説明

目標運動解析方法及び装置

【課題】観測体の変針時の速力センサ誤差やジャイロセンサの誤差に起因する観測方位のバイアス誤差が存在する。
【解決手段】目標体から放射される音波の到来方位を音響センサにより時系列的に観測した時系列観測方位データを用いて、観測体の、観測時刻、目標体に対する観測方位、位置座標東西成分、位置座標南北成分、速力東西成分、および速力南北成分を入力し、音響センサ固有のバイアス誤差と音響センサを搭載する観測体の向きに基づくバイアス誤差とに対応するバイアス誤差成分に関する複数のインデックスを設定し、これらに基づいて、バイアス誤差成分および目標体の運動ベクトルを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標体から放射される音波を時系列データとして観測し、目標体の位置、針路、速力等を推定する目標運動解析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標運動解析方法は移動可能な観測体に設けられた音響センサにより、目標体から放射される音波の到来方位を時系列観測データとして蓄積し、前記時系列観測データと時系列推定データの残差が最小となる目標体の運動パラメータを推定するものである。
【0003】
前述した時系列観測データと時系列推定データの残差を最小化し、目標体の運動ベクトルを推定する問題は、非線形最適化問題として知られており、カルマンフィルタによる方法、最小二乗法による方法、遺伝的アルゴリズムによる方法等があった (特許文献1) 。
【0004】
また、音響センサのバイアス誤差を考慮した方法としては、音響センサの固有バイアス誤差曲線の係数を遺伝的アルゴリズムより探索し、目標体の運動パラメータは最小二乗法で求める方法があった。(特許文献2) 。
【0005】
【特許文献1】特開平9−90012公報
【特許文献2】特開平10−332806公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術は、観測方位に対するランダム誤差のみを考慮しており、観測方位にバイアス誤差が含まれていると、解の収束を遅らせることになり、目標運動解析の精度が劣化するといった問題があった。
【0007】
この問題を解決するために、特許文献2記載の方法は、バイアス誤差曲線の係数を推定しながら運動パラメータを推定することにより、センサ固有のバイアス誤差を補正するものである。バイアス誤差として、海水と音響センサが据え付けられている観測体隔壁内の媒質が異なることによる音波の屈折を想定したものである。しかし、バイアス誤差の発生原因は音波の屈折以外にも、観測体の変針時に発生する速力センサやジャイロセンサの誤差に起因する観測体自身の位置や向きの誤差が考えられ、このような場合にはバイアス誤差をセンサ固有の曲線としてモデル化することはできない。
【0008】
観測体の速力センサとして2軸ログを使用している場合に、図1(a)は観測体の変針率に比例した誤差を与えた時の航跡102と真の航跡101とをプロットした図、図1(b)は真の観測体位置から見た目標体位置の方位と誤差を含んだ観測体位置から見た目標体位置の方位の差分を示した図である。観測体が変針する度に真の観測体位置の誤差は大きくなり、1000〜2000秒の等速直進区間においてバイアス的な方位誤差が発生していることがわかる。
【0009】
また、特許文献2記載の方法はバイアス誤差曲線の係数の推定に遺伝的アルゴリズムを用いているため、計算量が莫大なものとなるといった問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、目標体から放射される音波の到来方位を音響センサにより時系列的に観測し、蓄積した時系列観測方位データを用いて、前記目標体の位置、針路及び速力を含む運動ベクトルを推定する目標運動解析方法である。その態様の一つは、時系列観測方位データに含まれる観測体の、観測時刻、目標体に対する観測方位、位置座標東西成分、位置座標南北成分、速力東西成分、および速力南北成分を入力し、音響センサ固有のバイアス誤差と音響センサを搭載する観測体の向きに基づくバイアス誤差とに対応するバイアス誤差成分に関する複数のインデックスを設定し、入力した各データ及び設定したバイアス誤差成分に関するインデックスに基づいて、バイアス誤差成分および目標体の運動ベクトルを推定する目標運動解析方法である。
【0011】
具体的な態様として、バイアス誤差成分に関する複数のインデックスは、観測体の等速直進運動区間、または観測体から見た目標体の相対方位とに対応して設定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の目標運動解析方法及び装置により、変針時の速力センサ誤差やジャイロセンサの誤差に起因する観測体の向きによる観測方位のバイアス誤差が存在している場合でも、目標運動解析の精度を保って、運動パラメータを推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による目標運動解析方法及び装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図2は、目標運動解析方法を実現するための機能ブロック図である。観測方位データベース設定部201は、航海センサ及び音響センサから観測体の針路、速力、位置座標東西成分、位置座標南北成分、観測体から見た目標体の相対方位の入力を受け付け、バイアス誤差インデックスを割り付け、観測方位データベース部202にこれらの情報を設定する。目標運動解析部203は観測方位データベース部202を参照し、推定パラメータとして、解析基準時刻における目標体位置東西成分、解析基準時刻における目標体位置南北成分、速力東西成分、速力南北成分、バイアス誤差成分1〜nを決定し、これらのパラメータを推定する。
