説明

白人個体群の個体の大多数により認識され得るエプスタイン−バーウイルスのI型及びII型潜伏期抗原のTCD4+エピトープ、及びその適用

本発明は、白人個体群中の個体の大多数により認識され得る少なくとも1つのT CD4+エピトープを含むEBV I型及びII型潜伏期抗原からの免疫原性ペプチドに関する。本発明は、その診断上及び治療上の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白人個体群の個体の大多数により認識され得る少なくとも1つのCD4+ Tエピトープを含むEBV I型及びII型潜伏期抗原(latency antigens)由来の免疫原性ペプチド、及びその診断及び治療への適用に関する。
【背景技術】
【0002】
エプスタイン−バーウイルス(EBV)は、Bリンパ球親和性を有する腫瘍発生ヘルペスウイルスであり、これは成人の95%に感染している。小児においては一般に無症状であり、かつ特に青年においてしばしば伝染性単球増加症の原因である一次感染の後に、EBVは、その個体の寿命の間に、Bリンパ球中で潜伏状態で存続する。大多数の場合は、EBV感染は免疫系により効率的に制御されているが(正常なキャリア)、EBV感染が潜伏期抗原の発現により区別できる種々の腫瘍性病変に関連する場合がある。
【0003】
I型潜伏期は、EBNA1抗原の単独での発現に相当する。この発現プロフィールは、主にアフリカ及びニューギニアで発生する地方病の種類のバーキットリンパ腫(EBVとは一般に関連しない散発性のものとは異なる)において見出される。この種類の潜伏期は、細胞毒性CD8+ Tリンパ球による腫瘍細胞の弱い認識を特徴とする。この弱い認識の能力は:(i) クラスI MHCのレベルで提示されるEBNA1-由来エピトープの不在 (プロテアソームによる分解を防ぐグリシン−アラニン配列の繰り返し);(ii) 接着分子の減少;(iii) TAP 1及び2タンパク質の発現の減少;(iv) クラスI HLA分子 (HLA I)の低い発現により説明される。それにもかかわらず腫瘍細胞は細胞毒性CD4+ Tリンパ球により認識される。なぜなら、それらは、正常なプロセシングに関連するクラスII HLA分子(HLA II)の正常な発現を示すからである。
【0004】
II型の潜伏期においては、EBNA1、LMP1及びLMP2に限定される潜伏期抗原の発現が見出される。このタイプの潜伏期は:
- 主に中国南部及び北アメリカで見られる未分化上咽頭癌(NPC);
- ホジキン病の40〜50%。EBVとの関連は、硬結節性(scleronodular)の形(15〜30%)におけるよりも、混合細胞性(mixed cellularity)の形(50〜75%)においてより一般的である。
- ある種のT及びNKリンパ腫、特に鼻類洞性(nasosinusoidal) T/NKリンパ腫
で発生する。
【0005】
ホジキン病に関して、クラスI HLA分子並びにTAP 1及び2輸送体の正常な発現と、リード−ステルンベルグ細胞によるクラスII HLA分子のかなりの発現とが観察される。しかし、II型潜伏期は、免疫優勢エピトープ(EBNA 3A、3B、3C)が存在しないことを特徴とする。実際に、LMP1及びLMP2タンパク質に指向されたCTL応答が存在するが、後者は弱いままである。よって、免疫療法プロトコルの関係において、この応答を刺激することが有利であると考えられる。
【0006】
III型潜伏期は、全ての潜伏期タンパク質(EBNA1、EBNA2、EBNA3A-C、EBNA-LP、LMP1及びLMP2)の発現に相当し、重大な免疫抑制状態に関連する臓器移植後リンパ腫において観察される。
【0007】
EBV-特異的Tリンパ球による潜伏EBV感染の制御は、必須である(Rooneyら, Lancet, 1995, 345, 913; Munz, J. Exp. Med., 2000, 191, 1649〜1660; Leenら, Virol., 2001, 75, 8649〜8659)。これは、免疫抑制された個体において観察されるEBV-感染細胞の制御されていない増殖(臓器移植後増殖性症候群、III型潜伏期)を防ぐことを意図する。
【0008】
概略的に、EBNA3A-C及びLMP2タンパク質はCD8+ Tリンパ球についての主要な標的であるが、EBNA1及びLMP1は主にCD4+ Tリンパ球により主に認識され、EBNA1についてより排他的に認識される。結果として、EBV I型及びII型の潜伏期に関連する腫瘍の免疫制御の大部分は、HLA II分子により提示されるEBNA1及び/又はLMP1エピトープを発現する標的細胞を認識及び溶解できる細胞毒性CD4+ Tリンパ球に基づく。さらに、CD4+ Tリンパ球は、LMP2エピトープを発現する標的細胞を認識及び溶解できるCD8+ Tリンパ球により媒介される細胞毒性応答をインビボで維持するために必要である。
【0009】
実際に効果的でかつ実施が容易なI型又はII型潜伏期に関連する腫瘍性病変のための免疫療法プロトコルは、現在、存在しない。実際に、EBVで形質転換された自己由来のBリンパ芽球系統(LCL)を用いてTリンパ球をインビトロで刺激することにより得られるポリクローナル細胞毒性Tリンパ球の作製に基づく細胞免疫療法は、実施するのが非常に長く(LCLは4〜6週間で得られる)、EBV-特異的Tリンパ球の広がりの程度が低い限りはあまり効果的ではなく、ホジキン病を罹患する患者においては有糸分裂促進カクテルの添加を必要とする。さらに、腫瘍の完全な寛解は観察されない。
【0010】
これらの知見は、EBV潜伏期抗原であるEBNA1、LMP1及びLMP2に特異的でかつ強いCD4+ T応答を刺激できる抗原性ペプチドを、免疫療法(免疫化又は細胞療法)において、I型又はII型潜伏期に関連する腫瘍性病変の予防及び治療のために用いることを支持する。
【0011】
EBV-特異的CD4+ T細胞により認識されるこのようなペプチドは、EBV感染若しくは関連する腫瘍性病変のため、又はヒトにおける治療の監視のための、該CD4+ T細胞の直接検出(リンパ球増殖アッセイ)又は間接検出(抗体の産生、サイトカインの産生など)に基づく診断試験の試薬としても有用である。
【0012】
CD4+ Tリンパ球又はCD4+ T細胞は、抗原提示細胞が持つII型主要組織適合複合体の分子(ヒトにおいては、これらはHLA II分子(ヒト白血球抗原II型(Human Leucocyte Antigen type II))とよばれる)による抗原性ペプチドの提示の作用の下で活性化される。Tエピトープとよばれるこれらの抗原性ペプチドは、抗原提示細胞による抗原のタンパク質溶解分解の結果として得られる。これらは、通常、13〜25アミノ酸の種々の長さを有し、それらがHLA II分子に結合することを可能にする配列を有する。天然抗原と同様にして、CD4+ Tエピトープを含むペプチドが、該エピトープに特異的なCD4+ T細胞をインビトロで刺激できるか、又はそれらをインビボで補充(recruiting)できることが公知である。よって、該ペプチドは、CD4+ T応答を産生するのに充分である。
【0013】
しかし、これらのペプチドを抗原として用いることを制限する主要な問題の一つが、それらの配列がHLA II分子の多型のために個体ごとに異なるとすると、CD4+ Tエピトープの同定である。実際に、HLA II分子は、多型であるアルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖からなるヘテロダイマーである。個体ごとに4種類のHLA II分子(2種のHLA-DR、1種のHLA-DQ及び1種のHLA-DP)が存在し、最も多型であるベータ鎖をコードする対立遺伝子によって命名されている。HLA-DR分子は高度に多型である。実際に、そのアルファ鎖は3つの対立遺伝子しか持たないが、最も広く発現されるDRB1遺伝子によりコードされるベータ(β)鎖は、現在までに、458対立遺伝子を有する。HLA-DQ及びHLA-DP分子について、それらを形成する2つの鎖(α及びβ)は多型であるが、それらはより少ない対立遺伝子を有する。8つのDQA1対立遺伝子(HLA-DQのα鎖)、56個のDQB1対立遺伝子(HLA-DQのβ鎖)、20個のDPA1対立遺伝子(HLA-DPのα鎖)、及び110個のDPB1対立遺伝子(HLA-DPのβ鎖)が数えられている。しかし、これらの対立遺伝子によりコードされる2つのα鎖及びβ鎖の組み合わせは、多数のHLA-DQ及びHLA-DP分子を生じさせる。この多型のために、これらのアイソフォームは、それぞれ異なる結合特性を有し、このことはこれらが同じ抗原の異なるペプチドに結合できることを意味する。つまり、各個体は、抗原中の、性質を特徴付けるHLA II分子に依存する性質を有するペプチドの集団を認識する。多数のHLA II対立遺伝子が存在するので、所定の配列中に、それぞれが異なる対立遺伝子に特異的な非常に異なる配列のTエピトープのかなりのレパートリーが存在する。
【0014】
つまり、ある個体においてEBV-特異的CD4+ T応答を刺激できるペプチドは、その他の個体の大多数においては不活性であり得る。なぜなら、その他の個体は同じエピトープを介してはEBV抗原を認識しないからである。
【0015】
既知のEBNA1、LMP1及びLMP2抗原のCD4+ Tエピトープのほとんどは、単一HLA DR、DQ又はDP分子について、規定された拘束を有する(表I)。
【0016】
【表1】

【0017】
