説明

白金−コバルト合金めっき液及びめっき方法

【解決課題】白金−コバルト合金膜を形成するためのめっき液であって、液の安定性に優れ、沈澱を生じさせることなく高品質な合金膜を形成できるものを提示する。
【解決手段】本発明は、白金塩とコバルト塩を含む白金−コバルト合金めっき液において、白金塩として、Na[Pt(C]、K[Pt(C]、[Pt(NH]Cl、[Pt(NH]SO、[Pt(NH](NO、[Pt(NO(NH]、KPtClのいずれか1種の2価の白金塩を白金濃度で1〜30g/L含み、前記コバルト塩として2価のコバルト塩を含むことを特徴とする白金−コバルト合金めっき液である。このめっき液においては、緩衝剤として、無機酸又はこれらの塩、若しくは、有機カルボン酸又はこれらの塩、若しくは、ポリアミノカルボン酸の少なくともいずれかを合計で1〜200g/L含むものが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体を構成する磁性膜として有用な、白金−コバルト合金膜を電解めっきにより形成するためのめっき液及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金−コバルト合金(以下、Pt−Co合金と略す場合もある)膜は、磁性膜としたときの高記録密度特性ゆえに、磁気記録媒体の大容量化を図るための材料として期待されている。
【0003】
これまで、磁気記録媒体用のPt−Co合金膜の形成法は、スパッタリング法や真空蒸着法等によるものが一般的であったが、これらの方法は、製品サイズの問題に加えて、生産性、装置コスト等の観点から十分応えることができない。
【0004】
そこで、高密度の記録媒体を大量且つ低コストで提供できる製造技術としてめっきによる磁性膜製造技術が注目されている。ここで、Pt−Co合金膜を製造するためのめっき液としては、特許文献1記載のものがある。
【特許文献1】特開2004−326979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のめっき液は、塩化コバルト六水和物を0.5〜20g/Lと、塩化白金酸(IV)を2〜60g/Lと、酒石酸アンモニウムを0.5〜50g/Lとを含有するものである。このめっき液によれば、種々の組成のPt−Co合金膜を安定性が高い状態で形成することができ、高保持力を有するCo−Pt合金膜を得ることができるとされている。
【0006】
しかしながら、本発明者によれば、上記従来のめっき液によりめっき作業を行なった場合、浴中に沈殿物が発生することがある。かかる沈殿物は、めっき作業に支障をきたし、合金膜の効率的な生産に悪影響を及ぼすこととなる。
【0007】
また、Pt−Co合金膜をめっき法により形成する技術は注目されているものの、これまで、その報告例が少ないのが現状である。そのため、現在も、スパッタ法等による膜形成が主流であり、飛躍的な生産性の向上や低コスト化への対応が今ひとつ十分であるとはいえない状況である。
【0008】
本発明は、以上のような事情のもとになされたものであり、Pt−Co合金膜をめっき法により形成するためのめっき液であって、沈殿物発生がなく、合金膜の生産効率に優れたものを提供することを目的とする。そして、このめっき液を用いたPt−Co合金膜の形成法も開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した従来のPt−Co合金めっき液において、沈澱物が発生する要因としては、このめっき液では、白金塩として塩化白金酸を用い、コバルト塩として塩化コバルト六水和物を用いている。かかる溶液中では、白金イオンは4価のイオンとして存在し、コバルトイオンは2価のイオンとして存在することによる。これら白金イオン、コバルトイオンは、溶液中で反応し3価のコバルトイオンを生成する(Pt4++2Co2+→Pt2++2Co3+)。そして、この3価のコバルトイオンが液中で錯体を形成し、沈殿物となるのである。
【0010】
そこで、本発明者は、上記課題を解決することのできるめっき液として、白金塩として2価の白金イオンを生成する白金化合物を用いることとした。そして、その上で2価の白金化合物の中でも、上記3価のコバルトイオンの生成反応を生じさせることのない安定性の高い白金化合物を適用することが好ましいとして本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明は、白金塩とコバルト塩を含む白金−コバルト合金めっき液において、前記白金塩として、Na[Pt(C]、K[Pt(C]、[Pt(NH]Cl、[Pt(NH]SO、[Pt(NH](NO、[Pt(NO(NH]、KPtClのいずれか1種の2価の白金塩を白金濃度で1〜30g/L含み、前記コバルト塩として2価のコバルト塩を含むことを特徴とする白金−コバルト合金めっき液である。
