説明

白色複合粉体及びそれを配合した化粧料

【課題】二酸化チタンの有する適度な隠蔽性を保持したまま、反射光の強度に角度依存性が少なく、見る角度に因らずきれいな白色を呈することができ、且つ凝集力の低い白色複合粉体、並びにこれを配合した化粧料を提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、アスペクト比(平均粒子径/平均厚み)が15〜50のα−アルミナ板状粒子を母体とし、その表面に二酸化チタンを30〜50質量%(白色複合粉体に対し)固着してなる真珠光沢を有しない白色複合粉体である。また、この真珠光沢を有しない白色複合粉体を配合した化粧料、特にメイクアップ化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アルミナ板状粒子表面に二酸化チタン粒子を固着させた真珠光沢を有しない新規な白色複合粉体、及びこの新規な白色複合粉体を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化チタンは、その屈折率の高さから白色顔料として、様々な産業分野で用いられている。二酸化チタンは、その粒子径や結晶形によって隠蔽性や白度が異なり、250nm程度の平均粒子径を有するいわゆる顔料級酸化チタンは特に高い隠蔽性を有し、また10〜40nm程度のいわゆる微粒子酸化チタンは高い紫外線防御効果を有する。これらの顔料級二酸化チタン及び微粒子酸化チタンは、一般的に、正反射方向の反射率が他の角度よりも高く、反射光の強さが見る角度(受光角)によって異なるという角度依存性がある。すなわち、二酸化チタンを樹脂に分散し塗膜とした場合など、正面から見た場合に光沢が強い半面、斜め方向では光沢を感じ難く塗膜の質感をコントロールすることが難しいという欠点がある。そのため、適度な隠蔽性を有したまま、反射光の強度に角度依存性が少なく、見る角度に因らずきれいな白色を呈することが可能な白色顔料の開発が望まれている。また、一般に顔料級酸化チタンは凝集力が高いため、様々な表面処理や分散技術を施すことが必要になり、そのため凝集力の低い白色顔料の開発が望まれている。
【0003】
二酸化チタン粒子は、単独で使用するほか、母体となる粒子の表面に付着させて使用することも行われている。例えば、雲母を二酸化チタン粒子で被覆した雲母チタン顔料が古くから知られている(特許文献1)。この雲母チタン顔料は平滑であるという基質の形状に由来する滑沢性の良さ、基質と被覆層との光学的性質に起因する真珠光沢を有するという特徴があり、この特徴を利用して塗料、化粧品を始めとする多くの産業分野で用いられている。しかし、この雲母チタンに代表される二酸化チタン複合粉体においても、上述の角度依存性が大きく、例えばファンデーションに雲母チタンを多量に含有させると不自然なツヤ、テカリを感じるものとなり好ましくない。
【0004】
一方、けばけばしさをなくし自然らしさを出すための真珠光沢を有しない雲母チタン顔料及びこれを配合したメイクアップ化粧料が提案されている(特許文献2)が、このものは母体粉体の雲母の物性、形状からして上述の角度依存性の減少は期待できない。また、二酸化チタンを被覆する母体の粒子にα−アルミナからなる板状粒子を用い、これに厚みが10〜500nmであるチタニア層を均一に被覆してなる真珠状光沢など干渉色を有するアルミナチタン系顔料が提案されている(特許文献3)が、このものも上述の角度依存性が大きい問題点がある。
【特許文献1】特公昭43−25644号公報
【特許文献2】特許第2559037号公報
【特許文献3】特許第3633710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、二酸化チタンの有する適度な隠蔽性を保持したまま、反射光の強度に角度依存性が少なく、見る角度に因らずきれいな白色を呈することができ、且つ凝集力の低い白色複合粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定の粒子径、厚み及びアスペクト比を有するα−アルミナ板状粒子の表面に、特定量の二酸化チタンを真珠光沢を有しないように固着することにより、適度な隠蔽性を有する上に、見る角度に因らずきれいな白色を呈する複合粉体が得られること、またこの複合粉体は高い滑沢性を有し、凝集力が低いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、アスペクト比(平均粒子径/平均厚み)が15〜50のα−アルミナ板状粒子を母体とし、その表面に二酸化チタンを30〜50質量%(白色複合粉体に対し)固着してなる真珠光沢を有しない白色複合粉体である。