説明

癌治療のための薬剤標的としてのFra−1標的遺伝子

本発明は、以下のポリペプチドのうちの1つの阻害剤の使用であって、前記ポリペプチドが配列番号1〜32の群から選択される配列により表され、前記ポリペプチドの各々が、好ましくは請求項1で同定されるように、好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための医薬剤として用いられる阻害剤に関する。本発明は、以下の配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離核酸配列、その相補体またはその部分を含むかまたはそれらからなる診断ポートフォリオにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下のポリペプチドのうちの1つの阻害剤の使用であって、前記ポリペプチドが配列番号1〜32の群から選択される配列により表され、前記ポリペプチドの各々が、好ましくは請求項1で同定されるように、好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための医薬剤として用いられる阻害剤に関する。本発明は、癌患者における転移を予後判定するex vivo方法であって、以下の配列番号1〜169および/または配列番号1〜32の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおける遺伝子の示差的変調(対照における同一遺伝子の発現と比較)を同定することを包含する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞の転移性伝播は、腫瘍細胞が多数の関門を克服し、そしていわゆる「転移カスケード」のステップすべてを完了しなければならない非常に複雑な過程である。上皮組織から生じる最も頻発する固形腫瘍である癌腫において、これらのステップは、正常上皮細胞−細胞接触の崩壊、基底膜の破損、隣接組織の侵襲、血管またはリンパ管中の異物侵入、血管による運搬、溢出および二次部位での増殖を包含する(Gupta and Massague, 2006)。これらのステップのいくつかは、細胞自動性の獲得を要し、前提条件として正常上皮組織化の崩壊を伴う(Cavallaro and Christofori, 2004)。これらの過程は、上皮細胞が、間充織細胞のものを連想させるより柔軟で且つ可動的な特性を獲得する上皮間充織移行(EMT)として既知の胚性プログラムの癌細胞による強奪を包含する、ということがしばしば示唆されてきた(Thiery and Sleeman, 2006;Yang and Weinberg, 2008)。EMTの一主要特徴は、上皮タンパク質、特にE−カドヘリンの下方調節である。さらに、細胞は、しばしば、間充織タンパク質、例えばN−カドヘリンの発現も獲得する。
【0003】
古典的には、転移は、癌腫進行の後期の且つ稀な事象とみなされてきた(Fidler, 2003)。選択過程を通して、または確率論的に、原発性腫瘍におけるいくつかの細胞は、転移する能力をそれらに与える新規の変更を獲得すると考えられる。さらに近年、一モデルは、原発性腫瘍形成を誘導する突然変異の型の一関数として、いくつかの腫瘍が転移する傾向を容易に付与されることを提案した(Bernards and Weinberg, 2002)。腫瘍形成の後期に生じる他の変更は、最終的には、腫瘍細胞の小集合に、十分な転移能力を付与する。この考え方は、原発性乳癌細胞の大部分の遺伝子構成に基づいた遺伝子発現分類子が、腫瘍再発を予測し得る、という観察から生じる(van de Vijver et al., 2002;Ramaswamy et al., 2003)。この見方と一致して、腫瘍形成の前提条件である安全を保証された細胞周期プログラムからの逸脱を可能にするいくつかの癌遺伝子は、同時に、乳房上皮細胞におけるEMTを誘導し(Ansieau et al., 2008)、それにより転移性伝播を助長する、ということが近年示された。
【0004】
転移過程に関与する遺伝子を同定することは、転移を理解するためにならびに新規の療法を開発するために重要である。いくつかの癌療法が既に開発されている。しかしながら、それらのうち、完全に上手くいったものはない。これが、癌を処置するために用いられ得る新規の化合物を同定する必要性が依然として存在する理由である。
【0005】
新規の転移遺伝子を同定するために、以前に、ラット腸上皮(RIE−1)細胞を利用して、アノイキス(接着誘導性細胞死)の抑制因子に関するゲノム幅スクリーニングを実施した(Douma et al., 2004)。これは、その一次リガンドBDNFとの同時発現時に、親細胞を、アノイキス感受性非発癌性細胞からアノイキス耐性腫瘍形成性および高転移性細胞に転換する神経栄養性受容体チロシンキナーゼTrkB(Douma et al., 2004)の同定をもたらした(Geiger and Peeper, 2005)。これらの細胞は、独立して工学処理されるTrkB発現ラット腎臓上皮(RK3E)細胞と同様に、それらの発癌性および転移性潜在力に関するTrkB活性に完全に左右されるので、そしてこれは非常に短い潜伏期で症状発現されるため(Douma et al., 2004および本論文)、これらの強固な細胞系を利用して、新規の重要な転移遺伝子に関してスクリーニングした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
腫瘍細胞の転移性伝播は、癌死亡率の大半の原因となり、その駆動機序の多くは、依然として解明されていない。転移モデルにおいて遺伝的および機能的解析とRNAiとを組合せることにより、腫瘍細胞播種における転写因子Fra−1(Fos関連抗原−1)に関する厳密な要件をここで同定する。これは、上皮間充織移行(EMT)、細胞移動および侵襲(すべて、転移に関与する過程である)におけるFra−1に関する重要な役割と関連づけられた。これらの観察の支持に際して、ヒト乳癌細胞からのFra−1枯渇が、正所性原発性腫瘍から転移するそれらの能力を抑圧する、ということをわれわれは実証する。乳癌転移におけるFra−1に関する重要な役割を力説すると、Fra−1枯渇乳癌細胞のマイクロアレイ解析は、高精度で腫瘍再発を予測する遺伝子発現署名を同定した。さらに、その発現が転移細胞中で有意に変更されるFra−1の168の遺伝子標的を、われわれは同定した。これらの遺伝子は、表2で同定されており、その任意の組合せは本明細書中で説明されるような分析器として用いられ得た。さらに、これら168の遺伝子およびFos11(Fra1をコードする)の間で(すなわち、169の遺伝子間で)、Fos11を含めた32の遺伝子を、貧予後乳癌細胞において有意に過剰発現されるものとして、われわれは同定した。これらの遺伝子は、機能的群団で分類された(表5参照)。乳癌およびその他の腫瘍におけるFra−1過剰発現の蔓延を考えると、これらのデータは、これらの遺伝子のうちの少なくとも1つの抑制が、癌を、特に転移を処置するために用いられ得る、ということを強く示唆する。要するに、本明細書中で提示される結果は、Fra−1および/またはその下流エフェクターのうちのいくつかが、癌、好ましくは乳癌における転移発症を防止し、遅延し、および/または処置する場合の有益な標的を表し得る、ということを示す。
ex vivo方法
【0007】
第一の態様では、癌患者における転移のex vivo予後判定方法であって、以下の配列:配列番号1〜169または配列番号1〜32の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおける遺伝子の示差的変調(基線における同一遺伝子の発現と比較)を同定することを包含する方法が提供される。
【0008】
本発明の状況において、「予後判定すること」は、転移に関する癌患者の予測的危険査定(すなわち、将来における転移の存在を予測する、または転移の危険の前症候性予測)、あるいは患者における転移化癌の査定を意味する。それは、患者が所定の療法に応答する見込み、あるいは既に施されている療法に対する患者の応答も指し得る。通常は癌患者において一旦転移が査定されると、患者の生存の機会は劇的に減少するため、このような予後判定方法は有することが極めて重要である。
【0009】
本発明の状況において、「患者」は動物またはヒトであり得る。好ましくは、患者はヒトである。
【0010】
本発明の状況において、「転移」は、好ましくは、リンパ節、肝臓、胸郭または超音波検査に適した任意の他の器官の超音波検査、リンパ節切開、骨またはシンチグラフィーに適した任意の他の器官のシンチグラフィー、標準放射線撮影、あるいは転移の検出に適した任意の他の技法により、癌患者において査定されるような「転移」を指す。さらに好ましくは、「転移」は、後述されるようなin vivo動物モデルのうちの1つにおける腫瘍細胞内の「転移活性の検出」を指す。転移は、マウス(ヌードマウスまたは他の適切なマウス系統)における異種移植実験においてin vivoで最良に研究され得る。要するに、約1.105〜1.107個の腫瘍細胞は、皮下に(Douma S., et al. (2004), Nature, 430: 1034−1040に記載)、あるいは正所的に(すなわち、腫瘍細胞の組織型に対応する器官または組織中に)注入される。例えば、乳房腫瘍細胞は、乳腺に注入される(Erler J.T., et al, (2006), Nature, 440: 1222−1226に記載)。代替的には、細胞は、マウスの血液循環中に直接注入され得る(Erler J.T., et al, (2006), Nature, 440: 1222−1226に記載)。注入部位から離れた部位で腫瘍細胞により形成される少なくとも1つの可視的病変の可視化は、腫瘍細胞の転移活性を明示する。病変の検出は、通常は、パラフィン包埋組織の一連の横断切片の顕微鏡分析により実行される。可視的転移病変は、少なくとも4、6、8、10、12、14、15、17、19、20、22、24、25個以上の腫瘍細胞を含み得る。転移の播種および増殖は、腫瘍細胞の型によってある時点で起こり、典型的には、摂取の数日後、あるいは数週間または数ヵ月後に開始する。
【0011】
本発明の状況において、「遺伝子」は、好ましくは、核酸配列により表される、そしてタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。遺伝子は、調節領域を含み得る。
【0012】
本発明の状況において、「配列番号1〜32の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せ」は、好ましくは、以下の:
「遺伝子、あるいはヌクレオチドであって、ヌクレオチド配列が、以下の:
(1)酵素ABHD11、AURKB、CHML、EZH2、FEN1、IGFBP3、PAICS、PCOLN3、PPP2R3A、PTGES、PTP4A1およびSCDをコードするヌクレオチド配列、
(2)転写因子E2F1、FOS1およびFOXM1をコードするヌクレオチド配列、
(3)構造タンパク質C22orfl 8、CHAF1A、H2AFZ、SMTN、TJAP1、D21S2056Eをコードするヌクレオチド配列、
(4)受容体ADORA2Bをコードするヌクレオチド配列、
(5)接着分子MTDHをコードするヌクレオチド配列、
(6)アポトーシス抑制因子BIRC5およびPHLDA1をコードするヌクレオチド配列、
(7)DNA複製/転写に関与するタンパク質MCM10、MCM2およびTRFPをコードするヌクレオチド、ならびに
(8)SEC14L1、SFN、SH3GL1およびYTHDF1をコードするヌクレオチド配列
からなる群から選択される遺伝子またはヌクレオチド」
を意味する。
【0013】
本発明の状況において、「癌患者」という表現における「癌」は、好ましくは、癌が所定の患者において既に診断されている、ということを意味する。本発明の方法を用いる場合、転移は、任意の種類の癌において予後判定され得る。好ましくは、癌は、潜在的に転移を引き起こし得ると当業者に既知であるようなものである。別の好ましい実施形態では、癌は、腫瘍細胞を含有する試料を単離することが技術的に可能なものである。癌は、黒色腫、結腸癌、前立腺癌、肺癌、甲状腺癌または乳癌であり得る。選択される癌は、乳癌である。
【0014】
「変調された」遺伝子は、好ましくは、非正常細胞(腫瘍細胞または転移腫瘍細胞)中で上方調節されるかまたは下方調節される場合、示差的に発現されるものである。上方調節および下方調節は相対的用語であって、検出可能な差(それを測定するために用いられる系においてノイズの関与を越える)が基線に比して遺伝子の発現の量で見出される、ということを意味する。この場合、基線は、好ましくは、非癌患者のプールから、あるいは好ましくは、癌は有するが、検出可能な転移を有さない患者のプールから得られる。これらの患者のプールは、好ましくは、1、3、5、10、20、30、100、400、500、600名またはそれ以上の患者を含有する。非正常細胞中の当該遺伝子の発現レベルは、その場合、同一測定方法を用いて、基線レベルに比して上方調節されるかまたは下方調節されると考えられる。診断ポートフォリオの使用の状況では、基線は、癌患者の大きいプールの測定遺伝子発現である。通常は、大きいは、少なくとも50名の癌患者、少なくとも70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600名またはそれ以上を意味する。好ましくは、この大きいプールの癌患者における遺伝子発現は、「分類子生成」の節における実験部分で広範に説明されるように、良好なおよび不十分な予後セントロイドを生成するために本出願で用いられる。
【0015】
遺伝子の発現レベルの査定は、遺伝子が変調されるか否かを査定するために、好ましくは、mRNAレベルを検出するための古典的生物学的技法、例えば(実時間)逆転写酵素PCR(定量的または半定量的)、mRNA(マイクロ)アレイ解析またはノーザンブロット解析、あるいはRNAを検出するための他の方法を用いて実施される。代替的には、別の好ましい実施態様によれば、予後判定方法において、遺伝子の発現レベルは、上記遺伝子によりコードされるポリペプチドの量を定量することにより間接的に決定される。ポリペプチド量の定量は、任意の既知の技法により実行され得る。好ましくは、ポリペプチド量は、ウエスタンブロットにより定量される。代替的に、もしくは同定遺伝子および/または対応するポリペプチドの定量と組合せて、特定検定を用いる上記対応するポリペプチドの、または上記対応するポリペプチドの機能と関連することが既知である任意の化合物の基質の定量、あるいは上記対応するポリペプチドの機能または活性の定量は、本発明の予後判定方法の範囲内に包含される、と当業者は理解する。好ましい実施形態では、遺伝子の発現レベルの査定は、本明細書中で後述されるように、(マイクロ)アレイを用いて実行される。
【0016】
遺伝子の発現レベルおよび/または対応するポリペプチドの量を癌患者で測定することは難しいことがあるため、好ましくは、患者からの試料が用いられる。別の好ましい実施形態によれば、(遺伝子またはポリペプチドの)発現レベルは、患者から得られる試料中でex vivoで決定される。試料は、液体、半液体、半固体または固体であり得る。好ましい試料は、生検で採取される処置されるべき癌患者からの100以上の腫瘍細胞および/または腫瘍組織を含む。代替的には、および/または前記の好ましい実施形態と組合せて、試料は、好ましくは患者の血液を含む。このような試料中に存在するRNAおよび/またはタンパク質を単離し、任意に精製する方法は、当業者には既知である。RNAの場合、当業者は、既知の技法を用いてそれをさらに増幅し得る。
【0017】
遺伝子の発現レベル(またはコード化ポリペプチドの定常状態レベル)の増大(または上方調節)(高発現レベルと同義である)または減少(または下方調節)(低発現レベルと同義である)は、好ましくは、基線における対応する遺伝子の発現レベル(または対応するコード化ポリペプチドの定常状態レベル)と比較した場合の、前記のような方法を用いる、遺伝子の発現レベル(またはコード化ポリペプチドの定常状態レベル)の検出可能変化(またはポリペプチドの生物学的活性における任意の検出可能変化)であると定義される。好ましい実施形態によれば、ポリペプチド活性の増大または減少は、ポリペプチド活性に関する特定の検定を用いて定量される。
【0018】
好ましくは、遺伝子の発現レベルの増大は、アレイを用いた上記遺伝子の発現レベルの少なくとも5%の増大を意味する。さらに好ましくは、遺伝子の発現レベルの増大は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の増大を意味する。
【0019】
好ましくは、遺伝子の発現レベルの減少は、アレイを用いた上記遺伝子の発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、遺伝子の発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の減少を意味する。
【0020】
好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの増大は、ウエスタンブロットを用いた上記ポリペプチドの発現レベルの少なくとも5%の増大を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの増大は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の増大を意味する。
【0021】
好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの減少は、ウエスタンブロットを用いた上記ポリペプチドの発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の減少を意味する。
【0022】
好ましくは、ポリペプチド活性の増大は、適切な検定を用いた上記ポリペプチド活性の少なくとも5%の増大を意味する。さらに好ましくは、上記ポリペプチド活性の増大は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の増大を意味する。
【0023】
好ましくは、ポリペプチド活性の減少は、適切な検定を用いた上記ポリペプチド活性の少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、上記ポリペプチド活性の減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の減少を意味する。
【0024】
本発明の好ましい予後判定方法では、本明細書中に記載されるような1つより多い、さらに好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、168、169の遺伝子の発現レベル、および/または上記対応するポリペプチドの定常状態レベルが決定される。別の好ましい方法では、その発現レベルが決定される遺伝子は、以下の配列:配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおいて選択される。第一群の1〜32までの遺伝子、それぞれ第二群の1〜169までの遺伝子の各組合せが用いられ得る。好ましい実施形態では、配列番号1〜169の群の169個の遺伝子が、用いられるものである。別の好ましい実施形態では、配列番号1〜32の群の32個の遺伝子が、用いられるものである。別の好ましい実施形態では、配列番号1〜32により形成される群からの各群団からの一遺伝子が選択される。酵素をコードするとして分類される遺伝子が、好ましい。遺伝子FOSL1は、好ましい1つである。遺伝子ADORA2Bは、別の好ましい1つである。表3は、配列番号1〜32の32個の遺伝子を同定する(注解および寄託番号)。番号1として同定される遺伝子は、配列番号1により表されているそのcDNA配列を有する。同じことが、表3で同定される他の遺伝子にも当てはまる。配列番号1〜169により表される169個の遺伝子はすべて、表2で同定される。表5は、群団への遺伝子の分類を同定し、そしてそれらの対応する配列番号を同定する。配列番号1〜32を有する32個の遺伝子の各々の発現レベルは、非転移細胞との比較により、転移細胞において上方調節されるかまたは増大されることが見出されている。表6に提示された遺伝子も好ましい。表6は、転移に不可欠であることが判明した12のFra−1調節遺伝子を同定する。
【0025】
転移を予後判定するための信頼できる方法は、配列番号1〜32または配列番号1〜169の部分的組合せに基づいて実行され得る。
【0026】
