説明

発泡充填具及び発泡充填具の取り付け構造

【課題】 中空構造体の中空室内における錆の発生を抑制することができ、中空空構造体にひずみを生じさせることがなく、中空構造体の組立を容易とする発泡充填具、及び発泡充填具の取り付け構造を提供すること。
【解決手段】 発泡充填具1は、平板状部材である押し当て部3、5を備えており、それらは略くの字型の部材である弾性変形部7により連結されている。弾性変形部7は、押し当て部3と押し当て部5とを近づけようとする向きの力が加えられたときは、その屈曲部の角度が小さくなるように弾性変形する。押し当て部3の上面には、板状部材である突起部9が立設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数のパネルによって構成された車両ボディのピラー等の中空構造体の制振性、防音性等を高めるために、中空構造体の中空室内に配置され、外部加熱により発泡し、中空室を充填、遮断する発泡充填具、及び発泡充填具の取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図9(b)に示すように、車両ボディーのピラーP1は、インナーパネルP3及びアウターパネルP5から構成され、内部に中空室P7を有する中空構造体である。従来より、このピラーP1の中空室P7に、発泡充填具P9を配置し、加熱により発泡させ、中空室P7を充填することで、制振、防音効果を高めることが行われてきた。
【0003】
発泡充填具P9の形態としては、図9(a)に示すように、一対の板状部材P11、P13と、それらの間を連結し、弾性変形可能な弾性変形部P15とから成るものが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この発泡充填具P9の取り付けは、まず、図9(a)に示すように、インナーパネルP3とアウターパネルP5とを組み付ける前に、発泡充填具P9を中空室P7に配置しておき、次に図9(b)に示すように、インナーパネルP3とアウターパネルP5とをスポット等で溶接する。このとき、発泡充填具P9の高さは、中空室P7の高さよりも小さいので、弾性変形部P15は押し縮められる。そして、弾性変形部P15の弾性変形により生じる押圧力により、板状部材P11はアウターパネルP5の内面に押しつけられ、板状部材P13はインナ−パネルP3の内面に押しつけられる。このことにより、発泡充填具P9は、ピラーP1に対し、一定の位置に固定される。
【特許文献1】特許第3340546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両製造工程中の電着液塗布工程において、ピラーP1の中空室P7に電着液が流れ込み、同室P7の内壁に電着液が塗布される。これは、中空室P7の内壁に錆が発生することを防止するためである。
【0006】
しかしながら、中空部P7の内壁のうち、発泡充填具P9の板状部材P11、P13が押し当てられている部分は、電着液が塗布されないため、後に錆が発生する恐れがある。
また、従来の発泡充填具P9は、上記のように弾性変形部P15の弾性変形力によりピラーP1に対して固定されるので、発泡充填具P9をしっかり固定しようとすると、板状部材P11及びP13による、インナ−パネルP3やアウターパネルP5への押圧力を大きくしなければならない。
【0007】
しかし、その場合は、ピラーP1にひずみ等が発生し易くなるという問題や、ピラーP1を組み立てるために大きな力が必要になり、作業性が悪くなるという問題が生じる。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、中空構造体の中空室内における錆の発生を抑制することができ、中空構造体にひずみを生じさせることがなく、中空構造体の組立を容易とする発泡充填具、及び発泡充填具の取り付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1の発明は、
外部加熱により発泡する発泡材からなる発泡充填具であって、弾性変形する弾性変形部と、前記弾性変形部を挟むように配置され、前記弾性変形部の弾性変形により相互の距離が変化する一対の押し当て部と、前記押し当て部において外向きに立設された突起部と、を有することを特徴とする発泡充填具を要旨とする。
【0009】
本発明の発泡充填具は、例えば、図4(b)に示すように、押し当て部3に外向きに立設された突起部9を備えているので、発泡充填具1をピラー100の中空部107に配置し、弾性変形した弾性変形部7により押し当て部3をアウターパネル103の内壁に押し当てても、押し当て部3の上面とアウターパネル103との間に隙間が生じる。中空部107の内壁に電着液を塗布する際には、この隙間を電着液が流れ、押し当て部3に対向する位置にあるアウターパネル103の表面にも電着液が塗布される。つまり、本発明では、押し当て部3に突起部9を備えることにより、押し当て部3に妨げられることなく、アウターパネル103に電着液を塗布することができる。そのことにより、アウターパネル103の内壁での錆の発生を抑制できる。