また、本発明は、この真珠光沢を有しない白色複合粉体を配合した化粧料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の白色複合粉体は、適度な隠蔽性を有し、反射光の強度に角度依存性が少ない、すなわち見る角度に因らずテカリや不自然なツヤがないきれいな白色を呈するものである。更には滑沢性に優れ、凝集力が低い白色複合粉体である。また、この白色複合粉体を配合した化粧料はカメラのフラッシュや強い太陽光によるいわゆる白浮きが少なく、見る角度に因らないきれいな白色を呈する。またこの白色複合粉体を配合した化粧料は、均一性が高い化粧膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の白色複合粉体は、母体としてα−アルミナからなる板状粒子を用いる。このα−アルミナ板状粒子は、平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、且つアスペクト比(平均粒子径/平均厚み)が15〜50である。好ましくは、平均粒子径が1.5〜2.5μmであり、且つ平均厚みが0.05〜0.10μm、アスペクト比が15〜35のα−アルミナ板状粒子である。なお、本明細書中において、粒子の平均粒子径、又は粒子の平均厚みは、該粒子群を走査型電子顕微鏡観察により任意の10個の粒子を選定し、その長径と短径及び厚みを測定し、粒子径は(長径+短径)/2での10個の算術平均、厚みはその10個の算術平均とした。
【0010】
本発明の白色複合粉体において、母体として用いるα−アルミナ板状粒子の平均粒子径が0.5μm未満のときは、白色複合粉体とした場合に滑沢性に乏しく好ましくない。そして、これらの白色複合粉体を化粧料に配合した場合には、使用時の滑らかさに欠けることがある。また、α−アルミナ板状粒子の平均粒子径が20μmを超えたときは、正反射方向の反射率が上昇し、すなわち反射光の強度の角度依存性が大きくなり、不自然なツヤや光沢が強くなることから好ましくないばかりか、ざらつきが生じ化粧料等に配合する場合に好ましくない。
【0011】
また、α−アルミナ板状粒子の平均厚みが0.03μm未満のときは、母体の強度が低下することから、本発明の白色複合粉体を化粧料に配合する際に、機械力等によって粒子の破壊が生じ、粒子の均一性が損なわれることがある。このため、化粧膜の均一性が損なわれたり、ざらつきを生じることがあり好ましくない。更に、光の散乱性が減少することから正反射方向の反射率が高くなり化粧膜としたときに見る角度によって白度が異なるといった角度依存性が生じる場合もあり好ましくない。また、平均厚みが0.35μmを超えたときは、滑沢性に乏しく塗膜とした場合の塗膜の平滑性が失われる。
【0012】
また、アスペクト比が50を超える場合は、母体の強度が低下することから様々な産業において本発明の白色複合粉体を配合する際に、機械力等によって粒子の破壊が生じ、粒子の均一性が損なわれることから、塗膜とした場合の膜の均一性が損なわれたり、ざらつきを生じることがあり好ましくない。また、隠蔽力が低下することや正反射方向の反射率が高くなり、本発明の目的とする顔料が得られない。アスペクト比が15未満の場合には、隠蔽力が高くなりすぎ適度な隠蔽力が失われ、滑沢性に乏しく塗膜とした場合の塗膜の平滑性が失われる。
【0013】
