説明

癌の診断および処置

本発明は、様々な癌において癌細胞および癌でない細胞を判別するための、OMD(オステオモジュリン)および/またはPRELP(プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチリピートタンパク質)発現、特に過小発現の使用に関する物質および方法に関する。本発明は、例えば癌の惹起または発生を抑制するための療法において使用するための、OMDおよび/またはPRELPに基づく方法および物質をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、例えば膀胱癌、腎癌、肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、小腸癌、および副腎癌などの癌および他の癌の処置および診断において使用するための方法および物質に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、細胞が制御されない足場非依存性増殖を示し組織恒常性維持の崩壊を生じる疾患である。従って、もともとの位置での癌の惹起の後、その細胞は、転移および浸潤によって体内の他の位置へと広がる。癌は様々な遺伝子の変化によって引き起こされるので、処置のための一般的な方法はない。最近、癌処置における顕著な進歩が成し遂げられた。しかしながら、多くの癌は、まだ処置に反応せず、多くはまだ致死的である。多くの腫瘍遺伝子および腫瘍抑制遺伝子が特定されており、これらの遺伝子に基づいて多くの診断方法が開発されている。しかしながら、診断方法はまだ不十分なままであり、この開発も、満足できる状態からは程遠い。早期の大多数の癌の一般的な診断の開発が非常に重要である。
【0003】
膀胱癌および腎癌は泌尿器の腫瘍の主要な種類である。大多数の膀胱癌患者は、予後良好に、筋層非浸潤性膀胱癌、病期(段階)pTaまたはpT1を有する。しかしながら、膀胱癌は、あらゆる固形腫瘍の中で最も高い再発率を有し、60〜70%の患者が再発するであろう。これらの再発のうちの約10%は、進行型の筋層浸潤性腫瘍へと進むであろう。それゆえ、膀胱癌の正確な病期の早期の検出および判定が必要とされる。
【0004】
膀胱癌およびその再発の早期の検出は、予後の改善および長期生存にとって必須である。膀胱癌試験およびルイスX抗原試験などの膀胱癌についてのいくつかの試験が報告されている。しかしながら、それらの試験の感度および特異性はだいたい50〜70%の範囲にある。いくつかの診断方法は高感度を有するが低特異性であり、他方で、高特異性かつ低感度であるものもある。例えば、FISHは30%感度および95%特異性を有するが(非特許文献1)、他方で、HA−HAaseは86%感度および61%特異性を有する(非特許文献2)。癌組織を高精度で特定するための完璧な方法はない。この状況は腎癌についても当てはまる。腎癌は別のタイプの泌尿器の癌である。2つの最も一般的なタイプの腎癌は、腎細胞癌および腎盂癌である。約200,000の腎癌の新しい症例が、毎年、世界中で診断される。英国では、腎癌は、男性では、8番目に最も一般的な癌である。最も高い割合は、北アメリカで記録されている。しかしながら、まだ理想的な診断方法はない。それゆえ、癌の膀胱/腎臓細胞と癌でない膀胱/腎臓細胞とを高い感度および特異性で判別する方法を開発することが非常に重要である。
【0005】
上記のことから、正常な組織および形質転換された組織において差異的に発現される、新しく特徴づけられた、特異的な、信頼性の高いマーカーの提供は、当該技術分野に対する有用な貢献となるであろうということは分かるであろう。「汎用マーカー」である(すなわち、多くの異なるタイプの癌と関連する)と思われるマーカーは特に有用である。なぜなら、そのようなマーカーは、診断の費用および時間を少なくするために使用することができるからである。いずれのこのようなマーカーも、とりわけ、膀胱癌/腎癌などの癌の診断、膀胱癌/腎癌などの癌の発症の予測、または膀胱癌/腎癌などの癌の処置で使用することができるであろう。
【0006】
本発明者らは、2つのタンパク質、OMD(オステオモジュリン(osteomodulin)、オステオアドへリン(osteoadherin)としても知られる)およびPRELP(プロリン/アルギニンリッチ末端ロイシンリッチリピートタンパク質、Proline/arginine−rich end leucine−rich repeat protein)の発現が、癌の膀胱/腎臓細胞と癌でない膀胱/腎臓細胞とを高い感度および特異性で判別するために使用される可能性があるということを示した。さらには、OMDおよびPRELPの発現分析の組み合わせによって、膀胱癌および腎癌の両方の判定においてさらにより高い精度がもたらされる。本発明者らは、これらのタンパク質は、肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、小腸癌、および副腎癌などの他の癌において癌細胞と癌でない細胞とを判別するために使用することができるということも示した。
【0007】
非特許文献3。Perouらは、エストロゲン受容体陽性の癌 対 エストロゲン受容体陰性の癌における、OMD mRNAの発現の低下を報告する。しかしながら、同じ論文は、通常の線維腺腫 対 浸潤性小葉癌におけるOMD mRNAの増加に言及する。
【0008】
OMDまたはPRELPは、癌の技術分野の種々の公開された特許出願において、これまでに言及されてきた。
【0009】
特許文献1は、OMDを、「骨転移に関連する遺伝子」であり、骨に局在する転移性の乳癌細胞が、分析した試料の大多数において、一貫してOMDに対して強い免疫反応性を示すことが明らかに認められたとして記載する。PRELPも触れられている。
【0010】
特許文献2は、子宮の漿液性乳頭状腺癌および漿液性卵巣乳頭状腫瘍の遺伝子発現プロファイリングに関する。この文献は、これらは組織学的に区別がつかないことを注記し、オリゴヌクレオチドマイクロアレイがそれらを区別する可能性があるかどうかを見出そうとする。OMDの下方制御が、子宮の漿液性乳頭状腺癌に関して触れられている。
【0011】
特許文献3は、信頼性が高くかつ効率的な乳癌の診断および予後診断の方法ならびに手段の必要性に関する。この文献は、OMDを含む少なくとも200の腫瘍マーカーに特異的な成分の組を記載する。
【0012】
特許文献4は、結腸癌に高度に特異的である腫瘍マーカーの提供、および結腸癌の病的状態を特定することができる方法の提供に関する。PRELPは、下方制御される結腸癌関連タンパク質であると触れられている。
【0013】
本願請求項に係る発明のOMDおよびPRELPの有用性は、これらの文献では教示されていない。
【0014】
OMDおよびPRELPは、系統樹(図1)において分派を構成する。それらの構造、発現、および機能は、スモールロイシンリッチリピートプロテオグリカン(small leucine−rich repeat proteoglycans)(SLRP)ファミリーの他の分派の中のメンバーとは異なる。しかしながら、癌、および特に泌尿器の癌におけるOMDおよびPRELPの役割に関する検討はこれまでほとんどなかった。
【0015】
OMDおよびPRELPをコードする遺伝子の発現は癌の診断のための理想的な方法であるという本願明細書における開示に加えて、OMDまたは/およびPRELPの遺伝子発現または機能の活性化は、癌の惹起および発生を抑制することができるということがさらに開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2008104543(A2)号パンフレット(欧州特許第1961825号明細書)
【特許文献2】国際公開第04108896(A2)号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008077165(A1)号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第2028492(A1)号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Gudjonsson,S.、Isfoss,B.L,Hansson,K.、Domanski,A.M.、Warenholt,J.、Soller,W.、Lundberg,L.M.、Liedberg,F.、Grabe,M.、およびMansson,W.、「The value of the UroVysion assay for surveillance of non−muscle−invasive bladder cancer」、Eur Urol、2008年、第54巻、402−408頁
【非特許文献2】Eissa,S.、Kassim,S.K.、Labib,R.A.、El−Khouly,I.M.、Ghaffer,T.M.、Sadek,M.、Razek,O.A.、およびEl−Ahmady,O.、「Detection of bladder carcinoma by combined testing of urine for hyaluronidase and cytokeratin 20 RNAs」、Cancer、2005年、第103巻、1356−1362頁
【非特許文献3】「Molecular portraits of human breast tumours」、Nature、2000年8月17日、第406巻、6797号、747−52頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は、癌のマーカーとしてのOMDおよびPRELP(これらのいずれも、本願明細書中では、このあと「本発明の標的タンパク質」と呼ばれることがある)の使用を記載し、およびこのような応用例においてそれらを使用するための方法を提供する。
【0019】
以下で詳細に論じられるように、本発明の標的タンパク質は、とりわけ様々な癌、および特に上皮癌および膀胱癌または腎癌の診断用マーカーおよび予後診断用マーカーとして特に有用である。公知のマーカーの場合のように、本発明の標的タンパク質は、例えば、疾患の進行の早期で癌の存在を診断し、特に化学療法剤または複数の化学療法剤の組み合わせに対する特定の患者の腫瘍の感度または耐性に関して、臨床的に成功した成果の見込みを予測することを支援するために使用されてもよい。さらには、例えば、健康な組織において著しい毒性を引き起こすことなく腫瘍性細胞を特異的に標的にするために、および候補治療用化合物の、膀胱または腎臓および他の組織由来の癌性細胞の生物活性を調節する能力の評価のための方法を提供するために、これらの標的は、膀胱癌または腎癌および他の癌における治療的介入のために使用されてもよい。
【0020】
従って、本発明は、癌の診断および処置に、具体的には、特定の腫瘍抗原の過小発現に基づいた、正常細胞からの腫瘍性細胞の判別、および腫瘍性細胞内でのこれらの抗原の差異的発現の利用を通した、処置の標的指向化に関する。本発明は、具体的には、病理学的に正常な細胞における発現と比較して腫瘍性細胞において過小発現される1以上のタンパク質(「標的タンパク質」)(例えば表2〜4を参照)の検出に関する。従って、これらの標的タンパク質、およびそれらをコードする核酸配列またはそれに相補的な配列は、膀胱癌もしくは腎癌などの癌の発症を診断もしくは予測すること、癌治療の有効性をモニターすることにおいて有用な癌マーカーとして、および/またはこのような治療の標的として使用することができる。
【0021】
本発明は、特に、本発明の標的タンパク質、またはこのタンパク質をコードする遺伝子の過小発現に基づく、正常細胞からの腫瘍性細胞の判別に関する。この特定を可能にするために、本発明は、腫瘍性細胞では正常細胞と比較して発現が低下している特定のタンパク質の、発現のパターンを準備する。本発明は、このタンパク質およびこのタンパク質の発現パターンを検出し、この情報を癌の診断もしくは予後診断および処置、または癌処置の有効性の評価のために使用するための様々な方法を提供する。
【0022】
例えば、このような方法は、以下のものを含む。
・個体由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELPのmRNAの検出または測定、ならびに検出されたレベルと、その個体における癌(例えば、膀胱癌または腎癌のような泌尿器の癌などの上皮癌)の見込み、病期または感受性との相関、
・個体由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELPの転写または翻訳の抑制の検出または測定、ならびに検出されたレベルと、その個体における癌(例えば、膀胱癌または腎癌のような泌尿器の癌などの上皮癌)の見込み、病期または感受性との相関、
・個体由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELPのタンパク質レベルの検出または測定、ならびに検出されたレベルと、その個体における癌(例えば、膀胱癌または腎癌のような泌尿器の癌などの上皮癌)の見込み、病期または感受性との相関、
・個体由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELPの活性の検出または測定、ならびに検出されたレベルと、癌(例えば、膀胱癌または腎癌のような泌尿器の癌などの上皮癌)の見込み、病期または感受性との相関。
【0023】
さらには、他の態様では、本発明は、膀胱癌または腎癌などの癌を処置するための新規なスクリーニング系および治療学を提供する。この例としては、
・例えば、タンパク質OMDおよび/またはPRELPの安定化、または他の修飾によって、OMDおよび/またはPRELPの活性を増大させること、
・例えばOMDおよび/もしくはPRELPをコードする遺伝子の転写活性化によって、またはタンパク質OMDおよび/もしくはPRELPをコードする核酸の導入によって、OMDおよび/またはPRELPをコードする遺伝子の発現を増大させること、
・OMDおよび/またはPRELPの活性と同様の活性を有するバリアントまたは類似体を含むこと
が挙げられる。
【0024】
これにより、本発明は、上記標的タンパク質の差異的発現に基づく、膀胱癌または腎癌を含めた癌の診断、予後診断および処置のための広い範囲の新規な方法を提供する。本発明のこれらならびに他の多くのさらなる態様および利点は、以下の本発明の詳細な説明を考慮すれば、当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】OMD、PRELP、およびケラトカンの構造。
【図2】SYBR(商標) Green PCR Master Mixを使用した、リアルタイム定量的RT−PCRの検証。
【図3】qRT−PCRを使用した、膀胱組織におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。
【図4】qRT−PCRを使用した、腎臓組織におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。
【図5】qRT−PCRを使用した、いくつかの正常組織、膀胱腫瘍組織および膀胱癌細胞株におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。
【図6】マイクロアレイを使用した、種々のタイプの癌におけるOMD遺伝子発現の定量分析。
【図7】マイクロアレイを使用した、種々のタイプの癌におけるPRELP遺伝子発現の定量分析。
【図8】膀胱正常組織および癌組織におけるPRELPタンパク質の分布。
【図9】EJ28膀胱癌細胞におけるOMDの過剰発現後の、異常な形状を有する細胞。
【図10】OMD発現は、アポトーシスから正常細胞を保護するのに対して、PRELP発現は効果を有しない。
【図11】EJ28細胞におけるOMDまたはPRELPの過剰発現は、当該細胞の、マイトマイシンC処置に対する感作をもたらす。
【図12】OMDおよびPRELPの過剰発現されたタンパク質。
【図13】5637膀胱癌細胞株を用いたsiPRELP形質移入の効果。
【図14】EJ28細胞の足場非依存性増殖を、OMDは消失させ、PRELPは阻害する。
【図15】OMDタンパク質を過剰発現するEJ28細胞の異種移植の効果。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願明細書に記載されるとおり、本発明者らは、OMDおよびPRELPの発現レベルが、多くの癌において著しく下方制御されるということを見出した。本願明細書に記載される態様および実施形態では、癌は、上皮癌、例えば膀胱癌および腎細胞癌などの泌尿器の癌であってもよい。他の態様または実施形態では、癌は、肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、小腸癌、または副腎癌であってもよい。
【0027】
本発明に包含される特定の好ましいタンパク質/癌の組み合わせとしては、OMD/肺癌、PRELP/肺癌、PRELP/前立腺癌、PRELP/乳癌などが挙げられる。
【0028】
発癌の非常に早期においてさえも、両方の遺伝子についての遺伝子発現データを組み合わせるとき、腫瘍を、正常なものから明確に区別することができた。これらの新規な知見は、癌診断の新規な方法を提供する。また、これらの遺伝子の活性化は、正常細胞に影響することなく癌細胞のアポトーシスを増進し、抗癌剤への感度を高め、これは、これらの遺伝子の活性化によって癌の新規な処置を提供することができるということを実証する。
【0029】
さらには、癌細胞を使用する異種移植研究により、マウスにおけるインビボでの過剰発現が癌の発生を完全に抑制することが示された。
【0030】
これらの態様および実施形態のいくつかは、これより、より詳細に記載される。
【0031】
OMD
OMDは、SLRPファミリーに属するケラタン硫酸プロテオグリカンである(Sommarinら、1998年)。OMDはヒドロキシアパタイトに対して高い親和性を有し、これは、SLRPの中でもユニークな特徴であり、およそ60%の酸性残基からなる伸長されたC末端領域によっておそらく媒介される。OMDは、早期分化型の骨芽細胞から発現され、類骨形成の後期で無機質沈着の開始時にピークを迎え、そしてECMの形成体として提案されている。OMDはTGF−β1およびBMP−2によって制御され、早期の高分化した骨芽細胞についてのマーカーである(Rehnら、2006年)。
【0032】
