説明

発光色変換部材

【課題】樹脂の劣化による白色LEDの発光強度の低下や短寿命化を抑制でき、演色性が高く、しかも、色温度の低い白色光(電球色)を得ることが可能な発光色変換部材を提供する。
【解決手段】結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを有する発光色変換部材であって、結晶化ガラス基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発する性質を有する発光色変換部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光色変換部材に関し、特に、励起光により蛍光を発し、透過励起光と蛍光の合成により白色光を発する発光色変換部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
青色の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)の開発により光の3原色RGB(R:赤色、G:緑色、B:青色)のLEDが揃い、これらのLEDを並べて用いることによって白色光を得ることが提案されている。しかし、三色のLEDの発光出力が異なるため、各色発光ダイオードの特性を合致させて白色光を得ることが難しい。また、三原色の発光ダイオードを集合させて、同一平面上に並べても、例えば、液晶用バックライトとしての用途のように、それらの発光ダイオードを接近した位置で視認する場合には、均一な白色光源にすることはできない。また、各色の発光ダイオードの色劣化速度が異なるため、白色光の長期安定性に問題がある。
【0003】
この問題を解決するために、青色LEDチップと、青色LEDチップから発せられた青色光線によって黄色発光するYAG蛍光体を組合わせたLED素子が開発された(例えば、特許文献1参照。)。この方式は、青色LEDからの透過光とYAG系蛍光体が発する黄色光の合成により白色光が得られるというものである。この方式であれば、1種類のLEDですむため、低コストで、白色光の長期安定性にも優れる。また、この白色LEDは、従来の照明装置等の光源に比べ、長寿命、高効率、高安定性、低消費電力、高応答速度、環境負荷物質を含まない等の利点を有しているため、現在、ほとんどの携帯電話やデジタルカメラの液晶バックライトにはこの形態の白色LEDが使用されている。今後はこの白色LEDは、白熱電球や蛍光灯に替わる次世代の光源として照明用途への応用が期待されている。
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている白色LEDは、LEDチップの発光面をシールする樹脂に蛍光体粉末を混合してモールドしているため、青色〜紫外線領域の高出力の短波長の光や、蛍光体の発熱、或いはLEDチップの熱によってLED素子を構成する樹脂が劣化し、変色或いは変形を引き起こす。その結果、発光強度の低下や色ずれが起こり、寿命が短くなるという問題がある。
【0005】
また、得られる白色光は、青色と黄色の合成光であるため、色温度の高い白色光(昼光色)を得ることはできるが、色温度の低い白色光(電球色)を得ることができないという問題もある。さらに、2色による合成光であるため、演色性が低く、照明用途には不向きである。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、樹脂の劣化による白色LEDの発光強度の低下や短寿命化を抑制でき、演色性が高く、しかも、色温度の高い白色光(昼光色)から色温度の低い白色光(電球色)までの様々な色温度に対応した白色光を発することが可能な発光色変換部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光色変換部材は、結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを有する発光色変換部材であって、結晶化ガラス基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発する性質を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発光色変換部材は、発光強度の低下や短寿命化を抑制でき、演色性が高く、しかも、色温度の高い白色光(昼光色)から色温度の低い白色光(電球色)までの様々な色温度に対応した白色光を発することができる。それ故、照明、ディスプレイ等の発光装置、自動車等の前照光として用いる部材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
蛍光体材料において、高出力の光や、蛍光体の発熱、或いはLEDチップの熱によって引き起こされる発光強度の劣化や短寿命化を抑制するには、蛍光体材料中に有機材料を含まないように設計すればよい。本発明の発光色変換部材は、結晶化ガラスとガラス焼結層の無機材料のみから形成されてなる。そのため、高出力の光や蛍光体の発熱によって引き起こされる発光強度の劣化や短寿命化を抑制できる。
【0010】
また、本発明の発光色変換部材は、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発し、これらの光が発光色変換部材中を透過する励起光と合成するため、演色性が高く、色温度の高い白色光(昼光色)から色温度の低い白色光(電球色)までの様々な色温度に対応した白色光を発することができる。
【0011】
尚、励起光は、波長が300〜500nmの光線を用いることが好ましい。その理由は、励起光が300〜500nmの波長域であれば、結晶化ガラス及びガラス焼結層の両方が蛍光を発することができ、また、この波長域の光を照射すると蛍光を発する無機蛍光体粉末の種類が多く存在し、部材の入手が容易であるためである。
【0012】
尚、蛍光体材料から発する白色光の演色性を高めたり、色温度を調整するには、白色光を合成するための光の種類(色)を増やしたり、光の種類及び発光強度を調整すればよく、本発明の蛍光体材料においては、結晶化ガラス中の結晶量や結晶化ガラスの肉厚、ガラス焼結層を構成するガラス粉末中のEu23の含有量、ガラス焼結層中の蛍光体の種類や含有量、或いはガラス焼結層の肉厚を調整することで、これらの部材から出てくる光の種類及び発光強度を調整することができる。
【0013】
特に、本発明の発光色変換部材において、励起光を照射したときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が波長300〜500nmの光(好ましくは、青色光)を吸収し、結晶化ガラスからは波長450〜780nmの光(好ましくは、黄色光)の蛍光を発し、ガラス焼結層からは波長500〜780nmの光(好ましくは、赤色及び/または緑色)の蛍光を発するものを用いれば、これらの部材から発する光と発光色変換部材中を透過する励起光との合成によって、色温度の低い白色光(電球色)を発することができる。
【0014】
