説明

直列多重電力変換装置

【課題】過電流保護を行いつつも電力変換を継続して行うことができる直列多重電力変換装置を提供すること。
【解決手段】直列多重電力変換装置1は、直列に複数段接続した電力変換セル21a〜21c,21d〜21f,21g〜21iによってそれぞれ構成されるU相、V相およびW相を備える。電力変換セル21a〜21iのそれぞれは、電流を検出する電流検出部を備える。かかる電流検出部による検出結果に基づいて、電力変換セル単位で電力変換動作を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列多重電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直列多重電力変換装置は、電力変換セルを直列に複数段接続した相を複数設けた電力変換装置である。直列多重電力変換装置として、例えば、電力変換セルとしてセルインバータと呼ばれる低電圧単相インバータにより構成し、所定の高圧および大容量出力を直接得る直列多重インバータがある。
【0003】
かかる直列多重電力変換装置において、電力変換セルを直列接続されてなる相側の相電流を検出し、過電流保護を行う技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−106081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の直列多重電力変換装置では、相電流に基づいて相単位で電流制限を行って、過電流保護を行う。そのため、相単位で運転が停止してしまい、電力変換を継続して行うことができないという課題があった。
【0006】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、過電流保護を行いつつも電力変換を継続して行うことができる直列多重電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示する直列多重電力変換装置は、一つの態様において、電力変換セルを直列に複数段接続した相を複数備え、前記電力変換セルのそれぞれは、前記相側の電流を検出する電流検出部を備え、前記電流検出部による検出結果に基づいて、前記電力変換セル単位で電力変換動作を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示する直列多重電力変換装置の一つの態様によれば、過電流保護を行いつつも電力変換を継続して行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す電力変換セルの構成を示す図である。
【図3A】図3Aは、電力変換セルの電力変換動作によって生成される相電圧の一例を示す図である。
【図3B】図3Bは、電力変換セルの電力変換動作によって生成される相電圧の一例を示す図である。
【図3C】図3Cは、電力変換セルの電力変換動作によって生成される相電圧の一例を示す図である。
【図4】図4は、図2に示す電力変換部の構成の一例を示す図である。
【図5A】図5Aは、図4に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図5B】図5Bは、図4に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図6】図6は、図4に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態での端子間の電流の流れを示す図である。
【図7】図7は、図2に示す電力変換部の他の構成の一例を示す図である。
【図8A】図8Aは、図7に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図8B】図8Bは、図7に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図8C】図8Cは、図7に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図9】図9は、図7に示す電力変換部において電力変換動作を停止した状態の一例を示す図である。
【図10】図10は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願の開示する直列多重電力変換装置のいくつかの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置について説明する。図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成を示す図、図2は電力変換セルの構成の一例を示す図、図3A〜図3Cは、電力変換セルの電力変換動作によって形成される相電圧の一例を示す図である。なお、図3A〜図3Cにおいて、時間軸である横軸は互いに同一スケールである。
【0012】
図1に示すように、直列多重電力変換装置1は、3相交流電源2と交流電動機3との間に設けられる。かかる直列多重電力変換装置1は、変圧器10と、電力変換ブロック20と、制御部30とを備える。
【0013】
