説明

発電プラントの運転停止システム

【課題】真空破壊のタイミングを決定する基準を設けて火力発電プラントの安全な運転停止システム及び運転停止方法を提供すること
【解決手段】システム全体を制御する中央処理装置と、前記中央処理装置に接続されて、火力発電プラントの運転を制御する制御手段とを備えた発電プラントの運転停止システムにおいて、前記中央処理装置は、メタル温度推移特性データ及びメタル温度差−メタル温度の特性データを蓄積したデータベースを有し、前記中央処理装置は、発電プラントの運転停止時に、タービン通常停止モードにおける前記メタル温度推移特性データから予想メタル温度推移を決定し、警報レベルに応じた許容メタル温度差に基づきメタル温度を決定し、決定されたメタル温度から該予想メタル温度推移に基づき真空破壊のタイミングを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントの運転停止システムに関し、更に具体的には、火力発電プラントの運転停止におけるタービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードで採用される真空破壊のタイミング決定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントでは、何等かの理由により運転を停止したい場合がある。例えば、ボイラ等にトラブルが発生し、内部に作業員が入って点検・修理を行う場合、ボイラやタービンを安全な温度に冷却すると共に内部気圧を大気圧に戻す(具体的には、復水器の真空を破壊することにより大気圧に戻す。)必要がある。
【0003】
なお、本出願に際して、公表された特許文献に対して、技術用語「復水器」及び「真空破壊」を用いて検索した結果、下記特許文献1を検出した。
【特許文献1】特開平5-312004「復水式蒸気タービン」(公開日:平成5年11月22日) しかし、前掲特許文献1は、タービンがトリップしたときに、タービンが異常速度に昇速しないように真空破壊弁を開けて空気にてタービンにブレーキをかける技術である。これに対して、本発明は、後述するように、復水器の真空破壊のタイミングを決定する技術に関するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この真空破壊をどのタイミングで実施するかの基準に関して、プラント製造者であるプラントメーカ及びプラント使用者である電力会社において何等検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明は、真空破壊のタイミングを決定する基準を設けて火力発電プラントの安全な運転停止システムを提供することを目的とする。
【0006】
更に、本発明は、真空破壊のタイミングを決定する基準を設けて火力発電プラントの安全な運転停止方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的に鑑みて、本発明に係る発電プラントの運転停止システムは、タービン通常停止モードにおける、システム解列後のタービンの冷却特性を予想する手段と、許容されるタービン上部と下部の温度差から、タービンメタル温度を決定する手段と、予想された前記タービンの冷却特性を利用して、決定された前記タービンメタル温度に基づいて、前記タービンの真空破壊タイミングを決定する手段とを備え、この決定された真空破壊タイミングによって発電プラントの真空破壊を実行する。
【0008】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁を解放することにより実行することもできる。
【0009】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記タービン通常停止モードは、ボイラを強制冷却するタービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードすることもできる。
【0010】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記タービンの上部及び下部の温度差は、ボイラに連通する高圧タービンの車室上部と復水器に連通する高圧タービンの車室
下部との間の温度差として規定することもできる。
【0011】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記許容されるタービン上部と下部の温度差は、複数の警報レベルに対応して複数の温度差を規定することもできる。
【0012】
更に、本発明に係る発電プラントの運転停止システムは、システム全体を制御する中央処理装置と、前記中央処理装置に接続されて、火力発電プラントの運転を制御する制御手段とを備えた発電プラントの運転停止システムであって、前記中央処理装置は、メタル温度推移特性データ及びメタル温度差−メタル温度の特性データを蓄積したデータベースを有し、前記中央処理装置は、発電プラントの運転停止時に、タービン通常停止モードにおける前記メタル温度推移特性データから予想メタル温度推移を決定し、警報レベルに応じた許容メタル温度差に基づきメタル温度を決定し、決定されたメタル温度から該予想メタル温度推移に基づき真空破壊のタイミングを決定する。