つまり、このようなペプチドは、通常、白人個体群における全ての優勢(predominant) HLA II分子により認識されるわけではない。実際に、例えばHLA-DR分子について、白人個体群において見出される遺伝子頻度の60%を超えてカバーし、よってこの個体群の85%より多くに関連するために、約10程度の対立遺伝子が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らは、EBVのEBNA1、LMP1及びLMP2潜伏期抗原由来のCD4+ Tエピトープであって、白人個体群において優勢なHLA II分子により認識されることができ、よってこれらのエピトープを含むペプチドを用いる免疫化又は細胞治療を受けたこの個体群における大多数の個体でのEBV-特異的CD4+ T応答を誘導できるエピトープを同定した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
つまり、本発明の主題は、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、DLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4分子から選択される少なくとも7つの異なるHLA II分子により提示され得るEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原のうちの1つの少なくとも1つのCD4+ Tエピトープを含むエプスタイン−バーウイルス(EBV)の免疫原性ペプチドであり、該ペプチドは、
a) EBNA1の位置475〜500、514〜539、及び529〜552にわたる配列であるそれぞれ26、26及び24アミノ酸のペプチド;
b) LMP1の位置68〜83にわたる配列である16アミノ酸のペプチド;
c) LMP2の位置224〜244及び372〜388にわたる配列であるそれぞれ21及び17アミノ酸のペプチド;
d) a)、b)及びc)で定義されるペプチドと同じ長さでかつ同じ位置により定義される変異形であって、a)、b)及びc)で定義される前記ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸配列を別のアミノ酸で置換することにより得られ、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4から選択される少なくとも7つの異なるHLA II分子に関して1000 nMより低い結合活性を示す変異形
からなる群より選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
上記の配列を有する本発明によるペプチドは、従来のペプチドとは異なる特性を有し、特に以下の特性を有する。
- HLA II分子結合活性:本発明によるペプチドは、白人個体群において優勢なHLA II分子の大多数に対して高い親和性を有し、よって、白人個体群における大多数の個体でのHLA II分子により提示されることができる。これらのペプチドは、白人個体群における対立遺伝子頻度が5%より大きいHLA II分子に相当するHLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4から選択される少なくとも7つのHLA II分子について<1000 nMの結合活性を有する。結合活性は、HLA-DR分子については米国特許第6,649,169号、HLA-DP4分子についてはPCT国際出願WO 03/040299に記載された原理、並びにTexierら, J. Immunol., 2000, 164, 3177及びEur. J. Immunol, 2001, 31, 1837、及びCastelliら, J. Immunol., 2002, 169, 6928〜6934の名の下での文献に記載された原理に従って、免疫酵素学的明示(revelation)を用いるHLA II/ペプチド競合結合アッセイにより測定できる。
【0021】
- 免疫原性:本発明によるペプチドは、白人個体群における大多数の個体のCD4+ Tリンパ球により認識され、EBV感染の間に自然に提示されるTエピトープを含む。つまり、これらのペプチドは、未処置の個体の大多数に存在する前駆体からEBV-特異的CD4+ T細胞を誘導できるか、又はEBVに対して血清反応陽性の大多数の個体においてそのような細胞を刺激できる。ペプチドの免疫原性は、特に末梢血単核細胞(PBMC)から、当業者に知られるいずれの適切なアッセイ、例えば:細胞増殖アッセイ、ELISPOT試験(サイトカイン産生細胞のアッセイ)、又はサイトカイン(IFN-γ、IL-2、IL-4及びIL-10)をアッセイする試験により決定できる。
【0022】
- 細胞毒性活性:Th1-タイプのCD4+ Tリンパ球クローンは、本発明によるペプチドを用いるPBMCのインビトロ刺激により作り出されるTリンパ球から単離される。このようにして得られる該クローンは、同じHLA特異性を有するEBV陽性の標的:HLA同一性の場合に、同じ個体に由来しかつEBV (LCL)又はEBV陽性腫瘍系統(ホジキン病、T-NKリンパ腫)で形質転換されたリンパ球の存在下に置かれる。同じ特異性でEBV陽性標的細胞を溶解できるEBV I型又はII型潜伏期抗原に特異的な細胞毒性CD4+ Tリンパ球の存在は、従来の細胞毒性アッセイ、特に51Cr放出の測定により分析される。
【0023】
本発明は、EBVに感染した個体から単離される天然の変異形を含む、いずれの単離されたEBVのEBNA1、LMP1又はLMP2タンパク質のフラグメントの配列に相当する配列を有するペプチドを包含する。多様な単離されたEBVのゲノム及び対応するタンパク質の配列は、データバンク、特にNCBIのデータバンク(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)において入手可能である。
【0024】
ペプチドの位置は、NCBIデータベースの以下のアクセッション番号を有する配列に関して示す:NP_039875 (EBNA1)、CAA26023 (LMP1)及びAAA45887 (LMP2)。例えば、ENBA1の位置475〜500にわたる26アミノ酸のペプチドは、NCBI配列NP_039875の位置475のアスパラギン(N)残基から位置500のグルタミン酸(E)残基までにわたる。これは、具体的には配列NPKFENIAEGLRALLARSHVERTTDE (配列番号4)により表される。
【0025】
これらの記載に基づいて、当業者は、その他の単離されたEBVのタンパク質であって、該タンパク質のアミノ酸配列中の短い挿入及び/又は欠失のためにいくつかのアミノ酸が変動し得る該タンパク質の中の対応する位置を容易に決定できる。
【0026】
本発明は、ペプチドの配列中の1又は複数のアミノ酸の置換により上記の配列から得られる変異形であるが、但し上記で規定するように白人個体群において優勢な少なくとも7つのHLA II分子について高い親和性(結合活性<1000 nM)を保存し、かつ免疫原性である変異形も含む。HLA-DR分子及びHLA-DP分子への結合に関与するアミノ酸残基(アンカー残基)、及び該分子への結合におけるこれらの残基の改変の影響(親和性、特異性)は、当業者に知られている;米国特許第6,649,166号は、アンカー残基P1、P4、P6、P7及びP9の決定及びHLA DR分子結合の親和性及び特異性に対するこれらの残基の改変の影響を含む、HLA DR分子へのペプチドの結合の方法を記載する。PCT国際出願WO 03/040299は、HLA-DP4への結合は、P6、P1及び/又はP9での残基を含み、これらはほとんど芳香族又は疎水性のみであるはずであるが、P4での残基はいずれのアミノ酸残基でもあり得ることを教示している。
【0027】
本発明は、1又は複数のアミノ酸残基、ペプチド結合又はペプチド末端のレベルでのいずれの改変の導入により上記のペプチドから派生する改変ペプチドであるが、但し上記で規定するように、白人個体群において優勢な少なくとも7つのHLA II分子について高い親和性(結合活性<1000 nM)を保存し、かつ免疫原性である改変ペプチドも含む。当業者に公知の通常の方法によりペプチドに導入されるこれらの改変は、限定せずに、以下のものを含む:非タンパク質構成アミノ酸(Dアミノ酸又はアミノ酸アナログ)でのアミノ酸の置換;反応性官能基、特にR側鎖への化学基(脂質、オリゴ糖又は多糖)の付加;ペプチド結合(-CO-NH-)の、特にレトロ若しくはレトロインバーソタイプの結合(-NH-CO-)又はペプチド結合以外の結合による改変;閉環;ペプチドの融合(免疫化のために興味のあるエピトープ;ペプチドの精製のために有用な、特にプロテアーゼにより切断可能な形でのタグ);該ペプチド配列の、タンパク質、特にHLA II分子のα若しくはβ鎖又は該鎖の細胞外ドメインの配列との融合;適切な分子、特に標識、例えば蛍光色素とのカップリング。これらの改変は、特に、本発明のペプチド若しくは該ペプチドの特異的なCD4+細胞のいずれかの安定性、溶解性若しくは免疫原性の増大又は精製若しくは検出の促進を意図する。
【0028】
上記のペプチドの有利な実施形態によると、上記のHLA II分子は、対立遺伝子DRB1*0101 (HLA-DR1分子)、DRB1*0301 (HLA-DR3分子)、DRB1*0401 (HLA-DR4分子)、DRB1*0701 (HLA-DR7分子)、DRB1*1101 (HLA-DR11分子)、DRB1*1301 (HLA-DR13分子)、DRB1*1501 (HLA-DR15分子)、DRB3*0101 (HLA-DRB3分子)、DRB5*0101 (HLA-DRB5分子)、DP*0401又はDP*0402 (HLA-DP4分子)によりそれぞれコードされるβ鎖を含む。
