説明

発色材、及び発色材の形成方法

【課題】硬度及び光沢性が高く、耐衝撃性に優れるとともに、所望の色を発色することが可能な発色材を提供する。
【解決手段】平滑な主面を有する金属下地膜と、前記金属下地膜の前記主面上に形成された、着色材からなる複数の島状部と、前記金属下地膜の前記主面上において、前記複数の島状部の間の空隙を埋めるとともに、上面が、前記複数の島状部の上面位置以上の高さに位置するように形成された金属膜と、を具えるようにして発色材を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色材、及び発色材の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、塗装や液晶パネルなどの分野においては、種々の発色方法が用いられている。塗装分野においては、有機色素や無機顔料、無機物や金属粒子フィラーなどを塗料に配合し、塗装後の塗膜を着色する方法が一般的である。液晶パネルの分野においては、赤色、緑色、及び青色のカラーレジストからそれぞれの色に対応した100μm程度の大きさの画素を形成して、カラーフィルターを構成する方法が実用されている。
【0003】
しかしながら、上記カラーフィルターフィルム、或いは顔料や色素等を含む塗料、インキなどから得られる塗膜は硬度が低く、鉛筆硬度が高々4Hから6H程度であり、塗装面(塗装材)の表面に傷が付いたり、さらには塗装材が剥離したりしてしまう問題があった。したがって、特に硬度や密着性、耐衝撃性が問題となる塗装材には、上述したような塗料等の着色材を用いることはなく、専らめっき法によって形成しためっき膜を用いていた。この場合、塗膜の色は基本的にめっき膜の色に依存するため、目的の色を得るために種々の工夫がなされている。
【0004】
例えば、顔料及びNiなどの金属の複合めっきを行い、顔料の色を適宜調整することによって、目的の色を有するめっき膜(塗膜)を形成する試みがなされている(例えば、非特許文献1及び2参照)。しかしながら、この方法で得ためっき膜(塗膜)は、光沢が不足するとともに色が暗く、さらにはめっき膜(塗膜)の強度も目的とするような強度を得ることができないでいた。
【0005】
また、所定の基材上に酸化クロムなどの干渉膜を形成するとともに、その厚さを調整し、外部光における所定の波長の光のみを干渉膜中に閉じ込めて発色させ、目的とする色の塗膜を得る試みもなされている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、このような干渉膜は、上記のような酸化膜などから構成されるため、長期間の使用によって、膜が劣化して剥離してしまうなどの問題を生じる。結果として、実用に供するような塗膜を得ることはできない。
【0006】
その他、アルマイト処理を行い、表面に形成された孔部に顔料などの塗料を含浸させ、目的とする色の塗膜を得る方法が実用化されているが、この方法は、塗膜を形成すべき基材あるいは下地がアルミニウムに限定されてしまうという欠点を有するとともに、アルミニウム表面の孔部内に塗料を含浸させるものであるため、その硬度はアルミニウムの硬度に依存し、十分高い硬度を有する塗膜を得ることはできないでいた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】”Preparation of colored composite films of Ni/organic pigments by immersion plating over zinc surface”, Yusuke Kowase, Nabeen K. Shrestha, Tetsuo Saji, Surface & Coatings Technology 200 (2006) 5526-5531
【非特許文献2】”Colored Coating of Ni/Organic Pigment Composite Films in Two Steps Using a Surfactant Containing an Azobenzene Group”, Nabeen K. Shrestha, Tetsuo Saji, J. Jpn. Soc. Colour Mater. (SHINKIZAI), 73 [5], 227-233, 2000
【非特許文献3】”レーザーによるカラー発色加工”、田辺郁男, 表面技術, Vol. 60, No. 11, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硬度及び光沢性が高く、耐衝撃性に優れるとともに、所望の色を発色することが可能な発色材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明は、
