白金ペースト
【課題】 加熱による膜質や導電性の変化が生じ難い導体を形成し得る白金ペーストを提供する。
【解決手段】 白金ペーストは、白金粉末の結晶子サイズが60〜100(nm)の範囲内と十分に大きくされていることから、焼結性が抑えられているので、高温に曝されても凝集が生じ難くなり、延いては加熱による膜質変化や導電性或いは抵抗値の変化が生じ難い抵抗発熱体層を形成することができる。
【解決手段】 白金ペーストは、白金粉末の結晶子サイズが60〜100(nm)の範囲内と十分に大きくされていることから、焼結性が抑えられているので、高温に曝されても凝集が生じ難くなり、延いては加熱による膜質変化や導電性或いは抵抗値の変化が生じ難い抵抗発熱体層を形成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ペーストの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金は耐熱性や耐蝕性に優れることから、例えば、セラミックヒータの抵抗発熱体層、電子部品の回路形成用導体層、積層基板のビアホール充填用等、種々の用途において導体成分として用いられている(例えば特許文献1〜3等を参照)。例えば、平面型セラミックヒータを製造するに際しては、アルミナ(Al2O3)等から成る基板或いはこれを生成するためのグリーンシートの一面に所定の平面形状で白金ペーストを塗布し、焼成処理を施して抵抗発熱体層を形成する。
【0003】
上記のような白金ペーストは、例えば、白金粉末をエチルセルロース等の有機バインダと共に溶剤と混合して調製される。このとき、例えば、塗布しようとする基板を構成するセラミック材料の粉末やガラス粉末等が、接着力を高める等の目的で適宜添加される。
【0004】
ところで、白金ペーストから導体或いは抵抗発熱体層(以下、本願においてはこれらをまとめて「導体」という。)を形成するに際して、グリーンシートの焼成温度に合わせて例えば1500(℃)以上の高温で焼成処理が施される場合がある。このような高温で焼成すると、従来の白金ペーストでは白金の凝集や蒸発等が生じ、延いては導体中に欠陥が生じ或いはセラミック基板等から剥離する問題があった。
【0005】
これに対して、本願出願人等は、結晶子サイズが35〜60(nm)の範囲内の白金粉末をビヒクル中に分散させた白金ペーストを提案した(特許文献4を参照。)。この白金ペーストによれば、結晶子サイズが大きいことから焼結性が抑制されているので、高温で焼成しても白金の凝集や蒸発が生じ難い利点がある。従来の白金ペーストでは印刷に適したペースト性状が得られるように粉末の粒径が定められていたものの、結晶子サイズは全く考慮されておらず、結果的に、結晶子サイズが10(nm)程度と微細な焼結性の高い白金粉末が用いられていた。そのため、焼成温度が高くなると凝集や蒸発等の問題が生じるのである。
【0006】
なお、結晶子とは、多結晶粒子内において単結晶とみなせる単位をいうものであり、結晶子サイズt(nm)は、例えば、粉末X線回折で得られた回折曲線の強度ピークの半値幅から、下記のシェラー(Scherrer)の式により算出される。白金粉末等の金属粉末は一般に多結晶体であって、微細な多数の単結晶で構成されている。
t=0.9λ/(BcosθB)
[但し、λは使用管球のKα線の波長(nm)、Bは最強ピークの半値幅(ラジアン)、θBは最強ピークの回折角(ラジアン)]
【特許文献1】特開2004−178942号公報
【特許文献2】特開2004−265607号公報
【特許文献3】特開平5−334911号公報
【特許文献4】特開平7−094012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に記載された白金ペーストを用いて導体を形成しても、繰り返し高温に曝される条件で使用すると無視できない程度の膜質や導電性の変化が生じること、すなわち高温耐久性が不十分であることが判明した。例えば、ヒータ用途では使用時に自身の発熱によって高温に曝されるので、使用中に特性が変化することになる。また、導体の形成後に他の膜形成等の目的で焼成処理を施した場合にも膜質や導電性の変化が生じることも明らかとなった。上記特許文献4では形成直後の膜質のみを評価しており、形成後に高温に曝された場合の変化については何ら考慮されていなかったのである。
【0008】
本発明者等は、白金ペーストから形成する導体の高温耐久性を高めるために研究を重ねた結果、白金粉末の結晶子サイズが導体形成時の膜質だけでなく高温耐久性にも大きな影響を及ぼすことを見出した。また、上記特許文献4では結晶子サイズを大きくするための処理上の制限から60(nm)を上限としているが、十分な高温耐久性を得るためには、それよりも更に大きい結晶子サイズの白金粉末を用いる必要があることを見出した。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づいて為されたものであり、その目的は、加熱による膜質や導電性の変化が生じ難い導体を形成し得る白金ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するため、本発明の白金ペーストの要旨とするところは、結晶子サイズが60乃至100(nm)の範囲内の白金粉末が所定のビヒクル中に分散されたことにある。
【発明の効果】
【0011】
このようにすれば、白金粉末の結晶子サイズが60(nm)以上と十分に大きくされていることから、白金粒子相互の焼結性適度に十分に抑制されるので、高温に曝されても凝集が生じ難くなる。また、結晶子サイズが100(nm)以下に留められていることから、導体がその形成面に確実に固着される程度の十分な焼結性を有するので、十分な導電性が得られる。したがって、加熱による膜質変化や導電性の変化が生じ難い導体を形成することができる。
【0012】
なお、結晶子サイズを大きくするためには、白金粉末に熱処理を施し、粒子内部で結晶成長させる必要があるが、熱処理温度は、得ようとする結晶子サイズが大きいほど高くなる。そのため、100(nm)を超える結晶サイズが得られるような熱処理温度では、耐熱性が高くなり過ぎて焼結不足になる。また、このような熱処理温度では粒子が溶融して形状が不安定で粒径のばらつきも大きくなるため、分散不良が生じる。これらの結果、緻密な焼結体が得られなくなるので、十分な導電性が得られなくなる問題もある。
【0013】
