目標追尾装置
【課題】PRI内距離を目標の運動諸元の推定処理に利用できるようにして、目標の運動諸元の推定精度を高めることができる目標追尾装置を得ることを目的とする。
【解決手段】PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成部15や、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するPRI内距離フィルタ処理部16などを備える。
【解決手段】PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成部15や、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するPRI内距離フィルタ処理部16などを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ等のセンサから得られる目標の観測値の時系列から目標の位置及び速度を推定する目標追尾装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダから得られる目標の観測値を使用して目標を追尾する技術は、多くの論文や特許文献などで取り挙げられており、それらを実現する目標追尾装置や方法については様々な提案がなされている。
【0003】
レーダから目標の観測値を得る際に、目標以外の反射信号に起因するクラッタが得られることがある。
このクラッタを使用して、目標の追尾処理を実施すると、誤った運動諸元の推定値が算出されるため、目標の推定精度を高めるにはクラッタを除去する必要がある。
このクラッタを除去する方式として、レーダの送信信号であるパルスを高頻度に発生させることで、追尾処理の前段の信号処理である周波数解析処理で、目標とクラッタを区別するパルスドップラ方式が知られている。
【0004】
レーダの送信信号の波形をパルス状とするレーダ方式では、図12に示すように、送信パルスと受信パルスの時間差から、目標の距離情報を算出することができる。以下、その距離情報を必要に応じて「PRI内距離」と称する。
ただし、高頻度でパルスを送信する場合、各受信波が、何れの送信波に対応する反射波であるのかを特定することができず、距離情報であるPRI内距離に複数の候補が発生する。
これはアンビギュイティと呼ばれるが、このアンビギュイティのために、信号処理の後段にある追尾処理では距離情報を観測値として利用することができない。
【0005】
一意に特定することができる距離情報を得るために、1サンプリング時刻の観測時間内の送信波形を図13に示すように、パルスドップラ処理とFM変調処理に2分割する方式が提案されている。
パルスドップラ処理でドップラ周波数が得られ、FM変調処理でビート周波数fbkが得られる。
ビート周波数fbkは、下記の式(1)に示すように、目標の距離と距離変化利率の一次結合であるため、ドップラ周波数から決まる距離変化率を代入することで目標の距離が得られる。
【0006】
式(1)において、Rkは第kサンプリング時刻における目標の距離、Rkドット(本明細書では、電子出願の関係上、文字の上の・を記載することができないため、「Rkドット」のように記載する)は第kサンプリング時刻における目標の距離変化率である。
また、BはFM変調の帯域幅、cは光速、Tは観測時間、f0は送信周波数である。
【0007】
図13に示す波形制御では、観測時間Tをパルスドップラ処理とFM変調処理を2分割しているため、全観測時間でパルスドップラ処理を行う場合と比べて、1サンプリング時刻の信号強度が半減して、探知確率が低下する問題がある。
そこで、図14に示すように、全観測時間で、FM変調処理を行い、複数スキャンのビート周波数から距離と距離変化率を算出することを考える。
このビート周波数の観測値を用いて、カルマンフィルタによって、目標までの距離と距離変化率を推定する方式が以下の特許文献1に開示されている。
この方式は、図15に示す装置構成によって、本出願で前提とするパルス繰り返し周波数が高いレーダに適用することができる。
【0008】
この方式では、まず、初期の2サンプリング時刻のビート周波数fb0,fb1から以下の連立方程式を解くことにより、距離と距離変化率の初期推定値x1ハット(+)(本明細書では、電子出願の関係上、文字の上の^を記載することができないため、「x1ハット(+)」のように記載する)を算出する。
式(2)において、Δtはサンプリング間隔である。
ここでは、サンプリング間隔Δtの時間内での目標の距離変化率の変化が極めて小さいと仮定している。
【0009】
この方式では、この初期推定値を出発点として、ビート周波数fbkが得られる毎に、カルマンフィルタを用いて、距離と距離変化率の推定値xkハット(+)を更新する。
カルマンフィルタの状態変数は以下の通りである。
初期推定値x1ハット(+)の各成分(下記の式(5)を参照)は、式(2)(3)に示す連立方程式の解とするため、初期の2サンプリング時刻のビート周波数fb0,fb1の線形結合となる。
このため、以降のカルマンフィルタに基づく処理で必要となる推定誤差共分散行列の初期値P1(+)の各成分は、ビート周波数の観測誤差標準偏差より算出することができる。
【0010】
以下、サンプリング時刻k(≧2)のビート周波数fbkを用いた推定値の更新処理を説明する。
カルマンフィルタでは、以下の状態遷移モデルを仮定して、予測処理を行う。
ここで、Φkは状態遷移行列であり、以下の式(7)で定義される。
また、wkは運動に加わる外乱であり、以下の共分散を持つガウス分布に従うとする。
ここでQkは事前に設定されるパラメータである。
【0011】
この状態遷移モデルに基づいて、サンプリング時刻k(≧2)の予測値xkハット(−),予測誤差共分散行列Pk-1(−)は、下記の式(9)(10)に示すように、1つ前のサンプリング時刻k−1の平滑値xk-1ハット(+),平滑誤差共分散行列Pk-1(+)から算出される。
【0012】
予測処理の後に、平滑処理を実施して、最終的な推定値を算出する。
ここでは、以下の観測モデルを仮定する。
式(11)において、Hbeatは観測行列であり、下記の式(12)で定義される。
また、efbはビート周波数の観測誤差であり、その分散Rfbがパラメータとして事前に与えられる。
【0013】
この観測モデルに基づいて、サンプリング時刻k(≧2)の平滑値xkハット(+),平滑誤差共分散行列Pk(+)は、下記の式(14)(15)に示すように、同サンプリング時刻の予測値xkハット(−),予測誤差共分散行列Pk(−)及び目標の観測値であるビート周波数fbkから算出される。
ここで、Iは単位行列である。Kkはカルマンゲインであり、下記の式(16)で算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−19824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の目標追尾装置は以上のように構成されているので、レーダの観測値であるビート周波数をカルマンフィルタに入力することで、目標までの距離と距離変化率を推定している。レーダの観測値であるPRI内距離をカルマンフィルタに入力して推定処理を実施することができれば、追尾精度が向上することが期待されるが、レーダの観測値であるPRI内距離はアンビギュイティがあり、複数の候補から距離を一意に特定することができないため、推定処理に利用することができない課題があった。
【0016】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、PRI内距離を目標の運動諸元の推定処理に利用できるようにして、目標の運動諸元の推定精度を高めることができる目標追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係る目標追尾装置は、レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えるように構成したので、ビート周波数だけでなく、アンビギュイティが解消されたPRI内距離が利用されて目標の運動諸元が推定されるようになり、その結果、運動諸元の推定精度が向上している目標追尾装置が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による目標追尾装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図6】距離変化率の推定例を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2による目標追尾装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図12】HPRFレーダにおける送信パルスと受信パルスの一例を示す説明図である。
【図13】HPRFパルスドップラとFM変調を併用する送信波形制御を示す説明図である。
【図14】FM変調のみによる送信波形制御を示す説明図である。
【図15】従来の目標追尾装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による目標追尾装置を示す構成図である。
図1において、レーダ1は繰り返し周波数が高いパルスを空間に放射する一方、空間に存在している目標に反射して戻ってきているパルスを受信することで、目標のビート周波数及びPRI内距離を観測し、その観測値であるビート周波数及びPRI内距離を目標追尾装置2に出力する装置である。
目標追尾装置2はレーダ1により観測されたビート周波数及びPRI内距離を用いて、目標の追尾処理を実施する装置である。
【0021】
初期値算出部11は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、レーダ1から得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値を算出する処理を実施する。
ただし、初期値算出部11は最初のサンプリング時刻におけるビート周波数と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数との差が、目標の最大速度から算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に限り、目標の観測値であるビート周波数を用いて、運動諸元の推定値の初期値を算出する。
なお、初期値算出部11は初期値算出手段を構成している。
【0022】
ビート周波数フィルタ処理部12は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、初期値算出部11により推定値の初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する処理を実施する。なお、ビート周波数フィルタ処理部12は第1の推定値更新手段を構成している。
推定結果格納部13は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、最新の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、あるいは、ビート周波数フィルタ処理部12又はPRI内距離フィルタ処理部16により更新された最も新しい推定値)を格納している。
【0023】
PRI内距離ゲート内外判定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄する処理を実施する。なお、PRI内距離ゲート内外判定部14はゲート内外判定手段を構成している。
【0024】
推定値仮説生成部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する処理を実施する。なお、推定値仮説生成部15は推定値仮説生成手段を構成している。
PRI内距離フィルタ処理部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新する処理を実施する。なお、PRI内距離フィルタ処理部16は第2の推定値更新手段を構成している。
【0025】
図1の例では、目標追尾装置の構成要素である初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、推定結果格納部13、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15及びPRI内距離フィルタ処理部16のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、目標追尾装置がコンピュータで構成されていてもよい。
目標追尾装置がコンピュータで構成されている場合、初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15及びPRI内距離フィルタ処理部16の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図2〜図5はこの発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0026】
次に動作について説明する。
最初に、目標追尾装置2における追尾処理の開始当初(最初の数サンプリング時刻)の処理内容を説明する。
目標追尾装置2でのカルマンフィルタの状態変数は、下記の式(17)に示す通りであり、従来技術と同様とする。
【0027】
この場合、最初の2サンプリング時刻の観測値で処理を行う。
例えば、カルマンフィルタの状態変数を3つの諸元(距離、距離変化率、距離変化率の変化率)で構成する場合、最初の3サンプリング時刻の観測値で処理する。同様に、カルマンフィルタの状態変数をJ個の諸元で構成する場合、最初のJサンプリング時刻の観測値で処理する。
以下では、式(17)の2つの諸元からなる状態変数を前提とする例を説明する。
【0028】
カルマンフィルタの予測処理は、下記の式(18)に示す状態遷移モデルに基づいて行う。
ここで、Φkは状態遷移行列であり、下記の式(19)で定義される。
また、wkは運動に加わる外乱であり、以下の共分散を持つガウス分布に従うとする。
ここで、Qkは事前に設定されるパラメータである。
【0029】
まず、初期値算出部11は、レーダ1から観測値として、第1サンプリング時刻のビート周波数と、第2サンプリング時刻のビート周波数が入力されると、それらのビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値x1ハット(+)’を算出するとともに、その推定誤差共分散の初期値P1(+)’を算出する(図2のステップST1)。
この初期値の算出方法は、従来技術における初期値の算出方法と同等である。
なお、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’は推定結果格納部13に格納される。
【0030】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST2)。
目標の観測値であるPRI内距離は、下記の式(22)で表される。
ここで、rpri1はPRI内距離の候補の中で最短の距離、ΔRpriはパルス間隔によって定まる折り返し幅である。
【0031】
ゲート内外判定は下記の式(23)の成否により決定され、無限個のPRI内距離の候補の中から、式(23)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(23)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
式(23)において、dは事前に設定されるゲートサイズパラメータであり、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(24)で算出される。
ここで、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(25)に示す観測モデルを前提とする。
【0032】
観測行列HRpriは、下記の式(26)で表される。
また、eRpriは無限個のPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0033】
推定値仮説生成部15は、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST3)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γ1,iは、下記の式(28)で算出される。
式(28)式では、i番目の仮説がPRI内距離の観測値としてRpri1nを選択していることを前提としている。
【0034】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γ1,iを算出すると、その信頼度γ1,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST4)。
例えば、信頼度γ1,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γ1,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0035】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(29)(30)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’、推定誤差共分散の初期値P1(+)’)を更新する(ステップST5)。
ここで、Iは単位行列、K1はカルマンゲインであり、下記の式(31)で算出される。
【0036】
以上が最初の2サンプリング時刻の観測値での処理である。
この処理においては、追尾対象の目標の速度の最大値が既知であれば、図3に示す手順を実施することにより、不要信号を目標と見做す誤相関の確率を低減することができる。
図3では、初期値算出部11が推定値の初期値x1ハット(+)’等を算出する前に、「ビート周波数の概略ゲート内外判定」を実施している(ステップST0)点で、図2に示す手順と異なっている。
【0037】
「ビート周波数の概略ゲート内外判定」は、初期値算出部11が最初のサンプリング時刻におけるビート周波数fb0と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数fb1との対応付けの可否を判定するものである。
この判定は、ビート周波数fb0とビート周波数fb1の差が、目標の最大速度Vmaxから算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に対応付けが可能であると判定するものであり、具体的には、下記の式(32)が成立すれば、対応付けが可能であると判定し、不成立ならば、対応付け不可能であると判定する。
初期値算出部11は、対応付けが可能であると判定すれば、ステップST1に移行するが、対応付けが不可能であると判定すれば、ステップST1に移行せずに、目標の観測値であるビート周波数fb1を破棄する。
式(32)において、lは係数であり、事前に設定されるパラメータである。
【0038】
初期値算出後は、1サンプリング時刻の観測値毎に処理を行う。
ビート周波数フィルタ処理部12は、初期値算出部11により初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数fbkを受ける毎に、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する。
【0039】
即ち、ビート周波数フィルタ処理部12は、下記の式(33)に示すように、レーダ1により観測されたビート周波数fbkと、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、または、PRI内距離フィルタ処理部16により更新された推定値)との相関判定を行う(図4のステップST11)。
ここで、H(j)は仮説の番号、xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、下記の式(34)で算出される。
また、Sfbは残差共分散行列であり、下記の式(35)で算出される。
ここで、Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、下記の式(36)で算出される。
【0040】
ビート周波数フィルタ処理部12は、式(33)が成立していなければ、そのビート周波数fbkはゲート外にあると判定して、そのビート周波数fbkを破棄する。
一方、式(33)が成立していれば、そのビート周波数fbkはゲート内にあると判定し、下記の式(37)(38)に示すように、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている各仮説の推定値であるxkH(j)ハット(−),Pk(−)を更新し、更新後の推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’を推定結果格納部13に格納する(ステップST12)。
ここで、Iは単位行列、Kk’はカルマンゲインであり、下記の式(39)で算出される。
【0041】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’)を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST13)。
ゲート内外判定は下記の式(40)の成否により決定され、式(40)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(40)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
ここで、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(41)で算出される。
式(41)において、Pk(+)’はビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’の平滑誤差共分散行列である。
また、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(42)に示す観測モデルにより算出される。
【0042】
観測行列HRpriは、下記の式(43)で表される。
また、eRpriはPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0043】
ここでは、PRI内距離ゲート内外判定部14が、式(40)が成立するか否かで、PRI内距離がゲート内にあるか、ゲート外にあるかを判定するものを示したが、目標の角度情報が観測値として得られる場合、この観測値を用いて、更に上記のゲート内外判定を精密化することができる。
PRI内距離ゲート内外判定部14は、目標の角度情報が観測値として得られる場合、サンプリング時刻kのPRI内距離の候補Rpriknと、同時刻の角度観測値(仰角Elk0,方位角Azk0)とから、このサンプリング時刻kの目標の3次元の位置を算出する。
また、サンプリング時刻k−1の推定値xk-1H(j)(+)の距離成分Rk-1ハット(下記の式(45)を参照)と、同時刻の角度観測値(仰角Elk-10,方位角Azk-10)とから、このサンプリング時刻k−1の目標の3次元の位置を算出する。
【0044】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、サンプリング時刻kの目標の3次元位置とサンプリング時刻k−1の目標の3次元位置の差分をサンプリング間隔で除算することにより速度ベクトルを算出し、図6に示すように、その速度ベクトルを距離方向に射影すれば、距離変化率Rk0ハットドットを算出することができる。
以下に示すように、PRI内距離ゲート内外判定部14は、この距離変化率と、サンプリング時刻kの推定値xkH(j)ハット(+)’の距離変化率の成分Rk0ハットドット’とを照合する。
評価関数は、下記の式(47)のように定義される。
【0045】
評価関数の誤差共分散行列は、下記の式(48)で算出される。
【0046】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、上記の評価関数を用いて、下記の式(49)のように、照合判定を行う。
【0047】
PRI内距離ゲート内外判定部14が、角度観測値を用いた照合を行う場合、式(40)と式(49)の双方が成立すれば、当該PRI距離はゲート内にあると判定し、何れかが不成立であれば、当該PRI距離はゲート外にあると判定する。
