説明

目封止ハニカム構造体、およびそれを用いたディーゼルパティキュレートフィルタ

【課題】耐エロージョン性能が向上しながらも、DPF再生時の熱応力の分布を均等化する端部形状を持ち、製造時の損耗や強度低下の問題、DPF再生時再生限界低下、圧力損失増加等の問題も改善される目封止ハニカム構造体を提供する。
【解決手段】多孔質の隔壁6により区画された流体の流路となる複数のセル5を有し、隣接するセル5が互いに反対側となる一方の端部において目封止された複数のハニカムセグメント1が互いに隣接され、接合面42において接合材層3を介して一体的に接合されたディーゼルパティキュレートフィルタ用の目封止ハニカム構造体100であって、当該目封止ハニカム構造体100の外周側に配置されたハニカムセグメントの少なくとも一部が、流体の流入孔側端面11に、当該目封止ハニカム構造体100の中心側から外周側に向かって当該目封止ハニカム構造体の軸方向8の長さが減少するように傾斜した傾斜面7を少なくとも一部有した傾斜セグメント1aとされた目封止ハニカム構造体100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、およびそれを用いたディーゼルパティキュレートフィルタに関する。より詳しくは、耐エロージョン性能が向上しながらも、DPF再生時の熱応力の分布を均等化する端部形状を持ち、製造時の損耗や強度低下の問題、DPF再生時の再生限界低下、圧力損失増加等の問題も改善される目封止ハニカム構造体、及びそれを用いたディーゼルパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関、ボイラー、化学反応機器、及び燃料電池用改質器等の触媒作用を利用する触媒用担体や、排ガス中の微粒子、特にディーゼル微粒子の捕集フィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ:以下、「DPF」ということがある)等に、セラミックスからなるハニカム構造体が用いられている。
【0003】
このような目的に使用されるハニカム構造体は、一般に、多孔質の隔壁によって区画された流体の流路となる複数のセルを有し、特に、微粒子捕集フィルタとして用いられる場合には、端面が市松模様状を呈するように、隣接するセルが互いに反対側の端部において目封止された構造を有する。このような構造を有するハニカム構造体において、被処理流体は流入孔側端面が封止されていないセル、即ち流出孔側端面が封止されているセルに流入し、多孔質の隔壁を通って隣のセル、即ち、流入孔側端面が封止され、流出孔側端面が封止されていないセルから排出される。この際、隔壁がフィルタとなり、例えば、DPFとして使用した場合には、ディーゼルエンジンから排出されるスート(スス)等の粒子状物質(パティキュレート・マター:以下「PM」ということがある)が隔壁に捕捉され隔壁上に堆積する。
【0004】
ディーゼル機関においては、上記のようなハニカム構造体は、通常、DPFとしてエンジン下流側の排ガスの流通路中に配設され、エンジンから排出される排ガスを通過させ浄化する機能を果たす。この時、排ガス上流側から流れてくる、流通路内壁の錆等の剥れ、溶接屑、DPF組み付け時に流通路に入り込んだゴミ等の固体、或いは凝縮水のような液体が、排ガスと共に高速で流通路の内壁、或いは流通路中に配設されたハニカム構造体に衝突することにより、これらを損耗せしめることがある。図3は、このような従来の目封止ハニカム構造体での問題を模式的に説明する斜視図である。DPFの軸方向8が横向きとなるように、例えば、図3の流入孔側端面11の縁部である領域Aを下方に配置した場合に、特に固体の異物は、エンジン振動によりDPFの流入孔側端面において跳ねるため、DPFの領域Aのような下方に位置する部分の目封止部等をえぐり、捕集効率の低下を招くことがある。この作用は通常エロージョンと呼ばれ、流通路及びハニカム構造体の長期耐久性を維持する観点から、大きな問題となっていた。
【0005】
エロージョン問題解決のため、従来、損耗を受ける恐れのある流通路内壁或いはハニカム構造体の上流側に、金網やじゃま板を設け、異物が直接高速で衝突することを防ぐ工夫がなされてきたが、固体や液体の異物を十分なレベルまで除去することができず、長期耐久性に問題があった。即ち、排ガスの流れの上流側から飛来してきた異物により、流通路内壁表面の損傷やハニカム構造体の損耗が発生することがあった。そこで、より確実に流通路内の異物による損耗を防ぎ、浄化装置の耐久性を強化することのできる工夫が求められており、例えば、特許文献1には、ハニカム構造体の上流側の流通路上に、排ガスの流れ変更手段及び異物捕集部を設けた流通路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−206526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されたガス流通路は、排ガスの流れ変更手段により排ガスの流れを流通路の外周方向へ向け、流通路内壁に設置された、排ガスの上流方向に向いた開口部を有するポケット状の異物捕集部によって、排ガス中の異物を物理的に捕集するものであり、流通路内を異物が跳ねることによるエロージョン問題に対して効果を奏するものであるが、排ガスの流通路を流れ方向に長く設計する必要があり、排ガス浄化装置全体が大きくなってしまうという問題があった。また、流通路径を変えずにポケットをつけると、流通路断面が小さくなるため圧力損失が上がり、エンジン出力低下の懸念があり、流通路径を大きくしてポケットをつけると、流通路断面が大きくなり、車両床下搭載時の最低地上高確保のため、車高を上げなくてはならなくなる。車体への搭載スペースに制約がある点を考えると、排ガス浄化装置は可能な限り小さく設計されることが望ましく、特許文献1に開示された流通路はその意味で十分とは言えなかった。
【0008】
本発明はかかる従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、エロージョン抑制効果及びサイズダウンを両立させた排ガス浄化装置において用いられ、形状加工による浄化性能及び強度の低下が抑えられ、原料収率やコストの面でも優れた目封止ハニカム構造体及びそれを用いたDPFを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意検討した結果、多孔質の隔壁によって区画された流体の流路となる複数のセルを有し、隣接するセルが互いに反対側となる一方の端部において目封止された構造を有した、隣接する複数のハニカムセグメントを接合材層を介して一体的に接合した目封止ハニカム構造体において、流体の流入孔側端面に、目封止ハニカム構造体の中心部側から外周部側に向かって目封止ハニカム構造体の軸方向の長さが減少するように傾斜した傾斜面を少なくとも一部有した傾斜セグメントとされた構成とすることによって、傾斜面を有した切り欠き部がエロージョン抑制に効果的に働きつつも、切り欠き部の体積分の省スペースを実現可能であることに想到した。
