説明

発光素子とその製造方法、並びにErSi2ナノワイヤーとその製造方法

【課題】自己組織成長のメカニズムを援用し、蒸着や超高真空を用いずに実現できる、工業的に簡便で実用性の高い発光素子とその製造方法、並びにErSiナノワイヤーとその製造方法を提供する。
【解決手段】Si基板を洗浄する工程(S1)と、Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程(S2)と、エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程(S3,S4)とを有し、Si基板上にエルビウム化合物による発光層を形成することを特徴とする。また、Si基板を洗浄する工程(S1)と、Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程(S2)と、エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程(S3,S4)とを有し、Si基板上にErSi結晶によるナノワイヤーを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子とその製造方法並びにErSiナノワイヤーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板において、回路の微細加工は様々なアプローチで研究されており、ナノメートルオーダーの制御が求められている。現在半導体回路の微細加工は、Si基板上で作製膜を削るトップダウン方式が主流であるが、その一方で、Si基板上にナノサイズの結晶を成長させるように、原子・分子から組み上げていくボトムアップ方式も注目を集めている。
【0003】
Si基板上に形成されるナノサイズの結晶として、希土類シリサイドが多く研究されており、Si基板上に形成されたナノメートルオーダーの直線状の物質はナノワイヤーとよばれている。
希土類シリサイドのなかでも、Erシリサイド(ErSi)は、高い電気伝導(2.9×10(Ωcm)−1)を有する金属である。また、n型Si(001)面に対して低いショットキー障壁(0.3〜0.4eV)を持ち、Siと相性が良い。そのためLSI回路やナノ電極としての使用が期待できる。Si基板にErをドープして、ErSiナノワイヤーを作製する方法としては、真空度1×10−10Torr付近の超高真空装置内において、Si基板を620℃の高温に保ちながら、Si基板上にErを堆積させ、その後アニールする方法等が知られている。
【0004】
また、Erは発光波長が1.5μm付近であり、光通信分野で求められる波長領域に一致している。このため、光信号増幅の為、光ファイバーやYAGレーザなどに添加して利用されている。そして、この1.5μmの発光性を利用するため、ErをSi基板にドープしたSi発光デバイスを作製するというシリコンフォトニクスの研究が盛んに行われている。Si基板にErをドープして、Si発光素子を製造するには、Si基板上にErを堆積させる工程と、ErとSiを熱処理によって強く結合させるという工程が必要である。
Si基板へのErの堆積において、一般的には、Erの超高真空下での蒸着が行われている。それにはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法(非特許文献1)やスパッタリング法(非特許文献2)がある。他にはイオン打ち込み法(非特許文献3)があり、これは機械的にSi基板にErを埋め込む方法である。
【0005】
また、特許文献1には、発光素子用半導体及びその製造方法について、単結晶シリコンにエルビウムをイオン注入により導入する方法が記載されている。また、特許文献2には、希土類ドープ半導体層の形成方法について、超高真空により、基板上に希土類をドープする方法が記載されている。このような従来のSi基板上へのErのドーピングは、超高真空下においてなされている。
特許文献3には、高品質のSi基板上に、安定で発光効率の高い希土類化合物を育成する方法が記載されている。この特許文献3によれば、石英管は、10−6Torrと低い真空度に真空封止されるが、この場合、Si基板にErがドープされず、Si基板上に、Erが作製されるのみである。
【非特許文献1】H.Isshiki et al, Opt.Mater.28,855(2006).
【非特許文献2】Xinwe Zhao et al,Appl.Phys.Lett.69,3896(1996).
【非特許文献3】X.Q.Cheng et al,Vacuum.78,667(2005).