【0010】
本発明では、突起部を複数備えた押し当て部の長手方向において、少なくともひとつ突起部の幅aと、その突起部から隣接する突起部までの間隔bとの比率b/aが0.01〜100の範囲にあることが好ましい。b/aが0.01以上であることにより、電着液の流路が狭くなることがない。また、b/aが100以下であることにより、押し当て部のうちの突起部の間の部分が大きく変形することがなく、押し当て部が中空構造体の内壁に近接することがない。そのことにより、確実に電着液の流路が確保できる。
【0011】
また、本発明では、前記押し当て部において、前記突起部を有する面全体の面積cと、前記突起部が占める面積dとの比率d/cが、0.001〜0.9の範囲であることが好ましい。d/cが0.001以上であることにより、押し当て部のうちの突起部の間の部分が大きく変形することがなく、押し当て部が中空構造体の内壁に近接することがない。そのことにより、確実に電着液の流路が確保できる。また、d/cが0.9以下であることにより、電着液の流路が狭くなることがない。
(2)請求項2の発明は、
前記押し当て部に前記突起部を複数備えるとともに、前記突起部のうちの少なくとも1つは、他の突起部と離間していることを特徴とする請求項1記載の発泡充填具を要旨とする。
【0012】
本発明の発泡充填具1は、突起部のうちの少なくとも1つが他の突起部と離間していることにより、押し当て部が中空構造体の内壁に方当たりしにくくなる。このことを図5を用いて説明する。
【0013】
図5(a)に示すように、(弾性変形していない状態での)押し当て部3とアウターパネル103における底部103b(中空構造体の内壁)とは、非平行となることがある。このような状態は、例えば、ピラーの組み付け公差や、発泡充填剤1をインナパネル101の底部101bに取り付けた際の、底部101bに対する発泡充填具1の取り付け位置や角度のずれ(がたつき)等により生じ得る。
【0014】
この場合、本発明によれば、図5(a)に示すように、互いに離間している突起部9が底部103bに当たることで、押し当て部3が変形し、押し当て部3が底部103bに略平行となる。そして、弾性変形部7a、7bがそれぞれ弾性変形し、押し当て部3が底部103bに平行となるように、突起部9を介して押し当て部3を底部103bに押しつける。その結果として、押し当て部3と底部103bとの間には、大きな隙間が偏って生じるような虞がない。
【0015】
これに対し、図5(b)に示すような、(弾性変形していない状態での)押し当て部3とアウターパネル103の底部103bとが非平行な場合において、押し当て部3に突起部が形成されていない発泡充填具201を用いると、押し当て部3と底部103bとの間に、偏った隙間が大きく生じてしまう。これは、押し当て部3の左側のみが底部103bに方当たりするため、右側の弾性変形部7bは弾性変形せず、押し当て部3のうちの右側の部分を底部103bに押しつけられないためである。このように押し当て部3と底部103bとの間に隙間が生じると、発泡充填具201に熱が作用し材料が軟化した際に自重により材料が垂れてしまう場合がある。この場合、中空構造体の断面の充填不足が生じたり、安全性を考慮して発泡充填具201に予め余分に多くの材料を設定する等、充填に関する効率が悪くなってしまうことがある。
【0016】
尚、押し当て部3に、離間していない突起部が形成されている場合も、図5(a)に示すような押し当て部3の変形は生じないので、突起部9が形成されていない場合と同様の方当たりが生じてしまい、押し当て部3と底部103bとの間に偏った隙間が生じてしまう。
(3)請求項3の発明は、
前記押し当て部の表面において前記突起部に挟まれて成る通路が、前記押し当て部の長手方向と交差する方向に前記押し当て部を横切るように、前記突起部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡充填具を要旨とする。
【0017】
本発明では、例えば、図3に示すように、押し当て部3の表面において、突起部9に挟まれて成る通路109が形成されている。この通路109は、押し当て部3の長手方向(図3における横方向)とは交差する方向に伸びており、押し当て部3の一方の端から他方の端まで横切っている。
【0018】