【0010】
更に本発明者らは、目封止ハニカム構造体に切り欠き部を形成することによって引き起こされることが想定される、流入ガスの乱流に伴うDPF再生時の再生限界低下、圧力損失増加等の諸問題についても鋭意検討し、切り欠き部の形状の少なくとも一部を傾斜面として整流作用を付与することにより、切り欠き部での流入ガスの乱流を抑制し、解決できることに想到し、本発明を完成させた。即ち、本発明によれば、十分な浄化性能と強度を備え、所望の端面形状を有する目封止ハニカム構造体及びそれを用いたDPF、即ち、以下の目封止ハニカム構造体及びそれを用いたDPFが提供される。
【0011】
[1] 多孔質の隔壁により区画された流体の流路となる複数のセルを有し、隣接する前記セルが互いに反対側となる一方の端部において目封止された複数のハニカムセグメントからなり、複数の前記ハニカムセグメントが互いに隣接され、隣接する前記ハニカムセグメントどうしの接合面において接合材層を介して一体的に接合されたディーゼルパティキュレートフィルタ用の目封止ハニカム構造体であって、当該目封止ハニカム構造体の外周部側に配置された前記ハニカムセグメントの少なくとも一部が、前記流体の流入孔側端面に、当該目封止ハニカム構造体の中心部側から前記外周部側に向かって当該目封止ハニカム構造体の軸方向の長さが減少するように傾斜した傾斜面を少なくとも一部有した傾斜セグメントとされた目封止ハニカム構造体。
【0012】
[2] 前記傾斜セグメントが、1個以上隣接するように設けられた前記[1]に記載の目封止ハニカム構造体。
【0013】
[3] 前記傾斜面が開始する傾斜開始位置は、前記接合面に形成され、前記傾斜開始位置から前記傾斜開始位置が形成された前記接合面に沿った前記ハニカム構造体の外周壁までの距離Lと前記傾斜面の高さHとの比H/Lが0.05〜1.5の範囲である前記[1]または[2]に記載の目封止ハニカム構造体。
【0014】
[4] 前記傾斜セグメントの前記流入孔側端面に、前記傾斜面と平坦面とを含み、前記平坦面が当該目封止ハニカム構造体の中心部側に設けられ、前記傾斜面は前記外周部側に設けられた前記[1]〜[3]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0015】
[5] 前記傾斜セグメントの前記流入孔側端面に、前記傾斜面と平坦面とを含み
前記平坦面が前記外周部側に設けられ、前記傾斜面は前記中心部側に設けられた前記[1]〜[3]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0016】
[6] 前記傾斜面は、前記流体を整流するための流線形状とされた前記[1]〜[5]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0017】
[7] 前記傾斜面は、前記流出孔側に引っ込む凹湾曲面である前記[6]に記載の目封止ハニカム構造体。
【0018】
[8] 前記傾斜面は、前記流入孔側端面の方向に出っ張る凸湾曲面である前記[6]に記載の目封止ハニカム構造体。
【0019】
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体に排ガス浄化用触媒成分を担持させたディーゼルパティキュレートフィルタ。
【0020】
[10] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体の製造方法であって、前記傾斜セグメントとされる予定の、前記傾斜面に応じた目封し深さの長目封止部が形成されたハニカムセグメントを、前記長目封止部よりも深さの小さい目封止部の形成された、軸方向長さが等しい前記平坦セグメントへ接合した後、前記ハニカムセグメントの長目封止部形成側端部を前記傾斜面の形状に応じて切削することで、前記傾斜面を有する目封止ハニカム構造体を形成する目封止ハニカム構造体の製造方法。
【0021】
[11] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体の製造方法であって、あらかじめ軸方向長さが等しい前記平坦セグメントに前記傾斜面を有した傾斜セグメントを、前記平坦セグメントへ接合することで、前記傾斜面を備えた切り欠き部を有する目封止ハニカム構造体を形成する目封止ハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の目封止ハニカム構造体及びそれを用いたDPFは、エロージョン対策として流体の流入孔側端面において傾斜面を有した切り欠き部を形成し、傾斜面の整流作用で流入ガスの乱流を抑制し、ガスの乱流に伴う切り欠き部でのPMの堆積分布の偏りを防止することにより、DPF再生時の熱応力の分布を均等化する端部形状を持ち、圧力損失増加、DPF再生時の再生限界低下等の問題を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の目封止ハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2A】本発明の目封止ハニカム構造体の、傾斜面を有した傾斜セグメントの一実施形態を模式的に示す一部拡大斜視図である。
【図2B】本発明の目封止ハニカム構造体の、傾斜面を有した傾斜セグメントの他の実施形態を模式的に示す一部拡大斜視図である。
【図3】従来の目封止ハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図4】切り欠き部を有した目封止ハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図5A】本発明の目封止ハニカム構造体を搭載した排ガス浄化装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図5B】本発明の目封止ハニカム構造体を搭載した排ガス浄化装置の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図5C】本発明の目封止ハニカム構造体を搭載した排ガス浄化装置の更に別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図6】平坦な切り欠き部を有した目封止ハニカム構造体の一例に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図である。