【特許文献1】特許第3602212号公報
【特許文献2】特公平7−85467号公報
【特許文献3】特開平10−41541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来のErSiナノワイヤー及び発光素子の製造方法においては、超高真空と高出力の装置が必要である。このため、製膜速度や処理面積に比して装置規模が大きくなり易く、大量生産に向かない。
また、凹凸のある表面ではErのドープには、イオンポンプによる1×10−8〜1×10−10Torrの超高真空を用いた報告しかない。イオンポンプを用いる場合、試料を炉に挿入するのに一度試料室で予備的に真空引きをしなければならず、装置が大掛かりになり、かつ、時間も1時間程度かかる。したがって、工業的要請では、より小型で真空到達時間の短い、ディフュージョンポンプ等による真空度10−1〜10−7Torrでの作製が望まれる。
一方、真空を用いないゾルゲル法も試みられている。しかしながら作製されるのは、酸素を含んだEr−Si−O結晶であり、ErとSiのみの構造は得られていない。また、作製条件と生成する結晶との関係も完全にはわかっていない。
【0007】
ところで、将来、ナノサイズの結晶の工業的な大量生産の要求に応え得る方法として、自己組織成長法が挙げられる。自己組織成長法において結晶を作製する方法では、これまでの標準的な半導体加工技術に必要な薄膜形成、リソグラフィー、エッチングなどの複雑な操作は不必要になる。したがって、ナノテクノロジーにおいて、スループット向上やコストの低減などを実現するために、自己組織成長法が期待されており、研究が進められている。
【0008】
本発明は上述の点に鑑み、自己組織成長のメカニズムを援用し、蒸着や超高真空を用いずに実現できる、工業的に簡便で実用性の高い発光素子とその製造方法、並びにErSiナノワイヤーとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の発光素子の製造方法は、Si基板を洗浄する工程と、Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程と、エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程とを有し、Si基板上にエルビウム化合物による発光層を形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のErSiナノワイヤーの製造方法は、Si基板を洗浄する工程と、Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程と、エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程とを有し、Si基板上にErSi結晶によるナノワイヤーを形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の発光素子の製造方法及びErSiナノワイヤーの製造方法では、Si基板上へのエルビウムの堆積が数分ででき、かつSi基板の大きさに制限が無い為、発光素子及びErSiナノワイヤーを一度に大量に作製できる。
また、本発明のErSiナノワイヤーの製造方法では、ErSiナノワイヤーはSi基板と直接に化学結合しているので、Si基板と強く安定に結合される。
【0012】
また、本発明の発光素子は、Si基板を洗浄し、Si基板にエルビウム溶液を付着させ、エルビウム溶液が付着したSi基板を10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で熱処理し、Si基板上にErSi結晶を覆ってエルビウム化合物による発光層を形成した構造を有し、Si基板が一方の電極となり、発光層上に他方の透明電極が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のErSiナノワイヤーは、Si基板を洗浄し、Si基板にエルビウム溶液を付着させ、エルビウム溶液が付着したSi基板を10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で熱処理し、Si基板上にErSi結晶によるナノワイヤーを形成した構造を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の発光素子では、発光素子は、ErSi結晶を介してSi基板上に形成されるのでSi基板と強く安定に結合される。
