説明

発泡タイル及びその製造方法

【課題】薄板化すると共に、簡便且つ低コストで製造する。
【解決手段】セラミックスから成る基材の表面に発泡釉薬層を形成することによって、緻
密に形成した基材で製品強度を確保すると共に、発泡釉薬層で断熱性を確保し、また基材
、或いは基材と成すべく調製した成形体に発泡性釉薬を施した後、かかる施釉品を前記発
泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で、且つ、前記基材の軟化温度よりも低温で焼成す
ることによって、焼成時の基層(基材)の寸法変化を抑制し、製造時の厳密な管理を不要
にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製にして浴室の床や壁専用の発泡タイル及びその製造方法に関
する。
【背景技術】
【0002】
従来、陶器・セッ器・磁器等のセラミックスから成るタイルは、建築部材として耐久性
及び耐水性に優れているばかりか、その美観や風合いから装飾部材としても好まれ、建築
物の床や壁に多用されていた。
しかしながら、上記タイル貼りの床や壁は、比熱や熱伝導性等の関係から、冬季には触
れるととても冷たく、素足で触れる浴室での使用には不快感を否めなかった。
そこで、本願発明者らは、SiO2 、Al23 及びアルカリ、アルカリ土類を主成分
としてなる焼結体であって、その焼結体が、内部に閉気孔を有する基層と、その基層の表
面に形成され、前記基層と略同組成の釉薬層とから構成されている浴室用の発泡セラミッ
クス製品、並びに、SiO2 、Al23 及びアルカリ、アルカリ土類を主成分とする窯
業原料と、焼成時に反応若しくは分解によって気体を発生して発泡体を形成する性質を有
する発泡剤とを混合、粉砕して坏土粉を作成し、その坏土粉を所望の形状に成形した後、
その成形品の表面に前記坏土粉と略同組成のものを施釉し、焼成する様にした浴室用の発
泡セラミックス製品の製造方法等を発明した(特許文献1参照)。
この発明品は、基層の内部に無数の閉気孔を有し、かかる気孔中のガスによって、断熱
性にとても優れ、冬季に触れても冷たく感じず、その快適な使用感から、浴室専用の内装
材として広く認知されるに至った。
又、上層が釉薬層であることから、汚れ難く、防カビ性にも優れ、更に釉薬層表面に凹
凸が付与されていることから、滑り難く、安全性にも優れていた。
【0003】
【特許文献1】特許第2607214号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記発明品はその品質に何ら問題はないが、断熱部が基層で、この基層に断
熱用ガスを多く封入せねばならず、断熱性及び強度を兼備させるためには、基層に充分な
厚みを要し、このため薄板化が困難で、保管場所の確保や搬送に費用を要した。
又、上記製造方法は、焼成時に基層において発泡するため、基層の膨張及び収縮を制御
するのがとても困難で、製造上厳密な管理を要した。
そこで、断熱性及び強度については勿論のこと、抗菌防カビ性、安全性等の点でも上記
発明品と同等以上の特性を備えた薄板状製品、並びに、より簡便且つ低コストで大量生産
可能な製造方法の発明が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、セラミックスから成る基材の表面に発泡釉薬層を形成する
ことによって、緻密に形成した基材で製品強度を確保すると共に、発泡釉薬層で断熱性を
確保し、また基材、或いは基材と成すべく調製した成形体に発泡性釉薬を施した後、かか
る施釉品を前記発泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で、且つ、前記基材の軟化温度よ
りも低温で焼成することによって、焼成時の基層(基材)の寸法変化を抑制し、製造時の
厳密な管理を不要にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
要するに本発明は、製品中、強度と断熱性を確保するための部分が異なるので、基材を
緻密に形成する一方、発泡釉薬層にガスを多量に封入することにより、強度と断熱性を共
に高い水準で兼備させることが出来、これにより製品を薄くして、保管や搬送に要する費
用の削減を図ることが出来る。
又、基材、或いは基材と成すべく調製した成形体に発泡性釉薬を施した後、かかる施釉