本発明に用いられるα−アルミナ板状粒子は、既知のアルミナの製造方法によって製造することができる。代表的な製造方法として、アンモニウム明ばんの熱分解法、有機金属の加水分解法、エチレンクロルヒドリン法、アルミニウムの中火花放電法、アンモニウムアルミニウム炭酸塩(AACH)熱分解法、改良バイヤー法、気相酸化法等があり、工業的に大量に製造する方法としてはバイヤー法が最も一般的である。本発明では、上述の平均粒子径、平均厚み、アスペクト比の範囲内のα−アルミナ板状粒子が用いられるが、一般に上記の各種製法によって得られたアルミナ粒子は微細粒子であるものの、粒状や不定形になりやすい。アルミナの粒子径の制御、アスペクト比を高めるための厚みの制御、アルミナの純度、アルミナ表面の平滑性等を考慮した場合、特許第3759208号公報に記載の製造方法、すなわち、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物に少なくともリン酸イオンを含む結晶抑制剤を添加して、昇温速度が5〜0.3℃/分の範囲内で、温度350℃以上、圧力50〜200気圧の範囲で水熱合成して、α−アルミナの単結晶で六角板状形の結晶構造を有するアルミナ粒子を製造する方法が好ましい。
【0014】
本発明の白色複合粉体では、母体のα−アルミナ板状粒子の表面に二酸化チタンを固着させる。この固着させる二酸化チタンの量は、白色複合粉体の30〜50質量%である。固着量が30質量%未満の場合は、隠蔽力が不足し、本発明の目的を達することが出来ない。固着量が50質量%を超える場合には、母体の表面積との関係から均一に固着することが難しくなる。また、α−アルミナ板状粒子の表面に二酸化チタンを析出により固着させる場合は、固着量が50質量%を超えると、余剰の二酸化チタンが結晶として析出したり、複合粉体表面に多重層として二酸化チタンの結晶が固着される場合が多くなる。そのような場合には、隠蔽力や光学特性は有するものの、化粧塗膜としたときの均一性に欠け、ざらつきを生じる、更には凝集力が強くなる等の欠点がある。
【0015】
本発明では、母体のα−アルミナ板状粒子の表面に二酸化チタンを真珠光沢を有しないように固着させる。本発明によると、平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、且つアスペクト比が15〜50であるα−アルミナ板状粒子という特定の板状粒子を母粉体とし、その表面に、上記した特定量の二酸化チタンを真珠光沢を有させなく固着させることによって、隠蔽性に優れ、反射光の角度依存性がない、凝集力が小さい白色複合粉体が得られる。
【0016】
本発明の白色複合粉体は、隠蔽力に関して、該白色複合粉体をラッカーに10質量%濃度にて均一分散し、該分散液を白板及び黒板上にそれぞれ50μmのドクターブレードで塗布・乾燥して標品とし、それぞれのY値(CIE標準表色系の光の明るさを示す値)を色差計で測定したとき、Y値(黒板上)/Y値(白板上)の比が0.5〜0.8の白色複合粉体であるものが好ましい。
【0017】
また、本発明の白色複合粉体は、反射光の角度依存性について、該白色複合粉体をブラシで半透明粘着テープの粘着面に塗布し、D65光源、入射角45°にて黒板を背景に用いて変角分光光度計で測色したときの分光反射率が、受光角-75°〜75°の範囲内のいずれの角度においても正反射における分光反射率の70%以上である白色複合粉体であるものが好ましい。
【0018】
本発明の真珠光沢を有しない白色複合粉体とは、α−アルミナ板状粒子の表面に二酸化チタンを固着させた複合粉体が真珠光沢を有しないことを意味する。真珠光沢は、光を一定方向に反射し、虹のようないろいろな色を発する特性を指す。白色複合粉体が真珠光沢を有するか否かは、目視で容易に判断できる。そして、真珠光沢を有しなくするには、二酸化チタンを固着させた後の白色複合粉体の表面が凹凸を形成するようにすることで達成できる。例えば、二酸化チタンの粒子を、母体のα−アルミナ板状粒子の表面に点在するように固着させて凹凸を形成してもよいし、また二酸化チタン粒子を層状に且つその層の表面が凹凸になるように固着してもよい。この二酸化チタン粒子の大きさは、例えば平均粒径0.001〜0.5μmである。母体のα−アルミナ板状粒子の表面に、二酸化チタン粒子を凹凸状に固着するには、既知の方法で行うことができる。例えば、硫酸チタニル或は四塩化チタンの加水分解で行う方法、四塩化チタンの直接酸化で行う方法、チタンアルコキシドの加水分解で行う方法がある。
【0019】