尚、本発明において、青色光とは、波長430〜480nmに中心波長を有する光を、緑色光とは、波長500〜535nmに中心波長を有する光を、黄色光とは、波長535〜590nmに中心波長を有する光を、赤色光とは、波長610〜780nmに中心波長を有する光を意味する。
【0015】
また、本発明の発光色変換部材において、結晶化ガラス基材とガラス焼結層は、ガラス焼結層を結晶化ガラス基材上に融着一体化させることにより密着してなることが好ましい。結晶化ガラスとガラス焼結層との間に空間を設けない構造にすることで、発光強度の低下を抑えることができ、しかも、機械的強度を向上させることができる。また、変色の原因となる接着剤等の樹脂を用いなくて済む。
【0016】
結晶化ガラス基材からのガラス焼結層の剥離を防止するには、結晶化ガラスの熱膨張係数をα1、ガラス焼結層の熱膨張係数をα2としたとき、α1−α2≦±1ppm/℃にすることが好ましい。この範囲外になると、剥離しやすくなる。好ましくは、α1−α2≦±0.8ppm/℃である。
【0017】
本発明の発光色変換部材を構成する結晶化ガラスとしては、ガーネット結晶中にCe3+を含む結晶を析出してなるものを用いることが好ましい。その理由は、ガーネット結晶中のCe3+が発光中心となり、青色の励起光を吸収し、黄色の蛍光を発しやすくなるためである。
【0018】
また、ガラス中からCe3+を含むガーネット結晶を析出させることにより、ガーネット結晶が結晶化ガラスのマトリックスガラス中に泡を巻き込むことなく分散しやすくなる。そのため、蛍光や透過励起光があらゆる方向に散乱して、光が広角度に広がりやすくなる。また、光を遮断する泡が少ないため、蛍光や透過励起光が透過しやすくなり、発光効率が高くなる。
【0019】
尚、ガーネット結晶とは、一般的にはA32312で表される結晶(A=Mg、Mn、Fe、Ca、Y、Gd等:B=Al、Cr、Fe、Ga、Sc等:C=Al、Si、Ga、Ge等)であり、上記したガーネット結晶として、特に、YAG結晶(Y3Al512結晶)又はYAG結晶固溶体であると、所望の黄色の蛍光を発するため好ましい。YAG結晶固溶体としては、Yの一部をGd、Sc、Ca及びMgからなる群から選択された少なくとも1種の元素で、及び/又はAlの一部をGa、Si、Ge及びScからなる群から選択された少なくとも1種の元素で置換したYAG結晶固溶体であってもよい。
【0020】
また、結晶化ガラスは、板状であることが好ましい。その理由は、結晶化ガラスが板状であると、結晶化ガラス基材上にガラス焼結層を形成しやすくなるためである。尚、結晶化ガラスを板状に成形する方法としては、結晶性ガラスをロール成形、スロットダウン成形、オーバーフロー成形、ダウンドロー成形、リドロー成形等によって板状に成形し、熱処理を行って結晶を析出させることで得ることができる。
【0021】
また、結晶化ガラスは、0.1〜2.0mmの肉厚を有することが好ましい。その理由は、肉厚が薄くなりすぎると、結晶化ガラス中の結晶量が少なくなり、結晶化ガラスが黄色の蛍光を発することができなくなる。結果として、白色光を発する発光色変換部材が得難くなる。一方、肉厚が厚くなりすぎると、青色の励起光が透過し難くなり、結果として、白色光を発する発光色変換部材が得難くなる。
【0022】
また、結晶化ガラスの好適な組成範囲は、モル%で、SiO2+B23 10〜60%、Al23+GeO2+Ga23 15〜50%、Y23+Gd23 5〜30%、Li2O 0〜25%、TiO2+ZrO2 0〜15%、CaO+MgO 0〜5%、Ce23 0.01〜5%である。
【0023】
結晶化ガラスの組成範囲を決定した理由は次の通りである。
【0024】
SiO2とB23は、ガラスの網目形成酸化物で、ともに母ガラス作成時に失透を抑制する成分であり、これら成分は合量で10〜60モル%であることが好ましい。合量で10モル%よりも少ないとガラス化せず、60モル%よりも多いと所望の結晶が析出しにくくなる。これら成分の合量の好ましい範囲は、30〜47モル%である。尚、これら成分の合量が、40.5モル%よりも少ないと、ガラス成形時に少量の失透が生じるが、この失透は結晶化のための熱処理によって消失し、緻密なガーネット結晶が析出するため特に問題はない。また、各成分の含有量は、SiO2 10〜50モル%、B23 0〜40モル%であることが好ましい。
【0025】
Al23とGa23とGeO2は、ガーネット結晶の構成成分であるとともに、化学的耐久性を向上させる成分であり、これら成分は合量で15〜50モル%であることが好ましい。合量で15モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、また、化学的耐久性が低下する。また、50モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなると共に、ガーネット結晶が析出しにくくなるため好ましくない。これら成分の合量の好ましい範囲は、20〜40モル%である。また、各成分の含有量は、Al23 15〜45モル%、Ga23 0〜15モル%、GeO2 0〜15モル%であることが好ましい。
【0026】
23とGd23は、ガーネット結晶の構成成分であるとともに、Ceの均一分散能を向上させ、濃度消光を抑制する成分であり、これら成分は合量で5〜30モル%であることが好ましい。合量で5モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、30モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなるため好ましくない。これら成分の合量の好ましい範囲は、10〜25モル%である。また、各成分の含有量は、Y23 5〜30モル%、Gd23 0〜20モル%であることが好ましい。
【0027】
Li2Oは、結晶サイズを粗大化させず、また析出結晶量を減少させずに網目修飾酸化物としてガラスの粘性を調整する成分であり、その含有量は0〜25モル%であることが好ましい。Li2Oの含有量が25モル%よりも多いとガラス成型時に多量の失透が発生しガラス化しにくく、結晶化のための熱処理を行なっても失透が消失せず好ましくない。特にLi2Oの含有量が2モル%よりも多いと、ガーネット結晶が析出しやすくなるため好ましい。Li2Oの好ましい範囲は、2〜20モル%であり、さらに好ましい範囲は、2.5〜10モル%である。
【0028】
ZrO2とTiO2は、合量で15モル%まで含有させることが可能であるが、ZrO2とTiO2を含有しなくてもガーネット結晶は析出する。むしろZrO2とTiO2が少ないほど、発光効率が高くなるため好ましい。それ故、例えば、3モル%未満、より好ましくは本質的に含有しない方が好ましい。また、これらは合量で15モル%よりも多い場合は、所望の結晶が析出しにくくなるため好ましくない。
【0029】