本願明細書に開示されるように、OMDの発現は、正常組織と比較して、膀胱癌および腎癌を含めた多くのタイプの悪性癌においては、著しく低減される可能性がある。
【0033】
膀胱癌は染色体9の頻繁な遺伝子変異によって特徴づけられ、OMD遺伝子は染色体9q22.31に位置する。マイクロサテライトマーカーを用いた精密な欠失マッピングにより、この染色体上での、9p22−23、9p21−22、9p11−13、9q12−13、9q21−22、9q31および9q33−34における、いくつかの推定上の腫瘍抑制因子の遺伝子座の存在が示唆されている(Czerniakら、1999年;Habuchiら、1995年;Simoneauら、1996年;Simoneauら、1999年)。本願明細書中の結果を考慮して、本発明者らは、1MbのCGHアレイを使用して、悪性の膀胱組織におけるOMD遺伝子の遺伝子座の著しい(significant)欠失を示す(データは示さず)。
【0034】
PRELP
PRELPは、もともと軟骨の細胞外マトリクス(ECM)内の豊富なタンパク質として特定され(Heinegardら、1986年)、他の結合組織においてもより低いレベルで検出され、この他の結合組織では、PRELPはBMの近くに局在する(Stanfordら、1995年)。PRELPは、BMプロテオグリカンであるパールカンと相互作用し、この相互作用は、PRELPの塩基性のN末端のProおよびArgリッチなドメインとパールカンのアニオン性のヘパリン硫酸(HS)鎖との間の相互作用であると仮定された(Bengtssonら、2000年)。このPRELP/HS相互作用は、PRELPを細胞表面HS−プロテオグリカンに結合すると仮定される(Bengtssonら、2000年)。PRELPのコアタンパク質は、コラーゲン原線維と相互作用し、そして細胞を、隣接するECMにあるBMに結合する役割を果たす可能性がある(Bengtssonら、2002年)。マウスにおけるPRELPの過剰発現は、真皮中のコラーゲン線維束の含有量およびサイズの減少を伴って、皮膚の構造変化を生じる(Groverら、2007年)。
【0035】
診断および評価の方法
後出の実施例に示されるように、膀胱癌および腎癌を含めた多くのタイプの癌におけるOMDおよびPRELPの発現パターンが、定量的RT−PCR、マイクロアレイ、および癌組織の免疫組織化学を使用して調べられた。
【0036】
126の膀胱癌試料および31の正常対照試料が、レーザーキャプチャー顕微鏡を使用して顕微解剖され、OMDおよびPRELPの発現が、表1に示されるプライマーを使用する定量的RT−PCRによって分析された。図2に示すとおり、これらの状態は確認された。
【0037】
OMDおよびPRELPの発現レベルはともに、正常組織と比較して、腫瘍においては有意に低いことが判明した(いずれの場合もP<0.0001;図3A〜Dおよび表2)。OMDおよびPRELPの発現は、早期の癌細胞では非常に早期から抑制されるので、腫瘍の病期に基づく分析では、OMDまたはPRELPのいずれについても早期(pTa/pT1)とpT2段階との間の有意差は明らかにならなかった。しかしながら、T3/T4群の数は少なかったが、OMDおよびPRELPの発現レベルはともに、進行した段階pT3/pT4では、pT2と比較して有意に低かった。腫瘍病期G1とG2との間でOMD発現レベルの有意差が見出されたが、腫瘍病期G2とG3との間では有意差は見出されなかった。PRELP発現の場合は、腫瘍悪性度G1とG2との間のわずかな差を除いては、悪性度の進行に基づく顕著な特徴は何も見出すことはできなかった。OMDおよびPRELPの発現レベルはともに、転移したことが分かっている原発性腫瘍では、より低かった。表2に示すように、性別または再発状態によって分類したときには、有意差は認められなかった。本発明者らは、年齢、腫瘍サイズ、喫煙歴および浸潤状態に関しても定量的RT−PCR結果を分析したが、有意差は見出せなかった(データは示さず)。
【0038】
これらの結果は、OMDおよびPRELPの発現レベルは、膀胱での発癌の非常に早期から劇的に下方制御されること、およびこれらの遺伝子の発現レベルは、発癌の末期段階において低いままであることを示し、このことは、これらの遺伝子が癌のすべての病期および悪性度について理想的であることを示す。さらに、発現レベルは、腫瘍形成の病期と有意な相関を有し、このことは、これらの遺伝子が膀胱癌の病期の判定に好適であるということを示す。
【0039】
次に、本発明者らは、78の腎細胞癌試料および15の正常対照試料においてOMDおよびPRELPの定量的遺伝子発現分析を実施した(図4;表3)。腫瘍組織における発現レベルは、OMD(P<0.0001;図4B)およびPRELP(P<0.0001;図4D)の両方について、正常組織における発現レベルよりも劇的に低かった。腫瘍病期に基づく結果の分析から、pT3およびpT4の腫瘍組織におけるOMDおよびPRELPの発現レベルはともに、pT1およびpT2におけるよりも有意に低いということが示された。しかしながら、腫瘍悪性度、転移状態、生存期間または組織学的な細胞の種類については有意差を見出すことはできなかった(表3)。加えて、試料の性別および年齢は、OMDおよびPRELPの発現レベルに差を示さなかった(データは示さず)。これらのデータは、OMDおよびPRELPの発現レベルは腎臓での発癌の初期段階から有意に下方制御されるということを示す。さらに、早期癌の発現レベルは、進行した段階よりも有意に高く、これは、OMDおよびPRELPが、膀胱癌で観察されたような癌の病期の指標として機能することができるということを示す。
【0040】
最後に、本発明者らの統計的な詳細な解析により、OMDおよびPRELPの発現分析に基づいて、組織が癌であるか否かをほとんど100%の精度で予測することができるということが明らかになった。図3および4に示すように、本発明者らは、最初に、正常なものから腫瘍を区別するためのカットオフを設定する。カットオフ値を導くために、各データにおいて第3四分位数(x.75)から第1四分位数(x.25)を除算することにより、四分位範囲(IQR)を算出した。本発明者らは、第1四分位数よりも1.5*IQR超低いかまたは第3四分位数よりも1.5*IQR高いいずれのデータ観察値も異常値と考え、カットオフ値を以下のとおりに導いた:カットオフ=[(正常組織における最小の非異常値の観察値)+(腫瘍組織における最大の非異常値の観察値)]/2。
【0041】
OMDおよびPRELPの診断値は、表4に要約されている。膀胱の場合は、ほとんどの正常組織におけるOMDおよびPRELPの発現レベルは、カットオフ値を超えていたが(OMD、31のうち26[特異性83.9%];PRELP、31のうち28[特異性90.3%])、他方で、ほとんどの腫瘍組織における発現は、カットオフを下回っていた(OMD、126のうち112[感度88.9%];PRELP、126のうち114[感度90.5%];表4)。加えて、ほとんどすべての腫瘍組織の早期におけるOMDおよびPRELPのレベルも、カットオフ値を下回っていた(OMD、90のうち80[感度88.9%];PRELP、90のうち82[感度91.2%];表4)。これらの結果は、これらの遺伝子の発現レベルが、実際に膀胱癌の存在についての有用な指標であるということを示す。さらに、OMDおよびPRELPの両方のデータを組み合わせた(表4)。両方の遺伝子についてカットオフ未満のカテゴリーに属する正常組織試料は見出されなかった[特異性100%]。重要なことは、126の腫瘍試料のうち120で、少なくとも1つの、PRELPまたはOMDがカットオフ未満であったことである[感度95.2%]。これらのデータは、PRELPおよびOMDの両方のデータの組み合わせを用いて、正常試料から腫瘍を明確に区別することができたということを示す。
【0042】
腎臓については、多くの正常組織におけるOMDおよびPRELPの発現レベルはカットオフを超えていたが(OMD、15のうち13[特異性86.7%];PRELP、15のうち12[特異性80.0%])、他方で、多くの腫瘍組織における発現レベルはカットオフを下回っていた(OMD、78のうち64[感度82.1%];PRELP、78のうち65[感度82.5%])。ほとんどの腫瘍組織の早期における両方の遺伝子の発現も、カットオフを下回っていた(OMD、25のうち22[感度88.0%];PRELP、25のうち22[感度88.0%])。OMDおよびPRELPについてのデータを合わせることにより、両方でカットオフ未満というカテゴリーに含まれる正常組織試料は生じなかった[特異性100%]。他方、非常に多くの腫瘍の症例が、少なくとも1つでカットオフ未満というカテゴリーにあった(79のうち74[感度93.6%])。加えて、かなりの数の早期腫瘍の症例もこのカテゴリーにある(25のうち23[感度92%])。これらの結果は、膀胱癌の場合と同様に、正常試料から腎臓腫瘍試料を区別する区別することもでき、およそ84%の腫瘍試料が早期から検出できたということを示す。
【0043】
癌組織におけるOMDおよびPRELPの本発明の発現分析は、OMDベースおよびPRELPベースの癌診断の大きな価値を実証した。より多くの支持するエビデンスを得るために、複数の癌細胞株についてOMDおよびPRELPの発現レベルを測定し、正常組織および腫瘍組織と比較した。9種の正常組織、10種の膀胱癌細胞株および膀胱腫瘍組織においてOMDおよびPRELPの定量的遺伝子発現分析を行った(図5)。正常組織におけるOMD発現レベルは、肺、胎生期の眼および膀胱では高く、胃、結腸、心臓、脳および腎臓では中程度であり、肝臓では低い。上で調べたように、レベルは、膀胱腫瘍組織でも非常に低い。加えて、OMD発現レベルは、ほとんどの膀胱癌細胞株では、正常な膀胱組織と比較して有意に低い(図5Aおよび5B)。興味深いことに、RT−4細胞における発現レベルは、他の細胞株よりも有意に高い。この細胞株は高分化型の膀胱細胞株であり、この結果は、本発明でのデータと整合する。
【0044】
図5Cは、いくつかの正常組織および膀胱腫瘍組織におけるPRELP発現を示す。レベルは、肺および膀胱では非常に高く、胃、結腸、胎生期の眼および腎臓では中程度であり、心臓、脳および肝臓では低い。レベルは、膀胱腫瘍組織ではきわめて低く、すべての膀胱癌細胞株では有意に低く、これらの膀胱癌細胞株は、膀胱腫瘍におけるレベル以下のレベルを有する。これらの結果は、OMDおよびPRELP遺伝子は正常組織において遍在的に発現され、発現レベルは膀胱腫瘍組織におけるよりも有意に高いということを明らかにする。さらには、ほとんどの膀胱癌細胞株における発現レベルは、正常な膀胱組織よりも有意に低い。このデータは、臨床試料を使用する本発明の知見の信頼性を強調する。
【0045】
腫瘍形成におけるOMDおよびPRELPのより一般的な役割を解明するために、多くのタイプの癌(膀胱癌、肺癌、乳癌、結腸癌、腎癌、胃癌、および前立腺癌などの上皮癌を含む)におけるOMDおよびPRELPの発現パターンを調べた(図6および7)。OMDおよびPRELPの発現は、周囲の上皮に由来する対照細胞と比較して、すべての癌のタイプの癌試料の大多数において非常に強く抑制される。これらの癌としては、肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、小腸癌、および副腎癌が挙げられる。
【0046】
OMDおよびPRELPの診断上の価値をさらに探索するために、癌組織および正常組織の免疫組織化学を、PRELPに特異的な抗体を使用することにより実施した(図8)。この抗体は正常組織および移行型の癌組織の正常部分を染色した。しかしながら、癌組織/試料の癌部分はまったく染色されず、上で論じたRT−PCR分析およびマイクロアレイ解析における知見と整合した。
【0047】
従って、本発明の第1の態様は、癌細胞の特定のための方法であって、第1の個体由来の組織の試料において本発明の標的タンパク質の発現を判定する工程と、観察された発現のパターンを、同じ個体または第2の健康な個体由来の第2の臨床的に正常な組織試料における同じタンパク質の発現のパターンと比較する工程とを含み、この第1の個体由来の試料の中の腫瘍細胞の存在は、観察された発現パターンの相違によって示される、方法を提供する。
【0048】
より具体的には、本発明は、標的タンパク質の差異的発現によって腫瘍および腫瘍性細胞、特にヒトの腫瘍性細胞を特徴づけるための診断アッセイであって、腫瘍性の表現型は、この標的タンパク質の差異的発現と関連づけられ、この標的タンパク質の差異的発現によって特定され、そしてこの標的タンパク質の差異的発現に基づいて診断されうるアッセイ、を提供する。この診断アッセイは、定性的にまたは好ましくは定量的に、標的タンパク質の発現レベルを検出する工程と、この発現レベルに基づいて癌の診断を行う工程とを含む。
【0049】
これに関して、「発現を判定すること」は、標的タンパク質の生物活性の量を、単位時間あたりの活性単位などを単位として測定することを含む、本発明の標的タンパク質の存在の定性的および/または定量的な判定を意味する。
【0050】
本願明細書で使用する場合、用語「発現」は、一般に、ポリペプチドがRNAから産生される細胞プロセスを指す。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、この方法は、膀胱癌または腎癌などの泌尿器の癌の診断に応用されてもよい。
【0052】
文脈と矛盾しない限り、種バリアントも、患者が非ヒトの哺乳動物である本発明に包含され、同様に、ヒトのOMDおよびPRELPの対立遺伝子バリアントまたは他のバリアントも包含され、これらのタンパク質に言及するときは常に、同じ活性を共有するバリアント(例えば断片、対立遺伝子、ホモログ、他の生物のオルソログ、変異したヒトの遺伝子、他の生物の変異したオルソログ、タグ化されたタンパク質、類似の生物活性を有する他の改変遺伝子、または他の天然に存在するバリアント)を包含すると理解されるものとする。
【0053】
以下(配列番号1)は、ヒトのOMDの現在公開されているアミノ酸配列である。
MGFLSPIYVIFFFFGVKVHCQYETYQWDEDYDQEPDDDYQTGFPFRQNVDYGVPFHQYTLGCVSECFCPTNFPSSMYCDNRKLKTIPNIPMHIQQLYLQFNEIEAVTANSFINATHLKEINLSHNKIKSQKIDYGVFAKLPNLLQLHLEHNNLEEFPFPLPKSLERLLLGYNEISKLQTNAMDGLVNLTMLDLCYNYLHDSLLKDKIFAKMEKLMQLNLCSNRLESMPPGLPSSLMYLSLENNSISSIPEKYFDKLPKLHTLRMSHNKLQDIPYNIFNLPNIVELSVGHNKLKQAFYIPRNLEHLYLQNNEIEKMNLTVMCPSIDPLHYHHLTYIRVDQNKLKEPISSYIFFCFPHIHTIYYGEQRSTNGQTIQLKTQVFRRFPDDDDESEDHDDPDNAHESPEQEGAEGHFDLHYYENQE。
【0054】
配列番号2は、ヒトのPRELPの現在公開されているアミノ酸配列である。
MRSPLCWLLPLLILASVAQGQPTRRPRPGTGPGRRPRPRPRPTPSFPQPDEPAEPTDLPPPLPPGPPSIFPDCPRECYCPPDFPSALYCDSRNLRKVPVIPPRIHYLYLQNNFITELPVESFQNATGLRWINLDNNRIRKIDQRVLEKLPGLVFLYMEKNQLEEVPSALPRNLEQLRLSQNHISRIPPGVFSKLENLLLLDLQHNRLSDGVFKPDTFHGLKNLMQLNLAHNILRKMPPRVPTAIHQLYLDSNKIETIPNGYFKSFPNLAFIRLNYNKLTDRGLPKNSFNISNLLVLHLSHNRISSVPAINNRLEHLYLNNNSIEKINGTQICPNDLVAFHDFSSDLENVPHLRYLRLDGNYLKPPIPLDLMMCFRLLQSVVI。
【0055】
従って、配列番号1〜2のいずれかで与えられる天然に存在する配列のアミノ酸バリアントは、本発明の標的タンパク質の定義の範囲内に含まれる。好ましくは、バリアント配列は、野生型配列と少なくとも75%相同性を有し、より好ましくは提供された参照配列(配列番号1〜2)の少なくとも一部分と少なくとも80%相同性、さらにより好ましくは少なくとも85%相同性、なおより好ましくは少なくとも90%相同性、または最も好ましくは少なくとも95%相同性を有する。いくつかの実施形態では、相同性は94〜96%または98%という高さになるであろう。これに関して相同性は、配列の類似性または同一性を意味し、同一性が好ましい。候補ペプチド領域が、参照のポリペプチドまたはペプチドオリゴマーに対して必要な百分率の類似性または同一性を有するかどうかを判定するために、候補アミノ酸配列および参照アミノ酸配列は、まず、市販されており当業者が広く使用している標準的なコンピュータープログラムを使用して配列比較される。好ましい実施形態では、NCBI BLAST方法が使用される(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)。それら2つの配列が配列比較されると、類似性%スコアが算出されてもよい。すべての例において、本願明細書において配列番号1〜2で示した天然に存在する配列のバリアントは、マーカータンパク質としての機能について確認される必要がある。具体的には、特定の形態または特定の生物学的区画の中でのそれらバリアントの存在または不存在は、個体における癌の存在または不存在を示すに違いない。このルーチンの実験は、本願明細書中の開示を踏まえて、当該技術分野で公知の標準的な方法を使用することにより実施することができる。
【0056】
本発明の1つの態様では、標的タンパク質は、当該マーカータンパク質に特異的に結合することができる結合部分を使用して検出することができる。例として、この結合部分は、リガンド−受容体対、すなわち特異的な結合相互作用を有することができる一対の分子のメンバーを含んでもよい。この結合部分は、例えば、特異的な結合対、例えば抗体−抗原、酵素−基質、核酸−核酸、タンパク質−核酸、タンパク質−タンパク質、または当該技術分野で公知の他の特異的な結合対のメンバーを含んでもよい。本発明の標的タンパク質に対して高められた親和性を有する結合タンパク質が設計されてもよい。任意に、この結合部分は、酵素標識、蛍光標識、放射活性標識、りん光標識、有色粒子標識またはスピン標識などの検出可能な標識と連結されてもよい。標識された複合体は、例えば、視覚的に、または分光光度計もしくは他の検出器を用いて検出されてもよい。
