説明

皮下又は経皮吸収用組成物

【課題】生理活性を有する蛋白質を含有する針状に成型された,皮下または経皮投与用の組成物を提供すること。
【解決手段】超臨界又は亜臨界状態の炭酸ガス中に,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される賦形剤と,生理活性を有する蛋白質を溶解して均質な混合物とし,ついで該混合物を針状に固化することを特徴とする,組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生理活性を有する蛋白質を含有する針状に成型された,皮下又は経皮投与用の組成物に関し,詳しくは,超臨界又は亜臨界状態の流体中に,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを溶解して均質な混合物とし,次いで該混合物を針状に固化することにより製造される,組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質は,高分子の物質であるが故に,蛋白質を有効成分として含有する薬剤は,一般に医療機関に注射剤として供給され,注射器等を用いて,皮下注入,静脈注入,筋肉注入により患者へ投与されている。このような薬剤には,例えば,成長ホルモン,エリスロポエチン,インスリン,インターフェロン,抗体,ワクチンを有効成分として含有するものがある。
【0003】
注射器による投与は,所定量の薬剤を確実に患者に投与できるという点で優れている。その一方で,注射器による投与は,患者が注射時に痛み,恐怖心を感じるという欠点があり,また,注射器の取扱いは医師の指導下に行う必要がある点で不便である。稀に,注射針の材質である金属との接触によって,アレルギー症状を起こす患者もいる。
【0004】
更に,注射器による投与は,医療従事者が,使用後の注射針を誤って自らに刺針することによってウイルス等に感染する危険性を伴い,また,使用後の注射針の廃棄処分に煩雑な手続きを必要とする欠点がある。
【0005】
これらの注射剤の欠点を解消することを目的とした,注射器を使用せずに蛋白質を投与できる組成物についての種々の報告がされている。例えば,経鼻(経肺)投与できる微粒粉末状に調整されたインスリン製剤についての報告がある(特許文献1参照)。また,鼻腔内に適下又はスプレーで噴霧して経鼻投与する溶液状に調整されたエリスロポエチン製剤についての報告がある(特許文献2参照)。経鼻投与は,注射器を使用することなく実施できるという点で優れたものであるが,体内に吸収される薬剤の量が,患者の体調によって変動する欠点がある。例えば,患者が風邪に罹患しており鼻詰まり,咳込み等の症状を有する場合,適正量の投与が困難となる。
【0006】
また,インスリン,成長ホルモン等を経皮的に投与できる皮膚表面に貼り付けるパッチ状の製剤についての報告がある(特許文献3参照)。経皮投与は,皮膚の状態が患者の体調によらず安定であるので,体内に吸収される薬剤の量が患者の体調に依存して変動をきたすことがないという点で,経鼻投与と比較して優れたものといえる。しかし,経皮投与の場合,高分子物質である蛋白質に対する皮膚の透過率は通常低いので,皮膚を透過せずに吸収されない量を見越して,製剤に予め余分な量の蛋白質を含有させる必要がある。蛋白質は一般に高価であるので,皮膚の透過率が低く余分な量の蛋白質を必要とするこのような経皮投与は,医療経済的に大きな欠点を有する。
【0007】
蛋白質の経皮吸収を高めるため,皮膚に貼り付けるパッチの皮膚接触面に,針状に成型した蛋白質を含有する自己溶解型の経皮吸収製剤を配置したものが報告されている(特許文献4,5参照)。このパッチを皮膚に貼り付けると,針状部分が皮膚に刺ささることにより効率よく蛋白質か経皮吸収される。また,針状部分を微細に成型することにより,投与時に患者が痛みを感じないものとすることができる。この方法は,通常の注射器による投与と比較して,注射時に痛み,恐怖心を伴わない点で優れており,また,経鼻投与と比較して,投与量のコントロールができる点で優れたものといえる。
【0008】
このような経皮吸収製剤の製造方法として,表面に微細な孔を開けた鋳型に目的物質を含有する基剤を充填し,乾燥後取り出す方法が報告されている(特許文献4参照)。経皮吸収製剤の場合,適正量を経皮的に患者に投与するために,その形状が確実に針状に成型されることが重要である。しかし,この方法では,基剤を充填する際に,孔の中に取り残された気泡が,均一な針状の形状を有する製剤の成型を妨げる可能性がある。
【0009】
経鼻(経肺)投与の場合,製剤の製造方法として,超臨界状態の流体中に被覆剤と共に有効成分を懸濁して,被覆剤に覆われた微粒子として得る方法が知られている(特許文献6参照)。ここで用いられている超臨界状態の流体は,二酸化炭素を溶媒とするものであり,また有効成分としてインスリン等のペプチドが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 WO2003/045418
【特許文献2】 特開昭62−89627号公報
【特許文献3】 WO2008/108209
【特許文献4】 WO2006/080508
【特許文献5】 特開2008−284318号公報