【0015】
図3は観測方位データベース部202の構造を示した図である。[]は時系列にデータを蓄積するために配列構造となっていることを示しており、ここに蓄積されるデータ数(レコード数)は格納データ数として格納しておく。なお、観測方位誤差標準偏差は観測方位の正確さを示すものであり、必ずしも必要な情報ではないが、これを用いた解析を行うことにより、より精度の高い解析を実施することが可能となる。バイアス誤差インデックスは観測体の等速直進区間に、それぞれ対応して値が設定される。等速直進フラグは最新の観測データが観測体が変針変速中に観測したものか、等速直進中に観測したものであるかを識別するためのフラグであり、詳しくは後述する。観測体レグ数は観測方位データベースに含まれる等速直進区間の総数を示すものである。
【0016】
図4は観測方位データベース設定部201の処理フローを説明する図である。本処理は航海センサ及び音響センサから観測時刻、観測方位、観測方位誤差標準偏差、観測位置東西成分、観測位置南北成分の入力に応じて開始する。分岐401では、入力された観測体の針路と観測方位データベース202に保持する最新針路の差分の絶対値が規定値以上であるかを比較することにより、変針変速中であるか、等速直進中であるかを判定する。等速直進中であると判定された場合は処理402〜406を実行することにより観測方位データベース202のバイアス誤差インデックス以外の観測方位情報に入力された情報を設定する。
【0017】
次に処理407にて観測方位データベースの等速直進フラグを参照し、0(変針変速中)であれば観測体は等速直進を開始したことになるので、処理408で観測体レグ数をインクリメントする。処理409でバイアス誤差インデックスとして観測体レグ数を設定することにより、レグ毎に固有のインデックスを付与し、処理410で格納データ数をインクリメントする。最後に現在の観測体の状態として処理411にて等速直進フラグに1(等速直進中)を設定する。
【0018】
分岐401にて変針変速中であると判定された場合には、処理412で等速直進フラグに0(変針変速中)を設定し、観測方位データベースへの設定は実施しない。最後に次回観測データ入力時の変針変速/等速直進の判定のために、処理413で最新針路に入力針路を設定する。
【0019】
図5及び図6を用いて、図3及び図4に対応する他の例を説明する。図5及び図6では、バイアス誤差インデックスとして、観測体が向きを変えた各レグに対応して値が設定されることを示したが、図3及び図4では、バイアス誤差インデックスとして、観測体が向きを変えたことにより変わる、観測体から見た目標体の観測方位(相対方位)に対応して値が設定されることを説明する。
【0020】
図5は観測方位データベース部202の構造を示した図である。[]は時系列にデータを蓄積するために配列構造となっていることを示しており、ここに蓄積されるデータ数は格納データ数として格納しておく。なお、観測方位誤差標準偏差は観測方位の正確さを示すものであり、必ずしも必要な情報ではないが、これを用いた解析を行うことにより、より精度の高い解析を実施することが可能となる。バイアス誤差インデックスは相対方位に対応して値が設定される。
【0021】
図6は観測方位データベース設定部201の処理フローを説明する図である。本処理は航海センサ及び音響センサから観測時刻、観測方位、観測方位誤差標準偏差、観測位置東西成分、観測位置南北成分の入力に応じて開始する。処理601〜605を実行することにより観測方位データベースのバイアス誤差インデックス以外の観測方位情報に入力された情報を設定する。次に分岐606〜608にて、観測隊から見た目標体の相対方位毎に処理を分岐し、処理609〜611相対方位対応にバイアス誤差インデックスを設定する。なお、固有のバイアス誤差インデックスを決める相対方位の分割方法は等間隔である必要はなく、音響センサの特性に合わせて、設定すればよい。最後に処理612で格納データ数をインクリメントする。
【0022】
図7は観測体と目標体との幾何学的関係を示した図であり、この図を用いて目標運動解析部において推定するパラメータとその解法を説明する。701は観測体の運動軌跡、702は目標体の運動軌跡を表している。図7に示すように、観測体は2回変針しており、それぞれの等速直進区間をレグ1、2、3とする。図7の例において推定するパラメータは目標体位置東西成分703、目標体位置南北成分704、目標体速力東西成分705、目標体速力南北成分706、レグ1バイアス誤差(x5)707、レグ2バイアス誤差(x6)708、レグ3バイアス誤差(x7)709の7つのパラメータである。これらのパラメータは式(5)に示すように、以下ではxk(k=1,2,・・・,7)と表記する。
【0023】
これらのパラメータは最小二乗法により式(1)を最小化することにより推定する。ここで、tは解析基準時刻を0として正規化した時刻を表し、yiは時刻tiにおける観測方位を表している。また、xoi、yoiは観測体の位置(xoi,yoi)を表している。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
【数4】