【0012】
本発明において、白金塩の含有量は、白金濃度で1〜30g/Lとする。1g/L未満では、白金が不足するため合金成分としての白金が析出しづらくなり、30g/Lを超えると、めっき膜の合金比率をコントロールしづらくなる傾向となる。尚、白金塩の種類をNa[Pt(C]、K[Pt(C]、[Pt(NH]Cl、[Pt(NH]SO、[Pt(NH](NO、[Pt(NO(NH]、KPtClのいずれか1種とするのは、上記のように、これらの白金塩が安定な2価の白金塩であることに加えて、比較的安価だからである。
【0013】
一方、2価のコバルト塩としては、硫酸コバルト又は塩化コバルトの少なくともいずれかを用いるのが好ましい。コバルト塩についても2価であることが好ましいが、これらのコバルト塩は、コストも低廉で水に対する溶解性も良好である。そして、コバルト塩の含有量は、コバルト濃度で1〜60g/Lとするのが好ましい。1g/L未満であると、コバルトの析出が困難となり、60g/Lを超えると、沈澱が生じないように2価の白金塩を用いても、3価のコバルトイオンが発生しやすくなり、沈殿物が生じるおそれがあるからである。
【0014】
そして、本発明に係るめっき液においては、緩衝剤を含んでいることが好ましい。緩衝剤としては、乳酸、リン酸、ホウ酸、シュウ酸等の無機酸又はこれらの塩、若しくは、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸又はこれらの塩、若しくは、アミノ酸、EDTA等のポリアミノカルボン酸の少なくともいずれかを添加するのが好ましい。塩の形態で添加する場合には、アンモニウム塩が好ましい。緩衝剤は、複数種類を組み合わせて添加しても良い。そして、緩衝剤の添加量は、合計で1〜200g/Lとするのが好ましい。1g/L未満では緩衝効果がないからであり、200g/Lを超える緩衝剤は溶解しないからである。
【0015】
また、本発明に係るめっき液は、電解めっき法による膜形成に好適であり、伝導塩として、硫酸イオン又はスルファミン酸イオンのいずれかを、めっき液全体に対し0.1〜10重量%含んでいることが好ましい。伝導塩の添加は、酸の状態(硫酸又はスルファミン酸)で添加しても良いが、これらの塩(アンモニウム塩等)の形態で添加しても良い。
【0016】
そして、本発明では、更に、沈澱防止剤として、アンモニア又はポリアミンのいずれかを含むものがより好ましい。本発明では2価の白金塩の選択により、コバルトの酸化(2価→3価)を抑制し、3価のコバルト発生による沈澱を抑制しているが、めっき条件或いはめっき作業の進行によりコバルトが酸化するおそれがある。アンモニア又はポリアミンは、3価のコバルトと錯体を形成し、この錯体は溶解性を有することから、これらの沈澱防止剤を添加することで、3価のコバルトが生成しても沈澱の発生を抑制することができる。これら沈澱防止剤の濃度は、めっき液全体に対し、10mmol/L〜3mol/Lとするのが好ましい。
【0017】
本発明に係るめっき液を用いるめっき方法としては、電解めっきによるものが好ましく、その条件としては、電流密度0.1〜20A/dm、めっき液pH1〜5としてめっき処理するのが好ましい。
【0018】
電流密度については、0.1A/dm未満であると、析出が生じないからであり、20A/mを超えると、めっき焼けの状態となることから、かかる範囲が好ましい。但し、この電流密度の設定については、めっき攪拌の有無等の条件により異なる。
【0019】
めっき液のpHについては、1〜5とするのが好ましい。5を超えるpHでめっきすると、コバルトが析出しなくなるからである。
【0020】
液温について20〜90℃とするのは、20℃未満であるとコバルト、白金共に析出しなくなり、90℃を超えるとコバルトが析出し難い傾向となるからである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る合金めっき液は安定性に優れ、沈殿物を生じさせることなく白金−コバルト合金膜を安定的に形成することができる。本発明により形成されるめっき膜の組成は特に限定されるものではなく、幅広い組成の白金−コバルト合金膜を安定的に形成することができる。本発明は、磁気記録媒体の更なる大容量化、小型化に資することができる。尚、本発明は、磁気記録媒体用の磁性膜の形成の他、燃料電池の白金合金電極の作成にも応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。ここでは、白金塩、コバルト塩の種類、濃度を変更しつつ合金めっき液を製造し、実際にめっき処理を行い、めっき液の安定性、めっき膜の組成を検討した。まず、製造しためっき液は以下のようなものである。
【0023】
【表1】