変圧器10は、一次巻線11と複数の二次巻線12を備えており、一次巻線11に3相交流電源2が接続される。一方、複数の二次巻線12のそれぞれに電力変換ブロック20の電力変換セル21a〜21i(以下において、電力変換セル21と総称する)が接続される。
【0014】
なお、各電力変換セル21が直流電力から交流電力へ変換を行う電力変換セルである場合、変圧器10に代えて、例えば、直流電源が各電力変換セル21に接続される。また、各電力変換セル21が交流電力から交流電力へ変換を行う電力変換セルである場合であっても、例えば、3相交流電源2側の定格電圧値と交流電動機3側の定格電圧値との関係によっては、変圧器10を介さずに3相交流電源2へ直接接続できる。
【0015】
電力変換ブロック20は、位相差が120度となるU相、V相、W相をY結線で接続して形成される。具体的には、電力変換ブロック20は、上述したように電力変換セル21a〜21iを備える。そして、U相、V相およびW相は、それぞれ3つの電力変換セル21を直列に複数段接続して形成される。すなわち、U相は、直列に接続した3つの電力変換セル21a〜21cを備え、V相は、直列に接続した3つの電力変換セル21d〜21fを備え、W相は、直列に接続した3つの電力変換セル21g〜21iを備える。
【0016】
制御部30は、各電力変換セル21に対して、制御信号を出力する。これにより、各電力変換セル21において、制御信号に基づいた電力変換動作が行われる。なお、制御部30は、制御信号として、例えば、PWM信号を出力する。
【0017】
次に、電力変換セル21の構成を説明する。図2に示すように、電力変換セル21は、セルコントローラ22と、電力変換部23とを備える。セルコントローラ22は、制御部30から出力される制御信号に基づいて電力変換部23を制御する。電力変換部23は、セルコントローラ22の制御によって端子c1〜c3(以下、端子cとも記載する)と端子a,bとの間で電力変換動作を行う。
【0018】
さらに、電力変換セル21は、端子a,bとの間に流れる電流を検出する電流検出部24を備える。これにより、電力変換セル21毎に相電流を検出することが可能となる。具体的には、電力変換セル21a〜21cは、それぞれU相の電流を検出し、電力変換セル21d〜21fは、それぞれV相の電流を検出し、電力変換セル21g〜21iは、それぞれW相の電流を検出する。
【0019】
かかる電流検出部24による検出結果に基づいて、セルコントローラ22は、電力変換セル21の電力変換動作を停止する。具体的には、セルコントローラ22は、制御部30から出力される制御信号に基づいて電力変換部23を制御している状態で、電流検出部24によって所定の閾値以上の電流値が検出された場合、過電流の状態であると判定し、電力変換部23の制御を停止する。
【0020】
また、電力変換セル21の電流検出部24による検出結果は、制御部30へ通知される。電流検出部24は、所定の閾値以上の電流値を検出した場合、Hレベルの検出信号を出力し、所定の閾値未満の電流値を検出した場合、Lレベルの検出信号を出力する。
【0021】
制御部30は、電力変換セル21からHレベルの検出信号を取得した場合、Hレベルの検出信号を出力した電力変換セル21が属する相のその他の電力変換セル21へ出力する制御信号を変更する。例えば、U相に属する電力変換セル21a〜21cの全てが電力変換動作を実行している場合、電力変換セル21a〜21cによって形成されるU相合成電圧は、例えば、図3Aに示す状態となる。
【0022】
かかる状態において、電力変換セル21aが過電流の検出によって電力変換動作を停止したとする。この場合、電力変換セル21b,21cによって形成されるU相合成電圧は、例えば、図3Bに示す状態となる。そのため、U相において電力が図3Aに示す状態に比べ、減少する。
【0023】
そこで、制御部30は、電力変換セル21aが属する相のその他の電力変換セル21b,21cへ出力する制御信号を変更する。具体的には、制御部30は、電力変換セル21aの電力変換動作が停止した場合において、電力変換セル21b,21cによって形成されるU相合成電圧の平均値を図3Bに示すU相合成電圧の平均値よりも大きくする制御信号を電力変換セル21b,21cへ出力する。これにより、電力変換動作を停止した電力変換セル21aが属するU相において、電力変換セル21b,21cによって変換される電力量を図3Bに示す状態よりも増加させることができる。
【0024】
例えば、制御部30は、電力変換セル21aの電力変換動作が停止した場合において、図3Cに示すように、電力変換セル21b,21cによって形成されるU相合成電圧の平均値を図3Aに示すU相合成電圧の平均値と同等にする制御信号を電力変換セル21b,21cへ出力することができる。これにより、電力変換動作が停止した電力変換セル21aが属するU相において、電力変換セル21b,21cによって変換される電力量を図3Aに示す状態と同等にすることができる。
【0025】
