説明

疎水性コーティングを有するセラミック構造体

NOx触媒支持体またはDPFのいずれかとして使用するための触媒支持構造体であって、(i)マルチセルラ・セラミック体、好ましくは、例えば、コージエライトまたはチタン酸アルミニウムからなるモノリス型セラミック・ハニカム、および(ii)触媒コーティングを施すプロセスに用いられる水性媒質および液体触媒コーティング媒質の両方に露出されたときに、減少したまたは低い吸収を示すセラミック・ハニカムが得られる、少なくともその外面にある疎水性コーティングを含む構造体が開示されている。好ましい実施の形態において、疎水性コーティングは、マルチセルラ・セラミック体に設けられた塗布された外皮層内またはその上に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層または疎水性層を有する触媒支持構造体に関し、特に、疎水性外部コーティングを有するコージエライトまたはチタン酸アルミニウムの触媒支持構造体/ディーゼル・フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、効率、耐久性および経済の各面のために、ディーゼル・エンジンに多大な関心が寄せられてきた。しかしながら、ディーゼル排気ガスは、環境と人間への有害な影響のために、米国と欧州の両方において非難の的になってきた。それゆえ、より厳しい環境規則は、ディーゼル・エンジンをガソリン・エンジンと同じ基準に維持することを要求している。よって、ディーゼル・エンジンの製造業者および排出物質浄化会社は、より速く、よりきれいで、最小の消費者コストで全ての動作条件下で最も厳しい要件を満たすディーゼル・エンジンを実現するように取り組んでいる。
【0003】
従来のエンジンと同様に、ディーゼル・エンジンから排出された排気ガスから、窒素酸化物(NOx)を取り除く必要がある。しかしながら、単に三元触媒を用いた従来のエンジンとは異なり、過剰の量の酸素を含む排気ガスを生成するパーシャル・リーンバーン・ガソリン・エンジンであるディーゼル・エンジンは、三元触媒だけを使用することができない。何故ならば、これらのタイプの触媒が適切に機能するためには、空燃比が実質的に理論値である条件が必要であるからである。
【0004】
NOxトラップが、ディーゼル・エンジンにおける排ガス浄化のための優れた候補であるように思われる。NOxトラップは、触媒支持体とその支持体を被覆する触媒から製造されるという点で三元触媒に似ており、NOxトラップが、捕捉されたNOxを貯蔵する触媒コーティング中に追加の成分を含むという点で違いがある。NOx吸着触媒に用いられるNOx吸着成分としては、K,Na,Li,Csなどの公知のアルカリ金属、Ba,Caなどのアルカリ土類金属がある。
【0005】
NOx吸着触媒は、酸化物タイプのセラミック(例えば、コージエライト)または金属材料(例えば、Fe−Cr−Al合金)からなるモノリシック触媒担体(モノリス)上に上述したNOx吸着成分を含有する触媒層を装填することにより、一般に形成される。この業界において、コージエライト(2MgO−2Al23−5SiO2)が、ほとんどの動作条件下での優れた耐熱衝撃性、濾過効率、および耐久性の組合せのために、大型車のためのNOx担体/支持体に最適な費用効果的なセラミック材料であった。最近、チタン酸アルミニウムベースのセラミック材料が、別の適切なNOx担体/支持体材料として支持を獲得してきた。
【0006】
ディーゼル排気ガスを減少させる別の重要な挑戦は、ディーゼル排気流中に存在するディーゼル微粒子のレベルを制御することである。1998年に、カリフォルニア州大気資源委員会により、ディーゼル微粒子は毒性の空気汚染物であると公表された。移動源と静止源の両方を起源とするディーゼル微粒子汚染物の濃度と粒径を規制する法律が可決された。
【0007】
