説明

直動装置

【課題】ハイスループットによる高速搬送や更なる清浄度向上が要求される場所においても、ナットの内部で発生した微粒子が外部に漏れることを防ぐことができる直動装置を提供する。
【解決手段】ねじ軸10と、ねじ軸10の軸方向に相対移動するナット20と、ナット20の上記軸方向の両端部に設けられた1対のシールキャップ30,30と、1対のシールキャップ30,30のそれぞれに形成された第1の貫通穴31,31に連通する管形状の接続部材50とを有する直動装置である。ナット20が進行する向きと反対側の向き側に設置されたシールキャップ30に形成された接続部材50の開口面積は、シールキャップ30の第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や液晶表示パネル製造装置等のクリーン環境に用いられる直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじやリニアガイドなどの直動装置は、軌道部材と、移動部材と、転動体転送部を有する軌道部材と、上記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部を含む転動体循環路を有し、上記軌道部材に対して相対的に移動可能な移動部材と、上記転動体循環路に配列される複数の転動体とを備える。ボールねじを例に説明をすると、上記軌道部材がねじ軸、上記移動部材がナット、転動体がボールに該当し、上記ねじ軸と該ねじ軸を挿通したナットとの間に形成される螺旋状のボール循環路に複数のボールを配される。そして、上記ボールの転動循環を介して上記ねじ軸と上記ナットとの間で動力の伝達が行われる。
【0003】
上記ボールは、回転方向と軸方向との合成力を受けて滑りを伴いながら転動するため、上記ボールと上記ボール循環路との接触部では、転がり摩擦と滑り摩捺とが同時に生じる。また、上記ボール同士が衝突すると、隣接する上記ボール同士の回転方向が逆になるため、上記ボール間の相対滑り速度が2倍となって大きな摩擦力が生じる。このため、グリースや油などの潤滑剤を用いて、上記摩擦力の軽滅が行われてきた。
【0004】
ここで、上記直動装置が、半導体製造設備等のような清浄度が必要とされる装置に用いられる場合は、上記潤滑剤として、クリーン・真空グリース(流体潤滑剤)や固体潤滑剤などが使用される。これらの潤滑剤は、ボールとボール接触部にある潤滑剤から発生する微粒子(油分)が一般のグリースよりも少なくなるように構成されている。
このような、半導体等の製造設備、搬送設備、真空機器等に用いられる直動装置の例として、特許文献1に開示された真空環境用運動案内装置がある。特許文献1に開示された真空環境用運動案内装置は、真空環境用に限定した構造として、軌道部材とシール部材のすきま量を最も接近した位置で0.25mm以下にシールの構造を規定している。また、複数枚のシールを重ねたときに軸方向に対して、そのすきまを凹凸形状にしている。
【0005】
一方、軌道部材に接触することなく、軌道部材と移動部材との間のすきまを塞ぐすきまシールを備えた技術として、特許文献2に開示されたボールねじが挙げられる。このボールねじは、ナット端面とシールとの間にグリース溜りを形成することによって塵挨等を外部に漏らさない構成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/054439号
【特許文献2】特開2010−169114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、半導体製造装置や液晶パネル製造装置等の駆動部に用いられているボールねじやリニアガイドなどの直動装置においては、上記転動体の転がり運動により、ねじ軸又はナットと、転動体との間に塗布されたグリース中の油分が微粒子(パーティクル)となり、飛散し得る。
近年では、半導体分野では高集積化が進み、導電パターンの線幅はさらに微細化している。それゆえ、半導体の製造工程中、シリコンウエハーを製作する工程から該シリコンウエハーに回路を形成し、その回路の通電パターンを検査する工程までの工程において、上記シリコンウエハー上に上記微粒子が付着することは製品不具合の原因となり得るため、その対策が講じられてきた。さらに、高集積化に加えて、スループット(生産性)向上を目的としたウエハーの搬送装置の高速化に伴って、パーティクルの発生量も増加するため、上記対策は一層強く求められている。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、ハイスループットによる高速搬送や更なる清浄度向上の要求に応えるには、改善の余地があった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ハイスループットによる高速搬送や更なる清浄度向上が要求される場所においても、ナットの内部で発生した微粒子が外部に漏れることを防ぐことができる直動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る直動装置は、外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、