【0028】
【数5】

特に、式(2)(3)(4)から構成される評価値(1)は推定パラメータx1、x2、x3、x4、x5、x6、x7に対して非線形であるため、反復により解く必要があり、例えばLevenberg-Marquardt法ではΔXが十分小さくなるまで式(6)(7)の計算を繰り返し実施する。なお、λは定数、Iは単位行列である。またbは、ヤコビアン行列と残差ベクトルの積であり、ここでは方位ヤコビアン行列の転置行列と方位残差ベクトルの積である。
【0029】
【数6】

【0030】
【数7】

式(7)のA,Bはヤコビアン行列であり、次式となる。
【0031】
【数8】

【0032】
【数9】

【0033】
【数10】

【0034】
【数11】

【0035】
【数12】

【0036】
【数13】

【0037】
【数14】

【実施例1】
【0038】
目標運動解析装置の構成例を図8に示す。図8に示すように、目標運動解析装置801はCPU804、メインメモリ805、出力装置806、音響センサ802及び航海センサ803とのインタ^フェイスI/F807、808、入力装置809から構成されるような電子計算機で実現可能であり、音響センサ802及び航海センサ803に接続される。目標運動解析装置801のサイズや演算速度に対する制約により、専用装置として構成されても良い。
【0039】
音響センサ802は目標体から放射される音波を受波して、音波の到来方位を目標運動解析装置801に入力する。航海センサ803は、電磁ログ、ジャイロ、GPS等を用いたものであり、観測体の位置、速力、針路を目標運動解析装置801に入力する。入力された音波の到来方位、観測体の位置、速力、針路はメモリ805の観測方位データベースに蓄積される。目標運動解析部は観測方位データベースの情報から目標体の位置、速力、針路を解析し、出力装置806に解析結果を表示する。
【0040】
図9にバイアス誤差を考慮しない場合の目標運動解析のシミュレーション結果を、図10に本実施例によるバイアス誤差を考慮した場合の目標運動解析のシミュレーション結果を示す。901、1001は観測体の航跡、902、1002は目標体の航跡、903、1003は解析周期30秒として目標運動解析を実施した時の目標体の推定位置座標履歴、904、1004は観測体と目標体の相対距離、905、1005は目標運動解析結果による観測体と目標体の推定相対距離、906、1006は目標体の速力、907、1007は目標運動解析結果による目標体の推定速力、908、1008は目標体の針路、909、1009は目標運動解析結果による目標体の推定針路を表している。
【0041】
図9及び図10のシミュレーション結果は方位のみを用いた目標運動解析であるため、観測体が変針する900秒以降で可観測性が成立し、一意的な解を推定することが可能となり、図9のバイアス誤差を考慮しない場合の目標運動解析シミュレーション結果では900秒以降も観測体と目標体の推定相対距離906、目標体の推定速力907、目標体の推定針路909が振動し、不安定になっている。これ対して、本実施例による目標運動解析方法を用いた図10のシミュレーション結果では観測体と目標体の推定相対距離1005、目標体の推定速力1007、目標体の推定針路1009は安定した推定値を出力している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】観測体位置の誤差による観測方位のバイアス誤差を説明する図である。
【図2】目標運動解析方法を実現するための機能ブロック図である。
【図3】レグ毎にバイアス誤差を定義する場合の時系列観測方位データベースの構造を説明する図である。