【0013】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁を解放することにより実行することもできる。
【0014】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記タービン通常停止モードは、ボイラを強制冷却するタービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードとすることもできる。
【0015】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記タービンの上部及び下部の温度差は、ボイラに連通する高圧タービンの車室上部と復水器に連通する高圧タービンの車室下部との間の温度差として規定することもできる。
【0016】
更に、上記発電プラントの運転停止システムでは、前記許容されるタービンの上部及び下部の温度差は、複数の警報レベルに対応して複数の温度差を規定することもできる。
【0017】
更に、本発明に係る発電プラントの運転停止方法は、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードの選択及び警報レベルの設定が行われ、タービンの予想メタル温度推移が決定され、前記レベルに応じた許容メタル温度差に基づきメタル温度が決定され、決定されたメタル温度から該予想メタル温度推移に基づき真空破壊のタイミングが決定される。
【0018】
更に、上記発電プラントの運転停止方法では、前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁の解放によりしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、真空破壊のタイミングを決定する基準を設けて火力発電プラントの安全な運転停止システムを提供することができる。
【0020】
更に、本発明によれば、真空破壊のタイミングを決定する基準を設けて火力発電プラントの安全な運転停止方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る発電プラントの運転停止システムの実施形態に関し、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。この実施形態は、例示であって、本発明を何等限定するものではない。なお、図面中、同じ要素に対しては同じ符号を付して、重複した説明を省略する。
【0022】
[火力発電プラント]
(全体構成)
図1は、石炭を燃料とする火力発電プラント1のボイラ及びタービン部分の概要を示す図である。火力発電プラント1では、石炭・油・ガスなどの燃料がもつ熱エネルギーを機械的エネルギーに変え、更に電気エネルギーに変えている。図1に示すように、例えば石炭を燃料とする火力発電所では、石炭12をバンカ13、微粉炭機14を通してボイラ15に送り、ボイラで燃焼して給水10を蒸気11に変えて、高圧タービン17、中圧タービン18及び低圧タービン19に送っている。蒸気の熱エネルギーは、これらタービン17,18,19で機械エネルギーに変換されタービン翼を回転し、夫々のタービンに連結された発電機20,21を回転し、電気エネルギーを生成している。
【0023】
タービン19から排気された蒸気は、復水器5に送られる。復水器5は、タービンの排気(蒸気)を冷却凝縮し、真空をつくるとともに復水として回収する装置である。即ち、タービンからの蒸気と、冷却水として循環ポンプ4によって取水口2からの海水とを取り込み、非接触の熱交換を行って蒸気を冷却して復水(給水)として回収し、再び給水ポンプ22によりボイラ15へと送られる。
【0024】
このような火力発電プラント1を運転するに際し、プラントの運転を停止しなければならない場合がある。タービンは、通常、定格運転されており、例えば、本出願人の所有する或る火力発電所では、主蒸気の定格圧力は24.5MPa(250kg/cm2)、定格温度は600度Cとなっている。以下の実施形態は、この火力発電プラントにおけるデータを基に説明する。
【0025】
(火力発電プラントの運転停止)
何等かの理由により、火力発電プラント1の運転を停止したい場合、定格運転から温度と圧力とを徐々に下げて、或るタイミングで遮断器を切って、システムから負荷(発電機)を解列する。
【0026】
火力発電プラントの運転停止モードとして、(1)「タービン冷却停止」と、(2)「タービン通常停止」とがある。
【0027】
(1)の「タービン冷却停止」モードは、火力発電プラント1を或る負荷で出力を止め、タービンに入る蒸気温度を下げることによりタービンのメタル温度を下げてから解列する方法である。これにより、解列後タービン軸の偏心防止のローリング(空転)時間を短縮している。予め計画されている定期点検等の場合に採用される停止モードである。
【0028】