品を前記発泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で、且つ、前記基材の軟化温度よりも低
温で焼成したので、焼成時の基材の膨張及び収縮が小さく、寸法制御が容易となるため、
基材原料の成分管理、焼成温度・雰囲気等の管理を簡素化して、大量生産を容易化すると
共に、製品品質の安定、製造コストの低減をも図ることが出来る。
又、発泡性釉薬が加熱により反応若しくは分解してガスを発生する無機成分を含有して
成り、釉薬原料が充分に軟化・熔融する時にガスを発生するため、釉薬層を確実に発泡さ
せることが出来る。
【0007】
請求項2又は10に記載の発明によれば、発泡性釉薬が2層で、下層中に径の大きな閉
気孔が内在するので、下層では多くのガスを封入して、優れた断熱性を確保することが出
来、また上層は閉気孔が小さく、閉気孔周囲の釉薬部が肉厚であることから、使用により
上層表面が磨耗しても、閉気孔の露出による穴空きが発生し難く、例え露出しても、穴の
開口が小さいため、異物が溜まらず汚れない。
【0008】
請求項3、5、11及び13に記載の発明によれば、発泡タイルの表面に凹凸が存在す
るので、使用者の足裏とタイル表面との間に隙間が空き、隙間の空気が断熱材となって断
熱性が更に向上すること、並びに、足裏とタイル表面との接触面積が減少することから、
体感的な冷たさを更に和らげることが出来る。
又、凹凸が滑り止めとなり、安全性を向上させることが出来る。
【0009】
請求項4及び12に記載の発明によれば、発泡タイルの表面部において、内在する閉気
孔上部側の釉薬部を更に厚くすることにより、表面磨耗による穴空き発生を完全に防止す
ることが出来る。
【0010】
請求項6、7、14及び15に記載の発明によれば、浴室内での細菌増殖や、カビ発生
を防止出来るだけでなく、身体から洗い流した皮脂等の汚れが発泡タイルの表面に付着し
ても、汚れ成分を分解して除去する自浄作用を発揮するため、浴室内を常に衛生的に保つ
ことが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る発泡タイルは、セラミックス原料の成形体、或いは、前記成形体を焼成し
て得られた基材の表面に発泡性釉薬を施し、かかる施釉品を所定の温度で焼成して、形成
されている。
セラミックス原料は、窯炉の常用可能温度で焼結可能なものであれば良く、例えば、陶
石、蝋石、長石、石灰、粘土、珪石、アルミナ等の従前からの一般的窯業原料の中から、
成形時の可塑性、焼成時の耐火度等を考慮し、一種選択するか、二種以上を選択し混合し
て用いれば良い。
【0012】
発泡性釉薬は、加熱により反応若しくは分解してガスを発生する無機成分(発泡成分)
を含有して成り、かかる発泡成分を含有する釉薬原料としては、例えば、炭化珪素、新島
長石、シラス等が挙げられる。
つまり、この様な発泡成分を含有する釉薬原料と、非発泡性の一般釉薬原料(例えば、
フリット、長石、タルク、石灰、珪灰石、粘土、アルミナ等)とを配合して、発泡性釉薬
とすれば良い。
又、発泡成分含有の釉薬原料、並びに一般釉薬原料の選択、組み合わせや、夫々の配合
比率を調整することで、発泡性釉薬の発泡強度を調整することが可能である。
比較的大きな閉気孔を形成するものを強発泡性釉薬とし、これより小さな閉気孔を形成
するものを弱発泡性釉薬とし、成形体又は基材の表面に、前記強発泡性釉薬を施した後、
得られた施釉面上に更に弱発泡性釉薬を施せば、発泡釉薬層を多層にでき、これにより、
下層の閉気孔に比して上層の閉気孔が小径の発泡釉薬層を形成することが可能である。
尚、上記一般釉薬原料中のフリットとは、例えば、硼砂等の様に含有成分を水中溶出し
てしまう原料や、石灰等の様に加熱によりガスを発生する成分を、珪砂や粘土等と共に、
熔融しガラス化することで、原料として使用し易くしたものであり、アルミナ、シリカを
主成分とし、ナトリウム、カリウム等のアルカリ成分、マグネシウム、カルシウム、バリ
ウム等のアルカリ土類成分、硼酸等を含んだものが一般的である。
【0013】
又、発泡タイル表面の耐磨耗性の向上を図るべく、発泡性釉薬の施釉面上に非発泡性の
一般釉薬を施しても良く、また発泡タイル表面の摩擦係数増加を図るべく、発泡釉薬層又
は非発泡釉薬層の表面を凹凸状に形成しても良い。
凹凸の形成方法としては、発泡タイルの表面層を形成する釉薬、即ち発泡性釉薬又は非
発泡性釉薬に、耐火度の高い非熔融性原料を粉状又は粒状で添加したり、或いは、施釉時