CaOとMgOは、析出するYAG結晶中に一部固溶し、結晶量や結晶粒子系を調整すると共に、結晶中のCe3+から発せられる蛍光の波長を調整する働きがある。これら成分の合量は、0〜5モル%であることが好ましい。合量で5モル%より多いと、ガラス化し難くなるため好ましくない。これら成分の合量の好ましい範囲は0.1〜4.5モル%である。また、各成分の含有量は、CaO 0〜4モル%、MgO 0〜4モル%であることが好ましい。
【0030】
Ce23は、発光中心となる成分であり、Ce23の含有量は0.01〜5モル%である。Ce23の含有量が0.01モル%よりも少ないと、発光中心成分としての役割を果たし難く、蛍光強度が充分でない。また、5モル%よりも多いと、濃度消光により発光効率が低くなるため好ましくない。Ce23の好ましい範囲は0.01〜2モル%である。
【0031】
上記した成分以外にも、Na2O、K2O、Sc23等をそれぞれ10モル%まで添加できる。
【0032】
また、上記のような結晶化ガラスを得るには、上記したガラス組成範囲になるようにガラス原料を調合して溶融し、板状の結晶性ガラスを作製し、次いで、得られた板状の結晶性ガラスを、1150〜1600℃(好ましくは1200〜1500℃)で、0.5〜20時間熱処理した後、所望の肉厚に研磨加工することで得ることができる。
【0033】
また、本発明の発光色変換部材を構成するガラス焼結層としては、(1)Eu23をガラス成分として含有するガラス粉末を焼成してなるもの、(2)ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなるものの何れかを用いることが好ましい。このようなガラス焼結層は、ガラス中に、Euイオン、或いは無機蛍光体が分散した構造となるため、化学的に安定で、高出力の光に長期間曝されても変色を抑えることができるためである。
【0034】
ガラス焼結層として、Eu23をガラス成分として含有するガラス粉末を焼成してなるものを用いる場合、ガラス粉末には、SiO2−B23−RO(ROはMgO、CaO、SrO、BaOを表す)系ガラス、SiO2−B23系ガラス、SiO2−B23−R2O(R2OはLi2O、Na2O、K2Oを表す)系ガラス、SiO2−B23−Al23系ガラス、SiO2−B23−ZnO系ガラスを用いることができる。中でも、発光中心の成分となるEu23を添加しても、溶融時に失透し難く、且つ、十分な発光強度を得やすいSiO2−B23−RO系ガラスを用いることが好ましい。
【0035】
SiO2−B23−RO系ガラスの組成範囲は、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%、Eu23 0.1〜5%であることが好ましい。上記範囲を決定した理由は以下の通りである。
【0036】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。その含有量が30モル%よりも少なくなると化学的耐久性が悪化する傾向にある。一方、70モル%よりも多くなると、溶融性が悪化しやすくなる。SiO2のより好ましい範囲は45〜65%である。
【0037】
23は、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。その含有量が1モル%よりも少なくなると、その効果が得にくくなる。一方、15モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。B23のより好ましい範囲は2〜10%である。
【0038】
MgOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。MgOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0039】
CaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が25モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。CaOのより好ましい範囲は3〜20%である。
【0040】
SrOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。SrOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0041】
BaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が5モル%よりも少なくなると、溶融性を改善する効果が低下する傾向にある。一方、40モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。BaOのより好ましい範囲は10〜35%である。
【0042】
尚、化学的耐久性を悪化させることなく、ガラスの溶融性を向上させるためには、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROを、10〜45モル%にすることが好ましい。ROの含有量が10モル%より少なくなると、溶融性を改善する効果が得にくくなる。一方、45モル%より多くなると、化学的耐久性が悪化しやすくなる。ROのより好ましい範囲は11〜40%である。
【0043】
Al23は、化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量が20モル%よりも多くなると、ガラスの溶融性が悪化する傾向にある。Al23のより好ましい範囲は2〜15%である。
【0044】
ZnOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。ZnOのより好ましい範囲は1〜7%である。
【0045】
Eu23は、ガラス焼結層内において、発光中心となる成分である。その含有量が0.1%より少なくなると発光中心成分としての役割を果たし難く、十分な発光強度が得られない。一方、5モル%より多くなると、濃度消光により発光効率が低下するため好ましくない。Eu23の好ましい範囲は0.5〜2%である。
【0046】
また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、アルカリ金属酸化物、P25、La23等を添加してもよい。
【0047】
また、ガラス粉末の平均粒度は、1〜100μmのものを使用することが望ましい。ガラス粉末の平均粒度が小さくなると、コストが高騰しやすくなる。一方、平均粒度が大きくなると、ガラス焼結層中のEuイオンに励起光が効率良く照射されにくくなる。
【0048】