【図7】平坦な切り欠き部を有した目封止ハニカム構造体の一例に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す切り欠き部周辺の一部拡大断面図である。
【図8】本発明の目封止ハニカム構造体の他の実施形態に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の目封止ハニカム構造体の、傾斜面を有した傾斜セグメントの寸法を説明するための、接合面に沿った一部拡大断面図である。
【図10A】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図10B】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図10C】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図10D】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図10E】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図10F】本発明の目封止ハニカム構造体の切り欠き部の傾斜面の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図11】長目封止部形成側端部切削前の目封止ハニカム構造体を模式的に示す軸方向における部分断面図である。
【図12】長目封止部形成側端部切削後の目封止ハニカム構造体を模式的に示す軸方向における部分断面図である。
【図13】本発明の目封止ハニカム構造体の一実施形態を切り欠き部形成方向から見た模式的正面図である。
【図14】本発明の目封止ハニカム構造体の別の実施形態を切り欠き部形成方向から見た模式的正面図である。
【図15】ハニカムセグメントを積み上げる工程を模式的に示す工程図である。
【図16】ハニカムセグメント積層体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
図1は、本発明の目封止ハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2Aは、本発明の目封止ハニカム構造体の傾斜面を有した傾斜セグメントの一実施形態を模式的に示す一部拡大斜視図である。図2Bは、本発明の目封止ハニカム構造体における、目封止ハニカム構造体の流入孔側端面からの深さDを傾斜開始位置とした傾斜面を有した場合の傾斜セグメントの他の実施形態を模式的に示す一部拡大斜視図である。図3は、従来の目封止ハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【0026】
排ガス浄化装置においてDPFとして用いられる目封止ハニカム構造体としては、従来、例えば図3に示すように、多孔質の隔壁6によって区画された流体の流路となる複数のセル5を有するハニカムセグメント(平坦セグメント1b)が、接合材層3を介して複数個一体的に接合され、所望の形状に形成された後、隣接するセル5が互いに反対側となる流通端部において目封止され、目封止部25の形成された目封止ハニカム構造体150等、軸方向8端部に凹凸のない円筒形状の目封止ハニカム構造体150が用いられていた。
【0027】
なお、本明細書中で目封止ハニカム構造体の軸方向8とは、目封止ハニカム構造体の流入孔側端面から流出孔側端面へ向かう目封止ハニカム構造体の中心軸方向のことを言う。
【0028】
本発明の目封止ハニカム構造体としては、例えば、図1に示すように、多孔質の隔壁6によって区画された流体の流路となる複数のセル5を有し、隣接するセル5が互いに反対側となる一方の端部において目封止された目封止部25の形成された複数のハニカムセグメント1(1a,1b)が接合材層3を介して一体的に接合され、所望の形状に形成された接合型の目封止ハニカム構造体100であって、流体の流入孔側端面11の一部に傾斜面7を有した切り欠き部2を有し、切り欠き部2を構成する所定のセル5においても、隣接するセル5が互いに反対側となる一方の端部において目封止された目封止ハニカム構造体100がある。そしてこの傾斜面7は、目封止ハニカム構造体の中心部側から外周部側に向かって、目封止ハニカム構造体の軸方向8の長さが減少するように傾斜している。
【0029】
図2Aは、傾斜面7を有した傾斜セグメント1aの切り欠き部2を模式的に示す一部拡大斜視図である。傾斜面7を設けたことにより、排ガスの整流作用を有し、乱流の発生を防ぐことにより圧力損失の低下や、PMの堆積分布の偏在に伴う再生処理時のクラックの発生を防ぐことができる。
【0030】
図9は、本発明の目封止ハニカム構造体の、傾斜面を有した傾斜セグメントの寸法を説明するための、接合面に沿った一部拡大断面図である。本発明の目封止ハニカム構造体において、例えば図9に示すように、傾斜面が開始する傾斜開始位置40は、接合面に形成された場合、傾斜開始位置から傾斜開始位置40が形成された接合面に沿ったハニカム構造体の外周壁までの距離Lと前記傾斜面の高さHとの比H/Lが0.05〜1.5の範囲であることが好ましい。なお、目封止ハニカム構造体に排ガス浄化用触媒を担持させたDPFにあって、触媒は、ハニカム壁厚方向に僅かながら寸法を増大させるのみであるため、上記H及びLのミリ単位の寸法には影響なく、H/Lの規定等は全て触媒担持後のDPFにおいても有効である。
【0031】
本発明の目封止ハニカム構造体100の全体の形状としては、排ガス浄化フィルタとして好適な、円筒形状、オーバル形状等所望の形状であって、流体の流入孔側端面に傾斜面7を有した切り欠き部2を有する形状とすることができる。本発明の目封止ハニカム構造体100において、切り欠き部2およびその傾斜面7は、用途及び目的に応じて所望の位置及び所望の大きさに形成され、同時に、切り欠き部2を含む流入孔側端面全域において所定のセル5に目封止が施され、形状加工による浄化性能の低下が抑えられている。この傾斜面7を有した切り欠き部2は目封止ハニカム構造体100の外周部を構成するハニカムセグメントの単位で傾斜セグメントとして設けることが好ましい。
【0032】