【0048】
推定値仮説生成部15は、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST14)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(51)で算出される。
ここでは、現サンプリング時刻kのi番目の仮説H(i)におけるサンプリング時刻k−1の親仮説をH(j)としている。つまり、この時刻の仮説の信頼度は、親仮説の信頼度に現サンプリング時刻のPRI内距離に関する尤度を積算することにより得られる。
【0049】
なお、PRI内距離ゲート内外判定部14が、角度観測値を用いた照合を行っている場合、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(52)で算出される。
【0050】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γk,iを算出すると、その信頼度γk,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST15)。
例えば、信頼度γk,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γk,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0051】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(53)(54)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(i)ハット(+)’,Pk(+)’)を更新する(ステップST16)。
ここで、Iは単位行列、Kkはカルマンゲインであり、下記の式(55)で算出される。
【0052】
以上が第3サンプリング時刻以降の1サンプリング時刻の観測値での処理である。
なお、図4では、ステップST11でビート周波数のゲート内外判定を実施し、ステップST13でPRI内距離のゲート内外判定を実施するものを示したが、図5に示すように、ステップST10で、ビート周波数のゲート内外判定とPRI内距離のゲート内外判定とを一括して実施するようにしてもよい。
即ち、ステップST10は「観測値のゲート内外判定」であり、ビート周波数fbk及びPRI内距離Rpriknのゲート内外判定を行っている。
【0053】
このゲート内外判定では、下記の式(56)が成立すれば、対応付けが可能であると判定し、不成立であれば、対応付け不可能であると判定する。
対応付けが可能であると判定すれば、ステップST12に移行するが、対応付けが不可能であると判定すれば、ステップST12に移行せずに、目標の観測値を破棄する。
ここで、zknは下記の式(57)に示される観測ベクトルである。
Hzは観測行列であり、その要素は下記の式(58)で表される。
【0054】
xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、上記の式(34)で得られる。
Szは残差共分散行列であり、下記の式(59)で得られる。
Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、上記の式(36)で得られる。
また、Rzは観測行列であり、その要素は下記の式(60)で表される。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、レーダ1から得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出部11と、初期値算出部11により推定値の初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するビート周波数フィルタ処理部12と、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するPRI内距離ゲート内外判定部14と、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成部15と、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するPRI内距離フィルタ処理部16とを備えるように構成したので、ビート周波数だけでなく、アンビギュイティが解消されたPRI内距離が利用されて目標の運動諸元が推定されるようになり、その結果、運動諸元の推定精度が向上している目標追尾装置が得られる効果がある。
【0056】
即ち、この実施の形態1では、PRI内距離の候補の選択について複数の仮説を生成し、それらの仮説の信頼度に応じて絞り込みながらPRI距離の候補の特定を行うので、候補選択を誤る可能性が低減される。その結果、PRI内距離の観測情報を推定に使うことができ、ビート周波数のみで推定する場合と比べて推定精度が大幅に向上する。
【0057】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2による目標追尾装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
推定値収束判定部17は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値が収束しているか否かを判定し、その推定値が収束していれば、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与える処理を実施する。なお、推定値収束判定部17は推定値収束判定手段を構成している。
【0058】
図7の例では、目標追尾装置の構成要素である初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、推定結果格納部13、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15、PRI内距離フィルタ処理部16及び推定値収束判定部17のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、目標追尾装置がコンピュータで構成されていてもよい。
目標追尾装置がコンピュータで構成されている場合、初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15、PRI内距離フィルタ処理部16及び推定値収束判定部17の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図8〜図11はこの発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0059】
次に動作について説明する。
最初に、目標追尾装置2における追尾処理の開始当初(最初の数サンプリング時刻)の処理内容を説明する。
以下、この実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、カルマンフィルタの状態変数が距離と距離変化率の2つの諸元から成る例を説明する。状態遷移モデル及び観測モデルも上記実施の形態1と同様であるとする。
【0060】
まず、初期値算出部11は、レーダ1から観測値として、第1サンプリング時刻のビート周波数と、第2サンプリング時刻のビート周波数が入力されると、それらのビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値x1ハット(+)’を算出するとともに、その推定誤差共分散の初期値P1(+)’を算出する(図8のステップST21)。
この初期値の算出方法は、従来技術における初期値の算出方法と同等である。
なお、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’は推定結果格納部13に格納される。
【0061】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST22)。
目標の観測値であるPRI内距離は、下記の式(62)で表される。
ここで、rpri1はPRI内距離の候補の中で最短の距離、ΔRpriはパルス間隔によって定まる折り返し幅である。
【0062】
ゲート内外判定は下記の式(63)の成否により決定され、無限個のPRI内距離の候補の中から、式(63)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(63)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
式(63)において、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(64)で算出される。
ここで、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(65)に示す観測モデルを前提とする。
【0063】
観測行列HRpriは、下記の式(66)で表される。
また、eRpriは無限個のPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0064】
推定値収束判定部17は、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値の収束度合いを判定する(ステップST23)。
この推定値が十分に収束していれば、レーダ1の観測値であるPRI内距離の候補の絞込みが十分であるが、収束が不十分であれば、PRI内距離の候補が十分に絞り込められておらず、そのPRI内距離の候補を使用して追尾処理を実施すると、後段の準最適化処理で正しい仮説を棄却してしまう危険性が高くなる。
【0065】
推定値収束判定部17は、下記の(1)又は(2)に該当する場合、推定値が十分に収束していると判定する。
(1)PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が閾値Mpriより少なければ、推定値が十分に収束していると判定する。
(2)初期値算出部11により算出された推定誤差共分散の初期値P1(+)’の固有値の最大値が閾値eigthより小さければ、推定値が十分に収束していると判定する。
ただし、閾値Mpri,閾値eigthは事前に設定されるパラメータである。
なお、上記の(2)による判定は、ステップST21における「ビート周波数による初期値の算出処理」の直後に実施することができるため、処理の実施手順は、図9のようになる。
【0066】
推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与えられるが、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していないと判定された場合(ステップST24)、ステップST25の「推定値出力」に移行し、現時点の推定値x11ハット(+)’,P1(+)’が目標追尾装置の最終推定値x11ハット(+),P1(+)として出力され、現サンプリング時刻の処理を終了する。
なお、この時点では、PRI内距離の観測値が推定処理に使用されていないため、仮説の数は唯一つである。
【0067】
推定値仮説生成部15は、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST26)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γ1,iは、下記の式(70)で算出される。
式(70)式では、i番目の仮説がPRI内距離の観測値としてRpri1nを選択していることを前提としている。
【0068】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γ1,iを算出すると、その信頼度γ1,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST27)。
例えば、信頼度γ1,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γ1,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0069】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(71)(72)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’、推定誤差共分散の初期値P1(+)’)を更新する(ステップST28)。