ディーゼル粒状物質は主に炭素煤であり、ディーゼル排気ガスから炭素煤を除去する方法の1つは、ディーゼル・トラップを通すことである。最も広く用いられているディーゼル・トラップは、フィルタ構造体の多孔質壁上に煤を捕捉することによって、ディーゼル排気ガスを濾過するコージエライト・セラミック・ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)である。このDPFは、排気流を著しく妨げたりせずに、煤をほぼ完全に濾過するように設計されており、また、ある場合には、NOxコージエライト触媒支持体のように、触媒材料、例えば、酸化触媒も含む。また一方で、チタン酸アルミニウムベースのセラミック材料(AT)に、DPF材料としての用途が見出されてきた。
【0008】
コージエライトまたはATモノリスが触媒担体の基体またはDPFの形態にあるか否かにかかわらず、コージエライト・モノリスの外皮を形成するために、常温硬化セラミック・セメント(好ましくは、コージエライト)が長い間用いられてきた。この常温硬化セラミック・セメントは、混合され、形造られた焼成基体に施される。その後、湿った表皮は、周囲条件下で、もしくは高温での対流乾燥またはマイクロ波乾燥によって、乾燥させられる。その結果、外皮層を有する基体は、触媒コーティングおよび要求される任意のさらに下流の加工を受ける準備ができている。
【0009】
ディーゼル濾過および触媒製品が進化し、製品の性能の要望のために触媒コーティングプロセスおよび成分が変化するにつれ、これらの変化によって、NOx支持基体の形態であろうと、DPFの形態であろうとも、触媒コーティングプロセスと外皮層を有するセラミック・モノリスとの間に不適合が生じる可能性が高くなっている。外皮層が施されたモノリスと触媒コーティングプロセスとの間の不適合の一例は、表皮によりコーティング液体が吸収されるために、モノリスおよび/または表皮は、その後の触媒コーティング工程の最中または後に、過剰な表皮またはコーティングの亀裂または砕けを示し得ることである。触媒コーティング媒質をセラミック・モノリスに施した後に観察されたモノリス性能に関連する他の問題としては、CTE(熱膨張係数)の相当な増加および/またはモノリスの弾性率の増加が挙げられる。これらの両方とも、最終用途における熱衝撃性能の減少(軸方向と半径方向の大きな亀裂)をもたらす。さらに、触媒コーティングは、モノリスの強度を減少させ得る。触媒コーティングは、当該技術分野においてよく知られており、セリウム、白金、ロジウム、パラジウム、コロイドアルミナなどを含む化合物を含有し得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
幅広い触媒コーティング成分および関連するプロセスの影響を受けない常温硬化表皮セメントを備えたセラミック・モノリスを提供し、したがって、基体の表皮材料と触媒コーティングプロセスとの間の不適合の結果として生じる多くのセラミック・モノリス製品の失敗を減少させることが当該技術分野における進歩と考えられる。触媒コーティングにより、モノリスのCTE、モジュラス、強度または熱衝撃性能が実質的に変化しないセラミック・モノリスを提供することが別の進歩であろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、NOx触媒支持体またはDPFのいずれかとして使用するための触媒支持構造体を提供する。この触媒支持構造体は、(i)マルチセルラ・セラミック体、好ましくは、セラミック・ハニカム、より好ましくは、コージエライトまたはチタン酸アルミニウムから製造されたモノリス・セラミック・ハニカムであって、入口端、出口端、および入口端から出口端までハニカムの長手方向に沿って延在する、多孔質壁により互いに隔てられた相互に隣接する多数のセルを有するセラミック・ハニカムと、(ii)含水触媒コーティング配合物および/または触媒コーティングを施すプロセスに用いられる他の水性媒質に露出されたときに、セラミック・ハニカムによる吸収が減少することとなる、セラミック・ハニカムに付着した疎水性コーティングとを含む。好ましい実施の形態において、疎水性コーティングは、セラミック・ハニカムの外皮部分内またはその上に形成される。
【0012】
