説明

発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型

【課題】表皮を真空貼着してなる積層成形品における発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型であって、発泡樹脂基材に開設するバキューム孔周縁部に形状垂れが生じることがなく、精度の良い成形を可能にする。
【解決手段】発泡樹脂基材21は、キャビティ型50とコア型60で画成されるキャビティC内に発泡樹脂材料Mを射出充填し、その後、キャビティ型50を後退操作して、型クリアランスを拡げて発泡反応を行なわせて成形するが、コア型60に突設するバキューム孔形成用突起63は、型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定され、更に、バキューム孔形成用突起63に対応するキャビティ型50の型面には、リング状突起52、リブ53、絞模様54等の凹凸部を形成し、キャビティ型50の後退操作時における半成形品Pの追従性を高めることで、バキューム孔23周縁部の形状垂れを抑え、積層成形品20の外観性能並びに手触り感を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表皮を真空貼着してなる積層成形品における発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型に関するもので、特に、発泡樹脂基材に開設されるバキューム孔周縁部分の形状出しを精度良く行なうことで、積層成形品における製品外観を美麗に維持できるようにした発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、ドアパネル(図示せず)の室内面側に装着される自動車用ドアトリム1を示すもので、このドアトリム1は、機能性を高めるために表面中央に乗員が肘を掛けて休めるアームレスト1aが室内側に膨出するように形成されている。また、その下方には、備品を収容できるドアポケット1bが開設されており、更にそのフロント側には、スピーカグリル1cがドアトリム1と一体、あるいは別体に設けられている。そして、このドアトリム1は、図12に示すように、発泡樹脂基材2の表面に表皮3を一体貼着した積層成形品から構成されており、特に最近では、芯部構成として、軽量で耐衝撃性に優れ、かつコストも廉価なことからポリプロピレン(PP)樹脂内部に発泡剤を混入した発泡樹脂材料を所要形状に成形してなる発泡樹脂基材2が多用される傾向にある。尚、図12中符号2aは、発泡樹脂基材2に多数開設されるバキューム孔を示す。
【0003】
次に、発泡樹脂基材2の従来の成形方法について図13を基に以下説明する。従来方法に使用する成形金型4は、相互に型締め、型開き可能なキャビティ型5とコア型6とから構成されており、キャビティ型5とコア型6とを型締めして画成されるキャビティC内に樹脂通路6aを通じて発泡樹脂材料Mを射出充填することにより発泡樹脂基材2が所要形状に成形される。そして、従来では、キャビティCを高圧に保つために外部のエア機構からエア注入管7を通してエアをキャビティC内に注入して発泡反応を抑えた状態で発泡樹脂材料Mを射出充填するようにしており、発泡樹脂材料Mの射出充填後、キャビティ型5を所定ストローク後退操作してキャビティ型5とコア型6のクリアランスを拡げることでキャビティ内圧を低め、発泡樹脂材料Mの発泡反応を誘起させて発泡樹脂基材2を所要形状に成形するようにしている。尚、図中符号8は、キャビティCの外周をシールするシールリングを示している。また、発泡樹脂基材2にバキューム孔2aを成形と同時に開設するために、コア型6には、バキューム孔形成用突起9が突設形成されている。従来の発泡樹脂基材2の成形方法並びにそれに使用する成形金型については、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−7818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のドアトリム1における発泡樹脂基材2の成形方法においては、キャビティ型5とコア型6とを型締めすることにより、キャビティCを画成し、図14に示すように、このキャビティC内に発泡樹脂材料Mを射出充填して、発泡樹脂基材2を成形する際、コア型6に突設したバキューム孔形成用突起9により成形と同時にバキューム孔2aを開設している。更に、発泡樹脂材料Mの射出充填後、図15に示すように、キャビティ型5を後退操作する際、バキューム孔2aの周縁に形状垂れ(図15中符号aで示す)が生じ、図16に示すように、発泡樹脂基材2の表面に表皮3を貼着した時、発泡樹脂基材2のバキューム孔2aの表面側に形状垂れaが原因となる窪み(図16中符号bで示す)が生じ、外観性能や手触り感を悪化させるという問題点が指摘されている。