この実施形態の有利な態様によると、上記のペプチドは、配列番号4、5、6、11、20及び21の配列からなる群より選択される。
【0029】
本発明の主題は、上記で規定されるペプチドの配列を有する少なくとも1つのCD4+ Tエピトープを含むEBVの少なくとも2つの同一又は異なるエピトープを含むことを特徴とするポリエピトープフラグメントでもある。
【0030】
本発明の目的のために、用語「ポリエピトープフラグメント」とは、1又は複数のEBV抗原から得られる人工又は合成の配列であって、EBV抗原に天然に存在するいずれの配列にも相当しない配列を意味することを意図する。
好ましくは、上記のポリエピトープフラグメントは、20〜1000アミノ酸、好ましくは20〜100アミノ酸の長さである。
【0031】
上記のポリエピトープフラグメントは、該フラグメントの精製又は検出のために、その末端の一方に融合されたタグを含むことが有利である。該タグ、特にポリヒスチジン配列又は別のウイルスのBエピトープは、融合体からポリペプチド配列を単離するような様式で、プロテアーゼ用の切断部位によりポリエピトープ配列から分けられることが好ましい。
【0032】
上記のポリエピトープフラグメントの有利な実施形態によると、これは、上記で定義されるペプチドの配列を有するCD4+ Tエピトープと、以下からなる群から選択される少なくとも1つのその他のエピトープとを含む。
- HLA I分子により提示され、かつEBV-特異的細胞毒性Tリンパ球により認識されるEBVタンパク質のCD8+ Tエピトープ;EBV CD8+ Tエピトープの配列は当業者に知られ、特に、LMP1のペプチド51〜60、125〜133、156〜164及び159〜167、LMP2のペプチド131〜139、200〜208、236〜244、340〜350、419〜427、426〜434、442〜451、447〜455及び453〜461を含む;
【0033】
- EBVに指向された抗体により特異的に認識されるEBV抗原のBエピトープ;及び
- 天然又は合成のユニバーサルCD4+ Tエピトープ、例えば破傷風毒素TTペプチド830〜846 (O'Sullivanら, J. Immunol., 1991, 147, 2663〜2669)、インフルエンザウイルスヘマグルチニンHAペプチド307〜319 (O'Sullivanら, 上記)、PADREペプチド(KXVAAWTLKAA;Alexanderら, Immunity, 1994, 1, 751〜761)、HIV 1 Nefタンパク質のペプチド45〜69、及び熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の抗原由来のペプチド、例えばCS.T3ペプチド(Sinigagliaら, Nature, 1988, 336, 778〜780)、並びにCSP、SSP2、LSA-1及びEXP-1ペプチド(Doolanら, J. Immunol., 2000, 165, 1123〜1137)。
【0034】
CD4+ Tエピトープと上記で定義される少なくとも1つのエピトープとの組み合わせは、抗EBV免疫応答を誘発又は改変することを有利に可能にする。
【0035】
本発明の主題は、上記で定義されるペプチド又はポリエピトープフラグメントを含むことを特徴とするリポペプチドでもある。上記のリポペプチドは、特に、脂質を上記のペプチド又はポリエピトープフラグメントのアミノ酸のα-アミノ官能基又は側鎖の反応性官能基に付加することにより得られる;これは、任意に分岐しているか若しくは不飽和であってもよいC420脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、2-アミノヘキサデカン酸、ピメラウチド(pimelautide)、トリメキサウチド(trimexautide))又はステロイドの誘導体に由来する1又は複数の鎖を含み得る。好ましい脂質部分は、特に、Ac-K(Pam)ともよばれるNα-アセチルリジンNε(パルミトイル)基で代表される。
【0036】
本発明の主題は、上記で定義されるペプチド又はポリエピトープフラグメントと融合された異種タンパク質又はタンパク質フラグメントからなることを特徴とする融合タンパク質でもある。該ペプチド又はポリエピトープフラグメントは、該タンパク質のNH2又はCOOH末端と融合できるか、又は該タンパク質の配列中に挿入できる。
【0037】
本発明の目的のために、EBNA1、LMP1及びLMP2にそれぞれ由来するペプチドに関する用語「異種タンパク質」とは、EBNA1でもLMP1でもLMP2でもないタンパク質を意味することを意図する。
【0038】
有利には、上記の融合タンパク質は、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4分子から選択されるHLA II分子の鎖の1つ、好ましくはβ鎖、又は可溶性HLA II分子に相当するそのフラグメント、特に同種のシグナルペプチド若しくは異種のシグナルペプチドが先行する細胞外ドメインに相当するフラグメントと融合された上記で定義されるEBVペプチドからなる。上記のEBVペプチドは、有利には、HLA-DR分子について記載されるように(Kolzinら, PNAS, 2000, 97, 291〜296)、β鎖のシグナルペプチドと細胞外ドメインのNH2末端との間に挿入される。
【0039】
或いは、上記のEBVペプチド又はポリエピトープフラグメントは、当業者に知られる精製又は検出を促進するタンパク質、例えば特にグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)及び蛍光タンパク質(GFP及び誘導体)と融合させる。この場合、興味のあるペプチド又はポリエピトープフラグメントの配列は、該ペプチド又はポリエピトープフラグメントの精製を促進するために、タンパク質の残りとはプロテアーゼのための切断部位により分けられることが好ましい。
【0040】
本発明の主題は、上記で定義されるペプチド、ポリエピトープフラグメント又は融合タンパク質をコードすることを特徴とするポリヌクレオチドでもある。
本発明によると、上記のポリヌクレオチドの配列は、上記のペプチド又はポリエピトープフラグメント又は融合タンパク質をコードするcDNAの配列である。上記の配列は、有利には、それが発現される宿主内でのコドン使用が最適であるように改変されることができる。
【0041】
本発明の主題は、少なくとも1つの異種配列に連結された本発明に従う少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む組換えポリヌクレオチドも含む。
本発明の目的のために、EBVペプチドをコードする核酸配列に関する用語「異種配列」とは、上記のEBVペプチドをコードする上記の核酸配列に天然に隣接する配列以外のいずれの核酸配列を意味することを意図する。
【0042】
本発明の主題は、特に、以下のものを含む。
a) 転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列(プロモーター、アクチベータ、イントロン、開始コドン(ATG)、停止コドン、ポリアデニル化シグナル)の制御下に上記で定義される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む発現カセット、及び
b) 本発明によるポリヌクレオチドを含む組換えベクター。有利には、これらのベクターは、上記で定義される少なくとも1つの発現カセットを含む発現ベクターである。
【0043】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は少なくとも1つのベクターで改変された原核又は真核細胞でもある。
【0044】
興味のある核酸分子を、それを真核又は原核の宿主細胞に導入しかつ維持するために、挿入することができる多くのベクターが、それら自体で公知である。適切なベクターの選択は、該ベクターで構想される使用(例えば、興味のある配列の複製、該配列の発現、該配列の染色体外の形での維持、又は宿主の染色体への組み込み)、及び宿主細胞の性質に依存する。例えば、とりわけ、興味のある配列を予め挿入したウイルスベクター、例えばアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、AAV及びバキュロウイルスを用いることができる。上記の配列(単離されているか又はプラスミドベクターに挿入されている)を、該配列が宿主細胞膜を横切ることを可能にする物質、例えば輸送体、例えばナノ輸送体(nanotransporter)、又はリポソーム若しくはカチオンポリマーの調製物と結合させることができるか、或いは物理的方法、例えばエレクトロポレーション又はマイクロインジェクションを用いて上記の配列を上記の宿主細胞に導入することができる。さらに、これらの方法は、例えばリポソームと関連させたエレクトロポレーションを用いることにより有利に組み合わせることができる。
【0045】
上記で定義されるポリヌクレオチド、組換えベクター及び形質転換細胞は、本発明によるペプチド、ポリエピトープフラグメント及び融合タンパク質の産生のために特に有用である。
【0046】
本発明によるポリヌクレオチドは、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. Ausubel, 2000, Wiley and Son Inc., Library of Congress, USA)に記載されるもののような標準的なプロトコルに従う、それら自体で公知の通常の方法により得られる。例えば、該ポリヌクレオチドは、PCR又はRT-PCRによる核酸配列の増幅により相同プローブとのハイブリダイゼーションによるゲノムDNAライブラリのスクリーニング、又は全体若しくは部分的な化学合成により得ることができる。組換えベクターは、それら自体で公知の従来の組換えDNA及び遺伝子工学の方法により、構築されて宿主細胞に導入される。