遺伝子(ヌクレオチド、核酸)またはポリペプチドを含む(マイクロ)アレイ(または他の高処理量スクリーニング装置)は、本発明の方法を実行するための好ましい一方法である。マイクロアレイは、核酸またはアミノ酸配列あるいはその混合物を分析するための1つより多い固定化核酸またはポリペプチド断片を含有する固体支持体または担体である(例えば、WO 97/27317、WO 97/22720、WO 97/43450、EP 0 799 897、EP 0 785 280、WO 97/31256、WO 97/27317、WO 98/08083およびZhu and Snyder, 2001, Curr. Opin. Chem. Biol. 5: 40−45参照)。(マイクロ)アレイ技術は、数千の遺伝子の定常状態mRNAレベルの同時的な測定を可能にして、それにより、本明細書中に記載されるような遺伝子の所定の群に関する遺伝子変調を同定するための強力なツールを提供する。2つのマイクロアレイ技術が、一般に広く用いられている。第一の技術はcDNAアレイであり、第二はオリゴヌクレオチドアレイである。これらのチップの構築に差が存在するが、しかし本質的には、すべての下流データ分析および出力は同一である。これらの分析の産物は、典型的には、マイクロアレイ上の既知の場所での核酸配列とハイブリダイズする試料からのcDNA配列を検出するために用いられる標識化プローブから受け取るシグナルの強度の測定値である。典型的には、シグナルの強度は、試験されるべき癌患者からの細胞中で発現されるcDNAの量に、したがってmRNAに比例する。多数のこのような技法が利用可能であり、有用である。遺伝子発現を決定するための好ましい方法は、米国特許第6,271,002号(Linsley等);第6,218,122号(Friend等);第6,218,114号(Peck等)および第6,004,755号(Wang等)に見出され得る(これらの記載内容は各々、参照により本明細書中で援用される)。
【0027】
発現レベルの分析は、好ましくは、これらの技法を用いて発現レベルを測定することにより実行される。一般に、これは、マイクロアレイ・プラットフォーム上での単一チャンネルハイブリダイゼーションを用いて試験試料(試験されるべき癌患者からの細胞からのRNA)中の遺伝子の発現強度のマトリックスを生成し、これらの強度を、参照群または基線(この場合、本明細書中で上記したような良好なおよび不十分な予後セントロイド)のうちの一つと比較することにより、最良に実行される。例えば、非正常組織(癌)からの遺伝子発現強度は、同一型の非正常組織から生じる発現強度と比較される。それは、好ましくは、本発明の状況内では、「対照」は、好ましくは本明細書中で上記したような方法を用いた、本明細書中に上記したような多数の癌患者を指す、ということを意味する。
【0028】
好ましくは、その遺伝子発現強度を用いて、各試料は、単一試料予測器を用いて良好診断または悪診断に割り当てられる。この好ましい方法では、各患者は、各試料の対応する遺伝子組の遺伝子発現値と「不十分診断」および「良好診断」セントロイドのセントロイド値との間の最高スピアマンの順位相関スコアにより決定した場合の、最も近いセントロイドに割り当てられる。本発明の分類子は、好ましくは、Hu et al 2006に記載されたように用いられる。
【0029】
さらなる態様において、第二のex vivo方法が提供されるが、この方法は、癌患者における転移の非存在を予後判定するために用いられる方法であって、以下の配列:配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子と組合せて、遺伝子の示差的変調の欠如(対照における同一遺伝子の発現と比較)を同定することを包含する方法である。
【0030】
上記第二の方法のすべての要素(例えば、癌の型、患者の同一性、遺伝子の変調を同定する方法)は、第一の方法に関して既に同定されている。転移の非存在は、好ましくは、本明細書中に上記した方法と同一方法で査定される(シンチグラフィーまたはin vivo動物モデル)。さらに好ましい方法では、転移の非存在は、1、2、3、4、5年またはそれより長い期間に関して予後判定される。これらの方法の各々は、任意に、患者に関する好ましい処置を決定するために用いられ得る。例えば、遺伝子発現パターンが良好な予後(すなわち、転移なし)を示す患者は、標準処置(すなわち低攻撃的処置)を施される。別の例として、遺伝子パターンが不十分な予後(すなわち転移)を示す患者は、より攻撃的な処置を施される。さらに、本明細書中に記載されるようなFra−1遺伝子発現プロフィール(すなわち、以下の配列:配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せ)は、配列番号1〜32からの1つ以上の遺伝子の標的化抑制から利益を得ると予測される患者を同定するために用いられ得る。好ましい一実施形態では、好ましくは不十分予後群に属する患者において、本明細書中に記載されるような基線との比較により上方調節される配列番号1〜32群から選択される遺伝子が存在するか否かを先ず同定する。
【0031】
このような遺伝子が見出される場合、上記遺伝子の阻害剤を用いることにより、このような個体を処置するのが好ましい。したがって本発明は、この型の患者の個別的処置を可能にする。
診断プロフィール
【0032】
本発明の別の態様は、配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離核酸(またはヌクレオチド)配列、それらの相補体またはその部分を含むかまたはそれからなる診断ポートフォリオに関する。本明細書中に記載されるような任意の組合せまたは副組合せを含むかまたはそれらからなる診断ポートフォリオも、本発明に包含される。好ましい診断ポートフォリオは、そこに含入される遺伝子の示差的発現を同定するのに適したマトリックスを含む。さらに好ましい診断ポートフォリオはマトリックスを含み、そのマトリックスはマイクロアレイに用いられる。上記マトリックスは、好ましくはcDNAまたはオリゴヌクレオチド・マイクロアレイである。診断ポートフォリオに用いられるマーカー(すなわち、遺伝子または核酸、ヌクレオチド)は、前節で既に記載されている。
キット
【0033】
さらなる態様において、転移を予後判定するかまたは転移の非存在を予後判定するために有用なポートフォリオを作り上げる遺伝子発現プロフィールの表示を含めた商品を提供する。これらの表示は、コンピューター読取り媒体(磁気、光学的等)のような機械により自動的に読まれ得る媒体に置き換えられる。商品は、このような媒体における遺伝子発現プロフィールを査定するための使用説明書も含む。例えば、商品は、上記の遺伝子のポートフォリオの遺伝子発現プロフィールを比較するためのコンピューター使用説明書を有するCD ROMを含み得る。商品は、癌患者試料からの遺伝子発現データと比較され得るよう、そこにデジタルに記録される遺伝子発現プロフィールも有し得る。代替的には、プロフィールは、異なる表示フォーマットで記録され得る。グラフによる記録は、このようなフォーマットの1つである。本発明による異なる型の製品は、遺伝子発現プロフィールを明示するために用いられる媒体またはフォーマット化された検定である。これらは、例えば、当該遺伝子を示す配列がそれらの存在の読取り可能な決定因子を作製することを併有するマトリックスに配列相補体またはプローブが添付されるマイクロアレイを含むかそれからなり得る。このようなマイクロアレイが最適化ポートフォリオを含有する場合、基質に適用され、試料と反応され、分析器により読取られ、結果に関して処理され、そして(時として)立証されなければならないcDNAまたはオリゴヌクレオチドの数を最小限にすることにより、時間、工程段階およびリソースの大きな節減が得られる。本発明による他の商品は、本明細書中に記載されるようなポートフォリオ中の遺伝子の発現のレベルを示すハイブリダイゼーション、増幅およびシグナル生成を実行するための試薬キットに造り上げられ得る。本発明に従って作製されるキットは、遺伝子発現プロフィールを確定するためのフォーマット化検定を包含する。これは、試薬および使用説明書のような検定を実行するために必要とされる材料のうちのすべてまたはいくつかを包含し得る。したがって、さらなる態様では、癌患者における転移を予後判定するかまたは転移の非存在を予後判定するためのキットであって、以下の配列:配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおいて核酸配列、それらの相補体またはその部分を検出するための試薬を含むキットが提供される。本明細書中に記載されるような任意の組合せまたは副組合せを含むかまたはそれらからなるキットも、本発明に包含される。
【0034】
好ましいキットは、さらに、マイクロアレイ解析を実行するための試薬を含む。さらに好ましくは、キットはさらに、上記核酸配列、それらの相補体またはその部分が検定される媒体を含む。さらに好ましくは、上記媒体はマイクロアレイである。キットはさらに、使用説明書を含み得る。
阻害剤
【0035】
さらなる態様では、ポリペプチドの阻害剤であって、前記ポリペプチドがヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、前記ヌクレオチド配列が、以下の:
(1)酵素ABHD11、AURKB、CHML、EZH2、FEN1、IGFBP3、PAICS、PCOLN3、PPP2R3A、PTGES、PTP4A1およびSCDをコードするヌクレオチド配列、
(2)転写因子E2F1、FOS1およびFOXM1をコードするヌクレオチド配列、
(3)構造タンパク質C22orfl 8、CHAF1A、H2AFZ、SMTN、TJAP1、D21S2056Eをコードするヌクレオチド配列、
(4)受容体ADORA2Bをコードするヌクレオチド配列、
(5)接着分子MTDHをコードするヌクレオチド配列、
(6)アポトーシス抑制因子BIRC5およびPHLDA1をコードするヌクレオチド配列、
(7)DNA複製/転写に関与するタンパク質MCM10、MCM2およびTRFPに関与するタンパク質をコードするヌクレオチド、ならびに
(8)SEC14L1、SFN、SH3GL1およびYTHDF1をコードするヌクレオチド配列
からなる群から選択される阻害剤であり、好ましくは医薬剤として用いるため、さらに好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するためである阻害剤が提供される。
【0036】
このポリペプチドは、それをコードするヌクレオチドであって、以下の:
(1)酵素ABHD11、AURKB、CHML、EZH2、FEN1、IGFBP3、PAICS、PCOLN3、PPP2R3A、PTGES、PTP4A1およびSCDをコードし、配列番号1、3、7、10、11、15、19、20、22、23、24、25と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号1、3、7、10、11、15、19、20、22、23、24、25から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(2)転写因子E2F1、FOS1およびFOXM1をコードし、配列番号9、12、13と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号9、12、13から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(3)構造タンパク質C22orfl 8、CHAF1A、H2AFZ、SMTN、TJAP1、D21S2056Eをコードし、配列番号5、6、14、29、30、8と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号5、6、14、29、30、8から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(4)受容体ADORA2Bをコードし、配列番号2と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号2から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(5)接着分子MTDHをコードし、配列番号18と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号18から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(6)アポトーシス抑制因子BIRC5およびPHLDA1をコードし、配列番号4、21と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号4、21から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
(7)DNA複製/転写に関与するタンパク質MCM10、MCM2およびTRFPに関与するタンパク質をコードし、配列番号16、17、31と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号16、17、31から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド、ならびに
(8)SEC14L1、SFN、SH3GL1およびYTHDF1をコードし、配列番号26、27、28、32と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに配列番号26、27、28、32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
からなる群から選択されるヌクレオチドに言及することによっても同定され、上記阻害剤は、好ましくは、医薬剤として用いるため、さらに好ましくは、癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するためである。
【0037】
本明細書中に記載されるような酵素の阻害剤が好ましい。FOSL1の阻害剤も好ましい。ADORA2Bの阻害剤も好ましい。
【0038】
ポリペプチドの阻害剤はさらにまた、以下の:
(a)配列番号1〜32から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(b)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
からなる群から選択されるヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの阻害剤であると定義され得るが、この場合、上記阻害剤は、好ましくは医薬剤として用いるため、さらに好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するためである。
【0039】
本出願全体を通して、ポリペプチドは、別記しない限り、「以下の:
(a)配列番号1〜32から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(b)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド」に置き換えられ得る。
【0040】
阻害剤は、ポリペプチドの活性を減少し、および/またはその発現レベルおよび/または細胞下局在性を減少し得る化合物である。
【0041】
「ポリペプチドの活性の減少あるいは上記ポリペプチドをコードする遺伝子またはヌクレオチドの発現レベルの減少」は、本明細書中では、配列番号1〜32によりコードされるもののような野生型ポリペプチドの上記活性または発現と比較した場合の、上記ポリペプチドにより発揮される生物学的活性における、あるいは上記ポリペプチドの発現レベルにおける任意の検出可能な変化を意味すると理解される。上記ポリペプチドをコードするヌクレオチドのレベルまたは量の減少は、好ましくは、古典的分子生物学的技法、例えば(実時間)PCR、アレイまたはノーザン分析を用いて査定される。代替的には、別の好ましい実施形態によれば、上記ポリペプチドの発現レベルの減少は、上記ポリペプチドの量を定量することにより直接的に確定される。ポリペプチド量の定量は、任意の既知の技法、例えばウエスタンブロットまたは上記ポリペプチドに対して産生される抗体を用いるイムノアッセイにより実行され得る。代替的には、または核酸配列および/または対応するポリペプチドの定量と組合せて、特定の検定を用いての、基質の定量、あるいは上記ポリペプチドの標的遺伝子の発現の、または上記ポリペプチドの機能または活性と関連することが既知である任意の化合物の定量、あるいは上記ポリペプチドの上記機能または活性の定量は、上記ポリペプチドの活性または発現レベルの減少を査定するために用いられ得る、と当業者は理解する。
【0042】
好ましくは、上記ポリペプチドをコードするヌクレオチドの発現レベルの減少または下方調節は、アレイまたはノーザンブロットを用いたヌクレオチド配列の発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも100%またはそれ以上の減少を意味する。好ましくは、発現は、もはや検出可能でない。別の好ましい実施形態では、上記ポリペプチドの発現レベルの減少は、ウエスタンブロットを用いた、および/またはELISAまたは適切な検定を用いた上記ポリペプチドの発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、上記ポリペプチドの発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の減少を意味する。好ましくは、発現は、もはや検出可能でない。別の好ましい実施形態では、ポリペプチド活性の減少は、本明細書中で前記されたような適切な検定を用いた上記活性の少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、上記活性の減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%またはそれ以上の減少を意味する。好ましくは、上記活性は、もはや検出可能でない。
【0043】
阻害剤は、任意の化合物であり得る。本発明は、ポリペプチドの付加的阻害剤を同定するための方法も提供する(後記参照)。好ましくは、阻害剤は、DNAまたはRNA分子、優性阻害型分子、上記ポリペプチドに対して産生される抑制抗体、ペプチド様分子(ペプチド模倣物とも呼ばれる)または非ペプチド分子である。これらの阻害剤の各々は、以下でさらに詳細に示される。阻害剤は、例えば細胞に上記ポリペプチドのアンタゴニストまたは阻害剤、例えば上記ポリペプチドに対して産生される抑制抗体(本明細書中では抗体と呼ばれる)または優性阻害型の上記ポリペプチドまたはアンチセンス(本明細書中ではアンチセンス分子と呼ばれる)を提供することにより、ポリペプチドそれ自体のレベルで作用し得る。本発明の抗体、アンチセンス分子または優性阻害型は、下記のようにして得られる。代替的には、阻害剤は、上記ポリペプチドをコードするヌクレオチドのレベルで作用し得る。この場合、ポリペプチドの発現レベルは、上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現レベルを調節することにより減少される。
【0044】
したがって、第一の好ましい実施形態では、阻害剤はDNA分子である。本発明は、先ず、以下の:
(a)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%の同一性を有するヌクレオチド配列;および/または
(b)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸構築物を提供する。
【0045】
好ましくは、ヌクレオチド配列は、細胞、さらに好ましくはヒトおよび/または腫瘍細胞における上記ヌクレオチド配列の発現を駆動し得るプロモーターと操作可能的に連結される。さらに好ましくは、細胞はヒト乳房細胞である。
【0046】
したがって、さらに好ましい実施形態では、本発明の核酸構築物は、RNAi因子、すなわち、RNA干渉が可能であるRNA分子またはRNA干渉が可能であるRNA分子の一部をコードするヌクレオチド配列を含むかまたはそれらからなる。このようなRNA分子は、小RNA分子、例えばsiRNA(短い干渉RNA、例えば短いヘアピンRNA)として言及される。RNAi因子をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、以下の:
(a)配列番号1〜32から選択される配列と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%の同一性を有するヌクレオチド配列;および/または
(b)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現を抑制し得るべき細胞ヌクレオチド配列と十分な相補性を有する。
【0047】
さらなる好ましい実施形態では、本発明の核酸構築物は、以下の:
(a)本明細書中に記載されるような配列番号1、2、3、7、10、11、15、19、20、22、23、24、25、12と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%の同一性を有するヌクレオチド配列;および/または
(b)配列番号1、2、3、7、10、11、15、19、20、22、23、24、25、12から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60、70、80、85、90、95、98または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現を抑制し得るRNAi因子をコードするヌクレオチド配列を含むかまたはそれらからなるが、この場合、任意に、RNAi因子をコードするヌクレオチド配列は、細胞、さらに好ましくはヒトおよび/または腫瘍細胞におけるヌクレオチド配列の発現を駆動し得るプロモーターと操作可能的に連結される。さらに好ましくは、細胞はヒト乳房細胞である。
【0048】