また、本発明のErSiナノワイヤーは、Si基板と直接に化学結合しているので、Si基板と強く安定に結合される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蒸着装置や、超高真空装置を用いずにSi基板上に発光素子及びErSiナノワイヤーを作製することができるので、製造コストの低減や、製造方法の簡便化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係る発光素子の製造方法を説明する。図1に、本実施形態における発光素子の製造方法に係わる概略工程をフローチャートで示す。本実施形態では、所要の大きさのSi基板にErを化学結合させ最終的に発光層である長方形のErSi結晶をSi基板上に成長させる。
【0018】
先ず、所要の大きさ、本例では1cm程度の大きさのSi基板の洗浄を行う(工程S1)。ここでは、始めにアセトン溶液に浸漬させ10〜20分間超音波洗浄し、その後、体積比25%濃度のフッ酸水溶液に40〜60秒間浸漬させて、Si基板上の酸化膜を取り除く。SiとErが結合するには酸素が少ない環境が望ましいためである。
【0019】
次に、Si基板をエルビウム溶液(つまり、Er含有溶液)に3分間浸漬させ、Si基板にエルビウム溶液を付着させる(工程S2)。本実施形態においてエルビウム溶液としては、ErCl水溶液を用いる。Si基板のErCl水溶液への浸漬は、例えば、ガラス容器に入れたErCl水溶液にSi基板を浸漬させるような簡便な方法で行うことができる。また、ErCl水溶液は、ErCl+6HO粉末とHOが質量比1:3となるように調合した。この工程(S2)では、従来のErのSi基板への真空蒸着とは異なり、ErをSi基板に付着させる工程が数分ででき、かつ、Si基板の大きさに制限がないため、一度に大量に処理できる。
【0020】
本実施形態では、ErCl+6HO粉末とHOが質量比1:3となるように調合されたエルビウム溶液を用いたが、ErCl+6HO粉末とHOの質量比は、1:1〜1:10の範囲であればよい。また、ErCl水溶液のほかに、シュウ酸エルビウム(Er(C)溶液、フッ化エルビウム(ErF)溶液、硫酸エルビウム(Er(SO)溶液、酢酸エルビウム(Er(CHCOO))溶液、ヨウ化エルビウム(ErI)溶液を用いてもよい。
【0021】
続いて、表面にエルビウム溶液が付着されたSi基板を石英管に入れて真空引きをし(工程S3)、所要の温度、時間、気圧中で熱処理(工程S4)を行う。
【0022】
図2に、真空引き工程(S3)及び熱処理工程(S4)で用いられる処理装置の概略構成を示す。
処理装置20は、表面のエルビウム溶液15を付着させたSi基板1を収容する真空容器と、真空容器が挿入される熱処理炉と、熱処理炉内の温度、加熱時間を制御するための温度・時間コントローラ18と、この温度・時間コントローラ18に接続された電源19とを有して成る。真空容器は、例えば石英管14により形成され、ゴム栓13により密封されるように構成されており、ゴム栓13を貫通して真空引き用のホース13が差し込まれている。そして、ホース13はバルブ11を介してディフージョンポンプ10に接続されている。また、熱処理炉は、例えば加熱用のヒータ16を内蔵した管状の電気炉17で構成される。石英管14はこの電気炉17内に挿入、離脱されるようになされる。電気炉17は、温度・時間コントローラ18を介して加熱用のヒータ16が制御されることにより、電気炉17内の温度及び加熱時間等の調整がなされる。
【0023】
まず、真空引きの工程(S3)では、ErCl水溶液から取り出したSi基板1を、一端を閉じた石英管14に入れる。このとき、Si基板1の表面はErCl水溶液からなるエルビウム溶液15で覆われた状態である。そして、ホース13が差し込まれたゴム栓13で石英管14を閉じ、バルブ11を開放して、ディフュージョンポンプ(油拡散ポンプ)10により、3〜5分間で管内を10−5Torrに引く。本実施形態では真空度を10−5Torrと設定したが、10−1Torr〜10−7Torr(SI単位系では10Pa〜10−5Pa)の範囲であればよい。即ち、本実施形態では、10−8Torr以上のいわゆる超高真空は必要とされない。
【0024】
次に、熱処理工程(S4)に移る。石英管14を真空に引いた状態で、開放型の管状電気炉17に挿入し熱処理を行う。ヒータ16により、電気炉17の温度を調整し、所望の熱処理を行う。
図3に、本実施形態の熱処理工程(S4)における、時間に対する熱処理の温度変化を示す。先ず、電気炉17の温度を800℃に設定する。そして、石英管14を電気炉17内に、およそ1分間かけて挿入する。この操作により、石英管14内のSi基板1の温度を室温(25℃)から800℃まで上昇させる。このように1分間かけて800℃の電気炉17内に挿入することにより、Si基板1上のErCl水溶液を適当な速さで蒸発させることができる。蒸発が早すぎると、Erも一緒に蒸発してしまい、逆に、蒸発が遅すぎると、ClによりSi基板1がエッチングされてしまう。
そして、800℃で約6分間の熱処理を行う。その後、電気炉17から石英管14を取り出し、石英管14からSi基板1を取り出して、急冷させる。このとき、Si基板1上に形成されるErの物質は熱処理中に形成されるため、冷却時の影響は少ないと考えられる。
