説明

癌の治療における抗モータリン2抗体と機能性核酸の使用

【課題】新規な癌の治療のための手段を提供すること。
【解決手段】モータリンは不死化細胞や腫瘍組織において発現がアップレギュレートされていた。モータリンの高レベル発現した不死化ヒト細胞は、足場非依存性増殖を示した。特異的な抗モータリン抗体であるK抗体をヌードマウスの腫瘍に注射すると、対照と比べて腫瘍の成長が抑制されるか、腫瘍が縮小した。本発明は、特異的な抗モータリン抗体(K抗体)の腫瘍の治療のための使用、及び免疫毒素等の細胞内への輸送のためのキャリア分子としての使用を提供する。
モータリンが癌治療の標的となることが示された。本発明により、新規で有効な抗癌剤が提供される。また、細胞に内在化される抗モータリン抗体を開発した。これを用いた様々な用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータリン2(mot-2)に結合する抗体を用いた癌の治療と機能性核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞分裂の制御や不死化の機構の解明は、バイオテクノロジーの進歩及び癌の治療において重要である。正常な細胞の細胞分裂の回数は有限であり、最後には分裂的老化(replicative senescence)と呼ばれる永久の増殖停止である代謝的に活性な状態に至る(非特許文献33)。ところが、何らかの機構により遺伝的あるいは後成的な変化が誘発されると、細胞はこの分裂能の限界から逃れて培養中で永久に分裂し続けることができるようになる。これが、細胞の「不死化」とよばれる状態である。極まれにではあるが、細胞は自然発生的に不死化することもある。細胞分裂の開始と停止が分子レベルでどのように調節されているのか、現在、完全には解明されていない。例えば、ウィルス性の癌遺伝子の発現の結果、細胞の寿命が伸び、その後細胞は「危機(crisis)」と呼ばれるステージに入る。「危機」を逃れることのできる細胞は僅かであり(10−6から10−9の頻度)、大抵は不死化されてしまう。細胞の不死化や悪性変異、腫瘍の成長や発達における分子レベルの事象は未だ明確になっていない。テロメラーゼをはじめとする細胞内因子に関する研究が注目されているが、テロメラーゼ非依存性のテロメアの維持を伴う不死化、さらにはテロメアとは無関係な何らかの老化メカニズムの存在及びテロメラーゼ活性に依存しない遺伝子や経路の役割についても多くの研究が示唆している(非特許文献34−38)。
【0003】
モータリンは、細胞内情報伝達や細胞分化、細胞分裂の制御等様々な細胞内機能に関与するタンパク質である。モータリンは、マウス由来の正常な繊維芽細胞の細胞質画分に存在するhsp70ファミリータンパク質の一つとして、先ず遺伝子が単離され(非特許文献1)、続いて、不死化繊維芽細胞の細胞質画分にはこのタンパク質が存在しないことが明らかにされた。正常な繊維芽細胞から単離したモータリンの全長タンパク質に対して抗体を作成し(非特許文献1)、その抗体を用いて免疫蛍光染色を行うと、正常細胞では細胞質が染色された。これに対して、不死化細胞では、核周辺部が染色された(非特許文献2)。
そして、マウス不死化細胞のcDNAの免疫クローニングと、正常細胞から単離された配列との比較により、カルボキシル末端のアミノ酸2残基だけ異なるタンパク質をコードする2つのモータリン遺伝子(mot-1及びmot-2)の存在が明らかとなった(非特許文献3)。mot-1(モータリン1)は正常細胞、mot-2(モータリン2)は不死化細胞に存在し、モータリンタンパク質の特徴的な局在に関与している。
【0004】
NIH 3T3細胞を用いた研究により、これら2つの遺伝子のcDNAが対照的な生物学的活性を生じることが示された。mot-1(モータリン1)の発現は細胞老化様の表現型を引き起こした。一方、mot-2(モータリン2)の過剰発現は悪性変異を引き起こすことが、ヌードマウスアッセイにより明らかとなった(非特許文献4)。
モータリンについての研究の初期には、mot-1とmot-2が2つの別の遺伝子なのかあるいは対立遺伝子なのかは明らかではなかった(非特許文献5、6)。最終的な答えは、マウスの家系調査から得られ、2世代における2つの遺伝子座の分離が示されたことから、mot-1とmot-2はマウスにおいて同座の対立遺伝子であることが示された(非特許文献7)。
【0005】
モータリン2はまた、PBP74(非特許文献8)、mtHSP70(非特許文献9)、GRP75(非特許文献10)としても同定された。モータリン2はストレス応答(非特許文献10−15)、細胞内輸送(非特許文献11)、抗原プロセッシング(非特許文献8)、細胞増殖の制御(非特許文献3、4、12)、in vivo腎毒性の調節(非特許文献13、14)、分化(非特許文献15)、腫瘍形成(非特許文献4、16)などの多岐にわたる機能における関与が指摘されている。
特に、モータリン2は腫瘍サプレッサータンパクであるp53に結合してその転写活性機能を不活性化することが示された(非特許文献17)。このようなp53の不活性化が、NIH
3T3細胞の悪性変異(非特許文献4)や正常ヒト繊維芽細胞の寿命延長の原因の一部であると考えられている(非特許文献18)。モータリン2がテロメラーゼと協力してヒト包皮繊維芽細胞を不死化させることも示されている(非特許文献19)。
【0006】
マウス細胞とは対照的に、ヒト細胞には一種類のモータリンしかなく、それはマウスモータリン2(mot-2)に類似の活性を有しているためhmot-2と呼ばれる(非特許文献4)。マウス及びヒトの両方で、モータリンは複数の細胞内部位に配置されているため、モータリンタンパク質の細胞内分布の局在化を司る少なくとも2つのメカニズムの存在が示唆されている(非特許文献20)。第一のメカニズムは相異なるcDNAの存在によるものであり、マウスにおいて見出されている2つの対立遺伝子であるmot-1及びmot-2による。
【0007】
第二のメカニズムは、マウス及びヒトの両方に見出される未だ不明のタンパク質修飾か細胞因子によるものであろうと推測される。
抗体を用いた染色によりモータリンを検出すると、正常細胞では細胞質全体に分布し、不死化細胞と腫瘍細胞では細胞核の周りに集まって存在していることがヒト及びマウスで共通して確認された。ヒトのin vitro変異腫瘍由来細胞は非細胞質全体型のモータリン染色のパターンを示すのに対し、正常細胞は細胞質全体型の染色パターンを示す(非特許文献21)。SUSM1細胞にクロモソーム7を導入することにより細胞老化を誘導すると、モータリンの染色が非細胞質全体型から細胞質全体型へと変化した(非特許文献22)。5-ブロモデオキシウリジンによる細胞老化の誘導でも同様のモータリン染色パターンの転換を示した(非特許文献12、23)。ローダシアニン染色剤処理によってヒト変異細胞が増殖停止した場合にもモータリン染色パターンの変化が見られた(非特許文献24)。これらの研究によりモータリンの細胞内分布が細胞分裂についての表現型と関連することが示された。
【0008】
モータリンの発現レベルが筋肉やミトコンドリアの活性及び分化と相関することを示す研究結果もある(非特許文献25、26)。例えば、ヒトの変異細胞や腫瘍細胞株がモータリンの発現のアップレギュレーションを示すのに対し(4)、HL-60前骨髄白血球細胞の分化誘導中にはモータリンの発現レベルが減少しており(15)、一方、モータリンの過剰発現した細胞は分化の誘導が顕著に減退していた(非特許文献15)。
【0009】
Ssc1pは酵母におけるモータリンの相同体である。Ssc1pは細胞生存能に必須であり(非特許文献27)、特にミトコンドリア輸送において不可欠な機能を担っている(非特許文献28)。Ssc1pは内部ミトコンドリア膜アンカーであるTim-44に結合する、ミトコンドリア輸送装置の必須構成要素である(非特許文献29、30)。Tim-44に変異が起こってmtsp70/Ssc1の動員が不十分となるのは、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて致死的である(非特許文献28)。酵母での研究から、モータリンに関して少なくとも3種類の活性が推定されている。これらに含まれるのは、(i)ミトコンドリア外側のタンパク質のアンフォールディング、(ii)膜電位ΜΔΨによって開始される一方向のミトコンドリア膜透過輸送、(iii)ATP駆動モーターとして作用して移入を完了させることである。モータリンは、誤ってフォールディングされたペプチドのm-AAA及びPIM1プロテアーゼによるミトコンドリア内での分解にも必要とされる。モータリンがミトコンドリア内でmtHSP60及びCPN10シャペロンと協力して、移入されたタンパク質をフォールディングして機能的に有用な形態にすること、そしてmtHSP60のミトコンドリア外の場所での未知の役割に関与することも示唆されている(非特許文献31、32)。これらの報告から、モータリンの機能のうち、腫瘍サプレッサーp53の不活性化に加えて、ミトコンドリア輸送装置及びシャぺロニンとしての機能も細胞分裂の表現型に寄与することが想像される。モータリンは細胞内の異なる部位で分裂を制御する多様な機能を担うタンパク質であると考えられている。
【0010】
細胞分裂、不死化、転移などに関係する癌細胞に特徴的な分子を標的とした、正常細胞への副作用が少ない新規な抗癌剤が待望されている。また、抗癌剤のような、正常細胞も殺してしまうような作用の強い薬剤において、患部の癌細胞だけに輸送され、患部の癌細胞だけを攻撃するような性質を薬剤に持たせることにより、正常細胞の破壊による副作用を防ぐことができるターゲット療法の開発も待望されている。
このような目的にかなう新しい抗癌剤として、有望なのが抗体医薬である。抗体医薬は、患部の殺したい癌細胞だけをその細胞の抗原タンパク質に対応する抗体で狙い撃ちできる。また、目的とする抗原に対して薬剤を送り込むというターゲット療法における利用も可能であり、高い治療効果が期待される。
【0011】
【特許文献1】特開2001−354564号公報
【特許文献2】特願平11−272778号
【特許文献3】特願平11−357545号
【非特許文献1】Wadhwa, R., Kaul, S. C., Ikawa, Y., and Sugimoto, Y. (1993) J BiolChem 268, 6615-6621
【非特許文献2】Wadhwa, R., Kaul, S. C., Mitsui, Y., and Sugimoto, Y. (1993) ExpCell Res 207, 442-448
【非特許文献3】Wadhwa, R., Kaul, S. C., Sugimoto, Y., and Mitsui, Y. (1993) J BiolChem 268, 22239-22242
【非特許文献4】Kaul, S. C., Duncan, E. L., Englezou, A., Takano, S., Reddel, R. R.,Mitsui, Y., and Wadhwa, R. (1998) Oncogene 17, 907-911
【非特許文献5】Michikawa, Y., Baba, T., Arai, Y., Sakakura, T., Tanaka, M., andKusakabe, M. (1993) Biochem Biophys Res Commun 196, 223-232
【非特許文献6】Wadhwa, R., Akiyama, S., Sugihara, T., Reddel, R. R., Mitsui, Y.,and Kaul, S. C. (1996) Exp Cell Res 226, 381-386
【非特許文献7】Kaul, S. C., Duncan, E., Sugihara, T., Reddel, R. R., Mitsui, Y.,and Wadhwa, R. (2000) DNA Res 7, 229-231
【非特許文献8】Domanico, S. Z., DeNagel, D. C., Dahlseid, J. N., Green, J. M., andPierce, S. K. (1993) Mol Cell Biol 13, 3598-3610
【非特許文献9】Webster, T. J., Naylor, D. J., Hartman, D. J., Hoj, P. B., andHoogenraad, N. J. (1994) DNA Cell Biol 13, 1213-1220
【非特許文献10】Merrick, B. A., Walker, V. R., He, C., Patterson, R. M., andSelkirk, J. K. (1997) Cancer Lett 119, 185-190
【非特許文献11】Mizukoshi, E., Suzuki, M., Loupatov, A., Uruno, T., Hayashi, H.,Misono, T., Kaul, S. C., Wadhwa, R., and Imamura, T. (1999) Biochem J 343,461-466
【非特許文献12】Michishita, E., Nakabayashi, K., Suzuki, T., Kaul, S. C., Ogino, H.,Fujii, M., Mitsui, Y., and Ayusawa, D. (1999) J Biochem 126, 1052-1059
【非特許文献13】Bruschi, S. A., and Lindsay, J.G. (1994) Biochem Cell Biol 72, 663-667
【非特許文献14】Bruschi, S. A., West, K. A.,Crabb, J. W., Gupta, R. S., and Stevens, J. L. (1993) J Biol Chem 268,23157-23161
【非特許文献15】Xu, J., Xiao, H. H., and Sartorelli, A. C. (1999) Oncol Res 11,429-435
【非特許文献16】Takano, S., Wadhwa, R., Yoshii,Y., Nose, T., Kaul, S. C., and Mitsui, Y. (1997) Exp Cell Res 237, 38-45
【非特許文献17】Wadhwa, R., Shyichi, T.,Robert, M., Yoshida, A., Reddel, R. R., Nomura, H., Mitsui, Y., and Kaul, S. C.(1998) J Biol Chem 273, 29586-29591
【非特許文献18】Kaul, S., Reddel, R. R., Sugihara, T., Mitsui, Y., and Wadhwa, R.(2000) in FEBS Letters Vol. 474, pp. 159-164
【非特許文献19】Kaul, S. C., Yaguchi, T., Taira, K., Reddel, R. R., and Wadhwa, R.(2002) ECR submitted
【非特許文献20】Ran, Q., Wadhwa, R., Kawai, R., Kaul, S. C., Sifers, R. N., Bick, R.J., Smith, J. R., and Pereira-Smith, O. M. (2000) Biochem Biophys Res Commun275, 174-179.