【0057】
本発明の好ましい実施形態は、組織、細胞、血液もしくは体内産物の試料、またはそれらから誘導される試料と接触させるため、および肯定的反応についてスクリーニングするための、認識剤、例えば本発明の標的タンパク質を認識する抗体の使用を伴う。肯定的反応は、例えば、凝集反応によって、または色の変化もしくは蛍光(例えば免疫染色)などの目に見えるようにできる変化によって、または放射免疫法または酵素結合抗体法の使用などの定量的方法によって示されてもよい。
【0058】
それゆえ当該方法は、典型的には、(a)癌細胞の存在について試験するべき組織試料を患者から入手する工程と、(b)試料調製プロセスにおいて調製された試料を生成する工程と、(c)調製された試料を、本発明の標的タンパク質と反応する抗体などの認識剤と接触させる工程と、(d)調製された試料において、存在する場合、標的タンパク質への認識剤の結合を検出する工程とを含む。ヒトの組織試料は、一般に、膀胱または腎臓に由来することになろう。
【0059】
試料は、患者組織から切り取られた切片をさらに含んでもよいし、または試料は全細胞を含有してもよいし、または試料は、例えば、血液;血清;血漿;糞便;尿;膣内分泌物;乳房滲出液;髄液;唾液;腹水(ascitic fluid);腹水(peritoneal fluid);痰;および膀胱もしくは腎臓の滲出液からなる群から選択される体液試料であってもよく、または浸出液であってもよく、浸出液の場合は、試料は細胞を含有してもよいし、または遊離抗原(shed antigen)を含有してもよい。好ましい試料調製プロセスは、組織固定および薄片の生成を含む。次いで標的タンパク質への認識剤の結合を検出するために、この薄片を、免疫組織学的解析にかけることができる。好ましくは、この免疫組織学的解析は、複合酵素標識(conjugated enzyme labelling)技法を含む。好ましい薄片調製方法としては、ホルマリン固定およびワックス包埋が挙げられる。代替の試料調製プロセスとしては、組織均質化が挙げられる。試料調製が組織均質化を含むとき、標的タンパク質への抗体の結合を検出するための好ましい方法はウエスタンブロット解析である。
【0060】
あるいは、標的タンパク質への抗体の結合を検出するためにイムノアッセイを使用することができる。イムノアッセイの例は、抗体捕捉アッセイ、2抗体サンドイッチアッセイ、および抗原捕捉アッセイである。サンドイッチイムノアッセイでは、マーカータンパク質に結合することができる2種の抗体が一般に使用され、例えば一方は固体支持体上に固定され、一方は自由に溶液中にあり、検出可能な化学的化合物で標識されている。第2の抗体について使用されてもよい化学標識の例としては、放射性同位体、蛍光性化合物、スピン標識、コロイド状の金および有色のラテックスなどの有色の粒子、および、反応物質もしくは酵素基質に曝露されたときに有色の生成物もしくは電気化学的に活性な生成物を生成する酵素または他の分子が挙げられる。マーカータンパク質を含有する試料がこの系に置かれたとき、マーカータンパク質は、固定された抗体および標識された抗体の両方を結合して、支持体の表面上で「サンドイッチ」免疫複合体を形成する。複合体を形成したタンパク質は、結合していない試料成分および過剰の標識された抗体を洗い流し、支持体の表面上のタンパク質と複合体を形成した標識された抗体の量を測定することにより、検出される。あるいは、自由に溶液の中にある抗体(これは化学的部分、例えばハプテン、で標識されていてもよい)は、この自由な抗体または、例えば、それに対合したハプテンに結合する検出可能な部分で標識された第3の抗体によって検出されてもよい。好ましくは、このイムノアッセイは、固体支持体ベースのイムノアッセイである。あるいは、このイムノアッセイは、例えば比濁イムノアッセイまたは免疫比濁法などの当該技術分野で公知の免疫沈降技法のうちの1つであってもよい。ウエスタンブロット解析またはイムノアッセイが使用されるとき、そのウエスタンブロット解析またはイムノアッセイが複合酵素標識技法を含むことが好ましい。
【0061】
当該認識剤が抗体であることが簡便であろうが、他の認識剤も公知であり、入手できる可能性があり、本発明で使用することができる。例えば、抗体の抗原結合ドメイン断片、例えばFab断片、を使用することができる。また、いわゆるRNAアプタマーも使用してもよい。それゆえ、文脈と明らかに矛盾しない限り、用語「抗体」は、本願明細書で使用する場合、他の認識剤を包含することが意図されている。抗体が使用される場合には、その抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。任意に、この抗体は、その抗体が本発明の標的タンパク質由来の前選択したエピトープを認識するような方法によって生成されてもよい。
【0062】
単離された本発明の標的タンパク質を、組織試料または液体試料の中の当該タンパク質のレベルをモニターするための診断用および他の組織評価用のキットおよびアッセイの開発のために使用してもよい。例えば、このキットは、標的タンパク質に特異的に結合する抗体または他の特異的結合部分を含んでもよく、これにより、膀胱癌または腎癌関連のタンパク質の存在および/または濃度が組織試料または液体試料の中で検出および/または定量されるようになる。従って、本発明は、標的タンパク質を検出するための好適なキットであって、評価対象の試料を受けるための容器または他の手段と、試料中の本発明の標的タンパク質の存在および/または量を検出するための手段と、任意にこのようなアッセイを実施するための取扱説明書とを含んでもよいキット、の生成をさらに提供する。
【0063】
OMDおよびPRELPをコードする核酸に基づいてOMDおよびPRELPのレベルを検出するための方法がいくつかある。これらには、mRNAレベルの検出、タンパク質レベルの検出転写活性、の検出、翻訳活性の検出が含まれる。mRNAレベルを検出するための方法としては、定量的RT−PCRおよびマイクロアレイ解析が挙げられる。これらのうちのいくつかは、これより説明される。
【0064】
特定の実施形態では、マーカーmRNAのレベルは、当該技術分野で公知の方法を使用して、生物試料中でインサイツ形式によっておよびインビトロ形式の両方によって測定することができる。インビトロ方法については、mRNAの単離を妨げないいずれのRNA単離技法も、RNAの精製のために利用することができる(例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987−1999を参照)。加えて、例えば、Chomczynskiの一段階RNA単離プロセス(1989年、米国特許第4,843,155号)などの当業者にとって周知である技法を使用して、多数の組織試料を容易に処理することができる。
【0065】
単離されたmRNAは、ハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイで使用することができ、ハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイの例としては、サザン分析またはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析およびプローブアレイが挙げられるが、これらに限定されない。mRNAレベルの検出のための1つの好ましい診断方法は、単離されたmRNAを、検出しようとする遺伝子によってコードされるmRNAにハイブリダイズすることができる核酸分子(プローブ)と接触させることを伴う。この核酸プローブは、例えば全長cDNA、またはその一部分、例えば長さが少なくとも7、15、30、50、100、250または500ヌクレオチドで、ストリンジェントな条件下で本発明のマーカーをコードするmRNAに特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドであることができる。
【0066】
例えば、約30ヌクレオチドまたはこれより長いプローブがこの方法で用いられてもよい。ストリンジェントな条件は、0.1% SDS/0.1xSSC中、68℃で洗浄することを含んでもよい。
【0067】
mRNAとプローブとのハイブリダイゼーションは、着目しているマーカーが発現されているということを示す。最も好ましい実施形態では、転移特異的な生物学的マーカーの検出および/または定量化は、好適なDNAマイクロアレイを使用することにより実施される。このようなマーカー検出/定量化フォーマットでは、mRNAは、固体表面に固定され、例えば単離されたmRNAをアガロースゲルの上で流し、mRNAをそのゲルから膜へ、例えばニトロセルロースへトランスファーすることにより、プローブと接触させられる。別のフォーマットでは、プローブ(複数可)は、固体表面に固定され、mRNAは、例えばAffymetrix 遺伝子チップアレイの中でプローブ(複数可)と接触させられる。当業者は、本発明のマーカーによってコードされるmRNAのレベルを検出することにおいて使用するための公知のmRNA検出方法を容易に採用することができる。当該方法で用いられる発現プロファイルを生成するために実施されてもよい特異的ハイブリダイゼーション技術としては、米国特許第5,143,854号明細書;米国特許第5,288,644号明細書;米国特許第5,324,633号明細書;米国特許第5,432,049号明細書;米国特許第5,470,710号明細書;米国特許第5,492,806号明細書;米国特許第5,503,980号明細書;米国特許第5,510,270号明細書;米国特許第5,525,464号明細書;米国特許第5,547,839号明細書;米国特許第5,580,732号明細書;米国特許第5,661,028号明細書;米国特許第5,800,992号明細書(これらの開示は、参照により本願明細書に援用したものとする)、ならびに国際公開第95/21265号パンフレット;国際公開第96/31622号パンフレット;国際公開第97/10365号パンフレット;国際公開第97/27317号パンフレット;欧州特許第373 203号明細書;および欧州特許第785 280号明細書に記載される技術が挙げられる。これらの方法では、表現型を決定する遺伝子(この発現がアッセイされている)の各々に対するプローブを含む「プローブ」核酸のアレイが、上記のようにして標的核酸と接触させられる。接触は、ハイブリダイゼーション条件下、例えば上記のとおりのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で実施され、その後、結合していない核酸は除去される。ハイブリダイズした核酸の得られるパターンは、調べられた遺伝子の各々についての発現に関する情報を提供し、その際、その発現情報は、その遺伝子が発現されているか否か、および、典型的には、どのレベルで発現されているかに関するものであるが、その発現データ、すなわち、発現プロファイル、は定性的および定量的であってもよい。
【0068】
試料中のmRNAマーカーのレベルを測定するための代替の方法は、例えばRT−PCR(後述するとおり)、リガーゼ連鎖反応(Barany、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1991年、第88巻、189−193頁)、自家持続配列複製法(Guatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1990年、第87巻、1874−1878頁)、転写増幅系(Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1989年、第86巻、1173−1177頁)、Q−βレプリカーゼ(Lizardiら、Bio/Technology、1988年、第6巻、1197頁)、ローリングサークル複製(Lizardiら、米国特許第5,854,033号明細書)またはいずれかの他の核酸増幅方法による核酸増幅、その後の、当業者にとって周知である技法を使用した、増幅された分子の検出のプロセスを伴う。これらの検出スキームは、核酸分子が非常に少ない数で存在する場合には、そのような核酸分子の検出のためにとりわけ有用である。本願明細書で使用する場合、増幅プライマーは、遺伝子(それぞれ、+鎖および−鎖、またはその逆)の5’または3’領域にアニールすることができ、かつそれらの間に短い領域を含む一対の核酸分子であるとして定義される。一般に、増幅プライマーは、長さが約10〜30ヌクレオチドであり、長さが約50〜200ヌクレオチドの領域に隣接する。適切な条件下でかつ適切な試薬を用いて、このようなプライマーは、プライマーが隣接するヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を可能にする。
【0069】
インサイツ方法については、mRNAは、検出に先立って当該試料から単離される必要はない。このような方法では、細胞または組織試料は、公知の組織学的な方法を使用して調製/処理される。次いで、試料は支持体、典型的にはガラススライド、上に固定され、次いで、当該マーカーをコードするmRNAにハイブリダイズすることができるプローブと接触させられる。
【0070】
マーカーの絶対的な発現レベルに基づいて判定を行うことに代わるものとして、判定は、当該マーカーの正規化された発現レベルに基づいてもよい。マーカーの発現を、マーカーではない遺伝子、例えば構成的に発現されるハウスキーピング遺伝子の発現と比較することにより、マーカーの絶対的な発現レベルを修正することによって、発現レベルは正規化される。正規化のための好適な遺伝子としてはアクチン遺伝子などのハウスキーピング遺伝子が挙げられる。この正規化によって、1つの試料の中の1以上の注目する組織特異的な生物学的マーカーの発現レベルの比較が可能になる。
【0071】
あるいは、発現レベルは、相対的発現レベルとして提供することができる。マーカーの相対的発現レベルを測定するために、着目している試料についての発現レベルの測定に先立って、正常細胞分離株 対 癌細胞分離株の4、5、10またはこれより多い試料について、マーカーの発現のレベルが測定される。より多くの試料でアッセイされた遺伝子の各々のメジアン発現レベルが測定され、これが、そのマーカーについてのベースライン発現レベルとして使用される。試験試料について測定された当該マーカーの発現レベル(発現の絶対的レベル)は、次に、そのマーカーについて得られる平均発現値で除算される。これは、相対的発現レベルを与え、この相対的発現レベル自体は、例えば<50%、<33%、<20%などへ分類することができる。
【0072】
従って、1つの態様では、本発明は、個体の試料の中に存在する核酸分子を含む試験試料を入手する工程と、次いで、その試験試料の中の、標的タンパク質をコードするmRNAの量を測定する工程と、任意に、その試験試料の中のmRNAの量を所定の値と比較する工程とを含んでもよい。
【0073】
より好ましくは、試験試料の中の、mRNAの量を測定する工程は、mRNAの特異的増幅、次いで例えば、後出の実施例に記載されるとおりのRT−PCR分析を介した、増幅された生成物の定量を伴う。
【0074】
転写レベルは、エピジェネティックな修飾および転写因子によって制御される。特定のエピジェネティックな因子および/または転写因子の状態の測定は、転写活性を検出することができる。言い換えれば、発現および転写のレベルの低下はプロモーター過剰メチル化の結果であることが多いということは当該技術分野で公知である。それゆえ、本発明の1つの実施形態では、OMDまたはPRELP遺伝子プロモーターが過剰メチル化されているかどうかを判定することが望ましい場合がある。プロモーターメチル化は、制限エンドヌクレアーゼ処理およびサザンブロット分析などの公知の技法によって検出することができる。技法としては、米国特許第5552277号明細書に公開されている技法、またはより最近の技法(例えばKen I.Mills、Bernie H.Ramsahoyeによる「DNA methylation protocols」(2002年);Manel Estellerによる「DNA methylation:approaches,methods,and applications」(2005年)を参照)が挙げられる。それゆえ、本発明の方法では、検出される細胞成分がDNAであるとき、制限エンドヌクレアーゼ分析は、プロモーターの過剰メチル化を検出するために好ましい。認識部位の一部としてCGを含み、かつCがメチル化されているとき阻害されるいずれの制限エンドヌクレアーゼも利用することができる。好ましくは、このメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼは、BssHII、MspI、またはHpaIIであり、これらは単独または組み合わせて使用される。他のメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼは、当業者にとって公知であろう。
【0075】
本発明のこれらの実施形態では、従って、当該タンパク質の発現のパターンまたはレベルは、当該または各々の標的タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域のメチル化を検出することにより推測される、先行する請求項。一般に、(本願明細書に記載されるような参照または対照と比較して)過剰メチル化は、着目しているタンパク質の発現の減少と相関する。任意に、これは、プロモーター領域のメチル化を検出する試薬を使用して評価され、このプロモーター領域のメチル化を検出する試薬は、任意に制限エンドヌクレアーゼ、例えばMspI、HpaIIおよびBssHIIなどのメチル化感受性エンドヌクレアーゼであってもよい。
【0076】
翻訳も、マイクロRNAの作用などの複数の機構によって制御される。OMDおよびPRELPタンパク質の翻訳抑制を検出するためのすべてのこのような方法論も、本発明に含まれる。
【0077】
本発明のさらなる態様では、癌の処置のための候補治療用薬物の効果を評価する方法であって、当該薬物を患者に投与する工程と、細胞試料をこの患者から取り出す工程と、その細胞試料における本発明の標的タンパク質の発現プロファイルを判定する(例えば定量する)工程とを含む方法が本願明細書に提示される。この方法は、当該発現プロファイルを健康な個体の発現プロファイルと比較する工程をさらに含んでもよい。
【0078】