【0047】
上記で定義されるペプチド及びそれらの誘導体(変異形、改変されたペプチド、リポペプチド、ポリエピトープフラグメント、融合タンパク質)は、当業者に知られる通常の技術、特に固相合成若しくは液相合成又は適切な細胞系(真核又は原核)での組換えDNAの発現により作製される。
【0048】
より具体的には、
- ペプチド及びそれらの誘導体(変異形、ポリエピトープフラグメント)は、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc. 1964, 85: 2149-)により元々記載されたFmoc法に従って固相合成でき、逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製できる、
- リポペプチドは、特に、国際出願WO 99/40113又はWO 99/51630に記載される方法に従って作製できる、
- ペプチド及び誘導体、例えば変異形、ポリエピトープフラグメント及び融合タンパク質は、当業者に知られるいずれの方法により得られる対応するcDNAから産生することもできる。cDNAは、真核又は原核発現ベクターにクローニングし、組換えベクターで改変された細胞で産生されるタンパク質又はフラグメントをいずれの適切な手段、特にアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。
【0049】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのEBVペプチド、少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、少なくとも1つのリポペプチド又は少なくとも1つのベクターと、医薬的に許容される担体及び/又は担体物質(carrier substance)及び/又はアジュバントとを含むことを特徴とする免疫原性の又はワクチン用の組成物でもある。
【0050】
本発明による免疫原性組成物は、非経口(皮下、筋肉内、静脈内)、経腸(経口、舌下)、又は局所(直腸、経膣)の投与に適するガレノスの(galenic)形にある。
【0051】
医薬的に許容される担体、担体物質又はアジュバントは、通常用いられるものである。
アジュバントは、油性エマルジョン、鉱質物質、細菌抽出物、サポニン、水酸化アルミナ、モノホスホリルリピドA、及びスクアレンからなる群から選択されるのが有利である。
担体物質は、単層又は多層のリポソーム、ISCOM、ウイロソーム(virosomes)、ウイルス偽粒子(viral pseudo-particles)、サポニンミセル、糖類(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド))又は天然に金を有するものである固体マイクロスフェア、及びナノ粒子からなる群より選択されるのが有利である。
【0052】
好ましくは、上記の免疫原性組成物は、上記で定義されるCD4+ Tエピトープを含む6つのEBVペプチドの少なくとも2つ、好ましくは3〜5つのペプチド、より好ましくは6つのペプチドを、ペプチド若しくはリポペプチドの混合物の形、ポリエピトープフラグメントの形、又は上記のペプチド若しくはフラグメントをコードする発現ベクターの形で含む。
【0053】
好ましくは、上記の組成物は、上記で定義されるユニバーサルCD4+ Tエピトープ又はEBV CD8+ Tエピトープからなる群より選択されるエピトープを含む少なくとも1つのその他のペプチドも含む。
【0054】
本発明の主題は、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の予防及び/又は治療のためのワクチンとしての、上記で定義されるペプチド、ポリエピトープフラグメント、リポペプチド又はベクターでもある。
【0055】
本発明の主題は、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の予防及び/又は治療用のワクチンの製造のための、上記で定義されるペプチド、ポリエピトープフラグメント、リポペプチド又はベクターの使用でもある。
【0056】
本発明によるペプチド及び誘導生成物(ポリエピトープフラグメント、リポペプチド、組換えベクター)は、EBV関連腫瘍、特にI型又はII型の潜伏期を示すものの治療における免疫療法において用いることができる。上記のペプチド又は誘導生成物は、ワクチンとして若しくは細胞治療において、又はこれら2つのアプローチの組み合わせにより用いられる。
【0057】
細胞治療は、治療される患者又は同一若しくは部分的に同一のHLA表現型の有志のドナーから末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、PBMCをペプチドの存在下で培養することにより、EBV-特異的CD4+ Tリンパ球の増殖を誘導することを含む、通常のインビトロ刺激プロトコルにより、EBV-特異的CD4+ Tリンパ球を調製することを含む。第二工程において、EBV-特異的CD4+ Tリンパ球は、患者に再び注射される。
【0058】
本発明の主題は、任意に標識又は複合化されていてもよい、特に標識されたHLA II分子と複合化されていてもよい上記で定義される少なくとも1つのペプチドを、マルチマー複合体、例えばテトラマーの形で含むことを特徴とする、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の進展を診断及び監視するための試薬でもある。
【0059】
本発明の主題は、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の進展を診断及び監視するための試薬の製造のための、上記で定義されるペプチドの使用でもある。
本発明の目的のために、「EBV感染又は関連する腫瘍性病変の進展の診断及び監視」との表現は、EBV感染、EBV関連病変又は抗-EBV免疫療法若しくは免疫化プロトコルの経過の間のEBV-特異的CD4+ T免疫応答の評価を意味することを意図する。検出は、CD4+ T細胞を含む生体サンプル、特に末梢血サンプルから単離される単核細胞のサンプル(PBMC)を用いて行われる。
【0060】
本発明の主題は、
- 個体からの生体サンプルを上記で定義される診断試薬と接触させ、
- EBVのEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原の1つに特異的なCD4+ Tリンパ球を、いずれの適切な手段により検出する
ことを含むことを特徴とする、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の進展を診断及び監視する方法でもある。
【0061】
本発明の主題は、EBVのEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原の1つに特異的なCD4+ Tリンパ球を検出する手段と組み合わせた、上記で定義される少なくとも1つの試薬を含むことを特徴とする、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の進展を診断及び監視するためのキットでもある。
【0062】
潜伏期抗原に特異的なCD4+ Tリンパ球の検出は、それら自体で公知のいずれの手段により行われる。例えば、直接的な手段、例えばリンパ球増殖アッセイ又は上記で定義されるマルチマー複合体の存在下でのフローサイトメトリ、或いは間接的な手段、例えばIL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γのようなサイトカインの、特に免疫酵素学的方法(ELISA、RIA、ELISPOT)又はフローサイトメトリ(細胞内サイトカインのアッセイ)によるアッセイを用いることが可能である。
【0063】
より具体的には:
細胞懸濁物(PBMC、CD8+細胞を欠乏させたPBMC、上記で定義されるペプチドを用いてインビトロ培養工程により予め富化させたTリンパ球、又はクローン化Tリンパ球)を、上記のペプチド、及び所望により適切な提示細胞、例えば樹状細胞、自己若しくは異種のPBMC、EBVでの感染後に得られるもののようなリンパ芽球状の細胞又は遺伝子改変細胞の存在下で3〜5日間培養する。初期の懸濁物中のEBV潜伏期抗原に特異的なCD4+ T細胞の存在は、次の方法の1つに従って、EBVペプチドにより検出される。
【0064】
* 増殖アッセイ:
EBV潜伏期抗原に特異的なCD4+ T細胞の増殖は、細胞のDNAへのトリチウム化されたチミジンの取り込みにより測定される。
【0065】
* ELISPOTアッセイ:
ELISPOTアッセイは、上記で定義されるペプチドに特異的なサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γ)分泌T細胞の存在を明らかにすることを可能にする。このアッセイの原理は、Czerkinskyら, J. Immunol. Methods, 1983, 65, 109〜121及びSchmittelら, J. Immunol. Methods, 1997, 210, 167〜174に記載され、そしてその実施は、国際出願WO 99/51630又はGahery-Segardら, J. Virol., 2000, 74, 1694〜1703に示されている。