【0006】
この形状垂れaの要因は、図15に示すキャビティ型5の後退操作時、バキューム孔形成用突起9が半成形品Pを拘束するため、半成形品Pのキャビティ型5に対する追従性が低下するものと推察される。
【0007】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、表皮を真空貼着により一体化した積層成形品における発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型において、発泡樹脂基材の成形と同時にバキューム孔を開設する際、バキューム孔周縁部に形状垂れが発生することを可及的に防止でき、積層成形品の外観性能並びに手触り感を良好に維持できるようにした発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者等は、鋭意研究の結果、コア型に設けられるバキューム孔形成用突起の形状に工夫を加え、キャビティ型の後退操作時、バキューム孔形成用突起から半成形品の型抜けを円滑に行なえるようにするとともに、キャビティ型の型面と半成形品との間で保持機能をもたせることで従来不具合を有効に解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、発泡樹脂基材の表面に表皮を真空成形により一体貼着してなる積層成形品における発泡樹脂基材の成形方法であって、この発泡樹脂基材は、キャビティ型とコア型とを型締めして画成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、キャビティ型を後退操作して、キャビティ内圧を低下させた状態で半成形品を発泡反応させて所要形状に成形するとともに、表皮を真空成形するためのバキューム孔を成形と同時に開設する発泡樹脂基材の成形方法において、前記コア型には、発泡樹脂基材にバキューム孔を開設するためのバキューム孔形成用突起が型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定されているとともに、該バキューム孔形成用突起に対応するキャビティ型の型面には、半成形品を嵌合保持する凹凸部が形成されていることにより、発泡樹脂材料をキャビティ内に射出充填した後、キャビティ型を後退操作する際、バキューム孔形成用突起に対する拘束力を緩めるとともに、キャビティ型の型面に設けた凹凸部により半成形品をキャビティ型に追従させることで発泡樹脂基材のバキューム孔周縁の形状出しを精度良く行なうようにしたことを特徴とする。
【0010】
更に、本発明方法に使用する成形金型は、所要形状に成形された発泡樹脂基材の表面に表皮を真空成形により一体貼着してなる積層成形品における発泡樹脂基材を成形する成形金型であって、この成形金型は、相互に型締め、型開き可能なキャビティ型とコア型とから構成されており、発泡樹脂基材にバキューム孔を開設するために、コア型に突設されるバキューム孔形成用突起は、型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定がなされているとともに、キャビティ型を型開方向に後退操作する際、キャビティ型と追従するようにキャビティ型の型面には半成形品との凹凸嵌合による保持が期待できる凹凸部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
ここで、積層成形品としては、発泡樹脂基材の表面に真空成形により表皮を貼着する構成であれば、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、ラゲージサイドトリム、ルーフトリム、リヤサイドトリム等、自動車用内装部品全般に適用できる。また、発泡樹脂基材の素材としては、合成樹脂中に発泡剤が混入された発泡樹脂材料が使用されており、使用できる合成樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等があり、合成樹脂に対して混入する発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤が使用できる。
【0012】