好ましい実施形態では、患者は、上皮癌、例えば泌尿器の癌、例えば膀胱癌または腎癌についての処置を受けており、細胞試料は上皮組織、例えば膀胱または腎臓に由来する。さらに好ましい実施形態では、本発明は、1以上の時間点において治療レジメンの有効性を判定するための方法であって、与えられた個体における与えられた組織(例えば腫瘍)内での、試験されているタンパク質の発現についてのベースライン値を測定する工程と、与えられた治療用薬物を投与する工程と、次いでその後の1以上の場面において、その与えられた組織内での当該タンパク質の発現レベルを再測定する工程と、治療レジメンの有効性の目安としてタンパク質レベルの変化を観察する工程とを含む方法をさらに提供する。
【0079】
従って、例えば、しかし限定されるわけではないが、本発明は、以下を包含する。
・実際の癌患者または癌と疑われる患者(例えば上皮癌、例えば泌尿器の癌、例えば膀胱癌または腎癌)由来の試料のOMDおよび/またはPRELPのmRNAの検出。これは、当該技術分野で公知のいずれの方法、例えばマイクロアレイおよびRT−PCRによって成し遂げられてもよい。
・実際の癌患者または癌と疑われる患者(例えば上皮癌、例えば泌尿器の癌、例えば膀胱癌または腎癌)由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELPタンパク質の検出。これは、当該技術分野で公知のいずれの方法、例えば特異的抗体およびOMD、PRELP結合タンパク質によって成し遂げられてもよい。
・実際の癌患者または癌と疑われる患者(例えば上皮癌、例えば泌尿器の癌、例えば膀胱癌または腎癌)由来の試料におけるOMDおよび/またはPRELP活性の検出。これは、当該技術分野で公知のいずれの方法によって成し遂げられてもよい。
・実際の癌患者または癌と疑われる患者(例えば上皮癌、例えば泌尿器の癌、例えば膀胱癌または腎癌)由来の試料における、OMDおよび/またはPRELPの転写および/またはmRNA翻訳活性の抑制の度合いの検出。これは、当該技術分野で公知のいずれの方法、例えば特異的な転写下方制御およびエピジェネティックな修飾の検出によって成し遂げられてもよい。エピジェネティックな修飾は、癌試料の直接検査によって、および血液試料および尿試料などの体液の間接的検査によって検出することができる。これは、miRNA活性の検出などの特異的な翻訳制御(regulatory)機構も含む。
・上記の検出方法を使用する、癌病期の判定。
・上記の検出方法を使用する、患者の予後診断の判定。
・上記の検出方法を使用する、癌処置の有効性の測定。
【0080】
スクリーニング方法および治療戦略
OMDおよび/またはPRELPの活性化に基づく癌の処置のための新規な方法も本願明細書に開示される。上記の本発明の発現分析は、OMDおよびPRELPの下方制御が癌の発生に対して利点を有する可能性があるということを示唆した。そうであるなら、OMDまたは/およびPRELPの活性化が腫瘍形成を阻害し、新規な癌の処置をもたらすであろうということを推測することができる。これを実証するために、本発明者らは、癌に関連する特性に対する、癌細胞および異種移植片マウスモデルにおけるOMDまたはPRELPの過剰発現の効果を調べた。この目的のために、OMDまたはPRELPを、膀胱癌細胞株EJ28の中で安定に過剰発現させた。OMDを形質移入された安定な細胞株は、G1期での細胞周期停止の高まりを示した。OMDおよびPRELPはともに、細胞計数アッセイで測定されるとおり、増殖を阻害する。さらには、OMDまたはPRELPの安定な過剰発現は、アポトーシスによる細胞死の増加をもたらす。図9は、OMD過剰発現によって誘導される異常な形態を示す。
【0081】
また、癌細胞におけるOMDまたはPRELPの活性化は、DNA損傷試薬、マイトマイシンCに対する感度を高めたが、これは、OMDまたはPRELPの活性化と抗癌剤との組み合わせが、より良好な癌の処置を提供することができるということを示す(図10)。興味深いことに、この化学感作(chemosensitization)は癌細胞に特有であった。OMD過剰発現は、実際、マイトマイシンC媒介性のアポトーシスから正常細胞を保護したが、他方で、PRELPは正常細胞の感度に対して効果を有しなかった(図10)。これは、マイトマイシンC処置と組み合わせたOMDおよび/またはPRELPを用いた処置は、癌細胞の死滅を高めるが、正常細胞を保護するであろうということを示唆する。
【0082】
OMDおよびPRELPは、癌細胞の足場非依存性増殖にも影響を及ぼす。足場非依存性は癌細胞の顕著な特徴である。正常な上皮細胞は、成長の土台となる基質を必要とするが、癌腫細胞は、基質の不存在下で増殖することができ、従って腫瘍を形成することができる。軟寒天の中で癌細胞が成長する能力を測定することは、インビトロで足場非依存性および腫瘍形成能を測定するための代表的なアプローチである。驚くべきことに、OMD過剰発現は、EJ28細胞の足場非依存性を完全に消失させ、これは、OMDは腫瘍形成を劇的に阻害することができるということを示唆する。PRELPもEJ28の足場非依存性増殖を阻害し、軟寒天中のコロニー形成能を、対照細胞において観察されたコロニー形成能の3分の1まで低下させる(図14)。
【0083】
癌細胞におけるOMDまたはPRELP活性化のインビボでの効果を評価するために、ヌードマウスを使用して異種移植実験を実施した。OMDを発現するEJ28膀胱癌細胞またはEJ28対照細胞をマウスに注入し、癌の発生を3週間モニターした。EJ28対照細胞を注入されたマウスは癌を発生したが、OMDを発現する細胞を注入されたマウスは癌をまったく形成しなかった(図15)。この観察は、OMD/PRELPに基づく癌処置の有用性を確認する。
【0084】
OMDまたはPRELPによって誘導されるアポトーシスのメカニズムを決定するために、本発明者らは、下流のシグナル伝達経路を調べた。この目的のために、OMDまたはPRELPを過剰発現する安定な細胞株およびOMDまたはPRELPの抑制を有する安定でない細胞株を構築し、影響を受けるシグナル伝達経路を分析した。
【0085】
これらの遺伝子を過剰発現させるために、293細胞のうちの形質転換されていない細胞を使用した。なぜなら、形質転換された癌細胞におけるこれらの遺伝子の過剰発現はアポトーシスの顕著な増加をもたらしたからである。また、構築のためにT−Rex−293系を使用した。なぜなら、この系は、挿入部位に基づく悪影響を引き起こさずに相対的に生理レベルでの発現に好適であるからである。図12は、OMD−1細胞およびPRELP−1細胞が上記タンパク質の発現を有し、それらの発現レベルが自然の発現レベルに関連するということを示す。
【0086】
遺伝子の発現をノックダウンするために、5637膀胱癌細胞を、siOMD、siPRELP、siEGFP、またはsiFFLucのsiRNAコンストラクトで形質移入した。上記のように、大多数の膀胱癌細胞株における発現は強く抑制される。この5637細胞は、大多数の膀胱癌細胞株と比較して、比較的高い発現を有する。抑制後、OMDおよびPRELPの発現は、定量的RT−PCRによって確認した。図13は、PRELPの発現はsiPRELPにおいては強く抑制されたが、siEGFPまたはsiFFLucの対照コンストラクトはPRELPレベルを抑制しなかったということを示す。
【0087】
RNAをこれらの細胞から単離し、次いでmRNAの発現プロファイリングを、AffymetrixのGenechipシステムを使用して判定した。データから、統計的に有意に上方制御されるまたは下方制御される遺伝子が、対照との比較を通して特定される。これらの実験を検証するために、本発明者らは、定量的RT−PCRを使用して、マイクロアレイによって特定されたいくつかの遺伝子の発現レベルを確認した(図13)。
【0088】
次いで、OMD過剰発現によって上方制御されOMD欠失によって抑制される遺伝子およびOMD過剰発現によって下方制御されOMD欠失によって上方制御される遺伝子が決定された(表5)。また、PRELP過剰発現によって上方制御されPRELP欠失によって抑制される遺伝子およびPRELP過剰発現によって下方制御されPRELP欠失によって上方制御される遺伝子が決定された(表6)。興味深いことに、これらの一覧は、多くの腫瘍抑制因子遺伝子および腫瘍遺伝子を含み、顕著な重複もある。
【0089】
影響を受けたシグナル伝達経路を決定するために、このマイクロアレイデータをKEGGパスウェイ解析による統計解析にかけた。本発明の統計解析により、OMDおよびPRELPはともにp53経路に最も強く影響を及ぼすということが明らかになった。また、OMDおよびPRELPは、密着結合およびアポトーシス経路を制御する。加えて、OMDは、接着結合、Wnt、アポトーシス経路を制御する(表7)。OMDまたはPRELPの抑制は、腫瘍形成に対して著しい影響を及ぼす。また、OMDおよびPRELPは、腫瘍形成において機能的に大部分は重複している。さらには、本発明者らは、生化学ベースのアッセイを使用してシグナル伝達経路活性に対するOMDまたはPRELPの効果を調べた。OMDまたはPRELPは、Wnt、TGF−b、NFkB、mycおよびrasの経路などの複数の腫瘍関連のシグナル伝達経路を制御し、これは、アポトーシスおよび密着結合の制御をもたらす。すべての観察結果は、OMDおよび/またはPRELPの活性化は、p53経路、アポトーシスの経路、および密着結合経路などの腫瘍抑制活性の活性化を通して癌細胞を死滅させるための理想的な方法であるということを示す。
【0090】
このように、本発明のさらなる実施形態は、本発明の標的タンパク質の過小発現によって特徴づけられる状態の、免疫療法的アプローチを介した処置のための治療法の開発である。
【0091】
このような方法は、細胞中でOMDおよび/もしくはPRELPを投与するかもしくは活性化すること、またはそれらの活性を模倣することを含んでもよい。例えば、タンパク質またはポリペプチドが、治療の利益を与えるのに十分な量で投与されてもよい。例として(これは、本発明の範囲を限定することは特に意図されていない)、これらは、裸のペプチドとして、薬理学的なパラメータ(例えば組織透過性、内因性のタンパク質分解への耐性、循環半減期など)が改善されるように1以上のさらなる分子(例えばリポソーム)に接合または封入されたペプチドとして、または体内の適切な部位で当該配列の発現を引き起こす好適な発現ベクターとして、投与されてもよい。
【0092】
本発明の標的タンパク質の発現の下方制御は腫瘍細胞と関連しているので、これらのタンパク質はいくつかの点で腫瘍形成のプロセスに寄与する可能性が高い。結果として、本発明は、腫瘍細胞における標的タンパク質の発現レベルの上昇をもたらす。
【0093】
従って、1つの好ましい方法は、膀胱癌または腎癌などの癌を有すると診断された患者に、治療上有効量の、インビボで標的タンパク質の発現を増加させる化合物を投与する工程を含む。
【0094】
好ましい実施形態では、この化合物は、例えばOMDおよび/またはPRELPをコードするポリヌクレオチドである。さらなる例として、標的タンパク質の発現を高めることができる本発明のコンストラクトは、裸のポリヌクレオチドとして、または細胞への組み込みを容易にするために担体(リポソームなど)と製剤化されて、対象に投与することができる。このようなコンストラクトは、適切なワクチンへと、例えばウイルスベクター(例えば牛痘)、細菌性コンストラクト、例えば周知のBCGワクチンのバリアント、などに組み込まれてもよい。
【0095】
従って、本発明によってもたらされる1つのDNAに基づく治療的アプローチは、各々がOMDおよび/またはPRELPをコードする1以上のヌクレオチド配列、好ましくは複数のヌクレオチド配列を含むベクターの使用である。
【0096】
あるいは、発現レベルの上昇は、対応する遺伝子プロモーターの上方制御によって成し遂げることができよう。
【0097】
スクリーニング方法
本発明のさらなる態様は、本発明の標的タンパク質の発現または生物活性を調節する組成物についてスクリーニングするための新規な方法を提供する。本願明細書で使用する場合、用語「生物活性」は、標的タンパク質とリガンドまたは結合パートナーとの間の相互作用から生じるいずれかの観察可能な効果を意味する。本発明に関する生物活性の代表的な、しかし非限定的な例としては、表5に示される遺伝子の制御または結合パートナーとの相互作用が上げられる。
【0098】
用語「生物活性」は、本発明の標的タンパク質の発現の阻害および導入の両方をも包含する。さらには、用語「生物活性」は、本発明のタンパク質のポリペプチド誘導体によるリガンドまたは他のインビボでの結合パートナーの結合から生じるいずれかおよびすべての効果を包含する。1つの実施形態では、薬物候補をスクリーニングする方法は、本発明の標的タンパク質を発現する細胞を準備することと、候補治療用化合物をこの細胞に加えることと、当該タンパク質の発現または生物活性に対する当該化合物の効果を判定することとを含む。さらなる実施形態では、候補治療用化合物をスクリーニングする方法は、候補治療用化合物の不存在下での当該タンパク質の発現または生物活性のレベルを、候補治療用化合物の存在下での発現または生物活性のレベルと比較することを含む。
【0099】
この候補治療用化合物が存在する場合には、その濃度は変わってもよく、発現レベルまたは生物活性の比較は、候補治療用化合物の添加または除去の後に行われてもよい。当該標的タンパク質の発現レベルまたは生物活性は、当該候補治療用化合物を用いた処置に応答して上昇または低下を示してもよい。
【0100】
本発明の候補治療用分子としては、例として、宿主細胞の中で適切な核酸配列の発現によって、または合成有機化学を使用して生成されたペプチド、または当該技術分野で周知の従来の合成有機化学を使用して生成された非ペプチド小分子を挙げてもよい。スクリーニングアッセイは、同時の非常に多くの小分子のスクリーニングを容易にするために、自動化されてもよい。
【0101】
本願明細書で使用する場合、用語「候補治療用化合物」は、本発明の標的タンパク質(またはその断片)と相互作用すると考えられ、かつその後、このような相互作用について評価することができる物質を指す。代表的な候補治療用化合物としては、薬物および他の治療薬、天然物およびエキス、発癌性物質および環境汚染物質などの「生体異物」、ならびにステロイド、脂肪酸およびプロスタグランジンなどの「生体内物質」が挙げられる。本発明の方法を使用して検討することができる候補化合物の他の例としては、本発明の標的タンパク質のアゴニストおよびアンタゴニスト、毒素および毒物、ウイルス性エピトープ、ホルモン(例えばオピオイドペプチド、ステロイドなど)、ホルモン受容体、ペプチド、酵素、酵素基質、補因子、レクチン、糖類、オリゴヌクレオチドまたは核酸、オリゴ糖、タンパク質、小分子およびモノクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、本発明の標的タンパク質またはその断片を発現する組み換えポリヌクレオチドを用いて安定に形質転換された真核生物宿主細胞または原核生物宿主細胞を、好ましくは競合結合アッセイにおいて利用する、薬物スクリーニングの方法を提供する。このような細胞は、生きた形態または固定された形態のいずれであっても、標準的な結合アッセイのために使用することができる。例えば、そのアッセイは、標的タンパク質と試験しようとする薬剤との間の複合体の形成を測定してもよいし、または当該標的タンパク質またはその断片と既知のリガンドまたは結合パートナーとの間の複合体の形成が、その試験しようとする薬剤によって妨害される程度を調べてもよい。従って、本発明は、薬物についてスクリーニングする方法であって、このような薬剤を本発明の標的タンパク質もしくはその断片または腫瘍細胞の中で見出されるそれらのバリアントと接触させる工程と、(i)その薬剤と当該標的タンパク質、その断片またはバリアントとの間の複合体の存在、または(ii)当該標的タンパク質、断片もしくはバリアントとリガンドもしくは結合パートナーとの間の複合体の存在についてアッセイする工程と、を含む方法を提供する。このような競合結合アッセイでは、標的タンパク質または断片またはバリアントは、典型的には標識される。遊離の標的タンパク質、その断片またはバリアントは、タンパク質:タンパク質複合体の中に存在する標的タンパク質、その断片またはバリアントから分離され、遊離の(すなわち複合体を形成していない)標識の量は、それぞれ、標的タンパク質への試験しようとする薬剤の結合またはリガンドもしくは結合パートナーへの標的タンパク質の結合の結合に対する当該薬剤の妨害の尺度である。
【0103】
あるいは、本発明のアッセイは、当該標的タンパク質の生物活性に対する試験しようとする薬剤の影響を測定してもよい。従って、本発明は、薬物についてスクリーニングする方法であって、このような薬剤を、本発明の標的タンパク質もしくはその断片または腫瘍細胞の中で見出されるそれらのバリアントと接触させる工程と、当該標的タンパク質の生物活性に対するこのような薬剤の影響を当該技術分野で周知の方法によってアッセイする工程とを含む方法を提供する。このような活性アッセイでは、標的タンパク質、その断片またはバリアントの生物活性は、典型的には、レポーター系の提供によってモニターされる。例えば、これは、標的分子の生物活性によって受ける作用の程度に比例して検出可能なシグナルを生成する天然または合成の基質の提供を含んでもよい。
【0104】
