説明

皮膚外用剤

【課題】高温保存条件下でも長期間安定で、かつ使用感の良好な皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)
(A)次の一般式(1)で表わされるアミド誘導体、


(式中、R1は炭素数10〜26の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、R2は炭素数9〜25の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、Xは基−(CH2n−、−(CH2CH2O)m−CH2CH2−又は−CH2CH(OH)−CH2−から選ばれる基を示す。但しn及びmは2〜6の数を示す)
(B)非イオン性界面活性剤、
(C)N−長鎖アシルアルキルタウリン塩、
(D)シア脂、
(E)水性媒体
を含有し、成分(B)及び(C)と成分(D)との含有質量比(D)/{(B)+(C)}が0.5〜2.0である皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性脂質を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層である角層は、外部からの物質の進入を抑制すると同時に、自身が水分を保持することにより皮膚の柔軟性やなめらかな外観を保つ機能を持っている。荒れ肌、乾燥肌、老化肌等においては、この角層の水分量が低下していることから、角層の水分を保持又は角層に水分を供給するための油剤や水溶性保湿成分を配合した化粧料が広く用いられている。一方、角層を構成する角質細胞の間隙には、角質細胞間脂質と呼ばれる両親媒性脂質が角質細胞のすきまを埋めるように存在しており、このような両親媒性脂質に着目した皮膚外用剤も、数多く報告され、広く使用されるに至っている(特許文献1〜3)。
【0003】
しかし、広く用いられている角質細胞間脂質やその類似体等の両親媒性物質は、室温で固体であることから、皮膚外用剤に安定に配合することは非常に難しい。そこで近年では安定配合に関する検討も成されている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−29508号公報
【特許文献2】特開昭62−120308号公報
【特許文献3】特開昭62−228048号公報
【特許文献4】特開平04−193814号公報
【特許文献5】特開平05−43441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一概に安定配合といってもそれを妨げる原因には色々あり、従来、両親媒性脂質が三次元構造を作りやすいため、高温において経時的に流動性がなくなったり指どれが悪くなる等、両親媒性脂質の析出や流動性の低下が、安定配合を妨げる原因として報告されていた。
本発明者は、今般、両親媒性脂質含有の皮膚外用剤を高温保存条件下で長期間保存すると油層や水層の分離が起きてしまうという問題があることを見出した。
【0006】
従って、本発明の課題は、高温保存条件下でも長期間油層や水層の分離が抑制され、かつ使用感の良好な皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討したところ、両親媒性脂質であるアミド誘導体と非イオン性界面活性剤と長鎖アシルアルキルタウリン塩とを併用し、これにシア脂を一定量配合することにより顕著に高温での油層や水層の分離が抑制され、かつ使用感の良好な皮膚外用剤が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)
(A)次の一般式(1)で表わされるアミド誘導体、
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は炭素数10〜26の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、R2は炭素数9〜25の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、Xは基−(CH2n−、−(CH2CH2O)m−CH2CH2−又は−CH2CH(OH)−CH2−から選ばれる基を示す。但しn及びmは2〜6の数を示す)
(B)非イオン性界面活性剤、
(C)N−長鎖アシルアルキルタウリン塩、
(D)シア脂、
(E)水性媒体
を含有し、成分(B)及び(C)と成分(D)との含有質量比(D)/{(B)+(C)}が0.5〜2.0である皮膚外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚外用剤は、高温で保存しても油層や水層の分離が抑制され、かつ肌へのなじみ感が良く、べたつかず、使用感も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる一般式(1)で表されるアミド誘導体は、両親媒性物質であり、角質層の水分保持能力を改善する作用を有するものである。
【0013】
一般式(1)中、R1で示される炭化水素基は炭素数10〜26のものであるが、就中炭素数14〜18のものが好ましく、また、R2で示される炭化水素基は炭素数9〜25のものであるが、就中炭素数14〜18のものが好ましい。また、これらの炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。斯かる炭化水素基の具体例としては、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、ドコシル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、エイコセニル、ドコセニル、デカジエニル、ドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、オクタデカジエニル、エイコサジエニル、ドコサジエニル、テトラコサジエニル、ヘキサコサジエニル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルウンデシル、2−デシルテトラデシル基等が挙げられる。
【0014】
一般式(1)中、Xとしては、−(CH2n−、−CH2CH(OH)CH2−が好ましい。またn及びmは2〜4が好ましく、特に2が好ましい。
【0015】