ここでは、電力変換セル21aが過電流の検出によって電力変換動作を停止する例を示したが、電力変換セル21b,21cが過電流の検出によって電力変換動作を停止する場合も制御部30によって同様に制御される。また、ここでは、U相に対する制御について説明したが、V相やW相に対する制御も制御部30によってU相に対する制御と同様に行われる。このように、制御部30は、U相、V相およびW相の各相において、電力変換動作を停止する電力変換セル21の存否に応じて、電力変換セル21へ出力する制御信号を変更する。
【0026】
なお、上述においては、図3Aに示す状態から図3Cに示す状態へ移行するようにしたが、図3Bに示す状態を維持するようにしてもよい。すなわち、制御部30は、U相、V相およびW相の各相において、電力変換動作を停止する電力変換セル21の存否に依存しない制御信号を電力変換セル21へ出力することもできる。このようにすることで、変換する電力量の減少が生じるものの、制御部30による処理負荷を軽減することができる。
【0027】
このように、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1では、電力変換セル21単位で電力変換動作を停止する。そのため、電力変換セル21単位で過電流保護を行いつつも、電力変換動作を停止していない残りの電力変換セル21によって運転を継続することができる。なお、上述においては、各電力変換セル21のセルコントローラ22が、電流検出部24による検出結果に基づいて、電力変換動作を停止するようにしたが、これに限られない。例えば、制御部30が、電流検出部24による検出結果に基づいて、電力変換セル21の電力変換動作を停止させることもできる。すなわち、制御部30は、電力変換セル21からHレベルの検出信号を取得した場合、当該Hレベルの検出信号を出力した電力変換セル21に対して電力変換動作の停止を要求する制御信号(以下、動作停止信号と記載する)を出力して電力変換動作を停止させることができる。
【0028】
直列多重電力変換装置1では、電力変換セル21間を接続するケーブルに含まれる配線インダクタンスの影響や電力変換セル21を構成する素子のバラツキなどが存在することから、同一相に属する電力変換セル21であっても、流れる電流は同一ではない。したがって、同一相に属する電力変換セル21であっても、ある時点では、過電流の状態と判定される電力変換セル21と過電流の状態と判定されない電力変換セル21が存在する。
【0029】
そこで、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1では、電力変換セル21単位で過電流の状態であるか否かを判定し、かかる判定によって電力変換セル21単位で電力変換動作を停止する。これにより、過電流保護を行いつつも、電力変換動作を停止した電力変換セル21が属する相と同一の相に属する残りの電力変換セル21によって電力変換動作を継続することができる。
【0030】
過電流による電力変換動作の停止を電力変換セル21単位で行う処理は、例えば、交流電動機3の回転子を加速する加速動作の際に有効である。加速動作では、過大な電流が一時的に流れることから、かかる過大な電流により相単位で電力変換動作が停止した場合、電力変換を継続することができない。しかし、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1では、電力変換セル21単位で電力変換動作を停止して過電流保護を行う。そのため、直列多重電力変換装置1では、過電流保護を行いつつも、電力変換を継続することができる。
【0031】
また、各電力変換セル21は、電流検出部24によって検出された電流値の情報(以下、検出電流情報と記載する)を制御部30へ出力する。制御部30は、各電力変換セル21から出力される検出電流情報に基づいて、電力変換動作を停止する電力変換セル21の数が相間で一致するか否かを判定する。制御部30は、電力変換動作を停止する電力変換セル21の数が相間で一致しないと判定した場合、電力変換動作を停止していない一部の電力変換セル21の電力変換動作を停止して、電力変換動作を停止する電力変換セル21の数を相間で一致させる。
【0032】
例えば、電力変換セル21a〜21iのいずれも電力変換動作を停止していない状態から、U相に属する電力変換セル21aが過電流の検出によって電力変換動作を停止したとする。この場合、制御部30は、V相に属する一つの電力変換セル21およびW相に属する一つの電力変換セル21の電力変換動作を停止する。
【0033】
具体的には、制御部30は、電力変換動作を停止させる電力変換セル21に対して、動作停止信号を出力する。各電力変換セル21は、動作停止信号に基づいて電力変換部23を制御することで、電力変換動作を停止する。このように、電力変換動作が停止される電力変換セル21の数を相間で一致させることで、相間の電力変換バランスを保持することができる。
【0034】
また、制御部30は、電力変換動作を停止する電力変換セル21の数を相間で一致させる場合に、電力変換動作を停止する電力変換セル21の位置関係を相間で一致させる。例えば、電力変換セル21aが過電流の検出によって電力変換動作を停止したとする。電力変換動作を停止した電力変換セル21aの相内の位置は、中性点Nから一段目の位置U1(図1参照)であり、また、かかる位置U1に対応するV相およびW相の位置は、中性点Nから一段目の位置V1および位置W1(図1参照)である。