ひとたび候補治療用化合物が解明されると、それらの有効性を高めるために当該技術分野で周知の合理的なドラッグデザイン方法論が用いられてもよいということが企図される。合理的なドラッグデザインの目的は、例えば、注目する生物活性のあるポリペプチドのより活性なまたは安定な形態である薬物、または例えばインビボでポリペプチドの機能を高めるかもしくは妨害する薬物を作り出すために、注目する生物活性のあるポリペプチドの構造類似体またはその注目する生物活性のあるポリペプチドが相互作用する小分子の構造類似体(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、阻害剤)を生成することである。1つのアプローチでは、最初に、注目するタンパク質、例えば本発明の標的タンパク質または、例えばリガンドとの複合体にある標的タンパク質の3次元構造が、X線結晶学によって、コンピューターモデリングによって、または最も典型的にはアプローチの組み合わせによって決定される。例えば、当業者は、新規な改善された候補治療用分子の設計における指針としての役割を果たす定量的構造活性相関(QSAR)の開発を支援する様々なコンピュータープログラムを使用してもよい。それほど多くはないが、ポリペプチドの構造に関する有用な情報が、相同タンパク質の構造に基づくモデリングによって得られる場合がある。加えて、ペプチドは、ペプチドの重要な領域を決定するために、そのペプチドの各アミノ酸残基がアラニン残基によって逐次置き換えられて、そのペプチドの活性に対するその効果が判定される、アラニンスキャニング(Wells、Methods Enzymol.、1991年、第202巻、390−411頁)によって分析することができる。機能アッセイによって選択される標的特異的抗体の結晶構造から導かれるファルマコフォアに基づいて薬物を設計することも可能である。そのような機能的、標的特異的抗体に対する抗イディオタイプ抗体を生成することにより、タンパク質結晶学の使用を回避することもさらに可能である。抗イディオタイプ抗体は、もとの標的タンパク質と同じ3次元コンフォメーションを有する。その後、これらの抗イディオタイプ抗体は、ライブラリーからペプチドを特定および単離するために使用することができ、このペプチド自体が、合理的なドラッグデザインでさらに使用するためのファルマコフォアとして働くことができる。
【0105】
インビボでの医薬としての使用のために、そのように特定された候補治療用化合物は、生理食塩水または医学分野において十分に特徴づけられている多くの他の有用な担体のうちの1つなどの好適な薬学的に許容できる担体と合わされてもよい。このような医薬組成物は、例えば直接注入によって悪性細胞へと直接与えられてもよいし、または、選ばれた製剤が本発明の標的タンパク質を含有する腫瘍細胞への治療上有効な分子の送達を可能にするならば、全身的に与えられてもよい。好適な用量範囲および細胞毒性レベルは、標準的な用量範囲決定の方法論を使用して評価されてもよい。投与される投与量は、例えば悪性腫瘍の性質、個体の年齢、体重および健康、ならびに他の要因に応じて代わってもよい。
【0106】
従って、以下の癌治療アプローチが本発明に含まれるが、これらに限定されるわけでない。
・OMDおよび/またはPRELPの活性を高めるための方法、
・いずれかの従来の方法、例えば発現プラスミド、発現コスミド、発現bac、および発現ウイルスの導入を使用する、OMDおよび/またはPRELPをコードする核酸(例えばDNAまたはmRNA)の導入、
・OMDおよび/またはPRELPのタンパク質(複数可)の導入、
・OMDおよび/またはPRELPと同様の活性を有するかまたはその活性を増大させる分子の導入、
・OMDおよび/もしくはPRELPの内因性遺伝子の転写活性化、またはOMDおよび/もしくはPRELPの内因性mRNAの転写活性化、
・OMDおよび/またはPRELPの内因性タンパク質の安定化、
・OMDおよび/またはPRELPの内因性mRNAの安定化、
・OMDおよび/またはPRELPに特異的な翻訳後修飾による活性化、
・OMDおよび/またはPRELPの遺伝子コピー数の増加。
【0107】
これらの方法のいずれかにおけるOMDおよび/またはPRELPの使用。
【0108】
試験動物および細胞
本発明のさらなる態様は、本発明の標的タンパク質を発現し(または標的タンパク質の「ノックアウト」を含有し)、本願明細書で論じられる癌についての治療薬としての潜在的可能性を有する物質について研究および試験するためのモデル系として使用することができる細胞および動物を提供する。
【0109】
このような細胞は、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子における変異(体細胞変異または生殖細胞系列変異のいずれでも)を有する個体から単離されてもよいし、または当該技術分野で周知の方法を使用して、標的タンパク質またはそのバリアントを発現、過剰発現またはノックアウトするように操作することができる。試験物質が細胞に付与された後、その細胞のいずれかの関連する形質、例として挙げれば成長、生存率、ヌードマウスにおける腫瘍形成能、細胞の浸潤性、および成長因子依存性を評価することができ、これらの形質の各々についてのアッセイは当該技術分野で公知である。
【0110】
候補治療薬を試験するための動物は、動物全体の変異生成の後、または生殖系列細胞または接合体(zygote)の処置後に、選択することができる。以下でより詳細に論じられるように、例として、そのような処置としては、典型的には第2の動物種由来の野生型またはバリアント型の本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子の挿入、ならびに破壊された相同遺伝子の挿入を挙げることができる。あるいは、その動物の内因性の標的タンパク質遺伝子(複数可)は、当該技術分野で周知の従来の技法を使用して、挿入または欠失変異または他の遺伝子変異によって破壊されてもよい。試験物質が動物に投与された後、腫瘍の成長を評価することができる。この試験物質が腫瘍の成長を防止または抑制する場合、この試験物質は、本発明の標的タンパク質を発現する癌の、例えば膀胱癌または腎癌の処置のための候補治療薬である。これらの動物モデルは、潜在的可能性のある治療用化合物についてのきわめて重要な試験媒体を提供する。
【0111】
従ってこのように、本発明は、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子の不活性なコピーを含む遺伝子導入の非ヒト動物、特に齧歯動物を提供する。
【0112】
本発明は、本発明の推定上の治療薬の試験方法であって、当該治療薬を本発明に係る動物に投与する工程と、その治療薬の効果を判定する工程とを含む方法をさらに提供する。
【0113】
本発明の目的のために、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子の不活性なコピーと言うときは、その遺伝子のノックアウトまたは下方制御、および任意に例えば試験動物における癌表現型をもたらす、その遺伝子のいずれかの非野生型バリアントが含まれるということは理解されるであろう。従って、遺伝子は、その全体を削除されてもよいし、または例えば本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームへの終止コドンおよび任意に上流のコード配列の導入によって、当該動物が切断されたタンパク質を産生するように変異されていてもよい。同様に、このオープンリーディングフレームは、プロモーター領域における変異によって与えられる当該遺伝子の無傷の、不活性なコピーであってもよい。
【0114】
一般に、遺伝子の不活化は、標的相同組み換えによって作製されてもよい。このための技法は、それ自体は当該技術分野で公知である。これは、様々な方法で成し遂げられてもよい。典型的な戦略は、標的相同組み換えを使用して、胚性幹(ES)細胞の中で野生型遺伝子を置換、改変または削除することである。改変された標的遺伝子を含む標的化ベクターは、電気穿孔、リポフェクションまたはマイクロインジェクションによってES細胞の中へと導入される。いくつかのES細胞では、標的化ベクターは、同族の染色体DNA配列と対合し、そのベクターによって運ばれる所望の変異を、相同組み換えによってゲノムへと移す。形質移入された細胞を特定するためにスクリーニングまたは濃縮手順が使用され、形質移入された細胞はクローニングされ、純粋な個体群(ポピュレーション)として維持される。次に、変化したES細胞が着床前のマウス胚の胚盤胞へと注入されるか、あるいはES細胞と合体して単一のキメラ胚盤胞を形成する2つの胚盤胞の間にこのES細胞が置かれている、凝集キメラが調製される。このキメラ胚盤胞は、育ての母の子宮へと外科的に移され、そこで出産予定日まで発生が進められる。得られた動物は、正常細胞およびドナー細胞のキメラであろう。典型的には、このドナー細胞は、キメラの子孫が容易に特定されるように、皮膚の色などの明らかに区別できる表現型を有する動物由来のものであろう。次にこの子孫は飼育され、その子孫は異種交配され、標的変異についてのヘテロ接合体およびホモ接合体が生じる。遺伝子導入動物の生成は、Capecchi,M.R.、Science、1989年、第244巻、1288−1292頁;ValanciusおよびSmithies、Mol.Cell.Biol.、1991年、第11巻、1402−1408頁;ならびにHastyら、Nature、1991年、第350巻、243−246頁(これらの開示は、参照により本願明細書に援用したものとする)にさらに記載されている。
【0115】
標的遺伝子組み換えにおける相同組み換えは、本発明の標的タンパク質をコードする野生型遺伝子を、具体的に明確な(specifically defined)変異体型(例えば切断されているか、または1以上の置換を含有する)で置き換えるために使用されてもよい。
【0116】
不活性な遺伝子は、発現が、持続的にまたは一時的に、選択的にブロックされていてもよい遺伝子であってもよい。持続的なブロッキングは、シグナルに応答して遺伝子を削除するための手段を供給することにより、成し遂げられてもよい。このような手段の例は、ファージlox部位が導入遺伝子のいずれかの末端に、または少なくともそれらの十分な部分の間に(例えば、いずれかの側に存在する2つのエクソンに、または1以上のイントロンに)与えられる、cre−loxシステムである。creリコンビナーゼの発現は、2つのlox部位の間の核酸の切除および環状化を引き起こす。発生学的に限定された様式でまたは組織限定的な様式でcreリコンビナーゼを発現する遺伝子導入動物、特にマウス、の種々の系統は、当該技術分野で現在入手できる。例えばTsien、Cell、1996年、第87巻、第7号、1317−1326頁およびBetz、Current Biology、1996年、第6巻、第10号、1307−1316頁を参照。これらの動物は、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子の機能を調べるために、本発明のlox遺伝子導入動物と交配されてもよい。制御の別の機構は、細胞へのテトラサイクリンの添加がプロモーターに結合し、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子の発現をブロックするように、プロモーターを、テトラサイクリン耐性遺伝子、tet、から標的遺伝子の遺伝子座の制御領域へと供給することである。あるいはGAL4、VP16および他のトランス活性化因子を使用して、遺伝子発現(本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子を含有する導入遺伝子の遺伝子発現を含む)を調節することもできよう。さらには、この標的遺伝子が、異所的な部位で、つまり当該遺伝子が時間的にも空間的にも通常は発現されない部位で発現されることもできよう。
【0117】
遺伝子導入の標的指向化技法は、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子を削除するためにも使用してよい。標的遺伝子欠失の方法は、Brennerら、国際公開第94/21787号パンフレット(Cell Genesys)によって記載されており、この文献の開示は、参照により本願明細書に援用したものとする。
【0118】
本発明のさらなる実施形態では、野生型レベルよりも高く、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子を発現する非ヒト動物が提供される。好ましくは、これは、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子が、その遺伝子を発現する細胞が比較されるとき、同じ種の野生型動物で見出されるレベルの少なくとも120〜200%で発現されるということを意味する。また、この遺伝子は、標的遺伝子が時間的にも空間的にも通常は発現されない異所的な位置で、発現されることもできよう。比較は、ノーザンブロッティングおよび転写物レベルの定量化によって適宜行ってよい。このより高いレベルの発現は、標的遺伝子の1以上の、例えば2または3の、さらなるコピーの存在に起因するか、または例えば、野生型遺伝子との作動可能な連結での強力なプロモーターまたはエンハンサーの導入によって過剰発現をもたらすような、本発明の標的タンパク質をコードする遺伝子に対する改変による可能性がある。遺伝子のさらなるコピーを有する動物の提供は、「ノックアウト」動物の提供について本願明細書に記載される技法を使用して成し遂げられてもよい。
【0119】
非ヒトの哺乳類動物としては、非ヒトの霊長類、齧歯動物、ウサギ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタが挙げられる。齧歯動物としては、マウス、ラット、およびモルモットが挙げられる。両生類としてはカエルが挙げられる。ゼブラフィッシュなどの魚類も使用してよい。本発明の遺伝子導入の非ヒトの哺乳動物は、癌を研究する上での実験目的で、および癌の症候または進行を緩和するように設計された治療法の開発において使用されてもよい。「実験(の)」は、実験法が行われる研究施設に適用可能な現行の法令のもとで、このような動物実験法において使用するためにまたは試験目的で許容されるということを意味する。
【0120】
本願明細書中のいずれの副題も便宜のために付けられているにすぎず、決して本開示を限定しないと解釈されるべきである。
【0121】
本発明は、これより、以下の非限定的な表、図面および実施例を参照してさらに説明される。本発明の他の実施形態は、これらを踏まえて当業者が思い浮かべるであろう。
【0122】
本願明細書に引用したすべての参考文献の開示は、本発明を実施するために当業者が使用する可能性がある限りにおいて、相互参照によって本願明細書に具体的に援用されたものとする。
【0123】

表1。定量的RT−PCRのためのプライマー配列。定量的RT−PCR分析のために使用されたプライマーが示されている。
【0124】
表2。臨床膀胱組織におけるOMDおよびPRELPの発現レベルの統計解析。
【0125】
表3。臨床腎臓組織におけるOMDおよびPRELPの発現レベルの統計解析。
【0126】
表4。OMDおよびPRELPの発現レベルと発癌との関係。
【0127】
表5。OMDによって制御される遺伝子の一覧。OMD過剰発現によって有意に活性化されOMD欠失によって抑制される遺伝子およびOMD過剰発現によって抑制されOMD抑制によって活性化される遺伝子が示されている。
【0128】
表6。PRELPによって制御される遺伝子の一覧。PRELP過剰発現によって有意に活性化されPRELP欠失によって抑制される遺伝子およびPRELP過剰発現によって抑制されPRELP抑制によって活性化される遺伝子が示されている。
【0129】
表7。Affymetrixのマイクロアレイデータに基づくOMDのKEGGパスウェイ解析。表5および6に列挙される遺伝子から、KEGGパスウェイ解析プログラムを使用して、影響を受けるシグナル伝達経路が決定された。
【0130】

図1。OMD、PRELP、およびケラトカン(keratocan)の構造。OMD、PRELP、およびケラトカンは、SLRPファミリーの一派を形成する。これらは、非常に相同的であるが、他のファミリーのメンバーとは異なっている。
【0131】
図2。SYBR(商標) Green PCR Master Mixを使用した、リアルタイム定量的RT−PCRの検証。A、ABI7700リアルタイム検出デバイスからのPCR反応の読み出し情報。この実験では、PCR反応は三重の試料で実施された。PCR反応の終わりに近づくにつれて、生成された生成物の量の差が観察されることに留意されたい。B、このプロットの線形性は、インプットされたcDNA濃度の範囲にわたる、このアッセイの等しい増幅を示す。C、溶解曲線は、増幅プロセス後のPCR産物のグラフ表示を与える。陽性試料における1つのピークは単一サイズの生成物を示唆する。各PCR産物の融解温度は異なり、その配列およびサイズに依存する。D、3つのリアルタイム増幅プロットが示されている。
【0132】
図3。qRT−PCRを使用した、膀胱組織におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。A、OMDの発現プロファイル。定量的RT−PCRを使用して、膀胱癌および正常な膀胱試料のコホートにおける遺伝子発現が検討された。相対的遺伝子発現は、比較定量化の改変された方法であるPfafflの方法を使用して評価された。B、正常組織および腫瘍組織におけるOMD遺伝子発現が箱髭図によって示される。P値は、マンホイットニーのU検定を使用して算出された。本発明者らは、カットオフ値を以下のようにして評価した:カットオフ(OMD)=[(正常な膀胱組織における最小の非異常値の観察値)+(腫瘍膀胱組織における最大の非異常値の観察値)]/2。C、PRELPの発現プロファイル。定量的RT−PCRを使用して、膀胱癌および正常な膀胱試料のコホートにおける遺伝子発現が検討された。相対的遺伝子発現は、比較定量化の改変された方法であるPfafflの方法を使用して評価された。D、正常組織および腫瘍組織におけるPRELP遺伝子発現が箱髭図によって示される。P値は、マンホイットニーのU検定を使用して算出された。本発明者らは、カットオフ値を、上に示したようにして評価した。
【0133】
図4。qRT−PCRを使用した、腎臓組織におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。A、OMDの発現プロファイル。定量的RT−PCRを使用して、膀胱癌および正常な膀胱試料のコホートにおける遺伝子発現が検討された。相対的遺伝子発現は、比較定量化の改変された方法であるPfafflの方法を使用して評価された。B、正常組織および腫瘍組織におけるOMD遺伝子発現が箱髭図によって示される。P値は図3で示されている。C、PRELPの発現プロファイル。定量的RT−PCRを使用して、膀胱癌および正常な膀胱試料のコホートにおける遺伝子発現が検討された。相対的遺伝子発現は、比較定量化の改変された方法であるPfafflの方法を使用して評価された。D、正常組織および腫瘍組織におけるPRELP遺伝子発現が箱髭図によって示される。P値は、マンホイットニーのU検定を使用して算出された。本発明者らは、カットオフ値を、図3に示したようにして評価した。
【0134】
