料面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子が通過できるようにすることが好ましい。
さらに、平面状の横断面を有する電子ビームを用いる場合、検出器は、EB-CCD又はEB-TDIであることが好適である。
【0026】
上記した第1の目的を達成するために、本発明はまた、電子線検査装置を用いて試料の表面を検査する方法を提供し、該方法は、
ステージに試料を配置するステップと、
前記ステージに配置された試料に第1電圧を印加するステップと、
前記ステージに配置される試料の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵するための第1電極に、試料に印加された電圧と同じ極性を有し、かつ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第2電圧を印加するステップと、
電子銃より電子ビームを放射し、該電子ビームを、一次電子光学系を介して前記ステージ上に配置された試料に照射するステップと、
前記電子ビームの照射により試料表面から放出された二次電子及び該試料表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を、二次電子光学系を介して検出器に導き、該検出器で検出するステップと
を含むことを特徴としている。
【0027】
上記した本発明に係る方法はさらに、前記第1電極の周囲を包囲する位置に配置される第2電極に、前記第1電圧と同じ極性を有し、かつ前記第2電圧の絶対値以上の絶対値を有する第3電圧を印加するステップを含んでいることが好ましい。
【0028】
上記した第1の目的を達成するために、本発明はさらに、電子線検査装置を用いて試料の表面を検査する方法を提供し、該方法は、
試料をステージ上に配置するステップと、
内部に前記ステージが設置されているチャンバを真空排気するステップと、
前記チャンバ内に配置された装置により、前記チャンバ内を真空状態にする過程で該チャンバ室内に内在する気体を電離させ、該チャンバ内の構造物やそれに付着する物質の表面に存在する静電気を除去するステップと、
電子銃から電子ビームを放射し、該電子ビームを一次電子光学系を介して試料上に照射するステップと、
前記電子ビームの照射により試料表面から放出された二次電子及び該試料表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を、二次電子光学系を介して検出器に導き、該検出器で検出するステップと
を含んでいることを特徴としている。
【0029】
上記した本発明に係る方法において、前記電子銃から照射される電子ビームは面状であり、該方法はさらに、試料表面から検出器に向かう電子がミラー電子と二次電子との両方を含む遷移領域となるように、撮像用の電子ビームのエネルギ及び前記試料に印加されるエネルギを制御するステップと、NA(開口数)を規定する前記アパーチャの位置を、二次電子光学系の光軸と直交する面内で調整するステップとを含み、前記アパーチャの位置の調節により、試料表面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子を選択的に前記検出器に導くことができるようにすることが好ましい。
さらに、該方法において、前記二次電子光学系は、それぞれ径が異なる複数のアパーチャを備え、前記調整するステップは、前記複数のアパーチャの1つを選択して、該選択されたアパーチャの位置を、試料面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子が通過するように調整するステップを含んでいることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用可能な一例の電子線検査装置の概要を示した図である。
【図2】本発明を適用可能な第1の実施形態の試料観察システムの概要を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態の電子線検査装置の要部概要を示す縦断正面図である。
【図4】図3の横断平面図であり、ステージ、試料及び第1の実施形態の集塵電極の関係を示す平面図である。
【図5】本発明に係る、ステージ、試料及び第2の実施形態の集塵電極の関係を示す平面図である。
【図6】本発明に係る、ステージ、円形状の試料及び第3の実施形態の集塵電極の関係を示す平面図である。
【図7】本発明に係る、ステージ、円形状の試料及び第4の実施形態の集塵電極の関係を示す平面図である。
【図8】本発明に係る、試料、集塵電極及び隙間制御板を拡大して示す断面図である。
【図9】本発明に係る、ステージの詳細を示す図である。
【図10】本発明に係る、真空チャンバ内に配置された配線ボックス及びステージの概要を示す図である。
【図11】本発明に係る、試料、他の集塵電極及び隙間制御板を拡大して示す断面図である。
【図12】本発明に係る、試料、更に他の集塵電極及び隙間制御板を拡大して示す断面図である。
【図13】本発明に係る、試料、及び更に他の集塵電極を拡大して示す断面図である。
【図14】本発明に係る、試料、及び更に他の集塵電極及び隙間制御板を拡大して示す断面図である。
【図15】並行平板からなる電極間の平等電界中に存在する絶縁物から成るパーティクルに誘電分極による力が作用した時の力関係を示す図である。
【図16】一方を平板とした一対の電極間の不平等電界中に存在する絶縁物から成るパーティクルに誘電分極による力が作用した時の力関係を示す図である。
【図17】一方を平板とした一対の電極間の平等電界中に存在する絶縁物から成るパーティクルに誘電分極による力が作用した時の力関係を示す図である。
【図18】本発明に係る、電子線検査装置に備えられる他の真空チャンバを示す概要図である。
【図19】本発明に係る、真空チャンバ内の平面構造を構成する壁の一例を示す斜視図である。
【図20】図19の断面図である。
【図21】本発明に係る、真空チャンバ内の平面構造を構成する壁の他の例を示す斜視図である。
【図22】図21の断面図である。
【図23(A)】撮像電子ビームの照射エネルギと取得された画像中の材料コントラストとの関係の一例を示した図であり、照射エネルギ帯域により得られる異なる画像の一例を示した図である。
【図23(B)】撮像電子ビームの照射エネルギと取得された画像中の材料コントラストとの関係の一例を示した図であり、撮像電子ビームの照射エネルギと検出器電流との相関関係を示した図である。
【図24】試料面の構造情報を得たミラー電子と二次電子の角度の相違を模式的に示した図であり、横軸が実効ランディングエネルギ(LE)である。
【図25】ランディングエネルギ(LE)に対する試料面の階調の変化を示した図である。
【図26(A)】試料表面の構造情報を得た電子の軌道の例を示した側面図である。
【図26(B)】試料表面の構造情報を得た電子の軌道の例を、可動NAアパーチャの下側から見た場合の部分拡大図である。
【図27(A)】ミラー電子の場合の、高い材料コントラストを得るためのNAアパーチャ板の最適位置を説明するための図である。
【図27(B)】二次電子の場合の、高い材料コントラストを得るためのNAアパーチャ板の最適位置を説明するための図である。
【図28(A)】コンタクトプラグ構造を有する試料の断面構造を示した図である。
【図28(B)】コンタクトプラグ構造を有する試料表面の取得画像の一例を示した図である。
【図29(A)】実機テストにより、電子ビームのランディングエネルギ(LE)を変化させて、図28(A)に示したコンタクトプラグ構造の表面画像を得た際のコントラストを測定した結果を示す表である。
【図29(B)】図29(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図30(A)】実機テストにより得られた、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの関係を示す測定結果の表である。
【図30(B)】図30(A)の測定結果をグラフ化した図である。
【図31(A)】導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離することにより高いコントラストが得られることを、補充的に説明するための図であり、実機テストにより得られた、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離しない場合の、導電領域(Cu)と絶縁領域(SiO)のそれぞれの材料における二次電子放出効率およびコントラストの、ランディングエネルギ(LE)依存性を示す測定結果の表である。
【図31(B)】図31(A)の測定結果をグラフ化した図である。
【図32(A)】実機テストにより、試料表面の導電領域と絶縁領域の面積比(パターン幅)を変化させたときのコントラストを、低加速電子ビーム装置を用いたLEEM方式とSEM方式とで測定した結果を示す表である。
【図32(B)】図32(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図33】本発明に係る電子線検査装置の全体構成例を示した図である。
【図34(A)】図33に示した電子線検査装置に用いられる可動式のNA調整用アパーチャ板の実施形態を示す図である。
【図34(B)】図33に示した電子線検査装置に用いられる可動式のNA調整用アパーチャ板の別の実施形態を示す図である。
【図35】本発明に係る、高分解能観察のために好ましい検出器の構成の一例を示した図である。
【図36(A)】導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)下で取得した画像を示す模式図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図36(B)】絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で取得した画像を示す模式図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図36(C)】絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図37(A)】導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)下で取得した画像を示す模式図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図37(B)】絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で取得した画像を示す模式図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図37(C)】絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図であり、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。
【図38(A)】実機テストにより、試料表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った測定結果を示す表である。
【図38(B)】図38(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図39(A)】実機テストにより、試料表面に照射する帯電電子ビームのドーズ量の最適値を決定するために行った測定結果を示す表である。
【図39(B)】図39(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図40(A)】NA結像モードによる電子分布の位置確認の測定結果を示す表であり、ビームドーズ量[mC/cm]と当該ドーズ量の帯電電子ビームを照射した際の、絶縁材料の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のずれ、すなわち、導電材料の表面構造情報を得た電子ecの分布状態からどれだけシフトしたかを示す表である。
【図40(B)】図40(A)の測定結果をグラフ化した図である。
【図41(A)】帯電状態にある試料の表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った測定結果を示す図であり、照射エネルギ(LE)、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、及びコントラスト示す表である。
【図41(B)】図41(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図42(A)】NAアパーチャの位置調整によるコントラストの反転について説明するための図であり、NAアパーチャの中心位置を、導電領域から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置(規格化位置=0)からY方向に移動(規格化位置=1.0まで)させた際の、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、及びコントラストの測定結果を示す表である。
【図42(B)】図42(A)に示した測定結果をグラフ化した図である。
【図43】NAアパーチャの位置調整に伴うコントラスト反転の様子を概念的に説明するための図である。
【図44】本発明の試料観察方法における、電子軌道シフト量のドーズ量依存性を決定する手順、および、材料コントラストの反転を確認する手順を例示により説明するためのフローチャートである。
【図45】本発明の試料観察方法の手順を例示により説明するためのフローチャートである。
【図46】本発明の試料観察方法の手順の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図47(A)】実機テストにより、本発明の手法により欠陥検査を行った結果を説明するための図であり、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表である。
【図47(B)】実機テストにより、本発明の手法により欠陥検査を行った結果を説明するための図であり、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表である。
【図47(C)】図47(A)及び(B)に示した欠陥検出結果を総合して欠陥検出の可否を纏めた表である。
【図48】本発明に係る、試料表面の検査における加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDとランディングエネルギLEと試料表面電位ΔVとの関係を制御するための構成を示す模式図である。
【図49】本発明に係る、検査対象である試料表面の平均輝度meanDNとランディングエネルギLEとの関係を示す図である。
【図50】本発明に係る、検査対象である試料表面の輝度差ΔDNと表面電位変化量との関係を示す図である。
【図51】(a)〜(d)は、試料表面に対して照射するランディングエネルギLEを変化させた時に得られる試料表面の画像情報の例を示す図である。
【図52】本発明に係る、検査対象である試料表面に対して事前に照射するランディングエネルギLEを変化させた時の試料表面電位ΔVとの関係を示す図である。
【図53(A)】試料表面に対して基準となるランディングエネルギLE0とランディングエネルギLEとを照射して得られた輝度分布の一例を示す図である。
【図53(B)】図53(A)に示した輝度分布から試料表面電位分布ΔVを求めた一例を示す図である。
【図54】検査対象の試料が少なくとも2種類の材料で構成される例を示す概略斜視図である。
【図55(A)】試料の厚さ方向に対する電子の貫通率(透過率)のモデルを示す概略図である。
【図55(B)】試料の厚さ方向に対する電子の貫通率(透過率)のモデルを示す概略図である。
【図56】本発明に係る第2の実施形態の試料観察システム全体の概略図である。
【図57】本発明に係る第3の実施形態の試料観察システム全体の概略図である。
【図58】本発明に係る、試料表面の電位分布の調整方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
図1は、本発明を適用可能な電子線検査装置の全体構成例の概略を示した図である。この電子線検査装置は、写像投影型の低加速電子ビーム装置であり、電子ビーム源310と、一次系レンズ320と、コンデンサレンズ330と、電磁場発生手段(E×B)340と、トランスファーレンズ350と、開口数(NA:Numerical Aperture)調整用のNA調整用アパーチャ板360と、プロジェクションレンズ370と、検出器400と、画像処理装置500と、観察対象となる試料200を載置するためのステージ100と、照射エネルギ設定供給部600とを備えている。
【0032】
NA調整用アパーチャ板360には、少なくとも1つのNAアパーチャ361が設けられており、このNAアパーチャ361により開口数(NA)が決定される。NAアパーチャ361は平面内での位置調整が可能であり、後述するE×B340の作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に検出器400に導くことができる。なお、この電子線検査装置は、必要に応じて、試料200の表面に電子ビームを照射して試料表面を帯電させるための帯電ビーム照射手段700を備える構成としてもよい。
【0033】
試料200の表面は、絶縁領域と導電領域を有しており、該試料表面の観察は、電子ビーム源310からの電子ビームの照射により行われる。電子ビーム源310は、例えば、電子源311と、ウェーネルト電極312と、アノード313とを備えており、電子源311で電子を発生させ、ウェーネルト電極312で電子を引き出し、アノード313で電子を加速して、試料表面に向けて照射する。
【0034】
電子ビーム源310は、複数の画素を同時に撮像できるような、複数画素を包含できる所定の面積を有する面状の電子ビームを生成するように構成しても良い。これにより、1回の電子ビームの試料表面への照射で、複数画素を同時に撮像することができ、広い面積の二次元画像を高速に取得することができる。
【0035】
照射エネルギ設定手段310は、電子ビーム源310から射出される電子ビームの照射エネルギを設定する手段である。照射エネルギ設定供給手段310は、負極が電子源に接続された可変電圧源を備え、電子ビーム源310に電力を供給し、電子源311から電子を発生させる。電子ビームの照射エネルギは、試料200の電位と、電子ビーム源310の電子源311に備えられたカソードの電位との差により定められる。よって、照射エネルギ設定供給部600は、その可変電圧源の電圧(以後、「加速電圧」と呼ぶ。)を調整することにより、照射エネルギを調整及び設定することができる。
【0036】
本発明に係る電子線検査装置においては、照射エネルギ設定供給部600により電子ビームの照射エネルギが適切な値に設定され、取得される画像のコントラストが高められる。本発明では、電子ビームの照射エネルギは、撮像電子ビームの照射により試料200の表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に設定されるが、その照射エネルギの具体的な設定方法については、後述する。
【0037】
一次系レンズ320は、電子ビーム源310から射出された電子ビームを電磁場の作用により偏向させ、試料200の表面上の所望の照射領域に導くための手段である。なお、一次系レンズ320は、複数であっても1つであってもよい。各一次系レンズ320として、例えば、四極子レンズが用いられる。
【0038】
E×B(E×B偏向器)340は、電子ビーム又は電子に電界と磁界を付与し、ローレンツ力により電子ビーム又は電子を方向付けし、電子ビーム又は電子を所定の方向に向かわせるための手段である。E×B340は、電子ビーム源310から射出された電子ビームについては、試料200の表面に向かわせるローレンツ力を発生させるように、電界と磁界が設定される。
【0039】
また、E×B340は、試料表面への電子ビームの照射により、該試料表面の構造情報を得た電子については、そのまま上方に直進させ、検出器400の方向に向かわせるように電界と磁界が設定される。なお、後述するように、撮像電子ビームの照射により試料表面の構造情報を得た電子は、E×B340の作用により、電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じて、電界と磁界により方向付けがなされる。
E×B340の作用により、試料表面に入射する電子ビームと、当該入射電子ビームとは逆向きに進行する試料表面から生じた電子とを、分離することができる。なお、E×Bは、ウィーンフィルタと呼んでもよい。
【0040】
コンデンサレンズ330は、電子ビームを試料200の表面に結像させるとともに、試料表面の構造情報を得た電子を収束させるためのレンズである。よって、コンデンサレンズ330は、試料200の最も近傍に配置される。
トランスファーレンズ350は、E×B340を通過した電子を、検出器400の方向に導くともに、NA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361付近でクロスオーバーを結ばせるための光学手段である。
【0041】
NA調整用アパーチャ板360は、通過電子数を調整するための手段である。NA調整用アパーチャ360は、その中央部に、開口数(NA)を決める孔部であるNAアパーチャ361を有している。NAアパーチャ361は、トランスファーレンズ350により導かれた試料表面からの電子を通過させて検出器400への通路となるとともに、撮像の雑音となる電子が検出器400に向かうのを遮断し、通過電子数を調整する。また、上述したように、このNAアパーチャ361は、平面内で位置調整可能であり、E×B340の作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に検出器400に導くことができる。その詳細については後述する。なお、NAアパーチャ361は孔径が異なる複数種類のものが設けられていてもよい。この場合、所望の孔径のNAアパーチャがNAアパーチャ移動機構(不図示)により選択される。
【0042】
プロジェクションレンズ370は、NA調整用アパーチャ361を通過した電子について、検出器400の検出面上に像を結像させるための最終焦点調整手段である。
【0043】
検出器400は、電子ビームが試料表面に照射され、試料表面の構造情報を得た電子を検出して、試料表面の画像を取得するための手段である。検出器400として、種々の検出器を使用可能であるが、例えば、並列画像取得を可能にするCCD(Charge Coupled Device)検出器や、TDI(Time Delay Integration)−CCD検出器を使用することができる。CCDやTDI−CCD等の二次元画像撮像型の検出器400を用い、電子ビーム源310に複数画素を含む所定の面積を照射できる面ビームを用いることにより、1箇所のビーム照射で並列撮像による広い面積の画像取得が可能となり、試料表面の観察を高速で行うことができる。なお、CCDやTDI−CCDは、光を検出して電気信号を出力する検出素子であるので、検出器400にCCDやTDI−CCDを適用する場合には、電子を光に変換する蛍光板や、電子を増倍するMCP(マイクロチャンネルプレート)を必要とするので、検出器400には、それらも含まれるようにする。
【0044】
検出器400は、EB-CCD又はEB-TDIを用いるようにしてもよい。EB-CCD及びEB-TDIは、二次元画像撮像型の検出器である点は、CCD及びTDI−CCDと同様であるが、電子を直接検出し、光−電子間の変換を経ることなく、そのまま電気信号を出力するものである。よって、上述のような蛍光板やMCPを必要とせず、途中の信号ロスが減少するので、高分解能な画像取得が可能となる。
【0045】
画像処理装置500は、検出器400から出力された電気信号を記憶し該記憶された信号に基づいて、試料200の表面の画像を生成する装置である。具体的には、検出器400から出力された座標情報及び輝度情報に基づいて、二次元画像を生成する。表面に絶縁材料と導電材料を含む試料200を観察するためには、絶縁領域と導電領域とに輝度差が発生して、コントラストの高い画像が取得されることが好ましいが、画像処理装置500においては、良好な画像が取得できるように、必要な画像処理及び画像生成を行う。
【0046】
ステージ100は、上面に試料200を載置して、試料200を支持する手段である。ステージ100は、試料表面201の被観察領域の全体に電子ビームの照射が可能なように、水平面内(XY面内)のX方向及びY方向に移動可能であり、水平面内で回転可能である。また、必要に応じて、鉛直方向(Z方向)に移動可能として試料200の表面の高さを調整できるように構成されていてもよい。ステージ100を移動可能に構成さする場合には、例えば、モータやエア等の移動手段を設けるようにすればよい。
【0047】
帯電電子ビーム照射手段700は、電子ビーム源310から撮像用の撮像電子ビームを照射する前に、試料200を帯電させるために設けられる。帯電電子ビーム照射手段700は、必要に応じて設けられる。なお、試料表面を撮像する前に、該試料表面に予め電子ビームを照射すると、導電領域は帯電せずにその電位は接地電位のままであるのに対し、絶縁領域が負に帯電する。従って、これら導電領域と絶縁領域との間に、材料に応じた電位差を形成することができる。そしてこの電位差により、導電領域と絶縁領域とのコントラストを高めることができる。よって、撮像電子ビームの前に、帯電電子ビームを試料表面に照射したい場合に、帯電電子ビーム照射手段700を設ければよい。
【0048】
なお、帯電電子ビーム照射手段700を別途設けることなく、電子ビーム源310が帯電電子ビーム照射手段を兼ねるようにしてもよい。つまり、帯電電子ビームは、帯電電子ビーム照射手段700を用いずに、電子ビーム源310から照射してもよい。そして、この帯電電子ビームの照射に続いて、撮像用の電子ビームを試料200の表面に照射するようにしてもよい。
【0049】
よって、帯電電子ビーム照射手段120は、例えば、帯電電子ビームを試料表面201に照射したい場合であって、かつ、帯電電子ビームの照射の後、直ちに撮像用の電子ビームを照射したい場合等に設けるようにしてもよい。一般的に、撮像電子ビームと帯電電子ビームは照射エネルギが異なるので、帯電電子ビーム照射手段700を設けることにより、帯電電子ビーム照射と撮像電子ビーム照射の間の照射エネルギの調整を不要とし、迅速な撮像を行うことができる。よって、観察時間の短縮等の要請が高い場合には、帯電電子ビーム照射手段700を設けることにより、観察時間短縮の要請に応えることができる。
【0050】
試料200は通常、その表面に、絶縁材料からなる絶縁領域と導電材料からなる導電領域とを含む。試料200は、種々の形状のものが適用され得るが、例えば、半導体ウェハ、レチクル等の基板状の試料が用いられる。本発明に係る電子線検査装置は、試料表面の絶縁領域が、導電領域よりも面積比が大きい場合にも、好適に試料表面を観察することができるように構成することが好ましい。このような構成により、例えば、半導体ウェハのコンタクトプラグや、レチクルのコンタクト構造についても、良好に試料表面の画像を取得し、観察を行うことができる。
【0051】
なお、導電材料及び絶縁材料には種々の材料が適用され得るが、例えば、導電材料としてW(タングステン)等のプラグ材料、絶縁材料として半導体ウェハの絶縁層として利用されるSiO(シリコン酸化膜)等が適用されてもよい。
図1の電子線検査装置は、上述したように、写像投影型の電子線検査装置であるが、SEM型の電子線検査装置も本発明の電子線検査装置として適用可能である。
【0052】
図2は、本発明に係る電子線検査装置を備えた第1の実施形態の試料観察システム(検査システム)の全体構成例を示した図で、この試料観察システムは、写像投影型の電子光学系と、光学顕微鏡による試料観察、及びSEM型電子光学系による試料観察が可能な、複合型試料観察システムとして構成されている。
【0053】
図2に示した複合型の試料観察システムは、試料キャリア1900と、ミニエンバイロメント1800と、ロードロック1620と、トランスファーチャンバ1610と、メインチャンバ1600と、写像投影型の電子コラム1300と、画像処理装置500とを備えている。ミニエンバイロメント1800には、大気搬送ロボット、試料アライメント装置、クリーンエアー供給機構等が設けられている(図示せず)。また、常に真空状態のトランスファーチャンバ161には、真空用搬送ロボットが設けられており(図示せず)、これにより、圧力変動によるパーティクル等の発生を最小限に抑制することが可能である。
【0054】
メインチャンバ1600には、水平面内(XY平面内)でX方向、Y方向、およびθ(回転)方向に移動可能なステージ100が設けられており、該ステージ100上には静電チャック(図3の120)が設置されている。試料そのもの或いはパレットや冶具に設置された状態の試料は、この静電チャックによりステージ100上に載置される。