平滑な主面を有する金属下地膜と、
前記金属下地膜の前記主面上に形成された、着色材からなる複数の島状部と、
前記金属下地膜の前記主面上において、前記複数の島状部の間の空隙を埋めるとともに、上面が、前記複数の島状部の上面位置以上の高さに位置するように形成された金属膜と、
を具えることを特徴とする、発色材に関する。
【0010】
また、本発明は、
平滑な主面を有する金属下地膜を準備する工程と、
前記金属下地膜の前記主面上に、着色材からなる複数の島状部を形成する工程と、
前記金属下地膜の前記主面上において、前記複数の島状部の間の空隙を埋めるとともに、上面が、前記複数の島状部の上面位置以上の高さに位置するようにして金属膜を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、発色材の形成方法に関する。
【0011】
本発明によれば、着色材から複数の島状部を形成し、さらに複数の島状部の間の空隙を埋めるようにして、金属膜を形成するようにしている。また、金属膜の上面を、複数の島状部の上面位置以上の高さとなるようにしている。したがって、得られた発色材において、発色は上記着色材の色を適宜に選択することによって、複数の島状部においてなされることになる。また、その硬度は、複数の島状部の周囲において、上面が複数の島状部の上面位置の高さ以上となるように形成された金属膜が担うようになる。すなわち、発色材に対して外的負荷が加わった際に、金属膜が外的負荷に対する保護材として機能する。したがって、硬度が高く、所望の色を発色することが可能な発色材を提供することができる。
【0012】
また、上記発色材の、外部と接触する部分は、着色材からなる複数の島状部と金属膜とであるので、上述した塗装材や酸化膜などと比較すると、高硬度、高い耐衝撃性、高光沢性を有する。
【0013】
さらに、上記発色材は、平滑な主面を有する金属下地膜の、その主面上に複数の島状部及び金属膜を形成するようにしている。したがって、複数の島状部及び金属膜側から入射した光は、上記金属下地膜の平滑な主面で反射されるようになるため、十分に高い光沢性を奏するようになる。
【0014】
なお、“金属下地膜の主面が平滑である”とは、金属下地膜の主面に対して積極的に孔部などを形成することなく、めっき法やその他の方法で形成した状態のままであることを意味する。
【0015】
本発明の一例において、金属膜の上面の位置を、複数の島状部の上面位置より1μm以上高くすることができる。この場合、金属膜が外的負荷に対する保護材としてより効果的に機能するようになり、発色材の複数の島状部にはほとんど外的負荷がかからなくなって、硬度に対する金属膜の依存性が増大する。したがって、発色材の硬度をさらに向上させることができる。
【0016】
また、本発明の一例において、島状部の数は80dpi(dot per inch)以上とすることができる。この場合、島状部の形状によらず、島状部の大きさを所定の値以下とすることができるので、島状部の周囲に形成された金属膜が外的負荷に対する保護材としてより効果的に機能するようになり、島状部に対する外的負荷が軽減されるようになる。したがって、発色材の硬度をさらに向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明の一例において、島状部の数は2500dpi(dot per inch)以下とすることができる。この場合、島状部の形状によらず、島状部の大きさを所定の値以上とすることができる。したがって、島状部は、その構成材料である着色材に起因した色を十分に発することができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、硬度及び光沢性が高く、密着性、耐衝撃性に優れるとともに、所望の色を発色することが可能な発色材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の発色材の一例を示す上平面図である。
【図2】図1に示す発色材をI−I線に沿って切った場合の断面図である。
【図3】図1及び図2に示す実施形態の変形例を示す図である。
【図4】本発明の発色材の形成方法の一例における工程図である。
【図5】本発明の発色材の形成方法の一例における工程図である。
【図6】本発明の発色材の形成方法の一例における工程図である。
【図7】本発明の発色材の形成方法の一例における工程図である。