図5。qRT−PCRを使用した、いくつかの正常組織、膀胱腫瘍組織および膀胱癌細胞株におけるOMDおよびPRELPの遺伝子発現の定量分析。A、9種の正常組織および膀胱癌組織におけるOMDの相対的遺伝子発現。B、10種の膀胱癌細胞株、および膀胱組織(正常および腫瘍)におけるオステオモジュリンの相対的遺伝子発現。C、9種の正常組織および膀胱腫瘍組織におけるPRELPの相対的遺伝子発現。D、10種の膀胱癌細胞株、および膀胱組織(正常および腫瘍)におけるPRELPの相対的遺伝子発現。
【0135】
図6。マイクロアレイを使用した、種々のタイプの癌におけるOMD遺伝子発現の定量分析。点−箱(Dot−Box)分析としてのOMD遺伝子発現プロファイルが、遺伝子発現プロファイリングデータを使用することによって得られた。いずれの場合も、対応する正常組織におけるOMD発現が最初に示され、次いで記載された癌組織におけるOMD発現が黄色の箱によって示されている。
【0136】
図7。マイクロアレイを使用した、種々のタイプの癌におけるPRELP遺伝子発現の定量分析。点−箱分析としてのPRELP遺伝子発現プロファイルが、遺伝子発現プロファイリングデータを使用することによって得られた。いずれの場合も、対応する正常組織におけるPRELP発現が最初に示され、次いで記載された癌組織におけるPRELP発現が黄色の箱によって示されている。
【0137】
図8。膀胱正常組織および癌組織におけるPRELPタンパク質の分布。正常な膀胱組織および膀胱癌組織を使用して、PRELP抗体(パネルA)または対照IgG(パネルB)を使用する免疫組織化学が実施された。PRELPタンパク質は、正常な膀胱組織において観察される。しかしながら、PRELPタンパク質は、膀胱癌では完全に排除されている。陰性対照(パネルB)は染色されていない。
【0138】
図9。EJ28膀胱癌細胞におけるOMDの過剰発現後の、異常な形状を有する細胞。EJ28膀胱癌細胞株は、OMD発現コンストラクトを用いて安定に形質移入された。この形質移入により、アポトーシスを起こした細胞の数は増加し、この細胞は異常な形状を示した。
【0139】
図10。OMD発現は、アポトーシスから正常細胞を保護するのに対して、PRELP発現は効果を有しない。HEK293細胞が、CAT(対照)、OMDまたはPRELPのいずれかを用いて安定に形質移入され、1μg/mlマイトマイシンCを用いた処置に応答してHEK 293細胞が受けるアポトーシスのレベルを測定するためにアッセイされた。(a)アネキシンアッセイ。細胞は、1用量の当該薬物で処置され、24時間後に、細胞はトリプシン処理され、Alexafluor−647と結合したアネキシンおよびヨウ化プロピジウムの存在下でインキュベーションされ、フローサイトメトリによって調べられた。アポトーシスを受けている過程にある生細胞を含むアネキシン陽性、PI陰性の亜集団が、特定された。(b)カスパーゼ活性アッセイ。1用量の当該薬物が投与され、24時間後、細胞は、カスパーゼによる切断後に発光性生成物へと変換される基質の存在下でインキュベーションされた。ルミネッセンスが定量化され、カスパーゼ活性に比例していると確認された。(a)および(b)の両方において、エラーバーは標準偏差を意味し、統計解析はt検定からなっていた。
【0140】
図11。EJ28細胞におけるOMDまたはPRELPの過剰発現は、当該細胞の、マイトマイシンC処置に対する感作をもたらす。
2つの対照EJ28細胞、2つのOMDで安定に形質移入されたEJ28細胞、およびPRELPで安定に形質移入されたEJ28細胞が1μg/mlのマイトマイシンCで処置される。また、陽性対照として、EJ28細胞が、陽性対照としてのより高濃度の5μg/mlのマイトマイシンCを用いて処置される。次いで、アポトーシスを起こした細胞の比率が、カスパーゼ活性を測定することにより決定された。
【0141】
図12。OMDおよびPRELPの過剰発現されたタンパク質。
OMDおよびPRELPの過剰発現されたタンパク質が、ウエスタンブロット法によって確認された。
【0142】
図13。5637膀胱癌細胞株を用いたsiPRELP形質移入の効果。A、5637膀胱癌細胞株を用いたsiPRELPの形質移入の後、PRELP mRNAレベルに対するその効果が調べられた。B−F。5637膀胱癌細胞株を用いたsiPRELPを使用する本発明のマイクロアレイ解析により、多くの顕著に改変された遺伝子が特定された(表6を参照)。マイクロアレイデータの結果は、いくつかの選択された遺伝子の定量的RT−PCRによって確認された。B、ZMAT3、C、CASP3、D、CSNK1A1、E、PPP2R1B、F、DNMT1。
【0143】
図14。EJ28細胞の足場非依存性増殖を、OMDは消失させ、PRELPは阻害する。細胞が、DMEM+0.6% 寒天の下層の上に重なるDMEM+0.3% 寒天に播かれた。3000細胞が、6穴の皿のウェルに三重に播かれた。プレートは、2週間インキュベーションされ、コロニーが数えられた。エラーバーは標準偏差である。統計解析は、事後(post−hoc)ニューマン−クールズ(Newman−Keuls)検定を伴う一元配置ANOVAからなっていた。「a」、「b」などの文字によるグループ分けは、ニューマン−クールズ検定の結果を指す。互いに有意に異ならない細胞株は、同じ文字でラベルされている。互いに有意に異なる(p<0.05)細胞株は、異なる文字でラベルされている。
【0144】
図15。OMDタンパク質を過剰発現するEJ28細胞の異種移植の効果。EJ28膀胱癌細胞またはOMDを過剰発現するEJ28細胞がヌードマウスに接種され、次いで癌発生が3週間モニターされた。18日間の結果が示されている。EJ28細胞を接種された対照マウスは有意に癌を発生させたのに対し、OMD発現細胞を接種されたマウスは癌をまったく発生させなかった。
【実施例】
【0145】
実施例1 − SLRPSへの背景
OMDおよびPRELPは、細胞外マトリクスに存在するタンパク質のスモールロイシンリッチリピートプロテオグリカン(SLRP)ファミリーのメンバーである。
【0146】
細胞外マトリクス(ECM)は、微小環境の制御を通して腫瘍の惹起および成長の制御において重要な役割を果たすと考えられている。正常細胞は、成長のために基底膜を必要とする。上皮の悪性腫瘍の発生があると、基底膜(BM)を支えて形成するECMの組織化および分布に大きな変化が生じる。浸潤性腫瘍は細胞に隣接した欠陥のあるBMを特徴とし、他方で良性腫瘍では、BMは無傷のまま残る(Liotta、1986年)。
【0147】
SLRPファミリーは、タンパク質の中心にある保存されたロイシンリッチ反復ドメインを特徴とする。反復の数は、メンバーによる。SLRPファミリーのメンバーは著しく異なるH2末端およびCOOH末端を有し、このことが、これらのタンパク質間の機能的差異を主にもたらす。多くのメンバーのN末端およびC末端領域は、重要なシステイン残基を有する。16の公知のSLRP遺伝子のうちの10は、ヒト染色体1、9、および12上にタンデムクラスターとして並んでおり、ラットおよびマウスにおいてシンテニー同等性(syntenic equivalent)を有する。また、これらのタンパク質は糖修飾を有する。しかしながら、各メンバーは異なるタイプの糖修飾を有する。
【0148】
それらは、ECMにおけるシグナル伝達経路の統合のためにも、機能的に重要である(Hockingら、1998年;Kuriyamaら、2006年;Ohtaら、2006年;Ohtaら、2004年)。SLRPファミリーのメンバーは、成長因子、シグナル伝達リガンドおよびECM成分を含めた様々な細胞外タンパク質に結合し、様々な生物学的事象を制御する。これらの事象としては、リガンドにより誘導されるシグナル伝達が挙げられる。それらは、リガンドにより誘導される多くのシグナル伝達経路を、それらの細胞外のシグナル伝達成分との直接相互作用を通して制御する。異なるSLRPは、異なる経路および異なる生物学的事象を制御する。Tsukushiは、BMP、nodal、FGF、およびNotch経路を制御するが(Kuriyamaら、2006年;Morrisら、2007年;Ohtaら、2006年;Ohtaら、2004年)、他方で、デコリンはEGFおよびTGF−β経路を制御する(Patelら、1998年;Takeuchiら、1994年)。また、I型コラーゲンを含めたECMタンパク質との相互作用を通して(HedbomおよびHeinegard、1993年;Radaら、1993年;Schonherrら、1995年;Vogelら、1984年)、SLRPファミリーのメンバーは、タンパク質−タンパク質相互作用および/またはタンパク質−炭水化物相互作用を通して、マトリクスのアセンブリおよび組織化を導くと考えられている。異なるSLRPは、コラーゲンの原線維形成に影響を及ぼす。インビトロでは、デコリン、フィブロモジュリンおよびルミカンと線維性コラーゲンとの相互作用は、原線維形成の速度を緩慢化しコラーゲン原線維直径に影響を与えることにより原線維サイズを変える。SLRPは、異なる組織タイプに局在し(Alimohamadら、2005年)、およびコラーゲン沈着は組織ごとに異なり、そのため、SLRPは、ECM組織化に直接影響を及ぼすことが可能である。
【0149】
これらのプロテオグリカンの活性の多様性を反映して、これらのプロテオグリカンの変異は、異なるヒトの障害を生じることが知られている。例えば、nyctalpin(Bech−Hansenら、2000年;Puschら、2000年)変異は、夜盲症と関連することが知られている。アスポリンは変形性関節症に関わる(Kizawaら、2005年)。デコリン、フィブロモジュリン、ケラトカンを欠損したマウスおよびルミカンを欠損したマウスは、皮膚、腱、角膜、および強膜におけるコラーゲン原線維の配列および構造に多くの異常性を示す(Austinら、2002年;Danielsonら、1997年;Liuら、2003年;Svenssonら、1999年)。さらに、ケラトカン遺伝子における変異は、ヒトにおける扁平角膜、角膜の平板化および角膜の屈折力の低下を特徴とする状態、という重篤な劣性遺伝性の形態を引き起こすことが示されている(Pellegataら、2000年)。また、SLRPは、多くのシグナル伝達分子と機能的に重要な複合体を形成する。これらの知見は、SLRPファミリーのメンバーの機能は多様であるということを示す。
【0150】
さらには、癌におけるSLRPの発現は、着目しているファミリーのメンバーおよび癌のタイプに応じて様々である。例えば、TSKのmRNAは乳癌および肺癌で増加し(国際公開第2004035627号パンフレットを参照)、ルミカンは、研究されたいくつかの癌のタイプ[乳房(Leygueら、1998年)、子宮頸部(Naitoら、2002年)、膵臓および結腸(Luら、2002年)]では過剰発現される。デコリンは乳癌(Leygueら、2000年)および白血病(Campoら、2006年)では過剰発現されるが、甲状腺癌(Arnaldiら、2005年)および卵巣腫瘍(Nashら、2002年)では過小発現される。バイグリカンは、膵臓癌では過剰発現される(Weberら、2001年)。また、機能の場合には、デコリンおよびルミカンは、いくつかの癌のタイプにおいて腫瘍抑制活性を有することが示唆されたが、TSKは発癌性である。乳癌では、ルミカン発現は、腫瘍悪性度、エストロゲンレベルおよび患者の年齢と相関する(Leygueら、1998年)。癌素因を示さないデコリンシングルノックアウトマウスおよび多くの異なる癌の素因を持つp53シングルノックアウトマウスとは対照的に、デコリン/p53ダブルノックアウトマウスは、ほぼ一様に胸腺リンパ腫を発生させる(Iozzoら、1999年a)。デコリンを欠くことが、p53欠損バックグラウンドにおいて発癌を加速するようである。機能分析は、SLRPが、発癌に関わるいくつかのプロセスを制御することができるということを示唆する。デコリンの安定な形質移入は、マウスにおいて異種移植された癌細胞が、腫瘍を形成するのを抑制し(Santraら、1995年)、また、EGFRを結合し、その自己リン酸化を引き起こし、MAPキナーゼカスケードの長期活性化およびp21 Cip1/WAF1の上方制御を誘発することによりインビトロで扁平上皮癌細胞の増殖を抑制した(Iozzoら、1999年b;Moscatelloら、1998年)。外因性のデコリンを用いた異種移植された癌細胞の処置、またはルミカンを用いたそれら癌細胞の安定な形質移入は、レシピエントマウスにおいて転移を減少させたが(Reedら、2005年;Vuillermozら、2004年)、他方で、バイグリカンを構成的に過剰発現するマウスは血管新生の増加を呈した(Shimizu−Hirotaら、2004年)。
【0151】
このように、癌においてある役割を有する特定のSLRPについての前例は存在するが、ヒトの発癌におけるそれらの正確な役割は明らかではない。OMDまたはPRELPの発現パターンは、他のSLRPとはまったく異なる。また、OMDまたはPRELPは、Wnt経路および密着結合経路を制御するが、これらは、他のSLRPの下流として報告されなかった。選択された癌における、腫瘍形成における各SLRPメンバーの真の機能を知るために、明確な腫瘍における各SLRPメンバーの慎重な詳細な分析が必要とされる。
【0152】
実施例2 − 定量的RT−PCRを使用した、膀胱癌におけるOMDおよびPRELPの診断上の価値の検討
嚢胞切除術または経尿道的切除術のいずれかで原発性尿路上皮細胞癌の126の手術検体を集め、液体窒素中で直ちに凍結した。正常な膀胱の尿路上皮の34の検体を、尿路上皮悪性腫瘍のエビデンスを有しない患者の巨視的に見て正常な尿路上皮の領域から集めた。この研究のための組織の使用は、ケンブリッジシャー州地域研究倫理委員会(Cambridgeshire Local Research Ethics Committee)によって承認された。
【0153】
以下の手順に従って、癌組織および正常組織をレーザーキャプチャー法により単離した。7μm厚さの5つの連続切片を各組織から切り出し、製造業者の手順書に従ってHistogene(商標) 染色溶液(Arcturus、米国、カリフォルニア州)を使用して染色した。次いで、スライドを、Pix Cell IIレーザーキャプチャー顕微鏡(Arcturus、米国、カリフォルニア州)を使用して、マイクロダイセクションのために、直ちに移した。RNA抽出のために使用した組織に隣接した2つの7μmの「サンドイッチ」切片を薄片にし、染色し、細胞充実性および腫瘍悪性度について、独立の顧問の泌尿器病理組織学者による評価を受けた。加えて、これらの切片を、炎症細胞浸潤の程度に従って等級付けした(低、中程度および顕著)。顕著な炎症細胞浸潤を示す試料は排除した(Wallardら、2006年)。およそ10,000細胞を、各組織において間質および上皮/腫瘍区画の両方からマイクロダイセクションにかけた。混入を防止するために、顕著な炎症細胞浸潤を含有する組織を回避した。
【0154】
製造業者の手順書に従ってTRI Reagent(商標) (Sigma、英国、ドーセット州(Dorset))を使用して、全RNAを抽出した。デオキシリボヌクレアーゼ工程を含むRNEasy Minikit(商標) (Qiagen、英国、クロウリー(Crawley))を使用して、RNA純度を最適化した。Agilent 2100(商標) 全RNA生物分析を実施した。各試料からの再懸濁したRNAの1μlをRNA 6000 NanoLabChip(商標)に加え、製造業者の取扱説明書に従って処理した。すべてのチップおよび試薬は、Agilent Technologies(商標) (英国、ウェストロージアン(West Lothian))から入手した。
【0155】
全RNA濃度は、Nanodrop(商標) ND1000分光光度計(Nyxor Biotech、フランス、パリ)を使用して測定した。内因性の18S CT値を、無傷の出発のRNAの量の正確な尺度として使用した。製造業者の取扱説明書に従って20μlの反応液の中で、2μgのランダム6量体(Amersham)およびSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen、英国、ペーズリー(Paisley))を用いて1μgの全RNAを逆転写した。次いでPCR等級の水を用いてcDNAを1:100に希釈し、−20℃で保存した。
【0156】
定量的RT−PCR反応のために、すべてのヒトのGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)、SDH(ハウスキーピング遺伝子)、OMDおよびPRELPのための特異的プライマーを設計した(表1)。18S増幅については、TaqMan Ribosomal RNA Control ReagentsをApplied Biosystems(英国、ウォリントン(Warrington))から購入した。PCR反応は、製造者の手順書に従ってABI prism 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems、英国、ウォリントン)を使用して実施した。18S分析についての反応は、1ngの逆転写されたRNAの同等物、UNGなしの50% SYBR GREEN universal PCR Master Mix(Applied Biosystems、英国、ウォリントン)、各々200nMの順方向プライマーおよび逆方向プライマーならびに100nMのプローブを含有する10μl PCR量で実施した。増幅条件は、50℃で2分、95℃で10分、次いで各々95℃で15秒および60℃で1分からなる40サイクルであった。標的遺伝子増幅についての反応条件は上記のとおりであったが、5ngの逆転写されたRNAの同等物を各反応で使用した。試料内の相対的RNAレベルを測定するために、18S反応については2〜0.625ngのRNAおよびすべての標的遺伝子については20〜0.5ngのRNAの範囲を網羅するcDNAの一系列の2倍希釈物から、PCR反応についての標準曲線を調製した。ABI prism 7700は、40サイクルのPCR反応全体にわたって蛍光レベルの変化を測定し、増幅が対数期に入った時点に相関する、各試料についてのサイクル閾値(Ct)を生成した。この値を、出発の鋳型の量の指標として使用し、従って、より低いCt値は、より高い量の最初の無傷のcDNAを示した。マイクロダイセクションの精度を確認するために、ビメンチンおよびウロプラキンについてのプライマーおよびプローブを入手し、製造業者の取扱説明書に従って(Assays on demand、Applied Biosystems、英国、ウォリントン) qRT−PCRを実施した。ビメンチンは、間葉系に由来する細胞の中で主に発現され、間質性マーカーとして使用した。ウロプラキンは尿路上皮分化のマーカーであり、上皮に由来する腫瘍の90%までで保存されている(Olsburghら、2003年)。