ここで、好適には、前記白金粉末は、0.1乃至10(μm)の範囲内の平均粒径を有するものである。このようにすれば、白金粉末の焼結性は結晶子サイズだけでなく平均粒径にも影響されることから、適度な焼結性および耐熱性を有する白金ペーストが得られる。0.1(μm)未満では焼結性が高くなるので焼成温度を低くする必要が生じ、10(μm)を超えると焼結性が低くなるので焼結性が不足し、十分な導電性を有する膜の形成が困難になる。
【0014】
また、好適には、前記白金ペーストは、セラミックヒータの抵抗発熱体を形成するために用いられるものである。
【0015】
また、好適には、前記結晶子サイズは、70〜90(nm)の範囲内である。
【0016】
また、前記白金ペーストを構成する白金粉末は、前記のような特性を満足する限りにおいて任意の種々の方法で製造したものを用い得るが、例えば、白金粉末と、長周期表の3族乃至15族の何れかの金属元素の酸化物の少なくとも一種の粉末から成る混合剤とを混合する混合工程と、その混合工程で得られた混合粉末に所定温度の熱処理を施す熱処理工程と、その熱処理が施された混合粉末を酸またはアルカリで処理することにより前記混合剤を溶解する溶解工程と、前記混合剤が溶解された混合粉末に洗浄処理を施すことによりその混合剤を除去する除去工程とを、含む工程によって製造される。
【0017】
上記の3族乃至15族の金属元素としては、Zn、Sn、Y、Nd、Sc、Sm、W、Mn、Nb等が挙げられる。溶解工程で用いられる酸またはアルカリは、混合剤の種類に応じて適宜のものが用いられるが、例えば、ZnO、SnO等の両性酸化物は塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム等、酸およびアルカリの何れでもよい。また、Y2O3、Nd2O3、Sc2O3、Sm2O3等の希土類酸化物には、塩酸、硝酸、硫酸等の酸が用いられる。また、WO3には水酸化ナトリウム等のアルカリが用いられる。また、Nb2O5には、アンモニア水や水酸化ナトリウム等のアルカリが用いられる。また、前記所定温度は、例えば、700〜1500(℃)の範囲内、好適には1000〜1500(℃)の範囲内、一層好適には、1300〜1400(℃)の範囲内の温度である。
【0018】
また、好適には、前記白金ペーストは、前述したような方法で製造された所定の結晶子サイズを有する白金粉末をビヒクル中に分散させることによって製造される。分散処理には例えば三本ロールミル等が好適に用いられる。ビヒクルは、例えばエチルセルロースやアクリル樹脂等の有機バインダーをターピネオールやブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等の溶剤に溶解して製造される。また、白金粉末の他に、無機結合剤、ガラスフリット、フィラー等の種々の副成分(例えばセラミック粉末やガラス粉末等)を添加しても良い。添加量は例えば白金粉末100(wt%)に対して1〜10(wt%)程度の範囲内である。セラミック粉末等の添加量がこれよりも少ないと、グリーンシートに塗布した場合にその熱膨張率との相違を十分に緩和できず、多いと、白金粉末の焼結が阻害されるため十分な導電性が得られなくなる。添加量は、一層好適には3〜5(wt%)の範囲内である。なお、上記のセラミック粉末は、白金ペーストを塗布しようとするセラミック材料の構成材料またはその主構成成分が好ましい。
【0019】
また、白金ペースト中に含まれる白金粉末の量は、用途に応じて適宜定められるものであるが、例えば、30〜95(wt%)の範囲内、一層好適には、35〜85(wt%)の範囲内、更に好適には、45〜85(wt%)の範囲内である。これらの下限値は例えば要求される導電性が得られるように定められ、上限値は適当な印刷性や塗布性が得られる流動性を有するように定められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0021】
図1は、本発明の一実施例の白金ペーストの製造方法およびこれを用いたヒータの抵抗発熱体層の形成方法を説明するための工程図である。図1において、工程R1〜R7は、白金粉末の製造工程を示しており、工程P1〜P4は白金ペーストおよび抵抗発熱体の製造工程を示している。白金粉末の製造工程の混合工程R1においては、例えば湿式還元法で製造した白金粉末と、混合剤である3〜15族の金属元素の酸化物粉末とを混合する。ここで用いられる白金粉末は、特に限定されないが、例えば、0.2〜0.8(μm)程度の平均粒径を有するものであるが、結晶子サイズは例えば10(nm)程度である。また、上記混合剤としては、例えば、Y2O3、Nd2O3、ZnO等の一種または混合物から成る粉末を用い得る。これら混合剤粉末の平均粒径は、例えば0.1〜10(μm)程度の範囲内である。また、混合割合は、例えば白金粉末1体積部に対して混合剤粉末を15〜60体積部の範囲内、例えば30体積部である。
【0022】
また、上記混合工程R1は、適宜の混合機或いは攪拌機等を用いて実施できるが、例えば、ポットミル式の湿式混合や三本ロールミル等が好適である。湿式混合の場合の分散媒としては水や適宜の溶剤を用いることができ、混合を促進するためのメディアとして例えばジルコニアビーズを用いることが好ましい。また、三本ロールミルで混合する場合には、有機ビヒクルを白金粉末および混合剤の混合粉末に添加する。
【0023】
次いで、乾燥・ほぐし工程R2においては、湿式混合の場合には、例えば110(℃)×12時間程度の乾燥処理を施し、更に、乾燥後の固形物をほぐす。なお、この工程は、三本ロールミルで混合した場合には無用である。
【0024】
次いで、熱処理工程R3においては、例えば、700〜1500(℃)の範囲内で、所望とする白金の結晶子サイズに応じた所定の温度で、例えば、1時間程度の熱処理を施す。これにより、白金粉末粒子が結晶成長させられ、結晶子サイズが例えば30〜100(nm)程度、例えば80(nm)程度まで大きくなる。なお、熱処理温度は、一層好適には1000〜1500(℃)の範囲内であり、更に好適には、1300〜1400(℃)の範囲内である。
【0025】
次いで、溶解工程R4においては、混合した混合剤を溶解する酸またはアルカリを用いて、熱処理を施した混合粉末を処理する。例えば、前記のようなY2O3、Nd2O3、ZnO等が用いられた場合には、3倍希釈HNO3等が用いられ、溶解が促進されるように50〜80(℃)程度に加温して12時間程度の攪拌を続ける。