【図8】実施例で用いたフォトマスクの外観図である。
【図9】実施例で得た発色材の顕微鏡写真である。
【図10】実施例で得た発色材の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
(発色材)
図1は、本発明の発色材の一例を示す上平面図であり、図2は、図1に示す発色材をI−I線に沿って切った場合の断面図である。なお、これらの図面においては、本発明の特徴を明確にすべく、それぞれ発色材の一部を拡大して示している。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態における発色材10は、金属下地膜11と、この金属下地膜11の主面11A上に形成された着色材からなる複数の島状部12と、複数の島状部12の間の空隙を埋めるように形成された金属膜13とを有している。金属下地膜11の主面11Aは平滑であり、金属膜13の上面13Aは、複数の島状部12の上面12Aよりも上方に位置し、金属膜13の上面13Aと複数の島状部12の上面12Aとの間には段差(ギャップ)hが形成されている。
【0023】
なお、本実施形態において段差(ギャップ)hを形成することは必須の要件ではなく、金属膜13の上面13Aが複数の島状部12の上面12Aの位置以上の高さであればよい。
【0024】
金属下地膜11は、任意の金属から構成することができ、例えば、以下に詳述するめっき法などによって簡易に形成することが可能な、Ni,Cr,Ag,Ni−Cu合金、Pd−Ni合金などから構成することができる。なお、一般には、同一のめっき浴を使用できるという作製上の便宜、及びこれに基づくコストの観点から、金属下地膜11と金属膜13とは同一の材料から構成することが好ましい。また、以下に説明するように、発色材10の硬度は金属膜13が担うようになるので、金属下地膜11は、上述したような硬度の高い金属から構成することが好ましく、アルミニウムなどの硬度の低い金属は避けることが好ましい。
【0025】
島状部12は、図1及び図2に示すように、上述したような着色材から円柱状に形成されている。島状部12は、目的に応じて、任意の色の着色材から構成することができる。着色材としては、カラーレジスト、塗料、インキなどから形成された塗膜を挙げることができる。カラーレジストは、例えばUVなどの外部エネルギーで重合するモノマー及び光重合開始剤を含み、着色するために色素や微細に分散させた顔料、及びバインダーを含む。その他、必要に応じて界面活性剤、密着改善剤を含む場合もある。
【0026】
塗料は、水溶性や油溶性の各種塗料、熱硬化性や焼付塗料、UV硬化塗料、粉体塗料、電着塗料などの塗料が使用できる。本発明の着色材としては、カラーレジスト、塗料、インクから得られる塗膜は金属下地膜からの反射光の透過性を得るためには光透過性の高いものが好ましい。
【0027】
なお、本実施形態では、島状部12を円柱状に形成しているが、以下に説明する島状部12の機能を奏することができれば、その形状は特に限定されるものではない。
【0028】
金属膜13は、上述したように、めっき法などによって簡易に形成することが可能な、金属下地膜11と同じNi,Cr,Ag,Sn,Zn,Au,Ni−Cu合金、Pd−Ni合金,Sn−Co合金,Sn−Ni合金、Cu−Sn合金、Sn−Zn合金などから構成することができる。金属下地膜11と金属膜13とは必ずしも同一の金属から構成する必要はないが、上述したように、作製の際の便宜及びコストを考慮すると、同一の材料とすることが好ましい。また、同一の材料とすることにより、金属下地膜11と金属膜13とはホモ接合となるので、互いの界面における密着性が向上するようになる。但し、以下に説明するように、金属膜13は、発色材10の硬度を担うことになるので、W,Mo,Tiなどのより硬度の高い材料から構成してもよい。
【0029】
図1に示す発色材10においては、着色材から複数の島状部12を構成し、さらに複数の島状部12の間の空隙を埋めるようにして、金属膜13を形成するようにしている。また、金属膜13の上面13Aを、複数の島状部12の上面12Aから上方に位置するようにしている。したがって、発色材10において、発色は上記着色材の色を適宜に選択することによって、複数の島状部12においてなされることになる。また、その硬度は、複数の島状部12の周囲において、上面13Aが複数の島状部12の上面12Aの位置の高さ以上となるように形成された金属膜13が担うようになる。すなわち、発色材10に対して外的負荷が加わった際に、金属膜13が外的負荷に対する保護材として機能する。したがって、硬度が高く、所望の色を発色することが可能な発色材10を提供することができる。