メインチャンバ1600の内部は、真空制御系1500により、真空状態が保たれるように圧力制御される。また、メインチャンバ1600、トランスファーチャンバ1610及びロードロック1620は、除振台1700上に載置され、床からの振動が伝達されないように構成されている。
【0055】
メインチャンバ1600には電子コラム1300が設置されている。この電子コラム1300には、図1に示した電子ビーム源310及び一次系レンズ320を含む一次光学系と、コンデンサレンズ330、E×B340、トランスファーレンズ350、NA調整用アパーチャ360板、及びプロジェクションレンズ370を含む二次光学系と、試料200からの二次電子及びミラー電子を検出する検出器400が設置されている。また、電子コラム1300の関連構成要素として、試料の位置合わせに用いる光学的顕微鏡1400や、レビュー観察に用いるSEM1450が備えられている。
【0056】
検出器400からの信号は、画像処理装置500に送られて信号処理される。信号処理は、観察を行っているオンタイム中の処理と画像のみ取得して後で処理するオフライン処理の両方が可能である。画像処理装置500で処理されたデータはハードディスクやメモリなどの記録媒体に保存される。また、必要に応じて、コンソールのモニタに表示することが可能である。例えば、観察領域・欠陥マップ・欠陥分類・パッチ画像等である。このような信号処理を行うため、システム制御部950が備えられている。また、電子コラム系1300に電源を供給すべく、電子光学系制御電源1180が備えられている。電子光学系制御電源1180には、電子ビーム源310の電子源311に電力を供給する電源600と、該電源を制御する照射エネルギ制御手段が含まれ、また、後述する試料の電位を設定するための電源及びその制御手段、並びに、後述する集塵電極へ印加する電圧の電源及びその制御手段が含まれている。
【0057】
次に、試料の搬送機構について説明する。ウェハ、マスクなどの試料は、ロードポート1900より、ミニエンバイロメント1800中に搬送され、その中でアライメント作業がおこなわれる。さらに、試料は、大気搬送ロボットによりロードロック1620に搬送される。ロードロック1620内では、真空ポンプ(図示せず)により、大気状態から真空状態となるように排気がなされる。この排気によりロードロック1620内が一定圧力(例えば、1Pa程度)以下になると、試料は、トランスファーチャンバ1610に設けられた真空搬送ロボットによりロードロック1620からメインチャンバ1600に搬送され、ステージ100が有する静電チャック機構の上に設置される。
【0058】
図2のシステムにおいては、写像投影型電子線装置すなわち電子光学系1300とSEM型電子光学系1450に共通するステージ100上に試料200が搭載されるため、試料200が写像投影型の電子光学系1300とSEM型の電子光学系1450との間を移動したときに、座標関係が一義的に求まり、同一部位の特定を高精度で容易に行うことができる。
【0059】
つまり、分離された別々の検査装置の間で試料の移動を行う場合、別々のステージに試料を配置する必要があるため、試料のアライメントを夫々行う必要があり、このように、試料のアライメントを行っても、同一場所の特定誤差は5〜10μm以上となってしまう。特に、パターンのない試料の場合は、位置基準が特定できないため、その誤差は更に大きくなる。
【0060】
この例によれば、写像投影型の電子光学系1300とSEM型の電子光学系1450との間で試料200の移動を行った場合でも、高精度で同一場所を特定できるので、高精度で場所の特定が可能となり、例えば1μm以下の精度が可能となる。これにより、パターン及びパターン欠陥の検査を写像投影型の電子光学系1300で行った場合、その検出した欠陥の特定及び詳細観察(レビュー)をSEM型の電子光学系1450で行う場合に大変有効となる。つまり、場所の特定ができるので、存在の有無(無ければ擬似検出)が判断できるだけでなく、欠陥の正確なサイズや形状を高速に行うことが可能となる。別々の装置であるとパターン欠陥とその特定に多くの時間を費やしてしまう。
【0061】
本発明によれば、写像投影型及びSEM型の電子光学系が同一チャンバに搭載されているシステムを用いることにより、特に、100nm以下の超微小なパターンの検査とその判定及び分類を効率よく、また、高速に行うことができる。
【0062】
次に、図3−図23を参照して、本発明に係る、試料表面にパーティクル等の異物が付着することを防止するための構成について、詳細に説明する。以下の例では、試料200として、表面層に導電性の薄膜、例えば、Si(ドープを含む),Cr,TaN,TaBN,CrN,Ru,Ta,WまたはCu等の薄膜を有する矩形状のマスクまたは円形の半導体ウェハを使用する。薄膜の最表面は、TaBO,TaOまたはSi0等の絶縁膜であっても良い。また、マスクとしては、例えば、石英やクオーツ基板に薄膜が形成されているものや、SiウェハにLSI用の回路パターン膜構造が形成されているものが用いられる。
【0063】
図3は、図1に示した本発明に係る電子線検査装置のステージ100及びその周囲の部分を詳細に示す縦断正面図であり、図4は、図3の横断平面図である。図3及び図4に示すように、本発明に係る電子線検査装置は、真空排気可能な真空チャンバ112を備え、該真空チャンバ112の内部に、X方向及びY方向に移動自在なステージ100が配置されている。そして、ステージ100の上面に、この例では、矩形状のマスクからなる試料200を保持したホルダ118が静電チャック120を介して設置されている。
【0064】
ステージ100は、試料(マスク)200の有効領域の撮像や欠陥検査が可能なように、試料200の有効距離+助走距離(検査最高速度*速度安定化時間)のストロークの移動領域を有している。例えば、X方向及びY方向の試料200の有効距離300mmで、助走距離100mm/s*0.5s=50mmのとき、ステージ100は、400mmのストロークの移動領域を有する。
【0065】
ステージ100上に設置された試料200と所定間隔離間して、該試料200の全周囲を包囲する位置に、矩形枠状に連続して延びる、横断面矩形状の集塵電極122が配置されている。更に、ステージ100に配置された試料(マスク)200及び集塵電極122の上方に位置して、中央に貫通孔124aを有する隙間制御板124が、真空チャンバ12の内周面と僅かな隙間を持って水平に配置されている。この貫通孔124a内には、電子線検査装置の光学系要素すなわちコンデンサレンズ330が位置し、このコンデンサレンズ330を通して、ステージ100上に配置された試料200の表面に電子線が照射される。貫通孔124aの大きさは、コンデンサレンズ330の外形よりも僅かに大きな大きさに設定されている。
【0066】
集塵電極122は、磁場による電子線の曲がりや軌道変化を除くため、リン青銅やTi等の非磁性材料で構成されている。電子線には、一次系の照射電子線、試料200から放出される二次放出電子線及び試料200の近傍で反射するミラー電子線等が含まれる。
【0067】
隙間制御板124は、例えばリン青銅、TiまたはSUS材等の、例えば板厚が0.3〜5mmの平板で構成されている。電位を安定させたり汚染を防止したりするため、隙間制御板124として、Au,Pt,RuまたはOs等がコーティングされているものを用いることが好ましい。そして、隙間制御板124は、ステージ100がその移動領域内を移動しても、集塵電極122が隙間制御板121の外側にはみ出さない領域をカバーする大きさに設定されている。これにより、ステージ100が移動して、ステージ100に配置された試料200が真空チャンバ112内の最も偏った位置に移動した時に電界分布が崩れてパーティクルの軌道が変化することを防止して、パーティクルが試料200まで飛んできて該試料の表面に付着することを防止することができる。なお、隙間制御板124は、必ずしも必要ではない。このことは、以下の各例においても同様である。
【0068】
この例では、図4に示すように、矩形枠状に連続した集塵電極122を使用して、ステージ100上に配置した試料200の全周囲を集塵電極122で一体に包囲し、これによって、集塵電極122の長さ方向に沿った位置に隙間が生じて電界の不均一な部位が生じ、いわゆる電界の隙間から、パーティクルが集塵電極22で包囲された内部に侵入してしまうことを防止することができる。
【0069】
集塵電極122は、必ずしも試料200の全周囲を包囲する必要はなく、集塵電極122で形成される電界が試料200の周囲を包囲できれば良い。例えば、図5に示すように、直線状に延びる4つの集塵電極122aを試料200の各辺のほぼ全長に亘って延びるように配置して、試料200の角近傍を除いてほぼ全外周を集塵電極122aで包囲するようにしても良く、また図示しないが、直線状に延びる集塵電極が途中で互いに分離されるようにしてもよい。この場合、互いに隣接する集塵電極の間に電界の歪みが発生するが、集塵電極によって必要な電位の分布が得られればよい。例えば、二次元で考えて、集塵電極の幅をD、集塵電極の電極間の距離をLとした時、D/L≧4であれば問題ない。このことは、以下の各実施例においても同様である。
【0070】
図3〜図5に示した例では、試料200として矩形のマスクを使用している。円形の半導体ウェハを試料として使用する時には、図6に示すように、ステージ100上に円形のホルダ118aで保持した円形の試料(半導体ウェハ)200aを設置し、該試料の周囲に円形リング状に連続した集塵電極122bを配置することで、試料200aの全周囲を一体に包囲する。この場合、図7に示すように、半円状の一対の集塵電極122cを真円となるように互いに対峙させて配置して、ステージ100上に配置した円形の試料(半導体ウェハ)200aのほぼ全周囲を集塵電極122cで包囲するようにしても良く、また図示しないが、3以上の集塵電極を円周方向に沿って延びるように互いに離間させて配置するようにしても良い。
いずれの場合にも、ステージ100上に配置された試料200を取り囲む1又は複数の全ての集塵電極122に所定の電圧が印加して集塵を行い、その後に、電子ビーム源310(図1参照)から電子ビームを発生して、ステージ100上の試料200に電子ビームが照射される。そして、これにより試料から放出された二次電子又は試料表面及びその近傍から反射されたミラー電子を、検出器400(図1参照)で検出し、画像処理装置500において画像処理が行われ、試料表面の画像が得られる。
【0071】
図8は、試料200、集塵電極122及び隙間制御板124を拡大して示す図である。図8に示すように、試料200には、該試料の表面に所定の電圧を印加する第1電源128が接続され、集塵電極122には、該集塵電極に所定の電圧を印加する第2電源130が接続される。集塵電極122の厚さは、例えば0.1〜5mmである。集塵電極122の幅W1は、広ければ広い程良いが、広くなればなる程、真空チャンバ112内に占める集塵電極122のサイズが大きくなるため、一般には5〜50mmである。試料200と集塵電極122との距離L1は、集塵電極122の幅W1との関係で、例えば0.5L1<W1<5L1の関係を満たす範囲で用いることが好ましい。
【0072】
この例では、第1電源128を通して、試料200の表面に、例えば−1〜−5kVの電圧が印加され、集塵電極122には、第2電源130を通して、試料200に印加される電圧と同じ極性で、試料200に印加される電圧よりも絶対値が、例えば0.5〜5kV大きな電圧が印加される。つまり、例えば試料200に−3kVの電圧が印加される時には、集塵電極122には、−3.5〜−8kV、例えば−5kVの電圧が印加される。
【0073】
真空チャンバ112は、鉄材やアルミニウムなどの金属材料製でアース電位である。そして、真空チャンバ112の内部に存在するパーティクル等の異物が静電気等により帯電すると、試料200の電位が負の場合では、正に帯電したパーティクル等の異物が電界に引かれて試料200に向けて飛んでくる。
【0074】
この例によれば、負の電位が印加される試料200の全周囲を集塵電極122で包囲し該集塵電極122に試料200に印加される電圧よりも負に大きな電圧を印加することにより、電界に引かれて飛んでくるパーティクル等の異物の大部分を集塵電極122で捕捉することができ、パーティクル等の異物が試料200に向けて飛んで行って該試料の表面に付着する確率を大幅に低減することができる。これによって、試料200の表面に異物が付着することを大幅に低減することができる。
【0075】
この例では、さらに、集塵電極122から離れた軌道を通って試料200の表面にパーティクル等の異物の付着を防止する隙間制御板124を備えている。隙間制御板124を備えることにより、集塵電極22から離れた軌道を通るパーティクル等の異物に対する集塵電極122の吸引力が落ち、このため集塵電極122にパーティクル等の異物が捕捉される確率が距離に反比例して落ちる。異物補足の確率を低下させないために、試料200に負の電圧を印加するとき、試料200と集塵電極122との間の電界強度Aが負(A<0)となるようにすることで、集塵電極122の吸引力を上げて、集塵電極122にパーティクル等の異物が捕捉される確率を高めることができる。その上で、隙間制御板124と集塵電極122との間の電界強度(絶対値)Bが0.1≦B(絶対値)≦10kV/mmの関係を持つようにすることで、集塵電極122にパーティクル
等の異物が捕捉される確率を更に高めることができる。
【0076】
例えば、試料200に−1〜−5kVの負の電圧を印加し、集塵電極122に試料200に印加する負の電圧より−0.5〜−5kVだけ負に大きな−1.5〜−10kVの負の電圧を印加する。隙間制御板124がアース電位のとき、試料200と集塵電極122との距離L1=10mm、隙間制御板124と集塵電極122との距離Z1=8mmとすると、試料200と集塵電極122と間の電界強度Aは負(A<0)となり、隙間制御板124と集塵電極122との間の電界強度(絶対値)B=0.19〜1.25kV/mm(=1.5〜10kV/8mm)、特に、集塵電極122に−5kVの電圧を印加すると、電界強度(絶対値)B=0.625kV/mm(=5kV/8mm)となって、有効な条件となる。このとき、空間の耐電圧として、10kV/mmを超えないようにすることで、空間で放電が起きることを防止することができる。
【0077】
図9は、ステージ100の詳細を示す。図9に示すように、ステージ100は、Xステージ132とYステージ134とを互いに積層して構成され、Xステージ132とYステージ134との間には超音波モータ136が介装されている。ステージ100の上面の集塵電極122の外方を包囲する位置には、上端が集塵電極122の上方に達する第1防塵カバー140が配置され、超音波モータ136の外側方には、該超音波モータ36の収納部の開口端を閉塞する第2防塵カバー142が配置されている。
【0078】
第1防塵カバー140を設置することで、試料200の表面に向けてパーティクル等の異物が飛散して該表面に付着するのを防止することができる。また、パーティクルの発生源となる超音波モータ136の外側方に第2防塵カバー142を配置することで、超音波モータ136から飛散するパーティクル等の異物が真空チャンバ112の内部に飛散することを防止することができる。パーティクル等の異物の発生源から真空チャンバ112の内部にパーティクル等の異物が飛散することを防止することは、ピエゾアクチュエータ等の壁面を擦って駆動するタイプのモータ等を使用する場合に特に有効である。
【0079】
この例では、図10に詳細に示すように、真空チャンバ112の内部に密閉構造の配線ボックス150が配置されている。この配線ボックス150は、ケーブルの曲げや擦れによって該ケーブルから発生するパーティクル等の異物が真空チャンバ112の内部に飛散することを防止するためのものである。この例では、試料200が配置されたステージ100の移動等に伴うケーブル152の曲げが発生する部位が全て配線ボックス150の中に入っている。より詳細に説明すると、試料200に所定の電圧を印加するための電源(図1の800、図11〜図14の128)及び集塵電極122に所定の電圧を印加するための電源(図11〜図13の130)は、配線ボックス150の外部に設けられている。これら外部電源と端子台156との電気的接続は、端子台156から延びるケーブル(不図示)、及び、真空チャンバ112に設置されているフィードスルーを介して、外部電源に接続される。端子台156には、試料及び集塵電極への電源電圧印加用の2対の端子が設けられており、また、ケーブル152は電源電圧搬送用の2対の電源線を含み、2対の電源線それぞれの一端が端子台156の2対の端子に電気的に接続されている。なお、図示のように、ケーブル160の一端は、端子台156の近傍に配置された移動可能な移動板158に機械的に固定されている。移動板158と端子台156との間のケーブルの長さは、移動板158の移動範囲を考慮して余裕をもって設定される。一方、ステージ100には固定板154が固定されており、該固定板にも、試料及び集塵電極への電圧印加用の2対の端子が設けられており、これら端子に、ケーブル152の対応する電源線が電気的に接続されかつ機械的に結合される。
そして、図示のように、ステージ100に固定した固定板154に接続されたケーブル152は、ステージ100から配線ボックス150に向けて直線状に延び、配線ボックス150に設けたスリット150aを通過して配線ボックス150の内部に達し、しかる後、下方に向けて180°屈曲して反転している。そして、上述したように、ケーブル152の他端は、配線ボックス150の内部に配置した移動板158に機械的に固定されかつ先端が端子台156に接続されている。これにより、ステージ100がX方向に移動した時、ケーブル152の配線ボックス150内の屈曲部152aのみに曲げが生じる。
【0080】
配線ボックス150の内部には、Y方向(図10の紙面に直交する方向)に沿って延びてケーブル152の案内となるガイドローラ160が配置されており、ステージ100がY方向に移動した時に、ローラガイド160に沿ってY方向に移動し、かつ移動板158が移動するので、移動板158までのケーブル152にY方向のストレスが掛からないようになっている。
なお、上記した実施形態においては、移動可能な移動板158を設けているが、ケーブル152の屈曲部52aの伸縮のみによって、ステージ100のX方向及びY方向の移動に伴うケーブル152の変動を吸収できるようにすれば、移動板の代わりに固定板を用いてケーブル52を機械的に固定してもよい。
【0081】
このように、ケーブル152の曲げ部が全て配線ボックス150内にあり、かつ、配線ボックス150の外部に通じる孔が小さいために、配線ボックス150内で発生したパーティクル等の異物が配線ボックス150の外に出る確率が大幅に減少して、その大部分が配線ボックス150の内壁に付着する。更にこの例では、配線ボックス150の内部に配線ボックス用の集塵電極162を配置し、該集塵電極162にパーティクル等の異物捕捉用の電圧を印加することにより、配線ボックス150からパーティクル等の異物が外側に飛散する確率をより大幅に低下させることができる。
【0082】
なお、(1)ケーブルの長さを揃える、(2)インシュロック等でケーブルを固定して補正する、(3)ケーブルをフラットケーブルにする、といった対策を施すことで、複数のケーブルの擦れによるパーティクル発生を低減することができる。つまり、複数のケーブルの長さを揃えて固定すると、ケーブル束が一体となり、ステージが移動したときにケーブルに曲がりが生じるが、そのときのケーブル相互の擦れを低減させて、パーティクル等の異物の発生を低減させることができる。また、ケーブルをフラットケーブルにすることにより、複数の配線を一つのケーブルにすることが可能となり、ケーブル相互の擦れが無くなる。なお、多数配線を有するフラットケーブルが直ぐに使用できないときには、上記(1)と(2)とを組合せることが有効である。
【0083】
上記の例では、横断面矩形状の集塵電極122を使用しているが、図11に示すように、横断面円形の集塵電極122dを使用してもよい。この集塵電極122dの直径Dは、試料200と集塵電極122dとの距離L2との関係で、0.5L2<D<5L2の関係を満たす範囲で用いることが好ましい。集塵電極122dの直径Dをこれより小さくすると集塵電極122dの捕捉確率が低下し、これより大きくても集塵電極122dの捕捉確率は変わらず、場合によっては、余計なパーティクル等の異物の捕捉を誘引することになる。
【0084】
また、上記の例では、試料200と所定間隔離間した位置に集塵電極122を配置し、試料200に印加される電圧と同じ極性で試料200に印加される電圧よりも絶対値が大きな電圧を集塵電極122に印加するようにしているが、図12に示すように、試料200の外周縁部に内周縁部を接触させつつ、該試料の全周囲を包囲するように、矩形枠状に連続した、横断面矩形状の集塵電極122eを配置し、第1電源128を通じて試料200に印加される電圧と同じ電圧を、第2電源130を通じて集塵電極122eに印加するようにしても良い。この集塵電極122eの厚さは、例えば0.1〜5mmで、幅W2は、前述の集塵電極122と同様で、例えば5〜50mmである。
【0085】
図12の例では、試料200の外形よりも小さい内形を有する集塵電極122eを使用し、集塵電極122eの内周縁部を試料16の外周縁部に接触させているが、図13に示すように、矩形枠状で、内形を試料200の外形より僅かに大きくした集塵電極122fを使用し、試料200の全周囲を集塵電極122fが僅かな隙間Sを空けて包囲するように、該集塵電極122fを配置するようにしても良い。この隙間Sは、例えば1〜500μmである。
【0086】
図12の例では、第1電源128を通して、試料200に、例えば−1〜−5kVの負の電圧が印加され、集塵電極122eにも、第2電源130を通して、試料200に印加される電圧と同じ電圧、つまり、例えば試料200に−3kVの電圧が印加される時には、−3kVの電圧が印加される。
【0087】
前述と同様に、試料200の電位が負の場合では、正に帯電したパーティクル等の異物が電界に引かれて試料200に向けて飛んでくる。図12の例によれば、試料200の電位と同電位の集塵電極122eが試料200の全周囲を包囲する位置に配置されているため、電界に引かれて飛んでくるパーティクル等の異物の大部分は、集塵電極122eで捕捉される。このように、試料200の周囲に配置した集塵電極122eでパーティクル等の異物の大部分を捕捉することができるので、試料200の表面に飛んできて該表面に付着するパーティクル等の異物を少なくし、これによって、試料200の表面に異物が付着するのを防止することができる。
【0088】
図12の例では、集塵電極122eと隙間制御板124との距離をZ2とした時、集塵電極122eの幅W2との関係で、W2>4Z2の時に特に効果的である。また、集塵電極122eと隙間制御板124と間の電圧密度Bの大きさ(絶対値)を0.1kV/mmより大きくした時(B(絶対値)>0.1kV/mm)、更に有効になる。
【0089】
図14は、前述の図8に示す例と図12に示す例とを組合せた更に他の例を示す。この例では、試料200の外周縁部に内周縁部を接触させつつ、該試料の全周囲を包囲するように、例えば矩形枠状に連続した、横断面矩形状の第1集塵電極170を配置し、第1集塵電極170と所定間隔離間した位置に、該第1集塵電極170の全周囲を包囲するように、例えば矩形枠状に連続した、横断面矩形状の第2集塵電極172を配置している。そして、第1集塵電極170には第2電源174を接続し、第2集塵電極172には第3電源176を接続している。
【0090】
なお、上述のように、直線状に延びる第2集塵電極を第1集塵電極の各辺のほぼ全長に亘って延びるように配置して、第1集塵電極のほぼ全外周を第2集塵電極で包囲するようにしても良く、また直線状に延びる第2集塵電極が途中で互いに分離されるようにしてもよい。
【0091】
図14の例では、前述と同様に、第1電源128を通して、試料200に、例えば−1〜−5kVの電圧が印加され、第1集塵電極170に、試料200に印加される電圧と同じ電圧、例えば試料200に−3eVが印加されるときには−3eVが印加される。更に、第2集塵電極172には、試料200に印加される電圧と同じ極性で試料200に印加される電圧よりも絶対値が、例えば0.5〜5kV大きな電圧が印加される。つまり、例えば試料200に−3kVの電圧が印加される時には、第2集塵電極172には、−3.5〜−8kV、例えば−5kVの電圧が印加される。
【0092】
この例にあっても、前述の図8等に示す例とほぼ同様に、試料16に負の電圧を印加する時、試料200と第2集塵電極172との間の電界強度Aが負(A<0)となるようにすることで、第2集塵電極172の吸引力を増大して、第2集塵電極172にパーティクル等の異物が捕捉される確率を高めることができる。その上で、隙間制御板124と第2集塵電極172との間の電界強度(絶対値)Bが0.1≦B(絶対値)≦10kV/mmの関係を持つようにすることで、第2集塵電極172にパーティクル等の異物が捕捉される確率を更に高めることができる。
【0093】
第1集塵電極170は、前述の図11に示す集塵電極122eと同様に、厚さは、例えば0.1〜5mmで、幅W3は、例えば5〜50mmである。また、第2集塵電極172は、前述の図6に示す集塵電極122と同様に、厚さは、例えば0.1〜50mmで、幅W4は、例えば5〜50mm程度である。
【0094】
そして、例えば、試料200及び第1集塵電極170に、−1〜−5kVの負の電圧を印加し、第2集塵電極172に試料200及び第1集塵電極170に印加する負の電圧より−0.5〜−5kVだけ負に大きな−1.5〜−10kVの負の電圧を印加する。隙間制御板124がアース電位のとき、隙間制御板124と第2集塵電極172との距離Z8=8mmとすると、試料200と第2集塵電極172と間の電界強度Aは負(A<0)となり、隙間制御板124と第2集塵電極172との間の電界強度(絶対値)B=0.19〜1.25kV/mm(=1.5〜10kV/8mm)、特に、集塵電極122に−5kVの電圧を印加すると、電界強度(絶対値)B=0.625kV/mm(=5kV/8mm)となって、有効な条件となる。このとき、空間の耐電圧として、10kV/mmを超えないようにすることで、空間で放電が起きることを防止することができる。
【0095】
図15〜図17を参照して、パーティクル等の異物の付着防止について、されに詳細に説明する。
図15に示すように、並行平板からなる電極間の平等電界中(q+=q−)では、絶縁物から成るパーティクルが存在しても、そのパーティクルは電界から静電誘導にて分極するが飛散することはない。しかし、電界が不平等電界の場合、誘電分極によって生じた電荷によってパーティクルは飛散してしまう。また、図16に示すように、一方を平板とした一対の電極間の不平等電界中(q+≠q−)では、絶縁物から成るパーティクルが存在すると、そのパーティクルは電界から静電誘導にて分極して飛散するが、図17に示すように、一方を平板とした一対の電極間の平等電界中(q+=q−)では、絶縁物から成るパーティクルが存在しても、そのパーティクルは電界から静電誘導にて分極するが飛散することはない。
【0096】
このように、図16及び図17に示すように、パーティクル等の異物が飛散する確率は、パーティクル等の異物が誘電分極する前に有している初期電荷q0に大きく支配されると考えられる。この残留物が有する初期電荷q0は、主に真空排気時の空気の流れによって生じる静電気で付与されると考えられる。
【0097】
図18は、電子線検査装置に備えられる他の真空チャンバ112aを示す。この真空チャンバ112aの内部には、試料200を配置するステージ100と、電子線検査装置の一次電子光学系及び二次電子光学系が配置される。真空チャンバ112aには、2つの真空ポンプ190a,190bが接続され、これら2つの真空ポンプには、共通のドライポンプ192が接続されている。そして、真空チャンバ112aの内部には、真空チャンバ112aの清掃によって除去できなかったパーティクル等の異物(残留物)を静電気で帯電させないために、X線やUV線を用いて気体を電離させ、その電離気体で電離気体中にある物体の表面の静電気を除去する除電装置194が設置されている。
【0098】
図18の例よれば、真空チャンバ112a内の真空排気を開始するのと同時に若しくは真空排気を開始するより前に除電装置194を動作させ、また、真空チャンバ112a内の真空排気を行っている真空排気中も、除電装置194を動作させ続ける。つまり、真空チャンバ112a内の空気の流れが無くなり、空気の流れによって静電気が発生しなくなるまで、除電装置194を動作させ続ける。このようにして、真空チャンバ112a内のパーティクル等の異物(残留物)の帯電を防止し、その初期電荷q0=0(図16参照)とすることで、不平等電界による誘電分極が引き起こす飛散の確率を低下させることができる。
【0099】
また、真空チャンバの清掃によって除去できずに真空チャンバ内に残留するパーティクル等の異物は、例え微小軽量であっても、重力の作業で、真空チャンバ内の平面構造の上面に沈殿する。
【0100】