【0024】
そして、以上のめっき液を用いて、基板として銅板を用いてPt−Co合金膜を形成した。この際のめっき条件は以下の通りである。尚、めっき液のpHはアンモニア、硫酸、スルファミン酸で調整した。
【0025】
【表2】

【0026】
めっき処理完了後、形成した合金薄膜について、膜の外観を目視に観察した上で、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により分析し、合金膜の白金、コバルト比率(原子%)を調べた。その結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3からわかるように、各実施例で形成された合金膜は外観が良好であった。また、めっき膜の組成についても、実施例2の白金:コバルト=1:1(50at%白金−50at%コバルト)の組成を中心に、幅広い組成の合金膜が形成できることが確認された。一方、比較例の従来のめっき液では、調整時から、沈殿物の生成により浮遊物が認められ、めっき操業も不安定過ぎて実用的ではないものであった。
【0029】
尚、実施例1〜5のめっき液は、めっき処理後1ヶ月放置しても沈殿物の発生は見られなかった。従って、各実施例のめっき液は長期の安定性にも優れることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金塩とコバルト塩を含む白金−コバルト合金めっき液において、
前記白金塩として、Na[Pt(C]、K[Pt(C]、[Pt(NH]Cl、[Pt(NH]SO、[Pt(NH](NO、[Pt(NO(NH]、KPtClのいずれか1種の2価の白金塩を白金濃度で1〜30g/L含み、
前記コバルト塩として2価のコバルト塩を含むことを特徴とする白金−コバルト合金めっき液。
【請求項2】
コバルト塩として、硫酸コバルト又は塩化コバルトの少なくともいずれかをコバルト濃度で1〜60g/L含む請求項1記載の白金−コバルト合金めっき液。
【請求項3】
緩衝剤として、無機酸又はこれらの塩、若しくは、有機カルボン酸又はこれらの塩、若しくは、ポリアミノカルボン酸の少なくともいずれかを合計で1〜200g/L含む請求項1又は請求項2記載の白金−コバルト合金めっき液。
【請求項4】
伝導塩として、硫酸イオン又はスルファミン酸イオンのいずれかを、めっき液全体に対し0.1〜10重量%含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の白金−コバルト合金めっき液。
【請求項5】
更に、沈澱防止剤として、アンモニア又はポリアミンのいずれかを含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の白金−コバルト合金めっき液。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の白金−コバルト合金めっき液を用いて白金−コバルト膜形成のめっき処理を行う方法であって、
電流密度0.1〜20A/dm、めっき液pH1〜5、液温20〜80℃でめっき処理を行うめっき方法。

【公開番号】特開2006−213945(P2006−213945A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25857(P2005−25857)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】