硫酸チタニルの加水分解で行う方法で、真珠光沢を有しない白色複合粉体を製造するには、大きく分けて二つの方法がある。第一の方法は、固着させるチタニア層を大きな粒としてラフに付着させる方法、具体的には比較的濃度が高い硫酸チタニル溶液を急速に加温して速やかに加水分解する方法。第二の方法は、固着させるチタニア層を小さな粒として密に付着させる方法、具体的には比較的濃度が薄い硫酸チタニル溶液を徐々に加温して緩和な条件下で加水分解する方法が挙げられる。いずれの方法においても得られた固型生成物を分離し600〜900℃の焙焼温度により焼成する。第一の方法と第二の方法とでは、白色複合粉体表面の平滑性が異なり、上記の第二の方法に記載した緩和な条件で加水分解する方法が、表面の平滑性が得られることからより好ましい。
【0020】
硫酸チタニルの加水分解で行う方法を具体的に説明する。母体のα−アルミナ板状粒子を、水に分散し、この分散液に硫酸チタニルを添加混合し、次いで沸騰するまで昇温して硫酸チタニルを加水分解し、その後濾過、乾燥する。この場合、α−アルミナ板状粒子の水分散濃度を10〜50g/L、この分散液への硫酸チタニルの添加量を100〜300g/L、沸騰するまでの昇温を0.5〜5℃/分、沸騰温度維持時間を2〜4時間にするのが好ましい。乾燥して得られた生成物を600〜900℃の焙焼温度により焼成する。
【0021】
本発明の白色複合粉体は、化粧料、塗料、インキ(トナー)、プラスチック、繊維、ゴム等の各種組成物に配合することができ白色顔料として用いることや各種フィラーとして用いることが可能である。本発明の白色複合粉体を用いた好ましい実施の形態としては、上記の光学特性に加えて、滑らかさや凝集力の少なさといった特徴から化粧料、中でも白色顔料の配合が必要なメイクアップ化粧料が特に好ましい。
【0022】
本発明の化粧料における白色複合粉体の配合量は0.1質量%〜30質量%が望ましく、特に好ましくは1質量%〜10質量%である。配合量が好ましい範囲未満の場合には白色複合粉体の光学特性や凝集力の低さといった効果が見られず、好ましい範囲を越える場合には顕著な白さが目立ち、化粧料の仕上がりとしては好ましくない。また、目的に応じて、例えば金属酸化物、金属水酸化物、フッ素化合物、シリコーン系化合物、金属石鹸、ロウ、油脂、炭化水素、樹脂等既知の物質による表面処理や、シリカやアルミナ、ジルコニア、酸化鉄等の各種無機金属もしくは金属酸化物による表面改質、更には各種分散剤と組み合わせて用いることが可能である。
【0023】
本発明の化粧料には上記必須成分の他に、通常メイクアップ化粧料に用いられる成分として、炭化水素油、エステル油、植物油、シリコーン油、シリコーン誘導体等の油性成分、無機顔料、有機顔料及び体質顔料等の粉体及びそれらのシリコーン処理物やフッ素化合物処理物、界面活性剤、水や多価アルコール、低級アルコール、水溶性高分子、保湿剤等の水性成分、糖類、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、酵素類、清涼剤、色素、香料等を本発明の効果を妨げない範囲で配合することが出来る。
【0024】
上記の油性成分について更に詳しく述べる。油性成分としては通常の化粧料に用いられる油剤であれば、特に限定されず、動物油、植物油、合成油等の起源及び、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類等の油剤が挙げられる。具体的には、パラフィンワックス、セレシンワックス、オゾケライト、マイクロクリスタリンワックス、モクロウ、モンタンワックス、フィッシャトロプスワックス、ポリエチレンワックス、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素類、カルナウバロウ、ミツロウ、ラノリンワックス、キャンデリラ等の天然物類、トリベヘン酸グリセリル、ホホバ油、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、ミリスチン酸イソプロピル、トリオクタン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル等のエステル類、オリーブ油、ひまし油、ミンク油等の油脂類、ラノリン脂肪酸イソプロピル等のラノリン誘導体類、ジメチルポリシロキサン、シリコーンワックス、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シリコーン類、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油類等が挙げられ、これらより一種又は二種以上を用いることができる。