【特許文献6】 WO2001/012160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記背景の下で,本発明の一目的は,生理活性を有する蛋白質を含有する針状に成型された,皮下又は経皮投与用の新たな組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,超臨界(亜臨界状態)の炭酸ガス中でマンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)等の賦形剤と,成長ホルモン等の生理活性を有する蛋白質とを溶解して均質な混合物とし,ついで該混合物を針状に固化することで,優れた皮下又は経皮投与用の組成物を成型できることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を提供する。
(1)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質との均質な混合物からなる組成物であって,尖った先端を有する針状に成型された,皮下又は経皮投与用の組成物。
(2)一方の端が尖った先端を有し,他の一方の端が長軸方向に対して垂直な平面を有する,針状に成型された,上記(1)の組成物。
(3)生理活性を有する蛋白質が,成長ホルモン,エリスロポエチン,インスリン,インターフェロン,リソソーム酵素,インターロイキン,抗体,抗体の断片,ペプチドワクチンからなる群から選択されるものである,上記(1)又は(2)のいずれかに記載の組成物。
(4)平面状の支持体の表面上に,上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物が,該組成物の尖った先端が前記支持体の表面に対して遠位となるように保持された,シート。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の組成物の製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を乾燥させて,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
(6)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物の製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を,超臨界流体の溶媒の沸点以下の温度で凍結させるステップと,
(d)上記(c)で凍結させた混合溶液から,超臨界流体の溶媒を昇華させて除去し,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
(7)超臨界流体の溶媒が,二酸化炭素,エタン,エチレンからなる群から選択される1種又は複数の物質から構成されるものである,上記(5)又は(6)の製造方法。
(8)上記(4)に記載のシートの製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を乾燥させて,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップと,
(d)上記(c)で固化させた組成物に平面状の支持体を押し当てて,組成物と支持体を圧着させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
(9)上記(4)に記載のシートの製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んた混合溶液を,超臨界流体の溶媒の沸点以下の温度で凍結させるステップと,
(d)上記(c)で凍結させた混合溶液から,超臨界流体の溶媒を昇華させて除去し,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップと,
(e)上記(d)で固化させた組成物に平面状の支持体を押し当てて,組成物と支持体を圧着させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
(10)超臨界流体の溶媒が,二酸化炭素,エタン,エチレンからなる群から選択される1種又は複数の物質から構成されるものである,上記(8)又は(9)の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,生理活性を有する蛋白質を,注射器を使用せずに患者に投与できるため,投与時に患者が痛みや恐怖心を抱くことがない。乳児,幼児,及び学齢期の子供は,特に注射器に対して恐怖心を有するので,これらの患者の投薬時のストレスを解消できる。更には,注射器が不要となるので,注射器を医療廃棄物として処分するための煩雑な手続きが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例における装置を模式的に示す図。
【図2】実施例における鋳型を模式的に示す斜視図。
【図3】実施例における鋳型を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において「針状の形状」又は「針状」というときは,一方の端が錐状に尖った形状のことをいい,円錐,三角錐,四角錐,その他の多角錐,及び円柱,三角柱,四角柱,その他の多角柱の一方の端を錐状に尖らした形状を含む。
【0016】