ここで、Iは単位行列、K1はカルマンゲインであり、下記の式(73)で算出される。
【0070】
以上が最初の2サンプリング時刻の観測値での処理である。
以降のサンプリング時刻では、1サンプリング時刻の観測値毎に処理する。
ビート周波数フィルタ処理部12は、初期値算出部11により初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数fbkを受ける毎に、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する。
【0071】
即ち、ビート周波数フィルタ処理部12は、下記の式(74)に示すように、レーダ1により観測されたビート周波数fbkと、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、または、PRI内距離フィルタ処理部16により更新された推定値)との相関判定を行う(図10のステップST31)。
ここで、H(j)は仮説の番号、xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、下記の式(75)で算出される。
また、Sfbは残差共分散行列であり、下記の式(76)で算出される。
ここで、Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、下記の式(77)で算出される。
【0072】
ビート周波数フィルタ処理部12は、式(74)が成立していなければ、そのビート周波数fbkはゲート外にあると判定して、そのビート周波数fbkを破棄する。
一方、式(74)が成立していれば、そのビート周波数fbkはゲート内にあると判定し、下記の式(78)(79)に示すように、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている各仮説の推定値であるxkH(j)ハット(−),Pk(−)を更新し、更新後の推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’を推定結果格納部13に格納する(ステップST32)。
ここで、Iは単位行列、Kk’はカルマンゲインであり、下記の式(80)で算出される。
【0073】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’)を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST33)。
ゲート内外判定は下記の式(81)の成否により決定され、式(81)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(81)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
ここで、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(82)で算出される。
式(82)において、Pk(+)’はビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’の平滑誤差共分散行列である。
また、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(83)に示す観測モデルにより算出される。
【0074】
観測行列HRpriは、下記の式(84)で表される。
また、eRpriはPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0075】
推定値収束判定部17は、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値の収束度合いを判定する(ステップST34)。
この推定値が十分に収束していれば、レーダ1の観測値であるPRI内距離の候補の絞込みが十分であるが、収束が不十分であれば、PRI内距離の候補が十分に絞り込められておらず、そのPRI内距離の候補を使用して追尾処理を実施すると、後段の準最適化処理で正しい仮説を棄却してしまう危険性が高くなる。
【0076】
推定値収束判定部17は、下記の(1)又は(2)に該当する場合、推定値が十分に収束していると判定する。
(1)PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が閾値Mpriより少なければ、推定値が十分に収束していると判定する。
(2)ビート周波数フィルタ処理部12により算出された誤差共分散行列Pk(+)’の固有値の最大値が閾値eigthより小さければ、推定値が十分に収束していると判定する。
ただし、閾値Mpri,閾値eigthは事前に設定されるパラメータである。
なお、上記の(2)による判定は、ステップST32における「ビート周波数の平滑処理」の直後に実施することができるため、処理の実施手順は、図11のようになる。
【0077】
推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与えられるが、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していないと判定された場合(ステップST35)、ステップST36の「推定値出力」に移行し、現時点の推定値xk1ハット(+)’,Pk(+)’が目標追尾装置の最終推定値xk1ハット(+),Pk(+)として出力され、現サンプリング時刻の処理を終了する。
【0078】
推定値仮説生成部15は、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST37)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(88)で算出される。
ここでは、現サンプリング時刻kのi番目の仮説H(i)におけるサンプリング時刻k−1の親仮説をH(j)としている。つまり、この時刻の仮説の信頼度は、親仮説の信頼度に現サンプリング時刻のPRI内距離に関する尤度を積算することにより得られる。
【0079】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γk,iを算出すると、その信頼度γk,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST38)。
例えば、信頼度γk,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γk,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0080】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(89)(90)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(i)ハット(+)’,Pk(+)’)を更新する(ステップST39)。
ここで、Iは単位行列、Kkはカルマンゲインであり、下記の式(91)で算出される。
【0081】
この実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、PRI内距離の候補の選択について複数の仮説を生成し、それらの仮説を信頼度に応じて絞り込みながら候補の特定を行うことを前提とするが、レーダ1の観測値であるビート周波数の推定値の精度に応じて、レーダ1の観測値であるPRI内距離の利用を決定しているので、候補選択を誤る危険性が上記実施の形態1より更に低減される。また、処理負荷についても上記実施の形態1より削減される。
【0082】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 レーダ、2 目標追尾装置、11 初期値算出部(初期値算出手段)、12 ビート周波数フィルタ処理部(第1の推定値更新手段)、13 推定結果格納部、14 PRI内距離ゲート内外判定部(ゲート内外判定手段)、15 推定値仮説生成部(推定値仮説生成手段)、16 PRI内距離フィルタ処理部(第2の推定値更新手段)、17 推定値収束判定部(推定値収束判定手段)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ等のセンサから得られる目標の観測値の時系列から目標の位置及び速度を推定する目標追尾装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダから得られる目標の観測値を使用して目標を追尾する技術は、多くの論文や特許文献などで取り挙げられており、それらを実現する目標追尾装置や方法については様々な提案がなされている。
【0003】
レーダから目標の観測値を得る際に、目標以外の反射信号に起因するクラッタが得られることがある。
このクラッタを使用して、目標の追尾処理を実施すると、誤った運動諸元の推定値が算出されるため、目標の推定精度を高めるにはクラッタを除去する必要がある。
このクラッタを除去する方式として、レーダの送信信号であるパルスを高頻度に発生させることで、追尾処理の前段の信号処理である周波数解析処理で、目標とクラッタを区別するパルスドップラ方式が知られている。
【0004】
レーダの送信信号の波形をパルス状とするレーダ方式では、図12に示すように、送信パルスと受信パルスの時間差から、目標の距離情報を算出することができる。以下、その距離情報を必要に応じて「PRI内距離」と称する。
ただし、高頻度でパルスを送信する場合、各受信波が、何れの送信波に対応する反射波であるのかを特定することができず、距離情報であるPRI内距離に複数の候補が発生する。
これはアンビギュイティと呼ばれるが、このアンビギュイティのために、信号処理の後段にある追尾処理では距離情報を観測値として利用することができない。
【0005】
一意に特定することができる距離情報を得るために、1サンプリング時刻の観測時間内の送信波形を図13に示すように、パルスドップラ処理とFM変調処理に2分割する方式が提案されている。
パルスドップラ処理でドップラ周波数が得られ、FM変調処理でビート周波数fbkが得られる。
ビート周波数fbkは、下記の式(1)に示すように、目標の距離と距離変化利率の一次結合であるため、ドップラ周波数から決まる距離変化率を代入することで目標の距離が得られる。
【0006】
式(1)において、Rkは第kサンプリング時刻における目標の距離、Rkドット(本明細書では、電子出願の関係上、文字の上の・を記載することができないため、「Rkドット」のように記載する)は第kサンプリング時刻における目標の距離変化率である。
また、BはFM変調の帯域幅、cは光速、Tは観測時間、f0は送信周波数である。
【0007】
図13に示す波形制御では、観測時間Tをパルスドップラ処理とFM変調処理を2分割しているため、全観測時間でパルスドップラ処理を行う場合と比べて、1サンプリング時刻の信号強度が半減して、探知確率が低下する問題がある。
そこで、図14に示すように、全観測時間で、FM変調処理を行い、複数スキャンのビート周波数から距離と距離変化率を算出することを考える。
このビート周波数の観測値を用いて、カルマンフィルタによって、目標までの距離と距離変化率を推定する方式が以下の特許文献1に開示されている。
この方式は、図15に示す装置構成によって、本出願で前提とするパルス繰り返し周波数が高いレーダに適用することができる。
【0008】
この方式では、まず、初期の2サンプリング時刻のビート周波数fb0,fb1から以下の連立方程式を解くことにより、距離と距離変化率の初期推定値x1ハット(+)(本明細書では、電子出願の関係上、文字の上の^を記載することができないため、「x1ハット(+)」のように記載する)を算出する。
式(2)において、Δtはサンプリング間隔である。
ここでは、サンプリング間隔Δtの時間内での目標の距離変化率の変化が極めて小さいと仮定している。
【0009】
この方式では、この初期推定値を出発点として、ビート周波数fbkが得られる毎に、カルマンフィルタを用いて、距離と距離変化率の推定値xkハット(+)を更新する。
カルマンフィルタの状態変数は以下の通りである。