転移におけるこれらの遺伝子の各々の役割は、本出願の実施例で明白に実証されている。したがって、これらの遺伝子のうちのいずれか1つまたは本明細書中に記載されるようなその任意の組合せの発現レベルを下方調節し得るRNAi因子をコードする配列を含む核酸構築物を含めた任意の物質は、本発明による好ましい一実施形態である。しかしながら、配列番号1〜32により同定される、好ましくは本明細書中で後述されるような本発明の方法で同定される遺伝子のいずれかの発現レベルを下方調節するというこの能力を有する任意の他の物質は、本発明に包含される。
【0049】
代替的には、またはアンチセンスアプローチと組合せて、不活性化アプローチも用い得る。このアプローチでは、不活性化核酸構築物が細胞中に導入される。上記不活性化構築物は、ポリペプチドの発現を不活性化するために設計されるヌクレオチド分子を含むかまたはそれからなる。不活性化構築物の設計方法を、当業者は既知である。例えば、ポリペプチドをコードする遺伝子の少なくとも一部は、ネオマイシン遺伝子のようなマーカーにより置き換えられる。
【0050】
代替的には、またはアンチセンスおよび不活性化アプローチと組合せて、優性阻害型アプローチも用い得る。このアプローチでは、核酸構築物が細胞中に導入されるが、この場合、上記核酸構築物は、対応する内因性ポリペプチドの活性を抑制するかまたは下方調節し得る優性阻害型ヌクレオチド配列を含み、そして任意に、優性阻害型ヌクレオチド配列は、細胞中の上記優性阻害型ヌクレオチド配列の発現を駆動し得るプロモーターの制御下にある。本明細書中に前記された好ましい一実施形態では、本明細書中で用いられる核酸構築物は、本明細書中で前記されたような優性阻害型のポリペプチドを含むかまたはそれからなる。代替的には、優性阻害型分子は、被験者に直接投与され得る。優性阻害型のポリペプチドの設計方法を、当業者は既知である。上記ポリペプチドの機能または活性によって優性阻害型のポリペプチドを設計することに関しては、いくつかの戦略が既に知られている。ポリペプチドがキナーゼである場合、優性阻害型キナーゼは、通常は、触媒ドメイン(単数または複数)を伴わない、あるいは不活性触媒ドメイン(単数または複数)を伴う切頭化キナーゼである。不活性触媒ドメインは、上記キナーゼドメイン(単数または複数)における点突然変異(単数または複数)を導入することにより生成され得る。
【0051】
本発明の核酸構築物において(優性阻害型アプローチ、不活性化アプローチまたはアンチセンスアプローチ)、存在し得るプロモーターは、好ましくはヒトおよび/または腫瘍細胞および/または乳房細胞に特異的であるプロモーターである。さらに好ましくは、選択されるプロモーターは、ヒトおよび/または腫瘍細胞および/または乳房細胞に特異的であり、それらにおいて機能的である。ヒトおよび/または腫瘍細胞および/または乳房細胞に特異的であるプロモーターは、他の種類の細胞よりこのような細胞において高い転写率を有するプロモーターである。好ましくは、このような細胞におけるプロモーターの転写率は、他の種類の細胞と比較した場合、このような細胞における構築物のPCRにより測定されるように他の種類の細胞におけるよりも少なくとも1.1、1.5、2.0または5.0倍高い。
【0052】
本明細書中に記載されるような核酸構築物は、医薬剤として用いるための、好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するためのものである。
【0053】
好ましい実施形態では、核酸構築物は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスおよびレトロウイルスを基礎にした遺伝子療法ベクターから選択されるウイルス遺伝子療法ベクターである。好ましいウイルス遺伝子療法ベクターは、AAVまたはレンチウイルスベクターである。このようなベクターは、本明細書中でさらに後述される。
【0054】
さらに、本明細書中に記載されるようなポリペプチドのいくつかに関して、阻害剤が既に同定されている(表4参照)。さらに、ADORA2Bの阻害剤も既知である:7−クロロ−4−ヒドロキシ−2−フェニル−1,8−ナフチリジン(A1アデノシン受容体アンタゴニスト)、CGS−15943(非常に強力な非選択的A1アデノシン受容体アンタゴニスト)。
【0055】
これら2つの化合物は、市販されている(Sigma)。したがって、本発明は、医薬剤として用いるための、好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するためのこれらの阻害剤の各々も包含する。
核酸構築物の使用
【0056】
さらなる態様では、本発明は、好ましくは本明細書中に記載されるような本発明の方法において、癌患者における転移を防止し、および/または遅延し、および/または処置するための医薬剤の製造のための、本明細書中に記載されるような遺伝子の発現レベル、および/またはポリペプチドの活性または定常状態レベルを調整するための本明細書中に記載されるような核酸構築物の使用に関する。
癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置し得る物質の同定
【0057】
さらなる態様において、本発明は、癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置し得る物質の同定方法に関する。当該方法は、好ましくは、以下の:
(a)核酸構築物中に存在するようなヌクレオチド配列(ここで、前記ヌクレオチド配列は、請求項1で定義されたような配列番号1〜32から、または配列番号1〜169から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号1〜32または配列番号1〜169から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である)を発現し得る試験細胞集団を提供するステップ;
(b)試験細胞集団を当該物質と接触させるステップ;
(c)当該物質と接触された試験集団中のヌクレオチド配列の発現レベルあるいはポリペプチドの活性または定常状態レベルを確定するステップ;
(d)(c)で確定される発現、活性または定常状態レベルを、当該物質と接触されていない試験細胞集団中のヌクレオチドの、またはポリペプチドの発現、活性または定常状態レベルと比較するステップ;そして
(e)当該物質と接触されている試験細胞集団と当該物質と接触されていない試験細胞集団との間で、ヌクレオチド配列またはポリペプチドの発現レベル、活性または定常状態レベルにおいて差を生じる物質を同定するステップ
を包含する。
【0058】
好ましくは、ステップa)において、一方法では、試験細胞は本発明の核酸構築物を含む。好ましくは、1つより多いヌクレオチド配列または1つより多いポリペプチドの発現レベル、活性または定常状態レベルが比較される。好ましくは、一方法では、試験細胞集団は、乳房細胞、さらに好ましくはヒトおよび/または腫瘍細胞を含む。さらに好ましくは、試験細胞集団は、骨髄および/または末梢血および/または多能性幹細胞および/または乳房細胞を含む。これらの細胞は、当業者に既知の技法を用いて採取され、精製され得る。さらに好ましくは、試験細胞集団は、細胞株を含む。好ましくは、細胞株は、ヒトまたはラット細胞株である。さらに好ましくは、ヒト細胞株LM2またはラット細胞株RK3Eが用いられるものである。別の好ましい実施形態では、試験細胞は、本明細書中に前記されたようなin vivo動物モデルの一部である。一態様では、本発明は、前記の方法の一方法で同定される物質にも関する。
【0059】
好ましい一実施形態では、転移を「防止すること」は、本明細書中に前記したようなシンチグラフィーを用いて少なくとも1、2、3、4、5年またはそれより長い間、転移病変が本明細書中で前記したようなin vivo動物モデルにおいて、および/または癌患者において検出されない、ということを意味するが、この場合、上記腫瘍細胞は、非処置対照における転移病変の潜在的発症との比較により、上記物質で処置された。
【0060】
好ましい一実施形態では、転移を「遅延すること」は、上記物質で処置された前段落で記載したものと同一の検定を用いた所定の系における転移病変の検出が、上記物質で処置されない対応する対照において一転移病変の検出が生じる時間と比較して、少なくとも1、6、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66ヶ月またはそれ以上遅延される、ということを意味する。
【0061】
好ましい一実施形態では、転移を「処置すること」は、処置されていない同一系における転移病変の量と比較して、少なくとも1(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12)ヵ月後またはそれ以後に、上記物質で処置された全段落に記載したものと同一検定を用いた所定の系における転移病変の量の検出可能な減少が認められる、ということを意味する。検出可能な減少は、好ましくは、少なくとも1%減少、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%減少またはそれ以上の、転移が検出可能でなくなるまでの減少であると定義される。
転移を防止し、遅延し、および/または処置するための方法
【0062】
癌患者においてこのような方法で用いられ得る既知の医薬剤は、一般に存在しない。単なる標準処置は、放射線照射、ホルモン療法および/または化学療法を包含する。したがって、さらなる態様では、本発明は、癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための方法であって、表題「阻害剤」の節で同定される遺伝子またはヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの遺伝子の発現レベル、および/または活性または定常状態レベルを薬理学的に変更することを包含する方法を提供する。この節では、ポリペプチドは、コード配列が表題「阻害剤」の節で同定されたポリペプチドを意味する。本発明の好ましい一方法において、上記ポリペプチドの遺伝子の発現レベル、および/または活性および/または定常状態レベルは、転移を有さない(検出可能な転移なし)ことが既知の癌患者における、または健常被験者におけるその生理学的レベルを模倣するために変更される。
【0063】
「転移を防止する、遅延するおよび/または処置する」という表現は、前節と同じ意味を与えられる。
【0064】
ポリペプチドの活性または定常状態レベルは、例えば、ポリペプチドに対する抗体、好ましくは中和抗体のようなポリペプチドのアンタゴニストまたは阻害剤を患者に、好ましくは細胞に、さらに好ましくは上記癌患者の腫瘍細胞に提供することにより、ポリペプチドそれ自体のレベルで変更され得る。外因性供給源からの優性阻害型ポリペプチドまたはアンチセンスの提供のために、優性阻害型ポリペプチドまたはアンチセンスは、下記のような適切な宿主細胞における優性阻害型ポリペプチドまたはアンチセンスをコードする核酸の発現により産生され得るのが便利である。本発明のポリペプチドに対する抗体は、下記のようにして得られる。
【0065】
しかしながら、好ましくは、ポリペプチドの活性または定常状態レベルは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現レベルを調節することにより変更される。好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルは、ヒトおよび/または腫瘍細胞において調節される。
【0066】
ポリペプチドの発現レベルは、阻害剤、好ましくはアンチセンス分子を、ヒトおよび/または腫瘍細胞に提供し、それによりアンチセンス分子が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の生合成(通常は翻訳)を抑制し得ることにより減少され得る。アンチセンスまたは干渉RNA分子を提供することによる遺伝子発現の減少は、本明細書中で後述されており、そして、例えばFamulok et al. (2002, Trends Biotechnol., 20(11): 462−466)により再検討されている。アンチセンス分子は、そのようなものとして細胞に提供され得るし、またはそれは、発現構築物をヒトおよび/または腫瘍細胞中に導入することにより提供され、それにより発現構築物が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現を抑制し得るアンチセンスヌクレオチド配列を含み、それによりアンチセンスヌクレオチド配列が、ヒトおよび/または腫瘍細胞におけるアンチセンスヌクレオチド配列の転写を駆動し得るプロモーターの制御下にある。ポリペプチドの発現レベルは、ヒトおよび/または腫瘍細胞中への発現構築物の導入によっても減少され、それにより、発現構築物は、ポリペプチドをコードする内因性ヌクレオチド配列のトランス抑制し得る因子をコードするヌクレオチド配列を含む。アンチセンスまたは干渉核酸分子は、「そのようなものとして」直接的に、任意に適切な処方物中で、細胞中に導入され得るし、あるいは、それは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現を抑制し得る(アンチセンスまたは干渉)ヌクレオチド配列を含む発現構築物を細胞中に導入することにより、細胞中でin situで産生され、それにより、任意に、アンチセンスまたは干渉ヌクレオチド配列は、ヒトおよび/または腫瘍細胞中でのヌクレオチド配列の発現を駆動し得るプロモーターの制御下にある。
【0067】
「遺伝子(ヌクレオチド)または対応するポリペプチドの発現を増大するかまたは減少する」ことの意味は、表題「ex vivo方法」の節で示されたものと同じである。
【0068】
本発明の方法は、好ましくは、本明細書中に記載されるような阻害剤:ポリペプチドの活性または定常状態レベルを調整するための核酸構築物、および/または中和抗体、および/または本明細書中に記載されるようなポリペプチドを含む治療的有効量の薬学的組成物を癌患者に投与するステップを包含する。核酸構築物は、本明細書中の以下でさらに明示されるような発現構築物であり得る。好ましくは、発現構築物は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスおよびレトロウイルスを基礎にした遺伝子療法ベクターから選択されるウイルス遺伝子療法ベクターである。好ましいウイルス遺伝子療法ベクターは、AAVまたはレンチウイルスベクターである。代替的には、核酸構築物、例えばアンチセンス分子またはRNA干渉を可能にするRNA分子は、本発明のポリペプチドの発現を抑制するためであり得る(下記参照)。本発明の方法において、ヒトおよび/または腫瘍細胞は、好ましくは、例えば、その年齢および/またはその遺伝的背景および/またはその食餌および/または彼が有する癌の種類のために、転移癌を有する高い危険を有することが疑われる癌患者からの細胞である。代替的には、別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、転移癌を有する危険を有すると診断された癌患者からの細胞に適用される。用いられる予後判定方法は、好ましくは、本明細書中に既に前記した本発明のうちの1つである。さらに好ましくは、このような方法において、好ましくは貧予後群に属する患者において、その発現が本明細書中に記載したような基線との比較により上方調節される配列番号1〜32の群から選択される遺伝子が存在する、ということが判明した場合、上記遺伝子の阻害剤を用いることによりこのような個体または患者を処置することが好ましい。したがって、本発明は、この型の患者の個別的処置を可能にする。
【0069】
一方法において、処置されるために選択されるヒトおよび/または腫瘍細胞は、好ましくは、それらが属する患者から単離される(ex vivo法)。細胞は、その後、本発明のポリペプチドの活性または定常状態レベルを変更することにより処置される。この処置は、好ましくは、本発明のポリペプチドおよび/または核酸構築物、および/または本明細書中に前記したような中和抗体をそれらに潜入させることにより実施される。最後に、処置細胞は、それらが属する患者に置き戻される。
【0070】
別の処置方法において、本明細書中で記述される本発明は、化学療法および/または放射線照射のような転移の標準処置と併用され得る。
【0071】
遺伝子療法は、転移を防止し、遅延し、および/または処置するための実行可能な手段であるが、しかし他の考え得る処置も予想され得る。例えば、意図された方向である種の分子経路を進めるための「小分子」による処置も好ましい。これらの小分子は、好ましくは本明細書中で後記されるような本発明のスクリーニング方法により同定される。
配列番号および配列同一性により限定される遺伝子
【0072】
所定の配列同一性番号(配列番号1〜169)により本明細書中で同定されるような各遺伝子は、開示される場合、この特定の配列に限定されない、と理解されるべきである。本明細書中で同定されるような遺伝子配列またはヌクレオチド配列は、各々、表3で同定されるような所定のタンパク質またはポリペプチドをコードする。本出願全体を通して、特定のヌクレオチド配列の配列番号(例として配列番号1を挙げる)に言及するたびに、それを以下のものと置き換え得る:
i. 表3で、あるいは配列番号1によりコードされるものとしてここで提供される配列の一覧で同定される場合、配列番号1のアミノ酸と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii. (例えば)配列番号1と少なくとも60%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列、
iii. その相補鎖が(i)または(ii)の配列の核酸分子とハイブリダイズするヌクレオチド配列、
iv. その配列が遺伝暗号の縮重のために(iii)の核酸分子の配列とは異なるヌクレオチド配列、
v. 配列番号1のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列。
【0073】
それぞれ所定のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列とのその同一性パーセンテージ(少なくとも60%)に基づいて本明細書中に記載されるヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、各々、さらなる好ましい実施態様では、それぞれ所定のヌクレオチドまたはアミノ酸配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性を有する。好ましい一実施形態では、配列同一性は、本明細書中で同定されるような配列の全長と比較することにより決定される。
【0074】
「配列同一性」は、本明細書中では、当該配列を比較することにより確定した場合の、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチドまたはタンパク質)配列あるいは2つ以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列間の関係として定義される。当該技術分野では、「同一性」は、このような配列の鎖間の整合により確定されるような(この場合も同じく)アミノ酸または核酸配列間の配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、あるポリペプチドのアミノ酸配列およびその保存アミノ酸置換基を、第二のポリペプチドの配列と比較することにより決定される。「同一性」および「類似性」は、例えば以下に記載されたような既知の方法(これらに限定されない)により容易に算定され得る:Computational Molecular Biology, Lesk, A. M., ed., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D. W., ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I,
Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heine, G., Academic Press, 1987; and Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991; and Carillo, H., and Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988)。
【0075】
同一性を決定するための好ましい方法は、試験される配列間の最大整合を提供するよう意図される。同一性および類似性を決定するための方法は、公的に利用可能なコンピュータープログラムで体系的にまとめられている。2つの配列間の同一性および類異性を決定するための好ましいコンピュータープログラムとしては、例えばGCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12 (1): 387 (1984))、BestFit、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschul, S. F. et al, J. Mol. Biol. 215:403−410 (1990))が挙げられる。BLAST Xプログラムは、NCBIおよびその他の供給元から公的に入手可能である(BLAST Manual, Altschul, S., et al, NCBI NLM NIH Bethesda, MD 20894;Altschul, S., et al, J. Mol. Biol. 215:403−410 (1990))。周知のSmith Watermanアルゴリズムも、同一性を決定するために用いられ得る。