【0026】
次いで、水洗浄工程R5においては、溶解工程R4を経た混合粉末を純水で洗浄する。これにより、溶解した混合剤および溶解に用いた酸等が除去されるが、一回の処理で十分に除去できない場合には、必要に応じ、溶解工程P5および洗浄工程P6を複数回、例えば4〜5回繰り返す。但し、残留物が白金粉末の特性に悪影響を与えない場合には、1〜2回程度の溶解および洗浄でも差し支えない。
【0027】
次いで、乾燥工程R6においては、洗浄すなわち混合剤の除去を終えた白金粉末に例えば100(℃)で12時間程度の乾燥処理を施す。そして、ふるい工程R7において、適当な目開きの篩を用いて凝集している白金粉末をほぐすことにより、高分散性、高結晶性の白金粉末が得られる。得られた白金粉末は、比重が高く、吸着ガスが無いことから、膜形成時に歪みが生じず、緻密な焼成膜(すなわち抵抗発熱体層)が得られる。また、粒子相互のネッキングが無く高分散性であることから、一層緻密な焼成膜が得られる。また、前記のような混合剤が混合されていることからネッキングが生じないため、高温で熱処理することが可能である。そのため、結晶子サイズを十分に大きくすることができ、すなわち、高結晶性の粉末が得られる。また、前記工程R1〜R7で説明したようにアルカリ金属やアルカリ土類金属を何ら用いないことから、抵抗発熱体層を形成したセラミック基板の使用時等においてマイグレーションが生じないので、信頼性の高い電子部品が得られる利点がある。
【0028】
次いで、ペーストおよび抵抗発熱体層の製造工程を説明する。先ず、混合工程P1では、上記の白金粉末、セラミック粉末、およびビヒクルを混合する。このセラミック粉末は、白金ペーストを塗布しようとするセラミックスと同種の材料、例えばアルミナ等から成る粉末であって、例えば0.2〜1.0(μm)程度の平均粒径を備えたものが用いられる。また、ビヒクルは、例えばエチルセルロースやアクリル等の有機バインダーとターピネオール等の有機溶剤とから成るものである。有機バインダーと有機溶剤との割合は、例えば10〜30:90〜70程度とする。また、白金粉末:セラミック粉末:ビヒクルの割合は、例えば、60〜90:3〜10:7〜37程度である。
【0029】
次いで、分散工程P2では、上記の混合物を例えば三本ロールミル等で処理することにより、白金粉末およびセラミック粉末をビヒクル中に分散させる。これにより、結晶子サイズが80(nm)の白金粉末を含む白金ペーストが得られる。すなわち、工程R1乃至工程P2が、本実施例の白金ペーストを得るための製造工程の一例である。
【0030】
次いで、印刷工程P3では、例えばスクリーン印刷法を用いて、例えばアルミナ基板等に上記の白金ペーストを所定パターンで塗布する。印刷形状は、例えば図2に示される通りである。塗布厚みは、例えば、乾燥厚みが10(μm)程度になるように定められる。
【0031】
次いで、乾燥処理を施した後、焼成工程P4では、例えば1500(℃)で1時間程度保持して焼成処理を施す。これにより、ペースト中の有機成分が焼失させられて白金を主成分とする抵抗発熱体層が形成される。焼成後の膜厚は例えば5(μm)程度である。
【0032】
このようにして得られた抵抗発熱体層は、前述したように結晶サイズが80(nm)と極めて大きい白金粉末から形成されたものであることから、高い耐熱性を有する。すなわち、抵抗発熱体層の形成後に他の膜形成等の目的で焼成処理を施し、或いは、繰り返し使用して高温に曝しても、抵抗値変化率が著しく小さく、その変化は無視できる程度に留まる。
【0033】
図3は、前記工程R1〜R7に従って製造した種々の結晶子サイズの白金粉末を用いて抵抗発熱体層を形成し、加熱処理を繰り返したときの抵抗値変化率を測定して耐久性を評価した結果をまとめたものである。この評価試験は、製造時における繰り返し加熱および高温使用時の変化を加速試験によって評価したものである。各回の加熱処理条件は1500(℃)×1時間とし、1回毎に抵抗発熱体層の両端間の抵抗値を測定して、形成直後の抵抗値に対する比を百分率で表して抵抗値変化率とした。各サンプルの製造条件は、結晶子サイズの異なる白金粉末を用いた他は、白金粉末の平均粒径や焼成後の膜厚等を含めて、全て同一とした。
【0034】
なお、各結晶子サイズの白金粉末の製造条件の相違点は、以下の通りである。記載していない他の条件は、前述したものと全て同一とした。
10(nm):湿式還元法で製造した0.8(μm)粒子
30(nm):0.8(μm)粒子を300(℃)×10分間の熱処理
50(nm):0.8(μm)粒子を500(℃)×10分間の熱処理
60(nm):0.8(μm)粒子を600(℃)×10分間の熱処理
80(nm):0.2(μm)粒子に混合剤を混合して1300(℃)×1時間の熱処理
100(nm):0.2(μm)粒子に混合剤を混合して1500(℃)×10時間の熱処理
【0035】
上記の評価結果に示されるように、結晶子サイズが10(nm)の場合には、僅か2回の加熱処理で抵抗値の明らかな変化が認められ、4回以上で著しく抵抗値が上昇し、7回の加熱処理で60(%)を超え、13回目で断線した。また、30(nm)の場合にも、4回の加熱処理から抵抗値が著しく上昇し、9回の加熱処理で40(%)もの上昇が認められ、18回目で断線した。また、50(nm)の場合では、12〜15回の加熱処理で急激に抵抗値が上昇し、19回の加熱処理で断線した。したがって、結晶子サイズが10(nm)〜50(nm)の範囲では、繰返しの加熱処理による抵抗値変化が大きく、そのような製造条件や用途には適さないことが明らかである。すなわち、ヒータ等の抵抗発熱体層を形成するための白金ペーストとして不適当であることが判る。
【0036】
これらに対して、結晶子サイズが60(nm)および80(nm)の場合には、10回の加熱処理を施しても抵抗値の上昇は僅か20(%)程度に留まり、20回程度の繰返しの加熱に対しても断線することなく、高い耐久性を有することが確かめられた。
【0037】
図4〜図13は、上記各サンプルの加熱処理後の抵抗発熱体層の外観を示す写真である。これらの写真において、白色の部分がアルミナ製基板、黒色の部分が抵抗発熱体層であり、図2に示すパターンの左端部に対応している。
【0038】