ガラス焼結層として、ガラス粉末と、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなるものを用いる場合、ガラス焼結層に含まれる無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用でき、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、ハロリン酸塩化物などからなるものがある。上記の無機蛍光体の中でも、特に、波長300〜500nmに励起帯を有し、波長500〜780nmに発光ピークを有するもの、特に、赤色及び/または緑色に発光するものを用いることが好ましい。具体的には、青色光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体として、CaS:Eu2+、ZnS:Mn2+,Te2+、Mg2TiO4:Mn4+、K2SiF6:Mn4+、SrS:Eu2+、Na1.230.42Eu0.12TiSi411、Na1.230.42Eu0.12TiSi513:Eu3+、CdS:In,Te、CaAlSiN3:Eu2+、CaSiN3:Eu2+、(Ca,Sr)2Si58:Eu2+、Eu227を用いることができる。また、青色光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体として、SrAl24:Eu2+、SrGa24:Eu2+、SrBaSiO4:Eu2+、CdS:In、CaS:Ce3+、Y3(Al,Gd)512:Ce2+、Ca3Sc2Si312:Ce3+、SrSiON:Eu2+を用いることができる。これらの蛍光体の中には、焼結時の加熱によりガラスと反応し、発泡や変色などの異常反応を起こす物もあり、その程度は、焼結温度が高温であればあるほど著しくなる。しかし、このような無機蛍光体であっても、焼成温度とガラス組成を最適化することで使用できる。
【0049】
ガラス焼結層を作製する際に用いるガラス粉末には、無機蛍光体を安定に保持するための媒体としての役割がある。また、ガラス粉末の組成系によって、焼結体の色調が異なり、無機蛍光体との反応性に差がでるため、種々の条件を考慮してガラス粉末の組成を選択する必要がある。さらにガラス組成に適した無機蛍光体の添加量や、部材の厚みを決定することも重要である。ガラス粉末としては、無機蛍光体と反応しにくいものであれば、特に、組成系に制限はなく、例えば、SiO2−B23−RO(ROはMgO、CaO、SrO、BaOを表す)系ガラス、SiO2−B23系ガラス、SiO2−B23−R2O(R2OはLi2O、Na2O、K2Oを表す)系ガラス、SiO2−B23−Al23系ガラス、SiO2−B23−ZnO系ガラスを用いることができる。中でも、焼成時において、無機蛍光体と反応が起こりにくいSiO2−B23−RO系ガラスを用いることが好ましい。
【0050】
SiO2−B23−RO系ガラスの組成範囲は、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%であることが好ましい。上記範囲を決定した理由は以下の通りである。
【0051】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。その含有量が30モル%よりも少なくなると化学的耐久性が悪化する傾向にある。一方、70モル%よりも多くなると、焼結温度が高温になり、蛍光体が劣化しやすくなる。SiO2のより好ましい範囲は45〜65%である。
【0052】
23は、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。その含有量が1モル%よりも少なくなると、その効果が得にくくなる。一方、15モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。B23のより好ましい範囲は2〜10%である。
【0053】
MgOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。MgOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0054】
CaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が25モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。CaOのより好ましい範囲は3〜20%である。
【0055】
SrOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。SrOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0056】
BaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する共に、蛍光体との反応を抑制する成分である。その含有量が5モル%よりも少なくなると、蛍光体との反応抑制効果が低下する傾向にある。一方、40モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。BaOのより好ましい範囲は10〜35%である。
【0057】
尚、化学的耐久性を悪化させることなく、ガラスの溶融性を向上させるためには、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROを、10〜45モル%にすることが好ましい。ROの含有量が10モル%より少なくなると、溶融性を改善する効果が得にくくなる。一方、45モル%より多くなると、化学的耐久性が悪化しやすくなる。ROのより好ましい範囲は11〜40%である。
【0058】
Al23は、化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量が20モル%よりも多くなると、ガラスの溶融性が悪化する傾向にある。Al23のより好ましい範囲は2〜15%である。
【0059】
ZnOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。ZnOのより好ましい範囲は1〜7%である。
【0060】
また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、アルカリ金属酸化物、P25、La23等を添加してもよい。
【0061】
また、ガラス粉末の平均粒度は、1〜100μmのものを使用することが望ましい。ガラス粉末の平均粒度が小さくなると、コストが高騰しやすくなる。一方、平均粒度が大きくなると、ガラス焼結層中の蛍光体に励起光が効率良く照射されにくくなる。
【0062】
ガラス焼結層の発光効率は、ガラス中に分散した蛍光体粒子の種類や含有量、及びガラス焼結層の肉厚によって変化する。蛍光体の含有量とガラス焼結層の肉厚は、エネルギー変換効率が最適になるように調整すればよいが、蛍光体が多くなりすぎると、焼結しにくくなり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く蛍光体に照射されにくくなるなどの問題が生じる。一方、少なすぎると十分に発光させることが難しくなる。それ故、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の混合割合を、質量比で、ガラス粉末を70〜99.99%(好ましくは80〜99.95%、より好ましくは85〜99.92%)、無機蛍光体粉末0.01〜30%(好ましくは0.5〜20%、より好ましくは0.08〜15%)の範囲に調整することが好ましい。