【非特許文献21】Wadhwa, R., Pereira-Smith, O.M., Reddel, R. R., Sugimoto, Y., Mitsui, Y., and Kaul, S. C. (1995) Exp CellRes 216, 101-106
【非特許文献22】Nakabayashi, K., Ogata, T., Fujii, M., Tahara, H., Ide, T., Wadhwa,R., Kaul, S. C., Mitsui, Y., and Ayusawa, D. (1997) Exp Cell Res 235, 345-353
【非特許文献23】Michishita, E., Nakabayashi, K., Ogino, H., Suzuki, T., Fujii, M.,and Ayusawa, D. (1998) Biochemical And Biophysical Research Communications 253,667-671
【非特許文献24】Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R.,Simpson, R., Maruta, H., and Kaul, S. C. (2000) Cancer Res 60, 6818-6821
【非特許文献25】Ibi, T., Sahashi, K., Ling, J., Marui, K., and Mitsuma, T. (1996)Rinsho Shinkeigaku. ClinicalNeurology 36, 61-64
【非特許文献26】Ornatsky, O. I.,Connor, M. K., and Hood, D. A. (1995) Biochemical Journal 311 ( Pt 1), 119-123
【非特許文献27】Craig, E. A., Kramer, J., Shilling, J., Werner-Washburne, M.,Holmes, S., Kosic-Smithers, J., and Nicolet, C. M. (1989) Mol Cell Biol 9,3000-3008
【非特許文献28】Merlin, A., Voos, W., Maarse, A. C., Meijer, M., Pfanner, N., andRassow, J. (1999) J Cell Biol 145, 961-972
【非特許文献29】Voos, W., von Ahsen, O., Muller, H., Guiard, B., Rassow, J., andPfanner, N. (1996) Embo Journal 15, 2668-2677
【非特許文献30】Krimmer, T., Rassow, J., Kunau, W. H., Voos, W., and Pfanner, N.(2000) Mol Cell Biol 20, 5879-5887
【非特許文献31】Soltys, B. J., and Gupta, R. S. (2000) Int Rev Cytol 194, 133-196
【非特許文献32】Soltys, B. J., and Gupta, R. S. (1999) Trends Biochem Sci 24,174-177
【非特許文献33】Hayflick, L., and Moorhead, P. S. (1961) Exp. Cell Res. 25, 585-621
【非特許文献34】Bryan, T. M., Englezou, A., Dalla-Pozza, L., Dunham, M. A., andReddel, R. R. (1997) Nat Med 3, 1271-1274
【非特許文献35】Reddel, R. R. (1997) Jpn J Cancer Res 88, 1240-1241
【非特許文献36】Wei, S., and Sedivy, J. M. (1999) Cancer Res 59, 1539-1543
【非特許文献37】Oshimura, M., and Barrett, J. C. (1997) Eur J Cancer 33, 710-715
【非特許文献38】Carman, T. A., Afshari, C. A., and Barrett, J. C. (1998)Experimental Cell Research 244, 33-42.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、癌の治療のための新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、モータリンが癌の治療において有用なターゲットとなることを見出し、これにより癌の治療のための新たな手段を提供するという課題を解決した。また、モータリンに対する抗体に、癌細胞選択的な細胞内内在化機能を有するものが存在することを見出し、このような抗体の癌の治療及びその他の用途への適用させる手段を考案した。
【0014】
詳細には、以下の通りである。
モータリンの癌の治療におけるターゲットとしての有用性という観点から、
(1)モータリンは癌の治療において有用なターゲットであり、1)モータリン2タンパク質の発現抑制や中和が癌の治療法に有用であることから、ア)抗モータリン2抗体でモータリン2タンパク質を中和する、イ)機能性核酸(siRNA、shRNA、など)を用いてモータリン2タンパク質の発現を抑制する、ための手段を提供する。また、2)モータリン2タンパク質を利用した抗癌性物質のスクリーニングができる。さらに、3)正常細胞と癌細胞でモータリン2タンパク質の局在が異なることから、抗モータリン2抗体を用いた時の染色パターンの違いから正常細胞と癌細胞の峻別が可能であり、ア)被験物質が癌細胞から正常細胞・老化細胞へ誘導する効果を有するか否かの判定に利用可能(被験物質のスクリーニング)、及び、イ)正常細胞と癌細胞を峻別するキットが提供される。
【0015】
(2)抗モータリン2抗体に癌細胞選択的な細胞内内在化の機能があるものが存在することから、1)キャリアーとして利用でき、ア)抗モータリン2抗体に薬剤を担持させて用いることができ、具体的には、a)薬剤として任意の癌遺伝子の発現を抑制する機能性核酸、b)薬剤として任意のタンパク質機能を抑制する(低分子)化合物、を担持させて用いることができる。また、イ)抗モータリン2抗体に蛍光物質等をつけて用いることもでき、a)癌細胞のライブイメージ化に利用できる。さらに、2)IL-1Rtype1を発現抑制ないし中和すると抗モータリン2抗体の内在化機能が促進されること、も有用である。
【0016】
また、本発明の別の側面として、モータリンに対する抗体(抗モータリン2抗体)及びその用途という観点からは以下のようになる。特に内在化機能を有する抗体は、抗モータリン2抗体を生細胞(ライブセル)に内在化させることによる様々な用途、例えば、癌細胞に対する薬剤キャリアーとしての利用、癌細胞のライブイメージ化の際のキャリアーとしての利用が可能である。あるいは、内在化機能があってもなくてもよいが、モータリンに特異的に結合させることによる様々な用途、例えば、固定した細胞に対して抗モータリン2抗体で免疫染色した時に正常細胞と癌細胞で染色パターンが異なることを利用することができる。
【0017】
本発明者らはモータリン遺伝子の発現レベルが、臨床由来の腫瘍組織及び腫瘍細胞株の大部分においてアップレギュレートされていること、全長モータリン2タンパク質に対する抗体を使用して腫瘍の成長を抑制できること、そしてこの抗体が細胞に内在化されることを発見して本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、モータリン2を中和する物質を有効成分として含む抗癌剤を提供する。さらに本発明は、モータリン2を中和する物質として、モータリン2に結合する抗体を有効成分として含む抗癌剤を提供する。ここで、モータリン2に結合する抗体は、モータリン2の全長タンパク質に対する抗体であっても、5個以上のアミノ酸からなるモータリン2の部分ペプチドに対する抗体であってもよい。また、モータリン2に結合する抗体は、細胞内に取り込まれてモータリン2に結合する抗体であってもよい。
【0019】
本発明はまた、上記モータリン2を中和する物質として、モータリン2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸、及びかかる機能性核酸を有効成分として含む抗癌剤を提供する。このような機能性核酸は、siRNA、二本鎖RNA、または、修飾されたRNA鎖を少なくとも片方の鎖に含むsiRNAまたは二本鎖RNAのいずれであってもよい。
【0020】
さらに、本発明は、モータリンを用いて被験物質の抗癌活性を評価する方法であり、以下の(a)〜(c)のいずれかの工程を含むものを提供する:
(a) モータリン2タンパク質と被験物質を接触させ、接触の強度により評価する工程;
(b) モータリン2遺伝子を発現させた細胞またはその細胞破砕液を、被験物質に接触させ、接触の強度により評価する工程;
(c) モータリン2遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだDNAを有する細胞、および細胞破砕液を、被験物質に接触させ、レポーター遺伝子の発現を指標として評価する工程。
【0021】
さらに、本発明は、モータリンを中和する物質と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法を提供する。この製造方法の一態様において、モータリンを中和する物質は、モータリン2に結合する抗体である。モータリン2に結合する抗体は、モータリン2の全長タンパク質に対する抗体であっても、5個以上のアミノ酸からなるモータリン2の部分ペプチドに対する抗体であってもよい。また、モータリン2に結合する抗体は、細胞内に取り込まれてモータリン2に結合する抗体であってもよい。別の態様において、モータリン2を中和する物質は、モータリン2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸でありうる。このような機能性核酸は、siRNA、二本鎖RNA、または、修飾されたRNA鎖を少なくとも片方の鎖に含むsiRNAまたは二本鎖RNAのいずれであってもよい。
【0022】
さらに、本発明は、上述のモータリンを用いて抗癌活性を評価する方法によって抗癌活性を有すると評価された物質と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子の細胞内へのキャリアとしての、抗モータリン2抗体およびモータリン2結合物質の使用を提供する。
【0023】
さらに、本発明は以下の人工抗体及び複合体を提供する:
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドの単量体、もしくはその単量体を化学的及び遺伝子工学的手法により二量体及び三量体を含む多量体化した人工抗体;
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドを化学的及び遺伝子工学的手法により他の抗体、抗体の一部、または他のタンパク質等との複合体として提供されるキメラ人工抗体;
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドをPEG(ポリエチレングリコール)及びリポソームなどの細胞内への薬物導入物質、及び、放射性物質、毒素、抗癌剤などの小分子に結合させた複合体。
【0024】
さらに、以下の発明も本願の範囲に入る。
以下の(a)〜(d)のいずれかから選択される、生細胞に内在化される抗モータリン2抗体:
(a)全長モータリン2タンパク質を抗原として作製されたポリクローナル抗体
(b)5個以上のアミノ酸からなるモータリン2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作製されたポリクローナル抗体
(c)全長モータリン2タンパク質を抗原として作製されたモノクローナル抗体、又は
(d)5個以上のアミノ酸からなるモータリン2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作製されたモノクローナル抗体
であって、且つ、以下の(1)〜(3)の基準を満たす抗モータリン2抗体:
(1)ウエスタン・ブロッティング法の解析によりモータリン2への反応性と特異性を有すること、
(2)正常細胞は細胞質全体が染色され、癌細胞では核膜周辺が染色される免疫染色のパターンがみられること、及び
(3)細胞内へ内在化されること。
このような抗体を「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」と称する。
【0025】
また、別途、内在化機能を有していてもいなくてもよいが、モータリン2タンパク質の部分ペプチド又は全長ペプチドを抗原として作成され、モータリン2タンパク質に特異的に結合するような抗体を、「モータリン2に特異的に結合する抗体」と称する。
【0026】
これらの抗体を用いて以下の発明を提供する。
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」を有効成分として含む抗癌剤。
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」を小分子のキャリアとして使用することを特徴とする、小分子を細胞内へ移行させる方法。
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」の生細胞への内在化を促進する方法であって、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する工程を含むことを特徴とする方法。
上記方法中、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する工程において、shRNAを使用してIL−1R・type1を発現抑制することを特徴とする方法。
【0027】
具体的には、shRNAは以下(ア)または(イ)であることができるが、これらに限定されない。
(ア)shRNAのターゲットサイトの配列:
5’-ACA AGC CUC CAG GAU UCA U-3’