このような発泡充填具1を、図4(b)のようにピラー100に取り付けると、上記の通路109は、押し当て部3とアウターパネル103との間に位置し、発泡充填具1の手前側(図4における手前側)から背面側まで突き抜けている。ピラー100に電着液を塗布する際に、電着液は、この通路109を通って、発泡充填具1の手前側と背面側との間を流れるので、通路109に面したアウターパネル103にはしっかりと電着液が塗布される。この結果、アウターパネル103の内壁における錆の発生を抑制できる。
(4)請求項4の発明は、
前記突起部は、板状部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発泡充填具を要旨とする。
(5)請求項5の発明は、
前記突起部の長手方向が、前記押し当て部の長手方向と直行するように、前記突起部が配置されていることを特徴とする請求項4に記載の発泡充填具を要旨とする。
(6)請求項6の発明は、
前記突起部は円柱状の部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発泡充填具を要旨とする。
(7)請求項7の発明は、
前記突起部は、前記一対の押し当て部の両方に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発泡充填具を要旨とする。
【0019】
本発明では、一対の押し当て部の両方に突起部が形成されているので、それら両方の押し当て部と、中空構造体との間に、電着液を流すための隙間をそれぞれ形成できる。そのことにより、発泡充填具を収容する中空構造体において、両方の押し当て部に対向する部分の錆の発生を抑制できる。
(8)請求項8の発明は、
前記押し当て部は平板状部材であるとともに、前記弾性変形部は、前記一対の押し当て部の間を繋ぐ、略くの字型、又は略円弧状の板状部材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の発泡充填具を要旨とする。
(9)請求項9の発明は、
発泡充填具を取り付ける対象に貫設された取り付け孔にはめこまれ、発泡充填具を係止する係止部を、前記押し当て部に備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発泡充填具を要旨とする。
【0020】
本発明の発泡充填具は、係止部を取り付け孔に係止するとともに、弾性変形部の変形に基づく弾性力により押し当て部を中空構造体の内壁に押し当てることで、発泡充填具を中空構造体の内部に固定することができる。
【0021】
そのため、発泡充填具を弾性力のみで固定する場合のように、押し当て部が中空構造体の内壁を押す力を大きく設定する必要がなく、その結果として、中空構造体ににひずみが生じてしまうようなことがない。
【0022】
また、弾性変形部の弾性力を強くする必要がないので、中空構造体に発泡充填具を取り付ける際、発泡充填具に小さい力を加えるだけで押し縮めることができ、中空構造体の組み立てが容易である。
(10)請求項10の発明は、
中空部を有する中空構造体と、請求項1〜9のいずれかに記載の発泡充填具と、から成る発泡充填具の取り付け構造であって、前記発泡充填具は、前記弾性変形部が弾性変形し、前記弾性変形部の弾性変形により生じる押圧力により前記押し当て部が前記中空部の内壁に押し当てられた状態で、前記中空部に配置されることを特徴とする発泡充填具の取り付け構造を要旨とする。
【0023】
本発明では、請求項1〜9の発泡充填具を用いることにより、上述した作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の発泡充填具及びその取り付け構造の形態の例(実施例)を説明する。
【実施例1】
【0025】
a)まず、本実施例1の発泡充填具1の構成を図1〜3を用いて説明する。尚、図1は、発泡充填具1の全体構成を表す斜視図であり、図2は図1における斜め上方から見た斜視図である。また、図3は押し当て部3及び突起部9を表す平面図である。
【0026】
図1に示すように、発泡充填具1は、平板状部材である押し当て部3と、押し当て部3と平行に配置され、やはり平板状部材である押し当て部5とを備えている。
押し当て部3と押し当て部5とは、略くの字型の板状部材である弾性変形部7により連結されている。弾性変形部7は3本設けられており、そのうち2本は同じ向きに配置されており、残りの一本は、他の2本に対して反転して配置されている。弾性変形部7は、押し当て部3と押し当て部5とを近づけようとする向きの力が加えられたときは、その屈曲部が深く折れ曲がるように弾性変形する。
【0027】
押し当て部3の上面には、図1、図2に示すように、板状部材である突起部9が上向きに(すなわち発泡充填具1にとって外向きに)立設されている。この突起部9は、押し当て部3の上面において、押し当て部3の長手方向と直行する方向に伸びている。また、突起部9は4本設けられており、互いに平行に、且つ等間隔に配置されている
図3に示すように、突起部9の、その長手方向に直行する方向での幅をaとし、突起部9同士の間隔をbとすると、b/aの比率は、約7.2に設定されている。
【0028】
また、押し当て部3の上面全体の面積をcとし、押し当て部3のうち突起部9が占める部分(図3において斜線が付されている部分)の面積をdとすると、d/cの比率は約0.11〜0.19に設定されている。
【0029】
押し当て部5の下面には、図1に示すように、係止部11が設けられている。この係止部11は、略直方体状の本体部11aと、本体部11aの両側において、斜め上向きに伸びる爪部11bとを備えてた係止クリップである。また、係止部11は、押し当て部5の下面において一段高くなった台座部5aの上に取り付けられている。
【0030】
発泡充填具1は、全体として、加熱発泡する材料から成る。その材料としては、例えば、合成樹脂、発泡剤、架橋剤、充填剤が含有されているものが挙げられる。合成樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等が挙げれる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポレオレフィン、EVA(エチレン/ビンルアセテートポリマー)、EPM(エチレン/プロピレンゴム)、SBS(スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー)等が挙げられる。発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ジニトロペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。架橋剤としては、例えば、周知のジメチルウレア、ジシアンジアミド等が挙げられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、フェライト、シリカ等が挙げられる。
【0031】
発泡充填具1は、公知の方法、例えば、射出成形、プレス成形等の方法により、上記の形状に製造することができる。
b)次に、発泡充填具1の使用方法を図4を用いて説明する。
【0032】
発泡充填具1は、中空構造体である車両のピラー100の内部に、以下のようにして取り付けられる。
まず、図4(a)に示すように、発泡充填具1は、車両のピラー100を構成するインナーパネル101に取り付けられる。このインナーパネル101は、長方形の板状部材である底部101bと、底部101bの外周に沿って略垂直に立設された壁部101cと、壁部101cに対し略垂直に形成され、壁部101cの上端から外側に張り出したフランジ部101aとから構成される。インナーパネル101の底部101bには、孔105が設けられており、発泡充填具1の係止部11は、この孔105に差し込まれる。このとき、発泡充填具1の押し当て部5の下面のうち、一段高くなった台座部5aはインナーパネル101の底部101bに当接するが、押し当て部5の他の部分は、底部101bとの間に一定の隙間を残している。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、車両のピラー100を構成するもう一つの部材であるアウターパネル103を、上方からインナーパネル101の上に被せる。このアウターパネル103は、長方形の板状部材である底部103bと、底部103bの外周に沿って略垂直に立設された壁部103cと、壁部103cに対し略垂直に形成され、壁部103cの上端から外側に張り出したフランジ部103aとから構成される。図4(b)に示すように、アウターパネル103のフランジ部103aは、インナーパネル101のフランジ部101aと当接し、スポット溶接により固定される。その結果、インナーパネル101とアウターパネル103により、密閉された中空部107を有する中空構造体が形成される。
【0034】
このとき、発泡充填具1の弾性変形していない状態での高さは、中空部107の高さより大きいため、発泡充填具1は押し縮められ、弾性変形部7は深く曲げられ、弾性変形している。弾性変形部7の弾性変形により生じる押圧力により、押し当て部3にはアウターパネル103の底部103b向きの力が加わり、押し当て部5にはインナーパネル101の底部101b向けの力が加わる。
【0035】
押し当て部3の上面には突起部9が設けられているので、この突起部9がアウターパネル103の底部103bに当接し、押し当て部3の上面のうち、突起部9が設けられていない部分は、アウターパネル103の底部103bとの間に隙間を有する。