【0063】
また、上記のガラス焼結層を得るには、上記のガラス粉末、或いはガラス粉末と無機蛍光体粉末に有機系溶剤及びバインダー樹脂を加えた混合物を、例えば、ペーストやグリーンシートなどの形態にして、焼成することで得ることができる。
【0064】
ペーストを用いてガラス焼結層を得る方法について説明する。
【0065】
ペーストは、上述したガラス粉末、或いはガラス粉末と無機蛍光体粉末と共に、結合剤、可塑剤、溶剤等を使用する。
【0066】
ペースト全体に占めるガラス粉末、或いはガラス粉末と無機蛍光体粉末の割合としては、30〜90質量%程度が一般的である。
【0067】
結合剤は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、0.1〜20質量%程度が一般的である。結合剤としては、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース、ニトロセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0068】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0069】
溶剤は材料をペースト化するための材料であり、その含有量は10〜50質量%程度が一般的である。溶剤としては、テルピネオール、酢酸イソアミル、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独または混合して使用することができる。
【0070】
ペーストの作製は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末、結合剤、可塑剤、溶剤等を用意し、これらを所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0071】
このようなペーストを用いて、基材上にガラス焼結層を直接形成するには、スクリーン印刷法や一括コート法等を用いて基材上にペーストを塗布し、所定の膜厚の塗布層を形成した後、乾燥させ、700〜1000℃で焼成することで所定のガラス焼結層を得ることができる。
【0072】
次に、グリーンシートを用いてガラス焼結層を得る方法について説明する。
【0073】
グリーンシートは、上記ガラス粉末、或いはガラス粉末及び無機蛍光体粉末と共に、結合剤、可塑剤、溶剤等を使用する。
【0074】
グリーンシート中に占めるガラス粉末、或いはガラス粉末と無機蛍光体粉末の割合は、50〜80質量%程度が一般的である。
【0075】
結合剤、可塑剤及び溶剤としては、上記ペーストの調製の際に用いられるのと同様の結合剤、可塑剤、溶剤を用いることができ、結合剤の混合割合としては、0.1〜30質量%程度が一般的であり、可塑剤の混合割合としては、0〜10質量%程度が一般的であり、溶剤の混合割合としては、1〜40質量%程度が一般的である。
【0076】
グリーンシートを作製する一般的な方法としては、上記ガラス粉末、無機蛍光体粉末、結合剤、可塑剤等を用意し、これらに溶剤を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上にシート成形する。続いて、シート成形後、乾燥させることによって有機系溶剤等を除去することでグリーンシートとすることができる。
【0077】
以上のようにして得られたグリーンシートを用いて、基材上にガラス焼結層を直接形成するには、基材上にグリーンシートを積層し熱圧着して塗布層を形成した後、上述のペーストの場合と同様に焼成することでガラス焼結層を得ることができる。
【0078】
尚、ガラス焼結層の製造方法として、ペーストまたはグリーンシートを用いる例を挙げたが、本発明の発光色変換部材に用いられるガラス焼結層はこれに限定されるものではなく、一般にセラミックスの製造に用いられる各種の方法を適用することが可能である。
【0079】
また、ガラス焼結層は、0.1〜1.0mmの肉厚を有することが好ましい。肉厚が、薄すぎると、ガラス焼結層が赤色及び/または緑色の蛍光を発することができなくなり、結果として、白色光を発する発光色変換部材が得難くなる。一方、肉厚が厚すぎると、青色の励起光や結晶化ガラスから発する黄色の蛍光が透過し難くなり、結果として、白色光を発する発光色変換部材が得難くなる。
【0080】
次に、本発明の発光色変換部材を製造する好適な方法を説明する。
【0081】
まず、上述の方法を用いて作製した結晶化ガラスと、ガラス焼結層を得るためのペーストまたはグリーンシートを用意する。次に、結晶化ガラス表面に、スクリーン印刷法や一括コート法等を用いてペーストを塗布する、若しくは、グリーンシートを積層し、結晶化ガラス表面に、ガラス層を形成する。その後、ガラス層を形成した結晶化ガラスを焼成する。このようにすることで、本発明の発光色変換部材を得ることができる。
【0082】
尚、本発明の発光色変換部材は、ガラス層を形成した結晶化ガラスを焼成して得た発光色変換部材を、切断、研磨加工して、任意の形状、例えば、円盤状、柱状、棒状等の形状に加工してもよい。
【0083】
尚、ガラス層を形成した結晶化ガラスを焼成する温度としては、700〜1000℃で焼成することが好ましい。その理由は、700℃より低い温度では、結晶化ガラスからガラス焼結層が剥離しやすくなったり、緻密なガラス焼結層が得にくくなるため、ガラス焼結層の発光強度の低下し、所望の光を発する発光色変換部材が得難くなる。一方、1000℃より高い温度では、結晶化ガラス中の結晶構造の変化や、ガラス焼結層中のガラスと無機蛍光体の反応により、所望の光を発する発光色変換部材が得難くなる。
【実施例1】
【0084】
以下、実施例に基づき、本発明の発光色変換部材ついて詳細に説明する。
【0085】
実施例1は、結晶化ガラス表面に、Eu23をガラス成分として含有するガラス粉末をペーストの形態で塗布し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0086】
発光色変換部材は以下のようにして作製した。
【0087】
まず、結晶化ガラスと、ガラス焼結層を得るためのペーストを用意した。次に、結晶化ガラスの表面に、ペーストを一括コート法で塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成した。次いで、ガラス層を塗布した結晶化ガラスを300℃で1時間脱脂し、850℃で20分焼成して発光色変換部材を作製した。
【0088】
このようにして得られた発光色変換部材について、ガラス焼結層の肉厚を測定したところ、40μmであった。また、結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.400、y=0.380であり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0089】