【0030】
また、発色材10の、外部と接触する部分は、着色材からなる複数の島状部12と金属膜13とである。これらは、酸化膜などと比較すると、高い耐衝撃性を有する。したがって、発色材10は、高い耐衝撃性を奏することができる。
【0031】
さらに、発色材10は、平滑な主面11Aを有する金属下地膜11の、その主面11A上に複数の島状部12及び金属膜13が形成されてなる。したがって、複数の島状部12及び金属膜13側から入射した光は、金属下地膜11の平滑な主面11Aで反射されるようになるため、十分に高い光沢性を奏するようになる。
【0032】
なお、上述したように、“金属下地膜11の主面11Aが平滑である”とは、金属下地膜11の主面11Aに対して積極的に孔部などを形成することなく、めっき法やその他の方法で形成した状態のままであることを意味する。
【0033】
また、本実施形態では、上述したように、金属膜13の上面13Aは、複数の島状部12の上面12Aよりも上方に位置し、金属膜13の上面13Aと複数の島状部12の上面12Aとの間には段差(ギャップ)hが形成されている。したがって、金属膜13は、外的負荷に対する保護材としてより効果的に機能するようになり、発色材10の複数の島状部12にはほとんど外的負荷がかからなくなって、硬度に対する金属膜13の依存性が増大する。したがって、発色材10の硬度をさらに向上させることができる。
【0034】
なお、段差(ギャップ)h、すなわち、金属膜13の上面13Aと複数の島状部12の上面12Aとの差は、1μm以上であることが好ましい。これによって、金属膜13の外的負荷に対する保護材としての機能がより促進され、発色材10の硬度をより向上させることができる。なお、段差(ギャップ)hの上限値は、例えば15μmとすることができる。これを超えて段差(ギャップ)hを大きくしても、発色材10の硬度の向上には何ら寄与せず、また、アスペクト比が大きくなり過ぎることによって、金属膜13自体の強度が低下し、発色材10の硬度を低下させてしまう場合がある。
【0035】
また、島状部12の数は80dpi(dot per inch)以上とすることができる。さらに、島状部12の数は2500dpi(dot per inch)以下とすることができる。
【0036】
“dpi”とは、インチ当たりに存在する島状部の数を表すものであり、dpiが大きいほど、島状部12の平面的大きさ、すなわち図1及び図2における、上面12Aの大きさが小さくなることを意味し、dpiが小さいほど、島状部12の平面的大きさ、すなわち図1及び図2における、上面12Aの大きさが大きくなることを意味する。したがって、上述した島状部12の数のdpi下限値は、島状部12の平面的大きさ(上面12Aの大きさ)の上限値を間接的に規定することになり、島状部12の数のdpi上限値は、島状部12の平面的大きさ(上面12Aの大きさ)の下限値を間接的に規定することになる。
【0037】
したがって、島状部12の数は80dpi(dot per inch)以上とすることにより、島状部12の大きさを所定の値以下とすることができるので、島状部12の周囲に形成された金属膜13が外的負荷に対する保護材としてより効果的に機能するようになり、島状部12に対する外的負荷が軽減されるようになる。したがって、発色材10の硬度をさらに向上させることができる。
【0038】
また、島状部12の数は2500dpi(dot per inch)以下とすることにより、島状部12の形状によらず、島状部の大きさを所定の値以上とすることができる。したがって、島状部12は、その構成材料である着色材に起因した色を十分に発することができるようになる。
【0039】
本実施形態において、島状部12は円柱状で、その上面12Aは円形であるので、島状部12の数が80dpi以上の場合、上面12Aの直径dは約260μm以下(間隙aは約40μm以上)となる。一方、島状部12の数が2500dpi以下の場合、上面12Aの直径dは約10μm以上(間隙aは約15以上)となる。したがって、本実施形態において、上述したdpiに関する条件は、本段落で示すような、島状部12の上面12Aの直径dに関する条件に置き換えることができる。
【0040】
図1及び図2に示す発色材10は、鉛筆硬度試験による硬さが4H〜5H以上であることが好ましく、さらには6H以上、特には9H以上であることが好ましい。これによって、発色材10は十分に高い硬度を有することになる。本実施形態のように、金属膜13の上面13Aが島状部12の上面12Aよりも上方に位置する場合は、上記要件を必然的に満足するが、金属膜13の上面13Aと島状部12の上面12Aとの高さが同じで段差(ギャップ)hが形成されないような場合においては、島状部12の大きさを適宜に制御する必要がある。すなわち、島状部12の大きさを小さくして、金属膜13による外的負荷に対する保護材としての機能を高める必要がある。