本発明において「皮下又は経皮投与用の組成物」とは,表皮,真皮及び/又は皮下組織中に突き刺す又は刺入れることにより,医薬品,化粧品等を局所又は全身に投与するための組成物をいう。
【0017】
本発明の組成物おいて,賦形剤として使用できる物質は,超臨界流体の溶媒に安定して溶解できる物質で,且つ常温で固体のものであれば特に制限はないが,好ましくは,グルコース,マンノース,ガラクトース,キシロース,アラビノース,フルクトース等の単糖類,スクロース,マルトース,トレハロース,ラクトース等の二糖類,グリコーゲン,デキストリン,コンドロイチン硫酸,アミロース,アミロペクチン,アガロース,ヘパリン,ヒアルロン酸,ペクチン,キトサン,キチン等の多糖類,塩化ナトリウム等の無機塩類,ポリ乳酸,ポリグリコール酸,ポリ(ラクチド−co−グリコリド),コラーゲン又はゼラチンであり,より好ましくはマンノース,ヒアルロン酸,ポリ乳酸,ポリグリコール酸,ポリ(ラクチド−co−グリコリド),コラーゲン又はゼラチンであり,更に好ましくはポリ乳酸又はポリ(ラクチド−co−グリコリド)である。これらの2種又はそれ以上の混合物も,賦形剤として好適に使用できる。
【0018】
賦形剤としてポリ乳酸を使用するとき,ポリ乳酸は,D−乳酸のみの重合体であるポリ−D−乳酸であっても,D−乳酸とL−乳酸との重合体であるポリ−D,L−乳酸であってもよく,ポリ−D,L−乳酸は,D体とL体がランダムに結合したものであっても,ブロック状に結合したものであってもよい。この他,乳酸と他のモノマーが重合したポリマー,例えば,乳酸−ポリエチレンクリコールコポリマーであってもよい。また,賦形剤として用いられるポリ乳酸の分子量は,好ましくは1000〜100万,より好ましくは3000〜4万である。
【0019】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)は,乳酸とグリコール酸が重合したものであり,ポリ乳酸の一種でもある。賦形剤として用いられるポリ(ラクチド−co−グリコリド)の分子量は,好ましくは1000〜100万,より好ましくは3000〜4万である。
【0020】
本発明の組成物において,生理活性を有する蛋白質として使用できる物質は,特に制限はないが,好ましくは,成長ホルモン,エリスロポエチン,インスリン,インターフェロン,各種ライソソーム酵素(イズロン酸2−スルファターゼ,α−ガラクトシダーゼA,グルコセレブロシダーゼ,酸性α−グルコシダーゼを含む),各種インターロイキン(IL−2,IL−6を含む),卵胞刺激ホルモン,顆粒球コロニー刺激因子,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子,マクロファージコロニー刺激因子,トロンボモジュリン,各種血液凝固因子(第VII因子,第VIII因子,第IX因子を含む),抗体,抗体の断片,ペプチドワクチンであり,特に成長ホルモン,エリスロポエチン,インスリン,インターフェロン,リソソーム酵素,インターロイキン,抗体,抗体の断片,ペプチドワクチンが好適に使用できる。
【0021】
本発明の組成物の製造方法において,超臨界流体の溶媒として使用できる物質は,好ましくは臨界温度が273〜333K(熱力学温度)である物質を単独で又は組み合わせたものであり,より好ましくは二酸化炭素,エタン,エチレンを単独で又は組み合わせたものであり,更に好ましくは,二酸化炭素である。
【0022】
超臨界流体の溶媒への賦形剤と生理活性を有する蛋白質の混合は,超臨界流体の臨界圧力に耐え得る密閉された加圧室内で行う。二酸化炭素,エタン,エチレンの臨界圧力は,各々7.38Mpa,4.87Mpa,5.04Mpaであるので,超臨界流体としてこれらの物質を使用する場合,加圧室内の圧力が,これらの臨界圧力以上の圧力となるように,加圧室に圧力が加えられる。混合操作は,加圧室内の圧力を臨界圧力以上の高圧に保持し得る装置,例えばオートクレーブを用いて行う。これらの機器を用いる場合,超臨界流体の溶媒,賦形剤及び蛋白質を機器内に設けられた加圧室に密閉し,圧力を加えて混合操作を行う。
【0023】
二酸化炭素,エタン,エチレンの臨界圧力は,各々7.38Mpa,4.87Mpa,5.04Mpa,臨界温度は,各々304.1K,305.3K,282.4Kであるので,超臨界流体としてこれらの物質を使用する場合,混合操作の際の密閉された容器内の圧力及び温度は,これらの臨界圧力,臨界温度以上に設定される。超臨界流体の溶媒として二酸化炭素を用いる場合,混合操作時の容器内の温度は,好ましくは32〜60℃,より好ましくは35〜40℃,その圧力は好ましくは80〜250×10Pa,より好ましくは100〜220×10Paに設定される。
【0024】
本発明の製造方法において,超臨界流体と賦形剤等との混合溶液は,通常は,密閉された容器に設けられたドレインバルブを通じて,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込まれるか,又は容器を傾けることにより鋳型に流し込まれる。
【0025】
このとき用いる鋳型に設けられた針状の形状の孔は,所望に応じて,円錐,三角錐,四角錐,その他の多角錐,及び円柱,三角柱,四角柱,その他の多角柱の一方の端を錐状に尖らした形状のものから選択される。孔の配列,密度,大きさも所望に応じて選択される。但し,孔の大きさは,得られた組成物を,皮下組織中に突き刺す又は刺入れた場合に,患者が痛みを感じないか,苦痛にならない程度のものに成型できるものであり,例えば,孔の直径は50〜300μm,孔の錐状に尖った先端部までの深さは300〜1mmである。