尚、結晶化ガラスについては、以下のように作製した。
【0090】
まず、モル%でSiO2 34%、Al23 33%、Y23 15%、GeO2 6%、Gd23 8%、Li2O 3%、CaO+MgO+Sc23 0.5%、Ce23 0.5%含有する組成となるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1650℃にて3時間溶融した後、ガラス融液をカーボン板状に流しだすことによって結晶性ガラスを得た。次に、得られた結晶性ガラスを1400℃で9時間熱処理を行い、肉厚が0.5mmになるように両面研磨することで結晶化ガラスを得た。
【0091】
このようにして得られた結晶化ガラスについて、X線粉末回折装置を用いて析出結晶の同定を行ったところYAG結晶が析出していることが確認された。また、結晶化ガラス後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと、波長560nm付近に中心を持つ黄色のスペクトルが観測された。
【0092】
また、ガラス焼結層を得るためのペーストについては、以下のように作製した。
【0093】
モル百分率でSiO2 58.75%、B23 5%、CaO 10%、BaO 15%、Al23 5%、ZnO 5%、Eu23 1.25%含有する組成になるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1400℃で2時間溶融して均一なガラスを得た。次いで、これをアルミナボールで粉砕し、分級して平均粒径が2.5μmのガラス粉末を得た。次に、作製したガラス粉末100に対して、結合剤としてエチルセルロースを6質量%、溶剤としてテルピネオールを90質量%添加し、混合してペーストを作製した。
【0094】
上記ペーストを用いて作製したガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと、波長610nm付近に中心を持つ赤色のスペクトルが観測された。尚、ガラス焼結層は、上記方法で作製したペーストを、多孔質ムライトセラミック基板上に一括コート法で塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成し、300℃で1時間脱脂し、850℃で20分焼成した後、冷却して、ムライト基板を除去して得たものである。
【実施例2】
【0095】
実施例2は、結晶化ガラス表面に、ガラス粉末と無機蛍光体粉末(SrS:Eu2+)を含む混合物をペーストの形態で塗布し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0096】
実施例1と同様にして、結晶化ガラスの表面に、ペーストを塗布し、焼成して発光色変換部材を作製した。
【0097】
このようにして得られた発光色変換部材について、ガラス焼結層の肉厚を測定したところ、40μmであった。また、結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.390、y=0.390であり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0098】
尚、結晶化ガラスについては、モル%でSiO2 34%、Al23 35%、Y23 12%、GeO2 6%、Gd23 9%、Li2O 3%、CaO+MgO+Sc23 0.5%、Ce23 0.5%の組成を有するものを用い、実施例1と同様にして作製し、肉厚が0.5mmのものを用いた。この結晶化ガラスについて、析出結晶の同定を行ったところ、YAG結晶が析出しており、また、結晶化ガラス後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、実施例1と同様のスペクトルが観測された。
【0099】
ガラス焼結層を得るためのペーストについては、以下のように作製した。
【0100】
ガラス粉末については、モル%で、SiO2 60%、B23 5%、CaO 10%、BaO 15%、Al23 5%、ZnO 5%の組成を有するガラスを用い、実施例1と同様にして作製し、平均粒径が2.5μmのものを用いた。次に、作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末として、SrS:Eu2+(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して混合粉末を作製した。次いで、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてエチルセルロースを6質量%、溶剤としてテルピネオールを90質量%添加し、混合してペーストを作製した。尚、上記方法で作製したペーストを用いて、多孔質ムライトセラミック基板上に塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成し、焼成してガラス焼結層のみを作製し、得られたガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと波長620nm付近に中心を持つ赤色のスペクトルが観測された。
【実施例3】
【0101】
実施例3は、結晶化ガラス表面に、ガラス粉末と無機蛍光体粉末(CaS:Eu2+)を含む混合物をペーストの形態で塗布し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0102】
実施例1及び2と同様にして、結晶化ガラスの表面に、ペーストを塗布し、焼成して発光色変換部材を作製した。
【0103】
このようにして得られた発光色変換部材について、結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.390、y=0.390であり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0104】
尚、結晶化ガラスについては、実施例2で作製したものと同じものを用いた。
【0105】
また、ガラス焼結層を得るためのペーストについては、実施例2で作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末として、CaS:Eu2+(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、ペースト化したものを用いた。尚、結合剤及び溶剤の種類、分量は、実施例2と同じにして作製した。また、上記方法で作製したペーストを用いて多孔質ムライトセラミック基板上に塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成し、焼成してガラス焼結層のみを作製し、得られたガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと波長650nm付近に中心を持つ赤色のスペクトルが観測された。
