説明

発泡耐火塗材

【課題】 耐火被覆材において、耐火モルタルに比べて所定の耐火性能を確保するための膜厚は小さく、塗布に係る工程が少なく、一度に塗布できる厚さが大きなものを提供する。
【解決手段】 硬化剤としての水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤を主成分とすること、主成分として配合される水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤の割合が、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の鋼材などの表面に塗装され、火災時にはその塗膜が発泡し発泡断熱層を鋼材表面に形成して、鋼材を火災時の炎・熱から防護する耐火塗材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法に定める耐火性能を満足する耐火被覆材料には大きく分類すると、発泡を生じない比較的厚膜のモルタルと発泡により断熱層を形成できる薄膜でよい塗料の二つがある。
【0003】
耐火モルタルには、特公平04−54634号公報に例示される、セメント、軽量骨材および結晶水をもつ吸熱性充填材を主成分とするものがある。特許請求の範囲および特許公報第3欄から第5欄に説明の記載がある。また、他にも特開平05−32448号公報には、無機繊維と、未発泡蛭石を主要成分とするセメント系の耐火被覆材もある。特開平5−32448号の発明では、未発泡蛭石が高温において、結晶水が蒸発、発泡、膨張する性質を応用し断熱性を発揮するものである。特許請求の範囲および段落0004から段落0007に説明の記載がある。
【0004】
【特許文献1】特公平04−54634号公報(特許請求の範囲および特許公報第3欄〜第5欄)
【特許文献2】特開平05−32448号公報(特許請求の範囲および段落0004〜段落0007)
【0005】
耐火塗料としては、建築物の鋼材などの表面に塗装され、火災時にはその塗膜が発泡し発泡断熱層を鋼材表面に形成して、鋼材を火災時の炎・熱から防護している。例えば、発泡形耐火塗料を、鋼材表面に塗装し、その硬化膜厚が約1〜数mm厚の発泡性耐火塗膜では、加熱により200〜300℃位から発泡を開始し、10〜50倍に発泡し、数10mm〜100mm厚の発泡層を形成し、断熱性を発揮する。
【0006】
このような発泡形耐火塗料組成物として、例えば特許文献3として特開2001−40290号公報を挙げる。この公報には、合成樹脂バインダー、ポリリン酸アンモニウムを含有する発泡形塗料組成物が開示されている。この公報の段落0007から段落0010には、バインダー用樹脂としてメラミン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらの樹脂は単独にて用いる方法、あるいは共重合したものにして、またこれらを混合して用いることも記述され。さらに、これらの樹脂の形態として、有機溶媒に溶解させたもの、あるいはエマルションとして水に分散させる方法が挙げられている。難燃性発泡剤としてポリリン酸アンモニウムが挙げられ、炭素形成材としてペンタエリスリトールなどの多価アルコール類が挙げられている。
【0007】
【特許文献3】特開2001−40290号公報(特許請求の範囲および段落0007〜段落0010)
【0008】
上記の発泡形耐火塗料は、所定の耐火性能を発揮するために必要な膜厚を少工程にて確保しようとしたとき、一度に厚く塗布すると塗料にタレが生じたり、乾燥し造膜する間に皮張りしたり、ヒビ割れなどが起こることがある。このため一度に塗布できる厚さに限界があり、所定の耐火性能を得るためには施工の工程数が多く必要となる。また、必須成分であるバインダー用樹脂は難燃性発泡剤と凝集反応を起こしてしまうこともあり、貯蔵安定性に乏しいこともあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材において、薄膜とするために発泡性耐火塗料が開発されているが、一度に塗布できる厚さに限界があり、所定の耐火性能を得るために施工の工程数が多く必要であること、また、バインダーの安定性が不充分な点である。そして、耐火モルタルに比べたら、塗り付ける膜厚が薄くできる耐火被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の請求項1記載の発泡耐火塗材では、硬化剤として水和硬化形無機塩を用い、炭化発泡層形成剤と、発泡剤とを主成分とすることを要旨としている。
【0011】