図19は、例えば図2に示す真空チャンバ112や図18に示す真空チャンバ112aの内部の上面、底面及び側面を構成する平面構造の一例を示す斜視図であり、図20は、図19の断面図である。図19及び図20に示すように、例えば真空チャンバ112または112a(図2及び図18参照)の平面構造は、内面に多数の格子状の穴196aが設けられた壁体196で構成されている。このように、壁体196の内面に多数の格子状の穴196aを設けることで、この穴196aの底部に真空チャンバ内に残留するパーティクル等の異物Pをその重力によって沈殿させる。図20に示すように、格子状の穴196aの静電シールド効果によって、格子状の穴196aの底までは電界が入り込まず、このため、格子状の穴196aの底部に沈殿した異物(残留物)Pは、静電気による引力を受けることなく飛散することはない。これによって、例えば真空チャンバ112または112aの内部に配置された試料200の表面に、真空チャンバ112または112a内に残留するパーティクル等の異物が付着することを防止することができる。
図19の実施例においては、壁体196に格子状すなわち行列状に複数の穴19aを設けているが、穴の数は1以上の任意の数であってもよく、穴の大きさは、該穴に沈殿したパーティクル等が静電シールド効果によって飛散することがないように設定すればよい。また、複数の穴を設けた場合、格子状に配列することなく、任意の配列とすることができる。
【0101】
図21は、図1に示す真空チャンバ112または図18に示す真空チャンバ112aの平面構造を構成する壁の他の例を示す斜視図であり、図22は、図21の断面図である。図21及び図22に示すように、真空チャンバ112または112a(図2及び図18)の平面構造は、平板状の壁体198と該壁体198と所定間隔離間して平行に敷設されたメッシュ構造の平板199とから構成される。メッシュ構造の平板199は、網目状、網状などの金属性の板で構成され、独立した電源102に接続されている。
【0102】
図21及び図22に示した実施例においては、真空チャンバ112または112a内に残留するパーティクル等の異物Pを、その重力によって、メッシュ構造の平板199を通過させて壁体198の表面に到達させる。壁体198は、メッシュ構造の平板100に覆われているため、電界は、メッシュ構造の平板199で遮られて壁体198の表面まで到達しない。このため、壁体198の表面に到達した異物(残留物)Pは、静電気による引力を受けることなく飛散することはない。これによって、例えば真空チャンバ112または112aの内部に配置された試料の表面に真空チャンバ112または112a内に残留するパーティクル等の異物が付着することを防止することができる。
【0103】
特に、メッシュ構造の平板199に独立して電圧が印加できるようにすることで、真空チャンバ内に残留するパーティクル等の異物Pをメッシュ構造の平板199に積極的に誘引し、異物Pの重力の作用と相まって、該異物Pを、例えば真空チャンバ112または112aの平面構造を構成する壁体198の表面に沈殿させ且つ沈着させることができる。
【0104】
次に、本発明に係る、試料200の表面に絶縁領域と導電領域とが形成されている場合に、試料表面の画像を高コントラストで行うことができるようにするための構成を説明する。
【0105】
図23(A)及び(B)は、図1に示した写像投影型の電子線検査装置を用いて画像を取得する場合の、撮像用の電子ビームの照射エネルギと取得された画像中の材料コントラストとの関係の一例を示した図である。材料コントラストとは、導電材料から発生する電子と絶縁材料から発生する電子との差に起因して形成されるコントラストを意味する。図23(A)は照射エネルギ帯域により得られる画像の一例を示した図であり、図23(B)は撮像用の電子ビームの照射エネルギと検出器電流との相関関係を示したグラフである。
【0106】
図23(B)において、横軸は撮像用の電子ビームの照射エネルギ(ランディングエネルギ(LE)とも称される)を示し、縦軸は検出器400における検出器電流の大きさを示している。また、図23(B)において、実線は10〜300μmのアパーチャ径を有するNA調整用アパーチャ板360を用いた場合の特性曲線であり、一点鎖線は、1000〜3000μmのアパーチャ径を有するNA調整用アパーチャ板360を用いた場合の特性曲線である。この図に示した例では、ランディングエネルギ(LE)2〜10eVは「二次電子領域」、−2〜2eVは「遷移領域」、−2eV以下は「ミラー電子領域」である。
【0107】
なお、「二次電子」とは、電子ビームが試料200の表面に衝突し、これにより試料200から放出される電子のことを言う。二次電子は、試料表面に電子ビームが衝突し、試料200から放出される電子であれば、いわゆる二次電子の他、入射エネルギと反射エネルギが略等しい反射電子や、後方に散乱する後方散乱電子等を含んでよいが、「二次電子領域」において主として検出されるのは、試料200からの放出の仕方がコサイン則に従う二次電子である。
【0108】
また、「ミラー電子」とは、試料200の表面に向かって照射された電子ビームが、試料表面に衝突せず、試料表面の近傍で進行方向を逆向きとして反射する電子のことを意味する。例えば、試料表面の電位が負電位であり、電子ビームのランディングエネルギが小さい場合には、電子ビームは試料表面近傍の電界により、試料表面に衝突せず、逆向きに進行方向を変える現象が認められる。本発明に係る試料観察装置及び試料観察方法においては、このような、試料表面に衝突することなく、進行方向を逆向きとして反射した電子をミラー電子と称する。
【0109】
図23(B)において、ランディングエネルギ(LE)2〜10eVの二次電子領域では、NA調整用アパーチャ板360のアパーチャ径の相違により、検出電流が大きく異なっている。これは、二次電子の試料表面放出角がコサイン則で表されるため、NA調整用アパーチャ360の位置での電子の広がりが大きいためである。
【0110】
そして、ランディングエネルギ(LE)を2eV以下に低下させるに従い、ミラー電子が少しずつ増加し、ミラー電子と二次電子が混在する「遷移領域」となるが、図23(B)に示すように、NA調整用アパーチャ板360のアパーチャ径の大きさの相違による検出器電流の差は小さい。
【0111】
また、ランディングエネルギ(LE)が−2eV以下になると、ミラー電子領域に入って二次電子の放出は認められなくなり、ミラー電子の放出量は一定となる。この領域では、検出器電流は、NA調整用アパーチャ板360のアパーチャ径に依存しない。このことから、ミラー電子は、NA調整用アパーチャ板360の位置では、φ300μm以下でφ10μm以上のあたりに集束していると考えられる。これは、ミラー電子は、試料表面に衝突せず反射されるため、指向性が良く、直進性が高いためである。
【0112】
なお、図23(B)に示した例において、アパーチャ径が10μm未満の場合の特性曲線は実線で示したものと同様のものとなり、アパーチャ径が3000μmよりも大きい場合の特性曲線は破線で示したものと同様のものとなると考えられる。しかし、ここでは、ノイズ増大による測定限度の理由から、アパーチャ径を10μm以上、及び、3000μm以下とした。
【0113】
図24は、試料の表面の構造情報を得たミラー電子と二次電子の角度の相違を模式的に示した図で、横軸が実効ランディングエネルギ(LE)である。図24において、ミラー電子領域と遷移領域のそれぞれについて、実効ランディングエネルギと電子の挙動との関係が示されている。
【0114】
図24には、実効ランディングエネルギ(LE)が0eV以下の領域がミラー電子領域となる例が示されている。この図に示したように、ミラー電子は、照射電子ビームが試料表面に衝突することなく試料表面の前方に反射する。この場合、照射ビームが試料表面に対して垂直に入射した場合には、ミラー電子は試料表面に対して垂直に反射する。その結果、ミラー電子の進行方向は一定となる。
【0115】
これに対して、遷移領域においては、照射電子ビームのうちのある部分は試料表面に衝突することなく試料表面の前方に反射するミラー電子となるが、照射用の一部の電子ビームは試料表面に衝突して試料の内部から外部へと二次電子を放出する状態となる。ここで、ミラー電子領域と同様に、照射ビームが試料表面に対して垂直に入射した場合には、ミラー電子は試料表面に対して垂直に反射し、ミラー電子の進行方向は一定となる。一方、二次電子の方は、その放出量が試料表面の法線と放出方向(観測方向)との成す角度の余弦に比例するように、いわゆる「コサイン則」に従い、種々の方向に放出される。そして、ランディングエネルギが高くなる程(図24の右側になる程)、二次電子のミラー電子に対する割合が高くなる。
つまり、図24に示すように、ミラー電子は進行方向が一定で良好な指向性を有するが、二次電子は、コサイン則に従って種々の方向に進行し指向性は高くないことが分かる。
【0116】
上述した例では、ランディングエネルギが−2eV〜2eVの範囲が遷移領域、つまりミラー電子と二次電子が混在する領域となる。しかし、このようなランディングエネルギ範囲は観察対象となる試料により変動し得る。本発明者等は、種々の実験を重ねた経験から、遷移領域のランディングエネルギの照射電子ビームを利用すると、試料表面のパターンの高コントラスト観察、とりわけ、絶縁領域と導電領域が形成されている試料表面を高コントラストで観察するのに効果的であることを見いだした。
【0117】
本発明者らの検討によれば、遷移領域の最低照射エネルギをLEAとし最高照射エネルギをLEBとしたときに、一次系の撮像用の電子ビームの照射エネルギ(LE)は、LEA≦LE≦LEB、又は、LEA≦LE≦LEB+5eVに設定されることが好ましいことが分かった。以下、これについて詳細に説明する。
【0118】
図25は、ランディングエネルギ(LE)に対する試料表面の階調の変化を示した図である。階調は、検出器400で取得する電子数に比例している。図25に示すように、ランディングエネルギ(LE)がLEA以下の領域がミラー電子領域、ランディングエネルギー(LE)がLEB以上の領域が二次電子領域、ランディングエネルギ(LE)がLEA以上でLEB以下の領域が遷移領域である。
本発明者らが種々の実験を重ねた経験によれば、多くの場合、LEA〜LEBが、−5eV〜+5eVの範囲が好ましい範囲であることが確認されている。
【0119】
そして、絶縁領域と導電領域でミラー電子の形成状況の差により階調差が生じ、当該階調差が大きいほど高いコントラストが形成されることになる。つまり、材料や構造の違いにより、ミラー電子の形成状況の差が生じて階調差が形成されるのである。取得された画像中の絶縁領域と導電領域との間に高いコントラストを生じさせるためには、上述したランディングエネルギ(LE)をどのように設定するのかが極めて重要である。具体的には、LEA≦LE≦LEB(例えば、−5eV〜+5eV)の領域、又は、LEA≦LE≦LEB+5eV(例えば、−5eV〜+10(=5+5)eV)の領域のランディングエネルギ(LE)を用いるのが、高いコントラストを得るために大変有効である。
【0120】
再び図23(A)及び(B)に戻り、各発生電子領域における絶縁材料と導電材料とのコントラストについて説明する。なお、導電材料と絶縁材料は、導体又は絶縁体で形成された材料であれば、種々の材料を使用可能であるが、例えば、導電材料はW(タングステン)、絶縁材料はSiO(シリコン酸化膜)等が使用可能である。
【0121】
図23(A)に、各発生電子領域のランディングエネルギ(LE)の照射用の電子ビームにより取得された画像中の材料コントラストの一例を示す。図23(A)には、二次電子領域、遷移領域及びミラー電子領域における材料コントラストの例が示されている。まず、ミラー電子領域における材料コントラストに着目すると、導電材料と絶縁材料とで輝度に差が無く、材料コントラストは得られない。これは、ミラー電子領域では、試料表面より手前ですべての照射電子が反射されるので、導電材料と絶縁材料との間に輝度の差、すなわち電子数の差が生じないためである。
【0122】
また、遷移領域と二次電子領域の何れにおいても、導電材料と絶縁材料とで輝度差が生じているが、遷移領域の方が、導電材料と絶縁材料の輝度差が大きく、その結果、材料コントラストが高くなっている。これは、遷移領域では、二次電子のみならず、指向性の高いミラー電子も検出されるため、その分だけ信号量が増加して輝度が高まるためであると考えられる。
このように、二次電子とミラー電子が混在する遷移領域で試料表面の画像を取得すれば、導電材料と絶縁材料との間の材料コントラストを高めることができる。
【0123】
なお、遷移領域において、撮像前に、予め試料表面に電子ビームの照射を行うと、導電材料の電位は接地電位のままである反面、絶縁材料は帯電してマイナス数eV程度電位が変化する。その結果、導電材料の構造情報を得た電子と絶縁材料の構造情報を得た電子とでは、そのエネルギ(速度)が異なることとなる。
【0124】
そして、このような速度の異なる電子がE×B340(図1)を通過する際には、下記の理由により、それぞれの速度に応じて軌道のずれ(軌道シフト)が生じる。
E×B340は、電場Eと磁場Bの発生手段であり、E×B340を通過する電子は、電場によるFE=e・Eの力と、磁場によるFB=e・(v×B)の力を受ける。ここで、eは電子の電荷1.602×10−19Cであり、EおよびBはそれぞれ、電場〔V/m〕および磁場〔Wb/m〕である。
【0125】
これらの力のうち、電場によるFE=e・Eの力は電子の速度v〔m/s〕に依存しないのに対し、磁場によるFB=e・(v×B)の力は電子の速度v〔m/s〕に依存する。
【0126】
通常は、導電性基板すなわち試料から出射された電子がE×B340を直進する条件(ウィーン条件)が設定されているが、上述した理由により電子の速度v〔m/s〕が変化すると、磁場の作用により受ける力が変化するため、E×B340を通過した電子の軌道がシフトする。
【0127】
すなわち、上述したとおり、E×B340は、電子ビームの照射により試料表面の構造情報を得た電子の軌道を、電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じて方向付けする手段である。そして、上述した電子軌道のシフトを利用して、導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子の何れか一方を、NAアパーチャ361を通過させて、選択的に検出器400に導くことが可能である。
なお、遷移領域は、二次電子とミラー電子が混在するエネルギ領域であるから、このエネルギ領域では、絶縁領域からの二次電子とミラー電子の電子軌道は何れも、シフトを生じる。
【0128】
図26(A)及び(B)は、試料200の表面の構造情報を得た電子の軌道の一例を示した模式図で、図26(A)は電子軌道の側面図であり、図26(B)は可動NAアパーチャの下側から見た電子軌道の部分拡大図である。
【0129】
図26(A)において、試料200には、試料用電源128により、負電位が印加されている。試料200は、導電材料202の上を絶縁材料203が覆っており、絶縁材料203の切れ目であるホール204から、導電材料202が露出している。例えば、レチクルのコンタクト構造は、図26(A)に示す試料200のように、ホール204の底面が導電材料202で構成された形状となっている場合が多い。なお、簡略化のため、電子線検査装置の構成要素としては、E×B340と、NA調整用アパーチャ板360と、検出器400のみが示されている。
【0130】
図26(A)において、電子ビームEBが右上方から射出され、E×B340により電子ビームが偏向されて試料200に垂直に入射している。そして、試料表面の構造情報を得た電子のうち、導電領域202の構造情報を得た電子ecは直進してNA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361を通過する。一方、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiは、E×B340の作用により軌道がシフトし、NAアパーチャ361の周辺のNA調整用アパーチャ板360の部材に衝突して、NAアパーチャ361を通過しない。その結果、導電領域202の構造情報を得た電子ecは検出器400に到達する一方、絶縁領域201の構造情報を得た電子eiは検出器400には到達しない。
【0131】
レチクルのコンタクト構造においては、試料200の表面の大部分を絶縁材料203が占め、一部(ホール204の底面)に導電材料202を含む構造が多い。このような構造において、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecのみを検出器400に導き、絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiを検出器400に到達させないことにより、極めて高いコントラストの画像を取得することができる。
これとは逆に、絶縁材料203の表面構造情報を得た電子eiのみを検出器400に導き、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecを検出器400に到達させないことによっても、極めて高いコントラストの画像を取得することができる。
【0132】
このようなコントラストの反転の手法は、特に、試料表面上の導電材料と絶縁材料の面積が同等程度のパターン中に存在する欠落欠陥(ショート欠陥)および開放欠陥(オープン欠陥)の検出に有効である。導電材料と絶縁材料の何れか一方の材料の面積が他方の材料の面積に比較して顕著に狭いパターンでは、広い面積の材料領域中に顕著に狭い面積の材料領域が点在する状態となる。広い面積の材料領域からの電子は検知器に至るまでの光路中で僅かに拡散するから、この拡散作用により、狭い面積の材料領域からの電子により得られる像は本来の像よりも小さなものとなり、欠陥検出がし難くなってしまう。例えば、シリコン基板上に設けられた広い絶縁領域中に、顕著に狭い面積のコンタクトプラグ形状の導電領域が点在して形成されている構造(コンタクトプラグ構造)では、導電領域からの電子により形成される画像は、絶縁領域からの電子の拡散(廻り込み)により、本来の面積よりも狭い画像として得られてしまう。
【0133】
なお、ここで、電子ec、eiには、ミラー電子及び二次電子の双方が含まれるものとする。また、このような材料の種類に応じた発生電子の分離検出は、レチクルのみならず、半導体ウェハ等のライン/スペースパターンにおいても同様に適用することができる。
【0134】
図26(B)は、NA調整用アパーチャ板360の下側から見た、NAアパーチャ361と、導電材料202の表面構造情報を得た電子ec及び絶縁材料203の表面構造情報を得た電子eiの関係を説明するための拡大図である。
図26(B)に示した例では、長方形状のNA調整用アパーチャ板360の一部に形成された孔部であるNAアパーチャ361は、導電領域202の構造情報を得た電子ecがNAアパーチャ361を通過させる一方、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの大部分をNA調整用アパーチャ板360により遮って、NAアパーチャ361を通過できない位置に調整されている。
【0135】
ミラー電子についてみると、導電材料202と絶縁材料203の電子軌道は、NA調整用アパーチャ360の位置がクロスオーバー点となり、最小スポットの100μmとなる。よって、E×B340による軌道シフトを利用し、NA調整用アパーチャ板360によって、光学的な分解能を失わずに導電材料202の構造情報を得た電子ecを選択的に分離することが容易である。
【0136】
上述した帯電による、導電材料と絶縁材料との間の電位差が大きいほど、NA調整用アパーチャ板360の位置における位置移動も大きい。従って、当該帯電電位差を大きくすれば、大きな孔径のNAアパーチャ361を用いても、導電領域202の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの分離が可能となる。そして、大きな孔径のNAアパーチャ361を用いることにより、検出電子数を増加させて画像を形成することが可能となる。
【0137】
なお、撮像用の電子ビームを照射する前に、試料200の絶縁領域203に帯電電子ビームを照射する場合には、図1に示した電子ビーム源310、又は設置されている場合には帯電電子ビーム照射手段700を用いて、検出器400による撮像を行わない状態で、帯電電子ビームを試料200の表面に照射すればよい。この場合、絶縁領域203にのみ帯電電子ビームを照射するようにしてもよいが、導電領域202は、帯電電子ビームを照射しても、表面電位はゼロ電位となるので、特に区別せず、所定の照射エネルギの帯電電子ビームを、試料200の撮像領域に照射してもよい。
【0138】
図27(A)及び(B)は、高い材料コントラストを得るためのNAアパーチャ361の最適位置を、ミラー電子の場合と二次電子の場合のそれぞれについて説明するための図である。図27(A)は、ミラー電子の場合のNA調整用アパーチャ板360の最適NAアパーチャ361位置を示した図であり、図27(B)は、二次電子の場合の最適NAアパーチャ位置を示した図である。また、図27(A)及び(B)において、黒で示された円が、導電領域202の構造情報を得た電子ecを示し、灰色で示された円が、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを示している。これらの図に示したように、ミラー電子と二次電子のそれぞれの軌道の広がりの相違により、NA調整用アパーチャ板360の位置におけるNAアパーチャ361の最適位置は異なる。
【0139】
図27(B)において、NA調整用アパーチャ板360の位置において、導電領域202の構造情報を得た二次電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た二次電子eiの電子軌道シフト量の差は約100μmであるが、これらの電子分布の大部分は重なっている。これは、上述したように、二次電子はコサイン則に従って種々の方向に進行するために指向性が高くないためである。よって、二次電子による材料コントラストを高めるためには、NA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせるのが、最適であると考えられる。このような位置にNAアパーチャ361の中心を合わせると、試料200の導電領域202から放出された電子ecの最も電子密度の高い部分を中心として電子ecを検出することができる。
【0140】
しかしながら、図27(B)に示すように、絶縁領域203から放出された電子eiの電子軌道も、ほぼ導電領域202から放出された電子ecの軌道と重なっているため、両者を分離して検出することはできない。よって、二次電子の放出領域においては、材料コントラストは、導電領域202から放出された二次電子ecと絶縁領域203から放出された二次電子ei自体の信号の相違に基づいて、両者を区別することになる。
【0141】
これに対して、図27(A)においては、導電領域202の構造情報を得たミラー電子ecと絶縁領域203の構造情報を得たミラー電子eiでは、電子軌道シフト量の差が顕著に表れる。図27(A)に示した例では、NA調整用アパーチャ板360の位置において、導電領域202の構造情報を得たミラー電子ecと絶縁領域203の構造情報を得たミラー電子eiの電子軌道シフト量の差は約100μmであるが、これらの電子分布の大部分は重ならず、実質的に分離されている。これは、上述したように、ミラー電子は進行方向が一定で良好な指向性を有するためである。
【0142】
このような場合、例えば、導電領域202の構造情報を得た電子ecがNAアパーチャ361を総て通過する一方、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiが殆どNAアパーチャ361を通過できないような配置とすることが容易である。そして、そのようなNAアパーチャ361の位置調整を行えば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離し、導電領域の構造情報を得た電子ecのみを多く検出器400に導くことができる。その結果、導電領域202と絶縁領域203の材料コントラストを高くすることができる。つまり、遷移領域において発生するミラー電子を利用すれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することが可能であり、その結果、高い材料コントラストの画像の取得が容易になる。
【0143】
通常、このような分離を行うためには、複数の磁界と電界から構成される色収差補正器(モノクロメータ)が必要であるが、本発明に係る電子線検査装置及び試料観察方法によれば、色収差補正器を設置しなくても、NA調整用アパーチャ板360に設けるNAアパーチャ361の位置調整のみにより、高い材料コントラストの画像を取得することができる。
【0144】
なお、図26及び図27においては、導電領域202の構造情報を得た電子ecを選択的に検出器400に導き、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを検出器400に導かない例を説明している。しかし、E×B340の設定とNA調整用アパーチャ板360の配置及びアパーチャ361の径の調整により、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを選択的に検出器400に導き、導電領域202の構造情報を得た電子ecを検出器400に導かない態様とすることが可能である。
【0145】
導電領域202の構造情報を取得した電子ecと、絶縁領域203の構造情報を取得した電子eiのうち、いずれの電子を選択的に検出器400に導いて検出するかは、用途に応じて適宜自由に設定すればよい。
【0146】
上述したとおり、本発明に係る電子線検査装置は、絶縁領域と導電領域を有する試料表面に撮像用の電子ビームを照射する電子ビーム源と、該電子ビームの照射により試料表面の構造情報を得た電子が、撮像用の電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じて、電界と磁界により前記電子を方向付けする電磁場発生手段(E×B)と、該電磁場発生手段(E×B)により方向付けされた電子を検出し、該検出された電子から試料表面の画像を取得する検出器と、撮像用の電子ビームの照射エネルギを、電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に設定する照射エネルギ設定手段と、開口数(NA)を定めるNAアパーチャの位置を面内で調整可能とするNAアパーチャ移動機構と、試料表面に電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させるための帯電電子ビーム照射手段とを備えている。そして、NAアパーチャ移動機構によるNAアパーチャの位置調整により、上記E×Bの作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に検出器に導くことができる。
【0147】
また、画像処理装置500に、導電領域の構造情報を得た電子により得られた画像により欠落欠陥(ショート欠陥)の存否を判定し、絶縁領域の構造情報を得た電子により得られた画像により開放欠陥(オープン欠陥)の存否を判定する演算機能(演算部)を設けることにより、電子線検査装置をショート欠陥及びオープン欠陥の検出装置として用いることができる。
【0148】
さらに、本発明の試料観察方法は、上記構成の電子線検査装置を用いて実行可能であり、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下での画像取得と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下での画像取得を行うことにより、絶縁領域と導電領域が形成されている試料表面の観察を高コントラストで行い、且つ、欠落欠陥や開放欠陥の検出と欠陥種類の分類を容易に行うことができる。以下に、本発明の試料観察方法について説明する。
【0149】
本発明の試料観察方法では、絶縁領域と導電領域を有する試料表面に、試料表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に調整されるように撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を調整し、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下での画像取得と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下での画像取得を行う。つまり、本発明の試料観察方法では、導電領域と絶縁領域とでコントラストが反転する関係にある条件下において、画像取得が行われる。
【0150】