前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される転動体転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸の軸方向に相対移動し、前記ねじ軸の外周面に接するか又は所定の間隔を有して前記軸方向の両端部に第1のシール部材がそれぞれ1つ以上設けられたナットと、
筒形状をなし、前記ねじ軸の外周面に所定の間隔を有して内周面側に1つ以上設けられた第2のシール部材を備え、前記ナットの前記軸方向の両端部に設けられた1対のシールキャップと、
前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、一方の第1のシール部材、及び一方の第2のシール部材との間に形成される第1の空間と、前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、他方の第1のシール部材、及び他方の第2のシール部材との間に形成される第2の空間とを接続する接続部材とを有し、
混和ちょう度250以下のクリーングリースが前記転動体転動路に充填され、
前記接続部材の第1の空間及び第2の空間の少なくともいずれか一方に対する開口面積が、上記シールキャップの第2のシール部材と前記ねじ軸の外周面とのすきま面積よりも大きいことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る直動装置は、請求項1に記載の直動装置において、前記シールキャップの外周面と内周面とを貫通する第1の貫通穴が前記シールキャップに形成され、
前記接続部材が、前記シールキャップのそれぞれの第1の貫通穴、及びこれらの第1の貫通穴に連通する管とからなることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る直動装置は、請求項1に記載の直動装置において、前記シールキャップの前記ナットの端面に対向する側面と内周面とを貫通する第2の貫通穴が前記シールキャップに形成され、
前記接続部材が、前記シールキャップのそれぞれの第2の貫通穴と、これらの第2の貫通穴に連結され、前記ナットの軸方向に貫通して設けられた第3の貫通穴とからなることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る直動装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の直動装置において、上記シールキャップの第2のシール部材と上記ねじ軸の外周面との間隔が、0.05mm〜0.3mmであることを特徴としている。
また、本発明の請求項5に係る直動装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の直動装置において、上記ナットの上記軸方向の両端部に、上記ねじ軸の外周面に接するか又は所定の間隔を有してそれぞれ1つ以上設けられた第1のシール部材と、第2のシール部材との上記軸方向の距離が、上記シール部材の1枚の厚さ以上の寸法であることを特徴としている。
また、本発明の請求項6に係る直動装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の直動装置において、第1のシール部材及び第2のシール部材の少なくともいずれかの材料が、樹脂材料又は金属材料を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハイスループットによる高速搬送や更なる清浄度向上が要求される場所においても、ナットの内部で発生した微粒子が外部に漏れることを防ぐことができる直動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る直動装置の第1の実施形態における構成を示す部分断面図である。
【図2】本発明に係る直動装置の第1の実施形態におけるシール部材の設置態様と微粒子(パーティクル)量との関係を示すグラフである。
【図3】すきま量が0.05mm〜0.3mmとなるシール部材に挟まれた空間を接続部材で繋がれた直動装置におけるグリースの混和ちょう度別のすきま量と微粒子(パーティクル量)との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る直動装置の第2の実施形態における構成を示す部分断面図である。