これらの(A)成分のアミド誘導体は単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができ、(A)成分の本発明皮膚外用剤中の含有量は、スキンケア効果及び分離抑制の点から0.1〜10質量%が好ましく、さらに0.5〜5質量%であることが好ましく、特に3〜4質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられる(B)非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリセリンエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、アルキルポリグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、アミンオキシド等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤中のアルキル基及び脂肪酸の炭素数は8〜20が好ましい。特に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタンエステル系非イオン性界面活性剤が分離抑制の点で好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することでき、本発明皮膚外用剤中に、0.05〜30質量%含有するのが分離抑制及び使用感の点から好ましく、特に2〜5質量%含有するのが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる(C)N−長鎖アシルアルキルタウリン塩としては、次の一般式(2)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R3は炭素数7〜19のアルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基を示し、R4は炭素数1〜3のアルキル基を示し、Mはアルカリ金属又は有機アミンを示す)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中、R3CO−で示されるアシル基の具体例としては、ラウロイル、パルミトイル、ステアロイル、オレオイル、ヤシ油脂肪酸由来のココイル基(R3の炭素数が11〜19の間に分布しているアルカノイル基)等が挙げられる。R4で示されるアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル基等が挙げられる。さらに対イオンMの具体例としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。
【0021】
一般式(2)中、R3で示される炭化水素基は炭素数7〜19のものであるが、就中炭素数14〜18のものが分離抑制及び使用感の点から好ましい。これらの(C)成分のN−長鎖アシルアルキルタウリン塩は単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができ、その本発明皮膚外用剤中の含有量は、分離抑制及び使用感の点から0.01〜5質量%が好ましく、特に0.1〜2質量%が好ましい。
【0022】
本発明に用いられる(D)シア脂はシアの木の実由来の脂肪で、シアバターとも称されている。当該シア脂としては、例えば、Cropure SB(クローダジャパン株式会社製)の商品名で市販されているものを使用することができる。シア脂は、分離抑制及び使用感の点から、本発明皮膚外用剤中に2〜6質量%とするのが好ましく、さらに3〜5質量%含有するのが好ましく、特に4〜4.5質量%含有するのが好ましい。
【0023】
本発明の皮膚外用剤は、成分(B)及び(C)と成分(D)との含有質量比(D)/{(B)+(C)}が、0.5〜2であることが、分離抑制及び使用感の点で重要である。当該含有比がこの範囲内であると分離抑制や使用感において十分な効果が発揮される。より好ましい含有質量比(D)/{(B)+(C)}は、0.6〜1.9であり、特に好ましくは0.7〜1.8である。
さらに、成分(D)と成分(A)との含有質量比(D)/(A)が、0.5〜1.8、特に0.7〜1.5であると分離抑制や使用感が好ましいものとなる。
【0024】
本発明皮膚外用剤に用いられる(E)水性媒体としては、水及び水溶性有機溶媒が挙げられ、具体的には、水、エタノール、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ジイソプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール等の水、水溶性アルコール、ポリオール及びこれらの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
当該(E)水性媒体の本発明皮膚外用剤中の含有量は、分離抑制及び使用感等の点から50〜90質量%が好ましく、さらに55〜80質量%が好ましい。
【0025】
本発明皮膚外用剤には、前記成分の他に、(D)成分以外の油性物質、粉体、他の保湿剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を含有させることができる。
【0026】
(D)成分以外の油性物質としては、通常化粧料に使用されている一般化粧料油剤を用いることができる。これらの油剤は特に限定されないが、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン油;アボカド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油等の植物油;オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸;ベヘニルアルコール、オクタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類;2−エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸−2−エチルヘキシル、ミリスチン酸−2−オクチルドデシル、ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセロール、オレイン酸−2−オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセロール、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセロール、オレイン酸−2−オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセロール、2−エチルヘキサン酸ジグリセリド、ジ−パラメトキシケイヒ酸−モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル等のエステル類;流動イソパラフィン、コレステロール、ワセリン、スクワレン、スクワラン等の炭化水素油等が挙げられ、特に油性感、べたつき感を軽減する場合には、揮発性のジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン等のシリコーン油を好ましいものとして例示することができる。この場合、皮膚外用剤におけるシリコーン油の好ましい含有量は1〜10質量%である。また、ベヘニルアルコール等の高級アルコール類を1〜5質量%、流動イソパラフィン、コレステロール等の炭化水素油を1〜10質量%含有させることも、分離抑制及び使用感の点で好ましい。