【0066】
* サイトカインの検出:
IL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γのようなサイトカインを分泌するEBV潜伏期抗原に特異的なT細胞の存在は、培養上清中に存在するサイトカインを免疫酵素学的アッセイにより、特に市販のキットを用いてアッセイするか、又はフローサイトメトリにより細胞内サイトカインを検出することにより検出される。細胞内サイトカインの検出の原理は、Goulderら, J. Exp. Med., 2000, 192, 1819〜1832及びMaeckerら, J. Immunol. Methods, 2001, 225, 27〜40に、そしてその実施は、Draenertら, J. Immunol. Methods, 2003, 275, 19〜29に示されている。
【0067】
* マルチマー複合体
- 生体サンプル、好ましくは末梢血単核細胞(PBMC)を、可溶性HLA II分子と上記で定義されるEBVペプチドとの結合により形成される、特に蛍光色素で標識された標識マルチマー複合体と接触させ、
- 上記のマルチマー複合体で標識された細胞を、特にフローサイトメトリにより分析する。
【0068】
有利には、生体サンプルを上記の複合体と接触させる前に、非特異的活性化を防ぐために、CD4+ T抗体と接触させるか又は間接的な弁別によりCD4+ T細胞を富化させる。
【0069】
HLA II/ペプチドマルチマー複合体は、HLA IIを発現する細胞から抽出される天然の分子、又は例えばNovakら(J. Clin. Investig., 1999, 104, R63〜R67)若しくはKurodaら(J. Virol., 2000, 74, 18, 8751〜8756)に具体的に記載されるように適切な宿主細胞で産生された組換え分子から作製できる。これらのHLA II分子は、特に、短くする(膜貫通ドメインの欠失)ことができ、その配列は、それらを可溶性にするか又はアルファ及びベータ鎖の対形成を促進するために改変できる(Novakら, 上記)。
【0070】
ペプチドをHLA II分子に載せる(loading)ことは、上記のようなHLA II分子の調製物をペプチドと接触させることにより行うことができる。例えば、ビオチン標識された可溶性のHLA II分子は、10倍過剰の上記で定義されるEBVペプチドと、4.5〜7のpHの0.15M NaCl含有10 mMリン酸−クエン酸バッファー中で37℃にて72時間インキュベートする。
【0071】
或いは、ペプチドの配列を、HLA II分子の鎖の1つに融合タンパク質の形で導入でき、このことにより、該融合タンパク質を発現する適切な宿主細胞からのHLA II/ペプチドマルチマー複合体の作製が可能になる。該複合体は、次いで、特にビオチンで標識できる。
【0072】
テトラマータイプのマルチマー複合体は、特に、載せられたHLA II分子に、HLA II分子について4分の1の量(four times less) (モルについてモル)の蛍光色素標識ストレプトアビジンを加え、次いで、混合物全体を充分な時間、例えば一晩、周囲温度にてインキュベートすることにより得られる。
【0073】
マルチマー複合体は、HLA I分子(Bodinierら, Nature 2000, 6, 707〜710)について記載されるようにして、HLA II/ペプチドモノマーをストレプトアビジンと結合させた磁性ビーズとインキュベーションするか、又はマウスクラスII MHC分子(Prakken, Nature Medicine, 2000, 6, 1406〜1410)について記載されるように、HLA II/ペプチドモノマーを脂質小胞に挿入することにより形成することもできる。
【0074】
特にテトラマータイプのこれらのHLA II/ペプチドマルチマー複合タンパク質を用いるために、細胞懸濁物(PBMC、CD8+細胞を欠乏させたPBMC、上記で定義されるEBVペプチドを用いてインビトロ培養工程により予め富化させたTリンパ球、又はクローン化Tリンパ球)を適切な濃度(例えば10〜20μg/ml程度)でHLA II/ペプチドマルチマー複合体と、複合体とEBV-特異的CD4+ T細胞との結合を可能にするのに充分な時間(例えば1〜3時間程度)接触させる。洗浄後、懸濁物をフローサイトメトリにより分析する。細胞の標識は、蛍光性であるマルチマー複合体により視覚化される。
【0075】
フローサイトメトリは、HLA II/ペプチドマルチマー複合体で標識された細胞を、未標識の細胞から区別して、細胞弁別を行うことを可能にする。
【0076】
本発明の主題は、よって、少なくとも以下の工程:
- 細胞サンプルを、標識されたHLA II/ペプチドマルチマー複合体と、特に蛍光色素で標識されたものと接触させ、ここで該複合体は可溶性HLA II分子が上記で定義される少なくとも1つのEBVペプチドと結合することにより形成され、
- 上記のHLA II/ペプチド複合体に結合した細胞を、特にフローサイトメトリにより弁別する
を含むことを特徴とする、EBV潜伏期抗原に特異的なCD4+ T細胞を弁別する方法でもある。
【0077】
上記の態様に加えて、本発明は、添付の図面を参照にして本発明の主題の実施例について言及する以下の記載から明らかになるその他の態様も含む。添付の図面において、
- 図1は、HLA-DR1トランスジェニックマウスモデルにおける、白人個体群において優勢な12のHLA II分子に<1000 nMの親和性で結合しているEBV I型及びII型の潜伏期抗原に由来する6つのペプチドの混合物の免疫原性を示す。5匹のHLA-トランスジェニックAβ°/DR1マウス(Cocktマウス)の群を、Montanide (登録商標) Isa 720中で乳化したペプチド混合物(合計120μg)の第1の皮下注射で、次いで2週間の間隔で2回の半分の用量のブースターで免疫した。コントロール群(Teマウス)は、同じプロトコルに従って、Montanide (登録商標) Isa 720のみを受けた。最後の注射から7日後にリンパ節から抽出されたリンパ球の増殖応答を、種々の条件下での(3H)チミジンの取り込みにより測定した。A:抗原の非存在下(コントロール)又はコンカナバリンA (ConA)の範囲の存在下(48時間培養)。B:抗原の非存在下(コントロール)又はペプチド混合物の濃度の範囲の存在下(合計60、30、15又は7.5μg) (5日培養)。結果は、1分当たりのカウント数(cpm)で表す。
【0078】
- 図2は、HLA-DR1トランスジェニックマウスモデルにおける、白人個体群において優勢な12のHLA II分子に<1000 nMの親和性で結合しているEBV I型及びII型の潜伏期抗原に由来する6つのペプチドの混合物の免疫原性を示す。5匹のHLA-トランスジェニックAβ°/DR1マウス(Cocktマウス)の群を、Montanide (登録商標) Isa 720中で乳化したペプチド混合物(合計120μg)の第1の皮下注射で、次いで2週間の間隔で2回の半分の用量のブースターで免疫した。コントロール群(Teマウス)は、同じプロトコルに従って、Montanide (登録商標) Isa 720のみを受けた。最後の注射から7日後に脾臓から抽出されたリンパ球の増殖応答を、種々の条件下での(3H)チミジンの取り込みにより測定した。A:抗原の非存在下(コントロール)又はコンカナバリンA (ConA)若しくはLPSの範囲の存在下(48時間培養)。B:抗原の非存在下(コントロール)又はペプチド混合物の濃度の範囲の存在下(合計60、30、15又は7.5μg) (5日培養)。結果は、1分当たりのカウント数(cpm)で表す。
【0079】
- 図3は、ペプチド混合物でインビトロ刺激した後の、EBVに対して血清反応陽性な種々のHLA IIハプロタイプの正常なドナー由来のTリンパ球の増殖応答を示す。EBVに対して血清反応陽性の正常な個体由来の血液単核細胞(96ウェルプレート、ウェル当たり5×105細胞)を、ペプチドG17F、N26E、V21V、K26L、P24G及びI16L (配列番号21、4、20、5、6及び11)をそれぞれ10μg/mlの濃度で含有する混合物の存在下で、4〜6日間培養した。Tリンパ球の増殖応答を、(3H)チミジンの取り込みにより測定した。ペプチド混合物の存在下でのTリンパ球の1分当たりのカウント数の、ペプチド非存在下でのTリンパ球の1分当たりのカウント数の平均(バックグラウンドノイズ)に対する比に相当する刺激指数を、種々のドナーについて各ウェルについて示す。ウェルは、1分当たりのカウント数が1000より大きく、かつ刺激指数が3より大きい場合に、陽性であるとみなす。
【実施例】
【0080】
実施例1:白人個体群において最も豊富なHLA II分子により認識されるCD4+ Tエピトープの同定
1) 材料及び方法
1.1) ペプチド合成
TEPITOPEソフトウェア(Sturnioloら, Nature Biotechnology, 1999, 17, 555〜561)を用いて、EBV II型潜伏期抗原(EBNA1、LMP1及びLMP2)の配列における可能性のあるクラスII HLA分子結合モチーフを選択した。対応するペプチドを、固相(Neosystem)でのパラレル合成によるFmocストラテジに従って合成し、高速液体クロマトグラフィーにより精製し(HPLC;C18カラム、Synmetry)、質量分析(ES-MS)によりコントロールした。
【0081】
1.2) HLA II/ペプチド結合アッセイ
