説明

疾患とその症状をCOX−2阻害によって治療するためのマスリン酸の使用

本発明は、COX−2の活性化と関連する疾患の過程の治療のための、マスリン酸、又は天然、合成もしくは半合成のマスリン酸に富む混合物、又は前記酸を含む組成物の使用に関し、関節症、リウマチ様関節炎、線維筋痛症、座骨神経痛、及び、特にその他の診断が困難な骨関節疾患の症候性治療及び/又は再生治療に関する。本発明は、またこれらの局所投与に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内因性のシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の阻害を含む病的過程の治療のためのマスリン酸及びその誘導体の使用に関する。より詳しくは、症候性及び/又は無症候性の関節症、リウマチ様関節炎、線維筋痛症、座骨神経痛並びに他の骨関節不快感に対するものである。また、マスリン酸、その誘導体のいずれか、又はマスリン酸もしくはその誘導体に富む、天然、合成、半合成の混合物を含む組成物の局所投与に関する。
【背景技術】
【0002】
オレアノール酸(3−ベータ−ヒドロキシ−12−オレアネン−28−オイック酸)は、植物界に広範囲に分布しているトリテルペン酸である。したがって、アメリカ合衆国農務省(USDA)の植物化学物質のデータベースには、我々の知るオリーブなどのおよそ100の植物にそれが存在することと共に、一連の確認された生物活性(抗流産、抗齲蝕、抗受精、抗肝毒、抗炎症、抗肉腫、癌予防、強心作用、利尿効果、肝保護、子宮収縮)が記録されている。
【0003】
また、マスリン酸(2−アルファ,3−ベータ−ジヒドロキシオレアナ−12−エン−28−オイック酸)は、クラテゴール酸とも呼ばれ、自然界にはほとんど分布しない酸であり、約10の植物で検出されている。その活性は抗ヒスタミン性や抗炎症性として知られているが、その希少性から、十分に研究されていない。前もってクロロホルムで洗浄したオリーブのマスリン抽出物を介したオリーブ果実の表面ワックスのオレアノール酸とマスリン酸の単離が非特許文献1に記載されている。このタイプの酸の分離は、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)によって説明されている(非特許文献2)。
【0004】
【化1】

【0005】
今日では、マスリン酸が活性成分として作用するという多くの特許が存在している:抗腫瘍薬(特許文献1又は特許文献2)、アポトーシス誘導物質(特許文献3)、食欲抑制食物(特許文献4、特許文献5)、皮膚の外用薬及び美白薬(特許文献6)、血管病変(特許文献7)。
【0006】
いくつかの文献では、このトリテルペンが抗炎症活性をも有するであろうことが示されている(非特許文献3)。また、この文献では、マスリン酸が、LPS刺激されたマウス腹腔内マクロファージにおけるIL−6及びTNFαの放出、並びにNO及び過酸化水素(ROS)の産生を抑制することも記載されている。著者は、ヒト末梢血単核球ではこの効果が見られないとしている。いずれの場合も、これらの矛盾が明らかに示すのは、答えが一様ではないことであり、したがって、それは予測不可能であり、組織モデル及び/又は組織タイプの研究が必要とされる。
【0007】
一方で、広範囲に分布し、それら全てがプロスタン酸を誘導するプロスタグランジンを生成する前駆体において環を形成し酸素を導入できる酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の代謝経路の後に、プロスタグランジンはアラキドン酸(他の不飽和脂肪酸C20は、エイコサノイドと呼ばれる)から合成される。十分に特定された2つの異なるタイプのCOX−1及びCOX−2というシクロオキシゲナーゼが存在する。COX−1は多くの組織で構成的に発現し、重要な生理学的機能を制御している。例えば、COX−1は内皮と胃粘膜においてプロスタグランジンの生成を触媒し、抗血栓及び細胞保護の効果をそれぞれ導く。誘導型のCOX−2は、ほとんどの組織で検出されない。COX−2は、COX−1をコードする遺伝子と異なる遺伝子に由来する特異的なアイソフォームである。COX−2の発現は、発生や炎症の期間において上昇するが、脳を除いてほとんどの組織において構成的な発現は低いままである。
【0008】
プロスタグランジン、特にPGEは、複数の生理機能及び生理病理機能を実現させる。すなわち、低濃度のPGEは、正常な胃粘膜の健全性と、流体及び電解質の恒常性を保つので、炎症過程におけるこのメディエータの濃度は示唆されている。
【0009】
アラキドン酸の他の代謝物はイソプラスタンである。これらの代謝物は構造的にはプロスタグランジンと同じであり、細胞膜の脂肪酸の酸化によって生成される。