【図5】従来の直動装置における微粒子の漏れについて説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る直動装置の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明に係る直動装置は、前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、一方の第1のシール部材、及び一方の第2のシール部材との間に形成される第1の空間と、前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、他方の第1のシール部材、及び他方の第2のシール部材との間に形成される第2の空間とを連通する接続部材を設けたことが特徴である。その接続部材の具体的な実施形態として、前記接続部材が、第1の貫通穴と、前記1対のシールキャップのそれぞれの第1の貫通穴に連通する管とからなるとした第1の実施形態と、前記接続部材が、第2の貫通穴と、該第2の貫通穴に連結され、前記ナットの軸方向に貫通して設けられた第3の貫通穴とからなるとした第2の実施形態とについて以下に説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の直動装置の構成を示す部分断面図である。図1に示すように、本実施形態の直動装置は、ねじ軸10と、ナット20と、シールキャップ30と、接続部材50とを有する。ねじ軸10及びナット20は、複数の転動体(図示せず)を介して螺合している。ナット20は、ねじ軸10の外径より大きい内径で筒状に形成されている。ナット20の内周面には、ねじ軸10の外周面に螺旋状に形成された転動溝10aに対向するように転動溝(図示せず)が形成されている。これらねじ軸10の転動溝10aと、ナット20の転動溝とによって形成された転動路において転動体は転動可能とされている。
ここで、ナット20の上記軸方向の両端部20a,20bには、ねじ軸10の外周面(転動溝10aを含む)に接するか又は所定の間隔を有してそれぞれ1つ以上設けられた第1のシール部材41,41が設けられている。
【0017】
<シールキャップ>
シールキャップ30は筒形状をなす。シールキャップ30の形状は円環形状が好ましい。シールキャップ30は、その円環形状の軸方向と、ナット20の軸方向とがほぼ一致するように、固定ビスなどでナット20の軸方向の両端部に取付けられている。
[シール部材]
シールキャップ30の内周面30aには、ねじ軸10の外周面に所定の間隔を有する環状の第2のシール部材42が軸方向に1つ以上設けられている。このように、第2のシール部材42は、ねじ軸10に非接触であるため、発塵はしない。第2のシール部材42の形状は、シールキャップ30の内周面30aの形状に合わせて形成されることが好ましく、円環形状が好ましい。第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま量(オフセット量)は0.05mm〜0.3mmが好ましい。以下、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま量(オフセット量)は、第2のシール部材42と、転動溝10aの底部との距離を指すものとする。
【0018】
ここで、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま量(オフセット量)を0.05mm以上と規定したのは、ねじ軸10と第2のシール部材42とのすきまを規定する上で、「第2のシール部材42の取付公差範囲(ねじ軸の寸法公差+第2のシール部材42の寸法公差)」を0.05mm以下とすることが難しく、実現可能な最小すきまが0.05mmだからである。また、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま量(オフセット量)を0.3mm以下と規定したのは、1μm以下の微粒子をナット内に保持するためである。ここで、半導体分野の洗浄度は、「クリーンルームの空気清浄度の評価方法(JIS B 9920,ISO14644−1)」に示されるように、粒子径0.1μm以上の塵の数で規定されている。具体的には、「0.1μm以上の塵の数」や、「0.5μm以上の塵の数」といったように、粒子径ごとに規定されている。すなわち、およそ1μmを超える粒子径の微粒子はクリーン環境ではほとんど存在しないのが一般的であり、これが、ナット内に保持する微粒子のサイズ(最大径)を1μm以下に規定した理由である。
【0019】
本実施形態では、ナット20内で発生した微粒子を、接続部材50を構成する管51に誘導するために、管51の開口部であるシールキャップ30の第1の貫通穴31の開口面積が、すきま面積よりも大きいことを規定した。このとき、すきま面積は、ねじ軸10の外周長×すきま量(オフセット量)で表すことができる。ここで、ねじ軸10の外周長とは、転動溝10aの底部の外周長である。そして、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま量(オフセット量)を0.05mm〜0.3mmと規定することで、1μm以下の微粒子をナット内に確実に保持することができ、結果として、ナット20の内部で発生した微粒子が外部に漏れることをより確実に防ぐことができる。なお、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面(転動溝10aの底部)とのすきま量(オフセット量)は、0.05mm〜0.15mmとされることがより好ましい。