【0035】
したがって、例えば、電力変換セル21aが過電流の検出によって電力変換動作を停止した場合、制御部30は、電力変換セル21aと相内の位置が一致する位置V1の電力変換セル21dおよび位置W1の電力変換セル21gの電力変換動作を停止する。このように、電力変換動作を停止する電力変換セル21の位置関係を相間で一致させることで、相間の電力変換バランスをより精度よく保持することが可能となる。
【0036】
ここで、電力変換部23の構成について、図面を参照して具体的に説明する。ここでは、電力変換部23の例として、図4にインバータの構成の一例を示し、図7にマトリクスコンバータの構成の一例を示す。
【0037】
まず、電力変換部23としてインバータを用いる場合の例について、図4を参照して説明する。図4に示すインバータは、コンバータ回路41と、コンデンサC1と、インバータ回路42とを備える。コンバータ回路41は、3相交流電源2から変圧器10を介して端子cへ入力される3相交流電圧を直流電圧へ整流する。コンデンサC1は、コンバータ回路41によって整流された直流電圧を平滑する。
【0038】
なお、ここでは、コンバータ回路41として全波整流回路を一例に挙げて説明したが、コンバータ回路41はこれに限られるものではなく、スイッチング素子によって構成し、交流電力を直流電力に整流するようにスイッチング素子を制御してもよい。
【0039】
インバータ回路42は、コンデンサC1によって平滑された直流電圧をスイッチングして電流を端子a,bへ出力する。かかるインバータ回路42は、4つのスイッチング素子Q1〜Q4を備える。スイッチング素子Q1〜Q4として、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチが用いられる。
【0040】
そして、セルコントローラ22によってスイッチング素子Q1〜Q4のオン/オフのタイミングを調整することによって、端子aと端子bとの間に所望の電流を流す。なお、インバータ回路42では、高圧側のスイッチング素子Q1と低圧側のスイッチング素子Q2とが直列に接続され、同様に、高圧側のスイッチング素子Q3と低圧側のスイッチング素子Q4とが直列に接続される。また、各スイッチング素子Q1〜Q4の出力端子間には、それぞれ高圧側をアノード端子とする環流ダイオードD1〜D4が並列に接続される。
【0041】
電流検出部24によって所定の閾値以上の電流値が検出された場合、または、制御部30からセルコントローラ22へ動作停止信号が出力された場合、セルコントローラ22は、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作のいずれかを選択して実行する。電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作のいずれかを選択するかの情報は、例えば、図示しない設定手段への入力によって予め設定される。セルコントローラ22は、このように設定された情報に基づいて、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作のいずれを選択する。
【0042】
電位差ゼロ出力動作を選択する場合、セルコントローラ22は、端子aと端子bとの間の電位差が略ゼロになるように、スイッチング素子Q1〜Q4のオン/オフを制御する。図5Aおよび図5Bに、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにした状態を示す。なお、図5Aおよび図5Bにおいては、説明を分かり易くするために、スイッチング素子Q1〜Q4の状態を一般的な回路記号で簡易的に表し、環流ダイオードD1〜D4は省略している。
【0043】
セルコントローラ22は、電位差ゼロ出力動作を選択する場合、例えば、図5Aに示すように、高圧側の全てのスイッチング素子Q1,Q3をオンにし、低圧側の全てのスイッチング素子Q2,Q4をオフにすることによって、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにする。この場合、端子bから端子aへの方向の電流は、環流ダイオードD1およびスイッチング素子Q3を通過する経路で流れ、端子aから端子bへの方向の電流は、環流ダイオードD3およびスイッチング素子Q1を通過する経路で流れる。このように、電力変換セル21において電力変換動作を停止した場合、端子aと端子bとの間が導通状態となる。
【0044】
したがって、かかる電力変換動作を停止した電力変換セル21が属する相において、他の電力変換セル21が電力変換動作している場合には、当該他の電力変換セル21の電力変換動作に影響を与えることなく、電力変換動作を継続することができる。
【0045】
すなわち、相単位での電力変換動作の停止ではなく、電力変換セル21での電力変換動作の停止を実現することができる。例えば、U相の電力変換セル21aが電力変換動作を停止した場合、電力変換セル21aは導通状態になるため、U相に属する他の電力変換セル21b,21cの電力変換動作に影響を与えない。これにより、U相における電力変換動作を継続することができる。