【実施例4】
【0106】
実施例4は、結晶化ガラス表面に、Eu23をガラス成分として含有するガラス粉末をグリーンシートの形態で積層し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0107】
発光色変換部材は以下のようにして作製した。
【0108】
まず、結晶化ガラスとガラス焼結層を得るためのグリーンシートを用意した。次に、結晶化ガラスの表面に、グリーンシート(肉厚50μm)を積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して発光色変換部材を作製した。
【0109】
このようにして得られた発光色変換部材について、ガラス焼結層の肉厚を測定したところ、40μmであった。また、結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.390、y=0.400であり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0110】
結晶化ガラスについては、実施例2で作製したものと同じものを用いた。
【0111】
ガラス焼結層を得るためのグリーンシートについては、以下のように作製した。
【0112】
実施例1で作製したガラス粉末100に対して、結合剤としてポリビニルブチラール樹脂を12質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量%、溶剤としてトルエンを40質量%添加し、混合してスラリーを作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、肉厚50μmのグリーンシートを得た。
【0113】
上記グリーンシートを用いて作製したガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、実施例1と同様のスペクトルが観測された。尚、ガラス焼結層は、上記方法で作製したグリーンシートを、多孔質ムライトセラミック基板上に積層し熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して、ムライト基板を除去して得たものである。
【実施例5】
【0114】
実施例5は、結晶化ガラス表面に、ガラス粉末と無機蛍光体粉末(SrS:Eu2+及びSrBaSiO4:Eu2+)を含む混合物をグリーンシートの形態で積層し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0115】
実施例4と同様にして、結晶化ガラスの表面に、グリーンシート(肉厚50μm)積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して発光色変換部材を作製した。
【0116】
このようにして得られた発光色変換部材について、ガラス焼結層の肉厚を測定したところ、40μmであった。結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でCIE座標でx=0.430、y=0.380でありであり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0117】
尚、結晶化ガラスについては、実施例2で作製したものと同じものを用いた。
【0118】
ガラス焼結層を得るためのグリーンシートについては、以下のように作製した。
【0119】
実施例2で作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末として、SrS:Eu2+(平均粒径:8μm)及びSrBaSiO4:Eu2+(平均粒径:8μm)を、質量比で94:3:3の割合で添加したものを用いた。尚、結合剤、可塑剤及び溶剤の種類、分量については、実施例4と同じにして作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、肉厚50μmのグリーンシートを得た。また、上記グリーンシートを用いて多孔質ムライトセラミック基板上に積層し熱圧着し、焼成してガラス焼結層のみを作製し、得られたガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと波長525nm付近に中心を持つ緑色のスペクトル及び波長620nm付近に中心を持つ赤色のスペクトルが観測された。尚、ガラス焼結層は、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して、ムライト基板を除去して得たものである。
【実施例6】
【0120】
実施例6は、結晶化ガラス表面に、ガラス粉末と無機蛍光体粉末(CaS:Eu2+及びSrBaSiO4:Eu2+)を含む混合物をグリーンシートの形態で積層し焼成して作製した発光色変換部材である。
【0121】
実施例4と同様にして、結晶化ガラスの表面に、グリーンシート(肉厚50μm)を積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して発光色変換部材を作製した。
【0122】
このようにして得られた発光色変換部材について、ガラス焼結層の肉厚を測定したところ、40μmであった。結晶化ガラス側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でCIE座標でx=0.430、y=0.380でありであり、演色性の高い電球色の白色光が得られた。
【0123】
尚、結晶化ガラスについては、実施例2で作製したものと同じものを用いた。
【0124】
ガラス焼結層を得るためのグリーンシートについては、以下のように作製した。
【0125】
実施例2で作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末として、CaS:Eu2+(平均粒径:8μm)及びSrBaSiO4:Eu2+(平均粒径:8μm)を、質量比で94:3:3の割合で添加したものを用いた。尚、結合剤、可塑剤及び溶剤の種類、分量については、実施例4と同じにして作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、肉厚50μmのグリーンシートを得た。また、上記グリーンシートを用いて多孔質ムライトセラミック基板上に積層し熱圧着し、焼成してガラス焼結層のみを作製し、得られたガラス焼結層(肉厚40μm)について、ガラス焼結層後方から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射し、前方から出る光を蛍光分光光度計を用いて測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色のスペクトルと波長525nm付近に中心を持つ緑色のスペクトル及び波長620nm付近に中心を持つ赤色のスペクトルが観測された。尚、ガラス焼結層は、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して、ムライト基板を除去して得たものである。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の発光色変換部材は、LED用途に限られるものではなく、レーザーダイオード等のように、ハイパワーの励起光を発するものに用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】結晶化ガラスとガラス焼結層とからなる発光色変換部材を示す説明図である。