HLA II分子への結合のアッセイは、免疫酵素学的明示を用いる競合結合アッセイであり、その原理は米国特許6,649,169号にHLA-DR分子について、PCT国際出願WO 03/040299にHLA-DP4分子について記載され、Texierら, J. Immunol., 2000, 164, 3177及びEur. J. Immunol., 2001, 31, 1837並びにCastelliら, J. Immunol., 2002, 169, 6928〜6934の名の下での文献にも記載されている。
これらのアッセイの例は、PCT国際出願WO 02/090382、WO 03/040299及びWO 2004/014936に示される。
【0082】
a) HLA II対立遺伝子の選択
フランス人個体群において最も豊富であり、対立遺伝子頻度が白人個体群に特徴的な12個のHLA II分子(10個のHLA-DR分子及び2個のHLA-DP分子)を選択した。
* β鎖がDR1遺伝子によりコードされているHLA-DR分子
これらは、β鎖がDRB1遺伝子座の対立遺伝子によりコードされているHLA-DR1、-DR3、-DR4、-DR7、-DR11、-DR13及び-DR15分子であり、その頻度はフランス人個体群において5%を超え:DRB1*0101 (9.3%)、DRB1*0301 (10.9%)、DRB1*0401 (5.6%)、DRB1*0701 (14%)、DRB1*1101 (9.2%)、DRB1*1301 (6%)及びDRB1*1501 (8%)、それら自体で個体群の64%を表す。これらの同じ対立遺伝子は、別の白人個体群において最も豊富なHLA-DR対立遺伝子である。それらの頻度は、53% (スペイン)と82% (デンマーク)の間である。米国及びカナダについて、これらは、個体群のDR対立遺伝子のそれぞれ58%及び55%を表す。
【0083】
* β鎖がDR1遺伝子によりコードされていないHLA-DR分子
これらは、フランス人個体群において最も一般的な対立遺伝子によりβ鎖がコードされているHLA-DRB3、-DRB4及び-DRB5分子である:HLA-DRB3*0101 (9.2%)、HLA-DRB4*0101 (28.4%)及びHLA-DRB5*0101 (7.9%)。これらの分子は、それら自体で対立遺伝子頻度の45%をカバーする。
【0084】
* HLA-DP分子
これらは、DPB1*0401及びDPB1*0402対立遺伝子によりコードされる分子を一緒に群にするHLA-DP4分子である。これらのDP4分子は、欧州及び米国で最も豊富なHLA II分子である。それらの対立遺伝子頻度は、それぞれ実際には40%及び11%であり、このことは、それらのいずれかが個体の約76%で見出されることを意味する。タンパク質配列に存在するので、これらの分子全てに結合するペプチドは、よって、個体群の大多数のCD4+ Tエピトープを含む。
【0085】
b) HLA II分子の精製
HLA II分子は、エプスタイン−バーウイルス(EBV)で形質転換されたヒトBリンパ球の種々の同型接合系統から免疫親和性により精製される;すなわち、HOM2 (DRB1*0101, DPB1*0401)、SCHU (DRB1*1501, DRB5*0101, DPB1*0402)、STEILIN (DRB1*0301, DRB3*0101)、PITOUT (DRB1*0701, DBR4*0101, DPB1*0401)、SWEIG (DRB1*1101)、BOLETH (DRB1*0401, DRB4*0103)、HHKB (DRB1*1301, DRB3*0101, DPB1*0401)。HLA-DR分子は、Gorgaら, J. Biol. Chem., 1987, 262, 16087〜16094に記載されるようにして、プロテインA-セファロースCL 4Bゲル(Pharmacia)に結合したL243単形態性モノクローナル抗体(Smithら, P.N.A.S., 1982, 79, 608〜612)を用いるアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。HLA-DP4分子は、同じプロトコルに従って、B7/21単形態性抗体(Watsonら, Nature, 1983, 304, 358〜361)を用いて精製する。簡単に、細胞(5×108細胞/ml)を、氷上で、1% Nonidet P40、10 mg/lアプロチニン、5 mM EDTA及び10μM PMSFを含有する150 nM NaCl、10 mM Tris HCl、pH = 8.3のバッファー中で溶解させる。100000 gで1時間の遠心分離の後に、上清をセファロース4Bカラム及びプロテインA-セファロース4Bカラムに載せ、次いで特異的アフィニティカラムに載せる。HLA II分子は、1.1 mM n-ドデシル-β-D-マルトシド(DM)、500 mM NaCl及び500 mM Na2CO3, pH = 11.5のバッファーで溶出される。フラクションを、2M Tris HClバッファー、pH = 6.8で直ちにpH = 7に中和し、1 mM DM、150 mM NaCl、10 mM、pH = 7のバッファーに対して長時間透析する。
【0086】
c) トレーサペプチドの合成
結合アッセイにおいて用いられるトレーサペプチドは、以下のものである。:HA 306-318 (PKYVKQNTLKLAT、配列番号23)、A3 152-166 (EAEQLRAYLDGTGVE、配列番号24)、MT 2-16 (AKTIAYDEEARRGLE、配列番号25)、YKL(AAYAAAKAAALAA、配列番号26)、B1 21-36 (TERVRLVTRHIYNREE、配列番号27)、LOL 191-210 (ESWGAVWRIDTPDKLTGPFT、配列番号28)、E2/E168 (AGDLLAIETDKATI、配列番号29)及びOxy 271-287 (EKKYFAATQFEPLAARL、配列番号30)。ペプチドは、固相上でのパラレル合成によるFmocストラテジに従って合成し、ビオチン-6-アミノカプロン酸(Fluka Chimie)を用いて末端NH2残基にてTexierら, J. Immunol., 2000, 164, 3177〜3184に記載されるプロトコルに従ってビオチン標識し、トリフルオロ酢酸(95%)を用いて樹脂から切断して、C18カラム(VydacTM)での逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製する。
【0087】
d) HLA II/ペプチド結合アッセイ
HLA II分子は、所定のpHにて適切なビオチン標識ペプチド(トレーサペプチド)、及び競合ペプチドの連続希釈(試験されるペプチド)の存在下で、150 mM NaCl、1 mMドデシルマルトシド(DM)、10 mMクエン酸及び0.003%チメロサールを含有する10 mMリン酸バッファー中で希釈する。つまり、HA 306-318ペプチドを、1 nM及び30 nMでpH = 6にて、それぞれDRB1*0101及びDRB1*0401対立遺伝子について用い、20 nMでpH = 5にて、DRB1*1101対立遺伝子について用いる。YKLは、20 nMでpH = 5にて、DRB1*0701対立遺伝子について用いる。インキュベーションは、DRB1*1501、DRB1*1301及びDRB1*0301対立遺伝子について、pH = 4.5にて、それぞれA3 152-166 (10 mM)、B1 21-36 (200 nM)及びMT 2-16 (200 nM)の存在下で行う。オキシビオチン標識ペプチドは、pH = 5 (10 nM)にて、DPB1*0401及びDPB1*0402対立遺伝子について用いる。
【0088】
反応混合物(ウェル当たり100μl)を、ポリプロピレン96ウェルプレート(NUNC)中で、37℃にて24時間(DRB1*1301及びDRB1*0301対立遺伝子については72時間のインキュベーション)インキュベートする。インキュベーションの最後に、サンプルを、50μlの0.003%チメロサール、0.3% BSA及び1 mM DMを含有する450 mM Tris HClバッファー、pH 7.5で中和する。次いで、サンプルを、抗体L243又はB7/21 L243 (10μg/ml)で予めコートし、そして0.3% BSA及び0.003%チメロサールを含有する100 mM Tris HClバッファー、pH = 7.5で飽和させたMaxisorpTM ELISAプレート(96ウェル、NUNC)に移す。これらのプレート上でのサンプルのインキュベーションは、周囲温度にて2時間行う。0.05% Tween-20含有0.1M Tris HClバッファー、pH 7.5での洗浄を、各工程の間に行う。HLA II分子に結合したビオチン標識ペプチドは、0.15M NaCl、0.05% Tween 20、0.2% BSA及び0.003%チメロサールを含有する10 mM Trisバッファー、pH 7で1/2000に希釈したストレプトアビジン-アルカリホスファターゼコンジュゲートを100μL/ウェルで加え(45分間、Amersham)、次いで、1 mM MgCl2含有0.05M NaHCO3バッファー、pH 9.8中で100μMの濃度の基質4-メチルウンベリフェリルホスフェート(MUP, SIGMA)を200μL/ウェルで加えることにより検出する。酵素反応の生成物による蛍光を、96ウェルプレート用の蛍光計(Dynex)を用いて、365 nmでの励起の後に450 nmで測定する。
【0089】