上述したとおり、遷移領域において発生するミラー電子を利用すれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することが可能であり、その結果、高いコントラストの画像の取得が容易になる。本発明の試料観察方法はこの原理を利用するものであるので、該方法の特徴の理解を容易にするために、予め、導電領域と絶縁領域のコントラストの形成に関しての基本的な検討結果について説明をしておく。
【0151】
図28(A)は、図26(A)に関連して説明した試料200の構造であって、試料200が複数のコンタクトプラグを有する場合の断面構造を示した図であり、図28(B)は、該コンタクトプラグ構造を有する試料200の表面の取得画像の一例を示した図である。
【0152】
図28(A)において、半導体基板であるシリコン基板205の上に、絶縁領域203及び導電領域202が形成されている。絶縁領域203は、SiOで形成されている。また、導電領域202は、タングステン(W)の材料で、コンタクトプラグ形状で構成されている。試料の表面には、絶縁領域203をベースとした中に、複数の導電領域202が点又は円として形成されている。
【0153】
図28(B)は、試料観察により取得された試料表面201の画像の一例を示した図である。この画像は、導電領域202から発生する電子を選択的に検出するようにNA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361の位置の調整を行い、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得されたものである。その結果、絶縁領域203が黒く画像のベースを占め、その中から白い円形の導電領域202が浮かび上がるような高いコントラストの画像となっている。
【0154】
このように、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより、コントラストを高めることができる。その結果、絶縁領域203を導電領域202の区別が容易な画像を取得することができ、欠陥等の観察や検査も容易に行うことが可能となる。
【0155】
これとは逆に、絶縁領域203から発生する電子を選択的に検出するようにNA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361の位置の調整を行えば、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像が取得されることとなるから、図28(B)とは逆に、絶縁領域203が高輝度で白くなり、導電領域202が低輝度で白くなる画像が取得される。
【0156】
次に、高コントラストの画像を取得するための条件設定例について説明する。
図29(A)及び(B)は、高コントラストの画像を取得するためのランディングエネルギ(LE)条件を検討した結果を例示により説明するための図である。この例では、電子ビーム源310の電子源311のカソードの電圧を−3995〜−4005eVとして、試料200の表面電圧を−4000eVに設定した。また、遷移領域は、ランディングエネルギ(LE)を−1eVとして最適化を行った。電子ビームの照射電流密度は、0.1mA/cm〕とし、検出器400の画素サイズは、50nm/pixとした。NA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361のアパーチャ径はφ150μmとし、帯電電子ビームによるプレドーズ量は1mC/cmとした。
【0157】
図29(A)は、上述の条件下で、電子ビームのランディングエネルギ(LE)を変化させ、図28(A)に示した断面構造を有するコンタクトプラグを観察した際のコントラストを測定した結果を纏めた表であり、図29(B)は、図29(A)の測定結果をグラフ化した図である。
【0158】
図29(B)のグラフにおいて、横軸がランディングエネルギ(LE)、縦軸が取得された画像の平均階調を示している。絶縁領域の特性曲線は、略正方形の点を結んだ曲線として示され、導電領域の特性曲線は、菱形の点を結んだ曲線として示されている。また、絶縁領域と導電領域の平均階調から、コントラストを算出した結果が、三角の点を結んだ曲線として示されている。なお、コントラストは、下記の式(1)を用いて算出した。
コントラスト
=|導電材料の平均階調−絶縁材料の平均階調|
/(導電材料の平均階調+絶縁材料の平均階調) (1)
【0159】
図29(A)及び(B)において、ランディングエネルギ(LE)=−1eVのときに、コントラストが0.8で最高となっている。ランディングエネルギ(LE)=−1eVは、既に図23(A)及び(B)に関連して説明したように、試料200からの電子がミラー電子と二次電子が混在している遷移領域にある。また、図23(A)及び(B)に示したように、−5eVはミラー電子領域のランディングエネルギ(LE)であり、5eVは二次電子領域のランディングエネルギ(LE)であって、何れにおいてもコントラストは低い。
最高のコントラストは、ランディングエネルギ(LE)が遷移領域にある場合に得られることが分かる。
【0160】
図30(A)及び(B)は、図28(A)に示した試料200を用いて実機テストにより得られた、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの相関関係を説明するための図である。図30(A)は、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表であり、図30(B)は、図30(A)の測定結果をグラフ化した図である。なお、電子線検査装置の種々の設定条件と、測定対象の試料は、上述のとおりであるので、その説明を省略する。また、コントラストは、帯電電子ビームを試料表面に照射した後に該試料表面の撮像を行って得られた画像中の絶縁領域と導電領域の平均階調から、上式(1)により演算した。
【0161】
図30(A)及び(B)に示すように、帯電電子ビームのドーズ量が高くなるにつれてコントラストは高くなるが、あるドーズ量でコントラストは飽和する。図30(A)及び(B)に示した例では、撮像前の試料表面に予め1mC/cm以上の帯電電子ビームを照射しても、コントラストは0.8のままである。つまり、帯電電子ビームのドーズ量が1mC/cm以上のときに、コントラストは飽和している。これは、帯電電子ビームのドーズ量が1mC/cm以上のときに、試料表面の絶縁領域203の帯電が飽和して負電位となり、安定したコントラストが得られることを意味している。
【0162】
図31(A)及び(B)は、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより高いコントラストが得られることを、補充的に説明するための図であり、図28(A)に示した試料200(ただし、導電材料としてWの代わりにCuを用いた)を用いて実機テストにより得られた値を示す図である。図31(A)は、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離しない場合の、導電領域(Cu)と絶縁領域(SiO)のそれぞれの材料における二次電子放出効率およびコントラストの、ランディングエネルギ(LE)依存性を纏めた表である。また、図31(B)は、この表をグラフとして示した図である。
【0163】
導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離しない場合には、得られるコントラストは、各材料がもつ二次電子の放出効率に応じた輝度の差のみに依存する。つまり、NAアパーチャ361の位置調整により、何れかの領域からの構造情報を得た電子のみを強調した画像を取得することにより得られるコントラストは生じ得ない。
【0164】
図31(A)、(B)に示した結果によれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶
縁領域の構造情報を得た電子eiを分離しない場合、得られるコントラストは高々0.4程度であり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離することにより得られるコントラスト(例えば、上述の0.8)に比較して、顕著に低いものでしかない。
【0165】
つまり、本発明のように、遷移領域において発生するミラー電子を利用し、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離することにより、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得したり、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離を行わずに試料観察して得られる画像に比較して、顕著に高いコントラストを得ることが可能となる。
【0166】
図32(A)は、図28(A)に示した試料200の表面の導電領域202と絶縁領域203の面積比(パターン幅)を変化させたときのコントラストを、写像投影型の低加速電子ビーム装置を用いたLEEM(Low-energy Electron Microscopy:低エネルギ電子顕微鏡)方式とSEM方式とを用いて実機テストにより得られた測定結果を比較して示した図である。図32(B)は、図32(A)の測定結果をグラフ化した図である。なお、ここで示した測定結果は、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像に基づくものであり、上述の種々の設定条件下で得られたものであるので、その説明を省略する。
【0167】
LEEM方式の電子線検査装置及び試料観察方法は、図27(B)に示したように、主に導電領域202が高輝度で明るいため、導電領域202の面積比が低下すると、周囲からの干渉を受けにくいので、コントラストは高くなる。一方、SEM方式(例えば、ランディングエネルギ1000eV程度)は、材料の二次電子放出係数で絶縁材料203の方が明るく、その割合が増加すると、導電領域202の信号が二次電子の軌道の広がりにより消されてしまい、コントラストは極めて低くなる。
【0168】
図32(A)、(B)に示すように、導電領域202対絶縁領域203の面積比が小さいときには、まだコントラストの差が比較的小さく、導電領域:絶縁領域=1:2のときには、コントラストの差は0.3程度に抑えられている。しかしながら、絶縁領域203の試料表面における面積が増加するにつれて、LEEM方式のコントラストは増加するが、従来からのSEM方式のコントラストは低下している。導電領域:絶縁領域=1:10の場合においては、コントラスト差は0.75に達している。
【0169】
このように、LEEM方式の試料観察は、導電材料202の割合が低い試料200の観察には特に有効であり、すなわち、試料表面で絶縁材料203の割合が大きいコンタクト構造の場合の観察には、コントラストの高い画像を取得することができ、大きな利点を有する。また、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、試料表面で絶縁材料203の割合が低く、導電材料202の割合が高い試料200に対しても、効果的に観察を行うことができる。
【0170】
図33は、本発明に係る電子線検査装置の第2の実施形態を示す概略図である。該第2の実施形態は、図1に示した実施形態と基本的構成は共通する。つまり、図33に示した電子線検査装置は、写像投影型の電子線検査装置であり、電子ビーム源310と、一次系レンズ320と、コンデンサレンズ330と、E×B340と、トランスファーレンズ350と、NA調整用アパーチャ板360aと、プロジェクションレンズ370と、検出器400と、画像処理装置500と、ステージ100と、エネルギ設定供給部600とを備えている点で、図1に示した構成と共通する。図33に示した電子線検査装置において、図1に示した電子線検査装置と同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
図33に示していないが、第2の実施形態の電子線検査装置においても、必要に応じて、帯電電子ビーム照射手段700(図1)を備えていてもよいことも同様である。
【0171】
図33に示した電子線検査装置の図1に示した電子線検査装置と相違する構成は、NA調整用アパーチャ板360aが、可動式かつ複数選択式のNA調整用アパーチャ移動機構を備えている点である。つまり、NA調整用アパーチャ板360aにはアパーチャ径の異なる複数種類のNAアパーチャ361、362が設けられており、開口数(NA)を定めるこれらのNAアパーチャ361、362が、NAアパーチャ移動機構(不図示)により、面内で位置調整可能(切替可能)に構成されている。
【0172】
図33に示した電子線検査装置において、NA調整用アパーチャ板360aは、サイズの異なる複数のNAアパーチャ361、362を備え、水平方向に移動させることによりNAアパーチャ361とNAアパーチャ362との切り替えを行うことができる。これにより、所望の開口数(NA)を設定することができるので、試料200の種類や、試料表面の構造等の種々の条件に応じて、最適な開口数(NA)のNAアパーチャを選択し、材料コントラストの高い試料表面の画像を取得することが可能となる。
【0173】
上述したように、NA移動機構を有することにより、試料表面からの信号を効果的に選択して、高いコントラストを得ることができる。このとき、図2〜図14に対して説明した内容と構成を更に追加すると有効である。それは、本発明のような超微細なパターンや異物検査においては、装置自体が発生する異物やパーティクルをなくす、又は、極力少なくする必要がある。それは、本装置を用いた検査が、試料の洗浄後、露光前、等に用いられる場合が多く、そのときに、異物やパーティクルが付着するとその異物やパーティクルによる露光時の欠陥の増加または洗浄後のプロセスへの欠陥増加になるからである。そのため、図2〜図14で説明したような方法・装置により、極力異物やパーティクルが付着することを防ぐことにより、装置としての信頼性が保たれるのである。また、図2のように、SEMを同一チャンバに乗せた装置であると、発生した異物やパーティクルを検査後すぐに確認できるので、工程の効率化に有効であり、さらに、他の独立したレビュー装置に試料を入れることによる異物やパーティクル付着を防ぐ効果がある。
【0174】
図34(A)及び(B)は、上述した可動式のNA調整用アパーチャ板360aの構成例を示した図である。図34(A)は、該アパーチャ板をスライド移動式のNA調整用アパーチャ板360bとして構成した場合の一例を示した上面図であり、図34(B)は、アパーチャ板を回転移動式のNA調整用アパーチャ板360cとして構成した場合の一例を示した上面図である。
【0175】
図34(A)において、NA調整用アパーチャ板360bは、複数のNAアパーチャ361、362、363を備えており、これらのNAアパーチャの径は各々異なっている。また、NA調整用アパーチャ板360bは、長手方向の両側に、スライド式NA調整用アパーチャ移動機構365を備えている。このように、長方形の板状のNA調整用アパーチャ板360bに複数のNAアパーチャ361、362、363を形成し、スライド式NA調整用アパーチャ移動機構365により、水平方向への移動を可能に構成すれば、用途に応じてNA調整用アパーチャ板360bのアパーチャ径及びNAアパーチャ位置を調整することができ、試料200の種類や用途に対応して、最適な試料表面の画像を取得することが可能となる。
【0176】
スライド式NA調整用アパーチャ移動機構365は、例えば、NA調整用アパーチャ板360bを上下からレール状部材で挟み込む構造で、リニアモータ等の駆動機構を有していてもよいし、回転式のレール部材でNA調整用アパーチャ板360bを挟持し、回転式モータで回転レール部材を回転させて移動させてもよい。スライド式NA調整用アパーチャ移動機構365は、用途に応じて種々の形態とすることができる。
【0177】
図34(B)に示したNA調整用アパーチャ板360cは、円盤状の板に複数のNAアパーチャ361〜364を有し、中心に回転式NA調整用アパーチャ移動機構366を備える。NAアパーチャ361〜364の径は、各々異なり、NAアパーチャ361が最も大きく、NAアパーチャ362はNAアパーチャ361よりも径が小さく、さらに、NAアパーチャ363はNAアパーチャ362よりも径が小さく、NAアパーチャ364が最も径が小さくなっている。
【0178】
回転式NA調整用アパーチャ移動機構366は、回転式のモータ等を駆動機構として用い、回転移動により、NA調整用アパーチャ板360cのアパーチャ径を切り替えるような構成としてもよい。
【0179】
図33、図34(A)及び(B)に例示した構成の電子線検査装置によれば、NA調整用アパーチャ360a〜60cを、複数のNAアパーチャ361〜364の間で選択可能、かつ位置の調整可能な構成とすることにより、用途や試料200の種類にも柔軟に対応でき、様々な条件下においても最適なコントラスト画像を取得することができる。なお、NAアパーチャの数は、図示のものに限定されずにより任意複数のアパーチャを備えてもよい。
【0180】
図35は、高分解能観察のために好ましい、図1及び図33に示した電子線検査装置の検出器400の構成の一例を示した図である。検出器400に、電子直接入射型のEB-CCD又はEB-TDIを使用した場合、従来採用されているMCP、FOP(Fiber Optical Plate)、蛍光板及びTDIに対比して、MCPとFOP透過による劣化が無いので、従来の3倍程度のコントラスト画像を取得することができる。特に、コンタクト構造のホール底面(図26(A)の202)からの光を検出する際、従来型の検出器では、スポット(ドット)がなだらかになってしまうが、図35の検出器400によれば、コントラストが広量となる。また、MCP使用によるゲイン劣化が無いため、有効画面上の輝度ムラが無く交換周期が長い。よって、検出器400のメインテナンスの費用及び時間を削減することができる。このように、EB-CCD及びEB-TDIは、高コントラストの画像の取得及び耐久性等の面で好ましい。
【0181】
図35を参照して、EB-CCD及びEB-TDIの使用態様の一例について、説明する。図35に例示した検出器400は、EB-TDI482と、EB-CCD481を切り替えて、用途に応じて双方を交換可能に使えるように構成されている。EB-CCD481及びEB-TDI482は、電子ビームを受け取る電子センサであり、検出面に直接に電子を入射させる。EB-CCD481は、電子ビームの光軸調整、画像撮像条件の調整と最適化を行うのに使用される。一方、EB-TDI482を使用する場合には、EB-CCD481を移動機構Mによって光軸から離れた位置に移動させてから、EB-CCD481を使用するときに求めた条件を使用して又はそれを参考にしてEB-TDI482による撮像を行って、試料表面の観察を行う。
【0182】
上記したように、このような構成の検出器400は、EB-CCD481を使用するときに求めた電子光学条件を用いて又はそれを参考にして、EB-TDI482による半導体ウェハの画像取得を行うことができる。EB-TDI482による試料表面の検査の後に、EB-CCD481を使用してレビュー撮像を行い、パターンの欠陥評価を行うことも可能である。このとき、EB-CCD481では、画像の積算が可能であり、それによるノイズの低減が可能で、高いS/Nで欠陥検出部位のレビュー撮像が可能となる。このとき、更に、EB-CCD481の画素がEB-TDI482の画素に比べてより小さいものを用いると有効である。つまり、写像投影光学系で拡大された信号のサイズに対して、多くのピクセル数で撮像することが可能となり、より高い分解能で検査や欠陥の種類等の分類・判定のための撮像が可能となる。
【0183】
なお、EB-TDI482は、電子を直接受け取って電子像を形成するために使用することができるよう、画素を二次元的に配列した例えば矩形形状をしており、画素サイズは、例えば12〜16μmである。一方、EB-CCD481の画素サイズは、例えば6〜8μmのものが使用される。
また、EB-TDI482は、パッケージ485の形に形成され、パッケージ485自体がフィードスルーの役目を果たし、パッケージのピン483は大気側にてカメラ484に接続される。
【0184】
図35に示した構成を採用することにより、FOP、ハーメチック用の光学ガラス、光学レンズ等による光変換損失、光伝達時の収差及び歪み、それによる画像分解能劣化、検出不良、高コスト、大型化等の欠点を解消することができる。
【0185】
上述したとおり、遷移領域において発生するミラー電子を利用し、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離することにより、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得したり、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離を行わずに試料観察して得られる画像に比較して、顕著に高いコントラストを得ることが可能となる。
【0186】
また、図33の説明で述べた方法及び装置を用いて、更に上述した図35の方法・装置を用いると大変有効である。EB-CCDまたはEB-TDIを用いる方式では、検出器起因の劣化要因が非常に小さく抑えられるので、コントラスト劣化が小さく、よって高いコントラストの像を得ることが可能となる。よって、NAの位置調整によるコントラストの高い像を得る条件形成のときや、検査のときに、高精度にてNA位置の違いによる像のコントラストの変化が明確に分かるために、高精度のNA位置調整が可能となるのである。さらに、高いコントラスト像が得られるためにパターン検査や異物検査の検査感度を高くできるのである。よって、図2に説明したSEMが同一チャンバにある装置では、検査結果に基づいて、欠陥のレビューを行う場合でも、より微小な欠陥のレビューを短時間に行うことが実現できるのである。また、装置の使用により、異物やパーティクルの付着を防ぐことは必要であり、図33で説明したのと同様に図3〜14の方法・装置を用いると大変有効となる。レビュー等のために他の装置に試料を導入して動作させることだけで、異物やパーティクルの付着量は増加するのである。同一チャンバにあれば、試料に対して、搬送回数の低減、ロードロックを通過する回数の低減、ステージ゛動作の低減が達成され、更に、同一ステージ゛上にあると、レビュー時の位置ずれが小さく(1/5〜1/20)、欠陥位置を探す時間やFOV(視野)を変化させる回数の低減ができるのである。
【0187】
しかし、本発明者らの検討によれば、観察対象となる試料の表面に絶縁領域と導電領域が形成されており、その試料表面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出する必要がある場合には、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得するか、或いはこれとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することのみでは、何れか一方の種類の欠陥の検出は容易になる反面、他方の種類の欠陥の検出がし難くなる場合が生じ得ることが分かってきた。
【0188】
具体的には、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、欠落欠陥の検出は容易になる反面、開放欠陥(オープン欠陥)の検出がし難くなる場合がある。これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、開放欠陥(オープン欠陥)の検出は容易になる反面、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出がし難くなる場合がある。
【0189】
本発明に係る試料観察方法は、このような知見に基づき、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とを行い、これらの画像に基づいて、試料表面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することとしている。
【0190】
つまり、本発明に係る試料観察方法では、絶縁領域と導電領域を有する試料表面に、該試料表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に調整された照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射し、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料表面の画像を、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)とで取得する。なお、これらの画像は、A条件に続いてB条件で取得されてもよく、B条件に続いてA条件で取得されてもよい。
【0191】
図36(A)〜(C)は、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)下で取得した画像と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で取得した画像のそれぞれにおける、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。ここで、欠落欠陥(ショート欠陥)は、WやCuなどの導電材料でライン状に形成された領域(導電領域)の一部に短絡(ショート)がある状態であり、開放欠陥(オープン欠陥)は、導電材料でライン状に形成された領域(導電領域)の一部が断線(オープン)している状態である。
【0192】
具体的には、これらA条件およびB条件はそれぞれ、NAアパーチャ板361(図1)の位置調整により、導電領域の構造情報を得た電子ecのみを多く検出器400に導くことおよび絶縁領域の構造情報を得た電子eiのみを多く検出器400に導くことにより実現される。
【0193】
図36(A)はWやCuなどの導電材料の領域(導電領域)202とSiOなどの絶縁材料の領域(絶縁領域)203とを有する試料200の表面を模式的に表した図である。図36(A)の(a)は、ライン状に形成された導電材料の一部領域に欠落欠陥(ショート欠陥)204がある状態を示しており、(b)はライン状に形成された導電材料の一部領域に開放欠陥(オープン欠陥)205がある状態を示している。
【0194】
また、図36(B)は、上記した試料表面に、該試料表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に調整された照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射し、該電子ビームの照射を受けた試料表面の画像を、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像を模式的に表した図である。図36(B)の(a)及び(b)はそれぞれ、図36(A)の(a)及び(b)に対応している。
【0195】
図36(C)は、上記と逆の撮像条件とし、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)として、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図である。図36(C)の(a)及び(b)はそれぞれ、図36(A)の(a)及び(b)に対応している。
【0196】
図36(B)を参照すると、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像では、導電領域の輝度が相対的に高いことに起因して、欠落欠陥(ショート欠陥)は強調されて実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図36(B)の(a))。これとは逆に、絶縁領域の輝度が相対的に低いことに起因して、開放欠陥(オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図36(B)の(b))。
【0197】
一方、図36(C)を参照すると、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で取得した画像では、絶縁領域の輝度が相対的に高いことに起因して、欠落欠陥(ショート欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図36(C)の(a))。
これとは逆に、導電領域の輝度が相対的に低いことに起因して、開放欠陥(オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図36(B)の(b))。
同様の現象は、欠陥が不完全な場合であっても生じる。
【0198】
図37(A)の(a)はライン状に形成された絶縁材料の一部領域に不完全な欠落欠陥(ショート欠陥)206がある状態を示しており、図37(A)の(b)はライン状に形成された絶縁材料の一部領域に不完全な開放欠陥(オープン欠陥)207がある状態を示して
いる。
【0199】
