説明

発泡潤滑剤封入軸受

【課題】潤滑油を保持する発泡潤滑剤の潤滑性能に優れ、長寿命で高速回転でも運転が可能であるとともに、製造工程を比較的簡単にすることができ、低コスト化の要望に応じ得る発泡潤滑剤封入軸受を提供する。
【解決手段】軸受31内部に発泡潤滑剤37が封入されてなる発泡潤滑剤封入軸受であって、上記発泡潤滑剤37は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であり、上記硬化剤がイソシアネート化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記発泡潤滑剤封入軸受は、転がり軸受である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡潤滑剤を封入した発泡潤滑剤封入軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。通常、転がり軸受は、その内部にグリースを充填して転動体と軸受内外輪および保持器相互の摩擦面を潤滑しており、充填されたグリースが外部へ流出しないように、また、その内部へ塵や水分等が侵入しないように、シール等の密封装置が設けられている。しかし、密封装置付きの転がり軸受であっても、グリースを完全に密封することは困難であり、長時間使用すると徐々に流出したり、軸受内に外部から侵入した水分によってグリースが徐々に劣化することがある。このようなグリースの密封不良および劣化防止に関する問題点を解決するべく、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に染み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。
また、潤滑剤の存在下でポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。
また、樹脂成分である固形成分を発泡体化し、これに潤滑油を後含浸させ、軸受内部の摩擦接触部の近傍に設ける含油発泡体が知られている(特許文献5参照)。
【0003】
これらの固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に染み出させるものであり、これを用いることで潤滑油の補充のためのメンテナンスを不要とし、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立てることを狙ったものである。
【0004】
しかしながら、上記した従来技術による固形潤滑剤を充填した転がり軸受では、寿命が短い、高速回転においては焼きつきやすい、そして発熱が大きくなるために母材である樹脂成分が溶融してしまうために使用できないという欠点がある。また、フルパック仕様においては、前述の固形潤滑剤を軸受内で固化させた後冷却する過程において、固形潤滑剤が収縮するために潤滑剤自身が転動体を抱きこんでしまい、回転トルクが大きくなりやすく発熱しやすいという問題点がある。
また、このような固形潤滑剤を製造する工程では、潤滑油やグリースを確実に含浸させるために多くの製造工程が必要になり、これでは低コスト化の要求に応えることも困難である。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平11−286601号公報
【特許文献5】特開平9−42297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑油を保持する発泡潤滑剤の潤滑性能に優れ、長寿命で高速回転でも運転が可能であるとともに、製造工程を比較的簡単にすることができ、低コスト化の要望に応じ得る発泡潤滑剤封入軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受は、軸受内部に発泡潤滑剤が封入されてなる発泡潤滑剤封入軸受であって、上記発泡潤滑剤は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であることを特徴とする。
【0007】
上記硬化剤がイソシアネート化合物であり、上記発泡剤が水であることを特徴とする。
上記発泡潤滑剤は、上記混合物を軸受内部に充填して、発泡・硬化させてなることを特徴とする。
上記発泡潤滑剤の発泡倍率は、1.1 倍〜100 倍であることを特徴とする。
上記発泡潤滑剤封入軸受は、転がり軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受は、発泡潤滑剤を軸受内部(保持器と内・外輪との空間、保持器のない転がり軸受における内・外輪間の空間など)に封入して使用している。この発泡潤滑剤は潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなるので、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵される。このため、本発明の発泡潤滑剤封入軸受は、発泡潤滑剤中の潤滑成分の保持量が単なる気孔内の含浸による保持量よりも多くなるとともに、運転時において発泡潤滑剤中より転動体周囲等に潤滑油が徐放されるので、潤滑剤保持力に優れ、高速回転でも運転が可能であり、長寿命に寄与することができる。
【0009】
また、発泡潤滑剤を封入することで、軸受転走面近くに潤滑剤が存在できグリース潤滑と比較してより潤滑剤が転走面に供給されやすい。また、外部からの塵・水分等の侵入に対してはシール部材の役割をも果たす。その上、内部に気泡を有する発泡体であるため、軽量化の点でも有利である。
また、組み立て後に潤滑剤を封入する必要がないので、生産効率が向上し、安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受は、封入した発泡潤滑剤の液状ゴム内に潤滑成分を吸蔵させるので、液状ゴムの柔軟性により、例えば圧縮、膨張、屈曲、ねじりなどの外力による変形により潤滑剤を染み出させて液状ゴムの分子間から外部に徐放できる。この際、染み出す潤滑油量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を液状ゴムの選択などによって変えることにより、必要最小限にすることができる。なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、発泡・硬化した固形成分(液状ゴム)内に化合物にならないで含まれることをいう。
