説明

発熱反応の反応制御法及び装置

【課題】 暴走反応を抑制し、反応容器の運転停止と洗浄を不要とすると共に反応外異物の添加による容器内の汚染を回避することの可能な発熱反応の反応制御法を提供する。
【解決手段】 A)反応容器内で発熱反応を実行する工程、B)反応容器内の温度/圧力を計測する工程、C)温度/圧力が閾値を超えたときに既に発熱反応で生成された不活性な反応生成物を貯留容器から反応容器内に導入する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱反応の反応制御法及び該発熱反応を実行するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば石油化学製品の重合プラントのように、密閉された反応容器内における原料の遊離体の発熱反応を伴う反応プロセスを実行する場合、反応容器の冷却は、安全上の理由並びに反応を効率良く進行させるために重要なことである。
【0003】
多くの場合、発熱反応の反応速度は触媒によって促進されるので、唯一の自由度をもつのが温度であることを考慮すると、放出される熱は指数関数的に増加するものと考えられる(アレニウスの指数法則)。
【0004】
化学分野では周知であるが、発熱反応とは、エネルギーを反応系外へ熱として放出する化学反応を意味する。
【0005】
発熱反応、従ってその反応温度は、例えば特許文献1に述べられているように、反応で放出される熱と冷却設備で除去される熱との平衡が保たれるように間接的又は直接的に反応容器を冷却することによって制御可能である。定常時には冷却設備で除去できる熱が反応温度にほぼリニアに追従するが、反応温度が或る限界温度に達すると(温度は依然として上昇する自由度をもつので)反応の不可逆的な加速を招くことが不可避となり、所謂、暴走を起こすことになる。
【0006】
このような暴走は確実には防ぐことができないことも知られており、従って暴走時の安全性確保のための幾つかの対処法は既に確立されている。一般的な暴走対処法とその主な欠点は以下の通りである。
【0007】
即ち、1つの対処法では、触媒で促進される発熱反応に対して反応外異物である触媒毒物を添加する。しかしながら、この場合は反応生成物の損失が生じる他に、添加した毒物により反応容器が汚染されるので、再使用のためには反応容器内の触媒毒物を洗浄して除去する必要がある。更に、暴走に至る反応を確実に崩壊させるためには反応容器内へ触媒毒物を適時に確実に行きわたらせなければならないという難しい作業が必要である。
【0008】
別の対処法は所謂ブロックインと呼ばれる安全対策であり、暴走の初期段階で安全弁や破裂板により反応容器からの圧力放出及び/又は液抜きを果たすことである。この場合、反応生成物の損失は勿論、反応容器内外の暴走生成物を洗浄する必要が生じる。多くの場合、暴走に対処して反応容器から放出される生成物は、例えば重合反応や毒性といった好ましくない性質を残しているため、放出生成物自体の事後処理も必要となる。
【0009】
暴走に対処した後は、一般的に反応容器の運転停止と再始動前の洗浄が必要である。従って、反応の暴走は、殆どの場合に反応生成物の暴走自体による損失だけでなく、反応容器の洗浄と再始動の準備、更には反応容器の再始動自体にも時間的なロスが伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−18037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明で解決しようとする課題は、従来技術の欠点を解消した発熱反応の反応制御法、特に反応の暴走を確実に抑制し、暴走の影響を最小限にし、反応容器の運転停止と洗浄を不要とすると共に触媒毒物等の反応外異物の添加による反応容器の汚染を回避することの可能な発熱反応の反応制御法を提供することにある。
【0012】
また、以上のような本発明による方法を実施可能とする発熱反応の実行装置を提供することも本発明の課題の一部である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するための本発明による発熱反応の反応制御法は、
反応容器内で原料の発熱反応を実行して不活性な反応生成物を得る工程Aと、
前記反応容器内の温度及び圧力の一方又は双方を計測する工程Bと、
前記発熱反応で生成された不活性な反応生成物を貯留容器に蓄え、前記発熱反応中に計測される温度及び圧力の一方又は双方が予め定められた閾値を超えたときには前記貯留容器に蓄えられた不活性な反応生成物を該貯留容器から前記反応容器内に導入する工程Cとを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、貯留容器に蓄えられる不活性な反応生成物は液体状態の反応生成物であることが好ましい。
【0015】
本発明は、発熱反応として原料オレフィンのオリゴマー化重合反応を実行する場合に特に好適である。
【0016】
本発明の好適な一実施形態によれば、前記計測工程Bで計測される測定値が前記閾値を超えたときに前記反応容器への原料の供給を停止する工程を更に備えている。
【0017】
この原料の供給を停止する工程は、前記工程Cにおいて前記貯留容器から不活性な反応生成物を反応容器内へ導入するのと実質的に同時に行うことが好ましい。
【0018】
本発明の更に好適な一実施形態によれば、前記工程Cにおいて前記貯留容器から不活性な反応生成物が前記反応容器内の液体状態にある反応相へ導入される。
【0019】
前記貯留容器から前記反応容器への不活性な反応生成物の導入は、前記反応容器内へ圧力によって注入することにより行うことが好ましい。