にスプレー、ディスク等の装置を用いて、釉薬自体で凹凸を形成する様にしても良い。
更に、発泡タイル表面に抗菌防カビ作用、自浄作用を付与すべく、発泡タイルの表面に
抗菌防カビ処理を施しても良く、その方法としては、発泡タイルの表面に市販の抗菌防カ
ビ剤を塗布したり、焼き付けたり、或いは、発泡タイル表面を形成する釉薬に抗菌防カビ
剤を添加しても良い。
抗菌防カビ剤としては、酸化チタン系、銀系、亜鉛系等が挙げられ、これらは有機物を
分解する触媒作用を発揮し、而も酸化チタン系、銀系、亜鉛系のものは、耐火度が高く焼
成しても劣化しないため、釉薬に添加する場合に適している。
【0014】
そして、施釉品の焼成温度は、上記発泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で、且つ、
上記基材が軟化してしまう温度よりも低温に設定しなければならない。
又、成形体に施釉し、一度の焼成で、成形体の焼結と釉焼とを兼ねる場合は、発泡性釉
薬が熔融して発泡するだけでなく、成形体が焼結して基材となる温度以上でなければなら
ない。
【0015】
次に実施例を示し、本発明について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
以下に示す通り、本発明の方法で発泡タイルを試作し、各試作品について、人が触れた
時に感じる冷たさを評価した。
一般的なセッ器質タイルの坏土を平板状に加圧成形し、この成形体を1000℃で締め
焼きして、タイル素地を形成した。
一方、発泡性釉薬としては、末尾に示す表1に従って、各釉薬原料を配合し、この配合
物に適量の水と、解膠剤等のスリップ性状調製剤とを加え、粉砕混合して、発泡性釉薬1
及び2の泥漿を調製した。
そして、上記タイル素地に、垂らし掛けにて、全面的かつ均一厚さで、発泡性釉薬1を
施し、この施釉面上にディスク装置にて、凹凸状に発泡性釉薬2を施し、得られた施釉品
を1210℃、40分の条件で焼成した。
得られた発泡タイルは、何ら欠点がなく、一般的な非発泡釉薬層を形成したセッ器質タ
イルに比べ、明らかに冷たさを感じなかった。
この発泡タイルは、発泡釉薬層中、下層は厚さ約0.95mm、嵩密度約0.75で、
上層は厚さ約0.05mm、嵩密度約1.2であった。
【0017】
表1中の新島長石(東京都新島産出の抗火石)は、焼成により、これ自体が発泡するこ
とは既知であるが、本実施例の発泡性釉薬は、このことのみに依存せず、炭化珪素を組み
合わせ、熱反応で炭化珪素から発生する炭酸ガスを利用し、配合比率を増減させることで
、気孔量を変化させて、発泡強度を調整している。
又、アルカリ、アルカリ土類、硼酸等の熔融を促進させる成分を含有して成る熔融促進
原料(本実施例の場合にあっては、フリット、タルク、珪灰石。)を配合することによっ
て、釉薬の熔融温度・熔融粘度を下げ、配合比率を増減させることで、気孔径を変化させ
て、発泡強度を調整している。
つまり、発泡性釉薬2は発泡性釉薬1に比べ、新島長石の配合比率は高いが、炭化珪素
並びに熔融促進原料の配合比率が低いため、両釉薬の発泡強度は発泡性釉薬2よりも発泡
性釉薬1の方が強くなる。
【0018】
尚、本実施例において、締め焼き温度よりも釉焼温度が高く設定されているが、これは
選択した坏土と発泡性釉薬の耐火特性によるもので、必ずしも釉焼温度の方を高くしなく
ても良く、高い温度で締め焼きした後、これより低い温度で釉焼を行っても良い。
要するに、本発明の方法に従い、釉焼温度は発泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で
、且つ、素地の軟化温度よりも低温に設定してあれば良い。
【実施例2】
【0019】
実施例1と同様に、発泡性釉薬1及び2を2層に施した施釉品を作製し、この上に更に
スプレーにて発泡性釉薬2を噴き掛け、これを実施例1と同条件で焼成した。
得られた発泡タイルは、何ら欠点がなく、実施例1のものに比べ、冷たさを更に感じな
いものであった。
又、表面には、発泡性釉薬2による微小突起が無数形成され、触れてもざらついて滑ら
ず、摩擦係数の高ものであった。
【実施例3】
【0020】
実施例1と同様にして、発泡性釉薬1及び3を調製し、一方、セッ器質タイルの坏土を
平板状に加圧成形した後、乾燥し、これの表面に垂らし掛けにて、発泡性釉薬1を施し、
その上に更にディスク装置にて、発泡性釉薬3を施し、得られた施釉品を実施例1と同条
件で焼成した。