また、本発明に用いる発泡潤滑剤において液状ゴムは、発泡により表面積が大きくなっており、染み出した余剰の潤滑油を再び発泡体の気泡内に一時的に保持することもできて染み出す潤滑油量は安定しており、また液状ゴム内に潤滑剤を吸蔵させるとともに気泡内に含浸させることによって非発泡の状態より潤滑油の保持量も多くなる。
【0011】
その上、本発明に用いる発泡潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。よって、該多孔性固形潤滑剤を固化させた後冷却する過程において、固形潤滑剤が収縮し転動体を抱きこんだとしても屈曲・変形時に必要なエネルギーが小さいために容易に変形することができ、回転トルクが大きくなるという問題を防ぐことができる。また、内部に気泡を有する発泡体であるため、軽量化の点でも有利である。
また、本発明に用いる発泡潤滑剤は液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、軸受の任意の場所に充填して成形することが可能である。
また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡潤滑剤の密度を変化させることができる。
【0012】
本発明において発泡潤滑剤に用いられる分子内に水酸基を有する液状ゴムは、水酸基末端液状ポリブタジエン、水酸基末端液状ポリイソプレン、水酸基末端ポリオレフィン系ポリオールが挙げられる。また、これら液状ゴムの末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで一部変性した液状ゴムも水酸基が末端に含まれれば使用することができる。水酸基は1分子内に少なくとも2個以上含まれることが好ましい。好ましくは水酸基価が 40〜120 KOH mg/g、より好ましくは 45〜110 mg/g である。水酸基価が 45 mg/g 未満では、発泡・硬化が十分でなく、水酸基価が 110 mg/g をこえると、発泡潤滑剤の弾力性が失われる場合がある。これらの液状ゴムは、1種を単独で用いてもよいし、発泡潤滑剤の物性を制御する目的で、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0013】
上記液状ゴムは、後述するパラフィン系やナフテン系の鉱物油からなる潤滑成分と分子構造が類似するので、潤滑成分を構成する分子との化学的親和性に優れ、液状ゴム分子と潤滑成分分子とが比較的弱い相互作用によって絡み合っていると考えられる。そのため多くの潤滑成分をその液状ゴム分子内に吸蔵させることが可能であり、高い潤滑成分保持性を発揮することができる。これに熱や遠心力などの強い力を加えることで、液状ゴムと潤滑成分の相互作用が壊され、潤滑成分を徐放させることができる。
【0014】
本発明に使用できる硬化剤としては液状ゴムの末端官能基である水酸基と反応し、分子鎖を延長させ、または架橋させるものであれば、特に制限なく使用できる。好ましい硬化剤としては、ポリイソシアネート類を挙げることができる。ポリイソシアネート類は後述する水と反応して気体を発生させることができるので特に好ましい。
ポリイソシアネート類としては、芳香族、脂肪族、または脂環族ポリイソシアネート類を挙げることができる。
芳香族ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと記す)、TDIの3量体、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)、MDIの多量体、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類としては、オクタデカメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネート類としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
また、上記ポリイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどのポリオールとの付加物も使用できる。
液状ゴムの末端官能基である水酸基との反応を高温度で行なう場合は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0015】
末端水酸基を有する液状ゴムとイソシアネート基を有する硬化剤との配合割合は、水酸基(-OH)とイソシアネート基(-NCO)との当量比で(OH/NCO)=1/(0.9〜1.7)の範囲が好ましく、特に発泡性を考慮すると、(OH/NCO)=1/(1.0〜1.5)の範囲が好ましい。
【0016】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して使用できる。
潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
潤滑油の中で、液状ゴムとの相溶性に優れるパラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油が好ましい。
【0017】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0018】
本発明に使用するワックスとしては、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを挙げることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0019】
以上述べた潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明に使用できる発泡剤は、液状ゴムを発泡・硬化させることができるものであれば使用できる。発泡剤としては、(a)イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水などの化学的発泡剤、(b)加熱処理や光照射によって化学分解させ、窒素ガスなどを発生させるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンイミド(ADCA)等の分解型発泡剤、(c)アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的発泡剤、(d)窒素などの不活性ガスや空気を外部から吹き込む機械的発泡剤が挙げられる。