【0010】
最近では、イソプラスタンが最も良い細胞と酸化ストレスの系統的なマーカーの1つを示すことが広く知られている。マスリン酸の酸化防止作用が示されているので、この化合物がイソプラスタンの形成を阻害することは可能である(非特許文献3、非特許文献4)。
【0011】
リウマチ様関節炎のための治療に関して、メリーランド大学メディカル・センターによると、この治療は基本的にCOX−2阻害剤を用いて行うことができ、COX−2阻害剤は炎症を助長するCOX−2と呼ばれる酵素を阻害するが、局所のための効率的な治療としては完全でないとしている。最初、このタイプの薬剤は、胃を傷めることがほとんどなく、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)と同様に作用すると考えられていた。しかしながら、多くの心臓発作や脳卒中の報告により、FDAがCOX−2のリスクと利益の関係を再評価することになった。ロフェコキシブ[Vioxx(商標)]及びバルデコキシブ[Bextra(商標)]は、それらが投与された患者の心臓発作の報告があった後、アメリカでの販売が中止になった。セレコキシブ[Celebrex(商標)]は、現在でも販売されているが、強い警告ラベルが添付され、可能な限りの少ない用量と短い期間で処方されることが推奨される。患者は、この薬剤が自分にとって適切で安全であるかどうかを医師に尋ねなければならない。
【0012】
また、ヒドロキシクロロキン[Plaquenil(商標)]やスルファサラジン[Azulfidine(商標)]などの抗マラリア薬も一般的に、メトトレキサートとの併用において有用である。しかし、この薬剤の効果が現れるには何週間も、何カ月間もかかることがあり、それは毒性の副作用に関連しているので、これらの薬剤を使用している間は、頻繁に血液検査を受けることが必須となる。
【0013】
腫瘍壊死因子(TNF)阻害物質は、自己免疫疾患を治療するために使用される比較的新しい薬物のタイプである。それらは特に以下のものである。エタネルセプト[Enbrel(商標)]、インフリキシマブ[Remicade(商標)]及びアダリムマブ[Humira(商標)]。アダリムマブ及びエタネルセプトは注射剤であり、またインフリキシマブは静脈内に投与される。
【0014】
別の比較的新しい薬剤としては、炎症性蛋白質インターロイキン−1を阻害する人工蛋白質である注射剤のアナキンラ[Kineret(商標)]がある。この薬剤は、1剤以上のDMARD(疾患修飾性抗リウマチ薬)が無効であった18歳以上の進行性リウマチ患者において、中等度から重症への進行を抑制するために使用される。Kineretは、別のDMARD又は腫瘍壊死因子阻害物質とともに使用することができる。
【0015】
アザチオプリン[Imuran(商標)]や、シクロホスファミド[Cytoxan(商標)]などの免疫系を抑制する他の薬剤は、他の治療法が成功しなかった人に対して時々使用される。一般的に、毒性の副作用を有するこれらの薬剤は、リウマチ様関節炎が重症な場合に備られている。
【0016】
直接軟骨細胞に作用し、関節症、リウマチ様関節炎又はその他の診断が困難な骨関節疾患に対して、発現した症状を短時間で長期的に消失できる効果的な治療を実現する症候性治療及び/又は再生治療のための効果的で投与が容易な治療はまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/153538号
【特許文献2】国際公開第0252956号パンフレット
【特許文献3】国際公開第0357224号パンフレット
【特許文献4】国際公開第203039270号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03011267号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/133958号
【特許文献7】国際公開第02078685号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Bianchi, G., Pozzi, N. And Vlahov, G. Phytochemistry (1994) 37, 205-207
【非特許文献2】Du, Q.Z., Xiong, X.P. and Ito, Y.; Journal of Liquid Chromatography (1995) 18, 1997-2004
【非特許文献3】Marquez-Martin A, De La Puerta R, Fernandez-Arche A, Ruiz-Gutierrez V, Yaqoob P. Cytokine. (2006) Dec; 36 (5-6):211-7
