説明

発光装置および電子機器、発光装置の製造方法

【課題】トップエミッション型の発光装置において発光素子の導電性が劣化することを抑制する。
【解決手段】第1基板10と、第1基板10上に形成された光反射層14と、光反射層14上に形成された画素電極16と、画素電極16上に形成された発光機能層18と、発光機能層18上に形成された電子注入層20と、電子注入層20上に形成されて半透過反射性を有する対向電極22と、を具備し、対向電極22はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、対向電極22の抵抗率が31×10−8Ω・m以下になるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の発光素子を利用した発光装置、及びそのような発光装置を備えた電子機器、ならびに発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(electroluminescent)素子や発光ポリマー素子などと呼ばれる有機発光ダイオード(organic light emitting diode、以下「OLED」という)素子などの発光素子を用いた発光装置が各種提案されている。この種の発光装置に用いられる発光素子は、有機EL材料などで形成される発光層が2つの電極に挟まれた構造であることが一般的である。
【0003】
例えば特許文献1には、アノードと、アノード上に形成される有機発光媒体と、有機発光媒体上に形成されるカソードとから構成される発光素子が開示されている。特許文献1において、有機発光媒体のうちアノードに接する領域は正孔輸送領域として作用する一方、カソードに接する領域は電子輸送領域として作用する。また、特許文献1において、カソードはMgAg(マグネシウム銀合金)で形成され、その組成はMg:Ag=10:1である。
【特許文献1】特許第2723242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、基板上にアノードを形成し、アノード上に有機発光媒体を形成し、有機発光媒体上にカソードを形成したうえで、有機発光媒体で発光した光を基板とは反対側のカソード側から取り出す構成(トップエミッション)を採用する場合、カソードには高透過性が求められるため、その膜厚を極力薄くすることが望ましい。しかしながら、特許文献1の構成においてカソードの膜厚を薄くすると、その抵抗値は膜厚と反比例するために著しく高い値を示す。このため、発光素子の導電性が劣化してしまうという問題があった。
【0005】
このような事情を背景として、本発明は、トップエミッション型の発光装置において発光素子の導電性が劣化することを抑制するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、基板と、基板上に形成された光反射層と、光反射層上に形成された第1電極と、第1電極上に形成された発光機能層と、発光機能層上に形成された電子注入層と、電子注入層上に形成されて半透過反射性を有する第2電極と、を具備し、第2電極はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、Ag比率が50原子%以上98原子%以下であることを特徴とする。
本構成によれば、電子注入層を用いAg比率範囲を上記範囲内に設定することにより、電子注入性が改善され、発光効率が向上する。
また、本発明に係る発光装置は、基板と、基板上に形成された光反射層と、光反射層上に形成された第1電極と、第1電極上に形成された発光機能層と、発光機能層上に形成された電子注入層と、電子注入層上に形成されて半透過反射性を有する第2電極と、を具備し、第2電極はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、第2電極の抵抗率が31×10−8Ω・m以下になるように設定されることを特徴とする。
【0007】
本発明においては、第2電極はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、第2電極の抵抗率が31×10−8Ω・m以下になるように設定されるから、発光素子の導電性が劣化することを抑制できるという利点がある。
【0008】
また、本発明に係る発光装置として、第2電極は、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属と、Agとの合金である態様とすることができる。より具体的には、第2電極はMgAgである態様とすることができる。
【0009】
また、本発明に係る発光装置として、電子注入層は、LiF、LiO、Liq、MgO、CaFのうちの何れかからなる態様とすることができる。より具体的には、電子注入層はLiFである態様とすることができる。
【0010】
ここで、電子注入層は絶縁材料で形成されるから、その膜厚が大きいと、発光素子を発光させる際に当該発光素子に印加される電圧(駆動電圧)の値が大きくなってしまう。駆動電圧の値が増大することを抑制するためには、電子注入層の膜厚を0.5nm〜2nmの範囲とすることが好ましい。