【符号の説明】
【0128】
1 ガラス焼結層
2 結晶化ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを有する発光色変換部材であって、結晶化ガラス基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発する性質を有することを特徴とする発光色変換部材。
【請求項2】
波長300〜500nmの光によって励起されることを特徴とする請求項1記載の発光色変換部材。
【請求項3】
結晶化ガラス基材が、励起光の一部または全部を吸収し、波長450〜780nmの光の蛍光を発する性質を有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光色変換部材。
【請求項4】
結晶化ガラス基材が、青色光の一部または全部を吸収し、黄色の蛍光を発する性質を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項5】
ガラス焼結層が、励起光の一部または全部を吸収し、波長500〜780nmの光の蛍光を発する性質を有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光色変換部材。
【請求項6】
ガラス焼結層が、青色光の一部または全部を吸収し、赤色及び/または緑色の蛍光を発する性質を有することを特徴とする請求項1、2及び5のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項7】
結晶化ガラス基材及びガラス焼結層が青色光の一部または全部を吸収し、結晶化ガラス基材からは黄色の蛍光を発し、ガラス焼結層からは赤色及び/または緑色の蛍光を発する性質を有しており、青色光を照射すると、発光色変換部材中を透過する青色光と結晶化ガラス基材及びガラス焼結層から発せられる蛍光とが合成されて、白色光を発することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項8】
結晶化ガラス基材表面にガラス焼結層を融着させることにより、結晶化ガラス基材とガラス焼結層とが密着してなることを特徴とする請求項1、2及び7のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項9】
結晶化ガラスの熱膨張係数をα1、ガラス焼結層の熱膨張係数をα2としたとき、α1−α2≦±1ppm/℃であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項10】
結晶化ガラス基材が、ガーネット結晶中にCe3+を含む結晶を析出してなることを特徴とする請求項1〜4及び7〜9のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項11】
ガーネット結晶が、YAG結晶またはYAG結晶固溶体であることを特徴とする請求項10記載の発光色変換部材。
【請求項12】
結晶化ガラス基材が、板状であり、且つ、0.1〜2.0mmの肉厚を有することを特徴とする請求項1〜4及び7〜11のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項13】
結晶化ガラス基材が、モル百分率で、SiO2+B23 10〜60%、Al23+GeO2+Ga23 15〜50%、Y23+Gd23 5〜30%、Li2O 0〜25%、TiO2+ZrO2 0〜15%、CaO+MgO 0〜5%、Ce23 0.01〜5%含有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜4及び7〜12のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項14】
ガラス焼結層が、ガラス成分としてEu23を含有するガラス粉末を焼成してなることを特徴とする請求項1、2及び5〜9のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項15】
ガラス粉末が、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%、Eu23 0.1〜5%含有することを特徴とする請求項14に記載の発光色変換部材。
【請求項16】
ガラス焼結層が、ガラス粉末、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなることを特徴とする請求項1、2及び5〜9のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項17】
ガラス粉末が、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%含有することを特徴とする請求項16に記載の発光色変換部材。
【請求項18】
無機蛍光体粉末が、波長300〜500nmに励起帯を有し、波長500〜780nmに発光ピークを有することを特徴とする請求項16に記載の発光色変換部材。
【請求項19】
無機蛍光体粉末が、赤色及び/または緑色に発光する性質を有することを特徴とする請求項16または18に記載の発光色変換部材。
【請求項20】
混合物が、質量比で、ガラス粉末70〜99.99%と無機蛍光体粉末0.01〜30%の範囲にあることを特徴とする請求項16に記載の発光色変換部材。
【請求項21】
ガラス焼結層が、ガラス粉末、有機系溶剤及びバインダー樹脂を含むペーストあるいはグリーンシートを焼成してなることを特徴とする請求項1、2、5〜9、14及び16のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項22】
ガラス焼結層が、0.01〜1.0mmの肉厚を有することを特徴とする請求項1、2、5〜9、14、16、21のいずれかに記載の発光色変換部材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39303(P2007−39303A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289594(P2005−289594)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】