これに対して、(2)の「タービン通常停止」モードは、タービンのメタル温度の低下を待たずに、そのままの状態でタービンを停止するモードである。タービン通常停止は、ボイラ15にトラブルが発生し火力発電プラント1をいち早く停止する必要があり、タービンを冷却する時間的余裕が無い場合に採用される停止モードである。この場合、ボイラ等のトラブルに早急に対処するためボイラ15を強制冷却する、「タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止」となる。
【0029】
ボイラ15の強制冷却は、具体的には、ボイラに水を循環して強制冷却し、送風し、ボイラのメタル温度Mtの温度を下げている。ボイラ15の強制冷却は、解列後12時間程度必要とし、その後はボイラ15への注水は停止して自然冷却し、その後真空破壊してプラント1を全面的に停止する。図2に示すように、この真空破壊は、具体的には、復水器5に接続された真空破壊弁30を開くことにより、復水器5に連通する高圧タービン17(更に、ボイラ15等)の真空を破壊する。しかし、このとき、真空破壊直後にタービン17のメタル温度差Mdが急激に上昇する現象が見られる。
【0030】
ボイラ15で加熱された蒸気は、概して、高圧タービン17、中圧タービン18、低圧
タービン19を順に経て復水器に達して復水され、給水としてボイラ15に戻される。図3示すように、この高圧タービン17の車室は、軸方向に、発電機(generator)側に接続されるGEN側車室17(GEN)と、加減弁(governor valve)に接続されるGOV側車室17(GOV)として規定される。ボイラからの加熱蒸気は、GEN側車室17(GEN)の円周方向 のノズルから流入し、GOV側車室17(GOV)から流出する。GEN側車室17(GEN)の下部17(Down)には、蒸気が冷却されて水滴になるのを防止するためドレン弁25(図2参照)が接続され、復水器の真空を利用して引き込み(吸引)が行われている。火力発電プラント運転時及び運転停止モードの高圧タービン真空破壊前はこのドレン弁25が機能しているが、真空破壊時以降はドレン弁の引き込み機能が無くなる。このため、真空破壊後にタービンのメタル温度差Mdが急激に上昇する。
【0031】
図3に示すように、高圧タービンのGEN側車室17(GEN)の下部17(Down)にはドレン弁25が接続されている。このドレン弁25が開のときは,復水器の真空によりメタル温度の熱は復水器へ吸引される。このとき,GEN側車室の下部17(Down)、GEN側車室上部17(Up)のメタル温度は,上部がドレン弁25より離れている関係からやや下がり難いが,許容範囲内で降下するため,メタル温度差Mdとしては顕著に表れない。
真空破壊を実施するとドレン弁25から復水器へ吸引される力が失われる。メタル温度が持つ熱は,空気等を媒介として上部へ滞留し,GEN側車室上部17(Up)のメタル温度
はGEN側車室の下部17(Down)に比較して降下率が鈍り,メタル温度差Mdとして顕著に表れる。
なお、この傾向は、GOV側車室17(GOV)にも影響し、GEN側車室17(GEN)と同じ原理により、GOV側車室17(GOV)の上下にも温度差が発生する。しかし、GOV側車室17(GOV)の上下の温度差データは、GEN側車室17(GEN)の上下の温度差データと近似していること、ドレン弁を介して復水器5につながる導管はGEN側車室17(GEN)にのみ有ること等により、特に断らない限り、GEV側車室17(GEN)の上下の温度差について説明する。
【0032】
高圧タービン17の車室上下間に温度差が発生する結果、高圧タービン17の可動部分(図示せず。)と固定部分(図示せず。)の間隙が狭まり、即ち、ケーシングが変形して車室内のロータ部分(回転子部分)とケーシングとの間隙又はロータ部分(回転子部分)とステータ部分(固定子部分)との間隙が狭まり、警報が発生したり、要求仕様値(管理値)以下に狭まったり、極端な場合には両部分が接触し破損したりする危険がある。
【0033】
一般に、高圧タービンGEN側車室上下間の温度差Mdを少なくするためには、高圧タービン17のメタル温度Mtを十分に冷却した後、真空破壊を実行すればよい。しかし、「タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止」は、ボイラ等のトラブルに早急に対処するために採用される運転停止モードであるため、いち早くボイラ等の内部に作業員を入れて点検・修理を行う必要があり、早期に真空破壊を実行する必要がある。
【0034】
そこで、「タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止」の運転停止モードでは、どのタイミングで真空破壊をするかが重要な問題である。
【0035】
(真空破壊のタイミング決定システム)
図4は、真空破壊のタイミング決定システムの構成を示す図である。このシステムは、オペレータが操作する操作端末30と、この操作端末が接続されたネットワーク32と、このネットワークに接続された中央処理装置34と、この中央処理装置に接続されたデータベース36と、この中央処理装置からの指令によりプラントの運転を制御するプラント制御盤38と、このプラント制御盤により運転制御される火力プラント1とを備えている。
