説明

発進クラッチ

【課題】ワンウエイクラッチを内側から支持するドライブプレートボスの円筒部を小径に維持して内燃機関の大型化を抑制することができる発進クラッチを供する。
【解決手段】クラッチインナ20の円板状のドライブプレート21がクランク軸5の端部近傍に嵌着されるドライブプレートボス22に固着支持され、ドライブプレートボス22のクランク軸の中央側である内側に延出した円筒部22aの外周にワンウエイクラッチ25が嵌合され、ドライブプレート21の外周を覆う環状部と内側面を覆う中空円板部により椀状を形成するクラッチアウタ30がクランク軸5に回転自在に軸支され、クラッチアウタ30の中空円板部31bの内周縁部32aaによりワンウエイクラッチ25が外周側からドライブプレートボス22の円筒部22aとの間で挟持され、ドライブプレート21の内側面に沿って遠心側に延出したドライブプレートボス22のフランジ部22cにクラッチアウタ30の中空円板部31bの内周縁部32aaが当接される発進クラッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸に同軸に設けられて該クランク軸の動力をギヤを介して変速装置に伝達可能な発進クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発進クラッチについては、クランク軸に一体に嵌着されたクラッチインナと同クランク軸に回転自在に軸支されたクラッチアウタが回転速度に応じて切離する自動遠心クラッチがよく知られている。
例えば、特許文献1に開示されたクラッチ装置について、図6に図示し説明する。
【0003】
【特許文献1】特開2002−48150号公報
【0004】
同図6において、クラッチインナ02は、円板状のドライブプレート04がクランク軸01の端部近傍に嵌着されるドライブプレートボス03に固着支持されており、該ドライブプレート03に突設されたピン05にクラッチシュー06が遠心力により揺動可能に設けられている。
一方、クラッチアウタ010は、ドライブプレート04の外周を覆う環状部とクランク軸の中央側側面を覆う中空円板部により椀状を形成するクラッチハウジング012と、同クラッチハウジング011を一体に保持しクランク軸01に回転自在に嵌合する円筒状のクラッチアウタボス011とからなる。
【0005】
そして、クラッチインナ02のドライブプレートボス03のクランク軸の中央側に延出した円筒部03aと、クラッチアウタ010のクラッチアウタボス011の開口円筒部011aとの間にワンウエイクラッチ020が挟持されている。
クラッチアウタボス011は、クランク軸01に回転自在に嵌合される軸受円筒部011bの端縁が段部011cを介して径の大きい前記開口円筒部011aに連続している。
【0006】
したがって、クランク軸に嵌着して一体に固定されたクラッチインナ02に対してクラッチアウタ010の軸方向のスラスト力を受けるのは、クラッチインナ02のドライブプレートボス03であり、クラッチアウタ010の軸受円筒部011bの開口端面が対向するドライブプレートボス03の円筒部03aの開口端面に当接してスラスト受けとしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ドライブプレートボス03の円筒部03aのスラスト受け面は、ワンウエイクラッチ020より軸中心側の比較的小径部分にあるので、十分なスラスト受け面の面積を得るために、ドライブプレートボス03の円筒部03aの外径を大きくする必要がある。
そのため、ワンウエイクラッチ020の径も大きくなり、内燃機関全体の大きさにも影響する。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、ワンウエイクラッチを内側から支持するドライブプレートボスの円筒部を小径に維持して内燃機関の大型化を抑制することができる発進クラッチを供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、クランク軸に同軸に設けられて該クランク軸の動力をギヤを介して変速装置に伝達可能な発進クラッチにおいて、クラッチインナの円板状のドライブプレートがクランク軸の端部近傍に嵌着されるドライブプレートボスに固着支持され、前記ドライブプレートボスのクランク軸の中央側である内側に延出した円筒部の外周にワンウエイクラッチが嵌合され、前記ドライブプレートの外周を覆う環状部と内側面を覆う中空円板部により椀状を形成するクラッチアウタがクランク軸に回転自在に軸支され、前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部により前記ワンウエイクラッチが外周側から前記ドライブプレートボスの円筒部との間で挟持され、前記ドライブプレートの内側面に沿って遠心側に延出した前記ドライブプレートボスのフランジ部に前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部が当接される発進クラッチとした。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発進クラッチにおいて、前記ドライブプレートにクランク軸の中央側である内側から外側に貫通して突設されたピンにクラッチシューが軸支され、前記ドライブプレートボスの遠心側に延出したフランジ部は、その外周縁部に前記ピンの前記ドライブプレートの内側に若干突出した頭部を避けて切欠きが形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発進クラッチにおいて、前記クラッチアウタは、中空椀状のクラッチハウジングの内周部が円筒状のクラッチアウタボスに一体に固着されて構成され、クラッチアウタボスの外側円筒部が前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部に相当し、同クラッチアウタボスの外側円筒部の外側端面と前記クラッチハウジングの中空円板部の外側面とが同一面をなすことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれかの項記載の発進クラッチにおいて、前記クランク軸に平行な変速装置のメイン軸に設けられる変速クラッチが、前記クラッチアウタの中空円板部の内側面に沿って配設され、軸方向に視て前記変速クラッチと前記クラッチアウタが互いに部分的に重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発進クラッチによれば、ドライブプレートの内側面に沿って遠心側に延出したドライブプレートボスのフランジ部に、ワンウエイクラッチより外周側のクラッチアウタの中空円板部の内周縁部が当接されるので、ワンウエイクラッチより内周側のドライブプレートボスの円筒部の外径を大きくする必要がなく、ワンウエイクラッチの径およびクラッチアウタの内周縁部を小さくし、内燃機関の大型化を抑制することができる。
なお、クランク軸の中央側を内側、その反対側を外側と称している。
【0014】
請求項2記載の発進クラッチによれば、ドライブプレートボスの遠心側に延出したフランジ部は、その外周縁部にクラッチシューを軸支するピンの頭部を避けて切欠きが形成されているので、クラッチシューを軸支するピンを軸中心側に近づけクラッチインナの小型化を図り、かつドライブボスの軽量化を図ることができる。
【0015】
請求項3記載の発進クラッチによれば、クラッチアウタボスの外側円筒部の外側端面とクラッチハウジングの中空円板部の外側面とが同一面をなすので、クラッチインナのドライブプレートにクラッチアウタをより近づけて発進クラッチの軸方向幅を小さくし発進クラッチを小型化することができる。
【0016】
請求項4記載の発進クラッチによれば、変速クラッチが、クラッチアウタの中空円板部の内側面に沿って配設され、軸方向に視てクラッチアウタと互いに部分的に重なるので、変速クラッチをクラッチアウタの小さくした内周縁部に干渉せずにメイン軸をクランク軸に近づけることができ、内燃機関の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図5に基づいて説明する。
本発明に係る発進クラッチCが適用され歯車変速機Mを備える車両用動力伝達装置は、エンジンとしての内燃機関Eとともに、車両としての不整地走行用鞍乗型車両に搭載されるパワーユニットPを構成する。
該パワーユニットPの要部概略前面図を図1に、同図1の概略II−II線断面図を図2に示す。
【0018】
前記動力伝達装置は、変速歯車列群M1のなかから歯車列を択一的に選択して走行変速段を確立する常時噛合い式の歯車変速機M(以下、「変速機M」という。)と、変速機Mに対して内燃機関Eが発生する動力の伝達および遮断を行う発進クラッチCと、変速機Mで変速された動力が伝達される駆動軸70とを備える。