この発明の請求項2記載の発泡耐火塗材では、請求項1記載の発明において、水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤の配合割合を、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
とすることを要旨としている。
【0012】
この発明の請求項3記載の発泡耐火塗材では、硬化剤として水和硬化形無機塩を用い、炭化発泡層形成剤と、発泡剤と、膨張剤とを主成分とすることを要旨としている。
【0013】
この発明の請求項4記載の発泡耐火塗材では、請求項3記載の発明において、水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤の配合割合を、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
とすることを要旨としている。
【0014】
この発明の請求項5記載の発泡耐火塗材では、硬化剤として水和硬化形無機塩を用い、炭化発泡層形成剤と、発泡剤と、膨張剤と、骨材を主成分とすることを要旨としている。
【0015】
この発明の請求項6記載の発泡耐火塗材では、請求項5記載の発明において、水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤、膨張剤および骨材の配合割合を、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
骨材 15〜1000重量部
とすることを要旨としている。
【0016】
この発明の請求項7記載の発泡耐火塗材では、請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の発明において、発泡剤に、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマー、特にはリン酸アンモニウムを選択することを要旨としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明における発泡耐火塗材は、成膜性バインダーおよび適当な溶剤を用いず、水和硬化形無機塩、例えば石こうなどを硬化剤として用いる事で炭化発泡層形成剤、発泡剤を主成分とし、膨張剤(blowing agents)、骨材、慣用の助剤並びに添加剤を鋼製工作物、天井、壁、ケーブル、パイプ類などに施工することが出来るため、所定の耐火性能を得るために必要な厚さを塗布する工程数を大幅に省略できる点にこの発明の有意性がある。
【0018】
更に、この発泡耐火塗材は、成膜性バインダーとしての合成樹脂が発泡剤としてのリン酸アンモニウムもしくはポリリン酸アンモニウムなどによって凝集されることを防ぐことが出来、よっては貯蔵安定性の問題も解決することができる。
【0019】
請求項1に記載される配合割合の発泡耐火塗材としたときには、200〜300℃程度の温度で発泡が始まり、被覆厚よりも厚い発泡層を形成し、断熱性を発揮する。
【0020】
発泡剤にホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーを選択したときには、200〜300℃程度の温度でアンモニウムの脱離反応が進行し、その後炭化発泡層との反応が起こり発泡層を形成する。
【0021】
請求項3及び請求項4に記載される配合割合の発泡耐火塗材としたときには、請求項1、2に記されている効果に加え、膨張剤を加えることで発泡効率が上がり、より高い耐火効果を発揮する。
【0022】
膨張剤に、含窒素膨張剤としてのメラミンおよび/またはその誘導体を選択したときには、難燃性発泡剤の分解温度と異なる温度にて再び発泡倍率を増加させることになる二段階発泡とすることができる。従って、より発泡倍率の高い、耐火性能に優れた発泡耐火塗材とすることができる。
【0023】
請求項5及び請求項6に記載される配合割合の発泡耐火塗材としたときには、請求項3,4に記されている効果に加え、骨材を加えることで発泡層形成後の塗膜強度を上げる効果がある。
【0024】
請求項7に記載されるよう発泡剤として、リン酸二アンモニウムを使用するほうが、それらのポリマー及びダイマー、もしくはリン酸一アンモニウムよりも同質量中における脱離反応を起こすアンモニアの割合が多く、また、炭化発泡層形成材であるペンタエリスリトールが分解するよりも低い温度で脱離反応を始めるためリン酸二アンモニウムを用いるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明における発泡耐火塗材は、成膜性バインダーおよび適当な溶剤を用いず、炭化発泡層形成剤、発泡剤を必須成分とし、更に膨張剤(blowing agents)、骨材あるいは慣用の助剤並びに添加剤に基づく耐火成分を、水和硬化形無機塩にて硬化する発泡性耐火塗材である。