【0036】
操作端末30は、オペレータが操作して中央処理装置34に対しての火力発電プラント1の運転、例えば「タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止」モードによる運転停止を指示する機器である。
【0037】
ネットワーク32は、例えば、専用回線、ISDNやインターネット回線のような公衆回線からなる。
【0038】
中央処理装置34は、このシステム全体を制御するものであり、図示していないが、通常のCPU、運転制御用プログラムが蓄積されたROM、作業用のRAM、制御内容を逐次表示するモニタ、各種の入出力装置等を有している。
【0039】
データベース36は、中央処理装置34に接続された外部記憶手段であり、例えば、図5に関連して説明する「メタル温度推移特性のデータ」、図6に関連して説明する「メタル温度差−メタル温度Mtの特性データ」等を蓄積している。
【0040】
プラント制御盤38は、火力発電プラント1の運転に対する専用の制御装置であり、中央処理装置34からの指令により、運転停止モードの設定、後述する運転停止操作の警報レベル(ケース1又は2)の設定、強制冷却時間の設定、タイマの設定、システムの解列操作等を行う制御盤である。
【0041】
図5は、データベース36に蓄積された「メタル温度推移特性のデータ」の内容を図示したものである。このメタル温度Mt推移特性のデータは、過去におけるタービン冷却時の実績データであり、横軸は、システム解列時をゼロ(スタート)とした経過時間tを表示し、縦軸はメタル温度(高圧タービンの第1段出口のGOV側で測定)Mtを表示する。データベース36には、このグラフに沿って、経過時間tに対するメタル温度データMtがテーブルとして蓄積され、経過時間tを入力すると、対応するメタル温度Mtが出力される。
【0042】
図6は、同様にデータベース16に蓄積された「メタル温度差−メタル温度の特性データ」の内容を図示したものである。縦軸は、メタル温度差Mdを表示し、横軸はこのメタル温度差Mdに対応するメタル温度Mtを表示する。前述したように、復水器5に接続された真空破壊弁30を開いてボイラ15の真空破壊を行うと、その直後にタービン17のメタル温度差Mdが急激に上昇する現象が発生する。このメタル温度差Md−メタル温度Mtの特性データは、過去において、メタル温度Mt=334度C,419.1度C及び434.9度Cのときの上昇したメタル温度差Mdのピーク値と、その間を直線近似により内挿(補間)したデータである。メタル温度Mtは、高圧タービンの第1段出口のGOV側を実線で、GEV側を破線で、夫々表示する。データベース16には、このグラフに沿って、メタル温度差Mdに対するメタル温度Mtデータがテーブルとして蓄積され、運転停止操作の警報レベル(ケース1又は2)の設定に基づきメタル温度差Mdが入力されると、対応するメタル温度Mtが出力される。
【0043】
図7は、図3に示す真空破壊のタイミング決定システムで実行される、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止止モードにおける真空破壊のタイミング決定方法を示すフローチャートである。
【0044】
ステップS10で、オペレータは、端末装置30から中央処理装置34に対して、火力発電プラント1の運転停止を指示する。この際に、運転停止に関して、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードを選択し、ケース1又は2を選択することにより運転停止時の警報レベルを設定し、更に強制冷却時間(t1)を設定する。
【0045】
運転停止時の警報レベルとして、ケース1(通常警報レベル)とケース2(緊急警報レベル)が規定されている。
【0046】
ケース1(通常警報レベル)は、メタル温度差Mdの警報を絶対に発生させない安全なレベルで、例えば、システム解列から修理作業まで2日程度の余裕があり、早期に真空破壊をする必要が少ない場合に採用される。これに対して、ケース2(緊急警報レベル)は、メタル温度差Mdの警報の発生は許容するがメタル温度差Mdの最終管理値までの上昇は回避するレベルで、例えば、なるべく早く修理作業の着手するために、早期に真空破壊をする必要が有る場合に採用される。
【0047】
本実施形態では、例えば、ケース1(通常警報レベル)ではメタル温度差Mdが50度Cと規定され、ケース2(緊急警報レベル)ではメタル温度差Mdが56度Cと規定されている。オペレータは、火力発電プラント20の状況から、ケース1又はケース2を選択する。
【0048】
強制冷却時間(t1)は、プラント1の冷却時間を短縮するために、ボイラ15に注水して強制冷却する時間である。強制冷却時間t1は、過去何回かの実験により、その後の自然冷却に移行するに適当な時間(例えば、本実施形態では、t1=12時間)が規定されている。オペレータは、この強制冷却時間(t1)を設定する。以上により、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止止モードにおける真空破壊のタイミングの決定フローが開始される。