【非特許文献4】Montilla MP, Agil A, Navarro MC, Jimenez MI, Garcia-Granados A, Parra A, Cabo MM. Planta Med. (2003) May;69(5):472-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)酵素の活性化を含むあらゆる病状の治療のためのマスリン酸とその誘導体のいずれかの使用について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この意味で、本発明では、ヒトの軟骨細胞で誘導されるCOX−2活性の阻害物質としてのマスリン酸の活性が示され、したがって、前記のCOX−2酵素の活性化を含む疾患の治療におけるこの酸の有用性も示される。
【0021】
また、マスリン酸はこのタイプの疾病に関連する炎症を単に低下させることは出来ないが、症状の減少又は消失及び持続的な効果を示す軟骨細胞組織再生において介在することも示される。
【発明の効果】
【0022】
前述のように、本発明では、マスリン酸やその誘導体のいずれかを含む組成物を用いた、関節症、リウマチ様関節炎、線維筋痛症、座骨神経痛、ジャンパー症候群、中足指節関節の隆起(腱膜瘤)などの疾患の症候性治療及び/又は再生治療や、COX−2用の特定のNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)に対する反応の過程について言及する。この治療は簡単な投与により実施され、特に直接的に軟骨細胞又は影響を受けた組織に作用するので効果的である。特に、本発明では、症状を短時間で長期的に消失できる関節症とリウマチ様関節炎の症候性治療及び/又は再生治療の有効性が示される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ヒト単球でのPGE−2産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図2】ヒト単球のCOX−2発現におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図3】ヒト単球のCOX−2活性におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図4】SK−N−SH細胞のPGE−2産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図5】初代アストロサイトのPGE−2産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図6】COX−2の転写活性におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図7】ヒト単球のCOX−2発現におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図8】軟骨細胞のPGE−2産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図9】軟骨細胞のIL−6産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図10】単球のPGE−2産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図11】P+Iによって誘導されるIL−6プロモーター活性化におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図12】IL−1によって誘導されるIL−6プロモーター活性化におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【図13】初代単球のイソプロスタン産生におけるマスリン酸の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、局所投与でもその治療の有効性が示される。COX−2の他のNSAID阻害物質は局所投与したときには有効性を示さず、その上、他の方法による投与は重篤な副作用があるので、この事実を強調することは重要である。
【0025】
天然に又は合成的にマスリン酸を得ることができる。このマスリン酸を含む組成物には、定義的に、マスリン酸を含む植物抽出物、植物もしくはその果実の工業的処理の副産物の抽出物又は植物に本来存在するよりも高濃度のマスリン酸を含む植物の工業副産物の使用が含まれる。これには制限されないが、例えば、オリーブ属、特にオリーブ種の植物抽出物である。このタイプのマスリン酸の他に、その誘導体も使用できる。ここで本発明における誘導体とは、治療される組織における吸収及び輸送が促進された、薬剤として許容できるこれらの塩又は誘導体である。特に、それらのナトリウム塩、カリウム塩、又は生物学的に許容できるアミンの塩である。
