説明

皮革様シートおよびその製造方法

【課題】外観、風合い、物性に優れる皮革様シートの製造方法および皮革様シートを提供する。さらには、高い耐光性、耐摩耗性をポリウレタン等の高分子弾性体を実質的に含まずに達成し、リサイクル性、耐黄変性等に優れる皮革様シートの製造方法および皮革様シートを提供する。
【解決手段】目付が150〜400g/m、密度が0.20〜0.35g/cmの極細繊維不織布を、孔間隔が0.15〜1.50mmで配置されたノズルから1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で高速流体処理して、密度を0.35〜0.50g/cmにすることを特徴とする皮革様シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として繊維素材からなり、外観、風合い、物性に優れ、特に、高い耐光性、耐摩耗性を要求される自動車内装材や、ホテルや劇場等のコントラクト家具に好適に使用できる皮革様シートの製造方法および皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
極細繊維と高分子弾性体からなる皮革様シートは、天然皮革に似たタッチを有しており、イージーケア性のような天然皮革にない優れた特徴を併せ持つことから、種々の用途に広く使用されている。
【0003】
一般的に、不織布・ウエブなどの繊維シートにポリウレタン等の高分子弾性体溶液を含浸した後、その繊維シート状物を水または有機溶剤水溶液中に浸漬して高分子弾性体を湿式凝固する方法が採用されている。
【0004】
しかし、実用に耐えうる強度、寸法安定性等を得るために、多量の高分子弾性体を使用するため、高分子弾性体の原料コストや高分子弾性体を含浸・凝固・乾燥する製造コストが大きくなり、皮革様シートは高価になっている。
【0005】
また、高分子弾性体が多くなるとゴムライクな風合いになりやすく、天然皮革に似た充実感を得ることが困難になる。さらに、高分子弾性体を含浸するための溶媒として、一般的にN,N’−ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられているが、作業環境の点から好ましくない。
【0006】
また、近年は環境や資源の保護等の目的でリサイクル性が重視されており、例えばポリエステルの分解回収方法(例えば、特許文献1参照)やポリウレタンの分解方法(例えば、特許文献2参照)が検討されている。しかし、これらの方法はいずれも主として単一成分のものに適用され、かかる皮革様シートのような繊維とポリウレタン等の高分子弾性体が不離一体化した複合素材では、その分解方法が異なるため適用が困難である。したがって、それぞれの成分に分離する必要があるが、コストが大きく、また完全に分離することも困難である。
【0007】
加えて、ポリウレタン等はNOxガス等によって黄変しやすいことから、白色やこれに近い色の皮革様シートを得ることが困難となっている。
【0008】
これらの問題点を解消するため、ポリウレタン等の高分子弾性体を低減させた、若しくは実質的に含まない皮革様シートが提案されている。
【0009】
例えば、外観を形成する極細繊維と、熱や溶剤での膨潤によって融着してバインダーとして働く繊維からなる皮革様シートの製造方法(例えば、特許文献3参照)、柔軟化を狙って、バインダー繊維が極細繊維からなる皮革様シートの製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この方法では融着の頻度や程度を制御することが困難であるとともに、プレスのような圧力によって融着させるため基材の厚さ方向でも均一な融着状態が得にくく、十分な物性が得られないか、ペーパーライクになってしまう問題があった。
【0010】
一方、ニードルパンチを行った後、高速流体処理を行う方法によって、絡合を向上させる方法が種々提案されている(例えば、特許文献5参照)。この方法は高速流体処理の交絡効率を高める手段として有用である。しかしながら、本発明者らの検討の結果、単にニードルパンチと高速流体処理を組み合わせても、ポリウレタンの付着量を低下させうるほど、不織布の物性を向上することが困難であるということが判った。
【0011】
さらに、極細繊維を用いた複数の抄造ウエブ層の間に通気度が大きい布帛を挿入した構造物を水流交絡によって一体化する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。この方法によれば、織物が積層されているため染色時に破れるという問題はないものの、高分子弾性体を付与しなければ皮革様シートとして、製品表面の耐摩耗性が不十分であった。
【0012】
前述の課題に対して、本発明者らは高速流体処理を含むプロセスによって、極細繊維同士の交絡の頻度、程度を高めることに成功し、高分子弾性体を実質的に含まない皮革様シートを達成できることを見出した(例えば、特許文献7参照)。この手段によれば、ポリウレタンなどの高分子弾性体がなくてもペーパーライクな風合いとならず、衣料、家具等の使用に耐えうる摩耗、引張、引裂、耐光などの物性が得られる。
【0013】
しかしながら、一部の用途、特に自動車内装材や各種コントラクト家具では高い耐光性、耐摩耗性を要求されるため、耐光性に優れる分散染料で染色した比較的太いポリエステル極細繊維によって皮革様シートを形成することが好ましい。ところが、高速流体処理による極細繊維同士の交絡の程度が、繊維径が大きくなるにしたがって低下するため、これらの用途に対して十分な性能を有する皮革様シートはなかった。
【特許文献1】WO01/30729号公報
【特許文献2】特開2001−348457号公報
【特許文献3】特公平7−62301号公報
【特許文献4】特開昭61−201086号公報
【特許文献5】特公平1−18178号公報
【特許文献6】特開平7−109654号公報
【特許文献7】特開2005−054345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、外観、風合い、物性に優れる皮革様シートの製造方法および皮革様シートを提供する。さらには、高い耐光性、耐摩耗性をポリウレタン等の高分子弾性体を実質的に含まずに達成し、リサイクル性、耐黄変性等に優れる皮革様シートの製造方法および皮革様シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前述の課題を解決するため、以下の構成を有する。すなわち、