【0157】
各標的遺伝子についてのRNA発現レベルを、内因性の18S rRNAレベルに対して正規化した。等級相関研究のために、両側のスピアマンの順位相関(two−tailed Spearman’s Rank Correlation)を実施して、遺伝子発現と癌悪性度の上昇との間の関係の有意性を判定した。レーザーキャプチャーした組織における差異的発現の有意性を判定するために、両側マンホイットニーのU検定によるノンパラメトリック分析を実施した。この分析については、P<0.05のP値を有意と考えた。STATA(バージョン8.0;StataCorp、米国、テキサス州、カレッジ・ステーション(College Station))およびStatView(バージョン5.0;SAS、米国、ノースカロライナ州、ケーリー(Cary))を使用して、統計的評価を行った。
【0158】
リアルタイムPCR読み出し情報は、与えられたレベルの蛍光を成し遂げるために必要なPCRサイクルの数(「サイクル閾値」、Ct)として与えられる。本研究については、Ctを、PCRの対数期(図2A、蛍光曲線の直線部分)で固定した。初期のPCRサイクルの間、PCR産物に結合したSYBR−Green Iによって発せられる蛍光シグナルは、通常、弱すぎて、バックグラウンドを上回って記録されず、約15PCRサイクル後までは明らかにできなかった。PCRの対数期の間、蛍光は各サイクルで2倍になった。35サイクル後、蛍光シグナルの強度は、通常、平坦になり始め、これは、PCRが飽和状態に到達したということを示す。Ctは試料中の標的の初期量の対数に比例するので、別の標的に対する1つの標的の相対濃度は、同じレベルの蛍光を成し遂げるために必要なサイクル数の差(ΔCt)に反映される。相対的蛍光の固定された閾値におけるCt値を決定した。RNA標的は、同様の効率で逆転され、転写され、その後増幅されると仮定して、Ct値を全RNAのlogの関数としてプロットすることにより較正曲線を構築した(図2B)。融解曲線プロファイルの分析から、増幅産物の特異的な蓄積が確認された(図2C)。三重のアッセイからデータを得たが、各々の三重のデータは常に同様であった(図2D)。
【0159】
結果は、図3および表2に示され、これまでに要約されている。
【0160】
実施例3 − 定量的RT−PCRによる、腎癌におけるOMDおよびPRELPの診断上の価値の検討
78の原発性腎癌の腎細胞癌手術検体を集め、液体窒素中で直ちに凍結した。正常な腎臓の尿路上皮の15の検体を、尿路上皮悪性腫瘍のエビデンスを有しない患者の巨視的に見て正常な尿路上皮の領域から集めた。この研究のための組織の使用は、ケンブリッジシャー州地域研究倫理委員会によって承認された。定量的RT−PCRについてのすべてのさらなる手順は、上記のとおりに実施した。
【0161】
結果は、図4および表3に示され、本文に要約されている。図3および4、表3および4に基づいて、本発明者らは、OMDおよびPRELPの診断上の価値を検討した(表4)。結果はこれまでに要約されている。
【0162】
実施例4 − 癌細胞株および正常なヒトの組織におけるOMDおよびPRELPの発現
RNAを、肺、胃、結腸、心臓、脳、肝臓、眼、膀胱および腎臓の正常なヒトの組織から単離した。また、RNAを2つの膀胱癌試料から単離した。次いで、定量的RT−PCRを、OMDおよびPRELPのプライマー(表1)を使用して上記のとおりに実施した。図5Aは、OMDが眼および肺で最も高く発現されるということを示す。また、肝臓を除くすべての他の組織でかなりの量の発現が観察された。他方、PRELPは、肺および膀胱で高く発現される。肝臓を含めたすべての他の組織は、顕著な発現を有する(図5C)。癌細胞株、253JBV、253J、J82、T24、EJ28、RT4、LHT1376、MT197、UMVC、およびHT1576を培養し、次いで全RNAを、上記のようにして単離した。正常な膀胱および膀胱癌からのRNAを対照として使用した。上記癌細胞株におけるOMDおよびPRELPの発現を、記載したとおりの定量的RT−PCRによって判定した。OMDの発現は、RT4およびLHT1376を除くすべての膀胱癌細胞株において強く抑制された(図5B)。これは、表3に示すとおりの本発明の発現分析と整合する。OMDの発現レベルは、癌の病期と相関する。これらの細胞株は、高分化型の低悪性度の膀胱細胞株として知られている。PRELPの場合には、その発現は、検討したすべての細胞株においてほぼ完全に抑制された(図5D)。
【0163】
実施例5 − 種々のタイプの癌におけるOMDの診断上の価値の検討
上に示したように、OMD遺伝子発現は膀胱癌および腎癌において非常に強く抑制される。種々のタイプの悪性組織および正常なヒトの組織におけるOMD遺伝子発現を検討するために、本発明者らは、非常に多くのヒト患者からの腫瘍および対応する正常組織から単離されたmRNAを使用したマイクロアレイ解析に基づく遺伝子発現データベース(Gene Logic Inc.(メリーランド州、ゲイザースバーグ(Gaithersburg))を使用した。RNAを調製し、遺伝子発現分析を、およそ40,000遺伝子/ESTに相当するオリゴデオキシヌクレオチドを含有するAffymetrix GeneChip(登録商標) HG−U133Plus2マイクロアレイを使用して、Gene Logic Inc.で測定した。本発明者らは、GeneLogic Inc.から購入した遺伝子発現プロファイリングデータおよび付随の臨床データを使用することにより、OMD遺伝子発現プロファイルを、自社の点−箱分析として示した。
【0164】
図6に示すように、OMD発現は、肺癌(腺癌、大細胞癌、小細胞癌、扁平上皮癌)、乳癌(浸潤性乳管癌および葉状腫瘍)、胃癌(消化管間質腫瘍)において有意に下方制御される。結腸癌(腺癌)、直腸癌(腺癌)、前立腺癌(腺癌)、子宮頸癌(扁平上皮癌)、子宮内膜癌(類内膜型腺癌、ミュラー管混合腫瘍)、卵巣癌(類内膜型腺癌、明細胞型腺癌(adenocarcinoma clear cell type)、ミュラー管混合腫瘍、乳頭状漿液型腺癌(adenocarcinoma papillary serous type)、漿液性嚢胞腺癌)、甲状腺癌(乳頭癌)、食道癌(腺癌)、小腸癌(消化管間質腫瘍)、副腎癌(副腎皮質癌)、腎癌(ウィルムス腫瘍、移行上皮癌、腎細胞癌)、および膀胱癌(移行上皮癌)。これらの知見は、OMDは種々のタイプの癌のマーカーとして機能できるということを示す。
【0165】
実施例6 − 種々のタイプの癌におけるPRELPの診断上の価値の検討
上に示したように、PRELP遺伝子発現は、膀胱癌および腎癌において非常に強く抑制される。種々のタイプの悪性組織および正常なヒトの組織におけるPRELP遺伝子発現を検討するために、本発明者らは、非常に多くのヒト患者からの腫瘍および対応する正常組織から単離されたmRNAを使用したマイクロアレイ解析に基づく遺伝子発現データベース(Gene Logic Inc.(メリーランド州、ゲイザースバーグ)を使用した。RNAを調製し、遺伝子発現分析を、およそ40,000遺伝子/ESTに相当するオリゴデオキシヌクレオチドを含有するAffymetrix GeneChip(登録商標) HG−U133Plus2マイクロアレイを使用して、Gene Logic Inc.で測定した。本発明者らは、GeneLogic Inc.から購入した遺伝子発現プロファイリングデータおよび付随の臨床データを使用することにより、PRELP遺伝子発現プロファイルを、自社の点−箱分析として示す。
【0166】
図7に示すように、PRELP発現は、肺癌(腺癌、腺扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌、扁平上皮癌)、乳癌(浸潤性乳管癌ならびに、腺管および小葉混合型の浸潤性癌(infiltrating carcinoma of mixed ductal and lobular type))、結腸癌(腺癌)、直腸癌(腺癌)、前立腺癌(腺癌)、子宮頸癌(扁平上皮癌)、子宮内膜癌(類内膜型腺癌)、卵巣癌(類内膜型腺癌、明細胞型腺癌、ミュラー管混合腫瘍、乳頭状漿液型腺癌、漿液性嚢胞腺癌)、食道癌(腺癌)、小腸(消化管間質腫瘍)、腎癌(ウィルムス腫瘍、移行上皮癌、腎細胞癌)、および膀胱癌(移行上皮癌)において有意に下方制御される。これらの知見は、PRELPは種々のタイプの癌のマーカーとして機能できるということを示す。
【0167】
実施例7 − 膀胱の正常組織および癌組織におけるPRELPタンパク質分布
PRELPの診断上の価値を確認するために、PRELP抗体および膀胱癌組織を使用して、免疫組織化学によってPRELPのタンパク質発現を調べた。新しいヒトの正常な膀胱および膀胱癌から凍結した切片を調製し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドの中で、室温で15分間固定した。次いで、この切片をPBS(−)中で5分間、3回洗浄し、メタノール中の0.3%過酸化水素で、室温で15分間、処理した。このスライドをPBS(−)中で5分間、3回洗浄し、PBS(−)中の3% BSA中でブロックした。次いで、第1抗体(ブロッキング溶液中の1/500希釈した抗PRELP(マウスポリクローナル、カタログ番号:H00005519−B01、Abnova)および正常マウスIgG(sc−2050、SantaCruz))をこのスライドに加え、4℃で一晩インキュベーションした。このスライドをPBS(−)中で5分間、3回洗浄し、第2抗体(ブロッキング溶液中の1/500希釈した抗体)とともに室温で30分間インキュベーションした。このスライドをPBS(−)中で5分間、3回洗浄し、ABC試薬(ベクター)で、室温で30分間処理した。PBS(−)中で5分間、3回洗浄した後、このスライドを、観察しながら、DAB基質キット(ベクター)とともに室温でインキュベーションした。好適な染色の際、過剰のDDWによってこの反応を停止した。このスライドを、エタノールおよびキシレンによって脱水し、VectaMountに載せた。
【0168】
PRELPタンパク質は、正常な膀胱組織、とりわけ間質において広く発現される。他方、PRELPタンパク質染色は、膀胱癌組織ではほぼ完全に排除されている(図8)。この知見は、本発明の、膀胱癌組織におけるPRELP mRNAの分析と整合し、膀胱癌診断におけるPRELPの価値についての本発明をサポートする。
【0169】
実施例8 − 癌細胞に対するOMDの効果
OMDおよびPRELPをpIRES2−EGFP(Clontech)へとサブクローニングした。G418を用いた選択によって、これらのプラスミドを用いて、膀胱癌細胞株、EJ28を安定に形質移入した。各プラスミドについて2つの独立のクローンを導いた(1つのクローンを導くことしかできなかったMT−Prelpを除く)。次いで、これらの細胞の特性を調べた。OMDを形質移入された細胞およびMycタグ化されたOMDを形質移入された細胞は、通常ではない形態を呈した。低コンフルエンスにあるとき、それらは活発に泡形成している細胞膜を伴って寄り集まっており、これは細胞接着に関する問題を示唆する。これらの細胞はアポトーシス細胞を含む。これは、平坦でおよび立方形であった対照細胞とは対照的である。OMDを形質移入された細胞は、対照細胞よりもゆっくりと増殖した。これは、細胞計数アッセイにおけるよりゆっくりの増殖およびBrdU組み込みのより低い速度によって実証された。OMDを形質移入された細胞は、FACS分析で測定したときの、より低い割合のS期の細胞も呈した。それらの細胞は、早期の膀胱癌の処置において使用される薬物であるマイトマイシンCによって誘導されるアポトーシスに顕著に感作されていた(図11)。OMDおよびEGFPを発現するEJ28細胞の2つの独立のクローン、EGFPを発現する2つの独立の対照EJ28クローン、およびmycタグ付きのPRELPおよびEGFPを発現するEJ28細胞を、1μg/ml マイトマイシンCで処理した。また、EGFPを発現するEJ28細胞を、陽性対照として、より高濃度のマイトマイシンC(5μg/ml)で処理した。この陽性対照では、きわめて多い細胞死が観察された。8図11に示すように、OMDを発現した細胞は、活性化されたアポトーシスを示し、これは、OMD過剰発現が細胞をマイトマイシンC媒介性細胞死へと感作することを示す。また、PRELPを発現する細胞も変化した特性を示した。それらの細胞は、より高い速度の内因性のアポトーシスを呈し、しかもマイトマイシンCを用いた処置に応答してさらにより高い速度のアポトーシスを呈したが(図11)、細胞周期阻害は観察されなかった。
【0170】
実施例9 − OMDまたはPRELPは形質転換された癌細胞を選択的に死滅させる
OMDおよびPRELPは、癌細胞を死滅させかつ抗癌剤媒介性細胞死を増強する能力を有する。興味深いことに、この化学感作は癌細胞に特有であった。OMD過剰発現は実際に正常細胞をマイトマイシンC媒介性アポトーシスから保護したのに対し、PRELPは正常細胞の感度に対しては効果がなかった(図11)。これは、マイトマイシンC処置と組み合わせた、OMDおよび/またはPRELPを用いた処置は、癌細胞の死滅を高めるであろうが、正常細胞は保護するであろうということを示唆する。
【0171】
実施例10 − OMDは癌細胞の足場非依存性増殖を消失させ、PRELPは癌細胞の足場非依存性増殖を減少させる
OMDおよびPRELPは、癌細胞の顕著な特徴である足場非依存性にも影響を及ぼす。軟寒天の中に細胞を播き、細胞を2週間インキュベーションし、生成したコロニーの数を数えることにより、足場非依存性を測定した。驚くべきことに、OMD過剰発現は、EJ28細胞の足場非依存性を完全に消失させ、これは、OMDは腫瘍形成を劇的に阻害することができるということを示唆していた。PRELPもEJ28の足場非依存性増殖を阻害し、軟寒天中のコロニー形成能を、対照細胞において観察されたコロニー形成能の3分の1まで低下させた(図14)。
【0172】
実施例11 − OMDまたはPRELP媒介性の癌細胞死の分子機構の検討
OMDまたはPRELPの活性化がどのように癌細胞を死滅させるかのメカニズムを決定するために、2つのタイプの細胞を構築した:OMDまたはPRELPを発現する細胞およびOMDまたはPRELPを欠失した細胞。遺伝子を過剰発現するために、T−Rex−293系を製造業者の取扱説明書に従って使用した。この系は、内因性のタンパク質の発現に影響を及ぼさずに標的タンパク質の発現を可能にする。簡潔に言えば、293細胞を、リポフェクタミン2000を使用して、pcDNA5−FRT/TO−OMDまたはpcDNA5−FRT/TO−PRELPを用いて形質移入した。安定に形質移入された細胞を選択し、次いで3つの独立のコロニーを単離した。これらの細胞株におけるOMDまたはPRELPの同一の発現レベルを確認した後(図12)、細胞株をさらなる分析のために使用した。
【0173】
OMDまたはPRELP発現を欠失させるために、最初に本発明者らは好適な細胞株を検索した。なぜなら、ほぼすべての癌細胞株において、OMDおよびPRELPの発現は、たいていすでに抑制されているからである。本発明者らの検索によって、発現レベルは正常組織における発現レベルよりも低いが何らかの発現を有する5637膀胱癌細胞株を特定した。これらの5637細胞株を、siPRELP、siEGFP、またはsiFFLucを用いて形質移入した。OMDまたはPRELPレベルの抑制は、図13に示すように、定量的RT−PCRによって確認された。
【0174】
癌発生におけるOMDおよびPRELPの分子活性を判定するために、下流の標的遺伝子およびシグナル伝達経路を、マイクロアレイを使用するmRNAプロファイリングによって決定した。この目的のために、細胞を培養した後、上記のようにして全RNAを単離した。この全RNAを標識し、製造業者の取扱説明書に従って、Affymetrix U133 Plus 2.0 GeneChipオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix)上でハイブリダイズした。簡潔に言えば、ハイブリダイゼーションシグナルを、各アレイについて全体の(global)トリム平均シグナル強度の値を500に調整することによって決定したスケーリングファクターを使用して、Affymetrix GCOSソフトウェア(バージョン1.1.1)でスケーリングし、GeneSpringバージョン6.2(Silicon Genetics)へとインポートした。次いでシグナル強度の中心を各チップの中央値(50th percentile)に合わせ、各個々の遺伝子について、起こりうる技術的な偏りを最小にするために最初に各特定のサブセットのメジアン強度に合わせ、次いで試料セット全体に合わせた。あらゆる反復可能なハイブリダイゼーションの強度を、さらなる分析の後で平均した。すべての試料の中でGCOSソフトウェアによって「present(存在)」または「marginal(わずか)」とラベルされた遺伝子だけを、さらなる分析において使用した。差異的に発現される遺伝子を、ウィルコクソン−マン−ホイットニー(Wilcoxon−Mann−Whitney)のノンパラメトリック検定(P<0.05)を使用して特定した。適用できるときは常に、ベンジャミニ−ホッホバーグ(Benjamini−Hochberg)のフォールス・ディスカバリー・レート(false discovery rate)多重検定による補正を加えた。各特定された遺伝子セットについて試料間の相関を評価するために、各比較に対して階層的クラスター分析を行った。
【0175】