【0046】
また、セルコントローラ22は、図5Bに示すように、高圧側の全てのスイッチング素子Q1,Q3をオフにし、低圧側の全てのスイッチング素子Q2,Q4をオンにすることによって、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにすることもできる。
【0047】
この場合、端子bから端子aへの方向の電流は、スイッチング素子Q2および環流ダイオードD4を通過する経路で流れ、端子aから端子bへの方向の電流は、スイッチング素子Q4および環流ダイオードD2を通過する経路で流れる。このように、電力変換セル21において電力変換動作を停止した場合、端子aと端子bとの間が導通状態となる。したがって、図5Bに示す場合も、図5Aに示す場合と同様に、相単位での電力変換動作の停止ではなく、電力変換セル21単位で電力変換動作の停止を実現することができる。
【0048】
なお、セルコントローラ22は、図5Aに示す状態と図5Bに示す状態のいずれかを選択することができるが、例えば、動作停止信号が入力される毎に、図5Aに示すスイッチ制御と、図5Bに示すスイッチ制御を交互に繰り返すこともできる。これにより、スイッチング素子Q1〜Q4のうち一部のスイッチング素子に集中して電流が流れることを防止することができる。
【0049】
次に、セルコントローラ22において、全スイッチオフ動作を選択する場合の動作を説明する。図6は、全スイッチオフ動作の状態を示す図である。なお、図6においては、説明を分かり易くするために、図5Aおよび図5Bと同様に、スイッチング素子Q1〜Q4の状態を一般的な回路記号で簡易的に表す。
【0050】
スイッチオフ動作を選択する場合、図6に示すように、セルコントローラ22は、スイッチング素子Q1〜Q4を全てオフにする制御を行う。この場合、図6に示すように、端子bから端子aへの方向の電流は、環流ダイオードD1、コンデンサC1、環流ダイオードD4の経路で流れる。
【0051】
また、端子aから端子bへの方向の電流は、環流ダイオードD3、コンデンサC1、環流ダイオードD2の経路で流れる。したがって、全スイッチオフ動作の場合も、電位差ゼロ出力動作の場合と同様に、相単位での電力変換動作の停止ではなく、電力変換セル21単位で電力変換動作の停止を実現することができる。
【0052】
なお、図5A、図5Bおよび図6に示す例では、電力変換セル21において電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作を行って端子aと端子bとの間の導通状態を形成するようにしたが、導通状態の形成はこれに限られない。例えば、電力変換セル21が電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作を行うことができない構成である場合、端子aと端子bとの間に別途スイッチを設け、かかるスイッチを、電力変換動作を停止する際にオン(短絡状態)にすることで、端子aと端子bとの間の導通状態を形成することもできる。
【0053】
また、上述した例では、設定された情報に基づいて、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作のいずれかを選択するようにしたが、選択方法はこれに限られない。例えば、電流検出部24において第1閾値以上第2閾値未満の電流を検出した場合に、セルコントローラ22が電位差ゼロ出力動作を実行し、電流検出部24において第2閾値以上の電流を検出した場合に、セルコントローラ22が全スイッチオフ動作を実行してもよい。また、電流検出部24において第1閾値以上第2閾値未満の電流を検出した場合に、セルコントローラ22が全スイッチオフ動作を実行し、電流検出部24において第2閾値以上の電流を検出した場合に、セルコントローラ22が電位差ゼロ出力動作を実行してもよい。また、セルコントローラ22は、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作を交互に行うようにすることもできる。
【0054】
次に、電力変換部23としてマトリクスコンバータを用いる場合の例について、図7を参照して説明する。図7に示す電力変換部23は、単相マトリクスコンバータ本体50と、フィルタ51と、スナバ回路52とを備える単相マトリクスコンバータである。
【0055】
単相マトリクスコンバータ本体50は、双方向スイッチ53a〜53f(以下、双方向スイッチ53と総称する)を備える。双方向スイッチ53a〜53cの一端には電力変換部23の端子bが接続され、双方向スイッチ53d〜53fの一端には電力変換部23の端子aが接続される。
【0056】
そして、双方向スイッチ53aの他端は双方向スイッチ53dの他端に接続され、さらにフィルタ51を介して端子c1に接続される。同様に、双方向スイッチ53bの他端は双方向スイッチ53eの他端に接続され、さらにフィルタ51を介して端子c2に接続される。また、双方向スイッチ53cの他端は双方向スイッチ53fの他端に接続され、さらにフィルタ51を介して端子c3に接続される。
【0057】