図4、図5は、結晶子サイズが10(nm)の白金粉末を用いて、加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。黒色を呈する抵抗発熱体層内に多数存在する白点は、加熱によって白金が凝集および蒸発(或いは揮散)してアルミナ基板が露出させられたピンホールであり、繰り返し加熱によって抵抗発熱体層の導通方向の断面積が小さくなることが判る。また、15回の加熱処理を施した図5では、凝集および蒸発が更に進行した結果、パターンの一部が断たれている(すなわち断線が生じている)。なお、焼成直後すなわち加熱処理回数が0回の場合の外観は特に示さないが、パターン内にピンホールは全く形成されていない。
【0039】
図6、図7は、結晶子サイズが30(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。30(nm)の結晶サイズでも、繰り返し加熱処理後の白金の凝集延いてはピンホールが顕著に認められ、抵抗発熱体層の導通断面積が著しく小さくなることが判る。また、加熱処理回数が多くなると、ライン形状が悪くなると共に、線幅も細くなることが判る。
【0040】
また、図8、図9は、結晶子サイズが50(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。50(nm)の結晶子サイズでも、繰り返し加熱処理によって多数のピンホールが発生することが判る。15回の加熱処理後には、抵抗発熱体層の幅寸法が小さくなっている。これら10(nm)、30(nm)、および50(nm)における変化は、前記図3に示される抵抗値変化と良く対応している。
【0041】
一方、図10、図11は、60(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返したものである。ピンホールの発生は認められるが、50(nm)以下のものに比較すると、その量が明らかに少なくなっていることが判る。
【0042】
また、図12、図13は、80(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返したものである。この結晶子サイズでは、60(nm)のものと比較しても、ピンホールの発生が著しく少なくなっていることが明らかである。これらに示されるようにピンホールの発生が少ないことは、前記の図3に示されるように抵抗値変化が少ないことと良く対応している。すなわち、60(nm)以上の結晶子サイズの白金粉末を用いることにより、高温耐久性が高められることが明らかである。
【0043】
また、100(nm)では、焼結不足で焼成膜の緻密性がやや悪くなる。したがって、導電性がやや低くなるが、繰り返し熱処理を施すことで、徐々に焼成膜が緻密になる。図3において、抵抗値変化が初期段階では減少傾向にある(すなわち抵抗値が低くなる)ことからも、1回目の焼成処理では導電性がやや低いことが判る。
【0044】
また、白金粉末の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製 LA-500)で測定したところ、結晶子サイズが100(nm)のものでは、d90が2.71(μm)、d50が1.63(μm)、d10が0.85(μm)程度であった。結晶子サイズが80(nm)のものでは、同装置で測定すると、d90が1.03(μm)、d50が0.54(μm)、d10が0.29(μm)程度であるから、これに対して、100(nm)の場合の粒径が大きく且つ分布が広くなることが判る。この程度まで粒径が大きく且つ分布が広い粉末でペーストを調製すると、ペーストの充填率が低下して導電性が低くなる傾向があるため、結晶子サイズは100(nm)程度が上限であり、これ以下に留めることが望ましい。
【0045】
要するに、本実施例の白金ペーストは、白金粉末の結晶子サイズが60〜100(nm)の範囲内と十分に大きくされていることから、焼結性が抑えられているので、高温に曝されても凝集が生じ難くなり、延いては加熱による膜質変化や導電性或いは抵抗値の変化が生じ難い抵抗発熱体層を形成することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、0.1〜10(μm)の範囲内の平均粒径を有する白金粉末が用いられることから、適度な焼結性および耐熱性を有する白金ペーストが得られる。
【0047】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例の白金ペーストを用いた抵抗発熱体層の形成方法を説明するための工程図である。
【図2】セラミックヒータの抵抗体パターンの一例を示す平面図である。
【図3】白金粉末の結晶子サイズ毎の繰り返し加熱回数と抵抗値変化率との関係を示す図である。
【図4】結晶子サイズが10(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図5】図4の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図6】結晶子サイズが30(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図7】図6の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図8】結晶子サイズが50(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図9】図8の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図10】結晶子サイズが60(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図11】図10の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図12】結晶子サイズが80(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図13】図12の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10:抵抗発熱体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ペーストの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金は耐熱性や耐蝕性に優れることから、例えば、セラミックヒータの抵抗発熱体層、電子部品の回路形成用導体層、積層基板のビアホール充填用等、種々の用途において導体成分として用いられている(例えば特許文献1〜3等を参照)。例えば、平面型セラミックヒータを製造するに際しては、アルミナ(Al2O3)等から成る基板或いはこれを生成するためのグリーンシートの一面に所定の平面形状で白金ペーストを塗布し、焼成処理を施して抵抗発熱体層を形成する。