【0025】
なお、本例では、真空引き(工程S3)を行ってから、熱処理(工程S4)を行ったが、石英管14を真空に引きながら電気炉17に挿入してもよい。石英管14の真空度は、バルブ11を閉めた場合、時間の経過と共に悪くなるが、真空に引きながら作業を行うと、真空度の変化が減少していく為、真空度を略一定に保つことができる。
【0026】
以上の工程(S1〜S4)により、本実施形態においては、Si基板の結晶面が(001)面の表面上に長方形のErSi結晶層が作製される。このErSi結晶層は後述するように発光素子の発光層となる。図4に、本実施形態において作成されたSi基板上の長方形のErSi結晶のSEM(Scanning Electron Microscope)像を示す。また、図5A、Bには、ErSi結晶2が作製されたSi基板1の一部を抜き出して模式的に示した平面図とそのa−a´断面図を示す。図4において、黒く見えるところがSi基板1であり、Si基板1上には、幅300nm以下、長さ400nm以下の長方形のErSi結晶2が見られる。長方形の一辺は、Si基板の[110]結晶軸と[1−10]結晶軸の方向に平行である。
ところで、ErSi結晶は、[110]結晶軸方向に対して直線状に自己組織成長することが知られている。従って、Si基板の[110]結晶軸と[1−10]結晶軸の方向に平行な辺を有するErSi結晶2は、図5Bに示すように、自己組織成長した極薄いナノワイヤー状のErSi結晶5の上に成長していることがわかる。
【0027】
本実施形態では、室温から800℃までの到達時間を1分間としたが、0〜10分間の間であればよい。また、到達温度に関しては、700℃〜850℃の間であればよい。700℃よりも低い温度で熱処理を行うと、結晶の平均の大きさが小さくなり、850℃よりも高い温度で熱処理を行うと、長方形の結晶が崩れて無方位に拡散してしまう。また、本実施形態では、800℃に到達した後の熱処理の時間は、6分としたが、3分から20分の間であればよい。この熱処理の時間が3分以下であると、結晶が十分に成長せず、20分以上だと、拡散、蒸発してしまう。
【0028】
そして、本実施の形態においては、図6に示すように、上述のようにして、一方の電極となるSi基板1上に発光層となるErSi結晶2を成長した後、このErSi結晶2の上面に他方の電極となる透明電極bを形成して、発光素子aを製造する。この透明電極bは、絶縁膜dにより、Si基板1と絶縁した状態で、Si基板全体を覆うように形成することができる。例えば、Si基板1上にErSi結晶2を成長させた後、少なくともSi基板1の表面に選択的に絶縁膜dを形成し、その後、ErSi結晶2の表面に接してSi基板1の全体を覆うように透明基板bを形成し、発光素子aを構成することができる。
【0029】
第1の実施形態によれば、ErCl水溶液をSi基板上に付着させ、10−1Torr〜10−7Torr(SI単位系では10Pa〜10−5Pa)、例えば10−5Torr程度の真空下で熱処理するという簡便な方法により、Si基板上にErを堆積させることができ、ErとSiの化学結合であるErSi結晶を作製することができる。このため、蒸着装置や超高真空装置を必要とせず、製造コストが低減される。
【0030】
長方形のErSi結晶は、1.5μmの発光を利用したシリコンフォトニクスに利用することができる。すなわち、発光材料としては実現していないSi基板がErと結びついて発光することにより、シリコン発光ダイオード、シリコンレーザ、シリコン光増幅器の作製が期待できる。また、本実施形態により作成されたErSi結晶は、ErSi結晶を介してSi基板と結合しているため、Si基板との結合が強い。そして、Si基板中に歪みを生じさせることもなく、歪みにおける非輻射緩和を増大させることはない。結果として、Si基板からのエネルギー移動がおきやすく、Erの発光効率を高めることができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態に係る発光素子の製造方法について説明する。本実施形態は、Si基板にErを化学結合させ、最終的に発光層となるEr−Cl−Oのアモルファス構造のマイクロワイヤーをSi基板上に成長させる方法である。本実施形態においても、第1の実施形態と同様、図1で示す工程により、所望の結晶を得るが、熱処理(工程S4)の方法が異なる。したがって、本実施形態において、真空引きまでの工程(S1〜S3)の説明は省略する。
【0032】
本実施形態においても真空引きされた石英管を電気炉に挿入し、熱処理(工程S4)を行う。本実施形態においても、第1の実施形態と同様、図2に示す石英管14及び管状の電気炉17等を備えた処理装置20を用いる。