該ターゲットサイト1)に対応するshRNAの配列:
5’-ACA AGU CUC UAG GAU UCA UGU GUG CUG UCC AUG AAU CCU GGA GGC UUG UUU-3’;又は
(イ)shRNAのターゲットサイトの配列:
5’-GCC UCC AGG AUU CAU CAA C-3’
該ターゲットサイト1)に対応するshRNAの配列:
5’-GCU UUC AGG AUU CAU CAA CGU GUG CUG UCC GUU GAU GAA UCC UGG AGG CUU-3’。
【0028】
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」及び抗癌活性を有する物質を組合わせてなる、抗癌活性を有する物質のキャリアーとして抗モータリン2抗体を使用することを特徴とする、癌のターゲット療法用キット。
上記の癌のターゲット療法用キットにおいて、さらに、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、抗体、及びアンタゴニストからなる群から選択される、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する物質を組合わせてなるキット。
【0029】
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」及び癌細胞をライブイメージ化するために可視化せしめる非蛍光物質又は蛍光物質を組合わせてなる、癌細胞のライブイメージ用キット。
上記の癌細胞のライブイメージ用キットにおいて、さらに、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、抗体、及びアンタゴニストからなる群から選択される、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する物質を組合わせてなるキット。
【0030】
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」を含む、癌の転移治療のための薬剤。
「モータリン2に特異的に結合する抗体」を用いて免疫染色を行うことを特徴とする、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出する方法。
【0031】
「モータリン2に特異的に結合する抗体」、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出するために使用可能なキット。
【0032】
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」を用いて癌細胞をライブイメージ化することを特徴とする、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出する方法。
「内在化機能を有する抗モータリン抗体」、ライブイメージ化に必要な試薬、及び説明書を含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出するために使用可能なキット。
【0033】
被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞を「モータリン2に特異的に結合する抗体」を用いて免疫染色を行い、そして、その免疫染色パターンを観察することによる、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング方法であって、当該免疫染色パターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターンである場合に披検物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質であるとする、スクリーニング方法。
「モータリン2に特異的に結合する抗体」、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニングのために使用可能なキット。
【0034】
被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞を「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」を用いてライブイメージ化を行い、そして、そのライブイメージパターンを観察することによる、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング方法であって、当該ライブイメージパターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターンである場合に披検物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質であるとする、スクリーニング方法。
「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」、ライブイメージ化に必要な試薬、及び説明書を含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニングのために使用可能なキット。
【発明の効果】
【0035】
モータリンが癌治療の標的となることが示された。本発明により、新規で有効な抗癌剤が提供される。また、細胞に内在化される抗モータリン抗体を開発した。これを用いた様々な用途を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(1)モータリン2遺伝子及びタンパク質
本発明において、特に断らない限り、モータリンあるいはモータリン2とは、マウスモータリン2(mot-2)あるいはヒトモータリン(hmot-2)を指す。これらを単にモータリンと称することもある。ヒトモータリンは細胞を悪性変異させるというマウスモータリン2と同様の機能を有する。マウス及びヒトモータリンの遺伝子及びタンパク質は公知である。マウスモータリン(mot-2)については、Wadhwa, R., Kaul, S. C., Ikawa, Y., and Sugimoto, Y. (1993) J Biol Chem 268, 6615-6621.(非特許文献1)に記載されている。ヒトモータリン(hmot-2)については、Bhattacharyya, T. et al. Cloning and subcellular localization of human mitochondrial hsp70. J Biol Chem 270, 1705-10 (1995)に記載されている。マウスとヒトのモータリンはタンパク質レベルで95%以上の高い相同性を有している。
【0037】
(2)モータリン2を中和する物質
モータリン2を中和する物質とは、モータリン2の細胞内における機能を阻害しうる任意の物質を意味する。上述の通り、モータリン2は細胞内において様々な機能を有するが、本発明においては、腫瘍サプレッサーp53を不活性化する機能及び細胞分裂を制御する機能が特に重要である。モータリン2の中和は、モータリンタンパク質の果たす機能の阻害であっても、遺伝子発現の阻害であってもよい。モータリンタンパク質の果たす機能の阻害は、完全な阻害でも部分的な阻害でもよい。遺伝子発現の阻害とは、モータリン遺伝子の転写および/または翻訳の阻止である。
本発明者らはモータリン遺伝子の転写及び発現のレベルが、臨床由来の腫瘍組織及び腫瘍株細胞の大部分においてアップレギュレートされていることを見出した。また、モータリン2に対する抗体を腫瘍に注射すると腫瘍の成長が抑制されることを見出した。腫瘍細胞においてモータリン2を中和することにより、モータリン2の細胞内における機能が阻害され、腫瘍細胞の増殖を阻害することができる。
【0038】
(3)モータリン2に結合する抗体
本発明の一態様において、モータリン2を中和する物質として、モータリン2に結合する抗体を用いることができる。本発明で使用する抗体は、マウスあるいはヒトモータリンの全長タンパク質あるいは部分ペプチドを抗原として、抗体作成のための慣用技術を用いて、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。上述のように、マウスとヒトのモータリンタンパク質は非常に高い相同性を有することから、マウスモータリン2に対して作成した抗体はヒトのモータリンタンパク質を認識し、その逆も同様である。
抗原としてのモータリンタンパク質としては、マウス細胞から単離されたあるいは遺伝子組換えにより生産された全長タンパク質、公知のアミノ酸配列に基き合成された部分ペプチド等を適宜用いることができる。モノクローナル抗体のみを得る場合には、必ずしも精製する必要性はないが、ポリクローナル抗体を得る場合は、HPLC, SDS-PAGEなどの方法により抗原を精製する。
【0039】
ポリクローナル抗体は、ウサギに免疫し、その血液を回収し抗体を作製する技術により作製できる。ここで言うポリクローナル抗体とは、遠心分離した抗血清(IgG粗画分)のことである。この抗血清からさらに抗体のみを精製したい場合には、プロテインAやプロテインGが充填されてある市販のカラムや、抗原であるモータリンタンパク質やペプチドを適当な担体に結合させたアフニティカラムを用いて精製することができる。本発明において「ポリクローナル抗体」という場合は、抗血清(IgG粗画分)並びに精製された抗体の両方を含む。
【0040】
ポリクローナル抗体は、例えば以下のようにして作製可能である。1匹のウサギ当り抗原1〜1.5mgを4回に分けて免疫する。具体的には、抗原を生理食塩液(0.9w/w%NaCl水溶液)を用いて適当な蛋白質濃度(1mg/ml)に調製する。これを完全フロイントアジュバントと容量3:2の比率で混合して油中水型乳剤を作成する。
それぞれの免疫の間隔は、1週間から10日間の間隔で行う。ニュージーランドホワイトラビット(SPF(special pathogen free)、12週齢、雌)2匹に初回免疫として抗原0.5mg/rabbit相当量を足蹠及び側腹部皮下にそれぞれ注射する。追加免疫は、不完全フロイントアジュバントを用いて同様に乳剤を作成して抗原0.25mg/rabbit相当量を家兎の背部皮下に数カ所に分けて注射する。追加免疫は、3回実施する。最終免疫の約10日後に耳動脈又は頚動脈から無菌的に全採血を行い、遠心分離機にかけて血漿を分離する。
【0041】
次に、得られた血漿を温浴中で56℃、30分間加熱処理し、2〜15℃で血漿に0.01M PBS(−)緩衝液(0.1%NaN3を含む0.01Mリン酸緩衝化生理食塩水、pH7.4)を等容量加えて希釈する。そこへ、予めアンモニア水で調製した飽和硫酸アンモニウム水溶液(pH7.4)を希釈液と等容量加える。これを高速冷却遠心機に掛けた後(4℃、30分間、14000rpm;1000×G)、上清を除去する。沈渣に生理食塩液を加えて完全に溶解させてから、透析又はSephadex G25M カラムに掛けて残存する硫酸アンモニウムを除去する。硫酸アンモニウムの除去の確認は、ネスラー試薬(ナカライテスク社製)を用いて行う。次に、冷却した清透化剤 (Friegen, Behringwerke; trichlorotrifluoroethane)を用いて透析内液と等量の清透化剤を混合し、振盪後遠心し、内液層を分取する。この脱脂操作を3回繰り返し、IgG粗画分(ポリクローナル抗体)を得る。
【0042】
本発明者らはモータリンに結合する6つの異なるポリクローナル抗体を作成した(5つは部分ペプチドを抗原とし、1つは細菌で発現させた全長タンパク質を抗原とした)。全長タンパク質に対する抗体であるK抗体を培養液に加えると生細胞内に取り込まれること、すなわち生細胞に内在化されることを見出した。また、本発明者らは、モータリンに対するモノクローナル抗体も作成し、同様に内在化機能を有するものを見出した。
本発明で用いることのできるモータリンと結合する抗体として、このように生細胞に内在化されてモータリンと結合する抗体は特に好ましい。このような抗体(内在化機能を有する抗モータリン2抗体)は、モータリンを中和するという目的以外にも、腫瘍細胞内への小分子のキャリアとしても使用することができる。このような抗体をキャリアとして用いることにより、好適には、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子を腫瘍細胞内へ導入することができる。
【0043】
また、本発明者らは、細胞膜表面に存在するレセプタータンパクであるIL-1receptor(type I)の発現が抑制されると抗体の細胞内内在化が促進されることを見出した。
発明者らは、内在化についての仮説として、以下の理論を構築している。本発明はこの理論に拘束されるものではないが、発明の理解をより容易にするためにここに記載する。
癌細胞ではモータリン2タンパク質が細胞膜表面にも存在している。内在化機能を有する抗モータリン2抗体を細胞培養液に入れて細胞培養すると、抗モータリン2抗体は細胞膜表面上のモータリン2タンパク質と結合する。この抗モータリン2抗体-モータリン2タンパク質からなる複合体が細胞膜から細胞内に移行し、結果的に抗モータリン2抗体が細胞内に内在化する。
【0044】
IL-1receptor(type 1)は細胞膜表面に存在するレセプタータンパクである。癌細胞ではモータリン2タンパク質が細胞膜表面にも存在しているが、 IL-1Rとモータリン2タンパク質はその細胞膜表面上で相互作用(結合)する。 IL-1Rに結合しているモータリン2タンパク質に、抗モータリン2抗体は結合できないため、内在化機能を有する抗モータリン2抗体は癌細胞内に移行することができない。しかし、 IL-1Rとモータリン2タンパク質の相互作用を阻害すると細胞膜表面上のフリーのモータリン2タンパク質が増加する(例えば、阻害方法として IL-1Rの発現を抑制(ノックダウン)したり、抗IL-1R抗体を培養液に添加して細胞膜上の IL-1Rを中和する、など)。「内在化機能を有する抗モータリン2抗体」は、細胞膜上でフリーのモータリン2タンパク質と結合できるチャンスが増加し、従って、その細胞内内在化が促進される。
【0045】