【0003】
上記のような白金ペーストは、例えば、白金粉末をエチルセルロース等の有機バインダと共に溶剤と混合して調製される。このとき、例えば、塗布しようとする基板を構成するセラミック材料の粉末やガラス粉末等が、接着力を高める等の目的で適宜添加される。
【0004】
ところで、白金ペーストから導体或いは抵抗発熱体層(以下、本願においてはこれらをまとめて「導体」という。)を形成するに際して、グリーンシートの焼成温度に合わせて例えば1500(℃)以上の高温で焼成処理が施される場合がある。このような高温で焼成すると、従来の白金ペーストでは白金の凝集や蒸発等が生じ、延いては導体中に欠陥が生じ或いはセラミック基板等から剥離する問題があった。
【0005】
これに対して、本願出願人等は、結晶子サイズが35〜60(nm)の範囲内の白金粉末をビヒクル中に分散させた白金ペーストを提案した(特許文献4を参照。)。この白金ペーストによれば、結晶子サイズが大きいことから焼結性が抑制されているので、高温で焼成しても白金の凝集や蒸発が生じ難い利点がある。従来の白金ペーストでは印刷に適したペースト性状が得られるように粉末の粒径が定められていたものの、結晶子サイズは全く考慮されておらず、結果的に、結晶子サイズが10(nm)程度と微細な焼結性の高い白金粉末が用いられていた。そのため、焼成温度が高くなると凝集や蒸発等の問題が生じるのである。
【0006】
なお、結晶子とは、多結晶粒子内において単結晶とみなせる単位をいうものであり、結晶子サイズt(nm)は、例えば、粉末X線回折で得られた回折曲線の強度ピークの半値幅から、下記のシェラー(Scherrer)の式により算出される。白金粉末等の金属粉末は一般に多結晶体であって、微細な多数の単結晶で構成されている。
t=0.9λ/(BcosθB)
[但し、λは使用管球のKα線の波長(nm)、Bは最強ピークの半値幅(ラジアン)、θBは最強ピークの回折角(ラジアン)]
【特許文献1】特開2004−178942号公報
【特許文献2】特開2004−265607号公報
【特許文献3】特開平5−334911号公報
【特許文献4】特開平7−094012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に記載された白金ペーストを用いて導体を形成しても、繰り返し高温に曝される条件で使用すると無視できない程度の膜質や導電性の変化が生じること、すなわち高温耐久性が不十分であることが判明した。例えば、ヒータ用途では使用時に自身の発熱によって高温に曝されるので、使用中に特性が変化することになる。また、導体の形成後に他の膜形成等の目的で焼成処理を施した場合にも膜質や導電性の変化が生じることも明らかとなった。上記特許文献4では形成直後の膜質のみを評価しており、形成後に高温に曝された場合の変化については何ら考慮されていなかったのである。
【0008】
本発明者等は、白金ペーストから形成する導体の高温耐久性を高めるために研究を重ねた結果、白金粉末の結晶子サイズが導体形成時の膜質だけでなく高温耐久性にも大きな影響を及ぼすことを見出した。また、上記特許文献4では結晶子サイズを大きくするための処理上の制限から60(nm)を上限としているが、十分な高温耐久性を得るためには、それよりも更に大きい結晶子サイズの白金粉末を用いる必要があることを見出した。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づいて為されたものであり、その目的は、加熱による膜質や導電性の変化が生じ難い導体を形成し得る白金ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するため、本発明の白金ペーストの要旨とするところは、結晶子サイズが60乃至100(nm)の範囲内の白金粉末が所定のビヒクル中に分散されたことにある。
【発明の効果】
【0011】
このようにすれば、白金粉末の結晶子サイズが60(nm)以上と十分に大きくされていることから、白金粒子相互の焼結性適度に十分に抑制されるので、高温に曝されても凝集が生じ難くなる。また、結晶子サイズが100(nm)以下に留められていることから、導体がその形成面に確実に固着される程度の十分な焼結性を有するので、十分な導電性が得られる。したがって、加熱による膜質変化や導電性の変化が生じ難い導体を形成することができる。
【0012】
なお、結晶子サイズを大きくするためには、白金粉末に熱処理を施し、粒子内部で結晶成長させる必要があるが、熱処理温度は、得ようとする結晶子サイズが大きいほど高くなる。そのため、100(nm)を超える結晶サイズが得られるような熱処理温度では、耐熱性が高くなり過ぎて焼結不足になる。また、このような熱処理温度では粒子が溶融して形状が不安定で粒径のばらつきも大きくなるため、分散不良が生じる。これらの結果、緻密な焼結体が得られなくなるので、十分な導電性が得られなくなる問題もある。
【0013】
ここで、好適には、前記白金粉末は、0.1乃至10(μm)の範囲内の平均粒径を有するものである。このようにすれば、白金粉末の焼結性は結晶子サイズだけでなく平均粒径にも影響されることから、適度な焼結性および耐熱性を有する白金ペーストが得られる。0.1(μm)未満では焼結性が高くなるので焼成温度を低くする必要が生じ、10(μm)を超えると焼結性が低くなるので焼結性が不足し、十分な導電性を有する膜の形成が困難になる。
【0014】
また、好適には、前記白金ペーストは、セラミックヒータの抵抗発熱体を形成するために用いられるものである。
【0015】
また、好適には、前記結晶子サイズは、70〜90(nm)の範囲内である。
【0016】
また、前記白金ペーストを構成する白金粉末は、前記のような特性を満足する限りにおいて任意の種々の方法で製造したものを用い得るが、例えば、白金粉末と、長周期表の3族乃至15族の何れかの金属元素の酸化物の少なくとも一種の粉末から成る混合剤とを混合する混合工程と、その混合工程で得られた混合粉末に所定温度の熱処理を施す熱処理工程と、その熱処理が施された混合粉末を酸またはアルカリで処理することにより前記混合剤を溶解する溶解工程と、前記混合剤が溶解された混合粉末に洗浄処理を施すことによりその混合剤を除去する除去工程とを、含む工程によって製造される。