【0011】
本発明に係る発光装置は各種の電子機器に利用される。この電子機器の典型例は、発光装置を表示装置として利用した機器である。この種の機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。
【0012】
本発明に係る発光素子の製造方法は、基板上に前記光反射層を形成する工程と、光反射層上に第1電極を形成する工程と、第1電極上に発光機能層を形成する工程と、発光機能層上に電子注入層を形成する工程と、電子注入層上に第2電極を形成する工程と、を備え、電子注入層上に第2電極を形成する工程では、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属とAgとを電子注入層上に共蒸着させて第2電極を形成することを特徴とする。
【0013】
より具体的には、電子注入層上に第2電極を形成する工程において、金属とAgとの蒸着速度比は、2:1〜1:50の範囲である態様とすることもできる。この態様によれば、第2電極の抵抗率が31×10−8Ω・m以下になるように製造することができるから、発光素子の導電性が劣化することを抑制できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面においては、各部の寸法の比率は実際のものとは適宜に異ならせてある。
<A:第1実施形態>
<A−1:発光装置の構造>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光装置D1の構造を示す断面図である。図1に示すように、発光装置D1は複数の発光素子U(Ur,Ug,Ub)が第1基板10の面上に配列された構成となっている。各発光素子Uは複数の色彩(赤色・緑色・青色)の何れかに対応した波長の光を発生する要素である。これら各要素において、発光機能層は共通であり、後述する反射層と半反射性を有する対向電極に挟まれた光学長を各発光要素で調整して、共振現象を最適化することにより、各発光要素に対応した発光波長を取り出す。本実施形態では、上述した共振効果により、発光素子Urは赤色光を出射し、発光素子Ugは緑色光を出射し、発光素子Ubは青色光を出射する。本実施形態における発光装置D1は、各発光素子Uにて発生した光が第1基板10とは反対側に向かって出射するトップエミッション型である。したがって、ガラスなどの光透過性を有する板材のほか、セラミックスや金属のシートなど不透明な板材を第1基板10として採用することができる。
【0015】
第1基板10には、発光素子Uに給電して発光させるための配線が配置されているが、配線の図示は省略する。また、第1基板10には、発光素子Uに給電するための回路が配置されているが、回路の図示は省略する。
【0016】
図1に示すように、第1基板10上には隔壁12(セパレータ)が形成される。この隔壁12は、第1基板10上の表面上の空間を発光素子Uごとに仕切るものであり、絶縁性の透明材料、例えばアクリル、ポリイミドなどにより形成されている。
【0017】
複数の発光素子Uの各々は、光反射層14、画素電極16(第1電極)、発光機能層18、電子注入層20、対向電極22(第2電極)を有する。図1に示すように、第1基板10上には複数の光反射層14が形成される。これらの光反射層14は各発光素子Uに対応して配置される。各光反射層14は、光反射性を有する材料によって形成される。この種の材料としては、例えばアルミニウムや銀などの単体金属、またはアルミニウムや銀を主成分とする合金などが好適に採用される。本実施形態では、光反射層14として、株式会社フルヤ金属製の商品名「APC」(銀の合金)が使用され、その膜厚は80nmである。
【0018】
図1に示す画素電極16は陽極であり、光反射層14上に形成されて隔壁12で包囲される。画素電極16は、ITO(indium tin oxide)、IZO(indium zinc oxide、出光興産株式会社の登録商標)、またはZnOのような透明酸化物導電材料から形成される。本実施形態では、画素電極16はITOで形成され、その膜厚は発光素子Uの発光色ごとに相違する。その詳細な内容については後述する。ITOの膜厚を各発光要素で共通として、光反射層14とITOとの間にSiNやSiOなどの透明層を挿入して、この膜厚を制御して各発光要素に対応した光学長を得ることもできる。
また、光反射層14と画素電極16を兼用することもできる。例えばAgなどでは仕事関数が高く、正孔注入層に正孔を注入することができる。この場合、共振現象を最適化するために、各発光要素における光学長の調整は、発光機能層にて行なうことになる。
【0019】
図1に示すように、発光機能層18は各画素電極16および隔壁12を覆うように形成される。すなわち、発光機能層18は複数の発光素子Uにわたって連続しており、発光機能層18の特性は複数の発光素子Uについて共通である。詳細な図示は省略するが、発光機能層18は、画素電極16上に形成された正孔注入層と、正孔注入層上に形成された正孔輸送層と、正輸送層上に形成された発光層と、発光層上に形成された電子輸送層とからなる。