そして、本発明方法は、キャビティ型とコア型とを型締めした後、相互の金型間で画成されるキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填する発泡樹脂材料の射出充填工程と、発泡樹脂材料の射出充填が完了した後、キャビティ型を所定ストローク後退操作して、キャビティ内圧を低下させて発泡反応を誘起させ、所要形状の発泡樹脂基材を成形する発泡工程とからなる。そして、発泡樹脂材料の射出充填前には、コア型に設けたエア注入管を通じて外部のエア供給機構からエアをキャビティ内に導入し、発泡樹脂材料の発泡反応を抑えた状態で迅速にキャビティの隅々にまで発泡樹脂材料を射出充填するようにしており、発泡反応時には、キャビティ型を所定ストローク後退操作して発泡スペースを確保しつつ、キャビティ内を低圧に維持し、発泡反応が開始され易いようにして発泡反応を誘起し、発泡樹脂基材を所要形状に成形する。この時、コア型に設けたバキューム孔形成用突起により、発泡樹脂基材には、所定箇所に複数のバキューム孔が開設されることになる。更に、本発明においては、発泡樹脂基材にバキューム孔を開設する際、コア型に突設するバキューム孔形成用突起は型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定がなされているとともに、バキューム孔形成用突起に対応するキャビティ型の型面には、半成形品と凹凸嵌合により半成形品を保持できる凹凸部、例えば、リング状突起、リブ、絞模様、穴等が設けられている。尚、キャビティ型に設けられる凹凸部としては、後工程で表皮を被覆する際、製品表面に平滑面を確保できる凸部が望ましいが、凸部に限定されるものではない。
【0013】
以上の構成から明らかなように、本発明方法においては、キャビティ型とコア型とを型締めして、キャビティを画成した後、このキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填し、その後、キャビティ型を所定ストローク後退操作して、発泡反応を行なわせる際、コア型に突設されているバキューム孔形成用突起は、テーパー状に形状設定されているため、半成形品は、バキューム孔形成用突起からの拘束力が弱く、突起から抜け易く、かつキャビティ型の型面に設けた凹凸部と半成形品とが嵌合した状態であるため、キャビティ型の後退操作時において半成形品が追従し易いことから、従来のように、バキューム孔周縁部に形状垂れが生じることがなく、シャープな形状出しが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した通り、本発明に係る発泡樹脂基材の成形方法は、バキューム孔を成形と同時に開設する際、バキューム孔形成用突起の形状をテーパー状に形状設定するとともに、バキューム孔形成用突起と対応するキャビティ型の型面には、半成形品との間で凹凸嵌合を期待できる凹凸部が設けられているため、キャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、キャビティ型を所定ストローク後退操作して発泡反応を行なわせる発泡工程において、バキューム孔形成用突起から半成形品に加わる拘束力を和らげ、かつキャビティ型の凹凸部と半成形品とが凹凸嵌合することにより、キャビティ型の後退操作時、キャビティ型に半成形品が追従するため、バキューム孔周縁部に従来のような形状垂れが生じることがなく、精度の良い形状出しが可能となる。従って、発泡樹脂成形品の表面に表皮を真空成形した際、バキューム孔に対応する製品表面に窪みが生じることがなく、製品表面の平滑感を強調でき、外観性能並びに手触り感を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明方法を適用して成形したドアトリムアッパーを備えた自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図2】本発明方法を適用して成形したドアトリムアッパーの構成を示す断面図である。
【図3】本発明方法に使用する成形金型の一実施例の構成を示す全体図である。
【図4】図3に示す成形金型における要部拡大断面図である。
【図5】本発明方法における発泡樹脂材料の射出充填工程前の状態を示す説明図である。
【図6】本発明方法における発泡樹脂材料の射出充填工程を示す説明図である。
【図7】本発明方法における発泡樹脂材料の射出充填工程後においてキャビティ型を後退操作する状態を示す説明図である。
【図8】図7に示すキャビティ型の後退操作時におけるバキューム孔付近の構成を示す説明図である。
【図9】本発明に係る成形金型の変形例を示す説明図である。
【図10】本発明に係る成形金型の更に変形例を示す断面図である。
【図11】従来のドアトリムを示す正面図である。
【図12】従来のドアトリムの構成を示す断面図である。
【図13】従来のドアトリムの成形に使用する成形金型を示す全体図である。
【図14】従来のドアトリムの成形方法における発泡樹脂材料の射出充填工程を示す説明図である。
【図15】従来のドアトリムの成形方法における発泡工程を示す説明図である。