図37(B)は、上述した撮像電子ビームの照射条件下で、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像を模式的に表した図で、図37(B)の(a)及び(b)はそれぞれ、図37(A)の(a)及び(b)に対応している。
【0200】
図37(C)は、上記と逆の撮像条件とし、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)として、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図で、図37(C)の(a)及び(b)はそれぞれ、図37(A)の(a)及び(b)に対応している。
【0201】
図37(B)を参照すると、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像では、導電領域の輝度が相対的に高いことに起因して、不完全欠落欠陥(不完全ショート欠陥)は強調されて実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図37(B)の(a))。これとは逆に、絶縁領域の輝度が相対的に低いことに起因して、不完全開放欠陥(不完全オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図37(B)の(b))。
【0202】
一方、図37(C)を参照すると、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で取得した画像では、絶縁領域の輝度が相対的に高いことに起因して、不完全欠落欠陥(不完全ショート欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図37(C)の(a))。これとは逆に、導電領域の輝度が相対的に低いことに起因して、不完全開放欠陥(不完全オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図37(B)の(b))。
【0203】
このような現象が起こる理由は、下記のような理由によるものと考えられる。すなわち、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で画像を取得する場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)や開放欠陥(オープン欠陥)の近傍の導電材料から放出された電子が拡散し、その作用により、欠落欠陥(ショート欠陥)部分はより広く、開放欠陥(オープン欠陥)部分はより狭く、撮像される。これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で画像を取得する場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)や開放欠陥(オープン欠陥)から放出された電子が拡散し、その作用により、欠落欠陥(ショート欠陥)部分はより狭く、開放欠陥(オープン欠陥)部分はより広く、撮像される。
【0204】
このように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とを行うこととすれば、これらのコントラストが反転した画像に基づいて、試料表面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することが可能となる。
以下に、具体例に基づいて説明する。
【0205】
本実施例で用いた試料は、図36(A)〜(C)及び図37(A)〜(C)に示したものと同様のライン・アンド・スペース(L&S)が形成されたパターンを有するものであり、その表面には、導電材料であるCuの領域(導電領域)202と絶縁材料であるSiOの領域(絶縁領域)203が形成され、ライン幅およびスペース幅は何れも43nmである。
【0206】
図38(A)及び(B)は、この試料の表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図38(A)は、照射エネルギ(LE)、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図38(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸には照射エネルギ(LE)を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像は、NA調整用アパーチャ板360(図1)のNAアパーチャ361の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。なお、階調を示す[DN]は「Digital Number」を表し、黒と白階調を8bitで表したもので、DN=0は黒を、DN=255は白を意味する画素情報である。
この例では、照射エネルギ(LE)が3.2eVのときに最も高いコントラスト(0.41)が得られている。
【0207】
図39(A)及び(B)は、この試料の表面に照射する帯電電子ビームのドーズ量の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図39(A)は、ビームドーズ量[mC/cm]、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図39(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはビームドーズ量[mC/cm]を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像もまた、NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ板361の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。ビームドーズ量は、ビーム電流密度と照射時間の積で定義される。
【0208】
この例では、ドーズ量に伴ってコントラストは高くなるが、概ね2mC/cmのドーズ量でコントラストは飽和している。つまり、高いコントラストで撮像するために照
射すべき帯電電子ビームのドーズ量は、概ね2mC/cm程度で十分であることが分かる。
【0209】
本発明では、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiとの分離を行うことにより高いコントラストを得て、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の双方を高感度・高精度で検出することとしている。このような導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiとの分離はNAアパーチャの位置調整により行うことが可能であることから、本発明では、NA結像モードにより試料表面の導電領域および絶縁領域からの電子の分布を直接観察することにより、NAアパーチャの位置調整を高い精度で行うことを可能としている。以下に、具体的な手順の例を説明する。
【0210】
NA調整用アパーチャ板360と検出器400との間に設けられているプロジェクションレンズ370を所定の電圧である5500Vとし、NA結像モードにより、NA調整用アパーチャ板360の位置における導電領域202の表面構造情報を得た電子ec及び絶縁領域203の表面構造情報を得た電子eiのそれぞれの分布の位置関係を確認した。具体的には、帯電電子ビームのドーズ量を変化させ、当該ドーズ量の変化に伴って、絶縁領域203の表面構造情報を得た電子eiの分布状態(軌道の中心)が、導電領域202の表面構造情報を得た電子ecの分布状態(軌道の中心)からどれだけシフトするかを確認した。
【0211】
図40(A)及び(B)は、NA結像モードによる電子分布の位置確認の結果を説明するための図である。図40(A)は、ビームドーズ量[mC/cm]とドーズ量の帯電電子ビームを照射した際の、絶縁材料203の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のずれ、すなわち、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecの分布状態からどれだけシフトしたかを纏めた表である。また、図40(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはビームドーズ量[mC/cm]を、左縦軸には絶縁材料203の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のシフト量を示している。ここで、シフト方向をY方向とした。なお、左縦軸に示した電子eiの分布状態のシフト量は規格化した値として示している。このシフト量の規格化は、導電材料からの電子を通すNAアパーチャの位置を0とし、コントラストが反転する条件でのNAアパーチャの位置を1として行った。また、上述した帯電電子ビームのドーズ量の最適化実験の結果に基づき、帯電電子ビームの照射量の上限値を2mC/cmとした。さらに、参考のため、L&S幅が35nmの試料およびL&S幅が65nmの試料についても同様の実験を行った。
【0212】
図40(A)及び(B)に示した結果によれば、帯電電子ビームのドーズ量と絶縁領域203の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のずれ量はほぼ比例している。従って、帯電電子ビームのドーズ量の最適化実験の結果を考慮すると、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離して高いコントラストを得るためには、帯電電子ビームの照射量を2mC/cm程度とし、さらに、NA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361を所定の量だけY方向にずらすことで、導電領域202の構造情報を得た電子ecを選択的に検出器400に導く条件と絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを選択的に検出器400に導く条件での撮像を行えばよいことが分かる。
【0213】
また、図40に示した結果によれば、配線幅(L&S幅)が広い試料では、絶縁領域体積が大きい分だけ、基板電位の変化(ΔV)が大きくなり、そのため絶縁材料203の表面構造情報を得た電子eiの分布のシフト量も大きい。これとは逆に、配線幅(L&S幅)が細くなるに従って絶縁材料の体積が小さくなるため、基板電位の変化(ΔV)は小さくなり、そのため、高いコントラストを得ることが難しくなる。
【0214】
上述したとおり、帯電電子ビームの照射により導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離が容易になり、その結果、高いコントラストを得易くなる。これは、帯電電子ビームの照射により基板電位が変化(ΔV)し、これにより絶縁材料の表面構造情報を得た電子eiの分布がシフトすることによる。このことは、基板電位の変化量(ΔV)から、絶縁材料の表面構造情報を得た電子eiの分布がシフト量を推定することができることを意味する。
【0215】
図41(A)及び(B)は、帯電状態にある試料の表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図41(A)は、照射エネルギ(LE)、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図41(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸には照射エネルギ(LE)を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像も、NA調整用アパーチャ板360のNAアパーチャ361の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。
【0216】
図41(B)を図38(B)と比較すると、帯電状態にある試料の表面に撮像電子ビームが照射された場合(図41(B))には、非帯電状態にある試料の表面に撮像電子ビームが照射された場合(図38(B))に比較して、高いコントラスト(7.8)が得られ、これに対応する照射エネルギ(LE)は低エネルギ側にシフトしている。これは、既に説明したように、試料表面の絶縁領域が帯電状態にあるために基板電位が変化(約1V)し、その結果、絶縁領域203から放出された電子eiの軌道の中心が帯電領域202から放出された電子ecの軌道の中心と顕著にずれたために、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いが大きくなったためである。
【0217】
従って、予め、試料表面の帯電状態(基板電位)により最適照射エネルギ(LE)がどのように変化するかを知っておくことにより、絶縁領域203から放出された電子eiの軌道の中心のずれ量を推定することが可能である。つまり、基板電位から電子eiの軌道の中心位置のシフト量が推定できる。具体的には、帯電前後の照射エネルギ(LE)のシフト量から基板電位のシフト量を読み取る。上述したように、帯電状態が変化するとそれに伴って電子のエネルギ(速度)が変化することとなり、電磁場発生手段(E×B)を通過する際に受けるF=e・(v×B)の力も変化するから、E×B通過時の軌道シフト量を計算することができる。そして、このE×B通過時の軌道シフト量からNAアパーチャの位置におけるシフト量が計算できるから、電子eiの軌道の中心位置の実際のシフト量を検証することができる。
【0218】
図42(A)及び(B)は、NAアパーチャの位置調整によるコントラストの反転について説明するための図である。図42(A)は、NAアパーチャの中心位置を、導電領域から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置(規格化位置=0)からY方向に移動(規格化位置=1.0まで)させた際の、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図42(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはNAアパーチャの中心位置[規格化位置]を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、この際の撮像は、帯電電子ビームを試料表面に2mC/cm照射し、導電材料の輝度が最大となるNAアパーチャの中心位置を規格化位置=0として行った。ここで、「規格化位置」とは、上述したとおり、導電材料の電子を通すNAアパーチャの位置を0、コントラストの反転するNAアパーチャの位置を1とした場合の相対的な座標を示す。
【0219】
図42(A)及び(B)に示すように、NAアパーチャの位置を規格化位置=0からY方向にずらしてゆくと、導電材料の輝度が低下する一方で絶縁材料の輝度は高くなり、その結果、コントラストは徐々に低くなる。そして、NAアパーチャの中心位置が規格化位置=0.6では導電材料の輝度と絶縁材料の輝度は等しくなり、コントラストが得られなくなる。さらにNAアパーチャの位置をY方向にずらしてゆくと、導電材料の輝度は更に低下する一方で絶縁材料の輝度は更に高くなり、その結果、コントラストは反転して徐々に高くなる。このように、NAアパーチャの位置を調整することにより、コントラストを反転させることができる。
【0220】
図43は、NAアパーチャの位置調整に伴うコントラスト反転の様子を概念的に説明するための図で、NAアパーチャの中心位置が導電領域から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置(規格化位置NP=0)にあるときには、主として電子ecが検出器に導かれる。NAアパーチャの中心位置をY方向にずらしてゆくと、NAアパーチャを通過できる電子ecの量は減少する一方でNAアパーチャを通過できる電子eiの量は増大し、規格化位置NP=0.6では、両者の電子量は一致して輝度に差が生じなくなり、コントラストが得られなくなる。さらにNAアパーチャの中心位置をY方向にずらしてゆくと、NAアパーチャを通過できる電子ecの量は更に減少する一方でNAアパーチャを通過できる電子eiの量は更に増大し、規格化位置NP=1.0では、両者の電子量は逆転してコントラストが反転する。
【0221】
図44は、本発明の試料観察方法における、電子軌道シフト量のドーズ量依存性を決定する手順、および、材料コントラストの反転を確認する手順を例示により説明するためのフローチャートである。なお、個々のステップにつき既に説明した部分については、その詳細は省略する。
【0222】
先ず、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を上述した遷移領域に調整し(S102)、絶縁領域と導電領域を有する観察対象試料の表面に撮像電子ビームを照射する(S103)。
NAアパーチャ移動機構によりNAアパーチャの位置を面内で調整して、導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心にNAアパーチャの中心位置を合わせる(S104)。そして、この状態で、絶縁領域と導電領域の輝度の差、すなわち材料コントラストが最大となるように、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を調整する(S105)。
【0223】
次に、試料表面に所定のドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させ(S106)、帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道の中心がNAアパーチャの位置でどの程度シフトしたかを確認する(S107)。以後、ステップS106とステップS107を繰り返し、帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道シフト量のドーズ量依存性を求める(S108)。
【0224】
帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道シフト量のドーズ量依存性が求められたら(S108:Yes)、そのデータに基づいて適正なドーズ量を決定する(S109)。
適正ドース量の決定後、再度、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の調整を行う。具体的には、上記手順で決定された適正ドーズ量の帯電電子ビームを試料表面に照射し、この状態で材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)を決定する(S110)。そして、この照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームが照射された試料表面の画像を取得して、材料コントラストを測定する(S111)。ステップS107に関連して説明したとおり、このときのNAアパーチャの中心位置は導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心にあるから、上記取得画像中の輝度は、導電領域が相対的に高く絶縁領域が相対的に低い。
【0225】
続いて、適正ドーズ量の帯電電子ビーム照射を行った際の電子eiの軌道シフト量だけNAアパーチャの中心位置を移動させ、NAアパーチャの中心位置を電子eiの軌道中心に一致させる。そして、この状態で再度、材料コントラストを測定する(S112)。
【0226】
既に説明したように、このようなNAアパーチャの中心位置調整を行えば、材料コントラストは反転し、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像が取得されているはずである。従って、この材料コントラストの反転が確認されれば(S113:Yes)、終了となる(S114)。もし、材料コントラストの反転が確認されない場合には(S113:No)、ここまでの手順に何らかの問題があるはずであるから、ステップS102に戻ってやり直す。
【0227】
上述の手順により、電子軌道シフト量のドーズ量依存性、および、材料コントラストの反転確認がなされ、本発明の試料観察に必要な条件設定が完了する。
図45は、本発明の試料観察方法の手順を例示により説明するためのフローチャートである。なお、個々のステップにつき既に説明した部分については、その詳細は省略する。
【0228】
本発明に係る好ましい態様の試料観察方法は、絶縁領域と導電領域を有する試料表面に材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射するステップS203と、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料表面からの構造情報を得た電子を検出して試料表面画像を取得するステップS205、S207を備えている。上述したように、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)は、試料表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に調整されており、試料表面画像の取得のステップは、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS205と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS207とを含む。
【0229】
上述したように、撮像電子ビーム照射ステップS203に先立ち、試料表面に適正ドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させておくこととすれば(S202)、基板電位が変化する結果、絶縁領域から放出された電子eiの軌道の中心と帯電領域から放出された電子ecの軌道の中心とのずれが大きくなり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いも大きくなる。上述の適正ドーズ量は、既に説明したようにステップS109で予め決定されており、電子ビーム照射による絶縁領域の帯電が飽和するドーズ量とすることが好ましい。
【0230】
ステップ203で撮像電子ビームを試料表面に照射した状態で、NAアパーチャの中心位置を導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S204)。この条件下で得られる画像は、導電領域の輝度が相対的に高く絶縁領域の輝度が相対的に低い画像となる(S205)。
【0231】
次いで、NAアパーチャの中心位置を絶縁領域の構造情報を得た電子eiの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S206)。この条件下で得られる画像は、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像となる(S207)。つまり、ステップS205で得られた画像とは、コントラストが反転した画像となっている。
なお、ステップS206におけるNAアパーチャの位置調整は、ステップS107で予め求められている電子eiの軌道シフト量に基づき、当該軌道シフト分だけNAアパーチャの位置を調整するようにしてもよい。
【0232】
図46は、本発明の試料観察方法の手順の他の例を説明するためのフローチャートである。図45で示した手順とは、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS305に続いて、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS307が実行される点において相違している。
【0233】
つまり、この態様の試料観察方法は、絶縁領域と導電領域を有する試料表面に材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射するステップS303と、該撮像電子ビームの照射を受けた試料表面からの構造情報を得た電子を検出して試料表面画像を取得するステップS305、S307を備えている。そして、試料表面の画像の取得のステップは、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS305と、導電領域の輝度が導絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップS307とを含んでいる。
【0234】
図45の手順と同様に、撮像電子ビーム照射ステップS303に先立ち、試料表面に適正ドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させておくこととすれば(S302)、基板電位が変化する結果、絶縁領域から放出された電子eiの軌道の中心と帯電領域から放出された電子ecの軌道の中心とのずれが大きくなり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いも大きくなる。
【0235】
ステップ303で撮像電子ビームを試料表面に照射した状態で、NAアパーチャの中心位置を絶縁領域の構造情報を得た電子eiの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S304)。この条件下で得られる画像は、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像となる(S305)。
【0236】
次いで、NAアパーチャの中心位置を導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S306)。この条件下で得られる画像は、導電領域の輝度が相対的に高く絶縁領域の輝度が相対的に低い画像となる(S307)。つまり、ステップS305で得られた画像とは、コントラストが反転した画像となっている。
【0237】
なお、ステップS306におけるNAアパーチャの位置調整は、ステップS107で予め求められている電子eiの軌道シフト量に基づき、当該軌道シフト分だけ、シフト方向とは反対の方向に、NAアパーチャの位置を調整するようにしてもよい。
【0238】
上述したように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出は容易になる反面、開放欠陥(オープン欠陥)の検出がし難くなる場合がある。また、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、開放欠陥(オープン欠陥)の検出は容易になる反面、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出がし難くなる場合がある。従って、絶縁領域と導電領域が形成されている試料表面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出するためには、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得するか、或いはこれとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することのみでは、不十分である。
【0239】
本発明に係る試料観察方法によれば、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とが行われるため、これらの画像に基づいて、試料表面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することが可能となる。
【0240】
つまり、上述の本発明に係る試料観察方法により得られた試料表面の画像を用いれば、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像により欠落欠陥(ショート欠陥)の存否を高感度・高精度で検出し、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得した画像により開放欠陥(オープン欠陥)の存否を高感度・高精度で検出することができるため、高感度・高精度の試料検査方法としての利用も可能である。
【0241】
以下に、上述の手法により試料表面の欠陥検査を実施した例について説明する。
観察対象として、図36(A)〜(C)及び図37(A)〜(C)に示したものと同様に、導電材料であるCuの領域(導電領域)と絶縁材料であるSiOの領域(絶縁領域)のライン・アンド・スペース(L&S)パターンを有する試料を準備した。なお、ライン幅およびスペース幅は何れも43nmとした。このL&Sパターンの導電領域の一部に、種々のサイズの欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)を形成し、これらの欠陥を検出することとした。
【0242】