モノクローナル抗体は、均質な抗体を安定に生産できる点で、ポリクローナル抗体よりも好ましい。モノクローナル抗体は、連続細胞培養系により抗体を産生する任意の方法で調製できる。これらには下記のものが含まれるが、これらに限定されない:ハイブリドーマ法(Koehler and Milstein.(1975)Nature,256,495−497)、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosbor et al.(1983)Immunol.Today,4,72;Cote et al.(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)80,2026−2030)、およびEBV−ハイブリドーマ法(Cole et al.(1985)Monoclonal Antibody and Cancer Therapy,Alan R Liss社,p.77−96)。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。
【0046】
ハイブリドーマの作製は、また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV 領域をコードするDNA が得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNA と連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV 領域をコードするDNA を、抗体C 領域のDNA を含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。さらに、適切な抗原特異性および生物活性をもつ分子を得るためには、キメラ抗体とすることも望ましい。キメラ抗体は、例えば以下の文献に記載の方法により、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングして調製することができる。(Morrison et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)81,6851−6855;Neuberger et al.(1984)Nature,312,604−608;Takeda et al.(1985)Nature,314,452−454)。また、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗モータリン2抗体を使用することもできる。このような抗体修飾物は、この分野においてすでに確立された手法により、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができ、抗体の高機能化を図ることができる。
【0047】
本発明の抗体には、抗モータリン2抗体の抗原認識部位を含む人工抗体や複合体も包含される。すなわち、抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドの単量体、もしくはその単量体を化学的及び遺伝子工学的手法により二量体及び三量体を含む多量体化した人工抗体;抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドを化学的及び遺伝子工学的手法により他の抗体、抗体の一部、または他のタンパク質等との複合体として提供されるキメラ人工抗体も含まれる。また、抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドをPEG(ポリエチレングリコール)及びリポソームなどの細胞内への薬物導入物質、及び、放射性物質、毒素、抗癌剤などの小分子に結合させた複合体も本発明において使用可能である。
【0048】
(4)モータリン遺伝子の任意の部位を標的とする機能性核酸
本発明の別の態様において、モータリンを中和する物質として、モータリン遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸を用いることもできる。機能性核酸とは、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、アンチセンス等、特定遺伝子の発現や産物の作用をコントロールする機能を有する核酸分子である。機能性核酸により、遺伝子発現を阻止し、モータリンを遺伝子レベルで中和することができる。モータリン2の公知の配列情報に基き、当業者は例えば以下の文献に基き、これらの機能性核酸を設計することができる。(Wadhwa, R., Kaul, S. C., Miyagishi, M., Taira, K. (2004) Know-how of RNA interference and its applications in research and therapy. Reviews in Mutat. Res. (in press). Wadhwa, R., Kaul, S. C., Miyagishi, M. and Taira, K. (2004) Vectors for RNA interference. Current Opinions in Molecular Therapeutics (in press). Wadhwa, R., Ando, H., Kawasaki, H., Taira, K., and Kaul, S. C. (2003);Conventional and RNA helicase coupled hammerhead ribozymes for mortalin. EMBO Reports, 4, 595-601)
【0049】
(5)モータリン2に結合する抗体を有効成分として含む抗癌剤
モータリン2に結合する抗体を有効成分として含む抗癌剤は、常法にしたがって製剤化することができ(Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, 米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
本発明の抗癌剤には等張化剤として、ポリエチレングリコール;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラフィノースなどの糖類を用いることができる。
【0050】
本発明の抗癌剤には界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0051】
本発明の抗癌剤には、所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。例えば、含硫還元剤としては、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてよい。
本発明の抗癌剤は、これらの成分をリン酸緩衝液などの緩衝液に溶解して調製することができる。好ましいpHは5〜8である。
【0052】
本発明の抗癌剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
本発明の抗癌剤は、溶液製剤であっても、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。
【0053】
本発明の製剤中に含まれるモータリン2に結合する抗体の量は、治療すべき疾患の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できるが、一般には最終投与濃度で0.1μg〜200μg/ml、好ましくは0.1μg〜2mg/mlである。
モータリン2に結合する抗体の一例として、本発明において提供されるK抗体を用いることができる。K抗体の作成の詳細は、後述の実施例に詳しく説明されている。
【0054】
(6)物質の抗癌活性を評価する方法
本発明者らは、モータリンが癌細胞に特徴的な分子であり、癌治療の標的となりうることを見出した。モータリンの発現を中和する物質やモータリンが細胞内で機能するのを妨げるような物質は、抗癌活性を有する物質である可能性がある。したがって、被験物質の存在下でモータリンの発現の強度やモータリンの機能を解析することにより、当該被験物質の抗癌活性を評価することができる。モータリンの発現の強度を解析するためには、ウェスタン分析、ノーザン分析等の遺伝子の発現を解析するための公知の標準的な手段を用いることができる。モータリンの機能は、p53やGRP94その他のモータリン結合タンパク質の活性を調べることにより解析することができる。
【0055】
被験物質の抗癌活性は、具体的には以下のようにして評価することができる。
一態様として、モータリンタンパク質と被験物質を接触させ、その接触の強度により被験物質の抗癌活性を評価することができる。モータリンタンパク質は、遺伝子組換えにより産生されたものでも培養細胞から単離されたものでもよい。接触の強度は、被験物質のモータリンタンパク質への結合量あるいは被験物質のモータリンタンパク質への結合の結果としてのモータリンタンパク質の機能の変化として測定される。被験物質のモータリンタンパク質への結合量は、例えば、抗モータリン抗体を用いたimmunoprecipitation法やimmunodepletion法により測定することができる。これらは特異的な抗体によるモータリンタンパク質の沈降反応に基く方法である。被験物質がモータリンに結合することにより抗体による沈降反応が影響を受ける場合があり、免疫複合体についてのSDS PAGEによりその影響を可視化できる。また別の方法としては、被験物質にセファロースビーズのタグを付けることにより、被験物質とモータリンタンパク質とが結合した”被験物質−モータリン複合体”を直接沈降させることができ、この場合にも、モータリンと被験物質との結合をSDS PAGEゲル上で定量化できる。このような方法を用いた例として、Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R., Simpson, R., Maruta, H., and Kaul, S. C. (2000). Selective toxicity of MKT-077 to cancer cells is mediated by its binding to the hsp70 family protein mot-2 and reactivation of p53 function. Cancer Res 60, 6818-6821.には、MKT007のモータリンへの結合量の測定が記載されている。モータリンタンパク質の機能の変化は、例えば、被験物質がモータリンタンパク質に結合してその機能が中和される結果としてのp53の活性の上昇や、さらにその結果としての細胞増殖の阻害の程度により評価できる。
【0056】
被験物質の抗癌活性を評価する方法の別の態様として、分子生物学的手段によりモータリン遺伝子を導入してモータリンを過剰発現する細胞を作製し、その細胞またはその細胞破砕液を、被験物質に接触させ、接触の強度により評価することができる。接触の強度は、上述のimmunoprecipitation法、immunodepletion法や、セファロースやアガロースのビーズでタグ付された被験物質による直接沈降法を用いて、被験物質のモータリンへの結合量を測定することにより評価することができる。
【0057】
さらに別の態様としては、モータリン遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだDNAを有する細胞、および細胞破砕液を、被験物質に接触させ、レポーター遺伝子の発現を指標として、被験物質の抗癌活性を評価することができる。被験物質がモータリンプロモーターに対して何らかの作用を及ぼすことにより、モータリンの発現レベルが影響を受ける。モータリンの発現レベルを低下させるような影響を与える物質は、モータリンを中和する物質であり、抗癌活性を有する物質である可能性がある。モータリン遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだDNAは、分子生物学の分野における慣用法に従い、公知のモータリン遺伝子配列に基きルシフェラーゼやβ-gal等の通常用いられるレポーター遺伝子をつないで作製したプラスミドとして構築することが可能である。
【0058】
(7)小分子キャリアとしてのモータリン2結合物質の使用
モータリンが腫瘍細胞に特異的に発現することから、細胞に入り込んでモータリンに特異的に結合する物質を、腫瘍細胞内への小分子のキャリアとして使用することができる。モータリンに特異的に結合する物質としては、上述の生細胞内に内在化される抗モータリン抗体の他に、以下の文献に記載されるMKT007等の「モータリン2結合物質」も用いることができる。Wadhwa, R., Colgin, L., Yaguchi, T., Taira, K., Reddel, R. R., and Kaul, S. C. (2002). Rhodacyanine Dye MKT-077 Inhibits in Vitro Telomerase Assay But Has No Detectable Effects on Telomerase Activity in Vivo. Cancer Res 62, 4434-4438; Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R., Simpson, R., Maruta, H., and Kaul, S. C. (2000). Selective toxicity of MKT-077 to cancer cells is mediated by its binding to the hsp70 family protein mot-2 and reactivation of p53 function. Cancer Res 60, 6818-6821。
【0059】
例えば、低分子化合物、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド(siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、アプタマー、ダンベルDNAなど)を細胞内移行させるために、抗モータリン抗体(モノクロ・ポリクロどちらでも)やその他のモータリンに特異的に結合する物質を使用することができる。