本発明においては、硬化剤としてイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水が好ましい。
【0021】
また、このような反応を伴う発泡を用いる場合には必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。使用する3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
発泡・硬化時において発泡により発泡体となる際に生成する気泡は気泡が連通している連続気泡であることが好ましく、外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連続気泡を介して外部に直接供給するためである。気泡間が連通していない独立気泡の場合は固形成分中の潤滑油の全量が一時的に独立気泡中に隔離され気泡間での移動が困難となり、必要なときに転動体の周囲に十分供給されない場合がある。
【0023】
本発明に用いる発泡潤滑剤は、上記潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、1 重量%〜80 重量%、好ましくは 30 重量%〜80 重量%である。潤滑成分が 1 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく軸受に封入される発泡潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しなくなる。
上記液状ゴムの配合割合は、混合物全体に対して、5 重量%〜80 重量%、好ましくは 15 重量%〜80 重量%である。5 重量%より少ないときは固化しないため軸受に封入される発泡潤滑剤としての機能を持たず、80 重量%より多いときには潤滑剤の供給が少なく、軸受に封入される発泡潤滑剤としての機能を持たない。
【0024】
上記硬化剤の配合割合は、液状ゴムの配合量と発泡倍率により、上記発泡剤の配合割合は、後述する発泡倍率との関係でそれぞれ定まる。すなわち、硬化剤量は液状ゴムの水酸基当量と水の当量との関係で定まる。本発明の発泡潤滑剤には、必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
【0025】
本発明に用いる発泡潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍〜100 倍であることが好ましい。さらに好ましくは 1.1 倍〜10 倍である。なぜなら発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できないし、または発泡潤滑剤が硬すぎるため、外部応力に追随した変形ができないなどの不具合がある。また、100 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となり、破損や破壊に至ることがある。
【0026】
潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。得られた混合物は発泡・硬化する前は流動性があるので形状が複雑な軸受内の任意の部位にも容易に充填することが可能である。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0027】
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と徐放性確保、作業効率の観点から望ましい。硬化前に潤滑油と樹脂形成分が均一に分散されていることで、硬化時に潤滑剤が樹脂分に吸蔵され、油の保持性が高くなる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法では潤滑剤保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる。
【0028】
発泡潤滑剤は、軸受内に上記混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、軸受内に組み込むこともできる。
また、発泡潤滑剤は柔軟なため、フルパック仕様にしても回転トルクが大きくなりにくく、発熱を抑えることができる。
形状が複雑な軸受内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に軸受内に流し込み、軸受内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
【0029】
これらの発泡潤滑剤は、各種の周知な形式の軸受に封入することができる。例として、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ軸受、円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受、すべり軸受などが挙げられる。また、これらの軸受に対して、シール部材またはシールド板の有無は問わず適用することができる。
【0030】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受の一例を図5に基づいて説明する。図5は本発明の一実施例に係る深溝玉軸受の断面図である。
図5に示すように軸受31は内輪32と、内輪32と同心に配置された外輪33と、これら内、外輪間に介在する複数個の転動体34と、この複数個の転動体34を保持する保持器36と、外輪33等に固定されるシール部材35とにより構成される。少なくとも転動体34の周囲に発泡潤滑剤37が封入される。
【0031】
軸受への発泡潤滑剤の封入方法の例を、図1〜図3に基づいて説明する。
図1は、本発明の他の実施例に係るラジアル玉軸受(シール部材なし)への封入例を示す模式図である。図1に示すように、軸受外径7より大きい鉄板5もしくはそれに類似する治具の上に内輪2と、外輪3と、内、外輪間に介在する転動体4とを有する軸受1を置き、よく撹拌した発泡直前の発泡潤滑剤成分の混合物6を内輪2と、外輪3と、鉄板5とに囲まれた空間に流し込み、発泡・硬化させる。この場合、混合物6を軸受1内に流し込んだ後にさらに軸受1上部に軸受外径7より大きい鉄板5もしくはそれに類似する治具をかぶせてもよい。鉄板もしくは治具をかぶせる場合、軸受内での発泡潤滑剤の充填率が向上する。混合物6の発泡・硬化終了後に鉄板5もしくはそれに類似する治具を外して、発泡潤滑剤封入軸受を得る。