駆動軸70の動力は、前推進軸および後推進軸を介してそれぞれ前輪および後輪に伝達され、それら車輪が回転駆動される。
【0019】
内燃機関Eは、水冷式で単気筒4ストローク内燃機関であり、ピストン3が往復動可能に嵌合するシリンダ1と、シリンダ1に順次重ねられて結合されるシリンダヘッドおよびヘッドカバーと、シリンダ1の下端部に結合されるクランクケース2とから構成される機関本体を備える。
【0020】
車体の前後方向を指向するクランク軸5を1対の主軸受6,7を介して回転可能に支持するハウジングとしてのクランクケース2は、クランク軸5の軸方向に二分される2つのクランクケース半体2a,2b、ここでは前クランクケース半体2aと後クランクケース半体2bとが結合されて構成され、クランク軸5のクランクピン8eおよびクランクウェブ8fが収納されるクランク室8を形成する。
【0021】
内燃機関Eは、前記シリンダヘッドに設けられた吸気ポートおよび排気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁および排気弁と、カム軸9の動弁カムに駆動されるプッシュロッドによりそれら吸気弁および排気弁をクランク軸5の回転に同期して開閉する頭上弁型の動弁装置を備える。
【0022】
そして、前記吸気ポートから吸入される混合気がピストン3と前記シリンダヘッドとの間に形成される燃焼室で燃焼して発生する燃焼圧によりピストン3が駆動され、コンロッド4、クランクピン8eを介してクランク軸5が回転駆動される。
【0023】
前クランクケース半体2aには、スペーサ10aを介して前方から前カバー10が覆い結合されて、前クランクケース半体2aとの間に前収納室12が形成される。
前クランクケース半体2aに保持される主軸受6から前方前収納室12に延出するクランク軸5の前端部5aは、軸受14を介して前カバー10に回転可能に支持される。
【0024】
前収納室12内には、前端部5aの近傍から後方へ順次、本発明に係る発進クラッチCと、1次減速駆動ギヤ35aと、カム軸9を回転駆動する動弁用伝動機構を構成する駆動スプロケット15とが設けられる。
【0025】
なお、後クランクケース半体2bの後方は、後カバー(図示せず)により覆われて後収納室13が形成され、同後収納室13内でクランク軸5には、図示されないが交流発電機、スタータモータの駆動伝達機構、リコイルスタータなどが設けられる。
【0026】
クランク軸5の前部に設けられる発進クラッチCは、詳細は後記するが、クラッチインナ20がクランク軸5の前端近傍に固着され、クラッチアウタ30が1次減速駆動ギヤ35aと一体にクランク軸5に回転自在に軸支されて、1次減速駆動ギヤ35aから変速機Mに動力が伝達される。
【0027】
変速機Mのメイン軸40は、第1メイン軸41と同第1メイン軸41の外周に部分的に回転自在に嵌合する第2メイン軸42とからなり、第2メイン軸42が前クランクケース半体2aに軸受45を介して軸支され、第1メイン軸41の後端が後クランクケース半体2bに軸受46を介して軸支されている。
【0028】
前収納室12内における第1メイン軸41には第2メイン軸42と並んで前側に入力スリーブ43が回転自在に嵌合され、同入力スリーブ43の中央に円板状のディスクプレート44が嵌着され、ディスクプレート44の外周に設けられた減速従動ギヤ44aが前記1次減速駆動ギヤ35aと噛合する。
このディスクプレート44の前後に第1変速クラッチ51と第2変速クラッチ52が配設されている。
【0029】
第1変速クラッチ51と第2変速クラッチ52は、同一構造の油圧式の多板摩擦クラッチである。
前側の第1変速クラッチ51は、発進クラッチCの後側に隣接しており、前方に開口した椀状のクラッチアウタ51oが入力スリーブ43の前側に一体に嵌着され、クラッチインナ51iが第1メイン軸41に一体に嵌着されている。
他方、後側の第2変速クラッチ52は、後方に開口した椀状のクラッチアウタ52oが入力スリーブ43の後側に一体に嵌着され、クラッチインナ52iが第2メイン軸42の軸受45より前方に延出した部分に一体に嵌合されている。
【0030】