接合成形された目封止ハニカム構造体100を構成するハニカムセグメント1の材料としては、セラミックが好ましく、また、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、鉄−クロム−アルミニウム系合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。特に、これらの材料の中でも、融点が高く、耐熱性に優れていると言う点でDPFに適した、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料が好適に用いられる。炭化珪素は、上記材料中、熱膨張率が比較的大きい。このため、炭化珪素を骨材として形成されるハニカム構造体は、ハニカム構造体全体の外径が大きなものの場合、使用時に熱衝撃により欠陥が生じることがあったが、複数のハニカムセグメント1が接合材層3を介して一体的に接合された構造においては、炭化珪素の膨張収縮が接合材層3により緩衝され、ハニカムセグメント1の欠陥の発生を防止することができる。
【0033】
また、接合材層3の材料としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子、有機バインダ、発泡樹脂等の充填材を水等の分散媒に分散させてスラリー状にしたものを用いることができる。
【0034】
図5A〜5Cは、本発明の目封止ハニカム構造体を搭載した排ガス浄化装置の各実施形態を模式的に示す断面図である。尚、図5A及び5Bにおいては、図中向かって左側が排ガスの流入孔側端面であり、図中向かって右側が排ガスの流出孔側となる。図5Aに示す排ガス浄化装置110では、コンテナ15内のハニカム触媒体9の後段に、傾斜面を有した切り欠き部2の形成された目封止ハニカム構造体100がDPF18として設置されている。この時DPF18は、排ガス浄化装置が車体に搭載された際に傾斜面を有した切り欠き部2が排ガスの流れの上流側に面し、且つ排ガス浄化装置110の下側(地面側)を向くように位置決めされることが好ましい。
【0035】
排ガスの流れの上流側から流れて来る固体や液体の異物は、重力に従って、排ガス浄化装置110の下側に下りて行く。そのため、コンテナ15の内壁及びDPF18の流入孔側端面11は、特にその下側に損傷が集中しやすい。切り欠き部2を下側に向けてDPF18を設置することによって、コンテナ15下部に異物を跳ねさせるスペースができ、DPF18の端面に異物が直接衝突する頻度を低減すると共に、衝突時の衝撃を軽減する効果がある。即ち、本発明の目封止ハニカム構造体100を用いれば、従来のように、排ガス浄化装置の流通路上に金網や異物捕集ポケット等の余分な設備を備えなくとも、エロージョンによる耐久性悪化を抑制することができ、排ガス浄化装置における省スペース化、省コスト化を実現することができる。
【0036】
図5Bに示す排ガス浄化装置120では、コンテナ15のハニカム触媒体9の後段に、傾斜面7を有した切り欠き部2の形成されたム構造体100がDPF18として設置されており、更に、排ガスと共に上流から流れ込みDPF18の損耗の原因となる異物を捕集するための異物捕集ポケット13が設けられ、DPF18の切り欠き部2を、異物を異物捕集ポケット13へと逃がす誘導路として機能させている。このような構成とすることによって、流れ込む多くの異物を、DPF18の流入孔側端面11に衝突させることなく、異物捕集ポケット13へと回収することができる。この時DPF18は、図5Aに示す排ガス浄化装置110と同様、排ガス浄化装置120が車体に搭載された際に切り欠き部2が排ガスの流れの上流側に面し、且つ排ガス浄化装置120の下側(地面側)を向くように位置決めされることが好ましい。
【0037】
また、本発明の目封止ハニカム構造体100は、限られたスペース内においてエロージョン抑制効果を発揮するだけでなく、図5Cに示すように、特殊な形状のコンテナ15にも対応可能であるという利点を有する。例えば車体下部のように、利用できるスペースに制約がある場合には、排ガス浄化装置そのものを小さく設計すると同時に、車体に搭載後の排ガス浄化装置の周辺にデッドスペースを発生させないことも、省スペースの有効な手立てである。即ち、車体へ排ガス浄化装置を搭載させる際に、排ガス浄化装置のコンテナ形状をあらかじめ搭載箇所の空間形状に合わせて変形させておけば、無駄な空間が発生せず、限られたスペースを最大限に活用することができるが、そのためには、コンテナ形状にあわせた形状のハニカム構造体が必要となり、本発明の目封止ハニカム構造体100が好適に用いられる。
【0038】
図4は、傾斜面のない平坦な切り欠き部2を有した目封止ハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。図6は、図4に示すような切り欠き部2を有した目封止ハニカム構造体151の一例に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図であり、図8は、本発明の目封止ハニカム構造体の一の実施形態に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図である。このように切り欠き部2を設けることにより、エロージョンの問題を回避できる。ところが、この時、図6に示される目封止ハニカム構造体151においては、切り欠き部2の端部により排ガスには乱流が発生し、切り欠き部2の角部14を避けるようにして流れるため、図6中、切り欠き部2の角部14の下側に位置するセルには、排ガスが流れ込みにくくなる。従って、該セル5の隔壁へのPMの堆積が少なくなり、短セグメント1c内におけるPMの堆積量が不均一になることがある。PMの堆積量の不均一が増大すると思われる過酷な運転時には、堆積したPMを燃焼させてフィルタの再生処理を行う際に、PM堆積量の差から生じる熱応力の偏在が、クラックの発生へとつながる可能性がある。
【0039】
図7は、DPFの再生処理を行う際に、図6中の切り欠き部2周辺にクラックが生じる様子を示す、切り欠き部周辺の一部拡大断面図である。図7に示すように、切り欠き部2において、平坦セグメント1bと、短セグメント1cとの間の多孔質の隔壁内へはPMの堆積が少なく、DPFの再生処理時における温度の不均衡の原因となる。またこのとき短セグメント1cに接しない領域51と、接合材層3を介して切り欠き部を有した短セグメント1cに接する領域52とに発生する熱応力の偏在により、クラック50が発生するものと考えられる。
【0040】
しかしながら、図8に示すような、切り欠き部2に傾斜面7を設けることにより、排ガスの整流作用を持たせることとなり、排ガスの乱流の発生と、それに伴うPMの堆積分布が不均一となることを抑制することができる。このため、平坦セグメントと1b傾斜セグメント1aの間の熱応力の偏在と、それに伴うクラックの発生を防ぐことができる。このような設計とすることによって、フィルタ面積の減少を最小限に抑え、使用時の排ガスの乱流によるスート堆積の偏在を調整し、圧力損失の増加を抑制することができる。
【0041】