【0026】
これらの事実は実施された以下の経験により示される。
・ 末梢血の初代培養ヒト単球のCOX−2タンパクの発現に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・ 末梢血の単球のCOX−2酵素活性に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・ 末梢血の初代培養ヒト単球のイソプロスタンの形成に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・ 初代培養ヒト軟骨細胞のPGE2放出に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・ 初代培養ラットのアストロサイト及びSK−N−SH神経芽腫細胞株のPGE2放出に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・ COX−2遺伝子の転写調節及び初代培養アストロサイトのCOX−2タンパクの発現に対するマスリン酸とその誘導体の効果が測定された。
・萎縮症、関節症、関節炎、線維筋痛、腱症に罹患した患者において、とりわけin vivoにおける治療効果、特に局所投与による効果を証明する臨床試験が実施された。
【0027】
時として、治療された患者に対する事前の診断はそれほど正確ではなく、時として、その症状は単に前述の診断に使用された手段であることを考慮に入れる必要がある。
【0028】
COX−2の機能性とPEG2の産生がいくつかの段階で制御され、初代培養ヒト単球ではマスリン酸がPGE2の産生を阻害することから、特定の動物モデルを用いた実験の前の事前段階として、in vitroの異なった細胞株でCOX−2の発現や機能に対するこのトリテルペンの影響を詳細に検討した。ゆえに、最初に、ヒト軟骨細胞でのCOX−2誘導の阻害におけるマスリン酸のin vitro作用が示され、特に関節症、関節炎又は線維筋痛症の患者での臨床試験が実施され、これらの症候群を示す領域への簡単な局所投与においてさえ、マスリン酸及びその塩の驚くべき効果が示された。実際、60歳未満の全ての関節症患者で、症状の改善が認められ、投与の1カ月以内に症状は完全に寛解した。それに加えて、すべての症例で、関節症候群特有の石灰化のゆるやかな再吸収が、まさに症状的に認められた。
【0029】
80%以上の症例において、症状に関する効果は、24/48時間内、2〜6回の局所投与で顕著に始まった。例えば指に明らかな炎症を有する患者の関節(痛みや硬直)における症状の改善の他に、投与された領域で数分後に体温が上昇し、患者が直ちに体験した血液循環の増加を明白に示した。
【0030】
マスリン酸は、TCRを介して刺激されたTリンパ球の活性化と増殖を抑制し、炎症性サイトカインであるTNFα及びIL−6の産生を抑制し、またそれ以外にも初代培養単球のプロスタグランジンE2(PGE2)の産生を抑制するため、免疫応答の強力な免疫修飾物質であることが証明された。また、自然免疫及び獲得免疫反応に抑制的に作用するマスリン酸濃度は、腫瘍細胞株のアポトーシスを誘導する濃度よりも顕著に低いことが認められた。
【0031】
本発明において得られた結果の結論について、実施例の欄では以下のことが示されている。
1.マスリン酸はヒト単球でのPGE2産生を抑制する。
2.マスリン酸はCOX−2の酵素活性を抑制する。
3.マスリン酸はCOX−2の遺伝子プロモーターの転写活性又はタンパク発現を抑制しない。
4.高用量のマスリン酸は軟骨細胞及び神経芽腫由来細胞のPGE2産生を抑制する。
5.マスリン酸はヒト単球でのイソプロスタン産生を抑制する。
6.マスリン酸はヒト単球と軟骨細胞でのIL−6産生を抑制する。
7.マスリン酸によるIL−6産生の抑制はIL−6遺伝子の転写阻害によるものではない。
【0032】
骨関節が関節軟骨及び毛細血管又は神経末端を含まない組織で覆われていることを考慮に入れなければならない。全容積の1〜2%を示し、その機能が細胞外マトリックスタンパクの合成である軟骨細胞を含む当該関節軟骨によって、関節運動の間、骨間の摩擦は最小化される。このマトリックスは70〜80%の水を含み、圧力緩和に役立つ構造を可能にしている。水分子と硫酸化ムコ多糖の静電的相互作用が、軟骨の水和の維持に必要である。したがって、ヒアルロン酸高分子によって円滑にされたプロテオグリカンは、軟骨保護を維持する物質である。グルコサミノグリカンとプロテオグリカンは、プロテオグリカンも産生する軟骨細胞によって産生されるコラーゲン繊維と密接な関係を維持する。