【0025】
粉体成分としては通常の化粧料に用いられる粉体であればいずれのものでも使用することができ、球状、板状、針状等の形状、煙霧状、微粒子、顔料級等の粒径、多孔質、無孔質等の粒子構造等により特に限定されず、無機粉体類、複合粉体類等が挙げられる。具体的には、二酸化チタン、鉄ドープ酸化チタン、二酸化チタン酸化鉄焼結体、酸化セリウム、タルク、マイカ、合成マイカ、鉄含有合成マイカ、カオリン、セリサイト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、黒酸化チタン、硫酸バリウム、群青、コンジョウ、雲母チタン、酸化鉄雲母チタン等が挙げられ、これらより一種又は二種以上を用いることができる。尚、これらの粉体は、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、アルキル変性シリコーン、アクリレートシリコーン等のシリコーン化合物、パーフルオロポリエーテルリン酸やパーフルオロアルキルリン酸、弗素変性シリコーン等の弗素化合物、ラウリン酸亜鉛等の金属石鹸、レシチン、エステル油、ワックス等の通常公知の化合物で表面処理を施して用いてもよい。
【0026】
本発明の化粧料は、アイカラー、アイブロウ、ファンデーション、頬紅、白粉、下地、乳液、クリーム等粉体の配合が可能な全ての化粧料への応用が可能であるが、特に好ましい形態は、酸化チタン等白色顔料の配合が必須なメイクアップ化粧料であり、アイカラー、アイブロウ、ファンデーション、頬紅、白粉、下地等が該当する。
【0027】
本発明の化粧料の剤型は、白色顔料による色調を化粧効果とするものであれば特に限定されないが、油性化粧料、固型粉末化粧料、特に固型粉末化粧料であることが好ましい。また、本発明の化粧料の形態は、特に限定されないが、粉末状、液状、ペースト状、乳液状、クリーム状、ゲル状、固形状等の何れでもよい。
【0028】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
実施例1.
水酸化アルミニウムを出発原料とし、予めボールミル等で粉砕することにより平均粒子径1.0μmに粒度調整を行った。これと水を混合し50質量%のスラリーを作成する。このスラリー中にリン酸水溶液を水酸化アルミニウムに対してリン酸イオンとして5.0×10-3モル添加した。昇温速度0.5℃/分で600℃、150気圧で3時間保持を行った。容器冷却後、生成物を純粋で水洗、濾過を充分に行い100℃の乾燥機で12時間乾燥して、平均粒子径2.0μm、平均厚み0.08μm、アスペクト比25のα−アルミナ板状粒子を得た。
次いで、水中にこのα−アルミナ板状粒子を撹拌しながら添加し分散した。これに、室温下、硫酸チタニル水溶液を添加混合した。その後、加熱して凡そ90分を要して沸点に達し、更に4時間沸点を維持した。この後、常法により濾過、洗浄を繰返した後、得られたケーキを105℃で5時間乾燥し、更に850℃で4時間焼成し、α−アルミナ板状粒子に、二酸化チタンを40質量%(白色複合粉体に対し)固着した白色複合粉体を得た。この白色複合粉体の表面の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0029】
実施例2,
平均粒子径2.0μm、平均厚み0.04μm、アスペクト比50のα−アルミナ板状粒子に、二酸化チタンを40質量%固着した白色複合粉体を実施例1と同様に作成した。
実施例3,
平均粒子径5.0μm、平均厚み0.10μm、アスペクト比50のα−アルミナ板状粒子に二酸化チタンを30質量%固着した白色複合粉体を実施例1と同様に作成した。
【0030】
比較例1.
平均粒子径5.0μm、平均厚み0.07μm、アスペクト比71のα−アルミナ板状粒子に二酸化チタンを15質量%固着した白色複合粉体を実施例1と同様に作成した。
比較例2.
平均粒子径5.0μm、平均厚み0.07μm、アスペクト比71のα−アルミナ板状粒子に二酸化チタンを40質量%固着した白色複合粉体を実施例1と同様に作成した。
比較例3.