【0017】
上記の3族乃至15族の金属元素としては、Zn、Sn、Y、Nd、Sc、Sm、W、Mn、Nb等が挙げられる。溶解工程で用いられる酸またはアルカリは、混合剤の種類に応じて適宜のものが用いられるが、例えば、ZnO、SnO等の両性酸化物は塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム等、酸およびアルカリの何れでもよい。また、Y2O3、Nd2O3、Sc2O3、Sm2O3等の希土類酸化物には、塩酸、硝酸、硫酸等の酸が用いられる。また、WO3には水酸化ナトリウム等のアルカリが用いられる。また、Nb2O5には、アンモニア水や水酸化ナトリウム等のアルカリが用いられる。また、前記所定温度は、例えば、700〜1500(℃)の範囲内、好適には1000〜1500(℃)の範囲内、一層好適には、1300〜1400(℃)の範囲内の温度である。
【0018】
また、好適には、前記白金ペーストは、前述したような方法で製造された所定の結晶子サイズを有する白金粉末をビヒクル中に分散させることによって製造される。分散処理には例えば三本ロールミル等が好適に用いられる。ビヒクルは、例えばエチルセルロースやアクリル樹脂等の有機バインダーをターピネオールやブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等の溶剤に溶解して製造される。また、白金粉末の他に、無機結合剤、ガラスフリット、フィラー等の種々の副成分(例えばセラミック粉末やガラス粉末等)を添加しても良い。添加量は例えば白金粉末100(wt%)に対して1〜10(wt%)程度の範囲内である。セラミック粉末等の添加量がこれよりも少ないと、グリーンシートに塗布した場合にその熱膨張率との相違を十分に緩和できず、多いと、白金粉末の焼結が阻害されるため十分な導電性が得られなくなる。添加量は、一層好適には3〜5(wt%)の範囲内である。なお、上記のセラミック粉末は、白金ペーストを塗布しようとするセラミック材料の構成材料またはその主構成成分が好ましい。
【0019】
また、白金ペースト中に含まれる白金粉末の量は、用途に応じて適宜定められるものであるが、例えば、30〜95(wt%)の範囲内、一層好適には、35〜85(wt%)の範囲内、更に好適には、45〜85(wt%)の範囲内である。これらの下限値は例えば要求される導電性が得られるように定められ、上限値は適当な印刷性や塗布性が得られる流動性を有するように定められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0021】
図1は、本発明の一実施例の白金ペーストの製造方法およびこれを用いたヒータの抵抗発熱体層の形成方法を説明するための工程図である。図1において、工程R1〜R7は、白金粉末の製造工程を示しており、工程P1〜P4は白金ペーストおよび抵抗発熱体の製造工程を示している。白金粉末の製造工程の混合工程R1においては、例えば湿式還元法で製造した白金粉末と、混合剤である3〜15族の金属元素の酸化物粉末とを混合する。ここで用いられる白金粉末は、特に限定されないが、例えば、0.2〜0.8(μm)程度の平均粒径を有するものであるが、結晶子サイズは例えば10(nm)程度である。また、上記混合剤としては、例えば、Y2O3、Nd2O3、ZnO等の一種または混合物から成る粉末を用い得る。これら混合剤粉末の平均粒径は、例えば0.1〜10(μm)程度の範囲内である。また、混合割合は、例えば白金粉末1体積部に対して混合剤粉末を15〜60体積部の範囲内、例えば30体積部である。
【0022】
また、上記混合工程R1は、適宜の混合機或いは攪拌機等を用いて実施できるが、例えば、ポットミル式の湿式混合や三本ロールミル等が好適である。湿式混合の場合の分散媒としては水や適宜の溶剤を用いることができ、混合を促進するためのメディアとして例えばジルコニアビーズを用いることが好ましい。また、三本ロールミルで混合する場合には、有機ビヒクルを白金粉末および混合剤の混合粉末に添加する。
【0023】
次いで、乾燥・ほぐし工程R2においては、湿式混合の場合には、例えば110(℃)×12時間程度の乾燥処理を施し、更に、乾燥後の固形物をほぐす。なお、この工程は、三本ロールミルで混合した場合には無用である。
【0024】
次いで、熱処理工程R3においては、例えば、700〜1500(℃)の範囲内で、所望とする白金の結晶子サイズに応じた所定の温度で、例えば、1時間程度の熱処理を施す。これにより、白金粉末粒子が結晶成長させられ、結晶子サイズが例えば30〜100(nm)程度、例えば80(nm)程度まで大きくなる。なお、熱処理温度は、一層好適には1000〜1500(℃)の範囲内であり、更に好適には、1300〜1400(℃)の範囲内である。
【0025】
次いで、溶解工程R4においては、混合した混合剤を溶解する酸またはアルカリを用いて、熱処理を施した混合粉末を処理する。例えば、前記のようなY2O3、Nd2O3、ZnO等が用いられた場合には、3倍希釈HNO3等が用いられ、溶解が促進されるように50〜80(℃)程度に加温して12時間程度の攪拌を続ける。
【0026】
次いで、水洗浄工程R5においては、溶解工程R4を経た混合粉末を純水で洗浄する。これにより、溶解した混合剤および溶解に用いた酸等が除去されるが、一回の処理で十分に除去できない場合には、必要に応じ、溶解工程P5および洗浄工程P6を複数回、例えば4〜5回繰り返す。但し、残留物が白金粉末の特性に悪影響を与えない場合には、1〜2回程度の溶解および洗浄でも差し支えない。
【0027】
次いで、乾燥工程R6においては、洗浄すなわち混合剤の除去を終えた白金粉末に例えば100(℃)で12時間程度の乾燥処理を施す。そして、ふるい工程R7において、適当な目開きの篩を用いて凝集している白金粉末をほぐすことにより、高分散性、高結晶性の白金粉末が得られる。得られた白金粉末は、比重が高く、吸着ガスが無いことから、膜形成時に歪みが生じず、緻密な焼成膜(すなわち抵抗発熱体層)が得られる。また、粒子相互のネッキングが無く高分散性であることから、一層緻密な焼成膜が得られる。また、前記のような混合剤が混合されていることからネッキングが生じないため、高温で熱処理することが可能である。そのため、結晶子サイズを十分に大きくすることができ、すなわち、高結晶性の粉末が得られる。また、前記工程R1〜R7で説明したようにアルカリ金属やアルカリ土類金属を何ら用いないことから、抵抗発熱体層を形成したセラミック基板の使用時等においてマイグレーションが生じないので、信頼性の高い電子部品が得られる利点がある。