【0026】
混合溶液を鋳型に流し込んだとき,鋳型の孔に空気が取り残され,所望の針状の組成物が得られない場合がある。このような場合,孔を貫通孔とした鋳型を使用する。貫通孔とすることで,空気が貫通孔を通して混合溶液により押し出されるので,所望の針状の組成物が得られる。貫通孔の一方を減圧にすることにより,更に確実に鋳型の孔中の空気を除くこともできる。
【0027】
鋳型に流し込んだ後,鋳型の孔内の混合溶液を乾燥させ,針状に固化した組成物を得る。このとき,混合溶液の乾燥は,圧力を臨界圧力以下にまで減圧することにより,超臨界流体の溶媒を気化させることにより行う。乾燥時の圧力は,超臨界流体の溶媒の急激な気化により,針状の形状の形成が損なわれない範囲に調節して減圧される。鋳型に流し込んだ後,混合溶液が凍結するまで温度を下げて,次いで減圧して超臨界流体の溶媒を昇華させて組成物として固化させることもできる。このときの凍結温度は,常圧下で昇華操作ができるよう,超臨界流体の溶媒の常圧での沸点以下とすることが好ましい。例えば,超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合,その沸点(−78.5℃)以下にまで温度を下げて二酸化炭素を凍結してドライアイスとし,次いで常圧にまで減圧してドライアイスを昇華させて二酸化炭素を除去することができる。
【0028】
本発明のシートにおいて,平面状の支持体として使用できる支持体は,皮膚に密着させることのできる柔軟性を有する基材からなる。支持体の表面と鋳型の孔に表れた組成物の表面のいずれか一方又は両方の表面に予め糊を塗布してから,鋳型の上面から支持体を押し当てることにより,支持体と組成物を圧着させることができる。ここで圧着とは,圧力を加えることにより部材相互間を固定することをいう。
【0029】
鋳型の表面に汚れが付着している場合,鋳型に支持体を押し付ける前に,その汚れを除去することが好ましい。そのような汚れは,鋳型の孔に入らなかった混合溶液が,鋳型の表面上で乾燥したもの等であり,組成物と支持体の均等な圧着を妨げる原因となる。圧着後,支持体を鋳型から引き離すと,支持体の表面上に,その針状の形状の尖った先端が支持体の表面に対して遠位となるように組成物が保持されたシートが得られる。支持体の皮膚に密着させる面に,糊を塗布することにより,皮膚に貼り付け可能なシートとすることができる。このようなシートは,皮膚に貼り付けて使用する一般的なシップ剤と同様に扱うことができるので,使用者の利便を高めることができる。本発明のシートは,組成物の針状の形状が損なわれないように保護できる容器に包装して,医療従事者,患者等の利用者に供給される。
【実施例】
【0030】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0031】
〔成長ホルモンを含有する組成物の製造〕
図1〜図3は,実施例の組成物の製造に用いる製造装置及び鋳型の模式図である。加圧室1に400gのドライアイスを入れ,加圧室1内の温度を35℃に維持しつつ,加圧蓋1で加圧室1内の圧力が100×10Paとなるまで加圧して,二酸化炭素の超臨界流体を得る。このとき,加圧室1の温度をサーモスタットによって一定に維持する。
【0032】
成長ホルモン原体を10gとポリ乳酸50gを加圧室2に入れる。加圧室2を密封し,加圧室2上部に設けたドレインバルブ1を開放して,加圧室1から,超臨界流体の二酸化炭素0.5Lを加圧室2に流し込む。ドレインバルブ1を閉じ,加圧室2内の温度を35℃,圧力を100×10Paに保って超臨界流体状態を維持しつつ,均質な混合溶液が得られるまで溶液を攪拌する。このとき,加圧室2内の圧力は,加圧蓋2に圧力を加えることによって一定に維持される。また,加圧室2の温度はサーモスタットによって一定に維持される。
【0033】
攪拌後,加圧室2下部に設けたドレインバルブ2を開放するとともに,加圧蓋2を押し下げて,混合溶液を加圧室2から加圧室3に流し出す。予め加圧室3に設けた基台上に上面に複数の円錐形の孔を有する平面状の鋳型を固定しておき,この上に混合溶液を重層する。このとき,加圧室3内の温度及び圧力を,それぞれ35℃,100×10Paに維持する。このとき,加圧室3内の圧力は,加圧蓋2に圧力を加えることによって調整される。また,加圧室3の温度はサーモスタットによって一定に維持される。
【0034】
鋳型の円錐形の孔は,鋳型の底面に貫通孔を通じて貫通しており,この貫通孔は基台を貫通する孔を介して減圧バルブ1に通じている。混合溶液の鋳型への重層が完了した後,数秒間,減圧バルブ1を開放して,貫通孔から鋳型の孔に残った気泡を吸い出し,鋳型の孔を混合溶液で完全に満たす。
【0035】
ドレインバルブ2と減圧バルブ1を閉じ,加圧室3内の温度を−100℃まで下げ,混合溶液を完全に凍結させる。凍結後,減圧バルブ2を開放して,加圧室3内を減圧し,二酸化炭素を昇華させる。
【0036】
二酸化炭素を完全に昇華させた後,加圧室3内を常温常圧とし,鋳型を取り出して鋳型の孔中で固化した組成物が形成されていることを確認する。
【0037】