【0020】
更に好ましくは、前記貯留容器から前記反応容器内へ導入される不活性な反応生成物の流量が例えば流量調整弁によって調節可能とされる。
【0021】
本発明はまた、上述のような発熱反応を実行するための装置も提供し、この装置は、
a)原料と、溶剤又は触媒との発熱反応を実行する反応容器、
b)前記反応容器内の温度と圧力の一方又は双方を計測する測定手段、
c)原料を前記反応容器へ供給するための開閉弁を備えた供給管路と反応生成物を前記反応容器から取り出すための取出管路とを含む管路手段、
d)流量調整弁を備えた連結管路によって前記反応容器に接続され、前記反応容器内における発熱反応で生成された不活性な反応生成物を蓄える貯留容器、及び
e)前記計測手段と前記開閉弁と前記流量調整弁に接続された制御ユニット
を備えたことを特徴とする。
【0022】
本発明における反応容器は、連続反応、半連続反応、又は非連続反応のいずれの反応容器もその対象に含まれる。
【0023】
本発明において、前記貯留容器内に収容された不活性な反応生成物は、前記反応容器内の圧力より高圧の状態に維持されていことが特に好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、暴走を抑えるのに反応外異物の添加は不要であるので発熱反応プロセスの異物による汚染は発生せず、反応の暴走を自律的に抑制する系統を備えた発熱反応の反応制御法が実現可能である。本発明の反応制御法によれば、反応の暴走を確実に抑制して暴走による悪影響を制限することができるので、暴走に対する適時処理性能と反応の生産性を改善することが可能である。即ち、本発明によれば、反応温度が極端な高温に到達しないように、或いは反応容器内の圧力が極端な高圧に到達しないように、更にはこれらの組合せで発熱反応の活性を制限するので、暴走による影響を最小限にとどめることができる。また発熱反応で生成された不活性な反応生成物によって反応容器内の発熱反応の活性を抑制するので、反応容器の稼働を停止することなく継続させることが可能であり、反応系の余分な洗浄も不要である。特に反応温度の上限を閾値で制限することにより、例えば反応生成物の不所望の重合による不要な副生物の生成を抑制することも可能である。
【0025】
本発明によれば、反応容器の稼働停止や洗浄は不要であり、従って反応容器を再始動可能とするまでの時間を最低必要限度に短縮することができる。
【0026】
また、触媒で促進される発熱反応に対しては触媒毒物を添加することなく反応の暴走を抑制できるので反応容器が汚染されず、従って毒物注入に起因する反応容器の洗浄を回避することができる。
【0027】
いずれにせよ本発明に係る反応制御法によれば、発熱反応による製品の製造プロセスにおいて全体的な製品損失を最小限にすることが可能である。
【0028】
本発明に係る方法は、発熱反応、特に液相で生じる発熱反応、或いは原料を例えば反応容器の直接冷却の主な冷却源として利用する発熱反応において特に有利に適用することができる。本発明による反応制御法を成功裡に適用できる発熱反応の一例として、オレフィン、特にエチレンのオリゴマー化重合反応を挙げることができる。
【0029】
本発明による発熱反応の反応制御法及び係る発熱反応を実行する装置の更なる特徴及び利点を図示の実施形態と共に詳述すれば以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による発熱反応の反応制御法を実行するための一実施形態に係る装置構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示す反応容器1の内部では、発熱反応、例えば、オレフィンのオリゴマー化重合反応が液相で生じる。反応容器1内には、内容物の液相を攪拌する攪拌器2が設けられている。反応容器1内へは、原料の遊離体、例えばエチレンが供給管路3を介して原料貯留部4から導入可能である。供給管路3は、途中に配置された電磁操作開閉弁5により開閉可能である。反応容器1からは、気体状態の反応生成物が取出管路6を介して、また液体状態の反応生成物が取出管路7を介して、それぞれ取り出される。
【0032】
反応容器1よりも高い位置に配置された貯蔵容器8には、反応容器1で既に反応が終了して不活性となった液体状態の反応生成物9、例えばエチレンオリゴマーが反応容器1から取り出されて蓄えられている。貯留容器8は、その底部から電磁操作流量調整弁11によって連通開度が調整可能な連結管路10を通して反応容器1内に連結されている。この場合、貯留容器8内の不活性反応生成物9は周囲温度以下であることが好ましい。
【0033】
反応容器1には、液相の温度を計測するセンサ12と圧力を計測するセンサ13が装着されている。これらのセンサ12と13、開閉弁5、及び流量調整弁11は、制御ユニット14に電気的に接続されている。
【0034】