【0028】
次いで、ペーストおよび抵抗発熱体層の製造工程を説明する。先ず、混合工程P1では、上記の白金粉末、セラミック粉末、およびビヒクルを混合する。このセラミック粉末は、白金ペーストを塗布しようとするセラミックスと同種の材料、例えばアルミナ等から成る粉末であって、例えば0.2〜1.0(μm)程度の平均粒径を備えたものが用いられる。また、ビヒクルは、例えばエチルセルロースやアクリル等の有機バインダーとターピネオール等の有機溶剤とから成るものである。有機バインダーと有機溶剤との割合は、例えば10〜30:90〜70程度とする。また、白金粉末:セラミック粉末:ビヒクルの割合は、例えば、60〜90:3〜10:7〜37程度である。
【0029】
次いで、分散工程P2では、上記の混合物を例えば三本ロールミル等で処理することにより、白金粉末およびセラミック粉末をビヒクル中に分散させる。これにより、結晶子サイズが80(nm)の白金粉末を含む白金ペーストが得られる。すなわち、工程R1乃至工程P2が、本実施例の白金ペーストを得るための製造工程の一例である。
【0030】
次いで、印刷工程P3では、例えばスクリーン印刷法を用いて、例えばアルミナ基板等に上記の白金ペーストを所定パターンで塗布する。印刷形状は、例えば図2に示される通りである。塗布厚みは、例えば、乾燥厚みが10(μm)程度になるように定められる。
【0031】
次いで、乾燥処理を施した後、焼成工程P4では、例えば1500(℃)で1時間程度保持して焼成処理を施す。これにより、ペースト中の有機成分が焼失させられて白金を主成分とする抵抗発熱体層が形成される。焼成後の膜厚は例えば5(μm)程度である。
【0032】
このようにして得られた抵抗発熱体層は、前述したように結晶サイズが80(nm)と極めて大きい白金粉末から形成されたものであることから、高い耐熱性を有する。すなわち、抵抗発熱体層の形成後に他の膜形成等の目的で焼成処理を施し、或いは、繰り返し使用して高温に曝しても、抵抗値変化率が著しく小さく、その変化は無視できる程度に留まる。
【0033】
図3は、前記工程R1〜R7に従って製造した種々の結晶子サイズの白金粉末を用いて抵抗発熱体層を形成し、加熱処理を繰り返したときの抵抗値変化率を測定して耐久性を評価した結果をまとめたものである。この評価試験は、製造時における繰り返し加熱および高温使用時の変化を加速試験によって評価したものである。各回の加熱処理条件は1500(℃)×1時間とし、1回毎に抵抗発熱体層の両端間の抵抗値を測定して、形成直後の抵抗値に対する比を百分率で表して抵抗値変化率とした。各サンプルの製造条件は、結晶子サイズの異なる白金粉末を用いた他は、白金粉末の平均粒径や焼成後の膜厚等を含めて、全て同一とした。
【0034】
なお、各結晶子サイズの白金粉末の製造条件の相違点は、以下の通りである。記載していない他の条件は、前述したものと全て同一とした。
10(nm):湿式還元法で製造した0.8(μm)粒子
30(nm):0.8(μm)粒子を300(℃)×10分間の熱処理
50(nm):0.8(μm)粒子を500(℃)×10分間の熱処理
60(nm):0.8(μm)粒子を600(℃)×10分間の熱処理
80(nm):0.2(μm)粒子に混合剤を混合して1300(℃)×1時間の熱処理
100(nm):0.2(μm)粒子に混合剤を混合して1500(℃)×10時間の熱処理
【0035】
上記の評価結果に示されるように、結晶子サイズが10(nm)の場合には、僅か2回の加熱処理で抵抗値の明らかな変化が認められ、4回以上で著しく抵抗値が上昇し、7回の加熱処理で60(%)を超え、13回目で断線した。また、30(nm)の場合にも、4回の加熱処理から抵抗値が著しく上昇し、9回の加熱処理で40(%)もの上昇が認められ、18回目で断線した。また、50(nm)の場合では、12〜15回の加熱処理で急激に抵抗値が上昇し、19回の加熱処理で断線した。したがって、結晶子サイズが10(nm)〜50(nm)の範囲では、繰返しの加熱処理による抵抗値変化が大きく、そのような製造条件や用途には適さないことが明らかである。すなわち、ヒータ等の抵抗発熱体層を形成するための白金ペーストとして不適当であることが判る。
【0036】
これらに対して、結晶子サイズが60(nm)および80(nm)の場合には、10回の加熱処理を施しても抵抗値の上昇は僅か20(%)程度に留まり、20回程度の繰返しの加熱に対しても断線することなく、高い耐久性を有することが確かめられた。
【0037】
図4〜図13は、上記各サンプルの加熱処理後の抵抗発熱体層の外観を示す写真である。これらの写真において、白色の部分がアルミナ製基板、黒色の部分が抵抗発熱体層であり、図2に示すパターンの左端部に対応している。
【0038】
図4、図5は、結晶子サイズが10(nm)の白金粉末を用いて、加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。黒色を呈する抵抗発熱体層内に多数存在する白点は、加熱によって白金が凝集および蒸発(或いは揮散)してアルミナ基板が露出させられたピンホールであり、繰り返し加熱によって抵抗発熱体層の導通方向の断面積が小さくなることが判る。また、15回の加熱処理を施した図5では、凝集および蒸発が更に進行した結果、パターンの一部が断たれている(すなわち断線が生じている)。なお、焼成直後すなわち加熱処理回数が0回の場合の外観は特に示さないが、パターン内にピンホールは全く形成されていない。
【0039】
図6、図7は、結晶子サイズが30(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。30(nm)の結晶サイズでも、繰り返し加熱処理後の白金の凝集延いてはピンホールが顕著に認められ、抵抗発熱体層の導通断面積が著しく小さくなることが判る。また、加熱処理回数が多くなると、ライン形状が悪くなると共に、線幅も細くなることが判る。
【0040】