【0036】
また、押し当て部5の下面においては、押し当て部5の他の部分よりも一段隆起した台座部5aのみがインナーパネル101の底部101bに当接し、押し当て部5の他の部分は、インナーパネル101の底部101bとの間に隙間を有する。
【0037】
次に、車両製造工程における電着液塗布工程において、ピラー100の中空部107に電着液が流れ込み、その中空部107の内壁に電着液が塗布される。
次に、電着液を乾燥させる乾燥工程において、約150〜180°Cで車両に塗布された電着液を乾燥させる。この際に、ピラー100内に配置された発泡充填具1は同工程の乾燥熱により発泡・硬化し、その結果、中空部107が充填されるようになる。
【0038】
c)次に、本実施例1の発泡充填具1が奏する効果を説明する。
(i)本実施例1の発泡充填具1は、押し当て部3の上面に突起部9を備えているので、図4(b)に示すように、発泡充填具1をピラー100の中空部107に配置し、弾性変形部7の弾性力により押し当て部3をアウターパネル103に押し当てても、押し当て部3の上面とアウターパネル103との間に隙間が生じる。電着液塗布工程において、ピラー100の中空部107に流れ込んだ電着液はこの隙間を流れ、押し当て部3に対向する位置にあるアウターパネル103の表面にも電着液が塗布される。つまり、本実施例1では、押し当て部3に突起部9を備えることにより、押し当て部3に妨げられることなく、アウターパネル103に電着液を塗布することができる。そのことにより、アウターパネル103内壁での錆の発生を抑制できる。
【0039】
(ii)本実施例1の発泡充填具1は、突起部9うちの少なくとも1つが他の突起部9と離間していることにより、押し当て部3がピラー100の内壁に方当たりしにくくなる。このことを図5を用いて説明する。尚、図5では説明を簡潔にするために弾性変形部7が2本の発泡充填具1を例にとっているが、弾性変形部7が3本以上の発泡充填具1でも同じである。
【0040】
図5(a)に示すように、(弾性変形していない状態での)押し当て部3とアウターパネル103における底部103b(中空構造体の内壁)とは、非平行となることがある。このような状態は、例えば、ピラー100の組み付け公差や、発泡充填剤1をインナパネル101の底部101bに取り付けた際の、底部101bに対する発泡充填具1の取り付け位置や角度のずれ(がたつき)等により生じ得る。
【0041】
この場合、本実施例1の発泡充填具1によれば、図5(a)に示すように、互いに離間している突起部9が底部103bに当たることで、押し当て部3が変形し、押し当て部3が底部103bに略平行となる。そして、弾性変形部7a、7bがそれぞれ弾性変形し、押し当て部3が底部103bに平行となるように、突起部9を介して押し当て部3を底部103bに押しつける。その結果として、押し当て部3と底部103bとの間には、大きな隙間が偏って生じるような虞がない。
【0042】
これに対し、図5(b)に示すような、(弾性変形していない状態での)押し当て部3とアウターパネル103の底部103bとが非平行な場合において、押し当て部3に突起部が形成されていない発泡充填具201を用いると、押し当て部3と底部103bとの間に、偏った隙間が大きく生じてしまう。これは、押し当て部3の左側のみが底部103bに方当たりするため、右側の弾性変形部7bは弾性変形せず、押し当て部3のうちの右側の部分を底部103bに押しつけられないためである。このように押し当て部3と底部103bとの間に隙間が生じると、発泡充填具201に熱が作用し材料が軟化した際に自重により材料が垂れてしまう場合がある。この場合、中空構造体の断面の充填不足が生じたり、安全性を考慮して発泡充填具201に予め余分に多くの材料を設定する等、充填に関する効率が悪くなってしまうことがある。
【0043】
尚、押し当て部3に、離間していない突起部が形成されている場合も、図5(a)に示すような押し当て部3の変形は生じないので、突起部9が形成されていない場合と同様の方当たりが生じてしまい、押し当て部3と底部103bとの間に偏った隙間が生じてしまう。
【0044】
(iii)本実施例1では、突起部9の幅aと、突起部9同士の間隔bとの比率であるb/aの値が0.01以上に設定されているので、電着液の流路が狭くなることがない。また、b/aが100以下に設定されているので、押し当て部3のうちの突起部9の間の部分が大きく変形することがなく、押し当て部3がピラー100の内壁に近接することがない。そのことにより、確実に電着液の流路が確保できる。
【0045】