試料観察に際しては、電子源ビームの加速電圧を−4005V、試料200の表面電位を−4002.6Vとした。従って、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)は、試料表面の構造情報を得た電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域にある2.4eVとなる。また、NAアパーチャ61の孔径は100〜300μmとし、撮像に先立つ帯電電子ビームの照射により絶縁領域を帯電させ(帯電量2mC/cm)、撮像電子ビームの電流密度を1mA/cmとして撮像を行った。なお、欠陥検査時の検査ピクセルサイズは、電子光学系レンズの倍率設定により29nm角とした。また、検査速度は50MPPS(Mega Pixels Per Second)とした。
【0243】
図47(A)〜(C)は、上記の条件で欠陥検査を行った結果を説明するための図である。図47(A)は導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表、図47(B)は絶縁領域の輝度が絶導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表、そして、図47(C)は上記2つの欠陥検出結果を総合して欠陥検出の可否を纏めた表である。なお、これらの表中、欠陥検出されたものは「丸」とし、欠陥検出できなかったものは「×」とし、両方の検査で欠陥検出されたものは「二重丸」とした。
【0244】
これらの結果から分かるように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば欠落欠陥(ショート欠陥)の検出が高精度で行える一方、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば開放欠陥(オープン欠陥)の検出が高精度で行える。このことは、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば開放欠陥(オープン欠陥)を見落とすことがあり、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば欠落欠陥(ショート欠陥)を見落とすことがあり得ることを意味している。
【0245】
これに対して、本発明のように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得した画像とにより、欠陥の存否を判断することとすれば、少なくとも25nmよりも大きなサイズの欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の双方を、高感度・高精度で検出することができる。
【0246】
これまで説明してきた本発明の電子線検査装置及び試料観察方法は、例えば、半導体製造プロセスにおいて、半導体ウェハを加工した後の当該半導体ウェハの表面の観察や検査に用いることができる。本発明に係る電子線検査装置及び試料観察方法を用いて、試料表面に絶縁領域と導電領域を有する半導体ウェハを観察し、高コントラストの画像を取得して半導体ウェハの良否を検査することにより、欠陥の無い半導体ウェハの製造のための有力な手段となる。このように、本発明に係る電子線検査装置及び試料観察方法は、半導体製造方法に好適に適用することができる。
【0247】
ところで、走査型や写像投影型の電子顕微鏡すなわち電子線検査装置を用いて、試料表面の配線検査や欠陥検査を行う場合、大気搬送中の大気との摩擦及び真空中の電子線の照射によって、試料表面がチャージアップ(帯電)してしまう。試料表面にチャージアップが発生することにより、試料表面に照射する電子線が試料内のチャージアップされた二次電子の影響を受けて検出されるため試料の像がぼけるという問題が生じていた。
【0248】
上述した試料にチャージアップが発生することにより試料の像がぼける問題に対応するものとして、例えば、国際公開第1999−046798号公報(特許文献5)の試料の欠陥検査方法が提案されている。この試料の欠陥検査方法では、フォーカスする距離の違いを試料上のチャージアップ量に換算している。また、特開2002−033068号公報(特許文献6)に開示された試料の欠陥検査では、走査形電子顕微鏡を用いており、試料のチャージアップを抑制するため、リターディング電圧を試料に印加している。
【0249】
チャージアップした試料の除電方法では、概ね大気若しくはある種の気体中において、イオン等に電離した気体を利用していた。しかし、この除電方法では、除電した後も大気搬送中に大気との摩擦によって試料が再びチャージアップする可能性がある。また、真空中の電子線照射による試料のチャージアップを除電する場合にも一度大気側まで戻さなければならず、効率が良くなかった。
しかしながら、特許文献5に開示された方法では、チャージアップした試料のフォーカスする距離の違いを示すマップ(電圧マップ)を作成し、そのマップに基づいてチャージアップした試料のフォーカスを変化させているにすぎず、試料表面のチャージアップを除電するものではなかった。また、特許文献6に開示されたでは、電子線照射による試料のチャージアップを抑制するため、リターディング電圧RTDを印加しているにすぎず、再び試料表面がチャージアップする可能性があり、自然帯電による試料表面のチャージアップは除電されていなかった。
【0250】
以下に、本発明に係る、電子線による帯電のみならず大気などによる自然帯電による試料表面のチャージアップを効率よく除電する試料表面の検査方法について説明する。
まず、本発明の実施の形態に係る試料表面の電位分布の設定原理について、詳細に説明する。
【0251】
図48は、本発明の実施の形態に係る試料表面の検査における加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDとランディングエネルギLEと試料表面電位ΔVとの関係を示す概念図である。図48は、図1又は図33に示した電子線検査装置のステージ100(図48では図示せず)上に試料200が載置されており、この試料200に向けて電子銃310から電子線EBが照射されている。電子銃310から発生した電子線をグランドに対して加速させるため、電子銃310に例えば−4kVから−7kVの範囲の電圧を印加する。この電圧を、加速電圧Vaccという。また、試料200に、例えば−4kVを印加すると、グランドに対して加速した電子線EBから見た試料200の電位ΔVは、加速電圧Vaccが−4kVの場合は0Vであり、加速電圧Vaccが−7kVの場合は−3kVとなる。この試料200に印加する電圧をリターディング電圧RTDという。加速電圧Vaccからリターディング電圧RTDを引いた値、つまりグランドに対して加速した電子線EBから見た試料200の電位がランディングエネルギLEである。このランディングエネルギLEは下記の式(2)で表される。
ランディングエネルギLE
=リターディング電圧RTD−加速電圧Vacc (2)
【0252】
しかし、試料200は自然帯電や、試料200への事前の電子線の照射等によって試料の電位は0Vではない。よって、実効的なランディングエネルギLEeffは、試料の表面電位をΔVとした時に下記の式(3)で表される。
LEeff=LE+ΔV (3)
すなわち、図1に示す実効的なランディングエネルギLEeffは、数式(3)に数式(2)を代入することにより、図48に示す、以下の数式(4)で表すことができる。
実効的なランディングエネルギLEeff
=リターディング電圧RTD−加速電圧Vacc+試料表面電位ΔV (4)
【0253】
図49は、図48に示した実効的なランディングエネルギLEeffと、電子線を試料表面に照射して検出される試料表面の平均輝度meanDNとの関係の一例を示す。図49は、実効的なランディングエネルギLEeffを、例えば、0eV〜7eVで変化させた電子線EBを試料表面に照射して、試料表面から戻ってくる電子線EBを試料表面の画像情報として明るさ(輝度)に変換した場合の平均輝度meanDNと実効的なランディングエネルギLEeff[eV]との関係を示す。図2において、例えば、電子線EBを照射する前の試料200の電位は、ある一定値(ここでは、例えば0V)であるとする。実効的なランディングエネルギLEeffが0Vの電子線EBを試料表面に照射した時の平均輝度meanDNを、図49では「A」として示す。この平均輝度meanDN「A」を標準輝度とし、標準輝度Aに対応する実効的なランディングエネルギLEeffを基準ランディングエネルギLE0とする。ここで、試料表面の平均輝度meanDNは、照射した電子線が試料表面に対して反射又は励起等によって戻ってくる電子線を検出して輝度に変換したものである。この電子線を試料表面に照射して検出される電子線には、試料内から放出される二次電子と、試料表面を反射するミラー電子と、が含まれる。
【0254】
図49に示す実効的なランディングエネルギLEeffと平均輝度meanDNとの関係から、試料表面の平均輝度meanDNが一定の場合、実効的なランディングエネルギLEeffは一定であって、上記した数式(4)から、試料表面電位ΔVを求めることができる。なお、図49に示す実効的なランディングエネルギLEeffと平均輝度meanDNとの関係は、例えば、試料表面の絶縁物領域に対して実効的なランディングエネルギLEeffの電子線を照射して、その試料表面から戻ってくる電子線を輝度に変換することにより求めてもよい。
【0255】
次に、図50を参照して、図49に示す実効的なランディングエネルギLEeffと平均輝度meanDNとの関係から、試料表面電位ΔVの判定について説明する。図50は、試料の表面電位ΔVと輝度差ΔDNとの関係を示す図である。図50は、試料表面の任意の領域に基準ランディングエネルギLE0を、例えば、2.5eVに設定した電子線を照射した時の標準輝度Aと、試料表面の任意の領域にランディングエネルギLEの電子線を照射した時の平均輝度meanDNとの輝度差ΔDNを縦軸に示し、輝度差ΔDNによって換算される試料表面電位ΔVを横軸に示す。
【0256】
例えば、試料表面の任意の領域に電子線を照射して、試料表面の平均輝度分布(輝度差)ΔDNを検出したとする。ここで、試料表面の任意の領域の輝度差△DNを
平均輝度meanDN−標準輝度A=輝度差△DN
として求める時、平均輝度分布(輝度差)△DN>0、すなわち、輝度差△DNが標準輝度Aより明るくなる場合と、平均輝度分布(輝度差)△DN<0、すなわち、輝度差△DNが標準輝度Aより暗くなる場合について検討する。試料表面の任意の領域に基準ランディングエネルギLE0を、例えば、2.5eVに設定した電子線を照射した時、平均輝度meanDNが標準輝度Aに対して明るくなれば、図50に示すように、試料表面電位ΔVが負側にシフトしていること、すなわち、負帯電していることを示し、平均輝度meanDNが標準輝度Aに対して暗くなっていれば、図50に示すように、試料表面電位ΔVが正側にシフトしていること、すなわち、正帯電していることを示す。具体的には、まず、試料表面の任意の領域に基準ランディングエネルギLE0を、例えば、2.5eVに設定した電子線を照射した時、検出される輝度を例えば100とし、この検出される輝度100を標準輝度Aとする。次に、試料表面の任意の領域に、任意のランディングエネルギLEを、例えば、3.5eVに設定した電子線を照射した時、輝度が130であった。この時、標準輝度Aと平均輝度meanDNとの輝度差ΔDNが30であり、図50から試料表面電位ΔVは、−1Vとなり、負帯電していることがわかる。
【0257】
次に、図51を参照して、試料表面の任意の領域に照射する電子線の実効的なランディングエネルギLEeffを調整したときに検出される輝度差ΔDNについて説明する。図51の(a)〜(d)は、試料表面に対して照射する電子線の実効的なランディングエネルギLEeffを変化させた場合の一例を示す図である。なお、図51の(a)〜(d)では、一例として試料表面が酸化物である場合について説明する。
【0258】
図51の(a)に示す「Pre−Dose無」の画像は、試料表面の任意の領域に基準ランディングエネルギLE0を2.5eVに設定した電子線のみを照射した時に検出された試料表面の輝度を表している。この時の輝度を標準輝度Aとする。この時に試料表面の任意の領域に照射した電子線のランディングエネルギLEを基準ランディングエネルギLE0とする。
【0259】
図51の(b)に示す「3eV」の画像は、図51の(a)と同一の試料表面の領域に対して、予め任意のランディングエネルギLEを3eVに設定した電子線を照射した後、基準ランディングエネルギLE0を2.5eVに設定した電子線を照射した時に検出された試料表面の輝度を表している。この場合、輝度は標準輝度Aより明るくなっており、試料表面が負帯電していることがわかる。
【0260】
図51の(c)に示す「8eV」の画像は、上記図51の(a)と同一の試料表面の領域に対して、予め任意のランディングエネルギLEを8eVに設定した電子線を照射した後、基準ランディングエネルギLE0を2.5eVに設定した電子線を照射した時に検出された試料表面の輝度を表している。この場合、輝度は標準輝度Aより暗くなっており、試料表面が正帯電していることがわかる。
【0261】
同様に、図51の(d)に示す「18eV」の画像は、図51の(a)と同一の試料表面の領域に対して、予め任意のランディングエネルギLEを18eVに設定した電子線を照射した後、基準ランディングエネルギLE0を2.5eVに設定した電子線を照射した時に検出された試料表面の輝度を表している。この場合、輝度は標準輝度Aより暗くなっており、試料表面が正帯電していることがわかる。このように、基準ランディングエネルギLE0を照射した時に検出される標準輝度Aと、実効的なランディングエネルギLEeffを調整したときに検出される輝度とを比較することで、試料表面の電位ΔVを求めることができる。
【0262】
次に、図51の(a)〜(d)に示した試料表面に対してPre−Doseにより任意のランディングエネルギLE[eV]を設定した電子線を照射したときに検出される画像情報(輝度差ΔDN)により、試料表面電位ΔVを判定することについて図52を参照して説明する。なお、試料表面電位ΔVは、図50に示した輝度差ΔDNから求めることにする。
【0263】
図52は、試料表面の任意の領域に対して任意のランディングエネルギLEを変化させて電子線を照射した時、すなわち、「Pre−Dose」を実行し、続いて基準ランディングエネルギLE0を設定した電子線を照射した時の試料表面電位ΔVの変化を示す図である。図52では、まず、試料表面の任意の領域に対して「Pre−Dose」を実行する。この「Pre−Dose」を実行する際は、試料表面の任意の領域に対して、任意のランディングエネルギLEを、例えば、3、8、14、22eVに各々設定した電子線を照射している。続いて、試料表面の任意の領域に対して、基準ランディングエネルギLE0を、例えば、2.5eVに設定した電子線を照射している。これら「Pre−Dose」を含む電子線照射により検出される平均輝度meanDNと標準輝度Aから輝度差ΔDNを求め、この輝度差ΔDNを用いて図50を参照して試料表面電位ΔVを求めている。
【0264】
図51の(a)〜(d)に示した輝度差ΔDNから判定される試料表面の電位ΔVは、事前に試料表面の任意の領域に対して、任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を照射すること、すなわち、Pre−Doseを実行することにより、標準輝度Aよりも明るくなるランディングエネルギLE(負帯電)と、標準輝度Aよりも暗くなるランディングエネルギLE(正帯電)と、があることがわかる。このことからPre−Doseによる電子線照射を実行する際に、その電子線のランディングエネルギLEを任意に調整することによって、試料表面の電位を予め正帯電若しくは負帯電させることが可能であることがわかる。
【0265】
以上の結果により、試料表面に照射する電子線に設定する実効的なランディングエネルギLEeffを変化させることで、試料表面の電位ΔVを正側若しくは負側に帯電できるということは、任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を試料表面に照射した時に得られる平均輝度meanDNから基準ランディングエネルギLE0を設定した電子線を試料表面に照射した時に得られる標準輝度Aを差し引いて得られる輝度差△DN、つまり、試料表面電位の正帯電及び負帯電の判定結果に対して、逆の帯電作用をするランディングエネルギLEを設定した電子線を試料表面の任意の領域に照射することで、その領域の帯電状態を標準電位に戻す(若しくは、任意の電位状態にする)ことが可能になる。以下の実施形態では、この原理を利用して試料表面の帯電を除電又は任意の電位に設定する機能を試料表面の検査装置に適用したことに特徴がある。
【0266】
図53(A)は任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を試料表面の各領域に照射した時に得られる輝度差ΔDNの分布を明るさ分布とし、その領域毎の明るさ(輝度差ΔDN)分布をX−Y座標系に示し、図53(B)は、図53(A)に示した各領域の輝度差ΔDNから換算した試料表面の各領域の電位(ΔV)の分布をX−Y座標系に示す。図53(A)に示す明るさ分布では、任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を試料表面の各領域に照射した時に得られる輝度を標準輝度Aとし、試料表面の任意の領域を実効的なランディングエネルギLEeffを設定した電子線を試料表面の各領域に照射して得られる平均輝度との差分を示す輝度差ΔDNを、その電子線を照射した領域毎に示している。
【0267】
図53(A)に示す各領域の輝度差ΔDNを求め、各領域の輝度差ΔDNを図50に示した試料表面電位ΔVと輝度差ΔDNとの関係を参照することで、各領域の標準輝度Aからの輝度差ΔDNを試料表面電位ΔVの分布として得ることができる。図53(B)は、図53(A)に示す各領域の輝度差ΔDNから試料表面電位ΔVを判定した結果、その電位ΔVの分布が−1V、0V、+0.5V、+1Vである場合を示している。
【0268】
図53(A)及び(B)から得た、試料表面の各領域の位置情報(X,Y座標)と試料表面の各領域の電位情報と、図52に示したPre−Doseによって調整することのできる試料表面の電位とを利用することにより、図53(B)に示す試料表面電位ΔVが+1Vの領域には、Pre−Doseによって試料表面の電位を−1Vに帯電させる任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を照射する事によって、その電位ΔVが+1Vの領域を0Vにすることができる。同様に、Pre−Doseによって、−1V、+0.5Vの電位に帯電した他の領域に対して任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を照射する事によって、その他の領域も0Vにすることができる。また、Pre−Doseによって、試料表面の各領域の電位を一様に0Vにするだけでなく、試料表面の各領域の電位を任意の電位に設定して、一様な電位分布に設定することも可能である。
【0269】
また、上記Pre−Doseを利用して、試料表面に照射する電子線の実効的なランディングエネルギLEeffを調整することによって、試料表面を暗視野(正帯電)又は明視野(負帯電)に設定できる。試料表面を暗視野に設定する場合は、主に試料上(例えばSiやCrの導体上)にある異物(絶縁物からなるもの)の検査を行うときである。このとき、試料表面の全体を暗視野にすることで、試料上の異物を光らせて検出することが可能になる。
【0270】
図54は、検査対象の試料の具体例を示す斜視図である。図54に示す試料は、基板230上にパターン部240が形成された例である。この試料に対して、主にパターン検査を行うときは、試料表面を明視野に設定する必要がある。この試料のパターン検査において、白黒のコントラストを検出してパターン部240の欠陥等を検査する場合(例えば、試料の最上面を構成する物質が酸化物であり、その下面がCrを中心とした導電体やSiを検査する場合)は、検査対象を「白」として検出する材料にあわせて(異なる材質によってパターンが形成されている場合、そのどちらか一方の材料)、その検査対象部分の輝度が明るくなるように、すなわち、明視野になるように試料全体に照射する電子線の実効的なランディングエネルギLEeffを調整する。
【0271】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る試料表面の電位分布を設定する方法では、任意のランディングエネルギLEを設定した電子線を照射して、試料表面の電位分布を知りたい領域をスキャンし、その領域の輝度を検出し、標準輝度とスキャンした領域の輝度との輝度差を求め、このスキャン領域毎の輝度差△DNの(X,Y)分布を求める。この輝度差△DNの(X,Y)分布について標準輝度との差分を求めることで、ある領域における標準輝度に対応する基準ランディングエネルギLE0からのランディングエネルギLEのずれ、つまり、ある領域における試料表面の電位△V[V]の変化を判定することができる。また、この試料表面の電位△V[V]の変化に応じて、上記Pre−Doseを実行することにより試料表面の電位分布を調整することもできる。
【0272】
ここで、試料表面の電位ΔVが、正電位と負電位に帯電する原理について説明する。試料表面に照射される一次電子線を発生する電子銃の電子電流値から電子密度Jeが算出される。この電流密度Jeとブランキング信号(電子線を停止させる信号)のブランキング解除時間τs(電子線を照射している時間)から試料表面のDose量が以下に示す式(5)で表される。なお、ブランキング信号のブランキングとは、試料表面に一次電子線を照射しないときに、一時的に一次電子線を遮断することをいう。
Dose=Js・τs (5)
【0273】
試料表面の情報、例えば、レジスト(例えば、絶縁物:酸化物)の厚みをd、そのレジストの比誘電率εrとすると、試料表面の単位面積あたりの静電容量C0は以下の式(6)で表される。
C0=εr・ε0・S/d (6)
(ここで、Sは単位面積1cm、ε0は真空中の誘電率とする。)
また、C0V=Qにより、Qは以下に示す式(7)で表される。
Q=C0・ΔV (7)
ここで、Qは試料表面に照射された総電子量であり、試料表面にランディングエネルギ
LE[keV]を設定した電子線を照射させた時、二次電子放出率をηとすると、総電子量Qは以下の式(8)で表される。
Q=Dose・(1−η) (8)
ここで式(7)及び式(8)により、
Q=Dose・(1−η)=C0・ΔV
となり、この数式を二次電子放出率ηについて解くと、以下に示す式(9)で表される。
η=1−(C0・ΔV)/Dose (9)
式(9)は、二次電子放出率ηが試料表面を構成する物質の比誘電率εrと一義的に関係している事を表している。
【0274】
すなわち、式(9)に式(6)を代入して、物質の比誘電率εrについて解くと、以下に示す式(10)により、二次電子放出率ηと物質の比誘電率εrとの関係を表すことができる。
η=1−{(ε0・S・ΔV)/(d・Dose)}・εr (10)
【0275】
また、図50に示したように、試料表面の電位上昇分は、検出した平均輝度と対応させることができるので、電子線の照射条件等から検査された輝度差ΔDNの分布(断面階調等)から、逆に試料表面の電位分布を知ることができる。
【0276】
次に、試料の厚さ方向に対する電子の貫通率(透過率)のモデルを示す概念図である図55(A)及び(B)を参照して、該貫通率(透過率)について説明する。
先ず、図55(A)を参照して、試料の二次電子放出率η<1の場合について説明する。図55(A)に示すように、試料表面に入射される電子により、試料表面から放出される二次電子の量が入射される電子の量より少ない場合、試料内部に蓄積される総電子量Qはトータールとして「負」となる。したがって、試料表面に入射される電子の量をDose_in、試料表面から放出される二次電子の量をDose_outとすると、総電子量Qは以下の式(11)で表される。
Q=Dose_in−Dose_out<0 (11)
【0277】
式(10)で表した関係から、二次電子放出率ηは下記の式(12)で表される。
η=Dose_out/Dose_in (12)
式(11)から試料表面に発生する電位ΔVの変化は下記の式(13)で表される。
Dose_in(1−η)<0 (13)
【0278】
また、図55(B)に示すように、電子銃から照射される一次電子線における電子エネルギや試料の厚さの関係から、一次電子の一部が試料を貫通(透過)する場合、試料内部に蓄積される総電子量Qは、透過した一次電子の量をDose_thとすると、下記の式(14)で表される。
Q=Dose_in−Dose_out−Dose_th (14)
【0279】
次に、一次電子の透過率α=Dose_th/Dose_inとすると、試料内部に蓄積される総電子量Qは下記の式(15)で表される。
Q=Dose_in(1−η−α) (15)
ここで、試料表面の電位ΔVの上昇分は、式(15)と式(7)との関係から透過率αは下記の式(16)により求めることができる。
α=1−η−(ΔV・C0/Dose) (16)
(ただし、Dose_th=Doseとする)
【0280】
図55(B)の場合はQ=0なので、透過率αは、下記の式(17)により求めることができる。
α=1−η (17)
透過率αは照射する電子線のランディングエネルギLEと試料の厚さt(特にレジストの厚さ)の関数であるので、α=f(LE、t)とすると、f(LE、t)=1−ηを満たす条件では、試料表面の電位ΔVの上昇分を0とすることができ、試料表面のチャージアップ(帯電)による影響を最小限にとどめることができる。逆に試料の厚さtがわかっていれば、ランディングエネルギLEとの組合せで透過率αをコントロールし、f(LE、t)=α>1−ηならば試料表面を正電位に、f(LE、t)=α<1−ηならば試料表面を負電位に帯電させる条件として使い分けることができる。この原理を利用すると、試料表面に局所的に存在する電位分布を調べ、且つその電位を打ち消すランディングエネルギLEを設定した電子線を照射することで、電位分布を均一化することができる。
【0281】
以上説明したように、試料の検査において電子線を利用する試料表面の観測装置や試料表面の検査装置では、観測若しくは検査したい試料表面の大部分を占める表面材料の物性に合わせて、試料に照射する電子線のエネルギを設定している。この設定において、上述のように、f(LE、t)=1−ηとなるように電子線のエネルギを設定することにより、試料表面の帯電による影響を最小限にとどめ、鮮明な画像や高感度の検査結果を得ることができる。例えば、同じ材料で構成される試料において厚さtが異なる試料表面に電子線を照射する場合、まず、明らかに電子線が透過しない条件(α=0)を設定した一次電子線を照射して、試料表面の二次電子放出率ηを求めることができれば、同じ材料からからなる試料の厚さtが薄い(照射した電子線が貫通する可能性がある厚さ)領域における電子線の貫通率(透過率α)を算出することが可能となる。また、上述の輝度差(ΔDN)、Dose量、試料表面の電位ΔVの変化量といったパラメータを用いることにより、試料表面の静電容量Cの分布や二次電子放出率ηの分布、更には試料の厚さt等の分布も調べることが可能となる。
【0282】
図56及び図57は、上記に原理を説明した試料表面の電位調整方法に基づいて、試料表面の電位分布を調整することを特徴とするが可能な、本発明に係る第2及び第3の実施形態の試料観察システムの概略構成を示す図である。図56では、電子線検査装置として、写像投影型電子顕微鏡を使用した場合の構成例を示しており、図57では、電子線検査装置として、走査型電子顕微鏡(ScanningElectron Microscope:SEM)を使用した場合の構成例を示している。
【0283】
図56の試料観察システムにおいて、写像投影型電子顕微鏡2100は、一次電子線を発生する電子線発生源2120と、一次電子線を試料200に導くための一次電子光学系2130と、一次電子線を照射することで試料200から戻ってくる二次電子線を撮像素子2150に導くための二次電子光学系2140と、一次電子線を照射することで試料200から戻ってくる二次電子線を画像として捉える撮像素子2150と、試料200を搭載する少なくとも一方向に可動するXYステージ2112とから構成され、それぞれが真空チャンバ2172、2174、2176の中に収容されている。
【0284】
電子線発生源2120には、熱電子放出型電子銃2132を用いている。この熱電子放出型電子銃2132は主にLaB(六ホウ化ランタン)を用いているが、タングステンからなるフィラメントや、Th−W(トリエーテッドタングステン)、W2C(炭化タングステン)等のタングステン系や、(Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム))COからなる酸化物陰極等を用いても良い。
【0285】
一次電子光学系2130は、熱電子放出型電子銃2132から発生した第一の電子線を、試料200に導く手段であり、アパーチャ2122と静電レンズ2124とを備えている。