【図4】レグ毎にバイアス誤差を定義する場合の観測方位データベース設定部の処理フローである。
【図5】相対方位毎にバイアス誤差を定義する場合の時系列観測方位データベースの構造を説明する図である。
【図6】相対方位毎にバイアス誤差を定義する場合の観測方位データベース設定部の処理フローである。
【図7】観測体と目標体との幾何学的関係を示し、推定するパラメータを説明する図である。
【図8】目標運動解析装置の構成例である。
【図9】バイアス誤差を考慮しない場合の目標運動解析のシミュレーション結果である。
【図10】バイアス誤差を考慮した目標運動解析のシミュレーション結果である。
【符号の説明】
【0043】
201…観測方位データベース設定部、202…観測方位データベース部、203…目標運動解析部、701…観測体の運動軌跡、702…目標体の運動軌跡、703…目標体位置東西成分、704…目標体位置南北成分、705…目標体速力東西成分、706…目標体速力南北成分、707〜709…区間に対応するバイアス誤差、801…目標運動解析装置、802…音響センサ、803…航海センサ、804…CPU、805…メモリ、806…出力装置、807〜808…インターフェース、809…入力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標体から放射される音波の到来方位を音響センサにより時系列的に観測し、蓄積した時系列観測方位データを用いて、前記目標体の位置、針路及び速力を含む運動ベクトルを推定する目標運動解析方法において、
前記時系列観測方位データに含まれる前記観測体の、観測時刻、目標体に対する観測方位、位置座標東西成分、位置座標南北成分、速力東西成分、および速力南北成分を入力し、
前記音響センサ固有のバイアス誤差と前記音響センサを搭載する観測体の向きに基づくバイアス誤差とに対応するバイアス誤差成分に関する複数のインデックスを設定し、
前記入力した各データ及び前記設定したバイアス誤差成分に関するインデックスに基づいて、前記バイアス誤差成分および前記目標体の運動ベクトルを推定する目標運動解析方法。
【請求項2】
前記観測体の等速直進運動区間に対応して、前記バイアス誤差成分に関する複数のインデックスを設定する請求項1記載の目標運動解析方法。
【請求項3】
前記観測体から見た前記目標体の相対方位に対応して、前記バイアス誤差成分に関する複数のインデックスを設定する請求項1記載の目標運動解析方法。
【請求項4】
目標体から放射される音波の到来方位を時系列的に観測する音響センサ、
前記音響センサによる観測データを蓄積する時系列観測方位データベース、及び
前記時系列観測方位データベースに蓄積された前記観測体の、観測時刻、目標体に対する観測方位、位置座標東西成分、位置座標南北成分、速力東西成分、および速力南北成分、並びに、前記音響センサ固有のバイアス誤差と前記音響センサを搭載する観測体の向きに基づくバイアス誤差とに対応するバイアス誤差成分に関する複数のインデックスを用いて、前記バイアス誤差成分および前記目標体の運動ベクトルを推定するプロセッサを有する目標運動解析装置。
【請求項5】
前記バイアス誤差成分に関する複数のインデックスは、前記観測体の等速直進運動区間と前記観測体から見た前記目標体の相対方位とのいずれか一方に対応する請求項4記載の目標運動解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−58466(P2009−58466A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227867(P2007−227867)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】