【0076】
ポリペプチド配列非核のための好ましいパラメーターとしては、以下のものが挙げられる:アルゴリズム:Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443−453 (1970);比較マトリックス:BLOSSUM62 from Hentikoff and Hentikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89: 10915−10919 (1992);ギャップペナルティ:12;およびギャップ長ペナルティ:4。これらのペナルティを有する有用なプログラムは、「Ogap」プログラムとしてGenetics Computer Group, located in Madison, WIから公的に入手可能である。前記のパラメーターは、アミノ酸比較のためのデフォルトパラメーターである(末端ギャップに関するペナルティなし)。
【0077】
核酸比較のための好ましいパラメーターとしては、以下のものが挙げられる:アルゴリズム:Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48 :443−453 (1970);比較マトリックス:整合=+10、不整合=0;ギャップペナルティ:50;ギャップ長ペナルティ:3。Genetics Computer Group, located in Madison, Wisからのギャッププログラムとして利用可能。上記は、核酸比較のためのデフォルトパラメーターである。
【0078】
任意に、アミノ酸類似性の程度を決定するに際して、当業者に明らかであるよう、いわゆる「保存的」アミノ酸置換を当業者は考慮に入れる。保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の一群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンである;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の一群は、セリンおよびトレオニンである;アミド含有側鎖を有するアミノ酸の一群は、アスパラギンおよびグルタミンである;芳香族側鎖を有するアミノ酸の一群は、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンである;塩基性側鎖を有するアミノ酸の一群は、リシン、アルギニンおよびヒスチジンである;そしてイオウ含有側鎖を有するアミノ酸の一群は、システインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換群は、以下のものである:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、およびアスパラギン−グルタミン。本明細書中に開示されるアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列中の少なくとも1つの残基が除去され、異なる残基がその位置に挿入されたものである。好ましくは、アミノ酸変化は保存的である。天然アミノ酸の各々に関する好ましい保存的置換を以下に示す:Ala→ser;Arg→lys;Asn→ginまたはhis;Asp→glu;Cys→serまたはala;Gin→asn;Glu→asp;Gly→pro;His→asnまたはgin;He→leuまたはval;Leu→ileまたはval;Lys→arg、ginまたはglu;Met→leuまたはile;Phe→met、leuまたはtyr;Ser→thr;Thr→ser;Trp→tyr;Tyr→trpまたはphe;ならびにVal→ileまたはleu。
ポリペプチドの組換え的産生のための組換え技術および方法
【0079】
阻害剤がポリペプチドである場合には、前期ポリペプチドは組換え技術を用いて調製され得るが、この場合、当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は適切な宿主細胞中で発現される。したがって、本発明は、核酸構築物、好ましくは上記のようなヌクレオチド配列により表される核酸分子を含むベクターである核酸構築物の使用にも関する。好ましくは、ベクターは、ベクターのための適切な宿主中でのベクターの増殖を保証する複製の起点を含む複製可能ベクター(または自律複製配列)である。代替的には、ベクターは、例えば相同組換えまたは他の方法によって、宿主細胞のゲノム中に組込み可能である。特に好ましいベクターは、上記のようなポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、ベクターに関する宿主細胞中でのコード配列の発現を指図し得るプロモーターと操作可能的に連結される発現ベクターである。
【0080】
本明細書中で用いる場合、「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に関して上流に位置する1つ以上の遺伝子の転写を制御するよう機能する核酸断片を指し、そしてDNA依存性RNAポリメラーゼに関する結合部位、転写開始部位、ならびに任意の他のDNA配列、例えば転写因子結合部位、レプレッサーおよびアクチベータータンパク質結合部位、ならびにプロモーターからの転写の量を直接または間接的に調節するよう作用することが当業者に既知である任意の他の配列(これらに限定されない)の存在により構造的に同定される。「構成的」プロモーターは、ほとんどの生理学的および発生的条件下で活性であるプロモーターである。「誘導可能」プロモーターは、生理学的または発生的条件によって調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の型の分化細胞/組織、例えば好ましくはヒトおよび/または腫瘍および/または乳房細胞またはそれに由来する組織においてのみ活性である。
【0081】
発現ベクターは、上記のような本発明のポリペプチドが、上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切な細胞、例えば培養細胞または多細胞生物の細胞中で発現される組換え技術を用いて調製されるのを可能にし得る(Ausubel et al, “Current Protocols in Molecular Biology”, Greene Publishing and Wiley−Interscience, New York (1987)およびSambrook and Russell (2001, supra)(これらの記載内容はともに、参照により本明細書中で援用される)に記載;Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. 82:488 (部位特異的突然変異誘発を記載)およびRoberts et al. (1987) Nature 328:731−734 or Wells, J.A., et al. (1985) Gene 34: 315 (カセット突然変異誘発を記載)も参照)。
【0082】
典型的には、上記ポリペプチドをコードする核酸は、発現ベクター中で用いられる。「発現ベクター」という語句は、一般的に、このような配列と適合性である宿主中での遺伝子の発現を実行し得るヌクレオチド配列を指す。これらの発現ベクターは、典型的には、少なくとも適切なプロモーター配列、および任意に、転写終結シグナルを包含する。発現を実行するのに必要なまたは役立つ付加的因子は、さらにまた、本明細書中に記載されるように用いられ得る。上記ポリペプチドをコードする核酸またはDNAは、in vitro細胞培養中への導入およびその中での発現を可能にするDNA構築物中に組入れられる。具体的には、DNA構築物は、原核生物宿主、例えば細菌、例えば大腸菌中での複製に適しており、あるいは培養哺乳動物、植物、昆虫、例えばSf9、酵母、心筋またはその他の真核生物細胞株中に導入され得る。
【0083】
特定の宿主中への導入のために調製されるDNA構築物は、典型的には、宿主により認識される複製系、所望のポリペプチドをコードする意図されたDNAセグメント、ならびにポリペプチドコードセグメントと操作可能的に連結される転写および翻訳開始および終結調節配列を包含する。DNAセグメントは、それが別のDNAセグメントと機能的関係に配置される場合、「操作可能的に連結」される。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写を刺激する場合、コード配列と操作可能的に連結される。シグナル配列に関するDNAは、それが上記ポリペプチドの分泌に参加する前タンパク質として発現される場合、ポリペプチドをコードするDNAと操作可能的に連結される。一般的に、操作可能的に連結されるDNA配列は、連続しており、シグナル配列の場合、連続であり且つ読取り相にある。しかしながら、エンハンサーは、それらが制御するその転写のコード配列と連続である必要はない。連結は、好都合な制限部位で、またはその代わりに挿入されるアダプターまたはリンカーでの結紮により成し遂げられる。
【0084】
適切なプロモーター配列の選択は、一般的に、DNAセグメントの発現のために選択される宿主細胞によって決まる。適切なプロモーター配列の例としては、当該技術分野で周知の原核生物および真核生物プロモーターが挙げられる(例えば、Sambrook and Russell, 2001、上記、参照)。転写調節配列は、典型的には、宿主により認識される異種エンハンサーまたはプロモーターを包含する。適切なプロモーターの選択は宿主により左右されるが、しかしプロモーター、例えばtrp、lacおよびファージプロモーター、tRNAプロモーター、ならびに解糖酵素プロモーターが既知であり、利用可能である(例えば、Sambrook and Russell, 2001、上記、参照)。発現ベクターは、複製系、ならびに転写および翻訳調節配列を、用いられ得るポリペプチドコードセグメントのための挿入部位と一緒に包含する。細胞株および発現ベクターの実現可能な組合せの例は、Sambrook and Russell(2001、上記)に、ならびにMetzger et al. (1988) Nature 334: 31−36に記載されている。例えば、適切な発現ベクターは、酵母、例えば出芽酵母で、例えば昆虫細胞、例えばSf9細胞で、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞で、および細菌細胞、例えば大腸菌で発現され得る。したがって宿主細胞は、原核生物または真核生物宿主細胞であり得る。宿主細胞は、液体培地中での、または固体培地上での培養に適している宿主細胞であり得る。宿主細胞は、好ましくは、上記のような本発明のポリペプチドを産生するための方法において、あるいは本明細書中に記載されるような物質の同定のための方法において用いられる。上記の方法は、上記ポリペプチドの発現を助成する条件下で宿主細胞を培養するステップを包含し得る。任意に、当該方法は、上記ポリペプチドの回収を包含し得る。ポリペプチドは、標準タンパク質精製技法、例えばそれ自体当該技術分野で既知の種々のクロマトグラフィー法により、培地から回収され得る。
【0085】
代替的には、宿主細胞は、多細胞生物、例えばトランスジェニック植物または動物、好ましくは非ヒト動物の一部である細胞である。トランスジェニック植物は、その細胞の少なくとも一部に、上記のようなベクターを含む。トランスジェニック植物の生成方法は、例えば、米国特許第6,359,196号に、ならびにそこで引用される参考文献中に記載されている。このようなトランスジェニック植物または動物は、上記のような本発明のポリペプチドを産生するための方法に、および/または本明細書中に記載されるような物質の同定のための方法に用いられ得る。トランスジェニック植物に関しては、好ましい方法は、その細胞中にベクターを含むトランスジェニック植物の一部、またはこのようなトランスジェニック植物の子孫の一部を回収し、それにより植物部分は上記ポリペプチドを含有するステップ、ならびに任意に、植物部分から上記ポリペプチドを回収するステップを包含する。このような方法も、米国特許第6,359,196号に、ならびにそこで引用される参考文献中に記載されている。同様に、トランスジェニック動物は、その体細胞および生殖細胞中に、上記のようなベクターを含む。トランスジェニック動物は、好ましくは、非ヒト動物である。トランスジェニック動物を生成するための方法は、例えばWO 01/57079に、ならびにそこで引用される参考文献中に記載されている。このようなトランスジェニック動物は、上記のような本発明のポリペプチドを産生するための方法に用いられ、その方法は、ベクターまたはその雌性子孫を含むトランスジェニック動物からの体液(上記ポリペプチドを含有する)を回収するステップ、そして任意に、上記体液から上記ポリペプチドを回収するステップを包含する。このような方法も、WO 01/57079に、ならびにそこで引用される参考文献中に記載されている。ポリペプチドを含有する体液は、好ましくは血液であり、さらに好ましくは乳汁である。
【0086】
ポリペプチドを調製するための別の方法は、in vitro転写/翻訳系を用いることである。ポリペプチドをコードするDNAは、上記のような発現ベクター中でクローン化される。次いで、発現ベクターは転写され、そしてin vitroで翻訳される。翻訳産物は、直接用いられ得るか、あるいは先ず精製され得る。in vitro翻訳から生じるポリペプチドは、典型的には、in vivoで合成されるポリペプチドに存在する翻訳後修飾を含有しないが、しかし、ミクロソームの固有の存在のために、いくつかの翻訳後修飾が起こり得る。in vitro翻訳によるポリペプチドの合成方法は、例えばBerger & Kimmel, Methods in Enzymology, Volume 152, Guide to Molecular Cloning Techniques, Academic Press, Inc., San Diego, CA, 1987により記載されている。
遺伝子療法
【0087】
本発明のいくつかの態様は、上記のようなヌクレオチド配列を含む核酸構築物または発現ベクターの使用に関するが、この場合、前記ベクターは、遺伝子療法に適しているベクターである。遺伝子療法に適したベクターは、以下に記載されている:Anderson 1998, Nature 392: 25−30; Walther and Stein, 2000, Drugs 60: 249−71;Kay et al, 2001, Nat. Med. 7: 33−40;Russell, 2000, J. Gen. Virol. 81 : 2573−604;Amado and Chen, 1999, Science 285: 674−6;Federico, 1999, Curr. Opin. Biotechnol.10: 448−53;Vigna and Naldini, 2000, J. Gene Med. 2: 308−16;Marin et al, 1997, Mol. Med. Today 3: 396−403;Peng and Russell, 1999, Curr. Opin. Biotechnol. 10: 454−7;Sommerfelt, 1999, J. Gen. Virol. 80: 3049−64;Reiser, 2000, Gene Ther. 7: 910−3;ならびにそれらで引用された参考文献。
【0088】
特に適切な遺伝子療法ベクターとしては、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。これらのベクターは、多数の分裂中のおよび非分裂中の細胞型、例えばニューロン細胞に潜入する。さらに、アデノウイルスベクターは、高レベルの導入遺伝子発現が可能である。しかしながら、細胞進入後のアデノウイルスおよびAAVベクターのエピソーム的性質のため、これらのウイルスベクターは、上記のように導入遺伝子の単なる一過性発現を要する治療的適用に最も適合する(Russell, 2000, J. Gen. Virol. 81 : 2573−2604;Goncalves, 2005, Virol J. 2(1):43)。好ましいアデノウイルスベクターは、Russell(2000、上記)により再検討されたように宿主応答を低減するよう修飾される。AAVベクターを用いるニューロン遺伝子療法のための方法は、Wang et al, 2005, J Gene Med. March 9 (Epub ahead of print), Mandel et al, 2004, Curr Opin Mol Ther. 6(5):482−90およびMartin et al, 2004, Eye 18(11): 1049−55により記載されている。ヒトおよび/または腫瘍および/または乳房細胞中への遺伝子移入に関して、AAV血清型2は有効なベクターであり、したがって、好ましいAAV血清型である。
【0089】
本発明における適用のための好ましいレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベースの発現構築物である。レンチウイルスベクターは、非分裂中細胞に潜入する独特の能力を有する(Amado and Chen, 1999 Science 285 : 674−6)。レンチウイルスベースの発現構築物の構築および使用のための方法は、米国特許第6,165,782号、第6,207,455号、第6,218,181号、第6,277,633号および第6,323,031号に、ならびにFederico (1999, Curr Opin Biotechnol 10: 448−53)およびVigna et al. (2000, J Gene Med 2000; 2: 308−16)に記載されている。
【0090】
一般的に、遺伝子療法ベクターは、それらが発現さえるべき本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、それにより、前記ヌクレオチド配列は上記のように適切な調節配列と操作可能的に連結される、という意味で、上記の発現ベクターと同様である。このような調節配列は、少なくともプロモーター配列を含む。遺伝子療法ベクターからの上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現のための適切なプロモーターとしては、例えばサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ウイルス長い末端反復プロモーター(LTR)、例えばネズミモロニー白血病ウイルス(MMLV)、ラウス肉腫ウイルスまたはHTLV−1からのもの、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、ならびに単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。適切なプロモーターは、以下に記載される。
【0091】
小有機または無機化合物の投与により誘導され得るいくつかの誘導可能プロモーター系が記載されている。このような誘導可能プロモーターとしては、重金属により制御されるもの、例えばメタロチオネインプロモーター(Brinster et al. 1982 Nature 296: 39−42; Mayo et al. 1982 Cell 29: 99−108)、RU−486(プロゲステロンアンタゴニスト)(Wang et al. 1994 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 : 8180−8184)、ステロイド(Mader and White, 1993 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5603−5607)、テトラサイクリン(Gossen and Bujard 1992 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 5547−5551;米国特許第5,464,758号;Furth et al. 1994 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 : 9302−9306;Howe et al. 1995 J. Biol. Chem. 270: 14168−14174;Resnitzky et al. 1994 Mol. Cell. Biol. 14: 1669−1679;Shockett et al. 1995 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 6522−6526)、ならびにtTAER系(VP16の活性化ドメインおよびエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインとしての、tetRポリペプチドからなるマルチキメラトランス活性化因子を基礎にしている)(Yee et al, 2002、米国特許第6,432,705号)が挙げられる。
【0092】