【0020】
一方、上述したように、第1のシール部材41は、ねじ軸10の外周面に接触して設けられても、非接触で設けられてもよい。第1のシール部材41がねじ軸10の外周面に接触するシールとされる場合には、ねじ軸10の転動溝10aに摺接する溝摺接部(図示せず)が当該第1のシール部材41に設けられることが好ましい。そして、この溝摺接部の前記転動溝の円弧面に摺接する側には、略円弧状のシール片(図示せず)が形成されることがより好ましい。さらに、第1のシール部材41には、前記転動溝をねじ軸10の軸方向に2つの円弧面として分けた場合、それぞれの円弧面に摺接するように2つのシール片が前記軸方向に形成されることが好ましい。具体的には、第1のシール部材41の形状が、特開2005−214407号公報に記載されたシール体の形状を採用することが好ましい。
【0021】
また、第1のシール部材41と第2のシール部材42との上記軸方向の距離は、第2のシール部材42の1枚の厚さ以上の寸法であることが好ましい。このようにすることで、ラビリンス効果を奏する。
また、第1のシール部材41及び第2のシール部材42の少なくともいずれかの材料は、寸法安定性がよい材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、樹脂材料又は金属材料を含むことが好ましい。ここで、「寸法安定性がよい」とは、打ち抜きの普通寸法許容差(JIS B 0408:1991準拠)の三次元(画像)測定機(又は、非接触式三次元測定機)検査で輪郭測定を行ったときに公差が±50μm以下を示すものであればよい。
【0022】
[接続部材]
ナット20の軸方向の両端部20a,20bにそれぞれ取り付けられたシールキャップ30,30には、それぞれ、内周面30aと外周面30bとを貫通する第1の貫通穴31が1つ以上穿孔されている。第1の貫通穴31が複数形成される場合には、ナット20の径方向に対称となるように形成されることが好ましい。
【0023】
また、第1の貫通穴31は、ねじ軸10の外周面と、ナット20の内周面20cと、第2のシール部材42と、第1のシール部材41とによって形成される空間に連通されるように形成されればよい。前記空間が、ナット20の両端に形成される第1の空間S及び第2の空間Sである(図1参照)。なお、本実施形態では、ナット20の両端に形成される1つ以上の対をなす空間のうち、ナット20が進行する向き(図1に矢印Aで表示)と反対側に位置する空間を第1の空間Sとし、ナット20が進行する向きと同じ側に位置する空間を第2の空間Sとする。すなわち、図1に示すナット20の端部20b側に設置されたシールキャップ30内に形成される空間を第1の空間Sとし、ナット20の端部20a側に設置されたシールキャップ30内に形成される空間を第2の空間Sとする。
ここで、第2のシール部材42がナット20の軸方向に複数設けられる場合、第1の貫通穴31は、最も外側の第2のシール部材42(ナット20の端面20a,20bから最も遠い位置に設置された第2のシール部材42)と、該第2のシール部材42とナット20の向きに隣接する第2のシール部材42との間に形成されることが好ましい。
【0024】
そして、シールキャップ30,30には、それぞれの第1の貫通穴31,31に連通する管形状の管51が設けられている。すなわち、本実施形態の接続部材50は、シールキャップ30,30のそれぞれに形成された第1の貫通穴31,31、及びこれらの第1の貫通穴31,31に連通する管51とからなる。管51は、シールキャップ30,30に形成された第1の貫通穴31,31の数に応じて複数設けられてもよく、その場合は、ナット20の軸方向から見て、等配の位相で設置されることが好ましい。すなわち、ナット20の端部に設置された第1のシール部材41(接触シール)と、シールキャップ30の最も外側に設置された第2のシール部材42(非接触シール)との間に形成されて、ナット20の軸方向に対をなす第1の空間S及び第2の空間Sが、管51によってつながれることとなる。
【0025】
ここで、第1の貫通穴31の内周面30a側の開口面積は、「接続部材50の第1の空間S及び第2の空間Sの少なくともいずれか一方に対する開口面積」に相当する。この開口面積は、シールキャップ30の第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きく規定される。ここで、複数の接続部材50(管51及び第1の貫通穴31)がシールキャップ30,30間に接続される場合には、複数の第1の貫通穴31のうち、最小の開口面積を有する第1の貫通穴31の開口面積が、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きく規定されればよい。