図7に、本実施形態の熱処理工程(S4)における、時間に対する熱処理の温度変化を示す。先ず、電気炉17の温度を150℃に設定する。そして、石英管14を電気炉17内に、およそ1分間かけて挿入する。この操作により、石英管14内のSi基板1の温度を室温(25℃)から150℃まで上昇させる。そして、電気炉17の温度を150℃から950℃まで約90分かけてゆっくり上昇させ、石英管14を熱処理する。その後、第1の実施形態と同様、電気炉17から石英管14を取り出し、石英管14からSi基板1を取り出して、急冷させる。
【0033】
以上のような熱処理により、Si基板の結晶面(001)面の表面上に発光層となるEr−Cl−Oのアモルファス構造のマイクロワイヤーが成長する。図8A,Bに、本実施形態において成長したSi基板上の結晶のSEM像を示す。また、図9A,Bには、Er−Cl−Oのアモルファス構造のマイクロワイヤー3が作製されたSi基板1の一部を抜き出して模式的に示した平面図とそのb−b´断面図を示す。
【0034】
図8において、黒く見えるところがSi基板1であり、Si基板1上には幅0.2μm、長さ0.2〜3μmのマイクロワイヤー3が多数見られる。図8Bは、図8Aのマイクロワイヤー3を拡大したものである。図8Bにより、マイクロワイヤー3は、白い核の部分から長く延びていることがわかる。
また、図9Aに模式的に示す様に、マイクロワイヤー3の辺が、Si基板1の[110]結晶軸、[1−10]結晶軸方向に平行なことから、マイクロワイヤー3は、図9Bの断面図に示すように、自己組織成長によりSi基板1上にできたナノワイヤー状のErSi結晶5の上面に成長したことがわかる。
【0035】
本実施形態では、室温(25℃)から150℃までの到達時間を約1分間としたが、0〜10分間の間であればよい。また、150℃から950℃までの到達時間を90分としたが、30〜300分の間であればよい。さらに、到達温度に関しては800℃〜1000℃であればよい。
到達温度が800℃よりも低いと、マイクロワイヤー3の核となるものが小さく、マイクロワイヤー3に成長しにくいが、到達温度が950℃に達すると、Si基板1上に濃淡として現れていたErが800℃のときよりもはっきりして核に集合するので、そこからマイクロワイヤー3が成長するようになる。また、到達温度が1000℃まで達すると、Si基板1がエッチングされてしまい、マイクロワイヤー3がなくなってしまう。
【0036】
そして、本実施の形態においては、図10に示すように、上述のようにして、一方の電極となるSi基板1上に発光層となるEr−Cl−Oのアモルファス構造のマイクロワイヤー3を成長した後、このEr−Cl−Oアモルファス構造のマイクロワイヤー3の上面に他方の電極となる透明電極bを形成して、発光素子cを製造する。この場合も図6に示した例と同様に、透明電極bは、絶縁膜dにより、Si基板1と絶縁した状態で、Si基板全体を覆うように形成することができる。例えば、Si基板1上にEr−Cl−Oアモルファス構造のマイクロワイヤー3を成長させた後、少なくともSi基板1の表面に選択的に絶縁膜dを形成し、その後、Er−Cl−Oアモルファス構造のマイクロワイヤー3の表面に接してSi基板1の全体を覆うように透明基板bを形成し、発光素子aを構成することができる。
【0037】
第2の実施形態によれば、ErCl水溶液をSi基板上に付着させ、10−1Torr〜10−7Torr、例えば10−5Torr程度の真空下で熱処理するという簡便な方法により、超高真空装置内での蒸着工程を行わずに、Si基板上にErを堆積させることができ、Si基板上にEr−Cl−Oのアモルファス構造のマイクロワイヤーを作製することができる。このため、蒸着装置や超高真空装置を必要とせず、製造コストが低減される。
Er−Cl−Oのアモルファス構造も、ErSi結晶と同様に、シリコンフォトニクスとして利用が可能である。Er−Cl−Oのアモルファス構造は、波長1.53μmで発光する。また、Er−Cl−Oのアモルファス構造はワイヤー状であるため、その直線を配列させることにより、フォトニックバンド物質も生成可能である。また、本実施形態により作成されたEr−Cl−Oのアモルファス構造は、Si基板とErSi結晶を介して結合しているため、Si基板との結合が強い。そして、Si基板中に歪みを生じさせることもなく、歪みにおける非輻射緩和を増大させることはない。結果として、Si基板からのエネルギー移動がおきやすく、Erの発光効率を高めることができる。
【0038】
本実施形態では、エルビウム溶液に、ErCl水溶液を用いた例であり、Er−Cl−Oアモルファス構造のマイクロワイヤーが作製されたが、用いるエルビウム溶液により、マイクロワイヤーの組成は変わる。シュウ酸エルビウム(Er(C)溶液ではEr−C−Oが、フッ化エルビウム(ErF)溶液ではEr−F−Oが、硫酸エルビウム(Er(SO)溶液ではEr−S−Oが、酢酸エルビウム(Er(CHCOO))溶液ではEr−C−Oが、ヨウ化エルビウム(ErI)溶液ではEr−I−Oのアモルファス構造が成長する。