RNA干渉による特定遺伝子のノックダウン(下記参照)のための小RNAをコードするヌクレオチド配列に適したプロモーターとしては、上記のポリメラーゼIIプロモーターのほかに、ポリメラーゼIIIプロモーターが挙げられる。RNAポリメラーゼIII(polIII)は、多数の種々の小型の核および細胞質非コードRNA、例えば5S、U6、アデノウイルスVA1、Vault、テロメラーゼ RNAならびにtRNAの合成に関与する。これらのRNAをコードする多数の遺伝子のプロモーター構造が決定されており、そして、RNA polIIIプロモーターは3つの型の構造に分類される、ということが判明している(再検討のためには、Geiduschek and Tocchini−Valentini, 1988 Annu. Rev. Biochem. 57: 873−914;Willis, 1993 Eur. J. Biochem. 212: 1−11;Hernandez, 2001, J. Biol. Chem. 276: 26733−36参照)。siRNAの発現に特に適しているのは、RNA polIIIプロモーターの型3であり、それにより、転写が、5’フランキング領域、すなわち転写開始部位の上流にのみ見出されるシス作用素子により駆動される。上流配列素子としては、伝統的TATAボックス(Mattaj et al, 1988 Cell 55, 435−442)、近位配列素子および遠位配列素子(DSE; Gupta and Reddy, 1991 Nucleic Acids Res. 19, 2073−2075)が挙げられる。型3 polIIIプロモーターの制御下の遺伝子の例は、U6小型の核RNA(U6snRNA)、7SK、Y、MRP、H1およびテロメラーゼRNA遺伝子である(例えばMyslinski et al, 2001, Nucl. Acids Res. 21 : 2502−09参照)。
【0093】
遺伝子療法ベクターは、任意に、第二のまたはさらなるポリペプチドをコードする第二の、または1つ以上のさらなるヌクレオチド配列を含み得る。第二のまたはさらなるポリペプチドは、発現構築物を含有する細胞に関する同定、選択および/またはスクリーニングを可能にする(選択可能)マーカーポリペプチドであり得る。この目的のための適切なマーカータンパク質は、例えば蛍光タンパク質GFP、ならびに選択可能マーカー遺伝子HSVチミジンキナーゼ(HAT培地上での選択のため)、細菌ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ヒグロマイシンBに関する選択のため)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418に関する選択のため)およびジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)(メトトレキサートに関する選択のため)、CD20、低親和性神経成長因子遺伝子である。これらのマーカー遺伝子を得るための供給源、ならびにそれらの使用方法は、Sambrook and Russel (2001) “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに提示されている。
【0094】
代替的には、第二のまたはさらなるヌクレオチド配列は、必要と思われる場合には、トランスジェニック細胞から被験者を救済することが可能であるフェイル・セーフ機序を提供するポリペプチドをコードし得る。このようなヌクレオチド配列(しばしば、自殺遺伝子と呼ばれる)は、上記ポリペプチドが発現されるトランスジェニック細胞を殺害し得る毒性物質にプロドラッグを転換し得るポリペプチドをコードする。このような自殺遺伝子の適切な例としては、例えば大腸菌シトシンデアミナーゼ遺伝子、あるいは単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスおよび水痘帯状疱疹ウイルスからのチミジンキナーゼ遺伝子のうちの1つ(この場合、ガンシクロビルがプロドラッグとして用いられて、被験者におけるIL−トランスジェニック細胞を殺害する)が挙げられる(例えばClair et al, 1987, Antimicrob. Agents Chemother. 31 : 844−849参照)。
【0095】
遺伝子療法ベクターは、好ましくは、下記のような適切な薬学的担体を含む薬学的組成物中に処方される。
RNA干渉
【0096】
表題「阻害剤」の節で同定されたような本発明の特定のポリペプチドの発現のノックダウンに関しては、好ましくはRNAi因子、すなわちRNA干渉が可能であるかまたはRNA干渉が可能なRNA分子の一部であるRNA分子をコードする所望のヌクレオチド配列の発現のために、遺伝子療法ベクターまたは他の発現構築物が用いられる。このようなRNA分子は、siRNA(短い干渉RNA、例えば短いヘアピンRNA)と呼ばれる。代替的には、siRNA分子は、例えば薬学的組成物中で、ヒトおよび/または腫瘍および/または乳房細胞内にまたはその近隣に、直接的に投与される。
【0097】
所望のヌクレオチド配列は、標的遺伝子mRNAの領域に対して向けられるアンチセンスRNAをコードするアンチセンスコードDNA、および/または標的遺伝子mRNAの同一領域に対して向けられるセンスRNAをコードするセンスコードDNAを含む。本発明のDNA構築物では、アンチセンスおよびセンスコードDNAは、それぞれアンチセンスおよびセンスRNAを発現し得る本明細書中で上記した1つ以上のプロモーターと操作可能的に連結される。「siRNA」は、哺乳動物細胞において有毒でない長さが短い二本鎖RNAである小干渉RNAを意味する(Elbashir et al, 2001, Nature 4Π : 494−98;Caplen et al, 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 9742−47)。長さは、必ずしも21〜23ヌクレオチドに限定されない。毒性を示さない限り、siRNAの長さに特別な制限はない。「siRNA」は、例えば少なくとも15、18または21ヌクレオチド長、および25、30、35または49ヌクレオチド長までであり得る。代替的には、発現されるべきsiRNAの最終転写産物の二本鎖RNA部分は、例えば少なくとも15、18または21ヌクレオチド長、および25、30、35または49ヌクレオチド長までであり得る。
【0098】
「アンチセンスRNA」は、標的遺伝子mRNAと相補的な配列を有し、標的遺伝子mRNAと結合することによりRNAiを誘導すると考えられるRNA鎖である。「センスRNA」は、アンチセンスRNAと相補的な、そしてその相補的アンチセンスRNAとアニーリングされてsiRNAを形成する配列を有する。「標的遺伝子」という用語は、この状況では、本発明の系により発現されるべきsiRNAのためにその発現がサイレンシングされるべきであるし、そして随意に選択され得る遺伝子を指す。この標的遺伝子と同様に、例えばその配列が既知であるが、しかしその機能は依然として解明されていない遺伝子、ならびにその発現が疾患の原因となると考えられる遺伝子が、好ましくは選択される。siRNAの鎖(アンチセンスRNA鎖)のうちの1つと結合し得る長さである少なくとも15ヌクレオチドまたはそれ以上を有する遺伝子のmRNAの部分配列が決定されている限り、標的遺伝子は、そのゲノム配列が完全に解明されているわけではないものであり得る。したがって、遺伝子、発現配列タグ(EST)およびmRNAの部分(そのうちのいくつかの配列(好ましくは少なくとも15ヌクレオチド)が解明されている)は、それらの全長配列が決定されているわけではない場合でも、「標的遺伝子」として選択され得る。
【0099】
2つのRNA鎖が対になるsiRNAの二本鎖RNA部分は完全対合化するものに限定されないし、不整合(対応するヌクレオチドが相補性でない)、バルジ(1つの鎖上の対応する相補的ヌクレオチドの欠如)等のため、非対合部分を含有し得る。非対合部分は、それらがsiRNA形成を妨げない程度に含有され得る。「バルジ」は、本明細書中で用いる場合、好ましくは1〜2つの非対合ヌクレオチドを含み、そして2つのRNA鎖が対を成すsiRNAの二本鎖RNA領域は、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5つのバルジを含有する。さらに、「不整合」は、本明細書中で用いる場合、2つのRNA鎖が対を成すsiRNAの二本鎖RNA領域中に、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5の数で含有される。好ましい不整合では、ヌクレオチドのうちの一方はグアニンであり、他方はウラシルである。このような不整合は、センスRNAをコードするDNAにおけるCからTへの、GからAへの、またはその混合物の突然変異のためであるが、それらに限定されない。さらに、本発明において、2つのRNA鎖が対を成すsiRNAの二本鎖RNA領域は、バルジと不整合の両方(これは合計で好ましくは1〜7個まで、さらに好ましくは1〜5個までの数である)を含有し得る。このような非対合部分(不整合またはバルジ等)は、アンチセンスおよびセンスコードDNA間の下記の組換えを抑制し、柿のようなsiRNA発現系を安定にし得る。さらに、2つのRNA鎖が対を成さないsiRNAの二本鎖RNA領域に非対合部分を含有しないステムループDNAをシーケンシングすることは難しいが、しかし上記のような不整合またはバルジを導入することにより、シーケンシングは可能にされる。さらに、対合二本鎖RNA領域に不整合またはバルジを含有するsiRNAは、大腸菌または動物細胞中で安定であるという利点を有する。
【0100】
siRNAがそのRNAi作用のために標的遺伝子発現を無症候性にし得る限り、siRNAの末端構造は平滑であるかまたは粘着性(オーバーハング)であり得る。粘着性(オーバーハング)末端構造は3’オーバーハングのみに限定され、5’オーバーハング構造は、それがRNAi作用を誘導し得る限り、含まれ得る。さらに、オーバーハングヌクレオチドの数は、既に報告された2または3に限定されないが、しかしオーバーハングがRNAi作用を誘導し得る限り、任意数であり得る。例えば、オーバーハングは、1〜8、好ましくは2〜4ヌクレオチドからなる。本明細書中では、粘着末端構造を有するsiRNAの全体的長さは、対合二本鎖部分の長さと、両末端にオーバーハング一本鎖を含む対の長さの合計として表される。例えば、両端に4ヌクレオチドオーバーハングを有する19bp二本鎖RNA部分では、全体的長さは、23bpとして表される。さらに、このオーバーハング配列は標的遺伝子に対する低特異性を有するため、それは、標的遺伝子配列と必ずしも相補的(アンチセンス)または同一(センス)でない。さらに、siRNAが標的遺伝子に及ぼすその遺伝子サイレンシング作用を保持しうる限り、siRNAは、例えばその一端のオーバーハング部分に低分子量RNA(これは天然RNA分子、例えばtRNA、rRNAまたはウイルスRNA、あるいは人工RNA分子であり得る)を含有し得る。
【0101】
さらに、「siRNA」の末端構造は、必然的に上記のような両端でカットオフ構造であり、そして二本鎖RNAの一側の末端がリンカーRNAにより連結されるステムループ構造を有し得る(「shRNA」)。二本鎖RNA領域(ステムループ部分)の長さは、例えば少なくとも15、18または21ヌクレオチド長、および25、30、35または49ヌクレオチド長までであり得る。代替的には、発現されるべきsiRNAの最終転写産物である二本鎖RNA領域の長さは、例えば少なくとも15、18または21ヌクレオチド長、および25、30、35または49ヌクレオチド長までであり得る。さらに、ステム部分の対合を妨げないような長さを有する限り、リンカーの長さに特定の制限はない。他と、ステム部分の安定対合ならびにその部分をコードするDNA間の組換えの抑制のために、リンカー部分はクローバー葉tRNA構造を有し得る。リンカーがステム部分の対合を妨げる長さを有する場合でも、例えば、イントロンが前駆体RNAのプロセシング中に成熟RNAに切り取られ、それによりステム部分の対合を可能にするよう、イントロンを含むためにリンカー部分を構築することが出来る。ステムループsiRNAの場合、ループ構造を有さないRNAのいずれかの末端(頭または尾)は、低分子量RNAを有し得る。上記のように、この低分子量RNAは、天然RNA分子、例えばtRNA、rRNA、snRNAまたはウイルスRNA、あるいは人工RNA分子であり得る。
【0102】
アンチセンスおよびセンスコードDNAからそれぞれアンチセンスおよびセンスRNAを発現するために、本発明のDNA構築物は上記のようなプロモーターを含む。アンチセンスおよびセンスコードDNAを発現し得る限り、構築物中のプロモーターの数および位置は原則的に、随意に選択され得る。本発明のDNA構築物の簡単な例として、プロモーターがアンチセンスおよびセンスコードDNAの上流に配置されるタンデム発現系が形成され得る。このタンデム発現系は、両端に前記のカットオフ構造を有するsiRNAを産生し得る。ステムループsiRNA発現系(ステム発現系)において、アンチセンスおよびセンスコードDNAは反対方向に整列され、これらのDNAはリンカーDNAを介して連結されて、ユニットを構築する。プロモーターは、このユニットの一側に連結されて、ステムループsiRNA発現系を構築する。本明細書中では、リンカーDNAの長さおよび配列に特別な制限はなく、これは、その配列が終結配列でなく、その長さおよび配列が上記のような成熟RNA産生中にステム部分対合を妨げない限り、任意の長さおよび配列を有する。一例として、上記tRNAをコードするDNA等はリンカーDNAとして用いられ得る。
【0103】
タンデムおよびステムループ発現系の両方の場合において、5’末端は、プロモーターからの転写を促し得る配列を有し得る。さらに具体的には、タンデムsiRNAの場合、siRNA産生の効率は、アンチセンスおよびセンスコードDNAの5’末端にプロモーターからの転写を促し得る配列を付加することにより改善され得る。ステムループsiRNAの場合、このような配列は上記ユニットの5’末端に付加され得る。siRNAによる標的遺伝子サイレンシングが妨げられない限り、このような配列からの転写物は、siRNAに結合されている状態で用いられ得る。この状態が遺伝子サイレンシングを妨げる場合、トリミング手段(例えば、当該技術分野で既知であるようなリボザイム)を用いて転写物のトリミングを実施するのが好ましい。アンチセンスおよびセンスRNAが、同一ベクター中で、または異なるベクター中で発現され得る、ということは当業者には明らかである。センスおよびアンチセンスRNAの下流の過剰量の配列の付加を回避するためには、それぞれの鎖(アンチセンスおよびセンスRNAをコードする鎖)の3’末端に転写のターミネーターを置くのが好ましい。ターミネーターは、4つ以上の連続アデニン(A)ヌクレオチドの配列であり得る。
抗体
【0104】
本発明のいくつかの態様は、表題「阻害剤」の節で上記したような本発明のポリペプチドと特異的に結合する、そして上記ポリペプチドの活性を抑制し得る抗体または抗体断片の使用に関する。上記抗体は、抑制抗体と呼ばれる。所定のポリペプチドと特異的に結合する抗体または抗体断片を生成するための方法は、例えばHarlow and Lane (1988, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)およびWO 91/19818;WO 91/18989;WO 92/01047;WO 92/06204;WO 92/18619;およびUS6,420,113、ならびにそこに引用された参考文献中に記載されている。「特異的に結合する」という用語は、本明細書中で用いる場合、低および高親和性特異的結合の両方を包含する。特異的結合は、例えば、少なくとも約10−4MのKdを有する低親和性抗体または抗体断片により示され得る。特異的結合は、高親和性抗体または抗体断片、例えば少なくとも約10−7M、少なくとも約10−8M、少なくとも約10−9M、少なくとも約10−10MのKdを有する抗体または抗体断片によっても示され得るし、あるいは少なくとも約10−11Mまたは10−12Mまたはそれ以上のKdを有し得る。
ペプチド模倣物
【0105】
表題「阻害剤」の節で上記したような本発明のポリペプチドと、あるいはその受容体ポリペプチドと特異的に結合市、そして本発明のポリペプチドのアンタゴニストまたは阻害剤として、(例えば、本発明のポリペプチドの活性または定常状態レベルを変更するために)本明細書中に記載するような本発明の方法のいずれかに適用され得るペプチド様分子(ペプチド模倣物と呼ばれる)または非ペプチド分子は、例えば米国特許第6,180,084号(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)に詳細に記載されているように、それ自体当該技術分野で既知の方法を用いて同定され得る。このような方法としては、例えばペプチド模倣物のスクリーニングライブラリー、ペプチド、DNAまたはcDNA発現ライブラリー、組合せ化学、特に有用なファージ表示ライブラリーが挙げられる。これらのライブラリーは、本発明の実質的に精製されたポリペプチド、その断片またはその構造的類似物とライブラリーを接触することにより、ポリペプチドのアンタゴニストに関してスクリーニングされ得る。
薬学的組成物
【0106】
本発明はさらに、活性成分として本明細書中で同定されるような阻害剤を含む薬学的調製物に関するが、この場合、上記阻害剤は、以下の:ポリペプチド、核酸、核酸構築物、遺伝子療法ベクターおよび抗体からなる群から選択される。これらの成分はすべて、本明細書中に既に明示されている。上記の調製物または組成物は、好ましくは、少なくとも1つの製薬上許容可能な担体を、活性成分のほかに含む。
【0107】
いくつかの方法において、哺乳動物、昆虫または微生物細胞培養から、トランスジェニック哺乳動物の乳汁または他の供給源から精製されるような本発明のポリペプチドまたは抗体が、薬学的組成物として、薬学的担体と一緒に精製形態で投与される。ポリペプチドを含む薬学的組成物の製造方法は、米国特許第5,789,543号および第6,207,718号に記載されている。好ましい形態は、意図される投与方式および治療的用途によって決まる。
【0108】
薬学的担体は、患者にポリペプチド、抗体または遺伝子両方を送達するのに適した任意の相溶性非毒性物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、蝋および不活性固体が、担体として用いられ得る。製薬上許容可能なアジュバント、緩衝剤、分散剤等も、薬学的組成物中に組み入れられ得る。
【0109】
薬学的組成物中の本発明のポリペプチドまたは抗体の濃度は広範に変化し、すなわち約0.1重量%未満から20重量%以上まで、通常は少なくとも約1重量%である。
【0110】
経口投与のためには、活性成分は、固体剤形で、例えばカプセル、錠剤および粉末で、あるいは液体剤形で、例えばエリキシル、シロップおよび懸濁液で投与され得る。活性構成成分または成分は、不活性成分および粉末化担体、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウム等と一緒にゼラチンカプセル中に封入され得る。望ましい色、味、安定性、緩衝能力、分散またはその他の既知の望ましい特徴を提供するために付加され得る付加的不活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白色インク等である。類似の希釈剤が、圧縮錠剤を製造するために用いられ得る。錠剤およびカプセルはともに、徐放性製品として製造されて、数時間に亘る医薬剤の連続放出を提供する。圧縮錠剤は、糖衣されるかまたは皮膜被覆されて、任意の嫌な味を遮蔽し、空気から錠剤を保護するか、あるいは消化管中での選択的崩壊のために腸溶性にされ得る。経口投与のための液体剤形は、着色剤および風味剤を含有して、患者の受容性を増大し得る。
【0111】
ポリペプチド、抗体または核酸構築物あるいは遺伝子療法は、好ましくは非経口的にまたは全身的に施される。調製物のためのポリペプチド、抗体、核酸構築物またはベクターは、滅菌性でなければならない。滅菌は、凍結乾燥および再構成の前または後に、滅菌濾過膜を通して濾過することにより、容易に達成される。好ましい投与経路の1つは、全身的、さらに好ましくは経口的である。別の好ましい経路は、ポリペプチド、抗体、核酸構築物またはベクターの投与のための非経口経路であり、既知の方法、例えば皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病変内、頭蓋内、くも膜下腔内、経皮、鼻、頬、直腸または膣経路による注射または注入である。さらに好ましくは、投与経路は、静脈内または皮下である。ポリペプチド、抗体、核酸構築物またはベクターは、注入により、または大量瞬時注射により、継続的に投与される。静脈内注入のための典型的組成物は、10〜50mlの滅菌0.9%NaClまたは5%グルコースを含有し、任意に20%アルブミン溶液および1〜50μgのポリペプチド、抗体、核酸構築物またはベクターを補足されるよう作製され得る。筋肉内注射のための典型的薬学的組成物は、例えば、1〜10mlの滅菌緩衝水および1〜100μgの本発明のポリペプチド、抗体、核酸構築物またはベクターを含有するよう作製される。非経口的に投与可能な組成物の調製方法は当該技術分野で周知であり、種々の情報源、例えばRemington’s Pharmaceutical Science ( 15th ed. , Mack Publishing, Easton, PA, 1980)(この記載内容はすべての目的のために参照により本明細書中で援用される)にさらに詳細に記載されている。