本発明の複数のハニカムセグメント1(1a,1b)が接合材層3を介して一体的に接合されてなる接合型の目封止ハニカム構造体100は、図11及び図12に示すように、傾斜セグメント1aとされる予定の長目封止部24の形成されたハニカムセグメント1を、長目封止部24よりも深さの小さい目封止部25の形成された平坦セグメント1bへ接合した後、ハニカムセグメント1の長目封止部形成側端部を所望の傾斜面と対応する形状に切削することで、製造することができる。尚、図11は長目封止部形成側端部切削前の目封止ハニカム構造体を模式的に示す軸方向における部分断面図であり、図12は、長目封止部形成側端部切削後の目封止ハニカム構造体を模式的に示す軸方向における部分断面図である。図11及び図12においては、作図の都合上、切り欠き部形成予定側と反対の端部における目封止部25は図から捨象したが、いずれのハニカムセグメント1(1a,1b)においても、隣接するセル5は互いに反対側となる流通端部において目封止されており、切り欠き部形成予定側と反対の端部においては、ハニカムセグメント1(1a,1b)による目封止部深さの差異は無く、一定の深さを持つ目封止部25が形成されている。
【0042】
目封止部を形成するには、まず、乾燥後のハニカムセグメント1の一方の端面(切り欠き部形成予定側の端面)にマスクテープを貼着させ、目封止部形成予定箇所にのみ、レーザーによって孔を開け、平坦セグメント1bとなるものに関しては、ハニカムセグメント1のマスクの施された側の端部を0.5〜2.0mmの範囲の深さの目封止スラリーに浸漬させ、目封止部25を形成する。傾斜セグメント1aとなるものに関しては、平坦セグメント1bとなるものと同様にして、ハニカムセグメント1のマスクの施された側の端部を所定の深さの目封止スラリーに浸漬させ、長目封止部24を形成する。この時、浸漬させる目封止スラリーの深さは、求める目封止ハニカム構造体の切り欠き部2の深さや傾斜面7の勾配に応じて、適宜決定することができる。
【0043】
更に、いずれのハニカムセグメント1においても、隣接するセル5が互いに反対側となる流通端部において目封止されるよう、他方の端面(切り欠き部形成予定側と反対の端面)にもマスクテープを貼着させ、目封止部形成予定箇所にのみ、レーザーによって孔を開け、その端部を、0.5〜2.0mmの範囲の深さの目封止スラリーに浸漬させ、目封止部25を形成する。次に、それぞれのハニカムセグメント1を所望の個数及び組み合わせに従って積み上げ、各ハニカムセグメント1の両端が揃うように互いに接合した後、加圧、乾燥し、ハニカムセグメント積層体30を得る(図16参照)。このとき、エロージョン抑制のための切り欠き部2を形成するという観点から、傾斜セグメント1aがハニカム構造体の隅部を構成するように、傾斜セグメント1aとなるハニカムセグメント1をハニカムセグメント積層体30の角に配置することが好ましい(図13参照)。また、複数の傾斜セグメント1aによって切り欠き部2を形成する場合には、傾斜セグメント1aとなる複数のハニカムセグメント1は、互いに隣接するように配置されることが好ましい(図14参照)。尚、図13は、本発明の目封止ハニカム構造体の一実施形態を切り欠き部形成方向から見た模式的正面図であり、図14は、本発明の目封止ハニカム構造体の別の実施形態を切り欠き部形成方向から見た模式的正面図である。図13及び図14においては、作図の都合上、セル5、隔壁6、及び目封止部25は図から捨象した。
【0044】
次いで、得られたハニカムセグメント積層体30に必要に応じて外周加工を施し、長目封止部24の形成されたハニカムセグメント1の形成側端部(切り欠き部形成予定部)を、所望の傾斜面7に対応する形状で、長目封止部24が所定の深さ残るようにエンドミル26にて切削することによって、目封止部27を有する傾斜セグメント1aを形成し、所望の傾斜面7を有した目封止ハニカム構造体100を得る。このような製造方法においては、接合、外周加工までは、従来の目封止ハニカム構造体103の製造方法における技術を用いることができるため好ましい。また、図13、図14にそれぞれ示すように、ハニカムセグメント積層体30(図16参照)に外周加工を施した後、外周壁41を設けることが強度向上のため、好ましい。
【0045】
また、複数のハニカムセグメント1(1a、1b)が接合材層3を介して一体的に接合されてなる接合型の目封止ハニカム構造体100は、傾斜セグメント1aとして、あらかじめ傾斜面7が形成された傾斜セグメント1aを、平坦セグメント1bへ接合し、必要に応じてその外周を加工することでも製造することができる。
【0046】
まず、あらかじめ傾斜面7が作製された傾斜セグメント1a及び平坦セグメント1bの各接合面に接合材を塗布し、順次所望の個数及び組み合わせに従って積み上げ(図15参照)、切り欠き部形成予定側と反対の端面が揃うように互いに接合した後、加圧、乾燥し、ハニカムセグメント積層体30を得る(図16参照)。この時、エロージョン抑制のための切り欠き部2を形成するという観点から、傾斜セグメント1aがハニカム構造体106の隅部を構成するように、傾斜セグメント1aをハニカムセグメント積層体30の角に配置することが好ましい(図13参照)。また、複数の傾斜セグメント1aによって切り欠き部2を形成する場合には、複数の傾斜セグメント1aは、互いに隣接するように配置されることが好ましい(図14参照)。尚、図15は、ハニカムセグメントを積み上げる工程を模式的に示す工程図であり、図16は、ハニカムセグメント積層体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0047】
次いで、得られたハニカムセグメント積層体30に必要に応じて外周加工を施し、所望の目封止ハニカム構造体100を得る。このような製造方法においては、切削等の後工程を必要としないため、原料収率及びコストの点で好ましい。尚、この時傾斜セグメント1aは、あらかじめ傾斜セグメント1aに適した軸方向長さに作製したハニカムセグメント1に目封止部25を形成することで作製してもよいが、平坦セグメント1bとなるハニカムセグメント1と同じ軸方向長さのハニカムセグメント1に長目封止部24を形成し、長目封止部形成側端部を、ハニカムセグメント1全体が傾斜セグメント1aに適した軸方向長さとなるように切断することで作製してもよい。
【0048】
本発明の目封止ハニカム構造体の製造方法によれば、用途や目的に応じて、少なくとも一部に傾斜面を有し、所望の位置及び大きさに切り欠き部が形成された目封止ハニカム構造体を得ることができる。そのような目封止ハニカム構造体をDPFとして用いると、浄化装置内の限られたスペースにおいてエロージョン抑制効果を発揮するほか、特殊な形状のコンテナにも対応可能である等、車載用フィルタとして、様々な効果を発揮する。更に、本発明の目封止ハニカム構造体の製造方法によれば、形状加工による浄化性能及び強度の低下が抑えられ、原料収率やコストの面でも優れた目封止ハニカム構造体を得ることができる。また更に、DPF再生処理時のPMの堆積分布の偏在を抑制することにより、クラックの発生を防止することができる。