【0020】
本実施形態では、正孔注入層として、出光興産株式会社製の商品名「HI−406」が使用され、その膜厚は40nmである。また、正孔輸送層として、出光興産株式会社製の商品名「HT−320」が使用され、その膜厚は15nmである。なお、正孔注入層および正孔輸送層を、正孔注入層と正孔輸送層の機能を兼ねる単一の層で形成することもできる。同様の機能を有すれば、他の材料も同様に用いることができる。
【0021】
発光層は、正孔と電子が結合して発光する有機EL物質から形成されている。本実施形態では、有機EL物質は低分子材料であって、白色光を発する。発光層のホスト材料としては出光興産株式会社製の商品名「BH−232」が使用され、そのホスト材料中に、赤色、緑色、青色のドーパントが混合されている。本実施形態では、赤色ドーパントの材料としては出光興産株式会社製の商品名「RD−001」が使用され、緑色ドーパントの材料としては出光興産株式会社製の商品名「GD−206」が使用され、青色ドーパントの材料としては出光興産株式会社製の商品名「BD−102」が使用される。本実施形態では、発光層の膜厚は65nmである。同様の機能を有すれば、他の材料も同様に用いることができる。
【0022】
本実施形態では、電子輸送層はAlq3(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)で形成され、その膜厚は10nmである。同様の機能を有すれば、他の材料も同様に用いることができる。
【0023】
図1に示す電子注入層20は、発光機能層18への電子注入効率を向上させるためのものであり、発光機能層18を覆うように形成される。すなわち、電子注入層20は複数の発光素子Uにわたって連続している。発光機能層18への電子注入効率を向上させるためには、陰極である対向電極22と発光機能層18との間の電位障壁が小さいことが望ましいから、電子注入層20としては、LiF、LiO、Liq、MgO、CaFなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物(特に弗化物)または酸化物などの金属化合物やキノリノール錯体が好適に採用される。本実施形態においては、電子注入層20としてLiF(フッ化リチウム)が採用される。
【0024】
また、電子注入層20は絶縁材料で形成されるから、その膜厚が大きいほど発光素子Uの駆動電圧も増大する。発光素子Uの駆動電圧の値が増大することを抑制するためには、電子注入層20の膜厚は0.5nm〜2nmの範囲内であることが好ましい。本実施形態では、電子注入層20の膜厚は1nmに設定される。ただし、キノリノール錯体は電子輸送性を有するため、電子輸送層を兼ねて40nm程度までは積層することができる。
【0025】
図1に示す対向電極22は陰極であり、電子注入層20を覆うように形成される。すなわち、対向電極22は複数の発光素子Uにわたって連続している。対向電極22は、その表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過反射層として機能し、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属と、Agとの合金から形成される。本実施形態では、対向電極22はMgAg(マグネシウム銀合金)で形成される。後述するように、本実施形態においては、MgおよびAgを電子注入層20上に共蒸着させて対向電極22を形成する。
【0026】
また、対向電極22の透過性を確保するためには、対向電極22の膜厚は30nm以下であることが好ましい。ただし、あまり薄いと対向電極22の抵抗が高くなり、パネル駆動しにくくなるため、厚みは10nm以上あることが好ましい。本実施形態では、対向電極22の膜厚は16nmに設定した。
【0027】
発光機能層18、電子注入層20、対向電極22は複数の発光素子Uに共通であるが、個々の画素電極16は他の画素電極16から離れているため、個々の画素電極16と対向電極22との間で電流が流れたときには、その画素電極16に重なった位置でのみ発光機能層18が発光する。つまり、隔壁12は複数の発光素子Uを区分している。
【0028】
本実施形態に係る発光装置D1においては、光反射層14と対向電極22との間で発光機能層18が発する光を共振させる共振器構造が形成される。すなわち、発光機能層18が発する光は光反射層14と対向電極22との間で往復し、共振によって特定の波長の光が強められて対向電極22を透過して観察側(図1の上方)に進行する(トップエミッション)。
【0029】
発光素子Urでは発光機能層18で発した白色光のうち赤色が強められ、発光素子Ugでは緑色が強められ、発光素子Ugでは青色が強められるように、各発光素子Uにおける画素電極16の膜厚が調整される。より具体的には、本実施形態においては、発光素子Urにおける画素電極16の膜厚は110nmに設定され、発光素子Ugにおける画素電極16の膜厚は70nmに設定され、発光素子Ubにおける画素電極16の膜厚は30nmに設定される。