【0033】
このすべてについて、本発明の最初の形態は、COX−2の活性化を含む疾患の治療用の薬物の製造のための、上で説明した広義のマスリン酸又はその誘導体のいずれかの使用について述べる。
【0034】
本発明の別の形態は、軟骨細胞組織の再生も助ける薬物の製造のためのマスリン酸又はその誘導体のいずれかの使用について述べる。
【0035】
本発明の好適実施形態では、COX−2の活性化を含む疾患、及び/又は、軟骨細胞組織再生が起こる疾患が以下のリストから選択される:関節症、リウマチ様関節炎、座骨神経痛、線維筋痛症、外反母趾又は中足指節関節の隆起(腱膜瘤)、膝蓋骨腱炎(ジャンパー膝)、COX−2に特異的なNSAIDに反応する他の疾患。より多くの好適実施形態には関節症又はリウマチ様関節炎の治療のためのその使用が含まれる。
【0036】
本発明の別の形態は、COX−2の活性化を含む疾患の治療のための広義のマスリン酸(塩、代謝物、それを含む植物の抽出物、植物又はその果実の工業的処理の副産物の抽出物、又はこれらの組成物のいずれかの工業副産物又は組み合わせ)又はその誘導体のいずれかを含む医薬品組成物について述べる。より詳しくは、このCOX−2阻害を介することは、ヒト又は動物の軟骨細胞でのCOX−2酵素の活性化を含む疾患の治療に有用である。
【0037】
好適実施形態では、前記組成物はオレアノール酸及び/又は薬学的に許容できる媒体も含む。より好ましくはマスリン酸とオレアノール酸の比は2:1と6:1の間である。
【0038】
マスリン酸、その塩、薬学的に許容できる誘導体又はそのプロドラッグは適当な薬学的組成で、治療として有効な量で、ひとつ以上の媒体、アジュバント又は薬学的に許容できる賦形剤と共に製剤化される。より詳しくは、マスリン酸又はマスリン酸とオレアノール酸の混合物は全組成の0.5〜10%の間の割合であり、特に0.5〜5%の間であり、とりわけ1〜3%の間である。
【0039】
この組成物は、例えば、腹腔内、経口、口腔内、直腸内、筋肉内、局所、皮下、関節内投与又は吸入などの異なった方法で投与できるが、これには限定されない。
【0040】
より好ましくは、局所、皮下又は骨関節注入で投与される。別の好適実施形態では、前記組成物は局所投与に適合した形態で提供される。
【0041】
各症例において、使用される投与方法に、この組成物を適合させる。したがって、上記の組成物は、タブレット、錠剤、カプセル、溶液、乳剤、クリーム、ボディーミルク、軟膏、吸入剤、スプレー剤、座薬又は臨床的に可能な他の投与形態で、治療上有効な量で提供されうる。より好ましくは、溶液、乳剤、クリーム、ボディーミルク又は軟膏の形態である。
【0042】
別の好適実施形態では、この組成物には、オリーブ属の植物抽出物又はオリーブ属の植物の工業副産物から得られるマスリン酸又はその誘導体のいずれかが含まれる。
【0043】
薬学的に許容できる誘導体とは、任意の塩、薬学的に許容できる、又は投与後にマスリン酸を直接的又は間接的に供与できる任意の他の化合物を意味する。
【0044】
本明細書中で用いられる意味において、「薬学的に許容できる媒体」という表現は、薬学的な投与形態の製造に使用され、固体、液体、溶媒、界面活性剤などを含む製薬業界で公知のこれらの物質又は物質の組み合わせについて言及するものである。
【0045】
本明細書及びクレームに従うと、「含む」という単語及びその変形は、他の技術的な特性、添加物、組成又はステップを除くことを意図しない。対象物についての専門家は、本発明の他の目的、利点及び特徴を本明細書から部分的に導き出し、発明の実施を部分的に形成する。以下の実施例及び図は例示として提供され、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
次に、本発明者らによって実施された評価により本発明を示す。特に、マスリン酸の活性と有効性を明らかにし、上欄で一般的に記述したことを論証する。
【0047】
全ての実施例について使用された化合物、材料及び方法を総じて説明する。
【0048】
1.化合物
マスリン酸はナトリウム塩の形態で使用され、保存液(10mMと50mM)としてDMSO(ジメチルスルホキシド)で溶解される。培養液中のDMSOの最終的な最大濃度は1%(vol/vol)であり、それは測定されるパラメータを干渉する濃度ではない。
【0049】
2.細胞培養
・ 末梢血の初代単球の単離と培養:健康成人のボランティアドナーから得られた末梢血単核球(PBMC)をFicoll−Hypaque法を用いた密度勾配による静脈血遠心によって単離した。その単球をプラスチックに接着させて分離し、その後、50,000細胞/mlの密度で、酵素免疫測定(EIA)実験のために24穴プレートで培養し、イムノブロット法のために6穴プレートで培養した。