初期推定値x1ハット(+)の各成分(下記の式(5)を参照)は、式(2)(3)に示す連立方程式の解とするため、初期の2サンプリング時刻のビート周波数fb0,fb1の線形結合となる。
このため、以降のカルマンフィルタに基づく処理で必要となる推定誤差共分散行列の初期値P1(+)の各成分は、ビート周波数の観測誤差標準偏差より算出することができる。
【0010】
以下、サンプリング時刻k(≧2)のビート周波数fbkを用いた推定値の更新処理を説明する。
カルマンフィルタでは、以下の状態遷移モデルを仮定して、予測処理を行う。
ここで、Φkは状態遷移行列であり、以下の式(7)で定義される。
また、wkは運動に加わる外乱であり、以下の共分散を持つガウス分布に従うとする。
ここでQkは事前に設定されるパラメータである。
【0011】
この状態遷移モデルに基づいて、サンプリング時刻k(≧2)の予測値xkハット(−),予測誤差共分散行列Pk-1(−)は、下記の式(9)(10)に示すように、1つ前のサンプリング時刻k−1の平滑値xk-1ハット(+),平滑誤差共分散行列Pk-1(+)から算出される。
【0012】
予測処理の後に、平滑処理を実施して、最終的な推定値を算出する。
ここでは、以下の観測モデルを仮定する。
式(11)において、Hbeatは観測行列であり、下記の式(12)で定義される。
また、efbはビート周波数の観測誤差であり、その分散Rfbがパラメータとして事前に与えられる。
【0013】
この観測モデルに基づいて、サンプリング時刻k(≧2)の平滑値xkハット(+),平滑誤差共分散行列Pk(+)は、下記の式(14)(15)に示すように、同サンプリング時刻の予測値xkハット(−),予測誤差共分散行列Pk(−)及び目標の観測値であるビート周波数fbkから算出される。
ここで、Iは単位行列である。Kkはカルマンゲインであり、下記の式(16)で算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−19824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の目標追尾装置は以上のように構成されているので、レーダの観測値であるビート周波数をカルマンフィルタに入力することで、目標までの距離と距離変化率を推定している。レーダの観測値であるPRI内距離をカルマンフィルタに入力して推定処理を実施することができれば、追尾精度が向上することが期待されるが、レーダの観測値であるPRI内距離はアンビギュイティがあり、複数の候補から距離を一意に特定することができないため、推定処理に利用することができない課題があった。
【0016】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、PRI内距離を目標の運動諸元の推定処理に利用できるようにして、目標の運動諸元の推定精度を高めることができる目標追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係る目標追尾装置は、レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えるように構成したので、ビート周波数だけでなく、アンビギュイティが解消されたPRI内距離が利用されて目標の運動諸元が推定されるようになり、その結果、運動諸元の推定精度が向上している目標追尾装置が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による目標追尾装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図6】距離変化率の推定例を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2による目標追尾装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(初期2サンプリング時刻までの処理)を示すフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容(第3サンプリング時刻以降の処理)を示すフローチャートである。
【図12】HPRFレーダにおける送信パルスと受信パルスの一例を示す説明図である。
【図13】HPRFパルスドップラとFM変調を併用する送信波形制御を示す説明図である。
【図14】FM変調のみによる送信波形制御を示す説明図である。
【図15】従来の目標追尾装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による目標追尾装置を示す構成図である。
図1において、レーダ1は繰り返し周波数が高いパルスを空間に放射する一方、空間に存在している目標に反射して戻ってきているパルスを受信することで、目標のビート周波数及びPRI内距離を観測し、その観測値であるビート周波数及びPRI内距離を目標追尾装置2に出力する装置である。
目標追尾装置2はレーダ1により観測されたビート周波数及びPRI内距離を用いて、目標の追尾処理を実施する装置である。
【0021】
初期値算出部11は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、レーダ1から得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値を算出する処理を実施する。
ただし、初期値算出部11は最初のサンプリング時刻におけるビート周波数と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数との差が、目標の最大速度から算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に限り、目標の観測値であるビート周波数を用いて、運動諸元の推定値の初期値を算出する。
なお、初期値算出部11は初期値算出手段を構成している。
【0022】
ビート周波数フィルタ処理部12は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、初期値算出部11により推定値の初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する処理を実施する。なお、ビート周波数フィルタ処理部12は第1の推定値更新手段を構成している。
推定結果格納部13は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、最新の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、あるいは、ビート周波数フィルタ処理部12又はPRI内距離フィルタ処理部16により更新された最も新しい推定値)を格納している。
【0023】
PRI内距離ゲート内外判定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄する処理を実施する。なお、PRI内距離ゲート内外判定部14はゲート内外判定手段を構成している。
【0024】
推定値仮説生成部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する処理を実施する。なお、推定値仮説生成部15は推定値仮説生成手段を構成している。
PRI内距離フィルタ処理部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新する処理を実施する。なお、PRI内距離フィルタ処理部16は第2の推定値更新手段を構成している。
【0025】
図1の例では、目標追尾装置の構成要素である初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、推定結果格納部13、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15及びPRI内距離フィルタ処理部16のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、目標追尾装置がコンピュータで構成されていてもよい。
目標追尾装置がコンピュータで構成されている場合、初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15及びPRI内距離フィルタ処理部16の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図2〜図5はこの発明の実施の形態1による目標追尾装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0026】
次に動作について説明する。
最初に、目標追尾装置2における追尾処理の開始当初(最初の数サンプリング時刻)の処理内容を説明する。
目標追尾装置2でのカルマンフィルタの状態変数は、下記の式(17)に示す通りであり、従来技術と同様とする。
【0027】
この場合、最初の2サンプリング時刻の観測値で処理を行う。
例えば、カルマンフィルタの状態変数を3つの諸元(距離、距離変化率、距離変化率の変化率)で構成する場合、最初の3サンプリング時刻の観測値で処理する。同様に、カルマンフィルタの状態変数をJ個の諸元で構成する場合、最初のJサンプリング時刻の観測値で処理する。
以下では、式(17)の2つの諸元からなる状態変数を前提とする例を説明する。
【0028】
カルマンフィルタの予測処理は、下記の式(18)に示す状態遷移モデルに基づいて行う。
ここで、Φkは状態遷移行列であり、下記の式(19)で定義される。
また、wkは運動に加わる外乱であり、以下の共分散を持つガウス分布に従うとする。
ここで、Qkは事前に設定されるパラメータである。
【0029】
まず、初期値算出部11は、レーダ1から観測値として、第1サンプリング時刻のビート周波数と、第2サンプリング時刻のビート周波数が入力されると、それらのビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値x1ハット(+)’を算出するとともに、その推定誤差共分散の初期値P1(+)’を算出する(図2のステップST1)。
この初期値の算出方法は、従来技術における初期値の算出方法と同等である。
なお、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’は推定結果格納部13に格納される。
【0030】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST2)。
目標の観測値であるPRI内距離は、下記の式(22)で表される。
ここで、rpri1はPRI内距離の候補の中で最短の距離、ΔRpriはパルス間隔によって定まる折り返し幅である。
【0031】
ゲート内外判定は下記の式(23)の成否により決定され、無限個のPRI内距離の候補の中から、式(23)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(23)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
式(23)において、dは事前に設定されるゲートサイズパラメータであり、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(24)で算出される。
ここで、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(25)に示す観測モデルを前提とする。
【0032】
観測行列HRpriは、下記の式(26)で表される。
また、eRpriは無限個のPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0033】
推定値仮説生成部15は、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST3)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γ1,iは、下記の式(28)で算出される。
式(28)式では、i番目の仮説がPRI内距離の観測値としてRpri1nを選択していることを前提としている。
【0034】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γ1,iを算出すると、その信頼度γ1,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST4)。