本発明の別の態様は、触媒支持構造体を製造する方法であって、(i)マルチセルラ・セラミック体、好ましくは、セラミック・ハニカムを提供し、(ii)セラミック体に不動態化材料を含むコーティングを施し、(iii)このように被覆されたマルチセルラ・セラミック体を乾燥させ、(iv)必要に応じて、乾燥した被覆されたマルチセルラ・セラミック体を熱処理する各工程を有してなる方法である。乾燥工程は、約200℃未満の温度範囲で、任意の過剰の溶媒を除去し、マルチセルラ・セラミック体上に疎水性コーティングを生成するのに少なくとも十分な時間に亘り、実施することが好ましい。
【0013】
2つの代わりの実施の形態において、不動態化材料は、以下の様式で含ませることができる:(1)液体の不動態化材料をセラミック(好ましくは、コージエライト)・セメント中に直接含ませ、その後、この混合物を触媒支持体に直接施し、その後、被覆された触媒支持体を乾燥させる、および(2)既に施されたセラミック表皮コーティング(好ましくは、コージエライト・セメント・コーティング)に、不動態化材料を含む液体コーティングを施し、その後、施された不動態化材料を乾燥させる。
【0014】
本発明の触媒支持構造体は、マルチセルラ・セラミック体、好ましくは、セラミック・ハニカムを含む。このハニカムは、入口端、出口端、および入口端から出口端までハニカムの長手方向に沿って延在する相互に隣接する多数のセルを有する。これらのセルは、多孔質壁により互いに隔てられている。一般に、ハニカムのセル密度は、10セル/平方インチ(1.5セル/cm2)から1200セル/平方インチ(188セル/cm2)に及ぶ。壁厚は、一般に、0.025から1.5mm(1から60ミル)、好ましくは、0.1から0.75mm(4から30ミル)に及ぶ。壁の孔径は、一般に、約0.1から100マイクロメートル、好ましくは、約1から40マイクロメートルに及び、一方で、壁の気孔率は、一般に、約15〜70%、好ましくは25〜50%に及ぶ。
【0015】
適切なセラミック・ハニカムとしては、Mg2Al4Si58の酸化物組成に近い組成を有する結晶質セラミックであるコージエライトから実質的になるモノリスハニカムが挙げられる。しかしながら、Mg(マグネシウム)を、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)およびMn(マンガン)などの他の成分と、Al(アルミニウム)をGa(ガリウム)と、Si(ケイ素)をGe(ゲルマニウム)との限られた置換も許容される。また、コージエライト相は、54の酸素当たり、3つのまでのアルカリ金属(IA族)の原子、2つまでのアルカリ土類金属(IIA族)の原子、または1つまでの希土類金属(スカンジウム、イットリウム、またはランタニド金属)の原子を含有してもよい。
【0016】
これらの置換基は、コージエライト相の結晶構造中の通常は空いている「チャネル部位」を占めることが予測されるであろうが、Mgのそれらの限られた置換も生じるかもしれない。コージエライト結晶構造中にこれらの元素を含むことは、電荷のバランスを維持するために、Al対Si比における変化などの他の化学置換と関連付けられるであろう。
【0017】
コージエライト以外の材料から製造されたマルチセルラ体を本発明に使用しても差し支えない。これらの材料としては、セラミック、ガラス、金属、粘土、およびそれらの組合せが挙げられる。組合せにより、物理的または化学的な組合せ、例えば、混合物、化合物、または複合体が意味される。セラミック体として使用するのに適したセラミックとしては、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウムおよびガンマ・アルミナなどのセラミックが挙げられる。
【0018】
セラミック・ハニカム構造体は、以下の様式でDPFに製造される。入口端のセルの一部および出口端のセルの一部が塞がれる。ここで、入口端のセルの塞がれた部分は、出口端のセルの塞がれた部分とは異なっている。この構造のために、排気ガスは、入口端で開いたセルを通ってセラミック・ハニカム構造体に進入し、多孔質壁を通り、出口端で開いたセルを通ってハニカム構造体から流出する。
【0019】