最大の結合は、競合ペプチドの非存在下で、ビオチン標識トレーサペプチドをHLA II分子とインキュベートすることにより決定される。結合特異性は、非ビオチン標識ペプチドの過剰量の添加により制御される。得られるバックグラウンドノイズは、HLA II分子なしでビオチン標識ペプチドをインキュベートすることにより得られるものと大きくは変わらない。結果は、ビオチン標識トレーサペプチドの最大結合の50%を阻害する競合ペプチドの濃度(IC50)の形で表す。平均及び標準偏差は、少なくとも3回の独立した実験から算出する。各実験の有効性は、トレーサペプチドを用いて決定される。トレーサペプチドのIC50値は、3未満の係数で変動する。IC50値が1000 mM未満のペプチドは、対応するHLA II分子への親和性が良好であるとみなす。
【0090】
2) 結果
EBNA1、LMP1及びLMP2抗原の配列の分析により、いくつかのHLA-DR分子のモチーフを含んでいると考えられる15〜31アミノ酸の24個のペプチド配列を同定することが可能になった。これらの24個のペプチドのうち、22個はf-moc化学により、HPLCによる純度が90%程度で合成できた。9つのペプチドはEBNA1に由来し、7つはLMP1に、そして6つはLPM2に由来する。それぞれEBNA1、LMP1及びLMP2についてのアクセッション番号NP_039875、CAA26023及びAAA45886を有する配列に由来するペプチド配列は、添付の配列表及び表IIに示す。
【0091】
【表2】

【0092】
白人個体群において優勢な12個のHLA II分子(HLA-DR1、-DR3、-DR4、-DR7、-DR11、-DR13、-DR15、-DRB3、-DRB4、-DRB5、DP401及び-DP402;表III)についてのペプチドの結合活性は、6つのペプチドが良好な親和性で少なくとも7つの異なるHLA II分子:G17F (LMP2)、N26E (EBNA1)、V21V (LMP2)、K26L(EBNA1)、P24G (EBNA1)、I16L (LMP1)に結合することを示す。
【0093】
【表3】

【0094】
試験した12個のHLA II対立遺伝子のそれぞれの対立遺伝子頻度を考慮すると、これらの6つのペプチドを含む混合物は、白人個体群のうち90%より多くに認識され得る。
【0095】
実施例2:HLA II分子についてトランスジェニックなマウスにおけるインビボでのペプチドの免疫原性
実施例1で定義されるようなHLA II分子について良好な親和性を有するペプチドの、免疫応答を誘導する能力を、HLA-DR1分子についてトランスジェニックなマウス(Aβ°/DR1トランスジェニックマウス;Pancreら, Clinical and Experimental Immunology, 2002; 129: 429〜437)でのインビトロ増殖アッセイにより評価した。
【0096】
1) 材料及び方法
6週齢のトランスジェニックマウスの第1群は、Montamide (登録商標) Isa 720 (Seppic)中で乳化した実施例1で決定したペプチド混合物(各ペプチド20μg、すなわち合計120μg)の第1の皮下注射と、その後、2週間の間隔で、Montamide (登録商標) Isa 720で乳化した半分の用量のペプチド混合物(各ペプチド10μg、合計60μg)の2回のブースター注射で免疫した。コントロール群は、同じプロトコルに従ってMontamide (登録商標) Isa 720の注射のみを受けた。最後の注射の7日後に、動物を犠牲にし、脾臓及びリンパ節を回収した。脾臓細胞又はリンパ節細胞(5×105/ウェル、96ウェルマイクロタイタープレート(Falcon (登録商標)、3重)を、抗原の非存在下(ネガティブコントロール)、又はLPSの範囲(Sigma (登録商標)、10 mg及び1 mg)若しくはコンカナバリンAの範囲(Sigma (登録商標)、10 mg及び1 mg) (ポジティブコントロール、48時間培養)の存在下、又はペプチド混合物の濃度の範囲(合計60μg、30μg、15μg、7.5μg) (5日培養)の存在下のいずれかで培養に付した。培養後、トリチウム化チミジン((3H)チミジン) (1 mCi/ウェル、49.0 Ci/mmol、Amersham)を加え、ガラス繊維フィルタ(Wallac)を通して吸引により、6時間後に細胞を回収した。取り込まれたチミジンを、β-シンチレーションカウンタ(1450 Trilux, Wallac)を用いて測定した。結果を、増殖指数として表した(抗原存在下での1分当たりのカウント数(CPM)/抗原の非存在下でのCPM数)。
【0097】
2) 結果
図1及び2に示す結果は、HLA II分子結合アッセイにより選択されたペプチドが、免疫された個体において強いEBV-特異的CD4+応答を誘導できることを示す。ペプチド混合物でインビトロにて再刺激した後に、免疫された動物から抽出した脾臓及びリンパ節のリンパ球の増殖応答がある。一方、この増殖は、免疫していないコントロール動物では観察されない(図1及び2)。これらの結果は、選択されたペプチドが、EBV感染に関連する病変の予防及び治療のための免疫原性組成物において用い得ることを示す。
【0098】
実施例3:EBVに対して血清反応陽性の正常な個体におけるインビトロでのペプチドの免疫原性
1) 材料及び方法
a) ドナー及びHLA型決定
EBVについて血清反応陽性でかつ種々のHLA IIハプロタイプを有する12人の正常な有志のドナーから血液を採取した。
【0099】
【表4】

【0100】
b) ペプチド混合物又は個別に試験したペプチドに対するTリンパ球の増殖応答
ドナーからの血液単核細胞(PBMC)を、通常のフィコール勾配法により分離した。PBMC (5×105細胞/ウェル、96ウェルプレート)を、無血清培地(AIM V、GibcoTM)中で、ペプチド混合物の存在下(合計60μg/ml、すなわち各ペプチド10μg/mL)又は非存在下で4〜6日間培養した。増殖応答は、(3H)チミジン(1 mCi/ウェル, 49.0 Ci/mmol, Amersham)の取り込みにより測定した。結果を、刺激指数として表す(刺激したTリンパ球の1分当たりのカウント/刺激していないTリンパ球の1分当たりのカウントの平均)。刺激したTリンパ球に相当するウェルを個別に分析し、1分当たりのカウント数が1000より大きく、刺激指数が3より大きいときに(ペプチド混合物の存在下での1分当たりのカウント数がペプチドの非存在下で観察されるもの(バックグラウンドノイズ)よりも3倍より大きい)、陽性であるとみなした。ペプチドは、6人のドナーにおいて(ドナー1、3、5、6、9及び10)個別に試験もした。このことを行うために、濃度の範囲(2.5、5、10及び20μg)を、各ペプチドについて3重で試験した。応答は、3重に試験したものの刺激指数の平均が2より大きく、かつ1つのウェルが3より大きい刺激指数を有する場合に陽性であるとみなした。
【0101】
c) サイトカイン検出
ドナーからのこれらのPBMC (1×106細胞/ウェル、24ウェルプレート)を、10%のグループABヒト血清を補ったAIM V培地(GibcoTM)又はRPMI 1640培地(GibcoTM)で、ペプチド混合物の存在下(60μg/mL)又は非存在下で、2又は5日間培養した。培養上清中に存在するIL-2、IL-4、IL-10及びIFN-γは、標準的なプロトコルに従って、これらのサイトカインのそれぞれに指向された抗体(BD PharMingen)を用いるサンドイッチELISAによりアッセイした。492 nmでの吸光度を、分光光度計(Multiskan RC, Labsystems)を用いて測定した。示す結果は、2つのウェルで得られた平均に相当する。
【0102】
2) 結果
a) ペプチド混合物により誘導されるEBV-特異的CD4+ T応答
ペプチド混合物がヒトCD4+ Tリンパ球により認識されるか否かを決定するために、EBVについて血清反応陽性で、種々のHLAハプロタイプを有する(表III)正常な有志のドナー由来の血液単核細胞を、ペプチド混合物でインビトロにおいて刺激した。まず、記憶Tリンパ球応答の存在の確立を可能にするTリンパ球の増殖応答を、ペプチド混合物の存在下で4〜6日間培養したあとの(3H)チミジンの取り込みを測定することにより評価した。増殖応答は、11人のドナーで評価可能であった(図3)。ドナー毎に増殖のレベルは変動するが、全てのドナーは増殖応答を示す。これらの結果は、試験したドナーの全てにおいて、ペプチド混合物を認識できる記憶Tリンパ球の存在を示す。これらの結果は、混合物が、EBV感染の間に天然に提示されるペプチドを含むことも示す。
【0103】
別々に試験したペプチドのそれぞれに対する応答を評価した(表V)。結果は、選択した混合物中の6つのペプチドのそれぞれの利点を確かにする。
【0104】
【表5】

【0105】
ペプチド混合物でPBMCを刺激した後の培養培地へのサイトカインの分泌も、ELISAにより試験した(表VI)。
【0106】
【表6】

【0107】
IFN-γの著しい分泌を、12人のドナーのうち7人で示すことができた。IL-10の分泌も、12人のドナーのうち4人で見られた。IL-4又はIL-2の著しい産生は、ELISAではみられなかった。これに対して、ペプチド混合物の非存在下でのコントロールは、1つの場合を除いて(*:IFN-γが126 pg/mlでみられた)陰性であった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】HLA-DR1トランスジェニックマウスモデルにおける、白人個体群において優勢な12のHLA II分子に<1000 nMの親和性で結合しているEBV I型及びII型の潜伏期抗原に由来する6つのペプチドの混合物の免疫原性を示す。