【0026】
第2のシール部材42のすきま量は、ねじ軸10及びナット20の径方向において、ねじ軸10の断面形状を軸芯から数十〜数百μmだけ外側にオフセットした形状で規定している。ねじ軸10の径方向の断面形状には溝部と軸外径部が存在するが、この規定に沿えば一律にシールのすきまを形成することができる。また、本実施形態における第2のシール部材42のすきま量は、オフセット量0.05mm〜0.3mmの一般的なすきま量をいう。
【0027】
ここで、第1のシール部材41及び第2のシール部材42の設置態様と微粒子(パーティクル)量との関係について説明する。
図2は、本実施形態の直動装置におけるシール部材の設置態様と微粒子量との関係を示すグラフである。このグラフは、図1に示す直動装置において、「条件1」〜「条件3」の各条件における発塵試験結果を示すものである。具体的には、「条件1」は、シール部材を一切設置せずに、ちょう度250以下のグリースを用いたときに発生した粒子径0.1μm以上の微粒子量を測定したものである。また、「条件2」は、第2のシール部材42を1対設置して、ちょう度250以下のグリースを用いたときに発生した粒子径0.1μm以上の微粒子量を測定したものである。また、「条件3」は、第1のシール部材41及び第2のシール部材42をそれぞれ1対ずつ設置して、ちょう度250以下のグリースを用いたときに発生した粒子径0.1μm以上の微粒子量を測定したものである。なお、「条件2」及び「条件3」においては、シール部材のすきま量を0.05mm〜0.3mmとした。また、この直動装置の諸元及び発塵試験の運転条件は以下の通りである。
[諸元]:軸径15mm、リード10mmのボールねじ
[運転条件]:最高回転数2000min−1、平均回転数645min−1(6.5m/min)、ストローク200mm、時定数0.26a
【0028】
また、上記「条件1」〜「条件3」において、直動装置1が静止している状態で、エアを給脂穴25から入れて、ナット20外からナット20内の圧力を測定した。その結果、「条件2」におけるナット20内の圧力は、−4.8kPa〜−5.0kPaであったのに対し、「条件3」におけるナット20内の圧力は−7.9kPa〜−9.1kPaまで達した。したがって、1対の第2のシール部材42,42を設置した態様よりも、第1のシール部材41及び第2のシール部材42をそれぞれ1対ずつ設置した態様の方が圧力は高く、最も外側の第2のシール部材42,42からエアが外部へ漏れにくくなることがわかった。さらに、管51の開口面積の方が上記すきま面積より大きいため、直動装置1の駆動中はエアが管51へ流れやすくなり、図2に示すように、パーティクル量もさらに抑えられる結果が得られた。
【0029】
さらに、発塵を抑えるために、ナット20の内周面20cと外周面20dとを貫通する給脂穴25から転動体転動路に混和ちょう度250以下のクリーングリースを充填することが好ましい。250以下の混和ちょう度のクリーングリースを用いるのは、このような硬いグリースは、第2のシール部材42とねじ軸10との微小すきまに介在し、シールすきまをさらに狭める効果があるためである。このようにすることで、さらにグリース膜が入って狭くなり、ねじ軸10と第2のシール部材42との上記すきま量が更に小さくなるため、第2のシール部材42の外側へ微粒子が漏れる量は少なくなる。
【0030】
ここで、グリースの混和ちょう度と微粒子量(パーティクル量)との関係について説明する。
図3は、すきま量が0.05mm〜0.3mmとなるシール部材に挟まれた空間を接続部材で繋がれた直動装置におけるグリースの混和ちょう度別のシールすきま量とパーティクル量との関係を示すグラフである。このグラフは、すきま量が0.05mm〜0.3mmとなるシール部材に挟まれた空間を接続部材で繋がれた直動装置において、混和ちょう度が280のグリースを用いた場合と、混和ちょう度が250以下のグリースを用いた場合とで発生した微粒子量を測定したものである。図3に示すように、混和ちょう度が280のグリースを用いた直動装置よりも、混和ちょう度が250以下のグリースを用いた直動装置のほうが微粒子量は少ない。特に、混和ちょう度が250以下のグリースを用いた直動装置は、微粒子量が激減している(図3中、斜線で表示)。
【0031】
このようなことから、本実施形態の直動装置は、混和ちょう度250以下のグリースを転動体転動路に充填することがより好ましく、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面との間隔(すきま量)が、0.05mm〜0.15mmであることがさらに好ましいことがわかる。
【0032】
<微粒子の流れ>