【図16】従来のドアトリムの成形方法の不具合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る発泡樹脂基材の成形方法並びに成形金型の具体的な実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0017】
図1乃至図10は、本発明の一実施例を示すもので、図1,図2は本発明方法により成形したドアトリムアッパーを示す正面図並びに断面図、図3は本発明方法に使用する成形金型の概略構成を示す全体図、図4は同成形金型の要部拡大断面図、図5乃至図8は本発明方法の各工程を示す説明図、図9,図10は本発明に使用する成形金型の変形例を示す各説明図である。
【0018】
図1,図2において、自動車用ドアトリム10は、ドアトリムアッパー(積層成形品)20と、ドアトリムロア(単体成形品)30の上下二分割体から構成されている。上記ドアトリムアッパー20には、インサイドハンドルユニット11が、また、乗員が肘を乗せるアームレスト部には、プルハンドル12やパワーウインドウスイッチフィニッシャー13が取り付けられている。一方、ドアトリムロア30には、備品を収容できるポケット開口14が開設されているとともに、そのフロント側にスピーカグリル15がドアトリムロア30と一体、または別体に設けられている。
【0019】
ところで、本発明は、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20を対象としている。すなわち、図2に示すように、ドアトリムアッパー20は、軽量で耐衝撃性に優れた発泡樹脂基材21の表面に真空成形により表皮22を一体貼着して構成されているが、特に、発泡樹脂基材21に多数開設されているバキューム孔23周りの形状垂れ(図15中符号aで示す)が原因となる製品表面の窪み(図16中符号bで示す)が解消され、平滑な製品外観が得られ、外観性能並びに手触り感の向上が期待できる。更に、バキューム孔23は、表面から裏面にかけて孔径が大きくなる、いわゆるテーパー状に形状設定されているとともに、このバキューム孔23を中心として、発泡樹脂基材21の表面側にはリング状溝部24が形成されている。このリング状溝部24は、後述するが、成形金型との嵌合作用によりバキューム孔23周りにおいて精度の良い形状出しを達成するために必要である。
【0020】
次に、上記発泡樹脂基材21の素材としては、合成樹脂中に発泡剤が混入された発泡樹脂材料が使用されており、使用できる合成樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等があり、この合成樹脂に対して、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤を混入したものを使用している。
【0021】
そして、この発泡樹脂基材21の表面に真空成形により貼着される表皮22は、トップ層22aの裏面にクッション層22bを裏打ちした積層シート材料が使用されており、トップ層22aとしては、非通気性を備えていれば材質は問わないが、TPO(サーモプラスチックオレフィン)シートやPVCシートを使用することができ、クッション層22bとしては、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリウレタンフォーム等の発泡樹脂シートを使用することができる。
【0022】
次に、ドアトリムアッパー20における発泡樹脂基材21の成形方法について説明する。図3に示すように、この成形方法に使用する成形金型40は、相互に型締め、型開き可能なキャビティ型50とコア型60と、発泡樹脂材料Mの射出充填時におけるキャビティCの内圧を高める一方、発泡樹脂材料Mの発泡反応時には、キャビティCの内圧を低めるためにエアを供給、排出するエア供給・排出機構70と、キャビティCの外周に配置され、エアが外部に漏れることを防止するシール機構部80とから大略構成されている。尚、エア供給・排出機構70において使用するガスは、N2 ガス、CO2 ガスの他、工場エア等を使用することもできる。
【0023】
次いで、成形金型40の構成を更に具体的に説明する。キャビティ型50は、昇降シリンダ51により所定ストローク上下動可能であるとともに、コア型60には、図示しない射出機から発泡樹脂材料Mの樹脂通路であるホットランナ61、ゲート62が配設されている。更に、エア供給・排出機構70は、共用配管71がコア型60に配設されており、この共用配管71は、外部のブロワ72とバキュームポンプ73にそれぞれ分岐接続し、切替弁74を介して共用配管71は、エア供給管、あるいはエア排出管として機能する。次に、キャビティCの外周に設けられている外周シール機構部80の構成について説明する。キャビティ型50には、収容溝81が形成され、この収容溝81内にシールリング82が収容されている。一方、コア型60には、上記シールリング82と対応する箇所にシール用突起83が突設形成されており、キャビティ型50とコア型60を型締めした際、キャビティ型50側のシールリング82と、コア型60側のシール用突起83とが当接シールすることで外部へのエア漏れを回避するようにしている。