【0041】
なお、鉛筆硬度試験は、JIS K5600−5−4 引っかき硬度(鉛筆法)に準じ、所定の硬さの鉛筆(例えば6B〜9H)を0.5〜1mm/秒の速度で、発色材10上を7mm以上トレースし、発色材10に対して傷が生じない最も硬度の高い鉛筆の、当該硬度をもって発色材10の硬度を規定して評価するものである。
【0042】
また、図1及び図2に示す発色材10は、可視光域での反射率が5%以上であることが好ましく、さらには10%以上であることが好ましい。この場合、発色材10は十分な光沢性を有することになる。なお、金属下地膜11として主面11Aが平滑なものを用い、島状部12の厚さを数μm〜数十μmの範囲に設定することによって、上記要件は必然的に満足される場合が多い。
【0043】
一方、島状部12を青色の着色材から構成したような場合、上記可視光域における低波長側での反射率が減少する傾向がある。この場合は、金属下地膜11を例えばCrあるいはCr合金から構成することが好ましい。Crは、可視光域、低波長側での反射率が比較的高いので、CrあるいはCr合金から金属下地膜11を構成することによって、島状部12を青色の着色材から構成したような場合における、可視光域、低波長側での反射率の低下を補うことができる。
【0044】
本実施形態における発色材10は、上述のように、硬度及び光沢性が高く、耐候性に優れるとともに、所望の色を発色することができるので、これらの特性が要求される、自動車外装用の塗装材、携帯電話用の塗装材、眼鏡フレーム用の塗装材として好適に用いることができる。
【0045】
図3は、上記実施形態の変形例を示す図である。図3は、上記実施形態の図1に相当し、発色材10の上平面図である。図3に示す実施形態においては、島状部12がハニカム断面を有するような円柱状に形成されている点で、図1及び図2に示す発色材10と相違する。
【0046】
島状部12を、図3に示すように、ハニカム断面を有するような円柱状に形成することによって、島状部12を発色材10中に最密充填の形態で形成することができるようになる。したがって、十分に高い硬度を維持しながら、島状部12を構成する着色材の色に基づいた、より十分に高い発色性を奏することができる。
【0047】
(発色材の形成方法)
次に、上述した発色材10の形成方法の一例について説明する。図4〜図7は、本実施形態における発色材10の形成方法の工程図である。なお、図4〜図7においては、形成方法の特徴を明確にすべく、各工程図は、断面図で表している。
【0048】
最初に、図4に示すように、所定の基材16上に金属下地膜11を一様に形成する。金属下地膜11は、めっき法などの湿式法、スパッタリング法及び蒸着法などの乾式法のいずれの方法を用いてもよい。但し、後者の乾式法の場合は、真空装置などが必要になって、装置が複雑かつ高価になるとともに、基材16の種類や大きさを制限することになる。したがって、めっき法などの湿式法を用いて形成することが好ましい。
【0049】
めっき法を用いて金属下地膜11を形成する場合、例えばめっき浴を数十度に保持するとともに、数分から数十分間、数アンペア/dmの電流を流すことによって、所望の厚さ、例えば1μm〜30μmの厚さの金属下地膜11を形成することができる。
【0050】
また、金属下地膜11中には、その光沢性を向上させるために、サッカリンなどの光沢剤を含有させることができる。光沢剤は、例えばめっき浴中のめっき液中に含有させることができる。
【0051】
なお、基材16は、例えば発色材10を自動車外装用の塗装材として使用する場合は、自動車のボディ外壁であって、携帯電話用の塗装材として使用する場合は、携帯電話のケース部材である。また、眼鏡フレーム用の塗装材として使用する場合は、眼鏡フレームである。
【0052】
次いで、図5に示すように、金属下地膜11の主面11A上に着色材121をスピンコート法、スプレー法、インクジェット法、フレキソ印刷、スクリーン印刷などによって一様に形成する。着色材121は、発色材10において所望の発色が得られるように適宜に選択する。また、着色材121の厚さは数μm〜数十μmとすることができる。また、着色材121を塗布する際の溶剤は、水系、アルコール系、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系等の各種溶剤を用いることができるが、コーティング性を考慮して高沸点系溶剤を適宜加えることができる。