【0026】
以下に、この発明の構成要素を詳細に説明する。
上記水和硬化形無機塩としては、石膏の主成分である硫酸カルシウム(CaSO・1/2HO)もしくは硫酸カルシウムカリウム(CaSO・KSO・HO)、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸バンド、アンモニウムシンゲナイト((NHSO・CaSO・HO)等の硫酸塩、アルミノケイ酸一カルシウム、アルミノケイ酸二カルシウム等のアルミノケイ酸塩、アルミン酸一カルシウム、アルミン酸三カルシウムのアルミン酸塩、アルミノ鉄酸四カルシウム、メタケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸バリウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸塩等が水和硬化性を有するものとして挙げられる。これらは常温で含水塩として存在できるので好ましい。また、火炎に暴露された後も、酸化物として存在するので良い。中でも、石膏は中性であり、水和反応後の水分重量も単位重量当たり21%有り、価格が廉価であり、入手が容易であることにより実用性に優れる。
【0027】
水和硬化形無機塩として代表的な水和硬化剤であるポルトランドセメント、アルミナセメントなどは、必須成分である発泡剤のリン酸アンモニウムおよびポリリン酸アンモニウムと酸塩もと反応を起こしてしまうために使用に適さない。
【0028】
このため硬化剤として使用される無機塩は、発泡剤として用いられるリン酸アンモニウム塩等との反応を避けるため、中性あるいは酸性の塩であることが望ましい。
【0029】
これら、水和硬化形無機塩の使用により、耐火塗料の樹脂バインダーのリン酸アンモニウムもしくはポリリン酸アンモニウムによる凝集の防止が挙げられ、他にも粘度調整が行い易くなりコテ塗り、吹付け塗装等への使用方法の拡充が図られ、また、粘度調整の容易化に伴い塗厚の調整も数センチ〜数ミリの範囲で可能になることも利点として挙げられる。
【0030】
上記炭化発泡層形成剤としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、およびペンタエリスリトールの重縮化合物などの多価アルコールが例示される。
【0031】
上記、発泡剤としては、リン酸一アンモニウムおよび/又はリン酸二アンモニウムおよび/又はジリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ジリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンなどのホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーが例示される。
【0032】
また、第4の成分である膨張剤には、メラミンおよび/またはグアニジンもしくはこれらの塩および/またはジシアンジアミド類、トリアゾールもしくはトリアゾール塩が例示される。
【0033】
上記、骨材としては二酸化チタン、酸化亜鉛、珪砂、焼成バーミキュライト、真珠岩系パーライト、黒曜石系パーライトなどがあげられる。また一般的に塗料業界では二酸化チタン、酸化亜鉛は顔料として添加されるが、上記骨材の目的が、被塗物の隠蔽ではなく発泡層の安定のためであるため二酸化チタン、酸化亜鉛も骨材とする。
【0034】
慣用の助剤および添加剤、アクリル繊維、ガラス繊維、鉱物繊維、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、沈降シリカ、ケイ酸塩および/または粉末化されたセルロースを含んでなる物質が挙げられる。
【0035】
この発明の発泡耐火塗材は、上記主成分である、水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤を、以下に示す配合範囲において使用するとき必要な性能を発揮することができる。
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
上記三成分を主成分とする発泡耐火塗材に対して、膨張剤あるいは従来公知の助剤、添加剤、骨材を、この発明の主旨を損なわない範囲において添加することも可能である。その添加割合は、水和硬化形無機塩100重量部に対して1500重量部以内とする。
【0036】