双方向スイッチ53a〜53fは、例えば、単一方向のスイッチング素子を逆方向に並列接続した2素子から構成することができる。スイッチング素子として、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチが用いられる。そして、かかる半導体スイッチのゲートに信号を入力して各半導体スイッチのオン/オフを制御することで、通電方向が制御される。
【0058】
フィルタ51は、単相マトリクスコンバータ本体50のスイッチングによって発生する高調波電流を低減するためのフィルタであり、コンデンサC11a〜C11cと、インダクタンスL1a〜L1cを備える。インダクタンスL1a〜L1cは、単相マトリクスコンバータ本体50と端子c1,c2,c3との間に接続され、コンデンサC11a〜C11cは、それぞれの一端が端子c1,c2,c3に接続され、他端が共通に接続される。
【0059】
スナバ回路52は、入力側全波整流回路54と、出力側全波整流回路55と、コンデンサC12と、放電回路56とを備える。かかるスナバ回路52は、単相マトリクスコンバータ本体50の端子間に発生するサージ電圧を入力側全波整流回路54および出力側全波整流回路55によって直流電圧へ変換してコンデンサC12に蓄積し、当該蓄積した直流電圧を放電回路56によって放電する。なお、放電回路56による放電は、コンデンサC12の電圧が所定値以上の電圧となった場合にセルコントローラ22の制御によって実行される。
【0060】
かかる構成の電力変換部23において、セルコントローラ22によって双方向スイッチ53a〜53fのオン/オフのタイミングを調整することによって、端子aと端子bとの間に所望の電流を流す。これにより、電力変換部23による電力変換動作が実行される。
【0061】
一方、制御部30からセルコントローラ22へ動作停止信号が出力された場合、セルコントローラ22は、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作のいずれかを選択して実行する。なお、電位差ゼロ出力動作および全スイッチオフ動作の選択方法は、上述したインバータの場合の選択方法と同様である。
【0062】
セルコントローラ22は、電位差ゼロ出力動作を選択する場合、端子aと端子bとの間の電位差が略ゼロになるように、双方向スイッチ53a〜53fのオン/オフを制御する。図8A〜図8Cに、端子aと端子bとの間の電位差をゼロにした状態を示す。なお、図8A〜図8Cにおいては、説明を分かり易くするために、双方向スイッチ53a〜53fの状態を一般的な回路記号で簡易的に表す。
【0063】
例えば、図8Aに示すように、セルコントローラ22は、端子c1に接続された双方向スイッチ53a,53dを通電方向が双方向になるようにオンにし、その他の端子c2,c3に接続された双方向スイッチ53b,53c,53e,53fをいずれの通電方向もオフにする。この場合、端子aと端子bとの間に流れる電流は、双方向スイッチ53aおよび双方向スイッチ53dを通過する経路で流れる。これにより、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにすることができる。
【0064】
また、図8Bに示すように、セルコントローラ22は、端子c2に接続された双方向スイッチ53b,53eを通電方向が双方向になるようにオンにし、その他の端子c1,c3に接続された双方向スイッチ53a,53c,53d,53fをいずれの通電方向もオフにすることもできる。これによっても、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにすることができる。
【0065】
また、図8Cに示すように、セルコントローラ22は、端子c3に接続された双方向スイッチ53c,53fを通電方向が双方向になるようにオンにし、その他の端子c1,c2に接続された双方向スイッチ53a,53b,53d,53eをいずれの通電方向もオフにすることもできる。これによっても、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにすることができる。
【0066】
このように、セルコントローラ22は、図8A〜図8Cに示す状態のいずれによっても、端子aと端子bとの間の電位差を略ゼロにすることができるが、電位差ゼロ出力動作する時間が継続する場合、オンにする双方向スイッチ53に負担がかかる。そこで、セルコントローラ22は、所定時間毎に、接続状態を変更する。これにより、双方向スイッチ53への負担を軽減することができる。
【0067】
例えば、所定期間毎に、図8Aに示す制御状態から図8Bに示す制御状態へ、図8Bに示す制御状態から図8Cに示す制御状態へ、図8Cに示す制御状態から図8Aに示す制御状態へと順次制御状態を切り替える。これにより、双方向スイッチ53a,53d、双方向スイッチ53b,53e、双方向スイッチ53c,53fの順に電流が流れる双方向スイッチ53を切り替えることが可能となる。
【0068】