(1)目付が150〜400g/m、密度が0.20〜0.35g/cmの極細繊維不織布を、孔間隔が0.15〜1.50mmで配置されたノズルから1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で高速流体処理して、密度を0.35〜0.50g/cmにすることを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【0016】
(2)単繊維繊度が1〜10dtexの極細繊維発生型複合繊維を用いて、ニードルパンチ法により複合繊維不織布を製造し、次いで極細繊維発現処理を行って得た極細繊維不織布を用いることを特徴とする前記(1)に記載の皮革様シートの製造方法。
【0017】
(3)前記極細繊維の単繊維繊度が0.05〜0.50dtexであり、繊維長が10〜100mmであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の皮革様シートの製造方法。
【0018】
(4)前記ジェット力が、20〜60MPaに加圧した流体を孔径が0.08〜0.25mmのノズルから吐出することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法。
【0019】
(5)前記極細繊維不織布と織編物を高速流体処理によって積層一体化することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法。
【0020】
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法によって得られたことを特徴とする皮革様シート。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外観、風合い、物性に優れる皮革様シートの製造方法を提供できる。さらには、高い耐光性、耐摩耗性をポリウレタン等の高分子弾性体を実質的に含まずに達成し、リサイクル性、耐黄変性等に優れる皮革様シートの製造方法および皮革様シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で得られる皮革様シートは実質的にポリウレタン等の高分子弾性体を含まず、実質的に非弾性ポリマーの繊維材料からなるものである。ここでいう「実質的に非弾性ポリマーの繊維素材からなる」とは、ポリウレタン等の高分子弾性体からなるバインダーの含有量が繊維に対して5重量%未満のものをいい、好ましくはバインダーが繊維に対して3重量%未満、より好ましくはバインダーが繊維に対して1重量%未満であり、もっとも好ましいのはバインダーを含まないものである。
【0023】
ここでいう非弾性ポリマーの繊維とは、ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などのゴム状弾性に優れる繊維を意味する。なお、本発明の皮革様シートは、ポリエーテルエステル系繊維やスパンデックスなどのポリウレタン系繊維などの高分子弾性体を全く含まないものが最も好ましいが、本発明の効果を逸脱しない範囲において高分子弾性体が含まれていても構わない。また、例えば染料、柔軟剤、風合い調整剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていても良い。
【0024】
本発明は、目付が150〜400g/m、密度が0.20〜0.35g/cmの極細繊維不織布を、孔間隔が0.15〜1.50mmで配置されたノズルから1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で高速流体処理して、密度を0.35〜0.50g/cmにすることを特徴とする皮革様シートの製造方法である。
【0025】
本発明では、高目付、低密度の状態で特定の高速流体処理することによって、従来困難であった比較的太い極細繊維不織布に対して、繊維の固定を高いレベルで達成でき、これによって高い耐光性が得られることを見出したものである。
【0026】
本発明における極細繊維不織布は、目付が150〜400g/m、密度が0.20〜0.35g/cmであることが重要で、その他は特に限定するものではなく、溶融紡糸、溶液紡糸して得られた長繊維、短繊維、これらからなる乾式不織布、湿式不織布、それらの積層物を用いることができる。
【0027】
目付の下限は、170g/m以上が好ましく、190g/m以上がより好ましい。上限は、350g/m以下が好ましく、300g/m以下がより好ましい。目付が150g/m未満では、本発明で目的としている高い物性、特に耐摩耗性を得られず、400g/mを超えると高速流体処理における流体の通過性が低下するため高いレベルの品位を得ることが困難になる。このような目付の範囲は、高速流体処理に供する不織布として、一般的に用いられる100g/m以下のものと比べて極端に高い。本発明では、このような高い目付の極細繊維不織布に、後述の高速流体処理を施すことで高い物性が得られることを見出したものである。このような条件で高い物性が得られる理由は明らかではないが、例えば繊維交絡の頻度が上がることや、表層から高速流体処理によって繊維を押し込んだ際に接する繊維が多いために引き抜き抵抗が大きくなるためと考えられる。
【0028】
また、密度の下限は0.22g/cm以上が好ましく、上限は0.33g/cm以下が好ましい。密度が0.20g/cm未満では搬送時の形態安定性が不十分となりやすく、0.35g/cmを超えると高速流体処理における繊維の交絡が進みにくいためである。
【0029】
また、本発明では極細繊維不織布に織編物を積層一体化することができるが、この場合は織編物を除く極細繊維不織布の目付、密度が前述の範囲にあればよい。
【0030】
なお、本発明でいう目付とは、JIS L1096 8.4.2(1999)によって測定した目付であり、この目付を厚みで除した値を密度とした。なお、厚みの測定には、ダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)を用い、サンプルを10点測定して、その平均値を用いた。