したがって、第1変速クラッチ51を接続状態とし第2変速クラッチ52を切断状態とすれば1次減速従動ギヤ44aに入力された動力は、第1変速クラッチ51を介して第1メイン軸41に伝達され、逆に第1変速クラッチ51を切断状態とし第2変速クラッチ52を接続状態とすれば第2変速クラッチ52を介して第2メイン軸42に伝達される。
【0031】
この第1メイン軸41と第2メイン軸42のクランク室8内に延出する部分に対して、平行に並んで軸受61,62により軸支されたカウンタ軸60との間に、変速段を設定する歯車列の集合である変速歯車列群M1が構成されている。
カウンタ軸60のクランク室8から後方へ後収納室13に突出した後端には2次減速駆動ギヤ63が嵌着され、カウンタ軸60と平行に配設された前記駆動軸70に嵌着された2次減速従動ギヤ64が2次減速駆動ギヤ63と噛合して、減速された動力が駆動軸70に伝達されるようになっている。
【0032】
ここで、クランク軸5から変速機Mへの動力の伝達を制御する発進クラッチCの構造および組付けについて、図3ないし図5に基づいて説明する。
図3を参照して、クランク軸5の前部は、前記軸受14に支持される最小径の前端部5aからクランク軸の中央側である内側に順に、径を順次大きくして雄ねじ部5b、セレーション形成部5c、ジャーナル軸受部5d、大径部5eが形成されている。
なお、実施の形態では、クランク軸が前後方向に指向しているので、その前部においてクランク軸中央側を内側と称するよりも後側と称することとする。
【0033】
発進クラッチCは、遠心式クラッチであり、そのクラッチインナ20は中空円板状のドライブプレート21がドライブプレートボス22に固着支持されている。
ドライブプレートボス22は、クランク軸5のセレーション形成部5cに嵌合する内周縁にセレーション22sが形成された円筒部22aと、同円筒部22aの外周面に周方向に形成された突条22bとからなり、突条22bの後部がさらに遠心方向に延出してフランジ部22cが周方向に亘って形成されており、フランジ部22cの前面と突条22bの外周面に中空円板状のドライブプレート21の内周縁部が一体に嵌着されている。
【0034】
ドライブプレート21に後側(クランク軸5の中央側)から前側に貫通したピン23が前方に突出して後端の拡径した頭部23aを若干後面より後方に残して固定されており、この前方に突出した部分にクラッチシュー24が揺動自在に軸支されている。
【0035】
このピン23およびクラッチシュー24は、ドライブプレート21に周方向に4箇所等間隔に配設され、各クラッチシュー24はコイルスプリング25により軸中心側に揺動を付勢されている。
【0036】
ドライブプレートボス22の突条22bからさらに遠心方向に延出したフランジ部22cは、上記ドライブプレート21の後面より後方に残った4本のピン23の頭部23aを避けるように切欠き22dが外周縁部に4箇所形成されている(図4参照)。
したがって、クラッチシュー24を軸支するピン23を軸中心側に近づけクラッチインナ20の小型化を図り、かつドライブボス22の軽量化を図ることができる。
【0037】
発進クラッチCのクラッチアウタ30は、環状部31aと中空円板部31bからなる椀状のクラッチハウジング31の中空円板部31bの内周部が円筒状のクラッチアウタボス32に一体に固着されて構成される。
クラッチアウタボス32は、前記ドライブボス22の後方へ延出した円筒部22aの外径より大きい前側円筒部32aと段部32bを経て縮径された後側円筒部32cをなすとともに、前側円筒部32aの開口内周縁部32aaから遠心方向にフランジ部32dが延出している。
後側円筒部32cの内周面にはセレーション32sが刻設されている。
【0038】
フランジ部32dの外周端部の前側が欠損していて、この欠損部にクラッチハウジング31の中空円板部31bの内周部が嵌合されて、クラッチアウタボス32のフランジ部32dとクラッチハウジング31の中空円板部31bがリベット33により締結されてドライブボス22にクラッチハウジング31が一体に固着される。
【0039】
中空椀状をなすクラッチハウジング31は、前方に開口した姿勢でクラッチアウタボス32に固着され、クラッチアウタボス32の開口内周縁部32aaの前面(クランク軸の端部側側面)とクラッチハウジング31の中空円板部31bの前面が同一面をなしている。
したがって、クラッチインナ20のドライブプレート21にクラッチアウタ31をより近づけて発進クラッチCの軸方向幅を小さくし発進クラッチCを小型化することができる。