上記組成における水和硬化形無機塩に対する炭化発泡層形成剤の割合が、10重量部未満である時には、加熱時に十分な発泡力が得られずに十分な耐火性能が得られない。
【0037】
逆に、上記組成における水和硬化形無機塩に対する炭化発泡層形成剤の割合が、400重量部を越える時には、発泡剤との均衡が崩れ未反応の炭化発泡層形成剤が生じる。
【0038】
この水和硬化形無機塩に対する炭化発泡層形成剤の割合は、30重量部以上100重量部以下にあるとき、より効果的な発泡層形成が行われる。
【0039】
上記組成における水和硬化形無機塩に対する発泡剤の割合が、30重量部未満である時には、脱水反応成分の濃度が低すぎるため十分な発泡力が得られずに十分な耐火性能の発揮が難しくなる。
【0040】
上記組成における水和硬化形無機塩に対する発泡剤の割合が、1000重量部を越える時には、発泡剤の濃度が高すぎ加熱により急激な発泡が進行し均一な発泡層を形成できない。
【0041】
この水和硬化形無機塩に対する発泡剤の割合は、100重量部以上400重量部以下にあるとき、より調和のとれた発泡層形成が行われる。
【0042】
上記、配合範囲において、以下に示す配合範囲において使用するときより優れたバランスで過熱時の発泡、発泡層の造膜が進行し、より好ましい範囲での耐火性能を発揮する。
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 50〜200重量部
発泡剤 200〜400重量部
また、上記三成分を主成分とする発泡耐火塗材に対して、膨張剤あるいは従来公知の助剤、添加剤、骨材を、水和硬化形無機塩100重量部当たり1500重量部以内とし、この発明の主旨を損なわない範囲において添加することも可能である。
【0043】
この発明の発泡耐火塗材は、上記主成分である、水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤、以下に示す配合範囲において使用するとき必要な性能を発揮することができる。
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
上記四成分を主成分とする発泡耐火塗材に対して、従来公知の助剤あるいは添加剤および骨材を、この発明の主旨を損なわない範囲において添加することも可能である。その添加割合は、水和硬化形無機塩100重量部に対して1100重量部以内とする。
【0044】
上記組成における水和硬化形無機塩に対する膨張剤の割合が、10重量部未満である時には、総重量に占める発泡剤の添加量が少なすぎ過熱時に熱分解が進行しても、他成分で形成される層に対して影響が少なく十分な膨張効果を発揮しない。
【0045】
逆に、上記組成における水和硬化形無機塩に対する膨張剤の割合が、400重量部を越える時には、総重量に占める発泡剤の添加量が多すぎるため熱分解が進行した際、膨張しすぎ十分な強度の発泡層を形成できない。
【0046】
上記、配合範囲において、膨張剤を使用することで、より高い発泡倍率が得られ、膨張剤を用いない状態での使用よりも高い耐火性能を得ることができる。この水和硬化形無機塩に対する膨張剤の割合は、50重量部以上200重量部以下にあるとき、発泡倍率の高い調和のとれた発泡層形成が行われる。
【0047】
更に、以下に示す配合範囲を採用するとき、より効果的な性能を発揮することが可能となる。
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
骨材 15〜1000重量部
この場合における、従来公知の助剤あるいは添加剤は、水和硬化形無機塩に対して100重量部以内とし、発泡剤にはホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーを選択することが望ましい。
【0048】
上記、配合において、骨材を添加することで塗膜強度を調整し効率よく過熱時の発泡を進行させることができる。上記組成における水和硬化形無機塩に対する骨材の割合が、15重量部未満である時には、他成分に対しての添加量が少ないため骨材を添加する影響がほとんど発揮されない。
【0049】
上記組成における水和硬化形無機塩に対する骨材の割合が、1000重量部を越える時には、骨材の添加量が増えすぎ相対的に炭化発泡層形成剤と発泡剤の濃度が低下し反応が進行しにくくなる。
【0050】
更に、発泡剤としてリン酸二アンモニウムを選択するとき、ジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーを選択するときも同重量あたりの反応分子が増すためにより好ましい耐火性能が得られる。