【0031】
上記の極細繊維不織布に高速流体処理を施してシート化する。極細繊維不織布への高速流体処理は、孔間隔が0.15〜1.50mmで配置されたノズルから1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で実施する。用いる流体は、作業環境の観点から水が好ましい。また、柱状流で処理するとエネルギーの伝達にかかる損失が小さく、好ましい。極細繊維不織布と孔の距離は、近い方がエネルギーの損失を抑えられる点で好ましいが、極端に近い場合は跳ね返り流が柱状流を乱しやすいため、吐出孔の径、長さ、形状、水圧などによって柱状流の長さ(孔から吐出された水がスプレー状になるまでの距離)は異なるものの、通常は1〜10cmの範囲に設定することが好ましい。
【0032】
本発明における高速流体処理は、前述の密度にある極細繊維不織布に1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で実施するものである。一般的に高速流体処理は、進行するシートに孔が直交して並んだ複数のノズルヘッドから流体を噴射する。複数のノズルヘッドを通過することによってシートの密度は高くなるが、密度を0.35g/cm以上とするためノズルヘッドのジェットエネルギーがこの範囲にあることが重要である。例えば、前述の極細繊維不織布に対して1つ目のノズルヘッドで該ジェット力を与えることが、制御の容易さの点で好ましい。
【0033】
孔間隔は0.15〜1.50mmとするものであるが、下限は0.20mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましく、0.30mm以上がさらに好ましい。上限は、1.40mm以下が好ましく、1.30mm以下がより好ましく、1.20mm以下がさらに好ましい。孔間隔が0.15mm未満では、必要なジェット力を得るためには1回の処理で吐出される水量が大きくなり不織布や支持体を通過できずに滞留する水が発生しやすく、滞留した水によってウォータージェットの効果を著しく下げてしまう。また、孔間隔が1.50mmを超える場合は、水流によってシートに付与される打撃痕が目立つとともに、処理されていない部分で交絡が進まないためである。
【0034】
また、1孔あたりのジェット力は0.35〜1.60Nであるが、下限は0.37N以上が好ましく、0.39N以上がより好ましい。上限は1.40N以下が好ましく、1.20N以下がさらに好ましい。1孔あたりのジェット力が0.35N未満では十分な交絡が得られず、製品の耐摩耗性が不十分となりやすい。また、1孔あたりのジェット力が1.60Nを超えると不織布や支持体を通過できずに滞留する水が発生しやすく、滞留した水によってウォータージェットの効果を著しく下げるとともに、均一な処理が困難になるため好ましくない。このようなジェット力は、比較的大きい孔径とすることで得やすいことから、孔径は0.08〜0.25mmが好ましく、0.10〜0.23mmがより好ましい。
【0035】
孔径、チャンバー内の水圧を調整して、このようなジェット力を得る。ジェット力の計算は、孔径が流体の吐出径とおき、下の式に従って求める。
【0036】
F=0.754×Pg×di
ただし、F :1孔あたりのジェット力(N)
Pg:水圧(MPa)
di:孔径(mm)
なお、高速流体処理を行う前に極細繊維不織布に流体浸漬処理を行ってもよい。さらに表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドおよび/または極細繊維不織布を回転運動、往復運動したり、不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する等の方法を行うこともできる。
【0037】
一般的には複合繊維から得た極細繊維の場合、繊維同士が集束した極細繊維束が主として絡合しているが、このような処理によって、極細繊維束による絡合がほとんど観察されない程度にまで極細繊維同士を高度に絡合させることができる。
【0038】
本発明では、1〜10dtexの太い繊維はニードルパンチによる絡合が優れ、0.0001〜0.5dtexの細い繊維は高速流体処理による絡合が優れる傾向があることを利用し、繊度1〜10dtexの極細繊維発生型複合繊維を用いてニードルパンチにより十分に絡合させ、次いで0.0001〜0.5dtexの極細繊維を得る極細化処理(極細繊維発現処理)をした後、高速流体処理することが好ましい。特に、前述の高速流体処理によって、極細繊維不織布の密度を0.35〜0.50g/cmにすることが重要である。このことによって高い物性が得られるものであり、高速流体処理が前述の範囲から外れて同様の密度を達成しても高いレベルの物性が得られない。この理由は定かではないが、本発明の高速流体処理はエネルギーが押し付けによる高密度化に優先して、選択的に交絡に寄与するためと考えられる。
【0039】
なお、織編物を高速流体処理で積層した場合は、織編物そのものの密度に関わらず、積層一体化したシートの密度が0.35〜0.50g/cmとなればよい。このことによって、極細繊維不織布のみの場合と同様に高い物性を得ることができる。
【0040】
以下に本発明の製造方法を順に追って説明する。
【0041】
単繊維繊度が前述の範囲にある、いわゆる極細繊維の製造方法は特に限定されず、例えば直接極細繊維を紡糸する方法、通常繊度の繊維であって極細繊維を発生することができる繊維(極細繊維発生型複合繊維)を紡糸し、次いで極細化処理により極細繊維を発生させる方法がある。
【0042】
そして極細繊維発生型複合繊維を用いる方法としては、例えば海島型複合繊維を紡糸してから海成分を除去する方法、分割型複合繊維を紡糸してから分割して極細化する方法等の手段で製造することができる。これらの中で、本発明においては極細繊維を容易に安定して得ることが出来る点で、海島型複合繊維または分割型複合繊維(以下、あわせて複合繊維と記すことがある)によって製造することが好ましく、さらには皮革様シートとした場合、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることが出来る点で、海島型複合繊維によって製造することがより好ましい。