例えば、モータリンに特異的に結合する物質を、ターゲット療法の薬剤キャリアとして用いて、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子を腫瘍細胞に輸送することができる。
【0060】
また、in vitro又はin vivoで細胞をライブイメージ化するために、可視化可能せしめる非蛍光物質(Qdot)や蛍光物質を細胞内に内在化させるにあたり、抗モータリン抗体(モノクロ・ポリクロどちらでも)やその他のモータリンに特異的に結合する物質を、造影物質のキャリアとして使用することもできる。例えば、生体内における癌転移調査のために、抗モータリン抗体の細胞内内在化(あるいはキャリアー)の性質を利用して細胞をQdotでラベル化し、当該細胞をヌードマウスに注射する。生体内での当該細胞の転移をライブイメージで観察でき、動物のと殺などのオペがいらない。
【0061】
(8)細胞内に内在化する抗モータリン抗体の使用
全長モータリンを抗原として、生細胞内に取り込まれる(内在化される)ポリクローナルあるいはモノクローナル抗体が作製可能である。このような抗体は、上述のような分子キャリアとしての用途に特に適する。抗モータリン抗体が内在化される理由ははっきりとは判明していないが、細胞表面で発現するモータリンとインターロイキン1レセプター・タイプ1(IL-1R・type1)との相互作用に何らかの関係があるものと考えられ、インターロイキン1レセプター・タイプ1の発現抑制又は中和によりモータリン抗体の内在化をさらに促進することができる。
また、このような抗モータリン抗体(内在化機能を有する抗モータリン2抗体)は癌細胞に特異的に内在化されるため、癌細胞へ選択的にドラッグ・デリバリーするキャリアーまたは癌治療目的とする用途に有用である。
さらに、このような内在化機能を有する抗モータリン2抗体は単独での使用するのみならず、IL-1R・type1の発現抑制や中和手段(抗体、アンタゴニスト、siRNA、リボザイムなど)と組み合わせても使用できる。
【0062】
(9)細胞の免疫染色のための抗モータリン抗体の使用
抗モータリン抗体により細胞を免疫染色すると、正常細胞では細胞質全体に広範に染色が見られるが、癌細胞では核の周囲に染色が見られる。また、老化を誘導した細胞では、モータリンの染色が核膜周囲での集中したパターンから、細胞質全体に広がるパターンに変わる。
このような染色パターンに着目して、抗モータリンポリクローナル抗体(K-抗体)同様に、ハイブリドーマクローン由来の抗モータリンモノクローナル抗体を使用すれば、老化細胞を検出するキットを設計することができる。つまり、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出・選別するために抗モータリンモノクローナル抗体又は抗モータリンポリクローナル抗体を使用することができる。このような抗モータリンモノクローナル抗体又は抗モータリンポリクローナル抗体の使用とは、具体的には、モータリン染色パターンを使用することによる。老化細胞又は正常化細胞を検出・選別することにより、癌細胞から老化細胞又は正常化細胞への被験物質による誘導の検査を行うことができる。具体的には、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する被験物質(低分子化合物、ペプチド、ヌクレオチド、抗体など)のスクリーニングにモータリン染色パターンを使用することができる。
【0063】
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例1】
【0064】
(腫瘍及び腫瘍由来株細胞におけるモータリン遺伝子の発現)
ノーザン及びサザンブロットにより、ヒト形質転換細胞、腫瘍由来株細胞及び腫瘍組織におけるモータリン遺伝子の発現を解析した。
【0065】
(試験方法)
ノーザンブロット
Trizol(Life Technologies, Inc)を用いて、正常ヒト細胞及び形質転換ヒト細胞から全RNAを調製した。得られたRNAを2.2Mのホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル上で変性してでサイズ分画したものをHybond N+メンブラン(Amarsham Corp.)に転写した。プローブとしては、マウスcDNAをプローブとしてHela細胞由来のcDNAから得られたヒトcDNAのカルボキシル末端の0.5kb断片を用いた。ハイブリダイゼーションは65℃でエキスプレスハイブリダイゼーションバッファー(CLONTECH)中で行った。メンブランを2X SSCと0.1% SDS含有2X SSCでそれぞれ10分間洗浄し、次いで0.1% SDS含有1X SSCで2回洗浄した。ブロット上のRNAローディング量はアクチン又は18Sリボソームプローブにより決定した。
ウエスタンブロット
タンパク質サンプル(10-20μg)をSDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、セミドライトランスファーブロッター(Biometra, Tokyo)を用いたエレクトロブロッティングによりニトロセルロースメンブラン(BA85、Schleicher and Schuell)に移した。抗モータリン抗体(後述のT抗体及びK抗体)を用いてイムノアッセイを行った。形成された抗体複合体は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)かアルカリホスファターゼ結合抗マウス/ウサギ免疫グロブリンG(IgG)を用いて可視化した(ECL kit, Amersham pharmacia Biotech)。
【0066】
(結果)
胸部、脳、結腸、卵巣の腫瘍組織、及び対応する正常組織(対照)でモータリン遺伝子の発現を調べた結果を図1−3及び表1に示す。図1と図2は各部の腫瘍組織(Tumor)及び対応する正常組織(Normal)における発現を示すドットブロットである。図3は、各種の腫瘍組織(T)及び対応する正常組織(N)における発現を示す、モータリンに特異的なポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果である。表1はこれらの結果をまとめたものであり、左の列から順に、腫瘍の種類、検体の数、モータリンがアップレギュレーションしていた検体の数(Mot-UP)、モータリンがダウンレギュレーションしていた検体の数(Mot-DOWN)、モータリンの発現に変化がなかった検体の数(Mot-NO-CHANGE)である。これらの結果から、殆どの腫瘍組織において対照の正常組織よりもモータリン遺伝子の発現が亢進していたことがわかる。
【0067】
【表1】

【0068】
次に、腫瘍由来の株細胞におけるモータリン遺伝子の発現を調べた結果を図4〜図6に示す。図4は、各部組織由来の腫瘍株細胞におけるモータリン遺伝子の発現を調べた結果であり、レーン1は対照としての正常な包皮繊維芽細胞(HFF-5)、レーン2−14は結腸癌細胞、レーン15−18は前立腺癌細胞である。13の結腸癌細胞のうち7つが非常に高レベルのモータリン遺伝子の発現を示し、他の6つが正常の包皮繊維芽細胞と比較して中程度の増加を示した。前立腺癌細胞3つも、正常な包皮繊維芽細胞と比較して高レベルの発現を示した。図5のレーン1は正常な包皮細胞(HFF-5)、レーン2は正常な肺繊維芽細胞(MRC5)、レーン3−8は乳癌細胞である。図6は正常な肺繊維芽細胞(MRC5)、SV40で形質転換された細胞(MRC5-SV2及びU87MG)、骨癌(U2OS)、卵巣癌(C33A及びヒーラ細胞)、乳癌(MCF7)及び、神経グリア芽腫(A172、U138MG、DBTRG、U118MG、U87MG)におけるモータリンの発現を示す。モータリンの発現は7つの乳癌由来細胞のうち5つにおいてアップレギュレートされ、骨癌、卵巣癌、神経グリア芽腫由来の細胞においても同様であった(図5、図6)。
【実施例2】
【0069】
(形質転換されたヒト細胞におけるモータリンの発現レベルと足場非依存性増殖の解析)
ヒト繊維芽細胞を不死化して、様々なモータリンの発現レベルを示す細胞株を取り、これらの細胞株を足場非依存性コロニー形成アッセイに供し、モータリンの発現レベルと足場非依存性増殖能の関連を調べた。足場非依存性増殖能、すなわちソフトアガー中などの細胞接着のない浮遊状態でも増殖することができることは癌化した細胞に共通の性質である。
【0070】
(試験方法)
ヒト不死化細胞のサブクローニング
テロメラーゼの触媒サブユニットhTERT単独又はhTERT及びE6及びE7発現プラスミドの組合せ(オーストラリア国シドニーDr. Roger Reddel研究室より分譲された発現プラスミドを用いた)のいずれかを導入することによりヒト繊維芽細胞(米国テキサス大学より分譲された)を不死化して、段階希釈によりサブクローニングした。サブクローニングにより、様々なモータリン発現レベルを示す細胞株を得ることができた(図7)。
コロニー形成アッセイ
細胞をトリプシン処理し、計数し、DMEM中の0.8%寒天に懸濁して寒天ベッドプレート上に蒔いた。プレートを37℃のCO2インキュベーター中で3〜10週間培養した。
【0071】
(結果)
サブクローニングした不死化細胞について、上述のウェスタンブロットによるモータリン発現レベルの分析、及び足場非依存性コロニー形成アッセイを行った結果を図7〜10に示す。
足場非依存性コロニー形成アッセイの結果、正常細胞はソフトアガー上で増殖しなかったが、ヒト繊維芽細胞腫由来細胞HT1080は高い効率でコロニーを形成した。図7にヒト胚性繊維芽細胞(WI-38)とそれに由来するhTERT、E6及びE7で形質転換された不死化細胞(WB-1、WB-6、WB-7、WB-11)、及び正常なヒト肺繊維芽細胞(MRC5)に対する、ウェスタンブロットの結果及びコロニー形成効率(CFE)を示す。不死化細胞のソフトアガー上での増殖は悪かったが、高レベルのモータリンの発現を示すサブクローンはより高い増殖又はコロニー形成効率を顕著に示した(図7)。
図8はWB-1及びWB-6細胞の通常の培地での増殖の様子を示す写真であり、特にWB-6が高密度で増殖していることがわかる。すなわち、これらの細胞は密度依存性の増殖阻害からのエスケープ現象を示し、通常の培地で高密度で増殖する。
【0072】
ヒト不死化細胞の他の系統も同様に解析した。図9は、正常な皮膚繊維芽細胞(MJ90)及びこれに由来するテロメラーゼ導入により得た不死化細胞(MJT-6)及び各種サブクローン(MJT-61〜66)、及び正常なヒト肺繊維芽細胞であるMRC5細胞のウェスタンブロット及びコロニー形成の結果である。モータリンが高レベルで発現しているサブクローンは、モータリンの発現が低レベルなものと比較してソフトアガー上で高いコロニー形成効率(Colony Formation Rate)を示したことがわかる。他の形質転換細胞とのクロスコンタミネーションの可能性を排除するため、MJ90及びMJ90由来のサブクローンをDNAフィンガープリントにより分析したところ、これらのサブクローンは各細胞型から正しく由来したものであることが確認された(図10)。
この結果により、腫瘍の特徴である足場非依存性の細胞増殖とモータリンの高レベルの発現との関連とが明らかとなった。
【実施例3】
【0073】
(モータリンに特異的な抗体)
(試験方法)
抗体の作成
以下の抗原を用いて、ウサギ(ニュージーランドホワイトラビット)を免疫し、モータリンに対する抗体を作成した。マウスのモータリン2の一部分であるペプチドに対する5つの抗体(P、Q、R、S、T抗体と名付けた)、及び全長モータリン2タンパク質に対する1つの抗体(K抗体)を作成した。抗原であるモータリンタンパク質やペプチドのアフニティカラムを用いて精製した抗体を以下の実験に用いた。
1.抗原-P: モータリンペプチド
1Met-Ile-Ser-Ala-Ser-Arg-Ala-Ala-Ala-Ala-Arg-Leu-Val-Gly-Thr-Ala-Ala-Ser-Arg-Ser-Cys20-OH
2.抗原-Q: モータリンペプチド
487Cys-Gln-Gly-Glu-Arg-Glu-Met-Ala-Gly-Asp-Asn-Lys498-OH
3.抗原-R: モータリンペプチド
613Cys-Glu-Glu-Ile-Ser-Lys-Val-Arg-Ala-Leu-Leu-Ala-Arg-Lys625-OH
4.抗原-S: モータリンペプチド
613Cys-Glu-Glu-Ile-Ser-Lys-Met-Arg-Ala-Leu-Leu-Ala-Gly-Lys625-OH
5.抗原-T: モータリンペプチド
469Ser-Gln-Val-Phe-Ser-Thr-Ala-Ala-Asp-Gly-Gln-Thr-Gln-Val-Glu-Ile-Lys-Val-Cys487-OH
6.抗原-K: 大腸菌で発現させてNTA-Niアガロースにより精製した、Hisタグ付全長モータリンタンパク質。
【0074】
マウス細胞由来のモータリン2タンパク質に対する抗体でcDNAライブラリーをスクリーニングして得たモータリンcDNAクローンの2.0kbのオープンリーディングフレーム(ORF)をpQE30ベクター(Qiagen)中にクローン化して、Hisタグ付タンパク質を得た。
この抗体についての詳細は、Wadhwa, R., Kaul, S. C., Ikawa, Y., and Sugimoto, Y. (1993) J Biol Chem 268, 6615-6621に記載されている。pQE30/モータリン構築物を用いて大腸菌M15株を形質転換し、OD580が0.6になるまで増殖させ、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)(0.2mM)で37℃で5時間誘導をかけた。菌の溶解物(IPTGで誘導を受けたもの、及び受けていないもの)をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析してから、抗His抗体(Qiagen)によるウェスタンブロットを行った。Hisタグ付組換タンパク質を用いて、ウサギポリクローナル抗体である抗モータリン抗体(anti-mortalin antibody):K抗体を作成した。
【0075】
(細胞内への抗体の取り込み)