例えば、信頼度γ1,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γ1,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0035】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(29)(30)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’、推定誤差共分散の初期値P1(+)’)を更新する(ステップST5)。
ここで、Iは単位行列、K1はカルマンゲインであり、下記の式(31)で算出される。
【0036】
以上が最初の2サンプリング時刻の観測値での処理である。
この処理においては、追尾対象の目標の速度の最大値が既知であれば、図3に示す手順を実施することにより、不要信号を目標と見做す誤相関の確率を低減することができる。
図3では、初期値算出部11が推定値の初期値x1ハット(+)’等を算出する前に、「ビート周波数の概略ゲート内外判定」を実施している(ステップST0)点で、図2に示す手順と異なっている。
【0037】
「ビート周波数の概略ゲート内外判定」は、初期値算出部11が最初のサンプリング時刻におけるビート周波数fb0と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数fb1との対応付けの可否を判定するものである。
この判定は、ビート周波数fb0とビート周波数fb1の差が、目標の最大速度Vmaxから算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に対応付けが可能であると判定するものであり、具体的には、下記の式(32)が成立すれば、対応付けが可能であると判定し、不成立ならば、対応付け不可能であると判定する。
初期値算出部11は、対応付けが可能であると判定すれば、ステップST1に移行するが、対応付けが不可能であると判定すれば、ステップST1に移行せずに、目標の観測値であるビート周波数fb1を破棄する。
式(32)において、lは係数であり、事前に設定されるパラメータである。
【0038】
初期値算出後は、1サンプリング時刻の観測値毎に処理を行う。
ビート周波数フィルタ処理部12は、初期値算出部11により初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数fbkを受ける毎に、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する。
【0039】
即ち、ビート周波数フィルタ処理部12は、下記の式(33)に示すように、レーダ1により観測されたビート周波数fbkと、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、または、PRI内距離フィルタ処理部16により更新された推定値)との相関判定を行う(図4のステップST11)。
ここで、H(j)は仮説の番号、xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、下記の式(34)で算出される。
また、Sfbは残差共分散行列であり、下記の式(35)で算出される。
ここで、Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、下記の式(36)で算出される。
【0040】
ビート周波数フィルタ処理部12は、式(33)が成立していなければ、そのビート周波数fbkはゲート外にあると判定して、そのビート周波数fbkを破棄する。
一方、式(33)が成立していれば、そのビート周波数fbkはゲート内にあると判定し、下記の式(37)(38)に示すように、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている各仮説の推定値であるxkH(j)ハット(−),Pk(−)を更新し、更新後の推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’を推定結果格納部13に格納する(ステップST12)。
ここで、Iは単位行列、Kk’はカルマンゲインであり、下記の式(39)で算出される。
【0041】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’)を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST13)。
ゲート内外判定は下記の式(40)の成否により決定され、式(40)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(40)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
ここで、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(41)で算出される。
式(41)において、Pk(+)’はビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’の平滑誤差共分散行列である。
また、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(42)に示す観測モデルにより算出される。
【0042】
観測行列HRpriは、下記の式(43)で表される。
また、eRpriはPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0043】
ここでは、PRI内距離ゲート内外判定部14が、式(40)が成立するか否かで、PRI内距離がゲート内にあるか、ゲート外にあるかを判定するものを示したが、目標の角度情報が観測値として得られる場合、この観測値を用いて、更に上記のゲート内外判定を精密化することができる。
PRI内距離ゲート内外判定部14は、目標の角度情報が観測値として得られる場合、サンプリング時刻kのPRI内距離の候補Rpriknと、同時刻の角度観測値(仰角Elk0,方位角Azk0)とから、このサンプリング時刻kの目標の3次元の位置を算出する。
また、サンプリング時刻k−1の推定値xk-1H(j)(+)の距離成分Rk-1ハット(下記の式(45)を参照)と、同時刻の角度観測値(仰角Elk-10,方位角Azk-10)とから、このサンプリング時刻k−1の目標の3次元の位置を算出する。
【0044】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、サンプリング時刻kの目標の3次元位置とサンプリング時刻k−1の目標の3次元位置の差分をサンプリング間隔で除算することにより速度ベクトルを算出し、図6に示すように、その速度ベクトルを距離方向に射影すれば、距離変化率Rk0ハットドットを算出することができる。
以下に示すように、PRI内距離ゲート内外判定部14は、この距離変化率と、サンプリング時刻kの推定値xkH(j)ハット(+)’の距離変化率の成分Rk0ハットドット’とを照合する。
評価関数は、下記の式(47)のように定義される。
【0045】
評価関数の誤差共分散行列は、下記の式(48)で算出される。
【0046】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、上記の評価関数を用いて、下記の式(49)のように、照合判定を行う。
【0047】
PRI内距離ゲート内外判定部14が、角度観測値を用いた照合を行う場合、式(40)と式(49)の双方が成立すれば、当該PRI距離はゲート内にあると判定し、何れかが不成立であれば、当該PRI距離はゲート外にあると判定する。
【0048】
推定値仮説生成部15は、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST14)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(51)で算出される。
ここでは、現サンプリング時刻kのi番目の仮説H(i)におけるサンプリング時刻k−1の親仮説をH(j)としている。つまり、この時刻の仮説の信頼度は、親仮説の信頼度に現サンプリング時刻のPRI内距離に関する尤度を積算することにより得られる。
【0049】
なお、PRI内距離ゲート内外判定部14が、角度観測値を用いた照合を行っている場合、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(52)で算出される。
【0050】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γk,iを算出すると、その信頼度γk,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST15)。
例えば、信頼度γk,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γk,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0051】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(53)(54)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(i)ハット(+)’,Pk(+)’)を更新する(ステップST16)。
ここで、Iは単位行列、Kkはカルマンゲインであり、下記の式(55)で算出される。
【0052】
以上が第3サンプリング時刻以降の1サンプリング時刻の観測値での処理である。
なお、図4では、ステップST11でビート周波数のゲート内外判定を実施し、ステップST13でPRI内距離のゲート内外判定を実施するものを示したが、図5に示すように、ステップST10で、ビート周波数のゲート内外判定とPRI内距離のゲート内外判定とを一括して実施するようにしてもよい。
即ち、ステップST10は「観測値のゲート内外判定」であり、ビート周波数fbk及びPRI内距離Rpriknのゲート内外判定を行っている。
【0053】
このゲート内外判定では、下記の式(56)が成立すれば、対応付けが可能であると判定し、不成立であれば、対応付け不可能であると判定する。
対応付けが可能であると判定すれば、ステップST12に移行するが、対応付けが不可能であると判定すれば、ステップST12に移行せずに、目標の観測値を破棄する。
ここで、zknは下記の式(57)に示される観測ベクトルである。
Hzは観測行列であり、その要素は下記の式(58)で表される。
【0054】
xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、上記の式(34)で得られる。
Szは残差共分散行列であり、下記の式(59)で得られる。
Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、上記の式(36)で得られる。
また、Rzは観測行列であり、その要素は下記の式(60)で表される。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、レーダ1から得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出部11と、初期値算出部11により推定値の初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数を受ける毎に、そのビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するビート周波数フィルタ処理部12と、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するPRI内距離ゲート内外判定部14と、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成部15と、推定値仮説生成部15により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新するPRI内距離フィルタ処理部16とを備えるように構成したので、ビート周波数だけでなく、アンビギュイティが解消されたPRI内距離が利用されて目標の運動諸元が推定されるようになり、その結果、運動諸元の推定精度が向上している目標追尾装置が得られる効果がある。