次に、セルコントローラ22において、全スイッチオフ動作を選択する場合の動作を説明する。図9は、全スイッチオフ動作の状態を示す図である。なお、図9においては、説明を分かり易くするために、図8に示す例と同様に、双方向スイッチ53a〜53fの状態を一般的な回路記号で簡易的に表す。
【0069】
図9に示すように、全スイッチオフ動作を選択する場合、セルコントローラ22は双方向スイッチ53a〜53fをいずれの通電方向もオフにする制御を行う。この場合、端子bから端子aへの方向の電流は、図9に示すように、ダイオード57a、コンデンサC12、ダイオード57cの経路で流れる。
【0070】
また、端子aから端子bへの方向の電流は、ダイオード57b、コンデンサC12、ダイオード57dの経路で流れる。したがって、全スイッチオフ動作の場合も、電位差ゼロ出力動作の場合と同様に、相単位での電力変換動作の停止ではなく、電力変換セル21単位で電力変換動作の停止を実現することができる。
【0071】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置について説明する。第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置は、上述した第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1に対して、電力変換動作を停止する電力変換セル21の位置関係を相間で一致させる処理(以下、相間セル数一致処理と記載する)を行う構成が異なる。すなわち、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1では、相間セル数一致処理を制御部30によって実現したが、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置では、制御部30を介さずに、相間セル数一致処理を行う。
【0072】
図10は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成の一部を示す図である。なお、図10では、説明を分かり易くするために、電力変換セル21a,21d,21gに関係する構成のみを示しており、その他の構成は省略している。
【0073】
図10に示すように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1aは、論理積回路60a,60d,60g(以下、論理積回路60と総称する)を備える。各論理積回路60は、U相の位置U1にある電力変換セル21aの電流検出部24から出力される検出信号Sa、V相の位置V1にある電力変換セル21dの電流検出部24から出力される検出信号Sd、W相の位置W1にある電力変換セル21gの電流検出部24から出力される検出信号Sgを入力する。
【0074】
各論理積回路60は、3つの検出信号Sa,Sd,SgのいずれかがHレベルの信号である場合に、Hレベルの信号を出力する。セルコントローラ22は、論理積回路60からHレベルの信号が出力された場合に、電力変換動作を停止する。そのため、電力変換セル21a,21d,21gのいずれかの電流検出部24からHレベルの信号が出力された場合に、電力変換セル21a,21d,21gにおいて電力変換動作が停止する。
【0075】
例えば、電力変換セル21aの電流検出部24から出力される検出信号SaがHレベルの信号であり、電力変換セル21d,21gの電流検出部24から出力される検出信号Sd,SgがLレベルの信号であるとする。この場合、Hレベルである検出信号Saが各論理積回路60a,60d,60gへ入力されるため、各論理積回路60a,60d,60gからはHレベルの信号が出力される。そのため、電力変換セル21a,21d,21gにおいて電力変換動作が停止する。
【0076】
なお、図10では、電力変換セル21a,21d,21gに関係する構成のみを示して説明したが、中性点Nから2番目の位置U2,V2,W2(図1参照)にある電力変換セル21b,21e,21hや中性点Nから3番目の位置U3,V3,W3(図1参照)にある電力変換セル21c,21f,21iについても同様に構成される。
【0077】
すなわち、電力変換セル21b,21e,21hのいずれかにおいて電流検出部24からHレベルの信号が出力された場合、電力変換セル21b,21e,21hにおいて電力変換動作が停止する。また、電力変換セル21c,21f,21iのいずれかにおいて電流検出部24からHレベルの信号が出力された場合、電力変換セル21c,21f,21iにおいて電力変換動作が停止する。
【0078】
このように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1aでは、各電力変換セル21は、他の相に属し、相における位置関係が互いに一致する電力変換セル21の電流検出部24での検出結果に基づいて、電力変換動作を停止する。そのため、制御部30による制御を行わずに、電力変換動作を停止する電力変換セル21の位置関係を相間で一致させることができる。なお、図10に示す例では、論理積回路60を電力変換セル21内に配置したが、電力変換セル21外に配置してもよい。
【0079】