【0030】
図1に示すように、対向電極22上には、発光素子Uに対する水や外気の浸入を防ぐための保護層であって、無機材料からなるパシベーション層24が形成される。パシベーション層24は、窒化珪素や酸窒化珪素などのガス透過率が低い無機材料から形成される。本実施形態では、パシベーション層24は酸窒化珪素で形成され、その膜厚は225nmである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態では、第1基板10上に形成された複数の発光素子Uと対向するように第2基板30が配置される。第2基板30はガラスなどの光透過性を有する材料で形成される。第2基板30のうち第1基板10との対向面には、カラーフィルタ32および遮光膜34が形成される。遮光膜34は、各発光素子Uに対応して開口36が形成された遮光性の膜体である。開口36内にはカラーフィルタ32が形成される。
【0032】
本実施形態では、発光素子Urに対応する開口36内には赤色光を選択的に透過させる赤色用カラーフィルタ32rが形成され、発光素子Ugに対応する開口36内には緑色光を選択的に透過させる緑色用カラーフィルタ32gが形成され、発光素子Ubに対応する開口36内には青色光を選択的に透過させる青色用カラーフィルタ32bが形成される。
【0033】
カラーフィルタ32および遮光膜34が形成された第2基板30は、封止層26を介して第1基板10と貼り合わされる。封止層26は、透明の樹脂材料、例えばエポキシ樹脂などの硬化性樹脂から形成される。
【0034】
図2は、本実施形態の発光素子Ugの対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が10:1、2:1、1:1、1:3、1:9、1:20、1:50、および0:100の場合の各々についての各種データの測定結果を示す図である。図2に示す抵抗率は対向電極22の抵抗率を表す。また、図2において、電圧、電流効率、電力効率の各データは、対向電極22に流れる電流の密度を17.5mA/cmに設定したときのデータである。図2に示す電圧は画素電極16と対向電極22との間に印加される電圧を表す。また、図2に示す電流効率は発光素子Ugにおける電流1A当たりの発光強度を表す。さらに、図2に示す電力効率は発光素子Ugにおける電力1W当たりの発光強度を表す。なお、図2においては、緑色光を出射する発光素子Ugのみについての各種データの測定結果が示されているが、他の発光素子UrおよびUbについても同様の結果となる。
【0035】
図2(対向電極22の膜厚は16nm)に示されるように、MgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合における抵抗率は、他の場合に比べて著しく高い値を示すことが分かる。発光素子の導電性の劣化を抑制するためには、対向電極22の抵抗率は31×10−8Ω・m以下であることが好ましく、本実施形態では、MgおよびAgの蒸着速度比の下限値(Agの蒸着速度の比率が最小のときのMgおよびAgの蒸着速度比)は2:1に設定される。なお、蒸着速度比は、蒸着サンプルをXRF分析した結果、原子数比率とほぼ一致することが分かった。
【0036】
次に、MgおよびAgの蒸着速度比の上限値(Agの蒸着速度の比率が最大のときのMgおよびAgの蒸着速度比)について説明する。図2に示されるように、Agの蒸着速度の比率が増加するにつれてその抵抗率は減少していくため、Agの蒸着速度の比率が大きいほど、各発光要素を集積してパネル化した場合、各発光要素への給電能力は高められることになる。
【0037】
ここで、対向電極22がAgのみから形成される場合(MgおよびAgの蒸着速度比が0:10の場合)を想定する。Ag原子間には互いに結合しようとする力(凝集しようとする力)が働くから、対向電極22がAgのみで形成される場合においてその膜厚が30nm以下であると、Ag原子同士が凝集して島状になってしまい、膜が不連続になってしまう。本実施形態における対向電極22の膜厚は16nmであるから、当該対向電極22をAgのみで形成する場合には、Ag原子同士が凝集して島状になってしまい、膜が不連続になってしまう。これにより、対向電極22の抵抗率は測定不可能なほどの高い値を示す。
【0038】
図3は、発光素子Ugの対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合、3:1の場合、1:1の場合、1:3の場合、1:10の場合、0:10の場合の各々における当該対向電極22の表面粗さを示す図である。図3に示されるように、MgおよびAgの蒸着速度比が0:10の場合(対向電極22がAgのみから形成される場合)における対向電極22の表面粗さを示す値は、他の場合における対向電極22の表面粗さを示す値に比べて大きい。すなわち、対向電極22がAgのみから形成される場合は、Ag原子同士が凝集することによって凹凸部が発生していることが分かる。一方、対向電極22がMgとAgとの合金で形成される場合は、Ag原子間にMg原子が介在することによってAg原子同士の凝集が抑制されるから、対向電極22がAgのみから形成される場合に比べて凹凸部の発生が抑制されることが分かる。