12穴培養デッシュ内にカバーグラスを置き、その上に細胞を蒔いた。24時間後に、上述の抗原Kにより免疫して得られた抗モータリン抗体であるK抗体(K-Ab)の5μlを培養液(1.0ml)に加えた。12〜24時間後に細胞を固定し、フルオレセインイソチオシアネート−ヒツジ抗マウスIgG及びテキサスレッド−抗ウサギIgG(Amersham Corp.)で二次染色を行って可視化した。細胞を蛍光顕微鏡(Carl Zeiss)で観察した。P、Q、R、S、T抗体についても同様に実験を行った。
【0076】
(結果)
まず、モータリンペプチドに対する5つの抗体(P、Q、R、S、T抗体)、及び全長モータリンタンパク質に対する1つの抗体(K抗体)のモータリンへの特異性を確認した。ウェスタンブロットと免疫沈降法により、R、S、T、K抗体がヒト及びマウスのモータリンと特異的に反応することがわかった。ウェスタンブロット上で、K抗体は予想されたサイズの一つのバンドだけを認識した(図11)。免疫沈降法で、K抗体によるモータリンの特異的な沈降を検出した(図12)。
正常細胞と形質転換細胞においては異なるモータリンの染色パターンが観察された(図13)。これは既に報告されている通りである(非特許文献2参照)。
図14は非常に興味深い結果を示す。それはK抗体を培養中の培地に加えると細胞内に取り込まれたというものである。正常(TIG-1)及び変異(U2OS及びMCF-7)ヒト細胞において、いずれもモータリンK抗体(mot-K Ab)が細胞に内在化されている様子がわかる。この染色パターンは、細胞を固定してからK抗体で染色して得られた染色パターンと同じであった(非特許文献2参照)。他の抗体もウェスタンブロットと免疫沈降法に用いたが、このような内在化を全く示さなかった。
【0077】
本発明者らは、Qdot655抗体コンジュゲーションキット(Quantum Dot Corporation, USA)を用いてQdot−抗体コンジュゲートを作製した。Qdotコンジュゲート−K抗体を用いて細胞を抗体染色すると、予想通りの染色パターンが得られた(図15)。Qdot-K抗体コンジュゲート(約5μg/ml)をU2OS細胞の培地に加えた。細胞をメタノール/アセトン(50/50, v/v)中で10分間氷上で固定し、QdotフィルターセットXF 305-1(励起フィルター425DF45、ダイクロイック 475DCLP、エミッションフィルター 655DF20)を装着したCarl Zeiss顕微鏡により観察した(Omega Optical, Inc.)。図16に示すように、Qdot655は、K抗体と結合した場合のみ、細胞内に見られた。このデータにより、K抗体及びそれと結合したQdotの内在化が明確に示された。他の抗体については、ウェスタン及び免疫沈降アッセイにおいては特異的結合が示されたにも関わらず、内在化は見られなかった。
【実施例4】
【0078】
(腫瘍の治療のためのK抗体の使用)
上述の実験の結果、腫瘍細胞においてモータリンがアップレギュレートされていること、そしてモータリンに対する抗体であるK抗体が細胞内に内在化されることを見出した。次に、K抗体を用いて、腫瘍においてin vivoでモータリンを中和することにより、腫瘍の成長に何らかの影響を与えることができるか検討した。
【0079】
(試験方法)
ヌードマウスにおける腫瘍形成
ヌードマウスは日本クレアから購入した。ヒト線維肉腫細胞(HT1080)をヌードマウスに皮下注射した。小さな腫瘍芽が現れたとき、試験用の腫瘍に抗モータリン抗体であるK抗体(K-Ab)を注射した。対照用の腫瘍には免疫前血清(preserum)を含有するDMEMを注射した。その後の腫瘍の進行を観察した。
【0080】
(結果)
実験1では、1x10個のHT1080細胞を注射し、5日後に小さな腫瘍芽が現れた。この腫瘍にモータリンK抗体(Mot-K Ab)あるいは免疫前血清(Control)を注射した(500μlのDMEM中に5μl)。抗体を注射していない腫瘍は12〜15日間で2cm以上に成長したが、抗体を注射した腫瘍は4週間で1cmにしかならなかった(図17、図18)。
実験2では、1x10個のHT1080細胞を注射して、抗体の注射は腫瘍芽がまだ1−2mmの頃に開始した。その後1ヶ月間、5日毎に注射を繰り返しながら、腫瘍の進行を観察した。対照の抗体を注射された腫瘍のサイズは徐々に大きくなったが、Mot-K抗体を注射された腫瘍は縮小した(図19)。
実験3では、2つの横に並んだ腫瘍(上部の大きな腫瘍及び下部の小さな腫瘍)を有するマウスを用いた。K抗体を上部腫瘍のみに注射した。注目すべきは、K抗体を注射された上部腫瘍が縮小する一方、4週間後に下部の腫瘍の大きさが拡大したことである(図20)。
【実施例5】
【0081】
(K抗体)
別ロットのK-抗体(Mot-2全長タンパク質に対するポリクローナル抗体)を調整し、いずれのロットの抗体も細胞内へ取り込まれることをチェックした。
3つの濃度の異なるK-抗体(A-C)、免疫前血清、アフィニティー精製したK-抗体(AP)、対照のT-抗体(モータリンの一部のペプチド469Ser-Gln-Val-Phe-Ser-Thr-Ala-Ala-Asp-Gly-Gln-Thr-Gln-Val-Glu-Ile-Lys-Val-Cys487-OHに対する抗体)をA549細胞(肺癌細胞)の培養液に添加し、24時間培養した。細胞溶解物は、培養細胞をトリプシン処理して回収した細胞から調整した。細胞内に内在化した抗体を、ウエスタン・ブロッティング法により、HRP結合抗ウサギ抗体によって検出した。モータリンとアクチンを内部コントロールとして、各レーンに流したサンプル量を同量に調整した。
【0082】
(結果)
図21に内在化したK-抗体のウエスタン・ブロッティング法による検出の図を示す。K-抗体及びアフィニティー精製したK-抗体は細胞内に内在化したのに対し、免疫前血清およびT-抗体は内在化しなかった。
【実施例6】
【0083】
(インターロイキン-1レセプター・タイプ1の発現の抑制)
モータリンが癌細胞の細胞表面にも存在することが報告されている(Shin, B. K., Wang, H., Yim, A. M., Le Naour, F., Brichory, F., Jang, J. H., Zhao, R., Puravs, E., Tra, J., Michael, C. W., Misek, D. E., and Hanash, S. M. (2003) J Biol Chem 278, 7607-7616;Dundas, S. R., Lawrie, L. C., Rooney, P. H., and Murray, G. I. (2005) J Pathol)。
また、モータリンがインターロイキン-1レセプター・タイプ1(以下、IL-1R,typeIと記載することもある)と相互作用することが知られている(Sacht, G., Brigelius-Flohe, R., Kiess, M., Sztajer, H., and Flohe, L. (1999) Biofactors 9, 49-60)。
【0084】
K-抗体が細胞内に取り込まれる内在化現象は、モータリンが細胞表面で発現しIL-1R,typeIと結合することに関係すると我々は予想した。
この点を調べるために、まずIL-1R,typeIの発現を抑制するshRNA発現プラスミドを構築した。cDNA上の2つの標的部位289-307、293-311に対して、2種類のshRNA発現プラスミドを構築した。このshRNA配列を図22に示した。
今回構築したプラスミド(2種類)より細胞内で発現されるshRNA配列は、
5’-ACAAGUCUCUAGGAUUCAUGUGUGCUGUCCAUGAAUCCUGGAGGCUUGUU-3’
及び
5’-GCUUUCAGGAUUCAUCAACGUGUGCUGUCCGUUGAUGAAUCCUGGAGGCUU-3’
である。細胞に各々の発現プラスミドをトランスフェクションし、IL-1R,typeIの発現抑制を抗IL-1R,typeI抗体を用いたウエスタン・ブロッティング法によって解析した。
【0085】
(結果)
IL-1R,typeIの発現は、図22に示した2種類のshRNA発現プラスミドの使用によって抑制された(図22ゲル写真)
【0086】
(インターロイキン-1レセプター・タイプ1の発現の抑制によるK抗体内在化の促進)
2種類のshRNA発現プラスミドは、効果的にIL-1R,typeIの発現を抑制した(図22ゲル写真)ので、コントロールプラスミド又は図22の2種類のうちのいずれかのshRNA発現プラスミドがトランスフェクションされた細胞(HepG2)を、K-抗体とともに培養し、細胞内に内在化した抗体をHRP結合抗ウサギ抗体を用いてウエスタン・ブロッティング法によって解析した。
【0087】
結果
2種類のshRNA発現プラスミドにより効果的にIL-1R,typeIの発現が抑制されている一方(図23下段写真)、K-抗体の細胞内への内在化は促進されていた(図23上段写真)。IL-1R,typeIはK-抗体の内在化を妨害し、このIL-1R,typeIの発現が抑制されるとK-抗体の細胞内内在化が促進されることをこの実験結果が裏付けている。細胞表面でのモータリンとIL-1R,typeIの結合が、モータリン-K抗体(抗モータリン抗体)複合体の細胞内内在化を妨げていると考えられる。
このような細胞内内在化の促進効果は、K-抗体をドラッグデリバリーなどのキャリアとして利用したり、抗がん剤成分として利用する場合に、より好ましいと考えられる。細胞内内在化の促進効果は、図23のようなインターロイキン-1レセプター・タイプ1のヘアピン型RNAのみならず、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイムによるノックダウンでも、抗体やアンタゴニズトによる中和でも、いかなる方法によるIL-1R,typeI発現抑制・中和も、図23に示されるデータのように、細胞によるモータリン抗体の摂取を促進するものと考えられる。
【実施例7】
【0088】
(K抗体が持つ3つの性質を有するモノクローナル抗体)
組み換えヒト全長モータリンに対するマウスモノクローナル抗体を作製した。作製した抗モータリンモノクローナル抗体50クローンについて、以下の3つの基準を満たすか否か調査した:(1)ウエスタン・ブロッティング法の解析によるモータリンへの反応性と特異性、(2)正常細胞と癌細胞におけるモータリンの免疫染色のパターン(正常細胞は細胞質全体が染色され、癌細胞では核膜周辺が染色されるパターンがみられるか)、(3)細胞内への内在化、である。
【0089】
(結果)
図24は、モータリンに対する新しいモノクローナル抗体の作製及び内在化機能をもつ抗モータリンモノクローナル抗体選別に関する図である。上記3つの基準を満たすモノクローナル抗体のクローンが得られた。そのようなクローンは50クローンのうち4クローンであった。数多くのクローンが、反応性・特異性や免疫染色パターンに関する基準を満たしたが、細胞内へ内在化しなかった。最終的に、細胞内に内在化する抗モータリンモノクローナル抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ)(37番、38番、71番、96番)を得た。また、反応性・特異性および免疫染色に関する基準を満たすものの細胞内に内在化しないクローン(52番)をネガティブコントロールとするハイブリドーマを作製した。
最も細胞内内在化効率の高い抗モータリン2モノクローナル抗体を産生するクローン(37−6)を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。(受託番号:FERM ABP−10408、寄託日:平成17年8月23日)
【0090】
(モノクローナル抗体の細胞内内在化の確認)
図25に示す抗モータリンモノクローナル抗体とともに細胞を培養し、24時間後に固定化のち、FITC結合2次抗体によって免疫染色した。
抗モータリンモノクローナル抗体(37−1、37−6、38−4,71−1、96−5)は、明瞭に細胞内に内在化していた。クローン52−3の抗モータリンモノクローナル抗体は内在化しなかった。
さらに、細胞を酸洗浄処理し、抗モータリンモノクローナル抗体が細胞内へ内在化することを確認した(図26)。癌細胞(U2OS)を図に示された抗体クローンとともに培養し、固定した後、内在化した抗体をFITC結合2次抗体による免疫染色によって検出した。細胞表面に付着した抗体の非特異的な検出を無くすために、0.2M酢酸―0.5M NaClを含む冷却したPBSで細胞を洗浄した後に細胞を固定した。酸洗浄処理した細胞の免疫染色の強度と通常のPBS洗浄処理した細胞の免疫染色の強度を比較した結果を図26にまとめた。
酸によって洗浄された細胞に染色が変ることなく見られたことは、その免疫染色が確かに細胞内に内在化した抗体によるものであることを支持しており、その染色が細胞表面に非特異的に存在する抗体によるものではないことを示す。
【実施例8】
【0091】
(抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞選択的な細胞内内在化促進)
癌細胞(U2OS)または正常細胞(TIG-1)を、抗モータリンモノクローナル抗体と抗IL-1R,type1抗体とともに培養した。細胞を図27に示す抗体の組み合わせで30分培養し、固定した後、内在化した抗モータリンモノクローナル抗体をFITC結合抗マウス2次抗体で検出した。
【0092】
(結果)
抗モータリンモノクローナル抗体(37−1、37−6、38−4、71−1、96−5)は、選択的に癌細胞の細胞内に内在化した。クローン37−1、37−6、38−4では、抗IL-1R,type1抗体(Monoclonal Anti-human IL-1RtypeI Antibody、R&D Sysytems Inc.製、 Catalog Number:MAB269)とともに培養したとき、癌細胞内への内在化の促進が見られた。正常細胞においては、どのクローンも内在化の促進は見られず、むしろ、減少が見られた。
【0093】
(抗IL-1R,type1抗体共存化における抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞選択的細胞内内在化促進)
抗モータリンモノクローナル抗体(クローン37−1、37−6又は38−4)と抗IL-1R,type1抗体の共存下で、癌細胞(U2OS)または正常細胞(TIG-1)を培養した。細胞を24時間後に固定した後、FITC結合抗マウス抗体で抗モータリンモノクローナル抗体を検出した。