【0049】
ステップS11で、中央処理装置34は、プラント制御盤38に対して、火力発電プラント1の解列を指令し、プラント制御盤38はこれを実行する。解列の指令と同時に、経過時間tの計測を開始する。
【0050】
ステップS12で、中央処理装置34は、プラント制御盤38に対して、火力発電プラント1の現在のメタル温度Mtの測定を指令し、プラント制御盤38はこれを実行してメタル温度Mtデータを中央処理装置34に送る。
【0051】
ステップS13で、中央処理装置34は、プラント制御盤38に対して強制冷却を指令し、プラント制御盤38はボイラ15に注水を開始する。
【0052】
ステップS14で、中央処理装置34は、ステップS10で設定された強制冷却時間(t1)及びステップS12で測定された現在のメタル温度Mtに基づき、データベース16に蓄積されたメタル温度推移特性のデータ(図5参照)を利用して、このときのタービン17の予想メタル温度Mt推移データを作成する。作成されたメタル温度Mt推移データにより、経過時間tからメタル温度Mtを予想することができる。
【0053】
ステップS15で、ステップS10で設定された警報レベル(ケース1又はケース2)に基づき、データベース36に蓄積された「メタル温度差−メタル温度の特性データ」(図6参照)を利用して、警報レベルに対応した真空破壊時のメタル温度Mtを決定する。本実施例では、例えば、ケース1(通常警報レベル:メタル温度差Md=50度C)では、真空破壊時のメタル温度Mtが340度Cと決定され、ケース2(緊急警報レベル:メタル温度差Md=56度C)では、真空破壊時のメタル温度Mtが380度Cと決定される。
【0054】
ステップS16で、決定した真空破壊時のメタル温度(ケース1の場合は340度C、ケース1の場合は380度C)に基づき、ステップ14で作成されたメタル温度Mt推移データ(ステップS14参照)を利用して、真空破壊のタイミング(t2)が決定される。
【0055】
ステップS17で、解列からの経過時間t(ステップS10参照)が設定された強制冷却時間(t1)に達したか否かが判定される。
【0056】
ステップS18で、強制冷却時間(t1)に達していれば、強制冷却は終了する。
【0057】
ステップS19で、その後は自然冷却に移行する。
【0058】
ステップS20で、解列からの経過時間t(ステップS10参照)が、ステップS16で決定された真空破壊のタイミング(t2)に達したか否かが判定される。真空破壊のタイミング(t2)は、ケース1とケース2とでは異なる。なお、メタル温度差Mdのピーク値を確実に各警報レベル以下に収めるため、余裕を持たすため、t≧t2+x(但し、xは余裕時間)で判定することが好ましい。
【0059】
ステップS21で、真空破壊のタイミング(t2)に達していれば、真空破壊が実行される。真空破壊は、復水器5の真空破壊弁30を解放することにより実行される。これにより、メタル温度差Mdが上昇する。しかし、以上説明したように、その上昇は、ケース1では規定のメタル温度差Md=50度C以下に、ケース2では規定のメタル温度差Md=56度C以下に収まることが保証されている。
【0060】
ステップS22で、システムに異常が有るかどうか判断され、異常がない限り、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードにおける真空破壊のタイミングの決定及びその実行が終了する。
【0061】
[その他]
以上、本発明に係る発電プラントの運転停止システムの実施形態を説明したが、これらは例示であって、本発明はこれに限定されない。本発明は、当業者が容易になしえる追加・削除・変更・改良等を含むものである。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】石炭を燃料とする火力発電プラントのボイラ及びタービン部分の概要を示す図である。
【図2】図1に示す火力発電プラントの高圧、中圧及び低圧タービン並びに復水器の系統図である。
【図3】図2に示す高圧タービンの詳細を説明する図である。
【図4】真空破壊のタイミング決定システムの構成を示す図である。
【図5】データベース36に蓄積されたメタル温度推移特性のデータの内容を図示したものである。
【図6】同様にデータベース36に蓄積されたメタル温度差−メタル温度の特性データの内容を図示したものである。
【図7】図4に示す真空破壊のタイミング決定システムで実行される、タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止止モードにおける真空破壊のタイミング決定方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1:火力発電プラント、 2:取水口、 4:循環ポンプ、 5:復水器、 11:蒸気、 12:石炭、 13:バンカ、 14:微粉炭機、 15:ボイラ、 17:高圧タービン、 17(GEN):GEN側車室、 17(GOV):GOV側車室、 17(Up):上部、 17(Down):下部、 18:中圧タービン、19:低圧タービン、 20,21:発電機、 22:給水ポンプ、 25:ドレン弁、 30:操作端末、 32:ネットワーク、 34:中央処理装置、 36:データベース、 38:プラント制御盤、