本発明のマルチセルラ・セラミック体(モノリスNOx触媒支持体であろうと、DPFであろうとも)は、疎水性表面コーティングを含むことが特徴的である。疎水性表面コーティングは、セラミック体の少なくとも外皮部分に存在し(望ましくは、セラミック体の全円柱外面を覆う外部コーティングとして)、必要に応じて、セラミック体の通路構造内にも存在する。この疎水性コーティングは、得られた被覆セラミック体が、液体の触媒コーティング媒質および触媒コーティングを施すプロセスに用いられる任意の水性媒質に露出されたときに低いまたは減少した吸収を示すようなものである。疎水性コーティングにより、触媒作用プロセスに露出された結果として砕けまたは亀裂に耐えるセラミック体が得られることが好ましい。
【0020】
上述した低いまたは減少した吸収は、疎水性コーティングを備えた結果として達成される被覆セラミック体の非湿潤特徴の結果として達成される。この非湿潤挙動は、接触角に関して特徴付けられる。接触角は、液滴がセラミック表面上に配置されたときに、液体と、セラミック体の表面との間の界面で形成される角度として定義される。より詳しくは、接触角は、液体による固体の湿潤の定量的尺度であり、液体、気体および固体が交わる三相の境界で液体により形成される角度として幾何学的に定義される。
【0021】
本発明の説明の目的で、低い吸収は、液体(例えば、水性触媒コーティング混合物および/またはそのようなコーティングを施す過程でセラミック体の表面に施される任意の水性媒質)がその表面に、表面が実質的に非湿潤性であることを示す程度に「玉になる」ような非湿潤表面状況として定義される。実質的に非湿潤性の表面は、その表面に施された水滴が約50°より大きい接触角を示す表面であると考えられる。低い値の接触角(<50°)は、液体が十分に広がることを示し、ゼロの接触角は完全な湿潤を表す。高い値は完全ではない湿潤または非湿潤性表面を表す。本発明によれば、50°以上の上述した接触角の要件は、約50%の気孔率および10〜20μmの公称/平均孔径を示すセラミック基体またはコーティングの場合にでさえ満たすことができる。
【0022】
標準的外部コーティングは、一般に、セラミック材料(好ましくは、コージエライト)から構成され、不動態化材料を含むことにより、疎水性にされる。本質的に疎水性であり、不動態化または疎水性表皮を形成するために現行の表皮バッチ成分とブレンドできる化合物が数多くある。セラミックまたはコージエライト・コーティングまたは表皮を疎水性にする適切な不動態化材料の例としては、以下が挙げられる:ウレタン、シリコーン、シリコーン樹脂、シラン、油、ワックス、炭素および炭素煤。
【0023】
代表的なセラミック表皮材料としてコージエライトを使用する場合、不動態化材料は、3つの方法の内の1つにより含ませることができる。不動態化材料は、コージエライト・コーティングまたは表皮を施す前に、標準的なコージエライト常温硬化表皮バッチに加え、混合することができる。言い換えれば、この方法において、乾燥したときに疎水性表皮になる不動態化材料は、表皮材料の標準的な調製中に表皮バッチ組成物に直接加えられる。
【0024】
あるいは、不動態化材料は、コーティング後の工程において、マルチセルラ・セラミック構造体に先に施されたコージエライト表皮部分に直接施すことができる。特に、この場合、不動態化材料の液体コーティングは、浸漬、シャワーリング(showering)、吹付け、ローリング(rolling)、ブロッティング(blotting)、噴射などのいずれかによってディーゼル・フィルタまたはNOx触媒支持構造体の外皮に施すことができる。得られたコーティングは、厚い膜または釉薬のいずれかであるか、もしくは薄い単層であっても差し支えない。
【0025】
第3に、不動態化材料は、マルチセルラ・セラミック体全体に、コーティング材料の溶液中にセラミック体全体を浸漬することによって施しても差し支えない。
【0026】
疎水性コーティングを有する被覆された触媒支持構造体を製造するように、コーティング後の工程において、不動態化材料がセラミックコーティングに加えられる本発明の上述した実施の形態において、実際の工程は以下のとおりである:
(a) セラミック外皮コーティングを有する焼成されたマルチセルラ・セラミック体を提供し、
(b) 外皮コーティングまたはセラミック体全体のいずれかに、不動態化材料を含むコーティングを施し、
(c) 得られた被覆れさたセラミック体を乾燥させ、