【0094】
(結果)
図28に示すのは、抗IL-1R,type1抗体により抗モータリンモノクローナル抗体(クローン37−1、37−6、38−4)の癌細胞内への内在化が促進されることである。
癌細胞では3つ全ての抗モータリンモノクローナル抗体において細胞内内在化が見られたのに対し、正常細胞では細胞内内在化が見られなかった。
【0095】
(IL-1R,type1の発現抑制及び中和による抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞選択的細胞内内在化促進)
図29では、癌細胞(HepG2)において、IL-1R,type1を発現抑制すると、抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞内内在化が選択的に促進されることを示した。IL-1Rの発現が高い癌細胞(HepG2)に対し、shRNA発現プラスミドを用いてIL-1R,type1の発現をノックダウンした。このトランスフェクションした細胞を、図29に示す抗モータリンモノクローナル抗体及び抗IL-1R,type1抗体の組合せ存在下のもと培養した。細胞を固定した後に、FITC結合マウス2次抗体を用いて細胞を可視化した。
【0096】
(結果)
shRNAによるIL-1R,type1の発現抑制により、及び、IL-1R,type1特異的な抗体によるレセプターの中和により、癌細胞での抗モータリンモノクローナル抗体の細胞内内在化が促進された。IL-1R,type1に対するshRNAまたは特異的な中和抗体は、抗モータリンモノクローナル抗体の正常細胞への内在化には影響を及ぼさなかった。
【実施例9】
【0097】
(癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係−その1)
まず、モータリン過剰発現用癌細胞株を準備した。ヌードマウスに腫瘍形成しない乳癌細胞(MCF7)において、レトロウイルス発現ベクターを用いてモータリンを過剰発現させた。mycタグの付いたモータリンの過剰発現が、抗myc抗体を用いたウエスタン・ブロティング法により、検出された(図30)。泳動するタンパク質量の調整には、内在性モータリンとアクチンを内部対照として用いた。
【0098】
(癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係−その2)
次に、モータリン過剰発現による悪性腫瘍の増殖性への影響をチェックした。図31では、レトロウイルス発現ベクターを用いて乳癌細胞(MCF7)にモータリンを過剰発現させ、定常的にモータリンを過剰発現するこの乳癌細胞がヌードマウスにおいて腫瘍形成するかどうか調べた。
【0099】
(結果)
モータリンを過剰発現している乳癌細胞(MCF7)はヌードマウスにおいて腫瘍形成したのに対し、モータリンを過剰発現していない元の乳癌細胞はヌードマウスにおいて腫瘍形成しなかった。
上記より、モータリンの過剰発現は、悪性腫瘍を増殖させる。つまり、モータリンは癌治療にふさわしい標的であると考えられる。
【0100】
(癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係−その3)
図32において、癌細胞におけるモータリン過剰発現と転移の関係を分析した。レトロウイルス発現ベクターを用いてMCF7細胞にモータリンを過剰発現させ、モータリンを定常的に過剰発現している細胞の走化性を調査した。尚、走化性テストは、癌細胞の転移について信頼性のある指標となる。
走化性アッセイは実験対照細胞とモータリンを過剰発現させたMCF7細胞で行った。60%〜70%コンフレンシーの細胞を冷PBSで洗浄し、トリプシン処理した後に、細胞密度2×105 cells/ml になるよう0.5%FBS(Sigma)を含むDMEMに再懸濁した。Transwell(12 mm-pore, Costar )の内部部分に2×104 cells/mlになるように細胞を撒き、製造者の使用説明書にしたがって、インベイジョン・アッセイを行った。化学誘引物質としては、ヒト血漿由来のフィブロネクチン(Sigma)を使用した。
【0101】
(結果)
モータリンを過剰発現しているMCF7細胞では走化性が見られたが、元のMCF7細胞では見られなかった。
モータリンの過剰発現は、癌細胞に転移する性質をもたらしている。つまり、モータリンが癌の転移治療にふさわしい標的であると考えられる。
【0102】
(癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係−その4)
図33で、癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係をさらに調べた。レトロウイルス発現ベクターを用いてMCF7細胞にモータリンを過剰発現させ、モータリンを定常的に過剰発現している細胞の運動性をスクラッチ・ウーンドアッセイによって調べた。尚、スクラッチ・ウーンドアッセイは、癌細胞の転移についての信頼性できる指標になる。フィブロネクチン(10マイクロg/ml)で表面をコートされたディッシュ上に、細胞を単層培養した。この単層培養の細胞にP-200ピペットチップで線を引き、完全に細胞をかきとることで、外傷を形成させた。細胞残屑を除去するために細胞をPBSで数回洗浄し、再び培地を足した。引っかき傷(スクラッチ・ウーンド)を作った時間を0とした。続く48時間の間、細胞を増殖させ、外傷へと移動させた。外傷への細胞の移動は、位相差顕微鏡の10倍対物レンズによって観察し記録した。
【0103】
(結果)
モータリンを過剰発現しているMCF7細胞とU2OS細胞は、スクラッチ・ウーンドアッセイにおいて、高い運動性を示した。モータリンの過剰発現は、癌細胞に転移する性質をもたらしている。つまり、モータリンが癌の転移治療にふさわしい標的であると考えられる。
【実施例10】
【0104】
(抗モータリン抗体による正常細胞と癌細胞の免疫染色パターン)
抗モータリンモノクローナル抗体(図34)又は抗モータリンポリクローナル抗体(図35)を使用して染色パターンをチェックした。
図34は、癌細胞集団中に存在する老化細胞の検出に抗モータリンモノクローナル抗体を使用することについての図である。正常細胞(TIG-1)と癌細胞(U2OS)を抗モータリンモノクローナル抗体用いて免疫染色した。
図34に示されるように、正常細胞では細胞質全体に広範に染色が見られるが、癌細胞では核の周囲に染色が見られた。このような染色パターンの違いは、ポリクローナル抗体を用いたときにも見られたものである。
図35は、老化誘導された癌細胞におけるモータリン染色パターンの変化についての図である。ウィタフェリンA(アシュワガンダからの粗抽出物に含まれる成分)などのファイトケミカル、過酸化水素、又は、アザシチジンによって、癌細胞に老化を誘導した。細胞は薬剤処理後に固定し、抗モータリンポリクローナル抗体(K-抗体)を用いてモータリンを免疫染色した。
老化を誘導した細胞(老化は細胞の増殖停止とp53の誘導(図35中のグリーン染色部分)で確認済)では、モータリンの染色が核膜周囲での集中したパターンから、細胞質全体に広がるパターンに変わっていた(図35中の赤色染色部分)。
【実施例11】
【0105】
(抗モータリンモノクローナル抗体をキャリアーとし、Qdotで細胞をライブイメージ化させた実験)
図36は、抗モータリンモノクローナル抗体のライブイメージに関する図である。
Qdot(量子ドット)を結合させた抗モータリンモノクローナル抗体(37-6)存在下で癌細胞(U2OS)を培養した。24時間の培養後、細胞を固定化するケースと固定化しないケースに分けて細胞内の抗体を可視化した。また、Qdotを結合させた抗モータリンモノクローナル抗体を除去し1-2回細胞分裂させた後、固定化しQdotを観察した。
【0106】
(結果)
Qdotを結合させた抗モータリンモノクローナル抗体は細胞内に内在化し、細胞分裂後であっても細胞はQdotラベルされていた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明者らは、モータリンが細胞分裂の制御に関与し、腫瘍の成長と密接に関係していることを明らかにした。モータリンは癌治療の新たな標的として有用である。モータリンを中和する物質を用いることにより、癌の治療のための新たな手段が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】各種の腫瘍組織(Tumor)及び対照としてマッチさせた正常組織(Normal)におけるモータリン遺伝子の発現を分析した、2μgのポリARNAを含むドットブロットの結果である。(実施例1)
【図2】各種の腫瘍組織(T)及びマッチさせた正常組織(N)におけるモータリン遺伝子の発現を分析した、各レーン中に2μgのポリARNAを含むドットブロットの結果である。(実施例1)
【図3】各種の腫瘍組織(T)及び対照としてマッチさせた正常組織(N)におけるモータリン遺伝子の発現を分析した、モータリン(mortalin)に特異的なポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果である。ローディング量コントロールのためにアクチン(Actin)を使用している。(実施例1)
【図4】正常な包皮繊維芽細胞(HFF5、レーン1)、結腸癌細胞(SW480、SW116、SW620、KM125M、HT29、LOVO、HCT116、LS174Tp4、LIM1215、LISP-1、LIM2099p4、LS513、COLO-16、レーン2−14)、前立腺癌細胞(DU145、PC3、CaoV-3、LNCaP、レーン15−18)におけるモータリンの発現を調べた結果である。(実施例1)
【図5】正常な包皮繊維芽細胞(HFF5、レーン1)、正常な肺繊維芽細胞(MRC5p21、レーン2)、乳癌細胞(MDA-MB-415、MDA-MB-157、MDA-MB-436、MDA-MB-134V、MDCT、MDA-MB361、レーン3−8)におけるモータリンの発現を調べた結果である。(実施例1)
【図6】正常な肺繊維芽細胞(MRC5)、SV40で形質転換された細胞(MRC5-SV2及びU87MG)、骨癌(U2OS)、卵巣癌(C33A及びヒーラ細胞)、乳癌(MCF7)及び、神経グリア芽腫(A172、U138MG、DBTRG、U118MG、U87MG)におけるモータリンの発現を調べた結果である。(実施例1)
【図7】ヒト胚性繊維芽細胞(WI-38)及びこれに由来する不死化細胞(WB-1、WB-6、WB-7、WB-11)についての、モータリン、p53、mdm2、p21、pRb、E6E7のウェスタンブロットの結果である。MRC5細胞は正常なヒト肺繊維芽細胞である。(実施例2)
【図8】WB-1及びWB-6細胞の増殖の特徴を示す写真であり、WB-6が高密度で増殖していることがわかる。(実施例2)
【図9】正常な皮膚繊維芽細胞(MJ90)及びこれに由来する不死化細胞(MJT-6)及び各種サブクローン(MJT-61〜66)のウェスタンブロットの結果である。MRC5細胞は正常なヒト肺繊維芽細胞である。(実施例2)
【図10】MJ90及びMJ90由来のクローンのフィンガープリントである。(実施例2)
【図11】モータリンK抗体による正常(WI-38)及び腫瘍細胞(U2OS、Saos-2)由来のヒト細胞のウェスタンブロットの結果である。(実施例3)
【図12】モータリンK抗体(Mortalin-K antibody)によるモータリンの免疫沈降の結果である。U2OS細胞はモータリンV5(Mortalin-V5)タンパクをコードする発現プラスミドでトランスフェクトした。V5タグ付タンパクのモータリンK抗体による免疫沈降反応を抗V5タグ抗体によりウェスタンブロット(Western withanti-V5 Ab)で検出した。(実施例3)
【図13】正常(Normal cells: TIG-1)及び腫瘍(Cancer cells:U2OS)細胞におけるモータリンK抗体を用いたモータリンの免疫染色である。細胞をメタノール−酢酸(1:1)で固定し、モータリンK抗体で染色した後、抗ウサギ蛍光タグ付二次抗体(rabbit Alexa 488,Molecular Probes)で検出した。(実施例3)
【図14】正常(TIG-1)及び変異(U2OS及びMCF-7)ヒト細胞におけるモータリンK抗体(mot-KAb)の内在化を示す写真である。(実施例3)
【図15】Qdot−K抗体により、U2OS細胞内のモータリンを染色した写真である。(実施例3)
【図16】Qdot−K抗体(KAb−Qdot655conjugate)の細胞内への内在化(下のパネル)を示す。Qdot−対照抗体(CAb−Qdot655 conjugate)(上のパネル)は細胞内に入っていない。(実施例3)
【図17】モータリンK抗体の注射後(MotK-Ab injection)のHT1080細胞のヌードマウスアッセイの結果を示す写真である。腫瘍芽(約6mm)が形成されたときに、対照及びモータリンK抗体を注射し、その後の進行を観察した。(実施例4)
【図18】モータリンK抗体の注射後(Mot K-Ab injection)のHT1080細胞のヌードマウスアッセイの結果を示す写真である。腫瘍芽(約6−8mm)が形成されたときに、対照及びモータリンK抗体を注射し、その後の進行を観察した。(実施例4)
【図19】モータリンK抗体の注射後(Mot K-Ab injection)のHT1080細胞のヌードマウスアッセイの結果を示す写真である。腫瘍にモータリンK抗体を注射した。(実施例4)
【図20】モータリンK抗体(Mot K-Ab)の注射後のHT1080細胞のヌードマウスアッセイの結果を示す写真である。上側の腫瘍にモータリンK抗体を注射した。(実施例4)
【図21】内在化したK-抗体のウエスタン・ブロッティング(実施例5)。
【図22】インターロイキン-1レセプター・タイプ1(IL-1R,typeI)の発現抑制(実施例6)。
【図23】shRNAによるインターロイキン-1レセプター・タイプ1(IL-1R,typeI)の発現抑制によってK-抗体の細胞内への内在化が促進されることを示した(実施例6)。
【図24】モータリンに対するモノクローナル抗体の作製及び内在化機能をもつ抗モータリンモノクローナル抗体の選別(実施例7)。