【0043】
上記の海島型複合繊維としては、2成分以上の成分を任意の段階で複合、混合して海島状態とした繊維を用いることができる。この繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法、(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法、(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等で混合する方法、(4)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の口金を用いて製造する方法、等が挙げられる。本発明においてはいずれの方法でも良好に製造することが出来るが、ポリマーの選択が容易である点で上記(4)の方法が好ましく採用される。
【0044】
かかる(4)の方法において、海島型複合繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば丸、多角、Y、H、X、W、C、π型等が挙げられる。また用いるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性や染色性を考慮すると2〜3成分であることが好ましく、特に海1成分、島1成分の2成分で構成されることが好ましい。またこのときの成分比は、島繊維の海島型複合繊維に対する重量比で0.30〜0.99であることが好ましく、0.40〜0.97がより好ましく、0.50〜0.80がさらに好ましい。0.30未満であると、海成分の除去率が多くなるためコスト的に好ましくない。また0.99を越えると、島成分同士の合流が生じやすくなり、紡糸安定性の点で好ましくない。
【0045】
また、用いるポリマーは特に限定されるものではなく、例えば島成分としてポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等適宜用途に応じて使用することができるが、特に、染色性や強度、耐久性、堅牢度の点で、ポリエステルであることが好ましい。
【0046】
本発明に用いることのできるポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーであって、複合繊維として用いることが可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0047】
海島型複合繊維の海成分として用いるポリマーは、島成分を構成するポリマーよりも溶解性、分解性の高い化学的性質を有するものであれば特に限定されるものではない。島成分を構成するポリマーの選択にもよるが、例えばポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ポリエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ビスフェノールA化合物、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカジオン酸、シクロヘキシルカルボン酸等を共重合したポリエステル等を用いることができる。紡糸安定性の点ではポリスチレンが好ましいが、有機溶剤を使用せずに容易に除去できる点でスルホン基を有する共重合ポリエステルが好ましい。かかる共重合比率としては、処理速度、安定性の点から5モル%以上、重合や紡糸、延伸のしやすさから20モル%以下であることが好ましい。本発明において好ましい組み合わせとしては、島成分にポリエステルを用い、海成分にポリスチレン又はスルホン基を有する共重合ポリエステルである。
【0048】
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、その他、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
【0049】
また、海島型複合繊維を得る方法については、特に限定されず、例えば上記(4)の方法に示した口金を用いて未延伸糸を引き取った後、湿熱または乾熱、あるいはその両者によって1〜3段延伸することによって得ることが出来る。
【0050】
なお、分割型複合繊維を用いる場合は、主に口金内で2成分以上を複合し、前述の海島型複合繊維の製造方法に準じて行うことができる。
【0051】
極細繊維不織布を得る方法としては、上記極細繊維発生型繊維(複合繊維)で不織布(複合繊維不織布)を製造した後に極細化して極細繊維不織布とする方法と、極細繊維で不織布を製造して極細繊維不織布とする方法がある。本発明においては前者が好ましく採用されることから、以下、この方法を例にとって述べる。
【0052】
不織布を製造する方法としては、スパンボンド法やカード法などの乾式法、抄造法のような湿式法のいずれでウエブを製造しても良いが、本発明のような高い物性を得るために繊維長が長い方が有利なため、乾式法が好ましい。繊維長は、生産性や得られるものの風合いを考慮して10〜100mmが好ましい。下限は、20mm以上がより好ましく、30mm以上がさらに好ましい。上限は、90mm以下がより好ましく、80mm以下がさらに好ましい。100mmを越える繊維長のものも、本発明の効果を損なわない限り含まれていても良い。また下限も特に限定されずに不織布の製造方法によって適宜設定できるが、10mm未満であると脱落が多くなり、強度や耐摩耗性等の特性が低下する傾向があり、100mmを超えると不織布の均一性、生産性が低下しやすいためである。
【0053】
このような繊維長の繊維を得る方法として好ましく採用されるのは、直接または複合繊維として得た未延伸糸を延伸した後に、ロータリーカッターやギロチンカッターで短繊維化する方法である。
【0054】
本発明の極細繊維は、単繊維繊度が0.0001〜0.5dtexの範囲のものであるが、耐光性の点で、0.05dtex以上が好ましく、0.08dtex以上がより好ましい。一般に、繊維が太くなると高速流体処理での交絡が進みにくくなり、物性が低くなる傾向があるが、本発明の製造方法によれば、高い物性を得ることができる。
【0055】