・ ヒト初代軟骨細胞の培養:軟骨細胞をPromocell社(ハイデルベルク,ドイツ)から購入し、当該細胞のために調製された培養液で培養した。PGE2とIL−6を測定するために細胞を24穴プレートで培養した。
・ ラットアストロサイトの初代培養:アストロサイトの初代培養は新生ラット(1日目)の脳から調製した。脳の上部を開放し、脳髄膜を繊維芽細胞と共に培養の汚染を避けるために慎重に分離した。大脳皮質を単離し、アストロサイト培養のために調製されたDMEM培地で培養した細胞懸濁液を得た。培養を6穴プレートに広げ、3回又は4回継代したのち、細胞のPGE2産生を測定した。
・ 細胞株の培養:SK−N−SH細胞[米国ティッシュ・カルチャー・コレクション(American Tissue Culture Collection),HTB11]はヒト神経芽腫由来の細胞株であり、2mmol/lのL−グルタミン、抗生物質、10%のFCSを添加したDMEM中で対数増殖期にある。細胞は5%のCO存在下、37oCで培養した。
【0050】
3.ウエスタンブロット
細胞(初代単球又はSK−N−SH細胞)を各事例で示されるように刺激し、50μlの溶解液[20mMヘペス(Hepes)pH8.0,10mM KCl,0.15mM EGTA,0.15mM EDTA,0.5mM NaVO,5mM NaF,1mM DTT,ロイペプチン1mg/ml,ペプスタチン0.5mg/ml,アプロチニン0.5mg/ml,1mM PMSF及び0.5% NP−40]で溶解した。Bradford試薬(Bio−Rad社,リッチモンド,CA,USA)でタンパク濃度を測定し、30μgのタンパクをLaemmli溶液中で煮沸し、10%のSDS/ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。分離したタンパクをニトロセルロース膜に1時間かけて転写した(0.5A,100V,4℃)。0.1%Tween(商標)20と、5%スキムミルクを含むTBS中でこの膜をブロッキングした。異なるタンパクの免疫検出は、異なった一次抗体で2時間インキュベートした後、ペルオキシダーゼを結合した対応する二次抗体で1.5時間インキュベートし、化学発光システムECL[GEヘルスケアライフサイエンス(GE Healthcare Life Sciences)社]を用いて検出することで実施した。
【0051】
4.一時的な感染とルシフェラーゼアッセイ
JetPei(商標)試薬[ポリプラス トランスフェクション(PolyPlus−transfection)社,フランス]を用いて、SK−N−SH細胞にプラスミドCOX−2−LucとIL−6−Lucを使用説明書に従ってトランスフェクションした。両プラスミドには転写活性化マーカーとしてルシフェラーゼ遺伝子を作動させる遺伝子プロモーターが含まれている。実験に依存したトランスフェクション後、細胞を最大24又は48時間通常の条件下で培養維持し、いずれの場合も同じ方法で刺激した。刺激後、細胞を溶解液[25mMリン酸トリスpH7.8,8mM MgCl,1mM DTT,1%Triton(商標)X−100,及び7%グリセロール]を用いて室温で15分間溶解した。Promega社(マディソン,WI,USA)のルシフェラーゼアッセイのシステム説明書に従って、タンパク抽出物中のルシフェラーゼ活性をルミノメーター Autolumat LB9510(Berthold社)を用いて測定した。
【0052】
5.異なった細胞タイプのPGE2産生とCOX−2活性の測定
培養した軟骨細胞、単球及びアストロサイトをいくつかの濃度のマスリン酸の存在下又は非存在下で、対応する活性化物質(IL−1,LPS又はPMA+lonomicine)を用いて指示された時間刺激した。その後、上清を集め、刺激された細胞からのPGEの放出量を測定した。使用説明書に従いPGEをAssay Designs社のEIAシステム(カタログ番号901−001)を用いて測定した。
【0053】
COX−2活性を測定するために、最初に細胞をLPS(10ng/ml)で24時間刺激し、COX−2タンパクの細胞発現を誘導した。その後、培養細胞を洗浄し、新しい無血清の培養液、マスリン酸(異なった濃度)及びアラキドン酸(AA)を添加し15分間培養した。この間に、培養液中に含まれるアラキドン酸からのPGE2産生能によってCOX−2の酵素活性を測定した。
【0054】
6.単球におけるイソプロタンとIL−6産生の測定
培養単球をPGE2産生と同様の方法で刺激し(24時間のLPS刺激)、細胞から放出された8−イソプロスタグランジンF2α(イソプロスタン)又はIL−6のそれぞれの量をCayman社(USA)のEIAシステム(カタログ番号516351)又はPelikine社のEIAシステム(カタログ番号RDI−M1916clb)を用いて使用説明書に従い測定した。