次に、上述のように構成された直動装置1のナット20内で発生した微粒子(塵埃)の流れについて説明する。図5に示すように、ナット20内で発生した微粒子は、ナット20が移動する向き(図1及び図5中、矢印Aで表示)とは反対の向きに位置する端部から漏れる傾向がある。このときの微粒子Pの漏れる向きを図1及び図5中、矢印Bで示す。
【0033】
本実施形態では、この点に着目し、ナット20が移動する向きとは反対の向きに位置する端部から漏れようとする微粒子の流れを制御することによって外部に微粒子を漏らさない構成を採用した。
一般に、ナット20内で発生した微粒子は、すきまがあればそこから漏れ出すが、そのすきまよりもすきま量(すきま部分の面積)が大きい箇所があれば、そちらに流れる。つまり、微小なすきまによってシールキャップ30内に漂っていた微粒子が拡散していくときには、圧力損失が小さいほうに流れる。
【0034】
そこで、本実施形態では、第1の貫通穴31の開口面積が、その第1の貫通穴31が形成されたシールキャップ30の第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きくした。
このようにすることで、ナット20が進行する向きと反対側の向き側に設置されたそのシールキャップ30内の第1の空間Sから第1の貫通穴31を経て管51に流れこみ、再び第1の貫通穴31を経て第2の空間Sに達する。これは、第1の空間Sを構成する第2のシール部材42の微小なすきまから漏れ出す微粒子の量よりも当該第1の空間Sから第1の貫通穴31に流れこむ微粒子の量の方が圧倒的に多くなるからである。その結果、ナット20内から漏れる微粒子を循環させることができる(図1中、矢印Cで表示)。
【0035】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態の直動装置の構成を示す部分断面図である。図4は、上述した第1の実施形態に対して、接続部材の構成が相違するだけであるので、上述した第1の実施形態と同様の構成については説明を省略し、相違点についてのみ説明する。なお、図4では給脂穴25を示していない。
【0036】
図4に示すように、本実施形態の直動装置1は、接続部材50が、シールキャップ30,30のそれぞれに形成された第2の貫通穴32,32と、これらの第2の貫通穴32,32に連結された第3の貫通穴26とからなる。ここで、第2の貫通穴32,32は、シールキャップ30,30のナット20の端面20a,20bに対向する側面30cと内周面30aとを貫通する貫通穴である。また、第3の貫通穴26は、ナット20の軸方向に貫通して設けられた貫通穴である。この第3の貫通穴26は、転動体を循環させる循環路(図示せず)とはナット20の軸方向から見て、異なる位相で1つ以上形成される。そして、ナット20に形成された第3の貫通穴26の両端部に、該ナット20の両端に配設されるシールキャップ30,30のそれぞれに形成された第2の貫通穴32,32が連通されることによって、第1の空間Sと第2の空間Sとを接続部材50が連通する形態をなす。
【0037】
なお、本実施形態においても、第1の空間Sは、ねじ軸10の外周面10aと、シールキャップ30の内周面30aと、一方の第1のシール部材41と、一方の第2のシール部材42との間に形成される空間である。また、同様に、第2の空間Sは、ねじ軸10の外周面10aと、シールキャップ30の内周面30aと、他方の第1のシール部材41と、他方の第2のシール部材42との間に形成される空間である。
【0038】
さらに、本実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、第2の貫通穴32の内周面30a側の開口面積(接続部材50の第1の空間S及び第2の空間Sの少なくともいずれか一方に対する開口面積)が、シールキャップ30の第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きく規定される。ここで、複数の接続部材50(第2の貫通穴32及び第3の貫通穴26)が第1の空間S及び第2の空間Sに接続される場合には、複数の第2の貫通穴32のうち、最小の開口面積を有する第2の貫通穴32の開口面積が、第2のシール部材42とねじ軸10の外周面とのすきま面積よりも大きく規定されればよい。
【0039】