平均粒子径2.0μm、平均厚み0.08μmのα−アルミナ板状粒子(実施例1のα−アルミナ板状粒子)を60部と酸化チタン(平均粒子径0.25μm)40部をWonder Blender(大阪ケミカル(株)社製)にて10秒間混合した。これは、複合化していない、混合粉体である。
【0031】
<隠蔽性の評価>
上記実施例1〜3の白色複合粉体、比較例1〜2の白色複合粉体、比較例3の混合粉体、雲母チタン顔料、顔料級二酸化チタン、微粒子二酸化チタン及びα−アルミナ板状粒子について隠蔽性を調べた。
各試料1gを9gのラッカーに分散し、白板及び黒板上にそれぞれ50μmのドクターブレードで均一に塗布、乾燥して標品とし、それぞれのY値(CIE標準表色系の光の明るさを示す値)を色差計で測定し、Y値(黒板上)/Y値(白板上)の比を求め、隠蔽性を評価した。結果は表1に示した。また、下記判定基準に従って、標品を目視にて隠蔽力を判定した。その結果も併せて表1に示した。
(判定基準)
◎:隠蔽力が高い。
○:適度な隠蔽力がある。
×:隠蔽力が低い。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果に示された様に、本発明の白色複合粉体は、従来の二酸化チタンとは異なる適度な隠蔽力を有する。
【0034】
<反射光の角度依存性の評価>
上記実施例1〜3の白色複合粉体、比較例1〜2の白色複合粉体、比較例3の混合粉体、雲母チタン顔料、顔料級二酸化チタン、微粒子二酸化チタン及びα−アルミナ板状粒子について反射光の角度依存性を調べた。
ブラシを用いて各試料を半透明粘着性テープ(5cm×5cm 3M社製 No.1526)の粘着面に均一に塗布して標品とし、D65光源、入射角−45°にて黒板を背景に用いて変角分光光度計(GSP−1B型 村上色技研 製)で測定し、5°おき毎の反射率を測定した。そして、0°の反射率と45°の反射率を表2に示した。また、本標品の分光反射特性を図2に示した。なお、図2の空白部は、受光部と光源が重なるため測定不能の部分である。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から、本発明の白色複合粉体は、45°すなわち正反射方向の反射率が、従来の二酸化チタンよりも低く、0°の反射率との対比(0°/45°の値)の結果から、見る角度によってツヤや光沢が大きく変化しない白色を示すことが分かる。また図2から受光角45°の正反射方向に大きなピークを持たない特徴があることから、ツヤや光沢が抑えられていることが分かる。
【0037】
<粉体の凝集力の評価>
実施例1の白色複合粉体、比較例3の混合粉体、比較例3の混合比率を変えた混合粉体(サンプル1)、顔料級二酸化チタン(サンプル2)及び板状アルミナ(サンプル3)について、粉体の凝集力を隠蔽率を用いて評価した。
それぞれの試料2gを、化粧品用丸金皿(直径32mm 深さ3mm)にとり、200Kg/cm2(2秒間)のプレス圧にて固形状に成型し、プレス状態にしたものを隠蔽率の測定に供した。すなわち、このプレス状態のものから化粧用ブラシを用いて各試料を刷き取り、半透明粘着テープ(5cm×5cm 3M社製 No.1526)の粘着面に約0.1g均一塗布した。一方、上記のそれぞれの試料をそのままパウダー状態の隠蔽率の測定に供した。すなわち、各試料をパウダー状態で半透明粘着テープ(5cm×5cm 3M社製 No.1526)の粘着面に約0.1g化粧品用ブラシにて均一に塗布した。
【0038】
そして、均一塗布後、余分な粉体は除去し、塗布体を隠蔽性試験紙の白黒それぞれを背面とし、分光色差計(SZ−Σ90 日本電色工業(株)社製)にて測色を行い、L値(白色景)とL値(黒色景)の差ΔLを求めた。半透明粘着テープのみのΔLBL(ブランク)と、各粉体試料を塗布後のテープのΔLSAMPLEとの比ΔLSAMPLE/ΔLBLを透過率とした。そして、〔(1−透過率)×100〕を隠蔽率とした。各試料について、プレス状態にしたものの隠蔽率の測定結果とパウダー状態のままでの隠蔽率の測定結果を表3に示した。パウダー状態の隠蔽率とプレス状態での隠蔽率の差が大きい試料ほどプレスによる粉体の凝集力が強いと判定した。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例1の白色複合粉体は、顔料級二酸化チタン(サンプル2)に比べてはるかにプレスによる粉体凝集が少ない。また、α−アルミナ板状粒子と二酸化チタン粒子の比率が同じである実施例1の白色複合粉体と比較例3の混合粉体とを対比しても、比較例3の混合粉体は、実施例1の白色複合粉体に比べて凝集力が高いものであった。