【0053】
次いで、図6に示すように、着色材としてフォトレジストを用いた場合には、着色材121に対してフォトリソグラフィを施してパターニングし、複数の島状部12を形成する。塗料やインキを着色材とする場合はフォトリソグラフィーの代わりに、インクジェット法やスクリーン印刷など各種印刷法により図6の島状部パターンを形成する。着色材の形成に用いた溶媒は、必要に応じ室温乾燥や加熱乾燥を行い除去する。
【0054】
次いで、図7に示すように、金属下地膜11の主面11A上において、複数の島状部12の間の空隙を埋めるとともに、上面13Aが、複数の島状部12の上面12Aの位置以上の高さに位置するようにして金属膜13を形成する。なお、図7においては、図2の場合と同様に、金属膜13の上面13Aが複数の島状部12の上面12Aの上方に位置するようにしているが、金属膜13の上面13Aが複数の島状部12の上面12Aの位置以上の高さに位置すればよい。
【0055】
金属膜13は、金属下地膜11と同様に、めっき法などの湿式法、スパッタリング法及び蒸着法などの乾式法のいずれの方法を用いてもよい。但し、上述したように、後者の乾式法の場合は、真空装置などが必要になって、装置が複雑かつ高価になるとともに、基材16の種類や大きさを制限することになる。したがって、めっき法などの湿式法を用いて形成することが好ましい。
【0056】
めっき法によって金属膜13を形成する場合は、金属下地膜11をめっき導電膜として用いて電解めっきを行うことにより、絶縁性の島状部12の周囲の間隙を埋めるようにして、自ずから金属膜13が形成されるようになる。
【0057】
めっき法を用いて金属膜13を形成する場合、例えばめっき浴を数十度に保持するとともに、数分から数十分間、数アンペア/dmの電流を流すことによって、所望の厚さ、すなわち、金属膜13の上面13Aが複数の島状部12の上面12Aの位置以上の高さとなるようにして形成することができる。
【0058】
なお、図6におけるフォトリソグラフィにおいては、好ましくは、島状部12の数が80dpi(dot per inch)以上、2500dpi(dot per inch)以下となるようにする。島状部12の数をこのような値に設定する理由は、上述したとおりである。
【0059】
また、図5に示す着色材121の形成、及び図6に示すフォトリソグラフィの実施に代えて、インクジェット法を用い、直接着色材から図6に示すような複数の島状部12を形成することもできる。また、凸版印刷、凹版印刷、平板印刷、孔板印刷、スクリーン印刷などの汎用の印刷法を用いることもできる。これらの場合、フォトリソグラフィを行うことなく複数の島状部12を形成することができるので、フォトリソグラフィのためのマスク形成を行う必要がないとともに、複雑な露光現像装置を用いることがない。したがって、複数の島状部12を簡易かる低コストに形成することができる。
【0060】
さらに、図6に示す複数の島状部12を形成した後であって、図7に示す金属膜13を形成する以前に、金属下地膜11に対して陽極酸化処理を施すことができる。これによって、金属下地膜11の表面に形成された酸化膜の除去や、レジスト残渣の除去を行うことができ、後に形成する金属膜13と金属下地膜11との密着性を向上させることができる。
【0061】
なお、陽極酸化処理は、金属下地膜11や金属膜13をめっき法で形成する場合と同様にして行うことができるが、めっきを行う場合に比較して極性を逆転させる(めっき材と被めっき材との極性)必要がある。例えば、めっき法では、被めっき材をカソード、めっき材をアノードとして処理を行うが、陽極酸化処理では、被めっき材をアノード、めっき材をカソードとして処理を行う。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
NiSO4・6H2O 20g、NiCl2・6H2O 2.25g、H3BO3 1.5g、サッカリン(C7H5NO3S) 75 mg、SDS(NaC12H25SO4) 7.5 mgの水溶液50 mlを調製し、このめっき液にニッケル板を対極、4.0 cm2の銅板を陰極として50 ℃、5 A / dm2で定電流電解を30分間行い、銅板上にNiめっき膜(金属下地膜)を厚さ25μmに形成した。
【0063】