【図25】FITC結合2次抗体を用いた免疫染色により細胞内に内在化するモノクローナル抗体を検出した図(実施例7)。
【図26】細胞を酸洗浄処理し、抗モータリンモノクローナル抗体が細胞内へ内在化することを確認した図(実施例7)。
【図27】抗モータリンモノクローナル抗体が癌細胞に選択的に内在化することを示した図(実施例8)。
【図28】抗IL-1R,type1抗体により抗モータリンモノクローナル抗体(クローン37−1、37−6、38−4)の癌細胞内への内在化が促進されることを示した図(実施例8)。
【図29】癌細胞(HepG2)において、IL-1R,type1を発現抑制すると、抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞内内在化が選択的に促進されることを示した図(実施例8)。
【図30】癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係分析―その1(実施例9)。
【図31】癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係分析―その2(実施例9)。
【図32】癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係分析―その3(実施例9)。
【図33】癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖・転移の関係分析―その4(実施例9)。
【図34】癌細胞集団中に存在する老化細胞の検出に抗モータリンモノクローナル抗体を使用することについての図(実施例10)。
【図35】老化誘導された癌細胞におけるモータリン染色パターンの変化についての図(実施例10)。
【図36】抗モータリンモノクローナル抗体のライブイメージ(実施例11)。
【配列表フリーテキスト】
【0109】
<210> 1
<223> 抗原P
<210> 2
<223> 抗原Q
<210> 3
<223> 抗原R
<210> 4
<223> 抗原S
<210> 5
<223> 抗原T
<210> 6
<223> ヒトヒートショック70kDa蛋白質9B(モータリン2)(HSPA9B)
(nuclear gene encoding mitochondrial protein) ACCESSION NM_004134
<210> 7
<223> IL-1R・type 1ターゲットサイト
<210> 8
<223> shRNA
<210> 9
<223> IL-1R・type 1ターゲットサイト
<210> 10
<223> shRNA


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータリン2中和する物質を有効成分として含む抗癌剤。
【請求項2】
モータリン2を中和する物質が、モータリン2に結合する抗体である、請求項1の抗癌剤。
【請求項3】
モータリン2に結合する抗体が、全長モータリン2タンパク質に対する抗体である、請求項2の抗癌剤。
【請求項4】
モータリン2に結合する抗体が、5個以上のアミノ酸からなるペプチドに対する抗体である、請求項2の抗癌剤。
【請求項5】
モータリン2に結合する抗体が、細胞内に取り込まれてモータリン2に結合する抗体である、請求項2の抗癌剤。
【請求項6】
モータリン2を中和する物質が、モータリン2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸である、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項7】
機能性核酸が、siRNA、二本鎖RNA、または、少なくとも片方の鎖がRNAあるいは修飾RNAである二本鎖キメラRNAである、請求項6記載の抗癌剤。
【請求項8】
モータリン2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸である、siRNA、二本鎖RNA、修飾されたRNA鎖を少なくとも片方の鎖に含むsiRNAまたは二本鎖RNA。
【請求項9】
以下のいずれかの工程を含む、被験物質の抗癌活性を評価する方法:
(a)モータリン2タンパク質と被験物質を接触させ、接触の強度により評価する工程
(b)モータリン2を発現させた細胞またはその細胞破砕液を、被験物質に接触させ、接触の強度により評価する工程
(c)モータリン2遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだDNAを有する細胞、および細胞破砕液を、被験物質に接触させ、レポーター遺伝子の発現を指標として評価する工程。
【請求項10】
モータリン2中和する物質と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
モータリン2を中和する物質が、モータリン2に結合する抗体である、請求項9の製造方法。
【請求項12】
モータリン2を中和する物質が、モータリン2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸である、請求項9の製造方法。
【請求項13】
請求項9記載の方法によって、抗癌活性を有すると評価された物質と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法。
【請求項14】
免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子の細胞内へのキャリアとしての抗モータリン2抗体およびモータリン2結合物質の使用。
【請求項15】
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドの単量体、もしくはその単量体を化学的及び遺伝子工学的手法により二量体及び三量体を含む多量体化した人工抗体。
【請求項16】
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドを化学的及び遺伝子工学的手法により他の抗体、抗体の一部、または他のタンパク質等との複合体として提供されるキメラ人工抗体。
【請求項17】
抗モータリン2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドをPEG(ポリエチレングリコール)及びリポソームなどの細胞内への薬物導入物質、及び、放射性物質、毒素、抗癌剤などの小分子に結合させた複合体。
【請求項18】
以下の(a)〜(d)のいずれかから選択される、生細胞に内在化される抗モータリン2抗体:
(a)全長モータリン2タンパク質を抗原として作製されたポリクローナル抗体
(b)5個以上のアミノ酸からなるモータリン2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作製されたポリクローナル抗体
(c)全長モータリン2タンパク質を抗原として作製されたモノクローナル抗体、又は
(d)5個以上のアミノ酸からなるモータリン2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作製されたモノクローナル抗体
であって、且つ、以下の(1)〜(3)の基準を満たす抗モータリン2抗体:
(1)ウエスタン・ブロッティング法の解析によりモータリン2への反応性と特異性を有すること、
(2)正常細胞は細胞質全体が染色され、癌細胞では核膜周辺が染色される免疫染色のパターンがみられること、及び
(3)細胞内へ内在化されること。
【請求項19】
モータリン2に結合する抗体が、請求項18に記載の抗モータリン2抗体である、請求項2の抗癌剤。
【請求項20】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体を小分子のキャリアとして使用することを特徴とする、小分子を細胞内へ移行させる方法。
【請求項21】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体の生細胞への内在化を促進する方法であって、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する工程において、shRNAを使用してIL−1R・type1を発現抑制することを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
shRNAが以下のものである、請求項22の方法:
(ア)shRNAのターゲットサイトの配列:
5’-ACA AGC CUC CAG GAU UCA U-3’
該ターゲットサイト1)に対応するshRNAの配列:
5’-ACA AGU CUC UAG GAU UCA UGU GUG CUG UCC AUG AAU CCU GGA GGC UUG UUU-3’;又は
(イ)shRNAのターゲットサイトの配列:
5’-GCC UCC AGG AUU CAU CAA C-3’
該ターゲットサイト1)に対応するshRNAの配列:
5’-GCU UUC AGG AUU CAU CAA CGU GUG CUG UCC GUU GAU GAA UCC UGG AGG CUU-3’
【請求項24】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体及び抗癌活性を有する物質を組合わせてなる、抗癌活性を有する物質のキャリアーとして抗モータリン2抗体を使用することを特徴とする、癌のターゲット療法用キット。
【請求項25】
さらに、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、抗体、及びアンタゴニストからなる群から選択される、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する物質を組合わせてなる、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体及び癌細胞をライブイメージ化するために可視化せしめる非蛍光物質又は蛍光物質を組合わせてなる、癌細胞のライブイメージ用キット。
【請求項27】
さらに、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、二本鎖RNA、リボザイム、抗体、及びアンタゴニストからなる群から選択される、IL−1R・type1を発現抑制あるいは中和する物質を組合わせてなる、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体を含む、癌の転移治療のための薬剤。
【請求項29】
モータリン2に特異的に結合する抗体を用いて免疫染色を行うことを特徴とする、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出する方法。
【請求項30】
モータリン2に特異的に結合する抗体、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出するために使用可能なキット。
【請求項31】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体を用いて癌細胞をライブイメージ化することを特徴とする、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出する方法。
【請求項32】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体、ライブイメージ化に必要な試薬、及び説明書を含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出するために使用可能なキット。
【請求項33】
被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞をモータリン2に特異的に結合する抗体を用いて免疫染色を行い、そして、その免疫染色パターンを観察することによる、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング方法であって、当該免疫染色パターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターンである場合に披検物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質であるとする、スクリーニング方法。
【請求項34】
モータリン2に特異的に結合する抗体、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニングのために使用可能なキット。
【請求項35】
被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞を請求項18に記載の抗モータリン2抗体を用いてライブイメージ化を行い、そして、そのライブイメージパターンを観察することによる、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング方法であって、当該ライブイメージパターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターンである場合に披検物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質であるとする、スクリーニング方法。
【請求項36】
請求項18に記載の抗モータリン2抗体、ライブイメージ化に必要な試薬、及び説明書を含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニングのために使用可能なキット。

【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図29】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図28】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2006−89471(P2006−89471A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242063(P2005−242063)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】