【0051】
本発明の発泡耐火塗材は、様々な基体、例えば鉄骨、アルミニウム、亜鉛鉄板および石綿セメント板、電気ケーブルおよび管を保護するために好適に使用される。また、木材、合板、紙、繊維などの可燃性物質の準不燃化もしくは難燃化にも有用である。
【0052】
施工方法としては、吹きつけおよびローラー、コテ塗りなどの方法で基体へと塗装される。この際、それぞれの塗装方法に適合するべく耐火塗材を水で混練する。
【0053】
この発明の発泡耐火塗材の使用に当たって、プライマー処理(例、鉄骨の場合は防錆塗料など)による下塗りを施した上に発泡性耐火塗材を施工することも可能である。この発明の発泡耐火塗材を塗装した後、外観や耐久性の向上を目的として中塗り、上塗り塗装をすることも可能である。
【0054】
次に、前記のように構成された発泡耐火塗材の耐火性能測定方法を説明する。さて、ブラスト処理したJISG3466に規定するSTKR400正方形一般構造用角形鋼管(縦300mm横300mm厚み9mm)長さ1000mmの角形鋼管に対し、発泡耐火塗材をコテで2mm厚に塗装し、21日間養生して試験体を作製する。この試験体をJISA1304の標準加熱曲線に従って加熱試験を行い、K熱電対によって鋼材の裏面温度を測定した。
【0055】
この試験体の評価は、鋼材の裏面温度が500℃に達した時間(分)と加熱終了後の試験体の外観を観察することによって行う。以上のように、この実施形態によれば次のような効果が発揮される。
【0056】
発泡耐火塗材は、炭化発泡層形成剤、発泡剤、膨張剤、水和硬化形無機塩を主成分とする塗材にあって、水和硬化形無機塩としての石膏を用いることで熱に曝された際に130〜190℃の範囲で石膏の結晶水の蒸発が進行し基体への該燃焼熱の伝導を防ぐことができ、更には硫酸ガスの解離反応が吸熱的に進行する。
【0057】
水和硬化形無機塩の使用量が炭化発泡層形成剤と発泡剤の混練量に対し70%を越える範囲においては、塗材の硬度が高すぎるために発泡が阻害され、発泡性能が発揮されにくくなる。
【0058】
また、水和硬化形無機塩が石膏を利用した場合には難燃性発泡剤として、リン酸一アンモニウムよりもリン酸二アンモニウムの場合に、多価アルコールとの脱水縮合反応が効率的に進むことになる、これはリン酸二アンモニウムは155℃以上にて、一度分解反応が起こりアンモニウムが脱離し、リン酸一アンモニウムとなり216℃以上にて再びアンモニウムの脱離反応を起こすことで炭化発泡層形成剤と二段階で脱水反応を起こすためと考える。
【0059】
炭化発泡層形成剤である多価アルコールがペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトールから少なくとも1種以上であることにより、熱分解温度が260℃であるので、難燃性発泡剤のほうが速く分解を起こすため、安定した発泡層を形成することができる。
【0060】
この発明では、以下に示す改良を加えることも可能である。例えば、発泡耐火塗材成分の膨張剤に含窒素膨張剤を使用するものであることにより、より安定した発泡層を形成することができる。その含窒素膨張剤には、メラミンおよびその誘導体を用いた時は、難燃性発泡剤の分解温度と異なる温度にて再び発泡倍率を増加させることができ、二段階発泡することができる。
【0061】
そしてまた、発泡耐火塗材成分に二酸化チタンを含むものであることにより、二酸化チタンの触媒効果によって発泡層の結合が促進され、形状維持性の高い発泡層が形成される。この二酸化チタンがアナターゼ型であることにより、触媒効果がより促進される。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例および比較例を示し、この発明の耐火塗材を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、限定するためのものではない。はじめに、下記表1〜表2に実施例および比較例の配合例を示した。
【0063】
【表1】

実施例1は請求項2の適量範囲のもの、実施例2は請求項4の適量範囲のもの、実施例3及び実施例4は請求項4の範囲にあるもの。
【0064】
【表2】

実施例5は、請求項6の適量範囲のもの。
比較例1は、水和硬化形無機塩を含まず合成樹脂を用いたものである。
実施例6は、実施例5の酸化チタンの代わりに珪砂を一部用いたもの。
実施例7は、実施例5の発泡剤にリン酸一アンモニウムを用いたもの。
【0065】
【表3】


比較例2は、炭化発泡層形成剤が適量範囲より少ないもの。
比較例3は、炭化発泡層形成剤が適量範囲より少ないもの。