【0040】
クラッチアウタボス32の後側円筒部32c内に嵌入して一体に回転するクラッチアウタスリーブ35の後端に前記1次減速駆動ギヤ35aが形成されている。
クラッチアウタスリーブ35は、クランク軸5のジャーナル軸受部5dにジャーナル軸受36,37を介して回転自在に軸支されるものであり、前部の外周面にはセレーション35sが刻設され、中央部に拡径部35bが形成されている。
【0041】
クラッチアウタスリーブ35の拡径部35bより前側部分が、クラッチアウタボス32の後側円筒部32cに挿入され、クラッチアウタスリーブ35の外周面のセレーション35sとクラッチアウタボス32の内周面のセレーション32sとが嵌合してクラッチアウタスリーブ35は、クラッチアウタボス32およびクラッチハウジング31と一体に回転する。
【0042】
かかるクラッチアウタ30と前記クラッチインナ20との間にはワンウエイクラッチ25が介装される。
ワンウエイクラッチ25は、内径がクラッチインナ20のドライブプレートボス22の後方へ延出した円筒部22aの外径に略等しく、外径がクラッチアウタ30のクラッチアウタボス32の前側円筒部32aの内径に略等しく、ドライブプレートボス22の円筒部22aとクラッチアウタボス32の前側円筒部32aとの間に挟持される。
【0043】
このクラッチインナ20およびクラッチアウタ30をクランク軸5に組付ける手順は、まずクランク軸5のジャーナル軸受部5dに、ワッシャ38を先に嵌合した後に、クラッチアウタスリーブ35をジャーナル軸受36,37を介して回転自在に嵌合する。
そして、クラッチアウタスリーブ35の外周面にセレーション35sが形成された前側部分に、クラッチハウジング31と一体に締結されたクラッチアウタボス32の内周面にセレーション32sが形成された後側円筒部32cを嵌合する。
【0044】
クラッチアウタボス32の前側円筒部32a内に圧入されたワンウエイクラッチ25に、クラッチインナ20のドライブプレートボス22の後方へ延出した円筒部22aを圧入するようにして、クランク軸5のセレーション形成部5cにドライブプレートボス22をセレーション嵌合する。
クラッチインナ20は、クラッチアウタ30の椀状のクラッチハウジング31内に収まる。
【0045】
そして、ワッシャ26を介装してナット部材27を、クランク軸5の雄ねじ部5bに螺合する。
このナット部材27を螺合することで、ワッシャ26を介してクラッチインナ20のドライブプレートボス22がクランク軸5のジャーナル軸受部5dの前端面に押圧されてクランク軸5に一体に締結される。
【0046】
こうして組付けられた発進クラッチCを図5に示す。
内燃機関Eの運転でクランク軸5が回転し、この機関回転数が高くなると、発進クラッチCの一体に回転するクラッチインナ20のクラッチシュー24が遠心方向に揺動してクラッチアウタ30の環状部31aの内周面に摺接して、所定回転数を越えると、クラッチアウタ30を一体に回転させて発進クラッチCを接続状態とし、変速機M側に動力を伝える。
【0047】
クランク軸5の端部近傍のセレーション形成部5cに締結固着されたクラッチインナ20に対してクラッチ軸5のジャーナル軸受部5dに回転自在に嵌合されたクラッチアウタ30は、軸方向にスラスト力を受けるが、ドライブプレートボス22のフランジ部22cの後面をスラスト受け面22caとしてクラッチアウタボス32の開口内周縁部32aaの当接を受け止めてている。
【0048】
ドライブプレートボス22の遠心方向に延出したフランジ部22cのワンウエイクラッチ25の外周を越えた部分にスラスト受け面22caを有して、クラッチアウタ30のスラスト力を受ける構成であるので、ワンウエイクラッチ25より内周側のドライブプレートボスの円筒部の外径を大きくしてスラスト受けとする必要がなく、ワンウエイクラッチ25の径およびクラッチアウタボス32の前側円筒部32aの外径を小さくすることができ、内燃機関の大型化を抑制することができる。
【0049】
すなわち、図2に示すように、発進クラッチCにおけるクラッチアウタ30のクラッチハウジング31の後面に沿って第1変速クラッチ51が配設され、軸方向に視て(図1参照)、発進クラッチCと第1変速クラッチ51とが互いに部分的に重なり、第1変速クラッチ51をクラッチアウタボス32の外径を小さくした前側円筒部32aに干渉せずに、メイン軸40をクランク軸5に近づけることができるので、内燃機関の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発進クラッチが適用されたパワーユニットの要部概略前面図である。