【0041】
表1、表2、表3及び図2から明らかなように、実施例1〜3の白色複合粉体は適度な隠蔽力と角度による反射光強度の角度依存性が少ない白色複合粉体であった。特に実施例1の白色複合粉体は反射光強度の角度依存性が極めて少なく最も好ましい例である。図1に見られるように本発明の実施例1の白色複合粉体は、母体であるα−アルミナ板状粒子の表面に二酸化チタンが固着されており、二酸化チタンの結晶が析出してその表面が凹凸になっている。また、実施例1〜3の白色複合粉体は、従来の二酸化チタンと比較して滑沢性に優れ、凝集力も低いものであった。これに対して、比較例1の白色複合粉体は反射光の角度依存性は少ないものの隠蔽力に欠けた。比較例2は適度の隠蔽力はあるものの、正反射方向の反射率が0°方向よりも高くて、反射光の角度依存性が大きい。比較例3のものは、隠蔽力や角度依存性においては本発明の白色複合粉体と類似の特徴を有しているが、滑沢性の高さや凝集力の低さにおいては、本発明の白色複合粉体には及ばないものであった。
【0042】
実施例4:パウダーファンデーション
(成分) (%)
1.タルク 残量
2.セリサイト 20
3.フッ素金雲母 30
4.二酸化チタン 5
5.二酸化チタン・酸化鉄焼結物 3
6.酸化亜鉛 2
7.板状硫酸バリウム 2
8.(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)
クロスポリマー*5 3
9.ナイロン粉末 2
10.ベンガラ 0.3
11.黄酸化鉄 1
12.黒酸化鉄 0.2
13.実施例1記載の白色複合粉体 10
14.スクワラン 5
15.メチルフェニルポリシロキサン*6 3
16.パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル 3
17.重質流動イソパラフィン 2
18.コハク酸ジオクチル 2
*5 KSP−100 信越化学工業株式会社製
*6 シリコンKF−54 信越化学工業株式会社製
【0043】
(製法)
A:成分1〜13を混合分散する。
B:〔A〕に、混合溶解した成分14〜18を添加し、混合分散する。
C:〔B〕を金皿にプレス成型し固型粉末状パウダーファンデーションを得た。
本発明の実施品である実施例4のパウダーファンデーションは、見る角度に因らないきれいな化粧膜及び粉体凝集が少ない均一な化粧膜を形成し、滑らかな使用感を有する優れた化粧料であった。
【0044】
実施例5:フェイスパウダー
(成分) (%)
1.タルク 残量
2.セリサイト 10
3.フッ素金雲母 50
4.フッ素金雲母鉄 10
5.実施例2の白色複合粉体 1
6.(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン
/シルセスキオキサン)クロスポリマー 5
7.無水ケイ酸(球状) 2
8.赤色202号 0.3
9.群青 0.2
10.ベンガラ被覆雲母チタン 5
11.酸化チタン被覆ガラス末 5
12.防腐剤 適量
13.トリメリト酸トリデシル 1
14.ペンタフェニルトリメチルトリシロキサン 3
15.(ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)
クロスポリマー 0.5
16.トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 1
【0045】
(製法)
A:成分1〜12を混合分散する。
B:〔A〕に、均一混合した成分13〜16を添加し、混合分散する。
C:〔B〕を容器に充填しし粉末状フェイスパウダーを得た。
本発明の実施品である実施例5のフェイスパウダーは、見る角度に因らないきれいな化粧膜及び粉体凝集が少ない均一な化粧膜を形成し、滑らかな使用感を有する優れた化粧料であった。
【0046】
実施例6:油性アイカラー
(成分) (%)
1.実施例3記載の白色複合粉体 5
2.フッ素四ケイ素雲母 20
3.球状ポリメタクリル酸メチル粉末 5
4.無水ケイ酸(球状) 2
5.黄酸化鉄 1.5
6.群青 1.5
7.黒酸化鉄 0.2
8.雲母チタン 12
9.防腐剤 適量
10.トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 残量
11.ペンタフェニルトリメチルトリシロキサン 10
12.パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル 3
13.ジメチルポリシロキサン 3
14.セレシンワックス 4