〔シートの製造〕
鋳型を固定台に固定し,その表面をへらで削り取り,付着物を取り除く。鋳型の上面に,鋳型と接する側に糊を塗布した平面状の支持体を上方から押し当てる。ローラを用いて鋳型と支持体を均一に押し当て,鋳型の孔中で固化した組成物を支持体に圧着させる。支持体を鋳型から剥がして,支持体の一方に円錐形の組成物が圧着されたシートを得る。シートを,組成物の円錐形の形状が破壊されないように密封して包装し,添付文書とともにパッケージする。
【0038】
〔成長ホルモンを含有する他の組成物の製造〕
成長ホルモンと賦形剤と超臨界流体の二酸化炭素とを,表1の割合で混合して混合溶液とし,組成物又はシートを製造する。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば,生理活性を有する蛋白質の皮下又は経皮吸収用の組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:加圧室1
2:加圧蓋1
3:加圧室2
4:ドレインバルブ1
5:加圧蓋2
6:ドレインバルブ2
7:加圧室3
8:基台
9:減圧バルブ1
10:減圧バルブ2
11:鋳型
12:孔
13:貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質との均質な混合物からなる組成物であって,尖った先端を有する針状に成型された,皮下又は経皮投与用の組成物。
【請求項2】
一方の端が尖った先端を有し,他の一方の端が長軸方向に対して垂直な平面を有する,針状に成型された,請求項1の組成物。
【請求項3】
生理活性を有する蛋白質が,成長ホルモン,エリスロポエチン,インスリン,インターフェロン,リソソーム酵素,インターロイキン,抗体,抗体の断片,ペプチドワクチンからなる群から選択されるものである,請求項1又は2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
平面状の支持体の表面上に,請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物が,該組成物の尖った先端が前記支持体の表面に対して遠位となるように保持された,シート。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物の製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を乾燥させて,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物の製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を,超臨界流体の溶媒の沸点以下の温度で凍結させるステップと,
(d)上記(c)で凍結させた混合溶液から,超臨界流体の溶媒を昇華させて除去し,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
【請求項7】
超臨界流体の溶媒が,二酸化炭素,エタン,エチレンからなる群から選択される1種又は複数の物質から構成されるものである,請求項5又は6の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のシートの製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を乾燥させて,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップと,
(d)上記(c)で固化させた組成物に平面状の支持体を押し当てて,組成物と支持体を圧着させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載のシートの製造方法であって,
(a)マンノース,ポリ乳酸,ヒアルロン酸,コラーゲン,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)からなる群から選択される1又は複数の賦形剤と,生理活性を有する蛋白質とを,超臨界流体の溶媒に均質になるまで混合して混合溶液を調整するステップと,
(b)上記(a)で得た混合溶液を,針状の形状の孔を有する平面状の鋳型に流し込むステップと,
(c)上記(b)で鋳型に流し込んだ混合溶液を,超臨界流体の溶媒の沸点以下の温度で凍結させるステップと,
(d)上記(c)で凍結させた混合溶液から,超臨界流体の溶媒を昇華させて除去し,鋳型中で針状に組成物を固化させるステップと,
(e)上記(d)で固化させた組成物に平面状の支持体を押し当てて,組成物と支持体を圧着させるステップとを,
この順で含んでなる,製造方法。
【請求項10】
超臨界流体の溶媒が,二酸化炭素,エタン,エチレンからなる群から選択される1種又は複数の物質から構成されるものである,請求項8又は9の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−31177(P2012−31177A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−184138(P2011−184138)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】