【0039】
次に、本発明の第3の実施形態に係る、ErSiナノワイヤーの製造方法について説明する。本実施形態は、Si基板上にErを化学結合させ、最終的に、ErSi結晶から成るナノワイヤーをSi基板上に成長させる方法である。本実施形態においても、第1の実施形態と同様、図1で示す工程により、所望の結晶を得るが、熱処理工程(S4)の方法が異なる。したがって、本実施形態において、真空引きまでの工程(S1〜S3)の説明は省略する。
【0040】
本実施形態においても真空引きされた石英管を電気炉に挿入し、熱処理(S4)を行う。第1及び第2の実施形態と同様、図2に示す石英管14及び管状の電気炉17等を備えた処理装置20を用いる。図11に、本実施形態の熱処理工程における、時間に対する熱処理の温度変化を示す。先ず、電気炉17の温度を150℃に設定する。そして、石英管14を電気炉17内に、およそ1分間かけて挿入する。この操作により、石英管14内のSi基板1の温度を室温(25℃)から150℃まで上昇させる。そして、150℃から1200℃まで120分、さらに1200℃から1250℃まで120分、合計240分かけてゆっくり温度を上昇させ、加熱を行う。その後、第1の及び第2の実施形態と同様、電気炉17から石英管14を取り出し、石英管14からSi基板1を取り出して急冷させる。本実施形態においても、室温から150℃までの到達時間は約1分間としたが、0〜10分の間であればよい。
【0041】
以上のような熱処理により、Si基板の結晶面が(001)面である表面上に自己組織成長のメカニズムにより、ErSiナノワイヤーが作製される。図12に、本実施形態において作成されたSi基板上の結晶のSEM像を示す。また、図13A,Bには、ErSi結晶によるナノワイヤーが成長したSi基板の一部を抜き出して模式的に示した平面図とそのc−c´断面図を示す。
【0042】
図12において、黒く見えるところがSi基板1である。また、円で囲った白い塊部分はErの塊であり、そこから上下に多数のErSiナノワイヤー4が延びている様子が見られる。このErSiナノワイヤー4の幅は、100nm以下であり、長さは最大約500nm以下である。図12のSEM像においては、Si基板1の[110]結晶軸、[1−10]結晶軸の方向に対して曲がって見えているが、これは、Si基板の凹凸に合わせて曲がって見えているものであり、実際には、図13Aに示すように、ErSiナノワイヤー4はSi基板1の[110]結晶軸、[1−10]結晶軸の方向に平行である。
【0043】
また、本実施形態において、熱処理工程(S4)を、図14に示すように行ってもよい。すなわち、電気炉17を950℃に設定し、石英管14を約1分間かけて電気炉に挿入することによりSi基板1の温度を950℃まで上昇させ、950℃で約4分間の加熱を行う。その後、1250℃まで温度をさらに上昇させ、約6分間の加熱をする。この場合も、図15のSEM像に見られるように、白い塊部分から上下に伸びるErSiナノワイヤー4が作製される。図14に示す熱処理の場合、図11に示す熱処理よりも時間が短いため、図15に示すように、作製できるErSiナノワイヤー4も図12に比べて長く多くなる。図15に示すErSiナノワイヤー4の幅は100nm以下であり、長さは2μmである。
【0044】
また、図14においては、950℃で約4分間の加熱を行い、その後1250℃において約6分間の加熱を行っているが、図16に示すように、950℃から1250℃まで、10分から120分かけてゆっくり温度上昇させて熱処理をおこなっても、Si基板上にErSiナノワイヤーが形成される。
なお、図14及び図16に示す熱処理においても、室温から950℃までの到達時間を約1分間としたが、0〜10分間であればよい。
【0045】
図11、図14及び図16における熱処理の方法においては、共通して、1250℃でアニールする前に、一旦950℃以下において熱処理が行われている。直接1250℃で熱処理を行うと、ErがSiと結合する前に蒸発してしまうからである。従って、一旦950℃以下で熱処理を行い、ErとSiを結びつけておくことで、1250℃での熱処理が可能になる。
【0046】
ところで、本実施形態において用いたエルビウム溶液は、ErCl+6HO粉末とHOが質量比1:3となるように調合されたErCl水溶液であった。
そこで、Si基板を浸漬させる工程(S2)で用いるエルビウム溶液を、ErClと、Er(NOの粉末を2:1の比で合わせた質量濃度20%のエルビウム溶液に変える。そうすることにより、直接1250℃で6分間の熱処理を行っても、Erが蒸発するのを防ぐことができ、かつ、Si基板上にErSiナノワイヤーを作製することができる。すなわち、ErClと、Er(NOの混合されたEr水溶液により、1250℃の高温でも蒸発しないだけのErの凝集が起こり、蒸発を防ぐ効果がある。