(iv)本実施例1では、押し当て部3において、突起部9を有する面全体の面積cと、突起部9が占める面積dとの比率d/cが0.001以上に設定されているので、押し当て部3のうちの突起部9の間の部分が大きく変形することがなく、押し当て部3がピラー100の内壁に近接することがない。そのことにより、確実に電着液の流路が確保できる。また、d/cが0.9以下に設定されていることにより、電着液の流路が狭くなることがない。
【0046】
(v)本実施例1では、係止部11を孔105に係止するとともに、弾性変形部7の弾性力により押し当て部3、5をピラー100の内壁にそれぞれ押し当てることで、発泡充填具1をピラー100に固定する。
【0047】
そのため、発泡充填具1を弾性力のみで固定する場合のように、押し当て部3及び押し当て部5をピラー100に押しつける力を大きく設定する必要がない。
その結果として、ピラー100ににひずみが生じてしまうようなことがない。また、図4(b)のように、アウターパネル103を取り付ける際に、発泡充填具1は小さい力を加えるだけで押し縮められるようにできるので、アウターパネル103の嵌め合わせに要する力が小さく済み、ピラー100の組み立てが容易である。
【0048】
(vi)本実施例1では、図3に示すように、押し当て部3の表面において、突起部9に挟まれて成る通路109が形成されている。この通路109は、押し当て部3の長手方向(図3における横方向)とは直行する方向に伸びており、押し当て部3の一方の端から他方の端まで横切っている。
【0049】
このような発泡充填具1を、図4(b)のようにピラー100に取り付けると、上記の通路109は、押し当て部3とアウターパネル103との間に位置し、発泡充填具1の手前側(図4(b)における手前側)から背面側まで突き抜けている。ピラー100に電着液を塗布するとき、電着液は、この通路109を通って、発泡充填具1の手前側と背面側との間を流れるので、通路109に面したアウターパネル103にはしっかりと電着液が塗布される。この結果、アウターパネル103の内壁における錆の発生を抑制できる。
【実施例2】
【0050】
本実施例2の発泡充填具1の構成は、基本的には前記実施例1と同様であるが、一部において異なる。その相違点を中心に図6を用いて説明する。
前記実施例1では、押し当て部3、5が平行に設定されていたが、図6(a)に示す発泡充填具1は、弾性変形部7が弾性変形していない時に、押し当て部3と押し当て部5とが非平行である。この発泡充填具1は、発泡充填具1を配置するピラー100(図4参照)の断面形状が矩形でなく、例えば台形型でる場合にピラー100の内周面近傍に突起部9を介して押し当て部3、5を配置することができ、ピラー100の内部を好適に充填させることができる。また、これ以外の断面形状を有するピラー100の内部に発泡充填具1を配置する場合には、その断面形状に追随するように押し当て部3、5の配置を適宜変更してもよい。
【0051】
また、前記実施例1では、押し当て部3、5の間に弾性変形部7を配置する構成であったが、図6(b)に示す発泡充填具1は、押し当て部3と押し当て部5との間に、発泡充填材から成る平板状の部材である中間部13を備えている。そして、押し当て部3と中間部13との間、及び押し当て部5と中間部13との間を、それぞれ、略くの字型の弾性変形部7により接続している。
【0052】
この発泡充填具1によれば、比較的大きな断面積を有する部位を効率よく充填することができる。つまり、中空構造体の中空部の断面積が大きい場合、前記実施例1のように、中間部13を備えない発泡充填具1で充填しようとすると、発泡充填具1の質量を大きく設定する必要があるが、この場合、押し当て部3、5や弾性変形部7の自重が増加し、鉛直下向き方向に大きく発泡してしまう。こうなると、充填する際の効率が低下する等の不都合が生じてしまう。それに対し、図6(b)に示す発泡充填具1は、押し当て部3及び押し当て部5に加えて中間部13を備えているので、押し当て部3、5や弾性変形部7の自重を増加させる必要が無く、下向きに偏って発泡することがないので、効率的な充填が可能である。
【0053】
また、前記実施例1では、弾性変形部7がくの字型に形成されていたが、図6(c)に示す発泡充填具1では、弾性変形部7が、中央に配置されたくの字型の部分と、その上下に設けられた平板状の部分とから構成される。また、図6(d)に示す発泡充填具1では、弾性変形部7が、円弧状の形状を有している。こうした構成であっても、弾性変形部7を容易に屈曲や湾曲等をさせることができ、ピラー100の組み付け時に、押し当て部3、5の位置ずれの抑制や組み付け作業性の向上を奏することができる。
【0054】