【0056】
即ち、この実施の形態1では、PRI内距離の候補の選択について複数の仮説を生成し、それらの仮説の信頼度に応じて絞り込みながらPRI距離の候補の特定を行うので、候補選択を誤る可能性が低減される。その結果、PRI内距離の観測情報を推定に使うことができ、ビート周波数のみで推定する場合と比べて推定精度が大幅に向上する。
【0057】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2による目標追尾装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
推定値収束判定部17は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値が収束しているか否かを判定し、その推定値が収束していれば、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与える処理を実施する。なお、推定値収束判定部17は推定値収束判定手段を構成している。
【0058】
図7の例では、目標追尾装置の構成要素である初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、推定結果格納部13、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15、PRI内距離フィルタ処理部16及び推定値収束判定部17のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを想定しているが、目標追尾装置がコンピュータで構成されていてもよい。
目標追尾装置がコンピュータで構成されている場合、初期値算出部11、ビート周波数フィルタ処理部12、PRI内距離ゲート内外判定部14、推定値仮説生成部15、PRI内距離フィルタ処理部16及び推定値収束判定部17の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図8〜図11はこの発明の実施の形態2による目標追尾装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0059】
次に動作について説明する。
最初に、目標追尾装置2における追尾処理の開始当初(最初の数サンプリング時刻)の処理内容を説明する。
以下、この実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、カルマンフィルタの状態変数が距離と距離変化率の2つの諸元から成る例を説明する。状態遷移モデル及び観測モデルも上記実施の形態1と同様であるとする。
【0060】
まず、初期値算出部11は、レーダ1から観測値として、第1サンプリング時刻のビート周波数と、第2サンプリング時刻のビート周波数が入力されると、それらのビート周波数を用いて、目標の運動諸元(目標までの距離、目標の速度)の推定値の初期値x1ハット(+)’を算出するとともに、その推定誤差共分散の初期値P1(+)’を算出する(図8のステップST21)。
この初期値の算出方法は、従来技術における初期値の算出方法と同等である。
なお、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’は推定結果格納部13に格納される。
【0061】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’及び推定誤差共分散の初期値P1(+)’を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST22)。
目標の観測値であるPRI内距離は、下記の式(62)で表される。
ここで、rpri1はPRI内距離の候補の中で最短の距離、ΔRpriはパルス間隔によって定まる折り返し幅である。
【0062】
ゲート内外判定は下記の式(63)の成否により決定され、無限個のPRI内距離の候補の中から、式(63)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(63)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
式(63)において、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(64)で算出される。
ここで、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(65)に示す観測モデルを前提とする。
【0063】
観測行列HRpriは、下記の式(66)で表される。
また、eRpriは無限個のPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0064】
推定値収束判定部17は、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値の収束度合いを判定する(ステップST23)。
この推定値が十分に収束していれば、レーダ1の観測値であるPRI内距離の候補の絞込みが十分であるが、収束が不十分であれば、PRI内距離の候補が十分に絞り込められておらず、そのPRI内距離の候補を使用して追尾処理を実施すると、後段の準最適化処理で正しい仮説を棄却してしまう危険性が高くなる。
【0065】
推定値収束判定部17は、下記の(1)又は(2)に該当する場合、推定値が十分に収束していると判定する。
(1)PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が閾値Mpriより少なければ、推定値が十分に収束していると判定する。
(2)初期値算出部11により算出された推定誤差共分散の初期値P1(+)’の固有値の最大値が閾値eigthより小さければ、推定値が十分に収束していると判定する。
ただし、閾値Mpri,閾値eigthは事前に設定されるパラメータである。
なお、上記の(2)による判定は、ステップST21における「ビート周波数による初期値の算出処理」の直後に実施することができるため、処理の実施手順は、図9のようになる。
【0066】
推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与えられるが、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していないと判定された場合(ステップST24)、ステップST25の「推定値出力」に移行し、現時点の推定値x11ハット(+)’,P1(+)’が目標追尾装置の最終推定値x11ハット(+),P1(+)として出力され、現サンプリング時刻の処理を終了する。
なお、この時点では、PRI内距離の観測値が推定処理に使用されていないため、仮説の数は唯一つである。
【0067】
推定値仮説生成部15は、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST26)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γ1,iは、下記の式(70)で算出される。
式(70)式では、i番目の仮説がPRI内距離の観測値としてRpri1nを選択していることを前提としている。
【0068】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γ1,iを算出すると、その信頼度γ1,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST27)。
例えば、信頼度γ1,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γ1,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0069】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(71)(72)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された推定値の初期値x1ハット(+)’、推定誤差共分散の初期値P1(+)’)を更新する(ステップST28)。
ここで、Iは単位行列、K1はカルマンゲインであり、下記の式(73)で算出される。
【0070】
以上が最初の2サンプリング時刻の観測値での処理である。
以降のサンプリング時刻では、1サンプリング時刻の観測値毎に処理する。
ビート周波数フィルタ処理部12は、初期値算出部11により初期値が算出された後、レーダ1により観測されたビート周波数fbkを受ける毎に、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値を更新し、更新後の推定値を推定結果格納部13に格納する。
【0071】
即ち、ビート周波数フィルタ処理部12は、下記の式(74)に示すように、レーダ1により観測されたビート周波数fbkと、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(初期値算出部11により算出された初期推定値、または、PRI内距離フィルタ処理部16により更新された推定値)との相関判定を行う(図10のステップST31)。
ここで、H(j)は仮説の番号、xkH(j)ハット(−)は仮説H(j)における予測値であり、下記の式(75)で算出される。
また、Sfbは残差共分散行列であり、下記の式(76)で算出される。
ここで、Pk(−)は予測誤差共分散行列であり、下記の式(77)で算出される。
【0072】
ビート周波数フィルタ処理部12は、式(74)が成立していなければ、そのビート周波数fbkはゲート外にあると判定して、そのビート周波数fbkを破棄する。
一方、式(74)が成立していれば、そのビート周波数fbkはゲート内にあると判定し、下記の式(78)(79)に示すように、そのビート周波数fbkを用いて、推定結果格納部13により格納されている各仮説の推定値であるxkH(j)ハット(−),Pk(−)を更新し、更新後の推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’を推定結果格納部13に格納する(ステップST32)。
ここで、Iは単位行列、Kk’はカルマンゲインであり、下記の式(80)で算出される。
【0073】
PRI内距離ゲート内外判定部14は、レーダ1から目標の観測値であるPRI内距離を受けると、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’,Pk(+)’)を用いて、そのPRI内距離のゲート内外判定を実施することで、PRI内距離の候補の絞り込みを行う(ステップST33)。
ゲート内外判定は下記の式(81)の成否により決定され、式(81)が成立するPRI内距離はゲート内にあると判定されて、推定値仮説生成部15に出力されるが、式(81)が成立しないPRI内距離はゲート外にあると判定されて破棄される。
ここで、SRはPRI内距離に関する残差共分散行列であり、下記の式(82)で算出される。
式(82)において、Pk(+)’はビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(j)ハット(+)’の平滑誤差共分散行列である。
また、HRpriはPRI内距離の観測行列、RRpriはPRI内距離の観測誤差共分散行列であり、下記の式(83)に示す観測モデルにより算出される。
【0074】
観測行列HRpriは、下記の式(84)で表される。
また、eRpriはPRI内距離の候補の中から、PRI内距離が折り返し回数の誤りなく選択された場合のPRI内距離の観測誤差であり、その共分散RRpriがパラメータとして事前に与えられる。
【0075】
推定値収束判定部17は、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値の収束度合いを判定する(ステップST34)。