【0039】
以上より、Agの蒸着速度の比率が大きいほどその抵抗率は減少するものの、MgおよびAgの蒸着速度比が0:100に近づくと、Ag原子同士が凝集して島状になってしまうために対向電極22の抵抗率が著しく高い値を示し、パネル化した場合の、各発光要素への給電性能が劣化するという問題が起こる。このため、MgおよびAgの蒸着速度比の上限値は、給電性能の劣化を抑制できる範囲で設定する必要がある。
【0040】
図4は、発光素子Ugの対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合、1:9の場合、1:20の場合、1:50の場合の各々について、画素電極16と対向電極22との間に印加される電圧と、対向電極22における電流密度との関係を示す図である。図4において、Mgに対するAgの比率が高まると、定電圧での電流密度が高まる、すなわち効率的に電流を注入できることが分かる。これは、電子注入層としてLiFを用いた場合、対向電極22(陰極)を形成するMgAg中のAg比率が高まると、電子注入性が改善されるためである。
【0041】
図5は、発光素子Ugの対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合、1:9の場合、1:20の場合、1:50の場合の各々について、画素電極16と対向電極22との間に印加される電圧と、発光素子Ugの輝度との関係を示す図である。図5において、Ag比率が高まると、定電圧での輝度が高まることが分かる。これは、先の図4で示した電流注入性の改善と、Ag比率が高まることにより光取り出し損失が低減し、効率的に光を取り出せるようになったためと考えられる。
図6にMgAg薄膜のAg比率を変化させた場合の屈折率特性を示した。
【0042】
また、図7にMgAg薄膜のAg比率および膜厚を変化させた場合の光損失特性を示した。図7の縦軸における「R」はMgAg薄膜の反射率を示し、「T」は透過率を示す。そして、1−(R+T)はMgAg薄膜の光の吸収率を示し、この値が大きいほど光損失が大きい。
【0043】
図7において、MgAg薄膜の膜厚が11nmであってMgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合と、膜厚が10nmであってMgおよびAgの蒸着速度比が1:10の場合とを比較すると、同じような膜厚(10〜11nm)でのMgAg比率に応じた光損失の違いが分かる。図7に示されるように、MgおよびAgの蒸着比が1:10の場合は、16nmまで膜厚が厚くなっても大きな光損失にはならないことが分かる。このため、Ag比率を高めると、光取り出し効率が向上する。
【0044】
図8は、発光素子Ugの対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が10:1の場合、1:9の場合、1:20の場合、1:50の場合の各々について、発光素子Ugに流れる電流密度と、発光素子Ugの輝度との関係を示す図である。図8において、Ag比率が高まると一定電流での輝度は高まることが分かる。これは電子注入層としてLiFを用いた場合には、その上に積層する陰極(対向電極22)においてAg比率が高まると電子注入性が改善されるためである。さらに、Ag比率が高まると、陰極の光学定数が改善され、光損失が減少し、光取り出し効率が改善される。
【0045】
以上より、Mg:Agの比率は1:20辺りが最適であることが分かる。
【0046】
ここで、図4、図5、図8に示されるように、Ag比率が高まると電流は入りやすく、輝度は出やすくなるが、Mg:Ag=1:50では電流は若干入りにくくなり、輝度も出にくくなる。本実施形態では、Mg:Ag=1:20で最適なところがある。発光面観察すると、Mg:Ag=1:50では陰極の表面が荒れることによる発光不良が観察され、Mg含有量が少なすぎることによる膜質の低下による特性劣化が見られる。従って、Ag含有量の上限は98%と判断するのが適切である。
【0047】
以上より、本実施形態においては、対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比は2:1〜1:50の範囲に設定される。
また、本実施形態に示した発光素子を用いて、表示サイズが8インチ、画素開口率が60%、カラーフィルターと円偏光板を装着し、表示輝度が150cd/mと仮定してパネル計算を行うと、陰極に要求されるシート抵抗はおよそ4.5Ω/□となる。図2に示した抵抗率から、陰極厚み16nmでのシート抵抗を見積もるとMg:Ag=1:20で、およそ4.5Ω/□となり、この要求特性を満足できる。