また、前記実施例1では、突起部9が押し当て部3に形成されていたが、図6(e)に示す発泡充填具1では、押し当て部3、5の下面それぞれ突起部9が設けられている。この突起部9の形状、配置方向、面積、間隔等は、押し当て部3に設けられた突起部9と同様である。また、押し当て部5に設けられた突起部9の高さは台座部5aと同様である。この発泡充填具1は、押し当て部5に設けられた突起部9により、押し当て部5の下側に形成される隙間を一層確実に保ち、この部分における電着液の流れを確保することができる。つまり、押し当て部5に突起部9を設けない場合、押し当て部5から突出して形成される台座部5aによりピラー100の底部101bと押し当て部5との間には所定の間隔が保持されるが、弾性変形部7の押し当て部3、5に対する配置や弾性変形部7の剛性等によっては、発泡充填具1をピラー100内に配置した際に押し当て部5がわずかながら変形し、押し当て部5と底部101bとが所定の間隔よりも近接して、電着液の流れを妨げるといった不具合を生じる虞がある。それに対し、図6(e)に示す発泡充填具1の構成では、押し当て部5が変形した場合であっても、突起部9が押し当て部5と底部101bとの間に配置されているため、確実に突起部9と底部101bとの間に所望の間隔を保持することができ、上述したような不具合を抑制することができる。そのことにより、押し当て部5に対向する部分における錆の発生を一層効果的に抑制できる。
【実施例3】
【0055】
本実施例3の発泡充填具1の構成は、基本的には前記実施例1と同様であるが、一部において異なる。その相違点を中心に図7を用いて説明する。図7は発泡充填具1を上方(図1における上方向)から見た平面図である。
【0056】
前記実施例1では、突起部9を押し当て部3の短手方向にまたがって形成していたが、図7(a)及び図7(b)に示す発泡充填具1では、突起部9を押し当て部3の短手方向長さよりも短く設定し、配置している。そして、図7(a)し示す発泡充填具1では、突起部9のうち、左から1、3、5番目のものは、図7における上側寄りに配置され、突起部9のうち、左側から2、4番目のものは、図7における下側寄りに配置されている。一方、図7(b)に示す発泡充填具1では、突起部9の長手方向における長さが、押し当て部3の幅よりも小さく設定されている。そして、突起部9は、全て、押し当て部3の中央部分に、等間隔で配置されている。
【0057】
突起部9は、ピラー100の内壁に対して押し当て部3を離間配置させ、これらの間に電着液の流路を確保し、発泡充填具1が配置された場合でも電着液の塗布面積を広く確保するものである。従って、図7(a)及び図7(b)に示すように、突起部9を押し当て部3の短手方向長さよりも小さく設定することで、突起部9とピラー100の内壁との接触面積を小さくし、電着液の塗布面積をより広く確保することができる。尚、こうした突起部9の寸法や配置位置は、発泡充填具1が設置される中空構造体の断面形状に応じて適宜変更可能である。また、図7(c)に示すように、突起部9の形状を円柱としてもよいし、これ以外にも例えば三角柱としてもよい。こうした場合であっても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例4】
【0058】
本実施例4の発泡充填具1の構成は、基本的には前記実施例1と同様であるが、一部において異なる。その相違点を中心に図8を用いて説明する。図8は発泡充填具1の側面(図1において、右方向、又は左方向から見た面)を表す平面図である。
【0059】
前記実施例1においては、押し当て部3、5はそれぞれの長手方向軸が、押し当て部3、5の弾性変形部7との接続面に対してそれぞれ垂直方向に略一致するように配置されていたが、本実施例4では、図8に示すように、押し当て部3、5の弾性変形部7との接続面に対してそれぞれ垂直方向に偏心量δを設定してこれらを配置させている。こうした構成は、発泡充填具1を配置するピラー100の断面形状に応じて適宜変更されるものである。また、こうした構成以外に、例えばピラー100の内部が凹凸を有するような形状である場合には、この凹凸形状に追随するように押し当て部3や押し当て部5の形状を図1等の記載されている板状の平面形状から変更してもよい。こうした構成により、ピラー100内部の断面形状が複雑な場合であっても、好適に充填することができる。
【0060】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
前記実施例において、弾性変形部7は、種々の形状のものを適宜組み合わせてもよい。例えば、図6に示すくの字型形状の弾性変形部7と円弧状の弾性変形部7とを組み合わせて押し当て部3、5の間に配置することができる。
【0061】