【0112】
治療的適用に関しては、薬学的組成物は、好ましくは、症候の重症度を低減し、および/または症候のさらなる発症を防止するかまたは停止するのに十分な量で、本明細書中で前記したような癌患者に投与される。これを達成するのに適切な量は、「治療的有効用量」または「予防的有効用量」と定義される。このような有効投与量は、症状の重症度に、ならびに患者の健康の全身状態によって決まる。概して、治療的または予防的有効用量は、好ましくは、症候を逆方向にするのに、すなわち本明細書中で前記したような転移を防止し、遅延しおよび/または処置するのに十分な用量である。
【0113】
本発明の方法では、ポリペプチドまたは抗体は、通常は、約1μg/被験者の体重1kgまたはそれ以上の投与量で、毎週、被験者に投与される。しばしば、投与量は、10μg/kg/週より多い。投与量レジメンは、10μg/kg/週から少なくとも1mg/kg/週までの範囲であり得る。典型的には、投与量レジメンは、10μg/kg/週、20μg/kg/週、30μg/kg/週、40μg/kg/週、60μg/kg/週、80μg/kg/週および120μg/kg/週である。好ましいレジメンでは、10μg/kg、20μg/kgまたは40μg/kgが、シュウに1回、2回または3回投与される。処置は、好ましくは、非経口経路により施される。
【0114】
この文書において、ならびにその特許請求の範囲において、「〜を含む」という動詞およびその活用型は、その非限定的意味で、当該語に従う事項は包含されるが、しかし、具体的に記述されない事項は排除されない、ということを意味するために用いられる。さらに、「〜からなる」という動詞は「本質的に〜からなる」に置き換えられ、本明細書中で定義されるようなポリペプチドまたは核酸構築物または抗体または組成物が、具体的に同定されたもの以外の付加的構成成分(単数または複数)を含み得る、ということを意味し、前記付加的構成成分(単数または複数)は本発明の独特の特性を変更しない。さらに、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、状況が、素子のうちの1つおよび1つのみが存在する、ということを明らかに必要としない限り、素子のうちの1つより多くが存在する、という可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、通常は「少なくとも1つ」を意味する。
【0115】
本明細書中で確認されるような各実施形態は、別記しない限り、一緒に組合され得る。本明細書中で引用される特許および参考文献はすべて、それらの記載内容が参照により本明細書中で援用される。
【0116】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、それらは本発明の範囲を限定するよう意図されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1A】転移モデル系の遺伝子発現プロファイリングは候補転移遺伝子としてFra−1を同定する。 A. リガンド活性化TrkB(「RK3ETB」および「RIETB」細胞)または空ベクターを発現するRK3EおよびRIEラット上皮細胞の位相差顕微鏡写真。画像は倍率40倍で撮影した。
【図1B】転移モデル系の遺伝子発現プロファイリングは候補転移遺伝子としてFra−1を同定する。 B. RK3ETBおよびRIETB細胞のマイクロアレイ遺伝子発現分析。両細胞系で上方または下方調節される上部10個の遺伝子を、ヒートマップで示す。
【図1C】転移モデル系の遺伝子発現プロファイリングは候補転移遺伝子としてFra−1を同定する。 C. 定量的RT−PCR(上部パネル)およびウエスタンブロット(下部パネル;PCRに関するn=3、誤差バー:S.D.星印、片側スチューデントt検定に基づいてP<0.01で対照と異なる)により測定されたFra−1発現レベル。α−チューブリンは負荷対照として役立つ。
【図1D】転移モデル系の遺伝子発現プロファイリングは候補転移遺伝子としてFra−1を同定する。 D. AP−1 DNA結合活性を測定するゲルシフト分析。Fra−1抗体を用いたスーパーシフトを、実施して、総DNA結合活性に対するFra−1の相対的貢献度を決定した(中白矢印は、スーパーシフト化AP−1複合体を示す)。
【図2A】Fra−1はTrkB発現腫瘍細胞のEMTに必要とされる。 A. 指示されたようなFra−1をターゲッティングする個々のshRNAを発現するRK3ETB細胞におけるウエスタンブロットにより測定されたFra−1およびE−カドヘリン発現レベル。α−チューブリンは負荷対照として役立つ。
【図2B】Fra−1はTrkB発現腫瘍細胞のEMTに必要とされる。 B. 細胞形態に及ぼすFra−1枯渇の作用を示す位相差顕微鏡写真。画像は倍率40倍で撮影した。
【図2C】Fra−1はTrkB発現腫瘍細胞のEMTに必要とされる。 C. 指示されたような細胞におけるFra−1およびE−カドヘリンの免疫蛍光法による検出。細胞骨格を可視化するために、平行してプレート化された細胞におけるファロイジン染色を含む。参照として、親RK3E細胞を含む。
【図2D】Fra−1はTrkB発現腫瘍細胞のEMTに必要とされる。 D. Fra−1枯渇の一関数としての移動(上部パネル)および侵襲(下部パネル)能力(n=3、誤差バー:S.D.星印、片側ANOVAとその後のLSD検定に基づいてP<0.001で対照クローンと異なる)。
【図2E】Fra−1はTrkB発現腫瘍細胞のEMTに必要とされる。 E. Fra−1枯渇の一関数としてのRK3ETB腫瘍細胞のin vitro増殖曲線(n=3、誤差バー:S.D.)。
【図3A】Fra−1の抑制はTrkB発現原発性腫瘍の転移可能性を阻止する。 A. Fra−1枯渇の一関数としての、ヌードマウスに皮下注射したRK3ETB腫瘍細胞により形成される腫瘍のin vivo増殖曲線(n=6、誤差バー:S.E.)。
【図3B】Fra−1の抑制はTrkB発現原発性腫瘍の転移可能性を阻止する。 B. Fra−1枯渇の一関数としての、皮下拡張RK3ETB腫瘍の組織切片のヘマトキシリン・エオシン染色(尺度バー:100μm;T:腫瘍、S:皮膚)。
【図3C】Fra−1の抑制はTrkB発現原発性腫瘍の転移可能性を阻止する。 C. 接種後3週間目に分析した場合の、皮下対照またはFra−1−枯渇RK3ETB腫瘍を保有するマウスにおける肺転移の肉眼的定量(Suppl.図2Aにおける顕微鏡的定量)。
【図3D】Fra−1の抑制はTrkB発現原発性腫瘍の転移可能性を阻止する。 D. Cに記載したマウスからの肉眼的肺転移の代表的画像(左パネル)および肺組織切片のヘマトキシリン・エオシン染色(右パネル、尺度バー:200μm;M:転移)。
【図4A】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。 A. Fra−1枯渇の一関数としての、ヒトMDA−MB−231乳癌細胞における指示されたような上皮タンパク質の発現レベル。α−チューブリンは負荷対照として役立つ。
【図4B】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。B. 対照およびFra−1サイレンシングMDA−MB−231細胞のE−カドヘリン(上部パネル)および細胞骨格アクチン(ファロイジン染色による;下部パネル)の免疫蛍光法による検出。
【図4C】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。C. 対照およびFra−1サイレンシングMDA−MB−231細胞のin vitro増殖曲線(n=3、誤差バー:S.D.)。
【図4D】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。D. 接種後3ヶ月目に撮影した、指示されたような個々のFra−1shRNAを発現する1.106MDA−MB−231細胞を静脈内注射されたマウスの肺(上部パネル)および肺のヘマトキシリン・エオシン染色切片(下部パネル、尺度バー:100μm;T:腫瘍)の画像。
【図4E】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。E. Dに記載されたMDA−MB−231細胞により形成された転移の肉眼的定量(n=5肺、誤差バー:S.D.星印、片側ANOVAとその後のLSD検定に基づいてP<0.001で対照クローンと異なる)。
【図4F】Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する。F. 対照またはFra−1枯渇MDA−MB−231細胞を静脈内接種されたマウスにおいて発症する肺腫瘍におけるFra−1およびKi67発現の免疫組織学的分析(挿入部分は高倍率図)。
【図5A】Fra−1の抑制は正所性ヒト乳房腫瘍から転移を遮断する。A. 接種35日後の指示されたような個々のFra−1shRNAを発現する1.106GFP標識LM2細胞を静脈内接種されたヌードマウスの肺における蛍光の定量(n=5肺、誤差バー:S.D.星印、一方向ANOVAとその後のLSD検定に基づいてP<0.001で対照クローンと異なる)。
【図5B】Fra−1の抑制は正所性ヒト乳房腫瘍から転移を遮断する。B. Aに記載したマウスの肺の蛍光画像。
【図5C】Fra−1の抑制は正所性ヒト乳房腫瘍から転移を遮断する。C. 原発性腫瘍の外科的除去の6週間後の、個々のFra−1shRNAを発現するGFP標識LM2細胞を4番目の乳腺の脂肪パッドに注射したヌードマウスの肺における転移結節の定量(n=10)。
【図5D】Fra−1の抑制は正所性ヒト乳房腫瘍から転移を遮断する。D. Cに記載したマウスの肺の蛍光画像。
【図6A】Fra−1関連遺伝子発現プロフィールはヒト乳癌の臨床結果を精確に予測する。A. Fra−1機能に関連し、LM2細胞におけるFra−1依存性トランスクリプトームを基礎にした遺伝子発現プロフィールを生成するために用いられる手順の大要。
【図6B】Fra−1関連遺伝子発現プロフィールはヒト乳癌の臨床結果を精確に予測する。B. Fra−1分類子を用いて「不十分な」予後(青線)、または「良好な」予後(黒線)を有すると分類されたNKI295データ組からの患者の遠位無転移生存(DMFS)およびアフィメトリクス確証組からの患者の乳癌特異的生存(BCSS)。(表示p値はログランク検定に基づいている)。
【図7A】RK3ETB細胞におけるFra−1枯渇抑制は形態学的形質転換を逆転する。 A. 指示されたような空ベクターまたはFra−1をターゲッティングする個々のshRNAを含有するRK3ETB細胞のポリクローナルプールにおけるFra−1発現レベル。
【図7B】RK3ETB細胞におけるFra−1枯渇抑制は形態学的形質転換を逆転する。B. Bに記載した細胞の位相差顕微鏡写真。
【図7C】RK3ETB細胞におけるFra−1枯渇抑制は形態学的形質転換を逆転する。C. sh−Fra1(1)RK3ETB細胞におけるFra−1発現の回復、その結果生じる形態学的形質転換。
【図7D】RK3ETB細胞におけるFra−1枯渇抑制は形態学的形質転換を逆転する。D. Cに記載し阿多細胞の位相差顕微鏡写真。AおよびCの両方において、パネルは単一ブロットから得られ、α−チューブリンは負荷対照として役立つ。倍率40倍で細胞を撮影した。
【図8A】Fra−1はTrkB駆動性転移に不可欠である。 A. Fra−1枯渇の一関数としての、RK3ETB腫瘍から播種された肺転移の顕微鏡的定量。3つの個々の実験を代表する8つの個々の切片/マウスにおける転移の総数が示されている(星印、Suppl. 図2e参照)。
【図8B】Fra−1はTrkB駆動性転移に不可欠である。B. Fra−1枯渇RK3ETB腫瘍細胞を皮下接種され、肺血管から浸出できなかった微小転移(矢頭)を示すマウスの肺の組織切片のヘマトキシリン・エオシン染色(尺度バー:100μm)。
【図9】Fra−1は一般にヒト乳癌細胞株中で過剰発現される。ヒト乳癌細胞株におけるFra−1発現のウエスタンブロット分析。β−アクチンは負荷対照として役立つ。
【図10A】Fra−1はヒト乳癌細胞の肺転移に必要とされる。 A. in vivo接種前の対照およびFra−1サイレンシングLM2細胞におけるGFPシグナル強度のフローサイトメトリー分析。
【図10B】Fra−1はヒト乳癌細胞の肺転移に必要とされる。B. 接種35日後の指示されたような個々のFra−1shRNAを発現する1.105GFP標識LM2細胞を静脈内接種されたマウスの肺における蛍光の定量(n=5肺、誤差バー:S.D.星印、一方向ANOVAとその後のLSD検定に基づいてP<0.001で対照と異なる)。
【図10C】Fra−1はヒト乳癌細胞の肺転移に必要とされる。C. Bに記載したマウスの肺の代表的免疫蛍光画像。
【図10D】Fra−1はヒト乳癌細胞の肺転移に必要とされる。D. Fra−1枯渇の一関数としてのLM2細胞における上皮タンパク質の発現レベル。
【図10E】Fra−1はヒト乳癌細胞の肺転移に必要とされる。E. Fra−1枯渇の一関数としての、増殖1ヵ月後の外科的除去時の正所性LM2腫瘍の重量。
【図11A】肺転移形成に不可欠なFra−1調節遺伝子の同定。 A. 接種5週間後の指示されたようなFra−1調節遺伝子に対して向けられる個々のshRNAを発現する1.105GFP標識LM2細胞を静脈内接種されたマウスの肺における蛍光の定量(n=3肺、誤差バー:S.D.星印、非対合片側t検定に基づいてP<0.05で2つの個々のsh−RNAに関して対照と異なる)。
【図11B】肺転移形成に不可欠なFra−1調節遺伝子の同定。B. マウスに注射したLM2細胞における定量的RT−PCRにより測定されるFra−1調節遺伝子の発現レベル。
【図11C】肺転移形成に不可欠なFra−1調節遺伝子の同定。C. Aに記載したマウスの肺の代表的免疫蛍光画像。
【発明を実施するための形態】
【0118】
実施例
結果
転移モデル系の遺伝子発現プロファイリングはFra−1を候補転移遺伝子として同定する
TrkBおよびBDNFを異所的に発現するRIEおよびRK3E細胞(ここでは以後、RIETBまたはRK3ETB細胞;図1A)の両方に関するマイクロアレイ遺伝子発現プロファイリングを、実施した。共通調節異常値は、潜在的転移プロモーターまたは抑制因子とみなされた(マイクロアレイ分析の生データは、http://www.ebi.ac.uk/microarray−as/aer/♯ae−main[0]、寄託番号E−NCMF−21で利用可能である)。いくつかの他の潜在的に興味深い異常値の1つはFOSL1であった(図1B)。われわれのマイクロアレイ発現データを確証する場合、転写およびタンパク質レベルの両方で活性化TrkBにより、Fra−1を>50倍まで上方調節した(図1C)。ゲルシフト実験は、これが、Fra−1を両細胞系においても、AP−1 DNA結合複合体の主要構成成分となるようにする、ということを明示した(図1D)。この設定でのFra−1上方調節は、Ras活性化のために最も見込みがあり、TrkBシグナル伝達の下流エフェクターとして作用する(Carter et al., 1995)。
Fra−1の抑制はEMTを逆転し、TrkB発現原発性腫瘍の転移可能性を阻止する
【0119】
発癌性形質転換および転移におけるFra−1の機能的関連性を取り扱うために、個々の短いヘアピン(sh)RNA(sh−Fra−1(1)および(2))をコードするレトロウイルスベクターを用いてRK3ETB細胞からそれを枯渇させた。Fra−1タンパク質レベルが親細胞において観察されるレベルに低減され戻されるいくつかのクローン細胞集団を確立した(図2A、および示されていないデータ)。
【0120】
in vitroで実施された分析は、Fra−1サイレンシングが紡錘糸様細胞表現型の活性化TrkBによる誘導を逆転して、細胞は、広範な細胞−細胞接合部およびアクチン細胞骨格再組織化を伴う典型的上皮「玉石」形態を取り戻す、ということを明示した(図1A、2B、C)。これは、非重複shRNAを発現する細胞クローンに関して、ならびにポリクローナルsh−Fra−1細胞プールにおいて観察された(Suppl.図1A、B)。さらに、Fra−1発現の回復は、Fra−1サイレンシングの作用を逆転したが(Suppl.図1C、D)、すべてがRNAiオフ・ターゲット効果に強く反論する。これらの形態学的再整列は、EMTの逆転を高度に思い出させた。この見解を支持する場合、Fra−1枯渇は、E−カドヘリンの発現および正確な細胞下局在化を完全に回復した(図2A、C)。これは、RK3ETB細胞の移動および侵襲特性の両方の完全な抹消と平行して生じた(図2D)。
【0121】
これらの作用にもかかわらず、Fra−1枯渇は培養中のRK3ETB細胞の増殖活性に全く影響を及ぼさなかった、ということは重要である(図2E)。同様に、無胸腺ヌードマウスに皮下接種した場合、Fra−1に関してサイレンシングされた細胞は、対照腫瘍と同じく迅速に広げられる、そして区別不可能な形態を有する腫瘍を産生した(図3A、B)。次いで、Fra−1が異種移植実験におけるこれらの腫瘍細胞の転移可能性の重要な決定因子に対応するか否かを検討した。対照腫瘍細胞を施されたマウスはすべて、皮下原発性腫瘍から播種された肉眼的に検出可能な肺転移を発症した(図3C、D)。これと顕著に対比して、Fra−1サイレンシング腫瘍細胞を注射されたマウスは何れも、如何なる可視的転移も示さなかった。肺の顕微鏡的組織検査は、対照細胞を摂取したすべてのマウスにおいて肺実質に侵入する転移病変の存在を確証したが、一方、肺転移は、Fra−1サイレンシング腫瘍細胞のレシピエントにおいては事実上存在しなかった(図8A)。実際、Fra−1枯渇腫瘍を保有する36匹のマウスの肺では、肺血管から浸出できなかった2〜3個の細胞のみを含む2つのコロニーのみが観察された(図8B)。これらの結果は、少なくともTrkB駆動性齧歯類上皮腫瘍細胞転移の状況では、Fra−1は原発性腫瘍形成に必須ではないが、しかし原発性腫瘍から遠位の転移を生じるこれらの腫瘍の能力のためには極めて重要である、ということを実証する。
Fra−1の抑制はEMTを逆転し、ヒト乳癌細胞の肺コロニー形成を遮断する
【0122】
Fra−1は、しばしば、ヒト固形腫瘍、例えば乳房、結腸、甲状腺組織由来のものにおいて、および中皮腫において、ならびに種々のヒト腫瘍型由来の多数の細胞株において、過剰発現される(Milde−Langosch, 2005で再検討されている)。マイクロアレイ遺伝子発現分析では、ヒト乳癌細胞株におけるFra−1発現レベルとin vitro侵襲可能性との間に相関が認められた(Zajchowski et al., 2001)。さらにまた専らin vitroで、弱侵襲性乳房腫瘍細胞におけるFra−1過剰発現はそれらの侵襲可能性を増大することが示されているが、一方、高侵襲性細胞株におけるFra−1のサイレンシングはそれを低減した(Belguise et al., 2005)。これらの結果はin vivoでもヒト乳癌細胞の転移におけるFra−1の役割に関する可能性を提起するが、しかしこれは未だ検討されていない。
【0123】
In vivoでのヒト乳癌細胞の発癌および転移可能性におけるFra−1の任意の役割を試験するために、2つの非重複shRNAのいずれかのレンチウイルス形質導入により、Fra−1を強力に過剰発現するMDA−MB−231細胞からそのRNAを枯渇させた(Belguise et al., 2005およびSuppl.図3)。齧歯類細胞系に関して観察したものと同様に、ポリクローナル細胞集団におけるFra−1のサイレンシングは、他の上皮タンパク質と同様に、E−カドヘリン発現の強力な上方調節をもたらした(図4A)。同時に、Fra−1のサイレンシングは、E−カドヘリンを細胞膜に再局在化させた(図4B、上パネル)。全体的に、これらの結果は、Fra−1が齧歯類腫瘍細胞およびヒト乳癌細胞の両方において上皮特質の下方調節に必要とされる、ということを示す。従来の知見(Belguise et al., 2005;Vial et al., 2003)と一致して、これは、広範な細胞骨格再組織化に関連付けられた(図4B、下パネル)。
【0124】
齧歯類細胞に関して観察したものと同様に、MDA−MB−231細胞の増殖可能性は、Fra−1のサイレンシングによる影響を全く受けなかった、ということは重要である(図4C)。これは、従来の知見(Belguise et al., 2005)と矛盾しており、トランスフェクト化siRNAのそれらの使用とは対照的に、安定的に組み込まれたプロウイルスshRNAについてのわれわれの使用により説明され得る。齧歯類細胞系と同様に、Fra−1が肺をコロニー形成するヒト乳癌細胞の能力において重要な役割を有するか否かを調べるために、MDA−MB−231細胞を無胸腺マウスに静脈内接種した。実際、Fra−1枯渇は、肺における腫瘍負荷の強力な減少を引き起こした(図4D、E)。出現したFra−1枯渇MDA−MB−231細胞の稀な肺腫瘍は正常レベルのFra−1を発現し、対照細胞により形成されるコロニーと同じ速さで増殖した(図4F)。Fra−1枯渇細胞のポリクローナルプールをわれわれは用いたため、これらの腫瘍は、おそらくほとんどがFra−1の不完全サイレンシングを有する細胞から出現した(Twistに関して以前に観察されたものと同様−Yang et al., 2004)。これらの結果は、ヒト乳癌細胞からのFra−1の枯渇は重要な上皮特質を回復し、肺をコロニー形成するそれらの能力を遮断する、ということを示す。
Fra−1の抑制は正所性ヒト乳房腫瘍からの転移を遮断する
【0125】