熱電子放出型電子銃2132から発生した第一の電子線は、その断面が一次電子光学系2130のアパーチャ2122及び静電レンズ2124により円、楕円又は矩形に成形されて、試料110に導かれて照射される。円、楕円又は矩形に成形された第一の電子線の大きさ(ビーム径)は、概ね撮像素子2150であるTDI、EB-TDI、CCD、EB-CCD等の素子面積より若干大きめの広さに成形されることが望ましい。また、一次電子線の大きさは、撮像素子2150毎に調整されてもよいし、または、一番大きい撮像素子2150の大きさに合わせて成形されてもよい。
【0286】
一次電子線は、一次電子光学系2130で任意のエネルギに加速する加速電圧Vaccと、リターディング電圧RTDとの組み合わせを調整することで、試料200に照射する時の第一の電子線のランディングエネルギLEが調整される。加速電圧Vaccは、例えば、加速電圧調整部2162により調整され、リターディング電圧RTDは、例えばXYステージ2112に設けてある試料電圧調整部2166により調整される。一次電子線のエネルギを設定する加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDとの組み合わせは、試料200から得る所望の情報に応じて変更される。
【0287】
例えば、試料200の二次電子像を取得する場合は、加速電圧Vaccを、例えば、100eV〜数1000eVに設定し、リターディング電圧RTDを二次電子光学系2140の設定電圧(二次光学系2140のE×Bフィルタ2134の直進条件)に設定する。試料200に照射される一次電子線と試料200を構成する材料との間で起きる完全弾性衝突によって発生する電子(ミラー電子)像を取得する場合は、リターディング電圧RTDを調整する。また、試料200の帯電した表面電位の影響によって、試料に照射する一次電子線が試料200の表面近傍で跳ね返ってくるミラー電子の像を取得する場合には、ランディングエネルギLEを0eV〜数10eVに設定することで得ることができる。つまり、加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDの組み合わせを変更することで、図2に示したようなランディングエネルギLEと輝度差の関係を得ることができる。
【0288】
XYステージ2112は、試料200を支持する支持台であり、少なくとも水平方向に移動可能である。XYステージ2112は、防振台2114上に支持され、防振台2114により、床からの振動がXYステージ2112に伝達されないように構成されている。また、XYステージ2112は、外部のステージ制御ユニット2164によりその動作が制御される。XYステージ2112には、上述したように試料200に印加するリターディング電圧RTDを調整する試料電圧調整部2166が設けられ、試料200に印加するリターディング電圧RTDを調整して加速電圧Vaccとともに一次電子線のランディングエネルギLEを設定する。
【0289】
二次電子光学系2140は、E×Bフィルタ2134と、複数の静電レンズ2136から構成されている。図56に示す写像投影型電子顕微鏡の場合、一次電子光学系2130は二次電子光学系2140の光学軸に対して斜めに配置されている。熱電子放出型電子銃2132から発生した一次電子線は、電界と磁界からなるE×Bフィルタ2134の作用により試料200に対して垂直又は概ね垂直に照射され、試料200から戻る二次電子線は、二次電子光学系2140のE×Bフィルタ2134を図中の垂直方向に直進して複数の静電レンズ2136の作用により撮像素子2150に導かれる。なお、E×Bフィルタ2134は、一次電子光学系2130と二次電子光学系2140との双方に含まれることになる。ここで、E×Bフィルタ2134は、磁界と電界を直交させ、電界をE、磁界をB、荷電粒子(本実施形態では電子線)の速度をvとした場合、E=vBのウィーン条件を満たす荷電粒子のみを直行させ、それ以外の荷電粒子の軌道を曲げる。すなわち、一次電子線に対しては、E×Bフィルタ2134により磁界による力FBと電界による力FEとが発生し、一次電子線の軌道が曲げられ、試料に導かれる。一方、二次電子線に対しては、E×Bフィルタ2134により磁界による力FBと電界による力FEとが逆方向に働くため、互いに力が相殺されて二次電子線は撮像素子2150に導かれる。
【0290】
撮像素子2150は、TDI(Time Delay Integration、時間遅延積分)によるスキャン撮像も可能としている。TDIの前には、電子を増幅するMCP(Micro−ChannelPlate、マイクロチャンネルプレート)、増幅された電子を光に変換する蛍光板及び光をTDIに導く為のFOP(ファイバーオプティックプレート)等が備えられている。また、TDIの代わりに、電子(第二の電子線)を直接受けて画像に変換できるEB-TDIを用いてもよい。また、スキャン画像以外の静止画像の撮像を行う場合は、TDIの変わりにCCD(ChargeCoupled Device)を用いて、EB-TDIの代わりにEB-CCDを用いてもよい。更に、TDIの前にEB-CCDを設けて、スキャン像はTDIを、スチル像はEB-CCDを用いるようにしてもよい。撮像素子2150は、試料表面から発生する電子(第二の電子線)を複数画素で同時に面として検出できる素子であれば、種々の形態の撮像素子150を適用することができる。
【0291】
撮像素子2150は、記憶装置2152に接続され、記憶装置2152は、制御部2160に接続されている。この制御部2160は、リターディング電圧調整部2166及び加速電圧調整部2162を有している。
【0292】
XYステージ制御ユニット2164は、制御部2160により制御されて、XYステージ2112の移動方向と移動距離等を制御し、XYステージ2112上の試料200の表面が照射される電子線に対して所望の位置になるようにする。
【0293】
XYステージ2112を収容する真空チャンバ2174の隣には、ゲート弁2218の開閉により連通可能に予備環境室2214が配置されている。予備環境室2214は、検査前後の試料200を待機させる仮置場2216を備えている。また、予備環境室2214には、真空排気が可能なターボ分子ポンプ2212とドライポンプ2210とが備えられ、真空チャンバ2172、2174、2176及び予備環境室2214内の真空排気が可能に構成されている。なお、ターボ分子ポンプ2212及びドライポンプ2210は、必要に応じて、各真空チャンバ2172、2174、2176に更に設けられてもよい。
【0294】
記憶装置2152は、撮像素子2150で取得された試料表面の画像情報を記憶する。記憶装置2152で記憶された試料表面の画像情報は、制御部2160に出力される。制御部2160では、リターディング電圧調整部2166及び加速電圧調整部2162を制御することによって一次電子線に対する実効的なランディングエネルギLEeffを調整し、ステージ制御ユニット2164を制御することによって、試料表面の任意の領域に一次電子線が照射されるように、XYステージ2112の移動位置を制御する。撮像素子2150は、試料表面から戻ってくる二次電子線を検出し、検出した試料表面の画像を記憶装置2152に出力して記憶する。記憶装置2152は、記憶した画像を制御部2160に出力する。制御部2160は、記憶装置2152から入力される試料表面の画像から電位分布判定部2163によって試料表面の電位分布を判定し、判定した電位分布に基づいて、電位分布補正部2164によって試料表面の電位分布を任意の電位分布に調整する。
【0295】
電位分布判定部2163は、上述の原理において説明した方法を用いて試料200の表面の電位分布を判定する。電位分布補正部2164は、上述の原理において説明した方法を用いて試料200の表面の電位分布を任意の電位分布に調整する。
【0296】
ここで、制御部160において実行される試料表面の電位分布の調整方法について図58に示すフローチャートを参照して説明する。図58に示すように、ステップS401において、検査対象の試料200に照射する一次電子線に設定する実効的なランディングエネルギLEeffの調整をリターディング電圧調整部2166及び加速電圧調整部2162にて行う。実効的なランディングエネルギLEeffを設定した一次電子線を試料200の表面に照射し、試料200の表面から戻ってくる二次電子線を撮像素子2150で検出し、検出した試料表面の画像を平均輝度に変換する。検査対象の試料200は、予備環境室2214の仮置場2216からゲート弁2218の開閉により真空チャンバ2174内に搬入される。そして、搬入された試料200の表面には、加速電圧調整部2162とリターディング電圧調整部2166とによって調整された実効的なランディングエネルギLEeffが設定された一次電子線が照射される。この実効的なランディングエネルギLEeffを設定した一次電子線の照射は、上記Pre−Doseに相当する。実効的なランディングエネルギLEeffを設定した一次電子線は、試料200の表面の検査対象領域または試料200の表面の全領域に対して検査レシピ(試料(マスク)の特性や材料等)により指定された倍率と同じ倍率で照射される。照射した一次電子線により試料200から戻ってくる二次電子線を撮像素子2150によって検出し、検出した画像を平均輝度に変換し、試料200の電位分布と位置情報を有する輝度分布を取得する。
【0297】
次いで、基準ランディングエネルギLE0を設定した一次電子線を試料200の表面の検査対象領域または試料200の表面の全領域に対して照射する。以上の「Pre−Dose」を含む電子線照射により検出される平均輝度meanDNと標準輝度Aから輝度差ΔDNを求め、この輝度差ΔDNを用いて、図50のグラフから、試料200の表面の検査対象領域または全体領域の電位ΔVを求める。
【0298】
次に、ステップS402において、取得した試料200の輝度分布は、制御部2160の電位分布判定部2162によって、試料表面の標準輝度Aと平均輝度meanDNとの差分から輝度差ΔDNを求める。そして、図50のグラフを参照して輝度差ΔDNから試料200の表面の測定対象領域毎に電位ΔVを換算する。
【0299】
次に、ステップS403において、試料200の電位分布の補正は、取得した試料200の表面の測定対象領域毎の電位ΔVと位置情報(X−Y座標)から、試料200の各領域の電位を打ち消す、若しくは任意の電位に帯電させるようなランディングエネルギLEの調整をリターディング電圧調整部2166及び加速電圧調整部2162にて行う。ステップS401において一次電子線を照射した試料200の領域毎にランディングエネルギLEを調整しながら再度試料表面に一次電子線を照射して、試料200の帯電を除電または任意の電位に設定する。この除電または電位設定により試料200の各検査領域の電位が全て均一になり、試料の各検査領域の帯電状態の違いにより一次電子線を照射した時に検出される画像に感度のばらつきが生じにくくなり、又、繰り返し試料を検査する場合でも検査領域に電位分布のばらつきが生じにくくなる。
【0300】
試料200を検査する際に帯電の影響は、リターディング電圧RTDの調整により再度除電することができる。また、試料200の表面の電位をリターディング電圧RTDで調整する場合、検査装置の検査速度、電子銃の電流密度により試料に対するDose量が判るので、一度の検査において試料200の表面の電位上昇量は予め求めることができ、その電位上昇分をリターディング電圧RTDの調整で補正することにより、実効的なランディングエネルギLEeffを一定にすることができる。すなわち、試料200の表面の標準輝度と平均輝度との輝度差ΔDNを電位分布に換算し、この換算した電位分布を用いることによって、試料200の表面の電位を均一に設定(0Vに除電)、若しくは、任意の電位(正電位又は負電位)に設定することができる。
【0301】
次に、検査対象の試料200を交換する場合、又は、再度試料200を検査する場合について説明する。試料200を交換し、又は再度検査する場合に、試料表面の電位分布が変化してしまうこと、さらに、全体の試料表面の電位分布が変化してしまうことがある。したがって、試料交換時や同一試料の再検査時に、検査毎に、ランディングエネルギLEの調整を行う必要がある。この場合、試料200の表面の任意の領域における輝度を調べ、上述した試料200の輝度分布を利用して、この輝度分布から取得した標準輝度Aと平均輝度meanDNとの差分でランディングエネルギLEの調整を行うことにより、試料200の表面の電位分布を再度均一に調整することが可能である。
【0302】
上述したように、実効的なランディングエネルギLEeffは、ランディングエネルギLE以外の最適化されたパラメータ(例えば、検査装置のNA位置やそのサイズ、ウィーン条件、電流密度)を検査レシピ(試料(マスク)の特性等)に従って設定することで、再現性の良い検査が実現できる。
【0303】
なお、電子線検査装置は、試料表面のパターンの欠陥を検査する場合、試料表面の異物を検出する場合、試料表面に形成された多層膜上の異物や部分的若しくは局所的に厚みの違う箇所を検出する場合、更には、試料表面に構成されたパターン(図54参照)と多層膜中に構成されたパターンの両方の形状を検出し試料の電位を比較する場合がある。それぞれ、その試料表面の検査に適した実効的なランディングエネルギLEeffで検査が可能であり、また複数回、組合せの違うランディングエネルギLE若しくは同じランディングエネルギLEで荷電粒子(電子線)を照射し検査することも可能である。なお、試料表面に照射する電子線は、荷電粒子線に限定されず、試料表面に電位差を生じさせ、試料から電子線が戻ってくることが期待できるビーム例えば高速原子ビームであっても良い。
【0304】
複数回電子線を試料表面に照射する場合、例えば試料上の異物を検査する場合、初回は試料表面の電位分布から得た情報を元に、やや正電位に帯電する実効的なランディングエネルギLEeffを例えば10eV〜30eVに設定した電子線を試料表面に照射し、次に、試料上の異物の輝度が最大に出来るランディングエネルギLEを例えば3.5eVに設定した電子線を試料表面に照射して検査すると、高感度で試料上の異物を検出することが可能である。
【0305】
また、試料表面のパターン検査をする際、試料表面が少なくとも二種類の材料から構成される場合、初回は「試料表面の電位分布」(図50参照)から得た情報を元に、その一方が明るくなるように、やや負電位に帯電する実効的なランディングエネルギLEeffを例えば2eV〜7eVに設定した電子線を照射し、検査時のランディングエネルギLEは初回の照射によって生じる一方の材料の輝度と、他方の材料の輝度との差、つまりコントラストが最大になるようなランディングエネルギLEを例えば、2eV〜5eVに設定した電子線を試料表面に照射して検査を行うと、高感度で試料表面の電位分布を検査することが可能である。
【0306】
図58に示した試料表面の電位分布の調整方法は、図2に示した試料観察システムにおいても実行可能である。すなわち、図2のシステムのシステム制御部950を、図56の試料観察システムの制御部2160と同様な機能が実行できるように構成することにより、電位分布の調整が可能である。
【0307】
図57に示した試料観察システムにおいては、上述したように電子線検査装置として、走査型電子顕微鏡(SEM)3200を使用しており、該SEM3200は、一次電子線を発生する電子線発生源である熱電子放出型電子銃3320と、一次電子線を試料200に導き、スキャンするための一次電子光学系3300と、試料表面に一次電子線をスキャンすることで試料表面から戻ってくる二次電子線を検出する検出器3100を備えた二次電子光学系3400と、試料200を搭載する少なくとも一方向に可動するXYステージ2112とから構成され、それぞれが真空チャンバ3720、3740、3760の中に納められている。
【0308】
熱電子放出型電子銃3320は主にLaBを用いているが、タングステンからなるフィラメントや、Th−W、W2C等のタングステン系や、(Ba、Sr、Ca)COからなる酸化物陰極等を用いてもよい。
【0309】
一次電子光学系3300は、熱電子放出型電子銃3320から発生した一次電子線を、試料200に導く手段であり、E×Bフィルタ3340と、複数の静電レンズ又は電磁レンズ3240から構成されている。図57に示すSEM3200の場合、二次電子光学系3400は、一次電子光学系3300の光学軸に対して斜めに配置されている。電子銃3320から発生した一次電子線は、複数の電磁レンズ3240によって細い電子線に絞られ、電界と磁界からなるE×Bフィルタ3340の作用により試料200に対して垂直又は概ね垂直に照射され、試料200から戻る二次電子線は、一次電子光学系3400のE×Bフィルタ3340を図中の左方向に直進して検出器3100に導かれる。なお、E×Bフィルタ3340は、一次電子光学系3300と二次電子光学系3400との双方に含まれることになる。
【0310】
二次電子光学系3400は、試料表面から戻ってくる二次電子線を検出する検出器3100を含んでいる。検出器3100は二次電子増倍管を主に用いている。検出器3100は制御部3160に接続されている。
図57において、図56と同一参照番号で示されている構成要素は図56のものと同一であり、したがって、その小生な説明を省略する。
【0311】
図56及び図57の試料観察システムは、パターンの欠陥を検査する場合と、試料上の異物を検出する場合と、試料上に構成された多層膜上の異物や部分的若しくは局所的に厚みの違う箇所を検出する場合、更に試料上に構成されたパターン(図54参照)と多層膜中に構成されたパターンの両方の形状を検出し試料の電位を比較する場合がある。それぞれ、その試料表面の検査に適した実効的なランディングエネルギLEeffで検査が可能であり、また複数回、組合せの違うランディングエネルギLE若しくは同じランディングエネルギLEで荷電粒子(電子線)を照射し検査することも可能である。ここで、試料表面に照射する電子線は、荷電粒子線に限定されず、試料表面に電位差を生じさせ、試料から電子線が戻ってくることが期待できるビーム例えば高速原子ビームであっても良い。
【0312】
以上、本発明の異物付着防止方法及び電子線検査方法について、種々の実施形態をあげて説明した。これら本発明の異物付着防止方法及び電子線検査装置によれば、試料の周囲を包囲する位置に配置した集塵電極により試料に向けて飛んでくるパーティクル等の異物をブロックすることができるので、パーティクル等の異物が試料表面に付着することを防止することができる。また、試料表面にパーティクル等の異物が付着することを防止することができるので、特に、試料表面の100nm以下の超微細パターン、構造評価、拡大観察、材質評価、電気的導通状態等の検査を、高精度で効率的に行うことができる。
【0313】
また、本発明によれば、試料表面に絶縁領域と導電領域とが形成されている場合でも、試料表面の高コントラストの画像を得ることができるとともに、欠陥の種類(欠落欠陥か解放欠陥か)を容易に分類することができる。さらにまた、本発明によれば、試料表面のチャージアップを効率よく除電することができるので、チャージアップによる試料画像のぼけを防止することができる。したがって、異物付着の防止の効果と相まって、極めて高精度の検査をすることができる。
【0314】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、これらの実施形態に種々の変形及び置換を加えることができることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNA(開口数)を規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
前記ステージに配置される試料に第1電圧を印加する第1電源と、
前記ステージに配置される試料の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵する少なくとも1つの第1電極と、
前記第1電圧と同じ極性を有し、かつ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第2電圧を、前記第1電極に印加する第2電源と
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子線検査装置において、該装置はさらに、
前記第1電極の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵する少なくとも1つの第2電極と、
前記第1電圧と同じ極性を有し、且つ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第3電圧を前記第2電極に印加する第3電源と
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項3】
請求項1記載の電子線検査装置において、該装置はさらに、
前記ステージの上方に設置された間隙制御板であって、電子線を通過させる貫通孔を内部に有し、前記ステージに配置される試料の表面を覆う隙間制御板
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項4】
請求項1記載の電子線検査装置において、該装置はさらに、
前記ステージの周囲を囲繞するカバーであって、該ステージに向けた塵又はパーティクルの流入を防止するカバー
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項5】
請求項1記載の電子線検査装置において、該装置はさらに、
前記第1電源に接続された一対の端子と前記第2電源に接続された一対の端子とを備えた端子台と、
前記端子台の2対の端子にそれぞれ一方の端部が接続された2対の接続線を有するケーブルと、
前記端子台を収納しているとともに前記ケーブルの一部分を湾曲した状態で収納した箱であって、該箱内の塵又はパーティクルを集塵する電極をさらに収容している箱と、
前記ケーブルの2対の接続線それぞれの他方の端部に接続された2対の端子であって、前記第1及び第2電圧を試料及び前記第1電極に印加するための2対の端子を備え、かつ前記ステージに固定された固定板と
を備え、前記箱と前記固定板との間の前記ケーブルの部分は直線状に延在保持されており、前記ステージの移動に連れて前記箱内の前記ケーブルの湾曲した部分が前記ステージの移動方向に伸縮するよう構成されていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項6】
電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNAを規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
内部に前記ステージが設置される真空排気可能なチャンバと、
前記チャンバ内に設置された装置であって、該チャンバ内を真空状態にする過程で該真空チャンバ室内に内在する気体を電離させ、該真空チャンバ内の構造物やそれに付着する物質の表面に存在する静電気を除去する装置と
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項7】
電子線を用いて試料表面を検査する電子線検査装置であって、
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源から放射された電子ビームを導く一次系レンズを備えた一次電子光学系と、
前記一次電子光学系により導かれた一次電子が照射される試料を配置するステージと、
前記電子ビームの照射により前記試料の表面から放出された二次電子及び該表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を導く二次電子光学系であって、二次系レンズとNA(開口数)を規定するアパーチャとを備えた二次電子光学系と、
前記二次電子光学系により導かれた二次電子及びミラー電子の少なくとも一方を検出する検出器と、
内部に前記ステージが設置される真空排気可能なチャンバであって、少なくとも1つの穴が壁面に設けられているか、又は任意の電圧が印加されるメッシュ構造の平板が壁面に敷設されているチャンバと
を備えていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項8】
請求項1−7いずれかに記載の電子線検査装置において、前記電子ビーム源は、面状の電子ビームを発生するよう構成されていることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の電子線検査装置において、該装置はさらに、
試料表面から検出器に向かう電子がミラー電子と二次電子との両方を含む遷移領域となるように、撮像用の電子ビームのエネルギ及び前記試料に印加されるエネルギを制御する電子光学系制御電源と、
前記アパーチャの位置を、二次電子光学系の光軸と直交する面内で調整可能とするアパーチャ調節機構と
を備え、前記アパーチャ調節機構により、試料表面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子を選択的に前記検出器に導くことができるようにしたことを特徴とする電子線検査装置。
【請求項10】
請求項9記載の電子線検査装置において、
前記二次電子光学系はNA(開口数)を規定するための複数のアパーチャを備えており、
該複数のアパーチャは、それぞれの径が異なっており、
前記アパーチャ調節機構により複数のアパーチャの1つが選択されて、該選択されたアパーチャを、試料面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子が通過できるようにした
ことを特徴とする電子線検査装置。
【請求項11】
請求項8記載の電子線検査装置において、前記検出器は、EB-CCD又はEB-TDIであることを特徴とする電子線検査装置。
【請求項12】
電子線検査装置を用いて試料の表面を検査する方法であって、
ステージに試料を配置するステップと、
前記ステージに配置された試料に第1電圧を印加するステップと、
前記ステージに配置される試料の周囲を包囲する位置に配置され、塵又はパーティクルを集塵するための第1電極に、試料に印加された電圧と同じ極性を有し、かつ該第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第2電圧を印加するステップと、
電子銃より電子ビームを放射し、該電子ビームを、一次電子光学系を介して前記ステージ上に配置された試料に照射するステップと、
前記電子ビームの照射により試料表面から放出された二次電子及び該試料表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を、二次電子光学系を介して検出器に導き、該検出器で検出するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、該方法はさらに、
前記第1電極の周囲を包囲する位置に配置される第2電極に、前記第1電圧と同じ極性を有し、かつ前記第1電圧の絶対値以上の絶対値を有する第3電圧を印加するステップ
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項14】
電子線検査装置を用いて試料の表面を検査する方法であって、
試料をステージ上に配置するステップと、
内部に前記ステージが設置されているチャンバを真空排気するステップと、
前記チャンバ内に配置された装置により、前記チャンバ内を真空状態にする過程で該チャンバ室内に内在する気体を電離させ、該チャンバ内の構造物やそれに付着する物質の表面に存在する静電気を除去するステップと、
電子銃から電子ビームを放射し、該電子ビームを一次電子光学系を介して試料上に照射するステップと、
前記電子ビームの照射により試料表面から放出された二次電子及び該試料表面若しくはその近傍から反射されたミラー電子の少なくとも一方を、二次電子光学系を介して検出器に導き、該検出器で検出するステップと
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、前記電子銃から照射される電子ビームは面状であり、該方法はさらに、
試料表面から検出器に向かう電子がミラー電子と二次電子との両方を含む遷移領域となるように、撮像用の電子ビームのエネルギ及び前記試料に印加されるエネルギを制御するステップと、
NA(開口数)を規定する前記アパーチャの位置を、二次電子光学系の光軸と直交する面内で調整するステップと
を含み、前記アパーチャの位置の調節により、試料表面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子を選択的に前記検出器に導くことができるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記二次電子光学系は、それぞれ径が異なる複数のアパーチャを備えており、前記調整するステップは、
前記複数のアパーチャの1つを選択して、該選択されたアパーチャの位置を、試料面の導電領域及び絶縁領域のいずれか一方からの電子が通過するように調整するステップ
を含んでいることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23(A)】
image rotate