【0049】
図6は、本発明の目封止ハニカム構造体の一実施形態に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図であり、図7は、本発明の目封止ハニカム構造体の別の実施形態に排ガスが流れ込む様子を模式的に示す断面図である。この時、図6及び図7に示すように、排ガスは、切り欠き部の角部14を避けるようにして流れるため、図6中、切り欠き部の角部14の下側のセル5には、排ガスが流れ込みにくくなり、従って、該セル5の隔壁へのPMの堆積が少なくなり、ハニカムセグメント1内におけるPMの堆積量が不均一になることがある。その結果、堆積したPMを燃焼させてフィルタの再生処理を行う際に、PM堆積量の差から生じる熱応力の偏在が、クラックの発生へとつながる可能性がある。
【0050】
そこで、本発明の目封止ハニカム構造体においては、図8に示すように、傾斜セグメント1aは、当該目封止ハニカム構造体の外周部を構成するように配置されたものであり、傾斜セグメント1aの傾斜開始点が形成された目封止ハニカム構造体の中心部側から目封止ハニカム構造体の外周部側へ、傾斜セグメント1aの外周部側の軸方向長さが短くなるように傾斜する傾斜面とされている。すなわち、図8は、ハニカム構造体を軸方向に切断した断面図であり、傾斜セグメントの切り欠き部側の端部が傾斜面となっている。
【0051】
当該目封止ハニカム構造体の外周部を構成するセグメント数のうち、傾斜セグメントの数は、1〜3個とすることが好ましい。傾斜セグメントの数は、1〜2個とすることが更に好ましい。また、傾斜セグメントが、2〜3個の場合、隣接するように設けられることが好ましい。例えば図14の目封止ハニカム構造体107に示すように複数の傾斜セグメント1aを隣接するように設けることが好ましい。傾斜セグメント1aの数が複数である場合、傾斜面7はこの複数の傾斜セグメント1aにまたがって連続した傾斜を有するように設けることが好ましい。
【0052】
図9に示すように、前記傾斜面が開始する傾斜開始点は、前記接合面を少なくとも一部含むように形成され、前記傾斜開始点から前記ハニカム構造体の外周壁41までの、前記傾斜開始点が形成された接合面に沿った直線の距離Lと前記傾斜面の高さHとの比H/Lが0.05〜1.5を満たすことが好ましい。
【0053】
本発明の目封止ハニカム構造体において、傾斜面の構造は特に限定するものではなく、上述したよう乱流の発生に伴うPMの堆積分布の不均一を抑制できる整流効果を有する傾斜面であれば良い。例として、図10A〜10Eに傾斜面の各実施形態を示す。図10A〜図10Eは、それぞれハニカム構造体を軸方向にて傾斜面を含むように切断した断面図である。
【0054】
図10Aは、目封止ハニカム構造体100の傾斜セグメント1aの中心部側面が、平坦セグメントの端面とほぼ一致しており、目封止ハニカム構造体の外周部側において、傾斜セグメントの軸方向8長さが短くなるように端面が傾斜面として形成されている。
【0055】
図10Bは、目封止ハニカム構造体101の傾斜セグメント1aの目封止ハニカム構造体の中心部側における軸方向8長さが、平坦セグメントよりも短くなっており、さらに、目封止ハニカム構造体の外周部側へ向かって、傾斜セグメントの軸方向長さが短くなるように端面が傾斜面として形成されている。
【0056】
図10Cは、目封止ハニカム構造体102の傾斜セグメント1aの目封止ハニカム構造体の中心部側における軸方向8長さが、平坦セグメントよりも短くなっており、平坦セグメントの端面と平行な平坦面を有し、さらに、外周部側面へ向かって、外周部側面において、傾斜セグメントの軸方向8長さが短くなるように端面が傾斜面として形成されている。
【0057】
図10Dは、目封止ハニカム構造体103の傾斜セグメント1aの目封止ハニカム構造体の中心部側における軸方向8長さが、平坦セグメントよりも短くなっており、そこから外周部側が軸方向8長さが短くなるように傾斜面が形成され、さらに平坦セグメントの端面と平行な平坦面が外周部側面まで形成されている。
【0058】
図10Eは、目封止ハニカム構造体104の傾斜セグメント1aの目封止ハニカム構造体の中心部側における軸方向8長さが、平坦セグメントよりも短くなっており、そこから傾斜面として外周部側面まで凹状の湾曲面が形成されている。この湾曲面は更に曲率が最大となる凹湾曲ノーズが目封止ハニカム構造体の中心部側に位置し、流線形状とされている。この湾曲面が流線形状となっているため、排ガスの乱流を防ぐ整流作用に優れている。
【0059】
図10Fは、目封止ハニカム構造体105の傾斜セグメント1aの目封止ハニカム構造体105の中心部側における軸方向8長さが、平坦セグメントよりも短くなっており、そこから傾斜面として外周部側面まで凸状の湾曲面が形成されている。この湾曲面は更に曲率が最大となる凸湾曲ノーズが目封止ハニカム構造体の外周部側に位置し、流線形状とされている。この湾曲面が流線形状となっているため、排ガスの乱流を防ぐ整流作用に優れている。
【0060】
本発明の目封止ハニカム構造体に上述した排ガス浄化用触媒成分を担持させたDPFは、排ガス浄化装置内において、省スペース化を実現すると共にエロージョン抑制効果を持ちながらも、DPF再生時の熱応力の分布を均等化する端部形状を持ち、過酷な運転条件下におけるDPF再生時再生限界低下、圧力損失増加等の問題も改善される。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1〜実施例12として、傾斜面のある傾斜セグメントを切り欠き部として有した目封止ハニカム構造体を作成した。また、比較例1、比較例2として、傾斜面がなく、軸方向の長さを短くした短セグメントを切り欠き部として有した目封止ハニカム構造体を作成した。これら目封止ハニカム構造体に対して、それぞれ30g/Lの触媒をコートしたものをDPFとして用い、圧力損失試験および再生限界試験を行った。
【0063】
各実施例、比較例で用いた目封止ハニカム構造体の切り欠き部を考慮しない全体的な外径寸法としては、目封止ハニカム構造体の軸方向の長さ:152mm、最外径の直径が144mmの円柱状のものを使用した。
【0064】