Mt:メタル温度、 Md:メタル温度差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電プラントの運転停止システムにおいて、
タービン通常停止モードにおける、システム解列後のタービンの冷却特性を予想する手段と、
許容されるタービン上部と下部の温度差から、タービンメタル温度を決定する手段と、
予想された前記タービンの冷却特性を利用して、決定された前記タービンメタル温度に基づいて、前記タービンの真空破壊タイミングを決定する手段とを備え、この決定された真空破壊タイミングによって発電プラントの真空破壊を実行する、運転停止システム。
【請求項2】
請求項1に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁を解放することにより実行される、運転停止システム。
【請求項3】
請求項1に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記タービン通常停止モードは、ボイラを強制冷却するタービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードとする、運転停止システム。
【請求項4】
請求項1に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記タービンの上部及び下部の温度差は、ボイラに連通する高圧タービンの車室上部と復水器に連通する高圧タービンの車室下部との間の温度差として規定される、運転停止システム。
【請求項5】
請求項1に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記許容されるタービン上部と下部の温度差は、複数の警報レベルに対応して複数の温度差が規定されている、運転停止システム。
【請求項6】
システム全体を制御する中央処理装置と、
前記中央処理装置に接続されて、火力発電プラントの運転を制御する制御手段とを備えた発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記中央処理装置は、メタル温度推移特性データ及びメタル温度差−メタル温度の特性データを蓄積したデータベースを有し、
前記中央処理装置は、発電プラントの運転停止時に、タービン通常停止モードにおける前記メタル温度推移特性データから予想メタル温度推移を決定し、警報レベルに応じた許容メタル温度差に基づきメタル温度を決定し、決定されたメタル温度から該予想メタル温度推移に基づき真空破壊のタイミングを決定する、発電プラントの運転停止システム。
【請求項7】
請求項6に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁を解放することにより実行される、運転停止システム。
【請求項8】
請求項6に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記タービン通常停止モードは、ボイラを強制冷却するタービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードとする、運転停止システム。
【請求項9】
請求項6に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記タービンの上部及び下部の温度差は、ボイラに連通する高圧タービンの車室上部と復水器に連通する高圧タービンの車室下部との間の温度差として規定される、運転停止システム。
【請求項10】
請求項6に記載の発電プラントの運転停止システムにおいて、
前記許容されるタービンの上部及び下部の温度差は、複数の警報レベルに対応して複数の温度差が規定されている、運転停止システム。
【請求項11】
発電プラントの運転停止方法において、
タービン通常停止・ボイラ強制冷却停止モードの選択及び警報レベルの設定が行われ、
タービンの予想メタル温度推移が決定され、
前記レベルに応じた許容メタル温度差に基づきメタル温度が決定され、
決定されたメタル温度から該予想メタル温度推移に基づき真空破壊のタイミングが決定される、発電プラントの運転停止方法。
【請求項12】
請求項11に記載の発電プラントの運転停止方法において、
前記真空破壊は、タービンに連通する復水器の真空破壊弁を解放する、運転停止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−243364(P2009−243364A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90829(P2008−90829)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】