【図23(B)】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26(A)】
image rotate

【図26(B)】
image rotate

【図27(A)】
image rotate

【図27(B)】
image rotate

【図28(A)】
image rotate

【図28(B)】
image rotate

【図29(A)】
image rotate

【図29(B)】
image rotate

【図30(A)】
image rotate

【図30(B)】
image rotate

【図31(A)】
image rotate

【図31(B)】
image rotate

【図32(A)】
image rotate

【図32(B)】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34(A)】
image rotate

【図34(B)】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36(A)】
image rotate

【図36(B)】
image rotate

【図36(C)】
image rotate

【図37(A)】
image rotate

【図37(B)】
image rotate

【図37(C)】
image rotate

【図38(A)】
image rotate

【図38(B)】
image rotate

【図39(A)】
image rotate

【図39(B)】
image rotate

【図40(A)】
image rotate

【図40(B)】
image rotate

【図41(A)】
image rotate

【図41(B)】
image rotate

【図42(A)】
image rotate

【図42(B)】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47(A)】
image rotate

【図47(B)】
image rotate

【図47(C)】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate

【図53(A)】
image rotate

【図53(B)】
image rotate

【図54】
image rotate

【図55(A)】
image rotate

【図55(B)】
image rotate

【図56】
image rotate

【図57】
image rotate

【図58】
image rotate


【公開番号】特開2012−64567(P2012−64567A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169040(P2011−169040)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】