切り欠き部を構成するハニカムセグメントの位置と個数は、比較例1、実施例1〜6においては、図13の目封止ハニカム構造体106の傾斜セグメント1aと同じ位置となるように1個とした。また比較例2、実施例7〜12において切り欠き部を構成するセグメントは、図14の目封止ハニカム構造体107の外周部に隣接する2つの傾斜セグメント1aと同じ位置となるように2個とした。各実施例、各比較例の寸法条件の詳細を、表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
具体的なD,L,Hの寸法については、図2A,図2B、図9に示すような接合面42での断面図を用いて説明する。表1中、実施例におけるDは目封止ハニカム構造体の流入孔側端面11からの傾斜開始位置40までの深さを示す。図4で示すような形状の、傾斜面7のない切り欠き部2を有した比較例1、2のように、傾斜面7がない切り欠き部2の場合は、切り欠き部2の流入孔側端面11からの深さをDとするものとする。表1中、Lは、傾斜開始位置40から傾斜開始位置40が形成された接合面42に沿った目封止ハニカム構造体の外周壁41までの距離を示すものとする。具体的には、図13、14で示されるような目封止ハニカム構造体106の流入孔側端面11から見た平面図の傾斜セグメント1aの辺長L,L’で2つの辺長のうち、短い方をLとする。傾斜面のない切り欠き部2を短セグメント1cとして有した比較例1,2の場合は、図13、図14の傾斜セグメント1aを、切り欠き部2が形成されたセグメント1cに置き換えた場合の外周壁までの辺長L,L’のうち、短い方の辺長をLとする。傾斜面7の高低差Hとしては、図9に示すように、接合面42における傾斜開始位置と、切り欠き部の底面までの高さを示すものとする。傾斜面のない比較例1,2については、高低差Hを0mmとする。
【0067】
各実施例、比較例で用いた目封止ハニカム構造体を構成するハニカムセグメントとして、軸方向に垂直な断面形状が、一辺の長さ36mmの正方形である四角柱状ハニカムセグメントを用いた。また、各実施例、比較例で用いた目封止ハニカム構造体として、切り欠き部を有するハニカムセグメントを角部に配置するようにした。平坦セグメントと、角部に配置した切り欠き部を有するハニカムセグメント(傾斜セグメント、短セグメント)とを合計16個隣接し、接合面に接合材を塗布した接合材層を介して積層し、加圧しながら140℃にて2時間乾燥させることにより、ハニカムセグメント積層体を得た。更にこのハニカムセグメント積層体を円柱状に切削加工し、コーティング材を塗布し、700℃で2時間乾燥硬化させ、目封止ハニカム構造体を得た。具体的には、以下に記載する。
【0068】
SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、有機バインダー、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を押出成形し、乾燥させてハニカムセグメントとされるハニカム状成形体を得た。このハニカム状成形体を乾燥させた後、ハニカム状成形体を、大気雰囲気中、約400℃で脱脂し、更に、Ar雰囲気において約1450℃で焼成して、成形体中のSiC粒子をSiで結合させることにより、ハニカムセグメントを得た。
【0069】
次いで、このハニカム状焼成体の外壁に下地材を塗布して、自然乾燥させ、隔壁の厚さが12mil(305μm)、セル形状が正方形、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面形状が一辺36mmの正方形、軸方向の長さが152mmである四角柱状のハニカムセグメントを得た。下地材は、SiC粉末、シリカゾル水溶液及び水を混合したものである。
【0070】
実施例1〜12で使用した切り欠き部を構成する傾斜セグメントとしては、後述するような所望の傾斜面とするため、上述した四角柱状のハニカムセグメントをエンドミルで切削加工することにより製作した。比較例1、2で使用した切り欠き部を有した短セグメントとしては、上述した平坦セグメントを、切削加工により、軸方向の長さを122mmとした以外は、同様の製造方法で製作した。
【0071】
[目封止用スラリーの調製]炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を75:25の質量割合で混合し、これにメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、焼結助剤、造孔材及び水を添加して混練し、目封止用スラリーを得た。焼結助剤として、炭酸ストロンチウムを用いた。造孔材として、発泡樹脂を用いた。
【0072】
[目封止ハニカムセグメントの作製]平坦セグメント、短セグメント及び傾斜セグメントの一の端面のセルの開口に、市松模様状(千鳥模様状)に交互にマスクを施した。具体的には、ハニカム構造体の一の端面全体に粘着性フィルムを貼着し、その粘着性フィルムのうち目封止部を形成したいセルに相当する部分のみをレーザによって穴を開けた。そして、マスクを施した端面の側を、容器に入れた目封止用スラリーに浸漬し、穴に対応した位置のセル内に目封止用スラリーを充填した。このとき、傾斜セグメントについては、目封止用スラリーの液面と、傾斜面とが平行である状態でこの液面に浸漬し、目封止用スラリーを充填した。他の端面については、一の端面において目封止部を形成しなかったセルが、開けた穴に対応した位置になるように、同様にして、フィルムでマスクを施し、マスクを施した端面の側を炭化珪素を含有する目封止用スラリーに浸漬し、穴に対応した位置のセル内に目封止用スラリーを充填した。その後、目封止用スラリーを充填したハニカムセグメントを熱風乾燥機で乾燥した。
【0073】
[ハニカムセグメント接合体の作製]次に、各ハニカムセグメントの周面に、アルミノシリケートファイバ、コロイダルシリカ、ポリビニルアルコール、及び炭化珪素を混練してなる接合用スラリーを塗布し、平坦セグメントと、切り欠き部を有したハニカムセグメントとを互いに組み付けて圧着した後、加熱乾燥して、全体形状が四角柱状のハニカムセグメント接合体を得た。
【0074】
そして、そのハニカムセグメント接合体を、円柱形状に研削加工した後、その周面を、ハニカムセグメント成形体と同材料からなる外周コート層で被覆し、乾燥により硬化させ、セグメント構造を有する円柱形状の目封止ハニカム構造体を得た。
【0075】
(評価)
圧力損失測定試験:
排気量2000ccの直噴ターボ付きディーゼルエンジン(TDI)を使用して排ガスを発生させ、圧力損失試験を行った。表1の各比較例、実施例に示すような目封止ハニカム構造体に30g/Lの触媒をコートしたものをDPFとして用いた。この各DPFに対してスートをスス堆積量を8g/L堆積させた。エンジン回転数を3000rpm、エンジントルクを50Nm、ガス流量3.5〜4.5m/minとして、排ガス温度250〜350℃の条件下で、DPFにススを堆積させていき、スス堆積量との関係においてDPFの排ガス流通方向前後における圧力損失を測定した。圧力損失は、ススを8g/Lまで堆積させた時点での各圧力損失値(kPa)を用い、比較例1の圧力損失値(kPa)を基準とした場合の実施例1〜6の圧力損失変化率[%]および、比較例2の圧力損失値(kPa)を基準とした場合の実施例7〜12の圧力損失変化率[%]の結果を表1に示した。
【0076】
再生限界試験:
切り欠き部の傾斜面の有無や、傾斜面の位置、寸法等の条件を変化させて、切り欠き部を下方とした状態で試験を行う。表1の各比較例、実施例に示すような目封止ハニカム構造体に30g/Lの触媒をコートしたものをDPFとして用いた。順次、スス(PM)の堆積量を増加させてフィルタの再生(PMの燃焼)を行い、クラックが発生する限界を確認した(PM量ステップアップ再生試験)。排気量2000ccの直噴ターボ付きディーゼルエンジン(TDI)を使用し、エンジン回転数を2000rpm、エンジントルクを60Nmに保った状態で、DPFにスートを堆積させた。次に、ポストインジェクションによって、DPFの入口におけるガス温度を650℃まで昇温させ、DPFの前後の圧力損失が落ち始めたところで、エンジン運転条件をアイドル状態とし、同時にポストインジェクションを停止した。この後、高酸素濃度と低排気流量によって、DPFの内部温度が急上昇した。DPFへの堆積スート量を変化させていき、DPF出口端面にクラックが発生するスート量の比較を行った。クラック発生の有無は、DPFの軸方向に垂直な断面方向に分断されるリングオフクラックの発生有無をCTスキャンを用いて観察した。DPF出口端面にクラックが発生した際のスート量をそのDPFの再生限界値とした。比較例1のクラック発生時のスス堆積量(g/L)を基準値とした場合の実施例1〜6の基準値との差(g/L)および、比較例2のクラック発生時のスス堆積量(g/L)を基準値とした場合の実施例7〜12の基準値との差(g/L)の結果を表1に示した。
【0077】
比較例1、2として、図4に示すような傾斜面のない短セグメント1cを有した目封止ハニカム構造体151を用いて、再生限界試験を行った。具体的には、表1に示すような寸法のものを使用した。比較例1と実施例1〜6はLを20mmとし、比較例2と実施例7〜12はLを36mmとし、その他の条件を変化させ、上述した圧力損失試験、再生限界試験を行った。
【0078】
圧力損失試験、再生限界試験の結果、実施例1〜12の傾斜面を有した切り欠き部を設けた目封止ハニカム構造体を用いた場合においては、傾斜面のない平坦な切り欠き部を有した目封止ハニカム構造体を用いた比較例1および比較例2と比較して、圧力損失の低下や、再生限界の向上等が見られた。
【0079】
更に、実施例6においては、図1に示すように、傾斜面7の開始位置40が目封止ハニカム構造体100の流入孔端面11にあり、このときの損失係数が最小となり、再生限界試験でのスス堆積量も最大となった。
【0080】
このように、各実施例において示されたように、傾斜面の高さHとの比をH/Lが0.05〜1.5とすることが好ましい。このような値とすることによって、切り欠き部を備えたことによるエロージョン抑制効果及びサイズダウンを両立しつつも、切り欠き部での乱流の発生を防ぎ、DPF再生時の再生限界低下、圧力損失増加等の問題も改善されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の目封止ハニカム構造体及びそれを用いたDPFは、排ガス浄化装置内において、省スペース化を実現すると共にエロージョン抑制効果を持ちながらも、DPF再生時の熱応力の分布を均等化する端部形状を持ち、過酷な運転条件下におけるDPF再生時再生限界低下、圧力損失増加等の問題も改善されるため、産業上の利用可能性が大なるものである。
【符号の説明】
【0082】
1:ハニカムセグメント、1a:傾斜セグメント、1b:平坦セグメント、1c:短セグメント、2:切り欠き部、3:接合材層、4:平坦面、5:セル、6:隔壁、7:傾斜面、8:軸方向、9:ハニカム触媒体、11:流入孔側端面、12:流出孔側端面、13:異物捕集ポケット、14:切り欠き部の角部、15:コンテナ、18:DPF、24:長目封止部、25:目封止部、26:エンドミル、27:長目封止部。30:ハニカムセグメント積層体、40:傾斜開始位置、41:外周壁、42:接合面、50:クラック、51:領域、52:領域、100、101、102、103、104、105、106、107:目封止ハニカム構造体、110,120,130:排ガス浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁により区画された流体の流路となる複数のセルを有し、隣接する前記セルが互いに反対側となる一方の端部において目封止された複数のハニカムセグメントからなり、複数の前記ハニカムセグメントが互いに隣接され、隣接する複数の前記ハニカムセグメントどうしの接合面において接合材層を介して一体的に接合されたディーゼルパティキュレートフィルタ用の目封止ハニカム構造体であって、
当該目封止ハニカム構造体の外周側に配置された前記ハニカムセグメントの少なくとも一部が、前記流体の流入孔側端面に、当該目封止ハニカム構造体の中心側から外周側に向かって当該目封止ハニカム構造体の軸方向の長さが減少するように傾斜した傾斜面を少なくとも一部有した傾斜セグメントとされた目封止ハニカム構造体。
【請求項2】
前記傾斜面が開始する傾斜開始位置は、前記接合面に形成され、
前記傾斜開始位置から前記傾斜開始位置が形成された前記接合面に沿った前記ハニカム構造体の外周壁までの距離Lと前記傾斜面の高さHとの比H/Lが0.05〜1.5の範囲である請求項1に記載の目封止ハニカム構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の目封止ハニカム構造体に排ガス浄化用触媒成分を担持させたディーゼルパティキュレートフィルタ。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図10E】
image rotate

【図10F】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−234333(P2010−234333A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87451(P2009−87451)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】