このように本実施形態によれば、対向電極22の抵抗率を所定基準値以下(31×10−8Ω・m以下)に設定することができるから、発光素子の導電性を良好な状態にすることができるという利点がある。
【0048】
ところで、図2において、MgおよびAgの蒸着速度比が1:3、1:9、1:20、1:50、0:100の場合の各々における電流効率および電力効率の値は、他の場合に比べて高い値を示している。これは、対向電極22におけるAgの含有率が所定の基準値(50原子%)を超えると、電子注入層20であるLiFの電子注入性が十分に発揮されて発光素子の導電性が一層向上するためである。従って、電子注入層20の電子注入性を十分に発揮させて発光素子の導電性をより良好な状態にするために、MgおよびAgの蒸着速度比を1:1〜1:50(より好ましくは1:3〜1:50)の範囲に設定することもできる。
【0049】
<A−2:発光装置の製造方法>
次に、図9および図10を参照しながら、本実施形態の発光装置D1を製造する方法について説明する。
【0050】
先ず、公知の手法で第1基板10上に複数の光反射層14をマトリクス状に形成し(図9の工程P1)、光反射層14上に画素電極16を形成する(図9の工程P2)。続いて、隔壁12を格子状に形成する(図9の工程P3)。例えば隔壁12の材料となるアクリルまたはポリイミドに感光性材料を混合して、フォトリソグラフィーの手法で露光により隔壁12をパターニングすることができる。
【0051】
次に、蒸着などの公知の手法で隔壁12および画素電極16を覆うように発光機能層18を形成し(図9の工程P4)、発光機能層18上に電子注入層20を形成する(図9の工程P5)。さらに、電子注入層20上に対向電極22を形成する(図9の工程P6)。
【0052】
工程P6では、MgおよびAgを電子注入層20上に共蒸着させて対向電極22を形成する。上述したように、MgおよびAgの蒸着速度比を2:1〜1:50の範囲内で設定することが好適である。
【0053】
次いで、対向電極22上にパシベーション層24を形成する(図10の工程P7)。さらに、パシベーション層24上に封止層26を塗布したうえで、カラーフィルタ32および遮光膜34が形成された第2基板30を貼り合わせる(図10の工程P8)。以上が本実施形態の発光装置D1の製造方法である。
【0054】
<B:第2実施形態>
第2実施形態においては、対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が1:9に設定される。その他の構成は上述の第1実施形態と同じであるから重複する部分については説明を省略する。
【0055】
図11は、第2実施形態の発光素子Ugにおける対向電極22の膜厚が10nmの場合、13nmの場合、16nmの場合の各々についての各種データの測定結果を示す図である。図11に示すシート抵抗は対向電極22のシート抵抗を表し、図11に示す電圧、電流効率、電力効率の各データは、対向電極22に流れる電流の密度を17.5mA/cmに設定したときのデータである。なお、図示は省略しているが、対向電極22の膜厚が20nmの場合における各種データの値は、膜厚が16nmの場合における各種データの値と同等である。
【0056】
図11に示されるように、対向電極22の膜厚が大きいほどそのシート抵抗は小さくなり、電圧、電流効率、電力効率などの特性はほぼ保持されることが分かる。すなわち、対向電極22の膜厚は、対向電極22の透過性を確保できる30nm以下の範囲内においてその値が大きいほど好ましい。また、対向電極22の膜厚が大きいほど共振によって強められる色の純度が高くなるという利点もある。
【0057】
<C:第3実施形態>
図12は、本発明の第3実施形態に係る発光装置D2の構造を示す断面図である。上述の各実施形態では、発光機能層18は全ての発光素子Uに共通であるが、第3実施形態においては、発光機能層18が発光素子Uの発光色ごとに別個に形成される。
【0058】
図12に示すように、各発光機能層18(18r,18g,18b)は、画素電極16上に形成された正孔注入層41と、正孔注入層41上に形成された正孔輸送層43と、正孔輸送層43上に形成された発光層45(45r,45g,45b)と、発光層45上に形成された電子輸送層47とからなる。発光素子Urの発光機能層18rはR(赤)の波長領域の光を発生する有機EL物質から形成される発光層45rを含み、発光素子Ugの発光機能層18gはG(緑)の波長領域の光を発生する有機EL物質から形成される発光層45gを含み、発光素子Ubの発光機能層18bはB(青)の波長領域の光を発生する有機EL物質から形成される発光層45bを含む。図12に示すように、各発光機能層18は、隔壁12で区分された発光素子Uの区域ごとに形成され、隣の発光機能層18とはつながっていない。
【0059】