次いで、青色フォトレジスト(PD500BS1,日立化成)を塗布し、300rpで5秒、700 rpmで5秒スピンコーティングを行い、これを乾燥させた。次いで、図8に示すフォトマスク(開口部径d = 200μm、ギャップg = 50μm)を通して150 mJ / cm2の強度の光でパターン状に露光し、0.4 wt% Na2CO3水溶液20 mlに5分間浸漬させることで、100dpiのパターン状の色素薄膜(島状部)を得た。次いで、上記のめっき浴中で、5 A / dm2で1分間、陽極酸化処理を実施した後、極性を変えて定電流電解を5分間行い、Ni皮膜を形成して、目的とする発色材を得た。
【0064】
得られた皮膜(金属膜)の顕微鏡写真(図9)より、色素薄膜がパターン状に分布し、その周囲にニッケル皮膜があることが分かる。また、特に図示しないが、ニッケル皮膜の上面は、色素薄膜の上面よりも3μm上方に位置していることが判明した。さらに、作製した皮膜の外観は青色を呈し、反射スペクトルは、図10に示すように、可視光域で約13%以上の反射率を呈し、高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0065】
(実施例2)
青色フォトレジスト(PD500BS1,日立化成)に代えて、緑色フォトレジスト(PD500GS1,日立化成)を用いた以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、緑色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0066】
(実施例3)
青色フォトレジスト(PD500BS1,日立化成)に代えて、赤色フォトレジスト(PD500RS1,日立化成)を用いた以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、赤色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0067】
(実施例4)
NiSO4・6H2 O 9 g、CuSO4・5H2O 0.3 g、クエン酸ナトリウム二水和物4 g、サッカリン(C7H5NO3S) 10 mg、SDS (NaC12H25SO4) 75 mgの水溶液50 mlを調製し、このめっき液にニッケル板を対極、4.0 cm2の銅板を陰極として30 ℃、4 A / dm2で定電流電解を30分間行い、Ni-Cu合金めっき膜を厚さ20μmに形成した。その後、実施例1と同様にして色素薄膜、Niめっき膜を形成して、目的とする発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0068】
(実施例5)
Ag2SO4 0.78 g、ウラシル(C4H4N2O2) 2.81 g、KOH 8.42 gの水溶液50 mLを調製し、このめっき液にAg線を対極、1.0 cm2の銅板を陰極として30 ℃、0.2 A / dm2で定電流電解を10分間行い、Agめっき膜を厚さ1μmに形成した。その後、実施例1と同様にして色素薄膜、Niめっき膜を形成して、目的とする発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0069】
(実施例6)
図8に示すフォトマスクを開口部径d = 160μm、ギャップg = 40μmとした以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0070】
(実施例7)
図8に示すフォトマスクを開口部径d = 120μm、ギャップg = 30μmとした以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0071】
(実施例8)
図8に示すフォトマスクを開口部径d = 80μm、ギャップg = 20μmとした以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0072】
(実施例9)
図8に示すフォトマスクを開口部径d = 240μm、ギャップg = 60μmとした以外は、実施例1と同様にして発色材を得た。この発色材は、青色を呈し、また高い光沢性を有することが判明した。また、JIS規格のテープテストは10点満点、上述した鉛筆硬度試験の結果は9H以上であった。
【0073】
上記実施例から明らかなように、本発明にしたがって得た発色材は、硬度、及び光沢性、基材への密着性が高く、着色材の色に基づいた所望の色を発色できることが分かる。また、特に示さないものの、上記発色材において外部と接触するのは色素薄膜及びめっき膜であるので、酸化膜などに比較して耐衝撃性に優れることが当然に推察される。
【0074】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0075】