以上のように、第1および第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1,1aでは、相単位ではなく、電力変換セル21単位で電力変換動作を停止するようにしている。そのため、一部の電力変換セル21で過電流保護が行われた場合であっても、電力変換動作を停止されていない残りの電力変換セル21によって運転を継続することができる。
【0080】
なお、第1および第2の実施形態においては、3相交流電源2から交流電動機3へ電力変換を行うこととして説明したが、これに限られるものではない。例えば、3相交流電源2を電力系統に代え、交流電動機3を交流発電機に代えた構成、すなわち、交流発電機によって発電した電力を電力系統へ出力する直列多重電力変換装置であっても同様に適用することができる。この場合、例えば、電力変換セル21がインバータである場合には、端子c側にインバータ回路を配置し、端子a,b側にコンバータ回路を配置する。
【0081】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1,1a 直列多重電力変換装置
2 3相交流電源
3 交流電動機
20 電力変換ブロック
30 制御部
21,21a〜21i 電力変換セル
22 セルコントローラ
23 電力変換部(インバータ,マトリクスコンバータ)
24 電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換セルを直列に複数段接続した相を複数備え、
前記電力変換セルのそれぞれは、
前記相側の電流を検出する電流検出部を備え、
前記電流検出部による検出結果に基づいて、前記電力変換セル単位で電力変換動作を停止することを特徴とする直列多重電力変換装置。
【請求項2】
前記電力変換セルのそれぞれは、
前記電流検出部による検出結果に基づいて、電力変換動作を停止するセルコントローラを備えたことを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項3】
前記電流検出部による検出結果に基づいて、前記電力変換セル単位で電力変換動作を停止する制御部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項4】
前記各相に属する前記複数の電力変換セルのそれぞれに対して制御信号を出力して、当該制御信号に基づいた電力変換動作を前記電力変換セルに行わせる制御部を備え、
前記制御部は、
前記各相において、前記電力変換動作を停止する電力変換セルの存否に応じて前記制御信号を変更することを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項5】
前記各相に属する前記複数の電力変換セルのそれぞれに対して制御信号を出力して、当該制御信号に基づいた電力変換動作を前記電力変換セルに行わせる制御部を備え、
前記制御部は、
前記各相において、前記電力変換動作を停止する電力変換セルの存否に応じた前記制御信号の変更を行わないことを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項6】
前記検出結果に基づいて前記電力変換動作を停止する電力変換セルの数が相間で一致しない場合、電力変換動作が停止されていない一部の電力変換セルの電力変換動作を停止して、前記電力変換動作を停止する電力変換セルの数を相間で一致させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換動作を停止する電力変換セルの位置関係を相間で一致させることを特徴とする請求項6に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項8】
前記電力変換セルのそれぞれは、
他の相に属し、相における位置関係が互いに一致する一つの電力変換セルにおける前記検出結果に基づいて、電力変換動作を停止することを特徴とする請求項2に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、
一つの電力変換セルが電力変換動作を停止する場合、当該停止する電力変換セルと相における位置関係が互いに一致する他の相に属する電力変換セルの電力変換動作を停止することを特徴とする請求項3に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項10】
前記電力変換セルは、インバータであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項11】
前記電力変換セルは、マトリクスコンバータであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の直列多重電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−231599(P2012−231599A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98229(P2011−98229)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】