【0027】
これらの他の油性物質は単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができ、その本発明皮膚外用剤中の含有量は1〜30質量%、特に5〜20質量%であることが好ましい。またこれらの他の油性物質は、(D)成分に対して、質量比で0.2〜10、特に1.0〜3.0含有することがより使用感の面から好ましい。
【0028】
なお、本発明では、皮膚外用剤で一般的に用いられている増粘剤の含有量が少なくても分離抑制が達成される。増粘剤とは、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体やアクリル酸アルキル重合体、アクリル酸アルキル及び/又はメタクリル酸アルキルの1種以上のモノマーとポリオキシエチレンアルキルエーテルとの共重合体であるアクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・ポリオキシエチレンステアリルエーテル共重合体等が挙げられ、中でも、アクリル酸共重合体等が挙げられる。これら増粘剤の本発明皮膚外用剤中の含有量は、0.05質量%以下であっても良く、さらに0.01質量%以下であっても良く、特に増粘剤を実質的に含まなくても良い。
【0029】
本発明の皮膚外用剤の形態は、水中油型乳化物であるのが好ましく、クリーム、ファンデーション、乳液、日焼け止めとするのが好ましい。本発明皮膚外用剤のpHは、健常の肌により近く肌にやさしい点から弱酸性が好ましく、特にpH4〜6が好ましい。本発明の皮膚外用剤で、このようなpH値を達成するために、好ましいpH調整剤の組み合わせとしては、コハク酸、クエン酸、クエン酸Na、グリコール酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルタミン酸等の有機酸を含有する酸を好ましくは0.01〜0.20質量%、特に好ましくは0.05〜0.15質量%含有させることが良い。さらに好ましくは、上記酸に加え、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、アルギニン等のアルカリ剤を好ましくは0.001〜0.02質量%、特に好ましくは0.005〜0.015質量%併用することが良い。
【0030】
本発明の皮膚外用剤は、例えば、次のようにして製造される。成分(A)、(B)、(D)及び(D)以外の油性物質を含有する油相成分を(高温80〜90℃で)溶解し、これに別途同程度の温度に加熱した成分(C)、(E)を含有する水相成分を加え撹拌し、(室温20〜30℃まで)徐冷することにより、微細な脂質分散乳化物である本発明の皮膚化粧料が得られる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1〜6
(調製方法)
1.油相成分を80℃に加熱溶解する。
2.水相成分を80℃に加熱溶解する。
3.攪拌している油相に水相を加え、ホモミキサーで処理し、室温まで除冷することで乳化物を得る。
【0033】
(安定性評価方法)
上記製造法で得られた乳化物をガラスびんに入れて50℃で1ヶ月保存した。これを室温にもどし外観を観察し下記基準で評価した。
○:分離現象のない均一な乳化物
×:分離現象あり
【0034】
(試験方法)
専門パネリスト10名が、調製したクリームを実際に使用し、実用評価を行った。評価項目は、肌になじむ感じ、塗布後のべたつきの2項目であり、下記基準により評価した。
(評価基準)
◎:8名以上が良好と感じた。
○:6名以上が良好と感じた。
△:4名以下が良好と感じた。
×:2名以下が良好と感じた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1及び表2から明らかなように、アミド誘導体(1)に、非イオン性界面活性剤及びN−長鎖アシルアルキルタウリン塩を配合した皮膚外用剤に、シア脂を一定量配合することにより分離が抑制され、かつ使用感の良好な皮膚外用剤が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)次の一般式(1)で表わされるアミド誘導体、
【化1】

(式中、R1は炭素数10〜26の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、R2は炭素数9〜25の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、Xは基−(CH2n−、−(CH2CH2O)m−CH2CH2−又は−CH2CH(OH)−CH2−から選ばれる基を示す。但しn及びmは2〜6の数を示す)
(B)非イオン性界面活性剤、
(C)N−長鎖アシルアルキルタウリン塩、
(D)シア脂、
(E)水性媒体
を含有し、成分(B)及び(C)と成分(D)との含有質量比(D)/{(B)+(C)}が0.5〜2.0である皮膚外用剤。
【請求項2】
成分(D)の含有量が2〜6質量%である請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
さらに(D)成分以外の油性物質を含有する請求項1又は2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
pHが4〜6である請求項1〜3の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
さらにpH調整剤を含有する請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
さらに増粘剤の含有量が0.05質量%以下である、又は増粘剤を含有しない請求項1〜5の何れか一項に記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2011−178677(P2011−178677A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42010(P2010−42010)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】