本発明における極細繊維不織布は、優れた品位や風合いを得るために短繊維不織布が好ましい。特に、生産性や得られるものの風合いを考慮して、極細繊維のアスペクト比が5,000〜900,000が好ましい。ここでいうアスペクト比とは、繊維長を繊維径で除した値であり、10,000〜500,000がより好ましく、20,000〜50,000がさらに好ましい。アスペクト比が5,000未満では、脱落が多くなりやすく、強度や耐摩耗性といった特性が低下する傾向があり、900,000を超えると繊維本数が少なくなるため、均一性が損なわれやすい。また、前述の高速流体処理において、アスペクト比が5,000未満では繊維本数あたりの絡まりや引っかかりが少なくなるため、高圧処理によって形態が破壊されやすく、900,000を超えると、交絡に必要な水圧、水量が増大するため経済的に不利となる。なお、本発明でいうアスペクト比は、極細繊維不織布から抜き出した極細繊維の長さと直径を直接測定することによって得られる。なお、直径は、断面が円でない場合は外接円の直径を用いる。
【0056】
以上より、複合繊維不織布は複合短繊維不織布であることが好ましい。かかる複合短繊維不織布は、ニードルパンチ処理によって、0.35〜0.50g/cmの範囲の密度にされる。密度の下限は0.120g/cm以上が好ましく、0.150g/cm以上がより好ましい。上限は0.300g/cm以下が好ましく、0.250g/cmがより好ましい。0.120g/cm未満であると、絡合が不十分であり、目的の物性が得られにくくなり、0.300g/cmを越えると、ニードル針の折れや、針穴が残留するなどの問題が生じるため、好ましくない。
【0057】
また、ニードルパンチを行う際には、複合繊維の単繊維繊度の下限は1dtex以上が好ましく、2dtex以上がより好ましい。上限は10dtex以下が好ましく、8dtex以下がより好ましく、6dtex以下がさらに好ましい。単繊維繊度が1dtex未満である場合や10dtexを越える場合は、ニードルパンチによる絡合が不十分となり、良好な物性の極細繊維不織布を得ることが困難になるためである。
【0058】
本発明におけるニードルパンチでは、単なる工程通過性を得るための仮止めとしての役割ではなく、繊維を十分に絡合させることが好ましい。打ち込み密度が高すぎる場合は、繊維が切断して物性が低下しやすくなるため、打ち込み密度の下限は100本/cm以上が好ましく、500本/cm以上がより好ましく、1000本/cm以上がさらに好ましい。打ち込み密度の上限は、5000本/cm以下が好ましく、4000本/cm以下がより好ましい。
【0059】
このようにして得られた複合短繊維不織布は、乾熱または湿熱、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
【0060】
次に、この複合短繊維不織布に極細化処理を施して、極細化する。高速流体処理を極細化処理と兼ねることは可能であるが、少なくとも極細化処理が大部分終了した後にも高速流体処理を行うことが、より極細繊維同士の絡合を進める上で好ましく、極細化処理を行った後に高速流体処理を行うことがより好ましい。
【0061】
極細化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば機械的方法、化学的方法が挙げられる。機械的方法とは、物理的な刺激を付与することによって極細化する方法であり、例えば上記のニードルパンチ法や水を用いた高速流体処理法等の衝撃を与える方法の他に、ローラー間で加圧する方法、超音波処理を行う方法等が挙げられる。また化学的方法とは、例えば、複合繊維を構成する少なくとも1成分に対し、薬剤によって膨潤、分解、溶解等の変化を与える方法が挙げられる。特にアルカリ易分解性海成分を用いてなる海島型複合繊維で複合短繊維不織布を作製し、次いで中性〜アルカリ性の水溶液で処理して極細化する方法は、溶剤を使用せず作業環境上好ましいことから、本発明の好ましい態様の一つである。中性〜アルカリ性の水溶液は、pH6〜14を示す水溶液とするものであり、使用する薬剤等は特に限定されるものではない。例えば有機または無機塩類を含む水溶液で上記範囲のpHを示すものであれば良く、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミンや減量促進剤、キャリアー等を併用することもできる。中でも水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さ等の点で好ましい。さらに複合短繊維不織布に前述の中性〜アルカリ性の水溶液処理を施した後、必要に応じて中和、洗浄して残留する薬剤や分解物等を除去してから乾燥を施すことが好ましい。
【0062】
なお、これらの極細化処理と高速流体処理を同時に行う方法としては、例えば水可溶性の海成分からなる複合繊維を用い、水による高速流体処理によって除去と絡合を行う方法、アルカリ分解速度の異なる2成分以上の複合繊維を用い、アルカリ処理液を通して易溶解成分を分解処理した後に、水による高速流体処理によって最終除去および絡合処理を行う方法、等が挙げられる。
【0063】
ここで、高速流体処理については既に詳述したとおりである。
【0064】
また、本発明では高速流体処理時の極細繊維不織布の形態安定性を向上させる目的で形態安定化剤を付与することが好ましい。特に、水溶性の形態安定化剤を極細処理の前後に不織布に付与し、前述の水による高速流体処理によって不織布を形態安定化する際に除去することが好ましい。かかる水溶性の形態安定化剤としてはポリビニルアルコール、あるいはその誘導体、水溶性でんぷん、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸エステル部分ケン化物、ポリアクリルアミド、酢酸セルロース等の有機物質が好ましい。これら水溶性の形態安定化剤は水溶液もしくはエマルジョンとしてウエブや不織布付与するが、形態安定化剤の水溶液もしくはエマルジョンの付与処理については含浸法、スプレー法、コーティング法等を施したものを熱による乾式凝固法、水等による湿式凝固法、適宜スチーム処理等の常法で処理することができる。付与量は少なすぎると、形態および機能保持が困難になり、多すぎると水による高速流体処理の効果を阻害して極細繊維の交絡が進みにくいことから、極細化処理後の極細繊維重量に対して、3〜60重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましい。