個々の測定値として、1.106GFP標識LM2細胞(肺に転移する傾向が高いことで関連づけられるMDA−MB−231由来細胞株)を静脈内接種した(Minn et al., 2005)。注射直前のフローサイトメトリーは、すべての細胞株が、Fra−1サイレンシングに関係なく、等レベルのGFPを発現する、ということを示した(Suppl.図4A)。肺の蛍光画像は、Fra−1のサイレンシング時に腫瘍負荷のほぼ20,000倍の低減を明示した(図5A、B)。Fra−1枯渇による転移の類似の強力な抑制は、1.105細胞の接種を用いて観察された(Suppl.図4B、C)。肺コロニー形成の低減は、Fra−1ノックダウンレベルとこれらの細胞のコロニー形成能力との間(sh−Fra−1(2)は両設定において最良に遂行する;図5Aおよび図10B〜10Dを比較)で観察される相関により例証されるように、用量依存性であった。全体的に、これらの結果は、実験的肺転移を形成するヒト乳癌細胞の能力におけるFra−1の重要な役割を明示する。
【0126】
静脈内接種は腫瘍細胞が侵入し、血管内侵入する必要性を回避するので、次に、Fra−1も全転移カスケードに必要とされるか否かを決定した。このために、GFP標識化LM2細胞がヌードマウスの乳房脂肪パッド中に注射される正所性モデルを用いた。対照プラスミドを摂取する細胞は、原発性腫瘍を発症し、これは動物のほとんどで肺に転移した(図5C、D)。それに反して、Fra−1に対するshRNAを発現するLM2細胞は、よりゆっくりと増殖する腫瘍を発症し(図10E)、検出可能な肺転移を発症することは出来なかった(図5C、D)。さらにまた、肺コロニー形成腫瘍活性の抑制は、E−カドヘリン発現の上方調節と関連した(図10D)。したがって、合わせて考えると、これらの結果は、原発性腫瘍から肺転移を形成するヒト乳癌細胞の能力におけるFra−1の重要な役割を明示する。転移におけるこの遮断は静脈内接種腫瘍細胞に関しても観察されることをわれわれが示す場合、これらのデータは、Fra−1が転移過程の後期段階において不可欠な役割を果たす、ということも示す。
Fra−1発現およびその関連遺伝子発現プロフィールは乳癌再発の決定因子である
【0127】
さらに、転移するヒト乳癌細胞の能力におけるFra−1の重要な役割を支持して、原発性ヒト乳癌におけるFra−1 mRNA発現レベルと、アフィメトリクス訓練組(509名の乳癌患者のコホート)における遠位部位転移を発症する危険との間の関連を観察した(p=0.03;ログランク検定、方法参照)。Fra−1が転写因子に対応するという事実は、その関連トランスクリプトームもまた臨床結果に関する予後予測力を伴って付与されるという可能性を提起する。実際、遺伝子発現パターンと腫瘍行動との間のつながりを見出すためのいわゆるデータ駆動型アプローチにおいて、転写因子の活性の一関数として発現され、まさにその発現ではないので、転写因子の標的遺伝子はしばしば、転写因子それ自体より良好なバイオマーカーを務める、ということが示唆されている(van ’t Veer and Bernards, 2008)。
【0128】
Fra−1標的遺伝子発現レベルが乳癌再発と相関するか否かを確定するために、Fra−1がshRNAを用いてサイレンシングされるLM2細胞のマイクロアレイ遺伝子発現プロファイリングを実施した。両shRNAにより有意に上方または下方調節される(p<1.10−5)プローブが、選択された(示されていない)。この組のAgilentプローブを、対応するアフィメトリクスプローブにマッピングした。次に、アフィメトリクス訓練組(509名患者コホート)における診断値を示すプローブを用いてFra−1分類子を生成したが、これは、447のプローブを含有した(図6A、ならびに示されていない)。
【0129】
Fra−1セントロイド分類子は、ヒト乳癌遺伝子発現プロフィールの2つのシリーズに関して独立して確証された:アフィメトリクス確証組(維持管理された利用可能なデータベースから得られる一組)およびNKI29データ組(これらの組の組成の詳細に関しては方法を参照)。珍しいことに、Fra−1分類子により限定されるような良好および不良予後群間の生存の差は、両シリーズにおいて高度に有意であって、NKI295組ではp=2.19×10−9(ログランク検定、終点としてDMFS)、アフィメトリクス確証組ではp=1.82×10−6(ログランク検定、終点としてBCSS)であった。多変量Cox解析では、Fra−1分類子は、既知の臨床的予測子、例えばNKIからの295名の患者におけるリンパ節状態、腫瘍のサイズ、エストロゲン受容体状態およびエルストン・エリス類別の存在下では依然として個々の予測子のままであった(表1)。別の乳癌細胞株(MDA−MB−231細胞)において類似の手法を用いて、445個のプローブを含有する分類子を生成し、類似の結果を得た。
【0130】
興味深いことに、168の異なる遺伝子に対してマッピングする188のプローブは、LM2細胞由来の447プローブ組ならびにMDA−BM−231細胞由来の445プローブ組の両方に共通であった(表2)。それらの遺伝子は潜在的に、転移に因果的に関与する遺伝子産物を含む。この点で、その発現が良好予後腫瘍においてより不良予後腫瘍において高い遺伝子産物の抑制は、転移発症の抑制を生じ得る。
Fra−1調節遺伝子の系統的分析はヒト乳癌細胞の転移に不可欠な12の遺伝子を同定する
【0131】
次に、ヒト乳癌細胞の転移活性に決定的に関与するFra−1調節遺伝子を探索するためのプラットフォームとして、Fra−1分類子の使用を目指した。LM2およびMDA−MB−231分類子間で共通の168の遺伝子の中で、両細胞系における2つのsh−RNAターゲッティングFra−1により一般に下方調節される遺伝子を選択したが、これは、それらの遺伝子の発現が、直接的であれ、間接的であれ、Fra−1により活性化される、ということを示唆する。それらの遺伝子の中で、次に、不良予後乳癌患者において特異的に高度発現されるものを選択したが、これは、それらが、その過剰発現が転移形成に関与し得る遺伝子に対応するためであった。この戦略は、31の遺伝子の一覧を産生した。これらの遺伝子の大多数は、癌(進行)において一役を果たすことが示されている。それらのうちの1つ(メタドヘリン遺伝子)は、肺への乳癌細胞の転移性伝播に不可欠であることが近年示されており(Hu et al., 2009)、このアプローチを確証している、ということは重要である。
【0132】
次いで、in vivoでの転移形成に及ぼすLM2細胞におけるこれら31の遺伝子の各々のサイレンシングの作用を、系統的に試験した。この目的のために、レンチウイルス媒介性送達を用いて、少なくとも2つの別個のsh−RNAを用いて、これらの遺伝子の各々の発現を抑制した。ヌードマウス中への当該細胞の静脈内注射後のin vivoでの肺転移形成に関して、それらの安定的に修飾された細胞株を試験した。GFP標識細胞を用いて、次に、細胞注射の5週間後のGFP蛍光の画像処理により、マウスの肺における転移形成を定量した(図11)。統計学的分析後、その抑制が転移を有意に抑制する(表6)、そして多くが劇的にそのようであった12の遺伝子を同定した。
【0133】
これらの遺伝子のうちのいくつかは、薬剤能力を有すると思われる酵素、受容体または他のタンパク質をコードする、ということは重要である。これらのうちのいくつかに関して、小分子阻害剤は既に知られており、利用可能である(表4)。ここで、in vivoでの転移形成に及ぼすこれらの薬理学的阻害剤の作用を精査している。これらの観察をさらに確証し、拡大するために、そして転移形成における遮断の動力学および機序に関する付加的上方を提供するために、個々の実験系、ルシフェラーゼin vivo画像処理系を用いた12の陽性遺伝子に関するこれらの実験も繰り返し行なっている。最後に、マウスの乳房脂肪パッドにおける正所性注射後の原発性腫瘍増殖に及ぼすこれら12の遺伝子の作用を研究して、それらの作用が転移に特異的であるか、あるいは原発性腫瘍発症にも当てはまるかを確定しているところである。
考察
【0134】
腫瘍細胞の転移性伝播は癌死亡率のほとんどの原因であり、その重要な働きをするものは未だに明らかにされていない。療法的介入に関する標的を同定するためには、転移の基礎を成す分子過程を解明することは絶対必要である。転移モデル系において遺伝子および機能的分析とRNA干渉とを組合せることにより、転写因子Fra−1が転移腫瘍細胞伝播に断固として必要である、ということを実証する。対応的に、それは、いくつかのヒト腫瘍、例えば乳癌において過剰発現される。ヒト乳癌細胞からのFra−1枯渇は、原発性正所性腫瘍から肺に転移するそれらの能力に劇的な影響を及ぼした、ということをわれわれは示している。
【0135】
多数の早期発癌性変更、例えばRas突然変異または受容体チロシンキナーゼの過剰発現は、MAPキナーゼ経路ならびにその下流エフェクター転写因子の活性化をもたらす。それらのうちの1つは、転写因子のFos(c−Fos、FosB、Fra−1およびFra−2)およびJun(c−Jun、JunB、JunD)ファミリーの成員であって、これらはAP−1複合体の形成に関与する(Eferl and Wagner, 2003)。FosおよびJunタンパク質は、確立された癌遺伝子であり(Eferl and Wagner, 2003)、Fra−1はいくつかの設定2置いて細胞形質転換または腫瘍形成に関与することが示されている(Adiseshaiah et al., 2007;Ramos−Nino et al., 2002;Vallone et al., 1997)。Fra−1枯渇はin vitroおよびin vivoでのヒト乳癌細胞の増殖活性にほとんど影響を及ぼさなかった、ということを観察した。これに対して、Fra−1は、ラットおよびヒト腫瘍細胞の両方において、転移発症のために断固として必要であった。これらの結果は、Fra−1が、少なくともこれら2つの個々の実験設定において、原発性腫瘍増殖よりも転移に、相対的により多く関与する、ということを示唆する。これは同様に早期腫瘍形成への関与を除外しないが、しかしFra−1は腫瘍抑制因子というよりむしろ、腫瘍進行因子として振舞うように見える。
【0136】
細胞形質転換におけるその含意のほかに、腫瘍細胞侵襲および移動におけるFra−1の役割は、長年に亘って関心が増大されてきた(Ozanne et al., 2006)。しかしながら、これらのデータのin vivo関連性、すなわち、Fra−1が事象の複合カスケードにおける重要な決定因子に対応して、最後に転移をもたらすか否かは、いままで検討されてこなかった。in vitroでは、Fra−1は細胞自動性または侵襲を媒介することが示されている(Adiseshaiah et al., 2007;Belguise et al., 2005;Vial et al., 2003)。これらの結果は、Fra−1サイレンシング時の転移の抑制が、細胞アクチン組織化の逆転ならびに細胞移動および侵襲の低減と関連づけられた、というわれわれの観察と一致する。Fra−1サイレンシングは、E−カドヘリンの再発現および正確な細胞下局在化も誘導して、Fra−1が乳癌細胞におけるE−カドヘリン下方調節に因果的に関与するという証拠を提供する、ということをここで示す。これは、Fra−1発現レベルが乳癌細胞株におけるE−カドヘリン発現と負の相関を示す、という知見と一致する(Zajchowski et al., 2001)。面白いことに、順次、E−カドヘリン機能の抑制を介したEMTの誘導はFra−1発現を上方調節するので、この調節は相互的であると思われる(Andersen et al., 2005)。E−カドヘリン発現の抑制は、EMTにおける中心的事象を意味し、腫瘍侵襲性、転移伝播および不十分な患者の予後と関連する(Thiery and Sleeman, 2006)。臨床的乳癌検体における豊富なEMTの証明は遅れをとっている(Hugo et al., 2007)が、一方、腫瘍細胞が細胞−細胞接触を分断して、アノイキス耐性になり、そして侵入する(すべて、転移過程に関与している)のを可能にする場合のEMTに関する密接な役割を支持する十分な実験的証拠が存在する(Christofori, 2006;Liotta and Kohn, 2004;Thiery and Sleeman, 2006;Yang and Weinberg, 2008)。興味深いことに、ヒト幹様乳癌細胞はEMTに関連したマーカーを発現する、ということが近年実証された(Mani et al, 2008)。Fra−1は、EMTの重要な調節因子として作用することにより、少なくとも一部は、乳癌転移における中心的決定因子として作用する、ということを、われわれの結果は示唆する。
【0137】
転移の重要な一因としてのFra−1についてのわれわれの同定を拡張して、Fra−1依存性トランスクリプトーム(これはFra−1枯渇ヒト乳癌細胞に基づいている)は、ヒト乳癌における高予後予測力と関連する、ということを実証する。したがって、本明細書中で提示される分類子は、疾患に関する原因因子として機能的に確証される単一転写因子によりその発現が調節される限定組の遺伝子と乳癌再発における予後予測力とを機能的に結びつける。このようなものとして、それは、ヒト患者における乳癌転移でのFra−1の重要性を際立たせ、そして患者層化のための新規のツールをわれわれに提示する。それは転移におけるFra−1の機能的特性と直接的に結び付けられるので、分類子は、療法的介入に利用され得る候補標的遺伝子も含有し得る。その発現が増大されるヒト乳癌およびいくつかの他の癌の臨床的介入のためのFra−1またはそのシグナル伝達経路を不活性化する努力に、われわれのデータは値する。
方法
ベクターおよび抗体
【0138】
RIE(R.D. Beauchamp, Nashville, TN, and K.D. Brown, Cambridge, UKから贈呈)およびRK3E(ATCC)細胞を、以前に記載されたように(Douma et al., 2004)、レトロウイルスによりネズミTrkBおよびBDNF発現構築物で形質導入したが、但し、TrkB cDNAは、pMSCV−ブラスチシジン中でサブクローニングした。BDNF(N−20)、Fra−1(R−20)およびTrk(C−14)抗体はSanta Cruzから、α−カテニン(610193)、β−カテニン(14)、γ−カテニン(610253)およびE−カドヘリン(610181)抗体はBecton Dickinson,から、α−チューブリン抗体(DM1A)はSigmaからであった。Ki67抗体(MM1)Vision Biosystemsからであった。ホスホ−Smad2(3101)抗体はCell Signaling Technologiesからであった。
細胞培養
【0139】
RIE−1細胞、RK3E細胞、MDA−MB−231細胞(L. Smit, Amsterdamから贈呈)およびLM細胞(亜継東#4173、J. Massague教授(New York)から贈呈)を、DMEM(Life Technologies)(10% FCS(Greiner bio−one)、2mMグルタミン、100単位/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシン(すべてGibco)を補足)中で培養した。増殖率を測定するために、細胞を、3.105(RK3E)または1.106(MDA−MB−231)/100mm皿で植えつけた。各細胞株に関して、3つの皿からの細胞をトリプシン処理し、2日毎に計数した。
レトロウイルスおよびレンチウイルス形質導入
【0140】
レトロウイルス形質導入を、記載された通りに実施した(http://www.stanford.edu/group/nolan/retroviral_systems/phx.html)。RK3E細胞におけるFra−1のレトロウイルスサイレンシングを、pRS−puroベクター(Brummelkamp et al, 2002)を用いて、以下のターゲッティング配列で実施した:sh−Fra−l(l)(TAACTAGCCTAGAACACTA)およびsh−Fra−l(2)(GAAGTTCCACCTTGTGCCA)。陰性対照として、挿入物を有さないpRS−puroを用いた。RK3E細胞を、ウイルス上清で3回感染させて、プロマイシン耐性に関して選択した。すべての細胞集団において、TrkBおよびBNDFの類似の発現レベルを確証した。レンチウイルス形質導入を、以前記載されたとおりに実施した(Ivanova et al., 2006)。LM2およびMDA−MB−231細胞中でのFra−1のサイレンシングを、以下のターゲッティング配列を用いて実施した:sh−Fra−1(1)(GTAGATCCTTAGAGGTCCT)およびsh−Fra−l(2)(GGCCTGTGCTTGAACCTGA)。陰性対照として、挿入物を有さないベクターを用いた。細胞を1回感染させて(2.106細胞:1,5.107 ウイルス粒子を有する)、GFP陽性細胞を、蛍光活性化細胞選別(FACS)により選択した。
腫瘍細胞のin vivo接種
【0141】
動物実験倫理委員会に認可されたプロトコールに従って、すべての動物研究を実行した。6〜8週齢の雌Balb/cヌードマウスを、すべての異種移植実験に用いた。RK3E細胞を皮下注射した(各フラスコ中のPBS150μl中105個の生細胞)。腫瘍長が15mmに達した時に、または腫瘍が潰瘍化し始めた時に、マウスを屠殺した。腫瘍の幅(W)および長さ(L)をカリパスを用いて週2回測定し、腫瘍容積を式(L.W2/2)を用いて概算した。LM2細胞を、ヌードマウスの第四乳房脂肪パッドに注射した(PBSおよび成長因子低減マトリゲルの1:1混合物50μl中106細胞)。1ヵ月後、腫瘍を外科的に除去し、マウスをさらに6週間保持した。実験的肺転移形成のために、MDA−MB−231およびLM2細胞を外側尾静脈中に注射した(PBS150μl中106または105生細胞)。それぞれ注射の3ヵ月後または1ヵ月後に、全動物を屠殺した。
肺転移の定量
【0142】
CO2窒息を用いてマウスを屠殺し、その後、肺を取り出して、切開した。肺をエタノール/酢酸/ホルモル食塩水固定液(EAF)中で固定し、立体顕微鏡下で検査した。肉眼的肺転移は、肺の表面の異所性白色塊として同定された。転移の組織学的査定のために、肺の個々の位置からの8つの切片を、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色し、これらの切片中の転移の総数を確定した。代替的には、肺をホルムアルデヒド中で固定し、GFP標識LM2細胞により発光される蛍光の量に関して蛍光顕微鏡により2時間以内に画像処理した。画像を同一強度および露出時間で撮影し、腫瘍細胞が占める表面あたりの平均蛍光強度を、ImageJソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/download.html)をMBFプラグイン・バンドル(http://www.macbiophotonics.ca/downloads.htm)とともに用いて定量した。
Fra−1標的遺伝子のin vivo分析
【0143】
LM2細胞中のFra−1調節遺伝子のサイレンシングを、Sigma Mission sh−RNAライブラリーから入手したpLKO.1ベクターを用いて実施した。GFP標識LM2細胞をレンチウイルス発現sh−RNAに感染させて、プロマイシンで2日間選択し、レンチウイルス感染の7日後にマウスに注射した。空ベクターに感染した細胞を、対照として用いた。6〜8週齢の雌Balb/cヌードマウスを、すべての異種移植実験に用いた。LM2細胞を外側尾静脈に注射した(PBS150μl中105個の生細胞)。注射の5週間後に、CO2窒息を用いてマウスを屠殺し、その後、肺を切開し、GFP標識LM2細胞により発光される蛍光の量に関して蛍光顕微鏡により2時間以内に画像処理した。画像を同一強度および露出時間で撮影し、平均蛍光強度を、ImageJソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/download.html)をMBFプラグイン・バンドル(http://www.macbiophotonics.ca/downloads.htm)とともに用いて定量した。sh−RNAを保有する細胞を注射したマウスの肺で観察された蛍光強度を、対照細胞を用いて同一時間に注射したマウスの肺の蛍光強度に対して正規化した。
移動および侵襲検定
【0144】
RK3Eクローン(2,5.105細胞/ウェル)およびMDA−MB−231細胞(3.105細胞/ウェル)を、移動検定のためにBD BioCoat(商標)Control 8.0μm PET膜6−ウェル細胞培養インサート、あるいは侵襲検定のためにBD BioCoat(商標)BD マトリゲル(商標)侵襲小室、8.0μm PET膜6−ウェル細胞培養インサートの上部ウェル中の無血清培地中に播種した。10%血清を有する培地を含有する下部ウェルに対する移動および侵襲を、24時間後に査定した。メーカーの推奨に従って膜を処理した。移動中の細胞をクリスタルバイオレットで染色し、明視野顕微鏡を用いて計数した(倍率100倍での8つの視野の平均細胞数)。
免疫蛍光
【0145】
1.105個の細胞をコラーゲン被覆ラブテック(商標)スライド(Nalge Nunc Iinternational)上でプレート化して、完全倍地中に一晩放置し、PBS中で洗浄し、4%PBS緩衝ホルムアルデヒド中で固定し、間接免疫蛍光法のために処理した。Fra−1抗体(1:200)、E−カドヘリン抗体(1:200)およびAlexa568結合ファロイジン(A12380、In vitrogen;1:200)を用いた。
免疫組織化学