15.ポリエチレンワックス 5
16.マイクロクリスタリンワックス 3
【0047】
(製法)
A:成分10〜16を85℃に加熱し混合溶解する。
B:〔A〕に、成分1〜9を添加し、均一分散する。
C:〔B〕を再度85℃に加熱し、金皿に充填成形し、油性アイカラーを得た。
本発明の実施品である実施例6の油性アイカラーは、見る角度に因らないきれいな化粧膜及び粉体凝集が少ない均一な化粧膜を形成し、滑らかな使用感を有する優れた化粧料であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1の白色複合粉体の電子顕微鏡写真
【図2】本発明の実施例、比較例及び二酸化チタンの分光反射特性グラフ
【符号の説明】
【0049】
図1において、横軸は角度、縦軸は分光反射率である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、アスペクト比(平均粒子径/平均厚み)が15〜50のα−アルミナ板状粒子を母体とし、その表面に二酸化チタンを30〜50質量%(白色複合粉体に対し)固着してなる真珠光沢を有しない白色複合粉体。
【請求項2】
母体のα−アルミナ板状粒子の平均粒子径が1.5〜2.5μmであり、平均厚みが0.05〜0.10μmであり、且つアスペクト比が15〜35である請求項1記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体。
【請求項3】
母体のα−アルミナ板状粒子が、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物に少なくともリン酸イオンを含む結晶抑制剤を添加して、昇温速度が5〜0.3℃/分の範囲内で、温度350℃以上、圧力50〜200気圧の範囲で水熱合成した、結晶構造がα−アルミナの単結晶で六角板状形を有するアルミナ粒子である請求項1又は2記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体。
【請求項4】
真珠光沢を有しない白色複合粉体が、該白色複合粉体をラッカーに10質量%濃度にて均一分散し、該分散液を白板及び黒板上にそれぞれ50μmのドクターブレードで塗布・乾燥して標品とし、それぞれのY値(CIE標準表色系の光の明るさを示す値)を色差計で測定したとき、Y値(黒板上)/Y値(白板上)の比が0.5〜0.8の白色複合粉体であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体。
【請求項5】
真珠光沢を有しない白色複合粉体が、該白色複合粉体をブラシで半透明粘着テープの粘着面に塗布し、D65光源、入射角45°にて黒板を背景に用いて変角分光光度計で測色したときの分光反射率が、受光角-75°〜75°の範囲内のいずれの角度においても正反射における分光反射率の70%以上である白色複合粉体であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体。
【請求項6】
平均粒子径が0.5〜20μm、平均厚みが0.03〜0.35μm、アスペクト比(平均粒子径/平均厚み)が15〜50のα−アルミナ板状粒子を、水に分散し、この分散液に硫酸チタニルを添加混合し、次いで沸騰するまで昇温して硫酸チタニルを加水分解し、その後濾過、乾燥し、焼成することを特徴とする請求項1〜5記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体の製造方法において、α−アルミナ板状粒子の水分散濃度が10〜50g/Lであり、この分散液への硫酸チタニルの添加量が100〜300g/Lであり、沸騰するまでの昇温速度が0.5〜5℃/分、沸騰温度維持時間が2〜4時間、焼成温度が600〜900℃であることを特徴とする請求項6記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5いずれかに記載の真珠光沢を有しない白色複合粉体を配合した化粧料。
【請求項9】
化粧料がメイクアップ化粧料であることを特徴とする請求項8記載の化粧料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88317(P2008−88317A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271470(P2006−271470)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】