図12においては、発光素子Urでは赤色が強められ、発光素子Ugでは緑色が強められ、発光素子Ubでは青色が強められるように、各発光素子Uにおける正孔輸送層43の膜厚が調整される。なお、第3実施形態においては、各発光素子Uにおける正孔輸送層43の膜厚を調整することによって、各発光素子Uの発光色を強めているが、これに限らず、画素電極16、正孔注入層41、発光層45、電子輸送層47の何れかの膜厚を調整することによっても各発光素子Uの発光色を強めることができる。
【0060】
第3実施形態においても、上述の各実施形態と同様、対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比を2:1〜1:50の範囲に設定することにより、当該対向電極22の抵抗率を所定基準値以下(31×10−8Ω・m以下)に設定することができるから、発光素子の導電性を良好な状態にすることができる。
【0061】
<D:変形例>
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。また、以下に示す変形例のうちの2以上の変形例を組み合わせることもできる。
【0062】
(1)変形例1
上述の各実施形態では、対向電極22としてMgAgが採用されているが、これに限らず、対向電極22は、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属と、Agとの合金から形成することができる。また、上述の各実施形態では、電子注入層20としてLiFが採用されているが、これに限らず、電子注入層20は、LiF、LiO、Liq、MgO、CaFなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物(特に弗化物)または酸化物などの金属化合物やキノリノール錯体で形成することができる。
【0063】
(2)変形例2
上述の各実施形態においては、対向電極22を形成するMgおよびAgの蒸着速度比が2:1〜1:50の範囲に設定される態様が例示されているが、これに限らず、MgおよびAgの蒸着速度比は、その合金比率が原子比率で1:1〜2:98に納まる範囲内で任意に変更が可能である。要するに、対向電極22はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、ほぼ蒸着比率に一致する。
【0064】
(3)変形例3
上述の各実施形態においては、発光機能層18における発光層の有機EL物質は低分子材料であるが、高分子材料の有機EL物質で発光層を形成することもできる。この場合、発光層は、インクジェットまたはスピンコートによって隔壁12で画定された空間内に配置される。
さらに、上述の各実施形態においては、放出光の純度を高めるために光が放出される側にカラーフィルタ32が設けられているが、例えばカラーフィルタ32を設けない構成とすることもできる。
【0065】
<E:応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図13は、第1実施形態に係る発光装置D1を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての発光装置D1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この発光装置D1はOLED素子を使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。なお、図13の構成における表示装置として、第3実施形態に係る発光装置D2を採用することもできる。
【0066】
図14に、第1実施形態に係る発光装置D1を適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての発光装置D1を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置D1に表示される画面がスクロールされる。なお、図14の構成における表示装置として、第3実施形態に係る発光装置D2を採用することもできる。
【0067】
図15に、第1実施形態に係る発光装置D1を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての発光装置D1を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が発光装置D1に表示される。なお、図15の構成における表示装置として、第3実施形態に係る発光装置D2を採用することもできる。
【0068】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図13から図15に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態に係る発光装置の断面図である。
【図2】同実施形態に係る対向電極の各種データの測定結果を示す図である。
【図3】同実施形態に係る対向電極の表面粗さの測定結果を示す図である。
【図4】同実施形態において、画素電極と対向電極との間に印加される電圧と、対向電極における電流密度との関係を示す図である。