このとき、ErClとEr(NOの粉末の混合比は、1:1〜10:1の範囲であればよい。Er(NO水溶液だけだと、Si基板上にはErの塊だけになってしまう。
以上のように、エルビウム溶液として、ErClとEr(NOの混合溶液を用いる場合は、直接1250℃で熱処理を行うことができる。
【0047】
以上のように、第3の実施形態によれば、ErCl水溶液をSi基板上に付着させ、10−1Torr〜10−7Torr、例えば10−5Torr程度の真空下で熱処理するという簡便な方法により、超高真空装置内での蒸着工程を行わずに、Si基板上にErを堆積させることができ、Si基板上にErSiナノワイヤーを作製することができる。ErSiナノワイヤーが、直線に成長することを利用して、回路の配線に利用でき、これは、電気伝導性が比較的良い。将来的には成長核をSi基板にプリントすることにより、ナノワイヤーの場所を制御することも可能となる。
【0048】
なお、本発明において、Si基板にエルビウム溶液を堆積させる方法としては、Si基板をエルビウム溶液に浸漬させる方法に限定されず、エルビウム溶液をSi基板上にスピンコートする方法でもよい。また、真空引きする工程において、ディフュージョンポンプ(油拡散ポンプ)を用いていたが、ターボ分子ポンプや、ロータリーポンプを用いてもよい。すなわち、本発明では、イオンポンプ等を用いる超高真空(10−8〜10−10Torr)は必要とされない。また、熱処理工程においては、石英管を電気炉に挿入する方法に限定されるものではなく、エルビウム溶液をつけたSi基板を炉にいれ、適切な真空及び熱処理過程を経ればよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明における実施形態で用いられる処理装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における熱処理工程の温度変化を示す。
【図4】本発明の第1の実施形態において得られたErSi結晶の電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【図5】A,B本発明の第1の実施形態において得られたErSi結晶の概略構成を示す平面図及び断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態において得られる発光素子の概略構成図である。
【図7】本発明の第2の実施形態における熱処理工程の温度変化を示す。
【図8】A,B本発明の第2の実施形態において得られたEr−Cl−Oのアモルファス構造の電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【図9】A,B本発明の第2の実施形態において得られたEr−Cl−Oのアモルファス構造から成るマイクロワイヤーの概略構成を示す平面図及び断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態における発光素子の概略構成図である。
【図11】本発明の第3の実施形態における熱処理工程の温度変化を示す。
【図12】本発明の第3の実施形態において得られたErSiナノワイヤーの電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【図13】A,B本発明の第3の実施形態において得られたErSiナノワイヤーの概略構成を示す平面図及び断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態における熱処理工程の温度変化の他の例を示す。
【図15】本発明の第3の実施形態における他の例の熱処理において得られたErSiナノワイヤーの電子顕微鏡写真(SEM像)を示す。
【図16】本発明の第3の実施形態における熱処理工程の温度変化の他の例を示す。
【符号の説明】
【0050】
1・・Si基板、2・・ErSi結晶、3・・マイクロワイヤー、4・・ErSiナノワイヤー、5・・ErSi結晶、10・・ディフュージョンポンプ、11・・バルブ、12・・真空ホース、13・・ゴム栓、14・・石英管、15・・エルビウム溶液、16・・ヒータ、17・・電気炉、18・・温度・時間コントローラ、19・・電源、20・・処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板を洗浄する工程と、
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程と、
前記エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程とを有し、
前記Si基板上にエルビウム化合物による発光層を形成する
ことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程は、前記Si基板を前記エルビウム溶液に浸漬させることにより行う