(d) 必要に応じて、セラミック体の表面に疎水性コーティングを製造するのに十分な温度で十分な時間に亘り、乾燥した被覆されたマルチセルラ・セラミック体を熱処理する。
【0027】
代わりの方法において、先に手短に説明したように、不動態化材料はセラミック表皮バッチ組成物に直接加えられる。このように外部疎水性コーティングを有する被覆されたモノリスセラミック基体を製造する実際の工程は以下のとおりである:
(a) 焼成されたマルチセルラ・セラミック体を提供し、
(b) セラミック体の外面に、不動態化材料を中に有するセラミック・セメントを含むコーティングを施し、
(c) 得られた被覆されたマルチセルラ・セラミック体を乾燥させ、
(d) 必要に応じて、セラミック体の表面に疎水性コーティングを製造するのに十分な温度で十分な時間に亘り、乾燥した被覆されたマルチセルラ・セラミック体を熱処理する。
【0028】
上述したいずれの方法においても、疎水性コーティングを生成するために必要な乾燥時間または温度は、当業者により容易に決定される。いずれの方法の乾燥工程も、セラミック体から過剰な溶媒を除去するのに少なくとも十分なだけ、約60から450℃の温度で行うことが好ましい。追加の随意的な熱処理を用いても差し支えない。この熱処理は、不動態化材料を架橋させるのに十分な温度と時間を含む。乾燥工程のように、熱処理は、60から450℃に及ぶ温度で行うことが好ましい。
【0029】
モノリス・セラミック基体を被覆するのに使用するための好ましいセラミック材料は、中に不動態化材料を有するコージエライト常温硬化表皮組成物、すなわち、コージエライト/不動態化材料疎水性コーティングを含む。特に、この組成物は、質量パーセントで表して、50〜65%の粉砕コージエライト、0.1〜1%のメチルセルロース結合剤、1〜6%のコロイドシリカ、0〜20%のアルミノケイ酸塩繊維、10〜20%の水、約0.1〜1%のレオロジー改質剤および約1〜6%の、シリコーン樹脂、ウレタン、油、シラン、ワックス、炭素、炭素煤およびそれらの混合物からなる群より選択される不動態化材料を含む。好ましい実施の形態において、このコージエライト表皮/不動態化材料疎水性コーティング組成物は、質量パーセントで表して、50〜60%の粉砕コージエライト、0.1〜1%のメチルセルロース結合剤、3〜5%のコロイドシリカ、13〜20%のアルミノケイ酸塩繊維、18〜20%の水、約0.4〜0.6%のレオロジー改質剤および4〜6%の不動態化材料を含む。
【0030】
不動態化された常温硬化表皮セメントが、触媒コーティングおよび触媒コーティング・プロセスに用いられる水溶液を通さないマルチセルラ・セラミック体(NOx触媒支持体またはDPFいずれかの形態で)の外面に疎水性セラミック表皮またはコーティングを含むことには、非疎水性コージエライト表皮を有する標準的なコージエライト・セラミック・ハニカムより優れた利点が数多くある。最も重要なことには、不動態化または疎水性表皮は、表皮材料と触媒コーティング水溶液との間で緊密な接触をさせないという事実に基づいて、表皮の亀裂または砕けの発生が減少する。言い換えれば、触媒作用プロセスに用いられるであろう任意のコーティング水溶液は、はじかれ、セラミック体の表皮中には吸収されず、それゆれえ、施された表皮と触媒コーティング溶液との間の化学的または機械的反応または相互作用のために生じるであろうどのような望ましくない副作用も防がれる。
【0031】
追加の利点は、本発明の不動態化または疎水性表皮コーティングは触媒溶液を過度に吸収しないので、セラミック体に施すべき触媒コーティング媒質が節約されることである。それゆえ、触媒コーティング媒質中に含まれる高価な貴金属は、排出物質の減少に役立たない表皮層上に堆積されない。
【実施例】
【0032】
本発明の原理をさらに説明するために、本発明による疎水性コーティング材料の実施例を記載する。しかしながら、これらの実施例は、説明目的のみに与えられたものであり、本発明はそれに限定されず、本発明の精神から逸脱せずに、本発明に様々な改変および変更を行ってもよいことが理解されよう。
【0033】
実施例1