得られた発泡タイルは、何ら欠点がなく、実施例1のものに比べ、冷たさを更に感じな
いものであった。
又、表面には、発泡性釉薬3に含有のアルミナ粉が点在しており、触れてもざらついて
滑らず、摩擦係数の高いものであった。
【実施例4】
【0021】
実施例1と同様にして、発泡性釉薬4及び5を調製し、一方、セッ器質タイルの坏土を
平板状に加圧成形した後、乾燥し、これの表面に垂らし掛けにて、発泡性釉薬4を施し、
その上に更にディスク装置にて、発泡性釉薬5を施し、得られた施釉品を1230℃、2
4時間の条件で焼成した。
得られた発泡タイルは、何ら欠点がなく、やはり一般品に比べ、冷たさを感じないもの
であった。
又、表面には、発泡性釉薬5に含有のアルミナ粉が点在しており、やはり触れてもざら
ついて滑らず、摩擦係数の高いものであった。
【0022】
【数1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室専用のセラミックス製タイルであって、セラミックス基材の表面に発泡釉薬層が設
けられ、該発泡釉薬層に無数の閉気孔が内在することを特徴とする発泡タイル。
【請求項2】
発泡釉薬層は、上層と下層とから成り、下層の閉気孔に比して上層の閉気孔が小径であ
ることを特徴とする請求項1記載の発泡タイル。
【請求項3】
発泡釉薬層の表面に凹凸を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の発泡タイル

【請求項4】
発泡釉薬層上に非発泡釉薬層を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の発泡タ
イル。
【請求項5】
非発泡釉薬層の表面に凹凸を形成したことを特徴とする請求項4記載の発泡タイル。
【請求項6】
発泡釉薬層に抗菌防カビ処理を施したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の発泡
タイル。
【請求項7】
非発泡釉薬層に抗菌防カビ処理を施したことを特徴とする請求項4又は5記載の発泡タ
イル。
【請求項8】
浴室専用のセラミックス製タイルの製造方法であって、セラミックス基材の表面に、加
熱により反応又若しくは分解してガスを発生する無機成分を含有して成る発泡性釉薬を施
し、該施釉品を前記発泡性釉薬が熔融して発泡する温度以上で、且つ、前記基材の軟化温
度よりも低温で焼成する様にしたことを特徴とする発泡タイルの製造方法。
【請求項9】
浴室専用のセラミックス製タイルの製造方法であって、セラミックス原料を成形し、該
成形体の表面に、加熱により反応又若しくは分解してガスを発生する無機成分を含有して
成る発泡性釉薬を施し、該施釉品を前記成形体が焼結して基材と化すと共に、前記発泡性
釉薬が熔融して発泡する高温以上で、且つ、前記基材の軟化温度よりも低温で焼成する様
にしたことを特徴とする発泡タイルの製造方法。
【請求項10】
発泡性釉薬は、強発泡性釉薬と弱発泡性釉薬とから成り、強発泡性釉薬を施した後、そ
の上に更に弱発泡性釉薬を施す様にしたことを特徴とする請求項8又は9記載の発泡タイ
ルの製造方法。
【請求項11】
発泡性釉薬の施釉面に凹凸を形成する様にしたことを特徴とする請求項8、9又は10
記載の発泡タイルの製造方法。
【請求項12】
発泡性釉薬を施した後、その上に非発泡性釉薬を施す様にしたことを特徴とする請求項
8、9又は10記載の発泡タイルの製造方法。
【請求項13】
非発泡性釉薬の施釉面に凹凸を形成する様にしたことを特徴とする請求項12記載の発
泡タイルの製造方法。
【請求項14】
発泡性釉薬に、酸化チタン系、銀系、亜鉛系等の触媒から成る抗菌防カビ剤を添加する
様にしたことを特徴とする請求項8、9、10又は11記載の発泡タイルの製造方法。
【請求項15】
非発泡性釉薬に、酸化チタン系、銀系、亜鉛系等の触媒から成る抗菌防カビ剤を添加す
る様にしたことを特徴とする請求項12又は13記載の発泡タイルの製造方法。

【公開番号】特開2006−2357(P2006−2357A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177007(P2004−177007)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(390013309)不二見セラミック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】