【0024】
ところで、本発明方法に大きく寄与する金型構造は、発泡樹脂基材21に開設するバキューム孔23形成箇所の構造に特徴がある。すなわち、図4に示すように、発泡樹脂基材21にバキューム孔23を開設するためのバキューム孔形成用突起63は、型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定がなされており、この形状を採用することで、キャビティ型50が後退した際、バキューム孔形成用突起63は半成形品Pに対する拘束力が低減されている。更に、キャビティ型50は、コア型60との型締め時、バキューム孔形成用突起63と当接する部分を中点として、リング状突起52が突設形成されている。このリング状突起52は、半成形品Pとの嵌合力を高める機能をもつ。
【0025】
次に、本発明方法について、図5乃至図8を参照しながら説明する。まず、図5に示すように、キャビティ型50が昇降シリンダ51の駆動により下死点まで下降して、キャビティ型50とコア型60によりキャビティCが形成され、このキャビティC内にエア供給・排出機構70のブロワ72から共用配管71を通じてエアが供給される。その後、図6に示すように、コア型60のホットランナ61、ゲート62を通じて発泡樹脂材料MがキャビティC内に射出充填される。この時、キャビティC内は、エア供給・排出機構70から供給されるエアにより高圧に維持されているため、発泡樹脂材料Mは発泡反応を誘起することなく、未発泡状態で迅速にキャビティCの隅々にまでゆきわたる。以下、発泡樹脂材料Mの発泡工程前の状態を半成形品Pという。
【0026】
次いで、図7に示すように、未発泡状態の半成形品Pを発泡反応させるために、図示するように、キャビティ型50を上方に所定ストローク後退操作し、キャビティ内圧を低下させるが、この時には、エア供給・排出機構70については、切替弁74が切り替わり、バキュームポンプ73と共用配管71とが接続し、共用配管71を通してキャビティC内の余ったエアが外部に排出されてエア溜まりが生じることなく、発泡樹脂基材21が所要形状に迅速に発泡成形される。この時、図8に示すように、バキューム孔23の近辺部分においては、キャビティ型50の後退操作時、バキューム孔形成用突起63は、テーパー状に形状設定されているため、半成形品Pに対する拘束力が低減しており、また、キャビティ型50の型面に形成したリング状突起52がリング状溝部24と嵌合しているため、キャビティ型50の後退操作時に半成形品Pがバキューム孔23形成箇所においてキャビティ型50に対して確実に追従することになる。従って、バキューム孔23近傍部分において、従来のように形状垂れが形成されることなく、精度の良い形状出しが可能となる。
【0027】
次に、図9は、キャビティ型50の変形例を示すもので、上述したリング状突起52に代えて、図9(a),(b)に示すようにバキューム孔形成用突起63に当接する部分を中心としてキャビティ型50の型面に四方に伸びるリブ53を突設する構成、あるいは図9(c)に示すように絞模様54を付設する構成、また、図9(d)に示すように穴55を設定する構成や、図9(e)に示すようにリング状溝56を形成する構成に適宜変更することもできる。尚、穴55、リング状溝56を採用する場合は、後工程で表皮22を真空貼着した時、製品表面に平滑性が確保されるように、穴55の穴径やリング状溝56の幅を狭く設定する必要がある。
【0028】
このように、キャビティ型50の型面でコア型60のバキューム孔形成用突起63と対応する箇所を中心として図9(a)〜(e)に示すパターン形状に代表されるような凹凸構造を採用することができ、半成形品Pと凹凸嵌合により保持効果が期待できるものであれば、そのパターン形状は特に限定しない。
【0029】
次いで、図10に示すように、コア型60のバキューム孔形成用突起63に対応するキャビティ型50の型面に円筒状突起57を形成しても良く、このことにより、発泡樹脂基材21には、円筒状突起57とバキューム孔形成用突起63との当接部分で段差を備えた段付きテーパー孔23aが形成され、この孔形状により、キャビティ型50の後退操作時、半成形品Pのキャビティ型50への追従性が高まり、バキューム孔23周囲の形状垂れを有効に解消することができる。
【0030】