前記実施例では、発泡充填具1をインナパネル101に固定するために係止部11を備えていたが、この係止部11に代えて、ノックピンであってもよい。このノックピンは、例えば円柱状に形成され、孔105にこれを圧入させることで発泡充填具1を固定する。また、ノックピンに凹部や凸部を形成してもよいし、ピンの長手方向に直線状や螺状等の溝を形成してもよい。こうした形状にすることでノックピン部分の材料量を適切に設定することができるとともに、ノックピンを孔105に圧入させる際に要する力の大きさを適宜設定することができる。さらに、ノックピンの形状は円柱形に限らず、四角柱、円錐等、適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】発泡充填具1の全体構成を表す斜視図である。
【図2】発泡充填具1を斜め上方から見た斜視図である。
【図3】押し当て部3及び突起部9を表す平面図である。
【図4】発泡充填具1をピラー100の内部に設置する方法を表す説明図である。
【図5】離間した突起部9を備える発泡充填具1の作用効果を表す説明図である
【図6】発泡充填具1の構成を表す説明図である。
【図7】押し当て部3及び突起部9を表す平面図である。
【図8】発泡充填具1の側面を表す平面図である。
【図9】従来の発泡充填具の構成を呼び使用方法を表す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・発泡充填具;3、5・・・押し当て部;7・・・弾性変形部;9・・・突起部;11・・・係止部;13・・・中間部;100・・・ピラー;101・・・インナーパネル;103・・・アウターパネル;105・・・孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部加熱により発泡する発泡材からなる発泡充填具であって、
弾性変形する弾性変形部と、
前記弾性変形部を挟むように配置され、前記弾性変形部の弾性変形により相互の距離が変化する一対の押し当て部と、
前記押し当て部において外向きに立設された突起部と、を有することを特徴とする発泡充填具。
【請求項2】
前記押し当て部に前記突起部を複数備えるとともに、
前記突起部のうちの少なくとも1つは、他の突起部と離間していることを特徴とする請求項1記載の発泡充填具。
【請求項3】
前記押し当て部の表面において前記突起部に挟まれて成る通路が、前記押し当て部の長手方向と交差する方向に前記押し当て部を横切るように、前記突起部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡充填具。
【請求項4】
前記突起部は、板状部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発泡充填具。
【請求項5】
前記突起部の長手方向が、前記押し当て部の長手方向と直行するように、前記突起部が配置されていることを特徴とする請求項4に記載の発泡充填具。
【請求項6】
前記突起部は円柱状の部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発泡充填具。
【請求項7】
前記突起部は、前記一対の押し当て部の両方に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発泡充填具。
【請求項8】
前記押し当て部は平板状部材であるとともに、
前記弾性変形部は、前記一対の押し当て部の間を繋ぐ、略くの字型、又は略円弧状の板状部材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の発泡充填具。
【請求項9】
発泡充填具を取り付ける対象に貫設された取り付け孔にはめこまれ、発泡充填具を係止する係止部を、前記押し当て部に備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発泡充填具。
【請求項10】
中空部を有する中空構造体と、
請求項1〜9のいずれかに記載の発泡充填具と、から成る発泡充填具の取り付け構造であって、
前記発泡充填具は、前記弾性変形部が弾性変形し、前記弾性変形部の弾性変形により生じる押圧力により前記押し当て部が前記中空部の内壁に押し当てられた状態で、前記中空部に配置されることを特徴とする発泡充填具の取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−62595(P2006−62595A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250179(P2004−250179)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000101905)イイダ産業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】