ことを特徴とする請求項1記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を、10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で行う
ことを特徴とする請求項1記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理を、700℃〜850℃の範囲内で約3〜20分間行う
ことを特徴とする請求項1記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を、150℃から800℃〜1000℃まで30〜300分間かけて温度上昇させることにより行う
ことを特徴とする請求項1記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
Si基板を洗浄する工程と、
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程と、
前記エルビウム溶液が付着したSi基板を真空下で熱処理する工程とを有し、
前記Si基板上にErSi結晶によるナノワイヤーを形成する
ことを特徴とするErSiナノワイヤーの製造方法。
【請求項7】
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させる工程は、前記Si基板を前記エルビウム溶液に浸漬させることにより行う
ことを特徴とする請求項6記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を、10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で行う
ことを特徴とする請求項6記載のErSiナノワイヤーの製造方法。
【請求項9】
前記熱処理を、約240分間かけて150℃から1250℃まで温度上昇させることにより行う
ことを特徴とする請求項6記載のErSiナノワイヤーの製造方法。
【請求項10】
前記熱処理を、およそ950℃で約4分間行った後、およそ1250℃で約6分間行う
ことを特徴とする請求項6記載のErSiナノワイヤーの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理を、およそ950℃で約4分間行った後、950℃から1250℃まで約10〜120分間かけて行う
ことを特徴とする請求項6記載のErSiナノワイヤーの製造方法。
【請求項12】
Si基板を洗浄し、
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させ、
前記エルビウム溶液が付着したSi基板を10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で熱処理し、
前記Si基板上にErSi結晶を覆ってエルビウム化合物による発光層を形成した構造を有し、
前記Si基板が一方の電極となり、前記発光層上に他方の透明電極が形成されている
ことを特徴とする発光素子。
【請求項13】
前記発光層がErSi結晶である
ことを特徴とする請求項12記載の発光素子。
【請求項14】
前記発光層が、ErとOを含んだアモルファス構造のマイクロワイヤーである
ことを特徴とする請求項12記載の発光素子。
【請求項15】
Si基板を洗浄し、
前記Si基板にエルビウム溶液を付着させ、
前記エルビウム溶液が付着したSi基板を10−1〜10−7Torrの範囲の真空下で熱処理し、
前記Si基板上にErSi結晶によるナノワイヤーを形成した構造
を特徴とするErSiナノワイヤー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図4】
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【図8】
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【図12】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−300416(P2008−300416A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142044(P2007−142044)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月15日 国立大学法人 電気通信大学主催の「平成18年度 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 量子・物質工学専攻 修士論文発表会」に文書をもって発表
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】