【0055】
実施例1
マスリン酸(MA)は、LPS刺激した単球におけるCOX−2の酵素活性とPGE産生を抑制する。
炎症の過程では、単球は特にTNFα、IL−1β及びIL−6などの多くの炎症誘発性サイトカイン及びロイコトリエン及びプロスタグランジンなどの炎症性メディエーターを産生する。マスリン酸(MA)は、末梢血から得られ、LPS刺激されたヒト単球におけるPGE産生を抑制することが証明されている(図1)。
【0056】
PGE産生に対するマスリン酸の作用機序を特定し、その原因を調べ、その応用を予測するための非常に重要な側面を調べるために、COX−2遺伝子の転写活性及びタンパク発現におけるマスリン酸の影響を検討するための一連の実験を実施した。最初に、末梢血の単球を増殖可能濃度のマスリン酸存在下でLPS刺激し、12時間後、ウエスタンブロット法によりCOX−2発現を検出するために、細胞成分を抽出し、電気泳動にかけた。図2では、マスリン酸がLPSにより誘導されたCOX−2発現を抑制しなかったことが確認できる。
【0057】
COX−2活性の阻害物質としてのマスリン酸作用の可能性に対して、本発明者らは、単球をLPSで24時間処理することによりCOX−2発現を誘導した。その後、細胞を無血清培地で3回洗浄し、増殖可能濃度のマスリン酸と15分間インキュベートした。その後、アラキドン酸(15μM)を培養物に添加し、さらに15分間インキュベートし、EIAによってPGEへの変換を測定した。図3では、COX−2の酵素活性をマスリン酸が濃度依存的に阻害することが見られ、このことは、この細胞タイプでのPGE産生に対するマスリン酸の影響を説明する(図3)。
【0058】
実施例2
初代培養アストロサイトとSK−N−SH細胞株(神経芽腫細胞)のPGE2産生におけるマスリン酸(MA)の2つの効果
次に、COX−2遺伝子プロモーターの転写活性及びSK−N−SH細胞でのタンパク発現に対するマスリン酸の効果を検討した。これらの細胞にCOX−2遺伝子の完全プロモーターによって作動するルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドを一時的にトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、細胞を増殖可能濃度のマスリン酸とインキュベートし、PMA+lomomicineで6時間刺激した。その後、細胞溶解液のルシフェラーゼ活性を測定し、COX−2遺伝子の転写活性にマスリン酸が影響を及ぼさないことが観察された(図5)。
【0059】
SK−N−SH細胞のCOX−2タンパクの誘導性発現はマスリン酸の存在に影響されなかった(図6)。
【0060】
実施例3
IL−1で刺激されたヒト軟骨細胞のPGE2及びIL−6産生におけるマスリン酸(MA)の影響
炎症の現象に関与する他の細胞タイプのPGE2産生に対してもマスリン酸が影響を及ぼすかどうかを調べるために、初代培養ヒト軟骨細胞に対するマスリン酸の抗炎症活性を検討した。細胞を増殖可能濃度のマスリン酸で処理し、その後、IL−1(10U/ml)で刺激し、PGE及びIL−6放出を測定した。図7に、軟骨細胞をIL−1で刺激した後のPGE産生に対してマスリン酸が2つの効果を有することが示されている(図7)。低用量(0.1及び1μg/ml)ではPGE2産生は増加し、一方、高用量(25及び50μg/ml)ではIL−1により誘導されたこのプロスタグランジンの放出が完全に阻害された。
【0061】
これに対して、同様の細胞でIL−6産生はマスリン酸によって完全に抑制され、それは濃度依存性であった(図8)。
【0062】
これらの結果は、以前、LPSにより誘導されるIL−6がマスリン酸によって抑制されるというヒト単球で見られた結果と完全に一致している(図9)。
【0063】
次に、IL−6放出に対するマスリン酸の抑制効果が前記タンパクをコードしている遺伝子の転写に対する作用のためであるかどうかを検討した。すなわち、IL−6を産生するSK−N−SH細胞に、IL−6の完全プロモーターによって作動するルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクションし、増殖可能濃度のマスリン酸の存在下又は非存在下でIL−1又はPMA+ionomycinの組み合わせで刺激し、処理の4時間後の細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を測定した。図10と図11では、マスリン酸がIL−1プロモーターの転写活性を阻害せず、IL−6放出に対する阻害活性は確実に転写後レベルでの阻害であることが示される(図10及び図11)。