また、図8、図9は、結晶子サイズが50(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返した後の外観を表している。50(nm)の結晶子サイズでも、繰り返し加熱処理によって多数のピンホールが発生することが判る。15回の加熱処理後には、抵抗発熱体層の幅寸法が小さくなっている。これら10(nm)、30(nm)、および50(nm)における変化は、前記図3に示される抵抗値変化と良く対応している。
【0041】
一方、図10、図11は、60(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返したものである。ピンホールの発生は認められるが、50(nm)以下のものに比較すると、その量が明らかに少なくなっていることが判る。
【0042】
また、図12、図13は、80(nm)で加熱処理をそれぞれ10回、15回繰り返したものである。この結晶子サイズでは、60(nm)のものと比較しても、ピンホールの発生が著しく少なくなっていることが明らかである。これらに示されるようにピンホールの発生が少ないことは、前記の図3に示されるように抵抗値変化が少ないことと良く対応している。すなわち、60(nm)以上の結晶子サイズの白金粉末を用いることにより、高温耐久性が高められることが明らかである。
【0043】
また、100(nm)では、焼結不足で焼成膜の緻密性がやや悪くなる。したがって、導電性がやや低くなるが、繰り返し熱処理を施すことで、徐々に焼成膜が緻密になる。図3において、抵抗値変化が初期段階では減少傾向にある(すなわち抵抗値が低くなる)ことからも、1回目の焼成処理では導電性がやや低いことが判る。
【0044】
また、白金粉末の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製 LA-500)で測定したところ、結晶子サイズが100(nm)のものでは、d90が2.71(μm)、d50が1.63(μm)、d10が0.85(μm)程度であった。結晶子サイズが80(nm)のものでは、同装置で測定すると、d90が1.03(μm)、d50が0.54(μm)、d10が0.29(μm)程度であるから、これに対して、100(nm)の場合の粒径が大きく且つ分布が広くなることが判る。この程度まで粒径が大きく且つ分布が広い粉末でペーストを調製すると、ペーストの充填率が低下して導電性が低くなる傾向があるため、結晶子サイズは100(nm)程度が上限であり、これ以下に留めることが望ましい。
【0045】
要するに、本実施例の白金ペーストは、白金粉末の結晶子サイズが60〜100(nm)の範囲内と十分に大きくされていることから、焼結性が抑えられているので、高温に曝されても凝集が生じ難くなり、延いては加熱による膜質変化や導電性或いは抵抗値の変化が生じ難い抵抗発熱体層を形成することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、0.1〜10(μm)の範囲内の平均粒径を有する白金粉末が用いられることから、適度な焼結性および耐熱性を有する白金ペーストが得られる。
【0047】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例の白金ペーストを用いた抵抗発熱体層の形成方法を説明するための工程図である。
【図2】セラミックヒータの抵抗体パターンの一例を示す平面図である。
【図3】白金粉末の結晶子サイズ毎の繰り返し加熱回数と抵抗値変化率との関係を示す図である。
【図4】結晶子サイズが10(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図5】図4の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図6】結晶子サイズが30(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図7】図6の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図8】結晶子サイズが50(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図9】図8の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図10】結晶子サイズが60(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図11】図10の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【図12】結晶子サイズが80(nm)の白金粉末を用いた抵抗発熱体層の10回の繰り返し加熱後の状態の一例を示す図である。
【図13】図12の抵抗発熱体層の15回の繰り返し加熱後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10:抵抗発熱体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶子サイズが60乃至100(nm)の範囲内の白金粉末が所定のビヒクル中に分散されたことを特徴とする白金ペースト。
【請求項2】
前記白金粉末は、0.1乃至10(μm)の範囲内の平均粒径を有するものである請求項1の白金ペースト。
【請求項3】
セラミックヒータの抵抗発熱体を形成するために用いられるものである請求項1または請求項2の白金ペースト。
【請求項1】
結晶子サイズが60乃至100(nm)の範囲内の白金粉末が所定のビヒクル中に分散されたことを特徴とする白金ペースト。
【請求項2】
前記白金粉末は、0.1乃至10(μm)の範囲内の平均粒径を有するものである請求項1の白金ペースト。
【請求項3】
セラミックヒータの抵抗発熱体を形成するために用いられるものである請求項1または請求項2の白金ペースト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−302848(P2006−302848A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127114(P2005−127114)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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