【図5】同実施形態において、画素電極と対向電極との間に印加される電圧と、発光素子の輝度との関係を示す図である。
【図6】同実施形態において、対向電極における屈折率特性を示す図である。
【図7】同実施形態において、対向電極における光損失特性を示す図である。
【図8】同実施形態において、対向電極における電流密度と、発光素子の輝度との関係を示す図である。
【図9】同実施形態に係る発光装置の製造方法を説明するための工程図である。
【図10】同実施形態に係る発光装置の製造方法を説明するための工程図である。
【図11】第2実施形態に係る対向電極の各種データの測定結果を示す図である。
【図12】第3実施形態に係る発光装置の断面図である。
【図13】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図14】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図15】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
10……第1基板、12……隔壁、14……光反射層、16……画素電極(第1電極)、18……発光機能層、20……電子注入層、22……対向電極(第2電極)、D1,D2……発光装置、U……発光素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された光反射層と、
前記光反射層上に形成された第1電極と、
前記第1電極上に形成された発光機能層と、
前記発光機能層上に形成された電子注入層と、
前記電子注入層上に形成されて半透過反射性を有する第2電極と、を具備し、
前記第2電極はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、Ag比率が50原子%以上98原子%以下である、
発光装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された光反射層と、
前記光反射層上に形成された第1電極と、
前記第1電極上に形成された発光機能層と、
前記発光機能層上に形成された電子注入層と、
前記電子注入層上に形成されて半透過反射性を有する第2電極と、を具備し、
前記第2電極はAg合金で形成され、そのAgの含有量は、前記第2電極の抵抗率が31×10−8Ω・m以下になるように設定される、
発光装置。
【請求項3】
前記第2電極は、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属と、Agとの合金である、
請求項1または請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第2電極はMgAgである、
請求項1から請求項3の何れかに記載の発光装置。
【請求項5】
前記電子注入層は、LiF、LiO、Liq、MgO、CaFのうちの何れかからなり、その膜厚は0.5nm〜2nmである、
請求項1から請求項4の何れかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記電子注入層はLiFである、
請求項1から請求項5の何れかに記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の発光装置を具備する電子機器。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の発光装置を製造する方法であって、
前記基板上に前記光反射層を形成する工程と、
前記光反射層上に前記第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に前記発光機能層を形成する工程と、
前記発光機能層上に前記電子注入層を形成する工程と、
前記電子注入層上に前記第2電極を形成する工程と、を備え、
前記電子注入層上に前記第2電極を形成する工程では、Mg、Cu、Zn、Pd、Nd、Alのうちの何れかの金属とAgとを前記電子注入層上に共蒸着させて前記第2電極を形成する、
発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記電子注入層上に前記第2電極を形成する工程において、前記金属と前記Agとの蒸着速度比は、2:1〜1:50の範囲である、
請求項8に記載の発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2電極はMgAgであり、
前記電子注入層はLiFである、
請求項9に記載の発光装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−55919(P2010−55919A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219266(P2008−219266)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】