【図2】図1の概略II−II線断面図である。
【図3】本発進クラッチの分解断面図である。
【図4】同発進クラッチのクラッチインナの後面図である。
【図5】組付けを終えた発進クラッチの断面図である。
【図6】従来技術の発進クラッチの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
P…パワーユニット、E…内燃機関、C…発進クラッチ、M…歯車変速機、M1…変速歯車列群、
1…シリンダ、2…クランクケース、3…ピストン、5…クランク軸、6…主軸受、8…クランク室、9…カム軸、10…前カバー、12…前収納室、13…後収納室、14…軸受、15…駆動スプロケット、
20…クラッチインナ、21…ドライブプレート、22…ドライブプレートボス、22a…円筒部、22c…フランジ部、23…ピン、24…クラッチシュー、25…ワンウエイクラッチ、
30…クラッチアウタ、31…クラッチハウジング、31b…中空円板部、32…クラッチアウタボス、32a…前側円筒部、35…クラッチアウタスリーブ、35a…1次減速駆動ギヤ、
40…メイン軸、41…第1メイン軸、42…第2メイン軸、43…入力スリーブ、51…第1変速クラッチ、52…第2変速クラッチ、60…カウンタ軸、70…駆動軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸に同軸に設けられて該クランク軸の動力をギヤを介して変速装置に伝達可能な発進クラッチにおいて、
クラッチインナの円板状のドライブプレートがクランク軸の端部近傍に嵌着されるドライブプレートボスに固着支持され、
前記ドライブプレートボスのクランク軸の中央側である内側に延出した円筒部の外周にワンウエイクラッチが嵌合され、
前記ドライブプレートの外周を覆う環状部と内側面を覆う中空円板部により椀状を形成するクラッチアウタがクランク軸に回転自在に軸支され、
前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部により前記ワンウエイクラッチが外周側から前記ドライブプレートボスの円筒部との間で挟持され、
前記ドライブプレートの内側面に沿って遠心側に延出した前記ドライブプレートボスのフランジ部に前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部が当接されることを特徴とする発進クラッチ。
【請求項2】
前記ドライブプレートにクランク軸の中央側である内側から外側に貫通して突設されたピンにクラッチシューが軸支され、
前記ドライブプレートボスの遠心側に延出したフランジ部は、その外周縁部に前記ピンの前記ドライブプレートの内側に若干突出した頭部を避けて切欠きが形成されていることを特徴とする請求項1記載の発進クラッチ。
【請求項3】
前記クラッチアウタは、中空椀状のクラッチハウジングの内周部が円筒状のクラッチアウタボスに一体に固着されて構成され、
クラッチアウタボスの外側円筒部が前記クラッチアウタの中空円板部の内周縁部に相当し、
同クラッチアウタボスの外側円筒部の外側端面と前記クラッチハウジングの中空円板部の外側面とが同一面をなすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の発進クラッチ。
【請求項4】
前記クランク軸に平行な変速装置のメイン軸に設けられる変速クラッチが、前記クラッチアウタの中空円板部の内側面に沿って配設され、
軸方向に視て前記変速クラッチと前記クラッチアウタが互いに部分的に重なることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの項記載の発進クラッチ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−170653(P2007−170653A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373287(P2005−373287)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】