この推定値が十分に収束していれば、レーダ1の観測値であるPRI内距離の候補の絞込みが十分であるが、収束が不十分であれば、PRI内距離の候補が十分に絞り込められておらず、そのPRI内距離の候補を使用して追尾処理を実施すると、後段の準最適化処理で正しい仮説を棄却してしまう危険性が高くなる。
【0076】
推定値収束判定部17は、下記の(1)又は(2)に該当する場合、推定値が十分に収束していると判定する。
(1)PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が閾値Mpriより少なければ、推定値が十分に収束していると判定する。
(2)ビート周波数フィルタ処理部12により算出された誤差共分散行列Pk(+)’の固有値の最大値が閾値eigthより小さければ、推定値が十分に収束していると判定する。
ただし、閾値Mpri,閾値eigthは事前に設定されるパラメータである。
なお、上記の(2)による判定は、ステップST32における「ビート周波数の平滑処理」の直後に実施することができるため、処理の実施手順は、図11のようになる。
【0077】
推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成部15に与えられるが、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していないと判定された場合(ステップST35)、ステップST36の「推定値出力」に移行し、現時点の推定値xk1ハット(+)’,Pk(+)’が目標追尾装置の最終推定値xk1ハット(+),Pk(+)として出力され、現サンプリング時刻の処理を終了する。
【0078】
推定値仮説生成部15は、推定値収束判定部17により推定値が十分に収束していると判定された場合、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、その仮説の信頼度を算出する(ステップST37)。
この段階では、PRI内距離ゲート内外判定部14によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の数だけ仮説が生成され、各仮説の信頼度γk,iは、下記の式(88)で算出される。
ここでは、現サンプリング時刻kのi番目の仮説H(i)におけるサンプリング時刻k−1の親仮説をH(j)としている。つまり、この時刻の仮説の信頼度は、親仮説の信頼度に現サンプリング時刻のPRI内距離に関する尤度を積算することにより得られる。
【0079】
推定値仮説生成部15は、各仮説の信頼度γk,iを算出すると、その信頼度γk,iに基づいて目標追尾装置の処理能力に見合った数の仮説を採択し、採択されなかった仮説を破棄する(ステップST38)。
例えば、信頼度γk,iが高い上位N個の仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法や、信頼度γk,iが所定の閾値より高い仮説を残して、それ以外の仮説を破棄する方法などが考えられる。
【0080】
PRI内距離フィルタ処理部16は、推定値仮説生成部15により採択された仮説毎に、当該仮説に係るPRI内距離を用いて、下記の式(89)(90)に示すように、推定結果格納部13により格納されている現時点での運動諸元の推定値(ビート周波数フィルタ処理部12により更新された推定値xkH(i)ハット(+)’,Pk(+)’)を更新する(ステップST39)。
ここで、Iは単位行列、Kkはカルマンゲインであり、下記の式(91)で算出される。
【0081】
この実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、PRI内距離の候補の選択について複数の仮説を生成し、それらの仮説を信頼度に応じて絞り込みながら候補の特定を行うことを前提とするが、レーダ1の観測値であるビート周波数の推定値の精度に応じて、レーダ1の観測値であるPRI内距離の利用を決定しているので、候補選択を誤る危険性が上記実施の形態1より更に低減される。また、処理負荷についても上記実施の形態1より削減される。
【0082】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 レーダ、2 目標追尾装置、11 初期値算出部(初期値算出手段)、12 ビート周波数フィルタ処理部(第1の推定値更新手段)、13 推定結果格納部、14 PRI内距離ゲート内外判定部(ゲート内外判定手段)、15 推定値仮説生成部(推定値仮説生成手段)、16 PRI内距離フィルタ処理部(第2の推定値更新手段)、17 推定値収束判定部(推定値収束判定手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、上記目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、上記初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、上記レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、上記ビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、上記レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、上記PRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、上記ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、上記仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、上記推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えた目標追尾装置。
【請求項2】
初期値算出手段は、目標の観測値である最初のサンプリング時刻におけるビート周波数と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数との差が、上記目標の最大速度から算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に限り、上記目標の観測値であるビート周波数を用いて、推定値の初期値を算出することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項3】
ゲート内外判定手段は、レーダから得られる目標の観測値である角度情報を用いて、目標の距離変化率を算出し、上記目標の距離変化率と現時点での運動諸元の推定値における距離変化率の成分との照合判定を実施して、所定の関係が認められなければ、PRI内距離のゲート内外判定を実施して、上記PRI内距離がゲート内にあると判定しても、上記PRI内距離を破棄することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項4】
推定値仮説生成手段は、前サンプリング時刻における仮説の信頼度に対して、照合の尤度を積算することで、現サンプリング時刻における仮説の信頼度を算出することを特徴とする請求項3記載の目標追尾装置。
【請求項5】
ゲート内外判定手段は、PRI内距離とビート周波数からなる2次元の観測値のゲート内外判定を実施し、ゲート外にある観測値を破棄することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項6】
運動諸元の推定値が収束しているか否かを判定し、上記推定値が収束していれば、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成手段に与える推定値収束判定手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の目標追尾装置。
【請求項7】
推定値収束判定手段は、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が所定の閾値より少なければ、推定値が収束していると判定することを特徴とする請求項6記載の目標追尾装置。
【請求項8】
推定値収束判定手段は、第1の推定値更新手段により推定値が更新される際に算出される誤差共分散行列の固有値の最大値が所定の閾値より小さければ、推定値が収束していると判定することを特徴とする請求項6記載の目標追尾装置。
【請求項1】
レーダから得られる目標の観測値であるビート周波数を用いて、上記目標の運動諸元の推定値の初期値を算出する初期値算出手段と、上記初期値算出手段により推定値の初期値が算出された後、上記レーダにより観測されたビート周波数を受ける毎に、上記ビート周波数を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第1の推定値更新手段と、上記レーダから目標の観測値であるPRI内距離を受ける毎に、現時点での運動諸元の推定値を用いて、上記PRI内距離のゲート内外判定を実施し、ゲート外にあるPRI内距離を破棄するゲート内外判定手段と、上記ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離毎に推定値の仮説を生成して、上記仮説の信頼度を算出し、1以上の仮説の中で、信頼度が高い仮説を採択する推定値仮説生成手段と、上記推定値仮説生成手段により採択された仮説に係るPRI内距離を用いて、現時点での運動諸元の推定値を更新する第2の推定値更新手段とを備えた目標追尾装置。
【請求項2】
初期値算出手段は、目標の観測値である最初のサンプリング時刻におけるビート周波数と、次のサンプリング時刻におけるビート周波数との差が、上記目標の最大速度から算出されるビート周波数の差の最大変化より小さい場合に限り、上記目標の観測値であるビート周波数を用いて、推定値の初期値を算出することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項3】
ゲート内外判定手段は、レーダから得られる目標の観測値である角度情報を用いて、目標の距離変化率を算出し、上記目標の距離変化率と現時点での運動諸元の推定値における距離変化率の成分との照合判定を実施して、所定の関係が認められなければ、PRI内距離のゲート内外判定を実施して、上記PRI内距離がゲート内にあると判定しても、上記PRI内距離を破棄することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項4】
推定値仮説生成手段は、前サンプリング時刻における仮説の信頼度に対して、照合の尤度を積算することで、現サンプリング時刻における仮説の信頼度を算出することを特徴とする請求項3記載の目標追尾装置。
【請求項5】
ゲート内外判定手段は、PRI内距離とビート周波数からなる2次元の観測値のゲート内外判定を実施し、ゲート外にある観測値を破棄することを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項6】
運動諸元の推定値が収束しているか否かを判定し、上記推定値が収束していれば、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離を推定値仮説生成手段に与える推定値収束判定手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の目標追尾装置。
【請求項7】
推定値収束判定手段は、ゲート内外判定手段によりゲート内にあると判定されたPRI内距離の個数が所定の閾値より少なければ、推定値が収束していると判定することを特徴とする請求項6記載の目標追尾装置。
【請求項8】
推定値収束判定手段は、第1の推定値更新手段により推定値が更新される際に算出される誤差共分散行列の固有値の最大値が所定の閾値より小さければ、推定値が収束していると判定することを特徴とする請求項6記載の目標追尾装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−2841(P2013−2841A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131341(P2011−131341)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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