【0065】
本発明で得られる皮革様シートは、極細繊維不織布を含むものであれば、織編物を積層などして含むものであっても良い。
【0066】
織編物と極細繊維不織布(もしくはシート)との積層は、ニードルパンチ工程、または高速流体処理工程までに重ねて載せておき、それぞれの処理によって交絡一体化することで達成できる。このとき、ニードルパンチ工程と高速流体処理工程のいずれの工程で交絡一体化してもかまわないが、織編物を構成する繊維が切断されにくいため、高速流体処理での交絡一体化による積層が好ましい。このとき、極細繊維不織布を織編物の片面または両面に配置することができる。
【0067】
なお、ポリウレタン等の高分子弾性体からなるバインダーを少量ながら付与する場合は、極細化処理前、極細化処理後、織編物との積層前、織編物との積層後、染色前、染色後等、いずれの時点で行ってもよい。バインダーを付与する方法としては、通常の方法を採用することができる。
【0068】
さらにまた、スエード調やヌバック調の皮革様シートを得る場合は、サンドペーパーやブラシ等による起毛処理を行うことが好ましい。かかる起毛処理は染色の前または後、あるいは染色前および染色後に行うことができる。
【0069】
そして、このような皮革様シートは、染色されてなることが好ましい。染色方法は特に限定されるものではなく、用いる染色機も、液流染色機の他、サーモゾル染色機、高圧ジッガー染色機等いずれでもよいが、得られる皮革様シートの風合いが優れる点で液流染色機を用いて染色することが好ましい。
【0070】
染色に用いる染料の種類としては、皮革様シートのポリマー種によって、分散染料、バット染料、酸性染料、含金染料、反応染料などから適宜選ばれた発色性と堅牢度の優れたものが好ましい。例えばポリエステル系繊維素材からなる本発明の皮革様シートを染色する場合は、アントラキノン系、キノフタロン系などの、耐光性の良好な分散染料が好ましく用いられる。また、染色浴に酢酸、酢酸ソーダなどのpH調整剤、均染剤、分散剤等を適宜添加することができる。染色後、皮革様シート表面および繊維交絡点に付着している染料や助剤を除去し、製品の堅牢度を向上させるため洗浄を行うことできる。洗浄方法は通常行われている方法を用いることができ、例えば、繊維としてポリエステルを用い、分散染料で染色した場合は、ハイドロサルファイト等の還元剤、界面活性剤、水酸化ナトリウム等のpH調整剤等を用い、60〜100℃の温度で20〜30分程度行うことが好ましい。
【0071】
また、皮革様シートとしては、銀付き調や立毛調等いずれでも良いが、繊維素材のみからなる場合は、特に立毛調とする方がより良好な表面品位を得ることができるので、少なくとも一方の面が起毛されていることが好ましい。銀付き調の表面を得る場合には、従来のポリウレタン等の樹脂層を形成させるものと異なり、表面に超高密度繊維層を形成させる方法が好ましい。なお、本発明で得られる皮革様シートは、実質的に繊維素材からなるものであるが、単なる不織布とは異なり、一般の天然皮革や人工皮革と類似した表面品位を有するものである。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
【0073】
(1)目付、密度
目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)の方法で測定した。また、厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により測定し、目付の値から計算によって密度を求めた。
【0074】
(2)耐光性
JIS L 0843(1998)のキセノンアーク灯光試験(B−6法、水冷式、内側フィルター:石英、外側フィルター:ほうけい酸ガラス、放射露光量:77.8MJ/m)で測定した。
【0075】
(3)耐摩耗性
JIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、3000回および20000回の回数を摩耗した後の試験布の重量減を評価し、JIS L 1076(1992) 表2の判定基準表に準じて外観から等級を判定した。減量は、20000回磨耗したときの値、外観は3000回と20000回のうちで低い等級で判定した。
【0076】
(4)外観
製品面の外観を目視により○〜×の3段階で評価した。なお、○〜×は次の内容で判定した。
○:色、立毛、平滑さが均一で、穴が無い
△:色、立毛、平滑さのいずれかが均一でなく、穴が無い
×:色、立毛、平滑さのいずれかが均一でなく、穴が明いている。
【0077】
製造例1(織物1の作製)
極限粘度が0.40のポリエチレンテレフタレートからなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合マルチフィラメント繊維糸を得た。これを1500T/m(撚係数11225)で追撚して、65℃でスチームセットを行った。この糸をタテ糸とヨコ糸に用い、織組織を平織とし、94×64本/2.54cmの織密度で製織した。この織物を98℃で精練した後、110℃で液流染色機を用いてリラックス処理を行い、織密度が122×87本/2.54cm、目付が64g/mの織物1を得た。
【0078】
製造例2(織物2の作製)
極限粘度が0.66のポリエチレンテレフタレート成分を紡糸および延伸し、56デシテックス48フィラメントの複合繊維を得た。これをS撚りで2400T/m(撚係数17960)で撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った。同様に、Z撚りで2400T/m(撚係数17960)で撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った糸を作製した。タテ糸に、S撚りの糸とZ撚りの糸を交互に配し、ヨコ糸にS撚りの糸を用い織組織を平織とし、93×64本/2.54cmの織密度で織物を作製し、60g/mの織物2を得た。
【0079】
実施例1