例えば、図2に示すような段差(ギャップ)hを埋めるようにして、アクリル系やポリカーボネート系などのトップコートを形成することもできる。
【符号の説明】
【0076】
10 発色材
11 金属下地膜
12 島状部
13 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な主面を有する金属下地膜と、
前記金属下地膜の前記主面上に形成された、着色材からなる複数の島状部と、
前記金属下地膜の前記主面上において、前記複数の島状部の間の空隙を埋めるとともに、上面が、前記複数の島状部の上面位置以上の高さに位置するように形成された金属膜と、
を具えることを特徴とする、発色材。
【請求項2】
前記金属膜の前記上面の位置が、前記複数の島状部の前記上面位置より1μm以上高いことを特徴とする、請求項1に記載の発色材。
【請求項3】
前記島状部の数が80dpi(dot per inch)以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発色材。
【請求項4】
前記島状部の数が2500dpi(dot per inch)以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の発色材。
【請求項5】
前記金属下地膜は、Ni、Ni合金或いはAgの少なくとも一種からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の発色材。
【請求項6】
可視光域での反射率が、5%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の発色材。
【請求項7】
鉛筆硬度試験による硬さが、9H以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の発色材。
【請求項8】
平滑な主面を有する金属下地膜を準備する工程と、
前記金属下地膜の前記主面上に、着色材からなる複数の島状部を形成する工程と、
前記金属下地膜の前記主面上において、前記複数の島状部の間の空隙を埋めるとともに、上面が、前記複数の島状部の上面位置以上の高さに位置するようにして金属膜を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、発色材の形成方法。
【請求項9】
前記金属膜の前記上面の位置が、前記複数の島状部の前記上面位置より1μm以上高くなるようにして、前記金属膜を形成することを特徴とする、請求項8に記載の発色材の形成方法。
【請求項10】
前記金属膜は、めっき法によって形成することを特徴とする、請求項8又は9に記載の発色材の形成方法。
【請求項11】
前記複数の島状部は、フォトレジストに対してフォトリソグラフィを施すことによって前記着色材を形成することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一に記載の発色材の形成方法。
【請求項12】
前記複数の島状部は、塗料やインクを用いてインクジェット法又は印刷法によって前記着色材を形成することを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一に記載の発色材の形成方法。
【請求項13】
前記複数の島状部の数を80dpi(dot per inch)以上とすることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一に記載の発色材の形成方法。
【請求項14】
前記複数の島状部の数を2500dpi(dot per inch)以下とすることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一に記載の発色材の形成方法。
【請求項15】
前記複数の島状部を形成した後であって、前記金属膜を形成する前において、前記金属下地膜に対して陽極酸化を施す工程を具えることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか一に記載の発色材の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−232405(P2011−232405A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100211(P2010−100211)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】