このように、本発明方法によれば、ドアトリムアッパー20における発泡樹脂基材21を成形する際、コア型60に突設するバキューム孔形成用突起63の形状をテーパー状に設定するとともに、対応するキャビティ型50の型面には、キャビティ型50の後退操作時に半成形品Pを追従させる機能をもつ凹凸部52〜57を設けることで、発泡樹脂基材21の成形時、バキューム孔23周囲の形状垂れを防止でき、結果的に発泡樹脂基材21の表面に表皮22を真空貼着してなるドアトリムアッパー20は、多数のバキューム孔23に相当する製品表面には窪みが形成されず、平滑性を強調でき、外観性能並びに手触り感を良好に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明した実施例は、上下二分割構造のドアトリム10におけるドアトリムアッパー20の成形に本発明方法を適用したが、適用対象はドアトリムアッパー20に限定されることなく、表皮を真空貼着する発泡樹脂基材全般に適用できる。また、ドアトリムアッパー20における発泡樹脂基材21を成形する工法として、カウンタープレッシャー工法を採用したが、カウンタープレッシャー工法に限定するものではない。更に、本発明方法では、キャビティ型50を可動側としたが、コア型60を可動側としても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリムアッパー(積層成形品)
21 発泡樹脂基材
22 表皮
23 バキューム孔
24 リング状溝部
30 ドアトリムロア(単体成形品)
40 成形金型
50 キャビティ型
51 昇降シリンダ
52 リング状突起
53 リブ
54 絞模様
55 穴
56 リング状溝
57 円筒状突起
60 コア型
61 ホットランナ
62 ゲート
63 バキューム孔形成用突起
70 エア供給・排出機構
71 共用配管
72 ブロワ
73 バキュームポンプ
74 切替弁
80 シール機構部
81 収容溝
82 シールリング
83 シール用突起
C キャビティ
M 発泡樹脂材料
P 半成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂基材(21)の表面に表皮(22)を真空成形により一体貼着してなる積層成形品(20)における発泡樹脂基材(21)の成形方法であって、この発泡樹脂基材(21)は、キャビティ型(50)とコア型(60)とを型締めして画成されるキャビティ(C)内に発泡樹脂材料(M)を射出充填した後、キャビティ型(50)を後退操作して、キャビティ内圧を低下させた状態で半成形品(P)を発泡反応させて所要形状に成形するとともに、表皮(22)を真空成形するためのバキューム孔(23)を成形と同時に開設する発泡樹脂基材(21)の成形方法において、
前記コア型(60)には、発泡樹脂基材(21)にバキューム孔(23)を開設するためのバキューム孔形成用突起(63)が型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定されているとともに、該バキューム孔形成用突起(63)に対応するキャビティ型(50)の型面には、半成形品(P)を嵌合保持する凹凸部(52〜57)が形成されていることにより、発泡樹脂材料(M)をキャビティ(C)内に射出充填した後、キャビティ型(50)を後退操作する際、バキューム孔形成用突起(63)に対する拘束力を緩めるとともに、キャビティ型(50)の型面に設けた凹凸部(52〜57)により半成形品(P)をキャビティ型(50)に追従させることで発泡樹脂基材(21)のバキューム孔(23)周縁の形状出しを精度良く行なうようにしたことを特徴とする発泡樹脂基材の成形方法。
【請求項2】
所要形状に成形された発泡樹脂基材(21)の表面に表皮(22)を真空成形により一体貼着してなる積層成形品(20)における発泡樹脂基材(21)を成形する成形金型(40)であって、この成形金型(40)は、相互に型締め、型開き可能なキャビティ型(50)とコア型(60)とから構成されており、発泡樹脂基材(21)にバキューム孔(23)を開設するために、コア型(60)に突設されるバキューム孔形成用突起(63)は、型抜き勾配を考慮したテーパー状に形状設定がなされているとともに、キャビティ型(50)を型開方向に後退操作する際、キャビティ型(50)と追従するようにキャビティ型(50)の型面には半成形品(P)との凹凸嵌合による保持が期待できる凹凸部(52〜57)が設けられていることを特徴とする発泡樹脂基材の成形金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−31536(P2011−31536A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181260(P2009−181260)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】