ある実施の形態において、上述したように、不動態化材料が標準的な常温硬化コージエライト・セメント中に直接含まれる。このセメント自体は、その後、基体材料に施すことができる。表Iには、標準的な表皮組成物(質量%)およびコージエライト表皮またはコーティングを疎水性にするメチルフェニルシリコーン樹脂不動態化材料を中に有する同じ標準的な表皮組成物(これも質量%)が報告されている。
【表1】

【0034】
上述した組成の各々(標準的な表皮および不動態化材料を含む標準的な表皮)からなるサンプル・シートを以下のように製造する。最初に、乾燥した粉末成分をブレンドして、乾燥粉末混合物を形成する。次いで、乾燥粉末混合物に液体成分を加える。両方の場合、スラリーを形成するように、キッチン・エイド社(Kitchen Aid)製の標準的なミキサーを用いて、混合物を完全に混合する。スラリーをテフロン(登録商標)成形型内に注型し、その後、シートを乾燥させて、それぞれ、標準的な表皮組成物および不動態化材料を含有する標準的な表皮組成物のシートを形成する。具体的には、2mm厚で20mm×80mmのサイズのシートを製造する。
【0035】
比較目的のために、水滴を標準的なセラミック・シートと不動態化材料含有セラミック・シートの各々の上に施す。図1および2は、それぞれ、標準的な表皮のシートおよび不動態化セラミックシートの各々に水が有する影響を示す写真である。図1を考察すると、標準的な表皮組成物のサンプル・シートは、水2がはじかれておらず、実際に、基体表面1中に吸収されているのを示している。これは、図2に示す本発明の疎水性表面を含む不動態化材料を含有するセラミック・シートとは正反対である。図2の写真を検討すると、水2aがシートの表面1にビーズ状に残っているのが示される。すなわち、水の吸収が低く、50°より大きい接触角が観察される。
【0036】
実施例2
表Iに詳述された標準的なコージエライト表皮組成物から構成された4つのコージエライト・セラミック・サンプルを製造した。具体的には、2mm厚(100mm×200mm)のシートを形成した。比較のために、第1のシートは不動態化材料により被覆せず、一方で、他の3つのシートは本発明の疎水性コーティングにより被覆した。表IIに報告した本発明のサンプルA,BおよびCに用いた不動態化材料は、それぞれ、シリコーン樹脂(2:1の質量比で、アジピン酸ジエチルの二塩基エステル中に溶解したダウ・コーニング社のDC233シリコーン樹脂)、キリ油、およびMichem4983Rエチレンアクリル酸コポリマーからなるコポリマーを含有していた。本発明のサンプルの各々について、不動態化材料は、基体を飽和させるのに十分な時間に亘り(約1分間)、シートを浸漬することによって、標準的な表皮組成物シート(上述したのと同じ質量%)に施した。
【0037】
4つの基体サンプルの各々(1つは標準で3つは被覆されている)を4時間に亘り硝酸セリウム(CeNO33触媒溶液(720g/L 硝酸セリウム)中に浸漬し、次いで、60℃で一晩乾燥させ、次いで、硝酸セリウムを酸化セリウムに転化させるのに十分な時間に亘り、500℃でか焼した。触媒溶液への露出の前後両方のサンプルの質量を測定した。典型的な結果が表IIに記録されている。吸収された硝酸セリウムの量を表す、表IIにおける「後の質量」は、生じた材料の強度と共に測定した。さらに、4つのサンプルについて、硝酸セリウム溶液への露出の前後両方の、標準的な4点曲げ試験における曲げ破壊強度(MOR)(psiで測定された)を測定し、表IIに記録した。
【表2】

【0038】
表IIの結果を検討すると、本発明の疎水性コージエライト・コーティングを含むサンプルは、触媒溶液を比較的通さず、それゆえ、その水溶液を容易には吸収しないことが分かる。すなわち、露出後の質量パーセントの増加が少なく、MOR強度は、標準的なコージエライト・コーティングを含むサンプル中に観察されるよりは、本発明の不動態化された疎水性コーティング・サンプルA,BおよびCのほうがずっと大きい。未処理の非疎水性サンプルは、その強度を約12%しか維持しておらず、一方で、本発明のサンプルについては、それぞれ、99%、75%および79%の強度が維持されている。弱くなった表皮またはコーティングを有する比較サンプルは、特に、温度変動および表皮とマトリクス材料との間の熱膨張係数の不一致にさらされたときに、亀裂が極めて生じやすい。