この装置は、反応容器の稼動中、以下のように作動する。即ち、反応容器1内では供給原料と溶剤又は触媒による発熱反応が実行されている。供給原料は、反応容器1の直接冷却の冷却材としても機能し、原料貯留部4から開放状態の電磁操作開閉弁を介して供給管路3により反応容器1内に導入される。反応容器1内における発熱反応によって製造された気体状態及び液体状態の反応生成物は、それぞれ取出管路6、7を介して反応容器1から取り出される。稼働中の反応容器1内の温度及び圧力は、制御ユニット14により予め定められた範囲内に制御される。この場合、制御ユニット14は、センサ12、13による計測信号に基づいて反応容器1内の温度と圧力の一方又は双方が予め設定された臨界閾値を超えていることを検知すると、閾値からの超過量に応じて電磁操作流量調整弁11の開度を開き、それによって貯留容器8内から周囲温度以下の液体状態の不活性な反応生成物9が水頭圧力で反応容器1内の液体状態の反応相に導入される。この不活性な反応生成物9は圧力容器1内の直接冷却のための冷却材として機能し、従ってその導入により反応容器1内の更なる温度上昇又は圧力上昇が抑制される。電磁操作流量調整弁11を開くと同時に電磁操作開閉弁5を閉じてもよい。また、電磁操作開閉弁5の開度を調整することにより、供給管路3内を流れる原料の流量を絞り制御してもよく、いずれにせよ、反応容器1内への不活性反応生成物9の導入、更にはそれと組み合わせた活性原料の供給流量の制限によって反応容器内における発熱反応の最高反応温度が制限され、望ましくない副生物の形成も抑制される。
【0035】
貯留容器8から反応容器1内へ導入する不活性反応生成物9は液相のものとすることが好ましく、液相の不活性反応生成物を使用することによりその蒸発熱を反応容器内の冷却に有効利用することができる。
【0036】
反応容器1内に不活性反応生成物9が導入された後、センサ12、13で計測される温度や圧力が、もはや暴走反応に至る虞のない無い範囲内に入ったことが制御ユニット14で判別されると、制御ユニット14は通常の始動シーケンスで反応容器1内における発熱反応を安定反応状態に復帰させ、継続させる。この場合、従来技術のような反応容器1の煩雑な再始動操作やそれに先立つ反応容器の洗浄作業は全く必要ない。また、反応容器1内の反応生成物は反応外異物で汚染されることはなく、反応容器1を冷却するために導入された不活性反応生成物9は本来の反応が終了した生成物と同じであるので、取出管路から反応容器1外へ通常の通りに取り出すことができる。
【符号の説明】
【0037】
1:反応容器
2:攪拌器
3:供給管路
4:原料貯留部
5:電磁操作開閉弁
6、7:取出管路
8:貯留容器
9:不活性な反応生成物
11:電磁操作流量調整弁
12、13:センサ
14:制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で原料の発熱反応を実行して不活性な反応生成物を得る工程Aと、
前記反応容器内の温度及び圧力の一方又は双方を計測する工程Bと、
前記発熱反応で生成された不活性な反応生成物を貯留容器に蓄え、前記発熱反応中に計測される温度及び圧力の一方又は双方が予め定められた閾値を超えたときには前記貯留容器に蓄えられた不活性な反応生成物を該貯留容器から前記反応容器内に導入する工程Cとを備えたことを特徴とする発熱反応の反応制御法。
【請求項2】
貯留容器に蓄えられる不活性な反応生成物が液体状態の反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発熱反応として原料オレフィンのオリゴマー化重合反応を実行することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
工程Bで計測される測定値が前記閾値を超えたときに前記反応容器内への原料の導入を停止する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
原料の供給を停止する工程を、前記工程Cにおいて前記貯留容器から不活性な反応生成物を反応容器内へ導入するのと実質的に同時に行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程Cで前記貯留容器から不活性な反応生成物を前記反応容器内の液体状態の反応相に導入することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
貯留容器から反応容器への不活性な反応生成物の導入を、前記反応容器内へ圧力によって注入することにより行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
貯留容器から反応容器内へ導入される不活性な反応生成物の流量を調節可能とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
a)原料と、溶剤又は触媒との発熱反応を実行する反応容器、
b)前記反応容器内の温度と圧力の一方又は双方を計測する測定手段、
c)原料を前記反応容器へ供給するための開閉弁を備えた供給管路と反応生成物を前記反応容器から取り出すための取出管路とを含む管路手段、
d)流量調整弁を備えた連結管路によって前記反応容器に接続され、前記反応容器内における発熱反応で生成された不活性な反応生成物を蓄える貯留容器、及び
e)前記計測手段と前記開閉弁と前記流量調整弁に接続された制御ユニット
を備えたことを特徴とする発熱反応実行装置。
【請求項10】
前記反応容器が、連続反応用、半連続反応用、又は非連続反応用の反応容器であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記貯留容器内の不活性な反応生成物が、前記反応容器内の圧力より高圧に維持されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−78970(P2011−78970A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227687(P2010−227687)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, 80331 Munchen, Bundesrepublik Deutschland
【Fターム(参考)】