海成分としてポリスチレン20部、島成分としてポリエチレンテレフタレート80部からなる単繊維繊度4dtex、16島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウエブを作製した。次いで1バーブ型のニードルにて2500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、密度0.210g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール12%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し25%の付着量になるように浸漬し、ポリビニルアルコール(以下、PVA)の含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られたシートを約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、目付285g/m、密度0.34g/cm、単繊維繊度0.2dtexの極細繊維不織布を得た。
【0080】
次いで、前述の極細繊維不織布の裏側に製造例1の織物1を積層した状態で、0.14mmの孔径で、0.7mm間隔のノズルヘッドからなる水を用いた高速流体処理にて、5m/分の処理速度で表から40MPaで3回処理した後、同様に裏から3回処理し(計6回)、PVAの除去とともに絡合を行った。
【0081】
このようにして得られたシートはPVAが完全に脱落しており、密度が0.40g/cmであり、極細繊維同士が絡合した緻密なシートであった。
得られたシートの表面を株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダで、粒度がP400の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーを用いて、繊維シートのバフによる減量が5重量%になるまでバフィングした後、液流染色機(サーキュラ染色機(日阪製作所(株)製))を用い、アントラキノン系及びキノフタロン系の染料で構成されるベージュ色染料を1.8%owfの濃度で、120℃、45分で染色後、ハイドロサルファイト4g/l、水酸化ナトリウム1.5g/l、界面活性剤0.2g/lの液浴中で80℃、20分間洗浄を行い、さらに40℃で20分間湯洗い後マングルで脱水し、柔軟剤としてエルソフトN500コンク(一方社油脂工業(株)製)8g/lをマングルを用いパッド法にて付与した。この時の液のウエットピックアップ率はシート状物に対して80重量%であった。その後100℃で乾燥しスエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0082】
実施例2
海成分としてポリスチレン20部、島成分としてポリエチレンテレフタレート80部からなる単繊維繊度4dtex、16島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウエブを作製した。次いで前述のウエブと製造例2の織物2を積層して1バーブ型のニードルにて2500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、密度0.260g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール5%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し10%の付着量になるように浸漬し、ポリビニルアルコール(以下、PVA)の含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られた極細繊維不織布を約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、目付400g/m、密度0.28g/cm、単繊維繊度0.2dtexの極細繊維不織布を得た。
次いで、0.14mmの孔径で、0.7mm間隔のノズルヘッドからなる水を用いた高速流体処理にて、5m/分の処理速度で表から40MPaで3回処理した後、同様に裏から3回処理し(計6回)、PVAの除去とともに絡合を行った。
【0083】
このようにして得られたシートはPVAが完全に脱落しており、密度が0.48g/cmであり、極細繊維同士が絡合した緻密なシートであった。
得られたシートを実施例1と同様に処理してスエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0084】
実施例3
カードへの原綿の投入量を減らした以外は、実施例1と同様にしてスエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0085】
実施例4
0.12mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルで、表裏とも35MPaで処理し、PVAの除去とともに絡合を行なった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を表1に示した。
【0086】
実施例5
0.25mmの孔径で、1.5mm間隔のノズルで、表裏とも25MPaで処理し、PVAの除去とともに絡合を行なった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を表1に示した。
【0087】
比較例1
カードへの原綿の投入量を減らした(すなわち、高速流体処理前の極細繊維不織布の目付が小さい)以外は、実施例1と同様にしてスエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0088】
比較例2
カードへの原綿の投入量を増やした(すなわち、高速流体処理前の極細繊維不織布の目付が大きい)以外は、実施例1と同様にしてスエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0089】
比較例3