【0039】
実施例3
62個のセラミック・ハニカム・サンプルを製造した(31個はコージエライトからなり、31個はチタン酸アルミニウムからなる)。各サンプルは、対応する組成のセラミック・ハニカムから切断した8mm×8mm×50mmの棒材からなるものであった。表IIIに詳述されるように、31個の異なる不動態化材料の各々をコージエライト・ハニカムおよびチタン酸アルミニウム・ハニカムの棒材に施した。これらのコーティング材料を施すために、各基体を2分間に亘り室温で希釈コーティング材料溶液中に浸漬した。使用したコーティング材料/不動態化コーティング濃度が表IIIに詳述されている。IPA中10%は、10%のイソプロピルアルコール希釈溶液を表し、H2O中10%は10%の脱イオン水希釈溶液を表し、100%は全強度の材料溶液を表す。次いで、過剰のコーティングを、圧縮窒素を用いてサンプルから吹き飛ばした。次いで、被覆サンプルを、最低で2時間に亘り、60℃で循環炉内で乾燥させた。
【0040】
基体に施されたコーティングの疎水性を測定するのに用いたテストは、接触角測定であった。最初の接触角を、2μLの脱イオン水の水滴を用いて、VC2500XE(マサチューセッツ州、ビルリカ所在のASTプロダクツ社)で測定した。コージエライトおよびチタン酸アルミニウムの各基体についての対応する接触角が表IIIに報告されている。
【表3−1】

【表3−2】

表IIIを検討すると、不動態化材料を含む被覆サンプルの全て(コージエライトおよびチタン酸アルミニウムの両方)が、50°より大きい接触角を示し、それゆえ、水性媒質の低い吸収を示したことが分かる。比較のために、不動態化コーティングを含まず、表面に施された2μLの脱イオン水の水滴を直ちに吸収したサンプル31に留意されたい。
【0041】
本発明を、特に好ましい特定の実施の形態を参照して説明してきたが、これらの実施の形態は、例示のみのためであり、添付の特許請求の範囲で実施される限り、本発明を制限することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】非疎水性コージエライト表皮またはコーティング上の水の吸収効果を示す写真
【図2】本発明の疎水性コージエライト表皮またはコーティング上の水の非吸収効果を示す写真
【符号の説明】
【0043】
1 表面
2,2a 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性コーティングを含むマルチセルラ・セラミック体を含む触媒支持構造体であって、前記疎水性コーティングにより、液体の触媒コーティング混合物および該コーティング混合物を施すプロセスに用いられる水性媒質の吸収が少ない被覆セラミック体が得られることを特徴とする触媒支持構造体。
【請求項2】
前記疎水性コーティングが前記セラミック体の外皮部分の内部またはその上に形成されることを特徴とする請求項1記載の触媒支持構造体。
【請求項3】
前記被覆セラミック体が、2μLの脱イオン水の水滴が、前記セラミック体の表面と接触したときに、50°より大きい接触角を示すように低い吸収を示すことを特徴とする請求項1記載の触媒支持構造体。
【請求項4】
前記疎水性コーティングが、不動態化材料を含有するコージエライト・セメントから構成されることを特徴とする請求項2記載の触媒支持構造体。
【請求項5】
前記マルチセルラ・セラミック体がモノリス・セラミック・ハニカムであって、該セラミック・ハニカムが、入口端、出口端、および該入口端から該出口端まで前記セラミック・ハニカムの長手方向に沿って延在する相互に隣接した多数のセルを有し、該セルが多孔質壁により互いから隔てられていることを特徴とする請求項1記載の触媒支持構造体。
【請求項6】
前記入口端のセルの一部および前記出口端のセルの一部が塞がれており、前記入口端のセルの塞がれた部分が、前記出口端のセルの塞がれた部分とは異なり、したがって、排気ガスが、前記入口端で開いたセルを通って、前記セラミック・ハニカムに進入し、前記多孔質壁を通って流動し、前記出口端で開いたセルを通って流出することを特徴とする請求項5記載の触媒支持構造体。
【請求項7】