比較例4は、炭化発泡層形成剤が適量範囲より多すぎるもの。
比較例5に、発泡剤が適量範囲より少なすぎるもの。
【0066】
比較試験の下地には、ブラスト処理したJISG3466に規定するSTKR400正方形一般構造用角形鋼管であり、縦300mm横300mm厚み9mm長さ1000mmの角形鋼管に対し、実施例あるいは比較例の配合による発泡形耐火塗材をコテにより一回塗りで2mm厚、4mm厚にそれぞれ塗装し、21日間養生して試験体を作製した。養生条件は、室温20℃で、湿度が65%RHであった。発泡耐火塗材を塗装するに当たっては、それぞれの塗材について希釈し、粘度50〜65dPa・sに入るように調整した。
【0067】
この試験体をJISA1304の標準加熱曲線に従って加熱試験を行い、K熱電対によって鋼材の裏面温度を測定した。
【0068】
評価は、塗布し乾燥後の試験体の外観の観察、鋼材の裏面温度が500℃に達した時間の測定と加熱終了後の試験体の外観の観察、発泡倍率を計測をすることによって行った。
発泡耐火塗材塗布後における試験体の外観観察では、塗膜のひび割れの有無を目視確認した。塗膜もしくは発泡層のひび割れは、全くひび割れのないもの…○、ひび割れが発生し、ひび割れの幅が1mm未満の物…△、ひび割れの幅が1mm以上のもの…×と表した。
【0069】
加熱終了後の試験体の外観観察では、発泡層の脱落の程度及び発泡後の塗膜における多孔質体の気泡の大きさにより、○△×の評価とした。発泡層の脱落の程度では、発泡層の全く脱落がないもの…○、全体の20%未満が脱落しているもの…△、全体の20%以上が脱落しているもの…×と表わした。また、多孔質体の気泡の大きさでは、0.5mm以下のものを…○、0.5から1.5mmにあるものを…△、1.5mmを超えるものを×とした。
【0070】
実施例と比較例の試験結果を下記表4に示した。
【表4】

【0071】
本発明の発泡耐火塗材を用いることにより、所定の耐火性能を得るために必要な厚さを塗布する工程数を大幅に省略することができ、耐火時間を有利に延長できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤としての水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤を主成分とすることを特徴とする発泡耐火塗材。
【請求項2】
主成分として配合される水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤および発泡剤の割合が、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
であることを特徴とする請求項1記載の発泡耐火塗材。
【請求項3】
硬化剤としての水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤を主成分とすることを特徴とする発泡耐火塗材。
【請求項4】
主成分として配合される水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤の割合が、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
であることを特徴とする請求項3記載の発泡耐火塗材。
【請求項5】
硬化剤としての水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤及び骨材を主成分とすることを特徴とする発泡耐火塗材。
【請求項6】
主成分として配合される水和硬化形無機塩、炭化発泡層形成剤、発泡剤および膨張剤、骨材の割合が、
水和硬化形無機塩 100重量部
炭化発泡層形成剤 10〜400重量部
発泡剤 30〜1000重量部
膨張剤 10〜400重量部
骨材 15〜1000重量部
であることを特徴とする請求項3記載の発泡耐火塗材。
【請求項7】
発泡剤に、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマー、特にはリン酸二アンモニウムを選択することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかの項に記載の発泡耐火塗材。


【公開番号】特開2007−31243(P2007−31243A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220233(P2005−220233)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】