表5および6は、OMDおよびPRELPの活性化および抑制によって発現が有意にかつ一貫して上方制御または下方制御されることを示す遺伝子を示す。これらの表には、多くの腫瘍遺伝子および腫瘍抑制遺伝子が挙げられている。OMDおよびPRELPによって影響を受けるシグナル伝達経路を決定するために、本発明者らは、KEGGパスウェイ解析プログラムによってこれらの遺伝子を分析した。表7は、p53経路はOMDおよびPRELPの共通の主要な下流の経路であるということを示す。このp53経路は、腫瘍形成において最もよく確立されているシグナル伝達経路である。特に、p53の変異は、非常に多くの癌と関連していることが知られている。しかしながら、この変異で腫瘍形成のすべての場合を説明できるわけではない。また、p53の発現は早期から癌の特定の個体群で有意に抑制されるが、染色体17上での異種接合性の喪失が尿路上皮癌の後期に起こる。これは、ほぼすべての癌において発現がほぼ完全に抑制されるOMDおよびPRELPとの主な差異である。本発明での結果は、OMDおよびPRELPの両方の抑制がp53経路の抑制に著しく寄与するということを示唆する。また、両方の遺伝子は、密着結合およびアポトーシス経路を制御する。密着結合は腫瘍形成の初期段階を制御し、足場依存性増殖から外れることが知られている(Tsukitaら、2008年)。アポトーシス経路は、腫瘍形成にとって重要であることが周知である(BrownおよびAttardi、2005年;Fesik、2005年;Johnstoneら、2002年;Liら、2008年;Vazquezら、2008年;YuおよびZhang、2004年)。加えて、OMDは、同じく腫瘍形成の早期に関わることが知られているWnt経路(BienzおよびClevers、2000年;Clevers、2004年;Polakis、2000年;ReyaおよびClevers、2005年;TaipaleおよびBeachy、2001年)、および腫瘍形成にとって重要な接着結合経路(GiehlおよびMenke、2008年)を制御する。これらの知見は、OMDおよびPRELPはだいたい機能的に補完しているが、完全に重なっているわけではないということを示す。また、影響を受ける経路は、TsukushiおよびデコリンなどのSLRPファミリーの他のメンバーとは著しく異なる。これらの分析は、OMDおよびPRELPは、p53経路、密着結合経路およびアポトーシス経路を含めた複数の腫瘍抑制シグナルの活性化を通して、癌細胞を死滅させるということを示す。これは、癌の処置についての本発明の価値を明確に実証する。
【0176】
実施例12 − マウス異種移植モデルを使用した、OMDの治療上の潜在的可能性の評価
6〜8週齢の雄のMF1ヌードマウスを、Royal Free Hospital(英国、ロンドン)から入手した。5×106のEJ28癌膀胱細胞を背中に、皮下に接種することによって腫瘍を誘導した。EJ28腫瘍を保有するMF−1マウス(n=5)に、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用して、OMD−mycタグを有するpIRES2−EGFPベクターを用いて安定に形質移入してサブクローニングした細胞を注入した。対照として、EJ28細胞を、過剰発現されるOMD遺伝子を持たないベクターを用いて形質移入した。カリパスを使用して腫瘍寸法を連続的に測定し、腫瘍体積を、次式を使用して算出した:体積=(π/6)×a×6×c(式中、a、b、およびcは、腫瘍の3つの直交軸を表す)。動物を、25日間にわたって腫瘍成長について評価した。
【0177】
EJ28腫瘍を保有するマウスに対するOMDの生物活性を、腫瘍体積の変化を測定することにより、測定した。図15は、対照と比較して、OMD−myc−タグを注入したMF−1マウスにおけるEJ28腫瘍の成長特性を示す。得られた結果は、OMD遺伝子を有しない対照細胞と比較して、OMD−mycタグを有する腫瘍異種移植片の顕著な成長停止を示す。18日目には、腫瘍成長が完全に阻害されたOMD−mycタグで形質移入された細胞株(1.60±1.0mm)と比較して、対照についての腫瘍サイズは37.91±16.57mm(n=5)であった。
【0178】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0179】
参考文献
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Wallard,M.J.、Pennington,C.J.、Veerakumarasivam,A.、Burtt,G.、Mills,I.G.、Warren,A.、Leung,H.Y.、Murphy,G.、Edwards,D.R.、Neal,D.E.ら(2006年)、「Comprehensive プロファイリング and localisation of the matrix metalloproteinases in urothelial carcinoma」、Br J Cancer、第94巻、569−577頁。
Weber,C.K.、Sommer,G.、Michl,P.、Fensterer,H.、Weimer,M.、Gansauge,F.、Leder,G.、Adler,G.、およびGress,T.M.(2001年)、「Biglycan is overexpressed in pancreatic cancer and induces G1−arrest in pancreatic cancer cell lines」、Gastroenterology、第121巻、657−667頁。
Yu,J.、およびZhang,L.(2004年)、「Apoptosis in human cancer cells」、Curr Opin Oncol、第16巻、19−24頁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常細胞から癌細胞を判別する方法であって、OMDまたはそのバリアント;PRELPまたはそのバリアントからなる一覧から選択される標的タンパク質が前記細胞の中で過小発現されるかどうかを判定することを含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、OMDまたはそのバリアントおよびPRELPまたはそのバリアントの両方が前記細胞の中で過小発現されるかどうかを判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が存在しているかまたは前記細胞が由来する個体において、癌の発症を診断、病期決定または予測することにおいて使用するための、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
個体の組織において癌の発症を診断、病期決定または予測するための方法であって、
(a)前記個体に由来する前記組織の試料において、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)の発現を判定することと、
(b)前記試料中で観察された発現のパターンまたはレベルを、同じ個体に由来するかまたは1以上のさらなる健康な個体に由来する第2の臨床的に正常な組織試料の中の、または前記第2の臨床的に正常な組織試料に由来する、同じタンパク質(複数可)の前記発現のパターンまたはレベルと比較することを含み、前記試料において観察される発現の低下は、前記試料における癌細胞の存在の見込みと相関する、方法。
【請求項5】
前記発現のパターンまたはレベルは、前記もしくは各々の標的タンパク質のすべてもしくは一部分をコードする核酸配列、または前記核酸配列に相補的な配列を使用して評価される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記発現のレベルは、mRNAマイクロアレイおよびRT−PCRを使用して評価される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記発現のパターンまたはレベルは、前記または各々の標的タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域のメチル化を検出することにより評価される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記または各々の標的タンパク質は、前記標的タンパク質に特異的に結合することができる結合部分である認識化合物を使用して検出され、前記結合部分は、検出可能な標識に任意に連結される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、(a)癌細胞の存在について試験するべき組織試料を患者から入手する工程、(b)試料調製プロセスにおいて調製された試料を生成する工程、(c)前記調製された試料を前記または各々の標的タンパク質と反応する認識化合物と接触させる工程、および(d)存在する場合、前記調製された試料において前記認識化合物の、前記標的タンパク質への結合を検出する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
癌の診断用または予後診断用のマーカーとしての、
(a)(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)、
(b)前記または各々の標的タンパク質のすべてもしくは一部分をコードする核酸配列(複数可)、または前記標的タンパク質遺伝子のプロモーター、またはそれらに相補的な配列、または
(c)各々が、前記または各々の標的タンパク質に特異的に結合することができる結合部分である、認識化合物(複数可)
のいずれかの使用。
【請求項11】
試料中の癌の診断または予後診断のためのキットであって、
(a)評価対象の試料を受けるための容器または他の手段と、
(b)前記試料中の、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)の存在および/または量を特異的に検出するための手段と、任意に
(c)このようなアッセイを実施するための取扱説明書と
を含む、キット。
【請求項12】
個体についての癌治療レジメンの有効性を1以上の時間点について判定する方法であって、
(a)前記個体の癌性組織における、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)の発現のベースライン値を測定する工程と、
(b)治療用薬物を投与する工程と、次いで
(c)投与後の1以上の場面における前記組織内での前記または各々の標的タンパク質の発現レベルを再測定する工程と
を含み、前記標的タンパク質発現レベルにおける観察される変化は、前記治療レジメンの有効性と相関する、方法。
【請求項13】
癌治療化合物についてスクリーニングする方法であって、候補治療用化合物を、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)と接触させることと、(a)前記化合物と前記標的タンパク質との間の複合体の存在について、または(b)前記標的タンパク質とリガンドまたはその結合パートナーとの間の複合体の存在についてアッセイすることと、を含む方法。
【請求項14】
癌治療化合物についてスクリーニングする方法であって、候補治療用化合物を、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)と接触させることと、前記標的タンパク質の生物活性に対する前記化合物の効果をアッセイすることと、を含む方法。
【請求項15】
癌治療化合物についてスクリーニングするためのモデル系を生成する方法であって、1以上の組み換えポリヌクレオチド、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)を用いて、真核生物宿主細胞または原核生物宿主細胞を安定に形質転換することを含む、方法。
【請求項16】
癌治療化合物についてスクリーニングするためのモデル系を生成する方法であって、真核生物宿主細胞内で、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)をコードする1以上の内因性の遺伝子を不活化することを含む、方法。
【請求項17】
癌治療化合物についてスクリーニングすることに好適な遺伝子導入の非ヒト動物であって、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の標的タンパク質の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)をコードする遺伝子(複数可)の不活性なコピーを含む、遺伝子導入の非ヒト動物。
【請求項18】
癌治療化合物についてスクリーニングする方法であって、候補治療用化合物を、請求項16に記載の動物に投与することと、前記治療薬の効果を判定することと、を含む方法。
【請求項19】
癌治療化合物についてスクリーニングする方法であって、
(a)(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)を過小発現する細胞を準備することと、
(b)候補治療用化合物を前記細胞に加えることと、
(c)前記標的タンパク質(複数可)の発現または生物活性に対する前記化合物の効果を判定することと、
任意に(d)前記化合物が前記標的タンパク質(複数可)の前記発現または生物活性を上昇させる場合に、前記化合物を選択することと
を含む、方法。
【請求項20】
前記候補治療用化合物の不存在下での前記または各々のタンパク質の発現または生物活性のレベルを、前記候補治療用化合物の存在下での発現または生物活性のレベルと比較することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)と前記化合物との間の複合体の形成について試験することを含む、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)とリガンドまたは結合パートナーとの間の複合体の形成が、前記化合物によって妨害される程度について試験することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
癌治療化合物を製造する方法であって、
(i)請求項13および請求項14および請求項19から請求項22のいずれか1項に記載の方法の使用によって、前記化合物についてスクリーニングすることと、
(ii)前記化合物を製造することと
を含む方法。
【請求項24】
癌治療薬を製造する方法であって、
(i)請求項23に記載の方法の使用によって化合物を製造することと、
(ii)前記化合物を好適な薬学的に許容できる担体と合わせることと
を含む方法。
【請求項25】
癌の処置のための医薬の調製における、請求項13および請求項14および請求項20から請求項22のいずれか1項に記載の方法によって特定される化合物の使用。
【請求項26】
癌の処置を必要とする患者における癌の処置の方法であって、前記患者に、治療上有効量の、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)の発現または活性をインビボで上昇させる化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
癌の処置に使用するための、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)の発現または活性をインビボで上昇させる、化合物。
【請求項28】
前記化合物は、(i)OMDまたはそのバリアント;(ii)PRELPまたはそのバリアント;(iii)(i)および(ii)の両方、からなる一覧から選択される標的タンパク質(複数可)をコードするポリヌクレオチドである、請求項25から請求項27のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項29】
前記化合物はベクター上にコードされる、請求項28に記載の使用、方法または化合物。
【請求項30】
前記化合物は前記標的タンパク質と相互作用し、前記標的タンパク質の生物活性を上昇または増大する、請求項25から請求項27のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項31】
前記化合物は、任意にマイトマイシンCであるDNA損傷試薬と組み合わせて使用される、請求項25から請求項27のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項32】
前記処置は、以下の、腫瘍形成の阻害;G1期での細胞周期の停止;増殖の阻害;アポトーシスによる細胞死の増加;癌細胞の足場非依存性増殖またはコロニー形成能の低下;治療用DNA損傷試薬に対する癌細胞の感度の上昇のうちの1以上をもたらす、請求項25から請求項31のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項33】
前記癌は上皮癌である、請求項1から請求項32のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項34】
前記癌は、任意に膀胱癌もしくは腎癌である泌尿器の癌、または他の上皮癌から選択される、請求項1から請求項33のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項35】
癌は、肺癌、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、小腸癌、および副腎癌から選択され、前記癌において、標的タンパク質は下方制御される、請求項1から請求項34のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項36】
前記標的タンパク質および癌は、OMD/肺癌;PRELP/肺癌;PRELP/前立腺癌;PRELP/乳癌から選択される、請求項1から請求項35のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。
【請求項37】
前記癌は、前記標的タンパク質に応答するすべての癌から選択される、請求項1から請求項36のいずれか1項に記載の使用、方法または化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2013−514074(P2013−514074A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543894(P2012−543894)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002294
【国際公開番号】WO2011/073629
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【出願人】(501484851)ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
【Fターム(参考)】