【図2】HLA-DR1トランスジェニックマウスモデルにおける、白人個体群において優勢な12のHLA II分子に<1000 nMの親和性で結合しているEBV I型及びII型の潜伏期抗原に由来する6つのペプチドの混合物の免疫原性を示す。
【図3】ペプチド混合物でインビトロ刺激した後の、EBVに対して血清反応陽性な種々のHLA IIハプロタイプの正常なドナー由来のTリンパ球の増殖応答を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4分子から選択される少なくとも7つの異なるHLA II分子により提示され得るEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原のうちの1つの少なくとも1つのCD4+ Tエピトープを含み、
a) EBNA1の位置475〜500、514〜539、及び529〜552にわたる配列であるそれぞれ26、26及び24アミノ酸のペプチド;
b) LMP1の位置68〜83にわたる配列である16アミノ酸のペプチド;
c) LMP2の位置224〜244及び372〜388にわたる配列であるそれぞれ21及び17アミノ酸のペプチド;
d) a)、b)及びc)で定義されるペプチドと同じ長さでかつ同じ位置により定義される変異形であって、a)、b)及びc)で定義される前記ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸配列を別のアミノ酸で置換することにより得られ、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4から選択される少なくとも7つの異なるHLA II分子に関して1000 nMより低い結合活性を示す変異形
からなる群より選択されることを特徴とする、エプスタイン−バーウイルス(EBV)の免疫原性ペプチド。
【請求項2】
前記HLA-II分子が、対立遺伝子DRB1*0101 (HLA-DR1分子)、DRB1*0301 (HLA-DR3分子)、DRB1*0401 (HLA-DR4分子)、DRB1*0701 (HLA-DR7分子)、DRB1*1101 (HLA-DR11分子)、DRB1*1301 (HLA-DR13分子)、DRB1*1501 (HLA-DR15分子)、DRB3*0101 (HLA-DRB3分子)、DRB5*0101 (HLA-DRB5分子)、DP*0401又はDP*0402 (HLA-DP4分子)によりそれぞれコードされるβ鎖を含むことを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号4、5、6、11、20及び21の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドの配列を有する少なくとも1つのCD4+ Tエピトープを含む2つの同一又は異なるエピトープを含むことを特徴とするポリエピトープフラグメント。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドの配列を有するCD4+ Tエピトープと、
- EBV抗原のCD8+ Tエピトープ、
- EBV抗原のBエピトープ、及び
- 天然又は合成のユニバーサルCD4+ Tエピトープ、例えばTTペプチド830-846、PADRE、HIV-1 Nefタンパク質のペプチド45〜69、並びにCS.T3、CSP、SSP2、LSA-1及びEXP-1ペプチド
からなる群より選択される少なくとも1つのその他のエピトープとを含むことを特徴とする請求項4に記載のポリエピトープフラグメント。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド、又は請求項4若しくは5に記載のポリエピトープフラグメントに融合されたタンパク質又はタンパク質フラグメントからなることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項7】
前記タンパク質又は前記タンパク質フラグメントが、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4分子から選択されるHLA II分子のα鎖若しくはβ鎖、又は可溶性HLA II分子に相当する前記鎖のフラグメントからなる群より選択されることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項4若しくは5に記載のポリエピトープフラグメントのα-アミノ官能基又は側鎖の反応性官能基に脂質を付加することにより得られることを特徴とするリポペプチド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のペプチド、ポリエピトープフラグメント又は融合タンパク質をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを、転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列の制御下に含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチド又は請求項10に記載の発現ベクターで改変されたことを特徴とする宿主細胞。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、少なくとも1つのリポペプチド、又は少なくとも1つの発現ベクターと、医薬的に許容される担体及び/又は担体物質及び/又はアジュバントとを含むことを特徴とする免疫原性の又はワクチン用の組成物。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のEBVペプチドの少なくとも2つ、好ましくは3〜5つのペプチド、好ましくは請求項3に記載の6つのペプチドを、ペプチド混合物の形で、又は請求項8で定義されるリポペプチドの形で、請求項4若しくは5に記載の前記ペプチドを含むポリエピトープフラグメントの形で、又は請求項10に記載の前記ペプチド若しくは前記フラグメントをコードする発現ベクターの形で含むことを特徴とする請求項12に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
請求項5で定義されるEBV CD8+ Tエピトープ、EBV Bエピトープ及びユニバーサルCD4+ Tエピトープからなる群より選択されるエピトープを含む少なくとも1つのペプチドも含むことを特徴とする請求項13に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
EBV感染又は関連する腫瘍性病変の予防及び/又は治療のためのワクチンとしての請求項1〜5、8及び10のいずれか1項に記載のペプチド、ポリエピトープフラグメント、リポペプチド又はベクター。
【請求項16】
請求項1〜5、8及び10のいずれか1項に記載のペプチド、ポリエピトープフラグメント、リポペプチド又はベクターの、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の予防及び/又は治療用のワクチンの製造のための使用。
【請求項17】
任意に標識されているか又は複合体化されている、特に標識されたHLA II分子と複合体化されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドを、マルチマー複合体の形で含むことを特徴とする、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の診断用試薬。
【請求項18】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドの、EBV感染又は関連する腫瘍性病変の診断用試薬の製造のための使用。
【請求項19】
- 個体からの生体サンプルを、請求項17に記載の診断用試薬と接触させ、
- EBVのEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原の1つに特異的なCD4+ T細胞を検出する
ことを含むことを特徴とする、EBV感染又は関連する腫瘍性病変を診断する方法。
【請求項20】
少なくとも次の工程:
- 細胞サンプルを、可溶性HLA II分子と請求項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドとの結合により形成された標識されているマルチマー複合体と接触させ、
- 前記HLA II/ペプチド複合体に結合した細胞を弁別する
を含むことを特徴とする、EBVのEBNA1、LMP1又はLMP2潜伏期抗原の1つに特異的なCD4+ T細胞を弁別する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−529486(P2008−529486A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553650(P2007−553650)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000229
【国際公開番号】WO2006/082313
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(507265465)ユニベルシテ ド リル 2 (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE 2
【住所又は居所原語表記】42 Rue Paul Duez,F−59800 Lille,FRANCE
【Fターム(参考)】