このように構成された本実施形態の直動装置でも、上述の第1の実施形態と同様に、以下のように微粒子が流れる。すなわち、図4に示すように、ナット20内で発生した微粒子は、ナット20が進行する向き(図4及び図5中、矢印Aで表示)と反対側の向き側に設置されたシールキャップ30内の第1の空間Sから第2の貫通穴32を経て第3の貫通穴26に流れこみ、再び第2の貫通穴32を経て第2の空間Sに達する。これは、第1の空間Sを構成する第2のシール部材42の微小なすきまから漏れ出す微粒子の量よりも当該第1の空間Sから第2の貫通穴32に流れこむ微粒子の量の方が圧倒的に多くなるからである。その結果、ナット20内から漏れる微粒子を循環させることができる(図4中、矢印Cで表示)。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の直動装置は、ナット20の両端面20a,20bに、ねじ軸10に非接触の第2のシール部材42を備えたシールキャップ30,30を取付け、シールキャップ30,30内にそれぞれ形成された第1の空間S及び第2の空間Sを接続部材50で連結している。このとき、接続部材50の開口面積を、シールキャップ30に備えられた第2のシール部材42のすきま量よりも大きくすることで、第2のシール部材42よりも外へ微粒子が漏れることを防ぐことができる。その結果、ハイスループットによる高速搬送や更なる清浄度向上が要求される場所においても、ナットの内部で発生した微粒子が外部に漏れることを防ぐことができる直動装置を提供することができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。例えば、本実施形態の直動装置は、上述したボールねじ装置に限られず、ボールスプライン、リニアガイド等の直動装置や、ねじ軸とナットとの間にボールやローラ等の転動体を介在させた上記以外の直動装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 直動装置
10 ねじ軸
20 ナット
26 第3の貫通穴
30 シールキャップ
31 第1の貫通穴
32 第2の貫通穴
41 第1のシール部材
42 第2のシール部材
50 接続部材
51 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、
前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される転動体転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸の軸方向に相対移動し、前記ねじ軸の外周面に接するか又は所定の間隔を有して前記軸方向の両端部に第1のシール部材がそれぞれ1つ以上設けられたナットと、
筒形状をなし、前記ねじ軸の外周面に所定の間隔を有して内周面側に1つ以上設けられた第2のシール部材を備え、前記ナットの前記軸方向の両端部に設けられた1対のシールキャップと、
前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、一方の第1のシール部材、及び一方の第2のシール部材との間に形成される第1の空間と、前記ねじ軸の外周面、前記シールキャップの内周面、他方の第1のシール部材、及び他方の第2のシール部材との間に形成される第2の空間とを接続する接続部材とを有し、
混和ちょう度250以下のクリーングリースが前記転動体転動路に充填され、
前記接続部材の第1の空間及び第2の空間の少なくともいずれか一方に対する開口面積が、前記シールキャップの第2のシール部材と前記ねじ軸の外周面とのすきま面積よりも大きいことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
前記シールキャップの外周面と内周面とを貫通する第1の貫通穴が前記シールキャップに形成され、
前記接続部材が、前記シールキャップのそれぞれの第1の貫通穴、及びこれらの第1の貫通穴に連通する管とからなることを特徴とする請求項1に記載の直動装置。
【請求項3】
前記シールキャップの前記ナットの端面に対向する側面と内周面とを貫通する第2の貫通穴が前記シールキャップに形成され、
前記接続部材が、前記シールキャップのそれぞれの第2の貫通穴と、これらの第2の貫通穴に連結され、前記ナットの軸方向に貫通して設けられた第3の貫通穴とからなることを特徴とする請求項1に記載の直動装置。
【請求項4】
前記シールキャップの第2のシール部材と前記ねじ軸の外周面との間隔が、0.05mm〜0.3mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の直動装置。
【請求項5】
前記ナットの前記軸方向の両端部に、前記ねじ軸の外周面に接するか又は所定の間隔を有してそれぞれ1つ以上設けられた第1のシール部材と、第2のシール部材との前記軸方向の距離が、第2のシール部材の1枚の厚さ以上の寸法であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の直動装置。
【請求項6】
第1のシール部材及び第2のシール部材の少なくともいずれかの材料が、樹脂材料又は金属材料を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61060(P2013−61060A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206434(P2011−206434)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】