海成分としてポリスチレン20部、島成分としてポリエチレンテレフタレート80部からなる単繊維繊度4dtex、16島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウエブを作製した。次いで1バーブ型のニードルにて500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、密度0.170g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール22%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し46%の付着量になるように浸漬し、ポリビニルアルコール(以下、PVA)の含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られた極細繊維不織布を約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、目付285g/m、密度0.18g/cm、単繊維繊度0.2dtexの極細繊維不織布を得た。
【0090】
この極細繊維不織布を用いて実施例1と同様に処理し、スエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0091】
比較例4
海成分としてポリスチレン20部、島成分としてポリエチレンテレフタレート80部からなる単繊維繊度4dtex、16島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウエブを作製した。次いで1バーブ型のニードルにて2500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、密度0.210g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール2%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し4%の付着量になるように浸漬し、ポリビニルアルコール(以下、PVA)の含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られた極細繊維不織布を約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、目付285g/m、密度0.40g/cm、単繊維繊度0.2dtexの極細繊維不織布を得た。
【0092】
この極細繊維不織布を用いて実施例1と同様に処理し、スエード調の繊維素材のみからなる皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を評価した結果を表1に示した。
【0093】
比較例5
0.10mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルで、ジェット力0.30Nで処理し、PVAの除去とともに絡合を行なった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を表1に示した。
【0094】
比較例6
0.25mmの孔径で、1.5mm間隔のノズルで、ジェット力1.89Nで処理し、PVAの除去とともに絡合を行なった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を表1に示した。
【0095】
比較例7
0.14mmの孔径で、2.0mm間隔のノズルで処理し、PVAの除去とともに絡合を行なった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの物性を表1に示した。
【0096】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明により、実質的に高分子弾性体を含まず、主として繊維素材からなる不織布構造体であっても、皮革様シートとして十分な物性と品位を得ることが可能となる。本発明の極細繊維不織布は、リサイクル性やイージーケア性、耐黄変性等に優れる特徴を有することから、衣料、家具、カーシート、雑貨、研磨布、ワイパー、フィルター等の用途は勿論のこと、その中でもリサイクル性や高い耐光性を活かして特に自動車用内装材や各種コントラクト用資材に好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付が150〜400g/m、密度が0.20〜0.35g/cmの極細繊維不織布を、孔間隔が0.15〜1.50mmで配置されたノズルから1孔当たり0.35〜1.60Nのジェット力で高速流体処理して、密度を0.35〜0.50g/cmにすることを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【請求項2】
単繊維繊度が1〜10dtexの極細繊維発生型複合繊維を用いて、ニードルパンチ法により複合繊維不織布を製造し、次いで極細繊維発現処理を行って得た極細繊維不織布を用いることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シートの製造方法。
【請求項3】
前記極細繊維の単繊維繊度が0.05〜0.50dtexであり、繊維長が10〜100mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革様シートの製造方法。
【請求項4】
前記ジェット力が、20〜60MPaに加圧した流体を孔径が0.08〜0.25mmのノズルから吐出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法。
【請求項5】
前記極細繊維不織布と織編物を高速流体処理によって積層一体化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮革様シートの製造方法によって得られたことを特徴とする皮革様シート。

【公開番号】特開2008−208479(P2008−208479A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45113(P2007−45113)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】