【0064】
実施例4
LPS刺激されたヒト単球でのイソプロスタン産生に対するマスリン酸(MA)の効果
エンドペルオキシド8−イソプラスタグランジンF2α(8−iso−PGF2α)などのイソプロスタンはアラキドン酸の酸化代謝物であり、最近では、酸化ストレスの最も良いマーカーの1つであると考えられている。図12は、マスリン酸が、LPS刺激後の末梢血のヒト単球で産生された8−iso−PGF2α放出を濃度依存的に抑制することを示している(図12)。このデータにより、以前、本発明者らによって示されたマスリン酸の抗酸化作用が確認される。イソプロスタン産生に対するマスリン酸の阻害効果はトコフェロールやトロロックスよりも強く、レスベラトロールと同等である(図13)。
【0065】
実施例5
マスリン酸のナトリウム塩及び種々の割合の混合物、マスリン酸のナトリウム塩とオレアノール酸及び種々の割合のマスリン酸とオレアノール酸(マスリン酸70〜85%、オレアノール酸30%〜15%)の局所投与による臨床試験を実施した。塩を用いた場合、局所投与はボディーミルクに十分に分散させ、遊離酸の場合、beeler基剤をその投与に使用した。オレアノール酸とマスリン酸に濃縮されたオリーブ粉砕物の残渣抽出物と同様にボディーミルクには約0.5〜1.5%の有効成分(塩)が含まれ、クリームには約1.5〜2.5%の有効成分(遊離酸)が含まれた。
【0066】
通常の実験方法に従い、メタノール中のMeONa又はNaOH溶液を用いた基本的な処理によってナトリウム塩を得た。
【0067】
局所投与によって得られた結果のいくつかを表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
結果において「有効」とは、局所投与12〜24時間後の不快感の明らかな減少と関節の柔軟性のかなりの増加を意味し、軟骨領域の有効な抗炎症剤効果を示す。いくつかの症例では、症状の消失は持続的であり、軟骨細胞の再生が示されている。症状に関する効果が、多く症例において最初の投与で認められたのは驚くべきことである。
【0070】
100人以上の患者中、2例だけが「無効」と明確に評価された。まず1例目は、膝と足に20年以上の関節症の病歴がある60歳女性であり、投与2ヶ月後に、彼女は足の不快感の顕著な改善を報告した。もう1例は、膝に重症の不快感を有する85歳を超えた男性であり、治療における改善についての通知はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COX−2の活性化を含む疾患の治療用の薬物の製造におけるマスリン酸又はその誘導体のいずれかの使用。
【請求項2】
軟骨細胞組織の再生用の薬物の製造におけるマスリン酸又はその誘導体のいずれかの使用。
【請求項3】
関節症、リウマチ様関節炎、座骨神経痛、線維筋痛症、膝蓋骨腱炎及び腱膜瘤からなる群から選択される疾患の治療用の薬物の製造における請求項1又は2に記載のマスリン酸又はその誘導体のいずれかの使用。
【請求項4】
マスリン酸又はその誘導体のいずれかを含む、COX−2の活性化を含む疾患の治療用の医薬品組成物。
【請求項5】
薬学的に許容できる媒体を含む請求項4に記載の医薬品組成物。
【請求項6】
オレアノール酸を含む請求項4又は5に記載の医薬品組成物。
【請求項7】
マスリン酸とオレアノール酸の比が2:1〜6:1である請求項6に記載の医薬品組成物。
【請求項8】
局所投与に適合した形態である請求項4〜7のいずれか1項に記載の医薬品組成物。
【請求項9】
前記マスリン酸又はその誘導体のいずれかがオリーブ属の植物の抽出から得られたものである請求項4〜8のいずれか1項に記載の医薬品組成物。
【請求項10】
前記マスリン酸又はその誘導体のいずれかがオリーブ属の植物の工業副産物から得られたものである請求項4〜9のいずれか1項に記載の医薬品組成物。
【請求項11】
前記マスリン酸又はその誘導体のいずれかが全組成の0.5%〜3%の割合で存在する請求項4〜9のいずれか1項に記載の医薬品組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−516457(P2011−516457A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502401(P2011−502401)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/ES2009/000195
【国際公開番号】WO2009/121992
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510257352)
【出願人】(510257411)
【Fターム(参考)】