【0032】
図2は、本発明の他の実施例に係るラジアル玉軸受(シール部材付き)への封入例を示す模式図である。図2に示すように、内輪12と、外輪13と、内、外輪間に介在する転動体14と、片側のみに装着されたシール部材15を有する軸受11を、シール部材15を下側にして静置する。そして、よく撹拌した発泡直前の発泡潤滑剤成分の混合物16を軸受11に流し込み、発泡・硬化させる。この場合、図1と同様に軸受内での多孔性固形潤滑剤の充填率が向上させるために、混合物16を軸受11内に流し込んだ後にさらに軸受11上部に軸受外径より大きい鉄板もしくはそれに類似する治具をかぶせてもよい。上側のシール部材は、充填率向上のための治具の代わりとして、発泡過程中に装着してもよいし、発泡・硬化が終わってから軸受11に装着してもよい。
【0033】
図3は本発明の他の実施例に係るスラスト玉軸受への封入例を示す模式図である。図4は、図3にて円筒治具の使用を示す模式図である。図3および図4に示すように、スラスト玉軸受21が収まる金型25を準備し、内輪22と外輪23と、内、外輪間に介在する転動体24とを有する軸受21を設置する。軸受21の内径側からよく撹拌した発泡直前の発泡潤滑剤成分の混合物26を軸受21に流し込み、内径と同径の円筒治具27を内径部に差し込み、発泡・硬化させる。混合物26が発泡・硬化し発泡潤滑剤28となった後、金型25と円筒治具27を外して、発泡潤滑剤封入軸受を得る。
また、軸受への潤滑剤の封入には、射出成型機等を用いることもできる。この場合、軸受は金型に装着され、スクリュー内で混合された発泡潤滑剤成分はノズルより軸受内へ封入される。
【0034】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受において、発泡潤滑中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく摺動面に染み出させて用いることができる。その結果、該軸受は潤滑成分量は必要最小限でよく、長寿命で高速回転でも運転が可能である。
【実施例】
【0035】
実施例1〜実施例4および比較例1
イソシアネートを除く配合材料を表1に示す配合割合でよく混合し、最後にイソシアネートを加えて素早く混合した混合物を、玉軸受6204の内部空間に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、常温で数時間放置し硬化させて発泡潤滑剤封入軸受の試験片を得た。
得られた試験片について、以下に示す軸受耐久試験を実施し、軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
【0036】
<軸受耐久試験>
得られた試験片にラジアル荷重 67 N 、スラスト荷重 67 N を負荷し、100℃で 10000 rpm で回転させ、回転軸を駆動している電動機の入力電流が制限電流を超過した時(回転トルクが始動トルクの 2 倍をこえた時)までの寿命時間を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示したように、各実施例は高速時においても良好な潤滑性を保つことができ、長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の発泡潤滑剤封入軸受は、潤滑成分量は必要最小限でよく、高速回転でも長期間潤滑性を保持できるので、撚線機、電動機器、印刷機、自動車部品、電装補機、建設機械等の各種産業用機械用の発泡潤滑剤封入軸受として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の他の実施例に係るラジアル玉軸受(シール部材なし)への封入例を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施例に係るラジアル玉軸受(シール部材付き)への封入例を示す模式図である。
【図3】本発明の他の実施例に係るスラスト玉軸受(シール部材なし)への封入例を示す模式図である。
【図4】図3にて円筒治具の使用を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係る深溝玉軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、11 ラジアル玉軸受
2、12、22、32 内輪
3、13、23、33 外輪
4、14、24、34 ボール(転動体)
5 鉄板
6、16、26 発泡潤滑剤成分の混合物
7 軸受外径
15、35 シール部材
21 スラスト玉軸受
25 金型
27 円筒治具
28 発泡潤滑剤
31 深溝玉軸受
36 保持器
37 発泡潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受内部に発泡潤滑剤が封入されてなる発泡潤滑剤封入軸受であって、
前記発泡潤滑剤は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、前記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であることを特徴とする発泡潤滑剤封入軸受。
【請求項2】
前記硬化剤がイソシアネート化合物であり、前記発泡剤が水であることを特徴とする請求項1記載の発泡潤滑剤封入軸受。
【請求項3】
前記発泡潤滑剤は、前記混合物を軸受内部に充填して、発泡・硬化させてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発泡潤滑剤封入軸受。
【請求項4】
前記発泡潤滑剤の発泡倍率は、1.1 倍〜100 倍であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の発泡潤滑剤封入軸受。
【請求項5】
前記発泡潤滑剤封入軸受は、転がり軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の発泡潤滑剤封入軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69279(P2008−69279A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249625(P2006−249625)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】