外部疎水性コーティングを有する被覆触媒支持構造体を製造する方法であって、
a. 焼成されたマルチセルラ・セラミック体を提供し、
b. 前記マルチセルラ・セラミック体に、セラミック・セメントから構成された外皮コーティングを施し、
c. 得られた被覆されたマルチセルラ・セラミック体を乾燥させて、その上にセラミック・セメント表皮コーティングを形成し、
d. 前記セラミック・セメント表皮コーティングおよび/または前記マルチセルラ・セラミック体全体に、不動態化材料を含む液体コーティングを施し、
e. 被覆されたマルチセルラ・セラミック体を再度乾燥させる、
各工程を有してなる方法。
【請求項8】
前記マルチセルラ・セラミック体上に疎水性コーティングを製造するのに少なくとも十分な時間に亘り、少なくとも60℃の温度で前記乾燥した被覆されたマルチセルラ・セラミック体を熱処理する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理工程を、3時間に亘り、約60〜500℃の温度で行うことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記不動態化材料を含む液体コーティングを施す工程が、浸漬、シャワーリング、吹付け、ローリング、ブロッティングおよび噴射のいずれかを含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記不動態化材料が、シリコーン樹脂、ウレタン、油、シラン、ワックス、炭素、炭素煤およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項12】
外部疎水性コーティングを有する被覆触媒支持構造体を製造する方法であって、
a. 焼成されたマルチセルラ・セラミック体を提供し、
b. 前記マルチセルラ・セラミック体の外面に、中に不動態化材料を有するセラミック・セメントを含む疎水性コーティングを施し、
c. 得られた被覆されたマルチセルラ・セラミック体を乾燥させる、
各工程を有してなる方法。
【請求項13】
質量パーセントで表して、50〜65%の粉砕コージエライト、0.1〜1%のメチルセルロース結合剤、1〜6%のコロイドシリカ、0〜20%のアルミノケイ酸塩繊維、10〜20%の水、0.1〜1%のレオロジー改質剤および1〜6%の、シリコーン樹脂、ウレタン、油、シラン、ワックス、炭素、炭素煤およびそれらの混合物からなる群より選択される不動態化材料を含む、触媒支持構造体を被覆するためのコージエライト組成物。
【請求項14】
質量パーセントで表して、50〜60%の粉砕コージエライト、0.1〜1%のメチルセルロース結合剤、3〜5%のコロイドシリカ、13〜20%のアルミノケイ酸塩繊維、18〜20%の水、0.4〜0.6%のレオロジー改質剤および4〜6%の不動態化材料を含むことを特徴とする請求項13記載のコージエライト組成物。
【請求項15】
質量パーセントで表して、55.5%の粉砕コージエライト、0.5%のメチルセルロース結合剤、3.5%のコロイドシリカ、15%のアルミノケイ酸塩繊維、19.5%の水、0.5%のレオロジー改質剤および5.5%の不動態化材料を含むことを特徴とする請求項14記載のコージエライト組成物。
【請求項16】
外部疎水性コーティングを有する被覆触媒支持構造体を製造する方法であって、
a. 焼成されたマルチセルラ・セラミック体を提供し、
b. 前記マルチセルラ・セラミック体の外面に疎水性コーティングを施し、
c. 得られた被覆されたマルチセルラ・セラミック体を乾燥させる、
各工程を有してなる方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−522919(P2007−522919A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547138(P2006−547138)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/042199
【国際公開番号】WO2005/065199
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】