【0146】
標準手法を用いて、組織学的切片作製およびヘマトキシリン・エオシン染色を実施した。パラフィン切片を脱パラフィン処理して、再水和市、0.1mMクエン酸ナトリウム、pH6.0中で前処理して、洗浄し、過酸化物とともにインキュベートした。組織を、Fra−1(1:200)またはKi−67(1:4000)に関する一次抗体とともにインキュベートした。二次抗体は、PowerVision+(DPVB+999HRP;ImmunoLogic)であった。ペルオキシダーゼ活性を、液体DAB(K3468;DAKO)で検出した。
SYBR−グリーン実時間RT−PCR
【0147】
総RNAをRQ1 RNアーゼ無含有DNアーゼ(Promega)でDNアーゼ処理した。スーパースクリプトII第一鎖キット(In vitrogen)を用いて、逆転写を実施した。ABI PRISM 7700配列検出系上でSYBRグリーンPCRマスター・ミックス(Applied Biosystems)を用いて、qRT−PCRを実施した。用いたプライマー組を以下に示す:
ラットFra−1:5’−GCAGACACAGACAGTCCAG−3’および
5’−CCATCCACTGCAATTCCTG−3’;
ラットHPRT1:5’−CTGGTGAAAAGGACCTCTCG−3’および
5’−TGAAGTGCTCATTATAGTCAAGGGCA−3’。mRNAレベルを、HPRT1 mRNAレベルを用いて正規化した。
【0148】
Fra−1調節遺伝子を検出するために用いたプライマー組を、以下に示す:
ヒトABHD11:5’−TTCAACTCCATCGCCAAGAT−3’および
5’−CACCGTGGTTACGAGCATC−3’;
ヒトADORA2B:5’−TCTGTGTCCCGCTCAGGT−3’および
5’−GATGCCAAAGGCAAGGAC−3’;
ヒトBIRC5: 5’−GCCCAGTGTTTCTTCTGCTT−3’および
5’−CCGGACGAATGCTTTTTATG−3’;
ヒトCENPM: 5’−AACACGGCCACCATCTTG−3’および
5’−GGGACTTTGCCAAGTGGAC−3’;
ヒトCHAF1A:5’−GGAGAGGAGAGACGAGCAGA−3’および
5’−CTTGCTCCCGTTCACATTG−3’;
ヒトCHML: 5’−TTATCTCCCACCAGGTTCCTC−3’および
5’−TTCTCTTATTTCTTCTTTGAAGGTGAT−3’;
ヒトD21S2056E:5’−GCAAGGCTGGGAAGAAAGA−3’および 5’−GGGTGCAGGATCTCAGTCAT−3’;
ヒトE2F1: 5’−TCCAAGAACCACATCCAGTG−3’および
5’−CTGGGTCAACCCCTCAAG−3’;
ヒトEZH2: 5’−TGGTCTCCCCTACAGCAGAA−3’および
5’−TCATCTCCCATATAAGGAATGTTATG−3’;
ヒトFEN1: 5’−ACCCCGAACCAAGCTTTAG−3’および
5’−GGGCCACATCAGCAATTAGT−3’;
ヒトH2AFZ:5’−CACCGTGGGTCCGATTAG−3’および
5’−GTCCTTTCCAGCCTTACCG−3’;
ヒトIGFBP3:5’−AACGCTAGTGCCGTCAGC−3’および
5’−CGGTCTTCCTCCGACTCAC−3’;
ヒトPAICS: 5’−TTTTCAGTTATTACAGGAAGCAGGT−3’および
5’−TGAAAGCTGTCTCCCCACAT−3’;
ヒトPHLDA1:5’−TCTGCACAAAAACTGGTGAGAC−3’および
5’−ACTGCTCAGCCTGCCATC−3’;
ヒトPPP2R3A:5’−CAGACTCCAGAGGTGATCAAGA−3’および
5’−CGGGGACTACTTGGAGAGGT−3’;
ヒトPTGES: 5’−ACGCTGCTGGTCATCAAGA−3’および
5’−TCTTCCGCAGCCTCACTT−3’;
ヒトPTP4A1:5’−GGCCACAATCTTCAATGAGTAA−3’および
5’−TGCTGTGCCTGGCAGTAA−3’;
ヒトSEC14L1:5’−AGGGGCTGAGTGGTGATG−3’および
5’−GTAGTCGGCATCTAGTTTGTCGT−3’;
ヒトSFN: 5’−CAGAGTCCGGCATTGGTC−3’および
5’−GCTCTGGGGACACACAGG−3’;
ヒトSH3GL1:5’−AGGAGGTGGCAGAAACCAG−3’および
5’−TGACTCACCTGCTCGATGTC−3’;
ヒトTJAP1: 5’−AGAGCTGCCGACAAACAGAC−3’および
5’−AGTCATTCTGGGAGGTGACG−3’;
ヒトTRFP: 5’−GGAACCCTGCGTTTCTACTG−3’および
5’−ACAGGCATCTGGGACACAC−3’;
ヒトYTHDF1:5’−CGACGACTTTGCTCACTACG−3’および
5’−TTCGACTCTGCCGTTCCTT−3’;
ベータアクチン mRNAレベルを用いて、mRNAレベルを正規化した。
ウエスタンブロット分析
【0149】
標準手法を用いて、ウエスタンブロッティングを実施した。二次抗体としてホースラディッシュペルオキシダーゼと接合されたマウスに対するヤギ抗体(1706516、BioRad)およびウサギに対するヤギ抗体(ALI0404、BioSource)を用い、そしてECL(Dura, Pierce)を用いてブロットを展開させた。
ゲルシフト実験
【0150】
以前の記載どおりに(Desmet et al., 2004)、ゲルシフト実験を実施した。用いたAP−1プローブのセンス鎖を以下に示す:5’−GGTTCGCTTGATGAGTCAGCCGGAA−3’。スーパーシフト実験に関しては、核抽出物を、2μgの抗Fra−1抗体とともに30分間予備インキュベートした。
マイクロアレイ遺伝子発現プロファイリング
【0151】
各実験に関する方法の詳細な説明は、以下の:
http://www.ebi.ac.uk/microarray−as/aer/♯ae−main[0](寄託番号 E−NCMF−20およびE−NCMF−21)で入手可能である。要するに、総RNAを単離し、精製し、増幅した。その後、増幅(a)RNAを、Cy5またはCy3で標識した。標識化aRNAを、オリゴアレイ(ラットまたはヒトに関するAgilent4×全ゲノムアレイ)とハイブリダイズして、各実験試料に関してダイスワップを実施した。
分類子生成
【0152】
乳癌試料ならびに遠位無転移性損および乳癌特異的生存に関する対応する情報の両方の生遺伝子発現マイクロアレイデータを含有する6つの公的に利用可能なデータ組を収集した。交差プラットフォーム不一致を回避するために、試験をヒトゲノムHGU−133Aアフィメトリクス(C)アレイに限定した。以下の識別子を用いて、NCBI遺伝子発現オムニバス(GEO、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)から、データ組をダウンロードした:GSE6532(Loi et al., 2007)、GSE3494 (Miller et al., 2005)、GSE1456(Pawitan et al, 2005)、GSE7390(Desmedt et al, 2007)およびGSE5327(Minn et al, 2005)。Chin等(Chin et al, 2006)のデータ組を、ArrayExpress (http://www.ebi.ac.uk/、識別子 E−TABM−158)からダウンロードした。
【0153】
異なるデータ組間の互換性を保証するために、それらをすべて、同一前処理手順に付した。Bioconductorウェブサイト(http://www.bioconductor.org)から入手可能なR AffyPLMパッケージを用いて、マイクロアレイ品質管理査定を実行した。正規化拡大縮小なし標準誤差(NUSE)検定を適用した。チップ擬似画像を作成して、先行品質管理試験に合格できなかったアレイ上の人工物を査定した。データ組のアレイの約1〜5%は、品質管理試験に合格しなかった。RMA発現測定アルゴリズム(http://www.bioconductor.org):RMAバックグラウンド補正回線、各データ組に関して別個にアレイを横断する各遺伝子の中央値センタリングならびに全アレイの変位値正規化を用いて、3段階手法に従って、選択アレイを正規化した。十分量の947の独自収集マイクロアレイ試料のうち、509が利用可能な遠位転移生存(DMFS)データを有した。これらの試料を訓練組として用いたが、この組を「アフィメトリクス訓練組」と呼ぶ。947の試料から、乳癌特異的生存(BCSS)が利用可能である388の試料からなる別個の確証組も選択した。この組を、「アフィメトリクス確証組」と呼ぶ。この組は、アフィメトリクス訓練組を有する試料に関して完全に非重複であり、したがって、完全に独立した確証組である。
【0154】
Fra−1枯渇LM2細胞対空ベクター対照細胞のマイクロアレイ分析から、実験的Fra−1用法指示を得た。sh−Fra−1細胞集団において、ならびに2つの個々のマイクロアレイ分析において有意に調節されたプローブを選択した。これは、有意に調節された1140プローブの一組を生じた(p<10−8)。そのプローブを、BioMartからのMartviewによりアフィメトリクスU133Aアレイ上の対応するプローブに変換した(http://www.biomart.org/index.html)。このプローブ組は同一Entrez IDに対する多数のプローブマッピングを含有したので、以下のようにして、各Entrez IDに関する単一アフィメトリクス(C)HGU−133Aプローブを選択した。アフィメトリクスアルゴリズムプローブエクステンション、好ましくは’_at’over’_x_at’over’_s_at’を基礎にして、プローブを選択した。残りの二重反復実験プローブの発現を平均した。この組の1234の独自プローブから、アフィメトリクス訓練組に関する有意のp値(p<0.05、ログランク検定)を示すプローブを抽出した。これは、183プローブ、Fra−1用法表示のサブセットを生じた。超幾何検定を用いて、このサイズの、そして結果と有意に関連するプローブの一組が1234プローブの無作為選択組から選択され得るか否かを決定した。次いで、アフィメトリクス訓練組を用いて、これら183プローブに関する最も近いセントロイド分類子を限定した。「不良予後」セントロイドは、60ヶ月の追跡調査前の転移事象を有する試料から得られた。「良好予後」セントロイドは、転移事象なしおよび60ヶ月より長い追跡調査を有する試料から得られた。
【0155】
Fra−1分類子の確証のために、アフィメトリクス訓練組のほかに、オランダ癌研究所からの295例の乳癌試料のシリーズを用いた(van de Vijver et al., 2002)。この組を「NKI295」と呼ぶ。個々の確証組における各試料を、各試料の対応するプローブ組の遺伝子発現値と「不良予後」および「良好予後」セントロイドのセントロイド値との間の最高スピアマン順位相関スコアにより確定した場合の、最も近いセントロイドに割り当てた。NKI295におけるFra−1分類子の確証のために、Rosetta(C)レポーターIDを、対応するEntrezIDにマッピングした。多数のレポーターが同一EntrezIDにマッピングした場合、最高変動を有するプローブを選択した。
【0156】
生存関数のカプラン・マイヤー推定値を用いて、生存分析を実施した。ログランク検定を用いて、生存曲線間の比較を実施した。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比を概算した。これらの分析の終点は、アフィメトリクス訓練組に関してはDMFS、アフィメトリクス確証組に関してはNKI295およびBCSSであった。
表1.NKI295に関するFra−1分類子および臨床変数の多変量解析
【表1】


LN:リンパ節状態
ER:エストロゲン受容体状態

表2:32の遺伝子の印を付けた選択を伴う169の遺伝子
Fra−1発現に関して無症候化されたLM2およびMDA−MB−231細胞から生成された両分類子に共通の遺伝子
【表2】











良好予後と比較した場合の不良予後患者におけるより高いセントロイド値を有する、そして扱い易い薬剤標的であり得る遺伝子を、太字で目立つようにしている。Fra1(FOSL1)もこの一覧に含まれている。

表3:阻害剤が特許請求されている32の遺伝子
【表3】




表4:表3の遺伝子からの既知の阻害剤
【表4】



*LOPACライブラリーを用いたin vitro薬剤スクリーニングにおいて、それら2つのADORA2B阻害剤を、高レベルのFra−1を発現する乳癌細胞に関して選択的に細胞傷害性であると同定した。

表5:阻害剤が特許請求されている32の遺伝子の群分け
【表5】

表6:転移に不可欠な12のFra−1調節遺伝子
LM2におけるshRNA媒介性サイレンシングが肺転移形成を有意に抑制した12の遺伝子
【表6】

【0157】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドの阻害剤であって、前記ポリペプチドがヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、前記ヌクレオチド配列が、以下の:
(1)酵素PAICS、ABHD11、AURKB、CHML、EZH2、FEN1、IGFBP3、PCOLN3、PPP2R3A、PTGES、PTP4A1およびSCDをコードするヌクレオチド配列、
(2)転写因子E2F1、FOS1およびFOXM1をコードするヌクレオチド配列、
(3)構造タンパク質C22orfl 8、CHAF1A、H2AFZ、SMTN、TJAP1、D21S2056Eをコードするヌクレオチド配列、
(4)受容体ADORA2Bをコードするヌクレオチド配列、
(5)接着分子MTDHをコードするヌクレオチド配列、
(6)アポトーシス抑制因子BIRC5およびPHLDA1をコードするヌクレオチド配列、
(7)DNA複製/転写に関与するタンパク質MCM10、MCM2およびTRFPに関与するタンパク質をコードするヌクレオチド、ならびに
(8)SEC14L1、SFN、SH3GL1およびYTHDF1をコードするヌクレオチド配列
からなる群から選択される阻害剤であり、好ましくは癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための医薬剤として用いるためである阻害剤。
【請求項2】
前記ヌクレオチド配列が、以下の:
(a)配列番号19、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(b)配列番号19、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択される請求項1記載の阻害剤・
【請求項3】
前記阻害剤が、DNAまたはRNA分子、優性阻害型変異体、前記ポリペプチドに対して生じる抑制抗体である請求項1または2記載の阻害剤。
【請求項4】
前記DNA分子が、以下の:
(a)配列番号1〜32から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(b)配列番号1〜32から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現を抑制し得るRNAi因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物である請求項3記載の阻害剤であって、任意に、RNAi因子をコードするヌクレオチド配列が細胞中のヌクレオチド配列の発現を誘導し得るプロモーターと操作可能的に連結される阻害剤。
【請求項5】
前記核酸構築物において、ヌクレオチド配列が、以下の:
(a)配列番号1、2、3、7、10、11、12、15、19、20、22、23、24、25と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(b)ヌクレオチド配列 配列番号1、2、3、7、10、11、12、15、19、20、22、23、24、25によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択される請求項4記載の阻害剤。
【請求項6】
癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための医薬剤の製造のための前記請求項のいずれか一項に記載の阻害剤の使用。
【請求項7】
癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための請求項1〜5のいずれか一項に記載の阻害剤。
【請求項8】
癌患者、好ましくは乳癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置するための方法であって、配列番号1〜32により表される配列の群から選択されるヌクレオチド配列によりコードされ、請求項1で定義されるようなポリペプチドの活性または定常状態レベルを薬理学的に変更することを包含する方法。
【請求項9】
請求項4または5記載の核酸構築物を含む治療的有効量の薬学的組成物を患者に投与することを包含する請求項8記載の方法であって、好ましくは前記薬学的組成物が処置されるべき癌患者の腫瘍細胞に投与される方法。
【請求項10】
癌患者における転移を防止し、遅延し、および/または処置し得る物質の同定方法であって、以下の:
(a)核酸構築物中に存在するようなヌクレオチド配列(ここで、前記ヌクレオチド配列は、請求項1で定義されたような配列番号1〜32から、または配列番号1〜169から選択される配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号1〜32または配列番号1〜169から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である)を発現し得る試験細胞集団を提供するステップ;
(b)試験細胞集団を当該物質と接触させるステップ;
(c)当該物質と接触された試験集団中のヌクレオチド配列の発現レベルあるいはポリペプチドの活性または定常状態レベルを確定するステップ;
(d)(c)で確定される発現、活性または定常状態レベルを、当該物質と接触されていない試験細胞集団中のヌクレオチドの、またはポリペプチドの発現、活性または定常状態レベルと比較するステップ;そして
(e)当該物質と接触されている試験細胞集団と当該物質と接触されていない試験細胞集団との間で、ヌクレオチド配列またはポリペプチドの発現レベル、活性または定常状態レベルにおいて差を生じる物質を同定するステップ
を包含する方法。
【請求項11】
癌患者、好ましくは乳癌患者における転移を予後判定するex vivo方法であって、以下の配列:請求項1で同定されるような配列番号1〜32、あるいは配列番号1〜169により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおける遺伝子の示差的変調(対照における同一遺伝子の発現と比較)を同定することを、任意にこの結果を用いて、患者に施されるべき処置について決定することを包含する方法。
【請求項12】
癌患者、好ましくは乳癌患者における転移の非存在を予後判定するex vivo方法であって、以下の配列:請求項1で同定されるような配列番号1〜32、あるいは配列番号1〜169により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおける遺伝子の示差的変調の欠如(対照における同一遺伝子の発現と比較)を同定することを、任意にこの結果を用いて、患者に施されるべき処置について決定することを包含する方法。
【請求項13】
転移の非存在についての前記診断が5年という期間の間である請求項12記載の方法。
【請求項14】
配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離核酸配列、それらの相補体またはその部分を含むかまたはそれからなる診断ポートフォリオ。
【請求項15】
癌患者における転移を予後判定するためのキットであって、配列番号1〜32または配列番号1〜169の配列により表される遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せにおける核酸配列、それらの相補体またはその部分を検出するための試薬を含み、ならびに任意に使用説明書をさらに含むキット。
【請求項16】
マイクロアレイ分析を実行するための試薬をさらに含み、そして任意に、前記核酸配列またはその相補体が検定される媒体をさらに含む請求項15記載のキットであって、好ましくは前記媒体がマイクロアレイであるキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【公表番号】特表2013−505232(P2013−505232A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529700(P2012−529700)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050594
【国際公開番号】WO2011/034421
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512065719)スティヒティング ヘット ネーデルラント カンカー インスティテュート (1)
【Fターム(参考)】